説明

触媒

フィッシャー‐トロプシュ合成用担持コバルト触媒を製造するための方法であって、第1活性化段階において、触媒の粒状前駆体を、還元性ガスを用いて、第1加熱速度HR1で、前駆体が温度T1(但し80℃ 1 180℃)に達するまで処理して、部分的に処理した触媒前駆体を得、第2活性化段階において、部分的に処理した触媒前駆体を、還元性ガスを用いて、第2平均加熱速度HR2(但し0 < HR2 < HR1)でのx回の段階的昇温で、時間t1(但しt1は0.1〜20時間)の間処理して、部分的に還元した触媒前駆体を得、そして、第3活性化段階において、部分的に還元した触媒前駆体を、還元性ガスを用いて、第3加熱速度HR3(但しHR3 > HR2)で、部分的に還元した触媒前駆体が温度T2に達するまで処理し、また、温度T2に時間t2(但しt2は0〜20時間)の間維持して、活性化したフィッシャー-トロプシュ合成用担持コバルト触媒を得る、ことを含むことを特徴とする方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は触媒に関する。より詳細には、本発明は、触媒前駆体を活性化してフィッシャー‐トロプシュ合成用担持コバルト触媒を製造するための方法、及び該方法により得られる触媒に関する。
【背景技術】
【0002】
フィッシャー‐トロプシュ合成用担持コバルト触媒については、金属前駆体と粒状担体を用いてこの触媒の前駆体を製造することがよく知られている。触媒前駆体の製造には、多くの異なる触媒製造工程が含まれる。得られた触媒前駆体は次に、活性化方法又は活性化工程において、水素などの還元性ガスを用いて還元され、活性化されたフィッシャー‐トロプシュ合成用担持触媒が得られる。
【0003】
公知の活性化方法においては、高温の水素流通下又は高温の水素含有ガス流通下で触媒前駆体の還元を行なうものであり、フィッシャー‐トロプシュ合成用担持コバルト触媒の製造においては、水素還元は250℃〜500℃の範囲の温度で行ない、その際、低い圧力と高いガス線速度を用いて、還元金属の焼結を促進する生産水の蒸気圧を最低化することが好ましい。酸化コバルトを金属コバルトに還元する方法を変えると、得られるフィッシャー‐トロプシュ合成用担持コバルト触媒の活性と選択性が影響を受けることは周知である。具体的には、米国特許第4605679号は、水素中で還元後、得られた触媒に再酸化を行ない、更に再還元を行なうことによりコバルト触媒の活性を高めることができることを開示している。米国特許第5292705号には、炭化水素液体の存在下で水素還元を行なうことにより、得られた触媒の初期のフィッシャー‐トロプシュ合成性能が上がることが示されている。米国特許第5585316号には、触媒をまず酸化してから一酸化炭素で還元すると、高分子量(heavier)のフィッシャー‐トロプシュ反応生成物の選択率が上がることが記載されている。EP1444040号には、全ての還元可能な酸化コバルト種が式単位 CoOab (式中a 1.7、b > 0)で表される触媒前駆体に対して純粋水素で2段階還元工程を行なうことにより、フィッシャー‐トロプシュ合成触媒活性を損なうことなく還元方法の経済性が向上することを開示している。
【0004】
発明の概要
本発明の目的は、炭化水素合成活性の高いフィッシャー‐トロプシュ合成用担持コバルト触媒を提供することである。そのような触媒を本発明の方法で得ることができる。
【0005】
本発明によると、フィッシャー‐トロプシュ合成用担持コバルト触媒を製造するための方法であって、
第1活性化段階において、コバルトを含浸させ且つ酸化コバルトを含む触媒担体からなるフィッシャー-トロプシュ合成用担持コバルト触媒の粒状前駆体を、水素含有還元性ガスまたは窒素含有ガスを用いて、第1加熱速度HR1で、前駆体が温度T1(但し80℃ 1 180℃)に達するまで処理して、部分的に処理した触媒前駆体を得、
第2活性化段階において、部分的に処理した触媒前駆体を、水素含有還元性ガスを用いて、第2平均加熱速度HR2(但し0 < HR2 < HR1)でのx回(但しxは1を超える整数)の段階的昇温で、時間t1(但しt1は0.1〜20時間)の間処理して、部分的に還元した触媒前駆体を得、そして、
第3活性化段階において、部分的に還元した触媒前駆体を、水素含有還元性ガスを用いて、第3加熱速度HR3(但しHR3 > HR2)で、部分的に還元した触媒前駆体が温度T2に達するまで処理し、また、温度T2に時間t2(但しt2は0〜20時間)の間維持して、活性化したフィッシャー-トロプシュ合成用担持コバルト触媒を得る、
ことを含むことを特徴とする方法が提供される。
本発明において「平均加熱速度HR2」とは、各段階的昇温の加熱速度の和を、段階的昇温の回数で割った値として定義され、「段階的昇温」とは加熱速度の増加として定義され、xは段階的昇温の回数であり、xは1を超える整数である。
【0006】
発明の詳細な説明
驚くべきことに、触媒前駆体を本発明の還元方法(即ち活性化方法)に付すことにより、高い内在活性を有するフィッシャー-トロプシュ合成用担持コバルト触媒が得られることを見出した。
【0007】
第1活性化段階、第2活性化段階、及び第3活性化段階における処理は、少なくとも原理的には、触媒前駆体と還元性ガスとを接触させるいかなる適切な方式でも行なうことができ、たとえば、触媒前駆体粒子の流動床に流動媒体としての還元性ガスを接触させる方式、触媒前駆体粒子の固定床に還元性ガスを通過させて接触させる方式などを挙げることができる。しかし、流動床を用いる方式が好ましい。
【0008】
第1活性化段階においては、まず、触媒前駆体を、水素含有還元性ガスまたは窒素含有ガスを用いて、第1加熱速度HR1で即座に処理する。第1活性化段階におけるガスの空間速度(SV1)は、好ましくは、1 SV1 35m3 n/還元可能コバルト1kg/1時間、より好ましくは、3 SV1 15m3 n/還元可能コバルト1kg/1時間である。「還元可能コバルト」とは、通常の還元条件で還元可能なコバルトを意味し、たとえば、触媒または触媒前駆体が20質量%のコバルトを含有し、そのコバルトの50%が還元可能な場合は、還元可能コバルトの量は0.1g/触媒または触媒前駆体1gである。第1活性化段階を、前駆体が温度T1に達するまで続ける。
【0009】
第1加熱速度HR1は、好ましくは0.5℃/分 HR1 10℃/分の条件を満足し、より好ましくは1℃/分 HR1 2℃/分の条件を満足する。
【0010】
第1活性化段階において、温度T1はT1 90℃でよい。本発明の1つの態様においては、温度T1は、120℃ 1 150℃である。この態様は、粒状触媒担体、前駆体活性成分としてのコバルト化合物及び水のスラリーを調製し、コバルト化合物を触媒担体に含浸させ、含浸触媒担体を乾燥させ、含浸触媒担体を仮焼することによる製造方法で得られる触媒前駆体の場合に典型的に当てはまるものである。
【0011】
第2活性化段階は、触媒前駆体が温度T1に達した時点で始まり、上記のように時間t1の間続く。第2活性化段階での処理時間t1は、より好ましくは1時間 1 10時間の条件を満足し、典型的には2時間 1 6時間の条件を満足する。
【0012】
第2活性化段階においては、少なくとも2回の昇温を行う。したがって、第2活性化段階で、触媒前駆体を加熱して温度T1から温度TH(但しTH > T1 、且つ、TH < 200℃)にするための少なくとも2回の昇温を行なって時間t1の間処理する。2回の昇温を行なう場合はx=2であり、3回の昇温を行なう場合はx=3であり....という具合にxの値が昇温回数を表す。こうして、各昇温ごとに加熱速度は異なるであろう。たとえば、第1回昇温における加熱速度が1℃/分である場合、第2回昇温における加熱速度は2℃/分とすることができる。更に、所望により、ある昇温の後で、次の昇温を開始する前に、触媒前駆体を、該ある昇温の最後に到達した温度にしばらくの間維持してもよい。
【0013】
第3活性化段階は、時間t1が終了した時点で始まる。したがって、第3活性化段階の開始の時点で、触媒前駆体は温度THを有する。第3活性化段階は、第3処理段階における温度、即ち活性化したフィッシャー-トロプシュ合成用触媒の温度が温度T2に達するまで続ける。好ましくは、温度T2は、300℃ 2 600℃の条件を満足する。より好ましくは、温度T2は300℃〜500℃の範囲内であり、典型的には、温度T2は300℃〜450℃の範囲内である。触媒を温度T2に時間t2(但しt2は0〜20時間)の間維持することができ、好ましくは、時間t2は0時間 < t2 20時間の条件を満足し、より好ましくは、時間t2は1時間 2 10時間の条件を満足し、典型的には、時間t2は2時間 2 6時間の条件を満足する。
【0014】
第2活性化段階においてもガスは空間速度(以下「SV2」と称する)を有し、また、第3活性化段階においてもガスは空間速度(以下「SV3」と称する)を有する。
【0015】
本発明の1つの態様においては、SV1、SV2及び/またはSV3が、それぞれの活性化段階の処理において一定でもよい。たとえば、これらの活性化段階における空間速度の関係は、SV1=SV2=SV3でもよい。しかし、本発明の他の1つの態様においては、SV1、SV2及びSV3がそれぞれの活性化段階において異なってもよい。
【0016】
第1活性化段階においては、水素含有還元性ガスを用いることが好ましく、3つの活性化段階において用いられるガスが同じ組成を有してもよい。「水素含有還元性ガス」とは、水素含有混合ガスを意味し、水素含有混合ガスの水素含量H2は10容量% < H2 100容量%を満足し、より好ましくは、水素含有混合ガスは90容量%を超えるH2と10容量%未満の不活性ガスからなり、最も好ましくは、97容量%を超えるH2と3容量%未満の不活性ガスからなる。不活性ガスは、Ar、He、NH3及びH2Oのいかなる組み合わせでもよく、水素含有還元性ガスの露点は4℃以下であることが好ましく、より好ましくは−30℃以下である。
【0017】
第1活性化段階においては、水素含有還元性ガスの代わりに窒素含有ガスを用いることもできる。「窒素含有ガス」とは、90容量%を超えるN2と10容量%未満の他の成分からなる混合ガスを意味する。他の成分は、Ar、He、及びH2Oのいかなる組み合わせでもよい。窒素含有ガスの露点は4℃以下であることが好ましく、より好ましくは−30℃以下である。窒素含有ガスは水素を一切含有しない(即ち水素=0容量%)。
【0018】
第1活性化段階、第2活性化段階及び第3活性化段階の処理は、同じ圧力下で行なってもよいし、異なる圧力下で行なってもよく、また、いずれもおよそ大気圧下で行なってよく、好ましくは、いずれも0.6〜1.3バール(絶対圧)の圧力下で行なってよい。
【0019】
フィッシャー‐トロプシュ合成(FTS)用担持コバルト触媒前駆体粒子は、活性化(即ち還元)することにより活性化フィッシャー‐トロプシュ合成用触媒が得られる適切な触媒前駆体であればいかなるものでもよく、新鮮触媒の製造中に得られるものでもよいし、再生触媒から得られるものでもよい(以下屡々「フィッシャー‐トロプシュ合成」(Fischer-Tropsch synthesis)を「FTS」と称する)。
【0020】
このように、触媒前駆体が新鮮触媒の製造中に得られるものでもよく、即ち、粒状触媒担体、前駆体活性成分としてのコバルト化合物及び水のスラリーを調製し、コバルト化合物を触媒担体に含浸させ、含浸触媒担体を乾燥させ、含浸触媒担体を仮焼することによる製造方法で得られる、酸化コバルトを含有する触媒前駆体でよい。しかし、こうして得られる触媒前駆体は、活性化(即ち還元)を行なわないと、フィッシャー‐トロプシュ反応のための触媒として用いることはできないものであり、この活性化(即ち還元)を本発明の方法により行なう。こうして得られた触媒は、活性化フィッシャー‐トロプシュ合成用触媒である。
【0021】
再生触媒前駆体は、FTS法で一定時間使用した使用済みフィッシャー‐トロプシュ合成用コバルト触媒を再生することにより得られる。再生方法としては、担持酸化コバルトを含む酸化物触媒前駆体が得られるいかなる適切な再生方法も使用することができる。
【0022】
市販の成形済み多孔性酸化物触媒担体を用いてもよい。その例としては、アルミナ(Al23)、シリカ(SiO2)、チタニア(TiO2)、マグネシア(MgO)、SiO2−Al23、及び酸化スズ(ZnO)が挙げられる。触媒担体の平均細孔径は、好ましくは8〜50ナノメーターであり、より好ましくは10〜15ナノメーターである。触媒担体の細孔容積は、0.1〜1.5ml/gでよく、好ましくは0.3〜0.9ml/gである。
【0023】
触媒担体は、保護された変性触媒担体でよく、たとえば、変性成分としてシリコンを含有することができる。保護された変性触媒担体の例としては、EP特許出願第99906328.2号(EP公開第1058580号)に一般的に記載されているものが挙げられる(この特許文献はここに言及することにより本明細書に組み込まれる)。
【0024】
より詳細には、保護された変性触媒担体としては、シリコン前駆体、たとえば有機シリコン化合物(テトラエトキシシラン(TEOS)やテトラメトキシシラン(TMOS)等)を含浸法や沈積法や化学蒸着法などにより触媒担体と接触させてシリコン含有変性触媒担体を得て、得られたシリコン含有変性触媒担体を回転炉などで100℃〜800℃、好ましくは450℃〜550℃の温度で、1分〜12時間、好ましくは0.5時間〜4時間の間仮焼することにより得られるものが挙げられる。
【0025】
コバルトの担持量は、コバルト5g/担体100g〜コバルト70g/担体100gの範囲でよく、好ましくは、コバルト20g/担体100g〜コバルト55g/担体100gの範囲である。
【0026】
コバルト塩は、具体的には、硝酸コバルト、即ち Co(No32・6H2O でよい。
【0027】
触媒担体の含浸は、原則として、いかなる公知の方法や手順でも行なうことができる。たとえば、初期湿潤(incipient wetness)含浸法やスラリー含浸法などで行うことができる。したがって、触媒担体の含浸は、たとえば、米国特許第6455462号や米国特許第5733839号に記載されている方法で行なえばよい(これらの特許文献はここに言及することにより本明細書に組み込まれる)。
【0028】
より具体的には、含浸は、たとえば、粒状触媒担体、水及びコバルト塩を含むスラリーを高温下で大気圧以下の圧力下(たとえば5kPa(絶対圧)、好ましくは大気圧〜10kPa(絶対圧))に置き、得られた含浸担体を高温下に上記の大気圧以下の圧力下で乾燥することにより行なえばよい。更に具体的には、含浸は、たとえば、処理の初期段階で、上記スラリーを高温下で上記の大気圧以下の圧力下に置いて担体にコバルト塩を含浸させ、得られた含浸担体を部分的に乾燥させて部分的乾燥含浸担体を得、その後、処理の後期段階で、該部分的乾燥含浸担体を高温下で上記の大気圧以下の圧力下に置き、その際、処理の後期段階での温度を処理の初期段階での温度よりも高くする、及び/または、処理の後期段階での圧力を処理の初期段階での圧力よりも低くすることにより、処理の後期段階では処理の初期段階よりも急速に含浸担体を乾燥させ、こうして乾燥含浸担体を得る、ことにより行なえばよい。
【0029】
含浸については、触媒担体に対して2段階または3段階以上の含浸を行なって所望のコバルト担持量を得ることもできる。各含浸工程は、上記のように処理の初期段階と処理の後期段階を含むことができる。
【0030】
また、本発明の方法は、含浸の各工程において、スラリーの乾燥速度を制御して特定の乾燥プロファイルとなるようにすることもできる。
【0031】
触媒担体の含浸には、所望のコバルト担持量と担体の細孔容積に応じて、2段階スラリー相含浸法(2-step slurry phase impregnation process)を用いることができる。
【0032】
触媒担体の含浸と乾燥は、典型的には、回転スクリューを有する円錐形の真空乾燥機や、回転式真空乾燥機を用いて行うことができる。
【0033】
コバルト含浸の工程において、プラチナ(Pt)、パラジウム(Pd)、ルテニウム(Ru)、レニウム(Re)またはこれらの混合物の水溶性前駆体塩を、活性成分の還元性を高めることのできるドーパントとして添加してもよい。
【0034】
含浸・乾燥した原料を仮焼するためには、当業者に公知のいかなる方法を用いてもよい。たとえば、流動床や回転炉や仮焼炉(calciner)などを用いて、200℃〜400℃で行なえばよい。具体的には、WO第01/39882号に記載されている方法で行なえばよい(この特許文献はここに言及することにより本明細書に組み込まれる)。
【0035】
本発明はまた、本発明の方法で得られる活性化フィッシャー‐トロプシュ合成用触媒も提供する。
【0036】
活性化フィッシャー‐トロプシュ合成用触媒は、炭化水素の製造方法に用いることができる。活性化フィッシャー‐トロプシュ合成用触媒を用いる炭化水素の製造方法は、水素(H2)と一酸化炭素(CO)を含む合成ガスを180℃〜250℃の高温下と10〜40バールの加圧下において上記の活性化フィッシャー‐トロプシュ合成用触媒と接触させることにより、水素と一酸化炭素のフィッシャー‐トロプシュ反応を行う方法である。
【0037】
以下の実施例に参照して本発明を更に詳細に説明するが、以下の実施例は本発明の範囲を限定するものではない。
【実施例1】
【0038】
活性化すると30g Co/0.075g Pt/1.5g Si/100g Al2O3 の組成を有するスラリー相フィッシャー-トロプシュ合成用触媒(出願人が所有)を形成するフィッシャー-トロプシュ合成用担持コバルト触媒の粒状前駆体を用いた。この粒状触媒前駆体は、WO第01/39882号に詳述されている。
【0039】
この予備還元済み触媒前駆体の代表バッチ(representative batch)を以下の手順で製造した。Puralox SCCa 2/150(細孔容積0.48ml/g)(ドイツ国、ハンブルク 22297、ユーバーゼーリング 40の SASOL Germany GmbH 製)を、シリコンで変性し、最終シリコンレベルが2.5Si原子/担体nm2となるようにした。TEOS(テトラエトキシシラン)をエタノールに加え、得られた溶液にアルミナを加え(エタノール1リットル/アルミナ1kg)、得られた混合物を60℃で30分撹拌した。その後、溶媒を、乾燥装置のジャケット温度95℃の真空下で除去した。得られた乾燥変性担体を500℃で2時間仮焼した。17.4kgのCo(NO3)2・6H2O、9.6gの(NH3)4Pt(NO3)2、及び11kgの蒸留水からなる溶液を調製し、20.0kgの上記シリカ変性ガンマ−アルミナ担体をこの溶液に加えた。得られたスラリーを円錐形の真空乾燥機に入れて混ぜ合わせ続けた。このスラリーの温度を60℃に上げてから、20kPa(絶対圧)に加圧した。乾燥工程の最初の3時間においては、温度を徐々に上げて、3時間後に95℃に達した。3時間後に圧力を3〜15kPa(絶対圧)に下げ、初期湿潤含浸法の時点の乾燥速度を2.5m%/1時間とした。含浸と乾燥を完全に行なうのに9時間かかり、その後、含浸乾燥触媒担体を直ぐにそのまま流動床仮焼機に入れた。仮焼機に入れた時点での乾燥含浸触媒担体の温度は約75℃であった。仮焼機への導入には約1〜2分かかり、仮焼機の内部温度は設定温度の約75℃に維持された。乾燥含浸触媒担体を加熱して75℃から250℃に昇温(加熱速度は0.5℃/分で、空気の空間速度は1.0m3 n/Co(NO3)2・6H2Oの1kg/1時間)して、その後250℃を6時間維持した。コバルト担持量が 30g Co/100g Al2O3 の触媒を得るために、第2の含浸/乾燥/仮焼工程を行なった。9.4kgのCo(NO3)2・6H2O、15.7gの(NH3)4Pt(NO3)2、及び15.1kgの蒸留水からなる溶液を調製し、第1の含浸と仮焼を行なった触媒前駆体の20.0kgをこの溶液に加えた。得られたスラリーを円錐形の真空乾燥機に入れて混ぜ合わせ続けた。このスラリーの温度を60℃に上げてから、20kPa(絶対圧)に加圧した。乾燥工程の最初の3時間においては、温度を徐々に上げて、3時間後に95℃に達した。3時間後に圧力を3〜15kPa(絶対圧)に下げ、初期湿潤含浸法の時点の乾燥速度を2.5m%/1時間とした。含浸と乾燥を完全に行なうのに9時間かかり、その後、処理済触媒担体を直ぐにそのまま流動床仮焼機に入れた。仮焼機に入れた時点での乾燥含浸触媒担体の温度は約75℃であった。仮焼機への導入には約1〜2分かかり、仮焼機の内部温度は設定温度の約75℃に維持された。乾燥含浸触媒担体を加熱して75℃から250℃に昇温(加熱速度は0.5℃/分で、空気の空間速度は1.0m3 n/Co(NO3)2・6H2Oの1kg/1時間)して、その後250℃を6時間維持した。こうして、アルミナ担体担持コバルト触媒前駆体を得た。
【0040】
この触媒前駆体の1つのサンプル(「触媒前駆体A」と命名)に対して、以下の手順で標準的な1段階還元工程(即ち活性化工程)を行なった。
【0041】
流動床(内径20mm)還元ユニットにおいて、触媒前駆体Aを大気圧下で還元し、その際、希釈しないH2還元ガス(100容量%のH2)を総供給ガスとし、空間速度は13.7m3 n/還元可能コバルト1kg/1時間とし、同時に以下の温度プログラムを用いた。加熱速度1℃/分で加熱して25℃から425℃に昇温し、425℃を16時間等温に維持する。
【0042】
こうして、触媒前駆体Aを比較触媒Aへと変えた。
【0043】
上記触媒前駆体の他の1つのサンプル(「触媒前駆体B」と命名)に対して、以下の手順で3段階還元工程を行なった(表1)。
(i)第1活性化段階において、サンプルを第1加熱速度1℃/分で加熱して25℃から120℃に昇温し、その際、純粋な100%水素を使用し、
(ii)第2活性化段階において、サンプルをまず120℃に3時間維持し、次に130℃に3時間維持し、その後、140℃に3時間維持し、
(iii)第3活性化段階において、サンプルを加熱速度1℃/分で加熱して140℃から425℃に昇温しながら、第1活性化段階及び第2活性化段階におけるのと同じ空間速度に維持し、その後、425℃に4時間維持した。
【0044】
また、還元処理は上記流動床還元ユニットで行ない、3つの活性化段階のいずれにおいても、希釈しないH2還元ガス(100容量%のH2)を用いた。また、3つの活性化段階のいずれにおいても、純粋な100%水素を使用するとともに、空間速度は13.7m3 n/還元可能コバルト1kg/1時間とした。
【0045】
こうして、触媒前駆体Bに対して本発明の3段階還元/活性化処理を行ない、本発明の触媒である触媒Bを得た。
【0046】
還元中に、触媒前駆体Aと触媒前駆体Bは、それぞれ、フィッシャー‐トロプシュ合成用(FTS)の触媒Aと触媒Bに変わった。これらの触媒は実験室スケールの反応器において、現実的なFTS条件(230℃で、圧力が17.5バール(ゲージ圧)で、H2とCOの入口比が1.9:1で、入口ガスの不活性ガス含量が15%(したがって入口ガスの85%がH2とCOからなる)で、合成ガスの空間速度が7000ml/1g/1時間で、合成ガス転化率が50%〜65%)を用いて評価した。
【0047】
【表1】

【0048】
RIAF = Relative Intrinsic Fischer-Tropsch synthesis Activity Factor(相対フィッシャー‐トロプシュ合成活性因子)
【0049】
上記表1(RIAFデータ)から、本発明の3段階還元処理によって還元した触媒B(実験CB034)の処理開始から1日後の活性は、標準的方法で還元した触媒A(実験198£)の活性と比較して有意に高いことは明らかである。
【0050】
所定の触媒製造手順Xに厳密に従って製造した予備還元触媒前駆体(即ち触媒前駆体X)を用いて製造した担持コバルト スラリー相触媒の「相対フィッシャー‐トロプシュ合成活性因子」(RIAFX)を以下のように定義する。
RIAFx = [Axi/AX] (1)
式中:
【0051】
a)Axiは任意の還元手順に従って活性化された触媒前駆体Xのアレニウス前指数項(Arrhenius pre-exponential factor)である。
【0052】
b)AXは、下記の標準的1段階還元手順に従って活性化された触媒前駆体Xについて、スラリー相連続撹拌タンク形反応器(Continuous Stirred Tank Reactor (CSTR))フィッシャー‐トロプシュ合成を現実的条件下で15時間連続的に実施して推定したアレニウス前指数項である。
標準的1段階還元手順: 15±5gの触媒前駆体A(即ち予備還元した触媒塊)について流動床(内径20mm)での還元を大気圧下で行なう。その際、希釈しないH2還元ガス(純度5.0)を総供給ガスとし、空間速度は13700ml n/還元可能コバルト1g/1時間とし、同時に以下の温度プログラムを用いた。加熱速度1℃/分で加熱して25℃から425℃に昇温し、425℃を16時間等温に維持する。
【0053】
c)AxiとAXの両方に当てはまるアレニウス前指数項Aは、一般的に受け入れられているコバルト含有フィッシャー‐トロプシュ合成用触媒の下記実験速度式から定義される。
rFT = [Ae(-Ea/RT)PH2PCO]/[1+KPCO]2 (2)
【0054】
したがって、アレニウス前指数項Aは以下のように定義される。
A = [rFT (1+KPCO)2]/[e(-Ea/RT)PH2PCO] (3)
式中:
FTはフィッシャー‐トロプシュ合成産物に転化したCOのモル数/単位時間/予備還元された状態の触媒前駆体の単位質量である。
【0055】
d)xは触媒前駆体を表す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
フィッシャー‐トロプシュ合成用担持コバルト触媒を製造するための方法であって、
第1活性化段階において、コバルトを含浸させ且つ酸化コバルトを含む触媒担体からなるフィッシャー-トロプシュ合成用担持コバルト触媒の粒状前駆体を、水素含有還元性ガスまたは窒素含有ガスを用いて、第1加熱速度HR1で、前駆体が温度T1(但し80℃ 1 180℃)に達するまで処理して、部分的に処理した触媒前駆体を得、
第2活性化段階において、部分的に処理した触媒前駆体を、水素含有還元性ガスを用いて、第2平均加熱速度HR2(但し0 < HR2 < HR1)でのx回(但しxは1を超える整数)の段階的昇温で、時間t1(但しt1は0.1〜20時間)の間処理して、部分的に還元した触媒前駆体を得、そして、
第3活性化段階において、部分的に還元した触媒前駆体を、水素含有還元性ガスを用いて、第3加熱速度HR3(但しHR3 > HR2)で、部分的に還元した触媒前駆体が温度T2に達するまで処理し、また、温度T2に時間t2(但しt2は0〜20時間)の間維持して、活性化したフィッシャー-トロプシュ合成用担持コバルト触媒を得る、
ことを含むことを特徴とする方法。
【請求項2】
第1活性化段階において、第1加熱速度HR1が、0.5℃/分 HR1 10℃/分の条件を満足することを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項3】
第1活性化段階において、第1加熱速度HR1が、1℃/分 HR1 2℃/分の条件を満足することを特徴とする請求項2に記載の方法。
【請求項4】
第2活性化段階において、時間t1が、1時間 1 10時間の条件を満足することを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の方法。
【請求項5】
第2活性化段階において、時間t1が、2時間 1 6時間の条件を満足することを特徴とする請求項4に記載の方法。
【請求項6】
第2活性化段階において、触媒前駆体を加熱して温度T1から温度THにする(但しTH > T1、且つ、TH < 200℃)ことを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の方法。
【請求項7】
第3活性化段階において、温度T2が、300℃ 2 600℃の条件を満足することを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載の方法。
【請求項8】
第3活性化段階において、時間t2が、1時間 2 10時間の条件を満足することを特徴とする請求項1〜7のいずれかに記載の方法。
【請求項9】
ガスの空間速度が第1活性化段階、第2活性化段階及び第3活性化段階の処理において一定であることを特徴とする請求項1〜8のいずれかに記載の方法。
【請求項10】
第1活性化段階、第2活性化段階及び第3活性化段階の処理のいずれも、0.6〜1.3バール(絶対圧)の圧力下で行なうことを特徴とする請求項1〜9のいずれかに記載の方法。
【請求項11】
第1活性化段階で水素含有還元性ガスを用い、各活性化段階における水素含有還元性ガスが、90容量%を超えるH2と10容量%未満の不活性ガスからなることを特徴とする請求項1〜10のいずれかに記載の方法。
【請求項12】
各活性化段階における水素含有還元性ガスが、97容量%を超えるH2と3容量%未満の不活性ガスからなることを特徴とする請求項1に記載の方法。

【公表番号】特表2010−525936(P2010−525936A)
【公表日】平成22年7月29日(2010.7.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−504989(P2010−504989)
【出願日】平成20年5月5日(2008.5.5)
【国際出願番号】PCT/IB2008/051724
【国際公開番号】WO2008/135940
【国際公開日】平成20年11月13日(2008.11.13)
【出願人】(500159211)サソール テクノロジー(プロプライエタリー)リミテッド (25)
【Fターム(参考)】