説明

計器用ムーブメントの検査方法

【課題】減速ギア列の各ギアが良品か不良品かを安価な構成で精度よく判定することができる計器用ムーブメントの検査方法を提供する。
【解決手段】ステッピングモータ8の励磁コイル12a,12bに駆動信号を印加してマグネットロータ10を回転させ、そのときに励磁コイル12a,12bで発生する誘導電圧が所定のしきい値を下回るか否かに基づいて、減速ギア列9の樹脂材からなる少なくとも中間大ギア18および中間小ギア19が良品か不良品かを判定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、駆動源であるステッピングモータと減速ギア列を有する車両用指針計器などの計器用ムーブメントの検査方法に関する。
【背景技術】
【0002】
スピードメータ(速度計)などの車両用指針計器は、駆動源のステッピングモータと減速ギア列を有しており、車速に応じてステッピングモータが回転駆動されると、減速ギア列の出力ギアに固着されている指針軸(出力軸)を介して指針を文字板の表面に沿い回動させる(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
ところで、前記減速ギア列の各ギアとしては、製造が容易であり回転時のギア音(騒音)が小さいなどの観点から、樹脂成形によって製造される小形の樹脂製のギアが用いられている。このため、ギアの取扱い時や車両用指針計器のムーブメントハウジングに組付け時に不注意によってギアに変形や傷が発生していたり、また、ギアの樹脂成形時に樹脂バリ等が発生していると、回転不良(減速ギア列の各ギアがスムーズに回転せず、長期の使用によりギア引っ掛かりが生じて停止)が生じる虞がある。そこで、車両用指針計器のムーブメントハウジングに組付けた減速ギア列の各ギアが良品(正常品)か不良品かの検査を、ムーブメントハウジングに組付け後に全品を対象に行っている。
【特許文献1】特開2002−250641号公報(図3)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、減速ギア列の各ギアが良品か不良品かを検査(判定)する従来の検査方法としては、車両用指針計器のムーブメントハウジングに組付たステッピングモータを回転駆動したときに、減速ギア列の各ギアの異音検査や、減速ギア列の各ギアの異常振動検査を行い、異音発生の有無や、異常振動発生の有無に基づいて、減速ギア列の各ギアが良品か不良品かを判定していた。
【0005】
しかしながら、前記した従来の検査方法では、減速ギア列の各ギアが良品か不良品かを判定する際の異音レベルや異常振動レベル自体が小さいので、各ギアが良品か不良品かを正確に把握することが難しく、検査員が判定する場合は熟練度等によって誤判定する可能性があった。また、減速ギア列の各ギアの異音検査や、減速ギア列の各ギアの異常振動検査を行う場合、高感度のマイクや振動検出センサ、更には専用の防音設備や防振設備が必要となり、コストが高くなるとともに、マイクやセンサの設定方法や防音装備によっては誤判断の虞があった。
【0006】
そこで、本発明は、減速ギア列の各ギアが良品か不良品かを安価な構成で精度よく判定することができる計器用ムーブメントの検査方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記目的を達成するために本発明は、磁極が交互に反転するように多相着磁されたマグネットロータ、2相以上の多相界磁を形成する複数のステータ、前記ステータをそれぞれ励磁する励磁コイルを備えたステッピングモータと、少なくとも、前記マグネットロータのロータ軸に固着した樹脂製のロータギア、指針が取り付けられる出力軸に固着した樹脂製の出力ギア、前記ロータギアと噛み合う第1中間ギア、前記第1中間ギアを固着した中間軸に固着され、前記出力ギアと噛み合う樹脂製の第2中間ギアを備え、前記マグネットロータの回転を減速させて前記指針を回動させる減速ギア列と、を有する計器用ムーブメントの検査方法において、前記励磁コイルに駆動信号を印加して前記マグネットロータを回転させ、そのときに前記励磁コイルで発生する誘導電圧が所定のしきい値を下回るか否かに基づいて、少なくとも前記第1中間ギアおよび前記第2中間ギアが良品か不良品かを判定することを特徴としている。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、励磁コイルに駆動信号を印加してマグネットロータを回転させたときに、励磁コイルに発生する誘電電圧が所定のしきい値を下回るか否かに基づいて、減速ギア列の少なくも中間大ギアおよび中間小ギアが良品か不良品かを判定することにより、少なくも中間大ギアおよび中間小ギアが良品か不良品かを精度よく、かつ安価な構成で判定することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下、本発明に係る計器用ムーブメントの検査方法を、車両用指針計器(スピードメータ)のムーブメントハウジングに組付ける減速ギア列の各ギアの検査方法に適用した、図示の実施形態に基づいて説明する。
【0010】
図1は、本発明の実施形態に係る車両用指針計器(スピードメータ)を示す平面図、図2は、本発明の実施形態に係る車両用指針計器のムーブメントハウジングを示す平面図、図3は、このムーブメントハウジング内を示す図である。
【0011】
図1に示すように、自動車の車室内の運転席前方に設けたインストルメントパネル(不図示)に設置される車両用指針計器1は、運転者に対して自動車の走行速度(車速)を表示する計器であり、前面側(車室内の運転席と対向する側)に円弧状の数字部2aと目盛部2bを有する文字板3が設けられている。文字板3の表面には、ムーブメントハウジング4の上部カバー部材5(図2、図3参照)から延出する出力軸としての指針軸6に接続された指針7が設けられており、後述するムーブメントハウジング4内のステッピングモータ8(図3参照)の駆動により減速ギア列9を介して、この指針7を文字板3の表面に沿い車速に応じて回動するように構成されている。
【0012】
車両用指針計器1の文字板3の背面側には、図2、図3に示すように、上部カバー部材5を爪嵌合したムーブメントハウジング4が設けられており、ムーブメントハウジング4の内側には、ステッピングモータ8と減速ギア列9等が設置されている。
【0013】
ステッピングモータ8は、円周方向に沿って磁極(N極、S極)が交互に反転するように多極着磁された永久磁石を有するマグネットロータ(回転子)10と、ステータ11a,11bにそれぞれ巻き付けられてマグネットロータ10を励磁する2つの励磁コイル12a,12bと、ステータ11a,11bと一体に形成されたヨーク13等を備えている。マグネットロータ10は、ヨーク13の内周側に位置してこのヨーク13とともに磁気回路を形成するように、ロータ軸14に保持されている。ロータ軸14は、図4に示すように、ムーブメントハウジング4と上部カバー部材5との間に回転自在に支持されている。
【0014】
ステッピングモータ8は前記のように構成されており、各励磁コイル12a,12bの各端子15a,15bに、例えば位相が90度ずれた駆動電圧(サイン波状駆動電圧、コサイン波状駆動電圧)をそれぞれ印加することにより、各励磁コイル12a,12bに流れる電流により各ステータ11a,11bに互いに90度位相がずれた磁束が発生し、マグネットロータ10とヨーク13との間に生じる磁力によって、マグネットロータ10が回転する。なお、各励磁コイル12a,12bに印加する前記駆動電圧が、正極性の場合は正回転(右回転)し、負極性の場合は逆回転(左回転)する。各励磁コイル12a,12bの各端子15a,15bの先端側は、ムーブメントハウジング4の上部カバー部材5を通して外部に露出している(図2参照)。
【0015】
減速ギア列9は、図3、図4に示すように、マグネットロータ10のローラ軸14に固着されたロータギア16と、中間軸17に固着された中間大ギア18および中間小ギア19と、前記指針軸6に固着された出力ギア20とを有しており、各ギアは樹脂材によって成形されている。ローラ軸14、中間軸17および指針軸6は、同一直線上に沿ってムーブメントハウジング4と上部カバー部材5との間に回転自在に支持されている。なお、図4では、ステッピングモータ8を構成する励磁コイル12a,12b、ヨーク13等は省略している。
【0016】
ロータギア16と中間大ギア18とが噛み合い、中間小ギア19と出力ギア20とが噛み合っている。なお、中間大ギア18の下に位置する中間小ギア19は、中間大ギア18と一体に樹脂成形されている。
【0017】
本実施形態に係る前記車両用指針計器1では、前記したようにステッピングモータ8の駆動によりマグネットロータ10が回転すると、減速ギア列9の各ギア(ロータギア16、中間大ギア18、中間小ギア19、出力ギア20)の回転によってマグネットロータ10の回転速度が所定の低速に減速され、出力ギア20に固着されている指針軸6を介して指針7を文字板3の表面に沿い車速に応じて回動させることができる。
【0018】
ところで、前記したようにステッピングモータ8の駆動によりマグネットロータ10が回転すると、減速ギア列9の各ギア(ロータギア16、中間大ギア18、中間小ギア19、出力ギア20)が回転するが、このときに減速ギア列9でのギア音(騒音)の発生を抑えるために、特に中間大ギア18および中間小ギア19は、軟質のエラストマー系樹脂によって成形されている。
【0019】
このため、この中間大ギア18および中間小ギア19は、特にムーブメントハウジング4に組付けるときなどに慎重に取り扱わないと変形や傷が生じやすい。中間大ギア18および中間小ギア19に少しでも変形や傷が生じたり、成形時に樹脂バリ等が生じていると、減速ギア列9の各ギア(ロータギア16、中間大ギア18、中間小ギア19、出力ギア20)がスムーズに回転せず、長期の使用によってギア引っ掛かりが生じて回転が停止する場合もある。
【0020】
そこで、本実施形態では、図5に示すように、ステッピングモータ8と減速ギア列9を組付けたムーブメントハウジング4(図2、図3参照)を検査用治具21に固定し、指針軸6に指針7(もしくは同様の検査用指針)を取り付けた状態で、以下に述べるような検査方法により、減速ギア列9の各ギア(特に中間大ギア18および中間小ギア19)が良品(正常品)か不良品かの検査を全品対象に行うようにした。以下、本実施形態に係る検査方法について説明する。
【0021】
図5に示すように、検査用治具21に固定したムーブメントハウジング4の外に露出する各端子15a,15b(図2、図3参照)に対し、駆動部22から駆動電圧(サイン波状駆動電圧、コサイン波状駆動電圧)を信号線を介してそれぞれ印加する。これにより、各励磁コイル12a,12bに流れる電流によって各ステータ11a,11bに互いに90度位相がずれた磁束が発生し、マグネットロータ10とヨーク13との間に生じる磁力によって、マグネットロータ10が回転する。この際、各励磁コイル12a,12bに印加する前記駆動電圧が正極性の場合は正回転(右回転)する。
【0022】
マグネットロータ10の回転により、減速ギア列9の各ギア(ロータギア16、中間大ギア18、中間小ギア19、出力ギア20)を介して指針軸6が減速回転し、指針7が回動する。この際、駆動部22から各端子15a,15bへの駆動電圧(サイン波状駆動電圧、コサイン波状駆動電圧)の印加にともなって、励磁コイル12a,12bに誘起電圧が発生する。
【0023】
そして、マグネットロータ10が回転しているときに励磁コイル12a,12bで発生した誘起電圧を、各端子15a,15bから信号線を介して誘起電圧検出部23で検出する。
【0024】
図6(a),(b)は、誘起電圧検出部23で検出した誘起電圧の発生パターンの測定結果を示す図であり、図6(a)は、減速ギア列9の各ギア(ロータギア16、中間大ギア18、中間小ギア19、出力ギア20)が良品(正常品)の場合であり、図6(b)は、減速ギア列9の各ギア(特に中間大ギア18、中間小ギア19)が不良品の場合である。
【0025】
なお、図6(a),(b)において、横軸はマグネットロータの回転回数、縦軸は誘導電圧であり、Aは予め実験等に基づいて設定した減速ギア列の各ギアの良品か不良品かを判定するための誘起電圧のしきい値であり、200〜300mv程度に設定される。また、図6(a),(b)に示すように、駆動電圧の印加初期時におけるマグネットロータ10の回転開始直後は回転状態がまだ安定していないので、マグネットロータ10の回転回数が20〜30回に達するまでの誘起電圧の発生パターンデータは考慮しないようにする。
【0026】
図6(a)に示すように、検出した誘起電圧がしきい値Aよりも大きく、例えば350〜400mv程度で一定の場合は、減速ギア列9の各ギア(ロータギア16、中間大ギア18、中間小ギア19、出力ギア20)が安定してスムーズに回転している状態であり、検査員は減速ギア列9の各ギア(ロータギア16、中間大ギア18、中間小ギア19、出力ギア20)が良品であると判定する。すなわち、減速ギア列9の各ギア(ロータギア16、中間大ギア18、中間小ギア19、出力ギア20)が安定してスムーズに回転すると、マグネットロータ10の回転に悪影響を及ぼすことはなく、発生する誘起電圧も例えば350〜400mv程度の範囲内で一定である。
【0027】
これに対し、図6(b)に示すように、検出した誘起電圧がほぼ一定の周期でしきい値Aを下回り、誘導電圧のバラツキ変動が大きい場合は、減速ギア列9の各ギア(特に中間大ギア18、中間小ギア19)の一部分に傷や変形が生じていてギア引っ掛かりが発生している状態であり、検査員は減速ギア列9の各ギア(特に中間大ギア18、中間小ギア19)が不良品であると判定する。すなわち、減速ギア列9の各ギア(特に中間大ギア18、中間小ギア19)の一部分に傷や変形が生じていてその部分が一回転ごとに噛み合うときの僅かな回転変動が、マグネットロータ10の回転に悪影響を及ぼすことにより、発生する誘起電圧の値が、しきい値Aを下回る程度まで大きく変動する。
【0028】
このように、本実施形態に係る検査方法によれば、駆動電圧(サイン波状駆動電圧、コサイン波状駆動電圧)を各励磁コイル12a,12bに印加してマグネットロータ10を回転させたときに、各励磁コイル12a,12bに発生する誘電電圧がしきい値よりも下回るか否かによって、減速ギア列9の各ギア(ロータギア16、中間大ギア18、中間小ギア19、出力ギア20)が良品か不良品かを判定することにより、減速ギア列9の各ギア(ロータギア16、中間大ギア18、中間小ギア19、出力ギア20)が良品か不良品かを、ムーブメントハウジング4に組付け後に精度よく、かつ安価な構成で判定することができる。
【0029】
また、前記した各励磁コイル12a,12bに発生する誘電電圧がしきい値を下回るか否かによって、減速ギア列9の各ギア(ロータギア16、中間大ギア18、中間小ギア19、出力ギア20)が良品か不良品かを判定するときに、例えば、制御装置(不図示)により各励磁コイル12a,12bに発生する誘電電圧がしきい値を下回って不良品であると判定した場合のみ、アラーム音を発するようにしたり、警告ランプを点灯するようにして、検査員に報知するようにしてもよい。
【0030】
また、本発明に係る計器用ムーブメントの検査方法は、前記した実施形態における車両用指針計器(スピードメータ)のムーブメントハウジングに組付ける減速ギア列の各ギアの検査方法に限定されることなく、ステッピングモータと減速ギア列とを有する各種の計器用ムーブメントの減速ギア列の各ギアの検査に適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】本発明の実施形態に係る車両用指針計器を示す平面図。
【図2】本発明の実施形態に係る車両用指針計器のムーブメントハウジングを示す平面図。
【図3】ムーブメントハウジング内を示す平面図。
【図4】ムーブメントハウジング内を示す側面図。
【図5】本発明の実施形態に係る車両用指針計器のムーブメントハウジングに組付ける減速ギア列の各ギアが良品か不良品かを検査するときの構成図。
【図6】(a)は、減速ギア列の各ギアが良品のときの誘起電圧の発生パターンを示す図、(b)は、減速ギア列の各ギアが不良品のときの誘起電圧の発生パターンを示す図。
【符号の説明】
【0032】
1 車両用指針計器
3 文字板
4 ムーブメントハウジング
6 指針軸
7 指針
8 ステッピングモータ
9 減速ギア列
10 マグネットロータ
11a,11b ステータ
12a,12b 励磁コイル
13 ヨーク
16 ロータギア
18 中間大ギア(第1中間ギア)
19 中間小ギア(第2中間ギア)
20 出力ギア
22 駆動部
23 誘起電圧検出部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
磁極が交互に反転するように多相着磁されたマグネットロータ、2相以上の多相界磁を形成する複数のステータ、前記ステータをそれぞれ励磁する励磁コイルを備えたステッピングモータと、
少なくとも、前記マグネットロータのロータ軸に固着した樹脂製のロータギア、指針が取り付けられる出力軸に固着した樹脂製の出力ギア、前記ロータギアと噛み合う第1中間ギア、前記第1中間ギアを固着した中間軸に固着され、前記出力ギアと噛み合う樹脂製の第2中間ギアを備え、前記マグネットロータの回転を減速させて前記指針を回動させる減速ギア列と、を有する計器用ムーブメントの検査方法において、
前記励磁コイルに駆動信号を印加して前記マグネットロータを回転させ、そのときに前記励磁コイルで発生する誘導電圧が所定のしきい値を下回るか否かに基づいて、少なくとも前記第1中間ギアおよび前記第2中間ギアが良品か不良品かを判定する、
ことを特徴とする計器用ムーブメントの検査方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2007−127493(P2007−127493A)
【公開日】平成19年5月24日(2007.5.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−319625(P2005−319625)
【出願日】平成17年11月2日(2005.11.2)
【出願人】(000004765)カルソニックカンセイ株式会社 (3,404)
【Fターム(参考)】