説明

記憶障害の診断および治療におけるFGF−18の使用

本発明は、学習および記憶を改善するための線維芽細胞成長因子-18(FGF-18)の使用を提供する。本発明は、中枢神経系のFGF-18の測定発現レベルおよび診断目的のためのこのような測定の使用の方法にも関する。本発明は、連合学習、強化された記憶、薬剤開発および解析では、およびアルツハイマー病による痴呆などの障害された海馬の機能と関係する特定の疾患の治療において有用であると思われる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
技術分野
本発明は、遺伝子発現の測定、空間学習、および記憶の分野に、線維芽細胞成長因子に、並びにアルツハイマー病による痴呆などの海馬の機能障害と関係する疾患の診断および治療に関する。
【背景技術】
【0002】
発明の背景
1世紀以上の間、2つの形態の記憶が、これらの期間によって区別されてきた:迅速に形成され、何分または何時間の間、訓練することよって長持ちさせることができる短期記憶(STM)[1]、および何時間から何日、何週、または何年も持続することができる長期持続記憶(LTM)[2]。脊椎動物および無脊椎動物のいずれにおいても、STMは、迅速にシナプス伝達の有効性を変えることができる既存の分子の一時的な修飾に基づいている。対照的に、LTMは、シナプスの有効性の変化(長期増強またはLTP)、シナプスの再構築によって生じるシナプスの強度の比較的長命の増加に基づいている[3]。LTMは、転写または翻訳の阻害剤によって遮断することができ、これが遺伝子発現の変化および/または新規の遺伝子発現に依存的なことを示している。記憶の固定の間に新しく合成されるタンパク質が再構築に寄与して、短期記憶の期間を増強するのであろう。
【0003】
LTMにおけるシナプスの形態学的な再構築は、脳の発達に使用するものと同様の機構によって遂行されると思われる。線維芽細胞成長因子(「FGF」)は、動物において胚発生、細胞増殖、形態形成、および組織修復を制御する際に重要な役割を演ずるタンパク質である[4]。FGF-18は、このファミリーのタンパク質の1メンバーであり;空間学習と関係する単一の記憶関連遺伝子によってコードされる207アミノ酸からなるペプチドである。これは、主に肺および腎臓において発現され、並びに心臓、精巣、脾臓、骨格筋、および脳において低レベルに発現される[5]。配列比較研究により、FGF-18は、ヒトとマウスの間で高度に保存されており、FGFファミリー・メンバの中でFGF-8に最も相同的であることが示された。細胞および組織の発達におけるFGF-18の完全な役割を調査する研究を続ける中で、FGF-18は、これまで成人肺および発達中の組織の増殖のためのシグナリング分子として同定されており、また癌細胞に関連していた。しかし、記憶に関連した海馬の調節経路におけるその影響力のある役割は、本発明の前には知られていなかった。
【0004】
生物体内の各細胞は、身体のあらゆるタンパク質を産生するために必要とされる全ての情報を含む。この情報は、生物体のDNAゲノム内に遺伝子として貯蔵されている。ヒト遺伝子の数は、約100,000であると推定されるが、一部のみが実際にタンパク質として存在する[6]。いくつかのタンパク質は、それぞれの細胞に必要な機能を担う。その他のタンパク質は、特定の細胞型にのみ必要とされる特定化された機能を担う。細胞の特異的な機能は、主に発現されるタンパク質によって決定されるので、mRNAへの遺伝子変換の転写過程およびその後のタンパク質への翻訳は、高度に調節されており、広範囲に細胞活性を方向づける。
【0005】
特定のタンパク質の量は、そのmRNAの量によって反映されることが多いので、LTMの形成の間に差次的に発現される限られた数のmRNAを同定するために、種々の方法が使用されてきた。遺伝子の転写の増大、または多くはないが減少は、学習に後の特定の時間領域の間に示された。これらの従来技術のアプローチは、個体の遺伝子または遺伝子の経路に集中されており、ゲノム活性の性質の大規模並列処理および最終的に脳機能の基礎をなす分子機構を制御する遺伝子の総体的な挙動を対象にすることができなかった。
【0006】
海馬は、学習プロセスおよび特定のタイプの記憶に重要な役割を果たす。海馬の機能を失った個体は、失う前に生じたイベントの記憶を保持しているが、短期記憶を有するだけであり、失った後の全てのイベントが数分未満しか続かない(前向性健忘症)。従って、海馬は、入って来る感覚の情報の重要性を解釈し、どの入力が記憶に値するかについて決定し;次いで、持続性の記憶が生じるまで、何度も情報を心に復元させるシグナルを伝達すると考えられる。
【0007】
齧歯類、霊長類、およびその他の非ヒト種の海馬の切除の効果についての多くの研究が行われてきた。記憶障害および空間パフォーマンスは、海馬の機能と関連している。細胞消失を含む海馬の形態学的変化は、癲癇、精神分裂症、アルツハイマー病、およびハンチントン病と関係する[7]。動物からの研究データは、ストレスの間に分泌される糖質コルチコイドが海馬に損害を与え、海馬ニューロンが神経病学的傷害の残存する能力を障害し得ることを示す[8]。持続的な高レベルの糖質コルチコイドは、同様にヒトの海馬に損害を与える可能性があり;クッシング症候群の患者は、糖質コルチコイドの分泌過多に比例して海馬の萎縮に苦しむとのことである。酵母、線虫、ハエ、レート(rate)、およびヒトにおいて細胞周期を調節するタンパク質は、共通の化学的または構造的な特徴を有し、同じ一般的な細胞活性を調整することが十分に確立されている。従って、動物モデル系は、ヒトの症状、疾患、および障害の診断薬および治療薬の開発および試験のための医学的な仮説を試験するために多大な価値がある。
【0008】
遺伝子経路における遺伝子およびクロストークの広範な多様性が、脳機能の基礎をなす分子機構の制御に関与したために、遺伝子の発現プロファイル解析のみにより、適切にこのような制御を示す完全な遺伝子の調節経路を解析する。この解析により、遺伝子を主要な細胞の発達および調節イベントと相関する異なったクラスターに分類することができる[9]。所与の細胞または組織についての遺伝子発現プロファイルでは、mRNAのポリアデニル化された範囲から上流のmRNAの3'領域を定量的にcDNAに変換する。これにより、mRNAのモル組成の正確な表示を与える[1]。訓練されていないラットの海馬に構成的に発現される遺伝子は、Kaser et al.によって解析されている[10]。しかし、学習に関係する差次的発現は、報告されなかった。遺伝子発現レベルは、候補薬に対する系の曝露、外来遺伝子の導入、系からの遺伝子の除去、または培養条件の変化などの生物系に関係する実験または環境の条件(類)によって撹乱されるであろう。遺伝子およびタンパク質の発現プロフィールおよび撹乱に対するこれらの反応の総合的な測定は、FGF-18などの薬物の効果を比較し、および理解し、並びに疾患を診断し、患者の薬物療法を最適化する能力を含む広範にわたる有用性を有する。
【0009】
モーリス水迷路は、海馬の学習および記憶成績を測定する広く認められた方法である[11]。これは、隠された脱出プラットフォームを有する水プールからなり、そこでは、被検体は構造的な(contextual)または局部的なキューを使用してプラットフォームの位置を学ばなければならない。物理的なチャレンジを視覚のキューと組み合わせることによって、ラットは、水迷路を通って隠れたプラットフォームに自らを進むように促され、ラットは水から逃げることができる。成績は、ビデオテープに録画され、コンピューターを利用した画像分析を使用して、時間および進んだ距離などの予め定められた変数を測定する。これらの測定により、試験した動物の学習能力、記憶、および空間学習に対する洞察を提供するデータを作製する。モーリス水迷路の成績は、注意、学習、および記憶、視力および運動協調性を含むいくつかの機構に依存する。したがって、この試験の成績の基礎をなす認識プロセスは、多くの生化学的経路に依存的である。
【0010】
一旦、空間学習および記憶がモーリス水迷路を使用して評価されれば、同時に多数のmRNA転写物の発現レベルを定量するために、マイクロアレイ技術を使用してもよい。この技術により、1回に多数のmRNA転写物の発現レベルをモニターする能力が提供され[12]、これを使用して、モーリス水迷路で十分に遂行するマウス株と十分に遂行しない株との間の海馬の遺伝子発現の違いを検査した[13]。RNAフィンガープリント法を使用して、水迷路で訓練したラットにおいて差動的に発現される遺伝子を発見する努力試みも同様に報告されている[14]。
【0011】
マイクロアレイ技術は、ハイブリダイゼーションに基づいた方法であり、異なる色の光を放射する異なる蛍光タグでmRNA表示をタギングすることによって多くの核酸種を同時に定量化することができる。この技術は、ガラス面上に少量の純粋な核酸種を固定し、これらを複数の蛍光ラベルした核酸とハイブリダイズさせ、次いで、生じる蛍光タグハイブリッドを走査共焦点顕微鏡で検出して定量する。全プロセスを非常に高度に自動化することができる。転写物を検出するために使用されるときは、特定のRNA転写物(mRNA)をDNA(cDNA)に複製する。次いで、この複製された形態の転写物をガラス面上に固定する。特定の細胞タイプに存在する完全に相補的な転写物mRNAを細胞から抽出し、次いで、抽出したmRNAの蛍光タグを付けたcDNA表示を逆転写のインビトロでの酵素反応によって行う。いくつかの細胞タイプからの蛍光タグを付けたmRNAの表示(それぞれ、異なる色の光を放射する蛍光でタグを付けたもの)をcDNAのアレイにハイブリダイズさせ、次いでそれぞれの固定されたcDNAの部位の蛍光を定量化する。この分析的スキームは、特に2つの異なる細胞タイプに存在するmRNAの存在量を直接比較するために有用である。
【0012】
細胞の遺伝子発現レベル、mRNAの存在量、およびタンパク質発現の測定は、細胞の生物学的な状態に関する豊富な情報を提供する。これらのレベルは、薬物療法および細胞の生物学的な状態のその他の攪乱に応答して変化することが既知であり、これらは、通常ひとまとめにして細胞の生物学的な状態の「プロフィール」と称される。これらの細胞のプロセスが複雑であるために、特定の細胞または組織におけるプロフィールの測定を、典型的には生物系が攪乱に供される前および後に決定し、攪乱によるプロフィールの変化に注意がなされる。このような攪乱は、候補薬に対する系の曝露、外来遺伝子の導入、系からの遺伝子の除去、または培養条件の変化などの生物系に関係する実験または環境の条件(類)を含む。遺伝子およびタンパク質の発現プロフィールおよび撹乱に対するこれらの反応の総合的な測定は、FGF-18などの薬物の効果を比較し、および理解し、並びに疾患を診断し、患者の薬物療法を最適化する能力を含む、広範にわたる有用性を有する。
【発明の開示】
【0013】
発明の概要
出願人は、動物が空間学習に従事するときに、脳内の線維芽細胞成長因子18(FGF-18)の発現が増大したということを発見し、また外来性のFGF-18の投与が、有意にモーリス水迷路試験における動物の成績を増強することを発見した。第1の側面において、本発明は、動物の学習および記憶固定を増強する方法であって、FGF-18の有効な量を投与することを含む方法を提供する。
【0014】
記憶に関連した遺伝子産物の欠陥は、学習欠陥に関係することが知られている。たとえば、マウスからのカルモジュリンキナーゼIIα遺伝子の欠失は、水を満たしたモーリス迷路でのこれらの成績を障害する[15]。同様の欠損は、チロシンキナーゼ・フューン[16]および海馬のNMDAグルタミン酸受容体[17、18]に対するノックアウト遺伝子によっても誘導される。FGF-18は、学習の間にアップレギュレートされる記憶および学習を増強する因子であり、従って、FGF-18の欠損は、学習の欠陥に関係することが予想される。したがって、本発明は、海馬のFGF-18(FGF-18)遺伝子発現を定量することによって、記憶障害を診断するため、またはこのような障害に対する素因を同定するための方法を提供する。
【0015】
また、本発明は、学習および記憶を容易にするための、並びに学習および/または記憶の機能の障害に罹患した被検体を治療するための、FGF-18の使用を提供する。
【0016】
また、本発明は、FGF-18遺伝子発現を調整する薬物をスクリーニングするための方法を提供し、もう一つの側面において、本発明は、薬理学的介入のための治療的な標的タンパク質を発見するための方法、および遺伝子発現解析によって提供される情報に基づいた創薬のための方法を提供する。
【0017】
本発明は、記憶、注意深い認識、または学習を増強する方法であって、FGF-18の有効な量および薬学的に許容されるキャリアを含む組成物を、これらの必要な被検体に対して投与することを含む方法を提供する。好ましい態様において、被検体は、以下からなる群より選択される症状に罹患している:認知パフォーマンス障害、学習欠陥、認識欠陥、注意力欠陥、癲癇、精神分裂症、アルツハイマー病、および健忘症症候群。
【0018】
また、本発明は、FGF-18の有効な量および薬学的に許容されるキャリアを含む組成物を、これらが必要な被検体に投与するための方法であって、組成物は、被検体の脳のFGF-18レベルを増大するために有効な量で投与される方法を提供する。好ましい態様において、組成物は、被検体の海馬のFGF-18レベルを増大するために有効な量で投与される。
【0019】
また、本発明は、注意深い認識の改善のため、記憶の改善のため、または学習の改善のための薬物の製造のためのFGF-18の使用を提供する。好ましい態様において、本発明は、以下からなる群より選択される症状に罹患する被検体の治療のための薬物の生産のためのFGF-18の使用を提供する:認知パフォーマンス障害、学習欠陥、認識欠陥、注意力欠陥、癲癇、精神分裂症、アルツハイマー病、および健忘症症候群。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
発明の詳細な記載
本発明は、海馬の機能障害と関係する症状に対する被検体の感受性を決定するための方法を提供する。このような症状は、認知パフォーマンス障害、学習欠陥、認識欠陥、注意力欠陥、癲癇、精神分裂症、アルツハイマー病、および健忘症症候群を含むが、これらに限定されない。本方法は、以下の工程を含む:(a)被検体の中枢神経系から線維芽細胞成長因子-18遺伝子によってコードされるmRNAを含むmRNAを含む試料を得ることと、および(b)試料中の線維芽細胞成長因子-18のmRNAを定量化すること。線維芽細胞成長因子-18のmRNAのレベルは、海馬の機能障害に関連した1つまたは複数の症状に対する被検体の感受性の指標である。好ましくは、mRNA含む試料は、海馬から得られる。
【0021】
FGF-18mRNAを定量化する方法は、ノーザンブロット法、ヌクレアーゼ保護アッセイ法、アレイ・ハイブリダイゼーション法、RT-PCR法(逆転写ポリメラーゼ連鎖反応法)、および直接または間接的にラベルされたオリゴヌクレオチド・プローブ(たとえば、酵素を結合したアビジンまたは抗体を有するビオチンおよびジゴキシゲニンラベルされたプローブ)でのハイブリダイゼーションを含むが、これらに限定されない。このような方法は、当業者に周知である。
【0022】
また、本発明は、FGF-18遺伝子発現のレベルに対する化合物の薬理効果を決定するための方法であって、以下の工程を含む方法を提供する:(a)神経細胞、好ましくはヒトの神経細胞の1つまたは複数の培養物を培養することと、(b)培養細胞のFGF-18遺伝子発現のレベルを測定することと、(c)神経細胞の培養物の少なくとも1つと化合物を接触させることと、および(d)化合物と接触した培養細胞のFGF-18遺伝子発現のレベルを測定すること。この方法において、化合物と培養細胞の接触に付随する遺伝子発現レベルの相違は化合物の薬理効果を表す。神経細胞培養の方法は、当前記技術分野において周知である[19]。
【0023】
より一般的には、本発明は、(a)作業を学習した動物の脳において、作業を学習しなかった動物と比較して差動的に発現される記憶に関連した遺伝子を同定することと、(b)神経細胞、好ましくはヒトの神経細胞の1つまたは複数の培養物を培養することと、(c)培養細胞における工程(a)で同定された遺伝子の発現レベルを測定することと、(d)神経細胞の培養物の少なくとも1つと試験される化合物を接触させることと、および(e)化合物と接触した培養細胞における工程(a)で同定された遺伝子の発現レベルを測定することの工程を含む方法によって、学習、記憶、および/または記憶固定に対して薬理効果を有する可能性が高い化合物を同定する方法を提供する。この方法において、化合物と培養細胞の接触に付随する遺伝子発現レベルの相違は、化合物の薬理効果を表す。
【0024】
上記した方法は、FGF-18遺伝子の発現レベルの測定と関連して、その他の記憶に関連した遺伝子の差次的遺伝子発現の測定に使用されてもよい。上記の方法において、好ましい遺伝子発現レベルの測定方法は、ポリヌクレオチド・マイクロアレイに対する転写物のハイブリダイゼーションである。
【0025】
また、本発明は、認知パフォーマンス障害、学習欠陥、認識欠陥、注意力欠陥、癲癇、精神分裂症、アルツハイマー病、および健忘症の症候群を含む(しかし、これらに限られていない)記憶障害と関係する症状を治療する方法であって、このような治療を必要とする個体に線維芽細胞成長因子-18の治療上有効な量を投与する工程を含む方法を提供する。
【0026】
また、本発明は、記憶障害と関係する症状の治療の際の薬理学的介入のための潜在的な標的として役立つ記憶に関連したタンパク質を同定するための方法を提供する。本方法は、(a)未処置の動物、遊泳対照動物、および水迷路訓練された動物を提供することと;(b)未処置の動物、対照動物、および訓練された動物の海馬からmRNAを抽出することと;(c)「記憶に関連した遺伝子」を同定するために、未処置の動物、対照動物、および訓練された動物のmRNAレベルを定量し、比較することによって差次的遺伝子発現レベルを決定することと;および、(d)対称群および標的群の両者について、「記憶に関連した遺伝子」を反映するタンパク質レベルを定量することとの工程を含む。本発明の好ましい実施例において、mRNAレベルは、抽出されたmRNAを逆転写し、生じるcDNAをマイクロアレイにハイブリダイズさせることによって測定される。工程(d)において定量化される差動的に発現された遺伝子は、定量的RT-PCRおよび行動薬理学によって確認してもよい。
【0027】
記憶に関連したタンパク質および記憶関連した遺伝子の同定は、本発明において、学習作業とmRNAの誘導または抑制を関連づけることによって達成される。誘導され、または抑制されるmRNAは、mRNAをコードする遺伝子に関連していてもよく、それからコードされたタンパク質に関連していてもよい。
【0028】
mRNA誘導または抑制を学習作業と関連づけるために、ラットを水迷路における水中の島の位置を決めるための4回の連続した試行で訓練した。ラットは、2.56±0.49分(平均±SD)以内で作業を完了し、これらが島のあったことを見いだす呼出し時間は、47.8±113秒から26、3±6.9秒に減少し、ラットが実際に作業を学習したことを示す。遊泳対照ラットは、島のないプールで2.5分間遊泳させた。訓練されたラットが、実際に島の空間位置を学習したことを確認するために、6匹のラット群を、島を見いだすように訓練し、四分円解析で24時間後に試験した。訓練されたラットは、島が位置していた四分円で有意に長い時間泳いだ(合計距離の36.5%±3.2%で、2つの隣接した四分円における22.5%±2%および21.8%±2.9%、並びに反対の四分円における19.1%±4.1%と比較した;分散分析P<0.01)。
【0029】
未処置の動物、遊泳対照動物、および水迷路訓練した動物の海馬における遺伝子発現プロフィールは、神経生物学的に関連する1,200遺伝子よりも多くを含むマイクロアレイを使用して測定した。未処置の動物および遊泳対照動物の遺伝子発現プロフィールを遊泳セッションの1、6、および24時間後に比較したときに、345の遺伝子(27.3%)が、4つの条件のうちの少なくとも2つにおいて2倍よりも差動的に発現されることが見いだされた。操作上「身体活動に関連した遺伝子」(PARGs)と定義したこれらの遺伝子は、行動の訓練と関係する身体活動および軽度のストレスが、海馬の遺伝子発現に対して有意な影響を有することを示す。
【0030】
遊泳対照動物の遺伝子発現レベルを、訓練の1、6、および24時間後の水迷路訓練を受けた動物と比較したときに、140遺伝子(11%)が差動的に発現されることが見いだされ、操作上「記憶に関連した遺伝子」(MRGs)と定義した。また、大部分のこれらのMRGs(140のうちの110)は、PARGsでもあり、すなわち身体活動による影響を受けた。MRGsの中で、91個の遺伝子は、水迷路訓練を受けた動物の海馬においてダウンレギュレートされたが、55個の遺伝子は、アップレギュレートされた。
【0031】
群記憶に関連した遺伝子をこれらの発現パターンの類似性に基づいてグループ化するために、階層的なクラスター形成方法を使用した。誘導性の一酸化窒素シンターゼ、イノシトール1,4,5三リン酸受容体タイプ1、微小管関連タンパク質2、およびCa2+/カルモジュリン依存性プロテインキナーゼIIαなどの、アレイ上の複数のプローブ・セットによって提示される遺伝子は、互いのすぐ隣り、またはすぐ近くでクラスターを形成しており、実験的ノイズまたは人工産物の効果がごくわずかなことを示していた。試料の一致性についての情報はクラスター形成に使用していないが、いくつかのケースでは、遺伝子は、これらの一般的な生物学的機能に従って分離した。例えば、シナプトタグミン7および8、またはシンタキシン2、5、および8などの膜輸送タンパク質をコードする遺伝子、並びにおよびγ-アミノ酪酸(GABA)AおよびBタイプ受容体をコードする大部分の遺伝子は、調和して発現された。集まったデータで最も明らかな特徴は、MRGsが遊泳対照動物、対、水迷路訓練を受けた動物の発現の完全に異なる時間的パターンを示したことであった。
【0032】
得られたデータは、未処置の動物、遊泳対照動物、および水迷路訓練を受けた動物からプールした海馬のRNA試料に対して行った2つの別々のマイクロアレイ解析からの平均の遺伝子発現を示したが、個体の動物間には遺伝子発現の相違が存在し得る。この問題に取り組むため、およびアレイ・データの信頼性を確認するために、15遺伝子を選択して、個体の動物の海馬のmRNAにおけるこれらの差次的発現をリアルタイム定量的RT-PCRを用いて定量的に確認した。注目すべきことに、マイクロアレイにおいて観察された試料間の遺伝子発現のパターンは、リアルタイムRT-PCRを使用して観察されるパターンに密接に対応した。2つのプロフィール間の最低および最大の相関係数は、それぞれ0.72および0.99であった。
【0033】
線維芽細胞成長因子(FGF)-18は、身体活動によって影響されない唯一のMRGで、水迷路訓練の1、6、および24時間後に増大された。空間学習におけるFGF-18の効果を探索するために、空間学習に対するFGF-18の単一外来用量の効果を決定した。生体雄ラットを2回の試行でモーリス水迷路において訓練し、次いで0.94pmolのFGF-18または媒体を脳室内に注入した。表1に示すように、FGF-18処理した動物では、媒体を注入した対照動物と比較して、有意に改善された空間学習挙動を示した(P<0.05)。FGF-18処理では、脱出潜時の49%の減少を誘導したが、運動活動性の有意な変化はなかった。
【0034】
表1:水迷路学習に対する外来FGF-18の効果。
【表1】

*1日対2日 P<0.05 対照、対、FGF-18、Pv0.05
学習および身体活動は両方とも、海馬の遺伝子発現に対して重大な効果を有する。遊泳および空間学習動物群の間で差動的に発現される大部分のMRGsも、遊泳単独の間に影響を及ぼしたが、集まったデータに示すとおり、完全に異なる時間的発現パターンを有した。学習および身体活動は、共通の遺伝子群を含むが、学習および記憶の挙動は、全時間にわたった遺伝子発現の独特のパターンから区別することができる。
【0035】
同定された全てのMRGsは、認識された機能を有し、これらの翻訳産物に基づいて6つの主要な群:(i)細胞シグナリング、(ii)シナプスタンパク質、(iii)細胞間相互作用および細胞骨格タンパク質、(iv)アポトーシス、(v)酵素、および(vi)転写または翻訳の調節に分類することができ、以下に更に詳細に記載してある。
【0036】
これらの遺伝子のいくつかは、以前にシナプスの可塑性、記憶、または認識障害に関連していたが、その他は、以前に認識されていない有意な数の独特のエントリーポイント(entry point)を提供する。また、関係するいくつかの遺伝子およびタンパク質の正確な役割および機能的な関係は、まだ認識されていない。このために、マイクロアレイ解析によって関係するいくつかのMRGsだけを本明細書において論議してある。さらに多くの時点、行動の例、および病態生理学的な条件を、同様の研究に使用することにより、より完全な高密度のアレイが利用できるようになり、学習および記憶の基礎をなす重要な遺伝子および経路に関して、より完全解釈のフレームワークが現れるであろう。
【0037】
(i)細胞シグナリング。細胞シグナリングに関与する遺伝子群は、最も多く、神経ペプチド、成長因子、およびこれらの受容体のサブグループを含む。FGF-18は、これらのFGFファミリーのメンバー一つであり、神経突起の伸長を刺激することが示されている[20]。このペプチドの機能は、いまだ未知であるが、このファミリーのその他のメンバーは、いくつかの誘導的なパターニング・プロセスにおいて重要なシグナリング分子であり、初期の脊椎動物の神経系の形成の間に脳の形成体に由来するシグナルとして作用する。FGF-18の発現は、水迷路訓練によって誘導されたが、身体活動では誘導されなかった。この結果は、外因的に投与されたときにFGF-18が空間記憶を増強する能力と共に、学習および記憶にこれが関与することを支持する強力な証拠となる。
【0038】
インターロイキン-1β(IL-1β)、インターロイキン15(IL-15)、およびインターロイキン2(IL-2)受容体α鎖の差次的発現は、記憶固定プロセスにおける脳サイトカインの生理的役割を示唆する。実際には、水迷路訓練した動物のIL-1βmRNAの減少は、中枢のIL-1βの投与および中枢のIL-1β活性を誘導する薬剤が、海馬体に依存する記憶の固定を障害することを示す以前の研究と整合する。
【0039】
水迷路訓練された動物の副腎皮質刺激ホルモン放出ホルモンの発現の増強は、別の学習例で得られた証拠と整合する[21]。
【0040】
Gタンパク質結合受容体のサブグループには、2つのGABAB形受容体スプライスバリアント、GABAB1dおよびGABAB2aを含む。機能的なGABAB受容体は、GABAB1およびGABAB2の二量体化にその機能が依存しており、二次メッセンジャー系を活性化し、カリウムおよびカルシウムチャネルの活性を調整し、これによりシナプス前伝達物質の放出および興奮性の神経伝達のシナプス後サイレンシングを制御することが知られている。GABAB受容体アゴニストまたはアンタゴニストは、モーリス水迷路作業の認知パフォーマンス、並びにその他の種類の学習を、それぞれ障害し、または容易にすることが知られている[12]。GABAB受容体シグナリングを減少させることによって、水迷路訓練の1時間後のGABAB1dおよびGABAB2aのダウンレギュレーションは、GABAB受容体アンタゴニストによって産生されるものと同様の記憶効果を及ぼすであろう。
【0041】
ドーパミン1AおよびD4受容体は、水迷路訓練の1時間後に、それぞれダウンレギュレートされ、およびアップレギュレートされる。これらの受容体は、異なるGタンパク質に結合し、これらの発現の変化により、ニューロンのドーパミンを媒介したシグナルを調整することができるのであろう。
【0042】
オピオイド受容体様の受容体は、水迷路訓練の1時間後に減少する。この受容体は、オピオイド受容体(その内因性リガンドは、ヘプタデカペプチド・ノシセプチンである)に構造的に関連したGタンパク質結合受容体であり、感覚認知、記憶プロセス、および情動行動に関係していた[23、24]。
【0043】
アデノシン受容体A1は、アデニルシクラーゼに対してネガティブに結合し、水迷路訓練の1時間の後に減少する。アデノシンは、海馬のシナプス可塑性に対して持続性の抑制性の役割を発揮すると考えられる[25]。従って、この減少は、学習および記憶の間に促通性の役割を発揮するであろう。
【0044】
インスリン受容体は、遊泳対照ラットにおいて増大し、水迷路訓練を受けたラットにおいて減少したが、その内因性リガンドのインスリンの前駆体は、水迷路訓練のわずか24時間後に検出可能であった。脳インスリンとその受容体の微妙なバランスが、認識機能を調節するのであろう[26]。リガンドの動作をゲート制御するイオンチャネルのサブグループは、5つのGABAA受容体サブユニットを含み、水迷路訓練の1時間後に全てが差動的に発現される。これらのうちの4つのα4、α5、β2、およびγ2は、ダウンレギュレートされたが、1つのπサブユニットは、アップレギュレートされた。特定のGABAA受容体サブユニットの発現の変化は、GABAA受容体構築群の組成物および薬理に影響を及ぼすであろう。また、これらの変化は、抗不安薬、抗痙攣薬、全身麻酔薬、バルビツール剤、エタノール、および神経ステロイドなどの莫大な数の薬物を考慮して比較してもよく、これらは、GABAA受容体サブユニットを介して少なくともいくつかのこれらの薬理効果を引き出すことが既知である[27]。
【0045】
グルタミン酸イオンチャネル型受容体の発現は、空間学習の間に劇的に調節される。N-メチル-D-アスパラギン酸受容体(NMDA-R)1は、NMDA受容体チャネル複合体に特徴的な全ての性質を有し、水迷路訓練の1時間後にダウンレギュレートされるが、NMDA-R2Aは、調節活性を有し、24時間後でアップレギュレートされる。1つの1-α-アミノ-3-ヒドロキシ-5-メチル-4-イソキサゾールプロピオナート(AMPA)受容体α3サブユニットは、訓練を受けた1時間後にダウンレギュレートされる。2つのカイニン酸受容体、GluR6およびGluR5-2は、それぞれ訓練の6および24時間後にアップレギュレートされる。種々の組み合わせのプグルタミン酸受容体の可塑的な変化は、グルタミン酸の反応に対して重大な効果を有する可能性がある[28]。
【0046】
イオンチャンネルのサブグループは、イオンの恒常性の維持の役割を担ういくつかのタンパク質を含む。これらの中には、10種のカリウム(K+)サブユニット:2つのShaker(Kcna5およびKcna5)、2つのShab(Kcnb1およびKcnb2)、1つのShal(Kcnd2)、並びに1つのEAG関連(Kcnh5)電位依存性のカリウムチャネル・サブユニットの1つのCa2+活性型(Kenn2)および3つの内向きに整流するもの(Kcjn4、Kcjnl1、およびKcjn6)がある。種々のK+チャネル・サブユニットの発現変化により、チャネル複合体の組成を変更し、細胞の興奮性に影響を及ぼすのであろう[29]。空間記憶の間の上記のサブユニットの各々の正確な貢献は知られていないが、10のうちの7つは、水迷路訓練の後にダウンレギュレートされ、興奮の増大を生じるであろう。
【0047】
細胞内シグナリングに関与するタンパク質のサブグループは、カルシウム、ナトリウム、およびカリウムイオンの細胞内恒常性に関与するいくつかのタンパク質を含む。これらの一つには、ニューロンのカルシウムセンサー-1としても知られるフリクエニン(frequenin)相同体があり、これは、連合学習を調節することが最近示された[30]。
【0048】
神経伝達物質輸送に関与するタンパク質のサブグループは、GABA、グルタミン酸、およびセロトニントランスポーターを含む。GABAおよびグルタミン酸輸送体は、水迷路訓練の1、6、または24時間後にダウンレギュレートされるが、セロトニントランスポーターは、1時間後にアップレギュレートされる。神経末端およびグリア細胞による神経伝達物質の取り込みは、伝達物質または伝達物質前駆体の貯蔵所を提供するために、およびシナプスのイベントの終結に重要である[31]。従って、これらの輸送体の発現の変化は、シナプス間隙の神経伝達物質レベルを制御することによる神経伝達に対して重体な効果を有するであろう。
【0049】
シグナリング酵素のサブグループは、以前に学習および記憶に関係づけられた多くのタンパク質を含む。水迷路訓練の後に、一酸化窒素シンターゼ(Inos)の誘導性の形態の強い誘導が観察された。この酵素は、ニューロンのシナプス伝達に関与する分子の一酸化窒素(NO)を産生し、多くの病状で誘導される。NOの役割は学習であり、記憶はまだ不明であるが、いくつかの研究では、全身性のNO阻害が水迷路学習において[32、33、34]、およびアメフラシの学習において[35]、有害作用を有することが報告された。従って、海馬におけるiNOSの役割は、神経疾患におけるその十分に確立された有害な機能を越えるものであり得るし、学習および記憶の基礎をなする機構に寄与し得る。
【0050】
分裂促進因子で活性化されるプロテインキナーゼ(MAPK)シグナル伝達カスケードに関与する2つの酵素、p38MAPKおよびMAPKホスファターゼをコードする遺伝子は、水迷路訓練の後に差動的に発現されることが見いだされた。このシグナル伝達カスケードは、以前には学習および記憶の基礎をなすシナプス可塑性の発達に関係づけられた[36、37、38]。しかし、異なる上流のカスケードによって活性化され、かつ異なった核転写因子の規則に関与している3つのMAPKsのサブファミリーがある[39]。本観察および以前の研究[40]によって示差されるとおり、長期記憶には、異なるMAPKsおよび/またはこれらのMAPKホスファターゼが関与するのであろう。
【0051】
記憶の形成および固定に広範囲に関係するシグナリング酵素のクラスに属するCa2+/カルモジュリン依存性プロテインキナーゼ[41]の差次的発現は、水迷路訓練後に観察された。
【0052】
シグナル伝達に関与するその他のタンパク質には、Homerファミリーのタンパク質の短い形態のAnia-3を含み、これは、グループ1の代謝調節型のグルタミン酸受容体、イノシトール三リン酸受容体、リアノジン受容体、およびNMDA受容体結合Shankタンパク質に結合し、シナプス形成、シグナル伝達、受容体輸送、および軸索の開通に関係していた[42]。長いHomer形態は、構成的に発現され、自己結合してアダプタとして機能し、膜受容体を放出可能なCa2+の細胞内プールに結合させる。短いHomer形態は、シグナリング成分に対する結合について長いホメーロス・タンパク質と競合し、したがって、受容体で誘導される細胞内ストアからのCa2+遊離の内因性ドミナントネガティブな制御因子として機能する。水迷路訓練を受けた動物のAnia-3のダウンレギュレーションは、長いHomer形態の性質を調整し、シナプスの構造および機能の活性依存的な変化に関与している可能性がある。
【0053】
もう一つのシグナリング分子、シトロン(citron)のアップレギュレーションは、水迷路訓練の24時間後に見いだされた。シトロンは、シナプス後骨格タンパク質PSD-95に結合するニューロンのρ-標的分子であり、これは、シナプスでの神経伝達物質受容体のアンカリングおよびクラスター形成において重要な役割を果たす[43]。シトロンの発現は、神経可塑性の機構に、およびNMDA受容体などの神経伝達物質受容体に関係していたρシグナリング経路間のクロストークをもたらすであろう。
【0054】
(ii)シナプスタンパク質。シナプスタンパク質のグループは、膜の輸送および融合を調節する多くのタンパク質を含む。これらは、synaptojanin1、シンタキシン・ファミリーのタンパク質の4つのメンバー(シンタキシン2、5、8、および12)、5つのシナプトタグミン(2、4、5、7、および8)、およびシナプトソーム結合タンパク質25(synaptosomal-associated protein-25)を含む。これらのタンパク質の種々の発現は、膜の輸送および融合の種々の工程に関与しており[44]、分泌、エンドサイトーシス、および軸索成長などの細胞機能に影響を及ぼすことによってシナプス可塑性を調節するであろう。
【0055】
(iii)細胞-細胞の相互作用および細胞骨格タンパク質。細胞-細胞の相互作用および細胞骨格タンパク質のグループは、その発現の変化が、記憶の形成の間の脳細胞の形態学的な適合を反映するであろう非常に多くのタンパク質を含む。これらの中には、たとえば神経系に特異的に発現される細胞-細胞の粘着性接合部の成分のδ-カテニンがある。δ-カテニンは、ニューロンの遊走の間にダウンレギュレートされ、有糸分裂後のニューロンの尖端樹状突起に発現される[45]。従って、δ-カテニン発現の変化は、樹状突起およびシナプス形成の確立および維持のために必要であると考えられる。δ-カテニンは、元来はプレセニリン1(その突然変異が、早期発症家族性アルツハイマー病を引き起こす)と相互作用するものとして発見された。加えて、δ-カテニンの半接合は、重篤な精神遅滞と関係するネコ鳴き症候群における重篤な精神遅滞と関係する[46]。
【0056】
微小管形成に関与するいくつかのタンパク質の海馬における発現は、水迷路訓練の1時間後に減少された。これらの中には、β-チューブリン、ニューラキシン(neuraxin)、および微小管結合タンパク質2(microtuble-associated proteins2:MAP2)および5(MAP5)がある。MAP2の発現の減少は、特に、3つの重複するプローブ・セットで確認された。樹状突起の安定性に重要であるMAP2の発現変化は、前後関係の記憶、長期活性化、老化、癲癇、アルツハイマー病、およびRett症候群で示された[47、48、49、50、51、52]。本発明者らは、モーリス水迷路において行動の欠陥を示す脆弱X染色体症候群のトランスジェニック動物モデル[54]において、MAP2の発現変化を最近見いだした[53]。細胞-細胞および細胞-マトリックスの相互作用に関与するいくつかのその他タンパク質の発現が増大されること(細胞接着分子-1、C-CAM2aアイソフォーム)、またはさらにたいていは減少されること(ニューレキシン1、コネキシン43、コンタクチン1(contactin1)、コンドロイチン硫酸プロテオグリカン3、ミエリン結合糖タンパク質、および軸索糖タンパク質)が見いだされた。細胞(call)接着分子は、すでにシナプス可塑性、学習、および記憶に関係していた[55]。合わせると、これらの変化は、細胞-細胞の認識およびニューロパイルの成熟した樹状突起の関係の確立の調節に重要であろう。
【0057】
(iv)アポトーシス。アポトーシスに関与するタンパク質のグループは、Bcl-2に関連した死滅遺伝子産物BOD-L、カスパーゼ1および6、およびDP5を含み、これらは、全て水迷路訓練の後にアップレギュレートされる。その他の研究と一致して[56]、本発明者らのデータ(date)は、細胞死、アポトーシス、および抗アポトーシスのカスケードにおけるこれらの役割の他に、シナプス可塑性において役割を果たしているであろうことを示差する。
【0058】
(v)酵素。酵素のグループは、フリーラジカル代謝に関与する2つのタンパク質、ヘムオキシゲナーゼ1およびスーパーオキシドジスムターゼ3を含み、その発現は、水迷路訓練を受けた動物の海馬において減少された。酸化的ストレスにおけるこれらの役割の他に、これらの酵素は、学習および記憶などのその他の生理的役割に関係しているのであろう。実際に、空間記憶障害が、これらの2つのタンパク質を過剰発現するマウスにおいて見いだされる[57、58]。
【0059】
(iv)転写または翻訳の調節。転写または翻訳の調節に関与する差動的に発現される遺伝子の群の中では、そのスプライシングが種々の形態のニューロンの刺激によって劇的に制御されるサイクリンAnia-6a[59]および種々の記憶作業の後に誘導されるJu71-B[60]をコードする遺伝子がアップレギュレートされた。
【0060】
ここに示したデータは、学習および記憶に関係する異なった時間的な遺伝子発現プロフィールを示し、連合記憶の分子基礎を精査する手段としてのcDNAマイクロアレイ・システムの有用性を証明する。マイクロアレイは、mRNAレベルの変化の評価を提供し、遺伝子産物の量および機能と必ずしも相関されるというわけではないことが強調されるべきである。タンパク質の代謝回転、並びに多くの遺伝子産物の翻訳および翻訳後修飾は、発現解析単独から推定することができない機能に対して劇的な効果を有するかもしれない。それにもかかわらず、本発明のアプローチは、学習および記憶の間に生じる遺伝子発現の変化についての情報に提供し、その調整によって認識を改善するための新たな治療手段が可能になるであろう分子標的および経路を同定する。以前の研究で、およびFGF-18についての本研究において示したように、これらの経路の薬理学的または遺伝的な調整は、学習および記憶を容易にするために有効であり得る。
【0061】
本明細書に使用されるものとして、「薬学的に許容されるキャリア」の用語は、活性成分を組み合わせられてもよく、かつ組み合わせた後に、被検体に活性成分を投与するために使用することができる化学組成を意味する。本明細書において使用されるものとして、「生理的に許容される」エステルまたは塩の用語は、薬学的組成物中の他のあらゆる成分にも適合性を持ち、かつ組成物が投与される被検体に有害でない活性成分のエステルまたは塩の形態を意味する。
【0062】
本明細書に使用されるものとして、「有効な量」は、記憶、注意深い認識、または学習の増強を生じさせ、または被検体の脳もしくは海馬におけるFGF-18レベルを増大させるために十分な量である。本明細書において使用されるものとして、「記憶、注意深い認識、または学習の増強」は、対照被検体または治療前の被検体と比較した記憶、注意深い認識、または学習の改善をいう。記憶、注意深い認識、または学習の改善は、当業者に既知の多くの臨床的または生化学的な試験またはマーカーによってモニターしてもよい。
【0063】
本明細書に使用されるものとして、「被検体」の用語は、哺乳類を意味する。
【0064】
また、本明細書に使用されるものとして、「薬学的に許容されるキャリア」は、以下の1つまたは複数を含むが、これらに限定されない:賦形剤;表面活性薬;分散剤;不活性希釈剤;顆粒化および崩壊剤;結着剤;平滑剤;甘味料;香料;色素;防腐剤;ゼラチンなどの生理的に分解可能な組成物;水性媒体および溶媒;油性賦形剤および溶媒;懸濁剤;分散剤または湿潤剤;乳化剤、粘滑薬;緩衝液;塩類;糊料;充填材;乳化剤;抗酸化物;抗生物質;抗真菌薬;安定化剤;および薬学的に許容される重合体または疎水性の材料。本発明の薬学的組成物に含まれてもよいその他の「さらなる成分」は、従来技術において公知であり、Genaro, ed., 1985, Remington's Pharmaceutical Sciences, Mack Publishing Co., Easton, Pa.に記載されていており、これは参照により本明細書に援用される。
【0065】
本明細書において記載されている薬学的組成物の製剤は、既知の、または今後の薬理学の分野において開発されるいずれの方法によって調製されてもよい。一般に、このような予備方法は、活性成分をキャリアまたは1つまたは複数のその他のアクセサリ成分と結合させることと、および次いで、必要であるか、または望ましいならば、所望の単一用量または多用量単位に製品を成形し、または包装することの工程を含む。
【0066】
本明細書に提供される薬学的組成物の記述は、主にヒトに対する倫理的な投与に適した薬学的組成物に向けられるが、このような組成物は、通常あらゆる種類の動物に対する投与に適していることが当業者によって理解されるであろう。種々の動物に組成物を投与するために適するようにするために、ヒトに対する投与に適した薬学的組成物の修飾が周知であり、通常、獣医学の薬理学者の当業者は、単に通常の、あるとしても実験を行って、このような修飾を設計し、実施することができる。本発明の薬学的組成物の投与が想定される被検体は、ヒトおよびその他の霊長類、並びにその他の哺乳類を含むが、これらに限定されない。
【0067】
本発明の方法に有用な薬学的組成物は、経口、非経口的、肺、鼻腔、頬側、または、別の投与経路に適した製剤に調製され、パックされ、または販売されてもよい。想定されるその他の製剤は、投射ナノ粒子(projected nanoparticles)、リポソーム調製、活性成分を含む再封止された赤血球、および免疫学に基づいた製剤を含む。本発明の薬学的組成物は、単一の単位用量として、または複数の単一の単位用量として調製され、パックされ、または販売されてもよい。本明細書に使用されるものとして、「単位用量」は、別々の、予め定められた量の活性成分を含む薬学的組成物の量である。活性成分の量は、通常、などの被検体に投与される活性成分の用量に等しいか、またはこのような用量の便利な分画、たとえば用量の半分またはこのような3分の1である。
【0068】
本発明の薬学的組成物中の活性成分、薬学的に許容されるキャリア、および何らかのさらなる成分の相対的な量は、治療される被検体の一致性、サイズ、および症状に応じて、さらに組成物が投与される経路に応じて、変更してもよい。例として、組成物は、0.1%〜100%(w/w)の間で活性成分を含んでいてもよい。活性成分に加えて、本発明の薬学的組成物は、1つまたは複数のさらなる薬学的に活性な薬剤をさらに含んでいてもよい。特に想定されるさらなる薬剤は、シアン化物およびシアナート・スカベンジャーなどの抗吐剤およびスカベンジャーを含む。本発明の薬学的組成物の徐放性製剤または徐放製剤を、従来技術を使用して作製してもよい。
【0069】
活性成分を含むタブレットは、たとえば活性成分を圧縮すること、または成形することによって、選択的に1つまたは複数のさらなる成分と共に作製してもよい。圧縮錠剤は、適切な装置において、粉末または粒状の標品などの自由に動く形態の活性成分を、選択的に結合剤、潤滑剤、賦形剤、表面活性薬、および分散剤の1つまたは複数を混合して圧縮することによって調製してもよい。成形タブレットは、適切な装置で、活性成分、薬学的に許容されるキャリア、および混合物を湿らせる少なくとも十分な液体の混合物を鋳造することによって作製してもよい。タブレットの製造に使用する薬学的に許容される賦形剤は、不活性希釈剤、顆粒化および崩壊剤、結着剤、および平滑剤を含むが、これらに限定されない。既知の分散剤は、ジャガイモ澱粉およびナトリウム澱粉グリコラートを含むが、これらに限定されない。既知の表面活性剤は、ドデシル硫酸ナトリウムを含むが、これらに限定されない。既知の希釈剤は、炭酸カルシウム、炭酸ナトリウム、ラクトース、微結晶性セルロース、カルシウム、ホスフェート、リン酸カルシウム、およびリン酸ナトリウムを含むが、これらに限定されない。既知の顆粒化および崩壊剤は、コーンスターチおよびアルギン酸を含むが、これらに限定されない。既知の結合剤は、ゼラチン、アカシア、予めゼラチン化されたトウモロコシ澱粉、ポリビニルピロリドン、およびヒドロキシプロピルメチルセルロースを含むが、これらに限定されない。既知の平滑剤は、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸、二酸化ケイ素、およびタルクを含むが、これらに限定されない。
【0070】
タブレットは、非被覆でもよく、またはこれらは、被検体の消化管において遅延性の崩壊を達成し、これにより活性成分の徐放および吸収を与えるための既知の方法を使用して被覆されていてもよい。例として、モノステアリン酸グリセリンまたはグリセリル・ジステアレートなどの材料をコーティング錠に使用してもよい。さらに例として、タブレットは、米国特許第4,256,108;4,160,452;および4,265,874号(それぞれが、参照により本明細書に援用される)に記載されている方法を使用して被覆して、浸透圧的に制御された徐放タブレットを形成してもよい。タブレットは、また、薬学的に洗練され、かつ口に合う製剤を提供するために、甘味料、香料、色素、保存剤、これらのいくつかの組み合わせをさらに含んでいてもよい。
【0071】
活性成分を含む硬カプセルは、ゼラチンなどの生理的に分解可能な組成物を使用して作製してもよい。このような硬カプセルは、活性成分を含み、また、さらなる成分、たとえば炭酸カルシウム、リン酸カルシウム、またはカオリンなどの不活性固体希釈剤をさらに含んでいてもよい。活性成分を含むソフトゼラチンカプセルは、ゼラチンなどの生理的に分解可能な組成物を使用して作製してもよい。このような軟カプセルは、活性成分を含み、これを水、または落花生油、流動パラフィン、もしくはオリーブ油などの油性媒体と混合してもよい。
【0072】
経口投与に適した本発明の薬学的組成物の液体製剤は、および液体状態か、または使用の前に水または別の適切な媒体で再構成ことが企図される乾燥製品の形態のいずれかで調製され、パックされ、および販売されてもよい。液体懸濁液は、活性成分の水性または油性の媒体の溶液の懸濁液を達成するための従来法を使用して調製してもよい。水性媒体は、たとえば水および等張性の塩類を含む。油性賦形剤は、たとえば扁桃油、油性エステル、エチルアルコール、アラキス油、オリーブ油、ゴマ油、もしくはやし油などの植物油、分画された植物油、および流動パラフィンなどの鉱油を含む。液体懸濁液は、懸濁剤、分散剤または湿潤剤、乳化剤、粘滑薬、防腐剤、緩衝液、塩類、調味料、色素、および甘味料を含む(しかしこれらに限定されない)1つまたは複数のさらなる成分をさらに含んでいてもよい。油性懸濁液は、糊料をさらに含んでいてもよい。既知の懸濁剤は、ソルビトール・シロップ、水素付加された食用脂、アルギン酸ナトリウム、ポリビニルピロリドン、トラガント、アラビアゴム、並びにナトリウムカルボキシメチルセルロース、メチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロースなどのセルロース誘導体を含むが、これらに限定されない。既知の分散剤または湿潤剤は、レシチンなどの天然に存在するホスファチド、脂肪酸と、長鎖脂肪族アルコールと、脂肪酸およびヘキシトールに由来する部分エステルと、または脂肪酸およびヘキシトール無水物に由来する部分エステルとアルキレンオキシドの縮合物(たとえば、それぞれポリオキシエチレンステアラート、ヘプタデカエチレンオキシセタノール、ポリオキシエチレンソルビトールモノオレアート、およびポリオキシエチレン・ソルビタンモノオレアート)を含むが、これらに限定されない。既知の乳化剤は、レシチンおよびアカシアを含むが、これらに限定されない。既知の防腐剤は、メチル、エチル、またはn-プロピル-パラグラフ-ヒドロキシベンゾアート、アスコルビン酸、およびソルビン酸を含むが、これらに限定されない。既知の甘味剤は、たとえばグリセロール、プロピレングリコール、ソルビトール、ショ糖、およびサッカリンを含む。既知の油性懸濁液のための濃化剤は、たとえば蜜蝋、固形パラフィン、およびセチルアルコールを含む。
【0073】
本明細書に使用されるものとして、組成物の「投与」は、いずれの投与経路をも含む。非経口投与は、たとえば組成物の注射によって、手術切開による組成物の適用によって、組織穿通性の非外科的な損傷による組成物の適用によってものなどの薬学的組成物の投与、を含むが、これらに限定されない。特に、非経口投与は、皮下、腹腔内、筋肉内、内胸骨の注射、および腎臓通過溶解薬注入技術を含むことが想定されるが、これらに限定されない。
【0074】
典型的には、動物、好ましくはヒトに投与されてもよい本発明の化合物の用量は、動物の体重1kg当りに1マイクログラム〜約100グラムの量の範囲である。投与される正確な用量は、動物のタイプおよび治療される疾病状態のタイプ、動物の年齢および投与の経路を含む(しかし、これらに限定されない)多くの因子に応じて変化するであろう。好ましくは、化合物の用量は、動物の体重当たり約1mg〜約10g/kgで変化する。より好ましくは、用量は、動物の体重当たり約10mg〜約1g/kgで変化する。
【0075】
化合物は、毎日数回程度の頻度で動物に投与してもよく、または日に一回、週に一回、二週間ごとに一回、月に一回等の低い頻度で、または数月に一回、年に一回、もしくはそれ以下などのさらに少ない頻度で投与してもよい。用量の頻度は、当業者には直ちに明らかであろうし、治療される記憶、注意、または学習の欠陥のタイプおよび重大さ、動物のタイプおよび年齢、その他などの多くの因子に依存するであろう。
【0076】
本発明の組成物の取り込みおよび輸送を増強するために、当前記技術分野において既知の方法によって組成物を調製し、処方してもよい。これらの方法は、米国仮出願番号60/430,476(その全体が本明細書に参照により援用される)に記載したように、コレステリルエステルおよびその他の生理的に許容されるエステルとFGF-18の抱合体、および/または組成物のパッキング、および/またはエステルとリポソームおよび人工の低密度リポタンパク質内の抱合体を含むが、これらに限定されない。
【実施例】
【0077】
RNA調製、マイクロアレイ解析、定量的RT-PCR、および薬理学的研究は、二重盲検法で行った。
【0078】
実施例1:水迷路学習
被検体は、36匹の成体、雄ウィスターラットで、それぞれの重量は200〜300gであった。ラットには、食品および水へのアクセスを与え、恒温(23℃)で12:12の光/暗闇サイクルで維持した。行動試験は、先に述べた通りに行い[61]、光るい期間に行い、また米国国立衛生研究所指針にしたがった。実験日におけるストレスを減少させるために、1日目は、島をなくして遊泳訓練に費やした。それぞれのラットを2分間プールに配置し、これをホーム・ケージに戻した。その翌日に、半分のラットを2.5分の遊泳セッションの間プールに再び配置し、遊泳対照として使用した。他方の半分は、プラットフォームを位置づけるために4回の連続した試行を与え、それぞれの試行を2分まで続けた。ラットは、プラットフォーム上で試行間の間隔を30秒費やすことが必要であった。ラットの脱出潜時は、HVS2020ビデオ追跡装置を使用することによって測定した(HVSImage、 San Diego, CA)。訓練の1、6,および24h後に、遊泳対照および水迷路訓練を受けたラットを屠殺し、これらの海馬を迅速に切開してドライアイス上で凍結させた。使用したラットが実際に島の空間位置を学習したことを確認するために、一組の6匹のラットを、島を見いだすように訓練し、24時間後にこれらを四分円解析で試験した。
【0079】
実施例2:マイクロアレイ解析
リアルタイムPCRと組み合わせたAffymetrix GeneChip(商標)Rat Neurobiology U34アレイ(Affymetrix, Santa Clara, CA)の使用は、先に述べた[62]。訓練されていない(未処置の)動物、遊泳対照、および水迷路訓練を受けた個々の動物からの海馬のRNAを抽出した。それぞれの実験条件からの総RNA試料を2つの群にプールし、逆転写して、ビオチン化し、Gene Chip(商標)Expression Analysis Technical Manual(Affymetrix, Santa Clara, CA)に概説されたプロトコルで2つのRat Neurobiology U34アレイにハイブリダイズさせた。アレイを洗浄し、ストレプトアビジン-フィコエリトリンでの流体系(Molecular Probes Inc. , Eugene, Oregon)を用いて染色し、ビオチン化した抗ストレプトアビジン抗体によって増幅し(Vector Laboratories, Burlingame, Calif.)、Gene Array(商標) Scanner(Affymetrix)で走査した。ラベルされた標的の質を決定するために、Gene Chip Rat Neuorobiology U34アレイでの解析の前に、それぞれの試料を1つのGene Chip(商標)「試験3」アレイにハイブリダイズさせた。画像データは、MICROARRAYSUITE(商標)4.0遺伝子発現解析プログラム(Affymetrix)によって解析した。データの基準化、フィルタリング、およびクラスター解析は、GENESPRING(商標)4.2ソフトウェア(Silicon Genetics, Redwood City, CA)によって行った。
【0080】
それぞれのアレイからの生データは、以下の通りに基準化した:それぞれの遺伝子についてのそれぞれの測定を、全ての測定の第50百分位数によって分けた。次いで、それぞれの遺伝子を、その遺伝子についての合成の陽性対照を作製することと、この陽性対照によってその遺伝子についての全ての測定を分けることとによって、それ自体に対して基準化した。この合成対照は、全ての試料を通じて遺伝子の発現値の中央値であった。0より少ない平均相違値は、ミスマッチしたプローブの強度が、平均して、完璧にマッチしたプローブよりも大きく;したがって、プローブ・セットが十分に機能していないプローブ・セットを表す。このため、0以下に基準化された値は、0にセットした。繰り返した(n=2)実験群に由来するデータを使用して対での比較を行った。全ての可能性のある対での比較に由来する、2を超える平均の変化倍数および少なくとも1つの100を超える生の平均差の値は、遺伝子発現の有意差についてのカットオフとして使用した。
【0081】
実施例3:リアルタイム定量的RT-PCR
アレイ・データの信頼性をさらに確認するために、15遺伝子のmRNAレベルをリアルタイム定量的RT-PCRによって定量化した。未処置のラット、遊泳対照ラット、および水迷路訓練を受けたラット(群につき6匹の動物)からの一定分量のcDNA(0.1および0.2μg)、並びに既知量の外部標準(精製したPCR産物、102〜108コピー)を特異的なプライマーを使用して並行した反応で増幅した。PCR増幅は、記載されている通りに行った[63、64]。得られたPCR産物の特異性は、溶解曲線解析、続くゲル電気泳動、およびDNAシーケンシングによって特徴づけた。
【0082】
実施例4:行動薬理学
13の雄ウィスターラット(250〜300g)には、左右の側脳室内のステンレス鋼ガイド・カニューレによって定位的に移植した(AP, -0. 80 mm; Marc Levoy, 1.5 mm; DV, 3.6 mm)[65]。1日目、手術の1週後、動物を2分の遊泳訓練するセッションに供した。次いで、水迷路訓練セッションを2および3日目に行って、動物が水中のプラットフォームを見いだして、水から逃げる能力を測定した。それぞれのセッションについて、2回の試行をそれぞれの動物に与えた。プラットフォームを見いだすための脱出潜時および距離を上記の通りにモニターした。2日目の2回目の試行の10分後、薬物または媒体の脳室内投与を、移植したガイド・カニューレ内にステンレス鋼注入カニューレを導入することによって両方の側脳室に行った。それぞれの注入カニューレを、蒸留水で満たされたポリエチレン管を介してポンプ上に固定された25μlのハミルトン注射器に接続した。注入は、2μl/分の割合で、それぞれの側に1分間行った。6匹の動物には、0.94pmolのFGF-18を受けさせ(PeproTech Inc. , Rocky Hill, NJ)、その他の7匹には、媒体(塩類)の対照注射を受けさせた。結果は、表1に要約してある。
【0083】
参照
下記の各々の引例は、参照によってその全体が本明細書に援用される。
【0084】
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65 C. Rachal Pugh et al., Neurosci. Biobehav. Rev. 25: 29-41 (2001).
【図面の簡単な説明】
【0085】
【図1】記憶に関連した遺伝子を同定する方法を概説する。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
線維芽細胞成長因子18(FGF-18)の有効な量を投与することを含む個体の学習を増強する方法。
【請求項2】
FGF-18の有効な量を投与することを含む個体の記憶固定を増強する方法。
【請求項3】
認知パフォーマンス障害、学習欠陥、認識欠陥、注意力欠陥、癲癇、精神分裂症、アルツハイマー病、および健忘症症候群からなる群より選択される症状を治療する方法であって、このような治療を必要とする個体に線維芽細胞成長因子-18の治療上有効な量を投与する工程を含む方法。
【請求項4】
前記症状が認知パフォーマンス障害である、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記症状が学習欠陥である、請求項3に記載の方法。
【請求項6】
前記症状が注意力欠陥である、請求項3に記載の方法。
【請求項7】
前記症状が癲癇である、請求項3に記載の方法。
【請求項8】
前記症状が精神分裂症である、請求項3に記載の方法。
【請求項9】
前記症状がアルツハイマー病である、請求項3に記載の方法。
【請求項10】
前記症状が健忘症症候群である、請求項3に記載の方法。
【請求項11】
認知パフォーマンス障害、学習欠陥、認識欠陥、注意力欠陥、癲癇、精神分裂症、アルツハイマー病、および健忘症症候群からなる群より選択される症状に対する被検体の感受性を決定するための方法であって、
(a)前記被検体の中枢神経系から線維芽細胞成長因子-18mRNAを含む試料を除去することと、および、
(b)前記試料の前記線維芽細胞成長因子-18mRNAを定量することと、
の工程を含み;
前記線維芽細胞成長因子-18のmRNAのレベルは、前記症状に対する前記被検体の感受性を表す方法。
【請求項12】
前記試料が海馬から得られる、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
FGF-18遺伝子発現のレベルに対する化合物の薬理効果を決定するための方法であって:
(a)1つまたは複数の神経細胞の培養物を培養することと;
(b)前記培養した神経細胞のFGF-18遺伝子の発現レベルを測定することと;
(c)前記神経細胞の培養物の少なくとも1つと化合物を接触させること;および、
(d)前記化合物と接触された培養した神経細胞のFGF-18遺伝子発現のレベルを測定することと;
の工程を含み、
前記化合物に対する神経細胞の曝露と相関するFGF-18遺伝子の発現レベルの差異は、前記化合物の薬理効果を表す方法。
【請求項14】
記憶に関連したタンパク質を同定するための方法であって、
(a)未処置の動物、遊泳対照動物、および水迷路訓練された動物を提供することと;
(b)前記未処置の動物、対照動物、および訓練された動物の海馬からmRNAを抽出することと;
(c)「記憶に関連した遺伝子」を同定するために、未処置の動物、対照動物、および訓練された動物のmRNAレベルを定量し、比較することによって差次的遺伝子発現レベルを決定することと;および、
(d)対称群および標的群の両者について、記憶に関連した遺伝子を反映するタンパク質レベルを定量することと、
の工程を含む方法。
【請求項15】
工程(d)において定量される前記差次的に発現された遺伝子を、定量的RT-PCRによって確認する工程をさらに含む、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
請求項11〜15のいずれか1項に記載の方法であって、前記mRNAの定量は、以下からなる群より選択される方法によって行われる方法:ノーザンブロット法、ヌクレアーゼ保護アッセイ法、アレイ・ハイブリダイゼーション、RT-PCR、およびラベルされたオリゴヌクレオチド・プローブでのハイブリダイゼーション。
【請求項17】
前記mRNAの定量が、アレイ・ハイブリダイゼーションによって行われる、請求項16に記載の方法。
【請求項18】
記憶、注意深い認識、または学習を増強する方法であって、FGF-18の有効な量および薬学的に許容されるキャリアを含む組成物を、これらの必要な被検体に対して投与することを含む方法。
【請求項19】
前記被検体が、以下からなる群より選択される症状に罹患している、請求項18に記載の方法:認知パフォーマンス障害、学習欠陥、認識欠陥、注意力欠陥、癲癇、精神分裂症、アルツハイマー病、および健忘症症候群。
【請求項20】
前記組成物が、前記被検体の脳内のFGF-18レベルを増大するために有効な量で投与される、請求項18に記載の方法。
【請求項21】
前記組成物が、被検体の海馬のFGF-18レベルを増大するために有効な量で投与される、請求項20に記載の方法。
【請求項22】
注意深い認識の改善のための薬物の生産のためのFGF-18の使用。
【請求項23】
記憶の改善のための薬物の生産のためのFGF-18の使用。
【請求項24】
学習の改善のための薬物の生産のためのFGF-18の使用。
【請求項25】
以下からなる群より選択される症状に罹患している被検体の治療のための薬物の生産のためのFGF-18の使用:認知パフォーマンス障害、学習欠陥、認識欠陥、注意力欠陥、癲癇、精神分裂症、アルツハイマー病、および健忘症症候群。

【図1】
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【公表番号】特表2006−516538(P2006−516538A)
【公表日】平成18年7月6日(2006.7.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−554841(P2004−554841)
【出願日】平成15年11月26日(2003.11.26)
【国際出願番号】PCT/IB2003/005407
【国際公開番号】WO2004/047857
【国際公開日】平成16年6月10日(2004.6.10)
【出願人】(503310224)ブランシェット・ロックフェラー・ニューロサイエンスィズ・インスティテュート (25)
【Fターム(参考)】