説明

記録ヘッドおよびインクジェット記録装置

【課題】記録開始時の吐出安定性およびサテライト・ミスト低減を両立する記録ヘッド。
【解決手段】エネルギー発生素子と、エネルギー発生素子からエネルギーを付与する液体を収容するための室と、室から外部に液体を吐出するための吐出口とを備え、エネルギー発生素子から室内の液体にエネルギーを付与することで、吐出口から液体を吐出する記録ヘッドであって、吐出口は、液体を吐出する方向と直交する断面において吐出口の内側に凸となり、液体を吐出する方向に関してテーパ角度Θ1を有し、吐出口から液体が吐出される際にそれらの間に液体のメニスカスを形成することができる、少なくとも2つの突起と、少なくとも2つの突起とは異なる吐出口の部分であり、液体を吐出する方向に関してテーパ角度Θ2を有する外縁部と、を有し、テーパ角度Θ1およびΘ2は、式0°≦Θ1≦10°およびΘ2>Θ1を満たす記録ヘッド。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インク等の液体を各種媒体に向けて吐出して記録を行う記録ヘッド、およびこれを用いたインクジェット記録装置に関する。
【背景技術】
【0002】
インクなどの液体を吐出する方式として、電気熱変換素子(ヒータ)などの吐出エネルギー発生素子を電気的な信号によって制御して記録ヘッドの吐出口から液滴を吐出する方法が知られている。
【0003】
近年の高画質の記録を求める要求から、記録ヘッドから吐出される液滴の小寸法化が行われている。この小液滴化に伴い、記録ヘッドから吐出される液滴が、本来的に記録に用いられるべき液滴(以下、主滴という)と副次的な微小な液滴(以下、サテライトという)とに分かれる現象の影響が顕著となる傾向にある。例えば、そのサテライトが記録媒体に着弾してしまうことによる画質の劣化を生じることがある。また、サテライトが記録媒体に到達する前に速度を失い浮遊する液滴(以下、ミストという)となって、記録装置や記録媒体の汚れを引き起こすことがある。
【0004】
サテライトの低減に関しては、例えば特許文献1に記載されるように、吐出される液滴における尾引(インクテール)の長さを短くすることが知られている。特許文献1は、吐出口の形状を非円形、例えば砂時計の形状として吐出口の開口の寸法を部分的に低減することによりメニスカス力を高め、メニスカス力によって吐出口からの液面の揺れを低減させ尾引を短くすることを開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平10−235874号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1は、サテライト低減のために吐出口の開口の寸法を部分的に低減することを開示しているものの、特許文献1の構成は、最近の高画質用の記録ヘッドに用いられる吐出口よりも大きな寸法の吐出口を想定している。また、特許文献1には、記録開始時の吐出不良に関する言及およびその改善に関する記載はない。
すなわち、記録開始時の液体の吐出不良の原因としては、記録を休止している間に吐出口内の液体が蒸発し、その粘度が増すために吐出しづらくなることが挙げられる。特許文献1のように、吐出口の開口の寸法を部分的に低減した構成であっても、吐出口内の形状によっては、記録開始時の液体の吐出不良が生じる場合がある。
【0007】
本発明は、サテライトおよびミストの現象の低減と記録開始時の吐出不良の改善とを両立した吐出口を備える、高画質の記録が可能な記録ヘッドおよびインクジェット記録装置の提供を目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の課題を解決するための本発明の記録ヘッドは、エネルギー発生素子と、エネルギー発生素子からエネルギーを付与する液体を収容するための室と、室から外部に液体を吐出するための吐出口とを備え、エネルギー発生素子から室内の液体にエネルギーを付与することで、吐出口から液体を吐出する記録ヘッドであって、吐出口は、液体を吐出する方向と直交する断面において吐出口の内側に凸となり、液体を吐出する方向に関してテーパ角度Θ1を有し、吐出口から液体が吐出される際にそれらの間に液体のメニスカスを形成することができる、少なくとも2つの突起と、少なくとも2つの突起とは異なる吐出口の部分であり、液体を吐出する方向に関してテーパ角度Θ2を有する外縁部と、を有し、ここで、テーパ角度Θ1およびΘ2は、0°≦Θ1≦10°およびΘ2>Θ1の式を満たすことを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明の記録ヘッドは、出口側から記録ヘッド内部へ向かうにつれて寸法が大きくなる吐出口であって、液体吐出過程において吐出口の内部に形成される液体のメニスカスの表面を吐出口の出口近傍に保持することができる突起を有する吐出口を備える。このような構成を有する本発明の記録ヘッドは、吐出される液滴の尾引の長さを短くしてサテライトおよびミストを低減させることができる一方で、記録開始時の吐出安定性をも提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明の実施形態の記録ヘッドの概略的な斜視図である。
【図2】図1に示す記録ヘッドを線分A−A’で切ったときの断面図である。
【図3】(a)は第1の実施形態の記録ヘッドの吐出口の正面図であり、(b)は(a)の記録ヘッドを線分B−B’で切ったときの吐出口の断面図である。
【図4】(a)は比較例の記録ヘッドの吐出口の正面図であり、(b)は、(a)の記録ヘッドを線分C−C’で切った時の吐出口の断面図である
【図5】第1の実施形態の記録ヘッドの吐出過程を示す図である
【図6】第1の実施形態の記録ヘッドの吐出口の形成方法を示す図である。
【図7】第1の実施形態の記録ヘッドの製造における吐出口露光時の入射光の概念図である。
【図8】第2の実施形態の記録ヘッドの吐出口の形成方法を示す図である。
【図9】第3の実施形態のインクジェット記録装置の概略的な斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の実施形態のインクジェット記録ヘッド、およびこれを用いたインクジェット装置の構成について図面を参照して説明する。
【0012】
図1は本発明の実施形態の記録ヘッドの概略的な斜視図であり、図2は図1に示す記録ヘッドを線分A−A’で切った時の断面図である。
【0013】
図1を参照して、記録ヘッドは、基板34と、基板34の一面に設けられた流路構成部4と、流路構成部4の上に接合された吐出口プレート8とを含む。基板34の該一面には、インク吐出に作用する吐出エネルギー発生素子である電気熱変換素子1と、長細い矩形の開口部であるインク供給口3とが形成されている。電気熱変換素子1は、インク供給口3の長手方向の両側にそれぞれ1列ずつ、好ましくは千鳥状に、電気熱変換素子1の間隔が600dpiのピッチとなるように配列されている。電気熱変換素子1に対応して、吐出口プレートに8には吐出口プレート8を貫通する吐出口2が設けられている。基板34は、さらに、インク供給口3と連通し、且つ基板34の電気熱変換素子1が形成されている面とは反対側の面に開口を有する溝状に設けられたインク供給室10を備える。
【0014】
図2を参照して、基板34は、一体形成されていてもよい流路構成部4および吐出口プレート8と共に、液流路7および発泡室5を構成する。発泡室5は電気熱変換素子1上に設けられ、液流路7はインク供給室10からインク供給口3を介して導入されるインクを発泡室5に導くように形成されている。吐出口プレート8に設けられた吐出口2は、発泡室5を外部に通じさせるための開口であり、発泡室内に収容されたインクに電気熱変換素子1からエネルギーが付与されることにより、そこからインク滴が吐出される。
【0015】
本実施形態では、基板34にシリコン基板を用いたが、基板34の材質は、吐出エネルギー発生手段(電気熱変換素子1)および液流路を形成する材料層(流路構成部4)等の支持体として機能し得るものであれば、特に限定されるものではない。また、本実施形態では、吐出口プレート8と流路構成部4とを同一部材としたが、別の部材であっても同様の効果が得られる。また、本実施形態では、液滴を吐出するために用いられるエネルギー発生素子として、電気熱変換素子(ヒータ)を用いたが、これに限定されず、圧電素子(ピエゾ)などの、電気的な信号によって液滴の吐出を制御することが可能な素子を用いることができる。
【0016】
(第1の実施形態)
本発明の第1の実施形態を以下に示す。
【0017】
図3(a)に、吐出口プレートの正面から見た本実施形態の記録ヘッドの吐出口を、また図3(b)に、図3(a)の線分B−B’で切ったときの本実施形態の記録ヘッドの吐出口の断面図を示す。
【0018】
図3(a)を参照して、第1の実施形態の記録ヘッドの吐出口2は、吐出口の内側に凸となる2つの対向する突起を有するいわゆる「突起付き吐出口」である。線分B−B’は、2つの突起の間隔が最短となる突起の先端部NおよびN2を通って引かれている。
【0019】
図3(b)の断面図において、第1の実施形態の記録ヘッドの吐出口2の突起の先端部は、吐出口プレート8の厚さ方向にわたって、吐出口プレート8の上面に対して略垂線を描くように推移している(線分NーN’参照)。ここで、吐出口プレート8の上面に対する垂線は、吐出口から液体が吐出される際の吐出方向と平行であるので、以下、このような突起の形状を、「平行形状」という。本発明の平行形状の突起の取り得る液体吐出方向に関するテーパ角度(Θ1)については、後述する。
一方、突起の部分とは異なる吐出口2の部分(以下、外縁部という)は、吐出口プレート8の厚さ方向にわたって、発泡室5に近づくほど外縁部が広がるようなテーパ状に推移し、これにより、吐出口2は全体として略円錐台形状を形成している。以下、このような外縁部の形状を、「テーパ形状」という。本発明のテーパ形状の外縁部の取り得る液体吐出方向に関するテーパ角度(Θ2)についても、後述する。
【0020】
なお、本実施形態において、吐出口2の上面に相当する吐出口プレート8の外表面は凹状に窪んでいるが、この窪みは微小であるため、吐出口の吐出性能への影響は無視できる。この凹状の窪みは後述する記録ヘッドの製造方法に起因するものであり、本発明の効果の点において必須の構成要件ではない。
【0021】
[記録開始時の吐出安定性]
本実施形態の記録ヘッドの吐出口の記録開始時の吐出安定性について試験を行った。
【0022】
図3(a)および(b)を参照して、本実施形態の突起付き吐出口は、突起が平行形状であり、外縁部がテーパ形状である。詳細には、実施例の突起付き吐出口において、突起のテーパ角度Θ1に0°、外縁部のテーパ角度Θ2に10°を採用した。また、図4(a)および(b)を参照して、突起および外縁部が共に平行形状の突起付き吐出口を比較例とした。換言すれば、比較例の突起付き吐出口において、突起および外縁部は共に平行形状であり、それらのテーパ角度Θ1およびΘ2は0°であった。すなわち、本実施例の突起付き吐出口は、突起が平行形状である点で比較例と共通し、外縁部がテーパ形状である点で比較例と相違する。
【0023】
第1表は、記録開始時の吐出安定性の評価として、所定の記録休止時間経過直後に記録を開始して、正常に吐出するか否かを測定した結果を示す。使用したインクはシアン、マゼンタ、イエローの3色であり、吐出口の性能差の判別を容易にする為に、記録開始時の吐出安定性に対して厳しいインクを採用した。表中、○は正常な吐出、×は不吐出、△は吐出方向のずれ発生を示す。
【0024】
【表1】

【0025】
試験の結果から、本実施形態の記録ヘッドの突起付き吐出口は、記録休止時間が長くなっても正常に吐出を行うことができ、記録開始時の吐出安定性が良好であることが分かった。
【0026】
[サテライト・ミスト低減性能]
本実施形態の記録ヘッドの吐出口の、サテライトおよびミストの低減性能について検討した。サテライトおよびミストの発生要因には、吐出時の液滴の尾引現象があり、尾引が長いほどサテライトおよびミストが発生しやすい傾向がある。したがって、サテライト・ミスト低減性能の指標として、吐出される液滴の尾引の長さの観点から、吐出過程のシミュレーションによる評価を行った。
【0027】
図5の(a)〜(g)は、実施例の吐出口から液滴が吐出されるときの吐出過程のシミュレーション結果を示す。ここでは、実施例の突起付き吐出口において、突起のテーパ角度Θ1を0°、外縁部のテーパ角度Θ2を5°とした。また、図5の(ar)〜(gr)は、比較例の吐出口から液滴が吐出されるときの吐出過程のシミュレーション結果を示す。比較例の突起付き吐出口において、突起のテーパ角度Θ1を15°、外縁部のテーパ角度Θ2を5°とした。実施例の(a)〜(g)と比較例の(ar)〜(gr)とは、それぞれ対応する過程である。
【0028】
図5の(a)〜(g)を参照して、本実施例のシミュレーション結果を説明する。過程(a)は、定常状態の吐出口の状態を示す。ヒータ(電気熱変換素子1)を作動させることにより、発泡室5に気泡が発生して膨張し、これにより、発泡室5上部の吐出口2より液滴が吐出される。ここで、過程(b)は、発泡および気泡膨張段階を示し、過程(c)は、最大発泡段階を示す。次いで、過程(d)は消泡段階を示し、ここで、気泡は徐々に収縮する。吐出される液体が吐出口内の液体と分離し始めるときに、吐出口内にメニスカスが生じる。過程(e)において、メニスカスを形成する液体はヒータ方向へ引っ張られ、吐出口の突起間以外の周辺部(外縁部を含む)では、突起間よりも先に液体が落下する。過程(e)から過程(f)にかけて、突起間のメニスカスを形成する液体と先に落下した液体とのつながりが徐々に細くなり、さらに過程(g)に進むと、吐出される液体は吐出口内のメニスカスを形成する液体と完全に分離して、突起間にのみ液体が残留する。
【0029】
図5の(ar)〜(gr)を参照して、比較例のシミュレーション結果を、主に実施例との違いに着目して説明する。比較例は、過程(dr)でメニスカスが発生すると、過程(er)〜(fr)において、メニスカスを形成する液体がヒータ方向へ引っ張られ、吐出口の外縁部では突起間よりも先に液体が落下する点は、実施例と同様である。一方、実施例では吐出口の突起が平行形状であるのに対し、比較例では吐出口の突起がテーパ角度15°のテーパ形状である点が異なる。比較例では、吐出口の突起はテーパ形状であるので、突起間の距離は、吐出口プレート8の外表面側から発泡室5に近づくほど、大きくなる。すなわち、比較例では、メニスカスを形成する液体を保持する突起間の間隔が発泡室5に近づくほど広くなり、これにより保持力が低下する。図5の(g)および(gr)を参照して、比較例の突起間のメニスカスの上面は実施例と比べて下方に位置付けられることとなる。
【0030】
ここで、吐出される液滴の尾引の長さの検討をする。実施例と比較例とで液滴の吐出速度が等しい場合、吐出される液滴の先端部の位置は実施例と比較例とで同様であり、図中、吐出口プレート8の外表面から距離Lの位置にある。一方、吐出される液体が吐出口内のメニスカスを形成する液体と完全に分離する際の、吐出される液体の尾引(図中、TおよびTr)の終端(図中、EおよびEr)は、それぞれメニスカスの上面近傍に位置付けられる。すると、メニスカスの上面がより上方の吐出口プレート8の外表面近傍に位置付けられた実施例の方が、比較例と比較して、尾引の長さが短くなる(T<Tr)。
【0031】
したがって、本実施形態の記録ヘッドの吐出口によれば、吐出される液体の尾引の長さをより短くすることができ、尾引部分から生成されるサテライト・ミストを低減させる性能が高い。
【0032】
[突起付き吐出口の形状]
上記実施例においては、突起のテーパ角度Θ1を0°とし、外縁部のテーパ角度Θ2を5°または10°としたが、本実施形態の記録ヘッドに適用可能な突起付き吐出口の形状は、これに限定されない。
【0033】
本発明の記録ヘッドの突起付き吐出口の突起は、平行形状すなわち略0°のテーパ角度Θ1を有するものであり、詳細には0°以上10°以下のテーパ角度Θ1を有することが好ましい。
【0034】
また、本発明の記録ヘッドの突起付き吐出口の外縁部は、テーパ形状であり、詳細には、そのテーパ角度Θ2は、式Θ2>Θ1を満たすことが好ましい。
【0035】
上記突起および外縁部を有する突起付き吐出口を備える本発明の記録ヘッドによれば、記録開始時の吐出安定性およびサテライト・ミスト低減性能のバランスよい両立を可能とすることができる。
【0036】
(第1の実施形態の記録ヘッドの製造方法)
第1の実施形態の記録ヘッドの吐出口の形成方法を図6を参照して説明する。
【0037】
工程(a)で、まず基板34を提供し、その上に、インクを吐出するエネルギーを発生させる電気熱変換素子1を配置する。工程(b)で、電気熱変換素子1が配置された基板34上に感光性樹脂を塗布して、発泡室5および液流路7の型となる第1感光性樹脂層50を形成し、これを露光・現像することで、発泡室5および液流路7をパターニングする。次に、工程(c)で、発泡室5および液流路7のパターンを覆うように感光性樹脂を塗布して、図1における流路構成部4および吐出口プレート8を一体的に構成することとなる第2感光性樹脂層80を形成する。
【0038】
ここで、工程(d)で、第2感光性樹脂層に凹状の窪み(以下、凹部という)を形成するために、凹部が非露光部となるようにマスクMを介して第2感光性樹脂層を露光する。マスクを外し、工程(e)で、第2感光性樹脂層の樹脂の軟化点以上の温度で熱処理(Post Exposure Bake)を行う。これにより、前工程で露光された露光部の第2感光性樹脂層の樹脂は、硬化が進行して収縮する。また非露光部の第2感光性樹脂層の樹脂は、軟化点以上に加熱されて軟化し、前述の露光部の樹脂の硬化収縮に伴って、その収縮した体積相当分の凹部を形成する。
【0039】
工程(f)で、前工程で形成された凹部に、突起付き吐出口を露光・現像してパターニングすることで、凹部内に吐出口を得る。ここで、露光の際に、空気と凹部との界面において、光の屈折率の違いから、凹部の凹形状がレンズとなり、入射光が屈折する(図7参照)。屈折角は凹部の傾斜角によって決まる。図7に示すように、吐出口の外縁部は光が大きく屈折することでテーパが付き、突起の部分は屈折が小さいため、テーパが付かないか、ほとんど付かない。
【0040】
その後、工程(g)で、シリコンの結晶方位によるエッチング速度の違いを利用する異方性エッチング技術を用いて、基板34の裏側、すなわち発泡室・液流路形成面と逆側から、インク供給室10およびインク供給口3を形成する。最後に、工程(h)で、第1感光性樹脂層を溶剤によって溶かし出し、溶かされた部分が液流路7および発泡室5となる。このようにして、本実施形態の記録ヘッドが作製される。
【0041】
本実施形態の記録ヘッドの製造方法においては、吐出口2を形成する露光時のフォーカス位置が吐出口2の表面近傍であるため、寸法精度の高い吐出口形成が可能である。
【0042】
また、凹部の形状の径はマスクにより変更可能であり、凹部の深さは、露光量、熱処理の温度および時間により制御することが可能である。したがって形成する突起付き吐出口の寸法に合わせて、適宜調整することができる。
【0043】
(第2の実施形態)
次に、本発明の第2の実施形態を、図8を参照して説明する。なお、第2の実施形態は、第1の実施形態の記録ヘッドの吐出口の別の形成手段を示したもので、その他の点では第1の実施形態と同一の構成になっている。そのため以下では、吐出口の形成手段についてのみ説明することとし、重複した説明を省略する。
【0044】
(第2の実施形態の記録ヘッドの製造方法)
図8に示す第2の実施形態の記録ヘッドの吐出口形成方法においては、図6に示す第1の実施形態の記録ヘッドの吐出口形成方法と、工程(c)までは同様であり、その後に続く工程が異なるため、図8の工程(d)から説明する。
【0045】
第2の実施形態の記録ヘッドの吐出口形成方法では、突起付き吐出口の外縁部と突起の露光を2度に分けて別個に行う。まず、工程(d)で、第2感光性樹脂層80に対して1度目の露光を行い、吐出口の外縁部を形成する。露光時にフォーカス(結像位置)をヒータ側にずらすことで、第2感光性樹脂層の外表面側ではマスクパターンの輪郭よりも内側に光が入射する。すなわち、ヒータ側の結像位置ではマスクパターンと同じ形状が投影され、結像位置から離れるに従ってマスクパターンよりも内側に光が入射する。そのため、吐出口の側壁となる像は、第2感光性樹脂層の外表面側から結像位置に向かって広がり、これによりテーパ形状が形成されることとなる。このようにして1度目の露光で突起付き吐出口の外縁部のみをテーパ形状に形成する。その後、工程(e)で、2度目の露光を行い、突起を形成する。2度目の露光では、突起の部分にテーパが付かないように、フォーカスを第2感光性樹脂層の外表面側で結像するように調整して、露光する。そのようにして露光・現像を行って突起付き吐出口を形成した後の工程(f)、(g)は、第1の実施形態の工程(g)、(h)と同様である。
【0046】
以上のように、突起付き吐出口の外縁部をテーパ形状とし、突起を平行形状とすることで、記録開始時の吐出安定性とサテライト・ミスト低減性能の双方において優れた吐出口を備える記録ヘッドを実現することができる。
【0047】
(第3の実施形態)
図9は、第3の実施形態のインクジェット記録装置の1つの構成例を示す概略的な斜視図である。第3の実施形態のインクジェット記録装置は、本発明の記録ヘッドの1つの例として、第1の実施形態の記録ヘッドと同様の構成を有する記録ヘッドを用いるものである。そのため以下では重複した説明を省略する。
【0048】
インクタンク205〜208は、4色のインク(シアン、マゼンタ、イエロー、ブラック:C、M、Y、K)をそれぞれ収容しており、これら4色のインクを第1の実施形態の記録ヘッド201〜204に対して供給可能に構成されている。記録ヘッド201〜204は、4色のインクに対応して設けられ、インクタンク205〜208から供給されるインクを吐出できるように構成されている。記録画像の粒状感を低減するために、記録ヘッドに配列する各記録素子から吐出されるインク滴は固定量の小液滴に設定されている。
【0049】
搬送ローラ103は、補助ローラ104とともに記録媒体(記録用紙)107を挟持しながら回転して、記録媒体107を搬送するとともに、記録媒体107を保持する役割も担っている。キャリッジ106は、インクタンク205〜208および記録ヘッド201〜204を搭載可能であって、これら記録ヘッドおよびインクタンクを搭載しながらX方向沿って往復移動可能に構成されている。このキャリッジ106の往復移動中に記録ヘッドからインクが吐出され、これにより記録媒体に画像が記録される。記録ヘッド201〜204の回復動作時等の非記録動作時には、このキャリッジ106は図中の点線で示したホームポジション位置hに待機するように制御される。
【0050】
図1に示すホームポジションhに待機している記録ヘッド201〜204は、記録開始命令が入力されると、キャリッジ106と共に図中X方向に移動しつつ、インクを吐出して記録媒体107上に画像を記録する。この記録ヘッドの1回の移動(走査)によって、記録ヘッド201の吐出口の配列範囲に対応した幅を有する領域に対して記録が行われる。キャリッジ106の主走査方向(X方向)への1回の走査に伴う記録が終了すると、キャリッジ106はホームポジションhに戻り、再び図中のX方向へ走査しながら記録ヘッド201〜204で記録を行う。前回の記録走査が終了してから続く記録走査が始まる前には、搬送ローラ103が回転して、主走査方向と交差する副走査方向(Y方向)へと記録媒体が搬送される。このように記録ヘッドの記録走査と記録媒体の搬送とを繰り返すことにより記録媒体107の所定領域に対する画像の記録が完成する。記録ヘッド201〜204からインクを吐出する記録動作は、後述の制御手段による制御に基づいて行われる。
【0051】
なお、上記の例では、記録ヘッドが往路方向に走査する時にのみ記録動作を行う、いわゆる片方向記録を行う場合について説明した。しかし、記録ヘッドが往路方向への走査時と復路方向への走査時の両方において記録を行う、いわゆる双方向記録を行うものにも本発明は適用可能である。また、上記の例では、インクタンク205〜208と記録ヘッド201〜204とを分離可能にキャリッジ106に搭載する構成を示した。しかし、インクタンク205〜208と記録ヘッド201〜204とが一体となったカートリッジをキャリッジに搭載する形態を採用してもよい。さらに、1つの記録ヘッドから複数色のインクを吐出可能な複数色一体型の記録ヘッドをキャリッジに搭載する形態を採用してもよい。
【0052】
また、本実施形態のインクジェット記録装置は、記録ヘッドを主走査方向(X方向)に走査しながら記録を行う、いわゆるシリアル式のインクジェット記録装置として説明した。しかし、本発明のインクジェット装置で用いる記録ヘッドは、主走査方向への走査を行わずに記録を行う、いわゆるフルライン式の記録ヘッドであってもよい。このとき、用いる記録ヘッドは、記録媒体の幅方向に亘る長さを有する単一の記録ヘッドであってもよく、または複数の記録ヘッドの組み合わせであってもよい。
【0053】
(その他の実施形態)
上記実施形態の記録ヘッドは、液体の吐出方向と直交する断面において内側に凸となり、液体の吐出方向に関して平行形状である、対向する2つの突起と、液体の吐出方向に関してテーパ形状である外縁部とを有する吐出口を用いるものとして説明した。しかし、本発明の記録ヘッドに適用可能な吐出口は、これに限定されるものではない。突起は、吐出口から液体が吐出される際に、吐出口内に液体のメニスカスを形成することができるものであればよく、突起の数は3以上であってもよい。また、より良好な発明の効果を得るために、突起の位置は、吐出口の内周に関して均等に位置付けられていることが好ましい。例えば突起の数が偶数である場合は、突起の位置は、吐出口の内周に関して対称的な位置にあることが好ましい。
【符号の説明】
【0054】
1 電気熱変換素子
2 吐出口
4 流路構成部
5 発泡室
7 液流路
8 吐出口プレート
N,N’,N2 突起の先端部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エネルギー発生素子と、エネルギー発生素子からエネルギーを付与する液体を収容するための室と、室から外部に液体を吐出するための吐出口とを備え、エネルギー発生素子から室内の液体にエネルギーを付与することで、吐出口から液体を吐出する記録ヘッドであって、
前記吐出口は、
液体を吐出する方向と直交する断面において吐出口の内側に凸となり、液体を吐出する方向に関してテーパ角度Θ1を有し、吐出口から液体が吐出される際にそれらの間に液体のメニスカスを形成することができる、少なくとも2つの突起と、
前記少なくとも2つの突起とは異なる吐出口の部分であり、液体を吐出する方向に関してテーパ角度Θ2を有する外縁部と、
を有し、
ここで、テーパ角度Θ1およびΘ2は、式
0°≦Θ1≦10°、および
Θ2>Θ1
を満たすことを特徴とする記録ヘッド。
【請求項2】
請求項1に記載の記録ヘッドの製造方法であって、
エネルギー発生素子と、エネルギー発生素子を覆って室の形状にパターニングされた第1感光性樹脂層と、第1感光性樹脂層を覆う第2感光性樹脂層と、をこの順に配置した基板を提供する工程と、
非露光部を設けるためにマスクを介して第2感光性樹脂層を露光する工程と、
第2感光性樹脂層の樹脂の軟化点以上の温度で熱処理を行って、非露光部に凹部を形成する工程と、
凹部を露光および現像することで吐出口をパターニングする工程と、
第1感光性樹脂層を溶剤によって溶かし出して室を形成する工程と、
を含むことを特徴とする、記録ヘッドの製造方法。
【請求項3】
前記第2感光性樹脂層を露光する工程において、露光時の結像位置がエネルギー発生素子の近傍であることを特徴とする請求項2に記載の記録ヘッドの製造方法。
【請求項4】
請求項1に記載の記録ヘッドの製造方法であって、
エネルギー発生素子と、エネルギー発生素子を覆って室の形状にパターニングされた第1感光性樹脂層と、第1感光性樹脂層を覆う第2感光性樹脂層と、をこの順に配置した基板を提供する工程と、
第2感光性樹脂層を露光および現像して吐出口の外縁部を形成する工程と、
第2感光性樹脂層を露光および現像して吐出口の突起を形成する工程と、
第1感光性樹脂層を溶剤によって溶かし出して室を形成する工程と、
を含むことを特徴とする、記録ヘッドの製造方法。
【請求項5】
前記吐出口の突起を形成する工程において、露光時の結像位置が第2感光性樹脂層の外表面側であることを特徴とする請求項4に記載の記録ヘッドの製造方法。
【請求項6】
請求項1に記載の記録ヘッドを用いたインクジェット記録装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate


【公開番号】特開2013−914(P2013−914A)
【公開日】平成25年1月7日(2013.1.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−131155(P2011−131155)
【出願日】平成23年6月13日(2011.6.13)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】