記録液、液体カートリッジ、液体吐出装置及び液体吐出方法
【課題】 吐出安定性に良好にし、画像の品位を向上させる。
【解決手段】 対象物に記録を行うために液滴の状態で当該対象物に付着される記録液に、色素と、色素を溶解又は分散させる溶媒と、特定の2−エチル−2−ブチル−1,3−プロパンジオールのエチレンオキサイド付加体と特定のエチレンオキサイド/プロピレンオキサイド共重合体とをそれぞれ少なくとも1種類以上を含有させる。
【解決手段】 対象物に記録を行うために液滴の状態で当該対象物に付着される記録液に、色素と、色素を溶解又は分散させる溶媒と、特定の2−エチル−2−ブチル−1,3−プロパンジオールのエチレンオキサイド付加体と特定のエチレンオキサイド/プロピレンオキサイド共重合体とをそれぞれ少なくとも1種類以上を含有させる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、対象物に記録を行うために液滴の状態で対象物に付着される記録液、この記録液が収容される液体カートリッジ、この液体カートリッジに収容された記録液を吐出口より液滴の状態にして対象物に吐出する液体吐出装置及び液体吐出方法に関する。
【背景技術】
【0002】
液体吐出装置としては、例えば対象物となる記録紙に対して記録液のインクを吐出させて、画像や文字を記録するインクジェット方式のプリンタ装置がある。このインクジェット方式のプリンタ装置は、低ランニングコスト、装置の小型化、印刷画像のカラー化が容易という利点がある。
【0003】
インクを吐出するインクジェット方式としては、例えばディフレクション方式、キャビティ方式、サーモジェット方式、バブルジェット(登録商標)方式、サーマルインクジェット方式、スリットジェット方式、スパークジェット方式等がある。これらのインクジェット方式は、インクを微小な液滴の状態で吐出させるインク吐出ヘッドの吐出口、いわゆるノズルより吐出させて記録紙に着弾させ、画像や文字等の記録を行う。
【0004】
このようなインクジェット方式のプリンタ装置に用いるインクに対しては、インクを吐出させるノズルの目詰まりを防止することが求められている。ノズルの目詰まり発生は、例えばインク中に生ずる微小な泡が要因になっている。
【0005】
インクには、空気等の気体が所定量溶解するが、温度上昇に伴い気体の溶解度が低下したときに溶解しきれない気体が分離して微小な泡となる。例えばインクジェット方式のプリンタ装置では、インク吐出ヘッド内のインクの温度が上昇すると、液中に溶存していた気体が放出され、インク中に微小な泡が発生する。
【0006】
インク吐出ヘッドでは、このような微少な泡が存在すると、この泡がノズルに詰まりノズルよりインクが吐出されない不吐出となったり、インクの吐出方向がずれてしまうといった吐出不良が生じ、印刷された画像にカスレや白抜けが生じ、印刷画像の品質を低下させる虞がある。
【0007】
特に、サーマル方式及びバブルジェット方式のインクジェット方式は、インクに熱エネルギーを作用させてインクを微小な液滴にしてノズルより吐出させる記録方式である。具体的には、インクを熱エネルギー源のヒーターで急熱し、インクの膜沸騰で生成する気泡の圧力でインクを液滴の状態にして吐出する。このため、インクジェット方式では、ヒーター近傍に熱が蓄積され、インク吐出ヘッド内にあるインクの温度が非常に上昇し易く、インクの不吐出や吐出不良が生じやすい。
【0008】
このような問題を改善するために、例えば下記の特許文献1及び特許文献2には、水性顔料インクに低級アルコールのプロピレンオキサイド付加重合体を配合することが提案されている。しかしながら、これらの提案では、インク中に微少な泡が発生することを十分に抑制することは困難であり、更なる改良が求められている。
【0009】
また、下記の特許文献3には、例えばインク中に高級第2アルコールアルコキシレートのエチレンオキサイド付加物を含有させることが提案されている。このインクは、高周波数駆動時の吐出安定性、記録紙への浸透性および乾燥性に優れているとされている。しかしながら、このインクでは、高級第2アルコールアルコキシレートにエチレンオキサイドのみを付加させた化合物を含有させても、微小な泡によるノズルの目詰まりを改良することは困難である。具体的には、インク中にエチレンオキサイドだけを7モル以上付加させたような化合物を含有した場合、泡立ちが激しく、ノズルの目詰まりも著しくなる。
【0010】
したがって、インクジェット方式に用いるインクには、泡立ちを抑え、ノズルの目詰まりを起こさないといった要求の他に、コピー用紙やレポート用紙などの普通紙、いわゆる上質紙に対して印刷を行った場合、光学濃度の低下、境界滲み、混色ベタ斑等の画像の品質低下が発生しないようにするということも要求されている。
【0011】
このような要求に対しては、例えば下記の特許文献4に、水不溶性色素をスルホン酸(塩)基を有する高分子及び/又はリン酸(塩)基を有する高分子で処理したものを色素として使用し、更にインクにカルボン酸(塩)基を有する高分子を添加することが提案されている。
【0012】
また、下記の特許文献5には、インクにD−マンヌロン酸とL−グルロン酸の比が0.5〜1.2の範囲にあるアルギン酸を配合することが提案されている。
【0013】
更に、特許文献6には、インクにフッ素系またはシリコン系から選ばれる少なくとも1種以上の界面活性剤とアルギン酸塩とを配合することが提案されている。しかしながら、特許文献5及び特許文献6に記載されている提案でも、ノズルの目詰まり及び画像の品質低下を防止する満足な結果を得ることは困難であり、更なる改良が求められている。
【0014】
また、インク中に発生する微少な泡による問題は、記録紙に対して高速印刷を行うことが可能なプリンタ装置、すなわち記録紙の幅と略同じ範囲をインクの吐出範囲としたライン型のプリンタ装置において、より顕著に発生する(例えば、特許文献7を参照。)。
【0015】
ライン型のプリンタ装置は、記録紙の送り方向の略直交方向、すなわち記録紙の幅方向に1列以上のノズルが並設され、記録紙の送り方向と略直交方向に吐出手段を走査しながら印刷を行うシリアル型のプリンタ装置等と異なる。ライン型のプリンタ装置は、例えば記録紙の送り方向を横切るようにインクタンクよりインクを導くインク流路が形成され、インク流路の両側もしくは片側にノズルを有するインク吐出ヘッドが複数配置された構造からなる。ライン型のプリンタ装置では、ノズルが多くなる分、ノズル毎に設けられたヒーターの数も多くなって、微少な泡が発生し易く、且つインクタンクから吐出手段までの間をつなぐインク流路の距離が長くて構造が複雑になるため発生した微少な泡を取り除き難くなっており、微少な泡による不具合が顕著に発生する。
【0016】
ライン型のプリンタ装置においては、ノズルが複数並設されたノズルライン毎のインクの吐出周期が極めて短いため、記録紙への浸透性に優れたインクを用いる必要がある。ライン型のプリンタ装置では、記録紙への浸透性に優れたインクを普通紙等に用いた場合、インクが普通紙の深さ方向、すなわち厚み方向に染込み過ぎることから光学濃度が低下する虞がある。
【0017】
また、ライン型のプリンタ装置では、例えば異なる色のインクを吐出して記録紙に印刷する、いわゆるカラー印刷を行う場合、記録紙に着弾したインクが十分に紙の内部へ浸透しないうちに次色の液滴が次々と着弾されることから各色間に境界滲みや混色ベタ斑が発生する虞がある。
【0018】
【特許文献1】特開2001−2964号公報
【特許文献2】特開平10−46075号公報
【特許文献3】特開平7−70491号公報
【特許文献4】特開2000−154342号公報
【特許文献5】特開平8−290656号公報
【特許文献6】特開平8−193177号公報
【特許文献7】特開2002−36522号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0019】
本発明は、泡立ちを抑え、吐出安定性に優れ、光学濃度が高く、境界滲みや混色ベタ斑の無い、高品位な印刷が可能な記録液、この記録液が収容される液体カートリッジ、この液体カートリッジに収容された記録液を用いて高品位な印刷を行える液体吐出装置及び液体吐出方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0020】
本発明に係る記録液は、対象物に記録を行うために液滴の状態で当該対象物に付着され、色素と、色素を溶解又は分散させる溶媒と、下記の化学式1及び化学式2に示す化合物のそれぞれ少なくとも1種類以上を含有することを特徴とする。
【0021】
【化1】
【0022】
【化2】
【0023】
また、本発明に係る液体カートリッジは、液体容器に収容された記録液を液滴の状態で吐出し、対象物に付着させることで記録を行う液体吐出装置に設けられる液体吐出ヘッドに装着され、液体吐出ヘッドに対し、記録液の供給源となり、記録液には、色素と、色素を溶解又は分散させる溶媒と、上記の化学式1及び化学式2に示す化合物のそれぞれ少なくとも1種類以上が含有されていることを特徴とする。
【0024】
また、本発明に係る液体吐出装置は、装置本体と、装置本体に設けられ、記録液を貯留する液室と、液室に上記記録液を供給する供給部と、液室に1つ以上設けられ、液室に貯留された記録液を押圧する圧力発生素子と、圧力発生素子により押圧された記録液を各液室から液滴の状態で対象物の主面に向かって吐出させる吐出口とを有する液体吐出ヘッドと、液体吐出ヘッドに接続され、供給部に対して記録液の供給源となる液体カートリッジとを備え、記録液には、色素と、色素を溶解又は分散させる溶媒と、上記の化学式1及び化学式2に示す化合物のそれぞれ少なくとも1種類以上が含有されていることを特徴とする。
【0025】
また、本発明に係る液体吐出方法は、装置本体と、装置本体に設けられ、記録液を貯留する液室と、液室に上記記録液を供給する供給部と、液室に1つ以上設けられ、液室に貯留された記録液を押圧する圧力発生素子と、圧力発生素子により押圧された記録液を各液室から液滴の状態で対象物の主面に向かって吐出させる吐出口とを有する液体吐出ヘッドと、液体吐出ヘッドに接続され、供給部に対して記録液の供給源となる液体カートリッジとを備える液体吐出装置によるものであり、色素と、色素を溶解または分散させる溶媒と、上記の化学式1及び化学式2に示す化合物のそれぞれ少なくとも1種類以上を含有する上記記録液を吐出することを特徴とする。
【発明の効果】
【0026】
本発明によれば、記録液中に化学式1に示す2−エチル−2−ブチル−1,3−プロパンジオールのエチレンオキサイド付加体及び化学式2に示すエチレンオキサイド/プロピレンオキサイド共重合体のそれぞれ少なくとも1種類以上を含有させることにより、記録液中に微少な泡が生じることを抑え、且つ対象物に対する濡れ性を向上させることができる。
【0027】
これにより、本発明によれば、記録液に微少な泡が生じることを抑制できることから、微少な泡による記録液の不吐出や吐出方向が曲がったり等といった吐出不良を防止でき、白抜け等のない高品位な画像を記録することができる。また、本発明では、濡れ性を向上させることができることにより、文字や画像などを多色印刷しても光学濃度が高く、境界にじみや混色ベタ斑のない、高品位な画像を記録することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0028】
以下、本発明が適用されたインク、液体カートリッジ、液体吐出装置及び液体吐出方法について、図面を参照して説明する。図1に示すインクジェットプリンタ装置(以下、プリンタ装置と記す。)1は、所定の方向に走行する記録紙Pに対してインク等を吐出して画像や文字を印刷するものである。また、このプリンタ装置1は、記録紙Pの印刷幅に合わせて、記録紙Pの幅方向、すなわち図1中矢印W方向にインク吐出口(ノズル)を略ライン状に並設した、いわゆるライン型のプリンタ装置である。
【0029】
このプリンタ装置1は、図2及び図3に示すように、記録紙Pに対して画像や文字等を記録する記録液であるインク2を吐出するインクジェットプリンタヘッドカートリッジ(以下、ヘッドカートリッジと記す。)3と、このヘッドカートリッジ3を装着する装置本体4とを備える。プリンタ装置1は、ヘッドカートリッジ3が装置本体4に対して着脱可能であり、更に、ヘッドカートリッジ3に対してインク供給源となり、インク2を収容する液体カートリッジであるインクタンク5y,5m,5c,5kが着脱可能となっている。このプリンタ装置1では、イエローのインクタンク5y、マゼンタのインクタンク5m、シアンのインクタンク5c、ブラックのインクタンク5kが使用可能となっており、また、装置本体4に対して着脱可能なヘッドカートリッジ3と、ヘッドカートリッジ3に対して着脱可能なインクタンク5y,5m,5c,5kとを消耗品として交換可能になっている。
【0030】
このようなプリンタ装置1では、記録紙Pを積層して収納するトレイ65aを装置本体4の前面底面側に設けられたトレイ装着部6に装着することにより、トレイ65aに収納されている記録紙Pがトレイ装着部6の給紙口65から装置本体4内に送り込まれ、装置本体4内を走行する。プリンタ装置1では、装置本体4内を走行する記録紙Pに対して、パーソナルコンピュータ等の情報処理装置より入力された文字データや画像データに応じた印刷データが文字や画像として印刷し、装置本体4の前面側の排紙口66に送り出す。
【0031】
印刷するときの記録液となるインク2には、色素と、この色素を溶解又は分散させる溶媒と、後述する化学式1に示す2−エチル−2−ブチル−1,3−プロパンジオールのエチレンオキサイド付加体及び化学式2に示すエチレンオキサイド/プロピレンオキサイド共重合体のそれぞれ少なくとも1種類以上の界面活性剤が含有されている。
【0032】
色素としては、従来公知の染料、顔料、着色ポリマー微粒子等を単独で、又は混合して用いることができるが、特に水溶性染料を用いることが好ましい。水溶性染料としては、酸性染料、直接染料、塩基性染料、反応性染料、食用染料のいずれを用いてもよいが、水への溶解度、発色性や堅牢性などの観点から適宜選択することが好ましい。
【0033】
具体的に、イエロー系の水溶性染料としては、例えばC.I.アシッドイエロー17、同23、同42、同44、同79、同142、C.I.フードイエロー3、同4、C.I.ダイレクトイエロー1、同12、同24、同26、同33、同44、同50、同86 、同120、同132、同142、同144、C.I.ダイレクトオレンジ26、同29、同62、同102、C.I.ベーシックイエロー1、同2、同11、同13、同14、同15、同19、同21、同23、同24、同25、同28、同29、同32、同36、同40、同41、同45、同49、同51、同53、同63、同64、同65、同67、同70、同73、同77、同87、同91、C.I.リアクティブイエロー1、同5、同11、同13、同14、同20、同21、同22、同25、同40、同47、同51、同55、同65、同67等を用いることができる。
【0034】
マゼンダ系の水溶性染料としては、例えばC.I.アシッドレッド1、同8、同13、同14、同18、同26、同27、同35、同37、同42、同52、同82、同87、同89、同92、同97、同106、同111、同114、同115、同134、同186、同249、同254、同289、C.I.フードレッド7、同9、同14、C.I.ダイレクトレッド1、同4、同9、同13、同17、同20、同28、同31、同39、同80、同81、同83、同89、同225、同227、C.I.ベーシックレッド2、同12、同13、同14、同15、同18、同22、同23、同24、同27、同29、同35、同36、同38、同39、同46、同49、同51、同52、同54、同59、同68、同69、同70、同73、同78、同82、同102、同104、同109、同112、C.I.リアクティブレッド1、同14、同17、同25、同26、同32、同37、同44、同46、同55、同60、同66、同74、同79、同96、同97等を用いることができる。
【0035】
シアン系の水溶性染料としては、例えばC.I.アシッドブルー9、同29、同45、同92、同249、C.I.ダイレクトブルー1、同2、同6、同15、同22、同25、同71、同76、同79、同86、同87、同90、同98、同163、同165、同199、同202、C.I.ベーシックブルー1、同3、同5、同7、同9、同21、同22、同26、同35、同41、同45、同47、同54、同62、同65、同66、同67、同69、同75、同77、同78、同89、同92、同93、同105、同117、同120、同122、同124、同129、同137、同141、同147、同155、C.I.リアクティブブルー1、同2、同7、同14、同15、同23、同32、同35、同38、同41、同63、同80、同95等を用いることができる。
【0036】
ブラック系の水溶性染料としては、例えばC.I.アシッドブラック1、同2、同7、同24、同26、同94、C.I.フードブラック1、同2、C.I.ダイレクトブラック19、同22、同32、同38、同51、同56、同71、同74、同75、同77、同154、同168、同171、C.I.ベーシックブラック2、同8、C.I.リアクティブブラック3、同4、同7、同11、同12、同17等を用いることができる。
【0037】
色素の含有量は、インク2全質量に対して1質量%〜10質量%の範囲であり、より好ましくは3質量%〜5質量%の範囲である。この色素の含有量は、インク2の粘度、乾燥性、吐出安定性、発色性や印画物の保存物性などを考慮して決定する。
【0038】
溶媒としては、主に水を使用するが、インク2に所望の物性を与え、色素の水への溶解性や分散性を改善し、且つインク2の乾燥を防止する等の目的で従来公知の有機溶媒を用いることができる。
【0039】
具体的に、有機溶剤としては、例えばエタノール、2−プロパノール等の低級アルコール類や、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、1,5−ペンタンジオール、1,6ヘキサンジオール、グリセロール、1,2,6−ヘキサントリオール、1,2,4−ブタントリオール、ペトリオール等の多価アルコール類や、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、テトラエチレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル等の多価アルコールアルキルエーテル類や、エチレングリコールモノフェニルエーテル、エチレングリコールモノベンジルエーテル等の多価アルコールアリルエーテル類や、N−メチル−2−ピロリドン、N−ヒドロキシエチル−ピロリドン、1,3−ジメチルイミダゾイリジノン、ε−カプロラクタム、γ−ブチロラクトン等の含窒素複素環化合物や、ホルムアミド、N−メチルホルムアミド、N,N−ジメチルホルムアミド等のアミド類や、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、モノエチルアミン、ジエチルアミン、トリエチルアミン等のアミン類や、ジメチルスルホキシド、スルホラン、チオジエタノール等の含硫黄化合物類等を挙げることができる。
【0040】
有機溶剤の含有量は、インク2全質量に対して5質量%〜50質量%の範囲であり、より好ましくは10質量%〜35質量%の範囲である。有機溶剤の含有量は、インク2の粘度、乾燥性や吐出安定性などを考慮して決定される。
【0041】
上述した色素、有機溶剤の他にインク2には、下記の化学式(1)に示される2−エチル−2−ブチル−1,3−プロパンジオールのエチレンオキサイド付加体(以下、EBPD−EOとする)、及び下記の化学式(2)に示されるエチレンオキサイド/プロピレンオキサイド共重合体(以下、EOPOEOとする)のそれぞれ少なくとも1種類以上の界面活性剤が含有されている。
【0042】
【化3】
【0043】
【化4】
【0044】
このEBPD−EO及びEOPOEOは、共にインク2中に微小な泡の発生を抑制でき、インク2の濡れ性を良好することができる。特に、EBPRD−EOは、インク2の濡れ性を良好にすることができ、EOPOEOは、インク2中に微小な泡が発生することを抑制できる。
【0045】
具体的に、化学式(1)で表されるEBPD−EOは、EBPD−EO中のエチレンオキサイド(以下、EOとする)の合計付加モル数(m+n)は1以上、10以下の範囲であり、より好ましくは2以上、4以下の範囲である。EBPD−EOは、各種金属やプラスチック部材表面への濡れ性に優れるため、インク2中の微小な泡が後述するインクカートリッジ3内の内面に付着してしまうことを回避できる。また、このEBPD−EOは、記録紙Pに対する濡れ性も優れているため、記録紙Pにインク2が着弾して画像や文字等を記録したとき、即ち印刷したときに得られる画像の光学濃度が高くなり、境界にじみや混色ベタ斑の発生を抑制でき、高品位に印刷された画像を形成することができる。
【0046】
EOの合計付加モル数(m+n)が1未満の場合には、EBPD−EOの水に対する溶解性が劣り、インク2中で相分離し易く吐出するインク2の物性が損なわれてしまう。一方、EOの合計付加モル数(m+n)が10より大きい場合には、逆にEBPD−EOの親水性が高くなり過ぎるため、界面活性剤の機能が低下してインク2中に微小な泡が発生を防止できないばかりか、インク2の粘度を増加させてしまう。
【0047】
したがって、インク2では、EBPD−EOPOEOの合計付加モル数(m+n)を1以上、10以下にすることによって、インク2中に泡が発生することを抑制し、インク2の濡れ性を良好にして、画像の光学濃度が高い、境界にじみや混色ベタ斑が抑制された高品位な画像を形成することができる。
【0048】
化学式(2)で表されるエチレンオキサイド/プロピレンオキサイド共重合体(以下、EOPOEOとする)は、エチレンオキサイド(EO)の合計ユニット数(x+z)は3以上、12以下の範囲であり、より好ましくは3以上、10以下の範囲であり、EOPOEOの分子中のEOの合計ユニットの含有量が20質量%以上、40質量%以下の範囲である。また、EOPOEOは、プロピレンオキサイド(以下、POとする)のユニット数(y)が8以上、21以下の範囲であり、より好ましくは8以上、16以下の範囲である。即ち、EOPOEOのうちPOのユニットの全分子量は、POの1つのユニットの分子量が58であることあることから、464以上、1218以下である。
【0049】
EOPOEOは、インク2中の微小な泡の発生を抑制することができる。これにより、インク2では、微小な泡がノズル52aに詰まりインク2が吐出されなかったり、インク2の吐出方向がずれたりといった吐出不良が防止され優れた吐出安定性が得られる。
【0050】
EOの合計ユニット数(x+z)が3より小さい場合やEOの合計ユニットの含有量が20質量%よりも少ない場合には、EOPOEOの水に対する溶解性が劣り、暖機状態においてインク2が白濁してしまい、インク2の物性が損なわれてしまう。
【0051】
一方、EOの合計ユニット数(x+z)が10より大きい場合やEOの合計ユニットの含有量が40質量%よりも多い場合には、EOPOEOの親水性が高くなり過ぎるため、界面活性剤の機能が低下してインク2中に微小な泡が発生することを抑制することが困難となる。
【0052】
また、EOPOEOにおいて、POのユニット数(y)が8より小さい場合、即ちPOのユニットの全分子量が464よりも小さい場合には、EOPOEOの親水性が高くなり、水に溶解しやすくなるが、界面活性能が低下し、微小な泡の発生を抑制することができなくなる。
【0053】
一方、POのユニット数(y)が21より大きい場合、即ちPOのユニットの全分子量が1218よりも大きい場合には、EOPOEOが疎水性となり、常温でも溶けにくくなり、暖機状態においてインク2が白濁し、インク2の物性が低下してしまう。
【0054】
したがって、EOPOEOでは、EOの合計ユニット数(x+z)は3以上、12以下の範囲であり、EOPOEOの分子中のEOの合計ユニットの含有量が20質量%以上、40質量%以下の範囲とし、POのユニット数(y)が8以上、21以下の範囲、即ちPOのユニットの全分子量を464以上、1218以下とすることによって、インク2の物性を損なうことなくインク2中に微小な泡の発生を抑えることができる。これにより、インク2では、微小な泡によるノズル52aの目詰まりが防止され、吐出安定性が向上する。
【0055】
ここで、EOPOEO中におけるEOの含有量(EOwt%)と、POの全分子量(POMw)との関係を図4に示す。図4中において、太枠が囲んだ領域がEO含有量が20質量%以上、40質量%の範囲であり、POのユニットの全分子量が464以上、1218以下である。インク2では、この太枠内の領域に入るEO含有量とPOのユニットの分子量との関係を満たすEOPOEOが含有されている場合、上述したようにインク2中に微小な泡が発生することが抑えられ、泡によるノズル52aの目詰まりが防止され、吐出安定性が良好となり、インク2の物性が損なわれることも防止される。また、この太枠内の領域に入るEO含有量とPOのユニットの分子量との関係を満たすEOPOEOを用いた場合には、インク2の濡れ性が良好となるため、微小な泡が発生した場合であってもインク吐出ヘッド内に留まることなく、排出することができ、また記録紙Pに対する濡れ性も良好となるため、印画品位を向上させることができる。
【0056】
具体的に、図4中のプロット1(図4中P1)からプロット10(図4中P7)は、以下の表1に示すように、EOPOEO中におけるEOの含有量が20質量%以上、40質量%以上の範囲のものであり、POのユニットの全分子量が464以上、1218以下である。
【0057】
【表1】
【0058】
プロット1からプロット9の各プロットで示すEOPOEOを用いた場合には、吐出安定性が良好となり、インク2の濡れ性が良好である。
【0059】
一方、プロット11に示すEOPOEOを用いた場合には、EOPOEO中のEOの含有量が18.9質量%であり、エチレンオキサイドの含有量が少ないため、上述したようにEOPOEOの水に対する溶解性が低下し、インク2中で相分離し易く、インク2が白濁してしまい吐出するインク2の物性が損なわれてしまう。
【0060】
プロット12に示すEOPOEOを用いた場合には、EOPOEO中におけるPOのユニットの全分子量が1334であり、POのユニットの全分子量が1218よりも大きいため、上述したようにEOPOEOが疎水性となり、常温でも溶けにくくなり、インク2が白濁したりしてインク2の物性が損なわれてしまう。
【0061】
プロット13に示すEOPOEOを用いた場合には、EOPOEO中におけるPOのユニットの全分子量が406であり、POのユニットの全分子量が464よりも小さいため、上述したようにEOPOEOの親水性が高くなり、水に溶解しやすくなるため、界面活性能が低下し、微小な泡が発生してしまう。
【0062】
プロット14及びプロット15に示すEOPOEOを用いた場合には、EOPOEO中のEOの含有量が41.2質量%及び43.1質量%であり、EOの含有量が多いため、上述したようにEOPOEOの親水性が高くなり過ぎ、界面活性剤の機能が低下してインク2中に微小な泡が発生し、更にインク2の粘度を増加してしまう。
【0063】
これらのことから、EOPOEOでは、EOの合計ユニット数(x+z)を3以上、12以下の範囲とし、EOPOEOの分子中のEOの合計ユニットの含有量を20質量%以上、40質量%以下の範囲とし、POのユニット数(y)を8以上、21以下の範囲、即ちPOのユニットの全分子量を464以上、1218以下の範囲とすることによって、インク2の物性を低下させることなく、微小な泡の発生を抑制できる。
【0064】
また、上述した構成のEOPOEO中におけるEOの合計ユニット(x+z)と、POのユニット(y)との比は、(x+z)/yとして、具体的に3〜6/7,3〜7/8,3〜7/9,4〜8/10,4〜9/11,4〜10/12,5〜11/13,5〜12/14,5〜12/15,6〜12/16,6〜12/17,6〜12/18,7〜12/19,7〜12/20,7〜12/21などである。これら各種EOPOEOは、概ね分子量1700以下であり、より好ましくは1300以下であり、1700を超えるような高分子量であるとインクの粘度が増加するため好ましくない。
【0065】
上述したEBPD−EOおよびEOPOEOの添加量は、インク2全質量に対して各々0.05質量%〜5質量%の範囲であり、より好ましくは0.1質量%〜2質量%の範囲である。各化合物の添加量が0.05質量%よりも小さい場合には、微小な泡の発生を抑えたり、インク2の白濁を防止したりすることができず、化学式(1)及び化学式(2)を含有させた際の効果が得られなくなってしまう。一方、各化合物の添加量が5質量%よりも大きい場合には、インク2が増粘してしまう。
【0066】
また、EBPD−EOと、EOPOEOとの合わせた両化合物合計では、インク2全質量に対して0.1質量%〜5質量%、より好ましくは0.2質量%〜3質量%である。両化合物の添加比率としては、10:90〜90:10、より好ましくは30:70〜70:30である。
【0067】
以上のことから、インク2では、化学式(1)に示すEBPD−EOと、化学式(2)に示すEOPOEOとをそれぞれ少なくとも1種類以上含有されていることにより、インク2の不吐出や吐出不良が防止され、所定の方向に安定してインク2が吐出されるため、白抜き等のない高品位な画像を記録することができる。また、インク2では、化学式(1)及び化学式(2)に示す化合物がそれぞれ少なくとも1種類以上含有されていることによって、各種金属やプラスチック部材、記録紙Pに対する濡れ性が向上し、多色印刷を行っても光学濃度が高く、境界にじみや混色ベタ斑のない高品位な画像を記録することができる。したがって、インク2では、吐出安定性が良好であり、且つ光学濃度が高く、境界にじみや混色ベタ斑のない記録ができる。
【0068】
また、上述した構成からなるインク2は、25℃雰囲気中において、20Hzでの動的表面張力(γ20)、即ち50msec毎に気泡を発生させたときの動的表面張力が30mN/m以上であり、1Hzでの動的表面張力(γ1)、即ち1sec毎に気泡を発生させたときの動的表面張力が38mN/m以下である。このような動的表面張力を有するインク2では、光学濃度がさらに高くなり、境界にじみ及び混色ベタ斑をさらに抑制される。インク2では、20Hzでの動的表面張力(γ20)が30mN/mよりも小さい場合、濡れ性が高くなりすぎ、記録紙Pに着弾した時に記録紙Pの厚み方向に染み込みやすくなり、光学濃度が低下してしまう。また、インク2では、1Hzでの動的表面張力(γ1)が、38mN/mよりも大きい場合、記録紙Pに対して面方向に滲みやすく、境界にじみや混色ベタ斑等が悪くなってしまう。したがって、インク2では、25℃雰囲気中において、20Hzでの動的表面張力(γ20)を30mN/m以上にし、1Hzでの動的表面張力(γ1)を38mN/m以下とすることによって、記録紙Pの厚み方向及び面方向へ適度な染み込みとなり、光学濃度が高く、境界にじみや混色ベタ斑等ない記録することができる。
【0069】
このインク2の動的表面張力の調整は、主に上述したEBPD−EO及びEOPOEOの各々の種類やそれらの添加量で適宜調節することができる。
【0070】
また、上述した化学式(1)及び化学式(2)に示す化合物の他に、この化学式(1)及び化学式(2)によって得られる作用効果を阻害しない範囲で、従来公知の界面活性剤を添加することができる。具体的に、従来公知の界面活性剤としては、例えば多環フェノールエトキシレート等の特殊フェノール型非イオン界面活性剤や、グリセライトのエチレンオキサイド付加物、ポリエチレングリコールオレート、ポリオキシアルキレンタロエート、ソルビタンラウリルエステル、ソルビタンオレイルエステル、ポリオキシエチレンソルビタンオレイルエステル等のエステル型非イオン界面活性剤や、ヤシ油脂肪酸ジエタノールアマイド、ポリオキシエチレンヤシ油脂肪酸モノエタノールアマイド等のアマイド型非イオン界面活性剤や、アセチレングリコール及びそのエチレンオキサイド付加物や、アルコールサルフェートナトリウム塩、高級アルコールサルフェートナトリウム塩、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル硫酸エステルアンモニウム塩、アルキルベンゼンスルフォン酸ナトリウム塩等の陰イオン界面活性剤や、モノ長鎖アルキルカチオン、ジ長鎖アルキルカチオン、アルキルアミンオキサイド等の陽イオン界面活性剤や、ラウリルアミドプロピル酢酸ベタイン、ラウリルアミノ酢酸ベタイン等の両性界面活性剤等を挙げることができ、これら従来公知の界面活性剤を単独或いは混合して用いることができる。
【0071】
上述した従来公知の界面活性剤は、インク2中に含有された上述のEBPD−EOおよびEOPOEOの全体に対して30質量%以下、より好ましくは20質量%以下で添加させる。従来公知の界面活性剤が30質量%を超えて添加されると、光学濃度が低下し、境界にじみや混色ベタ斑が生じるからである。
【0072】
なお、動的表面張力の測定は、例えば特開昭63−31237号公報に記載されているような従来公知の動的表面張力の測定原理に基づき作製された動的表面張力計等により測定できる。具体的には、例えば最大泡圧力法で動的表面張を測定可能なKruss社製のバブルプレッシャー動的表面張力計(商品名:BP−2)や、LAUDA社製の動的表面張測定装置(商品名:MPT2)等を挙げることができる。
【0073】
インク2では、上述したEBPD−EOを含有し、更に25℃雰囲気中において、20Hzでの動的表面張力(γ20)を30mN/m以上にし、1Hzでの動的表面張力(γ1)を38mN/m以下とすることによって、上述した−エチル−2−ブチル−1,3−プロパンジオールのエチレンオキサイド付加体と、動的表面張力とのそれぞれの作用効果が相まって、さらに記録紙Pへの浸透速度、換言すると記録紙Pにおけるパルプ繊維に沿った記録紙Pの面方向および厚み方向へのインク2の着弾位置からの広がりが均一となる。
【0074】
なお、インク2には、上述した色素、溶媒、界面活性剤となるEBPD−EOおよびEOPOEO、従来公知の界面活性剤等の他に、例えば粘度調整剤、pH調整剤、防腐剤、防錆剤、防かび剤等を添加させることも可能である。
【0075】
具体的に、粘度調整剤、pH調整剤等としては、例えばゼラチン、カゼイン等のタンパク質、アラビアゴム等の天然ゴム、メチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシメチルセルロース等のセルロース誘導体、リグニンスルホン酸塩、セラック等の天然高分子、ポリアクリル酸塩、スチレン−アクリル酸共重合塩、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン等が挙げられ、これらを単独或いは混合して用いることができる。また、防腐剤、防錆剤、防かび剤等としては、例えば安息香酸、ジクロロフェン、ヘキサクロロフェン、ソルビン酸、p−ヒドロキシ安息香酸エステル、エチレンジアミン四酢酸(EDTA)等が挙げられ、これらを単独或いは混合して用いることができる。
【0076】
以上のような構成のインク2を調製する際は、上述した色素と、溶媒と、EBPD−EOおよびEOPOEOのそれぞれ少なくとも1種類以上を所定の配合比で混合し、常温又は40℃〜80℃に加熱ながらスクリュー等で攪拌、分散させることで調製できる。
【0077】
そして、以上で説明したインク2は、図2及び図3に示すように、イエローインクがインクタンク5yに収容され、マゼンタインクがインクタンク5mに収容され、シアンインクがインクタンク5cに収容され、ブラックインクがインクタンク5kに収容される。
【0078】
次に、上記したプリンタ装置1を構成する装置本体2に対して着脱可能なヘッドカートリッジ3と、このヘッドカートリッジ3に着脱可能にされたインクタンク5y,5m,5c,5kとについて図面を参照して説明する。
【0079】
記録紙Pに印刷を行うヘッドカートリッジ3は、図1に示すように、装置本体4の上面側から、すなわち図1中矢印A方向から装着され、記録紙Pに対してインク2を吐出して印刷を行う。
【0080】
ヘッドカートリッジ3は、上記したインク2を、例えば電気熱変換式又は電気機械変換式等を用いた圧力発生手段が発生した圧力により微細に粒子化して吐出し、記録紙P等といった対象物の主面に液滴状態にしたインク2を吹き付ける。具体的に、ヘッドカートリッジ3は、図2及び図3に示すように、カートリッジ本体21を有し、このカートリッジ本体21にインク2が充填された容器であるインクタンク5y,5m,5c,5kが装着される。なお、以下では、インクタンク5y,5m,5c,5kを単にインクタンク5ともいう。
【0081】
ヘッドカートリッジ3に着脱可能なインクタンク5は、強度や耐インク性を有するポリプロピレン等の樹脂材料等を射出成形することにより成形されるタンク本体11を有している。このタンク本体11は、長手方向を使用する記録紙Pの幅方向の寸法と略同じ寸法となす略矩形状に形成され、内部に貯留するインク容量を最大限に増やす構成となっている。
【0082】
具体的に、インクタンク5を構成するタンク本体11には、インク2を収容するインク収容部12と、インク収容部12からヘッドカートリッジ3のカートリッジ本体21にインク2を供給するインク供給部13と、外部よりインク収容部12内に空気を取り込む外部連通孔14と、外部連通孔14より取り込まれた空気をインク収容部12内に導入する空気導入路15と、外部連通孔14と空気導入路15との間でインク2を一時的に貯留する貯留部16と、インクタンク5をカートリッジ本体21に係止するための係止突部17及び係合段部18とが設けられている。
【0083】
インク収容部12は、気密性の高い材料によりインク2を収容するための空間を形成している。インク収容部12は、略矩形に形成され、長手方向の寸法が使用する記録紙Pの幅方向、すなわち図2中矢印W方向で略同じ寸法となるように形成されている。
【0084】
インク供給部13は、インク収容部12の下側略中央部に設けられている。このインク供給部13は、インク収容部12と連通した略突形状のノズルであり、このノズルの先端が後述するヘッドカートリッジ3の接続部26に嵌合されることにより、インクタンク5のタンク本体11とヘッドカートリッジ3のカートリッジ本体21を接続する。
【0085】
インク供給部13は、図5(A)及び図5(B)に示すように、インクタンク5の底面13aにインク2を供給する供給口13bが設けられ、この底面13aに、供給口13bを開閉する弁13cと、弁13cを供給口13bの閉塞する方向に付勢するコイルバネ13dと、弁13cを開閉する開閉ピン13eとを備えている。ヘッドカートリッジ3の接続部26に接続されるインク2を供給する供給口13bは、図5(A)に示すように、インクタンク5がヘッドカートリッジ3のカートリッジ本体21に装着される前の段階において、付勢部材であるコイルバネ13dの付勢力により弁13cが供給口13bを閉じる方向に付勢され閉塞されている。そして、インクタンク5がカートリッジ本体21に装着されると、図5(B)に示すように、開閉ピン13eがヘッドカートリッジ3を構成するカートリッジ本体21の接続部26の上部によりコイルバネ13dの付勢方向とは反対の方向に押し上げられる。これにより、押し上げられた開閉ピン13eは、コイルバネ13dの付勢力に抗して弁13cを押し上げて供給口13bを開放する。このようにして、インクタンク5のインク供給部13は、ヘッドカートリッジ3の接続部26に接続され、インク収容部12とインク溜め部31とを連通し、インク溜め部31へのインク2の供給が可能な状態となる。
【0086】
また、インクタンク5をヘッドカートリッジ3側の接続部26から引き抜くとき、すなわちインクタンク5をヘッドカートリッジ3の装着部22より取り外すときは、弁13cの開閉ピン13eによる押し上げ状態が解除され、弁13cがコイルバネ13dの付勢方向に移動して供給口13bを閉塞する。これにより、インクタンク5をカートリッジ本体21に装着する直前にインク供給部13の先端部が下方を向いている状態であってもインク収容部12内のインク2が漏れることを防止することができる。また、インクタンク5をカートリッジ本体21から引き抜いたときには、直ちに弁13cが供給口13bを閉塞するので、インク供給部13の先端からインク2が漏れることを防止できる。
【0087】
外部連通孔14は、図3に示すように、インクタンク5外部からインク収容部12に空気を取り込む通気口であり、ヘッドカートリッジ3の装着部22に装着されたときも、外部に臨み外気を取り込むことができるように、装着部22への装着時に外部に臨む位置であるタンク本体11の上面の所定の位置に、ここでは上面略中央に設けられている。外部連通孔14は、インクタンク5がカートリッジ本体21に装着されてインク収容部12からカートリッジ本体21側にインク2が流下した際に、インク収容部12内のインク2が減少した分に相当する分の空気を外部よりインクタンク5内に取り込む。
【0088】
空気導入路15は、インク収容部12と外部連通孔14とを連通し、外部連通孔14より取り込まれた空気をインク収容部12内に導入する。これにより、このインクタンク5がカートリッジ本体21に装着された際に、ヘッドカートリッジ3のカートリッジ本体21にインク2が供給されてインク収容部12内のインク2が減少し内部が減圧状態となっても、インク収容部12には、空気導入路15によりインク収容部12に空気が導入されることから、内部の圧力が平衡状態に保たれてインク2をカートリッジ本体21に適切に供給することができる。
【0089】
貯留部16は、外部連通孔14と空気導入路15との間に設けられ、インク収容部12に連通する空気導入路15よりインク2が漏れ出た際に、いきなり外部に流出することがないようにインク2を一時的に貯留する。この貯留部16は、インク収容部12の最も下側に位置に空気導入路15を設けるようにし、インク収容部12より進入したインク2を再度インク収容部12に戻すことができるようにされている。また、貯留部16は、短い方の対角線上の最も下側の頂部に外部連通孔14を設けるようにし、インク収容部12より進入したインク2が外部連通孔14より外部に漏れにくくする。
【0090】
係止突部17は、インクタンク5の短辺の一方の側面に設けられた突部であり、ヘッドカートリッジ3のカートリッジ本体21のラッチレバー24に形成された係合孔24aと係合する。
【0091】
係合段部18は、インクタンク5の係止突部17が設けられた側面の反対側の側面の上部に設けられている。係合段部18は、ヘッドカートリッジ3の装着部22に挿入されると、ヘッドカートリッジ3の装着部22側の係合片23に係合することで、インクタンク5を装着部22に装着する際の回動支点部となる。
【0092】
以上のような構成のインクタンク5は、上記した構成の他に、例えばインク収容部12内のインク2の残量を検出するための残量検出部や、インクタンク5y,5m,5c,5kを識別するための識別部等を備えている。
【0093】
次に、以上のように構成されたイエロー、マゼンタ、シアン、ブラックのインク2を収納したインクタンク5y,5m,5c,5kが装着されるヘッドカートリッジ3について説明する。
【0094】
ヘッドカートリッジ3は、図2及び図3に示すように、上記したインクタンク5とカートリッジ本体21とによって構成され、カートリッジ本体21には、インクタンク5が装着される装着部22y,22m,22c,22k(以下、全体を示すときには単に装着部22ともいう。)と、インクタンク5を固定する係合片23及びラッチレバー24と、インクタンク5を取り出し方向に付勢する付勢部材25と、インク供給部13と接続されてインク2が供給される接続部26と、インク2を吐出するインク吐出ヘッド27と、インク吐出ヘッド27を保護するヘッドキャップ28とを有している。
【0095】
インクタンク5が装着される装着部22は、インクタンク5が装着されるように上面をインクタンク5の挿脱口として略凹形状に形成され、ここでは4本のインクタンク5が記録紙Pの幅方向と略直交方向、すなわち記録紙Pの走行方向に並んで収納されている。装着部22は、インクタンク5が収納されることから、インクタンク5と同様に印刷幅の方向に長く設けられている。カートリッジ本体21には、インクタンク5が収納装着される。
【0096】
装着部22は、図2に示すように、インクタンク5が装着される部分であり、イエローインクのインクタンク5yが装着される部分を装着部22yとし、マゼンタインクのインクタンク5mが装着される部分を装着部22mとし、シアンインクのインクタンク5cが装着される部分を装着部22cとし、ブラックインクのインクタンク5kが装着される部分を装着部22kとし、各装着部22y,22m,22c,22kは、隔壁22aによりそれぞれ区画されている。
【0097】
また、インクタンク5が装着される装着部22の開口端には、図3に示すように、係合片23が設けられている。この係合片23は、装着部22の長手方向の一端縁に設けられており、インクタンク5の係合段部18と係合する。インクタンク5は、インクタンク5の係合段部18側を挿入端として斜めに装着部22内に挿入し、係合段部18と係合片23との係合位置を回動支点として、インクタンク5の係合段部18が設けられていない側を装着部22側に回動させるようにして装着部22に装着することができる。これによって、インクタンク5は、装着部22に容易に装着することができる。
【0098】
ラッチレバー24は、板バネを折曲して形成されるものであり、装着部22の係合片23に対して反対側の側面、すなわち長手方向の他端の側面に設けられている。ラッチレバー24は、基端部が装着部22を構成する長手方向の他端の側面の底面側に一体的に設けられ、先端側がこの側面に対して近接離間する方向に弾性変位するように形成され、先端側に係合孔24aが形成されている。ラッチレバー24は、インクタンク5が装着部22に装着されると同時に、弾性変位し、係合孔24aがインクタンク5の係止突部17と係合し、装着部22に装着されたインクタンク5が装着部22より脱落しないようにする。
【0099】
付勢部材25は、インクタンク5の係合段部18に対応する側面側の底面上にインクタンク5を取り外す方向に付勢する板バネを折曲して設けられる。付勢部材25は、インクタンク5の底面を押圧し、装着部22に装着されているインクタンク5を装着部22より取り外す方向に付勢するイジェクト部材である。付勢部材25は、ラッチレバー24の係合孔24aと係止突部17との係合状態が解除されたとき、装着部23よりインクタンク5を取り外す。
【0100】
各装着部22y,22m,22c,22kの長手方向略中央には、インクタンク5y,5m,5c,5kが装着部22y,22m,22c,22kに装着されたとき、インクタンク5y,5m,5c,5kのインク供給部13が接続される接続部26が設けられている。この接続部26は、装着部22に装着されたインクタンク5のインク供給部13からカートリッジ本体21の底面に設けられたインク2を吐出するインク吐出ヘッド27にインク2を供給するインク供給路となる。
【0101】
具体的に、接続部26は、図6に示すように、インクタンク5から供給されるインク2を溜めるインク溜め部31と、接続部26に連結されるインク供給部13をシールするシール部材32と、インク2内の不純物を除去するフィルタ33と、インク吐出ヘッド27側への供給路を開閉する弁機構34とを有している。
【0102】
インク溜め部31は、インク供給部13と接続されインクタンク5から供給されるインク2を溜める空間部である。シール部材32は、インク溜め部31の上端に設けられた部材であり、インクタンク5のインク供給部13が接続部26のインク溜め部31に接続されるとき、インク2が外部に漏れないようインク溜め部31とインク供給部13との間を密閉する。フィルタ33は、インクタンク5の着脱時等にインク2に混入してしまった塵や埃等のごみを取り除くものであり、インク溜め部31よりも下流に設けられている。
【0103】
弁機構34は、図7(A)及び図7(B)に示すように、インク溜め部31からインク2が供給されるインク流入路41と、インク流入路41からインク2が流入するインク室42と、インク室42からインク2を流出するインク流出路43と、インク室42をインク流入路41側とインク流出路43側との間に設けられた開口部44と、開口部44を開閉する弁45と、弁45を開口部44の閉塞する方向に付勢する付勢部材46と、付勢部材46の強さを調節する負圧調整ネジ47と、弁45と接続される弁シャフト48と、弁シャフト48と接続されるダイアフラム49とを有する。
【0104】
インク流入路41は、インク溜め部31を介してインクタンク5のインク収容部12内のインク2をインク吐出ヘッド27に供給可能にインク収容部12と連結する供給路である。インク流入路41は、インク溜め部31の底面側からインク室42まで設けられている。
【0105】
インク室42は、インク流入路41、インク流出路43及び開口部44と一体となって形成された略直方体をなす空間部であり、インク流入路41からインク2が流入し、開口部44を介してインク流出路43からインク2を流出する。
【0106】
インク流出路43は、インク室42から開口部44を介してインク2が供給されて、更にインク吐出ヘッド27と連結された供給路である。インク流出路43は、インク室42の底面側からインク吐出ヘッド27まで延在されている。
【0107】
弁45は、開口部44を閉塞してインク流入路41側とインク流出路43側とを分割する弁であり、インク室42内に配設される。弁45は、付勢部材46の付勢力と、弁シャフト48を介して接続されたダイアフラム49の復元力と、インク流出路43側のインク2の負圧によって上下に移動する。弁45は、下端に位置するとき、インク室42をインク流入路41側とインク流出路43側とを分離するように開口部44を閉塞し、インク流出路43に対するインク2の供給を遮断する。弁45は、付勢部材46の付勢力に抗して上端に位置するとき、インク室42をインク流入路41側とインク流出路43側とを遮断せずに、インク吐出ヘッド27へインク2の供給を可能とする。なお、弁45を構成する材質は、その種類を問わないが、高い閉塞性を確保するため例えばゴム弾性体、いわゆるエラストマー等により形成される。
【0108】
付勢部材46は、例えば圧縮コイルバネ等であり、弁45の上面とインク室42の上面との間で負圧調整ネジ47と弁45とを接続し、付勢力により弁45を開口部44の閉塞する方向に付勢する。負圧調整ネジ47は、付勢部材46の付勢力を調整するネジであり、負圧調整ネジ47を調整することで付勢部材46の付勢力を調整することができるようにしている。これにより、負圧調整ネジ47は、詳細は後述するが開口部44を開閉する弁45を動作させるインク2の負圧を調整することができる。
【0109】
弁シャフト48は、一端に接続された弁45と、他端に接続されたダイアフラム49とを連結して運動するように設けられたシャフトである。ダイアフラム49は、弁シャフト48の他端に接続された薄い弾性板である。このダイアフラム49は、インク室42のインク流出路43側の一主面と、外気と接する他主面とからなり、大気圧とインク2の負圧により外気側とインク流出路43側とに弾性変位する。
【0110】
以上のような弁機構34では、図7(A)に示すように、弁45が付勢部材46の付勢力とダイアフラム49の付勢力とによってインク室42の開口部44を閉塞するように押圧されている。そして、インク吐出ヘッド27からインク2が吐出された際には、開口部44で分割されたインク流出路43側のインク室42のインク2の負圧が高まると、図7(B)に示すように、インク2の負圧によりダイアフラム49が大気圧により押し上げられて、弁シャフト48と共に弁45を付勢部材46の付勢力に抗して押し上げる。このとき、インク室42のインク流入路41側とインク流出路43側と間の開口部44が開放され、インク2がインク流入路41側からインク流出路43側に供給される。そして、インク2の負圧が低下してダイアフラム49が復元力により元の形状に戻り、付勢部材46の付勢力により弁シャフト48と共に弁45をインク室42が閉塞するように引き下げる。以上のようにして弁機構34では、インク2を吐出する度にインク2の負圧が高まると、上記の動作を繰り返す。
【0111】
また、この接続部26では、インク収容部12内のインク2がインク室42に供給されると、インク収容部12内のインク2が減少するが、このとき、空気導入路15から外気がインクタンク5内に入り込む。インクタンク5内に入り込んだ空気は、インクタンク5の上方に送られる。これにより、インク液滴iが後述するノズル52aから吐出される前の状態に戻り、平衡状態となる。このとき、空気導入路15内にインク2がほとんどない状態で平衡状態となる。
【0112】
この接続部26では、上記したように複雑な構造になっており、この複雑な弁機構34内をインク2が移動するが、インク2に上述したEBPD−EOとEOPOEOとが含有されていることから、弁機構34の開閉動作やインク2の弁機構34内の移動等でインク2中に微少な泡の発生が抑制されている。これにより、接続部26では、微少な泡が混入されていないインク2をインク吐出ヘッド27に供給することができる。更に、この接続部26では、EBPD−EOとEBPD−EOとが含有されていることにより、インク2の濡れ性が良好となっているため、弁機構34やインク流出路43等の内面に微小な泡が付着することなく、微小な泡の移動が容易になりノズル52aからインク2と共に容易に排出される。
【0113】
インク吐出ヘッド27は、図6に示すように、カートリッジ本体21の底面に沿って配設されており、接続部26から供給されるインク液滴iを吐出するインク吐出口である後述するノズル52aが各色毎、記録紙Pの幅方向、すなわち図6中矢印W方向に略ライン状をなすようにされている。
【0114】
ヘッドキャップ28は、図2に示すように、インク吐出ヘッド27を保護するために設けられたカバーであり、印刷動作するときにはインク吐出ヘッド27より退避する。ヘッドキャップ28は、図2中矢印W方向の両端に開閉方向に設けられた一対の係合突部28aと、長手方向に設けられインク吐出ヘッド27の吐出面27aに付着した余分なインク2を吸い取るクリーニングローラ28bとを有している。ヘッドキャップ28は、係合突部28aがインク吐出ヘッド27の吐出面27aに図2中矢印W方向とは略直交方向に亘って設けられた一対の係合溝27bに係合され、この一対の係合溝27bに沿ってインクタンク5の短手方向、すなわち図2中矢印W方向とは略直交方向に開閉するようにされている。そして、ヘッドキャップ28においては、開閉動作時に、クリーニングローラ28bがインク吐出ヘッド27の吐出面27aに当接しながら回転することで、余分なインク2を吸い取り、インク吐出ヘッド27の吐出面27aをクリーニングする。このクリーニングローラ28bには、例えば吸湿性の高い部材、具体的にはスポンジ、不織布、織布等が用いられる。また、ヘッドキャップ28は、印刷動作しないときにはインク吐出ヘッド27内のインク2が乾燥しないように吐出面27aを閉塞する。
【0115】
インク吐出ヘッド27は、図8に示すように、ベースとなる回路基板51と、複数のノズル52aが形成されたノズルシート52と、回路基板51とノズルシート52との間をノズル52a毎に区画するフィルム53と、インク流出路43を通して供給されたインク2を加圧するインク液室54と、インク液室54に供給されたインク2を加熱する発熱抵抗体55と、インク液室54にインク2を供給するインク流路56とを有している。
【0116】
回路基板51は、シリコン等からなる半導体ウェハ上に、ロジックIC(Integrated Circuit)やドライバートランジスタ等からなる制御回路を構成すると共に、インク液室54の上面部を形成している。
【0117】
ノズルシート52は、厚みが10μm〜15μm程度のシート状部材であり、吐出面27aに向かって縮径され、且つ吐出面27a側の口径が20μm程度のノズル52aが穿設されると共に、回路基板51とフィルム53を挟んで対向配置されることで、インク液室54の下面部を形成している。
【0118】
フィルム53は、例えば露光硬化型のドライフィルムレジストからなり、上記したインク流出路43と連通される部分を除いて各ノズル52aの周囲を囲むように形成されている。また、このフィルム53は、回路基板51とノズルシート52との間に介在されることによって、インク液室54の側面部を形成している。
【0119】
インク液室54は、上記した回路基板51、ノズルシート52及びフィルム53により囲まれることで、ノズル52a毎にインク流出路43から供給されたインク2を加圧する加圧空間を形成している。
【0120】
発熱抵抗体55は、インク液室54に臨む回路基板51に配置されると共に、この回路基板51に設けられた制御回路等と電気的に接続されている。そして、この発熱抵抗体55は、制御回路等により制御されることで発熱し、インク液室54内のインク2を加熱する。
【0121】
インク流路56は、接続部26のインク流出路43と接続されており、接続部26に接続されたインクタンク5からインク2が供給され、このインク流路56に連通する各インク液室54にインク2を送り込む流路である。すなわち、インク流路56と接続部26とが連通されている。これにより、インクタンク5から供給されるインク2がインク流路56に流れ込み、インク液室54内に充填される。
【0122】
上記した1個のインク吐出ヘッド27には、インク液室54毎に発熱抵抗体55が設けられ、発熱抵抗体55が設けられたインク液室54を各色インクタンク5毎に100個〜5000個程度備えている。そして、インク吐出ヘッド27においては、プリンタ装置1の後述する制御部78からの命令によって各インク液室54の発熱抵抗体55それぞれを適宜選択して発熱させ、発熱した発熱抵抗体55に対応するインク液室54内のインク2を、インク液室54に対応するノズル52aからインク液滴iにして吐出させる。
【0123】
具体的に、このインク吐出ヘッド27では、回路基板51の制御回路が発熱抵抗体55を駆動制御し、選択された発熱抵抗体55に対して、例えば1〜3マイクロ秒程度の間パルス電流を供給する。これにより、インク吐出ヘッド27では、発熱抵抗体55が急速に加熱される。すると、インク吐出ヘッド27では、図9(A)に示すように、発熱抵抗体55と接するインク液室54内のインク2に気泡bが発生する。そして、インク吐出ヘッド27では、図9(B)に示すように、このインク液室54内において、気泡bが膨張しながらインク2を加圧し、押し退けられたインク2がインク液滴iとなってノズル52aより吐出される。また、インク吐出ヘッド27においては、インク液滴iが吐出された後は、インク流出路43を通してインク2がインク液室54に供給されることによって、再び吐出前の状態へと戻る。
【0124】
以上のような構成のインク吐出ヘッド27では、上記したように複数備わる発熱抵抗体55の分だけインク2の発熱箇所も多く、微少な泡が発生しやすい状態となるが、インク2に上述したEBPD−EO及びEOPOEOが含有されていることから、例えばインク液室44内のインク2に微少な泡が発生することを抑制でき、インク液滴iの不吐出や吐出曲がり等といった吐出不良を防止できる。
【0125】
また、インク吐出ヘッド27では、発熱抵抗体55によりインク2の温度が常温状態から上昇した際に、上述したEBPD−EO及びEOPOEOの状態が変化することなく、インク2中にEBPD−EO及びEOPOEOが均一に溶解している。これにより、インク吐出ヘッド27では、インク2が白濁したりすることがなく、インク2の物性が安定している。
【0126】
次に、以上のように構成されたヘッドカートリッジ3が装着されるプリンタ装置1を構成する装置本体4について図面を参照して説明する。
【0127】
装置本体4は、図1及び図10に示すように、ヘッドカートリッジ3が装着されるヘッドカートリッジ装着部61と、ヘッドカートリッジ3をヘッドカートリッジ装着部61に保持、固定するためのヘッドカートリッジ保持機構62と、ヘッドキャップを開閉するヘッドキャップ開閉機構63と、記録紙Pを給排紙する給排紙機構64と、給排紙機構64に記録紙Pを供給する給紙口65と、給排紙機構64から記録紙Pが出力される排紙口66とを有する。
【0128】
ヘッドカートリッジ装着部61は、ヘッドカートリッジ3が装着される凹部であり、走行する記録紙にデータ通り印刷を行うため、インク吐出ヘッド27の吐出面27aと走行する記録紙Pの紙面とが互いに略平行となるようにヘッドカートリッジ3が装着される。そして、ヘッドカートリッジ3は、インク吐出ヘッド27内のインク詰まり等で交換する必要が生じる場合等があり、インクタンク5のような交換頻度はないが消耗品であるため、ヘッドカートリッジ装着部61に対して着脱可能にヘッドカートリッジ保持機構62によって保持される。
【0129】
ヘッドカートリッジ保持機構62は、ヘッドカートリッジ装着部61にヘッドカートリッジ3を着脱可能に保持するための機構であり、ヘッドカートリッジ3に設けられたつまみ62aを装置本体4の係止孔62b内に設けられた図示しないバネ等の付勢部材に係止することによって装置本体4に設けられた基準面4aに圧着するようにしてヘッドカートリッジ3を位置決めして保持、固定できるようにする。
【0130】
ヘッドキャップ開閉機構63は、ヘッドカートリッジ3のヘッドキャップ28を開閉する駆動部を有しており、印刷を行うときにヘッドキャップ28を開放してインク吐出ヘッド27が記録紙Pに対して露出するようにし、印刷が終了したときにヘッドキャップ28を閉塞してインク吐出ヘッド27を保護する。
【0131】
給排紙機構64は、記録紙Pを搬送する駆動部を有しており、給紙口65から供給される記録紙Pをヘッドカートリッジ3のインク吐出ヘッド27まで搬送し、ノズル52aより吐出されたインク液滴iが着弾し、印刷された記録紙Pを排紙口66に搬送して装置外部へ排出する。給紙口65は、給排紙機構64に記録紙Pを供給する開口部であり、トレイ65a等に複数枚の記録紙Pを積層しておくことができる。排紙口66は、インク液滴iが着弾し、印刷された記録紙Pを排出する開口部である。
【0132】
次に、以上のように構成されたプリンタ装置1による印刷を制御する図11に示す制御回路71について図面を参照して説明する。
【0133】
制御回路71は、上記した装置本体3のヘッドキャップ開閉機構63、給排紙機構64の駆動を制御するプリンタ駆動部72と、各色のインクiに対応するインク吐出ヘッド27に供給される電流等を制御する吐出制御部73と、各色のインクiの残量を警告する警告部74と、外部装置と信号の入出力を行う入出力端子75と、制御プログラム等が記録されたROM(Read Only Memory)76と、読み出された制御プログラム等を一旦格納し、必要に応じて読み出されるRAM(Random Access Memory)77と、各部の制御を行う制御部78とを有している。
【0134】
プリンタ駆動部72は、制御部78からの制御信号に基づき、ヘッドキャップ開閉機構63を構成する駆動モータを駆動させてヘッドキャップ28を開閉動作するように、ヘッドキャップ開閉機構を制御する。また、プリンタ駆動部72は、制御部78からの制御信号に基づき、給排紙機構64を構成する駆動モータを駆動させて装置本体4の給紙口65から記録紙Pを給紙し、印刷後に排紙口66から記録紙Pを排出するように給排紙機構64を制御する。
【0135】
吐出制御部73は、インク吐出ヘッド27に備わる発熱抵抗体55にパルス電流を供給する外部電源との電気的な接続をオン/オフするスイッチング素子や、発熱抵抗体55に供給されるパルス電流値を調整する抵抗体や、スイッチング素子等のオン/オフの切り替えを制御する制御回路部等を有する電気回路である。そして、吐出制御部73は、制御部78からの制御信号に基づき、インク吐出ヘッド27に備わる発熱抵抗体55に供給されるパルス電流等を調整し、ノズル52aよりインク2を吐出するインク吐出ヘッド27を制御する。
【0136】
警告部74は、例えばLCD(Liquid Crystal Display)等の表示手段であり、印刷条件、印刷状態、インク残量等の情報を表示する。この警告は、情報処理装置79のモニタやスピーカ等で行うようにしてもよい。
【0137】
入出力端子75は、上記した印刷条件、印刷状態、インク残量等の情報をインタフェースを介して外部の情報処理装置79等に送信する。また、入出力端子75は、外部の情報処理装置79等から、上記した印刷条件、印刷状態、インク残量等の情報を出力する制御信号や、印刷データ等が入力される。ここで、上記した情報処理装置79は、例えば、パーソナルコンピュータやPDA(Personal Digital Assistant)等の電子機器である。
【0138】
情報処理装置79等と接続される入出力端子75は、インタフェースとして例えばシリアルインタフェースやパラレルインタフェース等を用いることができる。また、入出力端子75は、情報処理装置79との間で有線通信又は無線通信の何れ形式でデータ通信を行うようにしてもよい。入出力端子75と情報処理装置79との間には、例えばインターネット等のネットワークが介在していてもよい。
【0139】
ROM76は、例えばEP−ROM(Erasable Programmable Read-Only Memory)等のメモリであり、制御部78が行う各処理のプログラムが格納されている。この格納されているプログラムは、制御部78によりRAM77にロードされる。RAM77は、制御部78によりROM76から読み出されたプログラムや、プリンタ装置1の各種状態を記憶する。
【0140】
制御部78は、入出力端子75から入力された印刷データ、ヘッドカートリッジ3から入力されがインク2の残量データ等に基づき、各部を制御する。制御部78は、入力された制御信号等に基づいて各部を制御する処理プログラムをROM76から読み出してRAM77に記憶し、この処理プログラムに基づき各部の制御や処理を行う。
【0141】
なお、以上のように構成された制御回路71においては、ROM76に処理プログラムを格納するようにしたが、処理プログラムを格納する媒体としては、ROM76に限定されるものでなく、例えば処理プログラムが記録された光ディスクや、磁気ディスク、光磁気ディスク、ICカード等の各種記録媒体を用いることができる。この場合に制御回路71は、各種記録媒体を駆動するドライブと直接又は情報処理装置79を介して接続されてこれら記録媒体から処理プログラムを読み出すように構成する。
【0142】
ここで、以上のように構成されるプリンタ装置1の印刷動作について図12に示すフローチャートを参照にして説明する。なお、本動作はROM76等の記憶手段に格納された処理プログラムに基づいて制御部78内の図示しないCPU(Central Processing Unit)の演算処理等により実行されるものである。
【0143】
先ず、ユーザが、印刷動作をプリンタ装置1が実行するように、装置本体4に設けられている操作パネル等を操作して命令する。次に、制御部78は、ステップS1において、各装着部22に所定の色のインクタンク5が装着されているかどうかを判断する。そして、制御部78は、全ての装着部22に所定の色のインクタンク5が適切に装着されているときはステップS2に進み、装着部22においてインクタンク5が適切に装着されていないときはステップS7に進み、印刷動作を禁止する。
【0144】
制御部78は、ステップS2において、インクタンク5内のインク2が所定量以下、すなわちインク無し状態であるか否かを判断し、インク無し状態であると判断されたときは、警告部74でその旨を警告し、ステップS7において、印刷動作を禁止する。一方、制御部78は、インクタンク5内のインク2が所定量以上であるとき、すなわちインク2が満たされているとき、ステップS3において、印刷動作を許可する。
【0145】
印刷動作を行う際は、制御部78がプリンタ駆動部72によって、ヘッドキャップ開閉機構63及び給排紙機構64を駆動制御して記録紙Pを印刷可能な位置まで移動させる。具体的に、制御部78は、図13に示すように、ヘッドキャップ開閉機構63を構成する駆動モータを駆動させてヘッドキャップ28をヘッドカートリッジ3に対してトレイ65a側に移動させ、インク吐出ヘッド27のノズル52aを露出させる。そして、制御部78は、給排紙機構64を構成する駆動モータを駆動させて記録紙Pを走行させる。具体的に、制御部78は、トレイ65aから給紙ローラ81によって記録紙Pを引き出し、互いに反対方向に回転する一対の分離ローラ82a,82bによって引き出された記録紙Pの一枚を反転ローラ83に搬送して搬送方向を反転させた後に搬送ベルト84に記録紙Pを搬送し、搬送ベルト84に搬送された記録紙Pを押さえ手段85が所定の位置で保持させることでインク2が着弾される位置が決定されるように給排紙機構64を制御する。
【0146】
次に、制御部78は、S4において吐出制御部73によってインク吐出ヘッド27を制御し、この印刷位置に搬送された記録紙Pに対してノズル52aよりインク液滴iを吐出、着弾させてインクドットからなる画像や文字等を記録させる。
【0147】
このとき、インク吐出ヘッド27では、インク2に上述したEBPD−EOとEOPOEOとが含有されていることから、例えば弁機構34eの開閉動作やインク流出路43内等の移動でインク2中に微少な泡が生じることが抑制され、ノズル52aに泡が目詰まりすることが防止されている。これにより、インク吐出ヘッド27では、インク液滴iの不吐出や吐出曲がり等といった吐出不良を防止できる。
【0148】
また、インク吐出ヘッド27では、微小な泡が生じて弁機構34やインク流出路43の内面に微小な泡が付着しても、含有されているEBPD−EO及びEOPOEOにより、インク2の濡れ性が良好となっているため、微小な泡の移動が容易になりノズル52aから微小な泡がインク液滴iと共に容易に排出される。
【0149】
更に、インク吐出ヘッド27では、インク2中にEBPD−EOとEOPOEOとが含有されていることから、光学濃度が高くなり、且つ境界にじみや混色ベタ斑の発生が抑制された高品位な画質になる。
【0150】
そして、インク液滴iがノズル52a吐出されると、インク液滴iを吐出した量と同量のインク2がインク流路56から直ちにインク液室54内に補充され、図7(A)に示すように、元の状態に戻る。インク吐出ヘッド27からインク液滴iが吐出されると、付勢部材46の付勢力とダイアフラム49の付勢力とによってインク室42の開口部44を閉塞している弁45は、図7(B)に示すように、インク吐出ヘッド27からインク液滴iが吐出された際に、開口部44に分割されたインク流出路43側のインク室42内のインク2の負圧が高まると、インク2の負圧によりダイアフラム49が大気圧により押し上げられて、弁シャフト48と共に弁45を付勢部材46の付勢力に抗して押し上げる。このとき、インク室42のインク流入路41側とインク流出路43側との間の開口部44が開放され、インク2がインク流入路41側からインク流出路43側に供給され、インク吐出ヘッド27のインク流路56にインク2が補充される。そして、インク2の負圧が低下してダイアフラム49が復元力により元の形状に戻り、付勢部材46の付勢力により弁シャフト48と共に弁45をインク室42が閉塞するように引き下げる。以上のようにして弁機構34では、インク液滴iを吐出する度にインク2の負圧が高まると、上記の動作を繰り返す。
【0151】
インク吐出ヘッド27においては、以上のようにして弁機構34によりインク2の供給が繰り返し行われるとき、すなわち複雑な構造の弁機構34を通ってインク2が繰り返し供給されるときでも、インク2に上述したEBPD−EOとEOPOEOとが含有されていることから、弁機構34内を移動するインク2に微少な泡が発生することが抑えられている。これにより、インク吐出ヘッド27では、次にインク液滴iを吐出する際に、ノズル52aに泡が詰まることなく、インク2の不吐出や吐出不良を防止でき、所定の方向に安定してインク液滴iが吐出されるようになる。
【0152】
このようにして、給排紙機構64によって走行している記録紙Pには、順に印刷データに応じた文字や画像が優れた画質で印刷されることになる。そして、印刷が終了した記録紙Pは、S6において給排紙機構64によって排紙口66より排出される。
【0153】
以上で説明したプリンタ装置1では、インクタンク5に収容されている上述したEBPD−EOとEOPOEOとを含有したインク2が微小な泡の発生が抑えられているので、インク液滴iの不吐出や吐出不良がなく、所定の方向に安定して吐出することができる。これにより、プリンタ装置1では、画像にカスレや白抜けが生じることがなく、高品位な画質の画像や文字を印刷できる。
【0154】
また、プリンタ装置1では、EBPD−EOとEOPOEOとが含有された濡れ性の高いインク液滴iを吐出するため、光学濃度が高く、境界にじみや混色ベタ斑の発生が抑制された高品位な画像の印刷を行うことができる。
【0155】
更に、プリンタ装置1では、インク液滴iを吐出する際にインク2を発熱抵抗体55で加熱し、インク2の温度が常温から上昇するが、EOPOEOの物性が変化しないため、インク2の物性が劣ることがなく、インク2の白濁が防止されている。
【0156】
なお、上記したヘッドカートリッジ2では、カートリッジ本体12に対してインクタンク5が着脱可能となっているが、このような構成に必ずしも限定されるものではない。すなわち、このヘッドカートリッジ2自体が消耗品として取り扱われており、装置本体3に対して着脱可能なことから、このカートリッジ本体12にインクタンク5が一体に設けられた構成とすることも可能である。
【0157】
以上は、本発明をプリンタ装置に適用した例について説明したが、本発明は、以上の例に限定されるものではなく、液体を吐出する他の液体吐出装置に広く適用することが可能である。例えばファクシミリやコピー機、液体中のDNAチップ用吐出装置(特開2002−253200号公報)、プリンタ配線基板の配線パターンを形成するための導電性粒子を含む液体を吐出したりする液体吐出装置等にも適用可能である。
【0158】
以上では、1つの発熱抵抗体55がインク2を加熱して吐出するインク吐出ヘッド27を例に挙げて説明したが、このような構造に限定されることはなく、複数の圧力発生素子を備え、各圧力発生素子に異なるエネルギー又は異なるタイミングでエネルギーを供給することで吐出方向を制御することが可能な吐出手段を備える液体吐出装置にも適用可能である。
【0159】
以上では、1つの発熱抵抗体55によってインク2を加熱しながらノズル52aから吐出させる電気熱変換方式を採用しているが、このような方式に限定されず、例えばピエゾ素子といった圧電素子等の電気機械変換素子等によってインクを電気機械的にノズルより吐出させる電気機械変換方式(特開昭55−65559号公報、特開昭62−160243号公報、特開平2−270561号公報)を採用したものであってもよい。
【0160】
以上では、ライン型のプリンタ装置1を例に挙げて説明したが、このことに限定されることはなく、例えばインクヘッドが記録紙Pの走行方向と略直交する方向に移動するシリアル型の液体吐出装置にも適用可能である。
【実施例】
【0161】
以下、本発明を適用したインクを実際に調製した実施例および比較例について説明する。
【0162】
〈実施例1〉
実施例1では、先ず、マゼンダ系のインクを調製した。マゼンダ系のインクを調製する際は、色素となるC.I.アシッドレッド52を3質量部と、溶媒として水75.5質量部と、その他の溶媒としてグリセリン10質量部と、1,3−ブタンジオール5質量部と、ネオペンチルグリコール5質量部と、下記に示す化学式(1)に示され、m+n=10である2−エチル−2−ブチル−1,3−プロパンジオールのエチレンオキサイド付加体(以下、EBPD−EOとする)0.8質量部と、下記に示す化学式(2)に示され、x+z=3、y=8であり、EOの含有量が22.1質量%のエチレンオキサイド/プロピレンオキサイド共重合体(以下、EOPOEOとする)0.7質量部とを混合し、ミリポア社製のポアサイズ0.22μmのメインブランフィルター(商品名:Millex−0.22)にて濾過し、マゼンダ系のインクを調製した。
【0163】
【化5】
【0164】
【化6】
【0165】
次に、シアン系のインクを調製した。シアン系のインクを調製する際は、色素となるC.I.ダイレクトブルー199を2.5質量部と、溶媒として水76質量部と、その他の溶媒としてグリセリン10質量部と、1,3−ブタンジオール5質量部と、ネオペンチルグリコール5質量部と、m+n=10であるEBPD−EO0.8質量部と、x+z=3、y=8であり、EOの含有量22.1質量%のEOPOEO0.7質量部とを混合し、ミリポア社製のポアサイズ0.22μmのメインブランフィルター(商品名:Millex−0.22)にて濾過し、シアン系のインクを調製した。なお、マゼンタ系及びシアン系にインクにおいて、EOPOEOは、このEOPOEO中におけるEOの含有量と、POの全分子量との関係を示す図4中のP3に相当する。
【0166】
〈実施例2〉
実施例2では、マゼンタ系インク及びマゼンタ系インクを調整する際に、m+n=4であるEBPD−EOを用いたこと以外は実施例1のマゼンタ系インク及びシアン系インクと同様に調整した。なお、マゼンタ系及びシアン系にインクにおいて、EOPOEOは、このEOPOEO中におけるEOの含有量と、POの全分子量との関係を示す図4中のP3に相当する。
【0167】
〈実施例3〉
実施例3では、マゼンタ系インク及びマゼンタ系インクを調整する際に、m+n=2であるEBPD−EOを用いたこと以外は実施例1のマゼンタ系インク及びシアン系インクと同様に調整した。なお、マゼンタ系及びシアン系にインクにおいて、EOPOEOは、このEOPOEO中におけるEOの含有量と、POの全分子量との関係を示す図4中のP3に相当する。
【0168】
〈実施例4〉
実施例4では、マゼンタ系インク及びマゼンタ系インクを調整する際に、m+n=2であるEBPD−EOを用い、x+z=5、y=8であるEOPOEOを用いたこと以外は実施例1のマゼンタ系インク及びマゼンタ系インクと同様に調整した。なお、マゼンタ系及びシアン系にインクにおいて、EOPOEOは、このEOPOEO中におけるEOの含有量と、POの全分子量との関係を示す図4中のP7に相当する。
【0169】
〈実施例5〉
実施例5では、マゼンタ系インク及びマゼンタ系インクを調整する際に、m+n=2であるEBPD−EOを用い、x+z=4、y=12であり、EOの含有量が20.2質量%であるEOPOEOを用いたこと以外は実施例1のマゼンタ系インク及びマゼンタ系インクと同様に調整した。なお、マゼンタ系及びシアン系にインクにおいて、EOPOEOは、このEOPOEO中におけるEOの含有量と、POの全分子量との関係を示す図4中のP1に相当する。
【0170】
〈実施例6〉
実施例6では、マゼンタ系インク及びマゼンタ系インクを調整する際に、m+n=2であるEBPD−EOを用い、x+z=7、y=12であり、EOの含有量が30.7質量%であるEOPOEOを用いたこと以外は実施例1のマゼンタ系インク及びマゼンタ系インクと同様に調整した。なお、マゼンタ系及びシアン系にインクにおいて、EOPOEOは、このEOPOEO中におけるEOの含有量と、POの全分子量との関係を示す図4中のP4に相当する。
【0171】
〈実施例7〉
実施例7では、マゼンタ系インク及びマゼンタ系インクを調整する際に、m+n=2であるEBPD−EOを用い、x+z=9、y=16であり、EOの含有量が29.9質量%であるEOPOEOを用いたこと以外は実施例1のマゼンタ系インク及びマゼンタ系インクと同様に調整した。なお、マゼンタ系及びシアン系にインクにおいて、EOPOEOは、このEOPOEO中におけるEOの含有量と、POの全分子量との関係を示す図4中のP5に相当する。
【0172】
〈実施例8〉
実施例8では、マゼンタ系インク及びマゼンタ系インクを調整する際に、m+n=6であるEBPD−EOを用い、x+z=12、y=21であり、EOの含有量が30.2質量%であるEOPOEOを用いたこと以外は実施例1のマゼンタ系インク及びマゼンタ系インクと同様に調整した。なお、マゼンタ系及びシアン系にインクにおいて、EOPOEOは、このEOPOEO中におけるEOの含有量と、POの全分子量との関係を示す図4中のP6に相当する。
【0173】
〈比較例1〉
比較例1では、マゼンタ系インク及びマゼンタ系インクを調整する際に、EBPD−EOを用いず、x+z=3、y=8であり、EOの含有量が22.1質量%であるEOPOEOを用い、水を76.3質量部としたこと以外は実施例1のマゼンタ系インク及びマゼンタ系インクと同様に調整した。なお、マゼンタ系及びシアン系にインクにおいて、EOPOEOは、このEOPOEO中におけるEOの含有量と、POの全分子量との関係を示す図4中のP3に相当する。
【0174】
〈比較例2〉
比較例2では、マゼンタ系インク及びマゼンタ系インクを調整する際に、m+n=10であるEBPD−EOを用い、EOPOEOを用いず、水を76.4質量部としたこと以外は実施例1のマゼンタ系インク及びマゼンタ系インクと同様に調整した。
【0175】
〈比較例3〉
比較例3では、マゼンタ系インク及びマゼンタ系インクを調整する際に、EBPD−EO及びEOPOEOを共に用いず、水を77質量部としたこと以外は実施例1のマゼンタ系インク及びマゼンタ系インクと同様に調整した。
【0176】
〈比較例4〉
比較例4では、マゼンタ系インク及びマゼンタ系インクを調整する際に、m+n=4であるEBPD−EOを用い、x+z=9、y=9であり、EOの含有量が43.1質量%であるEOPOEOを用いたこと以外は実施例1のマゼンタ系インク及びマゼンタ系インクと同様に調整した。なお、マゼンタ系及びシアン系にインクにおいて、EOPOEOは、このEOPOEO中におけるEOの含有量と、POの全分子量との関係を示す図4中のP15に相当する。
【0177】
〈比較例5〉
比較例5では、マゼンタ系インク及びマゼンタ系インクを調整する際に、m+n=4であるEBPD−EOを用い、x+z=4、y=13であり、EOの含有量が18.9質量%であるEOPOEOを用いたこと以外は実施例1のマゼンタ系インク及びマゼンタ系インクと同様に調整した。なお、マゼンタ系及びシアン系にインクにおいて、EOPOEOは、このEOPOEO中におけるEOの含有量と、POの全分子量との関係を示す図4中のP11に相当する。
【0178】
〈比較例6〉
比較例6では、マゼンタ系インク及びマゼンタ系インクを調整する際に、m+n=14であるEBPD−EOを用い、x+z=3、y=8であり、EOの含有量が22.1質量%であるEOPOEOを用いたこと以外は実施例1のマゼンタ系インク及びマゼンタ系インクと同様に調整した。なお、マゼンタ系及びシアン系にインクにおいて、EOPOEOは、このEOPOEO中におけるEOの含有量と、POの全分子量との関係を示す図4中のP3に相当する。
【0179】
〈比較例7〉
比較例7では、マゼンタ系インク及びマゼンタ系インクを調整する際に、EBPD−EO及びEOPOEOの代わりに、アセチレングリコールのエチレンオキサイド付加物(日信化学製、商品名:オルフィンE1010)0.5質量部とし、水を76.5質量部とした以外は実施例1と同様にしてマゼンダ系及びシアン系のインクをそれぞれ調製した。
【0180】
各実施例及び比較例のインクについて、Kruss社製のバブルプレッシャー動的表面張力測計(BP−2)を用い、25℃雰囲気、キャピラリー径0.215mmの測定条件で20Hzでの動的表面張力(γ20)と1Hzでの動的表面張力(γ1)を測定した結果を以下の表2に示す。
【0181】
【表2】
【0182】
次に、各実施例及び比較例のインクについて、吐出安定性、間欠吐出安定性、光学濃度、境界にじみ、混色ベタ斑の評価を行った。評価結果を下記の表3に示す。
【0183】
【表3】
【0184】
なお、吐出安定性は、次のようにして評価した。各実施例及び比較例のインクをインクタンクにそれぞれ充填してヘッドカートリッジに装着、ライン型のインクジェットプリンタ装置にて各インクを吐出した後に、一旦、インクジェットプリンタ装置からヘッドカートリッジを取り外し、このヘッドカートリッジを温度10℃、湿度50%の雰囲気中で5日間、さらに温度40℃、湿度50%の雰囲気中に5日間保存し、温度20℃、湿度50%の環境下に曝した。そして、再び、ヘッドカートリッジをライン型のインクジェットプリンタ装置に取り付けて三菱製紙製のコピー用紙(商品名:三菱PPC)に各色について所定の領域の塗り潰した印刷、いわゆるベタ印刷を行った後に、ヘッドカートリッジからインクタンクを取り外してインク吐出ヘッド内に微少な泡が発生していないかどうかを目視により観察した。また、印刷した画像も目視により観察した。
【0185】
表3における吐出安定性では、画像全体に白抜けがなく、且つインク吐出ヘッド内のインクに微少な泡の発生がないものを◎印で示し、画質には問題がないが画像に僅かな白抜けがあり、且つインク吐出ヘッド内のインクに微少な泡が極少量発生したものを○印で示し、画質を劣化させる白抜けがあり、且つインク吐出ヘッド内のインクに微少な泡が極少量発生したものを△印で示し、画質を劣化させる白抜けがあり、且つインク吐出ヘッド内のインクに微少な泡が多量発生したものを×印で示している。
【0186】
光学濃度は、次のようにして測定した。各実施例及び比較例のインクをインクタンクにそれぞれ充填してヘッドカートリッジに装着、ライン型のインクジェットプリンタ装置にて三菱製紙製のコピー用紙(商品名:三菱PPC)に各色それぞれのベタ印刷を行い、得られた画像についてマクベス社製の光学濃度計(TR924)により反射光学濃度を測定した。
【0187】
境界にじみは、次のようにして評価した。各実施例及び比較例のインクをインクタンクにそれぞれ充填してヘッドカートリッジに装着、ライン型のインクジェットプリンタ装置にて三菱製紙製のコピー用紙(商品名:三菱PPC)に各色を隣接させたベタ印刷を行い、印刷した画像における各色の境界部のにじみ具合を目視により観察した。
【0188】
表3における境界にじみでは、境界部に各色のにじみが全くないものを◎印で示し、画質には問題がないが境界部に各色のにじみが少量あるものを○印で示し、境界部に画質を劣化させる各色のにじみがあるものを△印で示し、境界部全体に各色のにじみがあり、画質が著しく劣化しているものを×印で示している。
【0189】
混色ベタ斑は、次のようにして評価した。各サンプルのインクをインクタンクにそれぞれ充填してヘッドカートリッジに装着、ライン型のインクジェットプリンタ装置にて三菱製紙製のコピー用紙(商品名:三菱PPC)に各色を重ね合わせるようにして青色のベタ印刷を行い、印刷した画像における青色濃度の均一性、すなわち色むらの有無を目視により観察した。
【0190】
表3における混色ベタ斑では、青色にベタ塗りされた画像に色ムラが全くないものを◎印で示し、画質には問題がないが画像に僅かな色ムラがあるものを○印で示し、画質を劣化させる色ムラがあるものを△印で示し、画像全体に色ムラがあり、画質が著しく劣化しているものを×印で示している。
【0191】
表3に示す評価結果から、実施例1〜実施例8のインクでは、比較例1〜比較例7のインクに比べて吐出安定性、間欠吐出安定性、光学濃度、境界にじみ、混色ベタ斑、すべての評価において良好であった。
【0192】
比較例1では、EOPOEOしか含有されていないため、インク中に微小な泡が発生することを十分に抑制することができ、吐出安定性が低下した。また、比較例1では、EBPD−EOが含有されていないため、インクの濡れ性が良好とならず、記録紙に対する濡れ性も低く、且つ1Hzでの動的表面張力(γ1)が38mn/mよりも大きいため、境界でにじみが生じたり、画像に色むらが生じ、光学濃度も低下した。
【0193】
また、比較例2では、EOPOEOが含有されていないため、インク内で微小な泡が発生することを抑制することができず、発生した泡がノズルに詰まり不吐出や吐出不良が生じ、吐出安定性が低下した。また、比較例2では、1Hzでの動的表面張力(γ1)が38mn/mよりも大きく、境界でにじみが生じたり、画像に色むらが生じ、光学濃度も低下した。
【0194】
比較例3では、EBPD−EO及びEOPOEOが共に含有されていないため、インク内で微小な泡が発生することを抑制せず、吐出安定性が低下し、濡れ性も向上しないため、境界でにじみが生じたり、画像に色むらが生じ、吐出安定性、境界にじみ、混色ベタ斑のすべての評価において悪く、光学濃度も低下した。
【0195】
比較例4では、EOPOEO分子中のEOの含有量が43.1質量%であり、EOの含有率が40質量%よりも多いため、EOPOEOが親水性となり、溶媒の水に溶けやすくなるため、インク中に微小な泡が発生することを抑制できず、発生した微小な泡により吐出安定性が低下し、且つ画像に色むらが生じた。
【0196】
比較例5では、EOPOEO分子中のEOの含有量が18.9%であり、EOの含有率が20%よりも少ないため、インクを吐出する際にインクの加熱によりインクが白濁してしまい、インク2の物性が損なわれ、白抜け等が生じ、且つ吐出安定性が低下した。
【0197】
比較例6では、EBPD−EOの分子中にエチレンオキサイドの合計ユニット数(m+n)が14であり、エチレンオキサイドの合計ユニット数が10によりも大きいため、EBPD−EOの親水性が高くなり、界面活性能が低下し、微小な泡が発生して吐出安定性が低下した。また、比較例6では、EBPD−EOの分子中にエチレンオキサイドの合計ユニット数が12によりも大きいため、インク2の濡れ性が良好な状態とならず、境界でにじみが生じたり、色むらが生じ、境界にじみ及び混色ベタ斑の評価が悪かく、光学濃度も低下した。
【0198】
比較例7では、用いたオルフィンE1010は泡立ちやすく、且つ記録紙に対する浸透性が高くなり過ぎてしまう。これにより、比較例7では、インク中に発生した泡により、吐出安定性が低下し、境界で滲んだり、色むらが生じ、境界にじみ及び混色ベタ斑の評価が悪かった。また、比較例7では、記録紙に対する浸透性が高いため、光学濃度が低くなった。
【0199】
これら比較例1〜比較例7に対して、実施例1〜実施例8では、インク中に、EOの合計付加モル数が1以上、10以下の範囲とされたEBPD−EOと、EOの合計ユニット数が3以上、12以下の範囲とされ、分子中におけるEOのユニットの含有量が20質量%以上、40質量%とされたEOPOEOとが含有されていることによって、インク中に微小な泡が発生することが防止され、泡による目詰まりがなく、不吐出や吐出不良が生じず、吐出安定性が良好となった。また、実施例1〜実施例8では、EBPD−EO及びEOPOEOが含有されていることによって、インク吐出ヘッドの内面や記録紙に対する濡れ性が良好となり、泡の排出も容易であり、印刷後の画像の光学濃度が高く、境界でのにじみや色むらがなく、境界にじみ及び混色ベタ斑の評価が良好であった。
【0200】
また、実施例2〜実施例8では、動的表面張力(γ20)が30mN/m以上であり、且つ動的表面張力(γ1)が38mN/m以下になっているため、動的表面張力(γ1)が38mN/m以下となっていない実施例1と比べて、インクの記録紙に対する濡れ性が高いため、光学濃度が高く、境界においてにじみがなく、色むらも生じず、境界にじみ及び混色ベタ斑の評価が良好であった。
【0201】
以上のことから、インクを調製する際に、EOの合計付加モル数が1以上、10以下の範囲とされたEBPD−EOと、EOの合計ユニット数が3以上、12以下の範囲とされ、分子中におけるEOのユニットの含有量が20質量%以上、40質量%とされたEOPOEOとが含有し、動的表面張力(γ20)が30mN/m以上にし、且つ動的表面張力(γ1)を38mN/m以下にすることは、良好な吐出安定性、高い光学濃度、境界にじみがなく、色むらが抑制された高品位な印刷を可能にするインクを調製する上で大変重要であることがわかる。
【図面の簡単な説明】
【0202】
【図1】本発明が適用されたプリンタ装置を示す斜視図である。
【図2】同プリンタ装置に備わるヘッドカートリッジを示す斜視図である。
【図3】同ヘッドカートリッジを示す断面図である。
【図4】EOPOEPO中におけるEOの含有量と、POの全分子量との関係を示す散布図である。
【図5】同ヘッドカートリッジにインクタンクが装着されたときのインク供給部を示しており、同図(A)は供給口が閉塞された状態を示す模式図であり、同図(B)は供給口が開口された状態を示す模式図である。
【図6】同ヘッドカートリッジにおけるインクタンクとインク吐出ヘッドとの関係を示す模式図である。
【図7】同インクタンクの接続部における弁機構を示しており、同図(A)は弁が閉じた状態を示す断面図であり、同図(B)は弁が開いた状態を示す断面図である。
【図8】同インク吐出ヘッドの構造を示す断面図である。
【図9】同インク吐出ヘッドを示しており、同図(A)は発熱抵抗体に気泡が発生した状態を模式的に示す断面図であり、同図(B)はノズルよりインク液滴を吐出した状態を模式的に示す断面図である。
【図10】同プリンタ装置の一部を透視して示す側面図である。
【図11】同プリンタ装置の制御回路を模式的に示すブロック図である。
【図12】同プリンタ装置の印刷動作を説明するフローチャートである。
【図13】同プリンタ装置において、ヘッドキャップが開いている状態を一部透視して示す側面図である。
【符号の説明】
【0203】
1 インクジェットプリンタ装置、2 インク、3 インクジェットプリンタヘッドカートリッジ、4 装置本体、5 インクタンク、21 カートリッジ本体、27 インク吐出ヘッド、27a 吐出面、51 回路基板 52 ノズルシート、52a ノズル、53 フィルム、54 インク液室、55 発熱抵抗体、56 インク流路、71 制御回路、72 プリンタ駆動部、73 吐出制御部、74 警告部、75 入出力端子、76 ROM、77 RAM、78 制御部
【技術分野】
【0001】
本発明は、対象物に記録を行うために液滴の状態で対象物に付着される記録液、この記録液が収容される液体カートリッジ、この液体カートリッジに収容された記録液を吐出口より液滴の状態にして対象物に吐出する液体吐出装置及び液体吐出方法に関する。
【背景技術】
【0002】
液体吐出装置としては、例えば対象物となる記録紙に対して記録液のインクを吐出させて、画像や文字を記録するインクジェット方式のプリンタ装置がある。このインクジェット方式のプリンタ装置は、低ランニングコスト、装置の小型化、印刷画像のカラー化が容易という利点がある。
【0003】
インクを吐出するインクジェット方式としては、例えばディフレクション方式、キャビティ方式、サーモジェット方式、バブルジェット(登録商標)方式、サーマルインクジェット方式、スリットジェット方式、スパークジェット方式等がある。これらのインクジェット方式は、インクを微小な液滴の状態で吐出させるインク吐出ヘッドの吐出口、いわゆるノズルより吐出させて記録紙に着弾させ、画像や文字等の記録を行う。
【0004】
このようなインクジェット方式のプリンタ装置に用いるインクに対しては、インクを吐出させるノズルの目詰まりを防止することが求められている。ノズルの目詰まり発生は、例えばインク中に生ずる微小な泡が要因になっている。
【0005】
インクには、空気等の気体が所定量溶解するが、温度上昇に伴い気体の溶解度が低下したときに溶解しきれない気体が分離して微小な泡となる。例えばインクジェット方式のプリンタ装置では、インク吐出ヘッド内のインクの温度が上昇すると、液中に溶存していた気体が放出され、インク中に微小な泡が発生する。
【0006】
インク吐出ヘッドでは、このような微少な泡が存在すると、この泡がノズルに詰まりノズルよりインクが吐出されない不吐出となったり、インクの吐出方向がずれてしまうといった吐出不良が生じ、印刷された画像にカスレや白抜けが生じ、印刷画像の品質を低下させる虞がある。
【0007】
特に、サーマル方式及びバブルジェット方式のインクジェット方式は、インクに熱エネルギーを作用させてインクを微小な液滴にしてノズルより吐出させる記録方式である。具体的には、インクを熱エネルギー源のヒーターで急熱し、インクの膜沸騰で生成する気泡の圧力でインクを液滴の状態にして吐出する。このため、インクジェット方式では、ヒーター近傍に熱が蓄積され、インク吐出ヘッド内にあるインクの温度が非常に上昇し易く、インクの不吐出や吐出不良が生じやすい。
【0008】
このような問題を改善するために、例えば下記の特許文献1及び特許文献2には、水性顔料インクに低級アルコールのプロピレンオキサイド付加重合体を配合することが提案されている。しかしながら、これらの提案では、インク中に微少な泡が発生することを十分に抑制することは困難であり、更なる改良が求められている。
【0009】
また、下記の特許文献3には、例えばインク中に高級第2アルコールアルコキシレートのエチレンオキサイド付加物を含有させることが提案されている。このインクは、高周波数駆動時の吐出安定性、記録紙への浸透性および乾燥性に優れているとされている。しかしながら、このインクでは、高級第2アルコールアルコキシレートにエチレンオキサイドのみを付加させた化合物を含有させても、微小な泡によるノズルの目詰まりを改良することは困難である。具体的には、インク中にエチレンオキサイドだけを7モル以上付加させたような化合物を含有した場合、泡立ちが激しく、ノズルの目詰まりも著しくなる。
【0010】
したがって、インクジェット方式に用いるインクには、泡立ちを抑え、ノズルの目詰まりを起こさないといった要求の他に、コピー用紙やレポート用紙などの普通紙、いわゆる上質紙に対して印刷を行った場合、光学濃度の低下、境界滲み、混色ベタ斑等の画像の品質低下が発生しないようにするということも要求されている。
【0011】
このような要求に対しては、例えば下記の特許文献4に、水不溶性色素をスルホン酸(塩)基を有する高分子及び/又はリン酸(塩)基を有する高分子で処理したものを色素として使用し、更にインクにカルボン酸(塩)基を有する高分子を添加することが提案されている。
【0012】
また、下記の特許文献5には、インクにD−マンヌロン酸とL−グルロン酸の比が0.5〜1.2の範囲にあるアルギン酸を配合することが提案されている。
【0013】
更に、特許文献6には、インクにフッ素系またはシリコン系から選ばれる少なくとも1種以上の界面活性剤とアルギン酸塩とを配合することが提案されている。しかしながら、特許文献5及び特許文献6に記載されている提案でも、ノズルの目詰まり及び画像の品質低下を防止する満足な結果を得ることは困難であり、更なる改良が求められている。
【0014】
また、インク中に発生する微少な泡による問題は、記録紙に対して高速印刷を行うことが可能なプリンタ装置、すなわち記録紙の幅と略同じ範囲をインクの吐出範囲としたライン型のプリンタ装置において、より顕著に発生する(例えば、特許文献7を参照。)。
【0015】
ライン型のプリンタ装置は、記録紙の送り方向の略直交方向、すなわち記録紙の幅方向に1列以上のノズルが並設され、記録紙の送り方向と略直交方向に吐出手段を走査しながら印刷を行うシリアル型のプリンタ装置等と異なる。ライン型のプリンタ装置は、例えば記録紙の送り方向を横切るようにインクタンクよりインクを導くインク流路が形成され、インク流路の両側もしくは片側にノズルを有するインク吐出ヘッドが複数配置された構造からなる。ライン型のプリンタ装置では、ノズルが多くなる分、ノズル毎に設けられたヒーターの数も多くなって、微少な泡が発生し易く、且つインクタンクから吐出手段までの間をつなぐインク流路の距離が長くて構造が複雑になるため発生した微少な泡を取り除き難くなっており、微少な泡による不具合が顕著に発生する。
【0016】
ライン型のプリンタ装置においては、ノズルが複数並設されたノズルライン毎のインクの吐出周期が極めて短いため、記録紙への浸透性に優れたインクを用いる必要がある。ライン型のプリンタ装置では、記録紙への浸透性に優れたインクを普通紙等に用いた場合、インクが普通紙の深さ方向、すなわち厚み方向に染込み過ぎることから光学濃度が低下する虞がある。
【0017】
また、ライン型のプリンタ装置では、例えば異なる色のインクを吐出して記録紙に印刷する、いわゆるカラー印刷を行う場合、記録紙に着弾したインクが十分に紙の内部へ浸透しないうちに次色の液滴が次々と着弾されることから各色間に境界滲みや混色ベタ斑が発生する虞がある。
【0018】
【特許文献1】特開2001−2964号公報
【特許文献2】特開平10−46075号公報
【特許文献3】特開平7−70491号公報
【特許文献4】特開2000−154342号公報
【特許文献5】特開平8−290656号公報
【特許文献6】特開平8−193177号公報
【特許文献7】特開2002−36522号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0019】
本発明は、泡立ちを抑え、吐出安定性に優れ、光学濃度が高く、境界滲みや混色ベタ斑の無い、高品位な印刷が可能な記録液、この記録液が収容される液体カートリッジ、この液体カートリッジに収容された記録液を用いて高品位な印刷を行える液体吐出装置及び液体吐出方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0020】
本発明に係る記録液は、対象物に記録を行うために液滴の状態で当該対象物に付着され、色素と、色素を溶解又は分散させる溶媒と、下記の化学式1及び化学式2に示す化合物のそれぞれ少なくとも1種類以上を含有することを特徴とする。
【0021】
【化1】
【0022】
【化2】
【0023】
また、本発明に係る液体カートリッジは、液体容器に収容された記録液を液滴の状態で吐出し、対象物に付着させることで記録を行う液体吐出装置に設けられる液体吐出ヘッドに装着され、液体吐出ヘッドに対し、記録液の供給源となり、記録液には、色素と、色素を溶解又は分散させる溶媒と、上記の化学式1及び化学式2に示す化合物のそれぞれ少なくとも1種類以上が含有されていることを特徴とする。
【0024】
また、本発明に係る液体吐出装置は、装置本体と、装置本体に設けられ、記録液を貯留する液室と、液室に上記記録液を供給する供給部と、液室に1つ以上設けられ、液室に貯留された記録液を押圧する圧力発生素子と、圧力発生素子により押圧された記録液を各液室から液滴の状態で対象物の主面に向かって吐出させる吐出口とを有する液体吐出ヘッドと、液体吐出ヘッドに接続され、供給部に対して記録液の供給源となる液体カートリッジとを備え、記録液には、色素と、色素を溶解又は分散させる溶媒と、上記の化学式1及び化学式2に示す化合物のそれぞれ少なくとも1種類以上が含有されていることを特徴とする。
【0025】
また、本発明に係る液体吐出方法は、装置本体と、装置本体に設けられ、記録液を貯留する液室と、液室に上記記録液を供給する供給部と、液室に1つ以上設けられ、液室に貯留された記録液を押圧する圧力発生素子と、圧力発生素子により押圧された記録液を各液室から液滴の状態で対象物の主面に向かって吐出させる吐出口とを有する液体吐出ヘッドと、液体吐出ヘッドに接続され、供給部に対して記録液の供給源となる液体カートリッジとを備える液体吐出装置によるものであり、色素と、色素を溶解または分散させる溶媒と、上記の化学式1及び化学式2に示す化合物のそれぞれ少なくとも1種類以上を含有する上記記録液を吐出することを特徴とする。
【発明の効果】
【0026】
本発明によれば、記録液中に化学式1に示す2−エチル−2−ブチル−1,3−プロパンジオールのエチレンオキサイド付加体及び化学式2に示すエチレンオキサイド/プロピレンオキサイド共重合体のそれぞれ少なくとも1種類以上を含有させることにより、記録液中に微少な泡が生じることを抑え、且つ対象物に対する濡れ性を向上させることができる。
【0027】
これにより、本発明によれば、記録液に微少な泡が生じることを抑制できることから、微少な泡による記録液の不吐出や吐出方向が曲がったり等といった吐出不良を防止でき、白抜け等のない高品位な画像を記録することができる。また、本発明では、濡れ性を向上させることができることにより、文字や画像などを多色印刷しても光学濃度が高く、境界にじみや混色ベタ斑のない、高品位な画像を記録することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0028】
以下、本発明が適用されたインク、液体カートリッジ、液体吐出装置及び液体吐出方法について、図面を参照して説明する。図1に示すインクジェットプリンタ装置(以下、プリンタ装置と記す。)1は、所定の方向に走行する記録紙Pに対してインク等を吐出して画像や文字を印刷するものである。また、このプリンタ装置1は、記録紙Pの印刷幅に合わせて、記録紙Pの幅方向、すなわち図1中矢印W方向にインク吐出口(ノズル)を略ライン状に並設した、いわゆるライン型のプリンタ装置である。
【0029】
このプリンタ装置1は、図2及び図3に示すように、記録紙Pに対して画像や文字等を記録する記録液であるインク2を吐出するインクジェットプリンタヘッドカートリッジ(以下、ヘッドカートリッジと記す。)3と、このヘッドカートリッジ3を装着する装置本体4とを備える。プリンタ装置1は、ヘッドカートリッジ3が装置本体4に対して着脱可能であり、更に、ヘッドカートリッジ3に対してインク供給源となり、インク2を収容する液体カートリッジであるインクタンク5y,5m,5c,5kが着脱可能となっている。このプリンタ装置1では、イエローのインクタンク5y、マゼンタのインクタンク5m、シアンのインクタンク5c、ブラックのインクタンク5kが使用可能となっており、また、装置本体4に対して着脱可能なヘッドカートリッジ3と、ヘッドカートリッジ3に対して着脱可能なインクタンク5y,5m,5c,5kとを消耗品として交換可能になっている。
【0030】
このようなプリンタ装置1では、記録紙Pを積層して収納するトレイ65aを装置本体4の前面底面側に設けられたトレイ装着部6に装着することにより、トレイ65aに収納されている記録紙Pがトレイ装着部6の給紙口65から装置本体4内に送り込まれ、装置本体4内を走行する。プリンタ装置1では、装置本体4内を走行する記録紙Pに対して、パーソナルコンピュータ等の情報処理装置より入力された文字データや画像データに応じた印刷データが文字や画像として印刷し、装置本体4の前面側の排紙口66に送り出す。
【0031】
印刷するときの記録液となるインク2には、色素と、この色素を溶解又は分散させる溶媒と、後述する化学式1に示す2−エチル−2−ブチル−1,3−プロパンジオールのエチレンオキサイド付加体及び化学式2に示すエチレンオキサイド/プロピレンオキサイド共重合体のそれぞれ少なくとも1種類以上の界面活性剤が含有されている。
【0032】
色素としては、従来公知の染料、顔料、着色ポリマー微粒子等を単独で、又は混合して用いることができるが、特に水溶性染料を用いることが好ましい。水溶性染料としては、酸性染料、直接染料、塩基性染料、反応性染料、食用染料のいずれを用いてもよいが、水への溶解度、発色性や堅牢性などの観点から適宜選択することが好ましい。
【0033】
具体的に、イエロー系の水溶性染料としては、例えばC.I.アシッドイエロー17、同23、同42、同44、同79、同142、C.I.フードイエロー3、同4、C.I.ダイレクトイエロー1、同12、同24、同26、同33、同44、同50、同86 、同120、同132、同142、同144、C.I.ダイレクトオレンジ26、同29、同62、同102、C.I.ベーシックイエロー1、同2、同11、同13、同14、同15、同19、同21、同23、同24、同25、同28、同29、同32、同36、同40、同41、同45、同49、同51、同53、同63、同64、同65、同67、同70、同73、同77、同87、同91、C.I.リアクティブイエロー1、同5、同11、同13、同14、同20、同21、同22、同25、同40、同47、同51、同55、同65、同67等を用いることができる。
【0034】
マゼンダ系の水溶性染料としては、例えばC.I.アシッドレッド1、同8、同13、同14、同18、同26、同27、同35、同37、同42、同52、同82、同87、同89、同92、同97、同106、同111、同114、同115、同134、同186、同249、同254、同289、C.I.フードレッド7、同9、同14、C.I.ダイレクトレッド1、同4、同9、同13、同17、同20、同28、同31、同39、同80、同81、同83、同89、同225、同227、C.I.ベーシックレッド2、同12、同13、同14、同15、同18、同22、同23、同24、同27、同29、同35、同36、同38、同39、同46、同49、同51、同52、同54、同59、同68、同69、同70、同73、同78、同82、同102、同104、同109、同112、C.I.リアクティブレッド1、同14、同17、同25、同26、同32、同37、同44、同46、同55、同60、同66、同74、同79、同96、同97等を用いることができる。
【0035】
シアン系の水溶性染料としては、例えばC.I.アシッドブルー9、同29、同45、同92、同249、C.I.ダイレクトブルー1、同2、同6、同15、同22、同25、同71、同76、同79、同86、同87、同90、同98、同163、同165、同199、同202、C.I.ベーシックブルー1、同3、同5、同7、同9、同21、同22、同26、同35、同41、同45、同47、同54、同62、同65、同66、同67、同69、同75、同77、同78、同89、同92、同93、同105、同117、同120、同122、同124、同129、同137、同141、同147、同155、C.I.リアクティブブルー1、同2、同7、同14、同15、同23、同32、同35、同38、同41、同63、同80、同95等を用いることができる。
【0036】
ブラック系の水溶性染料としては、例えばC.I.アシッドブラック1、同2、同7、同24、同26、同94、C.I.フードブラック1、同2、C.I.ダイレクトブラック19、同22、同32、同38、同51、同56、同71、同74、同75、同77、同154、同168、同171、C.I.ベーシックブラック2、同8、C.I.リアクティブブラック3、同4、同7、同11、同12、同17等を用いることができる。
【0037】
色素の含有量は、インク2全質量に対して1質量%〜10質量%の範囲であり、より好ましくは3質量%〜5質量%の範囲である。この色素の含有量は、インク2の粘度、乾燥性、吐出安定性、発色性や印画物の保存物性などを考慮して決定する。
【0038】
溶媒としては、主に水を使用するが、インク2に所望の物性を与え、色素の水への溶解性や分散性を改善し、且つインク2の乾燥を防止する等の目的で従来公知の有機溶媒を用いることができる。
【0039】
具体的に、有機溶剤としては、例えばエタノール、2−プロパノール等の低級アルコール類や、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、1,5−ペンタンジオール、1,6ヘキサンジオール、グリセロール、1,2,6−ヘキサントリオール、1,2,4−ブタントリオール、ペトリオール等の多価アルコール類や、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、テトラエチレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル等の多価アルコールアルキルエーテル類や、エチレングリコールモノフェニルエーテル、エチレングリコールモノベンジルエーテル等の多価アルコールアリルエーテル類や、N−メチル−2−ピロリドン、N−ヒドロキシエチル−ピロリドン、1,3−ジメチルイミダゾイリジノン、ε−カプロラクタム、γ−ブチロラクトン等の含窒素複素環化合物や、ホルムアミド、N−メチルホルムアミド、N,N−ジメチルホルムアミド等のアミド類や、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、モノエチルアミン、ジエチルアミン、トリエチルアミン等のアミン類や、ジメチルスルホキシド、スルホラン、チオジエタノール等の含硫黄化合物類等を挙げることができる。
【0040】
有機溶剤の含有量は、インク2全質量に対して5質量%〜50質量%の範囲であり、より好ましくは10質量%〜35質量%の範囲である。有機溶剤の含有量は、インク2の粘度、乾燥性や吐出安定性などを考慮して決定される。
【0041】
上述した色素、有機溶剤の他にインク2には、下記の化学式(1)に示される2−エチル−2−ブチル−1,3−プロパンジオールのエチレンオキサイド付加体(以下、EBPD−EOとする)、及び下記の化学式(2)に示されるエチレンオキサイド/プロピレンオキサイド共重合体(以下、EOPOEOとする)のそれぞれ少なくとも1種類以上の界面活性剤が含有されている。
【0042】
【化3】
【0043】
【化4】
【0044】
このEBPD−EO及びEOPOEOは、共にインク2中に微小な泡の発生を抑制でき、インク2の濡れ性を良好することができる。特に、EBPRD−EOは、インク2の濡れ性を良好にすることができ、EOPOEOは、インク2中に微小な泡が発生することを抑制できる。
【0045】
具体的に、化学式(1)で表されるEBPD−EOは、EBPD−EO中のエチレンオキサイド(以下、EOとする)の合計付加モル数(m+n)は1以上、10以下の範囲であり、より好ましくは2以上、4以下の範囲である。EBPD−EOは、各種金属やプラスチック部材表面への濡れ性に優れるため、インク2中の微小な泡が後述するインクカートリッジ3内の内面に付着してしまうことを回避できる。また、このEBPD−EOは、記録紙Pに対する濡れ性も優れているため、記録紙Pにインク2が着弾して画像や文字等を記録したとき、即ち印刷したときに得られる画像の光学濃度が高くなり、境界にじみや混色ベタ斑の発生を抑制でき、高品位に印刷された画像を形成することができる。
【0046】
EOの合計付加モル数(m+n)が1未満の場合には、EBPD−EOの水に対する溶解性が劣り、インク2中で相分離し易く吐出するインク2の物性が損なわれてしまう。一方、EOの合計付加モル数(m+n)が10より大きい場合には、逆にEBPD−EOの親水性が高くなり過ぎるため、界面活性剤の機能が低下してインク2中に微小な泡が発生を防止できないばかりか、インク2の粘度を増加させてしまう。
【0047】
したがって、インク2では、EBPD−EOPOEOの合計付加モル数(m+n)を1以上、10以下にすることによって、インク2中に泡が発生することを抑制し、インク2の濡れ性を良好にして、画像の光学濃度が高い、境界にじみや混色ベタ斑が抑制された高品位な画像を形成することができる。
【0048】
化学式(2)で表されるエチレンオキサイド/プロピレンオキサイド共重合体(以下、EOPOEOとする)は、エチレンオキサイド(EO)の合計ユニット数(x+z)は3以上、12以下の範囲であり、より好ましくは3以上、10以下の範囲であり、EOPOEOの分子中のEOの合計ユニットの含有量が20質量%以上、40質量%以下の範囲である。また、EOPOEOは、プロピレンオキサイド(以下、POとする)のユニット数(y)が8以上、21以下の範囲であり、より好ましくは8以上、16以下の範囲である。即ち、EOPOEOのうちPOのユニットの全分子量は、POの1つのユニットの分子量が58であることあることから、464以上、1218以下である。
【0049】
EOPOEOは、インク2中の微小な泡の発生を抑制することができる。これにより、インク2では、微小な泡がノズル52aに詰まりインク2が吐出されなかったり、インク2の吐出方向がずれたりといった吐出不良が防止され優れた吐出安定性が得られる。
【0050】
EOの合計ユニット数(x+z)が3より小さい場合やEOの合計ユニットの含有量が20質量%よりも少ない場合には、EOPOEOの水に対する溶解性が劣り、暖機状態においてインク2が白濁してしまい、インク2の物性が損なわれてしまう。
【0051】
一方、EOの合計ユニット数(x+z)が10より大きい場合やEOの合計ユニットの含有量が40質量%よりも多い場合には、EOPOEOの親水性が高くなり過ぎるため、界面活性剤の機能が低下してインク2中に微小な泡が発生することを抑制することが困難となる。
【0052】
また、EOPOEOにおいて、POのユニット数(y)が8より小さい場合、即ちPOのユニットの全分子量が464よりも小さい場合には、EOPOEOの親水性が高くなり、水に溶解しやすくなるが、界面活性能が低下し、微小な泡の発生を抑制することができなくなる。
【0053】
一方、POのユニット数(y)が21より大きい場合、即ちPOのユニットの全分子量が1218よりも大きい場合には、EOPOEOが疎水性となり、常温でも溶けにくくなり、暖機状態においてインク2が白濁し、インク2の物性が低下してしまう。
【0054】
したがって、EOPOEOでは、EOの合計ユニット数(x+z)は3以上、12以下の範囲であり、EOPOEOの分子中のEOの合計ユニットの含有量が20質量%以上、40質量%以下の範囲とし、POのユニット数(y)が8以上、21以下の範囲、即ちPOのユニットの全分子量を464以上、1218以下とすることによって、インク2の物性を損なうことなくインク2中に微小な泡の発生を抑えることができる。これにより、インク2では、微小な泡によるノズル52aの目詰まりが防止され、吐出安定性が向上する。
【0055】
ここで、EOPOEO中におけるEOの含有量(EOwt%)と、POの全分子量(POMw)との関係を図4に示す。図4中において、太枠が囲んだ領域がEO含有量が20質量%以上、40質量%の範囲であり、POのユニットの全分子量が464以上、1218以下である。インク2では、この太枠内の領域に入るEO含有量とPOのユニットの分子量との関係を満たすEOPOEOが含有されている場合、上述したようにインク2中に微小な泡が発生することが抑えられ、泡によるノズル52aの目詰まりが防止され、吐出安定性が良好となり、インク2の物性が損なわれることも防止される。また、この太枠内の領域に入るEO含有量とPOのユニットの分子量との関係を満たすEOPOEOを用いた場合には、インク2の濡れ性が良好となるため、微小な泡が発生した場合であってもインク吐出ヘッド内に留まることなく、排出することができ、また記録紙Pに対する濡れ性も良好となるため、印画品位を向上させることができる。
【0056】
具体的に、図4中のプロット1(図4中P1)からプロット10(図4中P7)は、以下の表1に示すように、EOPOEO中におけるEOの含有量が20質量%以上、40質量%以上の範囲のものであり、POのユニットの全分子量が464以上、1218以下である。
【0057】
【表1】
【0058】
プロット1からプロット9の各プロットで示すEOPOEOを用いた場合には、吐出安定性が良好となり、インク2の濡れ性が良好である。
【0059】
一方、プロット11に示すEOPOEOを用いた場合には、EOPOEO中のEOの含有量が18.9質量%であり、エチレンオキサイドの含有量が少ないため、上述したようにEOPOEOの水に対する溶解性が低下し、インク2中で相分離し易く、インク2が白濁してしまい吐出するインク2の物性が損なわれてしまう。
【0060】
プロット12に示すEOPOEOを用いた場合には、EOPOEO中におけるPOのユニットの全分子量が1334であり、POのユニットの全分子量が1218よりも大きいため、上述したようにEOPOEOが疎水性となり、常温でも溶けにくくなり、インク2が白濁したりしてインク2の物性が損なわれてしまう。
【0061】
プロット13に示すEOPOEOを用いた場合には、EOPOEO中におけるPOのユニットの全分子量が406であり、POのユニットの全分子量が464よりも小さいため、上述したようにEOPOEOの親水性が高くなり、水に溶解しやすくなるため、界面活性能が低下し、微小な泡が発生してしまう。
【0062】
プロット14及びプロット15に示すEOPOEOを用いた場合には、EOPOEO中のEOの含有量が41.2質量%及び43.1質量%であり、EOの含有量が多いため、上述したようにEOPOEOの親水性が高くなり過ぎ、界面活性剤の機能が低下してインク2中に微小な泡が発生し、更にインク2の粘度を増加してしまう。
【0063】
これらのことから、EOPOEOでは、EOの合計ユニット数(x+z)を3以上、12以下の範囲とし、EOPOEOの分子中のEOの合計ユニットの含有量を20質量%以上、40質量%以下の範囲とし、POのユニット数(y)を8以上、21以下の範囲、即ちPOのユニットの全分子量を464以上、1218以下の範囲とすることによって、インク2の物性を低下させることなく、微小な泡の発生を抑制できる。
【0064】
また、上述した構成のEOPOEO中におけるEOの合計ユニット(x+z)と、POのユニット(y)との比は、(x+z)/yとして、具体的に3〜6/7,3〜7/8,3〜7/9,4〜8/10,4〜9/11,4〜10/12,5〜11/13,5〜12/14,5〜12/15,6〜12/16,6〜12/17,6〜12/18,7〜12/19,7〜12/20,7〜12/21などである。これら各種EOPOEOは、概ね分子量1700以下であり、より好ましくは1300以下であり、1700を超えるような高分子量であるとインクの粘度が増加するため好ましくない。
【0065】
上述したEBPD−EOおよびEOPOEOの添加量は、インク2全質量に対して各々0.05質量%〜5質量%の範囲であり、より好ましくは0.1質量%〜2質量%の範囲である。各化合物の添加量が0.05質量%よりも小さい場合には、微小な泡の発生を抑えたり、インク2の白濁を防止したりすることができず、化学式(1)及び化学式(2)を含有させた際の効果が得られなくなってしまう。一方、各化合物の添加量が5質量%よりも大きい場合には、インク2が増粘してしまう。
【0066】
また、EBPD−EOと、EOPOEOとの合わせた両化合物合計では、インク2全質量に対して0.1質量%〜5質量%、より好ましくは0.2質量%〜3質量%である。両化合物の添加比率としては、10:90〜90:10、より好ましくは30:70〜70:30である。
【0067】
以上のことから、インク2では、化学式(1)に示すEBPD−EOと、化学式(2)に示すEOPOEOとをそれぞれ少なくとも1種類以上含有されていることにより、インク2の不吐出や吐出不良が防止され、所定の方向に安定してインク2が吐出されるため、白抜き等のない高品位な画像を記録することができる。また、インク2では、化学式(1)及び化学式(2)に示す化合物がそれぞれ少なくとも1種類以上含有されていることによって、各種金属やプラスチック部材、記録紙Pに対する濡れ性が向上し、多色印刷を行っても光学濃度が高く、境界にじみや混色ベタ斑のない高品位な画像を記録することができる。したがって、インク2では、吐出安定性が良好であり、且つ光学濃度が高く、境界にじみや混色ベタ斑のない記録ができる。
【0068】
また、上述した構成からなるインク2は、25℃雰囲気中において、20Hzでの動的表面張力(γ20)、即ち50msec毎に気泡を発生させたときの動的表面張力が30mN/m以上であり、1Hzでの動的表面張力(γ1)、即ち1sec毎に気泡を発生させたときの動的表面張力が38mN/m以下である。このような動的表面張力を有するインク2では、光学濃度がさらに高くなり、境界にじみ及び混色ベタ斑をさらに抑制される。インク2では、20Hzでの動的表面張力(γ20)が30mN/mよりも小さい場合、濡れ性が高くなりすぎ、記録紙Pに着弾した時に記録紙Pの厚み方向に染み込みやすくなり、光学濃度が低下してしまう。また、インク2では、1Hzでの動的表面張力(γ1)が、38mN/mよりも大きい場合、記録紙Pに対して面方向に滲みやすく、境界にじみや混色ベタ斑等が悪くなってしまう。したがって、インク2では、25℃雰囲気中において、20Hzでの動的表面張力(γ20)を30mN/m以上にし、1Hzでの動的表面張力(γ1)を38mN/m以下とすることによって、記録紙Pの厚み方向及び面方向へ適度な染み込みとなり、光学濃度が高く、境界にじみや混色ベタ斑等ない記録することができる。
【0069】
このインク2の動的表面張力の調整は、主に上述したEBPD−EO及びEOPOEOの各々の種類やそれらの添加量で適宜調節することができる。
【0070】
また、上述した化学式(1)及び化学式(2)に示す化合物の他に、この化学式(1)及び化学式(2)によって得られる作用効果を阻害しない範囲で、従来公知の界面活性剤を添加することができる。具体的に、従来公知の界面活性剤としては、例えば多環フェノールエトキシレート等の特殊フェノール型非イオン界面活性剤や、グリセライトのエチレンオキサイド付加物、ポリエチレングリコールオレート、ポリオキシアルキレンタロエート、ソルビタンラウリルエステル、ソルビタンオレイルエステル、ポリオキシエチレンソルビタンオレイルエステル等のエステル型非イオン界面活性剤や、ヤシ油脂肪酸ジエタノールアマイド、ポリオキシエチレンヤシ油脂肪酸モノエタノールアマイド等のアマイド型非イオン界面活性剤や、アセチレングリコール及びそのエチレンオキサイド付加物や、アルコールサルフェートナトリウム塩、高級アルコールサルフェートナトリウム塩、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル硫酸エステルアンモニウム塩、アルキルベンゼンスルフォン酸ナトリウム塩等の陰イオン界面活性剤や、モノ長鎖アルキルカチオン、ジ長鎖アルキルカチオン、アルキルアミンオキサイド等の陽イオン界面活性剤や、ラウリルアミドプロピル酢酸ベタイン、ラウリルアミノ酢酸ベタイン等の両性界面活性剤等を挙げることができ、これら従来公知の界面活性剤を単独或いは混合して用いることができる。
【0071】
上述した従来公知の界面活性剤は、インク2中に含有された上述のEBPD−EOおよびEOPOEOの全体に対して30質量%以下、より好ましくは20質量%以下で添加させる。従来公知の界面活性剤が30質量%を超えて添加されると、光学濃度が低下し、境界にじみや混色ベタ斑が生じるからである。
【0072】
なお、動的表面張力の測定は、例えば特開昭63−31237号公報に記載されているような従来公知の動的表面張力の測定原理に基づき作製された動的表面張力計等により測定できる。具体的には、例えば最大泡圧力法で動的表面張を測定可能なKruss社製のバブルプレッシャー動的表面張力計(商品名:BP−2)や、LAUDA社製の動的表面張測定装置(商品名:MPT2)等を挙げることができる。
【0073】
インク2では、上述したEBPD−EOを含有し、更に25℃雰囲気中において、20Hzでの動的表面張力(γ20)を30mN/m以上にし、1Hzでの動的表面張力(γ1)を38mN/m以下とすることによって、上述した−エチル−2−ブチル−1,3−プロパンジオールのエチレンオキサイド付加体と、動的表面張力とのそれぞれの作用効果が相まって、さらに記録紙Pへの浸透速度、換言すると記録紙Pにおけるパルプ繊維に沿った記録紙Pの面方向および厚み方向へのインク2の着弾位置からの広がりが均一となる。
【0074】
なお、インク2には、上述した色素、溶媒、界面活性剤となるEBPD−EOおよびEOPOEO、従来公知の界面活性剤等の他に、例えば粘度調整剤、pH調整剤、防腐剤、防錆剤、防かび剤等を添加させることも可能である。
【0075】
具体的に、粘度調整剤、pH調整剤等としては、例えばゼラチン、カゼイン等のタンパク質、アラビアゴム等の天然ゴム、メチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシメチルセルロース等のセルロース誘導体、リグニンスルホン酸塩、セラック等の天然高分子、ポリアクリル酸塩、スチレン−アクリル酸共重合塩、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン等が挙げられ、これらを単独或いは混合して用いることができる。また、防腐剤、防錆剤、防かび剤等としては、例えば安息香酸、ジクロロフェン、ヘキサクロロフェン、ソルビン酸、p−ヒドロキシ安息香酸エステル、エチレンジアミン四酢酸(EDTA)等が挙げられ、これらを単独或いは混合して用いることができる。
【0076】
以上のような構成のインク2を調製する際は、上述した色素と、溶媒と、EBPD−EOおよびEOPOEOのそれぞれ少なくとも1種類以上を所定の配合比で混合し、常温又は40℃〜80℃に加熱ながらスクリュー等で攪拌、分散させることで調製できる。
【0077】
そして、以上で説明したインク2は、図2及び図3に示すように、イエローインクがインクタンク5yに収容され、マゼンタインクがインクタンク5mに収容され、シアンインクがインクタンク5cに収容され、ブラックインクがインクタンク5kに収容される。
【0078】
次に、上記したプリンタ装置1を構成する装置本体2に対して着脱可能なヘッドカートリッジ3と、このヘッドカートリッジ3に着脱可能にされたインクタンク5y,5m,5c,5kとについて図面を参照して説明する。
【0079】
記録紙Pに印刷を行うヘッドカートリッジ3は、図1に示すように、装置本体4の上面側から、すなわち図1中矢印A方向から装着され、記録紙Pに対してインク2を吐出して印刷を行う。
【0080】
ヘッドカートリッジ3は、上記したインク2を、例えば電気熱変換式又は電気機械変換式等を用いた圧力発生手段が発生した圧力により微細に粒子化して吐出し、記録紙P等といった対象物の主面に液滴状態にしたインク2を吹き付ける。具体的に、ヘッドカートリッジ3は、図2及び図3に示すように、カートリッジ本体21を有し、このカートリッジ本体21にインク2が充填された容器であるインクタンク5y,5m,5c,5kが装着される。なお、以下では、インクタンク5y,5m,5c,5kを単にインクタンク5ともいう。
【0081】
ヘッドカートリッジ3に着脱可能なインクタンク5は、強度や耐インク性を有するポリプロピレン等の樹脂材料等を射出成形することにより成形されるタンク本体11を有している。このタンク本体11は、長手方向を使用する記録紙Pの幅方向の寸法と略同じ寸法となす略矩形状に形成され、内部に貯留するインク容量を最大限に増やす構成となっている。
【0082】
具体的に、インクタンク5を構成するタンク本体11には、インク2を収容するインク収容部12と、インク収容部12からヘッドカートリッジ3のカートリッジ本体21にインク2を供給するインク供給部13と、外部よりインク収容部12内に空気を取り込む外部連通孔14と、外部連通孔14より取り込まれた空気をインク収容部12内に導入する空気導入路15と、外部連通孔14と空気導入路15との間でインク2を一時的に貯留する貯留部16と、インクタンク5をカートリッジ本体21に係止するための係止突部17及び係合段部18とが設けられている。
【0083】
インク収容部12は、気密性の高い材料によりインク2を収容するための空間を形成している。インク収容部12は、略矩形に形成され、長手方向の寸法が使用する記録紙Pの幅方向、すなわち図2中矢印W方向で略同じ寸法となるように形成されている。
【0084】
インク供給部13は、インク収容部12の下側略中央部に設けられている。このインク供給部13は、インク収容部12と連通した略突形状のノズルであり、このノズルの先端が後述するヘッドカートリッジ3の接続部26に嵌合されることにより、インクタンク5のタンク本体11とヘッドカートリッジ3のカートリッジ本体21を接続する。
【0085】
インク供給部13は、図5(A)及び図5(B)に示すように、インクタンク5の底面13aにインク2を供給する供給口13bが設けられ、この底面13aに、供給口13bを開閉する弁13cと、弁13cを供給口13bの閉塞する方向に付勢するコイルバネ13dと、弁13cを開閉する開閉ピン13eとを備えている。ヘッドカートリッジ3の接続部26に接続されるインク2を供給する供給口13bは、図5(A)に示すように、インクタンク5がヘッドカートリッジ3のカートリッジ本体21に装着される前の段階において、付勢部材であるコイルバネ13dの付勢力により弁13cが供給口13bを閉じる方向に付勢され閉塞されている。そして、インクタンク5がカートリッジ本体21に装着されると、図5(B)に示すように、開閉ピン13eがヘッドカートリッジ3を構成するカートリッジ本体21の接続部26の上部によりコイルバネ13dの付勢方向とは反対の方向に押し上げられる。これにより、押し上げられた開閉ピン13eは、コイルバネ13dの付勢力に抗して弁13cを押し上げて供給口13bを開放する。このようにして、インクタンク5のインク供給部13は、ヘッドカートリッジ3の接続部26に接続され、インク収容部12とインク溜め部31とを連通し、インク溜め部31へのインク2の供給が可能な状態となる。
【0086】
また、インクタンク5をヘッドカートリッジ3側の接続部26から引き抜くとき、すなわちインクタンク5をヘッドカートリッジ3の装着部22より取り外すときは、弁13cの開閉ピン13eによる押し上げ状態が解除され、弁13cがコイルバネ13dの付勢方向に移動して供給口13bを閉塞する。これにより、インクタンク5をカートリッジ本体21に装着する直前にインク供給部13の先端部が下方を向いている状態であってもインク収容部12内のインク2が漏れることを防止することができる。また、インクタンク5をカートリッジ本体21から引き抜いたときには、直ちに弁13cが供給口13bを閉塞するので、インク供給部13の先端からインク2が漏れることを防止できる。
【0087】
外部連通孔14は、図3に示すように、インクタンク5外部からインク収容部12に空気を取り込む通気口であり、ヘッドカートリッジ3の装着部22に装着されたときも、外部に臨み外気を取り込むことができるように、装着部22への装着時に外部に臨む位置であるタンク本体11の上面の所定の位置に、ここでは上面略中央に設けられている。外部連通孔14は、インクタンク5がカートリッジ本体21に装着されてインク収容部12からカートリッジ本体21側にインク2が流下した際に、インク収容部12内のインク2が減少した分に相当する分の空気を外部よりインクタンク5内に取り込む。
【0088】
空気導入路15は、インク収容部12と外部連通孔14とを連通し、外部連通孔14より取り込まれた空気をインク収容部12内に導入する。これにより、このインクタンク5がカートリッジ本体21に装着された際に、ヘッドカートリッジ3のカートリッジ本体21にインク2が供給されてインク収容部12内のインク2が減少し内部が減圧状態となっても、インク収容部12には、空気導入路15によりインク収容部12に空気が導入されることから、内部の圧力が平衡状態に保たれてインク2をカートリッジ本体21に適切に供給することができる。
【0089】
貯留部16は、外部連通孔14と空気導入路15との間に設けられ、インク収容部12に連通する空気導入路15よりインク2が漏れ出た際に、いきなり外部に流出することがないようにインク2を一時的に貯留する。この貯留部16は、インク収容部12の最も下側に位置に空気導入路15を設けるようにし、インク収容部12より進入したインク2を再度インク収容部12に戻すことができるようにされている。また、貯留部16は、短い方の対角線上の最も下側の頂部に外部連通孔14を設けるようにし、インク収容部12より進入したインク2が外部連通孔14より外部に漏れにくくする。
【0090】
係止突部17は、インクタンク5の短辺の一方の側面に設けられた突部であり、ヘッドカートリッジ3のカートリッジ本体21のラッチレバー24に形成された係合孔24aと係合する。
【0091】
係合段部18は、インクタンク5の係止突部17が設けられた側面の反対側の側面の上部に設けられている。係合段部18は、ヘッドカートリッジ3の装着部22に挿入されると、ヘッドカートリッジ3の装着部22側の係合片23に係合することで、インクタンク5を装着部22に装着する際の回動支点部となる。
【0092】
以上のような構成のインクタンク5は、上記した構成の他に、例えばインク収容部12内のインク2の残量を検出するための残量検出部や、インクタンク5y,5m,5c,5kを識別するための識別部等を備えている。
【0093】
次に、以上のように構成されたイエロー、マゼンタ、シアン、ブラックのインク2を収納したインクタンク5y,5m,5c,5kが装着されるヘッドカートリッジ3について説明する。
【0094】
ヘッドカートリッジ3は、図2及び図3に示すように、上記したインクタンク5とカートリッジ本体21とによって構成され、カートリッジ本体21には、インクタンク5が装着される装着部22y,22m,22c,22k(以下、全体を示すときには単に装着部22ともいう。)と、インクタンク5を固定する係合片23及びラッチレバー24と、インクタンク5を取り出し方向に付勢する付勢部材25と、インク供給部13と接続されてインク2が供給される接続部26と、インク2を吐出するインク吐出ヘッド27と、インク吐出ヘッド27を保護するヘッドキャップ28とを有している。
【0095】
インクタンク5が装着される装着部22は、インクタンク5が装着されるように上面をインクタンク5の挿脱口として略凹形状に形成され、ここでは4本のインクタンク5が記録紙Pの幅方向と略直交方向、すなわち記録紙Pの走行方向に並んで収納されている。装着部22は、インクタンク5が収納されることから、インクタンク5と同様に印刷幅の方向に長く設けられている。カートリッジ本体21には、インクタンク5が収納装着される。
【0096】
装着部22は、図2に示すように、インクタンク5が装着される部分であり、イエローインクのインクタンク5yが装着される部分を装着部22yとし、マゼンタインクのインクタンク5mが装着される部分を装着部22mとし、シアンインクのインクタンク5cが装着される部分を装着部22cとし、ブラックインクのインクタンク5kが装着される部分を装着部22kとし、各装着部22y,22m,22c,22kは、隔壁22aによりそれぞれ区画されている。
【0097】
また、インクタンク5が装着される装着部22の開口端には、図3に示すように、係合片23が設けられている。この係合片23は、装着部22の長手方向の一端縁に設けられており、インクタンク5の係合段部18と係合する。インクタンク5は、インクタンク5の係合段部18側を挿入端として斜めに装着部22内に挿入し、係合段部18と係合片23との係合位置を回動支点として、インクタンク5の係合段部18が設けられていない側を装着部22側に回動させるようにして装着部22に装着することができる。これによって、インクタンク5は、装着部22に容易に装着することができる。
【0098】
ラッチレバー24は、板バネを折曲して形成されるものであり、装着部22の係合片23に対して反対側の側面、すなわち長手方向の他端の側面に設けられている。ラッチレバー24は、基端部が装着部22を構成する長手方向の他端の側面の底面側に一体的に設けられ、先端側がこの側面に対して近接離間する方向に弾性変位するように形成され、先端側に係合孔24aが形成されている。ラッチレバー24は、インクタンク5が装着部22に装着されると同時に、弾性変位し、係合孔24aがインクタンク5の係止突部17と係合し、装着部22に装着されたインクタンク5が装着部22より脱落しないようにする。
【0099】
付勢部材25は、インクタンク5の係合段部18に対応する側面側の底面上にインクタンク5を取り外す方向に付勢する板バネを折曲して設けられる。付勢部材25は、インクタンク5の底面を押圧し、装着部22に装着されているインクタンク5を装着部22より取り外す方向に付勢するイジェクト部材である。付勢部材25は、ラッチレバー24の係合孔24aと係止突部17との係合状態が解除されたとき、装着部23よりインクタンク5を取り外す。
【0100】
各装着部22y,22m,22c,22kの長手方向略中央には、インクタンク5y,5m,5c,5kが装着部22y,22m,22c,22kに装着されたとき、インクタンク5y,5m,5c,5kのインク供給部13が接続される接続部26が設けられている。この接続部26は、装着部22に装着されたインクタンク5のインク供給部13からカートリッジ本体21の底面に設けられたインク2を吐出するインク吐出ヘッド27にインク2を供給するインク供給路となる。
【0101】
具体的に、接続部26は、図6に示すように、インクタンク5から供給されるインク2を溜めるインク溜め部31と、接続部26に連結されるインク供給部13をシールするシール部材32と、インク2内の不純物を除去するフィルタ33と、インク吐出ヘッド27側への供給路を開閉する弁機構34とを有している。
【0102】
インク溜め部31は、インク供給部13と接続されインクタンク5から供給されるインク2を溜める空間部である。シール部材32は、インク溜め部31の上端に設けられた部材であり、インクタンク5のインク供給部13が接続部26のインク溜め部31に接続されるとき、インク2が外部に漏れないようインク溜め部31とインク供給部13との間を密閉する。フィルタ33は、インクタンク5の着脱時等にインク2に混入してしまった塵や埃等のごみを取り除くものであり、インク溜め部31よりも下流に設けられている。
【0103】
弁機構34は、図7(A)及び図7(B)に示すように、インク溜め部31からインク2が供給されるインク流入路41と、インク流入路41からインク2が流入するインク室42と、インク室42からインク2を流出するインク流出路43と、インク室42をインク流入路41側とインク流出路43側との間に設けられた開口部44と、開口部44を開閉する弁45と、弁45を開口部44の閉塞する方向に付勢する付勢部材46と、付勢部材46の強さを調節する負圧調整ネジ47と、弁45と接続される弁シャフト48と、弁シャフト48と接続されるダイアフラム49とを有する。
【0104】
インク流入路41は、インク溜め部31を介してインクタンク5のインク収容部12内のインク2をインク吐出ヘッド27に供給可能にインク収容部12と連結する供給路である。インク流入路41は、インク溜め部31の底面側からインク室42まで設けられている。
【0105】
インク室42は、インク流入路41、インク流出路43及び開口部44と一体となって形成された略直方体をなす空間部であり、インク流入路41からインク2が流入し、開口部44を介してインク流出路43からインク2を流出する。
【0106】
インク流出路43は、インク室42から開口部44を介してインク2が供給されて、更にインク吐出ヘッド27と連結された供給路である。インク流出路43は、インク室42の底面側からインク吐出ヘッド27まで延在されている。
【0107】
弁45は、開口部44を閉塞してインク流入路41側とインク流出路43側とを分割する弁であり、インク室42内に配設される。弁45は、付勢部材46の付勢力と、弁シャフト48を介して接続されたダイアフラム49の復元力と、インク流出路43側のインク2の負圧によって上下に移動する。弁45は、下端に位置するとき、インク室42をインク流入路41側とインク流出路43側とを分離するように開口部44を閉塞し、インク流出路43に対するインク2の供給を遮断する。弁45は、付勢部材46の付勢力に抗して上端に位置するとき、インク室42をインク流入路41側とインク流出路43側とを遮断せずに、インク吐出ヘッド27へインク2の供給を可能とする。なお、弁45を構成する材質は、その種類を問わないが、高い閉塞性を確保するため例えばゴム弾性体、いわゆるエラストマー等により形成される。
【0108】
付勢部材46は、例えば圧縮コイルバネ等であり、弁45の上面とインク室42の上面との間で負圧調整ネジ47と弁45とを接続し、付勢力により弁45を開口部44の閉塞する方向に付勢する。負圧調整ネジ47は、付勢部材46の付勢力を調整するネジであり、負圧調整ネジ47を調整することで付勢部材46の付勢力を調整することができるようにしている。これにより、負圧調整ネジ47は、詳細は後述するが開口部44を開閉する弁45を動作させるインク2の負圧を調整することができる。
【0109】
弁シャフト48は、一端に接続された弁45と、他端に接続されたダイアフラム49とを連結して運動するように設けられたシャフトである。ダイアフラム49は、弁シャフト48の他端に接続された薄い弾性板である。このダイアフラム49は、インク室42のインク流出路43側の一主面と、外気と接する他主面とからなり、大気圧とインク2の負圧により外気側とインク流出路43側とに弾性変位する。
【0110】
以上のような弁機構34では、図7(A)に示すように、弁45が付勢部材46の付勢力とダイアフラム49の付勢力とによってインク室42の開口部44を閉塞するように押圧されている。そして、インク吐出ヘッド27からインク2が吐出された際には、開口部44で分割されたインク流出路43側のインク室42のインク2の負圧が高まると、図7(B)に示すように、インク2の負圧によりダイアフラム49が大気圧により押し上げられて、弁シャフト48と共に弁45を付勢部材46の付勢力に抗して押し上げる。このとき、インク室42のインク流入路41側とインク流出路43側と間の開口部44が開放され、インク2がインク流入路41側からインク流出路43側に供給される。そして、インク2の負圧が低下してダイアフラム49が復元力により元の形状に戻り、付勢部材46の付勢力により弁シャフト48と共に弁45をインク室42が閉塞するように引き下げる。以上のようにして弁機構34では、インク2を吐出する度にインク2の負圧が高まると、上記の動作を繰り返す。
【0111】
また、この接続部26では、インク収容部12内のインク2がインク室42に供給されると、インク収容部12内のインク2が減少するが、このとき、空気導入路15から外気がインクタンク5内に入り込む。インクタンク5内に入り込んだ空気は、インクタンク5の上方に送られる。これにより、インク液滴iが後述するノズル52aから吐出される前の状態に戻り、平衡状態となる。このとき、空気導入路15内にインク2がほとんどない状態で平衡状態となる。
【0112】
この接続部26では、上記したように複雑な構造になっており、この複雑な弁機構34内をインク2が移動するが、インク2に上述したEBPD−EOとEOPOEOとが含有されていることから、弁機構34の開閉動作やインク2の弁機構34内の移動等でインク2中に微少な泡の発生が抑制されている。これにより、接続部26では、微少な泡が混入されていないインク2をインク吐出ヘッド27に供給することができる。更に、この接続部26では、EBPD−EOとEBPD−EOとが含有されていることにより、インク2の濡れ性が良好となっているため、弁機構34やインク流出路43等の内面に微小な泡が付着することなく、微小な泡の移動が容易になりノズル52aからインク2と共に容易に排出される。
【0113】
インク吐出ヘッド27は、図6に示すように、カートリッジ本体21の底面に沿って配設されており、接続部26から供給されるインク液滴iを吐出するインク吐出口である後述するノズル52aが各色毎、記録紙Pの幅方向、すなわち図6中矢印W方向に略ライン状をなすようにされている。
【0114】
ヘッドキャップ28は、図2に示すように、インク吐出ヘッド27を保護するために設けられたカバーであり、印刷動作するときにはインク吐出ヘッド27より退避する。ヘッドキャップ28は、図2中矢印W方向の両端に開閉方向に設けられた一対の係合突部28aと、長手方向に設けられインク吐出ヘッド27の吐出面27aに付着した余分なインク2を吸い取るクリーニングローラ28bとを有している。ヘッドキャップ28は、係合突部28aがインク吐出ヘッド27の吐出面27aに図2中矢印W方向とは略直交方向に亘って設けられた一対の係合溝27bに係合され、この一対の係合溝27bに沿ってインクタンク5の短手方向、すなわち図2中矢印W方向とは略直交方向に開閉するようにされている。そして、ヘッドキャップ28においては、開閉動作時に、クリーニングローラ28bがインク吐出ヘッド27の吐出面27aに当接しながら回転することで、余分なインク2を吸い取り、インク吐出ヘッド27の吐出面27aをクリーニングする。このクリーニングローラ28bには、例えば吸湿性の高い部材、具体的にはスポンジ、不織布、織布等が用いられる。また、ヘッドキャップ28は、印刷動作しないときにはインク吐出ヘッド27内のインク2が乾燥しないように吐出面27aを閉塞する。
【0115】
インク吐出ヘッド27は、図8に示すように、ベースとなる回路基板51と、複数のノズル52aが形成されたノズルシート52と、回路基板51とノズルシート52との間をノズル52a毎に区画するフィルム53と、インク流出路43を通して供給されたインク2を加圧するインク液室54と、インク液室54に供給されたインク2を加熱する発熱抵抗体55と、インク液室54にインク2を供給するインク流路56とを有している。
【0116】
回路基板51は、シリコン等からなる半導体ウェハ上に、ロジックIC(Integrated Circuit)やドライバートランジスタ等からなる制御回路を構成すると共に、インク液室54の上面部を形成している。
【0117】
ノズルシート52は、厚みが10μm〜15μm程度のシート状部材であり、吐出面27aに向かって縮径され、且つ吐出面27a側の口径が20μm程度のノズル52aが穿設されると共に、回路基板51とフィルム53を挟んで対向配置されることで、インク液室54の下面部を形成している。
【0118】
フィルム53は、例えば露光硬化型のドライフィルムレジストからなり、上記したインク流出路43と連通される部分を除いて各ノズル52aの周囲を囲むように形成されている。また、このフィルム53は、回路基板51とノズルシート52との間に介在されることによって、インク液室54の側面部を形成している。
【0119】
インク液室54は、上記した回路基板51、ノズルシート52及びフィルム53により囲まれることで、ノズル52a毎にインク流出路43から供給されたインク2を加圧する加圧空間を形成している。
【0120】
発熱抵抗体55は、インク液室54に臨む回路基板51に配置されると共に、この回路基板51に設けられた制御回路等と電気的に接続されている。そして、この発熱抵抗体55は、制御回路等により制御されることで発熱し、インク液室54内のインク2を加熱する。
【0121】
インク流路56は、接続部26のインク流出路43と接続されており、接続部26に接続されたインクタンク5からインク2が供給され、このインク流路56に連通する各インク液室54にインク2を送り込む流路である。すなわち、インク流路56と接続部26とが連通されている。これにより、インクタンク5から供給されるインク2がインク流路56に流れ込み、インク液室54内に充填される。
【0122】
上記した1個のインク吐出ヘッド27には、インク液室54毎に発熱抵抗体55が設けられ、発熱抵抗体55が設けられたインク液室54を各色インクタンク5毎に100個〜5000個程度備えている。そして、インク吐出ヘッド27においては、プリンタ装置1の後述する制御部78からの命令によって各インク液室54の発熱抵抗体55それぞれを適宜選択して発熱させ、発熱した発熱抵抗体55に対応するインク液室54内のインク2を、インク液室54に対応するノズル52aからインク液滴iにして吐出させる。
【0123】
具体的に、このインク吐出ヘッド27では、回路基板51の制御回路が発熱抵抗体55を駆動制御し、選択された発熱抵抗体55に対して、例えば1〜3マイクロ秒程度の間パルス電流を供給する。これにより、インク吐出ヘッド27では、発熱抵抗体55が急速に加熱される。すると、インク吐出ヘッド27では、図9(A)に示すように、発熱抵抗体55と接するインク液室54内のインク2に気泡bが発生する。そして、インク吐出ヘッド27では、図9(B)に示すように、このインク液室54内において、気泡bが膨張しながらインク2を加圧し、押し退けられたインク2がインク液滴iとなってノズル52aより吐出される。また、インク吐出ヘッド27においては、インク液滴iが吐出された後は、インク流出路43を通してインク2がインク液室54に供給されることによって、再び吐出前の状態へと戻る。
【0124】
以上のような構成のインク吐出ヘッド27では、上記したように複数備わる発熱抵抗体55の分だけインク2の発熱箇所も多く、微少な泡が発生しやすい状態となるが、インク2に上述したEBPD−EO及びEOPOEOが含有されていることから、例えばインク液室44内のインク2に微少な泡が発生することを抑制でき、インク液滴iの不吐出や吐出曲がり等といった吐出不良を防止できる。
【0125】
また、インク吐出ヘッド27では、発熱抵抗体55によりインク2の温度が常温状態から上昇した際に、上述したEBPD−EO及びEOPOEOの状態が変化することなく、インク2中にEBPD−EO及びEOPOEOが均一に溶解している。これにより、インク吐出ヘッド27では、インク2が白濁したりすることがなく、インク2の物性が安定している。
【0126】
次に、以上のように構成されたヘッドカートリッジ3が装着されるプリンタ装置1を構成する装置本体4について図面を参照して説明する。
【0127】
装置本体4は、図1及び図10に示すように、ヘッドカートリッジ3が装着されるヘッドカートリッジ装着部61と、ヘッドカートリッジ3をヘッドカートリッジ装着部61に保持、固定するためのヘッドカートリッジ保持機構62と、ヘッドキャップを開閉するヘッドキャップ開閉機構63と、記録紙Pを給排紙する給排紙機構64と、給排紙機構64に記録紙Pを供給する給紙口65と、給排紙機構64から記録紙Pが出力される排紙口66とを有する。
【0128】
ヘッドカートリッジ装着部61は、ヘッドカートリッジ3が装着される凹部であり、走行する記録紙にデータ通り印刷を行うため、インク吐出ヘッド27の吐出面27aと走行する記録紙Pの紙面とが互いに略平行となるようにヘッドカートリッジ3が装着される。そして、ヘッドカートリッジ3は、インク吐出ヘッド27内のインク詰まり等で交換する必要が生じる場合等があり、インクタンク5のような交換頻度はないが消耗品であるため、ヘッドカートリッジ装着部61に対して着脱可能にヘッドカートリッジ保持機構62によって保持される。
【0129】
ヘッドカートリッジ保持機構62は、ヘッドカートリッジ装着部61にヘッドカートリッジ3を着脱可能に保持するための機構であり、ヘッドカートリッジ3に設けられたつまみ62aを装置本体4の係止孔62b内に設けられた図示しないバネ等の付勢部材に係止することによって装置本体4に設けられた基準面4aに圧着するようにしてヘッドカートリッジ3を位置決めして保持、固定できるようにする。
【0130】
ヘッドキャップ開閉機構63は、ヘッドカートリッジ3のヘッドキャップ28を開閉する駆動部を有しており、印刷を行うときにヘッドキャップ28を開放してインク吐出ヘッド27が記録紙Pに対して露出するようにし、印刷が終了したときにヘッドキャップ28を閉塞してインク吐出ヘッド27を保護する。
【0131】
給排紙機構64は、記録紙Pを搬送する駆動部を有しており、給紙口65から供給される記録紙Pをヘッドカートリッジ3のインク吐出ヘッド27まで搬送し、ノズル52aより吐出されたインク液滴iが着弾し、印刷された記録紙Pを排紙口66に搬送して装置外部へ排出する。給紙口65は、給排紙機構64に記録紙Pを供給する開口部であり、トレイ65a等に複数枚の記録紙Pを積層しておくことができる。排紙口66は、インク液滴iが着弾し、印刷された記録紙Pを排出する開口部である。
【0132】
次に、以上のように構成されたプリンタ装置1による印刷を制御する図11に示す制御回路71について図面を参照して説明する。
【0133】
制御回路71は、上記した装置本体3のヘッドキャップ開閉機構63、給排紙機構64の駆動を制御するプリンタ駆動部72と、各色のインクiに対応するインク吐出ヘッド27に供給される電流等を制御する吐出制御部73と、各色のインクiの残量を警告する警告部74と、外部装置と信号の入出力を行う入出力端子75と、制御プログラム等が記録されたROM(Read Only Memory)76と、読み出された制御プログラム等を一旦格納し、必要に応じて読み出されるRAM(Random Access Memory)77と、各部の制御を行う制御部78とを有している。
【0134】
プリンタ駆動部72は、制御部78からの制御信号に基づき、ヘッドキャップ開閉機構63を構成する駆動モータを駆動させてヘッドキャップ28を開閉動作するように、ヘッドキャップ開閉機構を制御する。また、プリンタ駆動部72は、制御部78からの制御信号に基づき、給排紙機構64を構成する駆動モータを駆動させて装置本体4の給紙口65から記録紙Pを給紙し、印刷後に排紙口66から記録紙Pを排出するように給排紙機構64を制御する。
【0135】
吐出制御部73は、インク吐出ヘッド27に備わる発熱抵抗体55にパルス電流を供給する外部電源との電気的な接続をオン/オフするスイッチング素子や、発熱抵抗体55に供給されるパルス電流値を調整する抵抗体や、スイッチング素子等のオン/オフの切り替えを制御する制御回路部等を有する電気回路である。そして、吐出制御部73は、制御部78からの制御信号に基づき、インク吐出ヘッド27に備わる発熱抵抗体55に供給されるパルス電流等を調整し、ノズル52aよりインク2を吐出するインク吐出ヘッド27を制御する。
【0136】
警告部74は、例えばLCD(Liquid Crystal Display)等の表示手段であり、印刷条件、印刷状態、インク残量等の情報を表示する。この警告は、情報処理装置79のモニタやスピーカ等で行うようにしてもよい。
【0137】
入出力端子75は、上記した印刷条件、印刷状態、インク残量等の情報をインタフェースを介して外部の情報処理装置79等に送信する。また、入出力端子75は、外部の情報処理装置79等から、上記した印刷条件、印刷状態、インク残量等の情報を出力する制御信号や、印刷データ等が入力される。ここで、上記した情報処理装置79は、例えば、パーソナルコンピュータやPDA(Personal Digital Assistant)等の電子機器である。
【0138】
情報処理装置79等と接続される入出力端子75は、インタフェースとして例えばシリアルインタフェースやパラレルインタフェース等を用いることができる。また、入出力端子75は、情報処理装置79との間で有線通信又は無線通信の何れ形式でデータ通信を行うようにしてもよい。入出力端子75と情報処理装置79との間には、例えばインターネット等のネットワークが介在していてもよい。
【0139】
ROM76は、例えばEP−ROM(Erasable Programmable Read-Only Memory)等のメモリであり、制御部78が行う各処理のプログラムが格納されている。この格納されているプログラムは、制御部78によりRAM77にロードされる。RAM77は、制御部78によりROM76から読み出されたプログラムや、プリンタ装置1の各種状態を記憶する。
【0140】
制御部78は、入出力端子75から入力された印刷データ、ヘッドカートリッジ3から入力されがインク2の残量データ等に基づき、各部を制御する。制御部78は、入力された制御信号等に基づいて各部を制御する処理プログラムをROM76から読み出してRAM77に記憶し、この処理プログラムに基づき各部の制御や処理を行う。
【0141】
なお、以上のように構成された制御回路71においては、ROM76に処理プログラムを格納するようにしたが、処理プログラムを格納する媒体としては、ROM76に限定されるものでなく、例えば処理プログラムが記録された光ディスクや、磁気ディスク、光磁気ディスク、ICカード等の各種記録媒体を用いることができる。この場合に制御回路71は、各種記録媒体を駆動するドライブと直接又は情報処理装置79を介して接続されてこれら記録媒体から処理プログラムを読み出すように構成する。
【0142】
ここで、以上のように構成されるプリンタ装置1の印刷動作について図12に示すフローチャートを参照にして説明する。なお、本動作はROM76等の記憶手段に格納された処理プログラムに基づいて制御部78内の図示しないCPU(Central Processing Unit)の演算処理等により実行されるものである。
【0143】
先ず、ユーザが、印刷動作をプリンタ装置1が実行するように、装置本体4に設けられている操作パネル等を操作して命令する。次に、制御部78は、ステップS1において、各装着部22に所定の色のインクタンク5が装着されているかどうかを判断する。そして、制御部78は、全ての装着部22に所定の色のインクタンク5が適切に装着されているときはステップS2に進み、装着部22においてインクタンク5が適切に装着されていないときはステップS7に進み、印刷動作を禁止する。
【0144】
制御部78は、ステップS2において、インクタンク5内のインク2が所定量以下、すなわちインク無し状態であるか否かを判断し、インク無し状態であると判断されたときは、警告部74でその旨を警告し、ステップS7において、印刷動作を禁止する。一方、制御部78は、インクタンク5内のインク2が所定量以上であるとき、すなわちインク2が満たされているとき、ステップS3において、印刷動作を許可する。
【0145】
印刷動作を行う際は、制御部78がプリンタ駆動部72によって、ヘッドキャップ開閉機構63及び給排紙機構64を駆動制御して記録紙Pを印刷可能な位置まで移動させる。具体的に、制御部78は、図13に示すように、ヘッドキャップ開閉機構63を構成する駆動モータを駆動させてヘッドキャップ28をヘッドカートリッジ3に対してトレイ65a側に移動させ、インク吐出ヘッド27のノズル52aを露出させる。そして、制御部78は、給排紙機構64を構成する駆動モータを駆動させて記録紙Pを走行させる。具体的に、制御部78は、トレイ65aから給紙ローラ81によって記録紙Pを引き出し、互いに反対方向に回転する一対の分離ローラ82a,82bによって引き出された記録紙Pの一枚を反転ローラ83に搬送して搬送方向を反転させた後に搬送ベルト84に記録紙Pを搬送し、搬送ベルト84に搬送された記録紙Pを押さえ手段85が所定の位置で保持させることでインク2が着弾される位置が決定されるように給排紙機構64を制御する。
【0146】
次に、制御部78は、S4において吐出制御部73によってインク吐出ヘッド27を制御し、この印刷位置に搬送された記録紙Pに対してノズル52aよりインク液滴iを吐出、着弾させてインクドットからなる画像や文字等を記録させる。
【0147】
このとき、インク吐出ヘッド27では、インク2に上述したEBPD−EOとEOPOEOとが含有されていることから、例えば弁機構34eの開閉動作やインク流出路43内等の移動でインク2中に微少な泡が生じることが抑制され、ノズル52aに泡が目詰まりすることが防止されている。これにより、インク吐出ヘッド27では、インク液滴iの不吐出や吐出曲がり等といった吐出不良を防止できる。
【0148】
また、インク吐出ヘッド27では、微小な泡が生じて弁機構34やインク流出路43の内面に微小な泡が付着しても、含有されているEBPD−EO及びEOPOEOにより、インク2の濡れ性が良好となっているため、微小な泡の移動が容易になりノズル52aから微小な泡がインク液滴iと共に容易に排出される。
【0149】
更に、インク吐出ヘッド27では、インク2中にEBPD−EOとEOPOEOとが含有されていることから、光学濃度が高くなり、且つ境界にじみや混色ベタ斑の発生が抑制された高品位な画質になる。
【0150】
そして、インク液滴iがノズル52a吐出されると、インク液滴iを吐出した量と同量のインク2がインク流路56から直ちにインク液室54内に補充され、図7(A)に示すように、元の状態に戻る。インク吐出ヘッド27からインク液滴iが吐出されると、付勢部材46の付勢力とダイアフラム49の付勢力とによってインク室42の開口部44を閉塞している弁45は、図7(B)に示すように、インク吐出ヘッド27からインク液滴iが吐出された際に、開口部44に分割されたインク流出路43側のインク室42内のインク2の負圧が高まると、インク2の負圧によりダイアフラム49が大気圧により押し上げられて、弁シャフト48と共に弁45を付勢部材46の付勢力に抗して押し上げる。このとき、インク室42のインク流入路41側とインク流出路43側との間の開口部44が開放され、インク2がインク流入路41側からインク流出路43側に供給され、インク吐出ヘッド27のインク流路56にインク2が補充される。そして、インク2の負圧が低下してダイアフラム49が復元力により元の形状に戻り、付勢部材46の付勢力により弁シャフト48と共に弁45をインク室42が閉塞するように引き下げる。以上のようにして弁機構34では、インク液滴iを吐出する度にインク2の負圧が高まると、上記の動作を繰り返す。
【0151】
インク吐出ヘッド27においては、以上のようにして弁機構34によりインク2の供給が繰り返し行われるとき、すなわち複雑な構造の弁機構34を通ってインク2が繰り返し供給されるときでも、インク2に上述したEBPD−EOとEOPOEOとが含有されていることから、弁機構34内を移動するインク2に微少な泡が発生することが抑えられている。これにより、インク吐出ヘッド27では、次にインク液滴iを吐出する際に、ノズル52aに泡が詰まることなく、インク2の不吐出や吐出不良を防止でき、所定の方向に安定してインク液滴iが吐出されるようになる。
【0152】
このようにして、給排紙機構64によって走行している記録紙Pには、順に印刷データに応じた文字や画像が優れた画質で印刷されることになる。そして、印刷が終了した記録紙Pは、S6において給排紙機構64によって排紙口66より排出される。
【0153】
以上で説明したプリンタ装置1では、インクタンク5に収容されている上述したEBPD−EOとEOPOEOとを含有したインク2が微小な泡の発生が抑えられているので、インク液滴iの不吐出や吐出不良がなく、所定の方向に安定して吐出することができる。これにより、プリンタ装置1では、画像にカスレや白抜けが生じることがなく、高品位な画質の画像や文字を印刷できる。
【0154】
また、プリンタ装置1では、EBPD−EOとEOPOEOとが含有された濡れ性の高いインク液滴iを吐出するため、光学濃度が高く、境界にじみや混色ベタ斑の発生が抑制された高品位な画像の印刷を行うことができる。
【0155】
更に、プリンタ装置1では、インク液滴iを吐出する際にインク2を発熱抵抗体55で加熱し、インク2の温度が常温から上昇するが、EOPOEOの物性が変化しないため、インク2の物性が劣ることがなく、インク2の白濁が防止されている。
【0156】
なお、上記したヘッドカートリッジ2では、カートリッジ本体12に対してインクタンク5が着脱可能となっているが、このような構成に必ずしも限定されるものではない。すなわち、このヘッドカートリッジ2自体が消耗品として取り扱われており、装置本体3に対して着脱可能なことから、このカートリッジ本体12にインクタンク5が一体に設けられた構成とすることも可能である。
【0157】
以上は、本発明をプリンタ装置に適用した例について説明したが、本発明は、以上の例に限定されるものではなく、液体を吐出する他の液体吐出装置に広く適用することが可能である。例えばファクシミリやコピー機、液体中のDNAチップ用吐出装置(特開2002−253200号公報)、プリンタ配線基板の配線パターンを形成するための導電性粒子を含む液体を吐出したりする液体吐出装置等にも適用可能である。
【0158】
以上では、1つの発熱抵抗体55がインク2を加熱して吐出するインク吐出ヘッド27を例に挙げて説明したが、このような構造に限定されることはなく、複数の圧力発生素子を備え、各圧力発生素子に異なるエネルギー又は異なるタイミングでエネルギーを供給することで吐出方向を制御することが可能な吐出手段を備える液体吐出装置にも適用可能である。
【0159】
以上では、1つの発熱抵抗体55によってインク2を加熱しながらノズル52aから吐出させる電気熱変換方式を採用しているが、このような方式に限定されず、例えばピエゾ素子といった圧電素子等の電気機械変換素子等によってインクを電気機械的にノズルより吐出させる電気機械変換方式(特開昭55−65559号公報、特開昭62−160243号公報、特開平2−270561号公報)を採用したものであってもよい。
【0160】
以上では、ライン型のプリンタ装置1を例に挙げて説明したが、このことに限定されることはなく、例えばインクヘッドが記録紙Pの走行方向と略直交する方向に移動するシリアル型の液体吐出装置にも適用可能である。
【実施例】
【0161】
以下、本発明を適用したインクを実際に調製した実施例および比較例について説明する。
【0162】
〈実施例1〉
実施例1では、先ず、マゼンダ系のインクを調製した。マゼンダ系のインクを調製する際は、色素となるC.I.アシッドレッド52を3質量部と、溶媒として水75.5質量部と、その他の溶媒としてグリセリン10質量部と、1,3−ブタンジオール5質量部と、ネオペンチルグリコール5質量部と、下記に示す化学式(1)に示され、m+n=10である2−エチル−2−ブチル−1,3−プロパンジオールのエチレンオキサイド付加体(以下、EBPD−EOとする)0.8質量部と、下記に示す化学式(2)に示され、x+z=3、y=8であり、EOの含有量が22.1質量%のエチレンオキサイド/プロピレンオキサイド共重合体(以下、EOPOEOとする)0.7質量部とを混合し、ミリポア社製のポアサイズ0.22μmのメインブランフィルター(商品名:Millex−0.22)にて濾過し、マゼンダ系のインクを調製した。
【0163】
【化5】
【0164】
【化6】
【0165】
次に、シアン系のインクを調製した。シアン系のインクを調製する際は、色素となるC.I.ダイレクトブルー199を2.5質量部と、溶媒として水76質量部と、その他の溶媒としてグリセリン10質量部と、1,3−ブタンジオール5質量部と、ネオペンチルグリコール5質量部と、m+n=10であるEBPD−EO0.8質量部と、x+z=3、y=8であり、EOの含有量22.1質量%のEOPOEO0.7質量部とを混合し、ミリポア社製のポアサイズ0.22μmのメインブランフィルター(商品名:Millex−0.22)にて濾過し、シアン系のインクを調製した。なお、マゼンタ系及びシアン系にインクにおいて、EOPOEOは、このEOPOEO中におけるEOの含有量と、POの全分子量との関係を示す図4中のP3に相当する。
【0166】
〈実施例2〉
実施例2では、マゼンタ系インク及びマゼンタ系インクを調整する際に、m+n=4であるEBPD−EOを用いたこと以外は実施例1のマゼンタ系インク及びシアン系インクと同様に調整した。なお、マゼンタ系及びシアン系にインクにおいて、EOPOEOは、このEOPOEO中におけるEOの含有量と、POの全分子量との関係を示す図4中のP3に相当する。
【0167】
〈実施例3〉
実施例3では、マゼンタ系インク及びマゼンタ系インクを調整する際に、m+n=2であるEBPD−EOを用いたこと以外は実施例1のマゼンタ系インク及びシアン系インクと同様に調整した。なお、マゼンタ系及びシアン系にインクにおいて、EOPOEOは、このEOPOEO中におけるEOの含有量と、POの全分子量との関係を示す図4中のP3に相当する。
【0168】
〈実施例4〉
実施例4では、マゼンタ系インク及びマゼンタ系インクを調整する際に、m+n=2であるEBPD−EOを用い、x+z=5、y=8であるEOPOEOを用いたこと以外は実施例1のマゼンタ系インク及びマゼンタ系インクと同様に調整した。なお、マゼンタ系及びシアン系にインクにおいて、EOPOEOは、このEOPOEO中におけるEOの含有量と、POの全分子量との関係を示す図4中のP7に相当する。
【0169】
〈実施例5〉
実施例5では、マゼンタ系インク及びマゼンタ系インクを調整する際に、m+n=2であるEBPD−EOを用い、x+z=4、y=12であり、EOの含有量が20.2質量%であるEOPOEOを用いたこと以外は実施例1のマゼンタ系インク及びマゼンタ系インクと同様に調整した。なお、マゼンタ系及びシアン系にインクにおいて、EOPOEOは、このEOPOEO中におけるEOの含有量と、POの全分子量との関係を示す図4中のP1に相当する。
【0170】
〈実施例6〉
実施例6では、マゼンタ系インク及びマゼンタ系インクを調整する際に、m+n=2であるEBPD−EOを用い、x+z=7、y=12であり、EOの含有量が30.7質量%であるEOPOEOを用いたこと以外は実施例1のマゼンタ系インク及びマゼンタ系インクと同様に調整した。なお、マゼンタ系及びシアン系にインクにおいて、EOPOEOは、このEOPOEO中におけるEOの含有量と、POの全分子量との関係を示す図4中のP4に相当する。
【0171】
〈実施例7〉
実施例7では、マゼンタ系インク及びマゼンタ系インクを調整する際に、m+n=2であるEBPD−EOを用い、x+z=9、y=16であり、EOの含有量が29.9質量%であるEOPOEOを用いたこと以外は実施例1のマゼンタ系インク及びマゼンタ系インクと同様に調整した。なお、マゼンタ系及びシアン系にインクにおいて、EOPOEOは、このEOPOEO中におけるEOの含有量と、POの全分子量との関係を示す図4中のP5に相当する。
【0172】
〈実施例8〉
実施例8では、マゼンタ系インク及びマゼンタ系インクを調整する際に、m+n=6であるEBPD−EOを用い、x+z=12、y=21であり、EOの含有量が30.2質量%であるEOPOEOを用いたこと以外は実施例1のマゼンタ系インク及びマゼンタ系インクと同様に調整した。なお、マゼンタ系及びシアン系にインクにおいて、EOPOEOは、このEOPOEO中におけるEOの含有量と、POの全分子量との関係を示す図4中のP6に相当する。
【0173】
〈比較例1〉
比較例1では、マゼンタ系インク及びマゼンタ系インクを調整する際に、EBPD−EOを用いず、x+z=3、y=8であり、EOの含有量が22.1質量%であるEOPOEOを用い、水を76.3質量部としたこと以外は実施例1のマゼンタ系インク及びマゼンタ系インクと同様に調整した。なお、マゼンタ系及びシアン系にインクにおいて、EOPOEOは、このEOPOEO中におけるEOの含有量と、POの全分子量との関係を示す図4中のP3に相当する。
【0174】
〈比較例2〉
比較例2では、マゼンタ系インク及びマゼンタ系インクを調整する際に、m+n=10であるEBPD−EOを用い、EOPOEOを用いず、水を76.4質量部としたこと以外は実施例1のマゼンタ系インク及びマゼンタ系インクと同様に調整した。
【0175】
〈比較例3〉
比較例3では、マゼンタ系インク及びマゼンタ系インクを調整する際に、EBPD−EO及びEOPOEOを共に用いず、水を77質量部としたこと以外は実施例1のマゼンタ系インク及びマゼンタ系インクと同様に調整した。
【0176】
〈比較例4〉
比較例4では、マゼンタ系インク及びマゼンタ系インクを調整する際に、m+n=4であるEBPD−EOを用い、x+z=9、y=9であり、EOの含有量が43.1質量%であるEOPOEOを用いたこと以外は実施例1のマゼンタ系インク及びマゼンタ系インクと同様に調整した。なお、マゼンタ系及びシアン系にインクにおいて、EOPOEOは、このEOPOEO中におけるEOの含有量と、POの全分子量との関係を示す図4中のP15に相当する。
【0177】
〈比較例5〉
比較例5では、マゼンタ系インク及びマゼンタ系インクを調整する際に、m+n=4であるEBPD−EOを用い、x+z=4、y=13であり、EOの含有量が18.9質量%であるEOPOEOを用いたこと以外は実施例1のマゼンタ系インク及びマゼンタ系インクと同様に調整した。なお、マゼンタ系及びシアン系にインクにおいて、EOPOEOは、このEOPOEO中におけるEOの含有量と、POの全分子量との関係を示す図4中のP11に相当する。
【0178】
〈比較例6〉
比較例6では、マゼンタ系インク及びマゼンタ系インクを調整する際に、m+n=14であるEBPD−EOを用い、x+z=3、y=8であり、EOの含有量が22.1質量%であるEOPOEOを用いたこと以外は実施例1のマゼンタ系インク及びマゼンタ系インクと同様に調整した。なお、マゼンタ系及びシアン系にインクにおいて、EOPOEOは、このEOPOEO中におけるEOの含有量と、POの全分子量との関係を示す図4中のP3に相当する。
【0179】
〈比較例7〉
比較例7では、マゼンタ系インク及びマゼンタ系インクを調整する際に、EBPD−EO及びEOPOEOの代わりに、アセチレングリコールのエチレンオキサイド付加物(日信化学製、商品名:オルフィンE1010)0.5質量部とし、水を76.5質量部とした以外は実施例1と同様にしてマゼンダ系及びシアン系のインクをそれぞれ調製した。
【0180】
各実施例及び比較例のインクについて、Kruss社製のバブルプレッシャー動的表面張力測計(BP−2)を用い、25℃雰囲気、キャピラリー径0.215mmの測定条件で20Hzでの動的表面張力(γ20)と1Hzでの動的表面張力(γ1)を測定した結果を以下の表2に示す。
【0181】
【表2】
【0182】
次に、各実施例及び比較例のインクについて、吐出安定性、間欠吐出安定性、光学濃度、境界にじみ、混色ベタ斑の評価を行った。評価結果を下記の表3に示す。
【0183】
【表3】
【0184】
なお、吐出安定性は、次のようにして評価した。各実施例及び比較例のインクをインクタンクにそれぞれ充填してヘッドカートリッジに装着、ライン型のインクジェットプリンタ装置にて各インクを吐出した後に、一旦、インクジェットプリンタ装置からヘッドカートリッジを取り外し、このヘッドカートリッジを温度10℃、湿度50%の雰囲気中で5日間、さらに温度40℃、湿度50%の雰囲気中に5日間保存し、温度20℃、湿度50%の環境下に曝した。そして、再び、ヘッドカートリッジをライン型のインクジェットプリンタ装置に取り付けて三菱製紙製のコピー用紙(商品名:三菱PPC)に各色について所定の領域の塗り潰した印刷、いわゆるベタ印刷を行った後に、ヘッドカートリッジからインクタンクを取り外してインク吐出ヘッド内に微少な泡が発生していないかどうかを目視により観察した。また、印刷した画像も目視により観察した。
【0185】
表3における吐出安定性では、画像全体に白抜けがなく、且つインク吐出ヘッド内のインクに微少な泡の発生がないものを◎印で示し、画質には問題がないが画像に僅かな白抜けがあり、且つインク吐出ヘッド内のインクに微少な泡が極少量発生したものを○印で示し、画質を劣化させる白抜けがあり、且つインク吐出ヘッド内のインクに微少な泡が極少量発生したものを△印で示し、画質を劣化させる白抜けがあり、且つインク吐出ヘッド内のインクに微少な泡が多量発生したものを×印で示している。
【0186】
光学濃度は、次のようにして測定した。各実施例及び比較例のインクをインクタンクにそれぞれ充填してヘッドカートリッジに装着、ライン型のインクジェットプリンタ装置にて三菱製紙製のコピー用紙(商品名:三菱PPC)に各色それぞれのベタ印刷を行い、得られた画像についてマクベス社製の光学濃度計(TR924)により反射光学濃度を測定した。
【0187】
境界にじみは、次のようにして評価した。各実施例及び比較例のインクをインクタンクにそれぞれ充填してヘッドカートリッジに装着、ライン型のインクジェットプリンタ装置にて三菱製紙製のコピー用紙(商品名:三菱PPC)に各色を隣接させたベタ印刷を行い、印刷した画像における各色の境界部のにじみ具合を目視により観察した。
【0188】
表3における境界にじみでは、境界部に各色のにじみが全くないものを◎印で示し、画質には問題がないが境界部に各色のにじみが少量あるものを○印で示し、境界部に画質を劣化させる各色のにじみがあるものを△印で示し、境界部全体に各色のにじみがあり、画質が著しく劣化しているものを×印で示している。
【0189】
混色ベタ斑は、次のようにして評価した。各サンプルのインクをインクタンクにそれぞれ充填してヘッドカートリッジに装着、ライン型のインクジェットプリンタ装置にて三菱製紙製のコピー用紙(商品名:三菱PPC)に各色を重ね合わせるようにして青色のベタ印刷を行い、印刷した画像における青色濃度の均一性、すなわち色むらの有無を目視により観察した。
【0190】
表3における混色ベタ斑では、青色にベタ塗りされた画像に色ムラが全くないものを◎印で示し、画質には問題がないが画像に僅かな色ムラがあるものを○印で示し、画質を劣化させる色ムラがあるものを△印で示し、画像全体に色ムラがあり、画質が著しく劣化しているものを×印で示している。
【0191】
表3に示す評価結果から、実施例1〜実施例8のインクでは、比較例1〜比較例7のインクに比べて吐出安定性、間欠吐出安定性、光学濃度、境界にじみ、混色ベタ斑、すべての評価において良好であった。
【0192】
比較例1では、EOPOEOしか含有されていないため、インク中に微小な泡が発生することを十分に抑制することができ、吐出安定性が低下した。また、比較例1では、EBPD−EOが含有されていないため、インクの濡れ性が良好とならず、記録紙に対する濡れ性も低く、且つ1Hzでの動的表面張力(γ1)が38mn/mよりも大きいため、境界でにじみが生じたり、画像に色むらが生じ、光学濃度も低下した。
【0193】
また、比較例2では、EOPOEOが含有されていないため、インク内で微小な泡が発生することを抑制することができず、発生した泡がノズルに詰まり不吐出や吐出不良が生じ、吐出安定性が低下した。また、比較例2では、1Hzでの動的表面張力(γ1)が38mn/mよりも大きく、境界でにじみが生じたり、画像に色むらが生じ、光学濃度も低下した。
【0194】
比較例3では、EBPD−EO及びEOPOEOが共に含有されていないため、インク内で微小な泡が発生することを抑制せず、吐出安定性が低下し、濡れ性も向上しないため、境界でにじみが生じたり、画像に色むらが生じ、吐出安定性、境界にじみ、混色ベタ斑のすべての評価において悪く、光学濃度も低下した。
【0195】
比較例4では、EOPOEO分子中のEOの含有量が43.1質量%であり、EOの含有率が40質量%よりも多いため、EOPOEOが親水性となり、溶媒の水に溶けやすくなるため、インク中に微小な泡が発生することを抑制できず、発生した微小な泡により吐出安定性が低下し、且つ画像に色むらが生じた。
【0196】
比較例5では、EOPOEO分子中のEOの含有量が18.9%であり、EOの含有率が20%よりも少ないため、インクを吐出する際にインクの加熱によりインクが白濁してしまい、インク2の物性が損なわれ、白抜け等が生じ、且つ吐出安定性が低下した。
【0197】
比較例6では、EBPD−EOの分子中にエチレンオキサイドの合計ユニット数(m+n)が14であり、エチレンオキサイドの合計ユニット数が10によりも大きいため、EBPD−EOの親水性が高くなり、界面活性能が低下し、微小な泡が発生して吐出安定性が低下した。また、比較例6では、EBPD−EOの分子中にエチレンオキサイドの合計ユニット数が12によりも大きいため、インク2の濡れ性が良好な状態とならず、境界でにじみが生じたり、色むらが生じ、境界にじみ及び混色ベタ斑の評価が悪かく、光学濃度も低下した。
【0198】
比較例7では、用いたオルフィンE1010は泡立ちやすく、且つ記録紙に対する浸透性が高くなり過ぎてしまう。これにより、比較例7では、インク中に発生した泡により、吐出安定性が低下し、境界で滲んだり、色むらが生じ、境界にじみ及び混色ベタ斑の評価が悪かった。また、比較例7では、記録紙に対する浸透性が高いため、光学濃度が低くなった。
【0199】
これら比較例1〜比較例7に対して、実施例1〜実施例8では、インク中に、EOの合計付加モル数が1以上、10以下の範囲とされたEBPD−EOと、EOの合計ユニット数が3以上、12以下の範囲とされ、分子中におけるEOのユニットの含有量が20質量%以上、40質量%とされたEOPOEOとが含有されていることによって、インク中に微小な泡が発生することが防止され、泡による目詰まりがなく、不吐出や吐出不良が生じず、吐出安定性が良好となった。また、実施例1〜実施例8では、EBPD−EO及びEOPOEOが含有されていることによって、インク吐出ヘッドの内面や記録紙に対する濡れ性が良好となり、泡の排出も容易であり、印刷後の画像の光学濃度が高く、境界でのにじみや色むらがなく、境界にじみ及び混色ベタ斑の評価が良好であった。
【0200】
また、実施例2〜実施例8では、動的表面張力(γ20)が30mN/m以上であり、且つ動的表面張力(γ1)が38mN/m以下になっているため、動的表面張力(γ1)が38mN/m以下となっていない実施例1と比べて、インクの記録紙に対する濡れ性が高いため、光学濃度が高く、境界においてにじみがなく、色むらも生じず、境界にじみ及び混色ベタ斑の評価が良好であった。
【0201】
以上のことから、インクを調製する際に、EOの合計付加モル数が1以上、10以下の範囲とされたEBPD−EOと、EOの合計ユニット数が3以上、12以下の範囲とされ、分子中におけるEOのユニットの含有量が20質量%以上、40質量%とされたEOPOEOとが含有し、動的表面張力(γ20)が30mN/m以上にし、且つ動的表面張力(γ1)を38mN/m以下にすることは、良好な吐出安定性、高い光学濃度、境界にじみがなく、色むらが抑制された高品位な印刷を可能にするインクを調製する上で大変重要であることがわかる。
【図面の簡単な説明】
【0202】
【図1】本発明が適用されたプリンタ装置を示す斜視図である。
【図2】同プリンタ装置に備わるヘッドカートリッジを示す斜視図である。
【図3】同ヘッドカートリッジを示す断面図である。
【図4】EOPOEPO中におけるEOの含有量と、POの全分子量との関係を示す散布図である。
【図5】同ヘッドカートリッジにインクタンクが装着されたときのインク供給部を示しており、同図(A)は供給口が閉塞された状態を示す模式図であり、同図(B)は供給口が開口された状態を示す模式図である。
【図6】同ヘッドカートリッジにおけるインクタンクとインク吐出ヘッドとの関係を示す模式図である。
【図7】同インクタンクの接続部における弁機構を示しており、同図(A)は弁が閉じた状態を示す断面図であり、同図(B)は弁が開いた状態を示す断面図である。
【図8】同インク吐出ヘッドの構造を示す断面図である。
【図9】同インク吐出ヘッドを示しており、同図(A)は発熱抵抗体に気泡が発生した状態を模式的に示す断面図であり、同図(B)はノズルよりインク液滴を吐出した状態を模式的に示す断面図である。
【図10】同プリンタ装置の一部を透視して示す側面図である。
【図11】同プリンタ装置の制御回路を模式的に示すブロック図である。
【図12】同プリンタ装置の印刷動作を説明するフローチャートである。
【図13】同プリンタ装置において、ヘッドキャップが開いている状態を一部透視して示す側面図である。
【符号の説明】
【0203】
1 インクジェットプリンタ装置、2 インク、3 インクジェットプリンタヘッドカートリッジ、4 装置本体、5 インクタンク、21 カートリッジ本体、27 インク吐出ヘッド、27a 吐出面、51 回路基板 52 ノズルシート、52a ノズル、53 フィルム、54 インク液室、55 発熱抵抗体、56 インク流路、71 制御回路、72 プリンタ駆動部、73 吐出制御部、74 警告部、75 入出力端子、76 ROM、77 RAM、78 制御部
【特許請求の範囲】
【請求項1】
対象物に記録を行うために液滴の状態で当該対象物に付着される記録液において、
色素と、
上記色素を溶解又は分散させる溶媒と、
下記の化学式1及び化学式2に示す化合物のそれぞれ少なくとも1種類以上を含有することを特徴とする記録液。
【化1】
【化2】
【請求項2】
上記記録液は、20Hzでの動的表面張力(γ20)が30mN/m以上であり、1Hzでの動的表面張力(γ1)が38mN/m以下であることを特徴とする請求項1記載の記録液。
【請求項3】
記録液を液滴の状態で吐出し、対象物に付着させることで記録を行う液体吐出装置に設けられる液体吐出ヘッドに装着され、上記液体吐出ヘッドに対し、上記記録液の供給源となる液体カートリッジにおいて、
上記記録液には、色素と、上記色素を溶解又は分散させる溶媒と、下記の化学式1及び化学式2に示す化合物のそれぞれ少なくとも1種類以上が含有されていることを特徴とする液体カートリッジ。
【化3】
【化4】
【請求項4】
上記記録液は、20Hzでの動的表面張力(γ20)が30mN/m以上であり、1Hzでの動的表面張力(γ1)が38mN/m以下であることを特徴とする請求項3記載の液体カートリッジ。
【請求項5】
装置本体と、
上記装置本体に設けられ、記録液を貯留する液室と、上記液室に上記記録液を供給する供給部と、上記液室に1つ以上設けられ、上記液室に貯留された上記記録液を押圧する圧力発生素子と、上記圧力発生素子により押圧された上記記録液を上記各液室から液滴の状態で対象物の主面に向かって吐出させる吐出口とを有する液体吐出ヘッドと、
上記液体吐出ヘッドに接続され、上記供給部に対して上記記録液の供給源となる液体カートリッジとを備える液体吐出装置において、
上記記録液には、色素と、上記色素を溶解又は分散させる溶媒と、下記の化学式1及び化学式2に示す化合物のそれぞれ少なくとも1種類以上が含有されていることを特徴とする液体吐出装置。
【化5】
【化6】
【請求項6】
上記記録液は、20Hzでの動的表面張力(γ20)が30mN/m以上であり、1Hzでの動的表面張力(γ1)が38mN/m以下であることを特徴とする請求項5記載の液体吐出装置。
【請求項7】
装置本体と、上記装置本体に設けられ、記録液を貯留する液室と、上記液室に上記記録液を供給する供給部と、上記液室に1つ以上設けられ、上記液室に貯留された上記記録液を押圧する圧力発生素子と、上記圧力発生素子により押圧された上記記録液を上記各液室から液滴の状態で対象物の主面に向かって吐出させる吐出口とを有する液体吐出ヘッドと、上記液体吐出ヘッドに接続され、上記供給部に対して上記記録液の供給源となる液体カートリッジとを備える液体吐出装置による液体吐出方法であって、
色素と、上記色素を溶解または分散させる溶媒と、下記の化学式1及び化学式2に示す化合物のそれぞれ少なくとも1種類以上を含有する上記記録液を吐出することを特徴とする液体吐出方法。
【化7】
【化8】
【請求項8】
20Hzでの動的表面張力(γ20)が30mN/m以上であり、1Hzでの動的表面張力(γ1)が38mN/m以下である上記記録液を吐出することを特徴とする請求項7記載の液体吐出方法。
【請求項1】
対象物に記録を行うために液滴の状態で当該対象物に付着される記録液において、
色素と、
上記色素を溶解又は分散させる溶媒と、
下記の化学式1及び化学式2に示す化合物のそれぞれ少なくとも1種類以上を含有することを特徴とする記録液。
【化1】
【化2】
【請求項2】
上記記録液は、20Hzでの動的表面張力(γ20)が30mN/m以上であり、1Hzでの動的表面張力(γ1)が38mN/m以下であることを特徴とする請求項1記載の記録液。
【請求項3】
記録液を液滴の状態で吐出し、対象物に付着させることで記録を行う液体吐出装置に設けられる液体吐出ヘッドに装着され、上記液体吐出ヘッドに対し、上記記録液の供給源となる液体カートリッジにおいて、
上記記録液には、色素と、上記色素を溶解又は分散させる溶媒と、下記の化学式1及び化学式2に示す化合物のそれぞれ少なくとも1種類以上が含有されていることを特徴とする液体カートリッジ。
【化3】
【化4】
【請求項4】
上記記録液は、20Hzでの動的表面張力(γ20)が30mN/m以上であり、1Hzでの動的表面張力(γ1)が38mN/m以下であることを特徴とする請求項3記載の液体カートリッジ。
【請求項5】
装置本体と、
上記装置本体に設けられ、記録液を貯留する液室と、上記液室に上記記録液を供給する供給部と、上記液室に1つ以上設けられ、上記液室に貯留された上記記録液を押圧する圧力発生素子と、上記圧力発生素子により押圧された上記記録液を上記各液室から液滴の状態で対象物の主面に向かって吐出させる吐出口とを有する液体吐出ヘッドと、
上記液体吐出ヘッドに接続され、上記供給部に対して上記記録液の供給源となる液体カートリッジとを備える液体吐出装置において、
上記記録液には、色素と、上記色素を溶解又は分散させる溶媒と、下記の化学式1及び化学式2に示す化合物のそれぞれ少なくとも1種類以上が含有されていることを特徴とする液体吐出装置。
【化5】
【化6】
【請求項6】
上記記録液は、20Hzでの動的表面張力(γ20)が30mN/m以上であり、1Hzでの動的表面張力(γ1)が38mN/m以下であることを特徴とする請求項5記載の液体吐出装置。
【請求項7】
装置本体と、上記装置本体に設けられ、記録液を貯留する液室と、上記液室に上記記録液を供給する供給部と、上記液室に1つ以上設けられ、上記液室に貯留された上記記録液を押圧する圧力発生素子と、上記圧力発生素子により押圧された上記記録液を上記各液室から液滴の状態で対象物の主面に向かって吐出させる吐出口とを有する液体吐出ヘッドと、上記液体吐出ヘッドに接続され、上記供給部に対して上記記録液の供給源となる液体カートリッジとを備える液体吐出装置による液体吐出方法であって、
色素と、上記色素を溶解または分散させる溶媒と、下記の化学式1及び化学式2に示す化合物のそれぞれ少なくとも1種類以上を含有する上記記録液を吐出することを特徴とする液体吐出方法。
【化7】
【化8】
【請求項8】
20Hzでの動的表面張力(γ20)が30mN/m以上であり、1Hzでの動的表面張力(γ1)が38mN/m以下である上記記録液を吐出することを特徴とする請求項7記載の液体吐出方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【公開番号】特開2006−117883(P2006−117883A)
【公開日】平成18年5月11日(2006.5.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−309961(P2004−309961)
【出願日】平成16年10月25日(2004.10.25)
【出願人】(000002185)ソニー株式会社 (34,172)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成18年5月11日(2006.5.11)
【国際特許分類】
【出願日】平成16年10月25日(2004.10.25)
【出願人】(000002185)ソニー株式会社 (34,172)
【Fターム(参考)】
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