説明

記録磁界の位置決め制御方法および磁気記録装置

【課題】低コストで精度のよい磁気ヘッドの位置決め制御を実現する。
【解決手段】磁気ヘッドとして記録磁界の分布を変更することができるヘッドを用いる。記録媒体に情報を記録する場合に,磁気ヘッドをアクチュエータにより目的の記録トラック上に移動させ,磁気ヘッドと目的の記録トラックとの位置の差が所定の範囲内になったときに,目的の記録トラックの位置に磁気ヘッドの記録磁界が最大となる位置がくるように,磁気ヘッドが出力する記録磁界の分布を変更して,記録する(S4,S6)。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は,垂直磁気記録方式で記録を行う磁気記録装置の位置決めの制御方法に関し,特に磁気ヘッドからの磁界分布を変更することによって簡易な構成で位置決めを行う制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
情報の記録や再生に用いられる装置として磁気記録装置がある。この磁気記録装置は,例えば磁気ディスクや光磁気ディスクなどの記録ディスク媒体を内蔵し,この記録ディスク媒体上の所定アドレスへ情報を記録したり,そこから情報を読み出して再生したりする。このアドレスは,例えば磁気ディスク媒体を内蔵した磁気ディスク装置では,その磁気ディスク上にアドレス情報として予め記録されており,磁気ヘッドからそのアドレス情報を再生することにより,所定のアドレスへ情報の記録や再生を行う。所定のアドレスへ磁気ヘッドを移動させる位置決め機構として,アクチュエータが使用されている。
【0003】
近年,記録密度の高密度から,記録のトラックとトラックの間が狭くなり,アクチュエータだけでは位置決めに誤差が生じるようになった。そこで,特許文献1では,狭トラック化における位置決め精度対策として,スライダの先端部にも位置決めが行える装置を持つ2段アクチュエータが提案されている。
【0004】
また,磁気記録装置において,小ギャップを有する対向した2つのヘッドコアに同極の極性を持たせ,反発を利用して鋭い磁束分布を形成する垂直磁気記録ヘッドが,特許文献2に示されている。
【特許文献1】特開平5−47126号公報
【特許文献2】特開昭57−183614号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
近年,磁気記録装置の大容量化に伴い磁気記録媒体の記録密度の向上が進められている。記録密度の高密度化には,磁気ヘッドを目標のトラックに正確に位置決めすることが極めて重要である。このような位置決め制御の高度化に関する将来技術として,特許文献1では,2段アクチュエータが提案されている。しかし,2段アクチュエータでは制御する部分が2箇所あり,それぞれが互いに影響を与えるので,その設計が非常に困難となっている。すなわち,磁気ヘッドの位置決めのためにアクチュエータを2箇所に設置すると,設計面,コスト面に問題が残る。まず,2箇所にアクチュエータを設置する分,部品数が増加しコストが上がる。さらに,部品の数が増えることにより,故障する確率が上がるので,それを考慮した設計が必要である。以上のことにより,2段アクチュエータを使わずに,1つのアクチュエータで精度よく位置決めできることが望ましい。
【0006】
特許文献2には,垂直磁気記録ヘッドに鋭い磁束分布を形成するための技術が開示されているが,磁気ヘッドの位置決めを簡易に精度よく行うための技術の記載はない。
【0007】
本発明は,上記の問題点の解決を図り,2段アクチュエータを使わないで,簡易な構成で磁気ヘッドの精度のよい位置決め制御を実現することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は,上記の課題を解決するため,磁気記録装置において,磁気ヘッドが出力する記録磁界分布を変更することにより,記録媒体上の記録トラックに記録磁界の位置決めを行うことを主要な特徴とする。
【0009】
この磁気記録装置は,記録媒体上への情報記録のために,磁気ヘッドを記録媒体上でアクチュエータにより移動させる際に,磁気ヘッドで再生したアドレス情報から,所定のアドレスへの誤差を検出し,記録磁界制御手段によって誤差に応じて記録磁界の分布を変更させて記録磁界の位置決めを行う。すなわち,記録磁界制御手段は,磁気ヘッドと目的の記録トラックとの位置の差が所定の範囲内になったときに,目的の記録トラックの位置に磁気ヘッドの記録磁界が最大となる位置がくるように,磁気ヘッドが出力する記録磁界の分布を変更する。
【0010】
例えば,磁気ヘッドは,軟磁性体からなる2つのコアと,それらを励磁する別々のコイルからなる記録ヘッドを有し,記録磁界制御手段は,2つのそれぞれのコアに励磁するコイルの電流量を変更することにより記録磁界の分布を変更する。
【0011】
このように,本発明では,1つのアクチュエータと磁界分布の変更による2段の制御により位置決めを行う。このため,記録媒体上のアドレス情報を磁気ヘッドで再生し,目的のトラックまでアクチュエータで移動する。さらに,移動に伴い発生する残留振動を,磁界分布を変更することにより抑える。このとき,例えば軟磁性体からなる2つのコアと,それらを励磁する別々のコイルからなる記録ヘッドを用いれば,電流を変えるだけで残留振動を抑えることが可能となる。
【発明の効果】
【0012】
本発明は,アクチュエータを1つしか使わないので,2段アクチュエータを使うよりもコストが安くなる。さらに故障しにくくなる。また,アクチュエータが1つなので設計が容易である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下,本発明の実施の形態について,図を用いて説明する。
【0014】
図1に,本発明の実施の形態で用いる磁気記録ヘッドの一例を示す。図1において,1はコア,2および3は磁界発生用のコイル,4はシールド,5は記録媒体,6は裏打ち層を表す。
【0015】
コア1は,高飽和磁束密度Bsの軟磁性体からなる部分で,この部分を励磁することにより先端部から磁界が発生する。本実施の形態で用いる磁気記録ヘッドは,コア1のように溝があり,対向している形態をとる。コイル2,3によりコア1を励磁する。このとき,コイル2,3に流す電流量は,制御回路によりそれぞれ個別に制御できるようになっている。また,コイルの配置は,コア1が励磁できればどのような形態をとってもよい(例えば,ヘリカルコイル)。
【0016】
シールド4は軟磁性体からなる部分で,磁路を確保するとともに外部磁界の影響を防ぐ効果がある。このシールド4は,コア1と物理的につながっていてもよい。記録媒体5は,情報が記録される媒体である。この媒体には,ユーザデータのほかに,アドレスデータが書いてある領域がある。裏打ち層6は,軟磁性体からなる部分で磁路の形成を行っている。
【0017】
この磁気記録ヘッドを用いて磁界分布を変更し,記録部の位置決めを行う方法の一例を示す。図2に,コイル2,3に同じ電流量(例えば0.1AT)を流して励磁したときの磁束の流れを示す。図3に,図2のときにおける記録媒体5の断面にかかる磁束密度分布を示す。図3では,センター位置で強い磁束密度になっていることがわかる。
【0018】
次に,図4に,コイル2,3に異なる電流量(例えばコイル2に0.2AT,コイル3に0.075AT)を流したときの磁束の流れを示す。図5に,図4のときにおける記録媒体5の断面にかかる磁束密度分布を示す。このとき,磁束密度が強くなっている部分がコイル2側によっていることがわかる。つまり,コイルに流す電流量を調整することにより,磁界分布が変わるので,位置決めにおける残留振動を抑えることが可能となる。
【0019】
換言すれば,本実施の形態の磁気記録ヘッドは,2つの対象的な記録磁界発生部を有し,2段アクチュエータを使わずに,アクチュエータは1段だけとし,2つの記録磁界発生部に流す電流の量を変えることにより,磁界強度が最も強い場所を変えて,磁界による位置決め制御を行う。
【0020】
次に,具体的な位置決めの制御方法について示す。図6に制御のフローチャートを示す。
【0021】
所定のトラックへ記録を行いたい場合,まず。予め記録媒体5に書き込まれているアドレスを再生ヘッド(例えばTMRヘッド)で再生する(ステップS1)。それにより,ヘッドの現在地がわかる。次に,目的のトラックのアドレス(以下,目的地という)と現在地との差を求める(ステップS2)。目的地と現在地との差が予め定められた磁界分布変更可能エリア以内であるかどうかを判定し(ステップS3),磁界分布変更可能エリア以内であれば,ステップS4へ進み,磁界分布変更可能エリア以内でなければ,ステップS5へ進む。
【0022】
ステップS4では,アクチュエータを回転させず,磁界分布を変更して目的のトラックの位置で記録磁界が最大となるように記録磁界の位置を合わせて記録を行う。
【0023】
目的地と現在地との差が磁界分布変更可能エリアの範囲を超えている場合に,ステップS5では,図7に示すように,目的地と現在地との差分だけヘッドが移動するように,アクチュエータを回転させる。アクチュエータを回転させて目的のトラックにヘッドを移動させれば,残留振動が生じる。このとき,図8に示すように,再生ヘッドで正しくトラックに追従しているかどうかについての情報を読み,振動分だけ磁界分布を変更させて記録を行う(ステップS6)。これにより,高速かつ安定に目的のトラックに記録を行うことができる。なお,図7および図8において,10はヘッド,11はスライダとアクチュエータによって動作するアームを表す。
【0024】
図1に示すコイル2,3に流す電流を変えることにより,どの程度,記録磁界の分布が変化するかについては,例えば設計時に実験により測定し,その測定値を磁気記録装置内の不揮発性メモリに格納しておき,制御時にその値を利用して電流制御に用いることができる。磁界分布変更可能エリアの大きさも設計時もしくは工場出荷時に試験し,実用的な値を定めて,例えば磁気記録装置内の不揮発性メモリに格納しておき,それを利用することができる。
【0025】
図9は,本発明の実施の形態に係る磁気記録装置を示すブロック図である。記録媒体5への情報記録のために,目的のトラックまでヘッド10を移動させる場合,まず,位置検出器12は,ヘッド10から現在地を示すデータ(アドレス情報)を読み取り,現在位置計算部13は,現在位置を計算する。位置誤差計算部14は,現在位置と目標位置との差により位置誤差の計算を行い,求まった位置誤差データを,アクチュエータ制御部15と記録磁界制御部16に受け渡す。
【0026】
アクチュエータ制御部15および記録磁界制御部16は,位置誤差データからそれぞれの制御量を算出し,求めた制御量でアーム11およびヘッド10への出力電流を制御し,ヘッド10の記録磁界が最大となる位置を目標位置まで移動させる。
【0027】
以上,本発明の実施の形態の一例を説明したが,本発明は上記実施の形態に限られるわけではなく,磁気ヘッドに記録磁界の分布を変化させることができる仕組みがあれば,他の構造の磁気ヘッドを用いても同様に本発明を実施することができる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】本発明の実施の形態で用いる磁気記録ヘッドの一例を示す図である。
【図2】磁気記録ヘッドの2つのコイルを同量の電流で励磁したときの磁束の流れを示す図である。
【図3】図2のときの記録媒体の断面にかかる磁束密度分布を示す図である。
【図4】磁気記録ヘッドの2つのコイルを異なる量の電流で励磁したときの磁束の流れを示す図である。
【図5】図4のときの記録媒体の断面にかかる磁束密度分布を示す図である。
【図6】記録磁界の位置決めの制御フローチャートである。
【図7】記録磁界の位置決めを説明するための図である。
【図8】記録磁界の位置決めを説明するための図である。
【図9】本発明の実施の形態に係る磁気記録装置を示すブロック図である。
【符号の説明】
【0029】
1 コア
2,3 コイル
4 シールド
5 記録媒体
6 裏打ち層
10 ヘッド
11 アーム
12 位置検出器
13 現在位置計算部
14 位置誤差計算部
15 アクチュエータ制御部
16 記録磁界制御部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
磁気記録装置における記録媒体上の記録トラックへの記録磁界の位置決めを行う位置決め制御方法であって,
磁気ヘッドをアクチュエータにより目的の記録トラック上に移動させる過程と,
前記磁気ヘッドと前記目的の記録トラックとの位置の差が所定の範囲内になったときに,前記目的の記録トラックの位置に前記磁気ヘッドの記録磁界が最大となる位置がくるように,前記磁気ヘッドが出力する記録磁界の分布を変更する過程とを有する
ことを特徴とする記録磁界の位置決め制御方法。
【請求項2】
磁気ヘッドと前記磁気ヘッドを記録媒体上で移動させるアクチュエータとを備える磁気記録装置において,
前記記録媒体上への情報記録の際に,前記磁気ヘッドを前記アクチュエータにより目的の記録トラック上に移動させるアクチュエータ制御手段と,
前記磁気ヘッドと前記目的の記録トラックとの位置の差を検出する位置誤差計算手段と,
前記位置誤差計算手段の出力をもとに,前記磁気ヘッドと前記目的の記録トラックとの位置の差が所定の範囲内になったときに,前記目的の記録トラックの位置に前記磁気ヘッドの記録磁界が最大となる位置がくるように,前記磁気ヘッドが出力する記録磁界の分布を変更する記録磁界制御手段とを備える
ことを特徴とする磁気記録装置。
【請求項3】
請求項2記載の磁気記録装置において,
前記磁気ヘッドは,軟磁性体からなる2つのコアと,それらを励磁する別々のコイルとからなる記録ヘッドを有し,
前記記録磁界制御手段は,前記2つのそれぞれのコアに励磁するコイルの電流量を変更することにより前記記録磁界の分布を変更する
ことを特徴とする磁気記録装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2008−146688(P2008−146688A)
【公開日】平成20年6月26日(2008.6.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−328911(P2006−328911)
【出願日】平成18年12月6日(2006.12.6)
【出願人】(000005223)富士通株式会社 (25,993)
【Fターム(参考)】