説明

記録装置及び用紙の搬送方法

【課題】簡易な構成によって、騒音がなるべく発せられないようにされ、且つ、排紙の際には、排紙に適した速度で用紙が排紙され、排紙位置で用紙が整列される記録装置及び用紙の搬送方法を提供する。
【解決手段】記録装置は、先行する用紙における上流側の後端部が、排紙待機位置に位置する状態となるまで、比較的遅い搬送速度によって先行する用紙及びその次に給紙されている用紙を搬送させる。そして、記録装置は、先行する用紙を排紙位置へ排紙させると共に、次に給紙される用紙の下流側の先端部が、給紙制御位置に位置する状態となるまで、比較的速い搬送速度によって、先行する用紙及び次の用紙を搬送させるように、用紙の搬送が制御される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、用紙に記録を行った後に所定の排紙位置に用紙を整列させて排紙させる記録装置及び用紙の搬送方法に関する。
【背景技術】
【0002】
プリンタ等の記録装置においては、記録部による記録が完了した用紙を装置外の所定の排紙位置に整列させて排出するための排紙機構を備えている。このような記録装置における排紙機構では、駆動源によって回転される排紙ローラを用紙に圧接させた状態で排紙ローラの回転によって用紙に搬送力が与えられ、用紙が装置外に排出されてスタッカに積載される構成となっている。
【0003】
ところで、用紙が給紙されてからプリンタ等による記録後、排紙までの一連の動作においては、用紙の搬送速度が速くなる程、記録装置から発せられる音が大きくなる傾向がある。そのため、この記録装置から発せられる音を小さくするためには、用紙の搬送速度を遅くする必要がある。そこで、記録装置に静音設定を設け、ユーザが静音設定を選択したときには、用紙の搬送速度を遅くすることにより記録装置から発せられる音を小さくする構成がある。
【0004】
しかしながら、用紙の搬送速度を遅くすると、用紙が排紙ローラから排紙される際に、既に排紙された用紙の積載されたスタッカ内へ排紙ローラによって用紙を押し出す力が小さくなる。従って、用紙が排紙ローラから押し出されても、用紙と、スタッカや既にスタッカに積載されている用紙との間の摩擦力によって、用紙が積載される正規の位置まで届かずに、排紙した用紙をスタッカにきれいに整列させることができないことがある。そのため、用紙が排紙ローラから排紙される際に、用紙の搬送速度を一定以上の速さにすることにより、排紙した用紙をスタッカにきれいに整列させる。
【0005】
例えば、特許文献1に開示されている記録媒体の搬送・排紙装置では、搬送ローラ及び排紙ローラによって搬送されているときの用紙の搬送速度から、排紙ローラのみによる用紙の搬送速度を変更させる排紙機構の構成が提案されている。すなわち、搬送ローラと排紙ローラとの両方で用紙を搬送している際には、排紙ローラによる搬送速度が搬送ローラの通常の搬送速度に合せられる。また、排紙ローラのみで用紙を搬送する際には、排紙ローラの搬送速度を排紙後の用紙の整列に適した比較的高い速度になるようにしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2008−273636号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上記特許文献1の記録媒体の搬送・排紙装置では、排紙ローラと搬送ローラとの間で、別々の駆動源が用いられている。それによって、排紙ローラと搬送ローラとがそれぞれ別の回転速度によって回転するように制御されている。一般に、記録装置における製造の際のコストを考慮すると、記録装置が搬送ローラや排紙ローラといった複数のローラ対を有している場合、これらのローラ対を駆動させるための駆動源はなるべく共通化させた方が好ましい。このように、記録装置の中で駆動源の数を減少させることで、結果的に記録装置の製造コストを低く抑えることができる。このため、特許文献1のように記録装置の排紙ローラと搬送ローラとの間で別々の駆動源が用いられる場合、記録装置の製造コストが上昇してしまう。
【0008】
また、上記特許文献1に開示された搬送・排紙装置では、排紙ローラのみで用紙を搬送する区間の搬送速度が比較的速く、搬送ローラと排紙ローラとの両方で用紙を搬送している区間の搬送速度が比較的遅くなるように、搬送速度が設定されている。そのため、排紙ローラのみによって用紙を搬送する状態になると、単純に高い速度で用紙の排紙が行われる。搬送速度がこのように設定されていると、騒音の発生を抑えるために比較的速い搬送速度によって用紙が搬送される区間を短くしようとしても、装置の構成によってその区間の長さについての設定が制限される。特に、記録装置としては、搬送ローラと排紙ローラとの間に記録領域が設けられている形式のものが多く採用されている。この場合、記録装置において、搬送ローラと排紙ローラとの間に記録領域のためのスペースを確保することが必要となり、比較的速い搬送速度によって用紙が搬送される区間を短くするために搬送ローラと排紙ローラとの間を短くするのにも限界がある。そのため、用紙の後端部と排紙位置との間にまだ比較的大きな距離があるにも関わらず、速い搬送速度によって用紙が搬送される区間が長くなり、高い搬送速度で騒音の発せられる状態が長く続く可能性がある。
【0009】
そこで、本発明は上記の事情に鑑み、簡易な構成によって、騒音がなるべく発せられないようにされ、且つ、排紙の際には、排紙に適した速度で用紙が排紙され、排紙位置で用紙が整列される記録装置及び用紙の搬送方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の記録装置は、搬送経路で用紙を搬送する搬送手段と、前記搬送手段よりも下流側に配置され用紙を前記搬送経路から排紙位置へ排出する排紙手段と、前記搬送手段よりも上流側に配置され用紙を前記搬送経路へ給紙する給紙手段と、前記搬送手段と前記排紙手段との間に配置され、用紙に記録を行う記録手段と、前記搬送手段、前記排紙手段、及び前記給紙手段を駆動するための駆動手段と、第1の用紙の先端部が、前記記録手段による記録の開始される記録開始位置よりも上流側に設定された給紙制御位置に位置する状態から、前記第1の用紙の後端部が、前記排紙手段から所定の排紙速度によって前記排紙位置に排紙を行うことが可能な排紙待機位置に位置する状態となるまで、第1の搬送速度によって前記第1の用紙及びその次に給紙される第2の用紙を搬送させ、その後、前記第1の用紙の後端部が、前記排紙待機位置に位置した状態から前記排紙位置へ排紙され、前記第2の用紙の先端部が、前記給紙制御位置に位置する状態となるまで、前記第1の搬送速度よりも速い第2の搬送速度によって前記第1の用紙及び前記第2の用紙を搬送するように、前記駆動手段を制御する制御手段とを有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、特別な構成を付加させずに、全体的に装置から発生する騒音が小さく抑えられて静粛性が向上すると共に、排紙の際に用紙を排紙位置に正確に整列させて排紙させることができる記録装置及び用紙の搬送方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の実施形態に係る記録装置における内部の構成について示した断面図である。
【図2】図1の記録装置について示した斜視図である。
【図3】図1の記録装置における制御系の構成について示したブロック図である。
【図4】図1の記録装置によって、用紙の給紙、搬送、排紙が行われる際の制御フローについて示したフローチャートである。
【図5】図1の記録装置によって用紙が排紙されたにも関わらず、用紙が排紙トレイに到達しなかった場合について示した記録装置の模式的な断面図である。
【図6】図1の記録装置のPEセンサによって用紙が検知された後に、用紙に記録が行われ、用紙が排紙待機位置まで搬送されている状態の記録装置について示した模式的な断面図である。
【図7】図1の記録装置のPEセンサによって用紙の後端部がまだ検知されていない状態の記録装置について示した模式的な断面図である。
【図8】図1の記録装置において、先行する用紙が、排紙待機位置まで搬送されたときの状態の記録装置について示した模式的な断面図である。
【図9】図1の記録装置において、排紙ローラによって用紙が排紙トレイに正常に排紙された状態の記録装置について示した模式的な断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、図面を参照して本発明の実施形態を具体的に説明する。なお、各図面を通して同一符号は同一または対応部分を示すものである。
【0014】
図1は本発明による記録装置の概略を示す断面図であり、図2はこの記録装置の概略を示す斜視図である。図1において、10は記録装置であり、不図示の用紙を搬送するための給紙ローラ12、搬送ローラ14、排紙ローラ15を備えている。給紙ローラ(給紙手段)12は、搬送ローラ14よりも搬送経路Lの上流側に配置され用紙を搬送経路Lに給紙する。搬送ローラ(搬送手段)14は、搬送経路Lで用紙を搬送する。排紙ローラ(排紙手段)15は、搬送経路Lにおける搬送ローラ14よりも下流側に配置され用紙を前記搬送経路から排紙トレイ(排紙位置)16に排出する。本実施形態では、搬送ローラ14と排紙ローラ15と給紙ローラ12とが、それぞれ一対のローラである。用紙積載部11は記録装置10の使用者が用紙をセットするようになっており、セットされている用紙を給紙ローラ12によって記録装置10の搬送経路内に給送する。給紙動作時、用紙検知センサ13(以下PEセンサと称する)は搬送される用紙の先端を検知し、その先端検知情報は用紙を記録開始位置S1まで搬送するのに利用される。給紙ローラ12によって搬送され、PEセンサ13によって先端検知した用紙は、用紙先端が搬送ローラ14まで届くと、搬送ローラ14によって記録開始位置S1まで搬送される。記録動作中、用紙は搬送ローラ14と排紙ローラ15によって搬送される。PEセンサ13は記録動作中または排紙中に搬送される用紙の後端を検知して、その後端検知情報は用紙が排紙完了するまでの搬送に利用される。記録動作が完了すると、用紙は搬送ローラ15によって排紙トレイ16に排出される。
【0015】
図2において、記録ヘッドユニット20は、搬送ローラ14と排紙ローラ15の間で記録を行うことが可能なように配置されている。従って、記録装置10は、搬送経路Lにおける領域Pに相当する位置で用紙に記録を行う。そして、記録ヘッドユニット20は、搬送ローラ14と排紙ローラ15によって搬送される用紙の搬送方向と直交する方向に走査しながら、用紙にインクを吐出して記録動作を行う。記録ヘッドユニット20は、複数の吐出口が形成されており、記録の際には吐出口から用紙へインクが吐出される。本実施形態では、記録ヘッドユニット20内部の流路には、発熱素子(電気熱変換体)が配置されている。発熱素子に選択的に通電させ、その発熱素子から熱エネルギーを発生させることにより、流路内のインクが加熱されて膜沸騰により発泡し、そのときの発泡エネルギーによって吐出口からインクが吐出される。
【0016】
図3は、本実施形態における記録装置10の制御系についての構成を示すブロック図である。31は給紙ローラ12、搬送ローラ14、排紙ローラ15を回転させる搬送モータである。このように、駆動源としての搬送モータ31は、給紙ローラ12と搬送ローラ14と排紙ローラ15とを共通して駆動させている。また、34はメインボード30に配置され、記録装置全体を制御する制御手段であるCPU、32は給紙ローラ12、搬送ローラ14、排紙ローラ15の搬送モータ31による駆動を制御するモータドライバ、33は搬送ローラ14の回転を検出するエンコーダである。35は一時的な定数を記憶するRAM、36は搬送モータ31の制御テーブル等の記録装置10に対する動作パラメータや使用者が設定するサイレントモード等の状態を記憶するROMである。37は記録装置10の外部に設けられたPC、38は記録装置10の内部に設けられた操作UI(ユーザインターフェース)であり、PC37または操作UI38によりCPU34に記録動作の指令やサイレントモードの設定の指令が送られる。
【0017】
本実施形態では、搬送モータ31は、給紙ローラ12、搬送ローラ14、排紙ローラ15のそれぞれを駆動できるように、伝達手段を介してそれぞれのローラに接続されている。従って、給紙ローラ12、搬送ローラ14、排紙ローラ15のそれぞれを駆動させるための駆動源が共通化されて、それぞれのローラが一つの駆動源としての搬送モータ31のみによって駆動されている。このため、記録装置10における駆動源の数が少なくて済み、記録装置10の製造コストにおいて比較的高い割合を占める駆動源の数を少なくすることで、記録装置10の製造コストを低く抑えることができる。また、本実施形態では、搬送モータ31による回転駆動力を給紙ローラ12、搬送ローラ14、排紙ローラ15のそれぞれに伝達する伝達手段として、ギア等が用いられている。このように、伝達手段としてのギア等が、搬送モータ31による駆動力を、搬送ローラ14と排紙ローラ15と給紙ローラとに伝達している。本実施形態では、駆動源としての搬送モータ31及び搬送モータ31からの駆動力をそれぞれのローラに伝達する伝達手段としてのギア等を駆動手段と言うものとする。
【0018】
また、本実施形態では、記録装置10が、複数の用紙を搬送し、連続的に給紙・搬送・排紙を行いつつ記録を行う連送動作を行うことが可能である。記録装置10において、連送動作が行われる場合について説明する。
【0019】
PC37から記録動作の指令がCPU34に出されると、CPU34は給紙動作を行うために、まずモータドライバ32により搬送モータ31を回転させる。搬送モータ31が回転すると、搬送モータ31による回転駆動力が、不図示のギア等の伝達手段によってそれぞれのローラに伝達され、給紙ローラ12、搬送ローラ14、排紙ローラ15が回転する。搬送ローラ14が回転している間は、エンコーダ33の読み取り値に応じてCPU34が駆動信号の制御等を処理することによって各種ローラの回転速度が制御される。また、それと同時に、CPU34によって搬送距離が計算される。
【0020】
給紙ローラ12は、用紙積載部11にセットされている用紙に圧接させた状態で回転することによって、記録装置10における搬送経路Lに用紙を給紙する。給紙された用紙は搬送ローラ14の回転駆動によって搬送され、そのうち搬送経路における搬送方向下流側の端部である先端部がPEセンサ(用紙検知手段))13に到達する。用紙の先端部がPEセンサ13に到達すると、CPU34はこのPEセンサ13からの検知信号を受信する。PEセンサ13からの検知信号の受信によって用紙がPEセンサ13に到達したと判断すると、そのPEセンサ13の位置を、搬送ローラ14によって用紙を記録開始位置S1まで搬送する際の起点として使用する。このPEセンサ13の位置からどの程度搬送すると用紙が記録開始位置S1に到達するかは予めわかっているので、PEセンサ13の位置からその分用紙を搬送させることで、記録開始位置S1に正確に用紙を搬送させ、そこで記録動作を開始させることができる。このように、本実施形態の記録装置10は、搬送経路に配置され、用紙の有無を検知することが可能な用紙検知手段としてのPEセンサ13を有している。
【0021】
記録開始位置S1まで用紙が搬送されると、用紙が停止した状態で記録ヘッドユニット20が走査しながらインクの吐出が行われて記録動作が行われる。以後、記録動作が完了するまで、搬送ローラ14による用紙の搬送と記録ヘッドユニット20によるインク吐出を繰り返す。
【0022】
用紙における所定の記録領域への記録動作を終えると、そこから用紙が搬送ローラ14によって搬送方向の前方に搬送される。用紙の搬送方向の先端部が排紙ローラ15に到達すると、用紙は搬送ローラ14と排紙ローラ15との両方によって共同で搬送されるようになる。そこからさらに搬送ローラ14及び排紙ローラ15が回転して用紙が搬送されると、用紙は搬送ローラ14の間を通過し、排紙ローラ15のみによって挟みこまれた状態になる。そこからまたさらに、排紙ローラ15が回転することによって用紙が搬送されると、用紙は排紙ローラ15から押し出されて、それまでに既に排紙された用紙の積載されている排紙トレイ16の内部に排紙される。
【0023】
また、本実施形態の記録装置10は、連送動作が可能なので、先に給紙された用紙の搬送・記録の行われている間に、次の用紙を給紙し、搬送することが可能である。そのため、先に記録の行われる用紙の搬送方向後方(上流側)の端部である後端部が給紙ローラ12を抜けると、給紙ローラ12は、用紙積載部11に積載されている次の用紙に圧接することで、次の用紙の給紙を開始することが可能となる。このように、記録装置10では、先の用紙の搬送・記録が行われている間に次の用紙の給紙が行われて、同時に2つの用紙についての搬送が行われる。
【0024】
本実施形態では、給紙ローラ12は、搬送ローラ14、排紙ローラ15よりも遅い周速度で回転している。それぞれのローラは駆動源が共通化されているので、それぞれのローラの回転における角速度は等しい。しかしながら、ローラごとの径の違いによってそれぞれのローラごとに回転における周速度が異なる。そのため、搬送ローラ14や排紙ローラ15で搬送している先行する用紙と、次の用紙との間隔は、搬送ローラ14を回転させる量に比例して開く。また、本実施形態では、次の用紙の先端部がPEセンサ13によって検知されてから記録開始位置S1に搬送されるまでの間に、先行用紙が排紙トレイ13に排出されるように、給紙のタイミングが設定されている。また、先行する用紙の記録動作が完了した後、先行用紙が排紙されるまでの間に、次の用紙の給紙動作が行われ、複数の用紙が記録装置10内で搬送されるように記録装置10が設定されている。このような先行用紙と次の用紙の間隔によって、複数の用紙が記録装置10によって搬送・記録動作が行われる。
【0025】
上記のような記録装置10によって記録が行われる場合に、記録の行われる際に、記録装置10から音が発生する。記録装置10から発せられる音の原因は、搬送モータ31の駆動を各種ローラへ伝達させる過程のギア列等にある。そのため、搬送モータ31の回転速度が速くなると、記録装置10から発せられる音は大きくなる傾向にある。この音を小さく抑えるために、本実施形態の記録装置10は、使用者がPC37または操作UI38で入力することにより、サイレントモードを設定することが可能である。
【0026】
このように、本実施形態の記録装置10は、用紙の搬送において、通常の搬送速度によって用紙を搬送する通常搬送モードとは別の、サイレントモードを有している。用紙の搬送の際に発生する音を小さくするために、通常の搬送速度よりも遅い速度によって用紙を搬送するサイレントモードによって用紙の搬送を行うことが可能である。本実施形態では、CPU34がROM36にサイレントモードの設定されたことを送信し、そのことを記憶する処理を行う。サイレントモードが設定されると、CPU34は搬送モータ31を遅く回転させるようにモータドライバ32に指令を出す。
【0027】
本実施形態では、それぞれのローラの駆動源が共通化されているので、サイレントモードが設定されている場合には、給紙ローラ12、搬送ローラ14、排紙ローラ15の全てに関して、用紙を搬送する速度が通常の搬送モードよりも遅くなる。ところが、仮に排紙ローラ15によって用紙を排紙トレイ16に排紙する際に排紙ローラ15の回転数が低い場合には、排紙の際の用紙の速度が不足することにより、用紙が所定の位置に正常に積載されない可能性がある。図5に示されるように、用紙の後端部が排紙ローラから押し出されたにも関わらず、用紙の全体が排紙トレイ16の内部に移動せずに、用紙後端が排紙ローラ15の直後に引っ掛かったような状態となってしまうことがある。
【0028】
このように、排紙された用紙が所定の位置にきれいに整列されないという課題を解決するために、サイレントモードが設定された場合であっても、用紙が排紙されるときには排紙に適した速度でそれぞれのローラを回転させるように制御が行われる。
【0029】
このような構成を持つ記録装置10の連送動作において、サイレントモードが設定されている場合の制御について、図4のフローチャートを用いて説明する。
【0030】
記録装置10が排紙命令を受信したときに(S1)、設定されている用紙搬送の際の設定がサイレントモードかどうかを判断する。このとき、記録装置10の搬送モードがサイレントモードに設定され、用紙が低速で搬送される設定となっている場合(S2)には、フローがS3に進み、サイレントモードによって記録動作及び給紙、搬送、排紙が行われる。
【0031】
記録装置10の搬送モードがサイレントモードに設定されていない場合には、通常の回転速度によって給紙ローラ12、搬送ローラ14、排紙ローラ15が駆動されながら、用紙の搬送が行われる。
【0032】
以下、記録装置10の搬送モードがサイレントモードに設定されている場合について説明する。このとき、後述するように、先行する用紙は、搬送経路Lにおける給紙制御位置から排紙待機位置Aまでの区間においては、用紙は、比較的遅い搬送速度(第1の搬送速度)によって搬送される。図6に示されるように、先行する排紙用紙(記録動作が完了した用紙)の後端を既にPEセンサ13で検知している場合(S3)、PEセンサ13による後端部の検知情報から、そこから排紙待機位置Aに用紙の後端部が配置されるまでの搬送距離を算出する(S4)。排紙待機位置Aは、用紙の搬送方向後端部が排紙ローラ15よりも上流側に排紙するために必要とされる搬送距離Bを取った位置である(図8)。すなわち、排紙待機位置Aは、排紙ローラ15から排紙の際に必要とされる排紙距離だけ搬送ローラ15から搬送方向の後方に確保された位置である。用紙が排紙待機位置Aから排紙の際の所定の搬送速度によって排紙される場合には、排紙ローラ15から用紙が押し出されたときに、少なくとも、用紙の排紙される排紙トレイ16内部の所定の排紙位置まで移動することが可能である。
【0033】
排紙のために排紙ローラ15から排紙トレイ16までに搬送経路Lに確保される搬送距離Bは、排紙の際の排紙ローラの回転速度に応じて決定されても良い。排紙の際の排紙ローラ15の回転速度が高ければ、排紙の際に排紙ローラ15によって押し出されるのに必要とされる搬送距離Bは短くても良い。逆に、排紙の際の排紙ローラ15の回転速度が低ければ、それだけ排紙の際に長い距離の搬送距離Bが必要とされる。従って、排紙の際に排紙ローラ15によって押し出されるために確保されている搬送距離Bは、排紙の際の排紙ローラの回転速度に応じて調節されることとしても良い。
【0034】
その後、S4で算出された排紙待機位置Aまでの残りの距離だけ搬送モータ31を低速で駆動させ、排紙用紙の後端部が排紙待機位置Aに配置されるまで用紙が低速で搬送される(S5)(第1の搬送工程)。このように、本実施形態においては、PEセンサ13によって用紙における搬送方向の先端部を検知したところから、排紙待機位置Aに後端部が配置されるまでの用紙の搬送距離が予め算出され、算出された搬送距離の分の搬送が行われる。これにより、用紙を排紙待機位置に正確に搬送することができる。
【0035】
図7に示されるように、まだ排紙用紙(記録動作が完了した先行用紙、第1の用紙)の後端がPEセンサ13によってまだ検知されていない場合には(S3)、排紙用紙の搬送方向の後端部が検知されるまで用紙の搬送を行う。PEセンサ13によって用紙の搬送方向の後端部が検知されると、用紙の後端部が検知された検知位置を起点にして、排紙待機位置Aに後端部が配置されるまで用紙を搬送するように搬送モータ31を低速で駆動させる(S6)。図8には、先行する排紙用紙の後端部が、排紙待機位置Aまで搬送されたときの状態が示されている。
【0036】
図8に示される段階では、排紙される用紙は、記録装置10の排紙トレイ16に排紙される直前であり、ここまでの搬送は低速に設定されているため、ギア等から発生する音が小さく抑えられている。また、記録装置10が連送動作を行うことが可能なので、次の用紙における搬送方向の先端部がPEセンサ13の手前に位置するまで搬送されている。図8の状態から、記録装置10が次に給紙命令を受信すると(S7)、排紙用紙の排紙が行われる。また、それと共に、次の用紙の搬送が行われ、先端の検知位置を起点にして、給紙用紙(排紙用紙の次に給紙・搬送される用紙、第2の用紙)を、記録開始位置S1まで搬送する経路の一部において、排紙される際の搬送速度によって用紙を搬送する。本実施形態では、次に給紙されている用紙の下流側の先端部が、記録動作開始値まで搬送する過程の経路にある給紙制御位置に位置する状態となるまで、排紙に適した比較的速い搬送速度(第2の搬送速度)によって搬送される。すなわち、次に給紙されている用紙の下流側の先端部が、給紙制御位置に位置する状態となるまで、比較的速い搬送速度によって、先行する用紙及び次の用紙が搬送される(第2の搬送工程)。ここで、給紙制御位置とは、記録ヘッドユニット20による記録の開始される記録開始位置S1よりも上流側に設定された位置である。次に給紙された用紙は、給紙ローラ12によって給紙された後に、排紙に適した比較的速い搬送速度によって、給紙制御位置まで搬送される。このように、記録待機位置Aから用紙が排紙される際の用紙の搬送では、搬送モータ31を所定の速度以上に駆動することによって排紙に適した搬送速度で駆動させる(S8)。このように、本実施形態では、サイレントモードで用紙を排紙トレイ16に排出する際には、排紙に適した所定の排紙速度によって、用紙の搬送が行われる。そして、少なくとも排紙ローラ15から用紙を排紙トレイ16の排紙位置に正常に排出することが可能な搬送距離(排紙距離)Bに亘って、排紙ローラ15により用紙が押し出されて、用紙の排紙が行われる。そうすることで、用紙が排紙ローラを出た後に搬送経路の途中で止まらずに、用紙が排紙ローラ15によって排紙トレイ16内部に整列されて確実に配置される。従って、図9に示されるように、排紙トレイ16内部で用紙をきれいに整列させることができる。
【0037】
また、記録装置10では、記録装置10の構成に関係なく、用紙が排紙されるのに適した速度で搬送される区間が短くなるように設定することができる。本実施形態では、排紙ローラ15から用紙を排紙トレイ16の排紙位置に正常に排出することが可能な排紙距離が、なるべく短くなるように設定されている。用紙が排紙されるのに適した速度で搬送されると、用紙の搬送速度がサイレントモードにおいて静音とされる搬送速度よりも速く設定されているので、そこで比較的大きな音が発生する可能性がある。しかしながら、排紙のために高い速度の区間が短くなるように設定することができるので、比較的大きな音の発生する区間がより短くて済み、全体的には静粛な搬送を行うことができる。そのため、静粛性の向上した搬送モードを有する記録装置を提供することができる。
【0038】
また、排紙される用紙の次の用紙が、給紙前の積載されている位置から、記録の行われる記録開始位置まで搬送される間の区間を搬送されている間に、前の用紙における排紙の際の搬送速度による排紙を行うことができる。従って、排紙の際の比較的高い速度で搬送される区間を、次の用紙における給紙位置と記録位置との間の領域に収めることができる。そのため、排紙の際の比較的高い速度によって搬送される区間は記録に関与せずに、搬送速度の変化が記録に影響を及ぼすことを抑えることができる。
【0039】
一方、排紙命令を受信して(S1)、低速で搬送する設定ではなかった場合(S2)、サイレントモードの設定がされているわけではなく、通常の搬送モードによって用紙が搬送されるので、用紙の搬送は一定以上の速度で行われる。そのため、その後の給紙動作(S7、S8)と共に行われる排紙工程で排紙された排紙用紙はきれいに整列される。すなわち、用紙の搬送の際にサイレントモードが設定されずに通常の搬送モードが設定されている場合には、用紙の搬送速度は、搬送経路の全体を通して、排紙に適した速度によって搬送される。
【0040】
なお、排紙に適した速度で用紙を搬送する期間について、排紙ローラのみによって用紙が挟みこまれた状態であるときに、用紙の搬送速度を排紙に適した速度とすることも考えられる。しかしながら、排紙ローラが用紙を挟みこんでいるときの全体を排紙に適した速度で搬送するとすれば、搬送距離が必要以上に長くなり、音の発生する期間が過度に長くなる可能性がある。このような場合には、音の発生する時間の割合が大きくなり、記録装置10の静粛性が高く保たれなくなる。
【0041】
なお、上記実施形態では、記録装置10は、用紙の搬送方向に直交する方向に記録ヘッドユニット20が走査して記録を行うシリアルスキャン方式の記録装置を用いた。しかしながら、本発明は上記実施形態に限定されず、記録媒体の幅方向の全域に亘って延在する記録ヘッドを用いるフルライン形式の記録装置にも適用可能である。
【0042】
なお、本明細書において、「記録」とは、文字、図形等有意の情報を形成する場合のみならず、有意無意を問わずに用いられる。また、人間が視覚で知覚し得るように顕在化したものであるか否かを問わず、広く記録媒体上に画像、模様、パターン等を形成する、または記録媒体の加工を行う場合も表すものとする。
【0043】
また、「記録装置」とは、プリンタ、プリンタ複合機、複写機、ファクシミリ装置などのプリント機能を有する装置、ならびにインクジェット技術を用いて物品の製造を行なう製造装置を含む。
【0044】
また、記録媒体としての「用紙」は、一般的な記録装置で用いられる紙のみならず、広く、布、プラスチック・フィルム、金属板、ガラス、セラミックス、木材、皮革等、インクを受容可能なものを表すものとする。
【0045】
さらに、「インク」とは、上記「記録」の定義と同様広く解釈されるべきものである。記録媒体上に付与されることによって、画像、模様、パターン等の形成または記録媒体の加工、或いはインクの処理(例えば記録媒体に付与されるインク中の色剤の凝固または不溶化)に供され得る液体を表すものとする。
【符号の説明】
【0046】
10 記録装置
12 給紙ローラ
14 搬送ローラ
15 排紙ローラ
16 排紙トレイ
31 搬送モータ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
搬送経路で用紙を搬送する搬送手段と、
前記搬送手段よりも下流側に配置され用紙を前記搬送経路から排紙位置へ排出する排紙手段と、
前記搬送手段よりも上流側に配置され用紙を前記搬送経路へ給紙する給紙手段と、
前記搬送手段と前記排紙手段との間に配置され、用紙に記録を行う記録手段と、
前記搬送手段、前記排紙手段、及び前記給紙手段を駆動するための駆動手段と、
第1の用紙の先端部が、前記記録手段による記録の開始される記録開始位置よりも上流側に設定された給紙制御位置に位置する状態から、前記第1の用紙の後端部が、前記排紙手段から所定の排紙速度によって前記排紙位置に排紙を行うことが可能な排紙待機位置に位置する状態となるまで、第1の搬送速度によって前記第1の用紙及びその次に給紙される第2の用紙を搬送させ、その後、前記第1の用紙の後端部が、前記排紙待機位置に位置した状態から前記排紙位置へ排紙され、前記第2の用紙の先端部が、前記給紙制御位置に位置する状態となるまで、前記第1の搬送速度よりも速い第2の搬送速度によって前記第1の用紙及び前記第2の用紙を搬送するように、前記駆動手段を制御する制御手段と
を有することを特徴とする記録装置。
【請求項2】
前記搬送手段と前記排紙手段と前記給紙手段とが、それぞれ一対のローラであることを特徴とする請求項1に記載の記録装置。
【請求項3】
前記搬送経路に配置され、用紙の有無を検知することが可能な用紙検知手段と、
予め検出されている前記用紙検知手段から前記排紙待機位置までの距離に関する情報を記憶する記憶手段とを有することを特徴とする請求項1または2に記載の記録装置。
【請求項4】
搬送経路で用紙を搬送する搬送手段と、
前記搬送手段よりも下流側に配置され用紙を前記搬送経路から排紙位置へ排出する排紙手段と、
前記搬送手段よりも上流側に配置され用紙を前記搬送経路へ給紙する給紙手段と、
前記搬送手段と前記排紙手段との間に配置され、用紙に記録を行う記録手段と、
前記搬送手段、前記排紙手段、及び前記給紙手段を駆動するための駆動手段と、を有する記録装置における用紙の搬送方法であって、
第1の用紙の先端部が、前記記録手段による記録の開始される記録開始位置よりも上流側に設定された給紙制御位置に位置する状態から、前記第1の用紙の後端部が、前記排紙手段から所定の排紙速度によって前記排紙位置に排紙を行うことが可能な排紙待機位置に位置する状態となるまで、第1の搬送速度によって前記第1の用紙及びその次に給紙される第2の用紙を搬送させる第1の搬送工程と、
前記第1の用紙の後端部が、前記排紙待機位置に位置した状態から前記排紙位置へ排紙され、前記第2の用紙の先端部が、前記給紙制御位置に位置する状態となるまで、前記第1の搬送速度よりも速い第2の搬送速度によって前記第1の用紙及び第2の用紙を搬送させる第2の搬送工程と
を有することを特徴とする用紙の搬送方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate


【公開番号】特開2013−40041(P2013−40041A)
【公開日】平成25年2月28日(2013.2.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−179781(P2011−179781)
【出願日】平成23年8月19日(2011.8.19)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】