説明

記録装置

【課題】製造工程において固有の搬送補正値を個々に記憶させる製造工程を不要とし、かつ被記録材搬送手段の経年変化に伴う搬送誤差の変化や新規な種別の被記録材の特性にも柔軟に対応して適正な搬送補正を高精度に行うことができる記録装置を提供する。
【解決手段】第1PWセンサ341及び第2PWセンサ342は、キャリッジ61の記録紙Pの記録面と対向する部分に、副走査方向Yに一定の間隔αをもって配設されている。記録制御部100は、まず、記録紙Pへの記録実行制御に先立って、記録実行前の記録紙Pを副走査方向Yへ搬送して、記録紙Pの搬送方向先端が第1PWセンサ341により検出された時点から第2PWセンサ342により検出される時点までの搬送制御量βを取得する。そして、当該搬送制御量βと間隔αとの関係から、記録紙Pの搬送制御量に対する実際の搬送量のずれ量を補正するための搬送補正値γを算出する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、記録ヘッドが搭載され、被記録材に対して主走査方向へ往復動可能に配設されたキャリッジと、被記録材を副走査方向へ搬送可能な被記録材搬送手段と、キャリッジを主走査方向へ往復動させながら被記録材の記録面に記録データに基づいてドットを形成する制御及び被記録材搬送手段により被記録材を副走査方向へ所定の搬送量で搬送する制御を実行して被記録材の記録面への記録を実行する記録制御手段とを備えた記録装置に関する。
【背景技術】
【0002】
記録ヘッドが搭載され、被記録材に対して主走査方向へ往復動可能に配設されたキャリッジと、被記録材を副走査方向へ搬送可能な被記録材搬送手段とを備え、キャリッジを主走査方向へ往復動させながら被記録材の記録面に記録データに基づいてドットを形成する制御及び被記録材搬送手段により被記録材を副走査方向へ所定の搬送量で搬送する制御を実行して被記録材の記録面への記録を実行する構成を有する記録装置においては、被記録材搬送手段により被記録材を所定の搬送量で副走査方向へ搬送する際に、記録制御手段の搬送制御量と実際の被記録材の搬送量との誤差が生ずる。
【0003】
この被記録材の搬送量の誤差(以下、「搬送誤差」と言う。)は、記録画質低下の要因となるが、以下のように被記録材搬送手段に起因するものと搬送される被記録材に起因するものとに大別される。被記録材搬送手段に起因した搬送誤差とは、例えば、被記録材搬送手段を構成している各部品形状や駆動モータの特性のばらつきにより生じる搬送誤差である。また、搬送される被記録材に起因する搬送誤差とは、例えば、搬送ローラ(被記録材搬送手段)に挟持される表面の摩擦抵抗が普通紙やフォト専用紙等の被記録材の種別により異なるため、搬送ローラの周面との接触面における被記録材の滑り量が異なることから生じる搬送誤差である。
【0004】
このような被記録材の搬送誤差を低減させ、搬送誤差に起因する記録画質の低下を低減させることができる従来技術の一例としては、記録装置の製造工程において記録装置の個体毎に、被記録材搬送手段に起因した搬送誤差をテストパターン印刷等により測定して固有の搬送補正値を予め算出し、その搬送補正値を記録装置内部の記憶媒体(ROM等)に予め記憶させて保持し、被記録材への記録実行時に記録制御手段は、記録媒体に保持している搬送補正値に基づいて搬送制御量を補正する記録装置が公知である(例えば、特許文献1を参照)。記録装置の個体毎に固有の被記録材搬送手段に起因する搬送誤差を高精度に補正することができるとともに、被記録材の種別毎の搬送補正値をテーブルデータ等で記憶媒体(ROM等)に保持しておけば、被記録材に起因する搬送誤差も適正に補正することができる。
【0005】
【特許文献1】特開2003−11345号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記の従来技術においては、記録装置の製造工程において個体毎にテストパターン印刷等を行って搬送補正値を決定し、記録媒体に記憶する工程が必要となるため、製造コストが高くなってしまう。また、記録実行可能な被記録材の種別毎にテストパターン印刷等を行って、被記録材の種別毎に搬送補正値を決定するとなると、製造コストを大幅に上昇させてしまう虞がある。さらに、予め搬送補正値を決定してROM等の記憶媒体に保持しなければならないため、記憶媒体に専用の記憶領域を確保しなければならず、それによっても製造コストが上昇してしまう虞がある。
さらに、常に製造時に決定した固定的な搬送補正値に基づいて搬送補正を実行するため、経年変化等により被記録材搬送手段に起因した搬送誤差が変化した場合に、搬送誤差が増大して記録画質が低下してしまう虞がある。
さらに、被記録材への記録を実行する度に、プリンタドライバの設定等から被記録材の種別情報を取得し、その被記録材の種別に応じて搬送補正値を選択して搬送補正演算に反映させなければならないため、記録制御手順が複雑化してしまうとともに、記録装置製造後に登場した新規な種別の被記録材に対応して適正な搬送誤差の補正を行うことができなくなってしまう。
【0007】
本発明は、このような状況に鑑み成されたものであり、その課題は、製造工程において固有の搬送補正値を個々に記憶させる製造工程を不要とし、かつ被記録材搬送手段の経年変化に伴う搬送誤差の変化や新規な種別の被記録材の特性にも柔軟に対応して適正な搬送補正を高精度に行うことができる記録装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を達成するため、本発明の第1の態様は、記録ヘッドが搭載され、被記録材に対して主走査方向へ往復動可能に配設されたキャリッジと、被記録材を副走査方向へ搬送可能な被記録材搬送手段と、前記キャリッジを主走査方向へ往復動させながら被記録材の記録面に記録データに基づいてドットを形成する制御及び前記被記録材搬送手段により被記録材を副走査方向へ所定の搬送量で搬送する制御を実行して被記録材の記録面への記録を実行する記録制御手段とを備えた記録装置であって、前記キャリッジは、前記被記録材搬送手段により搬送される被記録材の記録面と対向する部分に、被記録材の端部を非接触で検出可能な第1の被記録材検出手段と第2の被記録材検出手段とが、副走査方向に間隔αをもって配設されており、前記記録制御手段は、記録実行前の被記録材を副走査方向へ搬送して、被記録材の搬送方向先端が前記第1の被記録材検出手段により検出された時点から前記第2の被記録材検出手段により検出されるまでの搬送制御量を取得し、当該搬送制御量と前記間隔αとの関係から被記録材の搬送制御量に対する実際の搬送量のずれ量を補正するための搬送補正値を算出し、算出した前記搬送補正値に基づいて被記録材の搬送補正を行う、ことを特徴とした記録装置である。
【0009】
第1の被記録材検出手段と第2の被記録材検出手段とは、被記録材の搬送方向(副走査方向)に間隔αをもって配設されている。つまり、被記録材の搬送方向先端が、この第1の被記録材検出手段の検出位置から第2の被記録材検出手段の検出位置まで搬送されたときの実際の搬送量は、間隔αと等しい搬送量ということになる。一方、このときの搬送制御量は、理論的には間隔αと一致するはずであるが、前述したような被記録材搬送手段に起因する搬送誤差や搬送される被記録材に起因する搬送誤差が生ずるため必ずしも一致しない。つまり、このときの搬送制御量と間隔αとの差から、記録制御手段からの搬送制御量に対して被記録材搬送手段による実際の被記録材の搬送量が、どれ位ずれてしまうのかを特定することができる。したがって、このときの搬送制御量と間隔αとの差から、被記録材の搬送制御量に対する実際の搬送量のずれ量を補正するための搬送補正値を算出することができる。
【0010】
このように、本発明の第1の態様における記録装置は、記録制御手段からの搬送制御量に対して被記録材搬送手段による実際の被記録材の搬送量が、どれ位ずれてしまうのかを特定して搬送補正値を算出することができる手段を備えているので、製造工程において固有の搬送補正値を個々に記憶させる製造工程が一切不要になるという作用効果が得られる。したがって、記録装置の製造工程を簡略化することができるので、それによって、記録装置の製造コストを大幅に低減させることができるという作用効果が得られる。
【0011】
また、本発明の第1の態様における記録装置は、ROM等の記憶媒体において固定的な搬送補正値を保持しておくための記憶容量を削減することもでき、それによって、部品コストを低減させることができるという作用効果も得られる。
【0012】
さらに、本発明の第1の態様における記録装置は、記録制御手段からの搬送制御量に対して被記録材搬送手段による実際の被記録材の搬送量が、どれ位ずれてしまうのかを特定して、搬送補正値を算出することができる手段を備えているので、定期的に或いは任意のタイミングでいつでも、その時点の記録装置において最適な搬送補正値を算出することができ、それによって、被記録材搬送手段の経年変化に伴う搬送誤差の変化や新規な種別の被記録材の特性にも柔軟に対応して適正な搬送補正を高精度に長期間維持して記録を実行することができるという作用効果が得られる。
【0013】
本発明の第2の態様は、前述した第1の態様において、前記記録制御手段は、被記録材への記録を実行する際には、その都度記録開始前に、記録実行前の被記録材を副走査方向へ搬送して、被記録材の搬送方向先端が前記第1の被記録材検出手段により検出された時点から前記第2の被記録材検出手段により検出されるまでの搬送制御量を取得し、当該搬送制御量と前記間隔αとの関係から被記録材の搬送制御量に対する実際の搬送量のずれ量を補正するための搬送補正値を算出し、算出した前記搬送補正値に基づいて当該被記録材への記録実行中における搬送補正を実行する、ことを特徴とした記録装置である。
このように、被記録材への記録を実行する際には、その都度記録開始前に、被記録材の搬送制御量に対する実際の搬送量のずれ量を補正するための搬送補正値を算出するので、常に記録実行対象となる被記録材の種別に最適な搬送補正値を高精度に設定して記録を実行することができる。
【0014】
本発明の第3の態様は、前述した第1の態様又は第2の態様において、前記キャリッジは、前記第1の被記録材検出手段及び前記第2の被記録材検出手段が、前記被記録材検出手段により被記録材を所定の記録開始位置まで副走査方向へ搬送する過程で当該被記録材の搬送方向先端を検出可能に配設されている、ことを特徴とした記録装置である。
【0015】
このように、被記録材を所定の記録開始位置まで副走査方向へ搬送する過程で当該被記録材の搬送方向先端を検出することができるので、搬送補正値を決定するための被記録材の搬送と、被記録材を記録開始位置へ配置するための被記録材の搬送とを同時に行うことが可能になる。すなわち、被記録材を記録開始位置まで搬送した時点で、既に当該被記録材に対する最適な搬送補正値の算出を完了している状態にすることが可能になる。したがって、被記録材を記録開始位置まで搬送した時点で、すぐに記録を開始することができるので、最適な搬送補正値を算出することによる記録実行時のスループットの低下が、ほとんど生じないようにすることができるという作用効果が得られる。
【0016】
本発明の第4の態様は、前述した第1の態様〜第3の態様のいずれかにおいて、前記キャリッジを主走査方向へ往復動させることで、前記第1の被記録材検出手段と前記第2の被記録材検出手段のいずれか一方又は双方により、前記被記録材搬送手段による搬送経路にある被記録材の主走査方向の両端位置を検出可能な構成を有している、ことを特徴とした記録装置である。
【0017】
このように、副走査方向における被記録材の搬送方向先端のみならず、主走査方向における被記録材の両端位置を検出することもできるので、被記録材搬送手段により搬送されている被記録材の主走査方向の長さや主走査方向位置を検出することができる。したがって、被記録材に対する主走査方向及び副走査方向の記録実行位置をより高精度に設定して記録を実行することができるので、例えば、被記録材の端部で記録画像の一部が途切れてしまったり、四辺の余白幅が不均等になってしまったり、といった虞を低減させることができる。
【0018】
本発明の第5の態様は、前述した第1の態様〜第4の態様のいずれかにおいて、前記被記録材搬送手段により搬送される被記録材を摺接支持しつつ被記録材の記録面と前記記録ヘッドのヘッド面との間隔を所定間隔に規定するプラテンを備え、前記第1の被記録材検出手段及び前記第2の被記録材検出手段は、前記プラテンの被記録材摺接面の光反射率と被記録材の記録面の光反射率との差から前記プラテン上にある被記録材の端部を非接触で検出可能な光学式センサを有している、ことを特徴とした記録装置である。
このように、プラテンの被記録材摺接面の光反射率と被記録材の記録面の光反射率との差からプラテン上にある被記録材の端部を非接触で検出可能な光学式センサを利用することによって、被記録材の端部を非接触で検出可能な第1の被記録材検出手段及び第2の被記録材検出手段を構成することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。
まず、本発明に係る「記録装置」の一例としてのインクジェット式記録装置の概略構成について説明する。
【0020】
図1は、本発明に係るインクジェット式記録装置の要部平面図であり、図2はその側面図である。図3は、本発明に係るインクジェット式記録装置の概略のブロック図である。
インクジェット式記録装置50には、「被記録材」としての記録紙Pにインクを噴射して記録を行う記録ヘッド62が搭載され、記録紙Pに対して主走査方向Xへ往復動可能にキャリッジガイド軸51に軸支されたキャリッジ61が配設されている。キャリッジ61には、記録ヘッド62並びに後述する第1PWセンサ341及び第2PWセンサ342とが搭載されており、CRモータ63(図3)の回転駆動力が図示していない無端ベルトによるベルト伝達機構によって伝達されて主走査方向Xに往復動する。記録ヘッド62のヘッド面と対向する位置には、後述する「被記録材搬送手段」としての搬送駆動ローラ53及び搬送従動ローラ54により搬送される記録紙Pを摺接支持しつつ記録紙Pの記録面と記録ヘッド62のヘッド面との間隔を所定間隔に規定するプラテン52が配設されている。
【0021】
キャリッジ61の主走査方向Xへの往復動領域の一端側の外側には、公知のキャッピング装置59が設けられている。記録を実行しない待機状態においては、キャリッジ61がキャッピング装置59の上まで移動して停止し、キャッピング装置59に配設されているキャップCPによって記録ヘッド62のヘッド面が封止される。このキャリッジ61の停止位置は、ホームポジションHPとして規定される。
【0022】
また、インクジェット式記録装置50には、記録紙Pを副走査方向Yへ搬送可能な「被記録材搬送手段」として、搬送駆動ローラ53と搬送従動ローラ54が設けられている。搬送駆動ローラ53は、PFモータ58(図3)の回転駆動力が歯車伝達されて回転し、搬送駆動ローラ53の回転により、記録紙Pは副走査方向Yに搬送される。搬送従動ローラ54は、複数設けられており、それぞれ個々に搬送駆動ローラ53に付勢され、記録紙Pが搬送駆動ローラ53の回転により搬送される際に、記録紙Pに接しながら記録紙Pの搬送に従動して回転する。搬送駆動ローラ53の外周面には、高摩擦抵抗を有する皮膜が施されている。搬送従動ローラ54によって、搬送駆動ローラ53の外周面に押しつけられた記録紙Pは、その外周面の摩擦抵抗によって搬送駆動ローラ53の外周面に密着し、搬送駆動ローラ53の回転によって副走査方向Yに搬送される。
【0023】
搬送駆動ローラ53の副走査方向Yの上流側には、多数の記録紙Pを積重可能な「被記録材積重手段」としての給紙トレイ57が配設されている。給紙トレイ57は、例えば普通紙やフォト紙等の記録紙Pを給紙(給送)可能な構成となっている。給紙トレイ57の近傍には、給紙トレイ57に積重されている記録紙Pの最上位の記録紙Pを「被記録材搬送手段」へ自動給送する「自動給送手段」としてのASF(オート・シート・フィーダ)が設けられている。ASFは、給紙トレイ57に設けられた給紙ローラ57b及び図示してない分離パッドを有する公知の自動給紙機構である。給紙ローラ57bは、給紙トレイ57の一方側に配置されている。記録紙ガイド57aは、記録紙Pの幅に合わせて幅方向に摺動可能に給紙トレイ57に設けられている。
【0024】
そして、PFモータ58(図3)の回転駆動力が歯車伝達されて回転する給紙ローラ57bの回転駆動力により、給紙トレイ57に置かれた記録紙Pが給紙される。その際に、分離パッドの摩擦抵抗により、複数の記録紙Pが一度に給紙されることなく最上位の記録紙Pのみが正確に分離されて一枚ずつ自動給紙される。給紙ローラ57bと搬送駆動ローラ53との間には、公知の技術による紙検出器33が配設されている。
【0025】
一方、記録実行後の記録紙Pを排紙する手段として、排紙駆動ローラ55と排紙従動ローラ56とが設けられている。排紙駆動ローラ55は、PFモータ58(図3)の回転駆動力が歯車伝達されて回転し、排紙駆動ローラ55の回転により、記録実行後の記録紙Pは副走査方向Yに排紙される。排紙従動ローラ56は、周囲に複数の歯を有し、各歯の先端が記録紙Pの記録面に点接触するように鋭角的に尖った歯付きローラになっている。複数の排紙従動ローラ56は、それぞれ個々に排紙駆動ローラ55に付勢され、記録紙Pが排紙駆動ローラ55の回転により排紙される際に記録紙Pに接して記録紙Pの排紙に伴い従動回転する。
そして、給紙ローラ57bや搬送駆動ローラ53及び排紙駆動ローラ55を回転駆動するPFモータ58(図3)、並びにキャリッジ61を主走査方向Xに駆動するCRモータ63(図3)は、記録制御部100により駆動制御される。また、記録ヘッド62も同様に、記録制御部100により駆動制御されて記録紙Pの表面にインクを噴射する。記録制御部100は、キャリッジ61を主走査方向Xへ往復動させながら記録データに基づいて記録ヘッド62から記録紙Pへインクを噴射してドットを形成する動作と、記録紙Pを副走査方向Yへ所定の搬送量で搬送する動作とを交互に繰り返しながら記録紙Pへの記録制御を実行する。
【0026】
引き続き図1〜図3を参照しながら「記録制御手段」としての記録制御部100について説明する。
記録制御部100は、ROM101、RAM102、ASIC(特定用途向け集積回路)103、MPU104、「不揮発性記憶媒体」としての不揮発性メモリ105、PFモータドライバ106、CRモータドライバ107及びヘッドドライバ108を備えている。MPU104には、ASIC103を介して搬送駆動ローラ53の回転量を検出する「回転量検出手段」としてのロータリエンコーダ31、キャリッジ61の移動量を検出する「キャリッジ移動量検出手段」としてのリニアエンコーダ32、搬送される記録紙Pの先端及び後端を検出する紙検出器33、後述する第1PWセンサ341、第2PWセンサ342及びインクジェット式記録装置50の電源をON/OFFするための電源スイッチ35の出力信号が入力される。
【0027】
公知のロータリエンコーダ31は、搬送駆動ローラ53の回転に連動して回転するロータリスケール311と、ロータリスケール311の外周に沿って等間隔に形成されているスリットを検出するためのロータリスケールセンサ312とを有している(図2)。搬送駆動ローラ53の回転に伴い変化するロータリスケールセンサ312の出力信号は、ASIC103を介してMPU104へ出力される。
公知のリニアエンコーダ32は、キャリッジ61の近傍に主走査方向Xと略平行に配置されたリニアスケール321と、リニアスケール321に等間隔に形成されているスリットを検出するキャリッジ61に搭載されたリニアスケールセンサ322とを有している(図2)。キャリッジ61の主走査方向Xの移動量に応じたパルスの周期が移動速度に伴い変化するリニアスケールセンサ322の出力信号は、ASIC103を介してMPU104へ出力される。
【0028】
公知の紙検出器33は、立位姿勢への自己復帰習性が付与され、かつ記録紙Pの搬送方向(副走査方向Y)にのみ回動し得るよう記録紙Pの搬送経路内に突出する状態で枢支されたレバーを有し、このレバーの先端が記録紙Pに押されることでレバーが回動し、それによって記録紙Pが検出される構成を成す検出器である(図2)。紙検出器33は、給紙ローラ57bより給紙された記録紙Pの始端位置及び搬送中の記録紙Pの終端位置を検出し、その検出信号は、ASIC103を介してMPU104へ出力される。
記録制御部100のシステムバスには、ROM101、RAM102、ASIC103、MPU104及び不揮発性メモリ105が接続されている。MPU104は、インクジェット式記録装置50の記録制御を実行するための演算処理やその他必要な演算処理を行う。ROM101には、MPU104によるインクジェット式記録装置50の制御に必要な記録制御プログラム(ファームウェア)等が格納されており、記録制御プログラムの処理に必要な各種データ等は不揮発性メモリ105に記憶されている。RAM102は、MPU104の作業領域や記録データ等の格納領域として用いられる。
【0029】
ASIC103は、DCモータであるPFモータ58及びCRモータ63の速度制御、並びに記録ヘッド62の駆動制御を行う為の制御回路を有している。MPU104から送られてくる制御命令、ロータリエンコーダ31の出力信号及びリニアエンコーダ32の出力信号に基づいて、PFモータ58及びCRモータ63の速度制御を行う為の各種演算を行い、その演算結果に基づくモータ制御信号をPFモータドライバ106及びCRモータドライバ107へ送出する。また、MPU104から送出される記録データ等に基づいて、記録ヘッド62の制御信号を演算生成してヘッドドライバ108へ送出して記録ヘッド62を駆動制御する。ASIC103は、「情報処理装置」としてのパーソナルコンピュータ301等との情報伝送を実現する「情報伝送手段」としてホストIF112を有している。
【0030】
つづいて、本発明に係る「第1の被記録材検出手段」としての第1PWセンサ341及び「第2の被記録材検出手段」としての第2PWセンサ342並びに記録制御部100による記録紙Pの搬送補正制御について説明する。
図4〜図6は、キャリッジ61近傍を拡大して示したインクジェット式記録装置50の要部平面図であり、図4は副走査方向Yへ搬送される記録紙Pの搬送方向先端が第1PWセンサ341に検出された時点、図5は副走査方向Yへ搬送される記録紙Pの搬送方向先端が第2PWセンサ342に検出された時点、図6は副走査方向Yへ搬送される記録紙Pの搬送方向先端が記録開始位置へ到達した時点をそれぞれ示したものである。
【0031】
第1PWセンサ341及び第2PWセンサ342は、キャリッジ61の記録紙Pの記録面と対向する部分に、副走査方向Yに一定の間隔αをもって配設されている。第1PWセンサ341及び第2PWセンサ342は、プラテン52の記録紙摺接面の光反射率と記録紙Pの記録面の光反射率との差からプラテン52上にある記録紙Pの端部を非接触で検出可能な光学式センサを有しており、その検出信号は、ASIC103を介してMPU104へ出力される。記録制御部100は、この第1PWセンサ341及び第2PWセンサ342の出力信号に基づいて、搬送駆動ローラ53の回転により副走査方向Yへ搬送される記録紙Pの搬送方向(副走査方向Y)の先端位置を検出することができる。
【0032】
記録制御部100は、まず、記録紙Pへの記録実行制御に先立って、記録実行前の記録紙Pを副走査方向Yへ搬送して、記録紙Pの搬送方向先端が第1PWセンサ341により検出された時点(図4)から第2PWセンサ342により検出される時点(図5)までの搬送制御量βを取得する。つづいて、当該搬送制御量βと間隔αとの関係から、記録紙Pの搬送制御量に対する実際の搬送量のずれ量を補正するための搬送補正値γを以下の式(1)から算出する。
搬送補正値γ=(搬送制御量β−間隔α)/間隔α …(1)
第1PWセンサ341と第2PWセンサ342とは、記録紙Pの搬送方向(副走査方向Y)に間隔αをもって配置されているから、この第1PWセンサ341から第2PWセンサ342まで記録紙Pを搬送したときの実際の記録紙Pの搬送量は、間隔αと等しい搬送量ということになる。一方、このときの搬送制御量β、具体的にはロータリエンコーダ31の出力信号に基づく搬送駆動ローラ53の回転量に相当する搬送量は、理論的には間隔αと一致するはずである。
【0033】
しかし、例えば搬送駆動ローラ53の形状誤差や偏心等に起因する搬送誤差、搬送される記録紙Pの表面と搬送駆動ローラ53の外周面との接触面に生ずるすべり等に起因する搬送誤差等が生ずるため、このときの搬送制御量βと間隔αとは必ずしも一致しない。そこで、このときの搬送制御量βと間隔αとの差から、記録制御部100からの搬送制御量に対して搬送駆動ローラ53の回転による実際の記録紙Pの搬送量が、どれ位ずれてしまうのかを特定する。このときの搬送制御量βと間隔αとの差から、例えば上記式(1)により、記録紙Pの搬送制御量に対する実際の搬送量のずれ量を補正するための搬送補正値γを算出することができる。
【0034】
そして、記録制御部100は、記録紙Pの搬送方向先端が記録開始位置まで到達した時点(図6)から、記録紙Pへの記録実行制御を開始し、記録紙Pを所定の搬送量で副走査方向Yへ搬送する際には、この搬送補正値γに基づいて記録紙Pの搬送補正を行う。例えば、間隔αが2[inch]で搬送制御量βが2.1[inch]だった場合には、搬送補正値γは、0.05となり、これから、搬送量1inch当たり0.05inchだけ余分に搬送制御するような搬送補正を行えば良いことになる。
【0035】
このように、本発明に係るインクジェット式記録装置50は、記録制御部100からの搬送制御量に対して搬送駆動ローラ53の回転による実際の記録紙Pの搬送量が、どれ位ずれてしまうのかを特定して、搬送補正値γを算出することができる手段を備えているので、製造工程において固有の搬送補正値を個々に記憶させる製造工程が不要になる。したがって、インクジェット式記録装置50の製造工程を簡略することができ、またROM101や不揮発性メモリ105(図3)等の記憶媒体において固定的な搬送補正値を保持しておくための記憶容量を削減することができ、それによって、インクジェット式記録装置50の製造コストを大幅に低減させることができる。
【0036】
また、本発明に係るインクジェット式記録装置50は、定期的に或いは任意のタイミングでいつでも、その時点のインクジェット式記録装置50において最適な搬送補正値γを算出することができ、それによって、搬送駆動ローラ53等の経年変化や新規な種別の記録紙Pの特性にも柔軟に対応して適正な搬送補正を長期間高精度に維持して記録を実行することができる。
【0037】
さらに、記録紙Pへの記録を実行する際には、その都度記録開始前に上記手順で搬送補正値γを算出し、算出した搬送補正値γに基づいて当該記録紙Pへの記録実行中における搬送補正を実行するようにしても良い。それによって、常に記録実行対象となる記録紙Pの種別に最適な搬送補正値γを高精度に設定して記録を実行することができる。
【0038】
さらに、本発明に係るインクジェット式記録装置50は、当該実施例のように、第1PWセンサ341及び第2PWセンサ342が、搬送駆動ローラ53の回転により記録紙Pを所定の記録開始位置まで副走査方向Yへ搬送する過程で当該記録紙Pの搬送方向先端を検出可能に配設されているのが好ましい。それによって、搬送補正値γを決定するための記録紙Pの搬送と、記録紙Pを記録開始位置へ配置するための記録紙Pの搬送とを同時に行うことができる。すなわち、記録紙Pを記録開始位置まで搬送した時点で、既に当該記録紙Pに対する最適な搬送補正値γの算出を完了している状態にすることが可能になる。したがって、記録紙Pを記録開始位置まで搬送した時点で、すぐに記録を開始することができるので、最適な搬送補正値γを算出することによる記録実行時のスループットの低下が、ほとんど生じないようにすることができる。
【0039】
さらに、本発明に係るインクジェット式記録装置50は、キャリッジ61を主走査方向Xへ往復動させることで、第1PWセンサ341と第2PWセンサ342のいずれか一方又は双方により、搬送経路のプラテン52上にある記録紙Pの主走査方向Xの両端位置を検出可能な構成としても良い。それによって、副走査方向Yにおける記録紙Pの搬送方向先端のみならず、主走査方向Xにおける記録紙Pの両端位置を検出することもできるので、搬送駆動ローラ53の回転により搬送されている記録紙Pの主走査方向Xの長さや主走査方向Xにおける位置を検出することができる。したがって、記録紙Pに対する主走査方向X及び副走査方向Yの記録実行位置をより高精度に設定して記録を実行することができるので、例えば、記録紙Pの端部で記録画像の一部が途切れてしまったり、四辺の余白幅が不均等になってしまったり、といった虞を低減させることができる。
【0040】
このようにして、本発明に係るインクジェット式記録装置50によれば、製造工程において固有の搬送補正値を個々に記憶させる製造工程を不要とし、かつ搬送駆動ローラ53等の「被記録材搬送手段」の経年変化に伴う搬送誤差の変化や新規な種別の記録紙Pの特性にも柔軟に対応して適正な搬送補正を高精度に行うことができる。
【0041】
尚、本発明は上記実施例に限定されることなく、特許請求の範囲に記載した発明の範囲内で、種々の変形が可能であり、それらも本発明の範囲内に含まれるものであることは言うまでもない。
【図面の簡単な説明】
【0042】
【図1】本発明に係るインクジェット式記録装置の概略の平面図である。
【図2】本発明に係るインクジェット式記録装置の概略の側面図である。
【図3】本発明に係るインクジェット式記録装置の概略のブロック図である。
【図4】インクジェット式記録装置のキャリッジ近傍の要部平面図である。
【図5】インクジェット式記録装置のキャリッジ近傍の要部平面図である。
【図6】インクジェット式記録装置のキャリッジ近傍の要部平面図である。
【符号の説明】
【0043】
341 第1PWセンサ、342 第2PWセンサ、50 インクジェット式記録装置、51 キャリッジガイド軸、52 プラテン、53 搬送駆動ローラ、54 搬送従動ローラ、55 排紙駆動ローラ、56 排紙従動ローラ、57 給紙トレイ、57b 給紙ローラ、58 PFモータ、59 キャッピング装置、61 キャリッジ、62 記録ヘッド、63 CRモータ、100 記録制御部、101 ROM、102 RAM、103 ASIC、104 MPU、105 不揮発性メモリ、106 PFモータドライバ、107 CRモータドライバ、108 ヘッドドライバ、P 記録紙、X 主走査方向、Y 副走査方向

【特許請求の範囲】
【請求項1】
記録ヘッドが搭載され、被記録材に対して主走査方向へ往復動可能に配設されたキャリッジと、
被記録材を副走査方向へ搬送可能な被記録材搬送手段と、
前記キャリッジを主走査方向へ往復動させながら被記録材の記録面に記録データに基づいてドットを形成する制御及び前記被記録材搬送手段により被記録材を副走査方向へ所定の搬送量で搬送する制御を実行して被記録材の記録面への記録を実行する記録制御手段とを備えた記録装置であって、
前記キャリッジは、前記被記録材搬送手段により搬送される被記録材の記録面と対向する部分に、被記録材の端部を非接触で検出可能な第1の被記録材検出手段と第2の被記録材検出手段とが、副走査方向に間隔αをもって配設されており、
前記記録制御手段は、記録実行前の被記録材を副走査方向へ搬送して、被記録材の搬送方向先端が前記第1の被記録材検出手段により検出された時点から前記第2の被記録材検出手段により検出されるまでの搬送制御量を取得し、当該搬送制御量と前記間隔αとの関係から被記録材の搬送制御量に対する実際の搬送量のずれ量を補正するための搬送補正値を算出し、算出した前記搬送補正値に基づいて被記録材の搬送補正を行う、ことを特徴とした記録装置。
【請求項2】
請求項1において、前記記録制御手段は、被記録材への記録を実行する際には、その都度記録開始前に、記録実行前の被記録材を副走査方向へ搬送して、被記録材の搬送方向先端が前記第1の被記録材検出手段により検出された時点から前記第2の被記録材検出手段により検出されるまでの搬送制御量を取得し、当該搬送制御量と前記間隔αとの関係から被記録材の搬送制御量に対する実際の搬送量のずれ量を補正するための搬送補正値を算出し、算出した前記搬送補正値に基づいて当該被記録材への記録実行中における搬送補正を実行する、ことを特徴とした記録装置。
【請求項3】
請求項1又は2において、前記キャリッジは、前記第1の被記録材検出手段及び前記第2の被記録材検出手段が、前記被記録材検出手段により被記録材を所定の記録開始位置まで副走査方向へ搬送する過程で当該被記録材の搬送方向先端を検出可能に配設されている、ことを特徴とした記録装置。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1項において、前記キャリッジを主走査方向へ往復動させることで、前記第1の被記録材検出手段と前記第2の被記録材検出手段のいずれか一方又は双方により、前記被記録材搬送手段による搬送経路にある被記録材の主走査方向の両端位置を検出可能な構成を有している、ことを特徴とした記録装置。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか1項において、前記被記録材搬送手段により搬送される被記録材を摺接支持しつつ被記録材の記録面と前記記録ヘッドのヘッド面との間隔を所定間隔に規定するプラテンを備え、
前記第1の被記録材検出手段及び前記第2の被記録材検出手段は、前記プラテンの被記録材摺接面の光反射率と被記録材の記録面の光反射率との差から前記プラテン上にある被記録材の端部を非接触で検出可能な光学式センサを有している、ことを特徴とした記録装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2007−98759(P2007−98759A)
【公開日】平成19年4月19日(2007.4.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−291065(P2005−291065)
【出願日】平成17年10月4日(2005.10.4)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】