説明

記録装置

【課題】被記録材の腰の強さの強弱を簡単な構造で感度良く判別することができるようにすること。
【解決手段】搬送される被記録材Pの材種情報を検知する検知部11を備え、前記検知部は、揺動支点45に対して所定の角度揺動する検知レバー47と、前記検知レバーの角度変化を検知するセンサー55とを備え、前記検知レバーは、前記揺動支点から下方に延在し前記被記録材が接触することで該検知レバーに揺動を生起させる下方長尺片49と、前記揺動支点の上方に延在し前記揺動によって先端部が前記センサーの検知領域を横切るように通過する上方長尺片50とを有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、搬送される被記録材の材種情報を検知する検知部を備える構成の記録装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
下記の特許文献1や特許文献2には、記録装置で実際に記録が実行される被記録材の材種である紙種を用紙の腰の強さの強弱によって判別し、当該判別結果に基づいてその用紙に対する画像形成条件を定めたり、用紙の排出方向の振り分けを行うことが開示されている。
【0003】
ところで、インクジェットプリンター等の記録装置で使用できる被記録材(以下代表的に単に「用紙」ともいう)の種類は、多岐に及んでおり、普通紙、インクジェット専用紙、写真用紙、葉書等、用紙の表面にコート層があるものとないもの、用紙の厚さ等の違いによって生ずる腰が強いものと弱いもの、紙以外の材質のものなど種々の材種が存在している。
【0004】
また、インクジェットプリンターの普及に伴って、自分で年賀状等のデザインを作成して印刷するユーザーが増加している。そして、これらのユーザーの間では、インクジェット用の葉書に本印刷する前に当該葉書のサイズにカットした普通紙等を使用して、試し印刷が行われることがある。
ただし、この場合インクジェットプリンターが認識している紙種は、インクジェット用の葉書であるので、当該葉書に適合した記録実行モードに従って葉書ではない前記普通紙等に記録が実行されることになる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2001−335167号公報
【特許文献2】特開平5−186090号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、前記特許文献1や特許文献2に開示されている紙種判別の構造は、用紙の紙種を判別する検知レバーが水平に近い横姿勢で用紙に当接するように構成されている。従って、当該用紙に検知レバー自体の重量に基づく荷重が作用してしまい、用紙の微妙な腰の強さを判別するためには、その過重の影響を考慮しなければならず、判別感度を上げるには構造が複雑化する問題があった。
【0007】
また、前述のようにインクジェットプリンターが認識している紙種がインクジェット用の葉書であるのに、実際に記録が実行される紙種が普通紙である場合には、インク吐出量の多い写真並みの高画質の記録が普通紙に対して実行されることになる。
そのため、当該用紙に対するインクの浸潤が多くなってコックリング量が大きくなり、記録ヘッドや用紙の搬送経路上の構造物に用紙が接触し、或いは突き当たって用紙の紙詰まり等を生じさせる問題があった。
【0008】
本発明の目的は、被記録材の腰の強さの強弱を簡単な構造で感度良く判別することができるようにすることにある。
また、記録装置が認識している被記録材の材種(紙種)と実際に記録が実行される被記録材の材種(紙種)とが異なっている場合に、被記録材のインクの浸潤に起因する紙詰まり等の搬送不良を防止することができるようにすることにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記課題を解決するために本発明に係る記録装置の第1の態様は、搬送される被記録材の材種情報を検知する検知部を備え、前記検知部は、揺動支点に対して所定の角度揺動する検知レバーと、前記検知レバーの角度変化を検知するセンサーとを備え、前記検知レバーは、前記揺動支点から下方に延在し前記被記録材が接触することで該検知レバーに揺動を生起させる下方長尺片と、前記揺動支点の上方に延在し前記揺動によって先端部が前記センサーの検知領域を横切るように通過する上方長尺片と、を有することを特徴とすることを特徴とするものである。
【0010】
本態様によれば、前記検知レバーは、前記揺動支点から下方に延在し、前記被記録材が接触することで該検知レバーに揺動を生起させる下方長尺片と、前記揺動支点の上方に延在し、前記揺動によって先端部が前記センサーの検知領域を横切るように通過する上方長尺片とを有している。すなわち、検知レバーは、従来の水平に近い横姿勢で被記録材と接触する構造と異なり、前記下方長尺片と上方長尺片が縦姿勢で被記録材と接触する。
従って、検知レバーの揺動によって被記録材の腰の強弱を判別するに際し、前記検知レバーの荷重の影響が当該縦姿勢にすることで小さくなるので、判別感度の向上を構造簡単にして実現することができる。
【0011】
本発明の第2の態様は、前記第1の態様に係る記録装置において、前記上方長尺片の長さは前記下方長尺片の長さよりも長くなるように設定されていることを特徴とするものである。
【0012】
本態様によれば、被記録材に当接する部分の下方長尺片の変位量がセンサーによって検知される上方長尺片の先端部において拡大され、より大きな変位となってセンサーによって検知される。従って、検知部で検知できる被記録材の腰の強さの検知感度が向上し、被記録材の紙種判別の精度を向上できる。
【0013】
本発明の第3の態様は、前記第1の態様又は第2の態様に係る記録装置において、前記検知レバーは、前記下方長尺片の作る方向と前記上方長尺片の作る方向のいずれもが縦姿勢となる所定角度の範囲内で揺動するように構成されていることを特徴とするものである。
ここで、「縦姿勢となる所定角度の範囲内で揺動するように構成」とは、検知レバーは上下方向に延在する状態、すなわち縦姿勢で揺動支点の軸で支えられ、搬送中の被記録材に該検知レバーの重量に基づく搬送抵抗をほとんどかからない程度に小さくできる範囲内で揺動する構造を意味している。
具体的には、前記下方長尺片も前記上方長尺片も垂直軸に対して最大でも45度まで、好ましくは30度まで、更に好ましくは20度までの範囲内で揺動する構造である。
【0014】
本態様によれば、検知レバーの前記縦姿勢によって該検知レバー自体の重量は揺動支点の軸によって支えられ、搬送中の被記録材に前記検知レバーの重量に基く搬送抵抗となる荷重はほとんどかからないようにすることが可能である。従って、縦姿勢という簡単な構造によって被記録材の腰の強弱を一層きめ細かく判別することが可能になる。
【0015】
本発明の第4の態様は、前記第1の態様から第3の態様のいずれか一つに記載された記録装置において、前記上方長尺片は、前記被記録材が前記下方長尺片に接触していない状態では、重心が前記揺動支点を通る垂直軸に対して前記被記録材の搬送方向の下流側に位置する傾斜姿勢となるように構成されており、前記被記録材が前記下方長尺片に接触して前記上方長尺片が前記センサーに検知される位置まで揺動した状態では、該上方長尺片は、前記重心が前記垂直軸に対して前記搬送方向の上流側に位置する傾斜姿勢となるように構成されていることを特徴とするものである。
ここで、「下流側に位置する傾斜姿勢」における傾斜角度は、最大でも45度まで、好ましくは30度まで、更に好ましくは20度までの範囲内で構成される。また、「上流側に位置する傾斜姿勢」における傾斜角度も最大でも45度まで、好ましくは30度まで、更に好ましくは20度までの範囲内で構成される。
【0016】
被記録材が搬送されて検知レバーの所を通過すると、下方長尺片は下端(自由端)が前記被記録材の搬送方向における下流側に向って揺動する。一方、上方長尺片は上端(自由端)が上流側に向って揺動する。そして、上方長尺片は前記揺動によって、揺動支点を通る垂直軸に対して下流側に傾斜した姿勢から上流側に傾斜した姿勢に移行する。
この移行工程において、上方長尺片はその重量に基く力が揺動当初は下方長尺片を初期位置に戻す力と同方向に作用するが、前記揺動が進んで前記上流側に傾斜した姿勢に変わると、当該上方長尺片の重心の移動によって前記力は逆方向に作用するように変わる。すなわち、下方長尺片を初期位置に戻そうとする力を減じるようになる。
【0017】
この減じる程度は、該上方長尺片の揺動が進むにつれて大きくなり、該上方長尺片が前記センサーに検知される位置まで揺動した状態で最も大きくなる。この状態では下方長尺片も大きく揺動しているため該下方長尺片を初期位置に戻そうとする力も大きくなっているが、前記逆方向の力による「減じる」作用によって該下方長尺片を初期位置に戻そうとする力の増大が抑制される。
【0018】
これにより、腰の強い被記録材の場合は腰の弱い被記録材よりも検知レバーが大きく揺動するが、大きく揺動した下方長尺片を初期位置に戻す力は前記逆方向の力による「減じる」作用によってその増大が抑制されるので、搬送抵抗の増大や被記録材の被記録面に対する損傷の発生を防止することができる。
【0019】
本発明の第5の態様は、前記第1の態様から第4の態様のいずれか1つの態様に係る記録装置において、前記上方長尺片は、前記センサーの検知領域を、前記検知レバーの揺動角度に応じて順次横切る複数のフラグを備えていることを特徴とするものである。
【0020】
本態様によれば、単一のセンサーを使用して腰の強さの違う複数の紙種を検知レバーの揺動角度の変化を利用して簡単な構造で検知できるようになる。
【0021】
本発明の第6の態様は、インクを吐出する記録ヘッドと、記録装置が認識している被記録材の材種に基づいて設定されるインク吐出量で前記記録ヘッドを駆動する制御部と、前記記録ヘッドによる記録が実行される被記録材の材種情報を検知する検知部と、記録装置が認識している前記材種と、該材種とは別に前記検知部によって検知された材種情報とが同じものであるか否かの判定を行う判定部とを備え、前記検知部は、前記第1の態様から第5の態様のいずれか一つに記載の検知部で構成され、前記制御部は、前記判定部の判定結果が「否」である場合に、前記検知された材種情報に基づいて前記インク吐出量を減じた記録を実行可能に構成されていることを特徴とするものである。
【0022】
ここで、本明細書で使用する「記録装置が認識している被記録材の材種」には、ユーザーが記録開始に先立って入力ないし選択した設定情報と、当該記録装置の目的から予め決まっている材種、例えば当該記録装置が葉書専用機であれば葉書というように予め決まっている材種との両方が含まれる。
また、「検知部によって検知された材種情報」とは、材種そのものの他に、被記録材の材種に対応した物理量である例えば被記録材の腰の強さの強弱等を含む意味で使われている。尚、材種そのものの検知は、被記録材に材種情報を記録又は記憶しておき、それを記録装置側のセンサーで読み取ることで可能である。
また、「記録装置が認識している前記材種と、該材種とは別に前記検知部によって検知された材種情報とが同じものであるか否かの判定」における「同じ」とは、本発明の目的である被記録材のインクの浸潤に起因する紙詰まり等を生じさせない実効性のある範囲での同一性は判定できれば足り、必ずしも厳密な意味ですべての紙種を判別できなくてもよい意味で使われている。
【0023】
本態様によれば、前記制御部は、前記判定部の判定結果が「否」である場合に、前記検知された材種情報に基づいて前記インク吐出量を減じた記録を実行可能に構成されている。従って、前記検知された被記録材の材種を考慮したインク吐出量の設定によってインクの浸潤に起因する被記録材の紙詰まり等を防止することが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】本発明の実施例に係る記録装置の内部構造の概略を示す側断面図。
【図2】本発明の実施例に係る記録装置の検知部周辺を示す斜視図。
【図3】本発明の実施例に係る記録装置の検知部の作動態様を示す用紙通過前の側断面図。
【図4】本発明の実施例に係る記録装置の検知部を拡大して示す用紙始端当接時の側断面図。
【図5】本発明の実施例に係る記録装置の検知部の作動態様を示す腰の弱い用紙が通過する時の側断面図。
【図6】本発明の実施例に係る記録装置の検知部の作動態様を示す腰の強い用紙が通過する時の側断面図。
【図7】本発明の実施例に係る記録装置が認識している紙種情報が腰の強い用紙である時の制御の流れを示すフローチャート。
【発明を実施するための形態】
【0025】
最初に図1と図2に基づいて、本発明の記録装置1の基本的構成について説明する。図1と図2に示すように、図示の記録装置1は、紙種の違う複数の用紙Pに記録を実行することが可能なインクジェットプリンター1(「記録装置」と同じ符号を使用する)である。
そして、このインクジェットプリンター1は、インクを吐出する記録ヘッド27と、インクジェットプリンター1が認識している用紙Pの紙種に基づいて設定されるインク吐出量で記録ヘッド27を駆動する制御部33と、記録ヘッド27による記録が実行される用紙Pの紙種情報を検知する検知部11と、インクジェットプリンター1が認識している前記紙種と、該紙種とは別に検知部11によって検知された紙種情報とが同じものであるか否かの判定を行う判定部31とを備えている。そして、前記制御部33は、判定部31の判定結果が「否」である場合に、前記検知された紙種情報に基づいて前記インク吐出量を減じた記録を実行可能に構成されている。
【0026】
更に図1に即して構成を説明すると、給送用セット部3に積畳状態でセットされた用紙Pを最上位のものから順番に1枚ずつ搬送経路6に向けて給送する給送部7と、該給送部7から給送された用紙Pの紙種情報を検知する検知部11と、搬送経路6に供給された用紙Pに搬送力を付与する搬送部17と、記録実行領域23に供給された用紙Pの被記録面にインクを吐出して記録を実行する記録実行部25と、前記検知部11によって検知された紙種とインクジェットプリンター1側で認識している用紙Pの紙種35とが違っている場合に前記検知部11によって検知された紙種情報を考慮して記録を実行する制御部33と、を備えることによって基本的に構成されている。
【0027】
給送用セット部3は、一例として用紙載置部5を備えることによって構成されており、給送部7は、ホッパー8との挟圧送り作用によって用紙Pを繰り出す一例として側面視D字形状の給送用ローラー9を備えることによって構成されている。
検知部11は、実際に記録が実行される用紙Pの紙種情報を検知するものであり、揺動支点45を中心に所定の角度揺動する検知レバー47と、該検知レバー47の角度変化を検知するセンサー55と、を備えることによって基本的に構成されている。
【0028】
搬送部17は、一対のニップローラーによって構成され、記録実行領域23の上流位置に配置される搬送用ローラー19と、同じく一対のニップローラーによって構成され、記録実行領域23の下流位置に配置される排出用ローラー21とを備えることによって構成されている。
【0029】
記録実行部25は、前記制御部33の指令に基づいて各色のインクを吐出する記録ヘッド27と、該記録ヘッド27を搭載して用紙Pの搬送方向Aと交差する走査方向Bに往復移動するキャリッジ29と、を備えることによって構成されている。
【0030】
[実施例1](図1〜6参照)
前記検知部11を成す前記検知レバー47は、揺動支点45から下方に延在し用紙Pが接触することで該検知レバー47に揺動を生起させる下方長尺片49と、揺動支点45の上方に延在し前記揺動によって先端部が前記センサー55の検知領域を横切るように通過する上方長尺片50とを有している。
【0031】
これにより、検知レバー47は、従来の水平に近い横姿勢で用紙Pと接触する構造と異なり、下方長尺片49と上方長尺片50が縦姿勢で用紙Pと接触する。従って、検知レバー47の揺動によって用紙Pの腰の強弱を判別するに際し、前記検知レバー47の荷重の影響が当該縦姿勢にすることで小さくなるので、判別感度の向上を実現できるようになっている。
【0032】
更に、図4に示したように、前記上方長尺片50の長さL1が前記下方長尺片49の長さL2よりも長くなる(L1>L2)ように設定されている。これにより、用紙Pに当接する部分の下方長尺片49の変位量がセンサー55によって検知される上方長尺片50の先端部において拡大され、より大きな変位となってセンサー55によって検知される。従って、検知部11で検知できる用紙Pの腰の強さの検知感度が向上し、用紙Pの紙種判別の精度を向上できるようになっている。
【0033】
また、図4に示したように、前記検知レバー47は、垂直軸Vを中心とする一定角度の範囲の縦姿勢で作動するように構成されている。すなわち、検知レバー47は、下方長尺片49の作る方向と前記上方長尺片50の作る方向のいずれもが縦姿勢となる所定角度の範囲内で揺動するように構成されている。本実施例では、縦姿勢となる所定角度の範囲内で揺動する構成として、前記所定角度は、前記垂直軸Vに対して約30度に設定されている。尚、前記所定角度は、最大でも45度までが良く、更に好ましくは20度までが良い。
【0034】
これにより、検知レバー47の前記縦姿勢によって該検知レバー47自体の重量は揺動支点45の軸によって支えられ、搬送中の用紙Pに検知レバー47の重量に基く搬送抵抗となる荷重はほとんどかからないようにすることが可能である。従って、検知レバー47の縦姿勢という簡単な構造によって用紙Pの腰の強弱を一層きめ細かく判別することが可能になる。
【0035】
更に、本実施例では、上方長尺片50は、用紙Pが下方長尺片49に接触していない状態では、重心が前記揺動支点45を通る垂直軸Vに対して用紙Pの搬送方向の下流側に位置する傾斜姿勢(図3の姿勢)となるように構成されており、用紙Pが下方長尺片49に接触して上方長尺片50が前記センサー55に検知される位置まで揺動した状態では、該上方長尺片50は、前記重心が前記垂直軸Vに対して前記搬送方向の上流側に位置する傾斜姿勢(図5の姿勢、及び図6の姿勢)となるように構成されている。
本実施例では、「下流側に位置する傾斜姿勢」における傾斜角度は約30度、「上流側に位置する傾斜姿勢」における傾斜角度も約30度に設定されている。まで、更に好ましくは20度までの範囲内で構成される。尚、前記所定角度は、最大でも45度までが良く、更に好ましくは20度までが良い。
【0036】
また、前記検知レバー47は、捩りコイルバネ等の付勢部材57によって、一例として図3中、反時計方向に付勢されており、図3に示すように用紙Pが通過していない状態では、前記下方長尺片49がほぼ垂直姿勢になるように設けられている。該付勢部材57の付勢力は、用紙Pに大きな搬送抵抗を作用させることなく、用紙Pの通過によって検知レバー47が揺動し得る大きさに設定されている。
【0037】
用紙Pが搬送されて検知レバー47の所を通過すると、下方長尺片49は下端(自由端)が前記用紙Pの搬送方向における下流側に向って揺動する。一方、上方長尺片50は上端(自由端)が上流側に向って揺動する。そして、上方長尺片50は前記揺動によって、揺動支点45を通る垂直軸Vに対して下流側に傾斜した姿勢(図3)から上流側に傾斜した姿勢(図5、図6)に移行する。
この移行工程において、上方長尺片50はその重量に基く力が揺動当初は下方長尺片49を初期位置に戻す力と同方向に作用するが(図3)、前記揺動が進んで前記上流側に傾斜した姿勢に変わると、当該上方長尺片50の重心の移動によって前記力は逆方向に作用するように変わる(図5、図6)。すなわち、下方長尺片49を初期位置に戻そうとする力を減じるようになる。
【0038】
この減じる程度は、該上方長尺片50の揺動が進むにつれて大きくなり、該上方長尺片50が前記センサー55に検知される位置まで揺動した状態で最も大きくなる。この状態では下方長尺片49も大きく揺動しているため該下方長尺片49を初期位置に戻そうとする力も大きくなっている。本実施例にように前記付勢部材57の付勢力が作用する構造では一層この戻そうとする力は大きくなる。しかし、本実施例においては、前記逆方向の力による「減じる」作用によって該下方長尺片49を初期位置に戻そうとする力の増大が抑制される。
【0039】
これにより、腰の強い用紙Pの場合は腰の弱い用紙Pよりも検知レバー47が大きく揺動するが、大きく揺動した下方長尺片49を初期位置に戻す力は前記逆方向の力による「減じる」作用によってその増大が抑制されるので、搬送抵抗の増大や用紙Pの被記録面に対する損傷の発生を防止することができる。
【0040】
更に、本実施例では、前記上方長尺片50が前記センサー55の検知領域56を、前記検知レバー47の揺動角度に応じて順次横切る2股の第1フラグ51と第2フラグ53と、を備えることによって構成されている。
【0041】
そして、前記第1フラグ51と第2フラグ53の先端が前記検知レバー47の揺動によって前記センサー55の検知領域56を通過することによって用紙Pの紙種を判別できるように構成されている。
尚、前記センサー55としては、発光部と受光部を備える非接触式の光センサーが一例として適用でき、前記第1フラグ51と第2フラグ53の先端は前記発光部と受光部の間を通過するように構成されている。
【0042】
次に、図5、図6に基づいて、前述のような構造の検知部11による用紙Pの紙種情報の検知について説明する。
具体的には、搬送経路6に供給された用紙Pが普通紙等で腰の弱い薄紙である場合には、図5に示すように下方長尺片49と搬送経路6上の当接案内部59との間に紙厚分程度の隙間S1が形成されるくらいしか検知レバー47は揺動しない。そして、この時、前記センサー55は第1フラグ51を検出して当該用紙Pの紙種を腰の弱い用紙P1と判別する。
【0043】
一方、搬送経路6に供給された用紙Pが葉書、写真用紙、厚手のマット紙等で腰の強い厚紙である場合には、図6に示すように下方長尺片49と搬送経路6上の当接案内部59との間に紙厚以上の隙間S2が形成されるくらいまで検知レバー47が揺動する。
そして、この時、前記センサー55は第1フラグ51と第2フラグ53の2つのフラグを連続して検出し、当該用紙Pの紙種を腰の強い用紙P2と判別する。
【0044】
[実施例2](図1〜7参照)
本実施例2は、インクジェット用の葉書に本印刷する前に当該葉書のサイズにカットした普通紙等を使用して、試し印刷が行われることがある記録装置に、実施例1に係る検知部を適用した場合である。すなわち、本実施例は、記録装置が認識している被記録材の材種(紙種)と実際に記録が実行される被記録材の材種(紙種)とが異なっている場合に、前記検知部で紙種を検知して記録ヘッドからのインク吐出量を減じる制御を実行し、被記録材のインクの浸潤に起因する紙詰まり等の搬送不良を防止することができるようにしたものである。
【0045】
前記制御部33では、前記検知部11によって検知された紙種情報とインクジェットプリンター1側で認識している用紙Pの紙種35との同一性の判断が行われ、前記検知された紙種情報と前記紙種35とが同一の場合に通常記録実行モード39が実行され、前記検知された紙種と前記紙種情報35とが違っている場合に、前記通常記録実行モード39よりもインク吐出量を減じた代替記録実行モード41が実行されるように構成されている。本実施例では、判定部31は制御部33と一まとめで図示されている。
【0046】
前記通常記録実行モード39は、インクジェットプリンター1側で認識している用紙Pの紙種35に基づいて実行されるモードで、前記紙種35が腰の強い用紙P2であるときには、インク吐出量が多くなり、前記紙種情報35が腰の弱い用紙P1である時にはインク吐出量が少なくなるように一例として設定されている。
【0047】
これに対し、前記代替記録実行モード41は、前記紙種35が腰の強い用紙P2であり、前記検知部11によって検知された紙種情報が腰の弱い用紙P1である場合には、常にインク吐出量が少なくなるように設定されている。
【0048】
従って、前記代替記録実行モード41は、前記紙種35が腰の強い用紙(例えば葉書)P2であり、前記検知部11によって検知された紙種が腰の弱い用紙(例えば葉書のサイズにカットされた普通紙)P1となる、年賀状等の試し印刷の実行に好適なモードになっている。
【0049】
次に、前記検知部11によって検知された紙種情報とインクジェットプリンター1側で認識している用紙Pの紙種35とに基づいて実行される制御部33での制御の流れを図7のフローチャートに従って説明する。
尚、図7では、インクジェットプリンター1が認識している紙種35が腰の強い用紙(例えば葉書)P2である時の制御の流れを示している。
【0050】
先ず、ステップS1でホッパー8が上昇し、給送用ローラー9が回転を開始して用紙載置部5上の最上位の用紙Pの給送を開始し、当該用紙Pの始端を搬送経路6上に進入させる。
【0051】
次に、ステップS2に移行してセンサー55が第1フラグ51を検出したか否かの判断が行われる。第1フラグ51の検出が行われていない場合には、ステップS1に戻って、引き続き用紙Pの給送が継続される。
一方、ステップS2で第1フラグ51の検出が確認された場合には、ステップS3に移行してセンサー55が第2フラグ53を検出したか否かの判断が行われる。第2フラグ53の検出が確認された場合には、ステップS4に移行して検知した紙種が腰の強い用紙P2と判別され、ステップS5において通常記録実行モード39が選択される。
【0052】
通常記録実行モード39では前記紙種情報35に基づいてインク吐出量が設定されるため、ステップS6で腰の強い用紙P2に対して適用されるインク吐出量が多くなる設定で記録が実行される。
従って、この場合には、紙種情報35が腰の強い用紙(例えば葉書)P2で、検知された紙種が腰の強い用紙(例えば葉書)P2であり、両者同じであるから、そのまま通常記録実行モード39が実行されてインク吐出量が多くなる本来の設定で記録が実行される。
【0053】
一方、前記ステップS3で第2フラグ53を検出していないと判断された場合には、ステップS7に移行して検知した紙種が腰の弱い用紙P1と判別され、ステップS8において代替記録実行モード41が選択される。
そして、代替記録実行モード41が選択されるとステップS9に移行してインク吐出量が少なくなる設定で記録が実行される。
【0054】
従って、この場合には、紙種35が腰の強い用紙(例えば葉書)P2で、検知された紙種が腰の弱い用紙(例えば葉書サイズにカットされた普通紙)P1で、両者異なっており、そのまま記録を実行するとインクの湿潤による紙詰まり等の虞がある。
しかし、代替記録実行モード41が選択されることによってインク吐出量が少なくなるため、前記インクの湿潤による紙詰まり等は生じない。
【0055】
[他の実施例]
本発明に係る記録装置1は、以上述べたような構成を有することを基本とするものであるが、本願発明の要旨を逸脱しない範囲内の部分的構成の変更や省略等を行うことも勿論可能である。
【0056】
例えば、本発明に係る記録装置1は紙種やサイズの違う複数種の用紙Pに記録を実行することができる万能型の記録装置の他、一定の紙種とサイズの用紙(例えば葉書)Pに記録を実行するために開発された専用機であってもよい。
そして、この場合には記録装置1側で認識している用紙Pの紙種35は、ユーザーによる設定情報36に関係なく、予め定められている当該一定の用紙Pとなる。
【0057】
また、前述した検知レバー47の上方長尺片50を構成している2つのフラグ51、53を1つにして、該フラグ先端部の揺動軌跡上に複数のセンサー55を配設した構成の検知部11を採用したり、同一の揺動支点45に対して位相を異ならせた複数組の上方長尺片50を備えた構成の検知部11を採用することも可能である。
【0058】
この他、検知部11において使用するセンサー55は、リミットスイッチのような接触式のものであっても構わないし、フラグ先端部の揺動軌跡に沿わせた形状のエンコーダ等を使用することも可能である。
【符号の説明】
【0059】
1 インクジェットプリンター(記録装置)、3 給送用セット部、5 用紙載置部、
6 搬送経路、7 給送部、8 ホッパー、9 給送用ローラー、11 検知部
17 搬送部、19 搬送用ローラー、21 排出用ローラー、23 記録実行領域、
25 記録実行部、27 記録ヘッド、29 キャリッジ、33 制御部、
35 紙種情報、36 設定情報、39 通常記録実行モード、
41 代替記録実行モード、45 揺動支点、47 検知レバー、49 下方長尺片、
50 上方長尺片、51 第1フラグ、53 第2フラグ、55 センサー、
56 検知領域、57 付勢部材、59 当接案内部、P 用紙(被記録材)、
A 搬送方向、B 走査方向、S 隙間、L 長さ、V 垂直軸、

【特許請求の範囲】
【請求項1】
搬送される被記録材の材種情報を検知する検知部を備え、
前記検知部は、
揺動支点に対して所定の角度揺動する検知レバーと、
前記検知レバーの角度変化を検知するセンサーと、を備え、
前記検知レバーは、
前記揺動支点から下方に延在し前記被記録材が接触することで該検知レバーに揺動を生起させる下方長尺片と、
前記揺動支点の上方に延在し前記揺動によって先端部が前記センサーの検知領域を横切るように通過する上方長尺片と、を有することを特徴とする記録装置。
【請求項2】
請求項1に記載された記録装置において、
前記上方長尺片の長さは前記下方長尺片の長さよりも長くなるように設定されていることを特徴とする記録装置。
【請求項3】
請求項1又は2に記載された記録装置において、
前記検知レバーは、前記下方長尺片の作る方向と前記上方長尺片の作る方向のいずれもが縦姿勢となる所定角度の範囲内で揺動するように構成されていることを特徴とする記録装置。
【請求項4】
請求項1から3のいずれか1項に記載された記録装置において、
前記上方長尺片は、前記被記録材が前記下方長尺片に接触していない状態では、重心が前記揺動支点を通る垂直軸に対して前記被記録材の搬送方向の下流側に位置する傾斜姿勢となるように構成されており、
前記被記録材が前記下方長尺片に接触して前記上方長尺片が前記センサーに検知される位置まで揺動した状態では、該上方長尺片は、前記重心が前記垂直軸に対して前記搬送方向の上流側に位置する傾斜姿勢となるように構成されていることを特徴とする記録装置。
【請求項5】
請求項1から4いずれか1項に記載された記録装置において、
前記上方長尺片は、前記センサーの検知領域を、前記検知レバーの揺動角度に応じて順次横切る複数のフラグを備えていることを特徴とする記録装置。
【請求項6】
インクを吐出する記録ヘッドと、
記録装置が認識している被記録材の材種に基づいて設定されるインク吐出量で前記記録ヘッドを駆動する制御部と、
前記記録ヘッドによる記録が実行される被記録材の材種情報を検知する検知部と、
記録装置が認識している前記材種と、該材種とは別に前記検知部によって検知された材種情報とが同じものであるか否かの判定を行う判定部と、を備え、
前記検知部は、請求項1から5のいずれか1項に記載の検知部で構成され、
前記制御部は、前記判定部の判定結果が「否」である場合に、前記検知された材種情報に基づいて前記インク吐出量を減じた記録を実行可能に構成されていることを特徴とする記録装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2012−158418(P2012−158418A)
【公開日】平成24年8月23日(2012.8.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−17964(P2011−17964)
【出願日】平成23年1月31日(2011.1.31)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】