説明

診断支援装置、診断支援装置の制御方法、およびプログラム

【課題】注目すべき未入力情報の有無を医師が効率的に判断できるようにする。
【解決手段】医療診断を支援する情報を提供する診断支援装置であって、データベースに保持された診断対象の医用情報のうち、既知の情報を既入力情報として取得する医用情報取得部と、既入力情報以外の医用情報である未入力情報の中から提示すべき未入力情報を提示未入力情報として選択する選択部と、既入力情報と提示未入力情報とを同時に含む症例を、症例データベースから診断対象の症例と類似する類似症例として取得する類似症例取得部と、提示未入力情報と類似症例とを提示する提示部と、を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、診断支援装置、診断支援装置の制御方法、およびプログラムに関し、特に医療診断を支援する情報を提供する診断支援装置、診断支援装置の制御方法、およびプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
医療の分野において、医師は、患者を撮影した医用画像をモニタに表示し、モニタに表示された医用画像を読影して、病変部の状態や経時変化を観察する。この種の医用画像を生成する装置としては、例えば、X線CT(Computed Tomography)装置、MRI(Magnetic Resonance Imaging)装置、超音波装置等が挙げられる。これらの医用画像を用いた診断(画像診断)は、診断対象である医用画像から異常陰影等を発見してその特徴を得る工程と、その陰影が何であるかを鑑別診断する工程とに分けることができる。
【0003】
従来、医師による鑑別診断の支援を目的として、異常陰影の特徴(読影所見)などを入力情報として、その陰影が何であるかを推論して提示する医療診断支援装置の開発が行われている。例えば、胸部X線CT像のある陰影が悪性腫瘍である確率と良性腫瘍である確率を算出して、これを提示するような装置が考えられている。通常、このような装置を実際の臨床現場で用いる場合の正しい手順としては、まず医師による鑑別診断が行われ、その後に、医療診断支援装置が出力した推論結果を医師が参考情報として参照する。
【0004】
ここで、未入力の情報(以下、「未入力情報」と称する)が多数ある場合には、医療診断支援装置による推論の精度が低くなるという課題が生じる。そこで、推論に必要な未入力情報を装置が選択して、その追加を医師に促すことで、より信頼できる推論結果を得るという試みがなされている。推論結果に大きな影響を与える未入力情報の確認を医師に促すことで、医師自身による診断の確信度を高めるという効果が期待できる。さらに、所見の見落としに起因する診断の誤りを軽減するという効果が期待できる。
【0005】
例えば、特許文献1には、入力済みの情報(以下、「既入力情報」と称する)に基づく装置の推論結果(現在の推論結果)と、既入力情報に未入力情報を加えた場合の推論結果とから、注目すべき未入力情報を選択して提示する技術が記載されている。この技術では、現在の推論結果に対して未入力情報の夫々が与える影響度を算出し、影響度が大きい未入力情報を提示する。これにより、既入力情報に基づく装置の推論結果に大きな影響を与える未入力情報の提示が可能である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許第3226400号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1に記載の装置によって注目すべき未入力情報が提示された場合、その情報が医用画像中に存在するかどうかは、ユーザである医師自身が元画像を読影することで判断する。このとき、その情報の有無を医師が判断するための元画像以外の手かがりは提示されないので、医師がその判断をするのに時間がかかる場合がある、あるいは、その判断を正しく行うことができない場合があるという課題がある。
【0008】
上記の課題に鑑み、本発明は、注目すべき未入力情報の有無を医師が効率的に判断できるようにすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の目的を達成する本発明に係る診断支援装置は、
医療診断を支援する情報を提供する診断支援装置であって、
データベースに保持された診断対象の医用情報のうち、既知の情報を既入力情報として取得する医用情報取得手段と、
前記既入力情報以外の医用情報である未入力情報の中から提示すべき未入力情報を提示未入力情報として選択する選択手段と、
前記既入力情報と前記提示未入力情報とを同時に含む症例を、症例データベースから前記診断対象の症例と類似する類似症例として取得する類似症例取得手段と、
前記提示未入力情報と前記類似症例とを提示する提示手段と、
を備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、注目すべき未入力情報の有無を医師が効率的に判断することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】第1実施形態に係る診断支援装置の機器構成を示す図。
【図2】診断支援装置の各処理部をソフトウェアにより実現するコンピュータの基本構成を示す図。
【図3】第1実施形態に係る全体の処理手順を示すフローチャート。
【図4】第1実施形態に係る提示情報の例を示した図。
【図5】第2実施形態に係る提示情報の例を示した図。
【図6】第3実施形態に係る提示情報の例を示した図。
【発明を実施するための形態】
【0012】
[第1実施形態]
第1実施形態に係る医療診断支援装置は、診断対象である症例に係る既知の医用情報を既入力情報として取得し、当該症例に係る診断支援を行う。
【0013】
なお、以下では、医療診断支援装置を用いて、肺の異常陰影に係る読影所見を入力情報として取得し、該異常陰影の異常の種類(診断名)に関する推論を行い、その結果に基づいて診断支援情報を提示する場合を例として説明する。もちろん推論対象はこれに限定されるものではなく、以下に示す診断名や入力可能な読影所見の項目などは、何れも医療診断支援装置の処理の工程を説明するための一例に過ぎない。
【0014】
図1は、第1実施形態に係る医療診断支援装置の構成を示す。本実施形態における医療診断支援装置100は、症例情報入力端末200と、症例データベース300とに接続されている。
【0015】
症例情報入力端末200は、診断対象である症例に関して、肺の異常陰影に関する情報(医用画像や電子カルテの情報など)を不図示のサーバから取得する。或いは、外部記憶装置、例えばFDD、HDD、CDドライブ、DVDドライブ、MOドライブ、ZIPドライブ等を接続し、それらのドライブからデータを取得するようにしてもよい。そして、ユーザ(医師)が読影可能な形でこれらの情報をモニタに表示して、ユーザが入力した読影所見を既入力情報として取得する。本実施形態では、ユーザはモニタに表示された医用画像の読影所見を、マウスやキーボードを用いて入力する。なお、この処理は、例えばテンプレート形式の読影所見入力支援方法を用いて、GUIにより選択できるような機能を症例情報入力端末200が備えることで実現される。症例情報入力端末200は、ユーザからの要求に従い、肺の異常陰影に関する既入力情報とそれに付随するデータ(代表画像など)を、LAN等を介して医療診断支援装置100へと送信する。
【0016】
症例データベース300には、過去に収集された多数の症例に関して、肺の異常陰影に関する読影所見などの既入力情報やそれに付随するデータが蓄積されている。症例データベース300は、入力情報の組を与えると、その入力情報と一致あるいは類似した既入力情報を備える症例を類似症例として出力する一般的な類似症例検索の機能を有する。これを利用することで、類似症例や、その総数などが取得可能である。もちろん、取得可能な情報はこれらに限定されない。症例データベース300が保持する入力可能な項目に係る情報は、LAN等を介して医療診断支援装置100へと送信される。
【0017】
医療診断支援装置100は、医用情報取得部102と、未入力情報取得部104と、推論部106と、影響度算出部108と、選択部110と、類似症例取得部112と、提示部114とを備える。
【0018】
医用情報取得部102は、症例情報入力端末200から医療診断支援装置100へ入力された肺の異常陰影に関する既入力情報とそれに付随するデータを取得し、未入力情報取得部104、推論部106、類似症例取得部112、及び提示部114へと出力する。
【0019】
未入力情報取得部104は、全ての入力可能な情報から既入力情報を除いた情報(すなわち、既入力情報以外の情報)に基づく集合を、未入力情報として少なくとも一つ取得する。取得した未入力情報は、推論部106、及び選択部110へと出力される。
【0020】
推論部106は、医用情報取得部102で取得した診断対象である肺の異常陰影に関して、その既入力情報に基づく推論を実行し、当該異常陰影が症例データベースに記録された夫々の診断名である確率(既入力情報推論結果)を算出する。また、推論部106は、既入力情報と、未入力情報取得部104で取得した夫々の未入力情報とを組として、仮にその未入力情報が追加入力されたとした場合に当該異常陰影が夫々の診断名である確率(未入力情報推論結果)を算出する。取得した既入力情報推論結果および夫々の未入力情報推論結果は、影響度算出部108及び提示部114へと出力される。
【0021】
影響度算出部108は、推論部106で得た既入力情報推論結果と、夫々の未入力情報推論結果を用いて、夫々の未入力情報の推論への影響度を算出する。取得した影響度は、選択部110へと出力される。
【0022】
選択部110は、影響度算出部108で得た夫々の未入力情報の影響度に基づいて、未入力情報の中から提示すべき未入力情報を選択する。そして、選択した提示未入力情報を提示部114へと出力する。
【0023】
類似症例取得部112は、医用情報取得部102で得た既入力情報と、選択部110で得た提示未入力情報の組とに基づいて、症例データベース300から類似症例を取得する。そして、取得した類似症例を提示部114へと出力する。
【0024】
提示部114は、医用情報取得部102で得た既入力情報と、推論部106で得た推論結果と、選択部110で得た提示未入力情報と、類似症例取得部112で得た類似症例とに基づいて、提示する情報を生成して表示する。
【0025】
なお、図1に示した医療診断支援装置100の各処理部の少なくとも一部は独立した装置として実現してもよい。また、夫々が機能を実現するソフトウェアとして実現してもよい。本実施形態では各処理部はそれぞれソフトウェアにより実現されているものとする。
【0026】
図2は、図1に示した各処理部の夫々の機能を、ソフトウェアを実行することで実現するためのコンピュータの基本構成を示す。CPU1001は、主として各構成要素の動作を制御する。主メモリ1002は、CPU1001が実行する制御プログラムを格納したり、CPU1001によるプログラム実行時の作業領域を提供したりする。磁気ディスク1003は、オペレーティングシステム(OS)、周辺機器のデバイスドライブ、後述する処理等を行うためのプログラムを含む各種アプリケーションソフト等を格納する。表示メモリ1004は、提示部114が生成する表示用データを一時記憶する。モニタ1005は、例えばCRTモニタや液晶モニタ等であり、表示メモリ1004からのデータに基づいて画像やテキストなどの表示を行う。マウス1006及びキーボード1007は、ユーザによるポインティング入力及び文字等の入力をそれぞれ行う。上記各構成要素は、共通バス1008により互いに通信可能に接続されている。
【0027】
次に、図3のフローチャートを参照して、医療診断支援装置100の処理手順を説明する。本実施形態では、CPU1001が主メモリ1002に格納されている各処理部の機能を実現するプログラムを実行することにより実現される。
【0028】
なお、以下の説明では、入力情報としてn種類の読影所見の項目とその状態とから構成される読影所見を取り扱うものとする。各読影所見の項目名をIj(j=1〜n)で表し、Ijが取りうる状態名(離散値)をSjkと表記する。kの範囲はIjにより様々な値となる。本実施形態では、例として、表1に示したような読影所見の項目(所見名)が入力可能であって、さらに、夫々の読影所見の項目(所見名)は表に示したように、対応する状態(状態名)を取ることが可能であるものとする。
【0029】
【表1】

【0030】
例えば、I1の「形状」は、異常陰影の形状を表しており、S11「球形」、S12「分葉状」、およびS13「不整形」の3状態を取る。I2の「切れ込み」は、異常陰影における切れ込みの程度を表している。S21「強」、S22「中」、S23「弱」、およびS24「無」の4状態を取る。I3の「放射状」は、異常陰影における放射状の程度を表している。S31「強」、S32「中」、S33「弱」、およびS34「無」の4状態を取る。また、Inの「巻(血管)」は、異常陰影における血管の巻き込みの有無を表している。Sn1「有」、巻き込みの疑いがあることを示すSn2「疑」、およびSn3「無」の3状態を取る。
【0031】
また、以下の説明では、Ijの集合をNと表記し、Sjkの集合をEと表記する。ただし、ある一つの読影所見の項目Ijに対応する状態Sjkは、一つのEの中には複数が同時に存在しないものとする。例えば、I1がS11、S12、S13を、I2がS21、S22、S23、S24を取る場合、E = {S11, S21}は取りうるが、E ={S11, S12}は取ることが出来ない。これは一つの読影所見の項目は一つの状態のみを取るためである。
【0032】
ここで、既入力情報の読影所見の項目の集合をNf、Nfの状態の集合をEfと表記する。また、既入力情報以外の読影所見の項目の集合を¬Nf、¬Nfの中の組み合わせ可能な状態を要素とする集合をEvm(m=1,2,…)と表記する。ここで、記号¬は否定を表す。このEfは既入力情報に、Evmは未入力情報に相当する。また、未入力情報Evmの影響度を、IR(Evm)と表記する。
【0033】
また、以下の説明では、診断名を、記号Dを用いて表記する。本実施形態では、診断名として、原発性肺癌、癌の肺転移、その他の3値を取るものとし、それぞれD1、D2、D3と表記する。また、入力情報としてEが与えられた場合の診断名Dr(r=1,2,3)の推論確率を、P(Dr|E)と表記する。
【0034】
ステップS3000において、医用情報取得部102は、医療診断支援装置100へ入力された肺の異常陰影に関する既入力情報とそれに付随するデータとを取得する。例えば、本ステップで医療診断支援装置100が取得した読影所見の情報が、I1「形状」:S11「球形」、I3「放射状」:S33「弱」、…、In「巻(血管)」:Sn3「無」、であったとする。この場合、既入力情報の読影所見の項目の集合Nfは、Nf ={I1,I3,…,In}となり、Nfの状態の集合Efは、Ef={S11,S33,…,Sn3}となる。
【0035】
ステップS3010において、未入力情報取得部104は、全ての入力可能な情報から既入力情報を除いた情報に基づく集合を、未入力情報として少なくとも一つ取得する。例えば、¬Nf={I2,I6, I8}であって、I2がS21,S22,S23,S24を取り、I6がS61,S62を取り、I8がS81,S82,S83を取る場合を考える。仮に、Evmに含まれる要素を1個と限定すれば、4+2+3=9個の未入力情報が取得される。また、含まれる要素を1個あるいは2個と限定すれば、組み合わせ可能な状態として9+4×2+4×3+2×3=35個の未入力情報が取得される。
【0036】
ステップS3020において、推論部106は、ステップS3000で取得した肺の異常陰影の既入力情報(すなわ、Ef)に基づいて、該異常陰影が夫々の診断名である確率(既入力情報推論結果)を推論する。また、既入力情報とステップS3010で取得した夫々の未入力情報(すなわち、Evm)とを組として、当該異常陰影が夫々の診断名である確率(未入力情報推論結果)を推論する。
【0037】
このときの推論手段としては、ベイジアンネットワーク、ニューラルネットワーク、サポートベクターマシン、など既存の様々な推論手法が利用できる。本実施形態では、推論手段としてベイジアンネットワークを用いる。ベイジアンネットワークは条件付確率を用いた推論モデルであり、既入力情報が入力された場合の各診断名の推論確率(その事例が夫々の診断名である確率であり、事後確率とも称される)の取得が可能である。本実施形態では異常陰影の種別D1、D2、およびD3のそれぞれの確率が取得される。
【0038】
ステップS3030において、影響度算出部108は、ステップS3020で得た推論結果を用いて、夫々の未入力情報の影響度を算出する。既入力情報推論結果としての確率と、未入力情報推論結果としての確率との差分の絶対値を未入力情報の影響度として算出する。具体的には、未入力情報Evmの影響度IR(Evm)を、次式によって算出する。ただし、DmaxはP(Dr|Ef)が最大となるDrとする。
【0039】
【数1】

【0040】
すなわち、既入力情報に基づいた場合に最も確率が高いと推論される診断名(すなわち、Dmax)に注目して、未入力情報を追加した場合にその推論確率を変動させる度合いをもって、未入力情報の影響度とする。
【0041】
ステップS3040において、選択部110は、ステップS3030で得た夫々の未入力情報の影響度IR(Evm)に基づいて、提示未入力情報を選択する。本実施形態では、影響度の大きい順に選んだ所定の数の未入力情報を提示未入力情報とする。
【0042】
ステップS3050において、類似症例取得部112は、ステップS3000で得た既入力情報と、ステップS3040で得た提示未入力情報の組とに基づいて、症例データベース300から類似症例を取得する。なお、提示未入力情報が複数ある場合には、その夫々について同様の処理を行う。
【0043】
なお類似症例は、既入力情報と提示未入力情報とを同時に含む症例を選択するクエリ文を作成して、症例データベース300に対して実行するという一般的な方法により、症例データベース300から取得することができる。また、既入力情報と各症例の入力情報との一致度を求め、該一致度に基づく順位付きの結果を得る一般的な類似検索方法により検索結果を取得した後に、該検索結果の中で提示未入力情報を含む症例を類似症例として取得するという方法でもよい。後者の方法によれば、既入力情報を完全に包含しない症例であっても類似症例として取得することが可能である。
【0044】
ステップS3060において、提示部114は、ステップS3000で得た肺の異常陰影に関する情報(既入力情報や代表画像)と、ステップS3020で得た既入力情報推論結果とを、モニタ1005に表示する。また、ステップS3040で選択した提示未入力情報と、ステップS3050で得た類似症例に付与された代表画像と、ステップS3020で求めた該提示未入力情報に基づく未入力情報推論結果とを、モニタ1005に表示する。
【0045】
図4は、本実施形態においてモニタ1005に表示される提示情報の一例を示す。提示情報400は、肺の異常陰影の代表画像4000、ステップS3000で取得した肺の異常陰影の既入力情報4010、及び、ステップS3020で推論した既入力情報推論結果4020を含んでいる。図に示される例では、既入力情報推論結果4020として、既入力情報推論結果における原発性肺癌の推論確率4021、癌の肺転移の推論確率4022、及びその他の推論確率4023が、円グラフによって表示される。また、提示情報400は、既入力情報推論結果において各診断名の中で最も高い推論確率を得た診断名(図の例では癌の肺転移)と、その確率4030(図の例では、癌の肺転移の推論確率)とを含んでいる。また、提示情報400は、ステップS3040で選択した2つの提示未入力情報4040と、ステップS3050で取得した(夫々の提示未入力情報に関する)類似症例の代表画像4050とを含んでいる。また、提示情報400は、ステップS3020で推論した該提示未入力情報に基づく未入力情報推論結果4060を含んでいる。図の例では、未入力情報推論結果4060として、未入力情報推論結果における原発性肺癌の推論確率4061、癌の肺転移の推論確率4062、及びその他の推論確率4063が、円グラフによって表示される。また、提示情報400は、該未入力情報推論結果において各診断名の中で最も高い推論確率を得た診断名とその確率4070を含んでいる。図の例では、確率4070は、転移67.5%、その他47.5%である。
【0046】
本実施形態によれば、医師は、既入力情報と提示未入力情報とを共に有するような過去の症例の画像を手がかりとして参照しながら、診断対象の医用画像に当該未入力情報が存在するか否かの判断を行うことができる。そうすることで、医師がその判断を効率的かつ正確に行えるようになる。
【0047】
[第2実施形態]
第1実施形態では、既入力情報と提示未入力情報とを用いて類似症例を取得し、提示していた。しかし、提示する類似症例はこれのみでなくてもよい。本実施形態に係る医療診断支援装置は、既入力情報のみを用いて第2の類似症例を取得し、提示する。
【0048】
なお、本施形態に係る医療診断支援装置の構成は第1の実施形態における図1と同様である。ただし、類似症例取得部112が、既入力情報と提示未入力情報とを用いて類似症例を取得すると共に、既入力情報のみを用いて第2の類似症例を取得する点が、第1実施形態と異なっている。さらに、提示部114が、既入力情報、推論結果、検索未入力情報、類似症例に加え、類似症例取得部112で取得した第2の類似症例に基づいて、提示する情報を生成して表示する点が、第1実施形態とは異なっている。また、ソフトウェアの実行によって医療診断支援装置100を実現するコンピュータの基本構成は、第1実施形態における図2と同様である。また、医療診断支援装置100が行う全体の処理を説明するフローチャートは図3と同様である。ただし、ステップS3050及び、ステップS3060が行う処理の一部が、第1実施形態とは異なっている。以下、図3のフローチャートを参照して、本実施形態に係る医療診断支援装置100が行う全体の処理について、第1実施形態との相違部分についてのみ説明する。
【0049】
ステップS3000乃至ステップS3040の各処理は、第1実施形態における各処理と同様である。
【0050】
ステップS3050において、類似症例取得部112は、第1実施形態のステップS3050と同様の処理を行い、既入力情報と提示未入力情報とを用いて類似症例(第1の類似症例)を取得する。さらに、ステップS3000で得た既入力情報に基づいて、症例データベース300から第2の類似症例を取得する。そして、第1の類似症例及び第2の類似症例を、提示部114に出力する。
【0051】
なお、第2の類似症例は、第1実施形態と同様の方法で取得することができる。具体的には、既入力情報と一致する(あるいは一致度が高い)入力情報を含む症例を選択するクエリ文を作成し、症例データベース300に対して実行するという一般的な方法により、症例データベース300から取得することができる。
【0052】
ステップS3060において、提示部114は、第1実施形態のステップS3060と同様な処理を行う。すなわち、肺の異常陰影に関する情報(既入力情報や代表画像)、既入力情報推論結果、提示未入力情報、第1の類似症例に付与された代表画像、及び、該提示未入力情報に基づく未入力情報推論結果をモニタ1005に表示する。さらに、ステップS3050で得た第2の類似症例に付与された代表画像をモニタ1005に表示する。
【0053】
図5は、本実施形態においてモニタ1005に表示される提示情報の一例を示す。図に示される例では、図4の例に加え、第2の類似症例の代表画像5055を含んでいる。
【0054】
本実施形態によれば、既入力情報と提示未入力情報とを共に有するような過去の症例の画像と、既入力情報を有する(提示未入力情報は必ずしも有さない)過去の症例の画像とを同時に提示することで、医師はこれらを比較することができる。これにより、医師は、提示未入力情報を加えることで診断対象の医用画像により類似した画像が取得されたかを参照しながら、診断対象の医用画像に当該未入力情報が存在するか否かの判断を行うことができる。そうすることで、医師がその判断を効率的かつ正確に行うことができる。
【0055】
[第3実施形態]
第1実施形態では、推論への影響度の大きい未入力情報を、提示未入力情報として選択していた。しかし、提示未入力情報の選択方法はこれに限定されるものではなく、その他の方法で行ってもよい。第3実施形態に係る医療診断支援装置は、第1実施形態とは異なる処理によって、提示未入力情報の選択を行う。
【0056】
なお、本施形態に係る医療診断支援装置の構成は、第1実施形態における図1と同様である。ただし、選択部110が実施する処理が第1実施形態とは異なっている。以下、本実施形態に係る医療診断支援装置について、第1実施形態との相違部分についてのみ説明する。
【0057】
ソフトウェアの実行によって医療診断支援装置100を実現するコンピュータの基本構成は、第1実施形態における図2と同様である。また、医療診断支援装置100が行う全体の処理を説明するフローチャートは図3と同様である。ただし、ステップS3040が行う処理の一部が、第1実施形態とは異なっている。以下、図3のフローチャートを用いて、本実施形態に係る医療診断支援装置100が行う全体の処理について、第1実施形態との相違部分についてのみ説明する。
【0058】
ステップS3000乃至ステップS3030の各処理は、第1実施形態における各処理と同様である。
【0059】
ステップS3040において、選択部110は、ステップS3030で得た夫々の未入力情報の影響度IR(Evm)に基づいて、提示未入力情報の1つ(Evt)を決定する。例えば、推論への影響度が最大となる未入力情報を選択する。そして、選択した提示未入力情報に含まれる読影所見の項目の集合(Nvt)を求める。そして、Nvtの状態が取りうる組み合わせ(当然、Evtも含まれる)の全てを、提示未入力情報として選択する。すなわち、同一の項目で状態が異なる複数の読影所見が、提示未入力情報として選択される。なお、選択の方法はこれに限定されず、例えば、Nvtの状態が取りうる組み合わせの一部を提示未入力情報としてもよい。
【0060】
例えば、読影所見{S24(切れ込み−無)}がEvtとして決定されると、Nvtは{I2(切れ込み)}となる。I2が状態S21,S22,S23,S24を取る場合、{S21},{S22},{S23},{S24}の4つが提示未入力情報として選択される。
【0061】
ステップS3050およびステップS3060の各処理は、第1実施形態における各処理と同様である。
【0062】
図6は、本実施形態においてモニタ1005に表示される提示情報の一例を示す。図に示される例では、提示未入力情報として、ある項目(この図の例では「切れ込み」)に関する全ての状態(この図の例では、{強,中,弱,無})を表す読影所見(Nvt)6045を含んでいる。
【0063】
本実施形態によれば、医師は、同一の項目で状態が異なる複数の未入力情報の夫々と既入力情報とを有するような過去の症例の画像の夫々を、診断対象画像と比較することができる。これにより、医師は、当該項目に関するどの状態を読影所見として加えるのが妥当なのかを容易に判断することができる。
【0064】
[第4実施形態]
上記夫々の実施形態では、ステップS3000において、医療診断支援装置100が表示した医用画像を医師が読影して、その読影所見を入力情報として取得していたが、入力情報の種類や入力情報の取得方法はこれに限定されるものではない。例えば、被検査者に関する過去の読影レポートやカルテ、及び診断支援処理に利用できる他の情報等を含む医用検査データの情報を入力情報(既入力情報/未入力情報)とすることができる。
【0065】
[第5実施形態]
上記夫々の実施形態では、ステップS3030において、影響度算出部108は、既入力情報を入力した場合に推論確率が最大となる診断名に対して未入力情報の影響度を求めていたが、診断名ごとに未入力情報の影響度を求めてもよい。そして、ステップS3040において、選択部110は、夫々の診断名ごとに影響度の大きい提示未入力情報を選択し、ステップS3050において、類似症例取得部112は、夫々の診断名ごとに類似症例を取得してもよい。そして、ステップS3060において、提示部114は、夫々の診断名ごとに選択した提示未入力情報に関する情報及び類似症例の代表画像を提示してもよい。これにより、ユーザは、既入力情報推論結果として得られる診断名以外の診断名に影響を与える未入力情報が画像中に存在するか否か判断することができる。
【0066】
また、ステップS3030において、影響度算出部108は、式(1)において絶対値を用いず正負のある値として影響度を求めてもよい。そして、ステップS3040において、選択部110は、影響度が正で最大となる未入力情報と負で(絶対値が)最大となる未入力情報の夫々を提示未入力情報として選択し、ステップS3050において、類似症例取得部112は、正と負夫々の提示未入力情報ごとに類似症例を取得してもよい。そして、ステップS3060において、提示部114は、夫々の提示未入力情報に関する情報及び類似症例の代表画像を提示してもよい。これによると、ユーザは既入力情報推論結果に肯定的な影響を与える未入力情報と否定的な影響を与える未入力情報との夫々が画像中に存在するか否か判断することができる。また、推論への影響度によらずに、他の方法で提示未入力情報を選択してもよい。例えば、夫々の読影所見にあらかじめ優先度を定義しておいて、優先度の高い未入力情報を選択してもよい。
【0067】
[その他の実施形態]
また、本発明は、以下の処理を実行することによっても実現される。即ち、上述した実施形態の機能を実現するソフトウェア(プログラム)を、ネットワーク又は各種記憶媒体を介してシステム或いは装置に供給し、そのシステム或いは装置のコンピュータ(またはCPUやMPU等)がプログラムを読み出して実行する処理である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
医療診断を支援する情報を提供する診断支援装置であって、
データベースに保持された診断対象の医用情報のうち、既知の情報を既入力情報として取得する医用情報取得手段と、
前記既入力情報以外の医用情報である未入力情報の中から提示すべき未入力情報を提示未入力情報として選択する選択手段と、
前記既入力情報と前記提示未入力情報とを含む症例を、症例データベースから前記診断対象の症例と類似する類似症例として取得する類似症例取得手段と、
前記提示未入力情報と前記類似症例とを提示する提示手段と、
を備えることを特徴とする診断支援装置。
【請求項2】
前記既入力情報に基づいて、前記診断対象が前記症例データベースに記録された診断名に該当する確率を既入力情報推論結果として推論し、前記既入力情報と前記未入力情報とに基づいて、前記診断対象が前記症例データベースに記録された診断名に該当する確率を未入力情報推論結果として推論する推論手段と、
前記既入力情報推論結果と前記未入力情報推論結果とに基づいて、夫々の未入力情報の前記推論手段による推論への影響度を算出する影響度算出手段と、をさらに備え、
前記選択手段は、前記影響度に基づいて前記提示未入力情報を選択することを特徴とする請求項1に記載の診断支援装置。
【請求項3】
前記影響度算出手段は、前記既入力情報推論結果としての確率と、前記未入力情報推論結果としての確率との差分を前記影響度として算出することを特徴とする請求項2に記載の診断支援装置。
【請求項4】
前記選択手段は、前記影響度が大きい順に所定の数だけ前記提示未入力情報を選択することを特徴とする請求項3に記載の診断支援装置。
【請求項5】
前記類似症例取得手段は、前記既入力情報のみに基づいて前記症例データベースから前記診断対象の症例と類似する第2の類似症例をさらに取得し、
前記提示手段は、前記類似症例と前記第2の類似症例とを同時に提示することを特徴とする請求項1乃至4の何れか1項に記載の診断支援装置。
【請求項6】
前記選択手段は、
前記診断対象の形状、前記診断対象の切れ込みの程度、前記診断対象の放射状の程度、および血管の巻き込みの有無、を含む複数の項目のうちの1つの項目と、
前記1つの項目に対応する、前記形状の種類を示す情報、前記切れ込みの程度を示す情報、前記放射状の程度を示す情報、および前記血管の巻き込みの有無を示す情報を含む、前記項目の状態を示す情報のうちの1つの情報と、
を前記未入力情報の中から前記提示未入力情報として選択することを特徴とする請求項2に記載の診断支援装置。
【請求項7】
前記選択手段は、
前記1つの情報に含まれる未入力情報であって、前記影響度が最大となる未入力情報に対応する前記項目と、
当該項目に対応する当該未入力情報を含む複数の未入力情報から構成される前記1つの情報と、
を前記未入力情報の中から前記提示未入力情報として選択することを特徴とする請求項6に記載の診断支援装置。
【請求項8】
医用情報取得手段と、選択手段と、類似症例取得手段と、提示手段とを備える、医療診断を支援する情報を提供する診断支援装置の制御方法であって、
前記医用情報取得手段が、データベースに保持された診断対象の医用情報のうち、既知の情報を既入力情報として取得する医用情報取得工程と、
前記選択手段が、前記既入力情報以外の医用情報である未入力情報の中から提示すべき未入力情報を提示未入力情報として選択する選択工程と、
前記類似症例取得手段が、前記既入力情報と前記提示未入力情報とを含む症例を、症例データベースから前記診断対象の症例と類似する類似症例として取得する類似症例取得工程と、
前記提示手段が、前記提示未入力情報と前記類似症例とを提示する提示工程と、
を備えることを特徴とする診断支援装置の制御方法。
【請求項9】
請求項8に記載の診断支援装置の制御方法の各工程をコンピュータに実行させるためのプログラム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−115446(P2012−115446A)
【公開日】平成24年6月21日(2012.6.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−267499(P2010−267499)
【出願日】平成22年11月30日(2010.11.30)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】