説明

診断解析の方法及び装置

診断分析方法、特に生体試料に存在するウイルス、細菌、その他の微生物等の病原体を同定する方法は、分析試料が接種され、病原体が存在する場合には内部で複製が起こる液体培地の濁度及び/または病原体の濃度を、機器計測法により測定と連続的にモニタリングする第1工程を有し、該測定とモニタリングは培養培地で増殖する病原体の複製の間に動的に行われる。さらに該方法は、マクファーランド濁度スケールなどの標準化した尺度による所望の濁度値及び/または病原体の濃度に達した、第1工程で直接得られた生体試料を含有する液体培地の少なくとも一定分量を使って行う、病原体を同定する第2工程を有する。病原体を同定するために質量分光光度法的同定手段(15)は、第1工程の測定結果に基づいてその機能を校正されており、該一定分量を直接使用する。濁度及び/または病原体の所望の値は、第2の同定工程を行うために各段階において確認される特定の必要性に基づいて第1工程の間に前もって選択される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、診断解析の方法及び装置、特に質量分光光度測定法による、ウイルス、細菌やその他の微生物等の病原体を同定する方法及び装置に関する。
【背景技術】
【0002】
抗生物質に対する体外感受性試験(耐性記録)では、現在の国際ガイドラインに基づき、抗生物質の最適化濃度(限界点)または最小濃度(最小発育阻止濃度:MIC)について試験を行うための標準化細菌懸濁液を提供することが知られている。
【0003】
分析用の細菌の数は、試験に採用された方法の感受性にかかわりなく、標準化される必要がある。
【0004】
接種材料の調製は、あらゆる感受性試験または耐性記録の最も重要な行為のひとつである。抑制範囲の大きさは接種材料により著しく影響されうる。
【0005】
接種方法の選択は、実施可能性により主に決定されるが、微生物の懸濁液の濃度を一定基準の濁度や同等のラテックスと比較したり、光度測定を行うなどの、標準化された形態を採用することにより、よりよい結果が得られる。
【0006】
特に、マクファーランド濁度基準は、接種材料の標準化に最も広く使用されている標準化法であり、微生物学では、細菌の数が一定の範囲内にあるように、微生物懸濁液の濁度を調整する基準として、一般的に使用されている。
【0007】
古典的な微生物学では、マクファーランド濁度は通常、抗生物質に対する試験(耐性記録)の開始、または表現型の同定を可能にする方法の一つとして知られている。通常、ペトリ皿での増殖が単離コロニーを示し、これらの細菌は、マクファーランド値、すなわち、濁度が0.5になるまで希釈される。
【0008】
マクファーランド標準(0.1、…、0.3、…、0.5、…、1、…、2、…、3、…、4、…)は、特定の量の硫酸及び塩化バリウム二水和物を添加して、特定の光学密度を有する硫酸バリウム溶液を得ることにより、調製することができる。
【0009】
マクファーランド標準値0.5は、滅菌食塩溶液または増殖培養液が、約1.5×10CFU/mLの細菌を含有する細菌懸濁液に視覚的に匹敵し、最も頻繁に使用されている標準である。
【0010】
一旦標準化した接種材料の懸濁液は、調製後15分以内に使用すべきである。
【0011】
本出願人による出願第UD2009A000048号は、マクファーランド濁度の標準化を迅速に行う方法を提案し、直接的な耐性記録の実行と組み合わせられる。この方法は、生体液、特に尿中に細菌が存在する患者に特に有用であり、迅速に抗生物質治療を開始することが可能になる。
【0012】
細胞培養の動的環境における、細胞増殖及び濃度をモニタリングする方法に関する、出願第US−A−2005/254055号も知られている。
【0013】
その他の細菌同定法として、例えば、ウイルス、細菌やその他の微生物等の病原体の同定を、そのタンパク質のプロファイルを質量分光光度法により測定する、国際出願WO−A−2009/065580(以後、WO‘580とする)も知られている。該タンパク質は、病原体をペトリ皿内の固形培地などの定義済み固体増殖培地内で培養後、生物学的液体試料を遠心分離し、ペレットとして直接沈殿させることにより得られる。ペトリ皿内の細菌は、通常6〜20時間増殖する。そのような培養培地では混入細菌も増殖可能であり、どのような同定方法の場合にも、質量分光光度計に適用するためには、次のことに留意しなければならない。すなわち、ペレット状の多数の細菌を、従来のマトリックスに接触させて試料をイオン化させ、3000〜15000ダルトンの範囲内に保たなければならず、ダルトン質量の最低値は2500でなければならない。この範囲を超える値は、質量分光光度計を詰まらせる恐れがある。
【0014】
WO‘580に記載されている方法で陽性試料から得られたペレットでは、進行中の感染の原因となる細菌から汚染物質を選択することはできないことに留意する必要がある。
【0015】
したがって、WO‘580は、分析対象試料中の細菌を最大で2つ区別できるに過ぎず、同定ライブラリーを使用して細菌の同定を行うための検出アルゴリズムは、試料中に存在する細菌の数が2種を超える組み合わせである場合には識別できない。したがって、この公知方法は、感染の原因となる細菌に加えて、他の混入細菌が存在すると特に悩まされる。
【0016】
さらに、この方法は、基礎的干渉の問題を有し、はっきりとした質量スペクトルが得られないことも多い。また、遠心分離は時間がかかり、分析全体のコストが高くなる。
【0017】
本発明は、特に、感染の原因菌と共に他の混入病原菌が存在しても、ウイルス、細菌やその他の微生物等の病原体を迅速、安価、かつ信頼性良く同定し、その後の質量分光光度法による同定工程を簡素化する、診断解析の装置を提供し、診断解析方法を完成させることを目的とする。
【0018】
本出願人は、従来技術の欠点を克服し、上述及び他の目的及び利点を提供する本発明を発明し、試験し、具体化した。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0019】
本発明は、独立請求項に記載、特徴付けされるが、従属請求項は本発明の他の特徴または主要な発明の思想の変形を記載する。
【0020】
本発明は、国際特許出願WO−A−2009/065580に記載の病原体の同定技術に基礎をおき、参照することによりその全体が本明細書に取り込まれる。
【0021】
さらに、本発明は、本出願人の名前で出願したUD2009A000048に記載されているように、病原体が複製されている試料を含有する培地の濁度をマクファーランドスケールにより測定することに基づいており、該出願を参照することによりその全体が本明細書に取り込まれる。さらに、コロニー形成単位(CFU)で計算される細菌量の場合には、本出願人の名前で出願したイタリア特許IT−B−1.259.750及びイタリア特許出願UD2008A000190に記載されているように、病原体量の測定に基づいており、両出願を参照することによりその全体が本明細書に取り込まれる。
【0022】
特に、出願UD2009A000048では、直接耐性記録を行うための所望の濁度値が、増殖工程における細菌をその後に同定する工程に使用する増殖工程の生体試料から与えられる。
【0023】
特に、出願UD2009A000048では、液体培地または成長促進培養液により形成された懸濁液のマクファーランド標準に従って濁度を決定するために、光散乱計測を行う。該液体培地または培養液には、生体試料が接種され、その濁度を細菌の増殖行程中の解析試料の懸濁液から直接、継続的に、マクファーランド標準による表示では通常0.5である、既定の閾値に達するまで、測定する。
【0024】
したがって、本発明の特徴により、特に、生体試料中に存在するウイルス、細菌、その他の微生物等の病原体を同定する、本発明による診断解析の方法は、以下を有する。
・濁度及び/または病原体の濃度を測定及び継続的にモニタリングする第1工程、すなわち、試験試料中に存在する病原体の数、細菌数の場合にはCFUで表したものを、分析試料が接種され、病原体が存在する場合には内部で病原体の複製または増殖が起こる液体培地、好ましくは分析する病原体の増殖に特異的かつ選択的な液体培地を、機器計測法、好ましくは光散乱法により、または実施形態によっては分光法や他の光電子法により、または高周波や超音波に基づいて計数し、上記の測定及びモニタリングが液体培地中で増殖する病原体の複製の間に動的に行われる、第1工程、及び
・進行中の病原体の複製により、マクファーランド濁度スケールなどの標準化された尺度に基づく所望の濁度及び/または所望の病原体の濃度値もしくは数、及び/または細菌の場合にCFUで表現される病原体の濃度に達した、第1工程から直接得られた生体試料を含有する液体培地の少なくとも一定分量を取り出し、第1工程の測定結果に基づいてその機能を較正した質量分光光度法的同定手段に、該一定分量直接使用して病原体を同定する、病原体の同定を行う第2工程。
【0025】
本発明では、所望の濁度値及び/または病原体の濃度もしくは数は、質量分光分析法による第2の同定工程を行うために各段階において確認される特定の必要性に基づいて、前もって第1工程の間に選択される。
【0026】
ある種の実施形態では第2の同定工程は手作業で行われ、他の実施形態では、所望のマクファーランド濁度で試料を適切に自動採取及び輸送することにより、第2工程が自動的に行われる。
【0027】
好適には、第1工程で所望の濁度値及び/または病原体の相対濃度もしくは数を得るために必要な時間は、次に行う第2の同定工程が試料中の混入病原体の存在の影響を受けない時間である。
【0028】
好適には、第1工程で所望の濁度値及び/または病原体の相対濃度または数を得るために必要な時間は、45分から3時間、さらに好適には1時間未満であり、試料は、解析における混入物の影響を避けるために3時間以内に使用される。
【0029】
本発明の他の特徴は、診断解析装置、特に、生体試料中に存在するウイルス、細菌、その他の微生物等の病原体を同定するめの装置に関する。本装置は、
・試験試料中の濁度及び/または病原体の濃度もしくは病原体の数(細菌数の場合にはCFUで表す)を、分析試料が接種され、病原体が存在する場合には内部で病原体の複製が起こる液体培地を、好ましくは光散乱法により、または実施形態によっては分光法や他の光電子法により、または高周波や超音波に基づいて、測定及び継続的にモニタリングする手段、及び
・進行中の病原体の複製により、マクファーランド濁度スケールなどの標準化された尺度に基づく所望の濁度値及び/または病原体の濃度値もしくは数、及び/または細菌数の場合にはCFUで表現される病原体の濃度に達した、生体試料を含有する液体培地の少なくとも一定分量中の病原体を同定することができる質量分光光度法的同定手段であって、ここで、質量分光光度法的同定手段は、上記測定及びモニタリング手段により得られた濁度及び/または病原体の濃度の測定結果に基づいて、その機能が校正されている。測定及びモニタリング手段は、病原体の濃度または数の測定値と共にまたはその代替として、上記濁度値の所定の段階的経過に関する第1のデータ、並びに上記濁度値及び/または病原体の濃度もしくは数と、質量分光光度法的同定手段に、その機能に好適であるとして選択されて、投入された試料の重量値の範囲との間の定義済みの相関に関する第2のデータを記録する記録手段を有する処理手段を有する。
【0030】
処理手段は、上記質量分光光度法的同定手段の特定の必要性に基づいて各段階において選択される第2のデータに含まれる値の1つに基づいて、第1のデータの中から上記所望の濁度値及び/または、細菌数の場合にはCFUで表現される、病原体の濃度を選択することができる。
【0031】
測定及びモニタリング手段は、所望の濁度値及び/または病原体の相対濃度を得るために必要な時間が、質量分光光度法的同定手段による同定が試料中の混入病原体の存在に無関係であるように構成されている。
【0032】
この目的のために使用することが可能な光散乱測定または他の方法の予備工程の利点は、液体増殖培地への接種の瞬間から濁度を示差測定することにより、妨害の可能性のある因子を除去して濁度の水準が適切に測定、選択されることである。したがって、基礎的濁度が測定される。一緒に、各試料について、病原体の数を測定された濁度の検出を支持するように表現することもできる。
【0033】
細菌または他の病原体の存在を解析する試料の基礎的計測は、病毒性の細菌の活発な複製にのみ起因し、細菌の増殖した重量に関連する濁度として、以後の濁度の測定値に関して妨害因子などの影響を低減できる。
【0034】
液体培地中での増殖では、検出する濁度と連結して病原体の計数を同時に行うことで、増殖の初期値が非常に小さい場合でも、濁度の測定による増殖の強調が可能である。したがって、液体培地での増殖は、45分から3時間の範囲の非常に短い時間で陽性になる試料に適しており、濁度を測定することによって、質量分光光度計による同定に必要とされるダルトン重量値が保証される。
【0035】
これらの濁度値は、45分だけの培養後に得られたとしても、細菌や他の病原体の同定を開始できる、質量分光光度計に必要とされる適切性を有する試料を与える。
【0036】
光散乱法や他の適切な方法によるマクファーランド測定は、質量分光光度法によるその後の解析に重要であると思われるダルトン質量と同等の濁度を与える。
【0037】
培養の予備工程での光散乱法の使用は、その高感度特性により、質量分光光度計でのその後の同定工程のための濁度の最適レベルを迅速に検出することができるので、作業時間をより促進する点で好ましい。しかし、より一般的には、診断研究所型の計測分野で通常使用されている、レーザー比濁法や、濁度検出の測光法や他の方法、光電子、高周波、超音波など、他の好適な方法を同様に使用することができる。
【0038】
したがって、本発明は、液体培地で増殖し、一定のダルトン重量に相関する所望のマクファーランド濁度値に標準化させた陽性化試料を任意の質量分光光度計で使用することを可能にする。
【0039】
本発明は、混入細菌及び試料中に数種類の細菌種が存在することの問題を克服できる。
【0040】
試料中の細菌を複製する工程、例えば、成長促進培養液に接種した尿は、それ自身、試料の濁度の上昇をもたらすことが知られている。動的マクファーランド評価は、最初の細菌複製から濁度の上昇を検出可能であり、45分間のみの培養後であっても陽性結果の可能性を有利に得ることができる。
【0041】
この第1工程では、感染に関与する細菌が複製の結果として濁度の上昇をもたらす。一方、試料の採取時に収集された混入細菌は、尿試料の新たな環境に適応するのに時間が掛かるので、その増殖が表れるには数時間を要する。
【0042】
泌尿生殖器に生息する細菌の代表例は、コアグラーゼ陰性ブドウ球菌であり、尿試料の採取時に誤って収集されるので、従来の培養培地では増殖し得る。
【0043】
呼吸器官の試料の採取では、唾液中の連鎖球菌や非病原性連鎖球菌、酵母、その他の汚染生物を例示することができる。
【0044】
ある種の実施形態では、本発明は、生体試料、特に生体試料を接種した液体培地の濁度、優先的には、光散乱法、またはそれに同等な方法、または代わりの好適な方法により、次の質量分光光度法による細菌同定工程の目的のために、0.1〜10のマクファーランド濁度値の範囲内で、濁度を測定することを提供する。濁度のレベルは、分光光度法による解析を行うのに必要な閾値に比例し、10、10、10、10、10などに等しいCFUの閾値を与える。
【0045】
特に、マクファーランド濁度値とダルトン重量の間の関連を知ることにより、問題の質量分光光度法による測定に最適な3000〜15000ダルトンの重量範囲に一致するように、増殖試料のマクファーランド濁度を制御することが可能である。実際には、質量分光光度計に、3000〜15000ダルトンの重量範囲のタンパク質イオンを認識するために好適な液体物質が送り込まれるので、濁度測定器は、解析試料の最適化に依存して、相関するマクファーランド濁度が達成されたことを通知するように調整可能であり、同時に、濁度の変化を引き起こす増殖中の病原体を計数するように調整することも可能であり、自動的な作業サイクルにおいて、過度に濁った試料、したがって、最適範囲外である15000ダルトン以上または2500ダルトン以下の試料の使用を避ける必要がある。結果として、マクファーランド濁度値の動的モニタリングにより、機器の詰まりを避けるために、質量分光光度計に要求される最適限界内に細菌量がある試料を装填することが可能になる。
【0046】
本発明はまた、必要に応じ、変化するマクファーランド濁度で測定した液体状増殖培地の使用を可能にし、試料の同定を行うために試料を質量分光光度計に挿入することができるようになる。
【0047】
本発明により開発された方法は、混入細菌の増殖を排除し、培養増殖陽性試料の濁度値を与えることができる。これにより、分析試料中に2種を超える細胞種が存在する場合のWO‘580に記載の問題が解決される。これは、混入菌が新たな増殖環境に適応するために必要な混入菌の増殖におけるいわゆる遅滞期が知られているので、必要な濁度値の動的測定は、上述のように迅速であるので、WO‘580に記載の制限を取り除くことができる。
【0048】
本発明は、WO‘580に記載されているようなペレットへの濃縮工程を排除できるので、好適なマクファーランド濁度値により増殖試料を直接使用することにより、WO‘580に比較して同定工程を簡素化し、スピードアップすることができる。
【0049】
本発明のある種の実施形態では、通常3000〜15000ダルトンである、質量分光光度計で使用されるダルトンにおける質量測定に基づいて、一定のマクファーランド濁度値を示す、培養培地中で増殖する生体試料を選択する。
【0050】
マクファーランド濁度測定器は、光散乱法または他の好適な方法を使用し、混合負荷試料の測定を避けるために0.1、…、0.2、…、0.3、…、0.5、…などの異なるマクファーランド濁度についてスカラー測定プログラムを設定する。既に説明したように、負荷試料が2種の細菌を有していたとしても、通常、公知の分光光度法システムはなお正常に作動するが、3種以上の細菌が存在する場合には応答はもはや信頼できない。
【0051】
汚染細菌は、試料、例えば尿を入れた試験管またはビンに適応するのに一定の時間を要するので、もはやそれらの自然の増殖環境になく、複製を開始するのは、3時間の増殖後、通常4〜5時間の増殖後である。したがって、提案した方法は、指数増殖期における病原体の増殖グラフとの組み合わせまたは代替としての、所望のマクファーランド値に達成する過程での急速な複製の最初の45分を考慮するので、混入細菌及び混入細菌による偽陽性の影響を受けることはほとんどまたは全くない。実際、適応に要する時間が長い汚染細菌の生命力が非常に高くても、感染を引き起こす細菌を識別して、45分のみの高複製期の細菌量を決定することができる。
【0052】
したがって、0.1、…、0.5、…などのスカラーマクファーランド値の同定は、例えば、尿試料において尿生殖路の感染の原因となる細菌が、上述のように、最初に複製を始めるならば、該細菌のみを確実に同定することができる。
【0053】
尿や他の生体液体のような物質を接種した液体培養液容器内の細菌量の指数的増殖は、事前選択した所望の濁度で質量分光光度法による同定を行うためのコントロール及び一定のプログラム可能なデータを提供するので、本発明では、その後の同定工程を自動化することができる。
【0054】
細菌の純粋なコロニーで、細菌の種類が2種類までであれば最良の結果が得られる(3コロニー以上の細菌種では、結果の信憑性が急激に低下する)WO‘580と比較して、本発明は、純粋なコロニーを取得せずに行うことができ、通常、マクファーランド濁度測定による複製の有効な測定では、最初の3時間以内に主に単一の微生物培養を確認することができる。例えば、尿試料では、70%の病原菌が単一の微生物増殖により維持され、15%が2種の微生物種を有している。
【0055】
複数種の微生物増殖が存在する場合に特に関連して、UD2009A000048のような迅速な液体培養工程は、マクファーランド濁度が一定の値に達しシステムにより検出されると停止し、細菌が存在する場合の最初の対数的増殖工程、したがって、早期工程において質量分光光度法による試料の同定が可能になる。これは、支配的な病原体は過度に発現し、他の細菌は混入していても対数的工程にはならずに潜伏し、分光光度解析の時点においてその絶対濃度の点で、完全に無視できることを意味し、質量分光光度同定法システムが依拠するタンパク質または脂質プロファイルの分析を妨げないことを意味する。
【0056】
WO‘580において試料レベルで起こるような、システムによるプロファイルの検出を阻害する干渉にも、同様の改良が可能である。
【0057】
さらに、質量分光光度同定に先立つ培養工程に選択性液体培地を使用することは、分光光度計の性能をさらに改良することができる。
【0058】
実際、選択性培地または、例えば、抗生物質などの選択性物質を含有する培地を使用することにより、培養工程は限定された微生物または特に限定された微生物の亜種の事前選択要素としても作用することができる。例えば、黄色ブドウ球菌(MRSA)は、選択性増殖培地を使用しない場合には、質量分光光度計同定システムでは直接同定できないか、または十分には識別できない。したがって、選択性培養培地中での増殖工程は、質量分光光度計による同定方法を補助及び改良する診断手段である。
【0059】
したがって、次に行う質量分光光度法による病原体の同定に先立つ準備としての光散乱法または他の代替、類似方法による濁度の測定は、以下を可能とする。
・液相の成長促進培養培地での培養増殖で陽性を示した試料をそのまま、またはその一定分量を、次に行う質量分光光度法による同定に使用すること、
・陽性試料を遠心分離によってペレット化することなく試料をそのまま使用できる可能性、
・陽性試料を遠心分離によってペレット化することを避けること、
・過剰に濁った試料の使用を避けて質量分光光度計の詰まりを避けるために、次に行う質量分光光度法のための3000〜15000ダルトンの最適範囲に好適かつ同等の、マクファーランド値及び/または病原体計数(細菌の場合にはCFUで表される)の結果を提供すること、
・一般的に、3時間以内の増殖で試料を使用する場合に、試料採取時の混入細菌の増殖を解析から除外すること、
・上述の3時間以内の増殖で使用する場合に、混入を伴わずに試料を質量分光光度計に供給すること、
・質量分光光度計での使用に要求される適切であると思われる濁度の範囲、典型的には0.1、0.25、0.5、0.75、1.00、1.25、1.5、1.75、2.00、2.22、2.5など、の陽性の試料を、病原体数(細菌の場合にはCFUで表される)の表示も合わせて、提供すること、
・感染の原因となる病原体と同様に、同じ試料中の活性かつ複製可能な混入病原体を2種までその存在を質量分光光度計により同定すること、
・質量分光光度計により検出可能な最小値に同等なマクファーランド濁度値を有する、すなわち、2500ダルトンの陽性試料を調製すること、
・標準化したマクファーランドスケールによる濁度測定及び可能である場合には病原体数(細菌の場合にはCFUで表される)と質量分光光度計により検出するのに適切な分子量との間の相関性を決定すること、
・本発明のある種の実施形態では、特定のライブラリー(例えば、黄色ブドウ球菌(MRSA))を使用しての解釈が困難な細菌を検出できる選択性液体培地を使用し、質量分光光度計から適切な応答を得ること。
【0060】
代表的にはマクファーランドスケールであり、適当な事前選択された濁度目標及び病原体数(細菌の場合にはCFUで表される)を示す、標準濁度の動的測定は、質量分光光度計を使用して行われる迅速同定に好適な分析試料を提供し、事前選択された濁度の自動検出過程では、迅速かつWO‘580に記載の同定における干渉の問題が起こらない自動化作動システムを提供できる。
【0061】
試料のマクファーランド濁度を逐次に動的に測定することにより、最初の培養(約45分から約3時間)後の混入細菌の存在についての質量分光光度法による同定を、この分析試料を4/5時間培養した後の同定結果との関連で、確認することも可能になる。
【0062】
脂質物質または特定の乳汁でウイルスまたは他の微生物を好適に覆うことにより、本発明は細菌の同定だけでなく、ウイルスの同定にも好適に適用できる。
【0063】
増殖が困難な細菌の選択性液体培地または特定の対象の細菌の増殖に適切な培地の使用はまた、本発明の分野及び範囲内である。
【図面の簡単な説明】
【0064】
本発明の上述及び他の特徴は、添付した図面を参照して非制限的実施例による、好ましい実施形態についての以下の説明により明確になる。
【図1】本発明による診断解析の装置の概略図である。
【図2】図1の装置の部分概略図である。
【図3】細菌量の時間的変化を示すグラフである。
【0065】
理解を促進するために、実質的に同一の図中の共通要素には、できる限り、同じ参照番号を付した。なお、実施形態の1つの要素及び特徴は、さらに説明することなく他の実施形態に便宜的に組み込むことが可能である。
【発明を実施するための形態】
【0066】
添付した図面に関連して、本発明による方法は、光散乱法により、液体培養液または成長促進培養液で複製中の生体試料を所望の定義されたマクファーランド濁度値に調製し、続いて調製した試料またはその一定分量を、病原体を同定するための質量分光光度法測定に使用することを提供する。非限定的に、光散乱法を参照するが、本発明は、上述のように他の同様の方法を提供することもできる。
【0067】
この場合、本方法は、光散乱測定デバイス12と、例えば、マトリックス支援レーザー脱離イオン化(MALDI)型の質量分光光度計15を有する装置10(図1)を使用する。
【0068】
デバイス12は、電磁放射線に対して透過的であり、その内部で成長促進培養液に接種された生体試料の懸濁液の細菌を増殖させる、容器要素または試験管16の使用を提供する。
【0069】
デバイス12は、試験管16に含有される懸濁液により拡散された光が検出される読取ユニット11と、読取ユニット11により受信されたシグナルを解析目的で処理するコンピュータなどの処理手段26とを有する。
【0070】
本発明により、病原性微生物の存在について確かめるために、例えば、菌株を決定するために、試料は培養試験され、陽性の場合、所望の濁度及び病原体濃度に調製された試料が次の細菌同定工程に直接使用される。
【0071】
図1の読取ユニット11による試験管内の試料のマクファーランド濁度の測定は、この場合、解析工程においてレーザー光の放射及び光散乱計測により直接行われる。すなわち、解析する試料の細菌量を決定するための培養試験における細菌増殖と同時に、濁度を測定する。
【0072】
特に、読取ユニット11は、試験管16を照射する干渉性の偏光した(レーザー)平行光線14の放射手段13を有する。
【0073】
さらに、読取ユニット11は、懸濁液により拡散または屈折された光線22、24を経時的に測定する第1センサー手段18、第2センサー手段20を有する。
【0074】
第1及び第2センサー手段18、20は、それぞれ対応するシグナルS1及びS2を生成することができ、これらのシグナルは処理手段26に送信される。
【0075】
生体試料は、複製細菌の存在により、拡散光のシグナルを放射する。これは読取ユニット11により検出され、処理手段26によって処理され、細菌増殖の進行を時間の経過で表した具体的なの曲線を提供する。
【0076】
第1及び第2センサー手段18、20は、試験管16に関して互いに異なる第1の角度位置P1及び第2の角度位置P2と一致するように配置され(図2)、それぞれ第1の角度位置P1及び第2の角度位置P2と関連して、細菌懸濁液の濁度の経時変化の第1の曲線V1(t)及び第2の曲線V2(t)を定義する。
【0077】
この場合、第1及び第2センサー手段18、20は、光線14の方向に対して予め決められた2つの角度α及びβ、例えば、30°と90°の位置に配置される(図2)。
【0078】
処理手段26は、マクファーランド濁度の進行性スケール値に関するデータD1及びマクファーランド濁度スケールからダルトン重量に変換された値に関するデータD2が記録されたデータベースを有する記録手段28を有し、マクファーランド値に質量分光光度計15の使用に最適な重量範囲に調製された試料との相関を持たせることができる。増殖段階の試料のマクファーランド濁度が予め決められたレベル、例えば、0.5に達するのに要する時間は、試料の最初の細菌量に依存し、細菌数が大きい程、予め決められたマクファーランドの閾値により早く達する。
【0079】
読取ユニット11は、所望のマクファーランド値への到達とともにまたはその代用として、病原性微生物が存在する場合に該微生物を計数することもでき、細菌の場合にはCFUとして表現する。実際に、光散乱法に基づく比濁分析型の場合に行われる光学的測定は、時間の関数として指数関数的に増殖する細菌数を定量的に与える。
【0080】
特に、センサー18、20により検出された放射は、電気信号に転換され、データを処理して、結果を算出する処理手段26に送られる。
【0081】
細菌増殖曲線は、処理手段26のデータベースに含まれる参照値と比較され、試料中に存在する微生物の量と複製速度のような解析パラメーターを決定する。
【0082】
計算方法は、懸濁液内での細菌増殖により進路と変えられた光の強さが時間と共に変化する、という事実に基づいている。
【0083】
進路を変えられた放射の周期的読み取りは、公知の内挿法により、試験される血漿試料内の細菌コロニーの増殖曲線を構築することができ、該曲線は検出器が位置する検出角に関連する。
【0084】
増殖曲線は、C=Ae(t−t)+Cなどの時間の関数として指数関数的に進展することが実験的に示されている。
【0085】
上記式では、Cは進路を変えられた放射の強さを示し、Aは試験される細菌種に依存する定数、Cは初期濃度に依存する定数を表し、Kは検出器の位置角を考慮するパラメーターであり、tは時間、tは試料中に存在する細菌数に関連する遅延時間である。
【0086】
複製する試料を有する液体培地が濁り過ぎてマクファーランドスケールを使って病原体を定量的に求めることが困難な場合は特に、所望のマクファーランド濁度と病原体数を組み合わせて決定することが望ましい。一方、逆に、濁りが少なすぎる場合は、増殖曲線を使う定量がより信頼性が高い。一旦試料が調製されると、その試料またはその一定分量が質量分光光度計15に転送され、そこで病原体の同定が行われる。質量分光光度計15の構成及び機能の詳細は、例えばWO‘580に公知であり、ここでは説明を省略する。
【0087】
したがって、本発明は、続いて質量分光光度計によって行われる同定工程に関係する、培養工程における細菌量の上昇により決定される所望の微生物の濃度及び/または濁度を選択することができる。
【0088】
本発明の分野及び範囲から逸脱することなく、上述のような装置10及び診断解析方法の部分的な変更及び/または追加が可能であることは明確である。また、本発明を特定の実施例を参照して説明したが、当業者は、特許請求の範囲に記載のような特徴を有し、よって特許請求の範囲によって定義される保護の範囲内である、装置及び診断解析の方法に同等な多くの他の形態を確実に達成できることは明らかである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
診断解析方法、特に、生体試料中に存在するウイルス、細菌、その他の微生物等の病原体を同定する方法であって、
・分析試料が接種され、病原体が存在する場合には内部で病原体の複製が起こる液体培地の濁度及び/または病原体の濃度を、機器計測法により測定及び継続的にモニタリングする第1工程であって、前記測定及びモニタリングが液体培地中で増殖する病原体の複製の間に動的に行われる第1工程、及び
・マクファーランド濁度スケールなどの標準化された尺度に基づく所望の濁度値及び/または病原体の濃度に達した、前記第1工程から直接得られた生体試料を含有する液体培地の少なくとも一定分量を取り出し、前記第1工程の測定結果に基づいてその機能を校正した質量分光光度法的同定手段(15)に、前記一定分量を直接使用して病原体を同定する、病原体の同定を行う第2工程を有し、
前記所望の濁度値及び/または病原体の濃度は、前記第2の同定工程を行うために各段階において確認される特定の必要性に基づいて、前もって前記第1工程の間に選択され、
前記第1工程において所望の濁度値及び/または病原体の相対濃度を得るために必要な時間が、次に行う同定が試料中の混入病原体の存在の影響を受けない時間である、
ことを特徴とする診断解析方法。
【請求項2】
前記第1工程で前記所望の濁度値及び/または病原体の相対濃度を得るために必要な時間が45分から3時間である、
ことを特徴とする請求項1に記載の診断解析方法。
【請求項3】
前記第1工程で前記所望の濁度値及び/または病原体の相対濃度にされた試料を、3時間以内に前記第2工程で使用する、
ことを特徴とする請求項1または2に記載の診断解析方法。
【請求項4】
前記第1工程が、前記第2工程で同定される試料の重量が3000〜15000ダルトンの範囲に対応する試料の濁度値を提供することができる、
ことを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の診断解析方法。
【請求項5】
前記第1工程において、所望の病原体の増殖のために、選択性液体培地または選択性物質を添加した培地を使用する、
ことを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の診断解析方法。
【請求項6】
診断解析装置、特に、生体試料中に存在するウイルス、細菌、その他の微生物等の病原体を同定するための装置であって、
・分析試料が接種され、病原体が存在する場合には内部で病原体の複製が起こる液体培地の濁度及び/または病原体の濃度を、機器計測法により測定及び継続的にモニタリングする手段(12)、及び
・マクファーランド濁度スケールなどの標準化された尺度に基づく所望の濁度値及び/または病原体の濃度値、及び/または病原体の濃度に達した、生体試料を含有する液体培地の少なくとも一定分量中の病原体を同定することができる質量分光光度法的同定手段(15)を有し、
前記質量分光光度法的同定手段(15)は、前記測定及びモニタリング手段(12)により得られた濁度及び/または病原体の濃度の測定結果に基づいて、その機能が校正されており、
前記測定及びモニタリング手段(12)は、前記濁度値及び/または病原体の濃度の所定の段階的経過に関する第1のデータ(D1)、並びに前記濁度値及び/または病原体の濃度と、前記質量分光光度法的同定手段(15)に、その機能に好適であるとして選択されて、投入された試料の重量値の範囲との間の定義済みの相関に関する第2のデータ(D2)を記録する記録手段(28)を有する処理手段(26)を有し、
前記処理手段(26)は、前記質量分光光度法的同定手段(15)の特定の必要性に基づいて各段階において選択される前記第2のデータ(D2)に含まれる値の1つに基づいて、前記第1のデータ(D1)の中から所望の濁度値及び/または病原体の濃度を選択することができ、
前記測定及びモニタリング手段(12)が所望の濁度値及び/または病原体の相対濃度を得るために必要な時間が、前記質量分光光度法的同定手段(15)による同定が試料中の混入病原体の存在の影響を受けない時間であるように構成されている、
ことを特徴とする診断解析装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公表番号】特表2013−516973(P2013−516973A)
【公表日】平成25年5月16日(2013.5.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−548498(P2012−548498)
【出願日】平成23年1月13日(2011.1.13)
【国際出願番号】PCT/IB2011/000056
【国際公開番号】WO2011/086462
【国際公開日】平成23年7月21日(2011.7.21)
【出願人】(511207877)アリファックス ホールディング エスピーエー (4)
【氏名又は名称原語表記】ALIFAX HOLDING SPA
【住所又は居所原語表記】Via Petrarca, 2/1, 35020 Polverara(IT)
【Fターム(参考)】