説明

試料固定用治具

【課題】 イオンミリング装置において、かかる装置固有の照射角度の上限より大きな照射角度においてもイオンビームの照射を可能ならしめる試料固定用治具を提供すること。
【解決手段】 基準面に対して所定の照射角度にてイオンビームを照射することの出来るイオンミリング装置において用いられる試料固定用治具にして、前記イオンビームが照射される試料を保持する試料保持部材と、前記イオンミリング装置内の試料支持台に固定される台座と、該試料保持部材と該台座とを連結して、該台座上に該試料保持部材を支持する支持部材とから構成し、且つ、該試料保持部材を、前記基準面に対して傾斜した状態において、前記支持部材により前記台座に対して取り付けた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、イオンミリング装置において用いられる試料固定用治具に係り、特に、イオンミリング装置において試料の薄膜化等をより有利に実施することが出来る試料固定用治具に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より、透過型電子顕微鏡における観察用の試料を作製する際や、マイクロオーダーの微細な配線パターンを基板表面に形成する際等においては、各種のイオンミリング装置が用いられている。そのような各種のイオンミリング装置の中でも、例えば、透過型電子顕微鏡(TEM)における観察用試料を作製する際等に用いられるイオンミリング装置としては、真空チャンバー内において、その基準面上に所定の試料固定用治具にて固定された試料に対して、イオンビーム源(イオン銃)より、基準面に対する所定の照射角度にてイオンビームを照射する構造のものが、広く知られている。ここで、本願明細書及び特許請求の範囲における「基準面」とは、イオンミリング装置におけるイオンビーム源の基本位置が属する平面であって、一般的には水平面である。また、イオンミリング装置においては、イオンビーム源が、通常、かかる基準面を中心として上下方向に変位可能なものとなっている。
【0003】
具体的には、そのような構造のイオンミリング装置を用いて、試料に対して、所定の照射角度にてイオンビームを照射せしめるに際しては、先ず、目的とする試料を基準面上に配置(保持)し、次いで、イオンビームが所定の照射角度(基準面に対する照射角度)にて試料に照射されるように、イオンビーム源(イオン銃)の位置を、その基本位置から変位させ、このようにイオンビーム源を変位せしめた状態において、イオンビームを照射することとなる。そして、かかるイオンビームの照射によって、試料表面より、試料の構成原子や構成分子が効果的にたたき出されて(スパッタリング現象)、試料が有利に薄膜化されるのであり、以て、TEMにおいて観察することが可能な、薄膜化された試料が得られるのである。
【0004】
ここにおいて、上述したようなイオンミリング装置は、イオンビーム源の位置を変位させることにより、一般に、−40〜+40°程度の照射角度(以下、装置固有の照射角度とも言う。)にてイオンビームを照射することが可能なものである。
【0005】
一方、そのようなイオンミリング装置において、試料を固定するために用いられる試料固定用治具は、従来、試料が、基準面と同一面上となるような構造を呈するものであった。このため、上述したような構造のイオンミリング装置と従来の試料固定用治具とを用いて、所定の試料に対するイオンビーム照射を行なうと、装置固有の照射角度(−40〜+40°程度)によるイオンビームの照射は可能であったものの、それを超える照射角度、例えば、+40〜+90°程度の照射角度にて、イオンビームを照射することは不可能であった。このような照射角度の制限は、イオンミリング装置を、例えば、試料の穿孔加工や新規なナノ構造体の作製等といった、試料の薄膜化以外の他の用途へ用いる際の、大きな障害となっていたのである。
【0006】
このような状況の下、特開平9−293475号公報(特許文献1)においては、試料を保持する試料ホルダにして、試料が搭載される試料搭載部と、該試料搭載部上の試料を保持する試料保持部と、前記試料ホルダを集束イオンビーム装置用治具受け台に固定するために利用される突出部と、透過型電子顕微鏡用ホルダ受け台又はイオンミリング用ホルダ受け台に固定するための固定部とを有する試料ホルダが、提案されている。そこにおいて、かかる試料ホルダは、試料を0°〜90°まで傾斜させるような場合においても、試料の載せ換え等を行なう必要がないとされている。
【0007】
しかしながら、かかる特許文献1においては、如何なる手法にて試料を傾斜させるのか、具体的に何ら明らかにされていないのであって、上述したような構造のイオンミリング装置において、イオンビームの照射角度が制限されるという問題は、未だ解決されていないのである。
【0008】
【特許文献1】特開平9−293475号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
ここにおいて、本発明は、かかる事情を背景にして為されたものであって、その解決すべき課題とするところは、基準面に対して所定の照射角度にてイオンビームを照射することの出来るイオンミリング装置において用いられる試料固定用治具であって、試料に対して、装置固有の照射角度の上限より大きな照射角度においてもイオンビームの照射を可能ならしめるものを、提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
そして、本発明にあっては、かかる課題を解決するために、基準面に対して所定の照射角度にてイオンビームを照射することの出来るイオンミリング装置において用いられる試料固定用治具にして、前記イオンビームが照射される試料を保持する試料保持部材と、前記イオンミリング装置内の試料支持台に固定される台座と、該試料保持部材と該台座とを連結して、該台座上に該試料保持部材を支持する支持部材とから構成され、且つ、該試料保持部材が、前記基準面に対して傾斜した状態において、前記支持部材により前記台座に取り付けられていることを特徴とする試料固定用治具を、その要旨としているのである。
【0011】
なお、そのような本発明に係る試料固定用治具における好ましい態様の一つにおいては、前記支持部材が、複数本の金属製柱状部材よりなり、また、好ましい態様の他の一つにおいては、前記支持部材が、屈曲可能なものである。
【0012】
さらに、本発明の試料固定用治具における別の望ましい態様の一つにおいては、前記支持部材が、金属製の円筒部材よりなる。
【発明の効果】
【0013】
このような本発明に従う試料固定用治具にあっては、試料保持部材が、イオンミリング装置におけるイオンビームの基準面に対して傾斜した状態において、支持部材を介して台座に取り付けられているところから、かかる本発明の試料固定用治具にて固定した試料に対して、所定の装置固有の照射角度にてイオンビームを照射することの出来るイオンミリング装置を用いて、イオンビームを照射する際には、かかる装置固有の照射角度以上の照射角度にて、イオンビームを照射することが可能ならしめられるのである。
【0014】
また、本発明の試料固定用治具を構成する支持部材として、可撓性を有するものを用いると、かかる支持部材にて支持されている試料保持部材の傾斜状態を容易に変更することが可能ならしめられるのであり、試料に対するイオンビームの照射角度も、容易に変更することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、図面を参照しつつ、本発明に係る試料固定用治具における最良の形態について、詳細に説明する。
【0016】
先ず、図1乃至図3には、本発明に従う試料固定用治具の一例が、示されている。そこにおいて示されている試料固定用治具2は、基準面たる水平面を中心として上下方向にイオンビーム源の変位が可能であって、例えば、−40°〜+40°程度の装置固有の照射強度にてイオンビームを照射することが出来るイオンミリング装置に、有利に用いられ得るものである。
【0017】
具体的には、図1は、本発明に係る試料固定用治具の一例を斜め上方から表わした斜視図であり、図2は、それを上方から表わした上面図、及び、図3は、一の側面から表わした側面図である。かかる図1乃至図3からも明らかなように、試料固定用治具2は、試料保持部材4と、台座6と、支持部材8a、8b、8cとから、構成されている。
【0018】
具体的には、試料保持部材4は、所定厚さの楕円板の中央部に、貫通孔10とその周囲を囲う凹部12とからなる試料保持部14が設けられていると共に、かかる試料保持部材4上における、後述の試料カバー16(図4参照)に設けられた係止孔18a、18b、18cに対応する部位には、かかる試料カバーを係止するための係止ピン20a、20b、20cが、それぞれスポット溶接されて、配置されている。
【0019】
また、台座6は、上側の角部を面取りした円環状(リング状)の部材であって、その内周面には、かかる台座6(試料固定用治具2)を、イオンミリング装置内における試料支持台に固定するためのネジ部22が、設けられている。
【0020】
さらに、支持部材8a、8b、8cは、台座2上に取り付け可能な大きさの径を有する円柱状部材であって、8aと8cは同一の長さである一方、8bは、8aや8cより短いものとされている。なお、これら各支持部材の長さは、試料保持部材4の試料保持部14における貫通孔10の中心が、イオンミリング装置におけるイオンビーム源(イオン銃)の基準面上に存在するように、用いられるイオンミリング装置の大きさ、種類等に応じて、適宜に決定されることとなる。
【0021】
そして、そのような各部材よりなる試料固定用治具2にあっては、上述の如き試料保持部材4と台座6とが、長さの異なる3本の支持部材8a、8b、8cによって連結されることにより、図3に示されているように、試料保持部材4が、水平面に対してX°傾斜した状態において、支持部材8a、8b、8cを介して台座2に取り付けられているのである。即ち、試料保持部材4が、基準面たる水平面に対してX°傾斜していることから、そこにおいて保持される試料(24)も、基準面たる水平面に対してX°、効果的に傾斜せしめられることとなるのである。
【0022】
具体的には、図1乃至図3に示されている試料固定用治具2において、かかる治具2上に試料を固定するに際しては、図4に示されているように、試料保持部材4と略同形状を呈する所定厚さの試料カバー16が用いられる。そこにおいて用いられている試料カバー16は、その中央部に、貫通孔26とその周囲を囲う凹部28とからなる試料押さえ部30が設けられていると共に、所定の部位には、係止孔18a、18b、18cが、それぞれ設けられてなるものである。そして、このような試料カバー16の係止孔18a、18b、18cを、試料保持部14上に試料24が配置された状態の試料保持部材4における係止ピン20a、20b、20cに係合せしめ、試料カバー16を、所定方向(図4中の矢印方向)に回転せしめることにより、試料24が、試料保持部材4と試料カバー16とによって、基準面たる水平面に対してX°傾斜した状態において、効果的に挟持されることとなるのである。
【0023】
そして、そのようにして傾斜して保持された試料24に対して、例えば、装置固有の照射強度が−40°〜+40°程度のイオンミリング装置を用いて、イオンビームを照射せしめると、従来の試料固定用治具2を用いた場合には照射することが出来なかった、(40+X)°の照射角度においてイオンビームを照射することが可能ならしめられるのであり、例えば、イオンミリング装置を、従来では用いることが困難であった試料の穿孔加工や新規なナノ構造体の作製等の用途においても、有利に用いられ得ることとなる。
【0024】
なお、本発明においては、上述の如き試料固定用治具2を構成する各部材、即ち、使用保持部材2、台座6及び支持部材8a、8b、8cは、何れも、イオンビーム照射の衝撃等に耐え得る導電性材料であれば、如何なるものを用いて作製されたものであっても良い。そのような導電性材料としては、モリブデン、チタン等の単体金属や、非磁性ステンレス等の各種合金等を例示することが出来るが、それらの中でも、特に、モリブデンが、好適に用いられ得る。
【0025】
特に、そのような単体金属又は合金よりなる柱状若しくは筒状部材を用いて、支持部材8a、8b、8cを作製すると、塑性変形により容易に屈曲せしめることが出来る支持部材8a、8b、8cが得られる。そして、そのような屈曲可能な支持部材8a、8b、8cを用いて、試料保持部材4と台座6とを取り付けると、かかる取り付けの後においても、試料保持部材4の基準面に対する傾斜角:X°を任意に設定することが可能となる。具体的には、弾性率及び降伏強度が高いチタンやモリブデンの場合、直径が0.3〜0.5mm程度の真空焼鈍材を用いて支持部材8a、8b、8cを作製すると、かかる支持部材8a、8b、8cは、塑性変形により容易に屈曲せしめることが可能である。
【0026】
また、上述してきたような各部材を相互に連結せしめるに際しては、従来より公知の各種手法、具体的には、スポット溶接やネジ止め等の手法が、適宜に選択されて、実施される。
【0027】
以上、本発明の試料固定用治具に係る一実施形態について、詳細に説明してきたが、本発明が、かかる実施形態のものに限定されるものでないことは、言うまでもないところである。
【0028】
例えば、図5においては、本発明に従う試料固定用治具の他の一例が、その斜視図にて示されている。そこにおいて示されている試料固定用治具32は、試料保持部材34と、台座36とが、円筒部材を水平面以外の所定の平面で切断してなる支持部材38にて、相互に連結されてなるものである。
【0029】
かかる図5に示されている試料固定用治具32以外にも、本発明は、試料保持部材が、基準面に対して傾斜した状態において、支持部材より台座に取り付けられてなる構造のものが、全て包含されるものである。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】本発明に従う試料固定用治具の一例を示す斜視説明図である。
【図2】図1に示された試料固定用治具の上面図である。
【図3】図1に示された試料固定用治具の側面図である。
【図4】図1に示された試料固定用治具にて試料を固定する際の工程を模式的に示す説明図である。
【図5】本発明に従う試料固定用治具の他の一例を示す斜視説明図である。
【符号の説明】
【0031】
2 試料固定用治具 4 試料保持部材
6 台座 8a、8b、8c 支持部材
10 貫通孔 12 凹部
14 試料保持部 16 試料カバー
18a、18b、18c 係止孔 20a、20b、20c 係止ピン
22 ネジ部 24 試料
26 貫通孔 28 凹部
30 試料押さえ部 32 試料固定用治具
34 試料保持部材 36 台座
38 支持部材


【特許請求の範囲】
【請求項1】
基準面に対して所定の照射角度にてイオンビームを照射することの出来るイオンミリング装置において用いられる試料固定用治具にして、前記イオンビームが照射される試料を保持する試料保持部材と、前記イオンミリング装置内の試料支持台に固定される台座と、該試料保持部材と該台座とを連結して、該台座上に該試料保持部材を支持する支持部材とから構成され、且つ、該試料保持部材が、前記基準面に対して傾斜した状態において、前記支持部材により前記台座に取り付けられていることを特徴とする試料固定用治具。
【請求項2】
前記支持部材が複数本の金属製柱状部材よりなることを特徴とする請求項1に記載のイオンビーム照射用試料固定治具。
【請求項3】
前記支持部材が屈曲可能であることを特徴とする請求項2に記載のイオンビーム照射用試料固定治具。
【請求項4】
前記支持部材が金属製の円筒部材よりなることを特徴とする請求項1に記載のイオンビーム照射用試料固定治具。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2006−261070(P2006−261070A)
【公開日】平成18年9月28日(2006.9.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−80647(P2005−80647)
【出願日】平成17年3月18日(2005.3.18)
【出願人】(304021277)国立大学法人 名古屋工業大学 (784)
【Fターム(参考)】