説明

誘導加熱コイルの絶縁構造

【課題】亜鉛ヒュームなどの金属微粒子の侵入による絶縁低下を防止して使用寿命を延長できる誘導加熱コイルの絶縁構造を提供する。
【解決手段】鋼板を誘導加熱する誘導加熱コイル1の鋼板に面する側の表面にセラミッククロス4を被覆する際に、セラミッククロス4の誘導コイル側および/または鋼板側にセラミック短繊維を含むセラミック質表面硬化材7による耐熱絶縁層を形成する。セラミッククロス4は、アルミナ−シリカ質でボロンを含有しないセラミック長繊維からなるものであることが好ましく、セラミック質表面硬化材7は、アルミナまたはアルミナ−シリカ質の微粒子と、アルミナ−シリカ質のセラミック短繊維と、コロイダルシリカと、有機接着剤を含むものであることが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鋼板を通板させながら連続加熱するために用いられる誘導加熱コイルの絶縁構造に関するものである。
【背景技術】
【0002】
鋼板の連続焼鈍炉等や鋼板の合金めっき設備の合金化炉には、鋼板を急速に加熱するために誘導加熱コイルが用いられている。このような誘導加熱コイルは鋼板を表裏両面から均一に加熱できるように、内部に鋼板の通路を備えた筒状のコイル導体からなるものであり、その表面は耐熱性のある絶縁材により覆われている。
【0003】
このための絶縁材として、従来は断熱キャスタブル耐火物や、アルミナクロス等の高温耐熱繊維に代表されるアルミナ系セラミックスなどが使用されていた。例えば特許文献1は本願発明とは異なり熱間鍛造される材料の誘導加熱用コイルに関するものではあるが、誘導加熱コイルの内表面を多孔質耐火性骨材を配合した不定形耐火物で覆った絶縁構造が開示されている。また特許文献2は本願発明と同一用途の誘導加熱コイルを、アルミナ系セラミックスにより絶縁することを開示している。ただしアルミナ系セラミックスの詳細については記載されていない。
【0004】
ところがこのような従来の誘導加熱コイルの絶縁構造は、専ら耐熱性と絶縁性に主眼を置いて選択されたものであって、使用中の金属微粒子の侵入による絶縁低下は防止できないことが判明した。例えば、鋼板の亜鉛めっきラインにおいては炉内の雰囲気中に微細な亜鉛ヒュームが浮遊しており、長期間運転を継続すると電磁力により誘導加熱コイルの絶縁表面に亜鉛ヒュームが引き寄せられて付着する。そしてその一部が絶縁材の粒子間隙やクラック等を貫通してコイル表面に達し、コイルと接地しているシールド板との間やコイル間を短絡させるに至る場合があることが判明した。
【0005】
なおコイル素線の表面にも、あらかじめワニスやエナメル等の絶縁塗料が塗布されているが、炉内温度が450℃を越えるとこれらの絶縁塗料は焼失して銅線の表面が露出してしまう。このため、亜鉛ヒュームが侵入すると誘導加熱コイルの絶縁低下を防ぐことができない。
【0006】
このような誘導加熱コイルの絶縁低下が発生するとラインストップをまねき、大きな損失となる。このため、その解決策が強く求められていた。またこのようなトラブルを回避するために、定期的に点検絶縁劣化状況を把握し、修理する必要があった。
【特許文献1】特開2005−156124号公報
【特許文献2】特開2006−169603号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
従って本発明の目的は、上記した従来の問題点を解決し、鋼板を通板させながら連続加熱する誘導加熱コイルを、数百℃の高温使用条件下においても初期と同等以上の絶縁特性を保ち、、しかも亜鉛ヒュームなどの金属微粒子の侵入による絶縁低下を著しく進みにくくして誘導加熱コイルの使用寿命を延長させることができる誘導加熱コイルの絶縁構造を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の課題を解決するためになされた本願請求項1の発明は、鋼板を誘導加熱する誘導加熱コイルの鋼板に面する側の表面にセラミッククロスを被覆する際に、セラミッククロスの誘導コイル側および/または鋼板側にセラミック短繊維を含むセラミック質表面硬化材による耐熱絶縁層を形成することを特徴とするものである。
【0009】
なお請求項2に記載のように、鋼板を誘導加熱する誘導加熱コイルを、ソレノイド型とすることができる。
【0010】
また請求項3に記載のように、セラミッククロスが、シリカ質またはアルミナ−シリカ質で、ボロンを含有しないセラミック長繊維からなるものであることが好ましい。
【0011】
また請求項4に記載のように、セラミック質表面硬化材が、アルミナまたはアルミナ−シリカ質の微粒子と、アルミナ−シリカ質のセラミック短繊維と、コロイダルシリカと、有機接着剤を含むものであることが好ましい。
【0012】
また請求項5に記載のように、セラミック短繊維が、セラミックファイバーのバルクを解繊したものであることが好ましい。
【0013】
また請求項6に記載のように、セラミック質表面硬化材をセラミッククロスの表面に吹き付け塗布し、耐熱絶縁層を形成することが好ましい。
【0014】
また請求項7に記載のように、鋼板を誘導加熱する誘導加熱コイルは、鋼板の連続焼鈍炉またはめっき設備の合金化炉に設置されたものとすることができる。
【発明の効果】
【0015】
本発明の誘導加熱コイルの絶縁構造によれば、誘導加熱コイルの鋼板に面する側の表面にセラミッククロスを被覆する際に、セラミッククロスの誘導コイル側および/または鋼板側にセラミック短繊維を含むセラミック質表面硬化材による耐熱絶縁層を形成する。単にコイル表面をセラミッククロスで絶縁した場合には、そのメッシュ部分を貫通して金属微粒子が内部に侵入する可能性があるが、本発明の構造においてはセラミック質表面硬化材に含まれるセラミック短繊維がメッシュに絡まり、さらにセラミック粒子がそのセラミック短繊維に付着して完全に封鎖する。このために亜鉛ヒュームなどの金属微粒子が表面に付着しても絶縁材層を貫通することができず、コイル表面に達することはない。このため従来のように誘導加熱コイルの絶縁低下を生ずることはない。
【0016】
しかも本発明の耐熱絶縁層は、耐熱性及び絶縁性に優れたセラミッククロスと、セラミック短繊維を含むセラミック質表面硬化材とによって構成されているから、500℃〜1200℃の高温条件下においても長期間にわたって安定した耐熱性及び絶縁性を発揮することができる。この結果、本発明によれば誘導加熱コイルの絶縁低下に起因するラインストップをなくすることができる。
【0017】
請求項2に記載のように、鋼板を誘導加熱する誘導加熱コイルが、ソレノイド型である場合には、少なくとも鋼板に面する内周面のみをこの構造とすればよい。亜鉛ヒュームなどの金属微粒子は、鋼板が通板される炉内に存在するからである。しかし、誘導加熱コイルの内外両面をこの耐熱絶縁層によって被覆しても良いことはいうまでもない。
【0018】
請求項3に記載のように、セラミッククロスをシリカ質またはアルミナ−シリカ質でボロンを含有しないセラミック長繊維としておけば、加熱された際にボロンが溶出して周囲のセラミッククロス内部に拡散浸透し劣化させることもなく、安定した耐熱性及び絶縁性を発揮することができる。これらセラミッククロスの実用耐熱温度は、シリカ質で800℃以上、アルミナ質で1000℃以上あり、800℃以上に加熱可能な高温用誘導加熱装置にも使用可能である。
【0019】
請求項4に記載のように、セラミック質表面硬化材が、アルミナまたはアルミナ−シリカ質の微粒子と、アルミナ−シリカ質のセラミック短繊維と、コロイダルシリカとを含むものとすれば、安定した耐熱性及び絶縁性を発揮することができるうえ、セラミック粒子とセラミック短繊維とが同材質であるから相互間の付着性が良好であり、金属微粒子の貫通防止効果を高めることができる。
【0020】
請求項5に記載のように、セラミック短繊維がセラミックファイバーのバルクを解繊したものであれば、製造コストを引き下げることができる。
【0021】
請求項6に記載のように、セラミック質表面硬化材をセラミッククロスの表面に吹き付けて塗布すれば、塗装作業性がよく、広い面積にわたって均一な厚さに塗布することができる。
【0022】
請求項7に記載のように、鋼板を誘導加熱する誘導加熱コイルを、鋼板の連続焼鈍炉またはめっき設備の合金化炉に設置されたものとすれば、連続焼鈍ラインや合金めっきラインの安定性を高めることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
以下に本発明の好ましい実施形態を示す。
図1(a)、(b)、(c)は本実施形態の一例における誘導加熱コイルの中央断面図で、セラミッククロス4の鋼板側にセラミック短繊維を含むセラミック質表面硬化材7による耐熱絶縁層を形成させた場合であり、1はコイル導体1aとコイルフレーム1bとからなる誘導加熱コイル、2は誘導加熱コイル1を支持するベースである。この実施形態では誘導加熱コイル1は中央に鋼板Sを垂直に通す鋼板通路3を備えたソレノイド型である。しかし水平通板ができるように水平設置してもよい。
【0024】
本発明の一例の図1(a)を用いて説明する。この誘導加熱コイル1の鋼板Sに面する側の表面、すなわち鋼板通路3に臨む表面は、セラミッククロス4とセラミック質表面硬化材7とからなる耐熱絶縁層により覆われている。すなわち、誘導加熱コイル1の鋼板通路3に臨む表面には、セラミッククロス4が固定具5,6によって固定されている。このセラミッククロス4の中央部は、シーラントを用いてコイルフレーム1bに接着しておくことが好ましい。そしてこのセラミッククロス4の表面には、セラミック質表面硬化材7が吹き付けられて均一厚さに塗布されている。
【0025】
セラミッククロス4は従来から誘導加熱コイルの絶縁に使用されていたものであり、シリカ質やアルミナ−シリカ質のものがある。シリカ質のものについては、例えば日本グラスファイバー株式会社製のエヌシリカファイバー、アルミナ−シリカ質のものについては、例えばニチアス製のTOMBO No.8350ルビロンがある。更には耐熱性と絶縁性に優れたアルミナ−シリカ質のセラミック長繊維の織布を用いることが好ましい。耐熱性の点で最も好ましいのは、アルミナが70〜80%、シリカが30〜20%の組成である。なおこの組成中に、ボロンを含有しないことが好ましい。ボロンは高温で溶出してセラミック繊維を劣化させるおそれがあるためである。ここで長繊維とは、アルミナやシリカ等を主成分とする直径が数μm〜10μm程度の非常に細いセラミック繊維をより合わせで糸としたもので、例えばアルミナの場合は5〜10cmの長さ、シリカの場合は50cm或いはそれ以上の長さのもので、これを編んで布状のセラミッククロスとし得るセラミック繊維を指す。
【0026】
セラミッククロス4の織り方には平織り、綾織り、朱子織りなど様々な種類があるが、本発明においては織り方の差による作用効果の差は認められないので、織り方は何れであっても差し支えない。またその厚さは0.3〜1.2mm程度でよい。このようなアルミナ−シリカ質のセラミッククロスとしては、例えば日本グラスファイバー株式会社から、超高温耐熱ファイバー「アルミナセブン」の商品名で市販されているものを使用することができる。
【0027】
しかし前記したように、このセラミッククロス4のみでは金属微粒子の貫通を確実に防止することができないため、本発明ではその表面にセラミック短繊維を含むセラミック質表面硬化材7が塗布されている。このセラミック質表面硬化材7は、例えばアルミナまたはアルミナ−シリカ質の微粒子と、アルミナ−シリカ質のセラミック短繊維と、コロイダルシリカと、有機接着剤を含むものである。アルミナ−シリカ質の組成はアルミナが質量%で40〜95%、シリカが60〜5%であるものをいい、微粒子のサイズとしては円相当直径で0.1〜50μm程度である。セラミック短繊維としては、直径が数μm〜10μm程度で長さが数μm〜500μm程度のもので、バルクを解繊したものを用いることが好ましい。尚、バルクとはアルミナやシリカ等の原料を溶融加工して繊維化する過程で未繊維化の球状粒子(一般的にショットと呼ばれる)を除いて原綿状とした製品を言う。また有機接着剤としてはセルロース系の糊を用いることができる。
【0028】
このようなセラミック質表面硬化材7は、例えば新日化サーマルセラミックス株式会社から、「サーモプレグ」の商品名で市販されているものを使用することができる。このセラミック質表面硬化材7は、セラミックファイバーの表面を硬化させてファイバーの飛散を防止することを目的とした商品であり、最高使用温度が1400℃に達する耐熱性を備えている。
【0029】
セラミッククロス4の表面にこのようなセラミック質表面硬化材7を塗布すると、図2に示すようにセラミッククロス4のメッシュにセラミック短繊維8が絡みつき、さらにセラミック粒子9が付着して、セラミッククロス4のメッシュを確実に塞ぐ。これらは全て同材質であるから、接着性も良好である。このために養生して硬化させた後には、亜鉛ヒュームなどの金属微粒子の侵入を完全に防止することができる。なおその塗装は塗装ガンのよる吹付けにより行うことができるから、誘導加熱コイル1が筒状体である場合にも、内部まで容易に塗装可能である。セラミック質表面硬化材7は図1(a)、(b)、(c)のようにセラミッククロス4の鋼板側に塗布してもセラミッククロス4の誘導コイル側に塗布しても効果は同じであり、施工上の都合等によりいずれかを選択しても構わないし、誘導コイル側と鋼板側の両方に塗布すればより好ましい。但しセラミッククロス4の鋼板側にセラミック質表面硬化材7を塗布する場合、トラブルによる鋼板との接触によるセラミック質表面硬化材7の脱落防止としてセラミックなどの耐熱ボードやシートを被覆することが好ましい。同様に誘導加熱コイルが鋼板の水平パスに設置されている場合にも、鋼板の上側のセラミッククロス4の鋼板側に塗布されたセラミック質表面硬化材7の脱落防止として同様の措置をとることが望ましい。尚、これらの絶縁構造に加えて、従来より使用されている高温耐熱塗料(例えばオオタケセラム株式会社製「パイロコート」など)やセラミック接着剤(例えば新日化サーマルセラミックス株式会社製「サーモダイン」など)をコイル導体1b〜セラミック質表面硬化材7の間や最表層のセラミック質表面硬化材7上面、あるいは最表層のセラミッククロス上面に塗布してあっても構わない。
【0030】
以上に説明したように、本発明の誘導加熱コイルの絶縁構造によれば、誘導加熱コイル1の鋼板通路3に面する表面をセラミッククロス4とセラミック質表面硬化材7とによって完全に覆い、数百〜400℃の使用温度条件下において誘導加熱コイル1を絶縁保護することができるのみならず、鋼板通路3中に浮遊している亜鉛ヒュームなどの金属微粒子の侵入も完全に防止し、絶縁性の低下を防止することができる。このため誘導加熱コイル1の絶縁低下に起因するラインストップを確実に防止することができ、実ラインに採用したところ、図4のように本発明による誘導加熱コイルは設置後3ヶ月を経過しても絶縁抵抗は7MΩを維持していることが確認されている一方、従来のセラミッククロスのみで覆われた誘導加熱コイルは設置後2ヶ月程度で絶縁抵抗2kΩを下回るようになっており絶縁劣化が著しい。
【0031】
上記した本発明の絶縁構造の効果を確認するため、以下の実験を行った。
(実験1:コーティング性試験)
本発明において使用したセラミック質表面硬化材である「サーモプレグ」と、これと化学成分は同じであるが短繊維を含まないセラミック接着剤である「サーモダイン」とを用い、冷却銅板およびアルミナクロス(前記した「アルミナセブン」)へのコーティング性能を比較した。なお「サーモダイン」は「サーモプレグ」と同じ新日化サーマルセラミックス株式会社の製品であり、化学組成はともにアルミナ+シリカが95%以上、最高使用温度が1400℃である。
【0032】
100mm×100mmの水冷式銅板の表面に「サーモプレグ」と「サーモダイン」とを約1.5mmの厚さになるよう刷毛によってそれぞれ塗布し、養生して2種類の試験片を製作した。これらの試験片に、3L/分の冷却水を通水して冷却しながら、650℃に保持した電気炉内に入れて20分間加熱し、その後、室内で20分間強制空冷する操作をワンセットとして5回繰り返し、試験片の表面の亀裂や脱落の発生状況を目視により確認した。
【0033】
その結果、水冷式銅板の表面に「サーモダイン」を塗布した試験片は、養生終了段階において既に微細な亀裂が多発しており、1回目の加熱・冷却により部分的な膨れや剥離が発生した。これに対して水冷式銅板の表面に「サーモプレグ」を塗布した試験片は、養生終了段階においては亀裂や剥離は全く発生せず、5回の加熱・冷却を繰り返した後にも亀裂や剥離は全く認められなかった。
【0034】
次にアルミナクロスの表面に「サーモプレグ」と「サーモダイン」とを約1.5mmの厚さになるよう刷毛によってそれぞれ塗布し、養生して2種類の試験片を製作した。これらの試験片を650℃に保持した電気炉内に入れて20分間加熱し、その後、室内で20分間強制空冷する操作を5回繰り返し、亀裂や脱落の発生状況を目視で確認した。
【0035】
その結果、アルミナクロスの表面に「サーモダイン」を塗布した試験片は、養生終了段階において既に微細な亀裂が多発し、1回目の加熱・冷却により部分的な膨れが発生した。これに対して「サーモプレグ」を塗布した試験片は、養生終了段階においてはもちろん、5回の加熱・冷却を繰り返した後にも亀裂や剥離は全く認められなかった。
【0036】
このコーティング性試験の結果、短繊維を含む「サーモプレグ」は銅板に対してもアルミナクロスに対しても接着性が良好であり、加熱や冷却を繰り返しても亀裂や剥離を発生させないので、亜鉛ヒュームなどの金属微粒子の侵入を効果的に防止できるものと考えられる。
【0037】
(実験2:耐電圧試験)
図3に示すように、電圧極10の先端に4種類の試験片11を取り付け、その表面に銅板製の接地極12を接触させ、電圧極10に印加する交流電圧を次第に高めながら接地極12に流れる電流を検出し、4種類の試験片11の耐電圧性能を試験した。電源は商用電源であり、これを2000Vまで昇圧して使用した。なお試験条件は温度24℃、湿度52%である。
【0038】
試験片11は、銅板の表面に「サーモプレグ」のみを塗布したもの、銅板の表面にアルミナクロスと「サーモプレグ」を塗布したもの、銅板の表面に「サーモダイン」のみを塗布したもの、銅板の表面にアルミナクロスと「サーモダイン」を塗布したものの4種類である。
【0039】
その結果、銅板の表面に「サーモプレグ」のみを塗布した試験片は1000V付近にて充電電流が急増し、絶縁破壊された。しかし銅板の表面にアルミナクロスと「サーモプレグ」を塗布した本発明品は、2000Vまで昇圧しても充電電流は7mA程度であり、試験中の電流値も安定しており、十分な耐電圧特性を示した。これに対して銅板の表面に「サーモダイン」のみを塗布した試験片は1300Vで絶縁破壊した。また銅板の表面にアルミナクロスと「サーモダイン」を塗布した試験片は、2000Vまで昇圧したときの充電電流は20mA程度であり、かつ試験中の電流値は4〜17mAの範囲で変動し、やや不安定であった。
【0040】
なお、1000Vにおける抵抗値は上記の順に、10MΩ、13MΩ、27MΩ、40MΩであった。この結果から、総合的な耐電圧特性はアルミナクロスと「サーモプレグ」の組み合わせであった。
【0041】
(実験3:亜鉛ヒューム存在下での耐電圧試験)
実際の補修された誘導加熱コイルの絶縁構造に近くなるように、アルミナクロスに「サーモダイン」を塗布したものとアルミナクロスに「サーモプレグ」を塗布したものとを2層に重ねて前記と同様の方法で耐電圧試験を行ったところ、2700Vでも充電電流は8.3mAであって優れた耐電圧特性を示した。なお試験条件は温度26℃、湿度46%である。
【0042】
そこで亜鉛ヒュームを試験片の上面に散布した状態で同様に2700Vまで昇圧したところ、充電電流は12mAまで上昇したが試験中も不安定な点はなく、亜鉛ヒューム存在下においても優れた耐電圧特性を持つことが確認された。
【0043】
本発明を適用したシリカ質、アルミナ−シリカ質、ボロン無しのアルミナ−シリカ質によるセラミッククロスを、誘導意コイルと同様の材質の水冷銅版に貼り付け、更にこれにサーモプレグを塗布して、温度500〜1200℃×72Hr加熱して使用した結果を表1に示す。尚、絶縁評価は前述の実験2と同様の装置で、商用電源を200Vまで昇圧し高電圧を印加しても、充電電圧が7mA程度と良好な耐電圧特性を有した場合に○、耐電圧特性が不良で絶縁破壊が発生した場合を×とした。また強度評価は、コイルにセラミッククロスを貼り付けた後に、高温処理中に垂れ下がり等を発生せずにその形態を保持できる場合を○、その形態を保持で着ない場合を×とした。
【0044】
【表1】

【0045】
表1より、いずれの材料も700℃までは良好な絶縁性や強度を示したが、800℃以上の高温では、材料の絶縁性や強度低下がシリカ質、アルミナ−アルミナ質の順で良好で、ボロン無しアルミナ−シリカ質が最も良好であった。
【図面の簡単な説明】
【0046】
【図1】(a)、(b)、(c)は本実施形態における誘導加熱コイルの中央断面図である。
【図2】セラミッククロスのメッシュをセラミック短繊維とセラミック粒子が封鎖する様子を示す説明図である。
【図3】耐電圧実験に使用した器具の説明図である。
【図4】400℃における本発明と従来品のコイル−フレーム間の絶縁状況の比較図である。
【符号の説明】
【0047】
1 誘導加熱コイル
1a コイル導体
1b コイルフレーム
2 ベース
3 鋼板通路
4 セラミッククロス
5 固定具
6 固定具
7 セラミック質表面硬化材
8 セラミック短繊維
9 セラミック粒子
10 電圧極
11 試験片
12 接地極
S 鋼板

【特許請求の範囲】
【請求項1】
鋼板を誘導加熱する誘導加熱コイルの鋼板に面する側の表面にセラミッククロスを被覆する際に、セラミッククロスの誘導コイル側および/または鋼板側にセラミック短繊維を含むセラミック質表面硬化材による耐熱絶縁層を形成することを特徴とする誘導加熱コイルの絶縁構造。
【請求項2】
鋼板を誘導加熱する誘導加熱コイルが、ソレノイド型であることを特徴とする請求項1記載の誘導加熱コイルの絶縁構造。
【請求項3】
セラミッククロスが、シリカ質またはアルミナ−シリカ質で、ボロンを含有しないセラミック長繊維からなるものであることを特徴とする請求項1記載の誘導加熱コイルの絶縁構造。
【請求項4】
セラミック質表面硬化材が、アルミナまたはアルミナ−シリカ質の微粒子と、アルミナ−シリカ質のセラミック短繊維と、コロイダルシリカと、有機接着剤を含むものであることを特徴とする請求項1記載の誘導加熱コイルの絶縁構造。
【請求項5】
セラミック短繊維が、セラミックファイバーのバルクを解繊したものであることを特徴とする請求項1記載の誘導加熱コイルの絶縁構造。
【請求項6】
セラミック質表面硬化材をセラミッククロスの表面に吹き付け塗布し、耐熱絶縁層を形成したことを特徴とする請求項1記載の誘導加熱コイルの絶縁構造。
【請求項7】
鋼板を誘導加熱する誘導加熱コイルが、鋼板の連続焼鈍炉またはめっき設備の合金化炉に設置されたものであることを特徴とする請求項1記載の誘導加熱コイルの絶縁構造。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate


【公開番号】特開2009−97080(P2009−97080A)
【公開日】平成21年5月7日(2009.5.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−213937(P2008−213937)
【出願日】平成20年8月22日(2008.8.22)
【出願人】(000006655)新日本製鐵株式会社 (6,474)
【Fターム(参考)】