誘導加熱装置
【課題】加熱する流体の熱的な均一性を向上させ、且つ温度調整の制御性にも優れる誘導加熱装置を提供することを課題とする。
【解決手段】流体を加熱する誘導加熱装置であって、前記流体が通過する流路内に配置される導電性の管状部材と、前記管状部材の内部に、前記管状部材と電気的に接触しない状態で前記管状部材の長手方向に沿って延在し、前記管状部材を電磁誘導によって発熱させる交流電流が流れる電磁コイルと、を備える。
【解決手段】流体を加熱する誘導加熱装置であって、前記流体が通過する流路内に配置される導電性の管状部材と、前記管状部材の内部に、前記管状部材と電気的に接触しない状態で前記管状部材の長手方向に沿って延在し、前記管状部材を電磁誘導によって発熱させる交流電流が流れる電磁コイルと、を備える。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、誘導加熱装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、電磁誘導の原理を利用した誘導加熱(IH)装置が普及している(例えば、特許文献1−4を参照)。誘導加熱装置は、加熱効率が良く、温度の制御も容易である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2008−082700号公報
【特許文献2】特開2003−123949号公報
【特許文献3】特開2003−100426号公報
【特許文献4】特開2001−250666号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
管内を流れる流体を誘導加熱する場合に、管内に配置した発熱体を電磁誘導で発熱させると、流体を均一に加熱することが難しい。そこで、上述した特許文献1−3のように、熱伝導性に優れる部材を管内に多数配置することにより、流体を加熱する際の均一性を図ることも可能である。しかし、このような構成であっても、管内の中心付近は、伝熱によって加熱されることになるので、誘導加熱によって発熱する発熱体が配置されている管内の壁面付近に比べると加熱力が劣る。このような傾向は、流体を流す管の径が大きくなるにつれて著しくなり、管の中心付近とその周辺との間で温度差が生じてしまう。
【0005】
このような熱伝導性に起因する問題を解決するものとして、例えば、上述した特許文献4のように、熱伝導性に優れるヒートパイプを用いることも考案されているが、作動液の保有熱量が大きいため、誘導コイルの電流を調整しても流体の熱的な応答が緩慢であり、許容される温度条件が厳しいと温度制御が難しい。
【0006】
例えば、各種の溶剤や可塑剤を用いてフィルムを製造する工程などにおいては、各薬液類の沸点に応じた温度の加熱空気を吹き付けることが行われるが、許容される温度条件は製造物の品質を担保する観点から非常に狭い範囲に制限されていることがあり、精密な温度制御が要求される。
【0007】
本願は、上記事項に鑑みてなされたものであり、加熱する流体の熱的な均一性を向上させ、且つ温度調整の制御性にも優れる誘導加熱装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するため、本発明は、流体が通過する流路内に導電性の管状部材を配置し、この管状部材を電磁誘導によって発熱させるための交流電流を流す電磁コイルを、管状部材の内部に配置することにした。
【0009】
詳細には、本発明は、流体を加熱する誘導加熱装置であって、前記流体が通過する流路内に配置される導電性の管状部材と、前記管状部材の内部に、前記管状部材と電気的に接触しない状態で前記管状部材の長手方向に沿って延在し、前記管状部材を電磁誘導によって発熱させる交流電流が流れる電磁コイルと、を備える。
【0010】
空気や水といった非金属の流体は、金属に比べて熱伝導率が著しく小さいため、流路内に高温の熱源を配置するだけでは流体を均一に昇温することが難しい。そこで、熱源を流路内に均等に配置することが考えられるが、例えば、電気ヒータを熱源とする場合には必要な熱量やコイルの許容電流といった各種の制約により、精密な温度制御を実現する回路を構成することが難しい。一方、誘導加熱の原理によれば、電磁コイルに流れる電流を制御することで、精密な温度制御を容易に実現できることが知られている。
【0011】
ここで、誘導加熱の原理を用いる場合には、一般的に、巻線状にした電磁コイルの内部に導電性の部材を配置することにより、この部材に渦電流を発生させて発熱させることが行なわれるが、この場合には、加熱する流体を電磁コイル内部に配置した導電性部材の中に流さざるを得ない。このような態様によれば、導電性部材の内部に構成された流路の中心付近が周辺部分より不可避的に低温になり、流体の均一な昇温を実現できない。
【0012】
そこで、上記誘導加熱装置は、電磁コイルを導電性の管状部材の内部に配置することにより、流体を流す流路を、従来のような電磁コイルの内側から、電磁コイルを内置した管状部材の外側とすることにより、流路を構成する際の規制を排除している。これにより、誘導加熱によって発熱する管状部材を流路内に自由に配置することが可能となり、加熱する流体の熱的な均一性の向上や、温度調整の制御性の向上を図ることが可能になる。
【0013】
ここで、前記管状部材は、前記流路内に多数配置されており、前記電磁コイルは、1本の導線が前記各管状部材を順に通過するように形成されていてもよい。誘導加熱装置がこのように構成されていれば、各管状部材が概ね均一に発熱するので、加熱する流体の熱的な均一性の向上を図ることが可能である。
【0014】
また、前記管状部材は、前記流体の流れ方向に交差するように前記流路内に配置されており、前記誘導加熱装置は、前記流体の流れ方向に沿って伝熱面が延在し、少なくとも前記管状部材に固定されて前記管状部材の熱を前記伝熱面から前記流体へ伝えるフィンを更に備えるものであってもよい。誘導加熱装置がこのように構成されていれば、管状部材の熱がフィンを介して速やかに流体へ伝達されるので、加熱する流体の熱的な均一性が更に向上し、また、温度調整の制御性の更なる向上を図ることができる。また、フィンが流体の流れに支障をきたすことも無い。
【0015】
また、前記管状部材より下流側の前記流体の温度を計測する温度センサを更に備え、前記電磁コイルには、前記温度センサが所定の温度となるように制御された前記交流電流が流れるものであってもよい。電磁コイルを流れる電流がこのように制御されることにより、上記誘導加熱装置が有する、温度調整の高い制御性の効果が有効に発揮される。
【発明の効果】
【0016】
上記誘導加熱装置であれば、加熱する流体の熱的な均一性が向上し、且つ温度調整の制御性にも優れる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】実施形態に係る誘導加熱装置を、フィルムを生産するラインのドライヤー工程に適用した場合のシステム構成の一例を示した図である。
【図2】実施形態に係る誘導加熱装置の構成図である。
【図3】流体加熱ユニットを正面から見た場合の内部構造図である。
【図4】電磁コイルを挿通した管部材の断面図である。
【図5】流体加熱ユニットの側面図である。
【図6】実施形態に係る誘導加熱装置の回路の概要を示した図である。
【図7】従来例に係る誘導加熱装置の回路の概要を示した図である。
【図8】比較実験の概要を示した図である。
【図9】温度センサの配置図である。
【図10】実施形態に係る誘導加熱装置の実験結果を示した表である。
【図11】従来例に係る電気ヒータを用いた流体加熱ユニットの実験結果を示した表である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本願発明の実施形態について説明する。下記実施形態は、本願発明の一態様を示したものであり、本願発明の技術的範囲を下記の実施形態に限定するものではない。
【0019】
実施形態に係る誘導加熱装置を、フィルムを生産するラインのドライヤー工程に適用した場合のシステム構成を図1に示す。本実施形態に係る誘導加熱装置1は、ブロワ2を設けた温風供給装置3に内蔵されており、フィルム4が通過するケーシング5内に送風する空気を加熱する。各種の製品を製造するプラントや、各種の実験を行なう実験設備等においては、例えば、図1に示すドライヤー工程のように、温風を供給する設備が必要とされることがある。
【0020】
特に、フィルムの乾燥工程においては、様々な温度の空気を必要とする場合がある。ここで、フィルムの製造に用いる各種の溶剤を除去し、あるいは乾燥させる際の温風が正確に温度調整されていないと、気中に含まれる物質が化学変化を起こしたりすることにより、製品に重大な影響を及ぼすことがあるため、精度の高い温度制御が必要になる。そこで、本実施形態に係る誘導加熱装置1は、正確に温度調整した温風を供給するべく、以下のように構成されている。
【0021】
誘導加熱装置1の構成を図2に示す。この誘導加熱装置1は、図2に示すように、流体加熱ユニット6、温度監視ボックス7、高周波電源装置8、冷却水循環装置9を備えている。誘導加熱装置1は、単相100Vの交流電源および3相200Vの交流電源に接続する。なお、図1では温風供給装置3の内面流路を横切って誘導加熱装置1が図示されているが、流体加熱ユニット6のみをそのように配置して、その他の機器(温度監視ボックス7、高周波電源装置8、冷却水循環装置9)は温風供給装置3の機外や温風供給装置3の部材スペース等の流路外に配置することが望ましい。
【0022】
流体加熱ユニット6は、ブロワ2に吸引される空気を電気的に加熱する装置であり、流体加熱ユニット6に内置した温度センサによって温度を監視する温度監視ボックス7からの信号に基づいて適当に調整された高周波電源装置8からの高周波電流が後述する電磁コイルを流れると、後述する管部材が高温となりブロワ2に吸引される空気が加熱される。なお、ブロワ2は、過熱防止のため、通常はヒータの上流側へ配置するのが一般的であるが、撹拌により空気をより均一に加熱するため、ヒータである流体加熱ユニット6の下流側に配置してもよい。その場合、ブロワ2は、高温の空気が流入しても運転が継続できるよう、耐熱性の高い部材を用いることが望ましい。
【0023】
温度監視ボックス7は、流体加熱ユニット6に内置した温度センサの信号を高周波電源装置8へ送る。
【0024】
高周波電源装置8は、高周波電流を発生するインバータ回路を内蔵しており、数十kHzの交流電流を発生させて、流体加熱ユニット6の電磁コイルに高周波電流を供給することができる。高周波電源装置8は、温度センサから温度監視ボックス7を介して送られる温度の情報に基づいて出力を制御しており、具体的な制御対象は電流、電圧、電力の何れであってもよい。
【0025】
冷却水循環装置9は、流体加熱ユニット6の電磁コイル内に通水する冷却水を冷却しながら循環させる装置であり、冷却水ホース10を介して流体加熱ユニット6の電磁コイルの両端部に繋がっている。電磁コイルは、発熱体(後述する管部材に相当する)を誘導加熱するだけでなく、自身も電流が流れることによって発熱する。また、誘導加熱によって発熱する発熱体からの輻射もあるため、電磁コイルは極めて高温になる。電磁コイルが高温になると、加熱効率の低下や断線といったトラブルを招く虞があるため、冷却水循環装置9が管状の電磁コイル内に冷却水を通水することにより、電磁コイルを冷却する。なお、冷却水の温度は、電磁コイルの溶損を防止し且つ結露による電気的なトラブルの生じる虞が無い温度が望ましく、例えば、25〜35℃程度とする。
【0026】
冷却水循環装置9は、電磁コイルを冷却するため、冷却水タンク11や放熱部12、循環ポンプ13を内蔵している。冷却水循環装置9は、電磁コイル内を通って加熱された冷却水を放熱部12が冷却すると共に、冷却水タンク11内の冷却水を循環ポンプ13が電磁コイルの管内へ送り込むことにより、電磁コイルを連続的に冷却する。
【0027】
電磁コイルの管内へ送り込まれる冷却水は、循環ポンプ13によって適当な圧力に昇圧された後、電磁コイルの管内へ送り込まれるようになっている。循環ポンプ13の吐出圧力は、内径の小さい電磁コイルの管内であっても十分な量の冷却水が循環するよう、例えば、0.5MPa程度になるようにポンプや循環経路が設計されている。
【0028】
なお、冷却水循環装置9の異常に伴う電磁コイルの過熱を防止するため、冷却水の循環経路にはフロースイッチ14が設けられており、何らかの理由によって冷却水の循環が停止したことをフロースイッチ14が検知すると、高周波電源装置8が停止するようになっている。
【0029】
流体加熱ユニット6を正面から見た場合の内部構造図を図3に示す。流体加熱ユニット6は、図3に示すように、ケーシング24や管部材15、フィン16、電磁コイル17を備えている。ブロワ2へ吸い込まれる空気は、ケーシング24の内部を、図3の紙面に対して直交する方向に流れる。
【0030】
ケーシング24は、SEHC(電気亜鉛メッキ鋼板)で構成された四角い枠状の部材であり、ブロワ2へ吸い込まれる空気の流路の一部を形成する部材である。すなわち、ケーシング24は、図3の紙面に対して直交する方向に開口している。
【0031】
管部材15は、呼び径が10AのSGP管(配管用炭素鋼管)であり、ブロワ2へ吸い込まれる空気の進行方向と直交する方向に伸びた直管がケーシング24の内部に多数配置されている。管部材15は、ケーシング24の両脇に配置された板状の支持部材18によって支持されているが、ケーシング24等の代替手段によって十分支持可能であれば、支持部材18を必ずしも設ける必要は無い。なお、管部材15は、このような素材を用いたものに限定されるものではないが、誘導加熱を行なう際の発熱体とするため、導電性の部材であることを要する。また、管部材15は、このような直管であるものに限定されるものでなく、電磁コイル17がフレキシブルなものであれば、管部材15が途中で曲がっていてもよい。また、管部材15の端部は、電磁コイル17を露出させていてもよいが、例えば、隣接する管部材15の両端同士をU字状に繋ぎ、電磁コイル17のU字部分を管部材で覆うようにしてもよい。この場合、U字部分は、セラミックスなどの非導電体を用いると、U字部分の発熱を防ぐことができる。
【0032】
フィン16は、平板状のSGCC(溶融亜鉛メッキ鋼板)を一定の間隔で配置したものであり、管部材15の熱が空気に十分伝わるよう、十分な大きさの伝熱面積を確保することにより、加熱効率を高める。フィン16は、ブロワ2へ吸い込まれる空気の進行方向に
沿って熱交換面が延在するように配列されており、熱交換面を貫く管部材15に接合されることで、管部材15の熱がフィン16へ伝わるようになっている。接合部は、管部材15からフィン16へ伝熱可能であれば、機械的に圧着されていてもよいし、或いは溶接されていてもよい。フィン16の厚さやピッチは、空気の流速や風量、誘導加熱の発熱量に応じて適宜決定されており、例えば、厚さを0.3mmとし、ピッチを3〜5mm程度にする。
【0033】
なお、フィン16の材質は、伝熱性及び耐熱性に優れるものであれば如何なるものであってもよく、例えば、銅板やアルミニウム板等であってもよい。
【0034】
電磁コイル17は、外径が10mmで内径が8mmの銅管であり、各管部材15の端部で折れ曲がって蛇行しながら各管部材15を順に通過するように、各管部材15の内部に挿通されている。電磁コイル17を挿通した管部材15の断面を図4に示す。電磁コイル17は、各管部材15と電気的に接触しないよう、電磁コイル17の表面にシリコン被覆が施されている。電磁コイル17の内部には、上述した冷却水循環装置9の冷却水が流れる。
【0035】
流体加熱ユニット6の側面図を図5に示す。電磁コイル17は、図5に示すように、各管部材15の端部で折れ曲がっており、隣の管部材15の内部に挿通されることで蛇行を繰り返し、最終的に全ての管部材15を通過するようになっている。そして、符号Aおよび符号Bで示される電磁コイル17の両端が、電気ケーブルを介して高周波電源装置8と電気的に接続されると共に、電磁コイル17の内側の管路の両端が冷却水ホース10を介して冷却水循環装置9と接続されている。
【0036】
このように構成される誘導加熱装置1は、電源がオンになると、冷却水循環装置9の循環ポンプ13が起動して冷却水の循環を開始し、高周波電源装置8が電磁コイル17に高周波電流を流す。電磁コイル17に高周波電流が流れると、金属で形成された管部材15には、電磁コイル17の周囲に発生する高周波磁界を打ち消す方向(レンツの法則)、換言すると、電磁コイル17を流れる電流とは逆向きの方向に渦電流が流れる。この誘導加熱装置1の回路の概要を図6に示す。電磁コイル17に高周波電流が流れて、管部材15に渦電流が流れると、管部材15には電気抵抗があるため、ジュールの法則に従い、下記の数式1に示されるジュール熱が発生する。このとき、各管部材15に流れる渦電流は一様になるので、各管部材15は均一に加熱される。
【数1】
【0037】
この誘導加熱装置1は、図7に示すように、発熱体の外側に電磁コイルを巻回した従来からある一般的な誘導加熱装置のような構成ではなく、管部材15内部に電磁コイル17を挿通した構成としているので、各管部材15の軸方向(長手方向)に渦電流が流れるが、各管部材15は、その一端側から他端側まで全体的にほぼ同一径、同一材質で形成されており、軸方向の電気抵抗が一様なので、軸方向に流れる電流も全体的に一様になる。
【0038】
なお、誘導加熱において発熱体(管部材15に相当する)に入力される入力電力は、発熱体の表皮抵抗に比例し、渦電流の発生源である磁界の強さの2乗に比例する。発熱体の表皮抵抗は、発熱体を構成する材料の電気抵抗率と透磁率、電磁コイルを流れる電流の周波数の平方根に比例する。ここで、発熱体を効果的に発熱させるには、発熱体自身に流れる渦電流が大きくなるように、入力電力を大きくすればよい。そこで、誘導加熱装置1を
通過する空気が所望の温度に達するにするには、入力電力が適切な大きさとなるよう、電磁コイル17を流れる電流や周波数を高くすればよい。
【0039】
電磁コイル17を流れる電流を大きくする場合、電磁コイル17の低損失化や高耐圧化を図る必要があり、具体的には、電磁コイル17の太さや肉厚の適切な選定、シリコン被覆の強化といった対応を採る必要がある。また、電磁コイル17を流れる電流の周波数を高くする場合、高周波電源装置8の半導体スイッチング素子がON−OFF動作する回数が周波数に比例して増えるため、半導体スイッチング素子のスイッチング損失の増大を抑制するべく、例えば、ゼロ電流スイッチング回路等を設けてスイッチングの際の低損失化を図ることが好ましい。
【0040】
このように構成される誘導加熱装置1であれば、管部材15全体が誘導加熱によって均一に発熱する。これにより、誘導加熱装置1の内部を通過する空気を加熱することができる。また、管部材15が保有可能な熱量は、電磁コイル17の誘導加熱によって発生する熱量に比べて小さいため、電磁コイル17に流す電流の大きさや周波数を変化させると、管部材15の温度が速やかに追従する。よって、電磁コイル17を流れる電流の大きさや周波数を制御することにより、ブロワ2に送る空気を所望の温度に精密且つ迅速に調整することができる。
【0041】
本実施形態に係る誘導加熱装置1と、電気ヒータを用いた従来例との比較実験を行なった。図8は、本比較実験の概要を示した図である。本比較実験は、図8において符号19として示す供試品として内置する、誘導加熱装置1の流体加熱ユニット6あるいは電気ヒータを用いた流体加熱ユニットを内置した実験ダクト20に、実験用の送風機21を接続し、実験ダクト20内に空気を送風機21で送り込む。供試品19の上流側には温度センサ22−Uを設けてあり、供試品19の下流側には風速および温度を検知するセンサ22−Dを設けてある。また、実験ダクト20の下流側には、供試品19の温度分布を赤外線で測定するサーモカメラ23を設けてある。なお、温度センサ22−Uと温度センサ22−Dは、それぞれ5つずつ設けられており、図9に示すように配置されている。
【0042】
実験結果を示した表を図10および図11に示す。図10は、本実施形態に係る誘導加熱装置1の実験結果を示した表であり、図11は、従来例に係る電気ヒータを用いた流体加熱ユニットの実験結果を示した表である。図10および図11の表に示す丸数字が、記述した図9の丸数字で示す温度センサの位置に対応している。
【0043】
図10と図11に示した2つの表を比べると明らかなように、従来例に係る電気ヒータを用いた流体加熱ユニットの場合、出口側の空気の温度が測定部位によって大きく異なっており、特にダクトの中心付近が著しく高温になっている。すなわち、温度ムラが著しい。一方、本実施形態に係る誘導加熱装置1の流体加熱ユニットの場合、出口側の空気の温度が測定部位に関係なく一様である。このことから、本実施形態に係る誘導加熱装置1であれば、ブロワ2に送る空気を所望の温度に精密に調整することができることが判る。
【0044】
また、図示していないが、サーモカメラ23によって得たサーモグラフィで見た供試品19の温度分布について、従来例に係る電気ヒータを用いた流体加熱ユニットの場合には明らかな温度分布のばらつきが確認されたのに対し、本実施形態に係る誘導加熱装置1の流体加熱ユニットの場合には温度分布の有意なばらつきを確認することができなかった。
【0045】
この実験結果から、上記誘導加熱装置1であれば、精度の高い温度制御が可能なため、例えば、フィルムの乾燥工程のように、溶剤の化学変化等を防止する観点から、厳しい温度条件が課せられるプロセスに適用しても、製品に重大な影響を与えにくいことが判る。
【0046】
一方、電気ヒータを使い、サーミスタを用いて電流をオンオフしながら乾燥空気を所定の温度範囲に制御すると、温度が時間の経過と共に絶えず変化するため、精密な温度制御が必要な工程に適用することが難しい。更に、電気ヒータの場合、上記実験結果から明らかなように、空気の温度がダクト内の部位に応じてばらついており、温度ムラが著しいため、これを製品の乾燥等に適用すると製品の一部に支障を生じる虞がある。このような温度ムラを解消する方策として、電気ヒータをダクト全体に配置することも考えられるが、そうすると昇温や降温の速度が早くなるため、電気ヒータが頻繁にオンオフを繰り返し、設備の寿命を縮める虞がある。一方、上記誘導加熱装置1であれば、略一定の温度で精密に温度制御されるため、電気ヒータのようなオンオフの繰り返しによる電気回路の接点損傷や熱変化に伴う膨張収縮による機械的ストレスを与えることもない。
【0047】
なお、上記実施形態では、フィルムを生産するラインのドライヤー工程に適用した場合を例に挙げて、誘導加熱装置1の構成や動作を説明したが、本発明は、このような態様に限定されるものではない。すなわち、本発明に係る誘導加熱装置は、加熱する流体の熱的な均一性を向上させることが望ましい箇所や、精密な温度制御が要求される箇所に用いると好適であるが、このような場面のみならず、単に流体を加熱するものであれば、要求される熱的な均一性や制御性の如何に関わらず、あらゆる場面に適用することが可能である。適用対象の流体としては、上記実施形態のように空気に限定されるものでなく、例えば、空気以外の気体や液体などであってもよい。
【符号の説明】
【0048】
1・・誘導加熱装置,2・・ブロワ,3・・温風供給装置,4・・フィルム,5,24・・ケーシング,6・・流体加熱ユニット,7・・温度監視ボックス,8・・高周波電源装置,9・・冷却水循環装置,10・・冷却水ホース,11・・冷却水タンク,12・・放熱部,13・・循環ポンプ,14・・フロースイッチ,15・・管部材,16・・フィン,17・・電磁コイル,18・・支持部材,19・・供試品,20・・実験ダクト,21・・送風機,22−U・・温度センサ,22−D・・センサ,23・・サーモカメラ
【技術分野】
【0001】
本発明は、誘導加熱装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、電磁誘導の原理を利用した誘導加熱(IH)装置が普及している(例えば、特許文献1−4を参照)。誘導加熱装置は、加熱効率が良く、温度の制御も容易である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2008−082700号公報
【特許文献2】特開2003−123949号公報
【特許文献3】特開2003−100426号公報
【特許文献4】特開2001−250666号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
管内を流れる流体を誘導加熱する場合に、管内に配置した発熱体を電磁誘導で発熱させると、流体を均一に加熱することが難しい。そこで、上述した特許文献1−3のように、熱伝導性に優れる部材を管内に多数配置することにより、流体を加熱する際の均一性を図ることも可能である。しかし、このような構成であっても、管内の中心付近は、伝熱によって加熱されることになるので、誘導加熱によって発熱する発熱体が配置されている管内の壁面付近に比べると加熱力が劣る。このような傾向は、流体を流す管の径が大きくなるにつれて著しくなり、管の中心付近とその周辺との間で温度差が生じてしまう。
【0005】
このような熱伝導性に起因する問題を解決するものとして、例えば、上述した特許文献4のように、熱伝導性に優れるヒートパイプを用いることも考案されているが、作動液の保有熱量が大きいため、誘導コイルの電流を調整しても流体の熱的な応答が緩慢であり、許容される温度条件が厳しいと温度制御が難しい。
【0006】
例えば、各種の溶剤や可塑剤を用いてフィルムを製造する工程などにおいては、各薬液類の沸点に応じた温度の加熱空気を吹き付けることが行われるが、許容される温度条件は製造物の品質を担保する観点から非常に狭い範囲に制限されていることがあり、精密な温度制御が要求される。
【0007】
本願は、上記事項に鑑みてなされたものであり、加熱する流体の熱的な均一性を向上させ、且つ温度調整の制御性にも優れる誘導加熱装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するため、本発明は、流体が通過する流路内に導電性の管状部材を配置し、この管状部材を電磁誘導によって発熱させるための交流電流を流す電磁コイルを、管状部材の内部に配置することにした。
【0009】
詳細には、本発明は、流体を加熱する誘導加熱装置であって、前記流体が通過する流路内に配置される導電性の管状部材と、前記管状部材の内部に、前記管状部材と電気的に接触しない状態で前記管状部材の長手方向に沿って延在し、前記管状部材を電磁誘導によって発熱させる交流電流が流れる電磁コイルと、を備える。
【0010】
空気や水といった非金属の流体は、金属に比べて熱伝導率が著しく小さいため、流路内に高温の熱源を配置するだけでは流体を均一に昇温することが難しい。そこで、熱源を流路内に均等に配置することが考えられるが、例えば、電気ヒータを熱源とする場合には必要な熱量やコイルの許容電流といった各種の制約により、精密な温度制御を実現する回路を構成することが難しい。一方、誘導加熱の原理によれば、電磁コイルに流れる電流を制御することで、精密な温度制御を容易に実現できることが知られている。
【0011】
ここで、誘導加熱の原理を用いる場合には、一般的に、巻線状にした電磁コイルの内部に導電性の部材を配置することにより、この部材に渦電流を発生させて発熱させることが行なわれるが、この場合には、加熱する流体を電磁コイル内部に配置した導電性部材の中に流さざるを得ない。このような態様によれば、導電性部材の内部に構成された流路の中心付近が周辺部分より不可避的に低温になり、流体の均一な昇温を実現できない。
【0012】
そこで、上記誘導加熱装置は、電磁コイルを導電性の管状部材の内部に配置することにより、流体を流す流路を、従来のような電磁コイルの内側から、電磁コイルを内置した管状部材の外側とすることにより、流路を構成する際の規制を排除している。これにより、誘導加熱によって発熱する管状部材を流路内に自由に配置することが可能となり、加熱する流体の熱的な均一性の向上や、温度調整の制御性の向上を図ることが可能になる。
【0013】
ここで、前記管状部材は、前記流路内に多数配置されており、前記電磁コイルは、1本の導線が前記各管状部材を順に通過するように形成されていてもよい。誘導加熱装置がこのように構成されていれば、各管状部材が概ね均一に発熱するので、加熱する流体の熱的な均一性の向上を図ることが可能である。
【0014】
また、前記管状部材は、前記流体の流れ方向に交差するように前記流路内に配置されており、前記誘導加熱装置は、前記流体の流れ方向に沿って伝熱面が延在し、少なくとも前記管状部材に固定されて前記管状部材の熱を前記伝熱面から前記流体へ伝えるフィンを更に備えるものであってもよい。誘導加熱装置がこのように構成されていれば、管状部材の熱がフィンを介して速やかに流体へ伝達されるので、加熱する流体の熱的な均一性が更に向上し、また、温度調整の制御性の更なる向上を図ることができる。また、フィンが流体の流れに支障をきたすことも無い。
【0015】
また、前記管状部材より下流側の前記流体の温度を計測する温度センサを更に備え、前記電磁コイルには、前記温度センサが所定の温度となるように制御された前記交流電流が流れるものであってもよい。電磁コイルを流れる電流がこのように制御されることにより、上記誘導加熱装置が有する、温度調整の高い制御性の効果が有効に発揮される。
【発明の効果】
【0016】
上記誘導加熱装置であれば、加熱する流体の熱的な均一性が向上し、且つ温度調整の制御性にも優れる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】実施形態に係る誘導加熱装置を、フィルムを生産するラインのドライヤー工程に適用した場合のシステム構成の一例を示した図である。
【図2】実施形態に係る誘導加熱装置の構成図である。
【図3】流体加熱ユニットを正面から見た場合の内部構造図である。
【図4】電磁コイルを挿通した管部材の断面図である。
【図5】流体加熱ユニットの側面図である。
【図6】実施形態に係る誘導加熱装置の回路の概要を示した図である。
【図7】従来例に係る誘導加熱装置の回路の概要を示した図である。
【図8】比較実験の概要を示した図である。
【図9】温度センサの配置図である。
【図10】実施形態に係る誘導加熱装置の実験結果を示した表である。
【図11】従来例に係る電気ヒータを用いた流体加熱ユニットの実験結果を示した表である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本願発明の実施形態について説明する。下記実施形態は、本願発明の一態様を示したものであり、本願発明の技術的範囲を下記の実施形態に限定するものではない。
【0019】
実施形態に係る誘導加熱装置を、フィルムを生産するラインのドライヤー工程に適用した場合のシステム構成を図1に示す。本実施形態に係る誘導加熱装置1は、ブロワ2を設けた温風供給装置3に内蔵されており、フィルム4が通過するケーシング5内に送風する空気を加熱する。各種の製品を製造するプラントや、各種の実験を行なう実験設備等においては、例えば、図1に示すドライヤー工程のように、温風を供給する設備が必要とされることがある。
【0020】
特に、フィルムの乾燥工程においては、様々な温度の空気を必要とする場合がある。ここで、フィルムの製造に用いる各種の溶剤を除去し、あるいは乾燥させる際の温風が正確に温度調整されていないと、気中に含まれる物質が化学変化を起こしたりすることにより、製品に重大な影響を及ぼすことがあるため、精度の高い温度制御が必要になる。そこで、本実施形態に係る誘導加熱装置1は、正確に温度調整した温風を供給するべく、以下のように構成されている。
【0021】
誘導加熱装置1の構成を図2に示す。この誘導加熱装置1は、図2に示すように、流体加熱ユニット6、温度監視ボックス7、高周波電源装置8、冷却水循環装置9を備えている。誘導加熱装置1は、単相100Vの交流電源および3相200Vの交流電源に接続する。なお、図1では温風供給装置3の内面流路を横切って誘導加熱装置1が図示されているが、流体加熱ユニット6のみをそのように配置して、その他の機器(温度監視ボックス7、高周波電源装置8、冷却水循環装置9)は温風供給装置3の機外や温風供給装置3の部材スペース等の流路外に配置することが望ましい。
【0022】
流体加熱ユニット6は、ブロワ2に吸引される空気を電気的に加熱する装置であり、流体加熱ユニット6に内置した温度センサによって温度を監視する温度監視ボックス7からの信号に基づいて適当に調整された高周波電源装置8からの高周波電流が後述する電磁コイルを流れると、後述する管部材が高温となりブロワ2に吸引される空気が加熱される。なお、ブロワ2は、過熱防止のため、通常はヒータの上流側へ配置するのが一般的であるが、撹拌により空気をより均一に加熱するため、ヒータである流体加熱ユニット6の下流側に配置してもよい。その場合、ブロワ2は、高温の空気が流入しても運転が継続できるよう、耐熱性の高い部材を用いることが望ましい。
【0023】
温度監視ボックス7は、流体加熱ユニット6に内置した温度センサの信号を高周波電源装置8へ送る。
【0024】
高周波電源装置8は、高周波電流を発生するインバータ回路を内蔵しており、数十kHzの交流電流を発生させて、流体加熱ユニット6の電磁コイルに高周波電流を供給することができる。高周波電源装置8は、温度センサから温度監視ボックス7を介して送られる温度の情報に基づいて出力を制御しており、具体的な制御対象は電流、電圧、電力の何れであってもよい。
【0025】
冷却水循環装置9は、流体加熱ユニット6の電磁コイル内に通水する冷却水を冷却しながら循環させる装置であり、冷却水ホース10を介して流体加熱ユニット6の電磁コイルの両端部に繋がっている。電磁コイルは、発熱体(後述する管部材に相当する)を誘導加熱するだけでなく、自身も電流が流れることによって発熱する。また、誘導加熱によって発熱する発熱体からの輻射もあるため、電磁コイルは極めて高温になる。電磁コイルが高温になると、加熱効率の低下や断線といったトラブルを招く虞があるため、冷却水循環装置9が管状の電磁コイル内に冷却水を通水することにより、電磁コイルを冷却する。なお、冷却水の温度は、電磁コイルの溶損を防止し且つ結露による電気的なトラブルの生じる虞が無い温度が望ましく、例えば、25〜35℃程度とする。
【0026】
冷却水循環装置9は、電磁コイルを冷却するため、冷却水タンク11や放熱部12、循環ポンプ13を内蔵している。冷却水循環装置9は、電磁コイル内を通って加熱された冷却水を放熱部12が冷却すると共に、冷却水タンク11内の冷却水を循環ポンプ13が電磁コイルの管内へ送り込むことにより、電磁コイルを連続的に冷却する。
【0027】
電磁コイルの管内へ送り込まれる冷却水は、循環ポンプ13によって適当な圧力に昇圧された後、電磁コイルの管内へ送り込まれるようになっている。循環ポンプ13の吐出圧力は、内径の小さい電磁コイルの管内であっても十分な量の冷却水が循環するよう、例えば、0.5MPa程度になるようにポンプや循環経路が設計されている。
【0028】
なお、冷却水循環装置9の異常に伴う電磁コイルの過熱を防止するため、冷却水の循環経路にはフロースイッチ14が設けられており、何らかの理由によって冷却水の循環が停止したことをフロースイッチ14が検知すると、高周波電源装置8が停止するようになっている。
【0029】
流体加熱ユニット6を正面から見た場合の内部構造図を図3に示す。流体加熱ユニット6は、図3に示すように、ケーシング24や管部材15、フィン16、電磁コイル17を備えている。ブロワ2へ吸い込まれる空気は、ケーシング24の内部を、図3の紙面に対して直交する方向に流れる。
【0030】
ケーシング24は、SEHC(電気亜鉛メッキ鋼板)で構成された四角い枠状の部材であり、ブロワ2へ吸い込まれる空気の流路の一部を形成する部材である。すなわち、ケーシング24は、図3の紙面に対して直交する方向に開口している。
【0031】
管部材15は、呼び径が10AのSGP管(配管用炭素鋼管)であり、ブロワ2へ吸い込まれる空気の進行方向と直交する方向に伸びた直管がケーシング24の内部に多数配置されている。管部材15は、ケーシング24の両脇に配置された板状の支持部材18によって支持されているが、ケーシング24等の代替手段によって十分支持可能であれば、支持部材18を必ずしも設ける必要は無い。なお、管部材15は、このような素材を用いたものに限定されるものではないが、誘導加熱を行なう際の発熱体とするため、導電性の部材であることを要する。また、管部材15は、このような直管であるものに限定されるものでなく、電磁コイル17がフレキシブルなものであれば、管部材15が途中で曲がっていてもよい。また、管部材15の端部は、電磁コイル17を露出させていてもよいが、例えば、隣接する管部材15の両端同士をU字状に繋ぎ、電磁コイル17のU字部分を管部材で覆うようにしてもよい。この場合、U字部分は、セラミックスなどの非導電体を用いると、U字部分の発熱を防ぐことができる。
【0032】
フィン16は、平板状のSGCC(溶融亜鉛メッキ鋼板)を一定の間隔で配置したものであり、管部材15の熱が空気に十分伝わるよう、十分な大きさの伝熱面積を確保することにより、加熱効率を高める。フィン16は、ブロワ2へ吸い込まれる空気の進行方向に
沿って熱交換面が延在するように配列されており、熱交換面を貫く管部材15に接合されることで、管部材15の熱がフィン16へ伝わるようになっている。接合部は、管部材15からフィン16へ伝熱可能であれば、機械的に圧着されていてもよいし、或いは溶接されていてもよい。フィン16の厚さやピッチは、空気の流速や風量、誘導加熱の発熱量に応じて適宜決定されており、例えば、厚さを0.3mmとし、ピッチを3〜5mm程度にする。
【0033】
なお、フィン16の材質は、伝熱性及び耐熱性に優れるものであれば如何なるものであってもよく、例えば、銅板やアルミニウム板等であってもよい。
【0034】
電磁コイル17は、外径が10mmで内径が8mmの銅管であり、各管部材15の端部で折れ曲がって蛇行しながら各管部材15を順に通過するように、各管部材15の内部に挿通されている。電磁コイル17を挿通した管部材15の断面を図4に示す。電磁コイル17は、各管部材15と電気的に接触しないよう、電磁コイル17の表面にシリコン被覆が施されている。電磁コイル17の内部には、上述した冷却水循環装置9の冷却水が流れる。
【0035】
流体加熱ユニット6の側面図を図5に示す。電磁コイル17は、図5に示すように、各管部材15の端部で折れ曲がっており、隣の管部材15の内部に挿通されることで蛇行を繰り返し、最終的に全ての管部材15を通過するようになっている。そして、符号Aおよび符号Bで示される電磁コイル17の両端が、電気ケーブルを介して高周波電源装置8と電気的に接続されると共に、電磁コイル17の内側の管路の両端が冷却水ホース10を介して冷却水循環装置9と接続されている。
【0036】
このように構成される誘導加熱装置1は、電源がオンになると、冷却水循環装置9の循環ポンプ13が起動して冷却水の循環を開始し、高周波電源装置8が電磁コイル17に高周波電流を流す。電磁コイル17に高周波電流が流れると、金属で形成された管部材15には、電磁コイル17の周囲に発生する高周波磁界を打ち消す方向(レンツの法則)、換言すると、電磁コイル17を流れる電流とは逆向きの方向に渦電流が流れる。この誘導加熱装置1の回路の概要を図6に示す。電磁コイル17に高周波電流が流れて、管部材15に渦電流が流れると、管部材15には電気抵抗があるため、ジュールの法則に従い、下記の数式1に示されるジュール熱が発生する。このとき、各管部材15に流れる渦電流は一様になるので、各管部材15は均一に加熱される。
【数1】
【0037】
この誘導加熱装置1は、図7に示すように、発熱体の外側に電磁コイルを巻回した従来からある一般的な誘導加熱装置のような構成ではなく、管部材15内部に電磁コイル17を挿通した構成としているので、各管部材15の軸方向(長手方向)に渦電流が流れるが、各管部材15は、その一端側から他端側まで全体的にほぼ同一径、同一材質で形成されており、軸方向の電気抵抗が一様なので、軸方向に流れる電流も全体的に一様になる。
【0038】
なお、誘導加熱において発熱体(管部材15に相当する)に入力される入力電力は、発熱体の表皮抵抗に比例し、渦電流の発生源である磁界の強さの2乗に比例する。発熱体の表皮抵抗は、発熱体を構成する材料の電気抵抗率と透磁率、電磁コイルを流れる電流の周波数の平方根に比例する。ここで、発熱体を効果的に発熱させるには、発熱体自身に流れる渦電流が大きくなるように、入力電力を大きくすればよい。そこで、誘導加熱装置1を
通過する空気が所望の温度に達するにするには、入力電力が適切な大きさとなるよう、電磁コイル17を流れる電流や周波数を高くすればよい。
【0039】
電磁コイル17を流れる電流を大きくする場合、電磁コイル17の低損失化や高耐圧化を図る必要があり、具体的には、電磁コイル17の太さや肉厚の適切な選定、シリコン被覆の強化といった対応を採る必要がある。また、電磁コイル17を流れる電流の周波数を高くする場合、高周波電源装置8の半導体スイッチング素子がON−OFF動作する回数が周波数に比例して増えるため、半導体スイッチング素子のスイッチング損失の増大を抑制するべく、例えば、ゼロ電流スイッチング回路等を設けてスイッチングの際の低損失化を図ることが好ましい。
【0040】
このように構成される誘導加熱装置1であれば、管部材15全体が誘導加熱によって均一に発熱する。これにより、誘導加熱装置1の内部を通過する空気を加熱することができる。また、管部材15が保有可能な熱量は、電磁コイル17の誘導加熱によって発生する熱量に比べて小さいため、電磁コイル17に流す電流の大きさや周波数を変化させると、管部材15の温度が速やかに追従する。よって、電磁コイル17を流れる電流の大きさや周波数を制御することにより、ブロワ2に送る空気を所望の温度に精密且つ迅速に調整することができる。
【0041】
本実施形態に係る誘導加熱装置1と、電気ヒータを用いた従来例との比較実験を行なった。図8は、本比較実験の概要を示した図である。本比較実験は、図8において符号19として示す供試品として内置する、誘導加熱装置1の流体加熱ユニット6あるいは電気ヒータを用いた流体加熱ユニットを内置した実験ダクト20に、実験用の送風機21を接続し、実験ダクト20内に空気を送風機21で送り込む。供試品19の上流側には温度センサ22−Uを設けてあり、供試品19の下流側には風速および温度を検知するセンサ22−Dを設けてある。また、実験ダクト20の下流側には、供試品19の温度分布を赤外線で測定するサーモカメラ23を設けてある。なお、温度センサ22−Uと温度センサ22−Dは、それぞれ5つずつ設けられており、図9に示すように配置されている。
【0042】
実験結果を示した表を図10および図11に示す。図10は、本実施形態に係る誘導加熱装置1の実験結果を示した表であり、図11は、従来例に係る電気ヒータを用いた流体加熱ユニットの実験結果を示した表である。図10および図11の表に示す丸数字が、記述した図9の丸数字で示す温度センサの位置に対応している。
【0043】
図10と図11に示した2つの表を比べると明らかなように、従来例に係る電気ヒータを用いた流体加熱ユニットの場合、出口側の空気の温度が測定部位によって大きく異なっており、特にダクトの中心付近が著しく高温になっている。すなわち、温度ムラが著しい。一方、本実施形態に係る誘導加熱装置1の流体加熱ユニットの場合、出口側の空気の温度が測定部位に関係なく一様である。このことから、本実施形態に係る誘導加熱装置1であれば、ブロワ2に送る空気を所望の温度に精密に調整することができることが判る。
【0044】
また、図示していないが、サーモカメラ23によって得たサーモグラフィで見た供試品19の温度分布について、従来例に係る電気ヒータを用いた流体加熱ユニットの場合には明らかな温度分布のばらつきが確認されたのに対し、本実施形態に係る誘導加熱装置1の流体加熱ユニットの場合には温度分布の有意なばらつきを確認することができなかった。
【0045】
この実験結果から、上記誘導加熱装置1であれば、精度の高い温度制御が可能なため、例えば、フィルムの乾燥工程のように、溶剤の化学変化等を防止する観点から、厳しい温度条件が課せられるプロセスに適用しても、製品に重大な影響を与えにくいことが判る。
【0046】
一方、電気ヒータを使い、サーミスタを用いて電流をオンオフしながら乾燥空気を所定の温度範囲に制御すると、温度が時間の経過と共に絶えず変化するため、精密な温度制御が必要な工程に適用することが難しい。更に、電気ヒータの場合、上記実験結果から明らかなように、空気の温度がダクト内の部位に応じてばらついており、温度ムラが著しいため、これを製品の乾燥等に適用すると製品の一部に支障を生じる虞がある。このような温度ムラを解消する方策として、電気ヒータをダクト全体に配置することも考えられるが、そうすると昇温や降温の速度が早くなるため、電気ヒータが頻繁にオンオフを繰り返し、設備の寿命を縮める虞がある。一方、上記誘導加熱装置1であれば、略一定の温度で精密に温度制御されるため、電気ヒータのようなオンオフの繰り返しによる電気回路の接点損傷や熱変化に伴う膨張収縮による機械的ストレスを与えることもない。
【0047】
なお、上記実施形態では、フィルムを生産するラインのドライヤー工程に適用した場合を例に挙げて、誘導加熱装置1の構成や動作を説明したが、本発明は、このような態様に限定されるものではない。すなわち、本発明に係る誘導加熱装置は、加熱する流体の熱的な均一性を向上させることが望ましい箇所や、精密な温度制御が要求される箇所に用いると好適であるが、このような場面のみならず、単に流体を加熱するものであれば、要求される熱的な均一性や制御性の如何に関わらず、あらゆる場面に適用することが可能である。適用対象の流体としては、上記実施形態のように空気に限定されるものでなく、例えば、空気以外の気体や液体などであってもよい。
【符号の説明】
【0048】
1・・誘導加熱装置,2・・ブロワ,3・・温風供給装置,4・・フィルム,5,24・・ケーシング,6・・流体加熱ユニット,7・・温度監視ボックス,8・・高周波電源装置,9・・冷却水循環装置,10・・冷却水ホース,11・・冷却水タンク,12・・放熱部,13・・循環ポンプ,14・・フロースイッチ,15・・管部材,16・・フィン,17・・電磁コイル,18・・支持部材,19・・供試品,20・・実験ダクト,21・・送風機,22−U・・温度センサ,22−D・・センサ,23・・サーモカメラ
【特許請求の範囲】
【請求項1】
流体を加熱する誘導加熱装置であって、
前記流体が通過する流路内に配置される導電性の管状部材と、
前記管状部材の内部に、前記管状部材と電気的に接触しない状態で前記管状部材の長手方向に沿って延在し、前記管状部材を電磁誘導によって発熱させる交流電流が流れる電磁コイルと、を備える、
誘導加熱装置。
【請求項2】
前記管状部材は、前記流路内に多数配置されており、
前記電磁コイルは、1本の導線が前記各管状部材を順に通過するように形成されている、
請求項1に記載の誘導加熱装置。
【請求項3】
前記管状部材は、前記流体の流れ方向に交差するように前記流路内に配置されており、
前記誘導加熱装置は、前記流体の流れ方向に沿って伝熱面が延在し、少なくとも前記管状部材に固定されて前記管状部材の熱を前記伝熱面から前記流体へ伝えるフィンを更に備える、
請求項1または2に記載の誘導加熱装置。
【請求項4】
前記管状部材より下流側の前記流体の温度を計測する温度センサを更に備え、
前記電磁コイルには、前記温度センサが所定の温度となるように制御された前記交流電流が流れる、
請求項1から3の何れか一項に記載の誘導加熱装置。
【請求項1】
流体を加熱する誘導加熱装置であって、
前記流体が通過する流路内に配置される導電性の管状部材と、
前記管状部材の内部に、前記管状部材と電気的に接触しない状態で前記管状部材の長手方向に沿って延在し、前記管状部材を電磁誘導によって発熱させる交流電流が流れる電磁コイルと、を備える、
誘導加熱装置。
【請求項2】
前記管状部材は、前記流路内に多数配置されており、
前記電磁コイルは、1本の導線が前記各管状部材を順に通過するように形成されている、
請求項1に記載の誘導加熱装置。
【請求項3】
前記管状部材は、前記流体の流れ方向に交差するように前記流路内に配置されており、
前記誘導加熱装置は、前記流体の流れ方向に沿って伝熱面が延在し、少なくとも前記管状部材に固定されて前記管状部材の熱を前記伝熱面から前記流体へ伝えるフィンを更に備える、
請求項1または2に記載の誘導加熱装置。
【請求項4】
前記管状部材より下流側の前記流体の温度を計測する温度センサを更に備え、
前記電磁コイルには、前記温度センサが所定の温度となるように制御された前記交流電流が流れる、
請求項1から3の何れか一項に記載の誘導加熱装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2013−62175(P2013−62175A)
【公開日】平成25年4月4日(2013.4.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−200574(P2011−200574)
【出願日】平成23年9月14日(2011.9.14)
【出願人】(000169499)高砂熱学工業株式会社 (287)
【出願人】(000208695)第一高周波工業株式会社 (90)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成25年4月4日(2013.4.4)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年9月14日(2011.9.14)
【出願人】(000169499)高砂熱学工業株式会社 (287)
【出願人】(000208695)第一高周波工業株式会社 (90)
【Fターム(参考)】
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