説明

誘導加熱調理器

【課題】鍋からのふきこぼれを含め鍋の状態を検出してその結果に基づいて加熱制御を行うことのできる誘導加熱調理器を得る。
【解決手段】鍋30を加熱する渦巻き状の加熱コイル2と、加熱コイル2に高周波電流を流す駆動回路5と、加熱コイル2の渦の隙間であって当該加熱コイル2の中心から外れた位置に配置され、トッププレート8の上に載置される鍋30の温度を検知する温度センサ4と、トッププレート8の下側であって加熱コイル2の周囲に設けられた電極3と、電極3と所定電位との間の静電容量を計測する静電容量測定回路7と、静電容量測定回路7が測定した静電容量の変化量が、しきい値よりも増加した場合にふきこぼれが発生したと判定するふきこぼれ判定手段(制御回路6)と、温度センサ4の出力値及びふきこぼれ判定手段の判定結果に基づいて駆動回路5を制御する制御手段(制御回路6)とを備えた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、加熱コイル周囲に設置された電極と所定電位間の静電容量の変化に基づいてふきこぼれを検知する誘導加熱調理器に関する。
【背景技術】
【0002】
従来のふきこぼれを検知する誘導加熱調理器の例として、「被調理物を入れる鍋などの被加熱物を載置するためのトッププレートと、前記被加熱物を加熱するための加熱コイルと、前記加熱コイルにより誘導加熱を行うための高周波電力を供給する高周波電力供給手段と、前記トッププレート下に配置した複数の円弧形状の電極と、前記電極の静電容量を検出する静電容量検出手段と、前記静電容量検出手段により静電容量変化を検出して前記被調理物のふきこぼれが発生したかどうかを検出するふきこぼれ検出手段と、前記ふきこぼれ検出手段の指示に基づき、前記高周波電力供給手段の供給する高周波電力を制御する制御手段を備えたことを特徴とし、電極には被加熱物の大きさの違いと誘導加熱による静電容量への干渉の影響に対応するための複数の円弧形状の電極を用い」たものがある(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2010−182662号公報(第3頁、図2)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来のふきこぼれを検知する誘導加熱調理器では、電極と所定電位間に高周波電圧を印加して、その減衰量で静電容量の変化を測定する。この際、ふきこぼれが発生すると鍋の内容物が電極上方のトッププレートに接して静電容量が変化することを利用して、ふきこぼれを判定している。
しかしながら、加熱調理中に鍋を動かすなどして電極上方のトッププレート上に鍋が配置された場合にも、静電容量が変化する。このため、鍋が動かされた場合には、ふきこぼれが発生していなくてもふきこぼれが発生したと誤判断される可能性があった。
【0005】
本発明は、上記のような課題を背景としてなされたものであり、鍋からのふきこぼれを含め鍋の状態を検出してその結果に基づいて加熱制御を行うことのできる誘導加熱調理器を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係る誘導加熱調理器は、鍋を載置するトッププレートと、前記トッププレートの下に設けられ、前記鍋を加熱する渦巻き状の加熱コイルと、前記加熱コイルに高周波電流を流す駆動回路と、前記加熱コイルの渦の隙間であって当該加熱コイルの中心から外れた位置に配置され、前記トッププレートの上に載置される前記鍋の温度を検知する温度センサと、前記トッププレートの下側であって前記加熱コイルの周囲に設けられた電極と、前記電極と所定電位との間の静電容量を計測する静電容量測定手段と、前記静電容量測定手段が測定した前記静電容量の変化量が、しきい値よりも増加した場合にふきこぼれが発生したと判定するふきこぼれ判定手段と、前記温度センサの出力値及び前記ふきこぼれ判定手段の判定結果に基づいて前記駆動回路を制御する制御手段とを備えたものである。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、鍋の温度と鍋からのふきこぼれを検出してそれらに基づいて加熱制御が行われる使い勝手のよい誘導加熱調理器を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】実施の形態1に係る誘導加熱調理器の主要構成を示す図である。
【図2】実施の形態1に係る誘導加熱調理器の操作部を示す図である。
【図3】実施の形態1に係る誘導加熱調理器の主要構成の機能ブロック図である。
【図4】実施の形態1に係る誘導加熱調理器の主要構成の機能ブロック図であり、鍋を載置した状態を示している。
【図5】実施の形態1に係るふきこぼれ判定しきい値を説明する図である。
【図6】実施の形態2に係る誘導加熱調理器の主要構成の機能ブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
実施の形態1.
[誘導加熱調理器の構成]
図1は実施の形態1に係る誘導加熱調理器の主要構成を示す図であり、誘導加熱調理器の上面模式図である。図1に示すように、誘導加熱調理器100は、箱状の筐体1と、筐体1の上面開口に載置されるトッププレート8とを備えている。トッププレート8は、全体が耐熱強化ガラスや結晶化ガラス等の材料で構成されており、筐体1の上面開口外周との間にゴム製パッキンやシール材を介して水密状態に固定される。なお、トッププレート8には塗膜等が施されており、誘導加熱調理器100を上面から見た場合に筐体1内部を視認することはできないが、図1では説明の便宜上、トッププレート8を透過した状態で図示している。
【0010】
図1に示すように、本実施の形態1に係る誘導加熱調理器100は、3つの加熱口を備えており、各加熱口に対応して、トッププレート8の下方であって筐体1の内部にそれぞれ加熱手段を備えている。誘導加熱調理器100は、加熱手段として加熱コイル2a、加熱コイル2b、加熱コイル2c(以下、共通する事項について述べる場合には「加熱コイル2」と称する場合がある)を備えている。加熱コイル2は、素線をリング状に巻き回して構成されている。
【0011】
トッププレート8の下方であって加熱コイル2aの近傍には温度センサ4aが設けられ、加熱コイル2bの近傍には温度センサ4bが設けられ、加熱コイル2cの近傍には温度センサ4cが設けられている。本実施の形態1では、温度センサ4a、4b、4cは、それぞれ、対応する加熱コイルの渦の間に配置されている。温度センサ4a、4b、4cは、対応する加熱口のトッププレート8上に載置された被加熱物である鍋の温度を検知し、検知した情報を後述する制御回路6に出力する。
【0012】
トッププレート8の上面の手前側には、調理メニューの設定、火力設定、加熱指示等の操作入力を受け付けるための操作部10a、10b、10cを備えている。操作部10aは加熱コイル2aに対する操作入力を受け付け、操作部10bは加熱コイル2bに対する操作入力を受け付け、操作部10cは加熱コイル2cに対する操作入力を受け付けて、入力された情報を後述する制御回路6に出力する。
【0013】
図2は、実施の形態1に係る操作部10aの構成を説明する図である。なお、図2では、操作部10aのみ図示しているが、操作部10b及び操作部10cも操作部10aと同様の構成である。
操作部10aは、調理メニューを選択するための入力ボタンである調理メニュー設定部15(調理メニュー選択手段)と、火力設定部16とを備えている。
【0014】
ここで、調理メニューについて説明する。一般的に、煮る、ゆでる、炊飯、焼く、炒める、揚げる等の調理方法がある。本実施の形態1では、これら調理方法により分類される調理メニューを選択するためのボタンとして、揚げ物メニュー11、炊飯メニュー12、麺ゆでメニュー13、炒め物メニュー14からなる調理メニュー設定部15を設けている。調理メニュー設定部15のいずれかが使用者により選択されると、誘導加熱調理器100は、選択された調理メニューに応じた制御シーケンスにより、加熱コイル2を駆動する。
【0015】
また、火力設定部16は、加熱コイル2aの投入電力を設定するための入力ボタンである。本実施の形態1では「弱」、「中」、「強」の3種類の投入電力を設定するための火力ボタン16a、16b、16cを備える。使用者により火力設定部16への入力が行われると、誘導加熱調理器100は、設定された電力を加熱コイル2に投入する。なお、以降の説明において、使用者により設定された火力設定部16の投入電力に基づいて加熱コイル2を駆動するモードを、マニュアルモードと称する場合がある。
【0016】
トッププレート8の下方であって加熱コイル2aの外周側の近傍には、加熱コイル2aの外形形状に対応した円弧状の3つの電極3a1、3a2、3a3が配置されている。本実施の形態1では、加熱コイル2aの外周を包囲するようにして、3つの電極3a1、3a2、3a3が配置されている。また、加熱コイル2bの外周側の近傍には、電極3b1、3b2、3b3が設けられ、加熱コイル2cの外周側の近傍には電極3c1、3c2、3c3が設けられている。なお、以降の説明において、電極3a1、3a2、3a3、電極3b1、3b2、3b3、電極3c1、3c2、3c3に共通する事項について述べる場合には、「電極3」と総称する場合がある。各加熱コイルに設置される電極、例えば電極3a1、3a2、3a3の電極面積は略同一であり、また、加熱コイル2aと同心円状に、トッププレート8の下面に密着するように配置されている。
【0017】
図3は、実施の形態1に係る誘導加熱調理器の主要構成の機能ブロック図、図4は、実施の形態1に係る誘導加熱調理器の主要構成の機能ブロック図であり、鍋30を載置した状態を示している。なお、図3、図4では、加熱コイル2a、電極3a1、3a2、3a3、及び温度センサ4aのみ図示しているが、加熱コイル2b、2c、電極3b1、3b2、3b3、電極3c1、3c2、3c3、温度センサ4b、4cについても同様の構成である。
【0018】
図3、図4に示すように、誘導加熱調理器100は、交流電源の交流電圧を直流電圧に変換し、加熱コイル2a、2b、2cを高周波電流で駆動するための駆動回路5と、駆動回路5を制御する制御回路6と、静電容量測定回路7(静電容量測定手段)とを備えている。
【0019】
制御回路6は、操作部10a、10b、10cからの信号や温度センサ4a、4b、4cからの信号に基づいて駆動回路5を制御するほか、誘導加熱調理器100全体の動作制御を行う。また、制御回路6は、静電容量測定回路7が検出した静電容量に基づいて、ふきこぼれ発生の有無を判定するふきこぼれ判定手段としての機能も有している。
【0020】
図4に示すように、トッププレート8の上には、被加熱物である調理器具として、鍋30が載置されて使用される。トッププレート8上には、加熱コイル2a、2b、2cに対応して、鍋30の大まかな載置位置を示す円形の鍋位置表示が設けられている。使用者は、この鍋位置表示を参考にして、鍋30を各加熱コイル2上に載置することができるようになっている。
【0021】
次に、実施の形態1に係る誘導加熱調理器100の動作について説明する。
まず、ふきこぼれ判定動作の概要について説明する。
ふきこぼれが無い状態では、電極3の上方のトッププレート8上には、比誘電率が1である空気が存在するので、電極3とGND間の静電容量は小さい。ここで、ふきこぼれが発生した状態では、比誘電率が80である水を主体としたふきこぼれた鍋内容物が電極3上方のトッププレート8上に付着するため、電極3とGND間の静電容量は急増する。
【0022】
そこで、制御回路6は、電極3とGND間の静電容量を、常時または定期的に検出し、その変化量が所定のしきい値を超えたか否かを判断することにより、ふきこぼれ発生の有無を判定する。例えば、所定の遅れ時間だけ記憶する記憶手段をディレイ回路と比較回路で構成し、この記憶手段によって、前回の静電容量と今回の静電容量とを比較回路に入力させて差分電圧を出力させ、この差分電圧と定電圧を分圧して構成した基準電圧とを比較回路に入力させて、出力が正の電圧か否かで静電容量が変化したか否かを判定する。
【0023】
そして、制御回路6は、静電容量の変化量がしきい値を超えた場合には、ふきこぼれが発生したと判定して、対応する加熱コイル2の駆動を停止するか、加熱コイル2に投入する電力を下げてふきこぼれを解消する。また、ふきこぼれが発生したと判定した場合には、図示しない表示部や音声出力部などの報知手段により、ふきこぼれが発生したことを使用者に報知する。
【0024】
ここで、電極3a1、3a2、3a3をトッププレート8に密着させる構造としているので、被検知物である鍋30からふきこぼれた物と、電極3a1、3a2、3a3との距離が、トッププレート8の厚みに限定される。このため、電極3a1、3a2、3a3反応のバラツキを抑制できる。また、各電極3a1、3a2、3a3の面積を略同一としている。これにより、電極間の反応のバラツキを抑制できるので、電極ごとにしきい値を設ける必要がなくなる。さらに、加熱コイル2aの外周に同心円状に電極3a1、3a2、3a3を配置するので、鍋30の如何なる位置からふきこぼれてもふきこぼれを検知できる。
【0025】
図5は、実施の形態1に係るふきこぼれ判定しきい値を説明する図である。本実施の形態1に係る誘導加熱調理器100は、図5に示すように、ふきこぼれを判定する際のしきい値として、しきい値aと、しきい値aよりも高いしきい値であるしきい値bという複数のしきい値を設けている。そして、制御回路6は、操作部10の調理メニュー設定部15で選択された調理メニューに基づいて、ふきこぼれを判定する際のしきい値を選択する。
【0026】
以下では、選択された調理メニューごとの誘導加熱調理器100の動作を説明する。
【0027】
(炊飯メニュー)
炊飯メニュー12が選択されると、制御回路6は、炊飯に最適な温度シーケンスとなるように駆動回路5を制御して加熱コイル2に電力を投入する。例えば、温度センサ4の検出値が約60度の状態を10分程度継続させる吸水工程を実行し、米に水を吸わせる。その後、投入電力を増加させる炊き上げ工程を実行し、米を炊き上げる。炊き上げ完了後は、温度センサ4の検出値が約70度となるように加熱コイル2への投入電力を調整する保温工程を実行し、炊き上がった米を保温する。
【0028】
(麺ゆでメニュー)
麺ゆでメニュー13が選択されると、制御回路6は、温度センサ4の検出値に基づいて鍋30内の水の沸騰を検知するまで、加熱コイル2に電力を投入する。沸騰を検知した後は、所定時間おきに加熱コイル2への投入電力に強弱を加える。これにより、鍋内部の水の動きに変化を与え、鍋内に投入された麺が底に沈み込んだり固まったりするのを抑制し、鍋内に投入された麺が均一に茹であがるようにする。
【0029】
炊飯メニュー12や麺ゆでメニュー13に代表されるような、炊飯、ゆでる、煮込む、という調理は、比較的ふきこぼれが発生しやすい調理方法であり、かつ、加熱調理中は鍋30をほとんど動かさない調理方法であるといえる。ここで、ふきこぼれが発生しやすく、かつ、調理中に鍋30をほとんど動かさない調理メニューを、第1メニューと称する。
【0030】
このような第1メニュー(炊飯メニュー12、麺ゆでメニュー13)が選択された場合には、制御回路6は、低い方のしきい値であるしきい値aを選択して、ふきこぼれの判定を行う。第1メニューは、ふきこぼれが発生しやすいことから、低めのしきい値aでふきこぼれ判定を行うことで、より早期にふきこぼれを検知することができる。また、第1メニューは、加熱調理中に鍋30をほとんど動かさないため、低めのしきい値aを用いた場合でも、鍋30を動かすことによるふきこぼれの誤検知は発生しにくい。
【0031】
(炒め物メニュー)
炒め物メニュー14が選択されると、制御回路6は、温度センサ4の検出値が炒め物に適した温度(例えば200度)になるように、加熱コイル2への投入電力を制御する。
【0032】
炒め物メニュー14のような、焼く、炒めるという調理を行う場合には、加熱中に鍋30を動かして鍋内の食材にまんべんなく熱が加わるように調理することが多い一方で、調理中のふきこぼれが発生しにくい。ここで、ふきこぼれが発生しにくく、かつ、調理中に鍋30を動かしやすい調理メニューを、第2メニューと称する。
【0033】
このような第2メニュー(炒め物メニュー14)が選択された場合には、制御回路6は、高い方のしきい値であるしきい値bを選択して、ふきこぼれの判定を行う。調理中に鍋30を動かしやすい調理方法の場合、鍋30を動かすことにより電極3とGND間の静電容量が変化するため、ふきこぼれ判定のしきい値が低すぎると、ふきこぼれが発生していなくともふきこぼれと判定してしまうおそれがある。しかし、高めのしきい値bでふきこぼれの判定を行うことで、鍋30を動かすことによる静電容量の変化によりふきこぼれを誤検知してしまうのを抑制できる。
【0034】
(揚げ物メニュー)
揚げ物メニュー11が選択されると、制御回路6は、温度センサ4の検出値が揚げ物に適した温度(例えば180度)となるように、加熱コイル2への投入電力を制御する。
【0035】
揚げ物メニュー11のような揚げ物調理を行う場合には、加熱中に鍋30を動かさない場合が多く、また、ふきこぼれも発生しにくい。ここで、ふきこぼれが発生しにくく、調理中に鍋30を動かしにくい調理メニューを、第3メニューと称する。
このような第3メニュー(揚げ物メニュー11)は、ふきこぼれが発生しにくいが、誤って鍋内の油をこぼしてしまった場合や、大量の油はねが発生した場合などには、油が高温であることから、直ちに加熱を停止するのが使用者の安全上好ましい。
【0036】
そこで、第3メニュー(揚げ物メニュー11)が選択された場合には、制御回路6は、低い方のしきい値であるしきい値aを選択して、ふきこぼれの判定を行う。これにより、鍋内の油がトッププレート8上にこぼれた場合には、早期にふきこぼれを検知することができる。また、第3メニューの場合は調理中に鍋30を動かさない場合が多いので、鍋30を動かすことによるふきこぼれの誤検知は発生しにくい。
【0037】
(マニュアルモード)
マニュアルモードの場合、すなわち、使用者が火力設定部16により任意の火力を選択して加熱調理を行う場合には、制御回路6は、火力設定部16への設定に応じた電力を加熱コイル2に投入する。
【0038】
使用者が自由に強、中、弱等の投入電力を選択して調理するマニュアルモードの場合は、鍋30を動かしながら調理する場合が多い。そこで、マニュアルモードの場合には、制御回路6は、高い方のしきい値であるしきい値bを選択して、ふきこぼれの判定を行う。高めのしきい値bでふきこぼれの判定を行うことで、鍋30を動かすことによる静電容量の変化により、誤ってふきこぼれが発生したと判定するのを抑制することができる。
【0039】
(投入電力によるしきい値の変更)
以上のように、本実施の形態1では、操作部10により設定された調理メニューに基づいてふきこぼれ判定のしきい値を選択するが、これに加え、投入電力によってもふきこぼれ判定のしきい値を調整する。図5に示すように、しきい値a及びしきい値bは、加熱コイル2への投入電力が増加するほど、しきい値が低下する特性となっている。ふきこぼれは、投入電力が大きい場合に発生しやすく、また、ふきこぼれ量も投入電力に応じて増加する傾向にある。したがって、投入電力が増加するほどふきこぼれの判定のしきい値を小さくすることで、ふきこぼれが発生しやすいときにふきこぼれをより早期に検出することができる。また、投入電力が低下するほどしきい値a及びしきい値bを大きくすることで、ふきこぼれが発生しにくい低電力時には、ふきこぼれの誤判定を抑制することができる。
【0040】
以上のように本実施の形態1によれば、選択された調理メニューに基づいて、ふきこぼれを判定する際のしきい値を設定するようにした。そして、炊飯、麺ゆで、煮込み等のふきこぼれが発生しやすく、かつ、調理中に鍋30をほとんど動かさない調理メニューである第1メニューが選択された場合には、しきい値bより低いしきい値であるしきい値aを用いてふきこぼれを判定するようにした。このようにすることで、ふきこぼれを素早く検知でき、ふきこぼれ量を抑制することができる。また、炒め物調理等のふきこぼれが発生しにくく、かつ、調理中に鍋30を動かしやすい調理メニューである第2メニューや、投入電力を使用者が任意に選択して加熱調理を行うマニュアルモードでは、しきい値aより高いしきい値であるしきい値bを用いてふきこぼれを判定するようにした。このようにすることで、調理中の鍋振りなどの鍋30の移動に伴うふきこぼれの誤検知を抑制することができる。したがって、例えば、ふきこぼれ判定時には加熱停止又は投入電力を下げる制御を行う場合において、第2メニューやマニュアルモードでの加熱調理中に、鍋振り等を行ってもふきこぼれと誤検知しにくいので、調理中に加熱が停止したり投入電力が低下したりすることもなく、使い勝手がよい。
【0041】
また、本実施の形態1では、加熱コイル2への投入電力が増加するほどしきい値a及びしきい値bを相対的に低下させ、加熱コイル2への投入電力が低下するほどしきい値a及びしきい値bを相対的に上昇させるようにした。このため、ふきこぼれの発生しやすい大電力時には、より早期にふきこぼれを判定でき、また、ふきこぼれの発生しにくい低電力時には、ふきこぼれの誤検知を抑制できるので、ふきこぼれの検知精度を高めることができる。
【0042】
また、本実施の形態1では、麺ゆでメニュー13が選択された場合には、投入電力に強弱を加えるようにした。このため、投入電力の変化により鍋内に投入された麺が攪拌されて、麺を均一に茹で上げることができる。
また、この麺ゆでメニュー13においても、前述のように、投入電力が増加するほどふきこぼれ判定のしきい値を下げるようにする。このため、投入電力に強弱を加えることにより高品質な麺ゆでを実現しつつ、投入電力が高いときには早期にふきこぼれを検出することができる。
【0043】
実施の形態2.
本実施の形態2では、加熱コイルの他の構成例を説明する。
図6は、実施の形態2に係る誘導加熱調理器の主要構成の機能ブロック図である。本実施の形態2が前述の実施の形態1と異なる点は、前述の図4で示した加熱コイル2aに換えて、加熱コイル22aを備えている点である。なお、本実施の形態2では、実施の形態1との相違点を中心に説明し、実施の形態1と対応する構成要素には同一の符号を付す。
【0044】
図6に示す加熱コイル22aは、2分割の通電コイルであり、半径方向の内側に位置する内側加熱コイル22a1と、半径方向の外側に位置する外側加熱コイル22a2とで構成される。内側加熱コイル22a1と外側加熱コイル22a2は、駆動回路5により個別に駆動される。また、内側加熱コイル22a1と外側加熱コイル22a2との間には空間部が設けられており、この空間部に温度センサ4aが配置されている。
【0045】
実施の形態2に係る誘導加熱調理器の基本的な動作は実施の形態1と同様であるが、本実施の形態2では、麺ゆでメニュー13が選択された場合の動作が異なる。
麺ゆでメニュー13が選択されると、制御回路6は、温度センサ4aの検出値に基づいて鍋内の水の沸騰を検知するまで、内側加熱コイル22a1と外側加熱コイル22a2の両方に電力を投入する。沸騰を検知した後は、内側加熱コイル22a1と外側加熱コイル22a2とに交互に電力を投入する。このように、鍋30の径方向内側と外側とを交互に加熱することで、鍋内部の水の動きに変化を与え、鍋内に投入された麺を均一に茹であげることができる。
【0046】
また、第1メニューである麺ゆでメニュー13は、ふきこぼれが発生しやすく、かつ、調理中に鍋30をほとんど動かさない調理メニューであるので、制御回路6は、低い方のしきい値であるしきい値a(図5参照)を選択して、ふきこぼれの判定を行う。そして、実施の形態1と同様に、投入電力が増加するほど相対的にしきい値aの値を下げるようしきい値aを調整して、ふきこぼれ判定を行う。
【0047】
このように、実施の形態2では、内側加熱コイル22a1と外側加熱コイル22a2からなる加熱コイル22aを用い、麺ゆでメニュー13が選択された場合には、内側加熱コイル22a1と外側加熱コイル22a2とに交互に電力を投入するようにした。このようにすることで、鍋30の径方向内側と外側とを交互に加熱でき、鍋内部の水の動きに変化を与え、鍋30内に投入された麺を均一に茹であげることができる。また、ふきこぼれの判定においては、低い方のしきい値であるしきい値aを用いるとともに、加熱コイル22aへの投入電力が大きいほど相対的にしきい値aの値を下げるようしきい値aを補正するようにした。このため、実施の形態1と同様に、ふきこぼれを早期に検知することができ、また、ふきこぼれの誤検知を抑制することができる。
【0048】
なお、上記説明では、静電容量の変化量がしきい値a又はしきい値bを超えた場合にふきこぼれが発生したと判定するようにしたが、しきい値a又はしきい値bを超えた状態が所定時間継続した場合に、ふきこぼれが発生したと判定してもよい。このようにすることで、ノイズや鍋振りによる瞬間的な静電容量の変化をふきこぼれと判定するのを抑制でき、精度の高いふきこぼれ検知を行うことができる。
【0049】
また、各加熱コイル2a、2b、2cに対応する複数の電極(例えば、電極3a1、3a2、3a3)のうち、いずれかの電極の静電容量の変化量がしきい値を超えた場合にふきこぼれが発生したと判定してもよいが、複数の電極のうち、いずれか2つ以上の静電容量の変化量がしきい値を超えた場合に、ふきこぼれが発生したと判定してもよい。また、各加熱コイルに設ける電極の数は、1つ、2つ、あるいは4つ以上であってもよい。
【0050】
また、上記説明では、調理メニューを第1メニュー、第2メニュー、第3メニューに分類し、第1メニューとして炊飯メニュー12及び麺ゆでメニュー13を設け、第2メニューとして炒め物メニュー14を設け、第3メニューとして揚げ物メニュー11を設けた例を示した。しかし、具体的な調理メニューはこれに限定されるものではない。
また、調理メニューごとのふきこぼれの発生しやすさと調理中の鍋の移動の有無とに基づいて、各調理メニューにおけるふきこぼれ判定のしきい値を選択するようにすればよく、3種類以上のしきい値の中から調理メニューに応じてしきい値を選択するようにしてもよい。
【符号の説明】
【0051】
1 筐体、2 加熱コイル、2a 加熱コイル、2b 加熱コイル、2c 加熱コイル、3 電極、3a1、3a2、3a3 電極、3b1、3b2、3b3 電極、3c1、3c2、3c3 電極、4 温度センサ、4a 温度センサ、4b 温度センサ、4c 温度センサ、5 駆動回路、6 制御回路、7 静電容量測定回路、8 トッププレート、10 操作部、10a 操作部、10b 操作部、10c 操作部、11 揚げ物メニュー、12 炊飯メニュー、13 麺ゆでメニュー、14 炒め物メニュー、15 調理メニュー設定部、16 火力設定部、16a、16b、16c 火力ボタン、22a1 内側加熱コイル、22a2 外側加熱コイル、30 鍋、100 誘導加熱調理器。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
鍋を載置するトッププレートと、
前記トッププレートの下に設けられ、前記鍋を加熱する渦巻き状の加熱コイルと、
前記加熱コイルに高周波電流を流す駆動回路と、
前記加熱コイルの渦の隙間であって当該加熱コイルの中心から外れた位置に配置され、前記トッププレートの上に載置される前記鍋の温度を検知する温度センサと、
前記トッププレートの下側であって前記加熱コイルの周囲に設けられた電極と、
前記電極と所定電位との間の静電容量を計測する静電容量測定手段と、
前記静電容量測定手段が測定した前記静電容量の変化量が、しきい値よりも増加した場合にふきこぼれが発生したと判定するふきこぼれ判定手段と、
前記温度センサの出力値及び前記ふきこぼれ判定手段の判定結果に基づいて前記駆動回路を制御する制御手段とを備えた
ことを特徴とする誘導加熱調理器。
【請求項2】
調理メニューを選択する調理メニュー選択手段を備え、
前記調理メニューとして、調理中に鍋をほとんど動かさない第1メニューと、調理中に鍋を動かしやすい第2メニューとを含み、
前記ふきこぼれ判定手段は、前記調理メニュー選択手段により前記第1メニューが選択された場合には、前記第2メニューが選択された場合よりも低いしきい値でふきこぼれの発生を判定する
ことを特徴とする請求項1記載の誘導加熱調理器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2013−55067(P2013−55067A)
【公開日】平成25年3月21日(2013.3.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−274177(P2012−274177)
【出願日】平成24年12月17日(2012.12.17)
【分割の表示】特願2011−175263(P2011−175263)の分割
【原出願日】平成22年11月15日(2010.11.15)
【出願人】(000006013)三菱電機株式会社 (33,312)
【出願人】(000176866)三菱電機ホーム機器株式会社 (1,201)
【Fターム(参考)】