説明

誘導溶解炉の制御装置

【課題】負荷インピーダンスに応じて高精度にインピーダンス整合を行うことができる誘導溶解炉の制御装置を提供する。
【解決手段】誘導溶解炉の制御装置は、電力供給手段1〜6の加熱コイル8Bへの電力供給状態から負荷インピーダンスを算出するインピーダンス算出手段としてのコントローラ10と、サイリスタスイッチ7を介して電力供給手段1〜6に接続されると共に、加熱コイル8Bに並列に接続された補助コイル8Aとを備え、コントローラ10により、算出された負荷インピーダンスに応じてサイリスタスイッチ7を制御することにより、負荷インピーダンスと電力供給手段1〜6の電源インピーダンスとのインピーダンス整合を行う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
炉壁の外周に設けられた加熱コイルに電力供給手段を介して電力を供給することにより炉内に収納された被溶解材を溶解させる誘導溶解炉の制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、この種の誘導溶解炉の制御装置としては、下記特許文献1に示すように、インバータと加熱コイルの間に接続されたタップ付変圧器を有する負荷整合回路と、この変圧器のタップを切り替えるマッチング調整機構とを備え、マッチング調整機構は、インバータの出力電圧及び出力電流を読み込み適正タップを求める演算部と、前記変圧器のタップ値が求めた適正タップとなるようにタップを切り替えるタップ切替回路とにより構成した制御装置が知られている。
【0003】
かかる制御装置によれば、インバータの出力電圧V及び出力電流Iを取り込み、VとIとの比を演算して負荷(被加熱部材)特性の傾きK(=I/V)を求める演算を行い、求めたKと予め設定してある負荷特性の傾きK1〜K4とタップ値T1〜T3とを比較して適正タップ値に切り替えることで、インピーダンス整合をとることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平10−241846号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、従来の誘導溶解炉の制御装置では、切換可能なタップ数は有限であること、および、タップの切換は、電源のOFF等の処理を伴うことなど応答速度が遅いことから、負荷インピーダンスが変化する誘導溶解炉のインピーダンス整合では、高精度にインピーダンス整合を行うことは困難であった。
【0006】
以上の事情に鑑みて、本発明は、負荷インピーダンスに応じて高精度にインピーダンス整合を行うことができる誘導溶解炉の制御装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために、第1発明の誘導溶解炉の制御装置は、炉壁の外周に設けられた加熱コイルに電力供給手段を介して電力を供給することにより炉内に収納された被加熱材を溶解させる誘導溶解炉の制御装置であって、
前記電力供給手段の前記加熱コイルへの電力供給状態から負荷インピーダンスを算出するインピーダンス算出手段と、
逆並列接続された半導体スイッチング素子を介して前記電力供給手段に接続されると共に、前記加熱コイルに並列に接続された補助コイルと、
前記インピーダンス算出手段により算出される負荷インピーダンスに応じて、前記半導体スイッチング素子を制御することにより、前記負荷インピーダンスと前記電力供給手段の電源インピーダンスとのインピーダンス整合を行うスイッチ制御手段とを備えることを特徴とする。
【0008】
第1発明の誘導溶解炉の制御装置によれば、経時的に負荷インピーダンスが変化した場合に、これに応じて半導体スイッチング素子を制御することにより、補助コイルに掛かる印加電圧を可変させて補助コイルのインピーダンスを変化させることができる。これにより、補助コイルと負荷インピーダンスとの合成インピーダンスを電源インピーダンスに整合させることができる。そのため、タップ切換によるインピーダンス整合を行う場合と異なり、迅速かつ高精度に、負荷インピーダンスと電源インピーダンスとのインピーダンス整合を行うことができる。
【0009】
第2発明の誘導溶解炉の制御装置は、第1発明において、
スイッチ制御手段は、インピーダンス算出手段により算出された負荷インピーダンスが、前記電源インピーダンスよりも小さい場合に、前記補助コイルへの出力を高めるように前記半導体スイッチング素子を制御すると共に、前記負荷インピーダンスが前記電源インピーダンスよりも大きい場合に、前記補助コイルへの出力を低めるように前記半導体スイッチング素子を制御することにより、前記インピーダンス整合を行うことを特徴とする。
【0010】
第2発明の誘導溶解炉の制御装置によれば、補助コイルのインピーダンス(R1)と加熱コイルのインピーダンス(R2)から、これらの合成コイルのインピーダンス(R3)は、R3=R2×R1/(R1+R2)のように表わされる。かかる合成コイルのインピーダンス(R3)は、補助コイルのインピーダンス(R1)を加熱コイルのインピーダンス(R2)に対して変化させることにより、可変値となる。そのため、負荷インピーダンスの変化を相殺するように補助コイルのインピーダンス(R1)をスイッチング素子を介して変化させることにより、合成コイルのインピーダンス(R3)を電源インピーダンスに高精度に整合させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】誘導溶解炉の全体的な構成を示す構成図。
【図2】図1の等価回路を示す説明図。
【図3】コントローラによる処理内容を示す説明図。
【発明を実施するための形態】
【0012】
図1を参照して、本実施形態の誘導溶解炉の制御装置について説明する。誘導溶解炉は、溶解炉本体X内に収納された被加熱材Yを溶解させるものである。
【0013】
具体的に、誘導溶解炉の制御装置は、電源1と、高圧受電盤2と、高調波フィルタ3と、変換装置用変圧器4と、高周波インバータ5と、高周波整合装置6と、サイリスタスイッチ7と、コイル8と、コントローラ10とを備える。
【0014】
電源1は、定格の交流電源であって、高圧受電盤2に接続されている。
【0015】
高圧受電盤2は、誘導加熱装置への電源通電・停止と故障発生時の電源遮断を行う装置であって、パワーヒューズ21と、遮断機22と、計器用変流器23と、計器用変圧器24とを備える。
【0016】
パワーヒューズ21は、短絡事故時に電流遮断する手段であって、遮断機22は、電源の通電と停止に伴う開閉動作を行う。
【0017】
高調波フィルタ3は、高圧受電盤2に接続され、高周波インバータ5から高調波電流が電力系統に流出しないように抑制する装置であって、限流リアクトル31と、直列リアクトル32と、高調波コンデンサ33とから構成される。
【0018】
変換装置用変圧器4は、高調波フィルタ3に接続され、高周波インバータ5が所定の出力電圧を出力するために、高周波インバータ5への入力電圧を調整する。
【0019】
高周波インバータ5は、変換装置用変圧器4に接続され、50Hzまたは60Hzの商用電源から任意の高周波電流を生成するための装置であって、交流/直流変換器である順変換器51と、直流/交流変換器である逆変換器52から構成され、コントローラ10からの運転・停止・出力制御信号により制御される。
【0020】
また、高周波インバータ5には、直流リアクトル53が内蔵されており、順変換器51で生成する直流電圧に重畳するリプル成分を除去すると共に、逆変換器52やコイル8などの負荷破損時の過電流の急激な流出を抑制する。
【0021】
さらに、高周波インバータ5は、故障時にコントローラ10に故障状態を伝える信号や、電圧・電流・電力・周波数といった稼動時の電気データをコントローラ10へ出力する。
【0022】
高周波整合装置6は、高周波インバータ5に接続され、高周波インバータ5と後述する加熱コイル8Bとのインピーダンス整合を図る装置である。高周波整合装置6は、インピーダンス整合を図るための高周波整合変圧器61と、加熱コイル8Bの遅れ力率を進み力率に補償する力率調整コンデンサ62とを備える。
【0023】
サイリスタスイッチ7は、逆並列接続された半導体スイッチング素子81,82、すなわち、正の半サイクル用サイリスタスイッチ81と、負の半サイクル用サイリスタスイッチ82とから構成され、高周波インバータ5で生成された高周波電力を任意の電気角度でON/OFFさせることにより、後述する補助コイル8Aに所望の電圧を印加させる。
【0024】
なお、これらの構成要素1〜7が、本発明の電力供給手段に相当する。
【0025】
コイル8は、補助コイル8Aと加熱コイル8Bとを有する。補助コイル8Aは、サイリスタスイッチ7を介して高周波インバータ5側に接続され、サイリスタスイッチ7の印加電圧に応じて加熱コイル8Bとの合成コイルを変化させることにより、補助コイル8Aと加熱コイル8Bの合成インピーダンス、すなわち電源(高周波インバータ5側)から見た負荷インピーダンスを変化させる。
【0026】
加熱コイル8Bは、高周波インバータ5から供給されれた高周波電力により、溶解炉本体X内に収納された鉄等の被加熱材Yにうず電流を発生させ、うず電流により金属材料間に発生するジュール熱で被加熱材Yを昇温させて溶解させる。
【0027】
コントローラ10は、誘導溶解炉の運転・停止、出力調整等の制御を行うと共に、誘導溶解炉の制御装置としてのインピーダンス算出手段、サイリスタスイッチ7の制御を行うスイッチ制御手段としての機能を備える。
【0028】
具体的に、コントローラ10は、高周波インバータ5から出力された電気データ信号を常時監視しており、一定の処理周期で負荷インピーダンスRを算出する。なお、負荷インピーダンスRの算出方法については、本願出願人による先行特許文献(例えば、実公平1―158097号公報)に記載されているため、詳細な説明は省略するが、これに限らず、加熱コイル8Bへ供給される高周波電力から負荷インピーダンスを算出する種々の方法が採用され得る。
【0029】
また、コントローラ10は、算出した負荷インピーダンスRに基づいて、サイリスタスイッチ7を動作させることのより、前述のように、補助コイル8Aと加熱コイル8Bの合成インピーダンス、すなわち電源(高周波インバータ5側)から見た負荷インピーダンスを変化させる。
【0030】
なお、コントローラ10は、かかる制御処理を実行するプログラムが図示しないメモリに記憶保持され、必要なプログラムがメモリから読み出されることにより、制御処理を実行するための演算装置(シーケンサ)として機能する。
【0031】
また、コントローラ10を構成する各手段は、CPU,ROM、RAM等のハードウェアにより構成されているが、これらの各手段は共通のハードウェアによって構成されていてもよく、これらの各手段の一部又は全部が、異なるハードウェアによって構成されていてもよい。
【0032】
次に、図2および図3を参照して、コントローラ10によるサイリスタスイッチ7の動作制御について説明する。
【0033】
まず、図2に等価回路を示すように、図1の誘導溶解炉は、交流電源に対して、補助コイル8Aと、加熱コイル8Bとが並列に接続されており、補助コイル8Aと交流電源との間には補助コイル8Aへの印加電圧を調整するためのサイリスタ7が設けられている。
【0034】
かかる構成において、補助コイル8AのインピーダンスをR1、加熱コイル8BのインピーダンスをR2とすると、これらを1つのコイルとした場合の合成コイルのインピーダンスR3は、
R3=R2×R1/(R1+R2) ・・・・・・(式1)
のように表わされる。
【0035】
ここで、加熱コイル8BのインピーダンスR2が、誘導溶解炉の負荷インピーダンスに相当し、この負荷インピーダンスは、図3に示すように、時間変化する。
【0036】
図3は、横軸を時間とし、縦軸にインピーダンス(%R)とした各インピーダンスの時間変化を示す。ここで、縦軸のインピーダンス(%R)は、定格電力かつ定格電圧時の負荷インピーダンスを100%R(=V/P)とするものである。
【0037】
加熱コイル8BのインピーダンスR2は、時刻tで溶解を開始すると、低インピーダンス状態から、被加熱材Yの温度上昇に従って上昇し、時刻tを経過すると、高インピーダンス状態となってピーク値となった後に下降する。そして、加熱コイル8BのインピーダンスR2は、時刻tを経過すると、再び低インピーダンス状態となり、やがて、100%Rに近づき、時刻tで被加熱材Yがすべて溶けて溶解が完了する。
【0038】
このように、加熱コイル8BのインピーダンスR2である負荷インピーダンスが、低インピーダンス状態や高インピーダンス状態では、電源の定格電力が加熱コイル8Bに印加し難くなる。すなわち、低インピーダンス状態では、電流が流れ易い状態となり、電流リミットが機能してインバータ出力電圧を抑えることで定格電流を超過しないように制御される。一方、高インピーダンス状態では、電流が流れ難く、電圧が上昇する。そして、低インピーダンス状態および高インピーダンス状態のいずれの場合にも、負荷インピーダンスが電源インピーダンスと整合せず、最大印加電力を加熱コイル8Bに印加することはできない。
【0039】
そこで、上記のような、加熱コイル8BのインピーダンスR2の時間変化に対して、コントローラ10は、サイリスタスイッチ7を介して補助コイル8Aの印加電圧を変化させ、補助コイル8AのインピーダンスR1を、図3に示すように、変化させる。すなわち、補助コイル8AのインピーダンスR1を、このR1目標値を基準として、加熱コイル8BのインピーダンスR2の時間変化と逆位相となるように変化させる。これにより、合成コイルのインピーダンスR3は、図3に示すように、溶解の初期段階から100%Rにすることができる。
【0040】
次に、合成コイルのインピーダンスR3の具体的な調整方法について説明する。
【0041】
まず、サイリスタスイッチ7により補助コイル8Aの印加電圧を絞って0にした場合には、合成コイルのインピーダンスR3は、加熱コイル8BのインピーダンスR2となるため、R3=R2となる。これを第1状態とする
一方、サイリスタスイッチ7により補助コイル8Aの印加電圧を、加熱コイル8Bの印か電圧の33%に絞ると、補助コイルのインピーダンスR1は、
R1=R2×(1/0.33)≒9R2
となる。これを上記式1に代入すると、合成コイルのインダクタンスR3は、
R3=R2×9R2(9R2+R2)=0.9R2
となる。これを第2状態とする。
【0042】
さらに、サイリスタスイッチ7により補助コイル8Aの印加電圧を、加熱コイル8Bの印か電圧の50%に絞ると、補助コイルのインピーダンスR1は、
R1=R2×(1/0.5)≒4R2
となる。これを上記式1に代入すると、合成コイルのインダクタンスR3は、
R3=R2×4R2(4R2+R2)=0.8R2
となる。これを第3状態とする。
【0043】
ここで、第2状態を基準となる前記R1目標値として、負荷インピーダンス(加熱コイル8BのインピーダンスR2)が変化した場合の特性について説明する。
【0044】
まず、負荷インピーダンスが低インピーダンス状態の場合、例えば、90%Rの場合に、コントローラ10は、第2状態から第1状態へサイリスタスイッチ7により補助コイル8Aの印加電圧を変化させる。このとき、合成コイルのインダクタンスR3は、0.9R2から1.0R2へ変化する。すなわち、R3は、1.0/0.9倍≒1.1倍に変化する。
【0045】
これにより、負荷インピーダンスが低インピーダンスであっても、これを補うように、合成コイルとしての負荷インピーダンスを90%R×1.1≒100%Rとすることができる。
【0046】
一方、負荷インピーダンスが高インピーダンス状態の場合、例えば、110%Rの場合に、コントローラ10は、第2状態から第3状態へサイリスタスイッチ7により補助コイル8Aの印加電圧を変化させる。このとき、合成コイルのインダクタンスR3は、0.9R2から0.8R2へ変化する。すなわち、R3は、0.8/0.9倍≒0.9倍に変化する。
【0047】
これにより、負荷インピーダンスが高インピーダンスであっても、これを相殺するように、合成コイルとしての負荷インピーダンスを110%R×0.9≒100%Rとすることができる。
【0048】
このようにして、負荷インピーダンスの状態に応じてサイリスタスイッチ7により補助コイル8Aの印加電圧を変化させることにより、タップの切換等を不要として、補助コイル8Aと加熱コイル8Bの合成インピーダンス、すなわち電源(高周波インバータ5側)から見た負荷インピーダンスを変化させて、電源インピーダンスと高精度にインピーダンス整合を図ることができる。これにより、最大印加電力で被加熱材Yを加熱溶解させることができ、溶解終了時刻tを大幅に短縮することができる。
【符号の説明】
【0049】

1…電源、2…高圧受電盤、3…高調波フィルタ、4…変換装置用電圧器、5…高周波インバータ、6…高周波整合装置、7…サイリスタスイッチ(半導体スイッチング素子)、8…コイル、8A…補助コイル、8B…加熱コイル、10…コントローラ(インピーダンス算出手段、スイッチ制御手段)、X…溶解炉本体、Y…被加熱材。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
炉壁の外周に設けられた加熱コイルに電力供給手段を介して電力を供給することにより炉内に収納された被加熱材を溶解させる誘導溶解炉の制御装置であって、
前記電力供給手段の前記加熱コイルへの電力供給状態から負荷インピーダンスを算出するインピーダンス算出手段と、
逆並列接続された半導体スイッチング素子を介して前記電力供給手段に接続されると共に、前記加熱コイルに並列に接続された補助コイルと、
前記インピーダンス算出手段により算出される負荷インピーダンスに応じて、前記半導体スイッチング素子を制御することにより、前記負荷インピーダンスと前記電力供給手段の電源インピーダンスとのインピーダンス整合を行うスイッチ制御手段とを備えることを特徴とする誘導溶解炉の制御装置。
【請求項2】
請求項1記載の誘導溶解炉の制御装置において、
スイッチ制御手段は、インピーダンス算出手段により算出された負荷インピーダンスが、前記電源インピーダンスよりも小さい場合に、前記補助コイルへの出力を高めるように前記半導体スイッチング素子を制御すると共に、前記負荷インピーダンスが前記電源インピーダンスよりも大きい場合に、前記補助コイルへの出力を低めるように前記半導体スイッチング素子を制御することにより、前記インピーダンス整合を行うことを特徴とする誘導溶解炉の制御装置。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2011−146166(P2011−146166A)
【公開日】平成23年7月28日(2011.7.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−4273(P2010−4273)
【出願日】平成22年1月12日(2010.1.12)
【出願人】(000242127)北芝電機株式会社 (53)
【Fターム(参考)】