説明

誘電体セラミックスおよび共振器

【課題】 Q値が高く、低温域から高温域にわたる広範囲な温度域において、共振周波数の変化の少ない誘電体セラミックスおよびこれを用いた共振器を提供する。
【解決手段】 組成式をαLn・βMgO・γBaO・δTiO(ただし、3≦x≦4、Ln=La,Nd,Smのいずれか1種以上)と表したとき、モル比α,β,γ,δが、0.235≦α≦0.303,0.118≦β≦0.152,0.198≦γ≦0.265,0.349≦δ≦0.382、かつα+β+γ+δ=1を満足してなる誘電体セラミックスである。この誘電体セラミックスは、Q値が10000以上であり、共振周波数の温度係数の値が−20〜30ppm/℃の
範囲内であり、低温域から高温域にわたる広範囲な温度域において、共振周波数の変化の少ないものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、携帯電話の基地局,BSアンテナ等に組み込まれる共振器に使用される誘電体セラミックスに関する。また、この誘電体セラミックスを用いた共振器に関する。
【背景技術】
【0002】
携帯電話の中継基地局,BSアンテナ等には共振器が組み込まれており、この共振器の中核部には誘電体セラミックスが使用されている。この誘電体セラミックスに求められる誘電特性としては、比誘電率εr,高周波の誘電損失(tanδ)の逆数として求められるQ値(1/tanδ)および共振周波数の温度に対する変化を示す温度係数τfがある。そして、共振器への要求特性の違いから、誘電体セラミックスに求められる比誘電率εrは様々であるが、それぞれの比誘電率εrにおいて、Q値が高く、低温域から高温域にわたる広範囲な温度域において、共振周波数の変化が少ないことが求められている。
【0003】
このような誘電体セラミックスとして、特許文献1に、xSrTiO2+a−yLmAlO−zLn(Mg1/2Ti1/2)O(1≦a≦2、Lm:La,Pr,Nd,Smから選択される1種または2種以上、Ln:LnはLa,Pr,Nd,Smから選択される1種または2種以上)の組成式で表され、x,y,zのそれぞれがx+y+z=100mol%であり、かつ、それぞれのmol%が、35<x<60,0.1<y<65,0.1<z
<65の範囲であるマイクロ波誘電体磁器組成物が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2004−256360号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に記載のマイクロ波誘電体磁器組成物は、40〜50の範囲の比誘電率εrのものしか示されておらず、様々な要求特性に応えるためには、特に50を超える比誘電率εrにまで設定可能な材料が必要である。そして、それぞれの比誘電率εrにおいて、高いQ値を有し、低温域から高温域にわたる広範囲な温度域において、共振周波数の変化の少ない誘電体セラミックスが求められている。
【0006】
本発明は、上記課題を解決すべく案出されたものであり、比誘電率εrが42〜70の間で設定可能であり、それぞれの比誘電率εrにおいて、Q値が高く、共振周波数の温度係数τfの値が小さく、広範囲な温度域における共振周波数の変化の少ない誘電体セラミックスを提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の誘電体セラミックスは、組成式をαLn・βMgO・γBaO・δTiO(ただし、3≦x≦4、Ln=La,Nd,Smのいずれか1種以上)と表したとき、モル比α,β,γ,δが、0.235≦α≦0.303,0.118≦β≦0.151,0.198≦γ≦0.265,0.349≦δ≦0.382、かつα+β+γ+δ=1を満足してなることを特徴とするものである。
【0008】
また、本発明の誘電体セラミックスは、上記構成において、前記組成式の成分100質量
%に対して、アルミニウムを酸化物換算で8質量%以下(0質量%を除く)含むことを特徴とするものである。
【0009】
また、本発明の誘電体セラミックスは、上記いずれかの構成において、前記組成式の成分100質量%に対して、マンガンを酸化物換算で3質量%以下(0質量%を除く)含むこ
とを特徴とするものである。
【0010】
また、本発明の共振器は、上記いずれかの構成の誘電体セラミックスをフィルタとして用いたことを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0011】
本発明の誘電体セラミックスによれば、組成式をαLn・βMgO・γBaO・δTiO(ただし、3≦x≦4、Ln=La,Nd,Smのいずれか1種以上)と表したとき、モル比α,β,γ,δが0.235≦α≦0.303,0.118≦β≦0.151,0.198≦γ≦0.265,0.349≦δ≦0.382、かつα+β+γ+δ=1を満足してなることにより、比誘電率εrが42〜70の間で設定可能であり、それぞれの比誘電率εrにおいて、Q値が10000以上
であり、共振周波数の温度に対する変化を示す温度係数τfの値を小さくすることができる。
【0012】
また、本発明の誘電体セラミックスによれば、前記組成式の成分100質量%に対して、
アルミニウムを酸化物換算で8質量%以下(0質量%を除く)含むときには、低温域と高温域との共振周波数の温度係数τfの値の差を小さくすることができ、広範囲な温度域において共振周波数の変化を少なくすることができる。
【0013】
また、本発明の誘電体セラミックスによれば、前記組成式の成分100質量%に対して、
マンガンを酸化物換算で3質量%以下(0質量%を除く)含むときには、焼成時のマンガン酸化物の価数変化によって生じる酸素が、誘電体セラミックス内の酸素欠陥に入ることによって、誘電体セラミックス内に酸素欠陥を生じにくくすることができるので、Q値をさらに向上させることができる。
【0014】
本発明の共振器によれば、本発明の誘電体セラミックスをフィルタとして用いたことにより、Q値が高く、気温差の激しい場所においても共振周波数の変化が小さいことから、長期間にわたって安定して良好な性能を維持することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本実施形態の誘電体セラミックスを含むセラミック体をフィルタとして用いた共振器の一例を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下に、本実施形態の誘電体セラミックスの一例について説明する。
【0017】
本実施形態の誘電体セラミックスは、組成式をαLn・βMgO・γBaO・δTiO(ただし、3≦x≦4、Ln=La,Nd,Smのいずれか1種以上)と表したとき、モル比α,β,γ,δが、0.235≦α≦0.303,0.118≦β≦0.151,0.198≦γ≦0.265,0.349≦δ≦0.382、かつα+β+γ+δ=1を満足してなり、Ln(Mg1/2Ti1/2)OおよびBaTiOからなる結晶相により構成されている。そして、上記組成式の数値範囲を満足してなる本実施形態の誘電体セラミックスは、Q値が10000以上で
あり、共振周波数の温度に対する変化を示す温度係数τfの値が小さいものとなる。
【0018】
具体的には、−40〜85℃の温度範囲における共振周波数を測定し、20℃での共振周波数を基準にして算出した−40〜20℃(以下、低温域という。),20〜85℃(以下、高温域という。),の共振周波数の温度係数τfの値を−20〜30ppm/℃の範囲内とすることが
できる。Q値が10000以上であり、共振周波数の温度係数τfの値を−20〜30ppm/℃
の範囲内であれば、共振器に使用される誘電体セラミックスに好適に用いることができる。
【0019】
また、上記組成式におけるモル比の数値範囲内での調整により、誘電体セラミックスの比誘電率εrを42〜70の間で設定することが可能となる。そのため、42〜70の間の比誘電率を有する誘電体セラミックスにおいて、Q値が10000以上であり、それぞれの温度域に
おける共振周波数の温度係数τfの小さい、誘電特性に優れた誘電体セラミックスを提供することができる。
【0020】
そして、組成式の成分100質量%に対してアルミニウムを酸化物換算で8質量%以下(
0質量%を除く)含むことが好ましい。これにより、低温域と高温域との共振周波数の温度係数τfの値の差を小さくすることができる。
【0021】
ここで、低温域と高温域との共振周波数の温度係数τfの値の差を小さくすることができる理由は明らかではないが、組成式をαLn・βMgO・γBaO・δTiO(ただし、3≦x≦4、Ln=La,Nd,Smのいずれか1種以上)と表したとき、モル比α,β,γ,δが、0.235≦α≦0.303,0.118≦β≦0.151,0.198≦γ≦0.265,0.349≦δ≦0.382、かつα+β+γ+δ=1を満足してなる誘電体セラミックスは、Ln(Mg1/2Ti1/2)OおよびBaTiOからなる結晶相により構成されるのに対し、この組成式の成分100質量%に対してアルミニウムを酸化物換算で8質量%以下(0質
量%を除く)含むことにより、LnAlOの結晶相が形成され、Ln(Mg1/2Ti1/2)OおよびBaTiO結晶相のみならず、LnAlOの結晶相が存在し、Ln(Mg1/2Ti1/2)O,BaTiOおよびLnAlOの3種の混合相からなることにより、広範囲な温度域における共振周波数の変化の度合いを揃える働きをすると考えられる。好ましくは、組成式の成分100質量%に対してアルミニウムを酸化物換算
で1〜5質量%含むことにより、低温域と高温域との共振周波数の温度係数τfの値の差を小さくすることができるとともに、Q値を高めることができる。
【0022】
また、本実施形態の誘電体セラミックスは、組成式の成分100質量%に対して、マンガ
ンを酸化物換算で3質量%以下(0質量%を除く)含むことが好ましい。誘電体セラミックスに、組成式の成分100質量%に対して、マンガンを酸化物換算で3質量%以下(0質
量%を除く)含むときには、焼成時のマンガン酸化物の価数変化によって生じる酸素が、誘電体セラミックス内の酸素欠陥に入ることによって、誘電体セラミックス内に酸素欠陥を生じにくくすることができるので、Q値をさらに向上させることができる。また、Q値を高めることのできる、より好ましいマンガンの含有量は、マンガンを酸化物換算で0.1
〜1質量%である。
【0023】
また、本実施形態の誘電体セラミックスは、ケイ素,ナトリウム,ジルコニウム,タングステン,ニオブ,タンタル,銅およびクロムを酸化物換算の合計で0.5質量%以下の範
囲で含むものであってもよい。これらは、出発原料または製造時に用いる粉砕用のボール等により含まれることとなるものであるが、酸化物換算の合計で0.5質量%以下の範囲で
含むものであれば、ケイ素,ナトリウム,ジルコニウム,タングステン,ニオブ,タンタル,銅およびクロムは、誘電体セラミックスの粒界において、低融点化合物を形成しやすく、誘電体セラミックスの焼結温度よりも低温度域で液相を形成して焼結を促進させることができるので、誘電体セラミックスの焼結性を向上させて、高密度で優れた機械的特性を有する誘電体セラミックスとすることができる。
【0024】
なお、本実施形態の誘電体セラミックス中に含まれる各成分の含有量については、誘電体セラミックスの一部を粉砕し、得られた粉体を塩酸などの溶液に溶解した後、ICP(
Inductively Coupled Plasma)発光分光分析装置(島津製作所製:ICPS−8100)を用いて測定し、得られた各成分の金属量を酸化物換算することにより確認することができる。
【0025】
次に、本実施形態の誘電体セラミックスをフィルタとして用いた共振器について図1に一例を示す断面図に基づいて以下に説明する。
【0026】
図1に示す例ように、TEモ−ド型の共振器1は、金属ケース2,入力端子3,出力端子4,セラミック体5および載置台6を有する。金属ケース2は、軽量なアルミニウム等の金属からなり、入力端子3および出力端子4は、金属ケース2の内壁の相対向する両側に設けられている。セラミック体5は、本実施形態の誘電体セラミックスからなり、入出力端子3と出力端子4の間の載置台6上に配置され、フィルタとして用いられるものである。このような共振器1において、入力端子3からマイクロ波が入力されると、入力されたマイクロ波は、セラミック体5と自由空間との境界における反射によってセラミック体5内に閉じこめられ、特定の周波数で共振を起こす。そしてこの共振した信号が出力端子4と電磁界結合することにより、金属ケース2の外部に出力される。
【0027】
このような構成の共振器1は、携帯電話の中継基地局やBSアンテナに好適に使用されるものである。なお、共振器1の構成は上述した構成に限定されず、入力端子3および出力端子4をセラミック体5に直接設けてもよい。また、セラミック体5は、本実施形態の誘電体セラミックスからなる所定形状の共振媒体であるが、その形状は直方体,立方体,板状体,円板,円柱,多角柱またはその他共振が可能な立体形状であればよい。また、入力される高周波信号の周波数は500MHz〜500GHz程度であり、共振周波数としては2GHz〜80GHz程度が実用上好ましい。
【0028】
そして、共振器1に、本実施形態の誘電体セラミックスをフィルタとして用いたことにより、42〜70の間の比誘電率εrにおいて、Q値が高く、気温差の激しい場所においても共振周波数の変化が少ないことから、長期間にわたって良好な性能を安定して維持した共振器1とすることができる。
【0029】
次に、本実施形態の誘電体セラミックスの製造方法について説明する。
【0030】
まず、出発原料として、酸化ランタン(La),酸化ネオジウム(Nd)または酸化サマリウム(Sm)のうちいずれか1種以上の希土類酸化物と、炭酸マグネシウム(MgCO),炭酸バリウム(BaCO)および酸化チタン(TiO)の各粉末を準備し、所望の割合となるように秤量して混合し、混合粉末とする。次に、この混合粉末を純水とともにジルコニアボール等を使用したボールミルに入れて、平均粒径が0.5〜2.0μmの範囲内となるまで1〜100時間、ボールミルにより湿式混合および粉砕
を行ない1次原料を得る。
【0031】
なお、アルミニウムおよびマンガン含むときには、酸化アルミニウム(Al)および炭酸マンガン(MnCO)の粉末を用意し、所定の割合となるように、秤量して混合すればよい。また、別に炭バリウム(BaCO)と酸化チタン(TiO)とを所望の割合となるように秤量し、同様の工程を経て1次原料を得る。
【0032】
次に、これらの2種類の1次原料をそれぞれ乾燥後、1100〜1300℃で1〜10時間仮焼し、ボールミル等を用いてそれぞれ0.5〜2.0μmの平均粒径となるように、湿式粉砕して2種類の仮焼原料を得る。そして、2種類の仮焼原料を混合し、純水を加えて1〜100時間
、ジルコニアボール等を使用したボールミルにより湿式混合を行なって、さらに1〜10質量%のバインダーを加えてから所定時間混合した後、このスラリーをスプレードライヤー
で噴霧造粒して2次原料を得る。
【0033】
その後、2次原料を用いて金型プレス成形法等により任意の形状に成形して成形体を得る。そして、得られた成形体を大気中1500℃〜1700℃で1〜10時間保持して焼成し焼成体を得る。より好ましくは1550〜1650℃で焼成するのがよい。また、必要に応じて、得られた焼成体を酸素5〜30体積%以上含むガス中において、温度1500〜1700℃,圧力30〜300
MPaで、20分〜100時間熱処理する。より好ましくは、温度1550〜1650℃,圧力1000〜2500気圧で20分〜3時間熱処理することにより、より良好な誘電特性および機械的特性の
誘電体セラミックスとすべく、焼結体中のボイド率を低減させてもよい。
【0034】
そして、上記製造方法により作製された本実施形態の誘電体セラミックスは共振器のフィルタとして用いることができる。また、本実施形態の誘電体セラミックスは、共振器以外に、MIC(Monolithic IC)用誘電体基板,誘電体導波路または積層型セラミックコンデンサに使用することができる。
【実施例1】
【0035】
組成式をαLn・βMgO・γBaO・δTiO(ただし、3≦x≦4、Ln=La,Nd,Smのいずれか1種以上)と表したときのモル比α,β,γおよびδの値を種々変更して試料を作製し、比誘電率εr,Q値および共振周波数の温度係数τfの測定を行なった。製造方法および誘電特性の測定方法の詳細を以下に説明する。
【0036】
出発原料として、純度が99.5%以上の酸化ランタン(La)、酸化ネオジウム(Nd)酸化サマリウム(Sm)のいずれか1種以上と、炭酸マグネシウム(MgCO),炭酸バリウム(BaCO)および酸化チタン(TiO)を準備した。
【0037】
次に、それぞれの原料を用いて表1に示す割合(モル比)となるように、酸化ランタン(La)、酸化ネオジウム(Nd)酸化サマリウム(Sm)のいずれか1種以上と、炭酸マグネシウム(MgCO)および酸化チタン(TiO)を秤量して混合した混合粉末と、炭酸バリウム(BaCO)および酸化チタン(TiO)を秤量して混合した混合粉末とを得た。次に、これらの混合粉末をそれぞれ別のボールミルに入れて、純水を加えて、ジルコニアボールを使用したボールミルにより平均粒径が0.5〜2.0μmの範囲内となるまで、湿式混合および粉砕し、2種類の1次原料を得た。
【0038】
次に、これらの2種類の1次原料をそれぞれ乾燥後、1200℃で5時間仮焼し、ボールミルを用いてそれぞれ1μmの平均粒径となるまで、湿式粉砕して、2種類の仮焼原料を得た。そして、2種類の仮焼原料を混合し、純水を加えて10時間、ジルコニアボールを使用したボールミルにより湿式混合を行なって、さらに5質量%のバインダーを加えてから所定時間混合した後、このスラリーをスプレードライヤーで噴霧造粒して2次原料を得た。その後、この2次原料を用いて金型プレス成形法によりφ20mm,高さが15mmの円柱体の成形体を得た。
【0039】
次に、円柱体の成形体を大気中1600℃で10時間保持して焼成し、φ16mm,高さが12mmの焼結体を得た。そして、焼結体の上下面と側面の一部に研磨加工を施し、アセトン中で超音波洗浄を行なったものを試料とした。なお、試料毎に以上の工程を経て、試料No.1〜49の誘電体セラミックスを得た。
【0040】
次に、これら試料No.1〜49について、誘電特性を測定した。誘電特性は円柱共振器法(国際規格IEC61338−1−3(1999))により測定周波数を3.5〜4.5GHzで比誘電
率εrおよびQ値を測定した。Q値は、マイクロ波誘電体において一般的に成立する(Q値)×(測定周波数f)=一定の関係から、1GHzでのQ値に換算した。また、−40〜
85℃の温度範囲における共振周波数を測定し、20℃での共振周波数を基準にして−40〜20℃の低温域,20〜85℃の高温域の共振周波数の温度係数τfをそれぞれ算出した。
【0041】
結果を表1に示す。
【0042】
【表1】

【0043】
表1から、モル比α,β,γ,δが、0.235≦α≦0.303,0.118≦β≦0.152,0.198≦
γ≦0.265,0.349≦δ≦0.382、かつα+β+γ+δ=1を満足しない試料No.1,7
,8,14,15,21については、Q値が10000未満であったり、低温域および高温域におけ
る共振周波数の温度係数τfの値が−20〜30ppm/℃の範囲を超えたりしていた。
【0044】
これに対し、モル比α,β,γ,δが、0.235≦α≦0.303,0.118≦β≦0.151,0.198
≦γ≦0.265,0.349≦δ≦0.382、かつα+β+γ+δ=1を満足してなる試料No.2
〜6,9〜13,16〜20,22〜49は、Q値が10000以上であり、低温域および高温域におけ
る共振周波数の温度係数τfの値が−20〜30ppm/℃の範囲内であった。
【0045】
以上の結果、モル比α,β,γ,δが、0.235≦α≦0.303,0.118≦β≦0.152,0.198
≦γ≦0.265,0.349≦δ≦0.382、かつα+β+γ+δ=1を満足することにより、Q値
が10000以上と高く、気温差の激しい場所においても共振周波数の少ないことから、長期
間にわたって安定して良好な性能を示す誘電体セラミックスとできることがわかった。また、モル比の数値範囲内での調整により、誘電体セラミックスの比誘電率εrを42〜70の間で設定できることがわかった。
【0046】
特に、モル比αが0.255,βが0.128,γが0.245,δが0.372であれば、低温域および高温域における共振周波数の温度係数τfの絶対値が10以下であった。そして、このような特に優れた効果を得ることのできるモル比の範囲を確かめたところ、共振周波数の温度係数τfの絶対値が10以下であるには、モル比αが0.255,βが0.128,γが0.245,δが0.372のそれぞれ+/−0.005の範囲までであることがわかった。
【実施例2】
【0047】
次に、表1の試料No.4,11,18とα,β,γ,δが同様の組成範囲のものに、アルミニウムを酸化物換算で表2に示す量を添加した試料No.50〜56,57〜63および64〜69をそれぞれ作製した。また、表1の試料No.22〜49とα,β,γ,δが同様の組成範囲のものに、アルミニウムを酸化物換算で5質量%添加した試料No.71〜98を作製した。そして、各試料の誘電特性について実施例1と同様の方法で確認した。
【0048】
試料の製造方法については、純度99.5%以上の酸化アルミニウム(Al)を用いて、組成式の成分100質量%に対して、表2に示す添加量となるように秤量して、酸化ラ
ンタン(La)、酸化ネオジウム(Nd)酸化サマリウム(Sm)のいずれか1種以上と、炭酸マグネシウム(MgCO)および酸化チタン(TiO)に混合すること以外は実施例1と同様の製造方法を用いた。
【0049】
結果を表2に示す。
【0050】
【表2】

【0051】
表2から、アルミニウムを酸化物換算で8質量%以下(0質量%を除く)含む試料No.50〜56,57〜63および64〜69については、アルミニウムを含まない試料No.4,11,18に対し、Q値が高くなるとともに、低温域と高温域との共振周波数の差が小さくなるとともに、Q値を高めることができた。また表1の試料No.22〜49と同様の組成範囲のものに、アルミニウムを酸化物換算で5質量%添加した試料No.71〜98については、いずれもQ値、低温域と高温域との共振周波数の差が小さくなっていた。
【0052】
以上の結果から、アルミニウムを酸化物換算で8質量%以下(0質量%を除く)含むことにより、広範囲な温度域において、共振周波数の変化を少なくすることができるととも
に、Q値を高められることがわかった。
【実施例3】
【0053】
次に、表2の試料No.54,61,68とα,β,γ,δが同様の組成範囲のものに、マンガンを酸化物換算で表3に示す量を添加した試料No.99〜104,105〜110および111〜116をそれぞれ作製した。また、表2の試料No.71〜98と同様の組成範囲のものに、マン
ガンを酸化物換算で1質量%添加した試料No.117〜143を作製した。さらに、表1の試料No.4,11,18,25,32,39,46とα,β,γ,δが同様の組成範囲のものに、マンガンを酸化物換算で1質量%添加した試料No.144〜151を作製した。そして、各試料の誘電特性について実施例1と同様の方法で確認した。
【0054】
試料の製造方法については、純度99.5%以上の炭酸マンガン(MnCO)を用いて、組成式の成分100質量%に対して、表3に示す添加量となるように秤量して、酸化ランタ
ン(La)、酸化ネオジウム(Nd)酸化サマリウム(Sm)のいずれか1種以上と、炭酸マグネシウム(MgCO)および酸化チタン(TiO)に混合すること以外は実施例1と同様の製造方法を用いた。
【0055】
結果を表3に示す。
【0056】
【表3】

【0057】
表3から、マンガンを酸化物換算で3質量%以下(0質量%を除く)含む試料No.99〜103,105〜109および111〜118については、マンガンを含まない試料No.54,61,68
に対し、Q値が高くなっていた。また表2の試料No.71〜98と同様の組成範囲のものに、マンガンを酸化物換算で1質量%添加した試料No.117〜144についても、いずれもQ値が高くなっていた。さらに、表1の試料No.4,11,18,25,32,39,46とα,β,γ,δが同様の組成範囲のものに、マンガンを酸化物換算で1質量%添加した試料No.145〜151についてもいずれもQ値が高くなっていた。
【0058】
以上の結果から、マンガンを酸化物換算で3質量%以下(0質量%を除く)含むことに
より、Q値を高めることができ、マンガンを酸化物換算で0.1〜1質量%含むことにより
、Q値をさらに高められることがわかった。
【0059】
また、これらの実施例1,2,3の結果から、本実施形態の誘電体セラミックスは、Q値が10000以上と高く、気温差の激しい場所においても共振周波数の変化が少ないので、
共振器のフィルタとして長期間にわたって安定して用いることができることがわかった。さらに、様々な誘電特性の要求に応えられることがわかった。
【符号の説明】
【0060】
1:共振器
2:金属ケース
3:入力端子
4:出力端子
5:セラミック体
6:載置台

【特許請求の範囲】
【請求項1】
組成式をαLn・βMgO・γBaO・δTiO(ただし、3≦x≦4、Ln=La,Nd,Smのいずれか1種以上)と表したとき、モル比α,β,γ,δが、0.235≦α≦0.303,0.118≦β≦0.151,0.198≦γ≦0.265,0.349≦δ≦0.382、かつα+β+γ+δ=1を満足してなることを特徴とする誘電体セラミックス。
【請求項2】
前記組成式の成分100質量%に対して、アルミニウムを酸化物換算で8質量%以下(0質量%を除く)含むことを特徴とする請求項1に記載の誘電体セラミックス。
【請求項3】
前記組成式の成分100質量%に対して、マンガンを酸化物換算で3質量%以下(0質量%を除く)含むことを特徴とする請求項1または請求項2のいずれかに記載の誘電体セラミックス。
【請求項4】
請求項1乃至請求項3のいずれかに記載の誘電体セラミックスをフィルタとして用いたことを特徴とする共振器。

【図1】
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【公開番号】特開2012−72005(P2012−72005A)
【公開日】平成24年4月12日(2012.4.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−217206(P2010−217206)
【出願日】平成22年9月28日(2010.9.28)
【出願人】(000006633)京セラ株式会社 (13,660)
【Fターム(参考)】