説明

誘電体磁器組成物

【課題】 希土類元素としてLaを使用し、比誘電率εrやQfが高く、温度特性τfが十分に小さな誘電体磁器組成物を実現する。
【解決手段】 組成式{Ba6−3x[(La1−wRE1−yBi8+2xTi1836+18z(ただし、0.28≦w≦0.99、0.5≦x≦0.9、0.10≦y≦0.27、0.8≦z≦1.2であり、REはLa以外の希土類元素を表す。)で表され、希土類元素全体のイオン半径の平均値が1.08Å〜1.13Åである誘電体磁器組成物である。この組成式において、0.8≦z<1.0であることが好ましい。また、MnO換算で0.04〜1.00モル%のMnが添加されていてもよい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、誘電体磁器組成物に関するものであり、特に、高周波電子部品等に使用されるBa−RE(希土類元素)−Bi−Ti系の誘電体磁器組成物の改良に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、情報通信分野においては、使用周波数帯域が高周波数に移行する傾向にあり、衛星放送や衛星通信、携帯電話や自動車電話等の移動体通信では、ギガヘルツ(GHz)帯の高周波が使用されている。
【0003】
前述のような高周波帯域で使用される機器に搭載される回路基板や電子部品等では、使用する誘電体材料は、回路基板や電子部品の高性能化や小型化を図るためには、使用周波数帯域において高比誘電率εrを有する誘電体材料が必要である。これは、誘電体材料中の電磁波の波長が1/√εrによって短縮されるという原理に基づくものであり、比誘電率εrの大きい誘電体材料ほど回路基板や電子部品の小型化が可能である。さらに、Qが高く高周波領域での損失が低い材料であることが必要である。ここでQは誘電正接tanδの逆数であり、Qが高いほど損失が少ない。また、周波数によりQの値が変わるので,本明細書ではQと共振周波数fの積、すなわちQfを用いて材料の損失特性を表す。Qfは高周波誘電体の品質係数とも呼ばれ,Qfが高いほど損失が低い。
【0004】
ただし、一般的に、高周波誘電体は、比誘電率εrが高いものほど比誘電率εrの温度特性τfが悪くなる傾向にあり、Qf値が小さくなる傾向にある。したがって、比誘電率εrが高く、比誘電率εrの温度係数τfが小さく、ある程度高いQf値を有する誘電体磁器組成物を実現することは難しく、各方面でこれら特性を満たす誘電体磁器組成物の開発が進められている。
【0005】
例えば、Ba−RE−Ti−O系誘電体磁器組成物にBiを含ませた誘電体磁器組成物もその一つである(例えば、特許文献1や特許文献2、特許文献3等を参照)。
【0006】
特許文献1には、Ba6−3x(R1−yBi8+2xTi1854(Rは希土類元素)で表されるタングステンブロンズ型疑似固溶体からなるマイクロ波誘電体組成物が開示されている。特許文献1記載の発明では、いわゆるタングステンブロンズ型疑似固溶体に他の元素(具体的にはBi)を一部置換処理することにより、従来よりも高い比誘電率εrを有し、ゼロ近傍の共振周波数の温度係数τfを有するマイクロ波誘電体組成物を実現している。
【0007】
特許文献2には、BaO−TiO−Nd−Sm系セラミックスにおいて、Ndの一部をBiOと置換し、さらにNdの一部をLn(但しLn=La,Pr)と置換したマイクロ波誘電体磁器組成物が開示されている。これらの置換により、ε=90〜93.5、Qf=6800〜7000GHz、τf=2.3〜4.0ppm/℃の特性が実現されている。
【0008】
特許文献3には、BaO・xTiO系組成物、Sm及びLaを含む誘電体磁器組成物において、酸化ビスマスを添加した誘電体磁器組成物が開示されている。特許文献3記載の発明も、誘電率およびQが大きく、しかも温度係数が小さく、容量変化率の小さな誘電体磁器組成物を提供することを目的として提案されたものである。
【特許文献1】特開2002−321973号公報
【特許文献2】特開平10−188674号公報
【特許文献3】特開昭57−156368号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
ところで、前述の各特許文献に記載される誘電体磁器組成物では、いずれも比誘電率εrやQf、温度係数τfの改善が実現されており、特に特許文献1に記載されるタングステンブロンズ型疑似固溶体では、高性能のマイクロ波誘電体組成物が実現されている。
【0010】
ただし、これら特許文献記載の誘電体磁器組成物は、前述のように特性面では優れた性能を発揮することが実証されているが、構成元素として希土類元素を用いる必要があるため、製造コスト等の点で課題が多い。希土類元素としては、一般にNdやSm等が用いられるが、これら元素は稀少であって価格も高い。
【0011】
そこで、希土類元素の中でも入手が容易で価格も安いLaを前記誘電体磁器組成物に使用することができれば、製造コストを抑える上で有効と考えられ、実際、前記特許文献1〜3においてもLaの使用も示唆されている。しかしながら、本発明者らが種々検討を行ったところ、前記タングステンブロンズ型疑似固溶体からなる誘電体磁器組成物において、希土類元素としてLaを使用した場合、必ずしも満足な特性が得られないことがわかってきた。
【0012】
本発明は、このような従来の実情に鑑みて提案されたものであり、希土類元素としてLaを使用した場合であっても、比誘電率εrやQfが高く、温度特性τfが十分に小さな誘電体磁器組成物を実現することを目的とし、製造コストを抑えることができ、しかも特性に優れた誘電体磁器組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者らは、前述の課題を解決するために長期に亘り鋭意研究を行ってきた。その結果、前記タングステンブロンズ型疑似固溶体からなる誘電体磁器組成物において、希土類元素としてLaを使用する場合、希土類元素全体のイオン半径が重要で、これを適切な範囲に入るように組成を調整することで、優れた特性が得られるとの知見を得るに至った。本発明の誘電体磁器組成物は、このような知見に基づいて案出されたものである。
【0014】
すなわち、本発明の誘電体磁器組成物は、組成式{Ba6−3x[(La1−wRE1−yBi8+2xTi1836+18z(ただし、0.28≦w≦0.99、0.5≦x≦0.9、0.10≦y≦0.27、0.8≦z≦1.2であり、REはLa以外の希土類元素を表す。)で表され、希土類元素全体のイオン半径の平均値が1.08Å〜1.13Åであることを特徴とする。
【0015】
前述の組成を有する誘電体磁器組成物において、Laの量が多くなると、Qfが低下したり温度特性τfが悪くなる傾向にある。その原因について検討したところ、希土類元素のイオン半径が関与しているのではないかと推測された。タングステンブロンズ型疑似固溶体からなる誘電体磁器組成物においては、格子定数と誘電特性の相関が強いが、Laは希土類元素の中ではイオン半径が最も大きく、これを用いることで前記格子定数を変化させるものと考えられる。
【0016】
このような観点から、Laと組み合わせる希土類元素の種類や比率を変えて実験を行ったところ、組み合わせる希土類元素が変わっても、希土類元素全体のイオン半径の平均値が前記範囲内であれば、格子定数への影響が抑えられ、優れた誘電特性(具体的には、比誘電率εr≧90、Qf≧4000、−40℃〜85℃において|τf|≦50ppm/℃)が実現されることがわかった。
【0017】
前述の特許文献1〜3においても、希土類元素としてのLaの開示は見られるが、希土類元素としてLaを用いる場合に、希土類元素全体のイオン半径の平均値が特性に影響を及ぼす点については、いずれの特許文献記載の発明においても、全く認識されておらず、当然のことながら、前記範囲内に設定するという考えは皆無である。
【0018】
本発明の誘電体磁器組成物においては、いわゆるタングステンブロンズ型疑似固溶体の一部元素をBiで置換した誘電体磁器組成物において、希土類元素としてLaを使用するとともに、希土類元素全体のイオン半径の平均値を1.08Å〜1.13Åの範囲内に設定しているので、格子定数の変化が最小限に抑えられ、イオン半径の大きなLaを用いたことによる誘電特性への影響が抑えられる。
【0019】
また、前記組成式で表される誘電体磁器組成物においては、zの値が焼結性に影響を及ぼし、z=1.00を境に焼結挙動が大きく異なる。z<1.0であれば、焼結し易くなり、低温焼結によっても安定に焼結が進行する。これを規定したのが本願の請求項3記載の発明であり、前記組成式において、0.8≦z<1.0であることを特徴とする。zの値を前記範囲に規定することにより、焼結密度のバラツキが抑えられる。
【0020】
さらに、Mnを添加することにより、酸素分圧の変動に対して特性が変化し難くなる等、製造安定性が増すこともわかった。これを規定したのが、本願の請求項4記載の発明である。すなわち、本願の請求項4記載の発明は、前述の誘電体磁器組成物において、MnO換算で0.04〜1.00モル%のMnが添加されていることを特徴とする。Mnの添加により、誘電体磁器組成物の耐還元性が改善され、焼成後の冷却速度が速くなっても十分なQf値が得られる。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、いわゆるタングステンブロンズ型疑似固溶体の一部元素をBiで置換した誘電体磁器組成物において、希土類元素としてLaを使用しても、比誘電率εrやQfが高く、温度特性τfが十分に小さな誘電体磁器組成物を実現することが可能である。したがって、製造コストを抑えながら誘電体特性に優れた誘電体磁器組成物を提供することが可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
以下、本発明に係る誘電体磁器組成物について詳細に説明する。
【0023】
本発明の誘電体磁器組成物は、組成式{Ba6−3x[(La1−wRE1−yBi8+2xTi1836+18z(ただし、0.28≦w≦0.99、0.5≦x≦0.9、0.10≦y≦0.27、0.8≦z≦1.2であり、REはLa以外の希土類元素を表す。)で表されるものである。
【0024】
本発明の誘電体磁器組成物においては、前記組成式にも示す通り、希土類元素として、Laと、La以外の希土類元素REとを含んでいることが特徴の一つである。この場合、La以外の希土類元素REとしては、Ce、Pr、Nd、Pm、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb、Lu、Y等を挙げることができるが、本発明においては、全ての希土類元素のイオン半径の平均値が1.08Å〜1.13Åの範囲内に入るように、組み合わせる希土類元素REの選定及び比率の設定を行う必要がある。
【0025】
表1に、各希土類元素のイオン半径を示す。希土類元素は、先の組成式で示される疑似タングステンブロンズ結晶構造の中で、主に8配位のサイトを3価の状態で占有すると考えられる。そこで、表1には、3価8配位での各希土類元素のイオン半径[R.D. Shannon, “Reviced Effective Ionic Radii and Systematic Studies of Interatonic Distances in Halides and Chalcogenides”, Acta Cryst. A32 751-767(1976)]を示してある。
【0026】
【表1】

【0027】
全希土類元素のイオン半径の平均値は、希土類元素の種類及び比率によって決まり、前記表1の値、及びLa以外の希土類元素REの比率wに基づいて算術平均することにより計算することができる。本発明では、前記により算出される全希土類元素のイオン半径の平均値を1.08Å〜1.13Åとすることが重要であり、これにより希土類元素としてLaを使用した場合の格子定数の変化を最小限に抑えることができ、タングステンブロンズ型疑似固溶体の一部元素をBiで置換した誘電体磁器組成物が有する優れた誘電体特性を維持することができる。例えば、前記イオン半径の平均値が、1.13Åを超えると、Qf値が小さくなるとともに、温度特性τfが大きくなり、所定の特性(Qf≧4000、−40℃〜85℃において|τf|≦50ppm/℃)を満たすことが難しくなる。逆に、前記イオン半径の平均値が、1.08Å未満であると比誘電率εrが90を下回るおそれがある。
【0028】
前述の希土類元素全体のイオン半径の平均値を考えると、Laと組み合わせる希土類元素REとしては、なるべくイオン半径の小さい希土類元素を選択することが好ましい。Laと組み合わせる希土類元素REとして、イオン半径の小さな希土類元素を選択することで、全希土類元素のイオン半径の平均値を前記範囲内に設定することが容易になる。例えば希土類元素としてSmを選択した場合、本発明の誘電体磁器組成物は、{Ba6−3x[(La1−wSm1−yBi8+2xTi1836+18zで表すことができる。
【0029】
前述の組成式において、各元素の比率w,x、y、zは、誘電体特性の観点から決められるものであり、0.28≦w≦0.99、0.5≦x≦0.9、0.10≦y≦0.27、0.8≦z≦1.2である。例えばLa以外の希土類元素REの比率wが0.28未満であると、前記イオン半径に設定することが難しくなり、結果として誘電体特性を確保することが難しくなるおそれがある。逆に、希土類元素REの比率wが0.99を超えると、相対的にLaの比率が小さくなりすぎ、Laを用いることのメリットが失われる。
【0030】
Biの置換量yについては、置換量yの増加に伴って比誘電率εrが上昇すること、一方、置換量yの増加に伴ってQfが低下することを考慮し、さらには温度係数τfを考慮して設定したものである。すなわち、Biの置換量yが0.10未満であると、比誘電率εrが低下するおそれがある。逆に、Biの置換量yが0.27を超えると、Qf値が低下するおそれがある。また、前記範囲を外れると、温度特性τfが大きくなるおそれもある。
【0031】
Baと希土類元素(La,RE)+Biの比率の指標となるxが0.5未満であると、Qf値が小さくなるおそれがあり、温度係数τfも劣化するおそれがある。同様に、xが0.9を超えると、やはりQf値が低下するおそれがある。
【0032】
なお、希土類元素REとしてSmを選択した場合の組成式{Ba6−3x[(La1−wSm1−yBi8+2xTi1836+18zにおいては、0.37≦w≦0.99、0.5≦x≦0.75、0.10≦y≦0.27、z≦1.2であることが好ましい。これにより良好な誘電体特性を確保することが可能である。ただし、いずれの場合においても、前記組成範囲の中で、希土類元素全体のイオン半径の平均値を考慮してLa以外の希土類元素REの比率wを設定する必要がある。
【0033】
一方、前記組成式において、zの値は、通常はz=1.0に設定され、その近傍であれば特性的には問題はない。したがって、本発明においては0.8≦z≦1.2とする。ただし、このzの値については、本願発明者らの検討の結果、焼結性に影響を与えることがわかった。具体的には、焼結温度と密度との関係を調べると、z=1.0を境に大きく変化する。焼結後の焼結体の密度が変化すると比誘電率εrも変化するので、特性を安定させるためには焼結密度のバラツキを抑える必要がある。このような観点から見たときに、z=1.0を選択すると、製造時に組成変動や混合の不均一さ等があった場合に、焼結体の密度が大きくばらつく可能性があり、製造安定性に欠けることになる。したがって、前記zの値は、0.8≦z<1.0であることが好ましく、0.9≦z<1.0であることがより好ましい。さらには、0.95≦z≦0.99とすることで、焼結安定性と誘電体特性を高いレベルで両立することが可能である。
【0034】
以上が本発明の誘電体磁器組成物の組成に関する規定であるが、さらに、製造安定性を向上することを目的に、前記誘電体組成物にMnを添加してもよい。Mnを添加することにより、焼成に際して、到達温度での焼成の後、冷却の際の冷却速度が速くなっても、十分な特性(Qf)が得られるという効果がある。さらに、冷却速度が速い条件で作製した前記誘電体磁器組成物を複合誘電体材料とした時に、絶縁抵抗が改善されるという効果もある。これらの現象はMnの添加によって耐還元性が付与されたためと考えられるが、この場合、Mnの添加量としては、MnO換算で0.04モル%〜1モル%とすることが好ましい。Mnの添加量が0.04モル%未満であると、前記効果が期待できない。逆に、Mnの添加量が1モル%を超えると、誘電体特性に影響を及ぼすおそれがある。
【0035】
前述の本発明の誘電体磁器組成物は、例えば図1に示す製造プロセスにしたがって作製することができる。図1に示す製造プロセスは、混合工程1、仮焼成工程2、粉砕工程3、造粒工程4、成形工程5、及び焼成工程6とから構成されるものである。
【0036】
誘電体磁器組成物の製造に際しては、先ず、主成分の原料粉末を所定量秤量し、これらを混合する(混合工程1)。主成分の原料粉末としては、各構成元素の酸化物粉末の他、加熱により酸化物となる化合物、例えば炭酸塩、水酸化物、蓚酸塩、硝酸塩等の粉末を用いることができる。この場合、1種類の金属の酸化物(化合物)に限らず、例えば2種類以上の金属を含む複合酸化物の粉末を原料粉末としてもよい。各原料粉末の平均粒径は、0.1μm〜3.0μmの範囲内で適宜選択すればよい。
【0037】
混合方法としては、例えばボールミルによる湿式混合等を採用することができ、混合の後、乾燥、粉砕、篩いかけをし、仮焼成工程2を行う。仮焼成工程2では、例えば電気炉等を用い、900℃〜1300℃の温度範囲で所定時間保持し、仮焼を行う。このときの雰囲気は、特に規定されず、任意である。また、仮焼における前記保持時間は、0.5〜5.0時間の範囲で適宜選択すればよい。
【0038】
仮焼後、粉砕工程3において、仮焼体を例えば平均粒径0.5μm〜2.0μm程度になるまで粉砕する。粉砕手段としては、例えばボールミル等を用いることができる。
【0039】
なお、各成分の原料粉末を添加するタイミングは、前記混合工程1のみに限定されるものではない。例えば、必要な原料粉末のうちの一部の成分の原料粉末のみを秤量、混合し、仮焼する。これを粉砕した後、他の成分の原料粉末を所定量添加し、混合するようにしてもよい。
【0040】
粉砕工程3において粉砕した粉末は、後の成形工程5を円滑に実行するために、造粒工程4において、顆粒に造粒される。この際、粉砕粉末に適当なバインダ、例えばポリビニルアルコール(PVA)を少量添加することが望ましい。また、得られる顆粒の粒径は、80μm〜200μm程度とすることが望ましい。
【0041】
造粒した顆粒は、成形工程4において、例えば100MPa〜300MPaの圧力で加圧成形し、所望の形状の成形体を得る。次いで、成形時に添加したバインダを除去した後、焼成工程6において、到達温度1000℃〜1400℃の範囲内で所定時間成形体を加熱保持し、焼結体を得る。焼成工程6における焼成雰囲気は、例えばO、Nまたは大気等の非還元性雰囲気とすればよい。加熱保持時間は、例えば2〜6時間の範囲で適宜選択すればよい。
【0042】
焼成後、必要に応じて研磨等により表面仕上げを行い、焼結体(誘電体磁器組成物)を得る。この誘電体磁器組成物は、例えば3GHzにおける比誘電率εrが90以上、Qfが4000GHz以上、誘電率の温度特性τε(−40℃〜85℃)が絶対値で50ppm/K以下であり、優れた誘電特性を備える。したがって、本発明の誘電体磁器組成物は、高周波、特にマイクロ波用の共振器、フィルタ、積層コンデンサ等のデバイス部品や、低温焼成セラミックス基板の材料として好適である。
【実施例】
【0043】
以下、本発明を適用した具体的な実施例について、実験結果に基づいて説明する。
【0044】
組成及びイオン半径についての検討
原料粉末として、BaCO、Bi、La(OH)、Nd、Sm、TiOを用意した。各原料粉末の平均粒径は、0.1μm〜1.0μmである。
【0045】
これら原料粉末を、組成式{Ba6−3x[(La1−wRE1−yBi8+2xTi1836+18zにおける各組成パラメータw,x,y,zが表2に示す値となるように秤量し、ボールミルを用いて湿式混合を16時間行った。得られたスラリーを十分に乾燥させた後、大気中、1200℃で2時間保持する仮焼を行い、仮焼体を得た。仮焼体が平均粒径1.0μmになるまでボールミルにより微粉砕した後、微粉砕粉末を乾燥させた。次いで、バインダとしてPVA(ポリビニルアルコール)を適量加えて造粒し、成形を行った後、1100℃〜1400℃の温度範囲で4時間焼成を行い、焼結体を得た。この焼結体をバーティカル研磨後、ラップで鏡面に仕上げ、直径10mm、厚さ5mmのサンプルを得た。
【0046】
以上の手順に従い、表2に示す組成を有する誘電体磁器組成物(試料1〜19)を作製した。
【0047】
作製した各誘電体磁器組成物について、誘電特性(比誘電率εr、Qf値、温度特性τε)を測定した。なお、比誘電率εr、Qf値、τfは、Hakki−Coleman法により測定した。測定の際には、ネットワークアナライザ(ヒューレットパッカード社製、8510C)を用い、TE011モードの共振ピークから各特性を求めた。各試料の組成パラメータ、全希土類元素のイオン半径の平均値(希土類イオン平均半径)、及び測定結果を表2に示す。
【0048】
【表2】

【0049】
先ず、各試料の希土類イオン平均半径に注目すると、当該希土類イオン平均半径が1.13を超える試料1,2では、誘電特性の中でQfの低下が見られる。また、希土類イオン平均半径が1.08未満である試料7では、比誘電率εrの低下が見られ、比誘電率εrが90未満となっている。したがって、希土類イオン平均半径は、1.08〜1.13とすることが好ましいことがわかる。
【0050】
次に、試料8〜試料13では、前記組成式中のxの値を変えているが、xの値が0.5未満である試料13では、Qf値の低下が見られる。また、xの値が0.75を超える試料8でもQf値の低下が見られる。したがって、前記組成式において、xは0.5≦x≦0.9とすることが好ましく、希土類元素REとしてSmを選択した場合には、0.5≦x≦0.75とすることがより好ましいことがわかる。
【0051】
さらに、試料14〜試料19においては、Biの置換量yを変えた時の誘電特性の相違を調べている。これら試料から明らかなように、Biの置換量yが0.10未満である試料14,15では、比誘電率εrやQfは良好な値となっているが、温度特性τfの劣化が著しい。また、Biの置換量yが0.27を超える試料19では、Qfの低下も見られる。したがって、前記組成式において、Biの置換量yは0.10≦y≦0.27とすることが好ましいと言える。
【0052】
Laと組み合わせる希土類元素REについての検討
Laと組み合わせる希土類元素REの種類を変えて原料を選択するとともに、組成式{Ba6−3x[(La1−wRE1−yBi8+2xTi1836+18zにおいて、x=0.72、y=0.14、z=0.98となるように原料を秤量し、先の試料1〜19と同様にして試料20〜30を作製した。作製した各試料について、格子定数を求めるとともに、誘電特性(比誘電率εr、Qf値、温度特性τε)を測定した。誘電特性の測定方法は、前述の通りである。結果を表3に示す。
【0053】
【表3】

【0054】
表3から明らかな通り、Laと組み合わせる希土類元素REの種類を変えた場合にも、希土類イオン平均半径が所定の範囲(1.08〜1.13)内に入っていれば、いずれも良好な誘電特性が得られている。
【0055】
組成式におけるzの値についての検討
組成式{Ba6−3x[(La1−wSm1−yBi8+2xTi1836+18zにおいて、w=0.75、x=0.65、y=0.14とするとともに、zの値を種々変更して焼結体の作製を行った。焼結に際しては、焼成温度を1220℃〜1430℃とし、各焼成温度で得られた焼結体の密度及び比誘電率εrを測定した。結果を図2及び図3に示す。図2は、焼成温度及びzの値と焼結体の密度の関係を示すものである。図3は、焼成温度及びzの値と焼結体の比誘電率εrの関係を示すものである。
【0056】
これら図面から明らかなように、zが1.0未満であるときに、焼成温度が低くても焼結密度が維持され、得られる焼結体の比誘電率εrも高い値に維持されることがわかる。これに対して、z≧1.0であると、焼成温度が1300℃以下になった場合、急激に密度や比誘電率εrが低下している。なお、z=1.0の場合には、焼結密度や比誘電率εrの点で問題はないが、僅かでもzの値が1.0を超えると密度がバラツキ易くなるので、厳密に組成を制御する必要が生ずる。したがって、確実に焼結密度や比誘電率εrを確保するためには、zの値が1.0未満となるように組成を設定することが好ましい。
【0057】
Mn添加についての検討
組成式{Ba6−3x[(La1−wSm1−yBi8+2xTi1836+18zにおいて、w=0.75、x=0.65、y=0.14、z=0.98とするとともに、Mnの添加量を種々変更して焼結体の作製を行った。焼結に際しては、焼成温度パターンを昇温部(温度上昇)→安定部(到達温度で温度一定)→冷却部とし、前記冷却部の温度変化のスピード(冷却速度)を200℃/h及び500℃/hとした。前記各冷却速度について、Mn添加量と比誘電率εr及びQfの関係を調べた。結果を図4及び図5に示す。図4は、冷却速度200℃/h及び500℃/hとした場合のMnO添加量と比誘電率εrの関係を示すものであり、図5は、MnO添加量とQfの関係を示すものである。
【0058】
比誘電率εrについては、冷却速度の相違による特性の相違はほとんど認められなかったが、Qfについては、Mn未添加の場合、冷却速度500℃とするとQf値が大きく落ち込んでいる。そして、このQf値の落ち込みは、図5に示すように、Mn添加によって解消されていることがわかる。
【図面の簡単な説明】
【0059】
【図1】誘電体磁器組成物の製造プロセスの一例を示す図である。
【図2】焼成温度及びzの値と焼結体の密度の関係を示す特性図である。
【図3】焼成温度及びzの値と焼結体の比誘電率εrの関係を示す特性図である。
【図4】冷却速度200℃/h及び500℃/hとした場合のMnO添加量と比誘電率εrの関係を示す特性図である。
【図5】冷却速度200℃/h及び500℃/hとした場合のMnO添加量とQfの関係を示す特性図である。
【符号の説明】
【0060】
1 混合工程、2 仮焼成工程、3 粉砕工程、4 造粒工程、5 成形工程、6 焼成工程

【特許請求の範囲】
【請求項1】
組成式{Ba6−3x[(La1−wRE1−yBi8+2xTi1836+18z(ただし、0.28≦w≦0.99、0.5≦x≦0.9、0.10≦y≦0.27、0.8≦z≦1.2であり、REはLa以外の希土類元素を表す。)で表され、
希土類元素全体のイオン半径の平均値が1.08Å〜1.13Åであることを特徴とする誘電体磁器組成物。
【請求項2】
前記組成式において、REがSmであり、0.37≦w≦0.99、0.5≦x≦0.75であることを特徴とする請求項1記載の誘電体磁器組成物。
【請求項3】
前記組成式において、0.8≦z<1.0であることを特徴とする請求項1または2記載の誘電体磁器組成物。
【請求項4】
MnO換算で0.04〜1.00モル%のMnが添加されていることを特徴とする請求項1から3のいずれか1項記載の誘電体磁器組成物。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2007−45690(P2007−45690A)
【公開日】平成19年2月22日(2007.2.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−234565(P2005−234565)
【出願日】平成17年8月12日(2005.8.12)
【出願人】(000003067)TDK株式会社 (7,238)
【Fターム(参考)】