説明

誘電体粒子、誘電体磁器組成物およびその製造方法

【課題】誘電体の他の電気特性を悪化させることなく、絶縁抵抗の加速寿命を向上させることができる誘電体原料粒子を提供する。
【解決手段】BaTiO3を含む主成分とRの酸化物(RはY、La、Ce、Pr、Nd、Pm、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb、Luの少なくとも1種)とを含有する誘電体粒子であって、誘電体粒子の粒径をDとし、それぞれ、粒子表面からの深さが前記Dの0%以上〜10%以下の領域を表面領域、粒子表面からの深さが前記Dの10%超〜40%未満の領域を中間領域、粒子表面からの深さが前記Dの40%以上〜50%以下の領域を中心領域とした場合に、前記表面領域においては、誘電体粒子表面側から中心部に向かってRの酸化物の含有割合が減少しており、前記中心領域においては、前記誘電体粒子表面側から中心部に向かってRの酸化物の含有割合が増加しいる構成となっている誘電体粒子。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、たとえば積層セラミックコンデンサなどの電子部品の誘電体層などとして用いられる誘電体磁器組成物およびその製造方法と、この誘電体磁器組成物を誘電体層として有する電子部品に関する。
【背景技術】
【0002】
電子部品の一例である積層セラミックコンデンサは、たとえば、所定の誘電体磁器組成物からなるセラミックグリーンシートに、所定パターンの内部電極を印刷し、それらを複数枚交互に重ね、その後一体化して得られるグリーンチップを、同時焼成して製造される。積層セラミックコンデンサの内部電極層は、焼成によりセラミック誘電体と一体化されるために、セラミック誘電体と反応しないような材料を選択する必要がある。このため、内部電極層を構成する材料として、従来では白金やパラジウムなどの高価な貴金属を用いることを余儀なくされていた。
【0003】
しかしながら、近年ではニッケルや銅などの安価な卑金属を用いることができる誘電体磁器組成物が開発され、大幅なコストダウンが実現した。
【0004】
また、近年、電子回路の高密度化に伴う電子部品の小型化に対する要求は高く、積層セラミックコンデンサの小型化、大容量化が急速に進んでいる。積層セラミックコンデンサを小型、大容量化するためには、一般に誘電体層を薄層化する方法や、誘電体層に含有される誘電体磁器組成物の比誘電率を増加させる方法などがとられている。しかしながら、誘電体層を薄くすると、直流電圧を印加したときに誘電体層にかかる電界が強くなるため、比誘電率の経時変化、すなわち容量の経時変化が著しく大きくなってしまうという問題があった。
【0005】
直流電界下での容量の経時変化を改良するために、誘電体層に含有される誘電体粒子として、小さな平均結晶粒径を有する誘電体粒子を使用する方法が提案されている(たとえば、特許文献1)。この特許文献1には、特定組成を有し、誘電体粒子の平均結晶粒径が0.45μm以下である誘電体磁器組成物が開示されている。しかしながら、この文献記載の誘電体磁器組成物では、比誘電率が低すぎるため、小型化、大容量化に対応することは困難であった。
【0006】
また、特許文献2には、希土類元素の塩基性炭酸塩を使用して、希土類元素とチタン酸バリウムとを反応させる方法が開示されている。この文献では、セラミックコンデンサの特性向上を目的として、誘電体層を構成する誘電体磁器組成物に、添加される副成分(たとえば、希土類元素)の分散性の向上を図っている。しかしながら、特許文献2に記載の方法には、製造工程が煩雑であるという問題や、チタン酸バリウム粉体の周りの希土類濃度が高すぎるという問題があった。
【0007】
【特許文献1】特開平8−124785号公報
【特許文献2】特開2000−281341号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、このような実状に鑑みてなされ、積層セラミックコンデンサなどの誘電体層を構成する誘電体磁器組成物の原料として用いられ、他の電気特性(たとえば、比誘電率、静電容量の温度特性、絶縁抵抗、CR積、誘電損失)を悪化させることなく、絶縁抵抗(IR)の加速寿命を向上させることができる誘電体粒子、さらには、このような誘電体粒子を用いて得られる誘電体磁器組成物およびその製造方法を提供することを目的とする。また、本発明は、このような誘電体磁器組成物で構成してある誘電体層を有する積層セラミックコンデンサなどの電子部品を提供することも目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者等は、上記目的を達成するために、鋭意検討を行った結果、チタン酸バリウムを含む主成分と、Rの酸化物(ただし、RはY,La,Ce,Pr,Nd,Pm,Sm,Eu,Gd,Tb,Dy,Ho,Er,Tm,YbおよびLuから選択される少なくとも1種)と、を有する誘電体粒子において、粒子中における、Rの酸化物の含有量の分布を特定のものとすることにより、上記目的を達成できることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0010】
すなわち、本発明に係る誘電体粒子は、
チタン酸バリウムを含む主成分と、
Rの酸化物(ただし、RはY,La,Ce,Pr,Nd,Pm,Sm,Eu,Gd,Tb,Dy,Ho,Er,Tm,YbおよびLuから選択される少なくとも1種)と、を含有する誘電体粒子であって、
前記誘電体粒子の粒径をDとし、
それぞれ、粒子表面からの深さが前記Dの0%以上、10%以下の領域を表面領域、粒子表面からの深さが前記Dの10%超、40%未満の領域を中間領域、粒子表面からの深さが前記Dの40%以上、50%以下の領域を中心領域、とした場合に、
前記表面領域においては、前記誘電体粒子表面側から中心部に向かって、前記Rの酸化物の含有割合が、減少していく構成となっているとともに、
前記中心領域においては、前記誘電体粒子表面側から中心部に向かって、前記Rの酸化物の含有割合が、増加していく構成となっていることを特徴とする。
【0011】
好ましくは、前記誘電体粒子全体における、前記チタン酸バリウム100モルに対する前記Rの酸化物の、R元素換算での平均モル数を、Maveとした場合に、前記Maveが、0モルより多く、0.5モル以下である。
【0012】
好ましくは、前記表面領域における、前記Rの酸化物の含有割合に関し、
前記Dの0%および10%の各深さにおける、前記チタン酸バリウム100モルに対する前記Rの酸化物の、R元素換算でのモル数を、それぞれMおよびM10とした場合に、これらの比であるM/M10が1〜30(ただし、1は含まない)である。
【0013】
好ましくは、前記中心領域における、前記Rの酸化物の含有割合に関し、
前記Dの40%および50%の各深さにおける、前記チタン酸バリウム100モルに対する前記Rの酸化物の、R元素換算でのモル数を、それぞれM40およびM50とした場合に、これらの比であるM50/M40が1〜100(ただし、1は含まない)である。
【0014】
好ましくは、前記中間領域における、前記チタン酸バリウム100モルに対する前記Rの酸化物の、R元素換算でのモル数が、前記Maveの0.2倍以上、8.0倍以下の範囲である。
【0015】
また、本発明に係る誘電体磁器組成物の製造方法は、
チタン酸バリウムを含む主成分と、
Rの酸化物(ただし、RはY,La,Ce,Pr,Nd,Pm,Sm,Eu,Gd,Tb,Dy,Ho,Er,Tm,YbおよびLuから選択される少なくとも1種)を含む第4副成分と、を有する誘電体磁器組成物を製造する方法であって、
前記主成分の原料と、前記第4副成分の原料の少なくとも一部と、が予め反応した反応済み原料を準備する工程と、
前記反応済み原料と、前記誘電体磁器組成物に含有されることとなる残りの前記第4副成分の原料を添加して、誘電体磁器組成物粉末を得る工程と、
前記誘電体磁器組成物粉末を焼成する工程と、を有し、
前記反応済み原料として、上記いずれかの誘電体粒子を用いることを特徴とする。
【0016】
本発明の製造方法においては、前記誘電体磁器組成物に含有されることとなる第4副成分の一部を反応させた反応済み原料として、上記構成を有する本発明の誘電体粒子を用いる。そのため、本発明の製造方法によると、他の電気特性(たとえば、比誘電率、静電容量の温度特性、絶縁抵抗、CR積、誘電損失)を良好に保ちつつ、絶縁抵抗(IR)の加速寿命が向上された誘電体磁器組成物を提供することができる。また、本発明の製造方法においては、この反応済み原料に、残りの第4副成分の原料を添加して、誘電体磁器組成物粉末とし、その後、この誘電体磁器組成物粉末を焼成するという工程を採用する。この誘電体磁器組成物粉末は、第4副成分の原料の他、必要に応じて添加されるその他の原料を添加することにより、調製され、さらに必要に応じて仮焼して良い。
【0017】
好ましくは、最終的に得られる前記誘電体磁器組成物中における前記第4副成分の含有量が、前記主成分100モルに対して、R元素換算で、0.1〜10モルである。
【0018】
好ましくは、前記誘電体磁器組成物に最終的に含有されることとなる前記第4副成分の総量100モル%に対する、前記反応済み原料中に含有されている前記第4副成分の比率が、R元素換算で、0モル%より多く、50モル%未満である。
【0019】
好ましくは、前記誘電体磁器組成物は、
MgO、CaO、BaOおよびSrOから選択される少なくとも1種を含む第1副成分と、
SiOを主として含有し、MO(ただし、MはMg、Ca、BaおよびSrから選択される少なくとも1種)、LiOおよびBから選択される少なくとも1種を含む第2副成分と、
、MoOおよびWOから選択される少なくとも1種を含む第3副成分と、をさらに含有し、
前記主成分100モルに対する各副成分の比率が、
第1副成分:0.1〜5モル、
第2副成分:0.1〜12モル、
第3副成分:0〜0.3モル(ただし、0は含まない)、
である。
【0020】
好ましくは、前記誘電体磁器組成物は、MnOおよびCrから選択される少なくとも1種を含む第5副成分を、さらに含有し、
前記主成分100モルに対する第5副成分の比率が、0.05〜1.0モルである。
【0021】
本発明に係る誘電体磁器組成物は、上記のいずれかに記載の方法で製造される誘電体磁器組成物である。
【0022】
本発明に係る電子部品は、上記の誘電体磁器組成物で構成してある誘電体層を有する。電子部品としては、特に限定されないが、積層セラミックコンデンサ、圧電素子、チップインダクタ、チップバリスタ、チップサーミスタ、チップ抵抗、その他の表面実装(SMD)チップ型電子部品が例示される。
【発明の効果】
【0023】
本発明によると、チタン酸バリウムを含む主成分と、Rの酸化物と、を含有する誘電体粒子において、粒子内におけるRの酸化物の含有割合に関し、次のような構成とする。すなわち、表面領域においては、誘電体粒子表面側から中心部に向かって、Rの酸化物の含有割合が、減少していく構成とするとともに、中心領域においては、誘電体粒子表面側から中心部に向かって、Rの酸化物の含有割合が、増加していく構成としている。そして、積層セラミックコンデンサなどの電子部品の誘電体層を構成する誘電体磁器組成物の原料として、本発明の誘電体粒子を用いることにより、得られる誘電体磁器組成物において、他の電気特性(たとえば、比誘電率、静電容量の温度特性、絶縁抵抗、CR積、誘電損失)を維持しつつ、絶縁抵抗(IR)の加速寿命の向上を図ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
以下、本発明を、図面に示す実施形態に基づき説明する。
図1は本発明の一実施形態に係る積層セラミックコンデンサの断面図、
図2は本発明の一実施形態に係る誘電体粒子の粒子内構造を説明するための概念図、
図3、図4は本発明の実施例および比較例に係る誘電体粒子の粒子表面から中心部までの深さと、Rの酸化物(Yの酸化物)の含有割合と、の関係を示すグラフである。
【0025】
積層セラミックコンデンサ1
図1に示すように、本発明の一実施形態に係る積層セラミックコンデンサ1は、誘電体層2と内部電極層3とが交互に積層された構成のコンデンサ素子本体10を有する。このコンデンサ素子本体10の両端部には、素子本体10の内部で交互に配置された内部電極層3と各々導通する一対の外部電極4が形成してある。コンデンサ素子本体10の形状に特に制限はないが、通常、直方体状とされる。また、その寸法にも特に制限はなく、用途に応じて適当な寸法とすればよい。
【0026】
内部電極層3は、各端面がコンデンサ素子本体10の対向する2端部の表面に交互に露出するように積層してある。一対の外部電極4は、コンデンサ素子本体10の両端部に形成され、交互に配置された内部電極層3の露出端面に接続されて、コンデンサ回路を構成する。
【0027】
誘電体層2
誘電体層2は、誘電体磁器組成物を含有する。
本実施形態においては、上記誘電体磁器組成物は、チタン酸バリウムを含む主成分と、Rの酸化物(ただし、RはY,La,Ce,Pr,Nd,Pm,Sm,Eu,Gd,Tb,Dy,Ho,Er,Tm,YbおよびLuから選択される少なくとも1種)を含む第4副成分と、その他の副成分とを含有する。なお、上記チタン酸バリウムは、好ましくは、組成式BaTiO2+m で表され、前記組成式中のmが0.990<m<1.010であり、BaとTiとの比が0.990<Ba/Ti<1.010である。
【0028】
第4副成分は、Rの酸化物を含有する副成分である。Rの酸化物のR元素は、Y,La,Ce,Pr,Nd,Pm,Sm,Eu,Gd,Tb,Dy,Ho,Er,Tm,YbおよびLuから選択される少なくとも1種の元素であり、これらのなかでも、Y,Pm,Sm,Eu,Gd,Tb,Dy,Ho,Er,Tm,Yb,Luが好ましく、さらに好ましくは、Y,Tb,Ybである。
【0029】
第4副成分は、IR加速寿命特性を向上させる効果がある。第4副成分の含有量は、R換算で0.1〜10モルであることが好ましく、より好ましくは0.2〜6モルである。含有量が少なすぎると、第4副成分の添加効果が得られなくなり、容量温度特性が悪くなってしまう。一方、含有量が多すぎると、焼結性が悪化する傾向にある。なお、後に詳述するように、本実施形態では、上記第4副成分の原料のうち少なくとも一部については、主成分の原料と予め反応させた反応済み原料として、誘電体磁器組成物中に含有させるという構成を採用する。
【0030】
本実施形態においては、上記Rの酸化物を含む第4副成分以外の副成分として、以下の第1〜第3、第5副成分を、さらに含有することが好ましい。
すなわち、MgO、CaO、BaOおよびSrOから選択される少なくとも1種を含む第1副成分と、
SiOを主として含有し、MO(ただし、MはMg、Ca、BaおよびSrから選択される少なくとも1種)、LiOおよびBから選択される少なくとも1種を含む第2副成分と、
、MoOおよびWOから選択される少なくとも1種を含む第3副成分と、
MnOおよびCrから選択される少なくとも1種を含む第5副成分と、をさらに含有することが好ましい。
【0031】
前記主成分に対する上記各副成分の比率は、各酸化物換算で、前記主成分100モルに対し、
第1副成分:0.1〜5モル、
第2副成分:0.1〜12モル、
第3副成分:0〜0.3モル(ただし、0は含まない)、
第5副成分:0.05〜1.0モル、
であり、好ましくは、
第1副成分:0.2〜4モル、
第2副成分:1〜6モル、
第3副成分:0〜0.25モル(ただし、0は含まない)、
第5副成分:0.05〜0.4モル、
である。
【0032】
本実施形態においては、誘電体磁器組成物に、Rの酸化物を含有する第4副成分以外に、上記第1〜第3、第5副成分を含有させることにより、静電容量の温度特性を向上させることができ、好ましくはEIA規格のX7R特性(−55〜125℃、ΔC=±15%以内)を満足させることができる。
【0033】
なお、本明細書では、主成分および各副成分を構成する各酸化物を化学量論組成で表しているが、各酸化物の酸化状態は、化学量論組成から外れるものであってもよい。ただし、各副成分の上記比率は、各副成分を構成する酸化物に含有される金属量から上記化学量論組成の酸化物に換算して求める。
上記各副成分の含有量の限定理由は以下のとおりである。
【0034】
第1副成分(MgO、CaO、BaOおよびSrO)の含有量が少なすぎると、容量温度変化率が大きくなってしまう。一方、含有量が多すぎると、焼結性が悪化すると共に、高温負荷寿命が悪化する傾向にある。なお、第1副成分中における各酸化物の構成比率は任意である。
【0035】
第2副成分は、主成分としてSiOを含み、かつ、MO(ただし、MはMg、Ca、BaおよびSrから選択される少なくとも1種)、LiOおよびBから選択される少なくとも1種を含む。この第2副成分は、主として焼結助剤として作用する。MO(ただし、MはMg、Ca、BaおよびSrから選択される少なくとも1種)は、第1副成分にも含まれるが、SiOとの複合酸化物とし、組成式MSiO2+x で表される化合物とすることにより、融点を低くすることができる。そして、融点を低くすることができるため、主成分に対する反応性を向上させることができる。なお、上記MOとして、たとえば、BaOおよびCaOを使用した場合には、上記複合酸化物は、組成式(Ba,Ca)SiO2+x で表される化合物とすることが好ましい。組成式(Ba,Ca)SiO2+x におけるxは、好ましくは0.8〜1.2であり、より好ましくは0.9〜1.1である。xが小さすぎると、すなわちSiOが多すぎると、主成分のBaTiO2+m と反応して誘電体特性を悪化させてしまう。一方、xが大きすぎると、融点が高くなって焼結性を悪化させるため、好ましくない。
【0036】
第3副成分(V、MoOおよびWO)は、キュリー温度以上での容量温度特性を平坦化する効果と、高温負荷寿命を向上させる効果とを示す。第3副成分の含有量が少なすぎると、このような効果が不十分となる。一方、含有量が多すぎると、IRが著しく低下する。なお、第3副成分中における各酸化物の構成比率は任意である。
【0037】
第5副成分(MnOおよびCr)は、キュリー温度を高温側にシフトさせるほか、容量温度特性の平坦化、絶縁抵抗(IR)の向上、破壊電圧の向上、焼成温度を低下させる、などの効果を有する。
【0038】
誘電体磁器組成物に含まれる焼結体(結晶粒子)の平均結晶粒径は、特に限定されないが、好ましくは0.1〜0.5μm、より好ましくは0.1〜0.3μmである。平均結晶粒径が、小さすぎると、比誘電率が低くなってしまう傾向にあり、大きすぎると、比誘電率の経時変化が大きくなってしまう傾向にある。焼結体の平均結晶粒径は、たとえば、焼結体のSEM像より、焼結体を構成する結晶粒子の形状を球と仮定して平均粒子径を測定するコード法により測定することができる。
【0039】
誘電体層2の厚みは、特に限定されないが、一層あたり4.5μm以下であることが好ましく、より好ましくは3.5μm以下、さらに好ましくは3.0μm以下である。厚さの下限は、特に限定されないが、たとえば0.5μm程度である。
【0040】
誘電体層2の積層数は、特に限定されないが、20以上であることが好ましく、より好ましくは50以上、特に好ましくは、100以上である。積層数の上限は、特に限定されないが、たとえば2000程度である。
【0041】
内部電極層3
内部電極層3に含有される導電材は特に限定されないが、誘電体層2の構成材料が耐還元性を有するため、比較的安価な卑金属を用いることができる。導電材として用いる卑金属としては、NiまたはNi合金が好ましい。Ni合金としては、Mn,Cr,CoおよびAlから選択される1種以上の元素とNiとの合金が好ましく、合金中のNi含有量は95重量%以上であることが好ましい。なお、NiまたはNi合金中には、P等の各種微量成分が0.1重量%程度以下含まれていてもよい。内部電極層3の厚さは用途等に応じて適宜決定すればよいが、通常、0.1〜3μm、特に0.2〜2.0μm程度であることが好ましい。
【0042】
外部電極4
外部電極4に含有される導電材は特に限定されないが、本発明では安価なNi,Cuや、これらの合金を用いることができる。外部電極4の厚さは用途等に応じて適宜決定すればよいが、通常、10〜50μm程度であることが好ましい。
【0043】
積層セラミックコンデンサの製造方法
本実施形態の積層セラミックコンデンサは、従来の積層セラミックコンデンサと同様に、ペーストを用いた通常の印刷法やシート法によりグリーンチップを作製し、これを焼成した後、外部電極を印刷または転写して焼成することにより製造される。以下、製造方法について具体的に説明する。
【0044】
まず、誘電体層用ペーストに含まれる誘電体磁器組成物粉末を調製する。
【0045】
本実施形態においては、誘電体磁器組成物粉末の調製は、次のように行う。すなわち、まず、上記主成分の原料と、上記第4副成分の原料の一部(誘電体磁器組成物に含有されることとなる第4副成分のうち一部に相当する原料)とを、予め反応させた反応済み原料を準備する。そして、この反応済み原料に、残りの第4副成分の原料(誘電体磁器組成物を構成することとなる第4副成分のうち残りの原料)と、上記第1〜第3、第5副成分の原料とを添加し、必要に応じて仮焼することにより、誘電体磁器組成物粉末は調製する。
【0046】
本実施形態では、上記主成分の原料と、上記第4副成分の原料の一部とを、予め反応させた反応済み原料として、本発明の誘電体粒子を用いる。
【0047】
本発明の誘電体粒子(反応済み原料)は、チタン酸バリウムを含む主成分と、Rの酸化物(第4副成分)と、を含有する構成となっている。
そして、本発明の誘電体粒子(反応済み原料)は、図2に示すように、その内部の構造を、粒子表面側から粒子中心部に向かって、それぞれ表面領域、中間領域および中心領域の3つの領域に分けた場合に、各領域における、粒子中におけるRの酸化物(第4副成分)の含有割合が所定の構成となっているものである。すなわち、図2に示す表面領域においては、粒子表面側から中心部に向かって、Rの酸化物の含有割合が、減少していく構成となっているとともに、図2に示す中心領域においては、粒子表面側から中心部に向かって、Rの酸化物の含有割合が、増加していく構成となっている。
【0048】
なお、図2は、本発明の誘電体粒子の断面を模式的に示した図であり、具体的には、粒子中心部を通る断面を示した図である。また、図2においては、誘電体粒子の粒径をDとし、誘電体粒子の粒径Dの長さを100%とした場合に、粒子表面からの深さが粒径Dの0%、10%、40%および50%の深さに相当する位置を、それぞれ、T、T10、T40、T50とした。ここにおいて、Tは粒子表面を意味し、T50は粒子中心部を意味することとなる。
【0049】
そして、本実施形態では、上記表面領域を、粒子表面からの深さが粒径Dの0%以上、10%以下の領域とし、上記中間領域を、粒子表面からの深さが粒径Dの10%超、40%未満の領域とし、さらに、上記中心領域を、粒子表面からの深さが粒径Dの40%以上、50%以下の領域とした。すなわち、図2において、深さT〜T10の範囲にある領域を表面領域とし、深さT40〜T50の範囲にある領域を中心領域とし、さらに、これら表面領域と中心領域との間に位置する領域を中間領域とした。
【0050】
このように粒子中におけるRの酸化物の含有割合に関し、表面領域においては、粒子表面側から中心部に向かって、減少していく構成とし、さらには、中心領域においては、粒子表面側から中心部に向かって、増加していく構成とすることにより、次のような効果を奏する。すなわち、このような構成を有する誘電体粒子を、誘電体磁器組成物粉末に含有されることとなる反応済み原料として用いることにより、比誘電率、静電容量の温度特性、絶縁抵抗、CR積および誘電損失を良好に保ちつつ、絶縁抵抗の加速寿命を向上させることができる。
【0051】
なお、本発明の誘電体粒子は、表面領域においては、Rの酸化物の含有割合が、粒子表面側から中心部に向かって、実質的に減少していくような構成となっていれば良い。たとえば、粒径Dの0%〜5%程度の深さまで、Rの酸化物の含有割合が減っていくような構成となっている一方で、粒径Dの5%超〜10%程度までは、Rの酸化物の含有割合が一定となっているような(あるいは、極微量であれば、増加するような)構成であっても良い。また、表面領域においては、その構成上、粒子表面付近(すなわち、図2に示す深さT付近)において、最もRの酸化物の含有割合が高くなっているような状態となっていることが好ましい。
【0052】
同様に、中心領域においては、Rの酸化物の含有割合が、粒子表面側から中心部に向かって、実質的に増加していくような構成となっていれば良い。たとえば、粒径Dの45%〜50%程度の深さまで、Rの酸化物の含有割合が増加していくような構成となっている一方で、粒径Dの40%〜45%未満程度までは、Rの酸化物の含有割合が一定となっているような(あるいは、極微量であれば、減少するような)構成であっても良い。また、中心領域においては、その構成上、粒子中心部付近(すなわち、図2に示す深さT50付近)において、最もRの酸化物の含有割合が高くなっているような状態となっていることが好ましい。なお、粒子中心部とは、厳密な意味での粒子の中心である必要はなく、略中心であればよい。すなわち、最もRの酸化物の含有割合が高くなっている部分は、厳密な意味での粒子の中心から、若干ずれていても良い。
【0053】
一方、中間領域においては、Rの酸化物の含有割合は、一定となっていても良いし、あるいは若干ではあるが、粒子表面側から中心部に向かって、増加あるいは減少するような構成となっていても良い。
【0054】
本発明の誘電体粒子中における、チタン酸バリウムと、Rの酸化物との含有比率は次のような範囲とすることが好ましい。すなわち、誘電体粒子全体における、チタン酸バリウム100モルに対するRの酸化物の、R元素換算での平均モル数をMaveとした場合に、平均モル数Maveが、好ましくは0モルより多く、0.5モル以下であり、より好ましくは0.01〜0.2モルである。平均モル数Maveが高すぎると、誘電体磁器組成物粉末に含有されることとなる反応済み原料として用いた場合に、焼成後に得られる焼結体の結晶粒径が大きくなり過ぎてしまい、温度特性が悪化したり、絶縁抵抗(IR)が低下してしまう傾向にある。
【0055】
そして、本発明の誘電体粒子は、表面領域、中間領域および中心領域におけるRの酸化物の含有割合が、次のような関係となっていることがより好ましい。
【0056】
すなわち、表面領域における、Rの酸化物の含有割合に関し、粒径Dの0%および10%の各深さ(すなわち、図2に示すTおよびT10)における、チタン酸バリウム100モルに対するRの酸化物の、R元素換算でのモル数を、それぞれMおよびM10とした場合に、これらの比であるM/M10を、好ましくは1〜30(ただし、1は含まない)の範囲、より好ましくは1〜25(ただし、1は含まない)の範囲、さらに好ましくは1〜20(ただし、1は含まない)の範囲とする。M/M10が小さすぎると、上記した効果が得られなくなる傾向にある。一方、M/M10が大きすぎると、比誘電率が低くなる傾向にある。なお、上記MおよびM10(後述するM40、M50も同様)は、実質的に、粒径Dの0%、10%の各深さにおける、Rの酸化物のモル数となっていれば良く、必ずしも厳密に、0%、10%の深さのRの酸化物のモル数でなくても良い。特に、これらMおよびM10を、後述するプラズマ発光分光分析装置(ICP)を用いる方法で測定する場合には、たとえば、測定値±3%程度の範囲内となっていれば良い。この場合には、実際に測定した深さ(すなわち、±3%程度の範囲内の深さ)における複数の測定結果に基づいて、0%、10%の各深さにおけるRの酸化物のモル数(すなわち、MおよびM10)を求めれば良い。
【0057】
また、中心領域における、Rの酸化物の含有割合に関し、粒径Dの40%および50%の各深さ(すなわち、図2に示すT40およびT50)における、チタン酸バリウム100モルに対するRの酸化物の、R元素換算でのモル数を、それぞれM40およびM50とした場合に、これらの比であるM50/M40を、好ましくは1〜100(ただし、1は含まない)の範囲、より好ましくは1〜85(ただし、1は含まない)の範囲とする。M50/M40が小さすぎると、上記した効果が得られなくなる傾向にある。一方、M50/M40が大きすぎると、粒成長し易くなり、絶縁抵抗(IR)が劣化してしまう傾向にある。
【0058】
さらに、中間領域における、Rの酸化物の含有割合に関し、上述したRの酸化物の平均モル数Maveに対して、チタン酸バリウム100モルに対するRの酸化物の、R元素換算でのモル数を、好ましくは、平均モル数Maveの0.2倍以上、8.0倍以下、より好ましくは0.2倍以上、2.0倍以下とする。
【0059】
なお、誘電体粒子中における、各深さにおける、Rの酸化物の含有割合を測定する方法としては、特に限定されないが、プラズマ発光分光分析装置(ICP)や透過型電子顕微鏡(TEM)などを用いて測定する方法が挙げられる。なお、プラズマ発光分光分析装置(ICP)においては、その測定結果から、BaO、TiO、Yの重量比率およびBaTiOに対するYの比率(モル比)を求めることができる。
たとえば、プラズマ発光分光分析装置(ICP)を用いて、Rの酸化物の含有割合を測定する場合には、塩酸や過酸化水素などを使用して、誘電体粒子を溶解させ、誘電体粒子に由来する溶解成分中におけるR元素の比率を測定することにより求めることができる。なお、この場合には、誘電体粒子を溶解する際の溶解条件(たとえば、溶解時間や溶液のpHなど)を変化させることにより、各深さにおけるRの酸化物の含有割合を適宜測定することができる。そのため、たとえば、溶解時間により溶解条件を変化させる場合には、各溶解時間における誘電体粒子の溶解成分をサンプリングし、このサンプリングした溶解成分について、それぞれRの酸化物の含有割合を測定することにより、各深さにおけるRの酸化物の含有割合を求めることができる。
【0060】
プラズマ発光分光分析装置(ICP)を用いた測定においては、具体的には、次のようにして各含有割合を測定することができる。すなわち、まず、誘電体粒子を所定時間溶解させた後の溶液をろ過し、溶解されずに残存した誘電体粒子の重量から求めた溶解率をXとし、誘電体粒子表面からの深さD(単位は、%)における溶解率をXとする。そして、誘電体粒子の半径をr(単位は、μm)、密度をρとした場合に、深さD(単位は、μm)における溶出割合を下記式に従って求める。
【数1】

【0061】
表面からの深さD[%]における溶出量をVとした場合に、溶出量の割合はV/100で表され、また、深さD[%]は、D[μm]との関係で、D=r×(D/100)で表される。したがって、上記式より、以下の式が導かれる。
【数2】

そして、深さD[%]において検出されたY量(Y原子換算)をTiO100モルに対して算出し、溶解率Xを乗算して、表面からの深さD[%]における溶出総量V(Y)Dとする。なお、測定点における溶出Y総量V(Y)Dは表面からの総量である。そして、各点間の溶出Y量差ΔV(Y)DをΔXで除算したものを、測定点間領域における部分Y濃度と定める。
【0062】
なお、上述の場合においては、たとえば、粒径Dの0%の深さにおける溶解成分を厳密に抽出することは一般に困難であるため、深さ数%程度における溶解成分を複数抽出し、これらの結果に基づいて、0%の深さにおけるRの酸化物の含有割合を求めることが好ましい。
【0063】
あるいは、透過型電子顕微鏡(TEM)を用いる場合には、たとえば、線分析により測定することができる。誘電体粒子に対して、誘電体粒子の略中心を通るように粒子の端から端まで一直線になるようにTEMで線分析を行う。その後90度ずらして同一の粒子に対して、線分析を行う。そして、これらの結果を平均することにより求めることができる。
【0064】
また、上記構成を有する本発明の誘電体粒子(反応済み原料)を調製する方法としては、特に限定されないが、たとえば、次のような方法が挙げられる。
すなわち、主成分であるチタン酸バリウムの原料として、チタン酸バリウムの前駆体と、Rの酸化物の原料として、Rの酸化物、RのアルコキシドおよびRの無機酸塩から選択される一種以上とを用い、これらを混合し、得られた混合物を、好ましくは500〜1000℃程度で仮焼することにより調製することができる。
【0065】
なお、チタン酸バリウムの前駆体としては、たとえば、蓚酸バリウムチタニル、バリウムアルコキシドとチタンアルコキシドとの反応物、水酸化バリウム・8水和物とチタンアルコキシドとの反応物、バリウム/チタンのクエン酸塩などの焼成によりチタン酸バリウムとなる各種化合物が挙げられる。
【0066】
Rのアルコキシドは、アルコールとR元素との化合物であり、具体的には、アルコールの水酸基の水素をR元素で置換した化合物をいう。Rのアルコキシドとしては、特に限定されないが、一般式C2n+1 OR(nは、1〜9の整数)で表される各種化合物が使用でき、たとえば、CHOR、COR、n−COR、i−CORなどが挙げられる。
Rの無機酸塩としては、特に限定されないが、たとえば、塩化物、硝酸塩、リン酸塩、硫酸塩などが挙げられる。なお、Rの無機酸塩は、水和した状態のものが多く、通常は、水、あるいは水溶性の有機溶剤などに溶けた状態で使用される。
また、本実施形態では、Rの酸化物として、ゾル状の原料を用いても良い。ゾル状の原料としては、特に限定されず、たとえば、水酸化物ゾルや酸化物ゾルなどが挙げられる。また、ゾル状の原料のゾル粒径は、通常1〜100nm程度であり、溶媒としては、水、あるいは、メタノールやエタノールなどのアルコール類、キシレンやトルエンなどの芳香族溶媒、メチルエチルケトンなどのケトン類などの有機系溶媒が例示される。
【0067】
あるいは、主成分であるチタン酸バリウムの原料として、チタン酸バリウムの前駆体ではなく、チタン酸バリウムそのものを用いるとともに、Rの酸化物の原料として、RのアルコキシドやRの無機酸塩とを用い、これらを混合し、得られた混合物を、好ましくは500〜1000℃程度で仮焼する方法を採用しても良い。
【0068】
そして、上記した構成を有する誘電体粒子(反応済み原料)に、残りの第4副成分の原料(誘電体磁器組成物を構成することとなる第4副成分のうち残りの原料)と、上記第1〜第3、第5副成分の原料とを添加して、その後、混合して、必要に応じて仮焼することにより、誘電体磁器組成物粉末を得る。残りの第4副成分の原料、第1〜第3、第5副成分の原料としては、上記した酸化物やその混合物、複合酸化物や、焼成により上記した酸化物や複合酸化物となる各種化合物が使用できる。
【0069】
次いで、得られた誘電体磁器組成物粉末を用いて 誘電体層用ペーストを製造する。誘電体層用ペーストは、誘電体磁器組成物粉末と有機ビヒクルとを混練した有機系の塗料であってもよく、水系の塗料であってもよい。
【0070】
有機ビヒクルとは、バインダを有機溶剤中に溶解したものである。有機ビヒクルに用いるバインダは特に限定されず、エチルセルロース、ポリビニルブチラール等の通常の各種バインダから適宜選択すればよい。また、用いる有機溶剤も特に限定されず、印刷法やシート法など、利用する方法に応じて、テルピネオール、ブチルカルビトール、アセトン、トルエン等の各種有機溶剤から適宜選択すればよい。
【0071】
また、誘電体層用ペーストを水系の塗料とする場合には、水溶性のバインダや分散剤などを水に溶解させた水系ビヒクルと、誘電体原料とを混練すればよい。水系ビヒクルに用いる水溶性バインダは特に限定されず、例えば、ポリビニルアルコール、セルロース、水溶性アクリル樹脂などを用いればよい。
【0072】
内部電極層用ペーストは、上記した各種導電性金属や合金からなる導電材、あるいは焼成後に上記した導電材となる各種酸化物、有機金属化合物、レジネート等と、上記した有機ビヒクルとを混練して調製する。
【0073】
外部電極用ペーストは、上記した内部電極層用ペーストと同様にして調製すればよい。
【0074】
上記した各ペースト中の有機ビヒクルの含有量に特に制限はなく、通常の含有量、たとえば、バインダは1〜5重量%程度、溶剤は10〜50重量%程度とすればよい。また、各ペースト中には、必要に応じて各種分散剤、可塑剤、誘電体、絶縁体等から選択される添加物が含有されていてもよい。これらの総含有量は、10重量%以下とすることが好ましい。
【0075】
印刷法を用いる場合、誘電体層用ペーストおよび内部電極層用ペーストを、PET等の基板上に積層印刷し、所定形状に切断した後、基板から剥離してグリーンチップとする。
【0076】
また、シート法を用いる場合、誘電体層用ペーストを用いてグリーンシートを形成し、この上に内部電極層用ペーストを印刷した後、これらを積層してグリーンチップとする。
【0077】
焼成前に、グリーンチップに脱バインダ処理を施す。脱バインダ条件としては、昇温速度を好ましくは5〜300℃/時間、より好ましくは10〜100℃/時間、保持温度を好ましくは180〜400℃、より好ましくは200〜300℃、温度保持時間を好ましくは0.5〜24時間、より好ましくは5〜20時間とする。また、脱バインダ雰囲気は、空気中とすることが好ましい。
【0078】
次いで、脱バインダ処理を施したグリーンチップを焼成する。グリーンチップ焼成時の雰囲気は、内部電極層用ペースト中の導電材の種類に応じて適宜決定されればよいが、導電材としてNiやNi合金等の卑金属を用いる場合、焼成雰囲気中の酸素分圧は、10−9〜10−4Paとすることが好ましい。酸素分圧が上記範囲未満であると、内部電極層の導電材が異常焼結を起こし、途切れてしまうことがある。また、酸素分圧が前記範囲を超えると、内部電極層が酸化する傾向にある。
【0079】
また、焼成時の保持温度は、好ましくは1000〜1400℃、より好ましくは1100〜1350℃である。保持温度が上記範囲未満であると緻密化が不十分となり、前記範囲を超えると、内部電極層の異常焼結による電極の途切れや、内部電極層構成材料の拡散による容量温度特性の悪化、誘電体磁器組成物の還元が生じやすくなる。
【0080】
これ以外の焼成条件としては、昇温速度を好ましくは100〜900℃/時間、より好ましくは200〜900℃/時間、温度保持時間を好ましくは0.5〜8時間、より好ましくは1〜3時間、冷却速度を好ましくは50〜500℃/時間、より好ましくは200〜300℃/時間とする。また、焼成雰囲気は還元性雰囲気とすることが好ましく、雰囲気ガスとしてはたとえば、NとHとの混合ガスを加湿して用いることが好ましい。
【0081】
還元性雰囲気中で焼成した場合、コンデンサ素子本体にはアニールを施すことが好ましい。アニールは、誘電体層を再酸化するための処理であり、これによりIR寿命を著しく長くすることができるので、信頼性が向上する。
【0082】
アニール雰囲気中の酸素分圧は、10−3Pa以上、特に10−2〜10Paとすることが好ましい。酸素分圧が前記範囲未満であると誘電体層の再酸化が困難であり、前記範囲を超えると内部電極層が酸化する傾向にある。
【0083】
アニールの際の保持温度は、1200℃以下、特に500〜1200℃とすることが好ましい。保持温度が上記範囲未満であると誘電体層の酸化が不十分となるので、IRが低く、また、高温負荷寿命が短くなりやすい。一方、保持温度が前記範囲を超えると、内部電極層が酸化して容量が低下するだけでなく、内部電極層が誘電体素地と反応してしまい、容量温度特性の悪化、IRの低下、高温負荷寿命の低下が生じやすくなる。
【0084】
これ以外のアニール条件としては、昇温速度を好ましくは100〜900℃/時間、より好ましくは200〜900℃/時間、温度保持時間を好ましくは0.5〜12時間、より好ましくは1〜10時間、冷却速度を好ましくは50〜600℃/時間、より好ましくは100〜300℃/時間とする。また、アニールの雰囲気ガスとしては、たとえば、加湿したNガス等を用いることが好ましい。
【0085】
上記した脱バインダ処理、焼成およびアニールにおいて、Nガスや混合ガス等を加湿するには、例えばウェッター等を使用すればよい。この場合、水温は5〜75℃程度が好ましい。
脱バインダ処理、焼成およびアニールは、連続して行なっても、独立に行なってもよい。
【0086】
上記のようにして得られたコンデンサ素子本体に、例えばバレル研磨やサンドブラストなどにより端面研磨を施し、外部電極用ペーストを印刷または転写して焼成し、外部電極4を形成する。外部電極用ペーストの焼成条件は、例えば、加湿したNとHとの混合ガス中で600〜800℃にて10分間〜1時間程度とすることが好ましい。そして、必要に応じ、外部電極4表面に、めっき等により被覆層を形成する。
このようにして製造された本発明の積層セラミックコンデンサは、ハンダ付等によりプリント基板上などに実装され、各種電子機器等に使用される。
【0087】
以上、本発明の実施形態について説明してきたが、本発明は、上述した実施形態に何等限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々に改変することができる。
【0088】
たとえば、上述した実施形態では、本発明に係る電子部品として積層セラミックコンデンサを例示したが、本発明に係る電子部品としては、積層セラミックコンデンサに限定されず、上記構成の誘電体磁器組成物で構成してある誘電体層を有するものであれば何でも良い。
【実施例】
【0089】
以下、本発明を、さらに詳細な実施例に基づき説明するが、本発明は、これら実施例に限定されない。
【0090】
実施例1
反応済み原料の調製
まず、主成分原料としての平均粒径0.15μmのチタン酸バリウム前駆体(蓚酸バリウムチタニル、Ba/Ti=1.000)と、第4副成分の原料(Rの酸化物の原料)として、Y粉末を準備した。次いで、準備したチタン酸バリウム前駆体とY粉末とをボールミルにより湿式混合粉砕してスラリー化し、このスラリーを乾燥後、仮焼・粉砕して、反応済み原料を得た。なお、仮焼条件は、昇温速度:200℃/時間、保持温度:500℃、温度保持時間:2時間、雰囲気:空気中とした。また、Yの添加量は、主成分100モルに対して、Y元素換算で、0.025モルとした。
すなわち、本実施例では、反応済み原料中における、チタン酸バリウム100モルに対するYの酸化物の、Y元素換算での平均モル数Maveを、0.025モルとした。
また、得られた反応済み原料については、後述する方法により、粒子内の各深さにおけるYの酸化物(Rの酸化物)の含有割合を測定、評価した。
【0091】
誘電体層用ペーストの調製
次いで、上記にて得られた反応済み原料に対して、以下に示す第1〜第5副成分を、添加して、ボールミルにより湿式混合粉砕してスラリー化し、このスラリーを乾燥後、仮焼・粉砕することにより誘電体磁器組成物粉末を得た。なお、各副成分の添加量は、主成分100モルに対する、各酸化物換算での添加量である(ただし、Yは、Y元素換算の添加量とした)。
MgO (第1副成分):1.2モル
(Ba,Ca)SiO
(第2副成分):0.75モル
(第3副成分):0.03モル
(第4副成分):0.175モル
MnO (第5副成分):0.1モル
そして、上記にて得られた誘電体磁器組成物粉末100重量部と、アクリル樹脂4.8重量部と、酢酸エチル100重量部と、ミネラルスピリット6重量部と、トルエン4重量部とをボールミルで混合してペースト化し、誘電体層用ペーストを得た。
【0092】
内部電極層用ペーストの調製
次に、Ni粒子44.6重量部と、テルピネオール52重量部と、エチルセルロース3重量部と、ベンゾトリアゾール0.4重量部とを、3本ロールにより混練し、スラリー化して内部電極層用ペーストを得た。
【0093】
積層セラミックコンデンサの作製
上記にて調製した各ペーストを用い、以下のようにして、図1に示される積層セラミックチップコンデンサ1を製造した。
まず、得られた誘電体層用ペーストを用いてPETフィルム上にグリーンシートを形成した。この上に内部電極層用ペーストを印刷した後、PETフィルムからシートを剥離した。次いで、これらのグリーンシートと保護用グリーンシート(内部電極層用ペーストを印刷しないもの)とを積層、圧着して、グリーンチップを得た。
【0094】
次いで、グリーンチップを所定サイズに切断し、脱バインダ処理、焼成およびアニールを下記条件にて行って、積層セラミック焼成体を得た。
脱バインダ処理条件は、昇温速度:32.5℃/時間、保持温度:260℃、温度保持時間:8時間、雰囲気:空気中とした。
焼成条件は、昇温速度:200℃/時間、保持温度:1260〜1280℃、温度保持時間:2時間、冷却速度:200℃/時間、雰囲気ガス:加湿したN+H混合ガス(酸素分圧:10−7Pa)とした。
アニール条件は、昇温速度:200℃/時間、保持温度:1050℃、温度保持時間:2時間、冷却速度:200℃/時間、雰囲気ガス:加湿したNガス(酸素分圧:1.01Pa)とした。
なお、焼成およびアニールの際の雰囲気ガスの加湿には、水温を20℃としたウエッターを用いた。
【0095】
次いで、得られた積層セラミック焼成体の端面をサンドブラストにて研磨した後、外部電極としてIn−Gaを塗布し、図1に示す実施例1の積層セラミックコンデンサの試料を得た。
【0096】
得られたコンデンサ試料のサイズは、3.2mm×1.6mm×0.6mmであり、内部電極層に挟まれた誘電体層の数は4とし、1層あたりの誘電体層の厚み(層間厚み)は4.5μm、内部電極層の厚みは1.2μmとした。
【0097】
次いで、上記にて調製した反応済み原料について、以下に示す方法により、粒子内の各深さにおけるYの酸化物(Rの酸化物)の含有割合を、また、得られたコンデンサ試料について、以下に示す方法により、焼結体の平均結晶粒径、比誘電率ε、誘電損失tanδ、絶縁抵抗IR、CR積、静電容量の温度特性およびIR加速寿命の評価を行った。
【0098】
粒子内の各深さにおけるYの酸化物(Rの酸化物)の含有割合
上記にて調製した反応済み原料について、プラズマ発光分光分析装置(ICP)を用いて、次に説明する方法により、粒子内の各深さにおける、Yの酸化物の含有割合を測定した。
すなわち、まず、上記にて調製した反応済み原料:0.1〜0.5gを、2mlの塩酸と、1mlの過酸化水素(30%水溶液)と、を混合して得られた混合溶液中に添加し、反応済み原料を溶解させた。そして、一定時間経過後、反応済み原料を添加した混合溶液を、メンブランフィルター(0.2μm)により、ろ過することにより、未溶解の反応済み原料を取り除いた。次いで、ろ過後の溶液を、100mlに定容し、さらにこれを50倍に希釈することにより、最表面部分における、測定サンプルを調製した。
【0099】
次いで、ろ過により取り除いた未溶解の反応済み原料について、さらに、同様の操作を繰り返し行うことにより、各深さにおける溶解成分を収集し、希釈することにより、粒子中の各深さにおける測定サンプルを調製した。
【0100】
そして、得られた複数の測定サンプルについて、プラズマ発光分光分析装置(ICPS−8000:(株)島津製作所製)を用いて、測定を行い、粒子中の各深さにおける、チタン酸バリウム100モルに対するYの酸化物の含有割合(Y元素換算でのモル数)を求めた。得られた結果を図3にグラフ化して示す。
なお、測定は、複数の誘電体粒子について行い、得られた結果を平均することにより求めた。また、粒径Dの0%の深さにおけるRの酸化物の含有割合については、深さ数%程度における複数の測定結果に基づいて、決定した。
【0101】
なお、実施例1においては、粒径Dの0%および10%の各深さ(すなわち、図2に示すTおよびT10)における、チタン酸バリウム100モルに対するRの酸化物の、R元素換算でのモル数MとM10との比は、M/M10=13.0であった。
また、粒径Dの40%および50%の各深さ(すなわち、図2に示すT40およびT50)における、チタン酸バリウム100モルに対するRの酸化物の、R元素換算でのモル数M40とM50との比は、M50/M40=2.5であった。
さらに、粒子表面からの深さが粒径Dの10%超、40%未満の領域である中間領域における、Yの酸化物の含有割合が、平均モル数Maveの0.2〜1.5倍の範囲内となっていた。
【0102】
焼結体の平均結晶粒径
焼結体の平均粒径の測定方法としては、まず、得られたコンデンサ試料を内部電極に垂直な面で切断し、その切断面を研磨した。そして、その研磨面にケミカルエッチングを施し、その後、走査型電子顕微鏡(SEM)により観察を行い、コード法により焼結体中の結晶粒子の形状を球と仮定して算出した。結果を表1に示す。
【0103】
比誘電率ε
コンデンサの試料に対し、基準温度20℃において、デジタルLCRメータ(横河電機(株)製 YHP4274A)にて、周波数120Hz,入力信号レベル(測定電圧)0.5Vrms/μmの条件下で、静電容量Cを測定した。そして、得られた静電容量、積層セラミックコンデンサの誘電体厚みおよび内部電極同士の重なり面積から、比誘電率(単位なし)を算出した。比誘電率は、高いほど好ましい。結果を表1に示す。
【0104】
誘電損失tanδ
コンデンサの試料に対し、基準温度20℃において、デジタルLCRメータ(横河電機(株)製 YHP4274A)にて、周波数120Hz,入力信号レベル(測定電圧)0.5Vrms/μmの条件下で、誘電損失tanδを測定した。誘電損失は、小さいほど好ましい。結果を表1に示す。
【0105】
絶縁抵抗IR
コンデンサ試料に対し、絶縁抵抗計(アドバンテスト社製R8340A)を用いて、20℃において4V/μmの直流電圧を、コンデンササンプルに1分間印加した後の絶縁抵抗IRを測定した。結果を表1に示す。
【0106】
CR積
CR積は、上記にて測定した静電容量C(単位はμF)と、絶縁抵抗IR(単位はMΩ)との積を求めることにより測定した。CR積は、大きいほど好ましい。結果を表1に示す。
【0107】
静電容量の温度特性
コンデンサ試料に対し、−55〜125℃における静電容量を測定し、静電容量の変化率ΔCを算出し、EIA規格のX7R特性を満足するか否かについて評価した。すなわち、−55〜125℃において、変化率ΔCが、±15%以内であるか否かを評価した。結果を表1に示す。なお、表1中、X7R特性を満足した試料を「○」とした。
【0108】
IR加速寿命
コンデンサ試料に対し、180℃にて12V/μmの電界下で加速試験を行い、絶縁抵抗IRが10Ω以下になるまでの時間(単位は時間)を算出した。IR加速寿命は、長いほうが好ましい。結果を表1に示す。
【0109】
比較例1
反応済み原料を調製する際に、主成分原料として、チタン酸バリウム前駆体の代わりに、平均粒径0.15μmのチタン酸バリウム(Ba/Ti=1.000)を使用した以外は、実施例1と同様にして、反応済み原料を調製し、さらに、得られた反応済み原料を用いて、実施例1と同様にして、コンデンサ試料を作製した。そして、得られた反応済み原料およびコンデンサ試料について、実施例1と同様にして評価を行った。
反応済み原料における、チタン酸バリウム100モルに対するYの酸化物の含有割合(Y元素換算でのモル数)の結果を図3に、また、各電気特性を表1にそれぞれ示す。
【0110】
【表1】

【0111】
評価1
図3より、実施例1の反応済み原料(誘電体粒子)は、粒子表面からの深さが粒径Dの0%以上、10%以下の領域である表面領域において、Yの酸化物の含有割合が減少していく構成となっているとともに、粒子表面からの深さが粒径Dの40%以上、50%以下の領域である中心領域において、Yの酸化物の含有割合が増加していく構成となっていることが確認できる。また、この実施例1においては、各領域におけるYの酸化物の含有割合(すなわち、表面領域におけるM/M10、中心領域におけるM50/M40、中間領域におけるYの酸化物の含有割合)についても、本発明の好ましい範囲内となっていた。
【0112】
これに対して、図3より、比較例1の反応済み原料(誘電体粒子)は、粒子表面からの深さが粒径Dの0%以上、10%以下の領域である表面領域において、Yの酸化物の含有割合が減少していく構成となっている一方で、粒子表面からの深さが粒径Dの40%以上、50%以下の領域である中心領域においては、Yの酸化物の含有割合が増加していく構成となっていなかった。
【0113】
そして、表1より、実施例1は、その他の特性(比誘電率ε、誘電損失tanδ、絶縁抵抗IR、CR積および静電容量の温度特性)を劣化させることなく、IR加速寿命を向上できることが確認できる。一方、比較例1は、IR加速寿命に劣る結果となった。
【0114】
実施例2
反応済み原料を調製する際に、主成分原料として、平均粒径0.3μmのチタン酸バリウム前駆体(蓚酸バリウムチタニル、Ba/Ti=0.995)を使用した以外は、実施例1と同様にして、反応済み原料を調製し、さらに、得られた反応済み原料を用いて、実施例1と同様にして、コンデンサ試料を作製した。そして、得られた反応済み原料およびコンデンサ試料について、実施例1と同様にして評価を行った。結果を図4および表2に示す。
【0115】
なお、実施例2においてはMとM10との比は、M/M10=3.6、M40とM50との比は、M50/M40=5.5となり、さらに、粒子表面からの深さが粒径Dの10%超、40%未満の領域である中間領域における、Yの酸化物の含有割合が、平均モル数Maveの0.2〜6.0倍の範囲内となっていた。
【0116】
実施例3
反応済み原料を調製する際に、主成分原料として、平均粒径0.3μmのチタン酸バリウム前駆体(蓚酸バリウムチタニル、Ba/Ti=1.000)を使用した以外は、実施例1と同様にして、反応済み原料を調製し、さらに、得られた反応済み原料を用いて、実施例1と同様にして、コンデンサ試料を作製した。そして、得られた反応済み原料およびコンデンサ試料について、実施例1と同様にして評価を行った。結果を図4および表2に示す。
【0117】
なお、実施例3においてはMとM10との比は、M/M10=4.6、M40とM50との比は、M50/M40=1.1となり、さらに、粒子表面からの深さが粒径Dの10%超、40%未満の領域である中間領域における、Yの酸化物の含有割合が、平均モル数Maveの0.2〜2.5倍の範囲内となっていた。
【0118】
比較例2
主成分の原料として、平均粒径0.3μmのチタン酸バリウム(Ba/Ti=1.000)を用いるとともに、直接、チタン酸バリウムに、第1〜第5副成分を添加し(第4副成分の添加量は、Y元素換算で、0.2モル)、その後、仮焼・粉砕することにより誘電体磁器組成物粉末を調製した以外は、実施例3と同様にして、コンデンサ試料を作製した。すなわち、比較例2においては、主成分の原料と、第4副成分の原料の少なくとも一部と、を反応させ、反応済み原料を得る工程を採用しなかった。そして、得られたコンデンサ試料について、実施例1と同様にして評価を行った。結果を表2に示す。
また、比較例2においては、チタン酸バリウム原料について、実施例1と同様にして、Yの酸化物の含有割合を測定した。結果を図4に示す。
【0119】
【表2】

【0120】
評価2
図4より、実施例2,3の反応済み原料(誘電体粒子)においても、表面領域において、Yの酸化物の含有割合が減少していく構成となっているとともに、中心領域において、Yの酸化物の含有割合が増加していく構成となっていることが確認できる。また、この実施例2,3においても、各領域におけるYの酸化物の含有割合(すなわち、表面領域におけるM/M10、中心領域におけるM50/M40、中間領域におけるYの酸化物の含有割合)についても、本発明の好ましい範囲内となっていた。
【0121】
これに対して、図4より、比較例2においては、チタン酸バリウムを、Yの酸化物と予め反応させなかったため、Yの酸化物は検出されなかった。
【0122】
そして、表2より、実施例2,3は、その他の特性(比誘電率ε、誘電損失tanδ、絶縁抵抗IR、CR積および静電容量の温度特性)を劣化させることなく、IR加速寿命を向上できることが確認できる。
【0123】
一方、比較例2および実施例3の結果を比較することにより、略同じ平均粒子径を有し、しかも、共にBa/Ti=1.000である主成分原料を使用したにも拘わらず、比較例2は、実施例3と比較して、全ての特性(特に、IR加速寿命)に劣る結果となることが確認できる。
【図面の簡単な説明】
【0124】
【図1】図1は本発明の一実施形態に係る積層セラミックコンデンサの断面図である。
【図2】図2は本発明の一実施形態に係る誘電体粒子の粒子内構造を説明するための概念図である。
【図3】図3は本発明の実施例および比較例に係る誘電体粒子の粒子表面から中心部までの深さと、Rの酸化物(Yの酸化物)の含有割合と、の関係を示すグラフである。
【図4】図4は本発明の実施例および比較例に係る誘電体粒子の粒子表面から中心部までの深さと、Rの酸化物(Yの酸化物)の含有割合と、の関係を示すグラフである。
【符号の説明】
【0125】
1… 積層セラミックコンデンサ
10… コンデンサ素子本体
2… 誘電体層
3… 内部電極層
4… 外部電極

【特許請求の範囲】
【請求項1】
チタン酸バリウムを含む主成分と、
Rの酸化物(ただし、RはY,La,Ce,Pr,Nd,Pm,Sm,Eu,Gd,Tb,Dy,Ho,Er,Tm,YbおよびLuから選択される少なくとも1種)と、を含有する誘電体粒子であって、
前記誘電体粒子の粒径をDとし、
それぞれ、粒子表面からの深さが前記Dの0%以上、10%以下の領域を表面領域、粒子表面からの深さが前記Dの10%超、40%未満の領域を中間領域、粒子表面からの深さが前記Dの40%以上、50%以下の領域を中心領域、とした場合に、
前記表面領域においては、前記誘電体粒子表面側から中心部に向かって、前記Rの酸化物の含有割合が、減少していく構成となっているとともに、
前記中心領域においては、前記誘電体粒子表面側から中心部に向かって、前記Rの酸化物の含有割合が、増加していく構成となっていることを特徴とする誘電体粒子。
【請求項2】
前記誘電体粒子全体における、前記チタン酸バリウム100モルに対する前記Rの酸化物の、R元素換算での平均モル数を、Maveとした場合に、前記Maveが、0モルより多く、0.5モル以下である請求項1に記載の誘電体粒子。
【請求項3】
前記表面領域における、前記Rの酸化物の含有割合に関し、
前記Dの0%および10%の各深さにおける、前記チタン酸バリウム100モルに対する前記Rの酸化物の、R元素換算でのモル数を、それぞれMおよびM10とした場合に、これらの比であるM/M10が1〜30(ただし、1は含まない)である請求項1または2に記載の誘電体粒子。
【請求項4】
前記中心領域における、前記Rの酸化物の含有割合に関し、
前記Dの40%および50%の各深さにおける、前記チタン酸バリウム100モルに対する前記Rの酸化物の、R元素換算でのモル数を、それぞれM40およびM50とした場合に、これらの比であるM50/M40が1〜100(ただし、1は含まない)である請求項1〜3のいずれかに記載の誘電体粒子。
【請求項5】
前記中間領域における、前記チタン酸バリウム100モルに対する前記Rの酸化物の、R元素換算でのモル数が、前記Maveの0.2倍以上、8.0倍以下の範囲である請求項1〜4のいずれかに記載の誘電体粒子。
【請求項6】
チタン酸バリウムを含む主成分と、
Rの酸化物(ただし、RはY,La,Ce,Pr,Nd,Pm,Sm,Eu,Gd,Tb,Dy,Ho,Er,Tm,YbおよびLuから選択される少なくとも1種)を含む第4副成分と、を有する誘電体磁器組成物を製造する方法であって、
前記主成分の原料と、前記第4副成分の原料の少なくとも一部と、が予め反応した反応済み原料を準備する工程と、
前記反応済み原料と、前記誘電体磁器組成物に含有されることとなる残りの前記第4副成分の原料を添加して、誘電体磁器組成物粉末を得る工程と、
前記誘電体磁器組成物粉末を焼成する工程と、を有し、
前記反応済み原料として、請求項1〜5のいずれかに記載の誘電体粒子を用いることを特徴とする誘電体磁器組成物の製造方法。
【請求項7】
最終的に得られる前記誘電体磁器組成物中における前記第4副成分の含有量が、前記主成分100モルに対して、R元素換算で、0.1〜10モルである請求項6に記載の誘電体磁器組成物の製造方法。
【請求項8】
前記誘電体磁器組成物に最終的に含有されることとなる前記第4副成分の総量100モル%に対する、前記反応済み原料中に含有されている前記第4副成分の比率が、R元素換算で、0モル%より多く、50モル%未満である請求項6または7に記載の誘電体磁器組成物の製造方法。
【請求項9】
前記誘電体磁器組成物は、
MgO、CaO、BaOおよびSrOから選択される少なくとも1種を含む第1副成分と、
SiOを主として含有し、MO(ただし、MはMg、Ca、BaおよびSrから選択される少なくとも1種)、LiOおよびBから選択される少なくとも1種を含む第2副成分と、
、MoOおよびWOから選択される少なくとも1種を含む第3副成分と、をさらに含有し、
前記主成分100モルに対する各副成分の比率が、
第1副成分:0.1〜5モル、
第2副成分:0.1〜12モル、
第3副成分:0〜0.3モル(ただし、0は含まない)、
である請求項6〜8のいずれかに記載の誘電体磁器組成物の製造方法。
【請求項10】
前記誘電体磁器組成物は、MnOおよびCrから選択される少なくとも1種を含む第5副成分を、さらに含有し、
前記主成分100モルに対する第5副成分の比率が、0.05〜1.0モルである請求項6〜9のいずれかに記載の誘電体磁器組成物の製造方法。
【請求項11】
請求項6〜10のいずれかに記載の方法により製造される誘電体磁器組成物。
【請求項12】
請求項11に記載の誘電体磁器組成物で構成してある誘電体層を有する電子部品。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2007−261876(P2007−261876A)
【公開日】平成19年10月11日(2007.10.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−89061(P2006−89061)
【出願日】平成18年3月28日(2006.3.28)
【出願人】(000003067)TDK株式会社 (7,238)
【Fターム(参考)】