説明

誘電性エラストマー組成物および高周波用電子部品材料

【課題】高周波用電子部品材料として十分な誘電特性を有するとともに、必要に応じて環境への影響を配慮しつつ優れた難燃性を付与できる誘電性エラストマー組成物、および該組成物を成形してなる高周波用電子部品材料を提供する。
【解決手段】エラストマーに、誘電性セラミックスおよび金属水酸化物から選ばれた少なくとも一つを配合し、かつカーボンブラックを配合してなる高誘電性エラストマー組成物であって、上記カーボンブラックは平均粒子径が 50〜200 nm であり、上記エラストマー 100 重量部に対して、5〜40 重量部配合し、周波数 400 MHz および温度 30℃において、上記誘電性エラストマー組成物の比誘電率が 3 以上、誘電正接が 0.01 以下であり、高周波用電子部品材料は上記誘電性エラストマー組成物を成形してなる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は優れた難燃性と誘電特性とを合わせ持つ誘電性エラストマー組成物、および該組成物を成形してなる高周波用電子部品材料に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、携帯電話、コードレスフォン、RFID等に用いるパッチアンテナ、電波望遠鏡やミリ波レーダ等のレンズアンテナ等の目覚しい普及、衛星通信機器の著しい発達に伴い、通信信号の周波数の高周波化および通信機器の一層の小型化が望まれている。通信機器は、通信機器内部に組み込まれたアンテナ材料の比誘電率が高くなると、より一層の高周波化および小型化が図れる。比誘電率は、誘電体内部の分極の程度を示すパラメータである。従って、比誘電率の高いアンテナ材料を使用できれば、高周波化ひいては回路の短縮化および通信機器の小型化が図れる。また、通信機器の使用態様が多様化するにつれ、アンテナ材料には、低温から高温まで電気的特性の変化が少ないことや、難燃性に優れること等も求められている。また、アンテナ材料の誘電正接が低くなると通信時の消費電力を抑制できる。
【0003】
従来、低温から高温まで広い温度範囲にわたって、高い比誘電率を示し、かつ低誘電正接を有するアンテナを得るための材料として、エチレンプロピレンゴム等のエラストマーに、−40℃〜100℃の温度範囲において比誘電率の温度係数α(単位:1/℃)が(−200〜100)×10-6 の範囲にあるバリウム・ネオジム系セラミックス粉末等を配合した誘電性エラストマー組成物が知られている(特許文献1参照)。
また、誘電正接が 0.007 以下であるエラストマーに、誘電性セラミックスおよびカーボンブラックを少なくとも配合してなる高誘電性エラストマー組成物であって、上記エラストマー 100 重量部に対して、上記誘電性セラミックスを 600〜1400 重量部および上記カーボンブラックを 5〜40 重量部配合した高誘電性エラストマー組成物が知られている(特許文献2参照)。
【0004】
しかしながら、特許文献2は、配合するカーボンブラックについては種類の限定がなされておらず、高誘電率かつ低誘電正接を示す材料を得るためのカーボンブラックに関する記載が不十分である。
【0005】
一方、アンテナ材料等における難燃性向上策としては、従来、ポリブロモジフェニルエーテル(以下、PBDEと記す)やポリブロモビフェニル(以下、PBBと記す)等の臭素系あるいは塩素系のハロゲン系難燃剤を配合することが知られている。また、PBB、PBDE以外の臭素系難燃剤の場合、難燃性を高めるため通常は三酸化アンチモンを併用している。
また、一般的に、エラストマー系材料において難燃性を向上させるためには、上記ハロゲン系難燃剤の他、金属水酸化物、膨張化黒鉛などを配合することが知られている。金属水酸化物は、例えば電子写真装置の転写ベルト等を構成するエラストマー系材料等に配合することが知られている(特許文献3参照)
【0006】
しかしながら、特許文献1の誘電性エラストマー組成物は、低温から高温まで電気的特性の変化が少なく優れた誘電特性を有するが、難燃剤を含んでおらず、難燃性が要求される用途には使用できないという問題がある。
このような誘電性エラストマー組成物の難燃性向上のために、難燃剤として上記ハロゲン系難燃剤を用いる場合では、廃棄時にハロゲン系難燃剤からダイオキシンが発生することが懸念され、環境上好ましくない。特に、PBB、PBDEについては、2003年1月制定の欧州連合(EU)のRoHS指令(電気・電子機器における特定有害物質の使用制限指令)により、これらを電機電子製品に使用することができない。
また、PBB、PBDE以外の臭素系難燃剤は使用禁止とされていないものの、上述したように三酸化アンチモンを併用しており、この三酸化アンチモンには不純物として鉛、水銀、六価クロム、カドミウム等を微量に含むので好ましくない。
【特許文献1】特開2006−1989号公報
【特許文献2】特開2006−290939号公報
【特許文献3】特開2005−97493号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明はこのような問題に対処するためになされたものであり、高周波用電子部品材料として十分な誘電特性を有するとともに、必要に応じて環境への影響を配慮しつつ優れた難燃性を付与できる誘電性エラストマー組成物、および該組成物を成形してなる高周波用電子部品材料の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の誘電性エラストマー組成物は、エラストマーに、誘電性セラミックスおよび金属水酸化物から選ばれた少なくとも一つを配合し、かつカーボンブラックを配合してなる高誘電性エラストマー組成物であって、上記カーボンブラックは平均粒子径が 50〜200 nm であり、上記エラストマー 100 重量部に対して、5〜40 重量部配合し、周波数 400 MHz および温度 30℃において、上記誘電性エラストマー組成物の比誘電率が 3 以上、誘電正接が 0.01 以下であることを特徴とする。
【0009】
上記誘電性エラストマー組成物は、ポリブロモジフェニルエーテルおよびポリブロモビフェニルを除く臭素系難燃剤を配合してなることを特徴とする。
また、上記金属水酸化物が、水酸化マグネシウムまたは水酸化アルミニウムであることを特徴とする。
【0010】
上記エラストマーは、スチレン系およびオレフィン系エラストマーの中から選ばれる少なくとも1つのエラストマーであることを特徴とする。特に、上記エラストマーがエチレンプロピレンゴムであることを特徴とする。
【0011】
本発明の高周波用電子部品材料は、周波数 100 MHz 以上の電気信号を取り扱うための高周波用電子部品材料であって、上記誘電性エラストマー組成物の成形体を用いてなることを特徴とする。
上記誘電性エラストマー成形体の表面に電極を張合わせ加工、または、上記成形体の内部に電極をインサート成形することにより得られることを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明の誘電性エラストマー組成物は、エラストマーに、誘電性セラミックスおよび金属水酸化物から選ばれた少なくとも一つを配合し、かつカーボンブラックを配合してなる高誘電性エラストマー組成物であって、上記カーボンブラックは平均粒子径が 50〜200 nm であり、上記エラストマー 100 重量部に対して、5〜40 重量部配合し、周波数 400 MHz および温度 30℃において、上記誘電性エラストマー組成物の比誘電率が 3 以上、誘電正接が 0.01 以下であるので、高周波用電子部品材料として十分な誘電特性を維持できる。
【0013】
所定範囲の平均粒子径を有するカーボンブラックを配合することで、未配合の場合よりも比誘電率を高めるとともに、誘電正接が 0.01 をこえることを防止できる。
また、上記誘電性エラストマー組成物に配合するプロセスオイルに対し、カーボンブラックがプロセスオイルの保油体となり、混練時に生じるプロセスオイルのブリードが低減し、有効に作用するプロセスオイルを確保できるので、カーボンブラック未配合の場合よりも上記誘電性エラストマー組成物の混練性を向上させることができる。
【0014】
金属水酸化物を配合することで、環境へ悪影響を及ぼさずに難燃性を付与できる。また、臭素系難燃剤を併用することで、PBDE、PBB以外の臭素系難燃剤を使用しながら、三酸化アンチモンを併用せずに優れた難燃性を確保でき、環境上好ましい誘電性エラストマー組成物を得ることができる。また、難燃剤が金属水酸化物のみの場合と比較して、金属水酸化物の配合量を少なくでき、誘電性エラストマー組成物の成形性が悪化することや、誘電正接が高くなること等を抑制できる。
【0015】
本発明の高周波用電子部品材料は、上記誘電性エラストマー組成物を成形してなるので、高い比誘電率と低い誘電正接とが両立する誘電特性を維持しながら難燃性にも優れる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
本発明者らは、カーボンブラックを高配合すると、誘電性エラストマー組成物の誘電正接が高くなるのは、その粒子径による影響が大きいことに着目し、最適な粒子径を有するカーボンブラックを所定量使用することで、アンテナ等の高周波用電子部品材料として十分な比誘電率と誘電正接を有する誘電性エラストマー組成物を得た。本発明は以上のような知見に基づくものである。
【0017】
本発明に使用できるカーボンブラックは、ハードカーボン、ソフトカーボン等の顔料、耐摩耗性向上等に使用されるカーボンブラックを挙げることができる。ただし、導電性の良いアセチレン系のカーボンブラックは、誘電正接の増加量が多いので好ましくない。
【0018】
本発明に使用できるカーボンブラックの平均粒子径は 50〜200 nm である。より好ましくは 90〜130 nm である。カーボンブラックの平均粒子径が 50 nm 未満の場合、ベースとなるエラストマーとの接触する面積が増えるため、誘電正接が大きくなるので好ましくない。また、細かすぎて取り扱いも困難であるので好ましくない。また、平均粒子径が 200 nm より大きいカーボンブラックの場合、分散性が悪いので好ましくない。
平均粒子径 50〜200 nm を有するカーボンブラックの市販品としては、例えば東海カーボン社製:シーストFM、シーストS、シーストSP、シーストTA等が挙げられる。
【0019】
本発明においてカーボンブラックの配合割合は、上記エラストマー 100 重量部に対して、5〜40 重量部である。5 重量部未満であるとカーボンブラックを配合した効果による比誘電率の増加量は少ない。また、この場合、カーボンブラックの保油効果が少ないため成形体表面へのプロセスオイルのブリードが発生し、電極との密着性が低下し、誘電特性が大きく変化するので好ましくない。一方、40 重量部をこえる場合、誘電正接が大きくなるため、好ましくない。
【0020】
本発明の誘電性エラストマー組成物を構成するエラストマーとしては、天然ゴム系エラストマーおよび合成ゴム系エラストマーを使用できる。
天然ゴム系エラストマーとしては、天然ゴム、塩化ゴム、塩酸ゴム、環化ゴム、マレイン酸化ゴム、水素化ゴム、天然ゴムの二重結合にメタクリル酸メチル、アクリロニトリル、メタクリル酸エステル等のビニルモノマーをグラフトさせてなるグラフト変性ゴム、窒素気流中でモノマー存在下に天然ゴムを粗錬してなるブロックポリマー等を挙げることができる。これらは、天然ゴムを原料とするものの他、合成 cis-1,4-ポリイソプレンを原料としたエラストマーを挙げることができる。
【0021】
合成ゴム系エラストマーとしては、イソブチレンゴム、エチレンプロピレンゴム、エチレンプロピレンジエンゴム、エチレンプロピレンターポリマー、クロロスルホン化ポリエチレンゴム等のポリオレフィン系エラストマー、スチレン−イソプレン−スチレンブロックコポリマー(SIS)、スチレン−ブタジエン−スチレンコポリマー(SBS)、スチレン−エチレン−ブチレン−スチレンブロックコポリマー(SEBS)等のスチレン系エラストマー、イソプレンゴム、ウレタンゴム、エピクロルヒドリンゴム、シリコーンゴム、ナイロン12、ブチルゴム、ブタジエンゴム、ポリノルボルネンゴム、アクリロニトリル−ブタジエンゴム等を挙げることができる。
これらの中で電気特性から、スチレン系およびオレフィン系エラストマーの中から選ばれる少なくとも1つのエラストマーを用いることが好ましい。特にエチレンプロピレンゴム、エチレンプロピレンジエンゴムは誘電正接が極めて低いので、アンテナなどの高周波用電子部品材料として好ましく用いることができる。
【0022】
これらのエラストマーは、1種類または2種類以上混合して用いることができる。また、エラストマーの持つ弾力性を損なわない範囲内で熱可塑性樹脂の1種または2種以上を配合して用いることができる。
本発明に使用できるエラストマーとしては、25℃において、比重が 0.8〜1.1 であるエラストマーが好ましい。比重が 0.8 未満であると、低分子量のため強度が弱く、成形体の空孔が多くなるので好ましくない。また、比重が 1.1 をこえると製品重量が重くなるので好ましくない。
【0023】
本発明の誘電性エラストマー組成物は、その比誘電率を向上させるため、誘電性セラミックス粉末を配合することが好ましい。
本発明に使用できる誘電性セラミックス粉末は、IIa、IVa、III b、IVb族の酸化物、炭酸塩、リン酸塩、珪酸塩、またはIIa、IVa、III b、IVb族を含む複合酸化物から選ばれる少なくとも一つであることが好ましい。具体的には、TiO2、CaTiO3、MgTiO3、Al23、BaTiO3、SrTiO3、Ca227、SiO2、Mg2 SiO4、Ca2 MgSi27 、あるいは比誘電率の温度依存性を改良するため、アルカリ土類金属と希土類酸化物を配合したBaO−TiO2−Nd23系セラミックス等が挙げられる。また、特性改良のため、Al、Zr等の微量組成物を配合してもよい。
【0024】
誘電性セラミックス粉末の平均粒子径は 0.01〜100μm 程度が好ましい。0.01μm より小さい場合、粉末の取り扱いが困難であり好ましくない。100μm より大きい場合、成形体内での分散性が悪くなり、誘電特性のばらつきを引き起こす恐れがあるので好ましくない。より実用的な範囲は、0.1〜20μm 程度である。
【0025】
本発明の誘電性エラストマー組成物における誘電性セラミックス粉末の配合割合は、エラストマー 100 重量部に対して 50〜600 重量部であることが好ましい。上記範囲で誘電性セラミックス粉末を配合することで、未配合時よりも比誘電率を 2〜16 程度向上させることができる。
【0026】
本発明の誘電性エラストマー組成物は、比誘電率の向上に加えて、環境へ悪影響を及ぼさずに難燃性を付与するために、金属水酸化物を配合することが好ましい。
本発明に使用できる金属水酸化物としては、水酸化マグネシウム、水酸化アルミニウム、ドーソナイト、アルミン酸化カルシウム、水酸化カルシウム、水酸化バリウム、ハイドロタルサイト等が挙げられる。これらの金属水酸化物は、高熱下で吸熱脱水反応を起こすことにより、吸熱し、水分子を放出することで、温度を低下させ難燃性を付与できる。なお、上記金属水酸化物は、分散性、加工性などを改良するため、シランカップリング剤、チタネート系カップリング剤、エポキシ系表面処理剤、高級脂肪酸またはその塩、高級アルコール、界面活性剤等により表面処理が施されていてもよい。
【0027】
これらの金属水酸化物は、1種類または2種類以上を併用してもよい。2種類以上の金属水酸化物を併用する場合、それぞれの金属水酸化物が異なる温度で吸熱脱水反応を開始するため、より優れた難燃性を付与できる。
【0028】
以上の金属水酸化物の中で、安価でかつ水和物含有量が多いことから、水酸化マグネシウムおよび水酸化アルミニウムから選ばれた少なくとも一つであることが好ましい。水酸化マグネシウムおよび水酸化アルミニウムは、BET比表面積は 1〜20 m2/g 以下の範囲にあり、かつ平均粒子径が 0.1〜50μm の範囲であることが好ましい。また、それぞれの分解温度は、水酸化マグネシウムが 300〜350℃、水酸化アルミニウムが 200〜230℃である。
【0029】
本発明に使用できる水酸化マグネシウムの市販品としては、堺化学工業社製:MGZ−1(平均粒子径:0.8μm )、MGZ−3(平均粒子径 0.1μm )、神島化学工業社製:WX−3(平均粒子径 2.5μm )、WH−3(平均粒子径 2.5μm )、N−4(平均粒子径:1.1μm )、N−6(平均粒子径:1.3μm )、協和化学社製:キスマ5A(平均粒子径 0.85μm )、キスマ5B(平均粒子径 0.87μm )、タテホ化学工業社製:エコーマグZ−10などが挙げられる。また、水酸化アルミニウムの市販品としては、日本軽金属社製:B703S(平均粒子径 2μm )などが挙げられる。
【0030】
本発明の誘電性エラストマー組成物における金属水酸化物の配合割合は、エラストマー 100 重量部に対して 100〜600 重量部であることが好ましい。より好ましくは、100〜400 重量部である。さらに好ましくは、150〜300 重量部である。
100 重量部未満であると、十分な難燃性を得ることができない。一方、600 重量部をこえると、誘電正接が温度によっては 0.02 以上となる等、アンテナ等の高周波用電子部品材料として要求される誘電特性を満足できなくなる。また、上記範囲で金属水酸化物を配合することで、比誘電率の温度変化を小さくできる。
【0031】
また、環境への負荷と難燃性の付与を考慮したうえで、難燃効果の大きい臭素系難燃剤を必要最小量添加してもよい。
臭素系難燃剤としては、PBDEおよびPBBを除く臭素系難燃剤であれば任意のものを使用できる。例えば、エチレンビスペンタブロモベンゼン、デカブロモジフェニルエーテル、TBA-ビス(2,3-ジブロモプロピルエーテル)、ビス(3,5-ジブロモ-4-ジブロモプロピルオキシフェニル)スルホン、トリアリルイソシアネート6臭化物、ヘキサブロモシクロドデカン、オクタブロモジフェニルエーテル、テトラブロモビスフェノールA、エチレンビステトラブロモフタルイミド、臭素化ポリスチレン等が挙げられる。
これらの中で、融点が 300℃以上、臭素化率が 80 %以上と高いことから、エチレンビスペンタブロモベンゼン、デカブロモジフェニルエーテルが好ましい。エチレンビスペンタブロモベンゼンの市販品としては、鈴裕化学社製:FCP801が、デカブロモジフェニルエーテルの市販品としては、鈴裕化学社製:FCP83Dがそれぞれ挙げられる。
【0032】
本発明においては、本発明の効果を妨げない範囲で(1)エラストマーと、セラミックス粉末との界面の親和性や接合性を向上させ、機械的強度を改良するために、シラン系カップリング剤、チタネート系カップリング剤、ジルコニアアルミネート系カップリング剤等のカップリング剤を、(2)電極形成のためのメッキ性を改良するために、タルク、ピロリン酸カルシウム等の微粒子性充填剤を、(3)熱安定性を一層改善するために酸化防止剤を、(4)耐光性を改良するために紫外線吸収剤等の光安定剤を、(5)耐衝撃性を改良するために耐衝撃性付与剤を、(6)着色するために染料、顔料などの着色剤を、(7)物性を調整するために可塑剤、硫黄やパーオキサイド等の架橋剤を、(8)加硫を進めるための加硫促進剤をそれぞれ配合できる。
【0033】
また、本発明の誘電性エラストマー組成物には、本発明の目的を損なわない範囲内でガラスファイバー、チタン酸カリウムウィスカ等のチタン酸アルカリ金属繊維、酸化チタン繊維、ホウ酸マグネシウムウィスカやホウ酸アルミニウウムウィスカ等のホウ酸金属塩系繊維、ケイ酸亜鉛ウィスカやケイ酸マグネシウムウィスカ等のケイ酸金属系繊維、カーボンファイバ、アルミナ繊維、アラミド繊維等の各種有機または無機の充填剤を併用できる。
【0034】
本発明の誘電性エラストマー組成物の製造方法としては、特に制限がなく、各種の混合成形方法を用いることができる。例えば、上述した誘電性セラミックス粉末、金属水酸化物、カーボンブラック、各種添加剤、加硫剤等をエラストマーに配合し、これをバンバリーミキサー、ローラー、2軸押し出し機等で混錬して製造する方法などが挙げられる。
得られた誘電性エラストマー組成物を、射出成形や押し出し成形、加熱圧縮成形等により成形して誘電性エラストマー組成物の成形体を得ることができる。
【0035】
本発明の高周波用電子部品材料は、上述の誘電性エラストマー組成物の成形体の表面に電極を張合わせ加工、または、電極の両面に誘電性エラストマーを張合わせ加工、あるいは誘電性エラストマー成形体内部に電極をインサート成形することにより容易に得ることができる。
張合わせ加工に用いる接着手段として、例えば京セラケミカル社製:TFA−880CC、TFA−890EA、信越化学工業社製:E56、ニッカン工業社製:SAFV、SAFD、SAFW等の接着フィルムを利用することができる。その他、接着剤を塗布して張合わせることも可能である。
また、インサート成形については所定の位置に電極を装着した成形用金型に誘電性エラストマー組成物を充填し成形することができる。
【実施例】
【0036】
実施例1〜実施例11および比較例1〜比較例4
エチレンプロピレンゴム(JSR社製:EP35)と、誘電性セラミックス粉末(共立マテリアル社製:HF−120またはSTNAS)と、カーボンブラック(東海カーボン社製:シーストシリーズ5種類)と、水酸化マグネシウム(堺化学工業社製:MGZ−1)と、臭素系難燃剤(鈴裕化学社製:FCP801)と、プロセスオイル(出光興産社製:PW380)と、酸化亜鉛(井上石灰工業社製:META−Z L40)と、ステアリン酸(花王社製:ルナックS−30)とをそれぞれ表1に示す配合割合で混合し、さらに老化防止剤(精工科学社製:ノンフレックスRD)、加硫促進剤(住友化学社製:ソクシノールM)および過酸化物架橋剤(精工科学社製:ハイクロスM)を加えて、加圧ニーダで混練り後、加熱圧縮成形にて、80 mm×80 mm×1.5 mm の成形体を得た。加硫条件は、それぞれ 170℃×20分である。なお、表中の粒子径は、平均粒子径である。
各実施例および比較例にて得られた誘電性エラストマー組成物の成形体について、比誘電率および誘電正接の測定を以下の方法により行なった。結果を表1に併記する。
【0037】
<比誘電率および誘電正接の測定>
得られた成形体を容量法により 400 MHz の周波数帯において、30℃を基準とする比誘電率および誘電正接を測定した。容量法に用いた測定装置はインピーダンスアナライザー:E4991A(アジレント・テクノロジー社製)、電極は16453A(アジレント・テクノロジー社製)をそれぞれ用いた。
【0038】
<難燃性試験>
難燃剤を配合して得られた成形体についてはまたはASTM D3801に準拠するUL94V燃焼試験に供し、成形体の難燃性について試験法で規定する難燃性等級を得た。
【0039】
【表1】

【0040】
表1に示すように、各実施例では、比誘電率が 3 以上、かつ、誘電正接も 0.01 以下であり、誘電特性に優れていた。これに対して、平均粒子径が 50 nm 未満(43 nm )のカーボンブラックを用いた比較例2〜比較例4では、比誘電率が向上するものの、誘電正接が 0.01 をこえておりアンテナ部材等には適さない。また、カーボンブラックを過剰に配合した比較例1も、同様に誘電正接が高くなった。
また、カーボンブラックを 25 重量部配合した実施例2、実施例4〜実施例6を比較すると、カーボンブラックの粒子径が 95 nm および 122 nm の場合の誘電正接がいずれも 0.004 以下であり、特にカーボンブラックの粒子径が 90〜130 nm 程度であると優れた誘電特性を示すことがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0041】
本発明の誘電性エラストマー組成物は、必要に応じて環境への影響を配慮しつつ優れた難燃性を付与でき、かつ誘電正接が低いので、高周波用電子部品用材料として好適に利用できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エラストマーに、誘電性セラミックスおよび金属水酸化物から選ばれた少なくとも一つを配合し、かつカーボンブラックを配合してなる誘電性エラストマー組成物であって、
前記カーボンブラックは、平均粒子径が 50〜200 nm であり、前記エラストマー 100 重量部に対して、5〜40 重量部配合してなり、
周波数 400 MHz および温度 30℃において、前記誘電性エラストマー組成物の比誘電率が 3 以上、誘電正接が 0.01 以下であることを特徴とする誘電性エラストマー組成物。
【請求項2】
前記誘電性エラストマー組成物は、ポリブロモジフェニルエーテルおよびポリブロモビフェニルを除く臭素系難燃剤を配合してなることを特徴とする請求項1記載の誘電性エラストマー組成物。
【請求項3】
前記金属水酸化物は、水酸化マグネシウムまたは水酸化アルミニウムであることを特徴とする請求項1または請求項2記載の誘電性エラストマー組成物。
【請求項4】
前記エラストマーは、スチレン系およびオレフィン系エラストマーの中から選ばれる少なくとも1つのエラストマーであることを特徴とする請求項1、請求項2または請求項3記載の高誘電性エラストマー組成物。
【請求項5】
前記エラストマーは、エチレンプロピレンゴムであることを特徴とする請求項1ないし請求項4のいずれか一項記載の高誘電性エラストマー組成物。
【請求項6】
周波数 100 MHz 以上の電気信号を取り扱うための高周波用電子部品材料であって、
請求項1ないし請求項5のいずれか一項記載の誘電性エラストマー組成物の成形体を用いてなることを特徴とする高周波用電子部品材料。
【請求項7】
前記誘電性エラストマー成形体の表面に電極を張合わせ加工、または、前記成形体の内部に電極をインサート成形することにより得られることを特徴とする請求項6記載の高周波用電子部品材料。

【公開番号】特開2009−108236(P2009−108236A)
【公開日】平成21年5月21日(2009.5.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−283300(P2007−283300)
【出願日】平成19年10月31日(2007.10.31)
【出願人】(000102692)NTN株式会社 (9,006)
【Fターム(参考)】