誘電積層体およびそれを用いたトランスデューサ
【課題】 電圧印加時の漏れ電流が小さく、耐絶縁破壊性に優れると共に、大きな力を出力することができる誘電積層体を提供する。また、発生力が大きく、耐久性に優れたトランスデューサを提供する。
【解決手段】 誘電積層体9を、エラストマーとイオン成分とを含むイオン含有層91と、エラストマーを含みイオン含有層91よりも大きな体積抵抗率を有する高抵抗層90と、を積層させて構成する。この誘電積層体9を、少なくとも一対の電極間に介装して、トランスデューサを構成する。
【解決手段】 誘電積層体9を、エラストマーとイオン成分とを含むイオン含有層91と、エラストマーを含みイオン含有層91よりも大きな体積抵抗率を有する高抵抗層90と、を積層させて構成する。この誘電積層体9を、少なくとも一対の電極間に介装して、トランスデューサを構成する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アクチュエータ、センサ等のトランスデューサに好適な誘電積層体、およびそれを用いたトランスデューサに関する。
【背景技術】
【0002】
トランスデューサには、機械エネルギーと電気エネルギーとの変換を行うアクチュエータ、センサ、発電素子等、あるいは音響エネルギーと電気エネルギーとの変換を行うスピーカ、マイクロフォン等がある。柔軟性が高く、小型で軽量なトランスデューサを構成するためには、誘電体エラストマー等の高分子材料が有用である。
【0003】
例えば、誘電体エラストマーからなる誘電膜の厚さ方向両面に、一対の電極を配置して、アクチュエータを構成することができる。この種のアクチュエータでは、電極間への印加電圧を大きくすると、電極間の静電引力が大きくなる。このため、電極間に挟まれた誘電膜は厚さ方向から圧縮され、誘電膜の厚さは薄くなる。膜厚が薄くなると、その分、誘電膜は電極面に対して平行方向に伸長する。一方、電極間への印加電圧を小さくすると、電極間の静電引力が小さくなる。このため、誘電膜に対する厚さ方向からの圧縮力が小さくなり、誘電膜の弾性復元力により膜厚は厚くなる。膜厚が厚くなると、その分、誘電膜は電極面に対して平行方向に収縮する。このように、アクチュエータは、誘電膜を伸長、収縮させることによって、駆動対象部材を駆動させる。
【0004】
アクチュエータから取り出される力および変位量を大きくするという観点から、誘電膜は、以下の特性を有することが望ましい。すなわち、電圧印加時に、誘電膜の内部に多くの電荷を蓄えられるように比誘電率が大きいこと、高電界に耐えられるように耐絶縁破壊性に優れること、繰り返し伸縮可能なように柔軟性が高いこと、等である。したがって、誘電膜の材料としては、耐絶縁破壊性に優れるシリコーンゴムや、比誘電率が大きいアクリルゴム、ニトリルゴム等が用いられることが多い(例えば、特許文献1、2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特表2003−506858号公報
【特許文献2】特表2001−524278号公報
【特許文献3】特開2005−51949号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
例えば、シリコーンゴムは、シロキサン結合を骨格とする。このため、電気抵抗が大きい。よって、シリコーンゴムからなる誘電膜は、大きな電圧を印加しても絶縁破壊しにくい。しかしながら、シリコーンゴムの極性は小さい。つまり、比誘電率が小さい。このため、シリコーンゴムからなる誘電膜を用いてアクチュエータを構成した場合には、印加電圧に対する静電引力が小さい。よって、実用的な電圧により、所望の力および変位量を得ることができない。
【0007】
一方、アクリルゴムやニトリルゴムの比誘電率は、シリコーンゴムの比誘電率よりも大きい。このため、誘電膜の材料にアクリルゴム等を用いると、印加電圧に対する静電引力が、シリコーンゴムを用いた場合と比較して大きくなる。しかしながら、アクリルゴム等の電気抵抗は、シリコーンゴムと比較して小さい。このため、誘電膜が絶縁破壊しやすい。また、電圧印加時に電流が誘電膜中を流れてしまい(いわゆる漏れ電流)、誘電膜と電極との界面付近に電荷が溜まりにくい。したがって、比誘電率が大きいにも関わらず、静電引力が小さくなり、充分な力および変位量を得ることができない。さらに、電流が誘電膜中を流れると、発生するジュール熱により、誘電膜が破壊されるおそれがある。このように、一つの材料により、発生力と耐絶縁破壊性とを満足する誘電膜を実現することは、難しい。
【0008】
本発明は、このような実情に鑑みてなされたものであり、電圧印加時の漏れ電流が小さく、耐絶縁破壊性に優れると共に、大きな力を出力することができる誘電積層体を提供することを課題とする。また、そのような誘電積層体を用いて、発生力が大きく、耐久性に優れたトランスデューサを提供する。
【課題を解決するための手段】
【0009】
(1)本発明の誘電積層体は、エラストマーとイオン成分とを含むイオン含有層と、エラストマーを含み該イオン含有層よりも大きな体積抵抗率を有する高抵抗層と、が積層されてなることを特徴とする。
【0010】
本発明の誘電積層体を用いてトランスデューサを構成する場合には、誘電積層体の積層方向両面に、少なくとも一対の電極を配置する。この際、一対の電極のうちの少なくとも一方は、イオン含有層と接触するように配置される。イオン含有層は、エラストマーとイオン成分とを含む。ここで、電極間に電圧が印加されると、イオン含有層において、イオン成分のカチオンとアニオンとが、誘電分極する。これにより、イオン含有層の内部に、多くの電荷が発生する。一方、本発明の誘電積層体においては、イオン含有層と隣接して、イオン含有層よりも大きな体積抵抗率を有する高抵抗層が配置される。このため、イオン含有層の内部や、イオン含有層と接する高抵抗層の界面付近に、多くの電荷が蓄えられる。これにより、電極から誘電積層体を圧縮するように、大きな静電引力が発生する。したがって、本発明の誘電積層体によると、実用的な電圧範囲において、大きな力を発生させることができる。
【0011】
また、電荷が高抵抗層内を移動しにくいため、誘電積層体における漏れ電流は小さい。このため、ジュール熱の発生が抑制される。よって、熱により、誘電積層体の物性が変化したり、誘電積層体が破壊されるおそれは小さい。また、高抵抗層の電気抵抗は大きい。よって、本発明の誘電積層体は、耐絶縁破壊性に優れる。したがって、より大きな電圧を印加することにより、発生力をより増加させることができる。このように、本発明の誘電積層体によると、発生力が大きく、かつ耐絶縁破壊性に優れたトランスデューサを、実現することができる。
【0012】
ちなみに、上記特許文献3には、一対の電極間に、導電性ポリマー層とイオン電解質含有層とが介装されたアクチュエータが、開示されている。特許文献3のアクチュエータによると、電圧を印加して、イオン電解質含有層のイオンを、導電性ポリマー層にドープまたはアンドープさせる。これにより、導電性ポリマー層を伸縮させて、力を発生させる。特許文献3のアクチュエータは、隣接する層間でイオンを移動させるという点において、本発明の誘電積層体とは異なる。
【0013】
(2)また、本発明のトランスデューサは、上記本発明の誘電積層体と、該誘電積層体を介して配置されている複数の電極と、を備えることを特徴とする。
【0014】
トランスデューサは、ある種類のエネルギーを他の種類のエネルギーに変換する装置である。トランスデューサには、機械エネルギーと電気エネルギーとの変換を行うアクチュエータ、センサ、発電素子等や、音響エネルギーと電気エネルギーとの変換を行うスピーカ、マイクロフォン等が含まれる。
【0015】
上述したように、本発明の誘電積層体は、イオン含有層と、高抵抗層と、が積層されてなる。高抵抗層の電気抵抗は大きい。したがって、電圧印加時に、イオン成分の誘電分極により生じた電荷は、移動しにくい。このため、イオン含有層の内部や、イオン含有層と接する高抵抗層の界面付近に、多くの電荷を蓄えることができる。これにより、大きな静電引力が発生する。また、電荷が高抵抗層内を移動しにくいため、漏れ電流は小さい。よって、ジュール熱により、誘電積層体の物性が変化したり、誘電積層体が破壊されるおそれは小さい。このように、本発明のトランスデューサによると、大きな発生力を得ることができる。また、本発明のトランスデューサは、絶縁破壊されにくく、耐久性に優れる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の誘電積層体の第一実施形態の断面模式図である。
【図2】本発明の誘電積層体の第二実施形態の断面模式図である。
【図3】本発明のトランスデューサの第一実施形態であるアクチュエータの断面模式図であって、(a)はオフ状態、(b)はオン状態を示す。
【図4】本発明のトランスデューサの第二実施形態である静電容量型センサの上面図である。
【図5】図4のV−V断面図である。
【図6】本発明のトランスデューサの第三実施形態である発電素子の断面模式図であって、(a)は伸長時、(b)は収縮時を示す。
【図7】測定装置に取り付けられたアクチュエータの表側正面図である。
【図8】図7のVIII−VIII方向断面図である。
【図9】実施例、参考例、比較例の各アクチュエータにおける電界強度と発生力との関係を示すグラフである。
【図10】同アクチュエータにおける電界強度と漏れ電流との関係を示すグラフである(縦軸目盛り:0〜800μA)。
【図11】同アクチュエータにおける電界強度と漏れ電流との関係を示すグラフである(縦軸目盛り:0〜200μA)。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の誘電積層体およびトランスデューサの実施形態について説明する。なお、本発明の誘電積層体およびトランスデューサは、以下の実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において、当業者が行い得る変更、改良等を施した種々の形態にて実施することができる。
【0018】
<誘電積層体>
上述したように、本発明の誘電積層体は、エラストマーとイオン成分とを含むイオン含有層と、エラストマーを含み該イオン含有層よりも大きな体積抵抗率を有する高抵抗層と、が積層されてなる。図1に、本発明の誘電積層体の第一実施形態の断面模式図を示す。
【0019】
図1に示すように、誘電積層体9は、高抵抗層90と、イオン含有層91と、を有する。高抵抗層90は、エラストマーを含む。高抵抗層90の体積抵抗率は、イオン含有層91よりも大きい。イオン含有層91は、エラストマーとイオン成分とを含む。イオン含有層91は、高抵抗層90の厚さ方向一面(上面)に、配置されている。
【0020】
また、図2に、本発明の誘電積層体の第二実施形態の断面模式図を示す。図2に示すように、誘電積層体9は、高抵抗層90と、一対のイオン含有層91、92と、を有する。高抵抗層90は、エラストマーを含む。高抵抗層90の体積抵抗率は、イオン含有層91、92よりも大きい。一対のイオン含有層91、92は、各々、エラストマーとイオン成分とを含む。イオン含有層91は、高抵抗層90の厚さ方向一面(上面)に、配置されている。イオン含有層92は、高抵抗層90の厚さ方向他面(下面)に、配置されている。
【0021】
(1)高抵抗層
高抵抗層は、後述するイオン含有層よりも大きな体積抵抗率を有する。イオン含有層に生じた電荷をイオン含有層との界面付近で蓄え、かつ、蓄えた電荷の移動を抑制すると共に、誘電積層体の耐絶縁破壊性を向上させるという観点から、高抵抗層の体積抵抗率は、1011Ωcm以上であることが望ましい。
【0022】
高抵抗層は、エラストマーを含む。すなわち、高抵抗層は、エラストマーのみから構成されていてもよい。また、エラストマーに加えて、電気抵抗を増加させるための他の成分を含んでいてもよい。なお、いずれの場合においても、架橋剤、加硫促進剤、加工助剤、可塑剤、老化防止剤、補強剤、着色剤等の添加剤を含んでいてもよい。
【0023】
エラストマーとしては、例えば、エチレン−プロピレン−ジエン共重合体(EPDM)、イソプレンゴム、天然ゴム、フッ素ゴム、ニトリルゴム(NBR)、水素化ニトリルゴム(H−NBR)、シリコーンゴム、ウレタンゴム、アクリルゴム、ブチルゴム、スチレンブタジエンゴム、エチレン−酢酸ビニル共重合体、エチレン−酢酸ビニル−アクリル酸エステル共重合体等が好適である。また、エポキシ化天然ゴム、カルボキシル基変性水素化ニトリルゴム(XH−NBR)等のように、官能基を導入するなどして変性したエラストマーを用いてもよい。これらエラストマーの一種を単独で、あるいは二種以上を混合して用いることができる。
【0024】
エラストマーに混合する他の成分としては、無機フィラー等の絶縁材料が好適である。無機フィラーとしては、エラストマーと反応可能な官能基を有するものが望ましい。例えば、無機フィラーに表面処理を施して、官能基を導入したり、官能基の数を増加させることができる。こうすることにより、無機フィラーとエラストマーとの反応性が向上する。官能基としては、ヒドロキシ基(−OH)、カルボキシル基(−COOH)、無水マレイン酸基等が挙げられる。
【0025】
無機フィラーとしては、例えば、シリカ、酸化チタン、チタン酸バリウム、炭酸カルシウム、クレー、焼成クレー、タルク等が挙げられる。これらの一種を単独で、あるいは二種以上を混合して用いればよい。なかでも、官能基の数が多く、比較的安価であるという理由から、シリカを用いることが望ましい。
【0026】
エラストマーに無機フィラーを混合する場合には、エラストマーについても、無機フィラーと反応可能な官能基を有するものを用いることが望ましい。官能基としては、上記無機フィラーの場合と同様に、ヒドロキシ基(−OH)、カルボキシル基(−COOH)、無水マレイン酸基等が挙げられる。例えば、カルボキシル基変性水素化ニトリルゴム等のように、官能基を導入するなどして変性したエラストマーが好適である。
【0027】
無機フィラーの配合割合は、エラストマーの体積抵抗率等を考慮して、決定すればよい。例えば、エラストマーの100質量部に対して、5質量部以上50質量部以下とすることが望ましい。5質量部未満であると、電気抵抗を大きくする効果が小さい。反対に、50質量部を超えると、高抵抗層が硬くなり、柔軟性が損なわれるおそれがある。
【0028】
例えば、前出図2に示したように、一対のイオン含有層の間に高抵抗層を介装して、誘電積層体を構成した場合には、誘電積層体における高抵抗層の厚さ比率は、0.3以上であることが望ましい。高抵抗層の厚さ比率は、次式(I)で算出される。
高抵抗層の厚さ比率=高抵抗層の厚さ/誘電積層体全体の厚さ・・・(I)
本態様においては、高抵抗層の厚さ比率を、0.3以上とすることにより、イオン含有層に生じた電荷の移動を、効果的に抑制することができる。
【0029】
また、前出図1に示したように、イオン含有層と高抵抗層とを一層ずつ積層して、誘電積層体を構成した場合には、誘電積層体における高抵抗層の厚さ比率は、0.5以上であることが望ましい。高抵抗層の厚さ比率は、次式(II)で算出される。
高抵抗層の厚さ比率=高抵抗層の厚さ/誘電積層体全体の厚さ・・・(II)
本態様においては、高抵抗層の厚さ比率を、0.5以上とすることにより、イオン含有層に生じた電荷の移動を、効果的に抑制することができる。
【0030】
(2)イオン含有層
イオン含有層は、エラストマーとイオン成分とを含む。また、イオン含有層は、架橋剤、加硫促進剤、加工助剤、可塑剤、老化防止剤、補強剤、着色剤等の添加剤を含んでいてもよい。さらに、イオン成分を固定化して、イオン含有層の電気抵抗の変化を抑制するという観点から、イオン含有層は、イオン吸着能に優れる活性炭、シリカ等を含んでいてもよい。
【0031】
エラストマーとしては、例えば、ヒドリンゴム、ニトリルゴム(NBR)、水素化ニトリルゴム(H−NBR)、カルボキシル基変性ニトリルゴム(X−NBR)、カルボキシル基変性水素化ニトリルゴム(XH−NBR)等が好適である。これらの一種を単独で、あるいは二種以上を混合して用いればよい。また、ニトリルゴム、水素化ニトリルゴムを用いる場合には、比誘電率を大きくするという観点から、アクリロニトリル含有量(結合AN量)が33質量%以上のものが望ましい。結合AN量は、ゴムの全体質量を100質量%とした場合のアクリロニトリルの質量割合である。
【0032】
イオン成分は、室温で固体のものでも、液体のもの(イオン性液体)でもよい。イオン成分の配合量は、電圧印加時の誘電分極による発生力の増加効果を得られるように、適宜調整すればよい。発生力の増加効果を大きくするという観点から、イオン成分の配合量は、エラストマーの100質量部に対して、0.155mmol以上3mmol以下であることが望ましい。
【0033】
イオン成分のカチオンとしては、例えば、第四級アンモニウムイオン、イミダゾリウムイオン、ピリジニウムイオン、ピロリジニウムイオン、第四級ホスホニウムイオン等が挙げられる。また、アニオンとしては、塩化物イオン(Cl−)、臭化物イオン(Br−)、ヨウ化物イオン(I−)、過塩素酸イオン(ClO4−)、BF4−、PF6−、CF3SO2−、(CF3SO2)2N−等が挙げられる。イオン成分としては、これらのカチオンとアニオンとを任意に組み合わせてなる化合物を採用すればよい。また、イオン成分の一種を単独で、あるいは二種以上を混合して用いることができる。
【0034】
イオン含有層の電気抵抗の低下を抑制するという観点から、イオン成分としては、室温で固体の化合物を用いることが望ましい。例えば、第四級アンモニウムイオン、イミダゾリウムイオン、ピリジニウムイオン、ピロリジニウムイオン、および第四級ホスホニウムイオンから選ばれるカチオンと、塩化物イオン、臭化物イオン、ヨウ化物イオン、および過塩素酸イオンから選ばれるアニオンと、を組み合わせてなる化合物が挙げられる。なかでも、潮解性が低く、取扱いやすいという理由から、第四級アンモニウム塩が好適である。
【0035】
<誘電積層体の製造方法>
本発明の誘電積層体は、例えば、次のように製造することができる。第一の方法としては、まず、高抵抗層と、イオン含有層と、を各々製造する。具体的には、高抵抗層を構成するエラストマー等と、必要に応じて配合される添加剤と、をロールや混練機により混練りして、エラストマー組成物を調製する。そして、調製したエラストマー組成物を、例えば金型に充填して、所定の条件下でプレス架橋する。同様に、イオン含有層を構成するエラストマーおよびイオン成分と、必要に応じて配合される添加剤と、をロールや混練機により混練りして、エラストマー組成物を調製する。そして、調製したエラストマー組成物を、例えば金型に充填して、所定の条件下でプレス架橋する。次に、高抵抗層とイオン含有層とを、貼り付ければよい。
【0036】
第二の方法としては、まず、高抵抗層、イオン含有層の各々について、所定の原料を含むエラストマー組成物を調製する。次に、金型中に、高抵抗層のエラストマー組成物と、イオン含有層のエラストマー組成物と、を積層させて、一体的にプレス架橋すればよい。
【0037】
また、エラストマー組成物については、エラストマー等の原料を、所定の溶剤中に溶解して調製してもよい。この場合には、まず、調製した液状のエラストマー組成物を、基材等に塗布する。次に、塗膜を乾燥させて、溶剤を揮発させる。そして、塗膜の乾燥と共に、または別途所定の条件下で、架橋反応を進行させればよい。
【0038】
添加剤としては、架橋剤、加硫促進剤、加工助剤、可塑剤、老化防止剤、補強剤、着色剤等が挙げられる。例えば、可塑剤を配合することにより、各層の柔軟性を向上させることができる。これにより、誘電積層体の伸縮性が向上する。したがって、トランスデューサを構成した場合に、より大きな力を得ることができる。配合する可塑剤としては、各層の電気抵抗を低下させにくいという観点から、絶縁性が高く、揮発しにくいものが望ましい。例えば、トリクレジルホスフェート、トリス2エチルヘキシルトリメリテート、塩化パラフィン等が好適である。
【0039】
架橋方法は、エラストマーの種類に応じて、適宜決定すればよい。例えば、硫黄架橋、過酸化物架橋、イソシアネート架橋、電子線(EV)架橋、紫外線(UV)架橋等が挙げられる。また、有機金属化合物のゾルゲル反応を利用してもよい。ゾルゲル反応を利用する場合には、有機金属化合物と水との急激な反応を抑制して、均質な層を形成するという観点から、有機金属化合物をキレート化して用いることが望ましい。この場合、例えば、次の方法を採用することができる。まず、エラストマーが溶解可能であり、かつ、有機金属化合物をキレート化できる溶剤中に、エラストマー等の原料が含有されている第一溶液を調製する。次いで、第一溶液に、有機金属化合物を混合して、第二溶液(エラストマー組成物)を調製する。その後、第二溶液を基材上に塗布し、乾燥させることにより、第二溶液から溶剤を除去して、架橋反応を進行させる。
【0040】
<トランスデューサ>
本発明のトランスデューサは、上記本発明の誘電積層体と、該誘電積層体を介して配置されている複数の電極と、を備える。本発明の誘電積層体の構成、および製造方法については、上述した通りである。よって、ここでは説明を割愛する。なお、本発明のトランスデューサを構成する誘電積層体についても、本発明の誘電積層体における好適な態様を採用することが望ましい。
【0041】
誘電積層体の厚さについては、トランスデューサの用途等に応じて適宜決定すればよい。例えば、本発明のトランスデューサをアクチュエータとして用いる場合には、小型化、低電位駆動化、および変位量を大きくする等の観点から、誘電積層体の厚さは薄い方が望ましい。例えば、誘電積層体の厚さを、1μm以上1000μm(1mm)以下とすることが望ましい。5μm以上200μm以下とすると、より好適である。
【0042】
本発明のトランスデューサにおいて、電極の材質は、特に限定されるものではない。例えば、カーボンブラック、カーボンナノチューブ等の炭素材料や金属からなる導電材に、バインダーとしてオイルやエラストマーを混合した導電性ペーストまたは導電性塗料を塗布した電極、あるいは炭素材料や金属等をメッシュ状に編んだ電極等を使用することができる。電極は、誘電積層体の伸縮に応じて伸縮可能であることが望ましい。電極が、誘電積層体と共に伸縮すると、誘電積層体の変形が電極によって妨げられにくい。このため、本発明のトランスデューサを、アクチュエータ等として使用した場合に、所望の力および変位量を得やすくなる。
【0043】
また、イオン成分を電極に配合してもよい。例えば、イオン成分を配合した上記導電性ペーストを、架橋前のイオン含有層に塗布し、電極とイオン含有層とを一体的に架橋する。こうすることにより、電極中のイオン成分がイオン含有層に移動する。その結果、電圧印加時に、イオン含有層の内部に多くの電荷が蓄えられる。これにより、発生力を増加させることができる。
【0044】
また、本発明のトランスデューサを、複数の誘電積層体と電極とを交互に積層させた積層構造とすると、より大きな力を発生させることができる。したがって、積層構造を採用した場合には、例えば、アクチュエータの出力を大きくすることができる。これにより、駆動対象部材をより大きな力で駆動させることができる。
【0045】
[第一実施形態]
本発明のトランスデューサの第一例として、アクチュエータの実施形態を説明する。図3に、本実施形態のアクチュエータの断面模式図を示す。(a)はオフ状態、(b)はオン状態を各々示す。
【0046】
図3に示すように、アクチュエータ1は、誘電積層体10と、電極11a、11bと、配線12a、12bと、を備えている。誘電積層体10は、高抵抗層100と、一対のイオン含有層101、102と、を有する。イオン含有層101、102は、いずれもエラストマーとイオン成分とを含む。イオン含有層101は、高抵抗層100の上面の略全体を覆うように、配置されている。同様に、イオン含有層102は、高抵抗層100の下面の略全体を覆うように、配置されている。高抵抗層100は、エラストマーを含む。高抵抗層100の体積抵抗率は、イオン含有層101、102の体積抵抗率より大きい。
【0047】
電極11aは、イオン含有層101(誘電積層体10)の上面の略全体を覆うように、配置されている。同様に、電極11bは、イオン含有層102(誘電積層体10)の下面の略全体を覆うように、配置されている。電極11a、11bは、各々、配線12a、12bを介して電源13に接続されている。
【0048】
オフ状態からオン状態に切り替える際は、一対の電極11a、11b間に電圧を印加する。電圧の印加により、誘電積層体10の厚さは薄くなり、その分だけ、図3(b)中白抜き矢印で示すように、電極11a、11b面に対して平行方向に伸長する。これにより、アクチュエータ1は、図3中、上下方向および左右方向の駆動力を出力する。
【0049】
本実施形態のアクチュエータ1によると、電圧印加時に、イオン成分の誘電分極により、イオン含有層101、102の内部、およびイオン含有層101、102と接する高抵抗層100の界面付近に、多くの電荷が発生する。発生した電荷は、高抵抗層100の内部を移動しにくい。したがって、イオン含有層101、102の内部、およびイオン含有層101、102と接する高抵抗層100の界面付近に、多くの電荷が蓄えられる。これにより、大きな静電引力が発生する。よって、アクチュエータ1によると、実用的な電圧範囲において、大きな力を出力することができる。
【0050】
また、電荷が高抵抗層100内を移動しにくいため、誘電積層体10における漏れ電流は小さい。このため、ジュール熱の発生が抑制される。よって、熱により、誘電積層体10の物性が変化したり、誘電積層体10が破壊されるおそれは小さい。したがって、アクチュエータ1の耐絶縁破壊強度は大きい。つまり、アクチュエータ1は、耐久性に優れる。なお、誘電積層体10を面延在方向に延伸した状態で配置すると、誘電積層体10の絶縁破壊強度がより大きくなる。よって、より大きな電圧を印加することができるため、発生力がより増加する。
【0051】
[第二実施形態]
本発明のトランスデューサの第二例として、静電容量型センサの実施形態を説明する。まず、本実施形態の静電容量型センサの構成について説明する。図4に、静電容量型センサの上面図を示す。図5に、図4のV−V断面図を示す。
【0052】
図4、図5に示すように、静電容量型センサ2は、誘電積層体20と、一対の電極21a、21bと、配線22a、22bと、カバーフィルム23a、23bと、を備えている。
【0053】
誘電積層体20は、左右方向に延びる帯状を呈している。誘電積層体20は、高抵抗層200と、一対のイオン含有層201、202と、を有する。イオン含有層201、202は、いずれもエラストマーとイオン成分とを含む。イオン含有層201は、高抵抗層200の上面の略全体を覆うように、配置されている。同様に、イオン含有層202は、高抵抗層200の下面の略全体を覆うように、配置されている。高抵抗層200は、エラストマーを含む。高抵抗層200の体積抵抗率は、イオン含有層201、202の体積抵抗率より大きい。
【0054】
電極21aは、長方形状を呈している。電極21aは、誘電積層体20の上面に、三つ配置されている。同様に、電極21bは、長方形状を呈している。電極21bは、誘電積層体20を挟んで電極21aと対向するように、誘電積層体20の下面に三つ配置されている。すなわち、誘電積層体20を挟んで、電極21a、21bが三対配置されている。
【0055】
配線22aは、誘電積層体20の上面に、配置されている。配線22aは、誘電積層体20の上面に形成された電極21aの一つ一つに、それぞれ接続されている。配線22aにより、電極21aとコネクタ24とが結線されている。同様に、配線22bは、誘電積層体20の下面に、配置されている。配線22bは、誘電積層体20の下面に形成された電極21bの一つ一つに、それぞれ接続されている(図4中、点線で示す)。配線22bにより、電極21bとコネクタ(図略)とが結線されている。
【0056】
カバーフィルム23aは、アクリルゴム製であって、左右方向に延びる帯状を呈している。カバーフィルム23aは、誘電積層体20、電極21a、配線22aの上面を覆っている。同様に、カバーフィルム23bは、アクリルゴム製であって、左右方向に延びる帯状を呈している。カバーフィルム23bは、誘電積層体20、電極21b、配線22bの下面を覆っている。
【0057】
次に、静電容量型センサ2の動きについて説明する。静電容量型センサ2の静電容量(キャパシタンス)は、次式(III)により求めることができる。
C=ε0εrS/d・・・(III)
[C:静電容量、ε0:真空中の誘電率、εr:誘電積層体の比誘電率、S:電極面積、d:電極間距離]
例えば、静電容量型センサ2が上方から押圧されると、誘電積層体20、電極21a、カバーフィルム23aは一体となって、下方に湾曲する。圧縮により、誘電積層体20の厚さ(電極間距離)は小さくなる。その結果、電極21a、21b間の静電容量は、大きくなる。この静電容量の変化により、圧縮による変形が検出される。
【0058】
次に、本実施形態の静電容量型センサ2の作用効果について説明する。本実施形態の静電容量型センサ2によると、圧縮変形により、イオン含有層201、202の内部、およびイオン含有層201、202と接する高抵抗層200の界面付近に、多くの電荷が蓄えられる。このため、変形に対する静電容量の変化が大きくなる。したがって、静電容量型センサ2の応答感度が向上する。また、誘電積層体20中に電流が流れにくい。このため、ジュール熱の発生が抑制される。よって、熱により、誘電積層体20の物性が変化したり、誘電積層体20が破壊されるおそれは小さい。したがって、静電容量型センサ2の耐絶縁破壊強度は大きい。つまり、静電容量型センサ2は、耐久性に優れる。
【0059】
なお、本実施形態の静電容量型センサ2には、誘電積層体20を狭んで対向する電極21a、21bが、三対形成されている。しかし、電極の数、大きさ、配置等は、用途に応じて、適宜決定すればよい。
【0060】
[第三実施形態]
本発明のトランスデューサの第三例として、発電素子の実施形態を説明する。図6に、本実施形態における発電素子の断面模式図を示す。(a)は伸長時、(b)は収縮時を各々示す。
【0061】
図6に示すように、発電素子3は、誘電積層体30と、電極31a、31bと、配線32a〜32cと、を備えている。誘電積層体30は、高抵抗層300と、一対のイオン含有層301、302と、を有する。イオン含有層301、302は、いずれもエラストマーとイオン成分とを含む。イオン含有層301は、高抵抗層300の上面の略全体を覆うように、配置されている。同様に、イオン含有層302は、高抵抗層300の下面の略全体を覆うように、配置されている。高抵抗層300は、エラストマーを含む。高抵抗層300の体積抵抗率は、イオン含有層301、302の体積抵抗率より大きい。
【0062】
電極31aは、誘電積層体30の上面の略全体を覆うように、配置されている。同様に、電極31bは、誘電積層体30の下面の略全体を覆うように、配置されている。電極31aには、配線32a、32bが接続されている。すなわち、電極31aは、配線32aを介して、外部負荷(図略)に接続されている。また、電極31aは、配線32bを介して、電源(図略)に接続されている。電極31bは、配線32cにより接地されている。
【0063】
図6(a)に示すように、発電素子3を圧縮し、誘電積層体30を電極31a、31b面に対して平行方向に伸長すると、誘電積層体30の膜厚は薄くなり、電極31a、31b間に電荷が蓄えられる。その後、圧縮力を除去すると、図6(b)に示すように、誘電積層体30の弾性復元力により誘電積層体30は収縮し、膜厚が厚くなる。その際、蓄えられた電荷が配線32aを通して放出される。
【0064】
本実施形態の発電素子3によると、イオン含有層301、302の内部、およびイオン含有層301、302と接する高抵抗層300の界面付近に、多くの電荷を蓄えることができる。したがって、発電効率が向上する。また、誘電積層体30中に電流が流れにくい。このため、ジュール熱の発生が抑制される。よって、熱により、誘電積層体30の物性が変化したり、誘電積層体30が破壊されるおそれは小さい。したがって、発電素子3の耐絶縁破壊強度は大きい。つまり、発電素子3は、耐久性に優れる。
【実施例】
【0065】
次に、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明する。
【0066】
<誘電積層体の製造>
次のようにして、高抵抗層を作製した。まず、カルボキシル基変性水素化ニトリルゴム(ランクセス社製「テルバン(登録商標)XT8889」)100質量部と、シリカ(日本アエロジル(株)製「Aerosil(登録商標)380」)10質量部と、をロール練り機にて混練りした。次に、混練りした材料を、アセチルアセトンに溶解した。続いて、この溶液に、有機金属化合物のテトラキス(2−エチルヘキシルオキシ)チタン15質量部を混合して、液状のエラストマー組成物を調製した。ここで、アセチルアセトンは、カルボキシル基含有水素化ニトリルゴムを溶解させる溶媒であると共に、テトラキス(2−エチルヘキシルオキシ)チタンのキレート剤である。その後、エラストマー組成物を基材上に塗布し、乾燥させた後、150℃で約60分間加熱して、高抵抗層を得た。高抵抗層の膜厚は、約40μmであった。
【0067】
次のようにして、イオン含有層を作製した。まず、カルボキシル基変性水素化ニトリルゴム(同上)100質量部と、イオン成分のテトラブチルアンモニウムブロミド0.5質量部(1.55mmol)と、をロール練り機にて混練りした。次に、混練りした材料を、アセチルアセトンに溶解した。続いて、この溶液に、テトラキス(2−エチルヘキシルオキシ)チタン5質量部を混合して、液状のエラストマー組成物を調製した。その後、エラストマー組成物を基材上に塗布し、乾燥させた後、150℃で約60分間加熱して、イオン含有層を得た。イオン含有層の膜厚は、約40μmであった。
【0068】
作製した高抵抗層を、二層重ね合わせて積層体を作製し、当該積層体の厚さ方向両面に、各々、イオン含有層を貼り付けて、実施例の誘電積層体を製造した。
【0069】
<評価>
実施例の誘電積層体を用いてアクチュエータを作製し、印加電圧に対する発生力および漏れ電流を測定した。まず、測定装置および測定方法について説明する。
【0070】
実施例の誘電積層体の表裏両面に、アクリルゴムにカーボンブラックが混合されてなる電極を貼着して、アクチュエータを作製した。以下、作製したアクチュエータを、実施例のアクチュエータと称す。図7に、測定装置に取り付けられた実施例のアクチュエータの表側正面図を示す。図8に、図7のVIII−VIII方向断面図を示す。
【0071】
図7、図8に示すように、アクチュエータ5の上端は、測定装置における上側チャック52により把持されている。アクチュエータ5の下端は、下側チャック53により把持されている。アクチュエータ5は、予め上下方向に延伸された状態で、上側チャック52と下側チャック53との間に、取り付けられている(延伸率25%)。上側チャック52の上方には、ロードセル(図略)が配置されている。
【0072】
アクチュエータ5は、誘電積層体50と一対の電極51a、51bとからなる。誘電積層体50は、自然状態で、縦50mm、横25mm、厚さ約160μmの矩形板状を呈している。誘電積層体50は、高抵抗層500と、一対のイオン含有層501、502と、からなる。イオン含有層501は、高抵抗層500の表面の略全体を覆うように、配置されている。同様に、イオン含有層502は、高抵抗層500の裏面の略全体を覆うように、配置されている。電極51a、51bは、誘電積層体50を挟んで表裏方向に対向するよう配置されている。電極51a、51bは、自然状態で、各々、縦40mm、横25mm、厚さ約10μmの矩形板状を呈している。電極51a、51bは、上下方向に10mmずれた状態で配置されている。つまり、電極51a、51bは、誘電積層体50を介して、縦30mm、横25mmの範囲で重なっている。電極51aの下端には、配線(図略)が接続されている。同様に、電極51bの上端には、配線(図略)が接続されている。電極51a、51bは、各々の配線を介して、電源(図略)に接続されている。
【0073】
電極51a、51b間に電圧を印加すると、電極51a、51b間に静電引力が生じて、誘電積層体50を圧縮する。これにより、誘電積層体50の厚さは薄くなり、延伸方向(上下方向)に伸長する。誘電積層体50の伸長により、上下方向の延伸力は減少する。電圧を印加した時に減少した延伸力を、ロードセルにより測定して、発生力とした。
【0074】
発生力および漏れ電流の測定は、印加する電圧を段階的に増加させて、誘電積層体50が破壊されるまで行った。すなわち、電圧を10秒間印加して15秒間停止するというサイクルを2回繰り返した後に、電圧を印加して、10秒後における発生力、および誘電積層体50に流れる電流を測定した。
【0075】
比較のため、実施例の誘電積層体におけるイオン含有層のみ、または高抵抗層のみを誘電層としたアクチュエータを作製して、上記同様に、印加電圧に対する発生力および漏れ電流を測定した。以下、イオン含有層のみを使用したアクチュエータを、参考例1のアクチュエータと称す。高抵抗層のみを使用したアクチュエータを、参考例2のアクチュエータと称す。さらに、市販のアクリルゴム(住友スリーエム(株)製「VHB(登録商標) Y4905J」)を誘電層としたアクチュエータを作製して、上記同様に、印加電圧に対する発生力および漏れ電流を測定した。以下、アクリルゴムを使用したアクチュエータを、比較例のアクチュエータと称す。
【0076】
次に、測定結果を説明する。図9に、各アクチュエータにおける電界強度と発生力との関係を示す。図10および図11に、各アクチュエータにおける電界強度と漏れ電流との関係を示す。なお、図10と図11とは、縦軸の目盛りが異なるだけである。また、図9〜図11中、横軸の電界強度は、印加電圧を、誘電積層体または誘電層の厚さで除した値である。
【0077】
図9に示すように、実施例のアクチュエータによると、大きな電圧を印加できると共に、発生力が大きくなった。また、図10、図11に示すように、実施例のアクチュエータにおける漏れ電流は、極めて小さかった。一方、アクリルゴムを誘電層とした比較例のアクチュエータによると、漏れ電流は小さいが、力はほとんど得られなかった。また、イオン含有層のみを誘電層とした参考例1のアクチュエータによると、印加電圧が小さい範囲での発生力は大きかった。しかし、電界強度約35V/μmにおいて、誘電層は破壊された。図10に示すように、参考例1のアクチュエータの漏れ電流は大きい。このため、ジュール熱が発生して、熱により誘電層が破壊されたと考えられる。また、高抵抗層のみを誘電層とした参考例2のアクチュエータによると、漏れ電流が小さく、大きな電圧を印加することができた。しかし、印加電圧を大きくしても、発生力は小さかった。以上より、本発明の誘電積層体によると、電圧印加時の漏れ電流が小さく、発生力の大きなトランスデューサを構成できることが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0078】
本発明の誘電積層体は、機械エネルギーと電気エネルギーとの変換を行うアクチュエータ、センサ、発電素子等、あるいは音響エネルギーと電気エネルギーとの変換を行うスピーカ、マイクロフォン、ノイズキャンセラ等のトランスデューサに広く用いることができる。なかでも、産業、医療、福祉ロボット用の人工筋肉、電子部品冷却用や医療用等の小型ポンプ、および医療用器具等に用いられる柔軟なアクチュエータに好適である。
【符号の説明】
【0079】
1:アクチュエータ 10:誘電積層体 11a、11b:電極 12a、12b:配線
13:電源 100:高抵抗層 101、102:イオン含有層
2:静電容量型センサ(トランスデューサ) 20:誘電積層体 21a、21b:電極
22a、22b:配線 23a、23b:カバーフィルム 24:コネクタ
200:高抵抗層 201、202:イオン含有層
3:発電素子(トランスデューサ) 30:誘電積層体 31a、31b:電極
32a〜32c:配線 300:高抵抗層 301、302:イオン含有層
5:アクチュエータ 50:誘電積層体 51a、51b:電極 52:上側チャック
53:下側チャック 500:高抵抗層 501、502:イオン含有層
9:誘電積層体 90:高抵抗層 91、92:イオン含有層
【技術分野】
【0001】
本発明は、アクチュエータ、センサ等のトランスデューサに好適な誘電積層体、およびそれを用いたトランスデューサに関する。
【背景技術】
【0002】
トランスデューサには、機械エネルギーと電気エネルギーとの変換を行うアクチュエータ、センサ、発電素子等、あるいは音響エネルギーと電気エネルギーとの変換を行うスピーカ、マイクロフォン等がある。柔軟性が高く、小型で軽量なトランスデューサを構成するためには、誘電体エラストマー等の高分子材料が有用である。
【0003】
例えば、誘電体エラストマーからなる誘電膜の厚さ方向両面に、一対の電極を配置して、アクチュエータを構成することができる。この種のアクチュエータでは、電極間への印加電圧を大きくすると、電極間の静電引力が大きくなる。このため、電極間に挟まれた誘電膜は厚さ方向から圧縮され、誘電膜の厚さは薄くなる。膜厚が薄くなると、その分、誘電膜は電極面に対して平行方向に伸長する。一方、電極間への印加電圧を小さくすると、電極間の静電引力が小さくなる。このため、誘電膜に対する厚さ方向からの圧縮力が小さくなり、誘電膜の弾性復元力により膜厚は厚くなる。膜厚が厚くなると、その分、誘電膜は電極面に対して平行方向に収縮する。このように、アクチュエータは、誘電膜を伸長、収縮させることによって、駆動対象部材を駆動させる。
【0004】
アクチュエータから取り出される力および変位量を大きくするという観点から、誘電膜は、以下の特性を有することが望ましい。すなわち、電圧印加時に、誘電膜の内部に多くの電荷を蓄えられるように比誘電率が大きいこと、高電界に耐えられるように耐絶縁破壊性に優れること、繰り返し伸縮可能なように柔軟性が高いこと、等である。したがって、誘電膜の材料としては、耐絶縁破壊性に優れるシリコーンゴムや、比誘電率が大きいアクリルゴム、ニトリルゴム等が用いられることが多い(例えば、特許文献1、2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特表2003−506858号公報
【特許文献2】特表2001−524278号公報
【特許文献3】特開2005−51949号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
例えば、シリコーンゴムは、シロキサン結合を骨格とする。このため、電気抵抗が大きい。よって、シリコーンゴムからなる誘電膜は、大きな電圧を印加しても絶縁破壊しにくい。しかしながら、シリコーンゴムの極性は小さい。つまり、比誘電率が小さい。このため、シリコーンゴムからなる誘電膜を用いてアクチュエータを構成した場合には、印加電圧に対する静電引力が小さい。よって、実用的な電圧により、所望の力および変位量を得ることができない。
【0007】
一方、アクリルゴムやニトリルゴムの比誘電率は、シリコーンゴムの比誘電率よりも大きい。このため、誘電膜の材料にアクリルゴム等を用いると、印加電圧に対する静電引力が、シリコーンゴムを用いた場合と比較して大きくなる。しかしながら、アクリルゴム等の電気抵抗は、シリコーンゴムと比較して小さい。このため、誘電膜が絶縁破壊しやすい。また、電圧印加時に電流が誘電膜中を流れてしまい(いわゆる漏れ電流)、誘電膜と電極との界面付近に電荷が溜まりにくい。したがって、比誘電率が大きいにも関わらず、静電引力が小さくなり、充分な力および変位量を得ることができない。さらに、電流が誘電膜中を流れると、発生するジュール熱により、誘電膜が破壊されるおそれがある。このように、一つの材料により、発生力と耐絶縁破壊性とを満足する誘電膜を実現することは、難しい。
【0008】
本発明は、このような実情に鑑みてなされたものであり、電圧印加時の漏れ電流が小さく、耐絶縁破壊性に優れると共に、大きな力を出力することができる誘電積層体を提供することを課題とする。また、そのような誘電積層体を用いて、発生力が大きく、耐久性に優れたトランスデューサを提供する。
【課題を解決するための手段】
【0009】
(1)本発明の誘電積層体は、エラストマーとイオン成分とを含むイオン含有層と、エラストマーを含み該イオン含有層よりも大きな体積抵抗率を有する高抵抗層と、が積層されてなることを特徴とする。
【0010】
本発明の誘電積層体を用いてトランスデューサを構成する場合には、誘電積層体の積層方向両面に、少なくとも一対の電極を配置する。この際、一対の電極のうちの少なくとも一方は、イオン含有層と接触するように配置される。イオン含有層は、エラストマーとイオン成分とを含む。ここで、電極間に電圧が印加されると、イオン含有層において、イオン成分のカチオンとアニオンとが、誘電分極する。これにより、イオン含有層の内部に、多くの電荷が発生する。一方、本発明の誘電積層体においては、イオン含有層と隣接して、イオン含有層よりも大きな体積抵抗率を有する高抵抗層が配置される。このため、イオン含有層の内部や、イオン含有層と接する高抵抗層の界面付近に、多くの電荷が蓄えられる。これにより、電極から誘電積層体を圧縮するように、大きな静電引力が発生する。したがって、本発明の誘電積層体によると、実用的な電圧範囲において、大きな力を発生させることができる。
【0011】
また、電荷が高抵抗層内を移動しにくいため、誘電積層体における漏れ電流は小さい。このため、ジュール熱の発生が抑制される。よって、熱により、誘電積層体の物性が変化したり、誘電積層体が破壊されるおそれは小さい。また、高抵抗層の電気抵抗は大きい。よって、本発明の誘電積層体は、耐絶縁破壊性に優れる。したがって、より大きな電圧を印加することにより、発生力をより増加させることができる。このように、本発明の誘電積層体によると、発生力が大きく、かつ耐絶縁破壊性に優れたトランスデューサを、実現することができる。
【0012】
ちなみに、上記特許文献3には、一対の電極間に、導電性ポリマー層とイオン電解質含有層とが介装されたアクチュエータが、開示されている。特許文献3のアクチュエータによると、電圧を印加して、イオン電解質含有層のイオンを、導電性ポリマー層にドープまたはアンドープさせる。これにより、導電性ポリマー層を伸縮させて、力を発生させる。特許文献3のアクチュエータは、隣接する層間でイオンを移動させるという点において、本発明の誘電積層体とは異なる。
【0013】
(2)また、本発明のトランスデューサは、上記本発明の誘電積層体と、該誘電積層体を介して配置されている複数の電極と、を備えることを特徴とする。
【0014】
トランスデューサは、ある種類のエネルギーを他の種類のエネルギーに変換する装置である。トランスデューサには、機械エネルギーと電気エネルギーとの変換を行うアクチュエータ、センサ、発電素子等や、音響エネルギーと電気エネルギーとの変換を行うスピーカ、マイクロフォン等が含まれる。
【0015】
上述したように、本発明の誘電積層体は、イオン含有層と、高抵抗層と、が積層されてなる。高抵抗層の電気抵抗は大きい。したがって、電圧印加時に、イオン成分の誘電分極により生じた電荷は、移動しにくい。このため、イオン含有層の内部や、イオン含有層と接する高抵抗層の界面付近に、多くの電荷を蓄えることができる。これにより、大きな静電引力が発生する。また、電荷が高抵抗層内を移動しにくいため、漏れ電流は小さい。よって、ジュール熱により、誘電積層体の物性が変化したり、誘電積層体が破壊されるおそれは小さい。このように、本発明のトランスデューサによると、大きな発生力を得ることができる。また、本発明のトランスデューサは、絶縁破壊されにくく、耐久性に優れる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の誘電積層体の第一実施形態の断面模式図である。
【図2】本発明の誘電積層体の第二実施形態の断面模式図である。
【図3】本発明のトランスデューサの第一実施形態であるアクチュエータの断面模式図であって、(a)はオフ状態、(b)はオン状態を示す。
【図4】本発明のトランスデューサの第二実施形態である静電容量型センサの上面図である。
【図5】図4のV−V断面図である。
【図6】本発明のトランスデューサの第三実施形態である発電素子の断面模式図であって、(a)は伸長時、(b)は収縮時を示す。
【図7】測定装置に取り付けられたアクチュエータの表側正面図である。
【図8】図7のVIII−VIII方向断面図である。
【図9】実施例、参考例、比較例の各アクチュエータにおける電界強度と発生力との関係を示すグラフである。
【図10】同アクチュエータにおける電界強度と漏れ電流との関係を示すグラフである(縦軸目盛り:0〜800μA)。
【図11】同アクチュエータにおける電界強度と漏れ電流との関係を示すグラフである(縦軸目盛り:0〜200μA)。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の誘電積層体およびトランスデューサの実施形態について説明する。なお、本発明の誘電積層体およびトランスデューサは、以下の実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において、当業者が行い得る変更、改良等を施した種々の形態にて実施することができる。
【0018】
<誘電積層体>
上述したように、本発明の誘電積層体は、エラストマーとイオン成分とを含むイオン含有層と、エラストマーを含み該イオン含有層よりも大きな体積抵抗率を有する高抵抗層と、が積層されてなる。図1に、本発明の誘電積層体の第一実施形態の断面模式図を示す。
【0019】
図1に示すように、誘電積層体9は、高抵抗層90と、イオン含有層91と、を有する。高抵抗層90は、エラストマーを含む。高抵抗層90の体積抵抗率は、イオン含有層91よりも大きい。イオン含有層91は、エラストマーとイオン成分とを含む。イオン含有層91は、高抵抗層90の厚さ方向一面(上面)に、配置されている。
【0020】
また、図2に、本発明の誘電積層体の第二実施形態の断面模式図を示す。図2に示すように、誘電積層体9は、高抵抗層90と、一対のイオン含有層91、92と、を有する。高抵抗層90は、エラストマーを含む。高抵抗層90の体積抵抗率は、イオン含有層91、92よりも大きい。一対のイオン含有層91、92は、各々、エラストマーとイオン成分とを含む。イオン含有層91は、高抵抗層90の厚さ方向一面(上面)に、配置されている。イオン含有層92は、高抵抗層90の厚さ方向他面(下面)に、配置されている。
【0021】
(1)高抵抗層
高抵抗層は、後述するイオン含有層よりも大きな体積抵抗率を有する。イオン含有層に生じた電荷をイオン含有層との界面付近で蓄え、かつ、蓄えた電荷の移動を抑制すると共に、誘電積層体の耐絶縁破壊性を向上させるという観点から、高抵抗層の体積抵抗率は、1011Ωcm以上であることが望ましい。
【0022】
高抵抗層は、エラストマーを含む。すなわち、高抵抗層は、エラストマーのみから構成されていてもよい。また、エラストマーに加えて、電気抵抗を増加させるための他の成分を含んでいてもよい。なお、いずれの場合においても、架橋剤、加硫促進剤、加工助剤、可塑剤、老化防止剤、補強剤、着色剤等の添加剤を含んでいてもよい。
【0023】
エラストマーとしては、例えば、エチレン−プロピレン−ジエン共重合体(EPDM)、イソプレンゴム、天然ゴム、フッ素ゴム、ニトリルゴム(NBR)、水素化ニトリルゴム(H−NBR)、シリコーンゴム、ウレタンゴム、アクリルゴム、ブチルゴム、スチレンブタジエンゴム、エチレン−酢酸ビニル共重合体、エチレン−酢酸ビニル−アクリル酸エステル共重合体等が好適である。また、エポキシ化天然ゴム、カルボキシル基変性水素化ニトリルゴム(XH−NBR)等のように、官能基を導入するなどして変性したエラストマーを用いてもよい。これらエラストマーの一種を単独で、あるいは二種以上を混合して用いることができる。
【0024】
エラストマーに混合する他の成分としては、無機フィラー等の絶縁材料が好適である。無機フィラーとしては、エラストマーと反応可能な官能基を有するものが望ましい。例えば、無機フィラーに表面処理を施して、官能基を導入したり、官能基の数を増加させることができる。こうすることにより、無機フィラーとエラストマーとの反応性が向上する。官能基としては、ヒドロキシ基(−OH)、カルボキシル基(−COOH)、無水マレイン酸基等が挙げられる。
【0025】
無機フィラーとしては、例えば、シリカ、酸化チタン、チタン酸バリウム、炭酸カルシウム、クレー、焼成クレー、タルク等が挙げられる。これらの一種を単独で、あるいは二種以上を混合して用いればよい。なかでも、官能基の数が多く、比較的安価であるという理由から、シリカを用いることが望ましい。
【0026】
エラストマーに無機フィラーを混合する場合には、エラストマーについても、無機フィラーと反応可能な官能基を有するものを用いることが望ましい。官能基としては、上記無機フィラーの場合と同様に、ヒドロキシ基(−OH)、カルボキシル基(−COOH)、無水マレイン酸基等が挙げられる。例えば、カルボキシル基変性水素化ニトリルゴム等のように、官能基を導入するなどして変性したエラストマーが好適である。
【0027】
無機フィラーの配合割合は、エラストマーの体積抵抗率等を考慮して、決定すればよい。例えば、エラストマーの100質量部に対して、5質量部以上50質量部以下とすることが望ましい。5質量部未満であると、電気抵抗を大きくする効果が小さい。反対に、50質量部を超えると、高抵抗層が硬くなり、柔軟性が損なわれるおそれがある。
【0028】
例えば、前出図2に示したように、一対のイオン含有層の間に高抵抗層を介装して、誘電積層体を構成した場合には、誘電積層体における高抵抗層の厚さ比率は、0.3以上であることが望ましい。高抵抗層の厚さ比率は、次式(I)で算出される。
高抵抗層の厚さ比率=高抵抗層の厚さ/誘電積層体全体の厚さ・・・(I)
本態様においては、高抵抗層の厚さ比率を、0.3以上とすることにより、イオン含有層に生じた電荷の移動を、効果的に抑制することができる。
【0029】
また、前出図1に示したように、イオン含有層と高抵抗層とを一層ずつ積層して、誘電積層体を構成した場合には、誘電積層体における高抵抗層の厚さ比率は、0.5以上であることが望ましい。高抵抗層の厚さ比率は、次式(II)で算出される。
高抵抗層の厚さ比率=高抵抗層の厚さ/誘電積層体全体の厚さ・・・(II)
本態様においては、高抵抗層の厚さ比率を、0.5以上とすることにより、イオン含有層に生じた電荷の移動を、効果的に抑制することができる。
【0030】
(2)イオン含有層
イオン含有層は、エラストマーとイオン成分とを含む。また、イオン含有層は、架橋剤、加硫促進剤、加工助剤、可塑剤、老化防止剤、補強剤、着色剤等の添加剤を含んでいてもよい。さらに、イオン成分を固定化して、イオン含有層の電気抵抗の変化を抑制するという観点から、イオン含有層は、イオン吸着能に優れる活性炭、シリカ等を含んでいてもよい。
【0031】
エラストマーとしては、例えば、ヒドリンゴム、ニトリルゴム(NBR)、水素化ニトリルゴム(H−NBR)、カルボキシル基変性ニトリルゴム(X−NBR)、カルボキシル基変性水素化ニトリルゴム(XH−NBR)等が好適である。これらの一種を単独で、あるいは二種以上を混合して用いればよい。また、ニトリルゴム、水素化ニトリルゴムを用いる場合には、比誘電率を大きくするという観点から、アクリロニトリル含有量(結合AN量)が33質量%以上のものが望ましい。結合AN量は、ゴムの全体質量を100質量%とした場合のアクリロニトリルの質量割合である。
【0032】
イオン成分は、室温で固体のものでも、液体のもの(イオン性液体)でもよい。イオン成分の配合量は、電圧印加時の誘電分極による発生力の増加効果を得られるように、適宜調整すればよい。発生力の増加効果を大きくするという観点から、イオン成分の配合量は、エラストマーの100質量部に対して、0.155mmol以上3mmol以下であることが望ましい。
【0033】
イオン成分のカチオンとしては、例えば、第四級アンモニウムイオン、イミダゾリウムイオン、ピリジニウムイオン、ピロリジニウムイオン、第四級ホスホニウムイオン等が挙げられる。また、アニオンとしては、塩化物イオン(Cl−)、臭化物イオン(Br−)、ヨウ化物イオン(I−)、過塩素酸イオン(ClO4−)、BF4−、PF6−、CF3SO2−、(CF3SO2)2N−等が挙げられる。イオン成分としては、これらのカチオンとアニオンとを任意に組み合わせてなる化合物を採用すればよい。また、イオン成分の一種を単独で、あるいは二種以上を混合して用いることができる。
【0034】
イオン含有層の電気抵抗の低下を抑制するという観点から、イオン成分としては、室温で固体の化合物を用いることが望ましい。例えば、第四級アンモニウムイオン、イミダゾリウムイオン、ピリジニウムイオン、ピロリジニウムイオン、および第四級ホスホニウムイオンから選ばれるカチオンと、塩化物イオン、臭化物イオン、ヨウ化物イオン、および過塩素酸イオンから選ばれるアニオンと、を組み合わせてなる化合物が挙げられる。なかでも、潮解性が低く、取扱いやすいという理由から、第四級アンモニウム塩が好適である。
【0035】
<誘電積層体の製造方法>
本発明の誘電積層体は、例えば、次のように製造することができる。第一の方法としては、まず、高抵抗層と、イオン含有層と、を各々製造する。具体的には、高抵抗層を構成するエラストマー等と、必要に応じて配合される添加剤と、をロールや混練機により混練りして、エラストマー組成物を調製する。そして、調製したエラストマー組成物を、例えば金型に充填して、所定の条件下でプレス架橋する。同様に、イオン含有層を構成するエラストマーおよびイオン成分と、必要に応じて配合される添加剤と、をロールや混練機により混練りして、エラストマー組成物を調製する。そして、調製したエラストマー組成物を、例えば金型に充填して、所定の条件下でプレス架橋する。次に、高抵抗層とイオン含有層とを、貼り付ければよい。
【0036】
第二の方法としては、まず、高抵抗層、イオン含有層の各々について、所定の原料を含むエラストマー組成物を調製する。次に、金型中に、高抵抗層のエラストマー組成物と、イオン含有層のエラストマー組成物と、を積層させて、一体的にプレス架橋すればよい。
【0037】
また、エラストマー組成物については、エラストマー等の原料を、所定の溶剤中に溶解して調製してもよい。この場合には、まず、調製した液状のエラストマー組成物を、基材等に塗布する。次に、塗膜を乾燥させて、溶剤を揮発させる。そして、塗膜の乾燥と共に、または別途所定の条件下で、架橋反応を進行させればよい。
【0038】
添加剤としては、架橋剤、加硫促進剤、加工助剤、可塑剤、老化防止剤、補強剤、着色剤等が挙げられる。例えば、可塑剤を配合することにより、各層の柔軟性を向上させることができる。これにより、誘電積層体の伸縮性が向上する。したがって、トランスデューサを構成した場合に、より大きな力を得ることができる。配合する可塑剤としては、各層の電気抵抗を低下させにくいという観点から、絶縁性が高く、揮発しにくいものが望ましい。例えば、トリクレジルホスフェート、トリス2エチルヘキシルトリメリテート、塩化パラフィン等が好適である。
【0039】
架橋方法は、エラストマーの種類に応じて、適宜決定すればよい。例えば、硫黄架橋、過酸化物架橋、イソシアネート架橋、電子線(EV)架橋、紫外線(UV)架橋等が挙げられる。また、有機金属化合物のゾルゲル反応を利用してもよい。ゾルゲル反応を利用する場合には、有機金属化合物と水との急激な反応を抑制して、均質な層を形成するという観点から、有機金属化合物をキレート化して用いることが望ましい。この場合、例えば、次の方法を採用することができる。まず、エラストマーが溶解可能であり、かつ、有機金属化合物をキレート化できる溶剤中に、エラストマー等の原料が含有されている第一溶液を調製する。次いで、第一溶液に、有機金属化合物を混合して、第二溶液(エラストマー組成物)を調製する。その後、第二溶液を基材上に塗布し、乾燥させることにより、第二溶液から溶剤を除去して、架橋反応を進行させる。
【0040】
<トランスデューサ>
本発明のトランスデューサは、上記本発明の誘電積層体と、該誘電積層体を介して配置されている複数の電極と、を備える。本発明の誘電積層体の構成、および製造方法については、上述した通りである。よって、ここでは説明を割愛する。なお、本発明のトランスデューサを構成する誘電積層体についても、本発明の誘電積層体における好適な態様を採用することが望ましい。
【0041】
誘電積層体の厚さについては、トランスデューサの用途等に応じて適宜決定すればよい。例えば、本発明のトランスデューサをアクチュエータとして用いる場合には、小型化、低電位駆動化、および変位量を大きくする等の観点から、誘電積層体の厚さは薄い方が望ましい。例えば、誘電積層体の厚さを、1μm以上1000μm(1mm)以下とすることが望ましい。5μm以上200μm以下とすると、より好適である。
【0042】
本発明のトランスデューサにおいて、電極の材質は、特に限定されるものではない。例えば、カーボンブラック、カーボンナノチューブ等の炭素材料や金属からなる導電材に、バインダーとしてオイルやエラストマーを混合した導電性ペーストまたは導電性塗料を塗布した電極、あるいは炭素材料や金属等をメッシュ状に編んだ電極等を使用することができる。電極は、誘電積層体の伸縮に応じて伸縮可能であることが望ましい。電極が、誘電積層体と共に伸縮すると、誘電積層体の変形が電極によって妨げられにくい。このため、本発明のトランスデューサを、アクチュエータ等として使用した場合に、所望の力および変位量を得やすくなる。
【0043】
また、イオン成分を電極に配合してもよい。例えば、イオン成分を配合した上記導電性ペーストを、架橋前のイオン含有層に塗布し、電極とイオン含有層とを一体的に架橋する。こうすることにより、電極中のイオン成分がイオン含有層に移動する。その結果、電圧印加時に、イオン含有層の内部に多くの電荷が蓄えられる。これにより、発生力を増加させることができる。
【0044】
また、本発明のトランスデューサを、複数の誘電積層体と電極とを交互に積層させた積層構造とすると、より大きな力を発生させることができる。したがって、積層構造を採用した場合には、例えば、アクチュエータの出力を大きくすることができる。これにより、駆動対象部材をより大きな力で駆動させることができる。
【0045】
[第一実施形態]
本発明のトランスデューサの第一例として、アクチュエータの実施形態を説明する。図3に、本実施形態のアクチュエータの断面模式図を示す。(a)はオフ状態、(b)はオン状態を各々示す。
【0046】
図3に示すように、アクチュエータ1は、誘電積層体10と、電極11a、11bと、配線12a、12bと、を備えている。誘電積層体10は、高抵抗層100と、一対のイオン含有層101、102と、を有する。イオン含有層101、102は、いずれもエラストマーとイオン成分とを含む。イオン含有層101は、高抵抗層100の上面の略全体を覆うように、配置されている。同様に、イオン含有層102は、高抵抗層100の下面の略全体を覆うように、配置されている。高抵抗層100は、エラストマーを含む。高抵抗層100の体積抵抗率は、イオン含有層101、102の体積抵抗率より大きい。
【0047】
電極11aは、イオン含有層101(誘電積層体10)の上面の略全体を覆うように、配置されている。同様に、電極11bは、イオン含有層102(誘電積層体10)の下面の略全体を覆うように、配置されている。電極11a、11bは、各々、配線12a、12bを介して電源13に接続されている。
【0048】
オフ状態からオン状態に切り替える際は、一対の電極11a、11b間に電圧を印加する。電圧の印加により、誘電積層体10の厚さは薄くなり、その分だけ、図3(b)中白抜き矢印で示すように、電極11a、11b面に対して平行方向に伸長する。これにより、アクチュエータ1は、図3中、上下方向および左右方向の駆動力を出力する。
【0049】
本実施形態のアクチュエータ1によると、電圧印加時に、イオン成分の誘電分極により、イオン含有層101、102の内部、およびイオン含有層101、102と接する高抵抗層100の界面付近に、多くの電荷が発生する。発生した電荷は、高抵抗層100の内部を移動しにくい。したがって、イオン含有層101、102の内部、およびイオン含有層101、102と接する高抵抗層100の界面付近に、多くの電荷が蓄えられる。これにより、大きな静電引力が発生する。よって、アクチュエータ1によると、実用的な電圧範囲において、大きな力を出力することができる。
【0050】
また、電荷が高抵抗層100内を移動しにくいため、誘電積層体10における漏れ電流は小さい。このため、ジュール熱の発生が抑制される。よって、熱により、誘電積層体10の物性が変化したり、誘電積層体10が破壊されるおそれは小さい。したがって、アクチュエータ1の耐絶縁破壊強度は大きい。つまり、アクチュエータ1は、耐久性に優れる。なお、誘電積層体10を面延在方向に延伸した状態で配置すると、誘電積層体10の絶縁破壊強度がより大きくなる。よって、より大きな電圧を印加することができるため、発生力がより増加する。
【0051】
[第二実施形態]
本発明のトランスデューサの第二例として、静電容量型センサの実施形態を説明する。まず、本実施形態の静電容量型センサの構成について説明する。図4に、静電容量型センサの上面図を示す。図5に、図4のV−V断面図を示す。
【0052】
図4、図5に示すように、静電容量型センサ2は、誘電積層体20と、一対の電極21a、21bと、配線22a、22bと、カバーフィルム23a、23bと、を備えている。
【0053】
誘電積層体20は、左右方向に延びる帯状を呈している。誘電積層体20は、高抵抗層200と、一対のイオン含有層201、202と、を有する。イオン含有層201、202は、いずれもエラストマーとイオン成分とを含む。イオン含有層201は、高抵抗層200の上面の略全体を覆うように、配置されている。同様に、イオン含有層202は、高抵抗層200の下面の略全体を覆うように、配置されている。高抵抗層200は、エラストマーを含む。高抵抗層200の体積抵抗率は、イオン含有層201、202の体積抵抗率より大きい。
【0054】
電極21aは、長方形状を呈している。電極21aは、誘電積層体20の上面に、三つ配置されている。同様に、電極21bは、長方形状を呈している。電極21bは、誘電積層体20を挟んで電極21aと対向するように、誘電積層体20の下面に三つ配置されている。すなわち、誘電積層体20を挟んで、電極21a、21bが三対配置されている。
【0055】
配線22aは、誘電積層体20の上面に、配置されている。配線22aは、誘電積層体20の上面に形成された電極21aの一つ一つに、それぞれ接続されている。配線22aにより、電極21aとコネクタ24とが結線されている。同様に、配線22bは、誘電積層体20の下面に、配置されている。配線22bは、誘電積層体20の下面に形成された電極21bの一つ一つに、それぞれ接続されている(図4中、点線で示す)。配線22bにより、電極21bとコネクタ(図略)とが結線されている。
【0056】
カバーフィルム23aは、アクリルゴム製であって、左右方向に延びる帯状を呈している。カバーフィルム23aは、誘電積層体20、電極21a、配線22aの上面を覆っている。同様に、カバーフィルム23bは、アクリルゴム製であって、左右方向に延びる帯状を呈している。カバーフィルム23bは、誘電積層体20、電極21b、配線22bの下面を覆っている。
【0057】
次に、静電容量型センサ2の動きについて説明する。静電容量型センサ2の静電容量(キャパシタンス)は、次式(III)により求めることができる。
C=ε0εrS/d・・・(III)
[C:静電容量、ε0:真空中の誘電率、εr:誘電積層体の比誘電率、S:電極面積、d:電極間距離]
例えば、静電容量型センサ2が上方から押圧されると、誘電積層体20、電極21a、カバーフィルム23aは一体となって、下方に湾曲する。圧縮により、誘電積層体20の厚さ(電極間距離)は小さくなる。その結果、電極21a、21b間の静電容量は、大きくなる。この静電容量の変化により、圧縮による変形が検出される。
【0058】
次に、本実施形態の静電容量型センサ2の作用効果について説明する。本実施形態の静電容量型センサ2によると、圧縮変形により、イオン含有層201、202の内部、およびイオン含有層201、202と接する高抵抗層200の界面付近に、多くの電荷が蓄えられる。このため、変形に対する静電容量の変化が大きくなる。したがって、静電容量型センサ2の応答感度が向上する。また、誘電積層体20中に電流が流れにくい。このため、ジュール熱の発生が抑制される。よって、熱により、誘電積層体20の物性が変化したり、誘電積層体20が破壊されるおそれは小さい。したがって、静電容量型センサ2の耐絶縁破壊強度は大きい。つまり、静電容量型センサ2は、耐久性に優れる。
【0059】
なお、本実施形態の静電容量型センサ2には、誘電積層体20を狭んで対向する電極21a、21bが、三対形成されている。しかし、電極の数、大きさ、配置等は、用途に応じて、適宜決定すればよい。
【0060】
[第三実施形態]
本発明のトランスデューサの第三例として、発電素子の実施形態を説明する。図6に、本実施形態における発電素子の断面模式図を示す。(a)は伸長時、(b)は収縮時を各々示す。
【0061】
図6に示すように、発電素子3は、誘電積層体30と、電極31a、31bと、配線32a〜32cと、を備えている。誘電積層体30は、高抵抗層300と、一対のイオン含有層301、302と、を有する。イオン含有層301、302は、いずれもエラストマーとイオン成分とを含む。イオン含有層301は、高抵抗層300の上面の略全体を覆うように、配置されている。同様に、イオン含有層302は、高抵抗層300の下面の略全体を覆うように、配置されている。高抵抗層300は、エラストマーを含む。高抵抗層300の体積抵抗率は、イオン含有層301、302の体積抵抗率より大きい。
【0062】
電極31aは、誘電積層体30の上面の略全体を覆うように、配置されている。同様に、電極31bは、誘電積層体30の下面の略全体を覆うように、配置されている。電極31aには、配線32a、32bが接続されている。すなわち、電極31aは、配線32aを介して、外部負荷(図略)に接続されている。また、電極31aは、配線32bを介して、電源(図略)に接続されている。電極31bは、配線32cにより接地されている。
【0063】
図6(a)に示すように、発電素子3を圧縮し、誘電積層体30を電極31a、31b面に対して平行方向に伸長すると、誘電積層体30の膜厚は薄くなり、電極31a、31b間に電荷が蓄えられる。その後、圧縮力を除去すると、図6(b)に示すように、誘電積層体30の弾性復元力により誘電積層体30は収縮し、膜厚が厚くなる。その際、蓄えられた電荷が配線32aを通して放出される。
【0064】
本実施形態の発電素子3によると、イオン含有層301、302の内部、およびイオン含有層301、302と接する高抵抗層300の界面付近に、多くの電荷を蓄えることができる。したがって、発電効率が向上する。また、誘電積層体30中に電流が流れにくい。このため、ジュール熱の発生が抑制される。よって、熱により、誘電積層体30の物性が変化したり、誘電積層体30が破壊されるおそれは小さい。したがって、発電素子3の耐絶縁破壊強度は大きい。つまり、発電素子3は、耐久性に優れる。
【実施例】
【0065】
次に、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明する。
【0066】
<誘電積層体の製造>
次のようにして、高抵抗層を作製した。まず、カルボキシル基変性水素化ニトリルゴム(ランクセス社製「テルバン(登録商標)XT8889」)100質量部と、シリカ(日本アエロジル(株)製「Aerosil(登録商標)380」)10質量部と、をロール練り機にて混練りした。次に、混練りした材料を、アセチルアセトンに溶解した。続いて、この溶液に、有機金属化合物のテトラキス(2−エチルヘキシルオキシ)チタン15質量部を混合して、液状のエラストマー組成物を調製した。ここで、アセチルアセトンは、カルボキシル基含有水素化ニトリルゴムを溶解させる溶媒であると共に、テトラキス(2−エチルヘキシルオキシ)チタンのキレート剤である。その後、エラストマー組成物を基材上に塗布し、乾燥させた後、150℃で約60分間加熱して、高抵抗層を得た。高抵抗層の膜厚は、約40μmであった。
【0067】
次のようにして、イオン含有層を作製した。まず、カルボキシル基変性水素化ニトリルゴム(同上)100質量部と、イオン成分のテトラブチルアンモニウムブロミド0.5質量部(1.55mmol)と、をロール練り機にて混練りした。次に、混練りした材料を、アセチルアセトンに溶解した。続いて、この溶液に、テトラキス(2−エチルヘキシルオキシ)チタン5質量部を混合して、液状のエラストマー組成物を調製した。その後、エラストマー組成物を基材上に塗布し、乾燥させた後、150℃で約60分間加熱して、イオン含有層を得た。イオン含有層の膜厚は、約40μmであった。
【0068】
作製した高抵抗層を、二層重ね合わせて積層体を作製し、当該積層体の厚さ方向両面に、各々、イオン含有層を貼り付けて、実施例の誘電積層体を製造した。
【0069】
<評価>
実施例の誘電積層体を用いてアクチュエータを作製し、印加電圧に対する発生力および漏れ電流を測定した。まず、測定装置および測定方法について説明する。
【0070】
実施例の誘電積層体の表裏両面に、アクリルゴムにカーボンブラックが混合されてなる電極を貼着して、アクチュエータを作製した。以下、作製したアクチュエータを、実施例のアクチュエータと称す。図7に、測定装置に取り付けられた実施例のアクチュエータの表側正面図を示す。図8に、図7のVIII−VIII方向断面図を示す。
【0071】
図7、図8に示すように、アクチュエータ5の上端は、測定装置における上側チャック52により把持されている。アクチュエータ5の下端は、下側チャック53により把持されている。アクチュエータ5は、予め上下方向に延伸された状態で、上側チャック52と下側チャック53との間に、取り付けられている(延伸率25%)。上側チャック52の上方には、ロードセル(図略)が配置されている。
【0072】
アクチュエータ5は、誘電積層体50と一対の電極51a、51bとからなる。誘電積層体50は、自然状態で、縦50mm、横25mm、厚さ約160μmの矩形板状を呈している。誘電積層体50は、高抵抗層500と、一対のイオン含有層501、502と、からなる。イオン含有層501は、高抵抗層500の表面の略全体を覆うように、配置されている。同様に、イオン含有層502は、高抵抗層500の裏面の略全体を覆うように、配置されている。電極51a、51bは、誘電積層体50を挟んで表裏方向に対向するよう配置されている。電極51a、51bは、自然状態で、各々、縦40mm、横25mm、厚さ約10μmの矩形板状を呈している。電極51a、51bは、上下方向に10mmずれた状態で配置されている。つまり、電極51a、51bは、誘電積層体50を介して、縦30mm、横25mmの範囲で重なっている。電極51aの下端には、配線(図略)が接続されている。同様に、電極51bの上端には、配線(図略)が接続されている。電極51a、51bは、各々の配線を介して、電源(図略)に接続されている。
【0073】
電極51a、51b間に電圧を印加すると、電極51a、51b間に静電引力が生じて、誘電積層体50を圧縮する。これにより、誘電積層体50の厚さは薄くなり、延伸方向(上下方向)に伸長する。誘電積層体50の伸長により、上下方向の延伸力は減少する。電圧を印加した時に減少した延伸力を、ロードセルにより測定して、発生力とした。
【0074】
発生力および漏れ電流の測定は、印加する電圧を段階的に増加させて、誘電積層体50が破壊されるまで行った。すなわち、電圧を10秒間印加して15秒間停止するというサイクルを2回繰り返した後に、電圧を印加して、10秒後における発生力、および誘電積層体50に流れる電流を測定した。
【0075】
比較のため、実施例の誘電積層体におけるイオン含有層のみ、または高抵抗層のみを誘電層としたアクチュエータを作製して、上記同様に、印加電圧に対する発生力および漏れ電流を測定した。以下、イオン含有層のみを使用したアクチュエータを、参考例1のアクチュエータと称す。高抵抗層のみを使用したアクチュエータを、参考例2のアクチュエータと称す。さらに、市販のアクリルゴム(住友スリーエム(株)製「VHB(登録商標) Y4905J」)を誘電層としたアクチュエータを作製して、上記同様に、印加電圧に対する発生力および漏れ電流を測定した。以下、アクリルゴムを使用したアクチュエータを、比較例のアクチュエータと称す。
【0076】
次に、測定結果を説明する。図9に、各アクチュエータにおける電界強度と発生力との関係を示す。図10および図11に、各アクチュエータにおける電界強度と漏れ電流との関係を示す。なお、図10と図11とは、縦軸の目盛りが異なるだけである。また、図9〜図11中、横軸の電界強度は、印加電圧を、誘電積層体または誘電層の厚さで除した値である。
【0077】
図9に示すように、実施例のアクチュエータによると、大きな電圧を印加できると共に、発生力が大きくなった。また、図10、図11に示すように、実施例のアクチュエータにおける漏れ電流は、極めて小さかった。一方、アクリルゴムを誘電層とした比較例のアクチュエータによると、漏れ電流は小さいが、力はほとんど得られなかった。また、イオン含有層のみを誘電層とした参考例1のアクチュエータによると、印加電圧が小さい範囲での発生力は大きかった。しかし、電界強度約35V/μmにおいて、誘電層は破壊された。図10に示すように、参考例1のアクチュエータの漏れ電流は大きい。このため、ジュール熱が発生して、熱により誘電層が破壊されたと考えられる。また、高抵抗層のみを誘電層とした参考例2のアクチュエータによると、漏れ電流が小さく、大きな電圧を印加することができた。しかし、印加電圧を大きくしても、発生力は小さかった。以上より、本発明の誘電積層体によると、電圧印加時の漏れ電流が小さく、発生力の大きなトランスデューサを構成できることが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0078】
本発明の誘電積層体は、機械エネルギーと電気エネルギーとの変換を行うアクチュエータ、センサ、発電素子等、あるいは音響エネルギーと電気エネルギーとの変換を行うスピーカ、マイクロフォン、ノイズキャンセラ等のトランスデューサに広く用いることができる。なかでも、産業、医療、福祉ロボット用の人工筋肉、電子部品冷却用や医療用等の小型ポンプ、および医療用器具等に用いられる柔軟なアクチュエータに好適である。
【符号の説明】
【0079】
1:アクチュエータ 10:誘電積層体 11a、11b:電極 12a、12b:配線
13:電源 100:高抵抗層 101、102:イオン含有層
2:静電容量型センサ(トランスデューサ) 20:誘電積層体 21a、21b:電極
22a、22b:配線 23a、23b:カバーフィルム 24:コネクタ
200:高抵抗層 201、202:イオン含有層
3:発電素子(トランスデューサ) 30:誘電積層体 31a、31b:電極
32a〜32c:配線 300:高抵抗層 301、302:イオン含有層
5:アクチュエータ 50:誘電積層体 51a、51b:電極 52:上側チャック
53:下側チャック 500:高抵抗層 501、502:イオン含有層
9:誘電積層体 90:高抵抗層 91、92:イオン含有層
【特許請求の範囲】
【請求項1】
エラストマーとイオン成分とを含むイオン含有層と、
エラストマーを含み該イオン含有層よりも大きな体積抵抗率を有する高抵抗層と、
が積層されてなることを特徴とする誘電積層体。
【請求項2】
前記イオン含有層は、前記高抵抗層を挟んで該高抵抗層の厚さ方向両側に配置されている請求項1に記載の誘電積層体。
【請求項3】
次式(I)で算出される前記高抵抗層の厚さ比率は、0.3以上である請求項2に記載の誘電積層体。
高抵抗層の厚さ比率=高抵抗層の厚さ/誘電積層体全体の厚さ・・・(I)
【請求項4】
前記イオン含有層と前記高抵抗層とは、各々、一層ずつ積層されており、
次式(II)で算出される前記高抵抗層の厚さ比率は、0.5以上である請求項1に記載の誘電積層体。
高抵抗層の厚さ比率=高抵抗層の厚さ/誘電積層体全体の厚さ・・・(II)
【請求項5】
前記高抵抗層を構成する前記エラストマーは、エチレン−プロピレン−ジエン共重合体、イソプレンゴム、天然ゴム、フッ素ゴム、ニトリルゴム、水素化ニトリルゴム、シリコーンゴム、ウレタンゴム、アクリルゴム、ブチルゴム、スチレンブタジエンゴム、エチレン−酢酸ビニル共重合体、エチレン−酢酸ビニル−アクリル酸エステル共重合体から選ばれる一種以上である請求項1ないし請求項4のいずれかに記載の誘電積層体。
【請求項6】
前記高抵抗層は、前記エラストマーに加えて、さらに無機フィラーを含み、
該エラストマーは、該無機フィラーと反応可能な官能基を有する請求項1ないし請求項5のいずれかに記載の誘電積層体。
【請求項7】
前記無機フィラーは、シリカ、酸化チタン、チタン酸バリウム、炭酸カルシウム、クレー、焼成クレー、タルクから選ばれる一種以上である請求項6に記載の誘電積層体。
【請求項8】
前記イオン含有層を構成する前記エラストマーは、ヒドリンゴム、ニトリルゴム、水素化ニトリルゴムから選ばれる一種以上である請求項1ないし請求項7のいずれかに記載の誘電積層体。
【請求項9】
前記イオン成分は、第四級アンモニウムイオン、イミダゾリウムイオン、ピリジニウムイオン、ピロリジニウムイオン、および第四級ホスホニウムイオンから選ばれるカチオンと、塩化物イオン、臭化物イオン、ヨウ化物イオン、および過塩素酸イオンから選ばれるアニオンと、を有する化合物である請求項1ないし請求項8のいずれかに記載の誘電積層体。
【請求項10】
前記イオン成分の配合量は、前記イオン含有層を構成する前記エラストマーの100質量部に対して、0.155mmol以上3mmol以下である請求項1ないし請求項9のいずれかに記載の誘電膜。
【請求項11】
請求項1ないし請求項10のいずれかに記載の誘電積層体と、
該誘電積層体を介して配置されている複数の電極と、
を備えることを特徴とするトランスデューサ。
【請求項12】
複数の前記電極間に印加された電圧に応じて、前記誘電積層体が伸縮するアクチュエータである請求項11に記載のトランスデューサ。
【請求項1】
エラストマーとイオン成分とを含むイオン含有層と、
エラストマーを含み該イオン含有層よりも大きな体積抵抗率を有する高抵抗層と、
が積層されてなることを特徴とする誘電積層体。
【請求項2】
前記イオン含有層は、前記高抵抗層を挟んで該高抵抗層の厚さ方向両側に配置されている請求項1に記載の誘電積層体。
【請求項3】
次式(I)で算出される前記高抵抗層の厚さ比率は、0.3以上である請求項2に記載の誘電積層体。
高抵抗層の厚さ比率=高抵抗層の厚さ/誘電積層体全体の厚さ・・・(I)
【請求項4】
前記イオン含有層と前記高抵抗層とは、各々、一層ずつ積層されており、
次式(II)で算出される前記高抵抗層の厚さ比率は、0.5以上である請求項1に記載の誘電積層体。
高抵抗層の厚さ比率=高抵抗層の厚さ/誘電積層体全体の厚さ・・・(II)
【請求項5】
前記高抵抗層を構成する前記エラストマーは、エチレン−プロピレン−ジエン共重合体、イソプレンゴム、天然ゴム、フッ素ゴム、ニトリルゴム、水素化ニトリルゴム、シリコーンゴム、ウレタンゴム、アクリルゴム、ブチルゴム、スチレンブタジエンゴム、エチレン−酢酸ビニル共重合体、エチレン−酢酸ビニル−アクリル酸エステル共重合体から選ばれる一種以上である請求項1ないし請求項4のいずれかに記載の誘電積層体。
【請求項6】
前記高抵抗層は、前記エラストマーに加えて、さらに無機フィラーを含み、
該エラストマーは、該無機フィラーと反応可能な官能基を有する請求項1ないし請求項5のいずれかに記載の誘電積層体。
【請求項7】
前記無機フィラーは、シリカ、酸化チタン、チタン酸バリウム、炭酸カルシウム、クレー、焼成クレー、タルクから選ばれる一種以上である請求項6に記載の誘電積層体。
【請求項8】
前記イオン含有層を構成する前記エラストマーは、ヒドリンゴム、ニトリルゴム、水素化ニトリルゴムから選ばれる一種以上である請求項1ないし請求項7のいずれかに記載の誘電積層体。
【請求項9】
前記イオン成分は、第四級アンモニウムイオン、イミダゾリウムイオン、ピリジニウムイオン、ピロリジニウムイオン、および第四級ホスホニウムイオンから選ばれるカチオンと、塩化物イオン、臭化物イオン、ヨウ化物イオン、および過塩素酸イオンから選ばれるアニオンと、を有する化合物である請求項1ないし請求項8のいずれかに記載の誘電積層体。
【請求項10】
前記イオン成分の配合量は、前記イオン含有層を構成する前記エラストマーの100質量部に対して、0.155mmol以上3mmol以下である請求項1ないし請求項9のいずれかに記載の誘電膜。
【請求項11】
請求項1ないし請求項10のいずれかに記載の誘電積層体と、
該誘電積層体を介して配置されている複数の電極と、
を備えることを特徴とするトランスデューサ。
【請求項12】
複数の前記電極間に印加された電圧に応じて、前記誘電積層体が伸縮するアクチュエータである請求項11に記載のトランスデューサ。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2011−201104(P2011−201104A)
【公開日】平成23年10月13日(2011.10.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−69685(P2010−69685)
【出願日】平成22年3月25日(2010.3.25)
【出願人】(000219602)東海ゴム工業株式会社 (1,983)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成23年10月13日(2011.10.13)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年3月25日(2010.3.25)
【出願人】(000219602)東海ゴム工業株式会社 (1,983)
【Fターム(参考)】
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