説明

調光材料および調光フィルム

【課題】耐熱性に優れる調光材料、およびこれを用いて構成される調光フィルムを提供する。
【解決手段】調光材料を、エネルギー線照射により硬化可能な高分子媒体2と、ヒドロキシ基を有する(メタ)アクリレートに由来する構造単位と炭素数4〜20のアルキル(メタ)アクリレートに由来する構造単位とを一定のモル比で含む共重合体である樹脂分散剤、ならびに調光粒子10を含み、前記高分子媒体中に分散された光調整懸濁液9とを含んで構成する。また該調光材料を用いて調光フィルムを構成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は調光材料および調光フィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
電界を印加していない状態では、懸濁液中に分散されている光調整粒子のブラウン運動により、入射光の大部分が光調整粒子により反射、散乱又は吸収され、ごく一部分だけが透過し、一方、電界を印加した状態では、光調整粒子が分極を起こし、電場に対して平行に配列され、光調整粒子と光調整粒子の間を光が透過するライトバルブすなわち調光装置が知られている(例えば、特許文献1参照)。ロバート・エル・サックス(Robert.L.Saxe)らは、光調整粒子を安定して媒体に分散させる方法として、粒子と親和性の高いヒドロキシ基やその他の官能基をもつモノマーを用いて合成した分散高分子を用いる方法を提案している(例えば、特許文献2、3参照)。また、媒体としてトリメリット酸エステルが有効であることを提案している(例えば、特許文献4参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】米国特許第1,955,923号明細書
【特許文献2】米国特許第4,164,365号明細書
【特許文献3】米国特許第4,273,422号明細書
【特許文献4】米国特許第5,461,506号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献2〜4に記載された光調整粒子を懸濁させる方法では、構成された調光フィルムを高温環境下においた場合に、その前後で光透過率が変動してしまい、十分な耐熱性が得られない場合があった。
本発明は、耐熱性に優れる調光材料、およびこれを用いて構成される調光フィルムを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
前記課題を解決するための具体的手段は以下の通りである。
<1> エネルギー線照射により硬化可能な高分子媒体と、
ヒドロキシ基を有する(メタ)アクリレートに由来する第一の構造単位及び炭素数4〜20のアルキル(メタ)アクリレートに由来する第二の構造単位を含む共重合体であり、且つ前記第一の構造単位と前記第二の構造単位のモル比が5/95〜20/80である樹脂分散剤並びに光調整粒子を含有し、前記高分子媒体中に分散された光調整懸濁液と
を含む調光材料である。
【0006】
<2> 2つの透明導電性樹脂基材と、前記2つの透明導電性樹脂基材に挟持された調光層とを有し、前記調光層が、
樹脂マトリックスと、
前記樹脂マトリックス中に分散され、ヒドロキシ基を有する(メタ)アクリレートに由来する第一の構造単位及び炭素数4〜20のアルキル(メタ)アクリレートに由来する第二の構造単位を含む共重合体であり、且つ前記第一の構造単位と第二の構造単位のモル比が5/95〜20/80である樹脂分散剤と光調整粒子とを含有する、光調整懸濁液と
を有する調光フィルムである。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、耐熱性に優れる調光材料、およびこれを用いて構成される調光フィルムを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】本発明にかかる調光フィルムの一態様を示す概略断面図である。
【図2】図2(a)は、図1の調光フィルムの電界が印加されていない場合の作動を説明するための概略断面図であり、図2(b)は、電界が印加されていないときの光調整懸濁液の液滴3の様子を示す図である。
【図3】図3(a)は、図1の調光フィルムの電界が印加されている場合の作動を説明するための概略断面図であり、図3(b)は、電界が印加されているときの光調整懸濁液の液滴3の様子を示す図である。
【図4】本発明にかかる調光フィルムの端部の状態の一例を示す概略断面図である。
【図5】本発明にかかる調光フィルムにおける光透過率保持率と、100℃での保管時間との関係の一例を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本明細書において「工程」との語は、独立した工程だけではなく、他の工程と明確に区別できない場合であってもその工程の所期の作用が達成されれば、本用語に含まれる。また本明細書において「〜」を用いて示された数値範囲は、「〜」の前後に記載される数値をそれぞれ最小値および最大値として含む範囲を示す。
また、本明細書において、「(メタ)アクリレート」とは、「アクリレート」及びそれに対応する「メタクリレート」の少なくとも一方を意味する。同様に「(メタ)アクリル」とは、「アクリル」及びそれに対応する「メタクリル」の少なくとも一方を意味する。
【0010】
<調光材料>
本発明の調光材料は、エネルギー線照射により硬化可能な高分子媒体と、
ヒドロキシ基を有する(メタ)アクリレートに由来する第一の構造単位及び炭素数4〜20のアルキル(メタ)アクリレートに由来する第二の構造単位を含む共重合体であり、且つ前記第一の構造単位と前記第二の構造単位のモル比が5/95〜20/80である樹脂分散剤並びに光調整粒子を含有し、前記高分子媒体中に分散された光調整懸濁液と
を含み、必要に応じてその他の成分を含んで構成される。
即ち、本発明の調光材料においては、樹脂分散剤及び光調整粒子を含有する光調整懸濁液がエネルギー線照射により硬化可能な高分子媒体中に分散されており、該光調整懸濁液に含まれる樹脂分散剤がヒドロキシ基を有する(メタ)アクリレートに由来する第一の構造単位と炭素数4〜20のアルキル(メタ)アクリレートに由来する第二の構造単位とを所定のモル比で含む共重合体である。これにより、充分な耐熱性が確保できるとともに、光調整懸濁液に含まれる光調整粒子の分散性が向上し、安定な光透過率を維持することが可能になる。
従って、本発明によれば、長期に亘り、優れた耐熱性を有する調光材料を提供することができる。
【0011】
[光調整懸濁液]
前記光調整懸濁液は、前記樹脂分散剤の少なくとも1種と、光調整粒子の少なくとも1種とを含み、必要に応じてその他の成分を含んで構成される。
光調整懸濁液が、特定構造の樹脂分散剤を含むことで、光調整粒子の分散安定性が向上し、耐熱性に優れる調光材料を構成することができる。これは例えば、前記樹脂分散剤が適度な割合のヒドロキシ基を有することで、光調整粒子と樹脂分散剤の親和性がより向上するためと考えることができる。
【0012】
(樹脂分散剤)
前記樹脂分散剤は、光調整粒子が分散した光調整懸濁液を構成する流動可能な分散媒として用いられる。
前記樹脂分散剤は、ヒドロキシ基を有する(メタ)アクリレートに由来する第一の構造単位及び炭素数4〜20のアルキル(メタ)アクリレートに由来する第二の構造単位を含む共重合体(以下、「特定共重合体」ということがある)である。
ここで、構造単位とは、共重合体中に含まれる、モノマー由来の繰り返し単位をいう。
【0013】
本発明において、前記特定共重合体は、例えば光調整懸濁液を調製する際、光調整粒子を安定に分散するときに好ましく用いられる。
本発明においては、第一の構造単位と第二の構造単位とを所定の比率で含む特定共重合体を樹脂分散剤として用いることにより、光調整粒子の分散性を高めることができ、耐熱性に優れた調光材料を得ることができる。
かかる特定共重合体は、必要に応じて第一の構造単位及び第二の構造単位以外に、その他の構造単位を含んでいてもよい。
【0014】
前記第一の構造単位を構成するヒドロキシ基を有する(メタ)アクリレートは、少なくとも1つのヒドロキシ基と重合性基とを有するものであれば、特に限定されない。
前記ヒドロキシ基を有する(メタ)アクリレートとしては、下記式(I)で表される1つのヒドロキシ基がアルキレン基の末端に位置するヒドロキシルアルキル(メタ)アクリレートが好ましい。
【0015】
【化1】




・・・式(I)
【0016】
前記式(I)中、R1は水素原子又はメチル基を示し、R2は炭素数2〜8のアルキレン基を示す。
前記式(I)において、R1は水素原子又はメチル基であるが、メチル基であることが好ましい。
また、R2で表されるアルキレン基は、環状、直鎖状及び分岐鎖状のいずれであってもよく、中でも直鎖状であることが好ましい。炭素数は2〜8であるが、耐熱性の観点から、2〜4であることが好ましい。
R1、R2が上述のような条件を満たすことにより、光調整粒子の分散性を高めることができ、調光層において優れた耐熱性が実現できる。
【0017】
前記式(I)で表される化合物としては、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、3−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、4−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、5−ヒドロキシペンチル(メタ)アクリレート、6−ヒドロキシヘキシル(メタ)アクリレート、7−ヒドロキシヘプチル(メタ)アクリレート、8−ヒドロキシオクチル(メタ)アクリレート等が挙げられる。これらの中でも、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレートが好ましく、特に2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレートが好ましい。
【0018】
前記第二の構造単位を構成する炭素数が4〜20のアルキル(メタ)アクリレートにおけるアルキル基は、炭素数が4〜20のアルキル基であれば特に限定されず、直鎖状及び分岐鎖状のいずれであってもよい。
前記炭素数が4〜20のアルキル(メタ)アクリレートとしては、光調整粒子の分散性を確保する視点より、炭素数8〜16のアルキル(メタ)アクリレートが好ましく、炭素数10〜14のアルキル(メタ)アクリレートがより好ましい。
前記炭素数が4〜20のアルキル(メタ)アクリレートとしては、例えば、2−メチルプロピル(メタ)アクリレート、n−ブチル(メタ)アクリレート、t−ブチル(メタ)アクリレート、ペンチル(メタ)アクリレート、ヘキシル(メタ)アクリレート、2,4,6−トリメチルヘプチル(メタ)アクリレート、ヘプチル(メタ)アクリレート、オクチル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、ノニル(メタ)アクリレート、デシル(メタ)アクリレート、ウンデシル(メタ)アクリレート、ドデシル(メタ)アクリレート、トリデシル(メタ)アクリレート、ペンタデシル(メタ)アクリレート、ヘキサデシル(メタ)アクリレート、ヘプタデシル(メタ)アクリレート、オクタデシル(メタ)アクリレート、ノナデシル(メタ)アクリレート、エイコシル(メタ)アクリレート等が挙げられる。これらの中でもヘキシル(メタ)アクリレート、2,4,6−トリメチルヘプチル(メタ)アクリレート、ヘプチル(メタ)アクリレート、オクチル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、ノニル(メタ)アクリレート、デシル(メタ)アクリレート、ウンデシル(メタ)アクリレート、ドデシル(メタ)アクリレート、トリデシル(メタ)アクリレート、ペンタデシル(メタ)アクリレートが好ましく、特に2,4,6−トリメチルヘプチル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、ドデシル(メタ)アクリレート、トリデシル(メタ)アクリレートが好ましい。
【0019】
前記特定共重合体において、第一の構造単位と第二の構造単位のモル比は5/95〜20/80であり、5/95〜15/85であることが好ましく、6/94〜10/90であることがより好ましい。第一の構造単位のモル比が5より小さい場合、耐熱性が低下してしまう場合がある。これは光調整粒子との親和性をもつヒドロキシ基の量が十分でないためであると予想する。また、第一の構造単位のモル比が20より大きい場合には、粒子の分散性が悪化してヘイズが大きくなったり、透過率が低下したりする傾向がある。これは、例えばヒドロキシ基同士の相互作用が強くなるためと考えられる。
【0020】
前記特定共重合体において、前記第一の構造単位におけるヒドロキシ基は光調整粒子に親和性を示し、前記第二の構造単位におけるアルキル基は、高分子媒体中で光調整懸濁液が液滴として安定に維持するために作用すると考えられることから、光調整粒子が光調整懸濁液中で凝集したり、沈降したりすることなく安定的に分散される。また相分離の際には光調整粒子を相分離される液滴内に効率的に誘導することができる。
かかる特定共重合体としては、後述する高分子媒体及びその硬化物である樹脂マトリックスと完全に相分離するもの、もしくは部分的に相分離可能なものであることが好ましい。より好ましくは、光調整粒子を流動可能な状態で分散させる役割を果たすとともに、光調整粒子に選択的に付着被覆し、高分子媒体との相分離の際に光調整粒子が相分離された液滴相に移動するように作用し、電気導電性が小さく、高分子媒体との親和性が小さく、調光フィルムとした際に高分子媒体から形成される樹脂マトリックスとの屈折率が近似した液状共重合体を使用することがより好ましい。
【0021】
前記特定共重合体は、一般的な熱重合開始剤を用いたラジカル重合法で合成できる。例えば、前記ヒドロキシ基を有する(メタ)アクリレートと炭素数が4〜20のアルキル(メタ)アクリレートと、必要に応じてその他のモノマーとを含むモノマー混合物を一般的な熱重合開始剤を用いてラジカル重合することで合成できる。その際、連鎖移動剤を適宜添加してもよい。連鎖移動剤としては、通常使用されるものであれば、特に制限されない。例えば、炭素数1〜10のアルキルメルカプタン及びその誘導体、α−メチルスチレンダイマー誘導体等を挙げることができる。
中でも、β位およびγ位にヒドロキシ基を有するアルキルスルフィド構造を有する化合物を用いることが好ましい。このような連鎖移動剤としては、3−メルカプト−1,2−プロパンジオール、1−メルカプト−2,3−ジヒドロキシブタン、1−メルカプト−2,3−ジヒドロキシヘキサン等を挙げることができる。
【0022】
上述のようにして得られる特定共重合体は、合成後に精製工程に付することが好ましい。精製方法としては例えば、メタノール、エタノール、プロパノール等のアルコールを用いた分液精製、分子蒸留と呼ばれる10Pa以下の高真空下で蒸留して低分子成分を除去する方法等を挙げることができる。
【0023】
前記特定共重合体は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)で測定した標準ポリスチレン換算の重量平均分子量が500〜20,000であることが好ましく、1,000〜10,000であることがより好ましい。特定共重合体の分子量は、熱重合開始剤の添加量、連鎖移動剤の添加、反応時間の調節等で適宜制御することが可能である。
【0024】
前記特定共重合体からなる樹脂分散剤の前記光調整懸濁液中における含有量は、後述する光調整粒子の含有率に応じて適宜選択することができる。例えば、耐熱性の観点から、光調整粒子100質量部に対して0.1〜20質量部であることが好ましく、0.2〜10質量部であることがより好ましい。
【0025】
(光調整粒子)
前記光調整懸濁液は、光調整粒子の少なくとも1種を含む。光調整粒子としては、前駆体であるピラジン−2,3−ジカルボン酸・2水和物、ピラジン−2,5−ジカルボン酸・2水和物、ピリジン−2,5−ジカルボン酸・1水和物からなる群の中から選ばれた1つの物質とヨウ素及びヨウ化物とニトロセルロースとを反応させて得られるポリヨウ化物が好ましい。
ヨウ化物としては、ヨウ化カルシウム等が挙げられる。このようにして得られるポリヨウ化物としては、例えば、下記一般式で表されるものが挙げられる。

CaI(C)・xHO (x:1〜2)
CaI(C・cHO (a:3〜7、b:1〜2、c:1〜3)

これらのポリヨウ化物は針状結晶であることが好ましい。
【0026】
また、調光フィルム用光調整懸濁液に用いる光調整粒子として、米国特許第2,041,138号明細書(E.H.Land)、米国特許第2,306,108号明細書(Landら)、米国特許第2,375,963号明細書(Thomas)、米国特許第4,270,841号明細書(R.L.Saxe)及び英国特許第433,455号明細書に開示されている光調整粒子も、使用することができる。これらの特許によって公知とされたポリヨウ化物の結晶は、ピラジンカルボン酸、又はピリジンカルボン酸の1つを選択して、ヨウ素、塩素又は臭素と反応させることにより、ポリヨウ化物、ポリ塩化物又はポリ臭化物等のポリハロゲン化物とすることによって作製されている。これらのポリハロゲン化物は、ハロゲン原子が無機質又は有機質と反応した錯化合物で、これらの詳しい製法は、例えば、サックスの米国特許第4,422,963号明細書に開示されている。
【0027】
前記光調整粒子の粒子サイズは、調光フィルムとしたときの印加電圧に対する応答時間と、光調整懸濁液中の凝集及び沈殿との関係から、以下のサイズが好ましいと考えられる。
光調整粒子の長径は、225nm〜625nmが好ましく、250nm〜550nmがより好ましく、300nm〜500nmがさらに好ましい。
また、光調整粒子の短径に対する長径の比率、すなわちアスペクト比は3〜8が好ましく、3.3〜7がより好ましく、3.6〜6がさらに好ましい。
本発明における光調整粒子の長径と短径は、走査型電子顕微鏡、透過型電子顕微鏡等の電子顕微鏡で光調整粒子を撮影し、撮影した画像より任意に50個の光調整粒子を抽出し、各光調整粒子の長径と短径を平均値として算出することができる。ここで、長径とは、前記撮影した画像により二次元視野内に投影された光調整粒子について、最も長い部分の長さとする。また、短径とは、前記長径に直交する最も長い部分の長さとする。
【0028】
また、本発明における光調整粒子の粒子径を評価する方法として、光子相関法や動的光散乱法の原理を用いた粒度分布計を用いることができる。この方法では直接粒子の大きさや形状を計測するのではなく、粒子を球状と仮定して相当径を評価することになり、SEM観察とは異なる値となる。特に、シスメックス株式会社製ゼータサイザーナノシリーズを用い、Z averageとして出力される相当径を粒子径とした場合に、光調整粒子の粒子径(以下、「粒度分布測定により求められる粒子径」ともいう)は135nm〜220nmが好ましく、140nm〜210nmがより好ましく、145nm〜205nmがさらに好ましい。
このZ average値は、例えば光相関法や動的光散乱法に基づいた、違う粒度分布計の測定値、具体的には上述の透過型電子顕微鏡等の電子顕微鏡で測定される光調整粒子の長径、短径とよい相関を示すことが知られおり、粒子径を評価する指標として適当である。
【0029】
製造された光調整粒子は、未反応物や副生成物、またサイズが小さい粒子や大きい粒子、アスペクト比が小さい粒子や大きい粒子が含まれる場合がある。通常は精製して用いることが好ましい。この精製方法としては例えば遠心分離を行う方法がある。遠心分離の条件は処理する量にもよるが、3000G〜20000Gが好ましい。また処理回数は2回以上が好ましい。遠心後は上澄みを傾斜して廃棄し、粒子が凝集せずに分散可能な有機溶剤を加えるとよい。このとき、加える有機溶剤に制限はないが、例えば酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸プロピル、酢酸ブチル、酢酸ペンチル、酢酸イソアミル、酢酸ヘキシル、アセトン、エチルメチルケトン、イソブチルケトン等が挙げられ、中でも、酢酸エチル、酢酸プロピル、酢酸ブチル、酢酸ペンチル、酢酸イソアミル、酢酸ヘキシルを好適に使用することができ、これらの溶媒が1種以上含まれていることが好ましい。これら溶媒は1種のみでもよいし、2種類以上を混合して用いてもよい。また、遠心分離処理を2回以上行う場合、最初の遠心分離処理にはニトロセルロースを溶解させた溶剤を用いてもよい。このとき、ニトロセルロースの濃度は3〜20%、好ましくは5〜15%である。また、溶剤を加えた後は、光調整粒子が溶剤中で分散できるように、ホモジナイザーや超音波で処理するとよい。
以上のようにして光調整粒子分散液を得ることができる。
【0030】
光調整粒子分散液における光調整粒子の濃度を求める方法として、この光調整粒子分散液を少量サンプリングし、加熱乾燥して残存する固形重量をもって粒子量とし、濃度を計算する方法がある。
さらに正確な濃度決定方法としては、例えば、光調整粒子分散液の密度を測定し、この密度の値から濃度を求める方法が挙げられる。具体的には、光調整懸濁液の製造方法においては、光調整粒子分散液の密度を測定する工程と、測定した前記密度に基づいて、前記光調整粒子分散液の濃度を算出する工程とを設けることができる。このような粒子と媒体である溶剤の密度に差があれば、粒子の濃度と分散液の密度には相関関係があると考えられる。溶剤、分散液の密度を測定する装置は特に制限されないが、例えば、アントンパール社製の振動式デジタル密度計を用いると、小数点以下第4位から6位までの密度を求めることが可能である。
【0031】
また、光調整粒子分散液の密度と粒子濃度の関係を表す式は、それぞれの、光調整粒子の密度、溶剤の密度、分散液の密度をそれぞれDp、Ds、Dsusとし、分散液中の粒子濃度をCpとすると、単位重量当たりの光調整粒子分散液の体積が、粒子と溶剤の体積の和になるとすれば求めることができる。単位重量の光調整粒子分散液に含まれる光調整粒子、溶剤の重量はそれぞれ、Cp/100、(100−Cp)/100となる。それぞれの体積は密度で除してCp/(100・Dp)、(100−Cp)/(100Ds)となる。従って式(1)のとおりになる。
【0032】
【数1】

【0033】
前記式(1)を展開すると、光調整分散液の粒子濃度を求める式(2)なる。
【0034】
【数2】

【0035】
このとき、Dsus、Dsは密度計を用いて測定することが可能であるが、固体の密度であるDpは測定することが困難である。ただし、式(2)を展開した下記式(3)のような光調整粒子密度を求める式において、適当な基準となる光調整粒子分散液の濃度を任意に決めるならば、基準となる光調整粒子密度が求まり、その値を式(2)に代入すると、粒子濃度が求められる。ここで求められる粒子濃度は、基準を決めた時の相対値であり、真の値とは言えないが、相対的な比較は可能であることから、事実上問題はない。また、基準となる光調整粒子分散液の濃度としては、例えば、光調整粒子分散液における不揮発分比であるNV値(乾燥後の光調整粒子分散液の質量/乾燥前の光調整分散液の質量)を採用すればよい。
【0036】
【数3】

【0037】
前記光調整懸濁液中における前記光調整粒子の含有量は、目的に応じて適宜選択できる。耐熱性と調光性能の観点から、光調整懸濁液中における含有率が、0.1質量%〜30質量%であることが好ましく、0.5質量%〜25質量%であることがより好ましい。
【0038】
(可塑剤)
前記光調整粒子が分散した光調整懸濁液は、流動可能な分散媒として上述の樹脂分散剤を含むが、必要に応じて可塑剤の少なくとも1種をさらに含んでいてもよい。これにより光調整懸濁液の粘度をより低減することができる。
可塑剤は上述の樹脂分散剤と同様に流動可能な状態で、光調整粒子を分散させる役割を果たすものであればよい。例えば、フタル酸ジオクチル、フタル酸ジイソオクチル、フタル酸ジブチル、フタル酸ブチルオクチル等のフタル酸アルキルエステル類、イソフタル酸ジオクチル等のイソフタル酸アルキルエステル類、オレイン酸ブチル、オレイン酸−n−プロピル等のオレイン酸アルキルエステル類、アジピン酸ジオクチル等のアジピン酸アルキルエステル類、ジ安息香酸ジエチレングリコール等の安息香酸アルキルエステル、トリメリット酸オクチル、トリメリット酸ドデシル、トリメリット酸イソデシル等を挙げることができる。
光調整懸濁液中の分散媒として樹脂分散剤と可塑剤の割合に特に制限はなく、必要に応じて適宜選択できる。例えば、樹脂分散剤と可塑剤の総量中における樹脂分散剤の割合が3%以上であることが好ましく、5%以上であることがより好ましい。
【0039】
前記光調整懸濁液は、溶剤を含む光調整粒子分散液と、前記樹脂分散剤と、必要に応じて前記可塑剤とを通常用いられる方法で混合した後、光調整粒子が所望の濃度となるように溶剤の少なくとも一部を除去することで調製することができる。
溶剤の除去方法として具体的には、所定の濃度の光調整粒子分散液と分散高分子を混合した後、加熱しながら溶剤を減圧留去する方法が好ましい。ロータリーエバポレータにアスピーレータやダイヤフラム式もしくは油回転式ポンプを接続し、減圧すると効率的に溶剤を留去できる。また光調整粒子分散液の濃度は上述のようにして算出することができる。
【0040】
[高分子媒体]
本発明の調光材料はエネルギー線照射により硬化可能な高分子媒体の少なくとも1種を含む。エネルギー線を照射することにより硬化する高分子媒体としては、例えば、紫外線、可視光線、電子線等のエネルギー線により硬化する高分子化合物、及び光重合開始剤を含む高分子組成物が挙げられる。
【0041】
前記高分子組成物としては、例えば、エチレン性不飽和基を有する高分子化合物及び光重合開始剤を含む高分子組成物が挙げられる。
前記エチレン性不飽和基を有する高分子化合物としては、シリコーン系樹脂、アクリル系樹脂、ポリエステル樹脂等が合成容易性、調光性能、耐久性等の点から好ましい。
これらの樹脂は、置換基として、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、tert−ブチル基、アミル基、イソアミル基、ヘキシル基、シクロヘキシル基等のアルキル基、フェニル基、ナフチル基等のアリール基をさらに有することが、調光性能、耐久性等の点から好ましい。
【0042】
シリコーン系樹脂として、具体的には、例えば、特公昭53−36515号公報、特公昭57−52371号公報、特公昭58−53656号公報、特公昭61−17863号公報等に記載の高分子化合物を挙げることができる。
また、前記シリコーン系樹脂は、例えば、両末端シラノールポリジメチルシロキサン、両末端シラノールポリジフェニルシロキサン−ジメチルシロキサンコポリマー、両末端シラノールポリジメチルジフェニルシロキサン等の両末端シラノールシロキサンポリマー、トリメチルエトキシシラン等のトリアルキルアルコキシシラン、(3−アクリロキシプロピル)メチルジメトキシシラン等のエチレン性不飽和結合含有シラン化合物などを、有機スズ系触媒である2−エチルヘキサン錫の存在下で、脱水縮合反応及び脱アルコール反応させて合成される。
シリコーン系樹脂の形態としては、無溶剤型が好ましい。すなわち、樹脂の合成に溶剤を用いた場合には、合成反応後に溶剤を除去することが好ましい。
シリコーン系樹脂の調製における(3−アクリロキシプロピル)メトキシシラン等のエチレン性不飽和結合含有シラン化合物の使用量は、原料シロキサン及びシラン化合物総量の2質量%〜30質量%とすることが好ましく、5質量%〜18質量%とすることがより好ましい。
【0043】
前記アクリル系樹脂は、例えば、(メタ)アクリル酸アルキルエステル、(メタ)アクリル酸アリールエステル、(メタ)アクリル酸ベンジル、スチレン等の主鎖形成モノマーと、(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリル酸ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸イソシアナートエチル、(メタ)アクリル酸グリシジル等のエチレン性不飽和基導入用官能基含有モノマーなどを共重合して、プレポリマーを合成する。次いで、このプレポリマーのエチレン性不飽和基導入用官能基に応じて選択されるエチレン性不飽和基含有モノマーを前記プレポリマーに付加反応させることにより得ることができる。
前記エチレン性不飽和基含有モノマーとしては例えば、(メタ)アクリル酸グリシジル、(メタ)アクリル酸イソシアナートエチル、(メタ)アクリル酸ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸等を挙げることができる。
【0044】
これらエチレン性不飽和基を有する高分子化合物のゲルパーミエーションクロマトグラフィーによって得られるポリスチレン換算の重量平均分子量は、20,000〜100,000であることが好ましく、30,000〜80,000であることがより好ましい。
【0045】
本発明の調光材料が高分子媒体として、前記エチレン性不飽和基を有する高分子化合物を含む場合、エネルギー線に露光するとラジカル重合を活性化する光重合開始剤をさらに含むことが好ましい。
光重合開始剤として具体的には、2,2−ジメトキシ−1,2−ジフェニルエタン−1−オン、1−(4−(2−ヒドロキシエトキシ)フェニル)−2−ヒドロキシ−2−メチル−1−プロパン−1−オン、ビス(2,4,6−トリメチルベンゾイル)フェニルホスフィンオキサイド、2−ヒドロキシ−2−メチル−1−フェニルプロパン−1−オン、(1−ヒドロキシシクロヘキシル)フェニルケトン等を挙げることができる。
これらの光重合開始剤の使用量は、前記エチレン性不飽和基を有する高分子化合物100質量部に対して0.05質量部〜20質量部であることが好ましく、0.1質量部〜5質量部であることがより好ましい。
【0046】
また前記高分子媒体は、前記エチレン性不飽和基を有する高分子化合物に加えて、エチレン性不飽和基をもたない有機溶剤可溶型樹脂及び熱可塑性樹脂の少なくとも1種を含んでもよい。具体的には例えば、ゲルパーミエーションクロマトグラフィーにより測定したポリスチレン換算の重量平均分子量が1,000〜100,000のポリアクリル酸、ポリメタクリル酸等も併用することができる。
さらに高分子媒体中には、ジブチル錫ジラウレート等の着色防止剤等の添加物を必要に応じて添加してもよく、必要に応じて溶剤が含まれていてもよい。
【0047】
本発明の調光材料は、前記光調整懸濁液と、前記高分子媒体とを混合することで調製することができる。前記光調整懸濁液及び高分子媒体の混合比率は、目的に応じて適宜選択できる。調光性能とフィルム形成の観点から、5:90〜70:30となるような混合比率であることが好ましく、10:90〜60:40となるような混合比率であることがより好ましい。
【0048】
<調光フィルム>
本発明の調光フィルムは、2つの透明導電性樹脂基材と、前記2つの透明導電性樹脂基材に挟持され、前記調光材料を用いて形成される調光層とを有するものである。前記調光材料から、高分子媒体から形成された樹脂マトリックスと、樹脂マトリックス中に分散した光調整懸濁液とを含む調光層が形成される。
調光層が前記調光材料から形成されることで、高温環境におかれた後であっても光透過性の変化が抑制される耐熱性に優れた調光フィルムを構成することができる。また調光層における光調整粒子濃度のバラつきが抑えられ、透過率のバラつきや外観差が抑えられた調光フィルムを構成することができる。
【0049】
(透明導電性樹脂基材)
透明導電性樹脂基材としては、一般的に、透明樹脂基材に、光透過率が80%以上の透明導電膜(ITO、SnO、In、有機導電膜等の膜)がコーティングされている表面抵抗値が3Ω〜3000Ωの透明導電性樹脂基材を使用することができる。なお、透明樹脂基材の光透過率はJIS K7105の全光線透過率の測定法に準拠して測定することができる。また、透明樹脂基材としては、例えば、高分子フィルム等を使用することができる。
【0050】
前記高分子フィルムとしては、例えば、ポリエチレンテレフタレート等のポリエステル系フィルム、ポリプロピレン等のポリオレフィン系フィルム、ポリ塩化ビニル、アクリル樹脂系のフィルム、ポリエーテルサルフォンフィルム、ポリアリレートフィルム、ポリカーボネートフィルム等の樹脂フィルムが挙げられるが、ポリエチレンテレフタレートフィルムが、透明性に優れ、成形性、接着性、加工性等に優れるので好ましい。
【0051】
透明樹脂基材にコーティングされる透明導電膜の厚みは、10nm〜5,000nmであることが好ましい。透明樹脂基材の厚みは特に制限はない。例えば、高分子フィルムの場合には10μm〜200μmが好ましい。
【0052】
透明樹脂基材の間隔が狭く、異物質の混入等により発生する短絡現象を防止するために、透明導電膜の上に数nm〜1μm程度の厚さの透明絶縁層が形成されている透明樹脂導電性基材を使用してもよい。また、本発明の調光フィルムを反射型の調光窓に利用する場合(例えば、自動車用リアビューミラー等)は、反射体であるアルミニウム、金、又は銀のような導電性金属の薄膜を電極として直接用いてもよい。
【0053】
本発明の調光フィルム、調光層との密着性を向上させるためのプライマー層を有する2枚の透明導電性樹脂基材に挟持されているか、あるいはプライマー層を有する透明導電性樹脂基材とプライマー層を有さない透明導電性樹脂基材の2枚の透明導電性樹脂基材に挟持されていてもよい。
【0054】
前記プライマー層は、ペンタエリスリトール骨格を含有するウレタンアクリレートを含有する材料、分子内に水酸基を有する(メタ)アクリレートを含有する材料、金属酸化物微粒子を有機バインダー樹脂に分散させた材料、分子内に1つ以上の重合性基を有するリン酸エステル、アミノ基を有するシランカップリング剤等からなる薄膜で形成されるのが好ましい。
【0055】
本発明における透明導電性樹脂基材のプライマー処理(プライマー層の形成)は、例えば、プライマー層を形成する材料を、バーコーター法、マイヤーバーコーター法、アプリケーター法、ドクターブレード法、ロールコーター法、ダイコーター法、コンマコーター法、グラビアコート法、マイクログラビアコート法、ロールブラッシュ法、スプレーコート法、エアーナイフコート法、含浸法、カーテンコート法等を単独又は組み合わせて用いて、透明導電性樹脂基材に塗布することにより行うことができる。
【0056】
なお、塗布する際は必要に応じて適当な溶剤で希釈し、プライマー層を形成する材料の溶液を用いてもよい。溶剤を用いた場合には、透明導電性樹脂基材上に塗布した後乾燥を要する。尚、プライマー層となる塗膜は必要に応じて透明導電性樹脂基材の片面のみ(透明導電膜側)に形成してもよいし、含浸法やディップコート法によって両面に形成してもよい。
プライマー層形成に用いる溶剤としては、プライマー層を形成する材料を溶解あるいは分散し、プライマー層形成後に乾燥等により除去できるものであればよく、イソプロピルアルコール、エタノール、メタノール、1−メトキシ−2−プロパノール、2−メトキシエタノール、シクロヘキサノン、メチルイソブチルケトン、アニソール、メチルエチルケトン、アセトン、テトラヒドロフラン、トルエン、ヘプタン、シクロヘキサン、エチルアセテート、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、ジエチルジグリコール、ジメチルジグリコール、酢酸イソアミル、酢酸ヘキシル等を用いることができ、これらの混合溶媒でもよい。
【0057】
(調光層)
本発明における調光層は、樹脂マトリックスと該樹脂マトリックス中に分散した前記光調整懸濁液とを含む。なお、樹脂マトリックスは、調光材料に含まれるエネルギー線照射により硬化可能な高分子媒体(好ましくは、エチレン性不飽和基含有高分子化合物)を硬化したものである。前記高分子媒体及び分散媒(光調整懸濁液中の樹脂分散剤および可塑剤等の分散媒)としては、前記高分子媒体及びその硬化物と分散媒とが、少なくともフィルム化したときに互いに相分離しうるものを用いる。互いに非相溶又は部分相溶性の前記高分子媒体と分散媒とを組み合わせて用いることが好ましい。
【0058】
調光フィルムを得るためには、まず、液状の前記光調整懸濁液を、前記高分子媒体と均質に混合し、光調整懸濁液が高分子媒体中に液滴状態で分散した混合液からなる調光材料を得る。
光調整懸濁液と高分子媒体とを混合する方法は特に制限されず、通常の液体混合方法から適宜選択して適用することができる。
【0059】
この調光材料を、前記透明導電性樹脂基材上に一定な厚さで塗布し、必要に応じて溶剤を乾燥除去した後、高圧水銀灯等を用いて紫外線を照射し高分子媒体を硬化させる。その結果、硬化した高分子媒体からなる樹脂マトリックス中に、光調整懸濁液が液滴状に分散されている調光層が形成される。高分子媒体と光調整懸濁液との混合比率を様々に変えることにより、調光層の光透過率を調節することができる。
【0060】
このようにして形成された調光層の上にもう一方の透明導電性樹脂基材を密着させることにより、調光フィルムが得られる。あるいは、この調光材料を、透明導電性樹脂基材上に一定な厚さで塗布し、必要に応じて溶剤を乾燥除去した後、もう一方の透明導電性樹脂基材でラミネートした後に紫外線を照射し高分子媒体を硬化させてもよい。2枚の透明導電性樹脂基材の両方の上に調光層を形成し、それを調光層同士が密着するようにして積層してもよい。調光層の厚みは、5μm〜1,000μmが好ましく、20μm〜100μmがより好ましい。
【0061】
樹脂マトリックス中に分散されている光調整懸濁液の液滴の大きさ(平均液滴径)は、通常0.5μm〜100μm、好ましくは0.5μm〜20μm、より好ましいくは1μm〜5μmである。液滴の大きさは、光調整懸濁液を構成している各成分の濃度、光調整懸濁液及び高分子媒体の粘度、光調整懸濁液中の分散媒の高分子媒体に対する相溶性等により決められる。
【0062】
平均液滴径は、例えば、SEMを用いて、調光フィルムの一方の面方向から写真等の画像を撮影し、任意に選択した複数の液滴直径を測定し、その平均値として算出することができる。また、調光フィルムの光学顕微鏡での視野画像をデジタルデータとしてコンピュータに取り込み、画像処理インテグレーションソフトウェアを使用し算出することも可能である。
【0063】
調光層となる調光材料の塗布には、例えば、バーコーター、アプリケーター、ドクターブレード、ロールコーター、ダイコーター、コンマコーター等の公知の塗工手段を用いることができる。調光材料を、透明導電性樹脂基材上に設けたプライマー層面に塗布し、あるいは、一方にプライマー層を有さない透明導電性樹脂基材を用いる場合には、透明導電性樹脂基材に直接塗布することもできる。なお、塗布する際は、必要に応じて、適当な溶剤で希釈してもよい。溶剤を用いた場合には、透明導電性樹脂基材上に塗布した後に乾燥を要する。
【0064】
調光材料の塗布に用いる溶剤としては、テトラヒドロフラン、トルエン、ヘプタン、シクロヘキサン、エチルアセテート、エタノール、メタノール、酢酸イソアミル、酢酸ヘキシル等を用いることができる。液状の光調整懸濁液が、固体の樹脂マトリックス中に微細な液滴形態で分散されているフィルムを形成するためには、調光材料をホモジナイザー、超音波ホモジナイザー等で混合してシロキサン樹脂中に光調整懸濁液を微細に分散させる方法、シロキサン樹脂中の樹脂成分の重合による相分離法、溶媒揮発による相分離法、又は温度による相分離法等を利用することができる。
【0065】
上述の方法によれば、電場の形成により任意に光透過率が調節できる調光フィルムが提供される。この調光フィルムは、電場が形成されていない場合にも、光の散乱のない鮮明な着色状態を維持し、電場が形成されると透明な状態に転換される。この能力は、20万回以上の可逆的反復特性を示す。
【0066】
透明な状態においての光透過率増進と、着色された状態における鮮明度の増進のためには、液状の光調整懸濁液の屈折率と、樹脂マトリックスの屈折率を一致させることが好ましい。
【0067】
調光フィルムを作動させるための使用電源は交流で、10ボルト〜100ボルト(実効値)、30Hz〜500kHzの周波数範囲とすることができる。本発明の調光フィルムは、電界に対する応答時間を、消色時には1秒〜50秒以内、着色時には1秒〜100秒以内とすることができる。また、紫外線耐久性は、750W紫外線等を利用した紫外線照射試験の結果、250時間が経過した後にも安定な可変特性を示し、−50℃〜90℃で長時間放置した場合にも、初期の可変特性を維持することが可能である。
【0068】
従来技術である液晶を使用した調光フィルムの製造における、水を用いたエマルションによる方法を使用すると、液晶が水分と反応して光調整特性を失うことが多く、同一の特性のフィルムを製造しにくいという問題がある。
【0069】
しかし本発明においては、液晶ではなく、光調整粒子が光調整懸濁液内に分散されている液状の光調整懸濁液を使用するため、液晶を利用した調光フィルムとは異なり、電界が印加されていない場合にも光が散乱せず、鮮明度が優れて視野角の制限のない着色状態を表す。そして、光調整粒子の含量、液滴形態や膜厚を調節したり、又は電界強度を調節したりすることにより、光可変度を任意に調節できる。
【0070】
また、本発明の調光フィルムは、液晶を用いないことから、紫外線露光による色調変化及び可変能力の低下、大型製品特有の透明導電性樹脂基材の周辺部と中央部間に生ずる電圧降下に伴う応答時間差も解消される。
また、液晶を利用した従来技術による調光窓の場合には、液晶が紫外線に容易に劣化し、またネマチック液晶の熱的特性によりその使用温度の範囲も狭い。更に、光学特性面においても、電界が印加されていない場合には光散乱による乳白色の半透明な状態を示し、電界が印加される場合にも、完全には鮮明化せず、乳濁状態が残存する問題点がある。従って、このような調光窓では、既存の液晶表示素子で動作原理として利用されている光の遮断及び透過による表示機能が不可能である。しかし、本発明による調光フィルムを使用すれば、このような問題点が解決できる。
【0071】
本発明の調光フィルムは、例えば、室内外の仕切り(パーティッション)、建築物用の窓硝子/天窓、電子産業及び映像機器に使用される各種平面表示素子、各種計器板と既存の液晶表示素子の代替品、光シャッター、各種室内外広告及び案内標示板、航空機/鉄道車両/船舶用の窓硝子、自動車用の窓硝子/バックミラー/サンルーフ、眼鏡、サングラス、サンバイザー等の用途に好適に使用することができる。
【0072】
適用法としては、本発明の調光フィルムを直接使用することも可能であるが、用途によっては、例えば、本発明の調光フィルムを2枚の基材に挟持させて使用したり、基材の片面に貼り付けて使用したりしてもよい。前記基材としては、例えば、ガラスや、前記透明樹脂基材と同様の高分子フィルム等を使用することができる。
【0073】
以下、図面を参照しながら本発明の調光フィルムの構造および動作について説明する。
図1に、本発明の調光フィルムの一態様を構造概略図として示す。図1に示す調光フィルムでは、透明導電膜5aがコーティングされた透明樹脂基材5bからなる透明導電性樹脂基材4の2枚の間に、調光層1が挟持されている。調光層1と透明導電性樹脂基材4の間にはプライマー層6が設けられている。
【0074】
調光層1は、高分子媒体としての前記エチレン性不飽和基を有する高分子化合物を紫外線硬化させたフィルム状の樹脂マトリックス2と、樹脂マトリックス2内に液滴3の形態で分散されている液状の光調整懸濁液と、を含む。光調整懸濁液の液滴3には、光調整粒子10が分散媒9の中に分散されている(図2(b)参照)。
【0075】
調光フィルムは、スイッチ8の切り換えにより、電源7と2枚の透明導電膜5aの接続、非接続を行う。
【0076】
図2(a)は、図1に示した調光フィルムの作動を説明するための概略断面図であり、スイッチ8が切られ、電界が印加されていない状態を示す。この状態では、液滴3中に分散している光調整粒子10は、図2(b)に示すようにブラウン運動により、それぞれランダムな方向を向いている。そのため、入射光11は光調整粒子10に吸収、散乱又は反射され、透過できない。
【0077】
一方、図3(a)は、図1の調光フィルムの電界が印加されている状態の作動を説明するための概略断面図である。図3(a)に示すように、スイッチ8を接続して電界を印加すると、電気的双極子モーメントをもつ光調整粒子10が、印加された電界によって形成される電場と平行に配列する。そのため入射光11は配列した光調整粒子10間を通過するようになる。このようにして、液滴3が入射光に対して透明な状態に転換され、視野角度による散乱、又は透明性低下が殆どない状態で入射光を透過させる。
【0078】
図4は透明導電膜5aに電圧印加するための導線13を接続する方法の一例を示す模式図である。調光フィルムの端部には、透明樹脂基材5bと透明導電膜5aからなり、透明導電膜5bが露出したタップ領域12が設けられている。タップ領域12には導線13が電気的に接続されている。この導線13に、スイッチと電源(図示せず)を接続することで調光フィルムを動作させることができる。
【実施例】
【0079】
以下、本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。尚、本実施例において、特に指示がない限り、百分率は全て質量を基準とする。
【0080】
<参考例>
(基準粒子密度決定のための光調整粒子分散液の調製)
ヨウ素(JIS試薬特級、和光純薬工業(株)製)と酢酸イソアミル(試薬特級、和光純薬工業(株)製)から8.5質量%ヨウ素の酢酸イソアミル溶液を、またニトロセルロース1/4LIG(商品名:ベルジュラックNC社製)と酢酸イソアミルから20.0質量%ニトロセルロースの酢酸イソアミル溶液を調製した。ヨウ化カルシウム水和物(化学用、和光純薬工業(株)製)を加熱乾燥して無水化して酢酸イソアミルに溶解させ、20.9質量%ヨウ化カルシウム溶液を調製した。20Lフラスコに撹拌機と冷却管を備え、ヨウ素溶液を6905g、ニトロセルロース溶液を8723g、を加え水浴温度を35℃〜40℃としてフラスコを加熱した。ニトロセルロース溶液中の水分比(%)は平沼産業(株)製、平沼水分測定装置AQ−7(発生液:ハイドラナールアクアライトRS、対極液:アクアライトCN)を用いて測定したところ、0.61%であり、加えた溶液質量からニトロセルロース溶液中の水分量は53.2gであった。フラスコ内容物の温度が35℃〜40℃となった後、脱水メタノール(試薬特級、和光純薬工業(株)製)を260g、精製水(和光純薬工業(株)製)を55.6g加えて撹拌した。ヨウ化カルシウム溶液を1643g、次いでピラジン−2,5−ジカルボン酸(日化テクノサービス(株)製)を390g加えた。水浴温度を42℃〜44℃として4時間撹拌した後、放冷した。
得られた合成液を9260Gで5時間遠心分離後、傾斜して上澄み液を除き、底部に残存した沈殿に、この沈殿の質量の5倍に相当する酢酸イソアミルを加え超音波で沈殿を分散し、次に710Gで10分間遠心分離後、上澄みを9260Gで3時間遠心分離した。傾斜して上澄みを除き、底部に残存した沈殿に、この沈殿の質量の5倍に相当する酢酸イソアミルを加え超音波で沈殿を分散して光調整粒子分散液を調製した。
【0081】
得られた光調整粒子は、粒度分布測定(サブミクロン粒子アナライザ(製品名:N4MD、ベックマン・コールタ社製)で測定)で求められる平均粒子径が185nm、SEM観察による平均長径は350nm、平均アスペクト比は7.0であった。なお、SEMによる観察では、300個の光調整粒子から、長径及びアスペクト比の平均値を求めた。
【0082】
(基準粒子密度の決定)
上述の光調整分散液の密度を25.00℃で測定したところ、0.92854g/cmだった。この分散した液を1g金属プレートに秤量し、120℃1時間で乾燥後、再び質量を測定し、光調整分散液における不揮発成分の質量比である不揮発分比NV値を求めたところ、6.98%であった。この不揮発分比NV値を粒子濃度とし、密度の値とともに既述の式(3)に代入して得られた密度2.9722g/cmを基準粒子密度として、以下密度から粒子濃度を求めるときはすべてこの値を用いた。
【0083】
<実施例1>
(光調整粒子分散液の調製)
水分比が0.68%のニトロセルロース溶液を用いたこと、及び脱水メタノールと一緒に加える精製水を57.3gとしたこと以外は前記参考例と同様にして光調整粒子分散液を調製した。調製した光調整粒子分散液の密度は0.90732g/cm、粒子濃度は6.1213%となった。
【0084】
(光調整粒子と可塑剤との混合)
この光調整粒子分散液529.9g、トリメリット酸イソデシル(花王製)300.78gを1Lナス型フラスコに加えロータリーエバポレータにセットし、80℃で加熱しながら油回転ポンプでゆっくり減圧を開始し、約45分間で溶媒を留去した後、そのまま減圧を継続した。減圧開始から1時間経過後に真空度1000Pa以下を確認し、3時間後に減圧と加熱を停止して脱溶した。次に、フラスコに内容物重量と同量の酢酸イソアミルを加え、再び同じ手順で脱溶2回目を実施して粒子濃度9.73%の光調整粒子混合液を得た。
【0085】
(樹脂分散剤(分散高分子) [P−6] の合成)
トルエン(試薬特級、和光純薬工業(株)製)164g、メタクリル酸ドデシル231.4g(共栄社化学)、メタクリル酸2−ヒドロキシエチル(試薬特級、和光純薬工業(株)製)7.56g、ヘキシルメルカプタン(東京化成)18.40gを3つ口フラスコに加え窒素雰囲気下で撹拌しながら60℃に加熱した。1時間後、アゾイソブチロニトリル(試薬特級、和光純薬工業(株)製)1.84gをトルエン80gに溶解させた後、全量滴下した。そのまま21時間加熱した後、115℃に加熱して2時間撹拌した。その後、減圧して溶剤を留去した。これにメタノールを200g加えて分液ロートに移して激しく振って30分放置した。上層と下層に分離し、下層を分液ロートに移し、メタノール200gを加え激しく振って30分放置した。上層と下層に分離し、下層を分液ロートに移し、メタノール200gを加え激しく振って30分放置した。上層と下層に分離し、回収した下層から減圧下に溶剤を留去した後、110Pa200℃条件で短行程蒸留精製を行い、樹脂分散剤(分散高分子[P−6])を得た。ヒドロキシ基をもつメタクリル酸エステルとアルキル基をもつメタクリル酸エステルのモル比は6:94であった。
(光調整懸濁液の調製)
前記光調整粒子混合液7.50g、樹脂分散剤[P−6](重量平均分子量3420)14.22g、トリメリット酸イソデシル26.51gをポリカップに量り取り、攪拌して光調整懸濁液を得た。光調整懸濁液から粒子を除いた質量のうち、樹脂分散剤(分散高分子[P−6])の質量の比率は3.36%であった。
【0086】
(高分子媒体の製造)
ディーンスタークトラップ、冷却管、撹拌機、加熱装置を備えた四つ口フラスコに、(3−アクリロキシプロピル)メチルジメトキシシラン(商品名:KBM−5102、信越化学工業(株)製)150.0g、蒸留水19.0g、酢酸(和光純薬工業(株)製)375.0g、質量比でエタノール/メタノール=9/1の混合溶媒89gを仕込み、65℃に昇温して5時間反応させた。反応溶液を40℃以下まで冷却した後、300Pa以下に減圧して70℃まで昇温して2時間、脱溶工程を行った。その後、室温まで冷却してアルコキシシランの一部をシラノールへ変換した化合物140gを得た。また、シラノールへの変換率は54.5%であった。
この変換反応を繰り返し行い、アルコキシシランの一部をシラノールへ変換した化合物14.0gを得た。変換率は54.5%であった。
ディーンスタークトラップ、冷却管、撹拌機、加熱装置を備えた四つ口フラスコに、両末端シラノールポリジメチルシロキサン(商品名:X−21−3114、信越化学工業(株)製)44.0g、両末端シラノールポリジメチルジフェニルシロキサン(商品名:X−21−3193B、信越化学工業(株)製)156.0g、前記KBM−5102のメトキシ基をシラノールに変換したもの22.0g、ビス(2−エチルヘキサン酸)錫(商品名:KCS−405T、城北化学工業(株)製)0.01gを仕込み、ヘプタン中100℃で5時間還流して反応を行った。温度を50℃まで冷却し、トリメチルメトキシシラン(商品名:KBM−31、信越化学工業(株)製)168.0gを添加し、再び85℃において2時間還流スしてエンドキャップ反応させた。次いで温度を75℃に冷却してリン酸ジエチル(別名:エチルアシッドホスフェート)(商品名:JP−502、城北化学工業(株)製)0.01g(脱水縮合触媒ビス(2−エチルヘキサン酸)錫に対して100質量部に対して100質量部)を添加し20分攪拌した後30℃まで冷却した。次いでメタノールを210g、エタノールを90g添加し20分攪拌した。12時間静置した後にアルコール層を除去し、100Pa以下に減圧して、115℃に昇温した。そのまま5時間、脱溶を行い、高分子媒体である重量平均分子量49,000のポリシロキサン樹脂188.3gを得た。NMRの水素積分比からこの樹脂に含まれる3−アクリロキシプロピルメチルシロキサン繰り返し単位量は、3.5質量%であった。
【0087】
(調光材料の調製)
上記で得られた高分子媒体31.3g、光重合開始剤のビス(2,4,6−トリメチルベンゾイル)フェニルホスフィンオキサイド(BASFジャパン(株)製)とテトラヒドロフラン(和光純薬、特級)を各0.2g、上述のようにして調製した光調整懸濁液18.7gをポリカップに量り取り、攪拌して調光材料を得た。
【0088】
(調光フィルムの作製)
ITO(インジウム錫の酸化物)の透明導電膜(厚み30nm)がコーティングされている表面電気抵抗値が200Ω〜700ΩのPETフィルム(300R、東洋紡績(株)製、厚み125μm)からなる透明導電性樹脂基材の透明導電膜上に前記調光材料を全面塗布した。次いで、その上に同様にプライマー層を形成した同じ透明導電性樹脂基材を、透明導電膜が調光材料の塗布層に向くようにして積層して密着させた。最後に、メタルハライドランプを用いて3000mJ/cmの紫外線を前記積層した透明導電性樹脂基材のポリエステルフィルム側から照射し、光調整懸濁液が球形の液滴として紫外線硬化した樹脂マトリックス内に分散形成されたフィルム状の厚み90μm〜98μmの調光層が透明導電性樹脂基材に挟まれた厚み330μm〜350μm調光フィルムを製造した。
【0089】
(調光フィルムの透過率測定)
分光式色差計SZ−Σ90(日本電色工業(株)製)を使用し、A光源、視野角2度で測定したY値(%)を光透過率とした。なお、電界印加時と未印加時の光透過率を測定した。また、電界印加時は、50Hzの交流電圧(実効値)100Vの印加時の透過率をTon(%)、電圧印加がないときをToff(%)、透過率差をΔT(%)=Ton(%)−Toff(%)とし、印加後60秒後のΔT(%)値を測定したところ54.55%であった。この調光フィルムを100℃で528時間保管した後に同様にΔT(%)値を測定したところ54.27%、1008時間保管した後ではΔT(%)は54.08%、1488時間保管した後ではΔT(%)は51.64%、1992時間保管した後ではΔT(%)は50.01%、2496時間保管した後ではΔT(%)は46.85%、3000時間保管した後ではΔT(%)は48.43%、3504時間保管した後ではΔT(%)は46.79%、4008時間保管した後ではΔT(%)は45.80%であった。
【0090】
(耐熱性評価)
耐熱性の目安として、加熱後の透過率差(ΔT〜ΔT)を加熱前の透過率差(ΔT)で除した値をΔT保持率として算出し、これを評価したところ、このフィルムの100℃、528時間におけるΔT保持率は99.5%、1008時間でのΔT保持率は99.1%、1488時間でのΔT保持率は94.7%、1992時間でのΔT保持率は91.7%、2496時間でのΔT保持率は85.9%、3000時間でのΔT保持率は88.8%、3504時間でのΔT保持率は85.8%、4008時間でのΔT保持率は84.0%であった。
【0091】
<実施例2>
(樹脂分散剤(分散高分子)[P−10]の合成)
実施例1で合成した樹脂分散剤の組成中、メタクリル酸2−ヒドロキシエチルの量を13.15gに変更した以外は実施例1と同じ方法で樹脂分散剤(分散高分子[P−10] (重量平均分子量3550))を得た。ヒドロキシ基をもつメタクリル酸エステルとアルキル基をもつメタクリル酸エステルのモル比は10:90であった。
【0092】
(光調整懸濁液の調製)
実施例1で樹脂分散剤として用いた分散高分子[P−6]を前記分散高分子[P−10]に変更した以外は実施例1と同じ方法で、光調整懸濁液を調製した。
(調光材料の調製と調光フィルムの作製、透過率の測定及び耐熱性評価)
この光調整懸濁液を用いたこと以外は実施例1と同様にして、調光材料を調製し、その調光材料を用いて調光フィルムを作製し、ΔT(%)値の測定及び耐熱性評価を行った。
この結果、ΔT(%)値は57.44%であった。この調光フィルムを100℃で528時間保管した後に同様にΔT(%)値を測定したところ57.82%、1008時間保管した後ではΔT(%)は58.46%、1488時間保管した後ではΔT(%)は57.31%、1992時間保管した後ではΔT(%)は56.75%、2496時間保管した後ではΔT(%)は55.04%、3000時間保管した後ではΔT(%)は56.53%、3504時間保管した後ではΔT(%)は56.69%、4008時間保管した後ではΔT(%)は56.03%であった。
【0093】
また、このフィルムの100℃、528時間におけるΔT保持率は100.7%、1008時間でのΔT保持率は101.8%、1488時間でのΔT保持率は99.8%、1992時間でのΔT保持率は98.8%、2496時間でのΔT保持率は95.9%、3000時間でのΔT保持率は98.4%、3504時間でのΔT保持率は98.7%、4008時間でのΔT保持率は97.5%であった。
【0094】
<比較例1>
(樹脂分散剤(分散高分子)[P−0]の合成)
実施例1で合成した樹脂分散剤の組成中、メタクリル酸2−ヒドロキシエチルの量を0gに変更した以外は実施例1と同じ方法で樹脂分散剤(分散高分子[P−0] (重量平均分子量3220)を得た。ヒドロキシ基をもつメタクリル酸エステルとアルキル基をもつメタクリル酸エステルのモル比は0:100であった。
【0095】
(光調整懸濁液の調製)
実施例1で樹脂分散剤として用いた分散高分子[P−6]を前記分散高分子[P−0]に変更した以外は実施例1と同じ方法で、光調整懸濁液を調製した。
【0096】
(調光材料の調製と調光フィルムの作製、透過率の測定及び耐熱性評価)
この光調整懸濁液を用いたこと以外は実施例1と同様にして、調光材料を調製し、その調光材料を用いて調光フィルムを作製し、ΔT(%)値の測定及び耐熱性評価を行った。
この結果、ΔT(%)値は44.51%であった。この調光フィルムを100℃で528時間保管した後に同様にΔT(%)値を測定したところ34.06%、1008時間保管した後ではΔT(%)は14.11%、1488時間保管した後ではΔT(%)は3.35%であった。
また、このフィルムの100℃、528時間におけるΔT保持率は76.5%、1008時間でのΔT保持率は31.7%、1488時間でのΔT保持率は7.5%であった。
【0097】
<比較例2>
(樹脂分散剤(分散高分子)[P−1]の合成)
実施例1で合成した樹脂分散剤の組成中、メタクリル酸2−ヒドロキシエチルの量を1.20gに変更した以外は実施例1と同じ方法で樹脂分散剤(分散高分子[P−1] (重量平均分子量3240)を得た。ヒドロキシ基をもつメタクリル酸エステルとアルキル基をもつメタクリル酸エステルのモル比は1:99であった。
【0098】
(光調整懸濁液の調製)
実施例1で樹脂分散剤として用いた分散高分子[P−6]を前記分散高分子[P−1]に変更した以外は実施例1と同じ方法で、光調整懸濁液を調製した。
【0099】
(調光材料の調製と調光フィルムの作製、透過率の測定及び耐熱性評価)
この光調整懸濁液を用いたこと以外は実施例1と同様にして、調光材料を調製し、その調光材料を用いて調光フィルムを作製し、ΔT(%)値の測定及び耐熱性評価を行った。
この結果、ΔT(%)値は47.53%であった。この調光フィルムを100℃で528時間保管した後に同様にΔT(%)値を測定したところ42.46%、1008時間保管した後ではΔT(%)は32.05%、1488時間保管した後ではΔT(%)は15.41%であった。
また、このフィルムの100℃、528時間におけるΔT保持率は89.3%、1008時間でのΔT保持率は67.4%、1488時間でのΔT保持率は32.4%であった。
【0100】
<比較例3>
(樹脂分散剤(分散高分子)[P−2]の合成)
実施例1で合成した樹脂分散剤の組成中、メタクリル酸2−ヒドロキシエチルの量を2.41gに変更した以外は実施例1と同じ方法で樹脂分散剤(分散高分子[P−2] (重量平均分子量3310)を得た。ヒドロキシ基をもつメタクリル酸エステルとアルキル基をもつメタクリル酸エステルのモル比は2:98であった。
【0101】
(光調整懸濁液の調製)
実施例1で樹脂分散剤として用いた分散高分子[P−6]を前記分散高分子[P−2]に変更した以外は実施例1と同じ方法で、光調整懸濁液を調製した。
(調光材料の調製と調光フィルムの作製、透過率の測定及び耐熱性評価)
この光調整懸濁液を用いたこと以外は実施例1と同様にして、調光材料を調製し、その調光材料を用いて調光フィルムを作製し、ΔT(%)値の測定及び耐熱性評価を行った。
【0102】
この結果、ΔT(%)値は48.88%であった。この調光フィルムを100℃で528時間保管した後に同様にΔT(%)値を測定したところ44.48%、1008時間保管した後ではΔT(%)は37.69%、1488時間保管した後ではΔT(%)は24.03%、1992時間保管した後ではΔT(%)は11.75%であった。
また、このフィルムの100℃、528時間におけるΔT保持率は91.0%、1008時間でのΔT保持率は77.1%、1488時間でのΔT保持率は49.2%、1992時間でのΔT保持率は24.0%であった。
【0103】
<比較例4>
(樹脂分散剤(分散高分子)の合成[P−4])
実施例1で合成した樹脂分散剤の組成中、メタクリル酸2−ヒドロキシエチルの量を4.77gに変更した以外は実施例1と同じ方法で樹脂分散剤(分散高分子[P−4] (重量平均分子量3370)を得た。ヒドロキシ基をもつメタクリル酸エステルとアルキル基をもつメタクリル酸エステルのモル比は4:96であった。
【0104】
(光調整懸濁液の調製)
実施例1で樹脂分散剤として用いた分散高分子[P−6]を前記分散高分子[P−4]に変更した以外は実施例1と同じ方法で、光調整懸濁液を調製した。
(調光材料の調製と調光フィルムの作製、透過率の測定及び耐熱性評価)
この光調整懸濁液を用いたこと以外は実施例1と同様にして、調光材料を調製し、その調光材料を用いて調光フィルムを作製し、ΔT(%)値の測定及び耐熱性評価を行った。
【0105】
この結果、ΔT(%)値は53.49%であった。この調光フィルムを100℃で528時間保管した後に同様にΔT(%)値を測定したところ52.63%、1008時間保管した後ではΔT(%)は49.48%、1488時間保管した後ではΔT(%)は44.22%、1992時間保管した後ではΔT(%)は35.45%、2496時間保管した後ではΔT(%)は28.17%であった。
また、このフィルムの100℃、528時間におけるΔT保持率は98.4%、1008時間でのΔT保持率は92.5%、1488時間でのΔT保持率は82.7%、1992時間でのΔT保持率は66.3%、2496時間でのΔT保持率は52.7%であった。
【0106】
<比較例5>
(樹脂分散剤(分散高分子)の合成[P−30])
実施例1で合成した樹脂分散剤の組成中、メタクリル酸ドデシルの量を178.1gに、またメタクリル酸2−ヒドロキシエチルの量を39.05g、ヘキシルメルカプタンの量を36.99gにそれぞれ変更した以外は実施例1と同じ方法で樹脂分散剤(分散高分子[P−30] (重量平均分子量2240)を得た。ヒドロキシ基をもつメタクリル酸エステルとアルキル基をもつメタクリル酸エステルのモル比は30:70であった。
【0107】
(光調整粒子と[P−30]との混合)
実施例1で作製した光調整粒子分散液71.81gと、前記分散高分子[P−30]81.45gを1Lナス型フラスコに加えロータリーエバポレータにセットし、80℃で加熱しながら油回転ポンプでゆっくり減圧を開始し、約45分間で溶媒を留去した後、そのまま減圧を継続した。減圧開始から1時間経過後に真空度1000Pa以下を確認し、3時間後に減圧と加熱を停止した。次に、フラスコに内容物重量と同量の酢酸イソアミルを加え、再び同じ手順で脱溶2回目を実施して粒子濃度5.27%の光調整粒子混合液を得た。
【0108】
(光調整懸濁液の調製)
得られた光調整粒子混合液14.10g、トリメリット酸イソデシル6.42gをポリカップに量り取り、攪拌して光調整懸濁液を得た。光調整懸濁液中における粒子の質量の比率は3.62%であった。
(調光材料の調製と調光フィルムの作製、透過率の測定及び耐熱性評価)
この光調整懸濁液を用いたこと以外は実施例1と同様にして、調光材料を調製し、その調光材料を用いて調光フィルムを作製し、ΔT(%)値を測定した。
【0109】
この結果、ΔT(%)値は2.75%であった。

以上の結果を図5に示す。図5中、100℃での放置時間を横軸に、ΔT保持率を縦軸としてプロットした。尚、図5中の()内の数値は、実施例1〜2及び比較例1〜4における樹脂分散剤中のヒドロキシ基をもつメタクリル酸エステルとアルキル基をもつメタクリル酸エステルのモル比を表す。
図5から、上述の分散高分子[P−6]、 [P−10]を使用した本発明にかかる調光フィルムは、耐熱性に優れ、高温環境下におかれた後であっても優れたΔT保持率を示すことがわかった。
【符号の説明】
【0110】
1 調光層
2 樹脂マトリックス
3 液滴
4 透明導電性樹脂基材
5a 透明導電膜
5b 透明樹脂基材
6 プライマー層
7 電源
8 スイッチ
9 分散媒
10 光調整粒子
11 入射光
12 調光層を除去して露出した透明導電膜の表面
13 透明導電膜に電圧印加する導線



【特許請求の範囲】
【請求項1】
エネルギー線照射により硬化可能な高分子媒体と、
ヒドロキシ基を有する(メタ)アクリレートに由来する第一の構造単位及び炭素数4〜20のアルキル(メタ)アクリレートに由来する第二の構造単位を含む共重合体であり、且つ前記第一の構造単位と前記第二の構造単位のモル比が5/95〜20/80である樹脂分散剤並びに光調整粒子を含有し、前記高分子媒体中に分散された光調整懸濁液と
を含む調光材料。
【請求項2】
2つの透明導電性樹脂基材と、前記2つの透明導電性樹脂基材に挟持された調光層とを有し、前記調光層が、
樹脂マトリックスと、
前記樹脂マトリックス中に分散され、ヒドロキシ基を有する(メタ)アクリレートに由来する第一の構造単位及び炭素数4〜20のアルキル(メタ)アクリレートに由来する第二の構造単位を含む共重合体であり、且つ前記第一の構造単位と第二の構造単位のモル比が5/95〜20/80である樹脂分散剤と光調整粒子とを含有する、光調整懸濁液と
を有する調光フィルム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2013−3319(P2013−3319A)
【公開日】平成25年1月7日(2013.1.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−133669(P2011−133669)
【出願日】平成23年6月15日(2011.6.15)
【出願人】(000004455)日立化成工業株式会社 (4,649)
【Fターム(参考)】