説明

調律器

【課題】入力波形の周波数と基準周波数のズレが大きい場合でも、入力波形の周波数の基準周波数に対するズレ方向を可視化できるようにする。
【解決手段】調律器1において、表示器3は表示パターン表示部30とズレ方向表示部31から構成されている。表示パターン表示部30は、入力波形の周波数と基準周波数のズレを表示パターンの流れる動きとして表示することができる。ズレ方向表示部31は、入力波形のピッチとと基準周波数の比較に基づき、該入力波形のピッチの基準周波数に対するズレの方向を表示するもので、一方の表示素子31aの点灯により入力波形のピッチが基準周波数に対して高いことを示し、他方の表示素子31bの点灯により、入力波形のピッチが基準周波数に対して低いことを示す。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、調律器であって、特に、楽器から発せられた音の周波数と調律の基準となる基準周波数のズレを示す表示物を表示する機能を有するものに関する。
【背景技術】
【0002】
周知の通り、調律器はピアノ等の自然楽器の調律を行う際に利用される装置である。従来から知られる調律器は、楽器から発音された音の音高(ピッチ)を検出し、検出した音高に該当する音名を表示すると共に、該検出した音高が調律の基準となる音高(基準周波数)からどれだけズレているかを表示する機能を有するものが一般的である。この種の調律器において音高を測定する方法としては、例えば次のような方法が従来から知られる。すなわち、楽器から発音された音を調律器に入力し、該入力された音(入力波形)をそのゼロクロス点毎に「1」又は「0」に反転してなる矩形パルス波に整形することで2値化した参照波形を作成し、該作成した参照波形を前記各ゼロクロス点の時間間隔ずつ遅延させた遅延波形を作成し、参照波形と遅延波形の相関を求めて、相関が高い遅延量を入力波形の周期とすることで、入力波形の音高を測定する方法が知られる(例えば下記特許文献1参照)。
また、入力波形の周波数と基準周波数のズレを表示する方法の一例としては、次のような方法があった。調律器は、複数のLEDを所定の時間範囲(位相範囲)に対応付けて列状に並べた表示器を有し、該時間範囲(位相範囲)にわたる入力波形の矩形パルス整形波と比較基準用の矩形パルス波との比較に基づき各LEDを点灯/不点灯制御することで、該点灯/不点灯のパターンによって両者の位相関係つまり周波数もしくは周期関係をアナログ的に表示し、この比較及び表示を所定の表示更新周期ごとに更新する。比較基準用の矩形パルス波の周波数(基準周波数)と入力波形の周波数がズレている場合には、点灯するLEDの位置が順次変更するため、見かけ上はLEDの点灯パターンが表示器上を流れるように点灯制御され、一方、基準周波数と入力波形の周波数が一致している場合には、見かけ上、該点灯パターンが一定位置で停止しているように点灯制御される。
【特許文献1】特公平3−42412号公報
【特許文献2】特開平5−313657号公報
【0003】
特許文献2に開示されたタイプの表示方法では、入力波形(ピアノ音)の周波数の基準周波数に対するズレの大きさは見かけ上の上記LED点灯パターンの流れるような動きの速さとして表現され、入力波形の周波数と基準周波数のズレが大きいほど上記LED点灯パターンの動きの速さが早くなる。また、操作者は、見かけ上のLED点灯パターンの動きの方向に応じて、当該入力波形の周波数の基準周波数に対するズレ方向、つまり入力波形の周波数が基準周波数よりも高いのか低いのかを判断することができた。上記特許文献2に開示された表示方法を利用した調律器は、基準周波数と入力波形(ピアノ音)の周波数のズレの視認性に優れ、基準周波数と入力波形の周波数との微妙なズレまでも明確に可視化できるという点で非常に優れており、ピアノの調律等、高い精度が要求される調律に好適である。
【0004】
しかし、上記特許文献2に開示された表示方法では、入力波形の周波数と基準周波数のズレが大きくなった場合、具体的には入力波形の周波数の基準周波数に対するズレが概ね20〜30centよりも大きくなった場合には、LEDの点灯パターンの動きが速くなりすぎてしまい、操作者はLEDの点灯パターンの動きを視認できなくなってしまう。このため、操作者は入力波形の周波数の基準周波数に対するズレ方向を表示により視認することができなくなってしまうという不都合があった。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
この発明は、上述の点に鑑みてなされたもので、入力波形の周波数と基準周波数のズレが大きくなった場合でも、入力波形の周波数が基準周波数に対して高いのか低いのか(ズレの方向)について可視化することができる調律器を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
この発明は、外部から入力される音響波形の周波数と調律の基準となる基準周波数のズレを示す表示物を表示する表示器を有する調律器であって、外部からの音響波形を入力する入力手段と、入力された音響波形のピッチを検出する手段と、前記検出した音響波形のピッチと前記基準周波数の比較に基づき、該音響波形のピッチの該基準周波数に対するズレの方向を前記表示物とは別に表示する表示手段とを具えることを特徴とする調律器である。
【0007】
また、この発明は、外部から入力される音響波形の周波数と調律の基準となる基準周波数のズレを示す表示物を表示する調律処理をコンピュータに行なわせるソフトウェアプログラムであって、外部からの音響波形を入力する手順と、入力された音響波形のピッチを検出する手順と、前記検出した音響波形のピッチと前記基準周波数の比較に基づき、該音響波形のピッチが該基準周波数に対して高いのか又は低いのかについて前記ズレを示す表示物とは別に表示する手順とを具えることを特徴とするソフトウェアプログラムとして構成してもよい。
【発明の効果】
【0008】
この発明によれば、外部から入力される音響波形の周波数と調律の基準となる基準周波数のズレを示す表示物を表示する表示器を有する調律器において、外部入力された音響波形のピッチを検出する手段と、検出した音響波形のピッチと基準周波数の比較に基づき、音響波形のピッチの基準周波数に対するズレの方向を前記表示物とは別に表示する表示手段とを具えることで、前記表示物の表示では音響波形のピッチの基準周波数に対するズレの方向が判断できない場合にも、表示手段の表示によってピッチのズレ方向が視認できるようになるという優れた効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下添付図面を参照して、この発明の一実施例ついて説明する。
【0010】
図1はこの発明の一実施例に係る調律器の使用の概要を説明するための概念図である。図1において符号1はこの実施例に係る調律器である。符号2は、調律する楽器の一例であって、アコースティックな発音機構を具えたアップライトピアノである。表示器3は、調律すべきピアノ2から発せられた音の周波数と調律の基準となる基準周波数の比較結果を操作者に提示するためのもので、ピアノ2から発せられた音の周波数が基準周波数に対して高いのか低いのか(周波数のズレ方向)について表示する手段を含む(後述の図2を参照)。また、調律器1には、ピアノ2から発されたピアノ演奏音を取り込むためのマイクロフォン4が接続されており、該マイクロフォン4によって集音した音が調律器1に対する入力波形として供給される。なお、図1においては、マイク4を調律器1に外部接続する構成が描かれているが、マイク4は調律器1に内蔵される構成であっても差し支えない。また、調律器1には、操作者が基準周波数の設定等の各種入力操作を行なうための操作部5が具わる。
【0011】
図2は図1に示す表示器3の一例を示す概略図である。図2に示す通り、表示器3は、「表示パターン表示部30」と「ズレ方向表示部31」とから構成されている。表示パターン表示部30は、例えば、所定の時間範囲(位相範囲)に対応付けて列状に並べた複数のLEDから構成され、上記特許文献2に記載されたものと同様な表示原理(後述)を利用して表示を行なう。すなわち、入力波形の周波数と基準周波数の比較に基づ基づき各LEDを点灯/不点灯制御し、該点灯/不点灯のパターン(表示パターン)によって両者の位相関係つまり周波数もしくは周期関係をアナログ的に表示する。
ズレ方向表示部31は、入力波形の周波数の基準周波数に対するズレ方向、つまり入力波形の周波数が基準周波数よりも高いのか、低いのかを表示するための表示器であって、例えば、2つの矢印型の表示素子(LED)31a,31bによって構成される。ズレ方向表示部31は、一方の表示素子31a(図において右側向き矢印)の点灯により入力波形のピッチが基準周波数に対して高いことを示し、他方の表示素子31b(図において左側向き矢印)の点灯により、入力波形のピッチが基準周波数に対して低いことを示すものとする。詳しくは後述する通り、この実施例によれば、入力波形のピッチの基準周波数に対するズレが大きく、表示パターン表示部30の表示ではそのズレ方向が視認できない場合であっても、表示器3にズレ方向表示部31が具備されているので、操作者はズレの方向を視認することができるようになる。
【0012】
図3は表示パターン表示部30における表示パターンの表示制御の原理を説明するための概念図である。同図(a)において、(1)は入力波形100の波形図であり、(2)は入力波形100の周期性を2段階の濃度の組み合わせからなるパターンによって可視化したものを示している。或る入力波形100から、基準周波数Hzに応じた周期毎に、所定の時間範囲(位相範囲)にわたる波形区間の波形を抽出すると、(1)のように入力波形100の周波数と基準周波数Hzが一致している場合には、(2)に示す通りHz毎に抽出される各波形区間毎の波形の周期性が常に一致する。(3),(4)は入力波形100aが基準周波数Hzよりも低い場合、また、(5),(6)は入力波形100bが基準周波数Hzよりも高い場合を示している。(3)又は(5)に示すように入力波形の周波数と基準周波数Hzとがズレている場合には、(4)又は(6)に示す通りHz毎に抽出される各波形区間毎の波形の位相関係つまり周期性がズレたものとなる。表示パターン表示部30では上記のことを表示原理として利用している。
図3(b)は上記(2)、(4)及び(6)の各周期的パターンについて、基準周波数Hzの周期毎に抽出した各波形区間を時間順に並べて示す。同図(a),(b)において波形区間として抽出する時間範囲は、基準周波数Hzの波形を2.5周期分抽出する時間範囲(位相範囲)に設定されている。この実施例では、基準周波数Hzの波形を何周期分抽出するかによって前記時間範囲を規定するパラメータを窓幅パラメータ「W値」という。表示パターン表示部30では、同図(b)に示す各波形区間毎のパターンを所定の表示更新周期毎に時間順で読み出すことで、表示パターンの表示を行なう。従って、(2)のように入力波形の周波数と基準周波数Hzが一致している場合には、同じ周期性を持つパターンが繰り返し表示されるので、見かけ上は、表示パターンが一定位置で停止しているようにみえる。一方、(4)又は(6)のように入力波形100a乃至100bの周波数と基準周波数Hzとがズレている場合、位相関係つまり周期性がズレた周期パターンが順次表示されるため、見かけ上、表示パターンが表示パターン表示部30上を流れるように見え、その表示態様が一定状態で停止しないことになる。以上が表示パターン表示部30の表示制御の原理の大略である。なお、表示パターンの表示動作については後述する。
【0013】
図4は調律器1の電気的ハードウェア構成の概略を示すブロック図である。調律器1は、CPU10、ROM11、RAM12、表示制御部13、マイクロフォン4から供給される入力波形を取り込むためのオーディオインターフェース(オーディオI/O)14、操作検出部15とから構成され、各装置間がバス16を介して接続される。表示制御部13は、CPU10からの指示に基づき表示パターン表示部30(図2参照)の表示とズレ方向表示部31(図2参照)の表示とをそれぞれ制御する。オーディオI/O14は、アンプとAD変換器を含むもので、マイク4を介して入力されたアナログオーディオ波形信号が所定のサンプリングクロックに従う周期でサンプリングされ、サンプリングされたディジタルデータ系列が信号処理系に供給される。また、操作検出部15を介して操作部5における入力操作に応じた指示がCPU1に与えられる。
【0014】
CPU10は調律器1の全体的な動作を制御すると共に、この実施例に係る調律処理、すなわち、入力波形の周波数と基準周波数との比較に基づく表示パターン表示部30の表示制御と、ズレ方向表示部31の表示制御とを実現するソフトウェアプログラムを実行する。前記調律機能を実現するためのソフトウェアプログラムは例えばROM11等のメモリに記憶されていてよい。RAM12は、CPU10が信号処理を実行する際に、各種パラメータや各種データを記憶するワークエリア、あるいは、マイクロフォン4を介して取り込んだ波形データを格納するメモリ領域等として使用される。
【0015】
操作者は、調律するピアノの鍵を打鍵してピアノ音を発生せしめ、該ピアノ音に応じた表示器3(表示パターン表示部30及びズレ方向表示部31)の表示を参照して、当該ピアノ演奏音の周波数が基準周波数に一致するようピアノ2を調律する。以下、図5〜図7に示すフローチャートを参照して、調律器1の使い方とその使用時の動作について説明する。
調律器1の電源投入に応じて、調律器1では図5のフローチャートに示す調律処理のソフトウェアプログラムのメイン処理が実行される。ステップS1において、各種パラメータの初期設定が行われる。ここで初期設定されるパラメータは、基準ピッチ(スタンダードピッチ)、基準周波数(Hz値)、セント値及びW値等である。各パラメータの初期設定値は、例えば、スタンダードピッチ=440Hz、基準周波数Hz=440Hz、セント値=0cent、W値=Hz値の2.5周期分にそれぞれ設定されるものとする。
ステップS2では、操作者は、当該調律器1において音階を設定するためのスタンダードピッチを入力する。具体的には、ピアノ中央のA音(キー番号49のA)の周波数を、440Hz、442Hz或るいは439Hz等、幾つかの候補うちからを任意に選択することができる。
【0016】
続いて、調律器1では、表示器3(表示パターン表示部30とズレ方向表示部31)の表示が開始されると共に、図6に示す表示パターン表示制御と図7に示すピッチ検出処理の各タスクが開始される(ステップS3及びステップS4)。なお、図5では、図示及び説明の便宜上、ステップS3の「表示開始」及びステップS4の「タスク開始」を別々のステップとして描いているが、双方とも後述図6及び図7の処理の開始に照応している。なお、後述する通り、図6の表示パターン表示制御は表示パターン表示部30の表示制御の手順の一例であり、また、図7に示すピッチ検出処理はズレ方向表示部31の表示制御の手順の一例である。
【0017】
ステップS5では、操作者による調律カーブの選択を受け付けている。調律カーブは、ピアノの88鍵の各鍵に対応する音高の周波数を定めたデータテーブルである。調律カーブとして、ピアノの種類(グランドピアノ/アップライトピアノ)や、大きさ等に応じた複数種類のデータテーブルがROM2乃至RAM3等適宜のメモリ内に記憶されおり、操作者は調律するピアノの種類に応じた調律カーブを選択できてよい。該調律カーブに記述された各音高の周波数は、ピアノの特性に鑑みて、高音側のピッチが平均率による周波数の理論値よりも高めに設定されている。上記ステップS2においてスタンダードピッチとして設定された周波数に基づき、平均率による各音高の周波数の理論値を計算することはできる。しかし、実際のピアノの調律においては、その理論値をそのまま各音高の周波数として適用するのは不適当な場合がある。その場合には、調律カーブを使用することで、ピアノの特性や、使用するピアノの種類或いは大きさ等に適った各音高毎の周波数を得ることができる。
【0018】
上記ステップS1〜S5は、調律器1の使用に際しての初期設定に相当する処理であって、これら各ステップS1〜S5の実行順序は図示の順に限らない。操作者は、以下に述べるステップS6〜S11により各種パラメータの設定を行う。
操作者の入力操作により、調律対象の音高が指定された場合には(ステップS6のyes)、ステップS7において、前記ステップS5で選択した調律カーブ又は平均律による理論値に基づき、指定された音高の周波数を求めて、この値を基準周波数Hzのパラメータ「Hz値」に設定する。また、操作者の入力操作により、セント値が入力された場合には(ステップS8のyes)、ステップS9において、該入力されたセント値に応じてHz値を修正する。また、ステップS10では、表示パターン表示部30の表示サイズの選択を受け付けている。表示サイズの変更はすなわちW値の変更であり、これにより表示パターン表示部30に対応付ける時間範囲(位相範囲)が変更される。例えば、W値の設定に応じて通常のサイズと拡大サイズのいずれかの表示サイズを選択できてよい。W値が変更された場合(ステップS22のyes)、ステップS23では前記変更に応じてW値を設定する。この表示サイズ変更機能は、例えば最初に通常サイズで大まかに調律を行った後、表示サイズを拡大して微妙な周波数のズレを見る場合等に便利である。
以降、調律器1の電源がオンされている間は、ステップS6〜S11を繰り返すことで、操作者によるHz値変更及び表示サイズ変更を受け付けることができる。
【0019】
図6(a)は、上記図5のステップS3及びS4において起動開始する表示パターン表示制御の動作の手順の一例を示すフローチャートである。図6(a)に示す処理は、当該調律器1の表示器3の表示更新周期に応じた起動タイミング毎に起動するタイマ処理であり、この処理の起動機会毎に、表示パターン表示部30の表示が更新される。なお、表示器3の表示は、一例として、ソフトウェアによって概ね15〜20Hzの周期で更新されるものとする。従って、当該処理もまた15〜20Hz周期程度で起動する。
調律者はピアノ2の鍵を打鍵してピアノ音を発音させる。調律器1では、マイクロフォン4を介して入力されたピアノ音(入力波形)を所定のサンプリング周期に従いサンプリングし(ステップS20)、サンプリングされた入力波形(ディジタル波形信号)をRAM12上のメモリ領域に書き込む(ステップS21)。ステップS22では、前記RAM12上のメモリ領域に所定サンプル数以上のサンプルデータが読み込まれたかどうかを判断する。入力波形のサンプルデータの読み込みが該所定サンプル数に満たない場合(ステップS22のno)は、サンプルデータが該所定サンプル数に達するまで、入力波形の取り込み(上記ステップS20及びS21)を繰り返す。一方、RAM12上のメモリ領域に読み込んだサンプルデータが所定サンプル数に達したら(ステップS22のyes)、次のステップS23に処理を進める。なお、前記所定サンプル数は、概ね、1024〜2048サンプル程度とする。
【0020】
ステップS23において、前記図5のステップS6〜S9の処理により設定された基準周波数Hzに基づきバンドパスフィルタのフィルタ係数(パスする帯域幅及び中心周波数)を設定し、ステップS24において、RAM12のメモリ領域に読み込んだ波形に対して、前記設定したフィルタ係数によりバンドパスフィルタ処理を施す。このフィルタ処理により、入力波形から入力波形に含まれる倍音成分等を除去し、基準周波数Hzに対応する周波数成分が抽出される。
ステップS25において、現在設定されているW値とHz値に基づき波形区間毎の波形として何周期分の波形を抽出するかを設定する。W値が2.5周期分に設定されていれば、窓幅は基準周波数Hzの2.5周期分に相当する時間範囲になる。ステップS26では、入力波形から、Hz値の周期毎に前記ステップS25で設定した窓幅の波形区間の波形を抽出する(窓をかける)。ステップS27では、前記抽出された波形区間内の波形を、そのゼロクロス点毎に値が“0”“1”で反転する2値の情報に整形することで、その周期性を2値の濃淡によって明示する表示情報(「2値化情報」)を作成する。図6(b)に2値化情報のデータ構成例を示す。2値化情報は、その各アドレスが表示パターン表示部30を構成する複数のLED(図2参照)の各々に割り当てられた2進数のディジタルデータで構成されている。図2では表示パターン表示部30が25個のLEDで構成されているので、2値化情報は25段階のアドレスからなるデータである。2値化情報をこのように構成することで、表示パターン表示部30に配列されたLED群と前記抽出された波形区間の時間範囲とを対応付けている。ステップS28では、前記作成された2値化情報に基づき、表示パターン表示部30の表示を行なう。すなわち、2値化情報の各アドレスの値“0”又は“1”に応じて、各アドレスに対応する各LEDの点灯/不点灯制御を行うことで、前記波形区間内の波形の周期性をアナログ的に示す表示パターンを表示する。
【0021】
上記ステップS20〜S28の処理を表示器3の表示更新周期に応じて実行することで、表示パターンの表示形態が表示更新周期ごとに更新される。これにより、基準周波数Hzと入力波形の周波数が一致している場合(図3の(1),(2)参照)には、表示更新周期毎に、周期性の一致した表示パターンが繰り返し表示され、見かけ上は同一の表示パターンが一定位置で停止しているように見える。これに対して、基準周波数Hzと入力波形の周波数が不一致の場合(図3の(3),(4)又は(5),(6)参照)、表示パターンの周期性が一定しない(各表示更新周期毎に更新される表示パターンの位相がズレる)ことから、見かけ上は表示パターンが表示パターン表示部30上を流れているように見え、その表示態様が一定状態で停止しない。よって操作者は、表示パターン表示部30の表示から基準周波数Hzと入力波形の周波数のズレ(一致/不一致)を視認できる。
【0022】
図7は、上記図5のステップS3及びS4において起動開始するピッチ検出処理の手順の一例を示すフローチャートである。
ステップS30において、マイクロフォン4を介して入力された入力波形を所定のサンプリング周期でサンプリングし、ステップS31では各サンプリングタイミング毎にサンプリングされた入力波形のレベルが所定の音量レベル以上であるかどうか判断する。入力波形のレベルが所定音量以下であれば(ステップS31のno)、以下の処理を行わずにリターンする。一方、音量閾値以上の波形が入力されていれば(ステップS31のyes)、ステップS32において入力波形のサンプルデータをRAM12上のメモリ領域に書き込む。ステップS33では、メモリに書き込まれた入力波形(サンプルデータ系列)について基本周期検出(ピッチ検出)処理を行なう。基本周期の検出方法は、例えば、入力波形のゼロクロス毎の時間間隔を計測することで基本周期を求める方法や、上記特許文献1に記載の方法、或いは、自己相関処理等、従来から知られる適宜の方法を適用してよい。当ステップS33において検出した基本周期の逆数が当該入力波形のピッチ周波数となる。ステップS34では、ステップS33において検出したピッチと前記図5のステップS6〜S9の処理により設定された基準周波数Hzとを比較して、入力波形のピッチの基準周波数Hzに対する誤差(差分値)を求める。
ステップS35において、ステップS34で求めた差分値に基づき、入力波形のピッチ周波数の基準周波数Hzに対するズレ量が25cent以内(差分値≦25cent)かどうかを調べる。入力波形のピッチ周波数が基準周波数Hzよりも25cent以上高い場合には、ステップS36においてズレ方向表示部31の右側の表示素子31a(図2参照)を点灯させる。また、入力波形のピッチ周波数が基準周波数Hzよりも25cent以上低い場合には、ステップS37においてズレ方向表示部31の左側の表示素子31b(図2参照)を点灯させる。ズレ方向表示部31(右側の表示素子31a又は左側の表示素子31b)の表示により、操作者は入力波形のピッチ周波数の基準周波数Hzに対するズレ方向を視認することができるようになる。
【0023】
上記ステップS35においては、入力波形のピッチ周波数の基準周波数Hzに対するズレ量が25cent以内の場合(ステップS35のyes)には、ズレ方向表示部31の表示を行なわないよう処理している。この点について以下に簡単に説明する。
上述の通り基準周波数Hzと入力波形の周波数のズレが大きくなると、具体的には基準周波数Hzと入力波形の周波数の差が概ね20〜30cent以上大きくなってしまうと、表示パターン表示部30の表示パターンの動きが速くなりすぎてしまい、操作者はその動きの向きを判断できず、入力波形の周波数が基準周波数Hzよりも高いのか、それとも低いのかを視認できなくなってしまう。このことから、この実施例では、ステップS35において入力波形のピッチ周波数の基準周波数Hzに対する差分値(ズレ)が25cent以内かどうか判断し、差分値が25centを越えている場合には、ピッチのズレ方向に応じたズレ方向表示部31の表示を行なうことにより、操作者はピッチのズレ方向を視認できる。一方、差分値が25cent以内であれば、ズレ方向表示部31の表示によりズレ方向を明示しなくとも、操作者は表示パターン表示部30の表示パターンの動きの方向により入力波形のピッチの基準周波数Hzに対するズレ方向を視認できる。
【0024】
以上説明した通り、この実施例によれば、表示器3が表示パターン表示部30とズレ方向表示部31とを具えているので、表示パターン表示部30により基準周波数と入力波形(ピアノ音)の周波数の微妙なズレまで明確に可視化することができ、また、基準周波数Hzと入力波形の周波数の差が大きく表示パターン表示部30では入力波形の周波数が基準周波数Hzよりも高いのか低いのか視認できない場合であっても、ズレ方向表示部31により入力波形の周波数の基準周波数Hzに対するズレの方向(高いのか低いのか)を表示することができるという優れた効果を奏する。
【0025】
なお、ズレ方向表示部31の構成は図示のものに限らず、表示パターン表示部30による表示パターンの表示とは別に入力波形の周波数の基準周波数Hzに対するズレの方向を表示可能な構成であれば、どのような構成であってもよい。また、上記実施例では、図7のステップS35において、入力波形の周波数の基準周波数Hzに対する差分値が25cent以上である場合にズレ方向表示部31の表示を行なうものとしたが、ここで判断基準となる差分値は25centに限らず適宜の値に設定しうる。また、差分値の大きさに応じた判断を行なうことなくズレ方向表示部31の表示を行なってもよい。
【0026】
また、上記実施例では、表示器3は、複数のLEDを所定の時間範囲(位相範囲)に対応付けて列状に並べた表示パターン表示部30とLED等の表示素子から成るズレ方向表示部31とにより構成される例を示したが、これに限らず表示器3を液晶画面等で構成し、該液晶画面において表示パターン表示部30とズレ方向表示部31に相当する表示を行なう等、「表示パターン」の表示とは別に入力波形の周波数の基準周波数Hzに対するズレ方向の表示が行なえる構成であればどのような構成でもよい。
【0027】
また、上記実施例においては、この発明に係る調律器をピアノの調律に利用する例について述べたが、この発明に係る調律器はピアノ以外の楽器の調律にも適用可能である。また、上記実施例では、この発明に係る調律器1は、調律処理すなわち図6の表示パターン表示制御及び図7のピッチ検出処理をソフトウェアプログラムによって実施するものとしたが、該調律処理を実現可能なハードウェア装置を備えた調律器により本発明を構成してもよい。また、PDA(携帯情報端末)やパーソナルコンピュータ(PC)等の情報処理装置において上記調律処理のソフトウェアプログラムを実行することで、この発明に係る調律器1を実施してもよい。また、この発明は、装置の発明としてのみならず、コンピュータにおいて上記調律処理を実現するソフトウェアプログラムの発明として構成及び実施されてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】この発明の一実施例に係る調律器を使用する際の全体像を示す外観図。
【図2】同実施例に係る調律器における表示器の一例を示す図。
【図3】(a),(b)表示パターンの表示原理を説明するための図。
【図4】同実施例に係る調律器の電気的ハードウェア構成を示すブロック図。
【図5】同実施例に係る調律器のメイン処理の手順の一例を示すフローチャート。
【図6】(a)同実施例に係る調律器における表示パターン表示部の表示制御の手順の一例を示すフローチャート、(b)2値化情報の構成例を示す図。
【図7】同実施例に係る調律器におけるズレ方向表示部の表示制御(ピッチ検出処理)の手順の一例を示すフローチャート。
【符号の説明】
【0029】
1 調律器、2 ピアノ、3 表示部、4 マイクロフォン、5 操作部 10 CPU、11 ROM、12 RAM、13 表示制御部、14 オーディオインターフェース、15 操作検出部、30 表示パターン表示部、31 ズレ方向表示部(表示手段)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
外部から入力される音響波形の周波数と調律の基準となる基準周波数のズレを示す表示物を表示する表示器を有する調律器であって、
外部からの音響波形を入力する入力手段と、
入力された音響波形のピッチを検出する手段と、
前記検出した音響波形のピッチと前記基準周波数の比較に基づき、該音響波形のピッチの該基準周波数に対するズレの方向を前記表示物とは別に表示する表示手段と
を具えることを特徴とする調律器。
【請求項2】
前記表示手段は、前記検出した音響波形のピッチと前記基準周波数の差分値を求める手段と、前記差分値を所定値と比較する手段とを更に含み、前記比較の結果、差分値が前記所定値を越えていた場合に、音響波形のピッチの該基準周波数に対するズレの方向を表示することを特徴とする請求項1に記載の調律器。
【請求項3】
外部から入力される音響波形の周波数と調律の基準となる基準周波数のズレを示す表示物を表示する調律処理をコンピュータに行なわせるソフトウェアプログラムであって、
外部からの音響波形を入力する手順と、
入力された音響波形のピッチを検出する手順と、
前記検出した音響波形のピッチと前記基準周波数の比較に基づき、該音響波形のピッチが該基準周波数に対して高いのか又は低いのかについて前記ズレを示す表示物とは別に表示する手順と
を具えることを特徴とするソフトウェアプログラム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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