説明

調理器具

【課題】 扱いやすく小型の卓上調理器具において、火力による食材の直炙りとともに、過熱水蒸気による食材の調理を可能とする調理器具を提供する。
【解決手段】 食材支持部10は下方との通気性が確保されている。熱源容器20は食材支持部10の下方に設けられ、熱を発する熱源200を収める。水蒸気発生容器30は熱源容器20の底面および側面を外側から覆うもので水を貯蔵せしめるとともに熱源200からの熱により水蒸気を発生させる。生成された水蒸気が熱源容器20外から熱源容器20内に向けて水蒸気が噴出されるように熱源容器20の壁面に水蒸気噴出孔22が設けられている。熱源200の上方に噴出された水蒸気が熱源200により強く加熱され、過熱水蒸気が生成される。食材300は熱源200からの放射熱による炙り焼き調理と、食材支持部10の下方から当てられる過熱水蒸気による調理の双方により調理が可能となる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱と100℃以上の水蒸気である過熱水蒸気により食材を調理せしめる調理器具に関する。熱源としては、炭火、電気ヒーター、ガスなどがある。
【背景技術】
【0002】
水を加熱すると常圧では100℃で水蒸気となる。この飽和水蒸気を常圧にてさらに加熱すると100℃を超える過熱水蒸気が得られる。この過熱水蒸気を食材の調理に使用することが知られている。過熱水蒸気を使用すれば、食材の水分の蒸発を防止しつつ加熱することができ、しっとりとした仕上がりで食材を調理することが可能となる。また、過熱水蒸気は空気よりも熱伝導率が高いので、食材を過熱水蒸気雰囲気で包み込みつつ加熱すれば食材への熱伝導効率が向上し、調理時間が短縮されるという効果が得られる。
【0003】
従来の過熱水蒸気発生装置としては、加熱手段として火力を用いる場合、第1の加熱装置である飽和水蒸気発生装置にて、給水タンク等から供給された水で飽和水蒸気を生成し、この飽和水蒸気をパイプなどで第2の加熱装置である過熱水蒸気発生装置に導き、さらに加熱することにより、過熱水蒸気を生成し、過熱水蒸気を生成した上で過熱水蒸気を取り出していた。つまり、上記のような従来の過熱蒸気の発生方法では、まず第1の加熱装置である飽和水蒸気発生装置にて水を蒸発させて水蒸気を生成するが、この水蒸気は常圧下で生成されるため、温度は水の沸点である100℃にしかならない。そこで過熱水蒸気にするためには、第2の加熱装置である過熱水蒸気発生装置に導いて水蒸気を再度加熱しなければならない。従って、上記のように2段階での工程が必要となるわけである(特許文献1)。
【0004】
なお、水を水蒸気に変換する際に圧力を加えて加熱を行なえば一度の加熱工程で過熱水蒸気を形成することが可能となる。しかし、一度の加熱により過熱水蒸気を生成するためには、常圧の飽和水蒸気では過熱状態とならないため、加圧しつつ加熱する装置、つまり加圧ボイラー等の利用が必要となり、圧力制御が不可避となり、装置が大掛かりになってしまい、爆発等の危険も生じるため、家庭用の調理器具として採用するには不適切なものである。そこで、従来技術において、一度の加熱により過熱水蒸気を生成する調理器具として、マイクロ波透過性と吸水性の2つの性質を兼ね持つ多孔体を用いたマイクロ波を用いた調理装置が知られている(特許文献2)。この調理装置では多孔体に吸水させた状態でマイクロ波照射により加熱することにより、多孔体に含まれている水の温度は上昇し沸騰するが、多孔体の水蒸気量の関係が(多孔体気孔から外部へ噴出する水蒸気量<内部で蒸発しようとする水蒸気量)となると、沸騰蒸発する際に圧力がかかり、水蒸気の温度も圧力の増加に伴い100℃以上となり、過熱水蒸気が発生するとされている(特許文献2)。
【0005】
【特許文献1】特開平11−141881号公報
【特許文献2】特開平09−273755号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、上記特許文献1に示したような2カ所の加熱装置を用いる従来の過熱蒸気の発生装置では、一度蒸気を発生させた後、更に発生した蒸気を再度加熱するという2段階の工程を経て過熱蒸気発生させるため、2つの加熱装置が必要であり装置が大掛りとなり、家庭用での使用、特に調理器具への適用は難しいものであった。また、火力を2カ所用いるためエネルギー効率が決して高いものではない。
【0007】
次に、上記特許文献2に示した調理器具では、マイクロ波透過性と吸水性の2つの性質を兼ね持つ特殊な多孔体が必要となる上、調理用の食材を収納して過熱水蒸気を当てて調理する調理室の他に、マイクロ波を照射するマイクロ波照射装置、つまり電子レンジ装置が外側に設置する必要があり、やはり2つの装置が必要となり、装置が大掛りとなり、家庭用での使用、特に調理器具への適用は難しいものであった。
【0008】
一方、調理器具として、シンプルで扱いやすい卓上調理器具が便利なものとして重宝されている。食材を天板の網体などの上に置き、その下に炭火やガス火や赤外線ヒーターなどの火力を配置し、食材を下方から直接炙るという調理器具の類である。食する者が目の前で自分で調理し、そのまま食することができるという簡便さと、焼き立てというおいしさも相俟って人気を博している。また、電子レンジなどのマイクロ波照射による食材の加熱では出し得ない、火力の直炙りならではのおいしさが楽しめるものとなっている。しかし、この卓上調理器具では限られた設置スペースに配置する関係上、装置が小型でなければならず、上記した過熱水蒸気による調理を実現することは困難であった。
【0009】
上記問題点に鑑み、本発明は、シンプルで扱いやすく小型の卓上調理器具において、火力による食材の直炙りとともに、過熱水蒸気による食材の調理を可能とする調理器具を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するため、本発明の調理器具は、熱と過熱水蒸気により食材を調理せしめる調理器具であって、
下方との通気性が確保された状態で食材を支持する食材支持部と、
前記食材支持部の下方に設けられ、熱を発する熱源を収める熱源容器と、
前記熱源容器外から前記熱源容器内に向けて水蒸気が噴出されるように前記熱源容器の壁面に設けられた水蒸気噴出孔と、
前記熱源容器の底面および側面を外側から覆い、前記熱源容器の前記水蒸気噴出孔の高さより下方に喫水線が来るように水を貯蔵せしめるとともに前記熱源からの熱により水蒸気を発生する水蒸気発生容器を備え、
前記熱源から前記食材へ放射された熱により前記食材を加熱するとともに、
前記熱源から前記水蒸気発生容器内の前記水に放射された熱により生成した水蒸気を前記水蒸気噴出孔から前記熱源の上方に噴出せしめて過熱水蒸気を生成し、前記食材支持部の前記通気性により前記食材に対して下方から前記過熱水蒸気を供給して調理する調理器具である。
【0011】
上記構成により、本発明の調理器具の基本機能として、熱源容器内の熱源のみで過熱水蒸気を生成して食材に当てることができ、小型筐体にて過熱水蒸気を用いた調理器具を提供することができる。また、熱源から周囲へ放射される火力のうち、上方にある食材に届く熱量を食材の直炙りに利用しつつ、下方や側方に届く熱量を無駄なく水蒸気発生容器内の水に吸収させて水蒸気発生に利用することができ、エネルギーの有効活用ができる。
【0012】
なお、熱源として炭火、電気ヒーター、ガス火力供給装置などが利用できる。
熱源として炭火を採用した構造であれば、熱源容器内に炭火を載せ置く炭火支持台を設けておくことが好ましい。また、炭火支持台において熱源容器の底面との間に炭火への酸素供給を確保する間隙空間を確保せしめておけば炭火への酸素供給は確保され、不完全燃焼を防止することができる。
【0013】
次に、本発明の調理器具における炭火火力の火力自動調整機能について述べる。
本発明の調理器具において熱源として炭火を採用した構造とし、外部から酸素を取り込む酸素供給口を熱源容器の壁面の水蒸気噴出孔よりも高い位置に設けておけば、水蒸気噴出孔から噴き込む水蒸気量を増減すれば熱源容器内に外部から供給される酸素量が増減する構造とすることができる。このように熱源容器内に噴き込む水蒸気の量が減ればその分外部から熱源容器内に入り込む酸素量が増える関係にあるため、酸素量に依存する炭火の火力の強さと、炭火の火力の強さに依存する水蒸気噴き込み量の間でフィードバックループが形成される。つまり、炭火の火力が強すぎる場合、噴き出す水蒸気量が増え、その分熱源容器内に入り込む酸素量が減り、その結果、炭火へ供給される酸素が減り、炭火の火力が抑えられ、逆に、炭火の火力が弱すぎる場合、噴き出す水蒸気量が減り、その分酸素が熱源容器内に入り込みやすくなり、その結果、炭火へ供給される酸素が増え、炭火の火力が強くなる。このように、炭火火力に対する火力自動調整機能が形成される。
【0014】
次に、本発明の調理器具における冷却機能について述べる。上記構造の調理器具において、熱源容器の底面を形成する底板の外表面が水蒸気発生容器内の水に接する構造として水冷構造とすれば、水は100℃以内であるため熱源容器の上面は適度に冷却され、食材から熱源容器内に落下して底面に達した油が発火点に達しないようにすることができる。従来技術の卓上コンロでは下に落ちた油が発火点に達して火柱が登るという不具合が発生するおそれがあるが、本発明の調理器具であれば、油が発火して火が出るおそれがない。また、水が底面付近にあるため、卓上に本発明の調理器具をおいたとしても食卓などが焼けるような過剰な熱が伝導せず、適度な冷却機能が発揮される。
【発明の効果】
【0015】
本発明にかかる調理器具によれば、熱源容器内の熱源のみで過熱水蒸気を生成して食材に当てることができ、小型筐体にて過熱水蒸気を用いた調理器具を提供することができる。
また、本発明にかかる調理器具によれば、熱源から周囲へ放射される火力のうち、上方にある食材に届く熱量は食材の直炙りに利用しつつ、下方や側方に届く熱量は水蒸気発生容器内の水に吸収させて水蒸気発生に利用することができ、エネルギーの有効活用ができる。
また、本発明にかかる調理器具によれば、酸素量に依存する炭火の火力の強さと、炭火の火力の強さに依存する水蒸気噴き込み量の間でフィードバックループを形成することができ、炭火火力に対する火力自動調整機能が実現できる。
また、本発明にかかる調理器具によれば、熱源容器の底面を水に接する構造として水冷構造とすることができ、食材から熱源容器内に落下して底面に達した油が発火点に達しないように適度に冷却することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、本発明の調理器具を添付図面に示す好適実施例に基づいて詳細に説明する。なお、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【実施例1】
【0017】
以下、本発明に係る調理器具の構成例を、図面を参照しながら説明する。
図1は、本発明の実施例1の調理器具100の構成例を模式的に示す図である。図1(a)は平面図、図1(b)は正面図となっている。図1に示すように、調理器具100は、食材支持部10、熱源容器20、水蒸気発生容器30を備えた構造となっている。
【0018】
図1はこれら構成部材が組み上げられた状態であるので、各構成部材を分かりやすく説明するため、各構成部材ごとに取り上げて説明する。
図2は食材支持部10を取り出した図である。図2(a)は食材支持部10の平面図、図2(b)は食材支持部10の正面図である。
【0019】
食材支持部10は食材を支持する部材であり、例えば金網体や格子体などである。図2の例では格子体となっている。金網体や格子体などであれば開口11があり、下方との通気性が確保された状態となっており、食材支持部10上に載せ置かれた食材に対して熱源から到達する遠赤外線等の熱のみならず、後述するように下方で発生した過熱水蒸気が食材支持部10を通して食材に当たり、食材を過熱水蒸気雰囲気で包み込むことができる。材質は耐熱性・熱伝導性に優れた金属が望ましい。
【0020】
図3は熱源容器20を取り出した図である。なお、後述する炭火支持台23は取り除いた形で示している。図3(a)は熱源容器20の平面図、図3(b)は熱源容器20の正面図、図3(c)は熱源容器20のB−B線断面図である。また、図4は炭火支持台23を取り出して示した図である。図4(a)は炭火支持台23の平面図、図4(b)は炭火支持台23の正面図、図4(c)は炭火支持台23のC−C線断面図である。
【0021】
熱源容器20は炭火などの熱源を収める容器であり、材質は限定されないが、耐熱性のある金属性の箱型筐体となっている。
熱源容器20の上方には上面開口21が設けられている。熱源を食材の下方に配置するため、熱源容器20の上面開口21を覆うように食材支持部10が載せ置かれる。後述するように、熱源が遠赤外線を発する炭火であれば、上面開口21から遠赤外線が食材支持部10を通過して直接食材にあたり遠赤外線による調理が可能となる。また、この構成例では、上面開口21が後述する酸素供給口となっており、熱源容器20内で炭火により消費される酸素を供給する取り込み口となっている。
【0022】
熱源容器20の側壁面のやや上方付近には水蒸気噴出孔22が多数個設けられている。水蒸気噴出孔22は熱源容器20の壁面外から熱源容器20内に貫通した孔となっている。後述するように、熱源容器20は水蒸気発生容器30により囲まれているので、熱源容器20の壁面外で水蒸気噴出孔22の高さ付近は、後述する水蒸気キャビティ32となっており、水蒸気発生容器30内で発生した水蒸気で充満しており、水蒸気噴出孔22を介して熱源容器20内に向けて水蒸気が噴出されるものとなっている。この例では周囲から水蒸気を噴出させて万遍なく過熱水蒸気を生成するため、水蒸気噴出孔22が食材支持部10の周囲を囲むように四方に適切な個数設けられている。
【0023】
この構成例では、熱源が炭火の例であり、熱源容器20内には炭火を載せ置く炭火支持台23が設けられている。炭火支持台23の形状は特に限定されないが、図4の構成例では柱で持ち上げたいわゆる上げ底構造となっており、熱源容器20の底面との間に炭火への酸素供給を確保するための間隙空間が確保された構造となっている。また、周囲から酸素が供給されやすいようにメッシュ構造となっている。
【0024】
図5は水蒸気発生容器30を取り出した図である。図5(a)は水蒸気発生容器30の平面図、図5(b)は水蒸気発生容器30の正面図、図5(c)は水蒸気発生容器30のD−D線断面図である。
水蒸気発生容器30は、水を貯蔵せしめるとともに熱源からの熱により水蒸気を発生する装置である。熱源からの熱を効率的に受けるため、熱源容器20の底面および側面を外側から覆うように配置されており、全体として熱源容器挿入開口31を持つ密閉の箱型筐体となっている。熱源容器挿入開口31の開口形状は熱源容器20の外周形状と略合致しており、熱源容器20がいわゆるすっぽりと嵌るようになっている。
【0025】
水蒸気発生容器30の内部には、熱源容器20の水蒸気噴出孔22の高さより下方に喫水線が来るように水を貯蔵しておく。後述するように熱源からの熱により水が加熱され蒸発して水蒸気が発生する仕組みとなっている。
なお、後述するように、水蒸気発生容器30の上部内側付近は、水蒸気発生容器30内部に水を張り、熱源容器20を組み上げると、水の喫水線よりも上に位置して空間を形成するが、この空間が水蒸気キャビティ32となる。後述するように水が加熱され水蒸気が発生すると水蒸気で充満した空間となる。
【0026】
図6(a)は、各構成要素を組み上げた図1(a)における本発明の調理器具100のA−A線断面図を示した図である。図6(b)は本発明の調理器具100に水を注入し、熱源200となる炭火を投入した状態を示す図である。水蒸気発生容器30に対して熱源容器20が嵌入されている。図6(b)に示すように、水蒸気発生容器30内の水の喫水線より上の空間が水蒸気キャビティ32である。
【0027】
次に、本発明の調理器具100を用いた食材の調理原理について説明する。図7は、本発明の調理器具100を用いて食材300を加熱調理する様子を模式的に示した図である。熱源200は炭火である。炭火は炭火支持台23の上に載せ置かれ、周囲に熱線である遠赤外線を放射している。
【0028】
図7(a)に示すように、熱源200から上方へ発せられた遠赤外線は、熱源容器20の上面開口21を通過し、食材支持部10の上に載せ置かれている食材300に到達し、食材300をいわゆる“炙り焼き”することができる。例えば食材300が食肉であれば、炙り焼きによるおいしい焼肉が焼けていくこととなる。
【0029】
また、図7(a)に示すように、熱源200から側方または下方に発せられた遠赤外線は、熱源容器20の側壁または底面壁から外面に満たされている水に吸収される。水蒸気発生容器30内の水が加熱されると水蒸気となる。発生した水蒸気は水の喫水線の上方にある水蒸気キャビティ32内に充満して行く。水蒸気は水蒸気発生容器30内の水の蒸発により次々と発生し、水蒸気発生容器30内の圧力が高まるので、図7(a)に示すように、水蒸気の逃げ道となる水蒸気噴出孔22から噴き出すこととなる。なお、噴き出す水蒸気の温度は水蒸気発生容器30内の水が常圧で沸騰した状態でそれ以上加熱されずに熱源容器20内に噴きこまれるので、水蒸気噴出孔22から熱源容器20内に噴き出された直後は100℃付近と考えて良い。
【0030】
次に、図7(b)に示すように、水蒸気噴出孔22から噴き出した水蒸気は熱源200である炭火の上方に来るように設計されており、水蒸気噴出孔22から噴き出した水蒸気は熱源200の上方に噴き出し、熱源200である炭火により強く加熱される。水蒸気が熱源200により強く加熱されると過熱状態となり過熱水蒸気が生成されることとなる。生成された過熱水蒸気は上方へ昇って行く。
【0031】
食材支持部10は金網体や格子体であり、下方からの通気性が確保されているので、図7(b)に示すように、下方から昇ってきた過熱水蒸気は食材支持部10を通過して食材300に対して当たり、食材300は過熱水蒸気雰囲気に包み込まれることとなる。従来技術において述べたように、過熱水蒸気を食材に当てると食材がおいしく調理されることが知られており、食材が食肉であれば、いわゆる“ふっくらジューシー”という状態に調理されてゆく。
このように、本発明の調理器具100では、熱源200から直接到達する遠赤外線による“炙り焼き”調理と、過熱水蒸気による“ふっくらジューシー”調理とが同時に実行でき、食材をとても美味に調理することができる。
【0032】
本発明の調理器具100は、省エネルギーの面からも優位性がある。従来の過熱水蒸気を発生させる調理器具では熱源を2箇所設ける必要があり、その2箇所の熱源から周囲に熱を放散させているという問題があったが、本発明の調理器具100では、熱源200は1箇所で良いということに加え、熱源200である炭火から上方へ向かう遠赤外線は食材300を直炙りに利用され、熱源200である炭火から側方や下方へ向かう遠赤外線を水蒸気発生に利用することができ、エネルギーの利用効率が極めて高いものとなっている。また、食材300に対して直炙りの調理に加えて過熱水蒸気による調理も同時に行えるため、その相乗効果により調理時間が一層短くなり、従来の調理器具の調理時間に比べて炭の消費量を節約することができる。
【0033】
また、過熱水蒸気を用いた調理を行うことにより、本発明の調理器具100では以下の効果も得ることができる。
まず、食材を竹串等に刺して調理する場合、過熱水蒸気を用いれば串焼け防止効果が得られる。焼き鳥をはじめ、食肉を竹串などに串刺しして炙り焼きする調理が広く普及しているが、従来の卓上コンロ等では食肉を炙る過程で竹串も一緒に炙られて焼け焦げてしまい、串を再利用することができないという問題があった。本発明の調理器具100の場合、食材300が過熱水蒸気雰囲気で包まれつつ調理されるので食材300のみがふっくらと焼き上がり、串が焼けることがなく、串を再利用することができる。
【0034】
次に、過熱水蒸気を用いれば食材の食材支持部への焦げ付き防止効果が得られる。従来の卓上コンロを用いた焼肉の調理では金網や鉄板に肉が焦げ付いてしまうという問題がしばしば発生していた。肉が金網や鉄板に焦げ付くと煙や出て焦げた臭いが立ち昇るなどの問題が生じ、その除去のため調理を中断せざるを得ないこともある。さらに、調理終了後の清掃時にこびり付いた焦げを除去するために手間がかかっていた。しかし、本発明の調理器具100の場合、食材300が過熱水蒸気雰囲気で包まれつつふっくらと調理されるので、食材300の水分が失われて食材支持部10に焦げ付くようなことはない。
以上が本発明の調理器具100を用いた食材の調理原理である。
【0035】
次に、本発明の調理器具100における炭火の火力自動調整機能について説明する。
一般に、火力がガスであるガスコンロであれば、ガスの供給量を調節バルブなどで調節することによりガス火力の強弱を調整して熱量を制御することができる。火力が電気ヒーターであれば、電気回路により供給される電流量を調整することによりヒーターが発する熱量を制御することができる。しかし、従来技術において炭火の火力は容易には調節することができず、例えば、炭火の下方や側面近くに設けた空気孔を開閉することにより炭火に供給する酸素量を調節して炭火の火力を制御する方法が一般的である。しかし、炭火の下方や側面近くに設けた空気孔の開閉の操作は煩わしい上、上記のとおり、本発明の調理器具100では炭火を収めた熱源容器200の側方や下方は水蒸気発生部30で覆われ、水が貯蔵されているため空気孔のような通気機構を設けることは難しい。
【0036】
そこで、本発明の調理器具100は、下記に示すように炭火の火力自動調整機能を備えている。
上記の本発明の調理器具100の構造の説明において、熱源容器20内には水蒸気噴出孔22が設けられていることについて述べたが、熱源容器20内への酸素の取り込み口はそのさらに上方にある上面開口21となっている。つまり、外部から酸素を取り込む酸素供給口である上面開口21が水蒸気噴出孔22よりも高い位置に設けられている。
【0037】
熱源容器20に対して外部から入り込む気体は、水蒸気噴出孔22から噴き込む水蒸気と、上面開口21から下方に降りてくる酸素を含む空気である。水蒸気は水蒸気噴出孔22から噴き出すように供給されるが、酸素を含む空気は上面開口21から自然対流により下方に入り込むものとなっている。そのため酸素を含む空気の供給量は水蒸気噴出孔22から噴き出す水蒸気量の影響を受ける。
【0038】
ここで、図8に示すように、上面開口21から熱源容器20内へ入り込む酸素量−熱源容器20内の炭火の火力−水蒸気噴出孔22から熱源容器20内に噴き込む水蒸気量−上面開口21から熱源容器20内へ入り込む酸素量への影響、という制御閉ループを考察してみる。
【0039】
まず、炭火の火力と炭火への酸素供給量の関係は、順方向(+)の関係にあり、炭火への酸素供給量が増えれば炭火の火力は強くなり、炭火への酸素供給量が減れば炭火の火力は弱くなる関係にある。
次に、炭火の火力と水蒸気噴出孔22から噴き込む水蒸気量の関係は、順方向(+)の関係にあり、炭火の火力が強くなれば水蒸気噴出孔22から噴き込む水蒸気量が増え、炭火の火力が弱くなれば水蒸気噴出孔22から噴き込む水蒸気量が減る関係にある。
【0040】
次に、熱源容器20内への水蒸気供給量と酸素供給量の関係は、逆方向(−)の関係にあり、熱源容器20内に水蒸気噴出孔22から噴き込む水蒸気量が増えると上面開口21から自然対流により下方に降りてくる空気量は少なくなり、熱源容器20内に水蒸気噴出孔22から噴き込む水蒸気量が減ると上面開口21から自然対流により下方に降りてくる空気量は増えることとなり、水蒸気供給量と酸素供給量の関係はトレードオフの関係にある。
【0041】
以上から、図8に示すように、上面開口21から熱源容器20内へ入り込む酸素量−熱源容器20内の炭火の火力−水蒸気噴出孔22から熱源容器20内に噴き込む水蒸気量−上面開口21から熱源容器20内へ入り込む酸素量の増減という制御フィードバックループが形成されていることが分かる。つまり、酸素量に依存する炭火の火力の強さと、炭火の火力の強さに依存する水蒸気噴き込み量の間で自律的な安定系が形成されていることが分かる。炭火火力が強すぎる場合は、上述の制御閉ループの結果、炭火が弱くなる方向に自動的に調整され、逆に炭火火力が弱すぎる場合は、炭火が強くなる方向に自動的に調整され、炭火の火力自動調整機能が発揮されることとなる。
上記の炭火の火力自動調整機能については、本発明の調理器具100の調理者は特に特別な操作を行うことはなく、自動的に機能が発揮される。
【0042】
次に、本発明の調理器具100の冷却機能について説明する。
図6(b)等に示したように、本発明の調理器具100では熱源容器20外周には水蒸気発生容器30が設けられた上、その内部には水が張られており、そのため、熱源容器20の底面を形成する底板の外表面は水に接する構造となっている。このように熱源容器20が水に水没した状態であるので水冷機能が発揮される。
【0043】
まず、本発明の調理器具100の冷却機能の一つの効果である、油の発火防止について述べる。水蒸気発生容器30内の水は100℃以内であるため熱源容器20の上面は適度に冷却される。熱源200に直接面しているため金属性の底板は100℃以上に熱せられるが、金属は熱伝導性も高く熱が拡散する上に水により冷却されるため、底板の温度は適度に冷却されることとなる。そのため、食材300の調理が進み、食材300から染み出た油が熱源容器20内に落下して底面に達しても油が発火点に達しないよう冷却することができる。
従来の卓上コンロでは下に落ちた油が発火点に達して火柱が登るという不具合が発生することがしばしばあったが、本発明の調理器具100であれば、油が落下して熱源容器20内に落下しても発火して火が出るおそれがない。
【0044】
次に、本発明の調理器具100の冷却機能のもう一つの効果としての食卓の焼け防止について述べる。上記したように、熱源容器20の下方には水蒸気発生容器30内に水が張られているため、本発明の調理器具の底面を形成する水蒸気発生容器30の底面は100℃以上に上がることはない。そこで、卓上に本発明の調理器具100をおいたとしても食卓などが焼けるような過剰な熱が伝導せず、適度な冷却機能が発揮されることとなる。
【0045】
以上、本発明の調理器具100の実施例を説明したが、熱源200がガス火力供給装置であっても、電気ヒーターであっても良い。
図9(a)は熱源200aがガス火力供給装置である場合を模式的に示した断面図である。ガスの供給路については図示を省略している。上記した炭火の火力自動調整機能は熱源が炭火の場合に適用されるものであり、熱源200aがガス火力供給装置である場合も調理者自身の操作が必要となるが、適宜、ガス供給量を調節することにより熱源で発生する熱量を調節することができる。
【0046】
図9(b)は熱源200bが電気ヒーターである場合を模式的に示した断面図である。電気回路等は図示を省略している。熱源200bが電気ヒーターである場合も、調理者自身の操作が必要となるが、適宜、電気ヒーターへの電流量を制御することにより熱源で発生する熱量を調節できる。
【0047】
以上、本発明の調理器具の構成例における好ましい実施形態を図示して説明してきたが、本発明の技術的範囲を逸脱することなく種々の変更が可能であることは理解されるであろう。
【産業上の利用可能性】
【0048】
本発明の調理器具は、卓上の調理器具などに広く適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0049】
【図1】本発明の実施例1の調理器具100の構成例を模式的に示す図
【図2】食材支持部10を取り出した図
【図3】熱源容器20を取り出した図
【図4】炭火支持台23を取り出して示した図
【図5】水蒸気発生容器30を取り出した図
【図6】(a)は各構成要素を組み上げた図、(b)は図1(b)における本発明の調理器具100のA−A線断面図を示した図
【図7】本発明の調理器具100を用いて食材300を加熱調理する様子を模式的に示した図
【図8】本発明の調理器具100において、炭火の自動調整機能が奏されるフィードバックループを描いた制御ブロック図
【図9】(a)は熱源200aがガス火力供給装置である場合を模式的に示した断面図、(b)は熱源200bが電気ヒーターである場合を模式的に示した断面図
【符号の説明】
【0050】
10 食材支持部
20 熱源容器
21 上面開口
22 水蒸気噴出孔
23 熱源支持部
30 水蒸気発生容器
31 熱源容器挿入開口
32 水蒸気キャビティ
100 調理器具
200 熱源
300 食材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱と過熱水蒸気により食材を調理せしめる調理器具であって、
下方との通気性が確保された状態で食材を支持する食材支持部と、
前記食材支持部の下方に設けられ、熱を発する熱源を収める熱源容器と、
前記熱源容器外から前記熱源容器内に向けて水蒸気が噴出されるように前記熱源容器の壁面に設けられた水蒸気噴出孔と、
前記熱源容器の底面および側面を外側から覆い、前記熱源容器の前記水蒸気噴出孔の高さより下方に喫水線が来るように水を貯蔵せしめるとともに前記熱源からの熱により水蒸気を発生する水蒸気発生容器を備え、
前記熱源から前記食材へ放射された熱により前記食材を加熱するとともに、
前記熱源から前記水蒸気発生容器内の前記水に放射された熱により生成した水蒸気を前記水蒸気噴出孔から前記熱源の上方に噴出せしめて過熱水蒸気を生成し、前記食材支持部の前記通気性により前記食材に対して下方から前記過熱水蒸気を供給して調理する調理器具。
【請求項2】
前記熱源が炭火であり、前記熱源容器内に前記炭火を載せ置く炭火支持台を設け、前記熱源容器の底面と前記炭火支持台の間に前記炭火への酸素供給を確保する間隙空間を確保せしめたことを特徴とする請求項1に記載の調理器具。
【請求項3】
前記熱源容器内において、外部から酸素を取り込む酸素供給口を前記水蒸気噴出孔よりも高い位置に設け、前記水蒸気噴出孔から噴き込む前記水蒸気量を増減することにより前記熱源容器内に外部から供給される酸素量が増減する構造とし、
前記酸素量に依存する前記炭火の火力の強さと、前記炭火の火力の強さに依存する前記水蒸気噴き込み量の間でフィードバックループを形成せしめ、前記炭火の火力自動調整機能を持たせたことを特徴とする請求項2に記載の調理器具。
【請求項4】
前記熱源が電気ヒーターであることを特徴とする請求項1に記載の調理器具。
【請求項5】
前記熱源がガス火力供給装置であることを特徴とする請求項1に記載の調理器具。
【請求項6】
前記熱源容器の底面を形成する底板の外表面が前記水蒸気発生容器内の前記水に接する構造として水冷構造とし、前記食材から前記熱源容器内に落下して前記底面に達した油が発火点に達しないようにしたことを特徴とする請求項1から5のいずれか1項に記載の調理器具。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2010−279611(P2010−279611A)
【公開日】平成22年12月16日(2010.12.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−136377(P2009−136377)
【出願日】平成21年6月5日(2009.6.5)
【出願人】(509159492)米田工機株式会社 (2)
【Fターム(参考)】