説明

調理栗

【課題】
栗の澱粉の溶出による白濁化が少なく外観が良好な、常温で長期間保存可能な調理栗を提供する。
【解決手段】
低糖度の栗甘露煮を容器に充填して加圧加熱殺菌する際に、高分岐環状デキストリンを含む調味液を添加することにより、栗の澱粉溶出による白濁化を抑制し、外観上好ましい状態に保つことができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は長期間保存しても白濁化が少なく外観が良好な、調理済み栗利用食品を提供する。
【背景技術】
【0002】
栗は代表的な秋の味覚の一つであり、広く食されている果実である。この栗を常温で長期間保存するために一般的には、甘露煮のように高糖度の糖液に栗を漬け込む保存方法が行われている。しかし、この方法では糖分を多く含み甘味が高い栗となり、栗ごはん、煮物、炒め物などの惣菜には不向きで調理品としての汎用性に乏しい。
【0003】
一方、糖液を添加しない栗の加工方法として、特開2001-204381号公報に記載のような調理栗の製法がある。この方法は、剥皮栗を焼成、水分を付与し、包装容器に収容、密封後レトルト殺菌などの加熱殺菌を行うものである。しかし、この方法だと剥皮栗を焼成する必要があり、製法が複雑になってしまう。また、焼成を施さない場合は栗の渋みが強くでてしまい、栗本来の甘みが感じられなくなってしまうことが考えられる。
【0004】
これらの問題を解決する方法として、特開2005−73617号公報に低糖度の栗甘露煮を容器に充填し、酸素を脱気密封後加圧加熱殺菌することにより、天然の香味を生かした常温で長期保存可能な栗煮調理品が得られることが開示されている。この方法によると確かに、風味に優れ、調理品としての汎用性に富む栗が得られる。しかしながら、レトルトパウチなどの合成樹脂製軟質容器を使用した場合は、脱気すると容器に凹凸が発生し、輸送時などに受ける衝撃でピンホールが発生し易いという問題がある。ピンホールの発生を抑えるには、栗煮調理品と一緒に調味液を充填すると、調味液が衝撃を緩衝するため効果があるが、栗に含有される澱粉が調味液に溶出し白濁化して、容器を開封した際、外観上好ましくないという問題がある。
【0005】
【特許文献1】特開2001-204381号公報
【特許文献2】特開2005−73617号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、従来のこのような問題点の解決を目的として創出されたものであり、栗の澱粉の溶出による白濁化が少なく外観が良好な、常温で長期間保存可能な調理栗を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の課題を達成すべく鋭意研究を行なった結果、低糖度の栗甘露煮を容器に充填して加圧加熱殺菌する際に、高分岐環状デキストリンを添加することによって、栗からの澱粉溶出による白濁化を抑制し、外観上好ましい状態に保つことができることを見出した。高分岐環状デキストリンとは、アミロペクチンにブランチングエンザイムを作用させて創られるものであり、非常に分子量が揃い、かつ環状構造を有する新規な糖質であり、内分岐構造と外分岐構造とを有する、重合度50以上であるグルカンを言う。ここでグルカンという用語にはグルカンの誘導体が含まれる。内分岐環状構造部分とは、本願明細書においては、α−1,4グルコシド結合とα−1,6グルコシド結合とで形成される環状構造部分を言う。外分岐構造部分とは、本願明細書においては、上記内分岐環状構造に結合した非環状構造部分を言う。高分岐環状デキストリン およびその製造方法は、特許第3107358号に詳細に記載される。
【0008】
【特許文献3】特許第3107358号公報
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、保存中の栗の澱粉の溶出による白濁化が少なく外観が良好な、常温で長期間保存可能な調理栗を提供することができる。さらに同様の方法でじゃがいも、さつまいも等のいも類、かぼちゃ、ゆりね等の野菜類、大豆、小豆等の豆類、ぎんなん、落花生等の種実類においても良好な調理済み製品を製造することが可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下本発明を詳細に説明する。
栗は、特に品種や大きさを限定するものではなく、一般に用いられているものから適宜選択して用いればよい。収穫された栗は、産地で剥皮され、産地もしくは工場で急速冷凍処理されるとともに保管される。本発明は、この冷凍栗あるいは冷凍前の剥皮された栗を原材料とするものである。まず、工場に搬入された栗(原材料)を選別してアク抜きのためボイルする。冷凍栗(原材料)を使用する場合は、解凍後使用する。
【0011】
次いで、糖液中で10分間〜24時間浸漬する。この際の糖液の溶質は、ぶどう糖などの単糖類や、ショ糖、麦芽糖などの少糖類、水あめ、異性化糖、糖アルコール、各種オリゴ糖などの糖質甘味料が挙げられ、これらは単独または複数組み合わせて用いることができる。ただし、還元末端を持つ糖類は加圧加熱殺菌した際にアミノ酸や蛋白質と反応して褐変するため、ショ糖を単独で用いることが好ましい。他に、漂白剤、着色料、変色防止剤などの品質改良剤を溶質として用いてもよい。糖液は、糖度0〜40重量%(以下、%と省略する)、好ましくは15〜30%であることが、より自然な甘みを有する栗を得るためには好ましい。また、栗を糖液に浸漬する時の栗重量に対する糖液の重量比は、栗を糖液に十分浸漬し、糖液中の溶質を栗に浸透させるためにも100%以上が望ましい。
【0012】
糖液に加える品質改良剤として、L−アスコルビン酸を糖液重量に対して0.01〜0.1%、好ましくは0.02〜0.07%加えることが、栗本来の色調と加圧加熱殺菌後のムレ臭を防止する点で好適である。
【0013】
液を切った栗を、高分岐環状デキストリンを含む調味液とともに、缶、ビンなどの硬質容器、または、レトルトパウチのような合成樹脂製軟質容器などの耐熱性のある密封包装可能な容器に収容し、酸素を脱気密封後、加圧加熱殺菌する。高分岐環状デキストリンは調味液に溶解して添加するが、添加量は液を切った栗甘露煮に対し、1〜5%が好ましい。1%未満では白濁化抑制の効果が低く、5%を超えて添加しても白濁化抑制効果は変わらない。長期常温保存の観点から115〜125℃、1.7〜2.5kg/cmで20〜60分の条件で殺菌することが望ましい。酸素を脱気する方法は、特に限定されるものではなく、たとえば自動真空包装機を用いて脱気する方法や、真空ガス置換包装機で真空にした後窒素のような不活性ガスを置換する方法などがある。
【0014】
なお、栗を収容する容器としては、開封しなくても内容物が見える透明なものが、消費者が栗のおいしさをイメージしやすいため好ましい。透明な容器としては、例えば、材質構成がGLAE/ONY/CPPのレトルトパウチが挙げられる。
なお、本出願の技術はじゃがいも、さつまいも等のいも類、かぼちゃ、ゆりね等の野菜類、大豆、小豆等の豆類、ぎんなん、落花生等の種実類にも応用が可能であり、同様の効果がある。
【0015】
以下、実施例を挙げて本発明を詳細に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0016】
(実施例1〜3、比較例1、2)
冷凍栗を解凍後、0.045%のL−アスコルビン酸を添加した25%のショ糖液に、栗を12時間浸漬した後に液をきる。この栗130gと(表1)に配合を示す実施例1〜3、比較例1、2の調味液30gとともにレトルトパウチに収容し、残存空気量が0mlに脱気してシールし、120℃で40分間加圧加熱殺菌し、調理栗を得た。
【0017】
(表1)調味液配合



【0018】
得られた調理栗を殺菌翌日と20℃・3ヶ月保存後に開封して栗の澱粉の溶出による白濁化を観察して評価した。その結果を(表2)に示す。
【0019】
(表2)栗の澱粉の溶出による白濁化の評価



栗の澱粉の溶出による白濁化の評価は、1、2、3、4の4段階で行った。
(1:白濁化がひどく非常に悪い、2:白濁化して悪い、3:少し白濁化している程度で良い、4:白濁化しておらず非常に良い)
【0020】
比較例1は、殺菌翌日で既に白濁化していて悪く、20℃・3ヶ月保存後にはさらに白濁化がひどくなり非常に悪かった。比較例2では、殺菌翌日は少し白濁化している程度で良かったが、20℃・3ヶ月保存後では、白濁化して悪かった。実施例1〜3についてはいずれも、殺菌翌日は白濁化しておらず非常に良く、20℃・3ヶ月後でも、少し白濁化している程度で良かった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
糖度0〜40重量%の糖液に浸漬した剥き栗を剥き栗に対し高分岐環状デキストリン1〜5重量%とともに気密性容器に収容し、酸素を脱気して密封包装した後加圧加熱殺菌することを特徴とする長期間常温保存可能な調理栗。


【公開番号】特開2007−274921(P2007−274921A)
【公開日】平成19年10月25日(2007.10.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−103006(P2006−103006)
【出願日】平成18年4月4日(2006.4.4)
【出願人】(000000228)江崎グリコ株式会社 (187)
【Fターム(参考)】