説明

調製物のテクスチュアを変更する方法

本発明は、トランスグルタミナーゼ酵素、酵素活性化化合物および酸性化剤の使用、および該酵素が酸性化中に活性であるような環境下におけるタンパク質源へのその添加により、乳酸発酵された生鮮乳製品を製造する方法に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、サワーミルク調製物、例えばトランスグルタミナーゼ酵素および酵素活性化化合物の使用により乳酸発酵された生鮮乳製品を製造するための方法に関する。本発明は、さらに本発明の方法によって製造されたサワーミルク調製物に関する。さらに、本発明は、トランスグルタミナーゼ酵素および酵素活性化化合物により、サワーミルク調製物のテクスチュアを変更する方法にも関する。
【背景技術】
【0002】
通常、サワーミルク調製物は、ミルクを、適切な温度で各製品に特異的な酸性化剤を用いて酸性にすることによって製造されている。Lactobacillus bulgaricusおよびStreptococcus thermophilus株は、例えばヨーグルトの調製物に従来から使用されている。酸性化する前に、全ての必要な原料(甘味剤、香味剤およびテクスチュア付与剤)をミルクに添加し、次いでこのミルクを通常低温滅菌して、均質化する。該ミルクは、各製品に特異的なpHに酸性化される。その後、テクスチュアは、ビーリ(viili)(粘性のサワーミルク、通常のフィンランド製のミルク製品)型およびセット型ヨーグルト以外の全ての製品については損なわれ、必要な香味剤(例えば、ジャムの添加)が添加されて、その製品は包装される。ビーリ型製品の製造において、乳酸菌スターターに加えてビーリ菌が使用される。他のサワーミルク調製物とは異なり、ビーリ型およびセット型ヨーグルトの製品に関して、酸性化は包装本体内で生じる。
【0003】
通常、ミルク乾燥物の含量は、サワーミルク調製物のテクスチュアを調整するために増加または低下される。該乾燥物の含量は、ミルクを蒸発させるか、または粉末の使用によって増加され得る。原料ミルクのタンパク質含量は、該タンパク質含量を増加または低下させることによって、サワーミルク調製物、例えば乳酸発酵した生鮮乳製品のテクスチュアを、より粘性を高くまたは粘性を低く変更できるような方法で、最終産物のテクスチュアに影響を及ぼす。原料のミルクのタンパク質含量は、蒸発またはタンパク質粉末の添加により増加させ得る。該タンパク質粉末は、ミルク、例えばミルク粉末、ホエイタンパク質粉末またはカゼインタンパク質粉末を起源とし得るが、ミルク由来でないタンパク質もまた使用できる。例えば発酵ミルクなどのいくつかの製品について、テクスチュアの粘性を低下させることができる。これは、ミルク濾液、チーズホエイ、サワーホエイ(クヴァーク(quark)ホエイ、カッテージチーズホエイ)またはラクトース画分を原料ミルクに添加することにより影響され得る。ミルク由来ではない液体、例えば水もまた、テクスチュアを液状化するために使用できる。
【0004】
ミルク調製物、特にサワーミルク調製物の製造において、テクスチュアを変更するトランスグルタミナーゼ酵素の使用がよく知られている。サワーミルク調製物、例えば乳酸発酵された生鮮乳製品(ヨーグルト、セット型ヨーグルト、ビーリ、発酵ミルク)において、トランスグルタミナーゼ酵素の使用は、テクスチュアを硬化させ、テクスチュアを微細に変更し、離漿を低下させるように働く。
【0005】
トランスグルタミナーゼ酵素は、タンパク質分子中に存在するグルタミンおよびリジンアミノ酸残基の間の共有結合の生成を触媒する。結合が形成される場合に、アンモニアが放出される。この酵素は、日本においてすり身(海鮮ペースト)製品の製造の際に初めて使用された(Kuraishi、et. al.、Food Rev. Int. 17(2)、2001、pp. 221〜246)。
【0006】
特許公報EP 610 649 (Ajinomoto)は、トランスグルタミナーゼ酵素を用いてヨーグルト用ミルクを前処理する方法、およびヨーグルト用ミルクの低温殺菌に関連して酸性化する前に酵素を不活性化する方法を説明するものである。特許公報EP 689 383 (Novo Nordisk A/S)は、トランスグルタミナーゼ酵素を用いてミルクを処理し、その後に該ミルクを所望のpHに酸性化して、得られた該ゲルを加熱処理する方法を開示している。このようにして形成したゲルを、ヨーグルトまたはチーズの製造に使用され得る。特許公報EP 1 206 912 (Friesland Brands B.V.)は、ミルクの加熱処理後の酸性化工程中にトランスグルタミナーゼ酵素を添加する方法、および酸性化後にも酵素を添加する方法を説明している。この方法は、酸性化後も酵素を常に添加することを特徴とする。特許公報JP 2001252011 (Koiwai Nyugo KK)は、ヨーグルトの製造のための方法を開示しており、この公報ではトランスグルタミナーゼ酵素は酸性化工程中に添加され、pHが5の値付近におよびこのpHに低下した場合に、該ヨーグルトを低温貯蔵に移すことによって酸性化は停止される。
【0007】
上記方法において共通の態様は、架橋の場合においてのみトランスグルタミナーゼ酵素を使用することである。特許公報EP 1 197 152 (Ajinomoto)は、架橋方法を開示しており、この方法において、ミルクはトランスグルタミナーゼの働きに影響する処理用助剤および該酵素(例えばグルタチオン)により前処理される。処理後に、トランスグルタミナーゼは熱処理により不活性化され、該ミルクは様々なミルク製品の製造に使用される。この方法により、トランスグルタミナーゼ単独で処理するよりも、より効果的に架橋が達成され得る。該方法は、特に通常のミルク製品の製造前の原料ミルクの前処理方法である。
【0008】
上記方法において、酵素、酵素の活性に影響するあらゆる処理用助剤および任意の特定ケースで使用した酸性化剤は、様々な処理工程中に反応混合物に添加される、そして該酵素、該酵素の活性に影響するあらゆる処理用助剤または酸性化剤は、混合物中では同時に反応することはできない。
【0009】
驚くべきことに本明細書において、トランスグルタミナーゼ酵素、酵素活性化化合物および酸性化剤を、該酵素が酸性化剤の添加の際および/または酸性化中に活性であるような環境下で、タンパク質源に添加することにより、調製物のテクスチュアに対するあらゆるダメージまたは悪影響がなく、サワーミルク調製物、特に乳酸発酵された生鮮乳製品のタンパク質含量を低下できる、より少ない処理工程を要するより簡易な方法をもたらすことを見出した。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
(本発明の要約)
本発明は、トランスグルタミナーゼ酵素、酵素活性化化合物および酸性化剤の使用により、該酵素が酸性化剤の添加の際および/または酸性化中に活性であるような環境下において、タンパク質源へそれらを添加することによる、サワーミルク調製物(例えば、乳酸発酵された生鮮乳製品)を製造するための製造方法に関する。該方法は、既知の方法よりも、より有利かつ容易に乳酸発酵された生鮮乳製品のテクスチュアを変更できる。さらに、該方法は、調製物のテクスチュアに対するあらゆるダメージまたは悪影響なしに乳酸発酵された生鮮乳製品のタンパク質含量を顕著に低下できる。
【0011】
また、本発明は、該方法により製造した乳酸発酵された生鮮乳製品に関する。
【0012】
本発明の詳細な説明
驚くべきことに、トランスグルタミナーゼ酵素、酵素活性化化合物および酸性化剤を、該酵素が酸性化剤の添加の際におよび/または酸性化中に活性であるような環境下においてタンパク質源に添加することにより、前記した原料ミルクの前処理方法を使用するよりも、有意により効率的にサワーミルク調製物、例えば乳酸発酵された生鮮乳製品のテクスチュアを変更できることを本願において発見した。酸性化中に架橋がおこる本発明の方法は、トランスグルタミナーゼ酵素のみを酸性化中に使用した方法と比較して約20%以上も有効である。本発明の方法は、サワーミルク調製物、特に従来法において製造されたサワーミルク調製物と同様のテクスチュアを保持するが有意に低いタンパク質含量を持つ乳酸発酵または発酵した生鮮乳製品の製造を可能にする。これにより、従来のタンパク質レベルのサワーミルク調製物の製造よりも、より低い原料のコストレベルで、サワーミルク調製物、特に乳酸発酵または発酵した生鮮乳製品の製造が可能となる。発酵またはより一般的には乳酸発酵された生鮮乳製品は、ヨーグルト、ビーリ、発酵ミルク、クヴァーク(Quark)(低脂肪カードチーズの一種)、フレッシュチーズ、クリームチーズおよびサワークリーム製品、例えばクリームフレシェ(creme fraieche)およびスメタナ等を包含する。
【0013】
トランスグルタミナーゼ酵素(EC 2.3.2.13)は、タンパク質分子に存在するグルタミンおよびリジンのアミノ酸残基間の共有結合の生成を触媒する。食品に使用するのに適当である微生物トランスグルタミナーゼ調製物は購入できる。製造者は、用途によるが1〜3 U/タンパク質gの酵素用量を推奨する。
【0014】
酵素活性化化合物として、必要な特性を所有するあらゆる化合物が使用できる。例えば、還元または酸化のいずれかを基にした化学活性のある化合物が使用できる。還元化合物の例には、グルタチオン、システイン、γ-グルタミルシステイン、チオスルフリル酸、チオグリコール酸、亜硫酸、アスコルビン酸、エリソルビン酸、ジチオスレイトール(dithiotreitol)およびその塩、食品において使用するのに適切な塩、NaBH4、トコフェロール、グリセリンまたはレシチンの脂肪酸エステルが挙げられ得る。酸化剤の例としては、ギ酸が挙げられ得る。
【0015】
酵素活性化化合物は、好ましくはグルタチオンである。グルタチオンは、ホエイタンパク質を還元し、そしてトランスグルタミナーゼ酵素と共に使用した場合のその効果はこの特性に基づくと考えられる。グルタチオンは、市販の精製化合物等としてそのまま使用され得る。あるいは、グルタチオン含有混合物が使用され得る。食品産業における使用に認められたグルタチオン含有混合物の例としては酵母抽出物が挙げられ得る。
【0016】
用語「酸性化剤」とは、微生物のスターターまたは培養物、化学酸性化剤またはその混合物を指す。
【0017】
酸性化は、少なくとも一つの製品特異的培地を用いる発酵によっておよび/または化学酸性化剤、例えば有機または無機酸等を用いることによって行われ得る。
【0018】
本発明の方法に従って、トランスグルタミナーゼ酵素、酵素活性化化合物および酸性化剤を、該酵素が酸性化剤の添加の際および/または酸性化中に活性であるような環境下において、タンパク質源に添加される。これにより、酵素および酵素活性化化合物が、酸性化剤の添加の前に、酸性化剤の添加と同時に、または酸性化剤の添加後にタンパク質源に添加されることが可能となった。本発明の方法に重要であるのは、酵素および酵素活性化化合物の添加後、酸性化剤の添加前、または逆の順番で、酸性化剤の添加後、酵素および酵素活性化化合物の添加前の環境は、酵素が不活性となるように導く様式では変化しないおよび/または変化されないということである。即ち、本発明によれば、酵素が酸性化剤の添加の際および/または酸性化中に活性であるという条件で、酵素および酵素活性化化合物がタンパク質源に、酸性化剤の添加前の数時間(例えば、2〜10時間)添加され得る。本発明の方法において該添加が行われる環境は、該方法で使用される酵素の特性に依存する。該酵素の特性、例えば活性および基質特異性は、通常例えば温度およびpHに依存する。現在、市販購入できるトランスグルタミナーゼ酵素は、0〜80℃の温度範囲で活性であり、該酵素は80℃を超える温度で不活性となり、約50℃の温度でその最高活性に到達する。ミルクを基にした用途では、該酵素は3〜60℃の温度範囲で使用され得るのが好ましい。トランスグルタミナーゼ酵素が酸化反応と関連して使用される場合、温度範囲は20〜50℃であるのが好ましい。現時点で市販購入できるトランスグルタミナーゼ酵素は、pH3〜10の範囲において活性であり、その最高活性は5〜8のpH範囲で達成される。ミルクを基にした用途において、pHは3.5〜7.5の間が好ましく、またはそれは該pH値範囲に調整される。
【0019】
発明の方法において、原料ミルクそれ自体または所望の様式において前処理された原料ミルクは、通常タンパク質源の構成要素である。原料ミルクのタンパク質含量を低下させることは、前処理の例として説明され得る。タンパク質レベルは、酸性化剤の添加と同時に低下され得る。ミルク濾液、ホエイ、ラクトース画分、それらの濃縮物、またはミルク濾液、ホエイ、ラクトース画分によって構成される混合物および/またはその濃縮物は、例えばタンパク質レベルを低下するために使用され得る。さらに、食品の使用に適切な、水、コーンスティープ(corn steep)液体、ジュースまたはその他の液体は、タンパク質レベルを低下させるために使用され得る。タンパク質レベルを低下させるために適切な上記液体またはその混合物は、該方法で使用されるタンパク質源に対して20%容量まで添加されても良い。
【0020】
本明細書中では、原料ミルクとは、それ自体または様々な方法で処理された、動物、例えばウシまたはヤギから得られたミルクを指す。ミルクは、例えばミルクから脂肪またはラクトースを除去することにより処理され、脂肪不含、低脂肪、ラクトース不含または低ラクトースミルクとなる。本明細書では、原料ミルクは、ヨーグルト、ビーリおよび発酵ミルクの製造に使用した前処理または未処理ミルクも指し、これは例えば当業者は、ヨーグルト、ビーリおよび発酵ミルクのための原料ミルクを指す。
【0021】
ミルクは、例えばクロマトグラフィー分離および/またはミクロ、ナノまたは限外濾過により、様々な成分の様々な量を含有する画分中に分画され、該分画物は、順にミルク自体またはその様々な混合物のタンパク質含量を調整するために使用され得る。
【0022】
ミルク濾液とは、ミルクの限外濾過において得られ、主にラクトース、灰分およびタンパク質を含有する濾液を指す。ミルク濾液のタンパク質含量は、濾過条件に依存するが、最も一般的には、約0.2〜0.4重量%、通常約0.3重量%のタンパク質である。
【0023】
ホエイとは、チーズまたはカードチーズを作る際のカードから分離されるミルクの非沈殿部分の液体を指す。ホエイ中のタンパク質含量は、通常約0.5〜0.7重量%、典型的には約0.6重量%である。
【0024】
ラクトース画分とは、クロマトグラフィー分離の結果として得られ、主にラクトースを含有するが、例えばタンパク質も含有する画分を指す。ラクトース画分のタンパク質含量は、分離条件によるが、最も一般的には約0.2〜0.4重量%、典型的には約0.3重量%のタンパク質である。
【0025】
さらに、動物のミルクだけでなく、市販購入できる植物、例えばオート麦、ダイズ、コメまたはココナッツミルクを由来とする液体もタンパク質源として使用できる。オート麦、ダイズまたはコメミルクは、穀粒またはマメを破砕して、所望の栄養分を適切な液体、例えば水中などに抽出する処理において工業的に製造され得る、これには油、例えば菜種油等も含まれ得る。
【0026】
発酵された、またはより一般的には乳酸発酵された生鮮乳製品とは、動物および/または植物から生じるミルクを基にした乳酸発酵した生鮮製品を指す。
【0027】
トランスグルタミナーゼ酵素および酵素活性化化合物の添加およびタンパク質源のタンパク質含量の任意の調整を例外として、酸性化は、各々特定のケースおよび/または各特定の製品にとって適当な酸性化剤の使用、および適切な反応条件下であるが酵素が活性を維持しているような条件により、従来的に製造された対応する乳酸発酵された生鮮乳製品と同じようにおこなわれる。
【0028】
本発明の方法は、香味付けした、および香味付けしていない脂肪および脂肪不含物、ならびに均質化した、および均質化していない生鮮製品の製造に適当である。さらに、ラクトース不含および低ラクトース(例えば、HYLA(登録商標))製品の製造に適当である。
【0029】
本発明の実施態様において、該方法は下記の工程を含む:
タンパク質源へのトランスグルタミナーゼ酵素、酵素活性化化合物および酸性化剤の添加、
酸性化、
得られる製品の回収。
【0030】
本発明の別の実施態様において、該方法は、該目的に適切な液体をタンパク質源に添加することにより、タンパク質源のタンパク質含量を低下する工程をさらに含む。このケースにおいて、該方法は下記の工程を含む:
タンパク質含量を低下するために適当な液体、例えばミルク濾液、ホエイ、ラクトース画分、それらの濃縮物、またはミルク濾液、ホエイ、ラクトース画分により構成される混合物および/またはその濃縮物の、タンパク質源への添加、
該タンパク質源への、トランスグルタミナーゼ酵素、酵素活性化化合物および酸性化剤の添加、
酸性化、
得られた製品の回収。
【0031】
これらの工程に加えて、本発明の方法は、最終産物を完成させるためにその他の必要な製造過程、例えばジャムおよび/または糖および/または加熱処理(低温殺菌後)を含むのが好ましい。
【0032】
本発明の方法の利点は、上記した既知の方法の使用よりも低いタンパク質含量を示す原料ミルクを利用できる点である。本発明の方法に使用した原料ミルクのタンパク質含量は、約0.5重量%程度低いものであり得るが、タンパク質含量の下限値は、サワーミルク製品に依存して、既知の製造方法が使用される場合には2〜3重量%の範囲内である。既知の製造方法が使用される場合に、ヨーグルトのタンパク質含量は、通常3〜5重量%の範囲内であり、ビーリのタンパク質含量は3〜5重量%の範囲内で、発酵ミルクのタンパク質含量は3〜5重量%の範囲内で、および飲用可能なヨーグルトのタンパク質含量は2〜4重量%の範囲内にある。タンパク質含量について現実には上限はないが、実際には、ヨーグルト、ビーリおよび/または発酵ミルクの工業製品において、原料ミルク中で10%タンパク質含量を超えるのは稀である。
【0033】
本発明の方法の利点は、本方法に必要な酵素の量が、既知の方法において使用される場合に必要な量よりも少ない点である。本発明の方法において、酵素は、0.1〜300ppm、好ましくは1〜200 ppmの量で使用され得る。必要とされる酵素が少量であるので、製造の際の明らかな費用削減となる。さらに、エネルギーと時間を拘束する余分な方法工程を省くことが出来るので、本発明の別の利点とは、簡易化された製造方法である。
【0034】
本発明は、サワーミルク調製物、特に乳酸発酵したまたは発酵した生鮮乳製品のテクスチュアを、トランスグルタミナーゼ酵素および酵素活性化化合物を用いて変更する方法に関する。この方法は、トランスグルタミナーゼ酵素、酵素活性化化合物および酸性化剤を、該酵素が酸性化中に活性である条件下において、タンパク質源へ添加することを特徴とする。
【0035】
下記の実施例は本発明を説明する。それらは、請求の範囲を制限する意図はない。
【0036】
実施例1.ヨーグルトの調製
この実施例において、先行技術に従うトランスグルタミナーゼ酵素およびグルタチオンを用いるミルクの前処理、および本発明に従う酸性化剤と共にトランスグルタミナーゼ酵素およびグルタチオンを用いる処理が、製造工程および最終製品の特性にどのような影響を与えるかを試験した。
【0037】
参照ヨーグルトを、4.2%のタンパク質含量および2.5%の脂肪含量を有する原料ミルクから製造した。Activa(登録商標)YG 粉末(0.252 g)(Ajinomoto、i.a.トランスグルタミナーゼおよび酵母抽出物含有)/1.000gのミルクを、該ミルクに添加した。該酵素を6℃の温度で16時間作用させた。次いで、該ミルクを92℃で5分間滅菌し、42℃の温度に冷却した。ヨーグルトスターター培地を添加し、熟成はpHが4.5に下がるまで42℃の温度でおこった。
【0038】
本発明の試験ヨーグルトを、3.8%のタンパク質含量および2.5%の脂肪含量を有する原料ミルクから製造した。該ミルクを、92℃で5分間低温殺菌し、42℃の温度に冷却した。Activa(登録商標)YG 粉末の0.171g/1.000g ミルクを、ヨーグルトスターターと共に該ミルクに添加し、pHが4.5に低下するまで42℃の温度で熟成させた。試験ヨーグルトの製造では、参照ヨーグルトの製造の際に使用するよりも少量のトランスグルタミナーゼ酵素および酵母抽出物を使用した。さらに、本発明の試験ヨーグルトの製造は、Activa(登録商標)YG 粉末が培養物と共に添加されたという点で、参照ヨーグルトの製造とは異なる。
【0039】
ヨーグルトの官能性の品質および粘度を20日間観察した。本発明の方法は、ヨーグルトの品質に関するあらゆる弱点を除き、原料ミルクとして4.2%から3.8%までタンパク質レベルの低下したミルクを使用できる。これに対して、試験ヨーグルトのテクスチュアは、参照ヨーグルトよりも若干粘性であり(表1を参照)、酵素調製物の量は、参照ヨーグルトの製造に使用するよりも少量であった。
【表1】

【0040】
実施例2.ヨーグルトの調製
この実施例では、先行技術に従う酸性化中にトランスグルタミナーゼを用いるミルクの処理方法、および本発明に従う酸性化中にトランスグルタミナーゼおよびグルタチオンを含有する酵母抽出物の使用が、製造工程および最終製品の特性にどのように影響するかについて試験した。
【0041】
参照ヨーグルトを、4.2%のタンパク質含量および2.5%の脂肪含量有する原料ミルクから製造した。ミルクを92℃で5分間滅菌し、42℃の温度に冷却した。Activa(登録商標)MP 粉末(0.252g (Ajinomoto、トランスグルタミナーゼを含有する)/1.000 g ミルク)を、該ミルクに添加し、該ヨーグルト培養物を添加し、熟成はpHが4.5に低下するまで42℃の温度でおきた。
【0042】
本発明の試験ヨーグルトを、培養物の添加に関連して、酵母抽出物を含有するActiva(登録商標)YG 粉末(0.168g/1.000gミルク)を、Activa(登録商標)MP粉末に代えて添加したという点を除いて、参照ヨーグルトと同じ方法で製造した。
【0043】
本発明の方法は、酵母抽出物を含有するActiva(登録商標)YG 粉末を使用した場合に、通常のActiva(登録商標)MP 粉末と比べて、33%少ない酵素調製物用量を使用して同一品質のヨーグルトを製造することを可能にした。結果として、酵素にかかる費用の顕著な削減が可能となった。
【表2】

【0044】
実施例3.ヨーグルトの調製
この実施例では、ヨーグルトの製造の際に本発明に従う酸性化剤と共にトランスグルタミナーゼ酵素およびグルタチオンを用いて処理するミルク、および先行技術に従う酵素を用いる処理をしないヨーグルトの製造が、製造工程および最終製品の特性にどのように影響したかを試験した。
【0045】
参照ヨーグルトを、4.2%のタンパク質含量および2.5%の脂肪含量を有する原料ミルクから製造した。ミルクを、92℃で5分間低温滅菌し、42℃の温度まで冷却した。ヨーグルト酸性化剤をミルクに添加し、また熟成はpHが4.5に低下するまで42℃の温度でおきた。
【0046】
本発明の試験ヨーグルトを、3.65%のタンパク質含量および2.5%の脂肪含量を有する原料ミルクから製造した。該ミルクを、92℃で5分間低温殺菌し、42℃の温度まで冷却した。0.15g/1.000 gミルクのActiva(登録商標)YG粉末を、ヨーグルト培養物と共に該ミルクに添加し、また熟成は、pHが4.5に低下するまで42℃の温度でおきた。本発明の試験ヨーグルトの製造において、トランスグルタミナーゼ酵素および酵母抽出物を該培養物に加えて使用した。
【0047】
本発明の方法は、ヨーグルトの品質のあらゆる弱点なしに、原料ミルクとして4.2%〜3.65%まで低下したタンパク質レベルを有するミルクを使用できる。両方のヨーグルトの粘度は同一レベルであり、該ヨーグルトは互いの官能特性からは区別できなかった。
【0048】
実施例4.セット型ヨーグルトの調製
この実施例では、セット型ヨーグルトの製造の際に、本発明に従う酸性化剤と共にトランスグルタミナーゼ酵素およびグルタチオンを用いて処理するミルク、および先行技術に従って酵素を用いて処理をしないセット型ヨーグルトの製造が、製造工程および最終製品の特性にどのように影響したかについて試験した。
【0049】
参照ヨーグルトを、4.2%のタンパク質含量および2.5%の脂肪含量を有する原料ミルクを製造した。該ミルクを、92℃で5分間低温殺菌し、42℃の温度まで冷却した。ヨーグルト培養物を該ミルクに添加し、そして熟成はpHが4.5に低下するまで42℃の温度でおきた。
【0050】
試験ヨーグルトを、3.65%のタンパク質含量および2.5%の脂肪含量を有する原料ミルクを製造した。該ミルクを、92℃で5分間低温殺菌し、42℃の温度まで冷却した。Activa(登録商標)YG 粉末(0.15g/1.000 g ミルク)を、ヨーグルト酸性化剤と共に該ミルクに添加し、pHが4.5に低下するまで42℃の温度で熟成させた。
【0051】
本発明の方法は、ヨーグルトの品質に関するあらゆる弱点なしに、原料ミルクとして4.2%から3.65%まで低下したタンパク質レベルを有するミルクの使用を可能にした。両方のヨーグルトの粘度は同一レベルであり、該ヨーグルトは互いの官能特性からは区別できなかった。
【0052】
実施例5. ビーリの調製
本発明の試験用ビーリを、2.5%の脂肪含量を有するビーリに関して、ミルク濾液(94g)を原料ミルク(906 g)に添加することによって製造した。該混合物を、93℃で5分間滅菌し、65℃の温度まで冷却した。次いで、該原料を65℃で200 barの圧力で均質化した。次いで、該原料を、24℃の酸性化温度まで冷却し、ビーリ培養物およびActiva(登録商標)YG 酵素調製物(88 mg)を添加した。
【0053】
参照ビーリを、ビーリ(脂肪含量2.5%)について原料ミルク(1.000 g)を使用し、そしてミルク濾液またはActiva(登録商標)YG 酵素調製物を該ミルクに添加しないこと以外は試験用ビーリと同じ方法で製造した。両方のビーリを、200 gのビーカー内に入れ、pHが4.5に低下するまで該ビーリを24℃の温度で熟成させた。次いで、該ビーリを低温貯蔵庫にうつした。3週間の貯蔵期間中に、離漿、ディッシュ上でのビーリの分解、味およびテクスチュアについて官能試験に供した。さらに粘度を一週間毎に測定した。
【0054】
本発明の方法は、ビーリの品質に関するあらゆる弱点もなく、ビーリの製造において、参照ビーリの製造に使用したミルクのタンパク質含量よりも低いタンパク質レベルを有するミルクの使用を可能にした。本発明の方法により製造したビーリのタンパク質含量は、参照ビーリのタンパク質含量(3.2%)と比べて低かった(2.9%)が、両方のビーリの官能特性は同一であり、その粘度はほぼ等しかった。
【0055】
実施例6.発酵ミルクの調製
本発明の試験発酵ミルクを、ミルク濾液(180 g)を脂肪不含ミルク(820 g)に添加することによって製造した。該混合物を、90℃で10分間高温殺菌し、24℃の酸性化温度に調節した。発酵ミルク培養物およびActiva(登録商標)YG 酵素調製物(100 mg)を添加した。該ミルクを、pHが4.5となるまで24時間の間、酸性となるようにした。
【0056】
参照用発酵ミルクを、脂肪不含ミルク(1.000 g)を使用して、ミルク濾過物またはActiva(登録商標)YG 酵素調製物を該ミルクに添加しないこと以外は、試験発酵ミルクと同じ方法で製造した。次いで、両方の発酵ミルクを混合し、1リットルのパッケージ内に充填した。次いで、発酵ミルクを低温貯蔵庫にうつした。3週間の貯蔵時間中、離漿、味およびテクスチュアについて官能試験に供した。さらに粘度を一週間毎に測定した。
【0057】
本発明の方法は、発酵ミルクの品質に関していずれの弱点もなく、原料ミルクとして3.3%から2.7%に低下したタンパク質レベルを有するミルクを使用できる。両方の発酵ミルクの官能特性は同一であり、その粘度はほぼ等しかった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
酵素が酸性化中に活性であるような環境下で、トランスグルタミナーゼ酵素、酵素活性化化合物および酸性化剤をタンパク質源に添加すること、酸性化すること、そして得られた調製物を回収することを特徴とする乳酸発酵された生鮮乳製品を製造する方法。
【請求項2】
酵素活性化化合物が酵母抽出物であることを特徴とする、請求項1記載の方法。
【請求項3】
酵素活性化化合物がグルタチオンであることを特徴とする、請求項1または2記載の方法。
【請求項4】
酵素および酵素活性化化合物を酸性化剤の添加前にタンパク質源に添加することを特徴とする、請求項1〜3のいずれかに記載の方法。
【請求項5】
酵素および酵素活性化化合物を酸性化剤の添加中にタンパク質源に添加することを特徴とする、請求項1〜3のいずれかに記載の方法。
【請求項6】
酵素および酵素活性化化合物を、酸性化剤の添加後にタンパク質源に添加することを特徴とする、請求項1〜4のいずれかに記載の方法。
【請求項7】
本方法で使用したタンパク質源のタンパク質含量を低下させることを特徴とする、請求項1〜6のいずれかに記載の方法。
【請求項8】
ミルク濾液、ホエイ、ラクトース画分、それらの濃縮物、あるいはミルク濾液、ホエイ、ラクトース画分により構成された混合物および/またはその濃縮物を添加することによってタンパク質含量を低下させることを特徴とする、請求項7記載の方法。
【請求項9】
該方法で使用されるタンパク質源のタンパク質含量が、少なくとも0.5重量%であることを特徴とする、請求項1〜8のいずれかに記載の方法。
【請求項10】
該方法で使用されるタンパク質源のタンパク質含量が、約0.5〜約10重量%であることを特徴とする、請求項1〜9のいずれかに記載の方法。
【請求項11】
該方法で使用されるタンパク質源が原料ミルクであることを特徴とする、請求項1〜10のいずれかに記載の方法。
【請求項12】
乳酸発酵された生鮮乳製品が、ヨーグルト、セット型ヨーグルト、ビーリまたは発酵ミルクであることを特徴とする、請求項1〜11のいずれかに記載の方法。
【請求項13】
請求項1〜11のいずれかに記載の方法に従って製造されることを特徴とする、乳酸発酵された生鮮乳製品。
【請求項14】
製品が、ヨーグルト、セット型ヨーグルト、ビーリまたは発酵ミルクであることを特徴とする、請求項13記載の乳酸発酵された生鮮乳製品。
【請求項15】
酵素が酸性化中に活性であるような環境下で、トランスグルタミナーゼ酵素、酵素活性化化合物および酸性化剤を、タンパク質源に添加することを特徴とする、乳酸発酵された生鮮乳製品のテクスチュアを変更する方法。

【公表番号】特表2009−516522(P2009−516522A)
【公表日】平成21年4月23日(2009.4.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−541774(P2008−541774)
【出願日】平成18年11月21日(2006.11.21)
【国際出願番号】PCT/FI2006/050506
【国際公開番号】WO2007/060288
【国際公開日】平成19年5月31日(2007.5.31)
【出願人】(500185416)ヴァリオ・リミテッド (12)
【氏名又は名称原語表記】Valio Ltd.
【Fターム(参考)】