説明

識別コードのマーキング装置及び方法、識別コードがマーキングされた半導体装置

【課題】 半導体装置上にマーキングされた識別コードは、視認性を向上させるためにドット部を重ね塗りすると、ドット部の高さと底面積の比(いわゆるアスペクト比)が高くなるにつれて、外部から力が加わった時に識別コードの一部にドット欠けや脱落や倒れが起きる可能性が高くなる。
【解決手段】 半導体装置に識別コードをマーキングする装置及び方法であって、識別コードの凹凸部の高低差を埋めるように、識別コードの上から溝埋め材を塗布する、或いは前記識別コードを積層させて形成することを特徴とする、識別コードのマーキング装置及び方法。さらに、前記識別コードがマーキングされた半導体装置。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体装置に識別コードをマーキングする装置及び方法、識別コードがマーキングされた半導体装置に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体装置は、1枚の半導体ウエハーに複数個分の回路パターンを形成して製造されている。その後、前記半導体ウエハーは、ダイシングされ、半導体チップと呼ばれる形態の小さな部品単位に分割される。分割された半導体チップは、配線部材と接続され、全体を樹脂モールドしてパッケージングされ、検査工程を経て出荷される。このようにして製造されて、半導体装置が組み込まれた製品は、電子部品材料、家電製品、自動車またはその他の工業製品など、多種多様な分野に渡って使用されている。
【0003】
前記半導体装置は、所定の製造方法と製造条件に基づいて、大量に生産されており、常に安定した品質が維持されるように、管理されている。前記半導体装置の品質管理においては、製造工程の途中と出荷前に、適宜検査が行われる。もし、前記検査で不合格となれば、原因を分析して、前記製造方法または製造条件の改善につなげられる。
【0004】
一方、前記半導体装置を製造工程内で検査を行い、検査の合格品を出荷した後で、不具合が見つかることが稀にある。前記不具合が、前記製造方法または製造条件に起因していることが判明した場合、製造ロットまたは製造年月日などを明示して、ユーザに告知し、修理もしくは回収を促すことになる。
【0005】
そのため、前記製造方法と製造条件を管理することは、前記半導体装置の品質を維持する上で重要である。また、出荷した製品に関しても、前記製造方法と製造条件などの製造履歴を残し、後に参照することができることも重要となる。
【0006】
前記製造履歴を明確にする手段として、前記半導体装置に、識別コードと呼ばれる固有のID(例えば、2次元コードなど)(以下、識別コード)を付加する手法が用いられている。前記識別コードは、製造ロット、製造年月日、製造に使用した設備または仕向地などの各種情報をコード化して含めることができ、製造履歴を特定することができる。
また、前記識別コードと併せて、半導体装置の製造方法、製造条件または検査結果などの製造履歴情報が、前記半導体装置の生産管理システムのデータベースに登録されている。そうすることで、前記半導体装置は、マーキングされている前記識別コードを見て、前記各種情報と前記製造履歴情報を参照することができるようになっている。
【0007】
前記識別コードは、半導体ウエハー毎にマーキングされたウエハーIDと、半導体チップ毎にマーキングされたチップIDなどがある。前記チップIDは、前記半導体チップの個数に応じて、1枚の半導体ウエハー上に複数マーキングされる。
【0008】
図7(a)(b)に、従来の方法及び装置を用いてマーキングされた半導体チップの断面図を示す。
特許文献1によれば、図7(a)に示すように、半導体ウエハー10に半導体チップの回路パターン108と絶縁層109が形成された後、その上から、半導体チップ上にベース部材30bを塗布し、前記ベース部材30bの上にチップID30cを形成する技術が開示されている。チップID30cは、塗布されたインク材31bがドット部を形成しており、識別コードとして機能している。あるいは、図7(b)に示すように、チップID30cを形成するドット部が、塗布されたインク材31bを積み重ねることで形成されている場合もある。
【0009】
特許文献2によれば、半導体チップ表面に、X線透過材からなる格子状の隔壁を形成し、前記隔壁内の所定の場所にX線難透過材を滴下して、チップID30cをマーキングする技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2009−105210号
【特許文献2】特開2009−246267号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
図8は、従来の方法及び装置を用いてマーキングされた半導体ウエハーをダイシングしている様子を示す断面図である。半導体ウエハー10の表面にはチップID30cがマーキングされており、半導体ウエハー10の下面にはフィルム80が貼り付けられており、半導体ウエハー10の表面側からダイシングブレード81を用いて、ダイシングされている。ダイシング工程では、水や、研磨剤と液体とを混ぜた砥粒と呼ばれるものが用いられ、ダイシング中は飛散物83が周辺に飛散する。ダイシングが終わると、溝部82が形成される。チップID30cを形成するドット部には、勢いよく飛散物83が飛び散ることで、一部脱落したドット部85や、倒れたドット部86を含んだ識別コードとなってしまうことが稀にあった。
【0012】
さらに、チップID30cの視認性を向上させるために、ドット部の高さと底面積の比(いわゆるアスペクト比)を高くすると、チップID30cの一部のドット欠けや脱落や倒れが起きる可能性が高くなってしまうという課題があった。
【0013】
また、形成したチップID30cの表面は、ドットの有無により凹凸形状となっているため、凹部には微細な異物や液体が残りやすい状態となり得る。例えば、ダイシング時に用いられる砥粒やダイシングで発生する研磨屑や、洗浄に用いられる薬液や純水などである。もし、前記異物や液体が残っていると、チップID30cの読み取る際のコントラストが低下したり、前記異物をドット部と識別したりしてしまう可能性があるという課題があった。
【0014】
前述とは別に、アスペクト比の高いチップID30cを形成する際に、従来の技術で粘度の低いインク材31を用いた場合においては、次の様な課題があった。塗布されたインク材31bは、インク材31が低粘度で流れやすいため、ドット部の径が大きくなやすい。その上、ドット部のアスペクト比を高くするために、重ね塗りすると、盛り上がったドット部の上にさらに粘度の低いインク材31を塗布するので、ドット部の径は、所望の寸法よりも大きくなってしまう。さらには、本来であればドット部のない部分にまでインク材31が流れ込んでしまう。そのため従来の技術では、チップID30cのドット部を所望の形状や寸法や底面積を維持しながら、アスペクト比を高くするためには、高粘度のインク材を使用したり、低粘度のインクを使うためにはドット部ではない部分に予め隔壁を形成しておく必要があるという課題があった。
【0015】
そこで本発明の目的は、
識別コードを構成するドット部の欠けや脱落、倒れ、あるいは汚れの付着を防ぎ、識別コードの視認性を向上させる手段を提供することを目的とする。
また、アスペクト比の高い識別コードを形成する場合においては、予め隔壁を形成することなく、低粘度のインク材を使用して、ドット部の形状や寸法や底面積を維持しながら、容易に識別コードを形成する手段を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
以上の課題を解決するために、請求項1に記載の発明は、
半導体装置に識別コードをマーキングする方法において、
前記識別コードを形成するドット部と空白部とでできた凹凸部の高低差を埋めるように、
前記識別コードの上から溝埋め材を塗布するステップを有することを特徴とする、
識別コードのマーキング方法である。
【0017】
請求項2に記載の発明は、
識別コードを形成するドット部と空白部とを、各々X線の透過率が異なる材料を用いて塗布することを特徴とする、請求項1に記載の識別コードのマーキング方法である。
【0018】
請求項3に記載の発明は、
識別コードを形成するドット部のインク材と、前記凹凸部の高低差を埋める溝埋め材とを交互に塗布して、識別コードを層状に積層して形成することを特徴とする、
請求項1又は請求項2に記載の識別コードのマーキング方法である。
【0019】
請求項4に記載の発明は、
識別コードの表面全体を溝埋め材で覆うように、前記溝埋め材を塗布するステップを有することを特徴とする、請求項1から請求項3までのいずれか一項に記載の識別コードのマーキング方法である。
【0020】
請求項5に記載の発明は、
半導体装置に識別コードをマーキングする装置であって、
識別コードをマーキングする手段と、
前記識別コードの上から、前記識別コードを形成するドット部と空白部とでできた凹凸部の高低差を埋める、溝埋め材を塗布する手段とを備えたことを特徴とする、
識別コードのマーキング装置である。
【0021】
請求項6に記載の発明は、
前記ドット部と前記空白部の塗布に用いられる材料が、各々X線の透過率が異なる材料であることを特徴とする、請求項5に記載の識別コードのマーキング装置である。
【0022】
請求項7に記載の発明は、
識別コードのドット部を形成するインク材を塗布する手段と、
前記凹凸部の高低差を埋める溝埋め材を塗布する手段とを備え、
前記インク材の塗布と、前記溝埋め材の塗布とを交互に行い、
識別コードを層状に積層して形成する制御手段が備えられたことを特徴とする、
請求項5又は請求項6に記載の識別コードのマーキング装置である。
【0023】
請求項8に記載の発明は、
識別コードの表面全体に溝埋め材を塗布する手段が備えられたを特徴とする、
請求項5から請求項7のいずれか一項に記載の識別コードのマーキング装置である。
【0024】
請求項9に記載の発明は、
パッケージ内部に識別コードがマーキングされた半導体装置であって、
前記半導体装置を構成する半導体チップと、前記半導体チップの上にマーキングされた前記識別コードとを有し、前記識別コードは、インク材が塗布されたドット部と、溝埋め材が塗布された空白部とで形成されていることを特徴とする、半導体装置である。
【0025】
請求項10に記載の発明は、
識別コードを形成するドット部と空白部とが、各々X線透過率の異なる材料を用いて形成されていることを特徴とする、請求項9に記載の半導体装置である。
【0026】
請求項11に記載の発明は、
識別コードを形成する前記ドット部のインク材と、空白部の溝埋め材とが交互に塗布され、識別コードを層状に積層して形成されていることを特徴とする、
請求項9又は請求項10に記載の半導体装置である。
【0027】
請求項12に記載の発明は、
識別コードの表面全体が溝埋め材で覆われていることを特徴とする、
請求項9から請求項11のいずれか一項に記載の半導体装置である。
(作用)
【0028】
本発明の装置及び方法で形成した識別コードは、離れて存在するドット部どうしが、溝埋め材を介して、密着、固着あるいは結合した状態になる。また、半導体装置と識別コードとの接触面積が増え、密着、固着あるいは結合する力が高くなる。そのため、ドット欠けや脱落、倒れを防止できる。また、識別コードの表面は、凹凸状態がなくなり、滑らかになるので、汚れの付着を防止できる。
【0029】
また、低粘度のインク材を使用しても、所望の形状や寸法や底面積を維持した状態で、層状に積層した識別コードを容易に形成できる。
【発明の効果】
【0030】
本発明の識別コードのマーキング装置及び方法を用いて形成した識別コードは、ドット欠けや脱落、倒れ、あるいは汚れの付着を防止できるので、視認性が向上する。
前記効果は、識別コードのドット部の高さが高くなるにつれてその効果は大きくなる。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】本発明の実施形態の一例を示す斜視図である。
【図2】本発明の実施形態の一例を示すシステム構成図である。
【図3】本発明の実施形態による溝埋め材の塗布を示す側面図である。
【図4】本発明の半導体装置の一例を示す断面図である。
【図5】本発明の別の形態の半導体装置の一例を示す断面図である。
【図6】本発明のさらに別の形態の半導体装置の一例を示す断面図である。
【図7】(a)(b)従来の方法及び装置を用いてマーキングされた半導体チップの断面図である。
【図8】従来の方法及び装置を用いてマーキングされた半導体ウエハーをダイシング様子を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0032】
本発明を実施するための形態について、図を用いながら説明する。以下の説明においては、本発明の識別コードの例として、半導体ウエハー10に複数マーキングされているチップID30cの1つに着目して説明を行う。
図1は、本発明の実施形態の一例を示す斜視図である。
各図において直交座標系の3軸をX、Y、Zとし、XY平面を水平面、Z方向を鉛直方向
とする。特にZ方向は矢印の方向を上とし、その逆方向を下と表現する。
【0033】
マーキング装置1は、装置ベース11の上に取り付けられたステージ部2と、ステージ2を跨ぐように装置ベース11の上に一対の支柱12と梁13とが連結された門型の構造物と、梁13に取り付けられたマーキングヘッド部3とアライメントカメラ部4と、制御部9を含んで、構成されている。
【0034】
ステージ部2は、装置ベース11上に取り付けられたX軸ステージ21と、X軸ステージ21上に取り付けられたY軸ステージ22と、Y軸ステージ22上に取り付けられたθ軸モータ23と、θ軸モータ23上に取り付けられたテーブル24とを含んで、構成されている。
【0035】
X軸ステージ21は、その上に取り付けられたY軸ステージ22をX方向に移動させることができ、Y軸ステージ22は、その上に取り付けられたθ軸モータ23をY方向に移動させることができ、θ軸モータ23は、その上に取り付けられたテーブル24をθ方向に回転させることができる。
【0036】
ステージ部2は、前記の様な構成をしているので、テーブル24上に載置された半導体ウエハー10を、XY方向に移動させ、さらにθ方向に回転させることができる。
【0037】
テーブル24は、表面に溝や孔が形成されており、前記溝や孔は、開閉制御用バルブを介して真空源に接続されている。テーブル24に載置された半導体ウエハー10は、負圧により吸着保持され、テーブル24の移動中に位置ずれしないようになっている。
【0038】
詳細を後述するが、マーキングヘッド部3は、ステージ部2の上方に配置された梁13に取り付けられており、インク材塗布ユニット32と溝埋め材塗布ユニット36を用いて、インク材31と溝埋め材35とを半導体ウエハー10に塗布することができる。
【0039】
アライメントカメラ部4は、カメラ40、光学系ユニットおよび照明を含んで、構成されている。カメラ40としては、CCDやCMOS、その他の撮像素子を用いた撮像カメラが例示でき、撮像した画像を映像信号として、制御部9へ出力することができるものであれば良い。
【0040】
前記光学系ユニットは、半導体ウエハー10の表面に焦点を合わせて、カメラ40にて画像を観察することができるようにしたものであって、レンズやミラーなどの光学系部品で構成されるものであれば良い。
【0041】
前記照明としては、LED、ハロゲン、白熱電球、その他の発光手段が例示でき、前記カメラにて、半導体ウエハー10の表面のパターンを観察することができるように、カメラ40の感度波長に合わせて、所定の波長を含む光線を放射するものであれば良い。
【0042】
図2は、本発明のマーキング装置における、実施形態の一例を示すシステム構成図である。図2に示すように、制御部9には、制御用コンピュータ90と、情報入力手段91と、情報出力手段92と、発報手段93と、情報記録手段94と、機器制御ユニット95とが接続されて含まれている。
【0043】
制御用コンピュータ90としては、マイコン、パソコン、ワークステーションなどの、数値演算ユニットが搭載されたものが例示される。
情報入力手段91としては、キーボードやマウスやスイッチなどが例示される。
情報出力手段92としては、画像表示ディスプレイやランプなどが例示される。
【0044】
発報手段93としては、ブザーやスピーカ、ランプなど、作業者に注意喚起をすることができるものが例示される。
情報記録手段94としては、メモリーカードやデータディスクなどの、半導体記録媒体や磁気記録媒体や光磁気記録媒体などが例示される。
機器制御ユニット95としては、プログラマブルコントローラやモーションコントローラと呼ばれる機器などが例示される。
【0045】
制御用コンピュータ90には、画像処理ユニットを介して、カメラ40から出力された映像信号が入力される。
【0046】
機器制御ユニット95には、X軸ステージ21と、Y軸ステージ22と、θ軸モータ23と、インク材送液ユニット32と、溝埋め材送液ユニット36と、カメラ40と、前記照明の光量調節ユニット41と、その他の制御機器(図示せず)とが、接続されている。
また、機器制御ユニット95は、接続されている各機器に対して制御用信号を与えることにより、前記各機器を動作させたり静止させたりすることができるようになっている。
[マーキングヘッド部詳細]
【0047】
図3は、マーキング装置1を用いて、溝埋め材35を塗布する様子を示した側面図である。半導体ウエハー10にはチップID30cがマーキングされており、チップID30cに向けて、ドットの凹部を埋めるように、マーキングヘッド部3から溝埋め材35が吐出されている。
【0048】
マーキングヘッド部3は、半導体ウエハー10にチップID30cを形成する材料となる、インク材31を塗布するためのインク材塗布ユニット32と、溝埋め材35を塗布するための溝埋め材塗布ユニット36とを、含んで構成されている。インク材塗布ユニット32にはインク材塗布ノズル33が取り付けられており、インク材塗布ノズル33から半導体ウエハー10に向かって、インク材31が吐出される。また、溝埋め材塗布ユニット36には溝埋め材塗布ノズル37が取り付けられており、溝埋め材塗布ノズル37から半導体ウエハー10に向かって、溝埋め材35が吐出される。
【0049】
インク材31及び溝埋め材35を塗布する手段として、インクジェットやディスペンサを例示することができる。前記塗布手段は、チップID30cの寸法や、インク材31や溝埋め材35の物性によって、適宜選定すれば良い。
【0050】
前記塗布手段としてディスペンサを用いた場合は、シリンジ内に金属ナノペーストを充填しておき、ピストンで前記金属ナノペーストを押し出す。シリンジの先端に取り付けたノズルから吐出される前記金属ナノペーストを、所定の場所に液滴させる。
また、前記塗布手段としてマイクロニードルを用いたディスペンサや、インクジェットを用いれば、チップID30の寸法を小さくしたり、成膜の厚みを細かく調節したりして、塗布することができるので、より好ましい。
【0051】
インク材31と溝埋め材35の、塗布位置や塗布量などの塗布条件、チップID30cのマーキング位置やチップID30cのパターン、1ドット当たりのマーキング材の塗布量や塗布ピッチ、インク材31の温度、雰囲気の温度、乾燥時間などは、適宜調節することが好ましい。
【0052】
前述のマーキングに必要な諸条件の設定は、制御部9の制御コンピュータ90に接続された、情報入力手段91を用いて行われ、情報表示手段92によって確認することができる。また、前記諸条件の設定は、適宜読み出し、編集し、変更することができ、制御コンピュータ90に接続された情報記録手段94に記録することが可能である。
【0053】
マーキング装置1は、前述した様な構成をしているので、テーブル上に載置された半導体ウエハー10上のアライメントマークの検出が行われ、半導体ウエハー10の表面上の予め設定された所定の場所に、チップID30cを形成するインク材31を所定量だけ塗布し、識別コードをマーキングすることができる。さらに、チップID30cを形成した後で、インク材31の塗布されていない部分に溝埋め材35を所定量だけ塗布し、インク材31の有無による凹凸を無くし、滑らかな表面形状にすることができる。
【0054】
ここで述べる、凹凸が無い滑らかな表面状態とは、所定の高低差や寸法公差やを定義するものでは無く、完全に平坦な状態以外に、異物や液体が滞留しにくくなる程度の、高低差や角度や表面のうねりを含んだ状態を意味する。また、所定量だけ塗布するとは、チップID30cのドット部の形成に必要な量を塗布することであり、厳密に液量とそのばらつきを定義するものではない。つまり、前記液量とそのばらつきは、塗布する液体の粘度や液量や吐出速度などと、実際に形成されるチップID30cのサイズやドット部サイズと、チップID30cを識別する手段の性能とによって決まり、チップID30cの識別に影響を与えない程度のばらつきを含む液量を意味する。
【0055】
インク材31としては、染料や顔料など有色の固形物を含む液体を例示することができる。さらに、照明から照射された光線を反射する材料を含むことが好ましい。前記光線の反射には、一部反射から全反射までを含む。そのため、チップID30cの識別の際は、最適な明るさを得るために、照明の強さや色、照射角度を適宜調節すれば良い。
【0056】
溝埋め材35は、無色透明でも、白色でも着色されていても良く、前記反射照明を用いて識別コードを読み取る場合に、チップID30cを識別できる様なコントラストを得ることができれば良い。そうすれば、反射式照明を用いてチップID30cを読み取る際に、チップID30cのインク材31が塗布された部分と、溝埋め材35が塗布された部分とで、照明の光線を反射する光量とが異なるため、正しく識別することができる。
【0057】
インク材31としては、銀ナノペーストなどの、ナノメートルサイズの金属微粒子を混ぜ合わせた液状のものを例示することができる。前記金属微粒子としては、銀以外でも良く、炭素やアルミニウム、マンガン、鉄、コバルト、ニッケル、銅、ルテニウム、ロジウム、パラジウム、インジウム、錫、バリウム、タングステン、白金、金、ビスマスなどの元素、さらにはその酸化化合物や窒化化合物、その他の化合物、さらにはその他の混合物などを用いることができ、可視光線を反射する材料であれば良い。
【0058】
溝埋め材35としては、熱可塑性の材料、熱硬化性の材料もしくは紫外線硬化性の材料などを例示することができる。
熱可塑性の材料を用いる時は、前記熱可塑性の材料を加熱し、流動性のある状態で塗布を行う。この時、前記熱可塑性の材料は、半導体ウエハー10上に形成した成膜に影響が及ぶ温度よりも低い温度で流動性のある状態になる材料を選ぶことが好ましい。そうすることで、前記熱可塑性の材料は、塗布後にチップID30cのドット部の凹部の隙間を埋めるようになじみながら濡れ拡がり、温度が下がるにつれて粘度が高まり、流動性が無くなる。
【0059】
熱硬化性の材料を用いる時は、常温もしくは硬化が始まる温度よりも低い温度、つまり流動性のある状態で塗布を行う。そうすることで、前記熱硬化性の材料は、塗布後にチップID30cのドット部の凹部の隙間を埋めるようになじみながら濡れ拡がる。その後、半導体ウエハー10やテーブル24を加熱することで、前記熱硬化性の材料の温度が上がり、粘度が高まり、流動性が無くなる。
【0060】
紫外線硬化性の材料を用いる時は、紫外線が照射されていない状態で塗布を行う。そうすることで、前記紫外線硬化性の材料は、塗布後にチップID30cのドット部の凹部の隙間を埋めるようになじみながら濡れ拡がる。その後、チップID30cに向かって紫外線を照射することで、前記紫外線硬化性の材料の硬化が始まり、流動性が無くなる。
ここで述べる流動性が無くなる状態とは、所定の粘度や硬度を定義するものではなく、完全に硬化した状態以外に、弾性状態にある場合も含む。つまり、チップID30cを形成するドット部のインク材31と溝埋め材35とが、お互いに密着、固着あるいは結合した状態で、混じり合っていないことを意味する。
【0061】
インク材31はX線を透過しにくい材料を含み、溝埋め材35はX線を透過しやすい材料であることが好ましい。そうすることで、半導体装置上にマーキングされたチップID30cをX線を用いて識別する際に、良好なコントラストが得られ、識別しやすくなる。
【0062】
マーキング装置1は、予め記録された情報に基づき、半導体ウエハー10上の所定の場所にチップID30cをマーキングする。チップID30cのパターンにおいて、どの部分がインク材31を塗布される部分か、塗布されない部分かは、制御用コンピュータ90で分かるようになっている。よって、制御用コンピュータ90は、インク材31を塗布しない部分に、溝埋め材35を塗布するように、機器制御ユニット95を介して接続された各機器を動作させることができる。そのため、インク材31の塗布と、溝埋め材35の塗布とを、連続して行い、さらに交互に繰り返して行うことができる。
【0063】
溝埋め材35の塗布は、チップID30cのインク材31の無い部分に選択的に塗布をしても良いし、或いは、チップID30cの上方から特に場所を限定せずに溝埋め材35を滴下し、溝埋め材35の濡れ拡がりによってインク材31の無い部分に行き渡らせるようにしても良い。いずれにしても、溝埋め材35は、チップID30cのドット部の無い部分に塗布された後、チップID30cのドット部同士と密着し合って結合し、チップID30c全体を包むようになる。そのため、溝埋め材35は、単なるチップID30cのドット部の高低差を無くすためだけでなく、チップID30cの保護膜としても機能することができる。
【0064】
このようにして、インク材31の塗布と溝埋め材35の塗布とを行うことで、チップID30cをマーキングすることができる。実際のマーキング形態については、次のように例示する。
図4は、本発明の半導体装置の一例を示す断面図である。
半導体ウエハー10の回路パターン108の上には絶縁層109が形成され、絶縁層109の上にはベース部材30bが塗布され、ベース部材30bの上には識別コードの一例である、チップID30cが形成されている。塗布されたインク材31bは、チップID30cのドット部を形成している。塗布されたインク材31bの周り(つまり、塗布されたインク材31bの無い部分)には、溝埋め材35が塗布されている。溝埋め材35が塗布されることで、チップID30cのドット部の凹凸の高低差が埋められている。
【0065】
図5は、本発明の別の形態の半導体装置の一例を示す断面図である。
半導体ウエハー10の回路パターン108の上には絶縁層109が形成され、絶縁層109の上にはベース部材30bが塗布され、ベース部材30bの上には識別コードの一例である、チップID30cが形成されている。塗布されたインク材31bは、チップID30cのドット部を形成している。さらに、チップID30cは、インク材31を所定の回数、重ねて塗布されることで、塗布されたインク材31bの高さが高くなり、チップID30cのドット部のアスペクト比が高くなっている。チップID30cは、ドット部の高さを増すことで、識別がしやすくなる。前述の識別がしやすくなる理由としては、チップID30cのドット部の高さが高くなるにつれ、チップID30cのドット部とドット部でない部分とのX線透過量の差が大きくなり、その結果、チップID30cとしてのコントラストが向上するからである。
【0066】
チップID30cは、塗布されたインク材31で形成されたドット部と、前記ドット部の無い空白部とで形成されており、前記空白部には前記ドット部の隙間を埋めるように溝埋め材35が塗布されている。そのため、前記ドット部のインク材31と、前記空白部の溝埋め材35とは、隙間無くお互いに密着し合っている。そのため、外部から力が加わっても、前記ドット部のインク材31の一部が欠けたり、脱落したり、倒れたり、剥がれ落ちたりすることを防止できる。
【0067】
インク材31を塗布するときは、常温で行っても良いが、半導体ウエハー10や雰囲気の温度を上げて、早く硬化させるようにすることが好ましい。そうすれば、所定時間内の塗布量や塗布回数を増やすことができ、ウエハー1枚にチップID30cをマーキングする時間が短縮できるようになる。
【0068】
図6は、本発明のさらに別の形態の半導体装置の一例を示す断面図である。
半導体ウエハー10の回路パターン108の上には絶縁層109が形成され、絶縁層109の上にはベース部材30bが塗布され、ベース部材30bの上には識別コードの一例である、チップID30cが形成されている。塗布されたインク材31bは、チップID30cのドット部を形成している。そして、塗布されたインク材31bの周り(つまり、塗布されたインク材31bの無い空白部)には、溝埋め材35が塗布されている。
【0069】
図6に示すチップID30cは、図5に示したものとは異なり、チップID30cを形成するためにインク材31と溝埋め材35とを一度塗布した後、さらにその上に、それぞれインク材31と溝埋め材35とを重ねて塗布し、それを幾重にも層状に積層して形成している。そうすることで、塗布されたインク材31bのの凹凸の高低差が埋められ、図5に示したものとは異なる形態の、厚みのあるチップID30cが形成されている。本発明のマーキング装置1は、先のマーキングされたチップID30cのインク材31と溝埋め材35の塗布位置が制御部9に記録されているので、チップID30cを層状に積層して形成することが容易にできる。
【0070】
チップID30cは、幾重にも層状に積層して形成されることで、塗布されたインク材31bの厚みが増す。X線透過で識別する際に、チップID30cは、塗布されたインク材31の厚みが増すことで、ドット部とドット部でない部分とのX線透過量の差が大きくなり、コントラストが向上し、識別しやすくなる。
【0071】
前述のインク材31と溝埋め材35とを重ねて塗布する際に、塗布されたインク材31bと溝埋め材35の高さは、厳密に同じでなくても良い。詳しく言えば、塗布されたインク材31の頭頂部の一部が溝埋め材35の表面より高く、凸状に盛り上がっている場合や、逆に、塗布されたインク材31bの頭頂部全てが溝埋め材35よりも低く、溝埋め材35同士がつながり合っている場合や、それらが混在する場合などである。いずれの場合でも、チップID30cは、先に塗布されたインク材31bの上方に、次のインク材31が塗布されることで、層状に積層して形成される。
【0072】
さらに、インク材31と溝埋め材35とは、接触角が小さくなるように材料を選定しておけば、溝埋め材35の上に塗布されるインク材31は濡れ拡がらず、アスペクト比の高い形状となりやすい。さらにその後、溝埋め材35を塗布するので、チップID30cは、ドットを形成するインク材31の欠けや脱落を防ぐことができ、チップID30cのアスペクト比を容易に高くすることができる。その結果、チップID30cはコントラストが向上し、識別しやすくなる。
【0073】
また、別の課題として、従来の方法で形成されたID30cは、表面が凹凸形状となるため、表面が完全に水平である場合と比べて、汚れやキズがつきやすいという性質があった。しかし、本発明を適応し、チップID30cの凹凸部の高低差を埋めるように、溝埋め材35を塗布すれば、表面の凹凸は無くなり、表面が滑らかになる。その結果、キズや汚れが付きにくい。また、識別コードの表面に汚れが付いたとしても、過度の洗浄をすることなく、汚れを落とすことができる。
【0074】
この時、溝埋め材35の塗布量を多くし、先に塗布したインク材31の頭頂部の高さよりも高くなっても良い。溝埋め材35の表面が、インク材31の頭頂部よりも高くなることで、溝埋め材同士が接触し合うようにしたり、さらには、チップID30cの表面全体に溝埋め材35を塗布し、チップID30cの表面全体を溝埋め材35で覆うようにしても良い。そうすることで、チップID30cを形成するドット部の頭頂部、つまりはチップID30cの表面が保護されると共に、表面が平滑性がより一層向上する。
【0075】
上述した溝埋め材35は、チップID30c上にだけ塗布するか、チップID30cの最も外側に位置するドット部(以下、最外周ドット部)よりも、さらに外側にも塗布するかどうかは、本発明の実施においては任意である。
チップID30c上にだけ塗布し、前記最外周ドット部よりも内側にしか溝埋め材35を塗布しない場合は、溝埋め材35がチップID30cが形成される場所よりも外側に流出するのを防ぐことができる。そのため、この塗布方法は、チップID30cの外側に成膜されることを避けたい場合に、効果がある。
一方、前記最外周ドット部よりも、さらに外側にも溝埋め材35を塗布する場合は、前記最外周のドット部に対しても保護ができるため、チップID30c全体の保護がしやすいという効果がある。どちらを選択するかは、製造プロセスにおける制約事項や、インク材31と溝埋め材35とが、マーキング対象となる半導体ウエハー10の表面状態や絶縁層109などの成膜されている材料上で、どれくらい濡れ拡がるかを考慮するなどして適宜選択すれば良い。
【0076】
上述では、本発明の識別コードのマーキングについて、1つのチップID30cに着目して説明したが、1枚の半導体ウエハー10に複数マーキングされている他のチップIDも、同様にしてマーキングされる。また、ウエハーID30aについても同様にして実施可能で、適応することができる。また、2次元コードだけでなく、文字や記号などを用いて構成される固有のIDつまり、識別コードにも適応することができる。
【0077】
さらに、本発明の識別コードとして、固有のIDとは別に、半導体装置110固有の特性を示す情報を付加する場合も、本発明の識別コードとして取り扱うことができるので、上述と同様にして実施可能で、本発明を適応することができる。
【符号の説明】
【0078】
1 マーキング装置
2 ステージ部
3 マーキングヘッド部
4 アライメントカメラ部
9 制御部
10 半導体ウエハー
10v 移動方向
11 装置ベース
12 支柱
13 梁
21 X軸ステージ
22 Y軸ステージ
23 θ軸モータ
24 テーブル
30 識別コード
30a ウエハーID
30b ベース部材
30c チップID
31 インク材
31a 吐出されたインク材
31b 塗布されたインク材
32 インク材送液ユニット
33 インク材塗布ノズル
35 溝埋め材
35a 吐出された溝埋め材
35b 積層された溝埋め材
36 溝埋め材送液ユニット
37 溝埋め材塗布ノズル
40 カメラ
41 照明の光量調節ユニット
80 フィルム
81 ダイシングブレード
82 溝部
83 飛散物
85 一部脱落したドット部
86 倒れたドット部
90 制御用コンピュータ
91 情報入力手段
92 情報表示手段
93 発報手段
94 情報記録手段
95 機器制御ユニット
101 アライメントマーク
102 切り出し前の半導体チップ
104 切り出し後の半導体チップ
108 回路パターン
109 絶縁層
110 半導体装置
120 データベース
301 ベース部材の中央部
302 ベース部材の外周部の盛り上がり部分
303 ベース部材の外周部の盛り上がり部分の内側

【特許請求の範囲】
【請求項1】
半導体装置に識別コードをマーキングする方法において、
前記識別コードを形成するドット部と空白部とでできた凹凸部の高低差を埋めるように、
前記識別コードの上から溝埋め材を塗布するステップを有することを特徴とする、
識別コードのマーキング方法。
【請求項2】
識別コードを形成するドット部と空白部とを、各々X線の透過率が異なる材料を用いて塗布することを特徴とする、請求項1に記載の識別コードのマーキング方法。
【請求項3】
識別コードを形成するドット部のインク材と、前記凹凸部の高低差を埋める溝埋め材とを交互に塗布して、識別コードを層状に積層して形成することを特徴とする、
請求項1又は請求項2に記載の識別コードのマーキング方法。
【請求項4】
識別コードの表面全体を溝埋め材で覆うように、前記溝埋め材を塗布するステップを有することを特徴とする、請求項1から請求項3までのいずれか一項に記載の識別コードのマーキング方法。
【請求項5】
半導体装置に識別コードをマーキングする装置であって、
識別コードをマーキングする手段と、
前記識別コードの上から、前記識別コードを形成するドット部と空白部とでできた凹凸部の高低差を埋める、溝埋め材を塗布する手段とを備えたことを特徴とする、
識別コードのマーキング装置。
【請求項6】
前記ドット部と前記空白部の塗布に用いられる材料が、各々X線の透過率が異なる材料であることを特徴とする、請求項5に記載の識別コードのマーキング装置。
【請求項7】
識別コードのドット部を形成するインク材を塗布する手段と、
前記凹凸部の高低差を埋める溝埋め材を塗布する手段とを備え、
前記インク材の塗布と、前記溝埋め材の塗布とを交互に行い、
識別コードを層状に積層して形成する制御手段が備えられたことを特徴とする、
請求項5又は請求項6に記載の識別コードのマーキング装置。
【請求項8】
識別コードの表面全体に溝埋め材を塗布する手段が備えられたを特徴とする、
請求項5から請求項7のいずれか一項に記載の識別コードのマーキング装置。
【請求項9】
パッケージ内部に識別コードがマーキングされた半導体装置であって、
前記半導体装置を構成する半導体チップと、前記半導体チップの上にマーキングされた前記識別コードとを有し、前記識別コードは、インク材が塗布されたドット部と、溝埋め材が塗布された空白部とで形成されていることを特徴とする、半導体装置。
【請求項10】
識別コードを形成するドット部と空白部とが、各々X線透過率の異なる材料を用いて形成されていることを特徴とする、請求項9に記載の半導体装置。
【請求項11】
識別コードを形成する前記ドット部のインク材と、空白部の溝埋め材とが交互に塗布され、識別コードを層状に積層して形成されていることを特徴とする、
請求項9又は請求項10に記載の半導体装置。
【請求項12】
識別コードの表面全体が溝埋め材で覆われていることを特徴とする、
請求項9から請求項11のいずれか一項に記載の半導体装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2011−129617(P2011−129617A)
【公開日】平成23年6月30日(2011.6.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−284904(P2009−284904)
【出願日】平成21年12月16日(2009.12.16)
【出願人】(000219314)東レエンジニアリング株式会社 (505)
【Fターム(参考)】