説明

負イオン源、及び負イオン源の運転方法

【課題】ビーム電流のより大きな負イオンビームを出射する負イオン源、及び負イオン源の運転方法を提供することを課題とする。
【解決手段】本発明は、プラズマ容器12と、熱電子を放出して原料ガスからプラズマを生成するフィラメント16と、プラズマ容器12の外周に沿って設けられてカスプ磁場を形成する複数の磁石M1と、プラズマから負イオンを外部に引き出して負イオンビームを生成する引出電極20と、プラズマ容器12の内部空間を放電空間S1と引出空間S2とに分割するような位置にフィルタ磁場MFを形成するフィルタ磁場形成手段M2とを備える負イオン源10を用い、出空間S2内に形成されたプラズマのプラズマポテンシャルVpが測定され、このプラズマポテンシャルVpの測定値に対して引出電極20の電位が同電位又は略同電位となるように引出電圧が調節されることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水素等の原料ガスからプラズマを生成し、このプラズマを負イオンの供給源として負イオンビームを出射する負イオン源に関する。
【背景技術】
【0002】
このイオン源は、図12に示されるように、原料ガスが供給されるプラズマ容器312と、プラズマ容器312内で熱電子を放出するフィラメント314と、プラズマをプラズマ容器312内に閉じ込めるためのカスプ磁場fを形成する複数の磁石316,316,…と、プラズマからイオンを引き出す引出電極318と、フィルタ磁場形成手段320とを備える。このフィルタ磁場形成手段320は、プラズマ容器312の内部空間を負イオンビームのビーム軸axと略直交する面に沿って磁力線lmが横断し、フィラメント314が配置されている放電空間322と引出電極318に接する引出空間324とに分割する磁場(フィルタ磁場)mfを形成するためのものである。
【0003】
このようなフィルタ磁場mfを備えるイオン源310では、以下のようにして負イオンビームを出射する。まず、プラズマ容器312内に供給された原料ガス(例えば、水素ガス)がフィラメント314の放出する熱電子によってプラズマ化される。このように生成されたプラズマは、プラズマ容器312の内部空間(放電空間322及び引出空間324)内に拡がる。このとき、フィルタ磁場mfは、放電空間122から引出空間324への低速電子と励起状態の水素分子との移動を許容するが、高速電子の引出空間324への移動を阻止し、若しくは高速電子のエネルギーを失わせながら当該高速電子を通過させる。
【0004】
これは、前記高速電子は、速度が速く且つ質量が軽いことからラーマー半径が小さくなるためフィルタ磁場mfを通過しようとしたときにローレンツ力によって直ぐに向きを変え、フィルタ磁場mfを通過できずに放電空間322に戻るためである。若しくは、前記高速電子は、フィルタ磁場mfに捕捉され、プラズマ容器312内に存在する水素ガス等と衝突しながらエネルギーを失い、低速電子となって引出空間324に到達するからである。
【0005】
これに対し、低速電子の速度が高速電子の速度に比べて遅いため低速電子の磁場中でのラーマー半径は大きくなる。従って、放電空間322から引出空間324に向かってフィルタ磁場mfに入った低速電子は、当該磁場mfによって進行方向を変えられるが、前記ラーマー半径が大きいため、進行方向が変えられて放電空間322側を向く前に当該磁場mfを通過して引出空間324に到達する。また、励起状態の水素分子は、電気的に中性であるためフィルタ磁場mfによって向きを変えられることなく当該磁場mfを通過して引出空間324に到達する。
【0006】
このように、引出空間324内のプラズマでは、その内部に低速電子と励起状態の水素分子とが多数存在した状態となる。電子の速度が遅い(電子温度が低い)ほど、励起した水素分子との付着断面積(発生確率)が向上するため、これら低速電子と励起状態の水素分子とが互いに付着して負イオンが多数生成され、当該プラズマ中での負イオンの生成効率が向上する。その結果、当該負イオン源の引出空間内におけるプラズマ中には、フィルタ磁場形成手段を備えていない負イオン源に比べ、多くの負イオンが存在することとなる。そのため、当該負イオン源310では、このプラズマ中から負イオンが引き出されることで、電流密度の高い負イオンビーム、即ち、大きなビーム電流を有する負イオンビームが出射される。
【特許文献1】特開2006−4780号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、近年、分析や加工等の種々の分野において、負イオンの引出効率をさらに高め、ビーム電流の大きな負イオンビームを出射できる負イオン源が求められている。
【0008】
そこで、本発明は、上記問題点に鑑み、ビーム電流のより大きな負イオンビームを出射する負イオン源、及び負イオン源の運転方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解消するために、フィルタ磁場mfを備えた負イオン源310において、引出電極318のプラズマ容器312に対する電位を正側に高くすることが考えられた。このように引出電圧を高くすることで、引出空間324内に形成されるプラズマから引出電極318によって引き出される負の電荷を有する負イオンの数が増加し、負イオンビームの電流密度が高くなる、即ち、ビーム電流が大きくなることが期待された。
【0010】
しかし、負イオン源310において、引出電圧を高くしてもそれに伴ってビーム電流が大きくなる場合だけでなく、小さくなる場合もあった。
【0011】
そこで、本発明者らは、鋭意研究を進めた結果、負イオン源310において引出電極318の電位が引出空間324内に形成されるプラズマのプラズマポテンシャルと同電位又は略同電位となるように引出電圧が調節されることによって、各運転条件(原料ガスの種類やガス圧等)における当該負イオン源310が出射できる最も大きなビーム電流若しくは、このビーム電流の電流値に近い大きさの負イオンビームの出射が可能となることを発見した。
【0012】
即ち、引出電極318の電位を正側に高くしていくと、当該電位が引出空間324内に形成されるプラズマのプラズマポテンシャルと同電位又は略同電位となるまでは前記プラズマ中から引出電極318によって引き出される負イオンが増加して負イオンビームのビーム電流が大きくなるが、引出電極318の電位がプラズマポテンシャルよりも大きくなると、前記プラズマ中の電子が引出電極318に捕集されてプラズマのプラズマ密度が低下し、負イオンビームのビーム電流が小さくなることを発見した。尚、本発明においてプラズマポテンシャルとは、プラズマがモビリティ(移動度)の高い電子を当該プラズマ中に引き止めるために自己整合的にもつプラズマ自身の正のポテンシャルである。
【0013】
そこで、本発明者らは、以下の構成の負イオン源、及び負イオン源の運転方法を創作することにより上記課題を解消した。
【0014】
本発明に係る負イオン源は、プラズマを生成し、このプラズマを負イオンの供給源として負イオンビームを出射する負イオン源であって、開口を有し、外部から原料ガスが供給されるプラズマ容器と、前記プラズマ容器内に配置され、加熱電圧が印加されることにより熱電子を放出し、この状態で前記プラズマ容器との間にアーク放電電圧が印加されることによって前記原料ガスからプラズマを生成するフィラメントと、前記プラズマ容器の外周に沿って設けられ、当該プラズマ容器内に前記プラズマを閉じ込めるためのカスプ磁場を形成する複数の磁石と、前記プラズマ容器の開口をこの開口よりも小さな引出開孔を残して塞ぎ、前記プラズマ容器との間に引出電圧が印加されることにより前記プラズマから前記引出開孔を通じて負イオンを外部に引き出して前記負イオンビームを生成する引出電極と、磁力線が一方向を向くように前記負イオンビームのビーム軸と直交する面に沿って前記プラズマ容器の内部空間を横断するフィルタ磁場を、このフィルタ磁場が前記内部空間を前記フィラメントの配置される放電空間と前記引出電極に接する引出空間とに分割するような位置に形成するフィルタ磁場形成手段と、前記引出電極の引出電圧を調節するための制御手段と、を備え、前記制御手段は、前記引出空間内に形成されるプラズマのプラズマポテンシャルを測定するポテンシャル測定部と、このポテンシャル測定部で測定されたプラズマポテンシャルに対して前記引出電極の電位が同電位又は略同電位となるように前記引出電圧を調節する電圧調節部とを有することを特徴とする。
【0015】
かかる構成によれば、前記引出空間内に形成されるプラズマのプラズマポテンシャルに基づいて前記引出電極に適切な引出電圧が印加されるため、各運転条件(原料ガスの種類やガス圧等)において当該負イオン源が出射可能な最大ビーム電流若しくは、この最大ビーム電流に近い電流値の負イオンビームの出射が可能となる。
【0016】
即ち、前記引出電極が前記プラズマポテンシャルと同電位又は略同電位となることで、当該引出電極と前記プラズマポテンシャルとの間の電位差が小さくなるため、前記引出電極と前記プラズマとの間に生じる静電的な障壁が低くなり、前記プラズマ中から負イオンを前記引出電極が引き出し易くなる。その結果、出射される負イオンビームのビーム電流が大きくなる。尚、前記引出電極と前記プラズマとの間の静電的な障壁とは、前記プラズマ容器と前記プラズマとの間に形成されるシース及び前記プラズマポテンシャルとを併せたものである。また、前記引出電極の電位がプラズマポテンシャルと略同電位とは、前記シースの分の電位をプラズマポテンシャルから差し引いた電位のことをいう。
【0017】
しかも、前記引出電極の電位が前記プラズマポテンシャルと同電位又は略同電位であるため、前記プラズマ中の電子が前記引出電極によって捕集されるのが抑制され、前記プラズマのプラズマ密度が低下して前記ビーム電流が小さくなるのも抑制される。
【0018】
具体的には、前記ポテンシャル測定部は、前記引出電圧の掃引によって得られる前記引出電極のI−V特性に基づいて前記プラズマポテンシャルの測定値を導出してこれを格納し、前記電圧調節部は、前記プラズマポテンシャルを測定するために前記引出空間内にプラズマが形成された状態で前記引出電圧を掃引する掃引部と、前記ポテンシャル測定部に格納されたプラズマポテンシャルの測定値に基づいて前記引出電圧を調節する電圧指示部とを有する構成である。
【0019】
かかる構成によれば、前記ポテンシャル測定部において前記引出電圧の掃引によって得られる前記引出電極のI−V特性の変曲点から前記プラズマポテンシャルの測定値が得られ、このプラズマポテンシャルの測定値に基づき前記電圧指示部によって前記引出電圧が適切に調節される。そのため、前記プラズマから直接プラズマポテンシャルを測定するためのプローブ等が必要ない。
【0020】
また、前記制御手段は、前記引出電圧が掃引されたときの前記負イオンビームのビーム電流を測定するビーム電流測定手段を備え、前記電圧調節部は、前記掃引部による掃引のときに前記ビーム電流測定手段によって測定されるビーム電流の電流値が最も大きくなったときの前記引出電極の電位である最大電流電位を格納する電位記憶部と、前記ポテンシャル測定部で測定されたプラズマポテンシャルの測定値と前記最大電流電位との電位差の値を格納する電位差記憶部とを有し、前記掃引部は、最初のプラズマポテンシャルの測定のための掃引後、さらに前記プラズマポテンシャルを測定するために前記引出空間内にプラズマが形成された状態で定期的に前記引出電圧の掃引を行い、前記電圧指示部は、前記掃引部による最初の掃引のときに前記ポテンシャル測定部によって導出され格納されたプラズマポテンシャルの測定値と前記最初の掃引のときに前記ビーム電流測定手段によって測定されて前記電位記憶部に格納された最大電流電位との電位差の値を導出して前記電位差記憶部に格納すると共に、前記引出電極の電位が前記最大電流電位となるように前記引出電圧を調節し、前記掃引部による2回目以降の掃引毎に、前記ポテンシャル測定部によって導出され格納されたプラズマポテンシャルの測定値から前記電位差記憶部に格納されている前記電位差の値を差し引いた電位を導出し、前記引出電極の電位が前記導出した電位となるように前記引出電圧を調節する構成が好ましい。
【0021】
かかる構成によれば、より大きなビーム電流の負イオンビームの出射が可能となると共に、負イオンビームの出射時間の経過によって生じる前記引出空間内のプラズマ状態の変化に応じて適切な引出電圧の調節が可能となる。
【0022】
具体的には、前記引出電極と前記プラズマとの間に生じる静電的な障壁には、前記引出電極と前記プラズマとの間に形成されるシースが含まれるため、前記プラズマポテンシャルと前記ビーム電流が最も大きくなるときの前記引出電極の電位との間には電位差が生じている。そのため、前記引出電極の電位をプラズマポテンシャルと同電位に調節するのではなく、前記電位差を求めてこの電位差に基づいて前記引出電極の電位が調節されることで、より適切な引出電圧が前記引出電極に印加され、前記引出電極と前記プラズマとの間の静電的な障壁がより低くなり、前記ビーム電流がより大きくなる。
【0023】
一方、当該負イオン源において前記負イオンビームの出射が続けられると、例えば、前記フィラメントの消耗による当該フィラメントに印加される放電電圧の変化や当該フィラメントを流れる放電電流の変化、前記プラズマ容器の内壁の汚染等によって、前記プラズマ状態、即ち、プラズマポテンシャルが変化する。そのため、定期的にプラズマポテンシャルが測定され、この測定されたプラズマポテンシャルの測定値に基づいて前記引出電圧が調節されることで、前記ビーム出射時間の経過に基づくプラズマポテンシャルの変化に対し、適切な引出電圧の調節が可能となる。このとき、前記電位差の値が前記記憶部に格納されているため、2回目以降の引出電圧の調節では、前記引出空間内のプラズマのプラズマポテンシャルのみを測定すれば適切な引出電圧が導出できるため、前記ビーム電流を毎回測定する必要がなくなる。
【0024】
また、前記ポテンシャル測定部は、前記プラズマ容器に対して絶縁された状態で前記引出空間内に挿入されるプローブ電極と、このプローブ電極と前記プラズマ容器との間に印加されるプローブ電圧に基づいて前記プラズマポテンシャルを導出してこれを格納するプローブ測定部とを有する構成であってもよい。
【0025】
かかる構成によれば、前記プローブ電極によって前記プラズマから直接プラズマポテンシャルを測定でき、当該プラズマポテンシャルの測定を容易且つ確実に行うことができる。
【0026】
このようにプローブ電極が用いられる場合、前記プローブ電極は、当該プローブ電極に加熱電圧が印加されることで前記引出空間内に形成されるプラズマ中に熱電子を放出し、前記プローブ測定部は、前記プローブ電極から熱電子が放出されているときの前記プローブ電圧に基づいて前記プラズマポテンシャルを導出する構成が好ましい。
【0027】
かかる構成によれば、前記同様、前記プローブ電極によって前記プラズマから直接プラズマポテンシャルを測定することができる。即ち、前記放電電圧が印加されることによって前記プローブ電極が前記プラズマ中に熱電子を放出し、この状態のプローブ電極の前記プローブ電圧が概ねプラズマ電位に等しくなるため当該プローブ電圧が測定されることで前記プラズマポテンシャルが導出される。
【0028】
さらに、前記プローブ電極が前記プラズマポテンシャルの測定後も前記プラズマ中に熱電子を供給し続けることで、即ち、前記放電電圧を印加し続けることでビーム電流を大きくすることができる。
【0029】
具体的には、前記プラズマポテンシャルの測定中においては、前記プローブ電極から前記プラズマ中に熱電子が供給され続ける。このプラズマ中に供給された熱電子によって当該プラズマ中での負イオン発生確率が高くなり、増加した負イオンによってビーム電流が大きくなる。そのため、前記プラズマポテンシャルの測定後においても、前記プローブ電極に前記放電電圧を印加し続け、前記プラズマ中に熱電子を供給し続けることで、前記プラズマポテンシャル測定中と同様のビーム電流が保たれる。
【0030】
また、前記制御手段は、前記負イオンビームのビーム電流を測定するビーム電流測定手段を備え、前記ポテンシャル測定部は、前記ビーム電流測定手段によってビーム電流が測定されたときに前記プラズマポテンシャルの測定を行い、その後、さらに定期的に前記プラズマポテンシャルの測定を行い、前記電圧調節部は、前記ビーム電流測定手段でビーム電流を測定するために前記引出空間内にプラズマが形成された状態で前記引出電圧を掃引する掃引部と、この掃引部による掃引のときに前記ビーム電流測定手段によって測定されるビーム電流の電流値が最も大きくなったときの前記引出電極の電位である最大電流電位を格納する電位記憶部と、前記ポテンシャル測定部で測定されたプラズマポテンシャルの測定値と前記最大電流電位との電位差の値を格納する電位差記憶部と、前記引出電圧を調節する電圧指示部とを有し、この電圧指示部は、前記ポテンシャル測定部によって最初に測定され格納されたプラズマポテンシャルの測定値と前記掃引のときに前記ビーム電流測定手段によって測定されて前記電位記憶部に格納された最大電流電位との電位差の値を導出して前記電位差記憶部に格納すると共に、前記引出電極の電位が前記最大電流電位となるように前記引出電圧を調節し、前記ポテンシャル測定部による2回目以降のプラズマポテンシャルの測定毎に、測定され格納されたプラズマポテンシャルの測定値から前記電位差記憶部に格納されている前記電位差の値を差し引いた電位を導出し、前記引出電極の電位が前記導出した電位となるように前記引出電圧を調節する構成が好ましい。
【0031】
かかる構成によれば、より大きなビーム電流の負イオンビームの出射が可能となると共に、負イオンビームの出射時間の経過によって生じる前記引出空間内のプラズマ状態の変化に応じて適切な引出電圧の調節が可能となる。
【0032】
また、定期的にプラズマポテンシャルが測定され、この測定されたプラズマポテンシャルの測定値に基づいて前記引出電圧が調節されることで、前記ビーム出射時間の経過に基づくプラズマポテンシャルの変化に対し、適切な引出電圧の調節が可能となる。このとき、前記電位差の値が前記記憶部に格納されているため、2回目以降の引出電圧の調節では、前記引出空間内のプラズマのプラズマポテンシャルのみを測定すれば適切な引出電圧が導出できるため、前記ビーム電流を毎回測定する必要がなくなる。
【0033】
また、本発明に係る負イオン源は、プラズマを生成し、このプラズマを負イオンの供給源として負イオンビームを出射する負イオン源であって、開口を有し、外部から原料ガスが供給されるプラズマ容器と、前記プラズマ容器内に配置され、加熱電圧が印加されることにより熱電子を放出し、この状態で前記プラズマ容器との間にアーク放電電圧が印加されることによって前記原料ガスからプラズマを生成するフィラメントと、前記プラズマ容器の外周に沿って設けられ、当該プラズマ容器内に前記プラズマを閉じ込めるためのカスプ磁場を形成する複数の磁石と、前記プラズマ容器の開口をこの開口よりも小さな引出開孔を残して塞ぎ、前記プラズマ容器との間に引出電圧が印加されることにより前記プラズマから前記引出開孔を通じて負イオンを外部に引き出して前記負イオンビームを生成する引出電極と、磁力線が一方向を向くように前記負イオンビームのビーム軸と直交する面に沿って前記プラズマ容器の内部空間を横断するフィルタ磁場を、このフィルタ磁場が前記内部空間を前記フィラメントの配置される放電空間と前記引出電極に接する引出空間とに分割するような位置に形成するフィルタ磁場形成手段と、前記引出電圧を調節するための制御手段と、を備え、前記制御手段は、前記引出電圧が掃引されたときの前記負イオンビームのビーム電流を測定するビーム電流測定手段と、前記ビーム電流を測定するときに前記引出空間内にプラズマが形成された状態で前記引出電圧を掃引する掃引部と、前記掃引のときに前記電流測定手段で測定されたビーム電流の電流値が最も大きくなったときの前記引出電極の引出電圧である最大電流電圧を格納する電圧記憶部と、前記電圧記憶部に格納された最大電流電圧となるように前記引出電圧を調節する電圧調節部とを有することを特徴とする。
【0034】
かかる構成によれば、前記引出電圧が掃引されたときのビーム電流に基づいて前記引出電圧が調節されることで、前記引出空間内のプラズマのプラズマポテンシャルが測定されなくても、各運転条件における当該負イオン源の出射可能な前記最大ビーム電流若しくは、このビーム電流に近い電流値の負イオンビームの出射が可能となる。
【0035】
即ち、前記引出電圧を掃引したときのビーム電流のうち、最大ビーム電流となるときの前記引出電極の電圧を導出し、この電圧に前記引出電圧を調節することで、前記引出電極と前記プラズマとの間の静電的な障壁が最も低くなるときの電圧に前記引出電圧を調節することが可能となる。
【0036】
また、前記ビーム電流測定手段は、前記ビーム電流を測定するためのファラデーカップと、このファラデーカップの位置をビーム軸上の測定位置と前記ビーム軸から外れた待機位置とに切り換えるための位置切換手段とを備え、この位置切換手段は、前記最大電流電位又は前記最大電流電圧を導出するためのビーム電流の測定前に前記ファラデーカップの位置を前記測定位置に切り換え、前記測定後に前記ファラデーカップの位置を前記待機位置に切り換える構成であってもよい。
【0037】
かかる構成によれば、簡易な構成によって前記ビーム電流の測定が可能となる。また、前記ファラデーカップの位置が切り換えられることで、前記ビーム電流の測定中と測定後とで前記プラズマ容器からの負イオンビームの引き出し方向を変更する必要がなくなる。
【0038】
また、前記引出空間内に形成されたプラズマ中に熱電子を供給するための熱電子供給手段をさらに備える構成が好ましい。
【0039】
かかる構成によれば、前記熱電子供給手段によって前記引出空間内のプラズマ中に熱電子が供給されることで、当該プラズマ中での電子温度が低下して負イオン発生確率が高くなり、増加した負イオンによってビーム電流が大きくなる。
【0040】
また、本発明に係る負イオン源の運転方法は、プラズマを生成し、このプラズマから負イオンを引き出すことにより負イオンビームを出射する負イオン源の運転方法であって、開口を有し、外部から原料ガスが供給されるプラズマ容器と、前記プラズマ容器内に配置され、加熱電圧が印加されることにより熱電子を放出し、この状態で前記プラズマ容器との間にアーク放電電圧が印加されることによって前記原料ガスからプラズマを生成するフィラメントと、前記プラズマ容器の外周に沿って設けられ、当該プラズマ容器内に前記プラズマを閉じ込めるためのカスプ磁場を形成する複数の磁石と、前記プラズマ容器の開口をこの開口よりも小さな引出開孔を残して塞ぎ、前記プラズマ容器との間に引出電圧が印加されることにより前記プラズマから前記引出開孔を通じて負イオンを外部に引き出して前記負イオンビームを生成する引出電極と、磁力線が一方向を向くように前記負イオンビームのビーム軸と直交する面に沿って前記プラズマ容器の内部空間を横断するフィルタ磁場を、このフィルタ磁場が前記内部空間を前記フィラメントの配置される放電空間と前記引出電極に接する引出空間とに分割するような位置に形成するフィルタ磁場形成手段とを備える負イオン源を用い、前記引出空間内に形成されたプラズマのプラズマポテンシャルが測定されるポテンシャル側定工程と、前記ポテンシャル測定工程で測定されたプラズマポテンシャルの測定値に対して前記引出電極の電位が同電位又は略同電位となるように前記引出電圧が調節される電圧調節工程とを備えることを特徴とする。
【0041】
かかる構成によれば、前記プラズマポテンシャルが測定され、このプラズマポテンシャルに基づいて前記引出電圧が調節されることで、各運転条件において前記負イオン源が出射可能な最大ビーム電流若しくは、この最大ビーム電流に近い電流値に調節された負イオンビームを出射することができる。
【0042】
即ち、前記電圧調節工程において、前記引出電極が前記プラズマポテンシャルと同電位又は略同電位となるように調節されることで、当該引出電極と前記プラズマポテンシャルとの間の電位差が小さくなり、前記引出電極と前記プラズマとの間に生じる静電的な障壁が低くなるため、前記引出電極が前記プラズマ中から負イオンを引き出し易くなる。その結果、前記負イオンビームのビーム電流が大きくなる。
【0043】
しかも、前記引出電極の電位が前記プラズマポテンシャルと同電位又は略同電位であるため、前記プラズマ中の電子が前記引出電極によって捕集されるのが抑制され、前記プラズマのプラズマ密度が低下して前記ビーム電流が小さくなるのも抑制される。
【0044】
また、前記ポテンシャル測定工程では、前記引出空間内にプラズマが形成された状態で前記引出電極のI−V特性が導出され、このI−V特性に基づいて前記プラズマポテンシャルが導出されてもよい。
【0045】
かかる構成によれば、引出電極のI−V特性の変曲点からプラズマポテンシャルが得られるため、プラズマから直接プラズマポテンシャルを測定するためのプローブ等を用いる必要がない。
【0046】
また、前記ポテンシャル測定工程では、前記プラズマ容器に対して絶縁された状態で前記引出空間内に挿入されるプローブ電極を用い、このプローブ電極と前記プラズマ容器との間に印加されるプローブ電圧に基づいて前記プラズマポテンシャルが導出されてもよい。
【0047】
かかる構成によれば、前記プローブ電極によって前記プラズマから直接プラズマポテンシャルが測定されるため、当該プラズマポテンシャルの測定が容易且つ確実に行われる。
【0048】
また、前記プローブ電極として、加熱電圧が印加されることで熱電子を放出し、その状態で印加される前記プローブ電圧に基づいて前記プラズマポテンシャルが導出されるプローブ電極を用い、このプローブ電極には、前記引出空間内にプラズマが形成されている間、前記加熱電圧が印加され続けることが好ましい。
【0049】
かかる構成によれば、前記同様、前記プローブ電極によって前記プラズマから直接プラズマポテンシャルが測定されるため、当該プラズマポテンシャルの測定が容易且つ確実に行われる。
【0050】
また、前記プローブ電極には、前記ポテンシャル測定工程だけでなく前記引出空間内にプラズマが形成されている間、前記加熱電圧が印加され続けるため、当該プラズマ中に熱電子が供給され続け、前記プラズマが形成されている間中、ビーム電流が大きくなる。
【0051】
また、前記引出電圧が掃引され、この掃引のときに前記負イオンビームのビーム電流が測定される電流測定工程と、この電流測定工程で測定された前記ビーム電流の電流値が最も大きくなったときの前記引出電極の電位である最大電流電位と前記ポテンシャル測定工程で測定されたプラズマポテンシャルの測定値との電位差の値が導出されこれが記憶される電位差導出工程と、を備え、最初に前記電流測定工程、前記電位差導出工程、前記ポテンシャル測定工程、及び前記電圧調節工程が行われた後、さらに前記ポテンシャル測定工程と前記電圧調節工程とが定期的に行われ、前記最初の前記電圧調節工程では、前記引出電極の電位が前記電位差導出工程で記憶された前記最大電流電位となるように前記引出電圧が調節され、2回目以降に行われる各電圧調節工程では、対応するポテンシャル測定工程で測定されたプラズマポテンシャルの測定値から前記電位差導出工程で導出され記憶されている前記電位差の値を差し引いた電位が導出され、前記引出電極が前記導出された電位となるように前記引出電圧が調節されるのが好ましい。
【0052】
かかる構成によれば、より大きなビーム電流の負イオンビームの利用が可能となると共に、前記負イオンビームの出射時間の経過によって生じる前記プラズマポテンシャルの変化に応じて適切な引出電圧の調節が可能となる。
【0053】
具体的には、前記電位差が求められて前記引出電圧が調節されることで、前記引出電極にはより適切な引出電圧が印加されるため、前記引出電極と前記プラズマとの間の静電的な障壁がより低くなり、より多くの負イオンが前記引出電極に引き出され、前記ビーム電流がより大きくなる。
【0054】
また、前記負イオンビームの出射が続けられると、前記フィラメントの消耗や前記プラズマ容器の内壁の汚染等によってプラズマポテンシャルが変化するが、定期的にプラズマポテンシャルが測定され、この測定されたプラズマポテンシャルに基づいて前記引出電圧が調節されることで、前記ビーム出射時間の経過に基づくプラズマポテンシャルの変化に対し、適切な引出電圧の調節が可能となる。ことのき、前記電位差の値が負イオンビームの利用前に前記電位差導出工程で導出され記憶されているため、2回目以降の電圧調節工程での引出電圧の調節では、前記プラズマポテンシャルのみが測定されれば適切な引出電圧が導出されるため、前記ビーム電流を毎回測定する必要がなくなる。
【0055】
また、本発明に係る負イオン源の運転方法は、プラズマを生成し、このプラズマから負イオンを引き出すことにより負イオンビームを出射する負イオン源の運転方法であって、開口を有し、外部から原料ガスが供給されるプラズマ容器と、前記プラズマ容器内に配置され、加熱電圧が印加されることにより熱電子を放出し、この状態で前記プラズマ容器との間にアーク放電電圧が印加されることによって前記原料ガスからプラズマを生成するフィラメントと、前記プラズマ容器の外周に沿って設けられ、当該プラズマ容器内に前記プラズマを閉じ込めるためのカスプ磁場を形成する複数の磁石と、前記プラズマ容器の開口をこの開口よりも小さな引出開孔を残して塞ぎ、前記プラズマ容器との間に引出電圧が印加されることにより前記プラズマから前記引出開孔を通じて負イオンを外部に引き出して前記負イオンビームを生成する引出電極と、磁力線が一方向を向くように前記負イオンビームのビーム軸と直交する面に沿って前記プラズマ容器の内部空間を横断するフィルタ磁場を、このフィルタ磁場が前記内部空間を前記フィラメントの配置される放電空間と前記引出電極に接する引出空間とに分割するような位置に形成するフィルタ磁場形成手段とを備える負イオン源を用い、前記引出空間内にプラズマが形成された状態で前記引出電圧が掃引され、この掃引のときの前記負イオンビームのビーム電流が測定される電流測定工程と、この電流測定工程で測定された前記ビーム電流の電流値が最も大きくなったときの電圧となるように前記引出電圧が調節される電圧調節工程とを備えることを特徴とする。
【0056】
かかる構成によれば、前記引出電圧が掃引されたときのビーム電流に基づいて前記引出電圧が調節されることで、前記プラズマポテンシャルを測定しなくても、各運転条件において当該負イオン源が出射可能な前記最大ビーム電流若しくは、このビーム電流に近い電流値の負イオンビームを出射することができる。
【0057】
即ち、前記引出電圧を掃引したときのビーム電流のうち、最大ビーム電流となるときの前記引出電極の電圧が導出され、この電圧に前記引出電圧が調節されることで、前記引出電極と前記プラズマとの間の静電的な障壁が最も低くなるときの電圧に前記引出電圧が調節される。
【0058】
また、前記引出空間内にプラズマが形成されている間、当該プラズマ中に熱電子が供給され続ける熱電子供給工程をさらに備えるのが好ましい。
【0059】
かかる構成によれば、前記引出空間内にプラズマが形成されている間、当該プラズマ中に熱電子が供給され続けることによって、このプラズマ中の電子温度が低下して負イオン発生確率が高くなる。そのため、前記プラズマが形成されている間、当該プラズマ中の負イオンが増加した状態となり、この負イオンがプラズマ中から引出されることでビーム電流の大きな負イオンビームの出射が可能になる。
【発明の効果】
【0060】
以上より、本発明によれば、ビーム電流のより大きな負イオンビームを出射できる負イオン源、及び負イオン源の運転方法を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0061】
以下、本発明の第1実施形態について、図1乃至図3を参照しつつ説明する。
【0062】
本実施形態に係る負イオン源10は、水素ガスを原料ガスとして用い、この水素ガスからプラズマを生成し、このプラズマを水素負イオン(以下、単に「負イオン」とも称する。)の供給源として水素負イオンビーム(以下、単に「イオンビーム」とも称する。)を出射するものである。具体的には、負イオン源10は、プラズマ容器12と、当該プラズマ容器12内にカスプ磁場を形成する複数のカスプ磁場形成用磁石M1,M1,…と、プラズマ容器12内に配置され、熱電子を放出するフィラメント16と、プラズマから負イオンを引き出す引出電極20と、プラズマ容器12内での高速電子の移動を妨げるための複数のフィルタ磁場形成用磁石(フィルタ磁場形成手段)M2,M2,…と、形成されたプラズマに熱電子を供給するためのフィラメント(熱電子供給手段)30と、引出電極20の引出電圧を調節するための制御手段60とを備える。
【0063】
引出電極20にはプラズマ容器との間に引出電圧を印加する引出用電源54が接続されており、この引出用電源54は、電圧可変に構成されている。そして、制御部60は、引出用電源54に制御信号を出力することにより引出用電源54の出力電圧(引出電圧)を変化させる。そして、制御手段60は、後述するように、プラズマ容器12内に形成されるプラズマのプラズマポテンシャルに基づいて引出電極20に印加される引出電圧を調節し、当該負イオン源10が出射可能な最大ビーム電流、若しくはこの最大ビーム電流に近い電流値の負イオンビームの出射を可能とするための手段である。
【0064】
以下、負イオン源10の各構成について詳細に説明する。
【0065】
プラズマ容器12は、下部が開口した容器であり、円筒状の容器本体部12aと、この容器本体部12aの上部開口を塞ぐ蓋部12bとを有する。
【0066】
複数のカスプ磁場形成用磁石(以下、単に「カスプ用磁石」とも称する。)M1,M1,…は、プラズマ容器12内に形成される磁場方向が交互に変わるよう、容器本体部12aの外周面、即ち、プラズマ容器12の側壁外周面に沿って配置されている。具体的には、このカスプ用磁石M1は、プラズマ容器12の側壁に沿って上下方向に延びる永久磁石である。そして、複数のカスプ用磁石M1,M1,…は、プラズマ容器12側、即ち、プラズマ容器12と対向する面の磁極がN極、S極、N極、…と交互に変わるよう、プラズマ容器12の側壁外周面に沿って等間隔に配置される(図2(a)参照)。また、カスプ用磁石M1は、プラズマ容器12の蓋部12bの上面にも配置されている。この蓋部12bに配置されるカスプ用磁石M1も、隣り合うカスプ用磁石M1のプラズマ容器12と対向する面の磁極が交互に変わるように配置されている。このようにプラズマ容器12に複数のカスプ用磁石M1,M1,…が配置されることにより、プラズマ容器12内にプラズマを閉じ込めるための磁場(カスプ磁場)が形成される。
【0067】
このプラズマ容器12には、当該プラズマ容器12の内部に水素ガス(原料ガス)を供給する原料ガス供給手段14が接続されている。原料ガス供給手段14は、原料ガス供給管15を通じてプラズマ容器12に設けられた原料ガス噴出孔15aから、プラズマ容器12内に水素ガスを供給する。
【0068】
フィラメント16は、タングステン等の高融点で表面に酸化物を形成し難い金属で形成された線材で、その両端部に加熱電圧が印加されることで加熱され、その状態でプラズマ容器12との間に放電電圧(アーク電圧)が印加されることによって熱電子を放出するものである。この放出された熱電子がプラズマ容器12内に供給される水素ガスと衝突することにより、当該水素ガスをイオン化させてプラズマが生成される。
【0069】
フィラメント16の両端部は、蓋部12bに配設された一対の端子18,18を介して当該フィラメント16の両端部間に加熱電圧を印加するための加熱用電源50に接続されている。一対の端子18は、それぞれ下端部がプラズマ容器12内、上端部がプラズマ容器12外に位置するよう、プラズマ容器12の蓋部12bを貫通するように配設された棒状の端子である。この端子の蓋部12bを貫通している部位は、その周囲をセラミック等の絶縁体18aで覆われており、蓋部12b(プラズマ容器12)とは電気的に絶縁されている。このように一対の端子18,18がプラズマ容器12と電気的に絶縁されることにより、フィラメント16もプラズマ容器12と電気的に絶縁される。
【0070】
フィラメント16には、さらに、プラズマ容器12との間に放電電圧を印加するためのアーク電源52も接続されている。
【0071】
引出電極20は、プラズマ容器12と絶縁部材22を介してプラズマ容器12の下部開口を塞ぐように配置されている。このように配置されることにより、引出電極20は、プラズマ容器12と電気的に絶縁される。この引出電極20には、負イオンをプラズマ容器12内から外部に引き出すときに前記負イオンが通過する引出開孔24が設けられている。引出電極20にはプラズマ容器12との間に引出電圧を印加するための引出用電源54が接続され、この引出用電源54によって引出電圧が印加されることにより、引出電極20がプラズマ容器12内のプラズマから負イオンを引出開孔24を通じて外部に引き出す。この引出された負イオンによってイオンビームが生成される。
【0072】
引出用電源54は、電圧可変の電源であり、制御部60からの制御信号を受信すると、この制御信号に基づいて引出電圧を変化させる。
【0073】
引出開孔24は、プラズマ容器12の内部と外部とを連通し、プラズマ容器12の下部開口よりも小さな貫通孔である。この引出開孔24は、引出電極20の中央部、詳細には、引出電極20におけるプラズマ容器12(円筒状の容器本体部12a)の中心軸と交差する位置に設けられる。この引出開孔24から負イオンが引出電極20によって引き出されることにより生成されたイオンビームの中心軸(ビーム軸)Cは、円筒状の容器本体部12aの中心軸と一致する。
【0074】
本実施形態においては、負イオン源10には、イオンビームの出射方向において、引出電極20の下流側に、さらに、収束電極26が配設されている。この収束電極26は、引出電極20の直下流側に設けられ、当該引出電極20と絶縁部材27を介して接続されている。この収束電極26には、ビーム軸C上に貫通孔28が設けられている。この収束電極26は、プラズマ容器12との間に収束電圧を印加するための収束用電源56が接続され、この収束用電源56によって収束電圧が印加されることにより、引出電極20によって生成されたイオンビームの照射角を小さくして(収束させて)、イオンビームの流れを整える働きをする。
【0075】
複数のフィルタ磁場形成用磁石(以下、単に「フィルタ用磁石」とも称する。)M2,M2,…は、プラズマ容器12内にフィルタ磁場MFを形成するためのものである。複数のフィルタ用磁石M2,M2,…は、プラズマ容器12の側壁下部において、当該側壁の外周面に沿って配置されている。具体的には、各カスプ用磁石M1の下方にフィルタ用磁石M2が配置されている。これら複数のフィルタ用磁石M2,M2,…は、図2(b)にも示されるように、プラズマ容器12におけるビーム軸Cを通る一つの直径dを境に、一方側に配置される各フィルタ用磁石M2のプラズマ容器12に対向する面の磁極がN極、他方側に配置される各フィルタ用磁石M2のプラズマ容器12に対向する面がS極となるように配置されている。このように複数のフィルタ用磁石M2,M2,…が配置されることで、プラズマ容器12内にビーム軸Cと直交する面に沿って磁力線LMが一方に向くように当該プラズマ容器12の内部空間を横断するようなフィルタ磁場MFが形成される。
【0076】
このように配置される複数のフィルタ用磁石M2,M2,…によって形成されるフィルタ磁場MFは、ビーム軸C方向において、プラズマ容器12の内部空間をフィラメント16の配置される放電空間S1と、引出電極20に接する引出空間S2とに分割するような位置に形成される。具体的には、フィルタ磁場MFは、ビーム軸C方向において、カスプ用磁石M1と引出電極20との間に形成される。
【0077】
制御手段60は、引出空間S2に形成されるプラズマのプラズマポテンシャル(以下、単に「ポテンシャル」とも称する。)Vpを測定するポテンシャル測定部62と、引出電圧を調節する電圧調節部64と、イオンビームのビーム電流を測定するビーム電流測定手段80とを備える。
【0078】
ポテンシャル測定部62は、引出電圧の掃引によって得られる引出電極20のI−V特性(電流電圧特性)に基づいてポテンシャルVpの測定値を導出してこれを格納するよう構成されている。具体的には、ポテンシャル測定部62は、前記掃引のときの引出電極20を流れる引出電流と引出電圧とから引出電極20のI−V特性を測定する。そして、ポテンシャル測定部62は、このI−V特性の変曲点からポテンシャルVpを導出し、この導出されたポテンシャルVpの値(測定値)を格納する。このように、当該負イオン源10では、ポテンシャル測定部62が引出電圧の掃引によって得られる引出電極20のI−V特性に基づいてポテンシャルVpの測定値を導出できるよう構成されるため、プローブ等のプラズマから直接ポテンシャルVpを測定するような部材が不要となる。
【0079】
電圧調節部64は、引出電圧を掃引する掃引部66と、引出電極20の最大電位(最大電流電位)Vsを格納する電位記憶部68と、ポテンシャルVpの測定値と最大電流電位Vsとの電位差Vdefの値を格納する電位差記憶部70と、ポテンシャル測定部62に格納されたポテンシャルVpの測定値に基づいて引出電圧を調節する電圧指示部72とを有する。
【0080】
掃引部66は、ポテンシャルVpを測定するために、引出空間S2内にプラズマが形成された状態で引出用電源54を制御して引出電圧を掃引するよう構成されている。掃引とは、電圧を所定の範囲で変化させることであり、本実施形態においては、0Vから50Vまで引出電圧を変化させる。この掃引部66は、本実施形態においては、負イオン源10の立ち上げ時だけでなく、負イオン源10においてイオンビームの出射が所定時間行われる毎に引出電圧の掃引を行うよう構成される。
【0081】
電位記憶部68は、掃引部による最初の掃引のときにビーム電流測定手段80によって測定されるビーム電流の電流値が最も大きくなったときの引出電極20の電位である最大電流電位Vsを導出し、これを格納するよう構成される。
【0082】
電位差記憶部70は、ポテンシャル測定部62で最初に測定されたポテンシャルVpの測定値と電位記憶部68に格納されている最大電流電位Vsとの電位差Vdefの値を格納するよう構成される。
【0083】
電圧指示部72は、掃引部66による最初の掃引のときに、ポテンシャル測定部62によって導出され格納されたポテンシャルVpの測定値とビーム電流測定手段80によって測定され電位記憶部68に格納された最大電流電位Vsとの電位差Vdefの値を導出(Vp−Vs=Vdef)して電位差記憶部70に格納すると共に、引出電極20の電位が最大電流電位となるように引出用電源54を制御して引出電圧を調節するよう構成される。
【0084】
また、電圧指示部72は、掃引部66による2回目以降の掃引のときには、掃引毎に、ポテンシャル測定部62によって導出され格納されたポテンシャルVpの測定値から電位差記憶部70に格納されている電位差Vdefの値を差し引いた電位を導出して引出電極20の電位が前記導出した電位となるように引出電圧を調節するように構成される。
【0085】
ビーム電流測定手段80は、ビーム電流の電流値を測定するためのファラデーカップ82と、このファラデーカップ82の位置を切り換えるための位置切換手段84とを備える。この位置切換手段84は、ファラデーカップ82をビーム軸C上の測定位置P1と、ビーム軸Cから外れた待機位置P2とに切り換えるためのものである。具体的には、位置切換手段84は、ファラデーカップ82をビーム軸Cと直交する方向(図1においては水平方向)に移動させることによって、測定位置P1と待機位置P2とに位置を切り換える。
【0086】
フィラメント(熱電子供給手段)30は、引出空間S2内のプラズマ中に熱電子を供給して当該プラズマの電子温度を低下させるためのものであり、プラズマ容器12の内周面に沿って配置されるループ状のタングステン線材で構成されている。具体的には、フィラメント30は、直径が1mmのタングステン線材を直径が70mm程度のループ状にしたものであり、プラズマ容器12の側壁に配設された電流導入端子32を介して加熱用電源34が接続されている。このフィラメント30は、ビーム軸C方向において、フィルタ用磁石M2と引出電極20との間に配置されている、即ち、引出空間S2内に配置されている。このように構成されるフィラメント30は、加熱電圧が印加されることにより赤熱し、引出空間S2内に熱電子を放出する。
【0087】
尚、フィラメント30は、前記タングステン線材に限定される必要はなく、電圧が印加されることで熱電子を放出するものであれば、ステンレスや白金等の高融点で表面が酸化し難い金属であればよく、また該金属をメッキ処理した物であってもよい。また、ループ状である必要もなく、プラズマ容器12内に形成されるプラズマに対する影響が少ない形状であれば、他の形状であってもよい。
【0088】
また、熱電子供給手段は、フィラメント30で構成される必要もない。例えば、図4にも示されるように、プラズマ容器12内に配置されたタングステン線材etと、このタングステン線材etをレーザー光線LBによって加熱するためのレーザー照射手段(加熱手段)Lとで構成されてもよい。即ち、加熱されることにより熱電子を放出する部材(エミッシブターゲット)がプラズマ容器12の引出空間S2内に配置され、この部材が加熱手段によって赤熱(加熱)されるように構成されていればよい。このように構成されることで、引出空間S2内に形成されるプラズマ中に熱電子を供給することが可能となる。尚、前記のようにレーザー照射手段Lを用いる場合には、プラズマ容器12の一部にガラス等のレーザーを透過する素材で窓部wを設けることが好ましい。このように構成することで、レーザー照射手段(加熱手段)Lをプラズマ容器12の外に配置することができ、プラズマ容器12内に形成されるプラズマに対する影響を抑制することができる。
【0089】
電流導入端子32は、一方側端部がプラズマ容器12内、他方側端部がプラズマ容器12外に位置するよう、プラズマ容器12の側壁を貫通するように配設された棒状の端子である。この電流導入端子32の側壁を貫通している部位は、その周囲をセラミック等の絶縁体32aで覆われており、側壁(プラズマ容器12)とは電気的に絶縁されている。その結果、フィラメント30は、プラズマ容器12と電気的に絶縁される。
【0090】
本実施形態に係る負イオン源10は、以上の構成からなり、次に、この負イオン源10の作用について図5も参照しつつ説明する。
【0091】
まず、プラズマ容器12内が真空ポンプ(図示省略)等によって真空引きされる(ステップ1)。
【0092】
次に、原料ガス供給手段14によって、当該プラズマ容器12内に水素ガス(原料ガス)が供給される(ステップ2)。このときプラズマ容器12内の圧力が一定となるように、原料ガス供給手段14からプラズマ容器12内に供給される水素ガスの流量が調整される。
【0093】
プラズマ容器12内の圧力が一定になった状態で、加熱用電源50によってフィラメント16の両端に加熱電圧が印加され、この状態でアーク電源52によってフィラメント16とプラズマ容器12との間に放電電圧(アーク電圧)が印加される(ステップ3)。
【0094】
そうすると、フィラメント16が加熱電圧の印加によって発熱して熱電子を放出し易い状態となり、さらに放電電圧が印加されることで、フィラメント16とプラズマ容器12との間でアーク放電が起こり、フィラメント16から電子がアーク電流として放電空間S1内に放出される。この放電空間S1内に放出された熱電子は、プラズマ容器12内に充満している水素ガスと衝突して電子を弾き出し、この水素ガスをプラズマ化する。
【0095】
この放電空間S1内で生成されたプラズマがプラズマ容器12内に拡がるとき、即ち、プラズマが放電空間S1から引出空間S2へ拡がるときに、フィルタ用磁石M2,M2,…によって形成されたフィルタ磁場MFにより、プラズマ中の高速電子の引出空間S2への移動が妨げられる。これは、高速電子は、速度が速く且つ質量が軽いためラーマー半径が小さく、フィルタ磁場MFを通過しようとしたときにローレンツ力によって直ぐに向きを変えるためである。即ち、高速電子は、フィルタ磁場MF中で放電空間S1側に直ぐに向きを変え、フィルタ磁場MFを通過できずに放電空間S1に戻されるからである。
【0096】
一方、プラズマ中の低速電子は、移動速度が低いため、フィルタ磁場MF中においてラーマー半径が大きくなり、当該フィルタ磁場MFによって放電空間S1側に進行方向を変えられる前に、当該磁場MFを通過する。そのため、低速電子は、引出空間S2への移動が許容される。また、プラズマ中の励起状態の水素分子は、電気的に中性であるため、フィルタ磁場MFの影響を受けずに引出空間S2へ移動できる。
【0097】
そのため、プラズマ容器12内に拡がったプラズマのうち、放電空間S1内に拡がるプラズマの内部には高速電子(電子温度の高い電子)が多く且つプラズマ密度(例えば、電子密度)が高くなった状態となり、引出空間S2内に拡がるプラズマの内部には低速電子(電子温度の低い電子)と励起した水素分子とが多くなった状態となる。
【0098】
このように引出空間S2内のプラズマ中に低速電子と励起した水素分子とが多数存在した状態になると、当該プラズマ中において、これら低速電子と励起した水素分子とが付着して水素負イオンが生成される確率が高くなり、引出空間S2内のプラズマ中には放電空間S1内のプラズマに比べて水素負イオンが多数存在した状態となる。
【0099】
この状態で、フィラメント30に加熱電圧が印加される(ステップ4)。そうするとフィラメント30から引出空間S2内のプラズマ中に熱電子が放出(供給)され、この熱電子によって当該プラズマの電子温度がより低下して負イオン発生確率がより高くなる。即ち、引出空間S2内のプラズマ中に熱電子が供給されると、この熱電子の供給されたプラズマ自身が電気的中性を保つために内部に含まれる電子温度の高い電子(高速電子)を放電空間S1側に排斥し、当該引出空間S2内のプラズマの電子温度がより低下する。このように引出空間S2内のプラズマの電子温度がより低くなることで、当該プラズマ中で励起した水素分子に対する電子の付着確率(付着断面積)が高くなり、負イオンがより増加する。
【0100】
このようにフィラメント30によって熱電子がプラズマ中に強制的に供給されることで、引出空間S2内のプラズマ中の負イオンの数が増加し、この増加した負イオンが引出電極20によって引出されることで、フィラメント30(熱電子供給手段)を備えない負イオン源と比べて電流密度のより高いイオンビーム、即ち、ビーム電流のより大きなイオンビームの出射が可能となる。
【0101】
次に、ビーム電流測定手段80が作動し、待機位置P2にあるファラデーカップ82が位置切換手段84によって測定位置P1に位置を切り換えられる(ステップ5)。尚、ファラデーカップ82が測定位置P1に初めから位置している場合は、このステップ5は行われない。
【0102】
ファラデーカップ82が測定位置P1に位置を切り換えられると、電圧調節部64の掃引部66によって引出用電源54が制御され、引出電極20に印加される引出電圧の最初の掃引が行われる(ステップ6)。尚、本実施形態の掃引では、引出電圧を0Vから50V程度まで変化させるが、逆に50Vから0Vまで変化させてもよい。
【0103】
この掃引のときの引出電極20を流れる電流(引出電流)と掃引された引出電圧とから引出電極20のI−V特性がポテンシャル測定部62によって測定される。そして、ポテンシャル測定部62は、この測定したI−V特性から変曲点を導出し、この変曲点をポテンシャルVpの測定値として格納する(ステップ7a)。
【0104】
変曲点の導出は、具体的には、以下のように導出する。まず、掃引部66によって引出電圧が掃引されたときの引出電圧と引出電極を流れる電流(引出電流)とがポテンシャル測定部62によって測定され、引出電極20のI−V特性が測定される。そして、この測定されたI−V特性に基づいて引出電圧に対する引出電流の対数がプロットされ(図6参照)、このプロットされた点を結ぶ曲線から変曲点が求められる。
【0105】
一方、前記掃引のときにビーム電流測定手段80(ファラデーカップ82)によって測定されたビーム電流の電流値が最も大きくなったときの引出電極20の電位(最大電流電位)Vsは、電位記憶部68に格納される(ステップ7b)。尚、本実施形態においては、ステップ7aとステップ7bとは、一度の掃引によって行われるが、これに限定されず、二度の掃引によって、ステップ7aとステップ7bとを順に、又は逆に行ってもよい。
【0106】
このようにポテンシャルVpの測定値と最大電流電位Vsとが導出されると、電圧指示部72によって、ポテンシャル測定部62に格納されているポテンシャルVpの測定値と電位記憶部68に格納されている最大電流電位Vsとの電位差Vdefが導出(Vp−Vs=Vdef)され、この電位差Vdefの値が電位差記憶部70に格納される(ステップ8a)。また、電圧指示部72によって、引出電極20の電位が最大電流電位Vsとなるように引出電圧が調節される(ステップ8b)。
【0107】
このようにして電位差Vdefの値が導出された後、ファラデーカップ82が測定位置P1から待機位置P2に位置を切り換えられる(ステップ9)。このようにファラデーカップの位置が切り換えられることで、ビーム電流の測定中と測定後とでプラズマ容器12から出射される(引出される)負イオンビームの引き出し方向を変更する必要がなく、プラズマ容器12から出射されたイオンビームをそのまま利用することができる。
【0108】
ファラデーカップ82の位置が切り換えられた後、負イオン源10が出射するイオンビーム、即ち、電圧指示部72によって引出電圧が調節された後のイオンビームが、例えば、測定や分析等に利用される(ステップ10)。
【0109】
以上のように引出空間S2内に形成されるプラズマのポテンシャルVpに基づいて引出電極20に適切な引出電圧が印加されることで、各運転条件(原料ガスの種類やガス圧等)において当該負イオン源10が出射可能な最大ビーム電流、若しくはこの最大ビーム電流に近い電流値の負イオンビームの出射が可能となる。
【0110】
即ち、引出電極20がポテンシャルVpと略同電位(ポテンシャルよりも電位差Vdefの値分だけ小さい電位、即ち、引出電極20とプラズマとの間の静電的な障壁に相当する電位)となることで、当該引出電極20とポテンシャルVpとの間の電位差が無くなり、若しくはほぼ無くなるため、引出電極20とプラズマとの間に生じる静電的な障壁が無くなり、若しくは非常に低くなり、引出電極20がプラズマ中から負イオンを引き出し易くなる。その結果、出射されるイオンビームのビーム電流が大きくなる。
【0111】
しかも、引出電極20の電位がポテンシャルVpと略同電位であるため、プラズマ中の電子が引出電極20によって捕集されるのが抑制され、プラズマのプラズマ密度が低下してビーム電流が小さくなるのが抑制される。即ち、引出電極20の電位がポテンシャルVpよりも大きくなると、プラズマ中の電子(負電荷の粒子)がポテンシャルVpよりも大きい正電位を有する引出電極20によって捕集されプラズマのプラズマ密度が低下し、負イオンビームのビーム電流が小さくなるが、前記電位がポテンシャルと略同電位となることで前記捕集が抑制される。
【0112】
次に、イオンビームが利用され始めてから所定時間が経過すると、例えば、放電空間S1内に配置されているフィラメント16の消耗による当該フィラメント16に印加される放電電圧の変化や当該フィラメント16を流れる放電電流の変化、前記プラズマ容器12の内壁の汚染等によって、前記プラズマの状態、即ち、プラズマポテンシャルが変化する。そのため、前記所定時間経過時の負イオン源が出射可能な最大ビーム電流若しくはこの電流値に近いビーム電流のイオンビームを出射するために、引出電圧の再調節が行われる(ステップ11及び12)。
【0113】
具体的には、一旦イオンビームの利用が停止され、その後、掃引部66によって引出電圧の掃引が行われる。この掃引のときにポテンシャル測定部62によってステップ7a同様にポテンシャルVpが導出され、導出されたポテンシャルVpの測定値がポテンシャル測定部62に格納される(ステップ11)。電圧指示部72によって、このポテンシャル測定部62に格納されたポテンシャルVpの測定値から電位差記憶部70に格納されている電位差Vdefの値を差し引いた電位が導出される。そして、引出電極20の電位が前記導出された電位となるように電圧指示部72によって引出用電源54が制御され、引出電圧が調節される(ステップ12)。この引出電圧の再調節後、イオンビームの利用が再開される(ステップ13)。
【0114】
このような引出電圧の再調節(ステップ11及び12)は、イオンビームの所定のビーム出射時間経過毎に行われる。
【0115】
以上のように定期的に引出電圧が再調節されることで、ビーム出射時間の経過に基づくポテンシャルVpの変化に対し、引出電極20への適切な引出電圧の調節が可能となる。そのため、その時点の当該負イオン源10が出射可能な最大ビーム電流、若しくはこの最大ビーム電流に近い電流値のイオンビームの出射が可能となる。
【0116】
また、電位差Vdefの値が電位差記憶部70に格納されているため、2回目以降の引出電圧の調節では、引出空間S2内のプラズマのポテンシャルVpのみが測定されることにより適切な引出電圧が導出でき、ビーム電流を引出電圧の再調節毎に測定する必要がなくなる。即ち、再調節の際にビーム電流を測定しなくても、最初の引出電圧の調節の際に導出され格納されている電位差Vdefが用いられることで、容易に且つ短時間で、引出電極20とプラズマとの間に形成されるシースも含めた静電的な障壁がより低くなるように引出電圧が再調節され、再調節時における当該負イオン源10が出射可能な最大ビーム電流、若しくはこの最大ビーム電流の電流値に近いイオンビームの出射が可能となる。
【0117】
尚、本実施形態においては、イオンビームの出射が所定時間行われる毎に引出電圧の掃引を行うように掃引部66が構成されているため、当該負イオン源10では引出電圧の再調節(ステップ11及び12)が定期的に行われるがこれに限定されない。即ち、所定のビーム出射時間が経過していなくても、負イオン源10の運転操作を行う作業者の指示に基づいて再調節が行われてもよく、負イオン源10の運転条件(原料ガスの種類やガス圧等)が変更されたときに行われるようにしてもよい。
【0118】
次に、本発明の第2実施形態について図7を参照しつつ説明するが、上記第1実施形態と同様の構成には同一符号を用いると共に詳細な説明を省略し、異なる構成ついてのみ詳細に説明する。
【0119】
本実施形態に係る負イオン源10aは、ポテンシャルVpを容易且つ確実に測定できるようにプラズマから直接プローブによって測定するように構成されている。具体的には、以下のように構成されている。
【0120】
制御手段60のポテンシャル測定部162は、本実施形態においては、いわゆるラングミュアプローブであり、プラズマ容器12に対して絶縁された状態で引出空間S2内に挿入されるプローブ電極163と、このプローブ電極163とプラズマ容器12との間にプローブ電圧を印加するためのプローブ用電源164と、プローブ電圧に基づいてポテンシャルVpを導出するプローブ測定部165とを有する。
【0121】
プローブ電極163は、タングステン線材で形成された真っ直ぐな1本の電極の周囲をガラスやセラミック等の絶縁部材で被覆し、プラズマ容器12内に配置される電極先端部が絶縁部材から露出するように構成されている。このプローブ電極163は、プラズマ容器12の側壁を貫通し、電極先端部が引出空間S2内に位置し、基部(電極先端部と反対側の端部)がプラズマ容器12の外に位置するように配置される。プローブ電極163の基部には、プローブ用電源164とプローブ測定部165とが接続されている。
【0122】
プローブ測定部165は、プローブ電極163の先端部がプラズマ内に挿入された状態で、プローブ用電源164を制御してプローブ電圧を掃引し、そのときのプローブ電極163のI−V特性からポテンシャルVpを導出しこれを格納する。
【0123】
このように構成されるポテンシャル測定部162は、本実施形態においては、負イオン源10の立ち上げ時だけでなく、負イオン源10においてイオンビームの出射が所定時間行われる毎にポテンシャルVpの測定を行う。
【0124】
電圧調節部64の掃引部166は、ビーム電流測定手段80によってビーム電流を測定するために、引出空間S2内にプラズマが形成された状態で引出用電源54を制御して引出電圧を掃引する。尚、この掃引部166は、第1実施形態とは異なり、負イオン源10aの立ち上げ時等のイオンビームを利用する前に、電位差Vdefを導出するために行われるビーム電流の測定のときにのみ掃引を行う。
【0125】
尚、本実施形態に係る負イオン源10aは、第1実施形態と異なりフィラメント(熱電子供給手段)30(図1参照)を備えない。しかし、図8(a)に示されるように、ポテンシャル測定部162として、いわゆるエミッシブプローブ162aが用いられると、別途、熱電子供給手段を設けることなく、引出空間S2内のプラズマに熱電子の供給が可能となる。即ち、エミッシブプローブ162aがプラズマのポテンシャルVpの測定とプラズマ中への熱電子の供給とを行う。
【0126】
エミッシブプローブ162aは、具体的には、プラズマ容器12に対して絶縁された状態で引出空間S2内に挿入されるプローブ電極163aと、このプローブ電極163aに加熱電圧を印加する加熱用電源164aと、プローブ電極163aとプラズマ容器12との間の電圧を測定する電圧測定部vmと、電圧測定部vmの測定値に基づいてポテンシャルVpを導出するプローブ測定部165aとを有する。
【0127】
プローブ電極163aは、図8(b)にも示されるように、タングステン線材で形成された2本の電極elを間隔をおいて平行に並べ、これら2本の電極elの周囲をガラスやセラミック等の絶縁部材isで被覆し、プラズマ容器12内に配置される電極先端部が絶縁部材isから露出するように構成されている。2本の電極elの先端部(絶縁部材isから露出している部位)は先端同士が互いに接続されている。このプローブ電極163aは、プラズマ容器12の側壁を貫通し、電極先端部が引出空間S2内に位置すると共に基部(電極先端部と反対側の端部)がプラズマ容器12の外に位置するように配置される。プローブ電極163aの基部には、加熱用電源164aと電圧測定部vmとプローブ測定部165aとが接続されている。
【0128】
プローブ測定部165aは、プローブ電極163aの先端部がプラズマ内に挿入された状態で、加熱用電源164aを制御してプローブ電極163aからプラズマ中に熱電子を放出させ、このときの電圧測定部vmの測定値に基づいてポテンシャルVpを導出しこれを格納する。具体的には、プローブ測定部165aは、加熱用電源164aを制御してプローブ電極163aに加熱電圧を印加し、プローブ電極163a先端部の露出した電極elを赤熱させてプラズマ中に熱電子を放出させる。そして、プローブ測定部165aは、電圧測定部vmが測定した、前記赤熱状態のプローブ電極163aのプラズマ容器12に対する電圧に基づいてポテンシャルVpを導出し、これを格納する。
【0129】
次に、この負イオン源10aの作用について図9も参照しつつ説明する。
【0130】
プラズマ容器12内が真空引きされ(ステップ1)、その後、水素ガスが供給される(ステップ2)。そして、プラズマ容器12内の圧力が一定になった状態で、フィラメント16に加熱電圧が印加され、この状態で放電電圧が印加されることでプラズマ容器12内にプラズマが形成される(ステップ3)。
【0131】
次に、ファラデーカップ82の位置が測定位置P1に切り換えられ(ステップ5)、電圧調節部64の掃引部166によって引出用電源54が制御され、引出電圧の掃引が行われる(ステップ106)。
【0132】
この掃引のときにビーム電流測定手段80(ファラデーカップ82)によって測定されたビーム電流の電流値が最も大きくなったときの引出電極20の電位(最大電流電位)Vsが電位記憶部68によって格納される(ステップ7b)。
【0133】
一方、ポテンシャル測定部162が、引出空間S2内のプラズマに電極先端部を挿入した状態のプローブ電極163を用い、プラズマから直接ポテンシャルVpを測定する(ステップ107)。具体的には、プローブ測定部165によってプローブ用電源164が制御されてプローブ電圧が掃引され、このときのプローブ電極163のI−V特性が導出される。そして、このI−V特性から変曲点が導出され、この変曲点をポテンシャルVpの測定値としてプローブ測定部165が格納する。このようにポテンシャルVpの測定において、プローブ電極163が用いられることにより、プラズマから直接ポテンシャルを測定することができるため、当該ポテンシャルの測定が容易且つ確実に行われる。
【0134】
尚、本実施形態においては、ステップ7bとステップ107とが同時に行われるが、これに限定されず、ステップ7bとステップ107とが順に、又は逆に行われてもよい。
【0135】
また、ポテンシャル測定部としてエミッシブプローブ162aが用いられた場合には、ステップ107においてポテンシャルVpが測定された後、プラズマ容器12内にプラズマが形成されている間、即ち、イオンビームが利用される間、プローブ電極163aに対して加熱電圧が印加され続けるようにプローブ測定部165aが加熱用電源164aを制御する。このように加熱電圧がプローブ電極163aに印加され続けると、引出空間S2内のプラズマ中に熱電子が供給され続け、このプラズマ中に供給された熱電子によってプラズマの電子温度が低下して負イオン発生確率が高くなるため、出射されるイオンビームのビーム電流が大きくなる。即ち、エミッシブプローブ162aを用いることで、熱電子供給手段を別途設けることなく、引出空間S2内のプラズマに熱電子を供給でき、その結果、イオンビームのビーム電流を大きくすることができる。
【0136】
ステップ107とステップ7bとにおいて、ポテンシャルVpの測定値と最大電流電位Vsとが導出されると、電圧指示部72によって、ポテンシャル測定部162(プローブ測定部165)に格納されているポテンシャルVpの測定値と電位記憶部68に格納されている最大電流電位Vsとの電位差Vdefが導出され、電位差記憶部70に格納される(ステップ8a)。また、電圧指示部72によって、引出電極20の電位が最大電流電位Vsとなるように引出電圧が調節される(ステップ8b)。
【0137】
このようにして電位差Vdefの値が導出された後、ファラデーカップ82が待機位置P2に位置を切り換えられ(ステップ9)、その後、電圧指示部72によって引出電圧が調節された後のイオンビームが利用される(ステップ10)。
【0138】
イオンビームが利用され始めてから所定時間が経過すると、第1実施形態同様、引出電圧の再調節が行われる。
【0139】
具体的には、一旦イオンビームの利用が停止され、その後、ポテンシャル測定部162(プローブ電極163)によって、引出空間S2内のプラズマから直接ポテンシャルVpが測定され、測定されたポテンシャルVpの測定値がプローブ測定部165に格納される(ステップ111)。
【0140】
電圧指示部72によって、このプローブ測定部165に格納されたポテンシャルVpの測定値から電位差Vdefの値を差し引いた電位が導出され、引出電極20の電位が前記導出された電位となるように電圧指示部72によって引出電圧が調節される(ステップ12)。この引出電圧の再調節後、イオンビームの利用が再開される(ステップ13)。
【0141】
この引出電圧の再調節(ステップ111及び12)は、第1実施形態同様、イオンビームの所定のビーム出射時間経過毎に行われる。
【0142】
以上のように引出電圧が調節されることで、第1実施形態同様、より大きなビーム電流のイオンビームの出射が可能となると共に、イオンビームの出射時間の経過によって生じる引出空間S2内のプラズマ状態の変化に応じて適切な引出電圧の調節が可能となる。
【0143】
また、定期的にポテンシャルVpが測定され、この測定されたポテンシャルVpの測定値に基づいて引出電圧が調節されることで、ビーム出射時間の経過に基づくポテンシャルVpの変化に対し、適切な引出電圧の調節が可能となる。このとき、プローブ電極163によってプラズマから直接ポテンシャルVpが測定されるため、容易且つ確実にポテンシャルVpの測定が行われる。また、電位差Vdefの値が電位差記憶部70に格納されているため、2回目以降の引出電圧の調節では、引出空間S2内のプラズマのポテンシャルVpのみが測定されれば適切な引出電圧が導出されるため、ビーム電流を毎回測定する必要がなくなる。
【0144】
次に、本発明の第3実施形態について図10を参照しつつ説明するが、上記第1及び第2実施形態と同様の構成には同一符号を用いると共に詳細な説明を省略し、異なる構成ついてのみ詳細に説明する。
【0145】
本実施形態に係る負イオン源10bの制御手段260は、第1及び第2実施形態の負イオン源10,10aと異なり、定期的な引出電圧の再調節を行わないように構成される負イオン源である。このように構成されることにより、電位差Vdefを導出して格納する必要がなくなり、負イオン源10bの構成が簡素化される。具体的には、以下のように構成される。
【0146】
制御手段260は、ビーム電流測定手段280と、掃引部266と、電圧記憶部268と、電圧調節部264とを有する。
【0147】
ビーム電流測定手段280は、引出電圧が掃引されたときのイオンビームのビーム電流を測定するものであり、ファラデーカップ82と、このファラデーカップ82の位置を切り換える位置切換手段84とで構成されている。
【0148】
掃引部266は、ビーム電流測定手段280でビーム電流を測定するときに、引出空間S2内にプラズマが形成された状態で引出電圧を掃引するように構成される。
【0149】
電圧記憶部268は、ビーム電流測定手段280で測定されたビーム電流の電流値が最も大きくなったときの引出電極20の引出電圧(最大電流電圧)を格納するよう構成される。
【0150】
電圧調節部264は、電圧記憶部268に格納された最大電流電圧となるように引出用電源54を制御して引出電圧を調節するよう構成される。
【0151】
また、本実施形態に係る負イオン源10bも、第2実施形態同様、フィラメント(熱電子供給手段)30(図1参照)を備えない。
【0152】
次に、この負イオン源10bの作用について図11も参照しつつ説明する。
【0153】
プラズマ容器12内が真空引きされ(ステップ1)、その後、水素ガスが供給される(ステップ2)。そして、プラズマ容器12内の圧力が一定になった状態で、フィラメント16に加熱電圧が印加され、この状態で放電電圧が印加されることでプラズマ容器12内にプラズマが形成される(ステップ3)。
【0154】
次に、ビーム電流測定手段280においてファラデーカップ82の位置が測定位置P1に切り換えられる(ステップ5)。その後、掃引部266によって引出用電源54が制御され、引出電極20に印加される引出電圧の掃引が行われる(ステップ106)。
【0155】
この掃引のときにビーム電流測定手段280(ファラデーカップ82)によって測定されたビーム電流の電流値が最も大きくなったときの引出電極20の最大電流電圧が電圧記憶部268によって格納される(ステップ207)。
【0156】
このように最大電流電圧が導出されると、電圧調節部264によって、引出電極20の電圧が最大電流電圧となるように引出電圧が調節される(ステップ208)。
【0157】
このようにして引出電圧が調節された後、ファラデーカップ82が待機位置P2に位置を切り換えられ(ステップ9)、イオンビームが利用される(ステップ10)。尚、ステップ208とステップ9とは順序が逆に行われてもよく、また、同時に行われてもよい。
【0158】
以上のように、定期的に引出電圧を再調節しない負イオン源10bであれば、電位差Vdefを導出する必要がないため構成が簡素化されると共に、当該負イオン源10bが出射可能な最大ビーム電流若しくはこの最大ビーム電流に近い電流値のイオンビームの出射が可能となる。
【0159】
尚、本発明の負イオン源は、上記第1乃至第3実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々変更を加え得ることは勿論である。
【図面の簡単な説明】
【0160】
【図1】第1実施形態に係る負イオン源の概略構成図である。
【図2】同実施形態に係る負イオン源における(a)は図1のA−A端面図であり、(b)は図1のB−B断面図である。
【図3】同実施形態に係る負イオン源の制御手段のブロック図である。
【図4】同実施形態に係る負イオン源において、他の熱電子供給手段を配置した場合の概略図である。
【図5】同実施形態に係る負イオン源が負イオンビームを出射するときのフローチャートである。
【図6】同実施形態に係る負イオン源の引出電極が掃引されたときの当該引出電極のI−V特性を示す図である。
【図7】第2実施形態に係る負イオン源の概略構成図である。
【図8】同実施形態に係る負イオン源における(a)はエミッシブプローブを配置した場合の概略図であり、(b)はプローブ電極先端の拡大断面図である。
【図9】同実施形態に係る負イオン源が負イオンビームを出射するときのフローチャートである。
【図10】第3実施形態に係る負イオン源の概略構成図である。
【図11】同実施形態に係る負イオン源が負イオンビームを出射するときのフローチャートである。
【図12】従来のフィルタ磁場形成手段を備えた負イオン源の概略構成図である。
【符号の説明】
【0161】
10 負イオン源
12 プラズマ容器
16 フィラメント
20 引出電極
60 制御手段
62 ポテンシャル測定部
64 電圧調節部
LM 磁力線
M1 カスプ磁場形成用磁石
M2 フィルタ磁場形成用磁石
MF フィルタ磁場
S1 放電空間
S2 引出空間
Vp ポテンシャル

【特許請求の範囲】
【請求項1】
プラズマを生成し、このプラズマを負イオンの供給源として負イオンビームを出射する負イオン源であって、
開口を有し、外部から原料ガスが供給されるプラズマ容器と、
前記プラズマ容器内に配置され、加熱電圧が印加されることにより熱電子を放出し、この状態で前記プラズマ容器との間にアーク放電電圧が印加されることによって前記原料ガスからプラズマを生成するフィラメントと、
前記プラズマ容器の外周に沿って設けられ、当該プラズマ容器内に前記プラズマを閉じ込めるためのカスプ磁場を形成する複数の磁石と、
前記プラズマ容器の開口をこの開口よりも小さな引出開孔を残して塞ぎ、前記プラズマ容器との間に引出電圧が印加されることにより前記プラズマから前記引出開孔を通じて負イオンを外部に引き出して前記負イオンビームを生成する引出電極と、
磁力線が一方向を向くように前記負イオンビームのビーム軸と直交する面に沿って前記プラズマ容器の内部空間を横断するフィルタ磁場を、このフィルタ磁場が前記内部空間を前記フィラメントの配置される放電空間と前記引出電極に接する引出空間とに分割するような位置に形成するフィルタ磁場形成手段と、
前記引出電極の引出電圧を調節するための制御手段と、を備え、
前記制御手段は、前記引出空間内に形成されるプラズマのプラズマポテンシャルを測定するポテンシャル測定部と、このポテンシャル測定部で測定されたプラズマポテンシャルに対して前記引出電極の電位が同電位又は略同電位となるように前記引出電圧を調節する電圧調節部とを有することを特徴とする負イオン源。
【請求項2】
請求項1に記載の負イオン源において、
前記ポテンシャル測定部は、前記引出電圧の掃引によって得られる前記引出電極のI−V特性に基づいて前記プラズマポテンシャルの測定値を導出してこれを格納し、
前記電圧調節部は、前記プラズマポテンシャルを測定するために前記引出空間内にプラズマが形成された状態で前記引出電圧を掃引する掃引部と、前記ポテンシャル測定部に格納されたプラズマポテンシャルの測定値に基づいて前記引出電圧を調節する電圧指示部とを有することを特徴とする負イオン源。
【請求項3】
請求項2に記載の負イオン源において、
前記制御手段は、前記引出電圧が掃引されたときの前記負イオンビームのビーム電流を測定するビーム電流測定手段を備え、
前記電圧調節部は、前記掃引部による掃引のときに前記ビーム電流測定手段によって測定されるビーム電流の電流値が最も大きくなったときの前記引出電極の電位である最大電流電位を格納する電位記憶部と、前記ポテンシャル測定部で測定されたプラズマポテンシャルの測定値と前記最大電流電位との電位差の値を格納する電位差記憶部とを有し、
前記掃引部は、最初のプラズマポテンシャルの測定のための掃引後、さらに前記プラズマポテンシャルを測定するために前記引出空間内にプラズマが形成された状態で定期的に前記引出電圧の掃引を行い、
前記電圧指示部は、前記掃引部による最初の掃引のときに前記ポテンシャル測定部によって導出され格納されたプラズマポテンシャルの測定値と前記最初の掃引のときに前記ビーム電流測定手段によって測定されて前記電位記憶部に格納された最大電流電位との電位差の値を導出して前記電位差記憶部に格納すると共に、前記引出電極の電位が前記最大電流電位となるように前記引出電圧を調節し、
前記掃引部による2回目以降の掃引毎に、前記ポテンシャル測定部によって導出され格納されたプラズマポテンシャルの測定値から前記電位差記憶部に格納されている前記電位差の値を差し引いた電位を導出し、前記引出電極の電位が前記導出した電位となるように前記引出電圧を調節することを特徴とする負イオン源。
【請求項4】
請求項1に記載の負イオン源において、
前記ポテンシャル測定部は、前記プラズマ容器に対して絶縁された状態で前記引出空間内に挿入されるプローブ電極と、このプローブ電極と前記プラズマ容器との間に印加されるプローブ電圧に基づいて前記プラズマポテンシャルを導出してこれを格納するプローブ測定部とを有することを特徴とする負イオン源。
【請求項5】
請求項4に記載の負イオン源において、
前記プローブ電極は、当該プローブ電極に加熱電圧が印加されることで前記引出空間内に形成されるプラズマ中に熱電子を放出し、前記プローブ測定部は、前記プローブ電極から熱電子が放出されているときの前記プローブ電圧に基づいて前記プラズマポテンシャルを導出することを特徴とする負イオン源。
【請求項6】
請求項1,4,5の何れか1項に記載の負イオン源において、
前記制御手段は、前記負イオンビームのビーム電流を測定するビーム電流測定手段を備え、
前記ポテンシャル測定部は、前記ビーム電流測定手段によってビーム電流が測定されたときに前記プラズマポテンシャルの測定を行い、その後、さらに定期的に前記プラズマポテンシャルの測定を行い、
前記電圧調節部は、前記ビーム電流測定手段でビーム電流を測定するために前記引出空間内にプラズマが形成された状態で前記引出電圧を掃引する掃引部と、
この掃引部による掃引のときに前記ビーム電流測定手段によって測定されるビーム電流の電流値が最も大きくなったときの前記引出電極の電位である最大電流電位を格納する電位記憶部と、前記ポテンシャル測定部で測定されたプラズマポテンシャルの測定値と前記最大電流電位との電位差の値を格納する電位差記憶部と、前記引出電圧を調節する電圧指示部とを有し、
この電圧指示部は、前記ポテンシャル測定部によって最初に測定され格納されたプラズマポテンシャルの測定値と前記掃引のときに前記ビーム電流測定手段によって測定されて前記電位記憶部に格納された最大電流電位との電位差の値を導出して前記電位差記憶部に格納すると共に、前記引出電極の電位が前記最大電流電位となるように前記引出電圧を調節し、
前記ポテンシャル測定部による2回目以降のプラズマポテンシャルの測定毎に、測定され格納されたプラズマポテンシャルの測定値から前記電位差記憶部に格納されている前記電位差の値を差し引いた電位を導出し、前記引出電極の電位が前記導出した電位となるように前記引出電圧を調節することを特徴とする負イオン源。
【請求項7】
プラズマを生成し、このプラズマを負イオンの供給源として負イオンビームを出射する負イオン源であって、
開口を有し、外部から原料ガスが供給されるプラズマ容器と、
前記プラズマ容器内に配置され、加熱電圧が印加されることにより熱電子を放出し、この状態で前記プラズマ容器との間にアーク放電電圧が印加されることによって前記原料ガスからプラズマを生成するフィラメントと、
前記プラズマ容器の外周に沿って設けられ、当該プラズマ容器内に前記プラズマを閉じ込めるためのカスプ磁場を形成する複数の磁石と、
前記プラズマ容器の開口をこの開口よりも小さな引出開孔を残して塞ぎ、前記プラズマ容器との間に引出電圧が印加されることにより前記プラズマから前記引出開孔を通じて負イオンを外部に引き出して前記負イオンビームを生成する引出電極と、
磁力線が一方向を向くように前記負イオンビームのビーム軸と直交する面に沿って前記プラズマ容器の内部空間を横断するフィルタ磁場を、このフィルタ磁場が前記内部空間を前記フィラメントの配置される放電空間と前記引出電極に接する引出空間とに分割するような位置に形成するフィルタ磁場形成手段と、
前記引出電圧を調節するための制御手段と、を備え、
前記制御手段は、前記引出電圧が掃引されたときの前記負イオンビームのビーム電流を測定するビーム電流測定手段と、前記ビーム電流を測定するときに前記引出空間内にプラズマが形成された状態で前記引出電圧を掃引する掃引部と、前記掃引のときに前記電流測定手段で測定されたビーム電流の電流値が最も大きくなったときの前記引出電極の引出電圧である最大電流電圧を格納する電圧記憶部と、前記電圧記憶部に格納された最大電流電圧となるように前記引出電圧を調節する電圧調節部とを有することを特徴とする負イオン源。
【請求項8】
請求項3,6,7の何れか1項に記載の負イオン源において、
前記ビーム電流測定手段は、前記ビーム電流を測定するためのファラデーカップと、このファラデーカップの位置をビーム軸上の測定位置と前記ビーム軸から外れた待機位置とに切り換えるための位置切換手段とを備え、
この位置切換手段は、前記最大電流電位又は前記最大電流電圧を導出するためのビーム電流の測定前に前記ファラデーカップの位置を前記測定位置に切り換え、前記測定後に前記ファラデーカップの位置を前記待機位置に切り換えることを特徴とする負イオン源。
【請求項9】
請求項1乃至8の何れか1項に記載の負イオン源において、
前記引出空間内に形成されたプラズマ中に熱電子を供給するための熱電子供給手段をさらに備えることを特徴とする負イオン源。
【請求項10】
プラズマを生成し、このプラズマから負イオンを引き出すことにより負イオンビームを出射する負イオン源の運転方法であって、
開口を有し、外部から原料ガスが供給されるプラズマ容器と、
前記プラズマ容器内に配置され、加熱電圧が印加されることにより熱電子を放出し、この状態で前記プラズマ容器との間にアーク放電電圧が印加されることによって前記原料ガスからプラズマを生成するフィラメントと、
前記プラズマ容器の外周に沿って設けられ、当該プラズマ容器内に前記プラズマを閉じ込めるためのカスプ磁場を形成する複数の磁石と、
前記プラズマ容器の開口をこの開口よりも小さな引出開孔を残して塞ぎ、前記プラズマ容器との間に引出電圧が印加されることにより前記プラズマから前記引出開孔を通じて負イオンを外部に引き出して前記負イオンビームを生成する引出電極と、
磁力線が一方向を向くように前記負イオンビームのビーム軸と直交する面に沿って前記プラズマ容器の内部空間を横断するフィルタ磁場を、このフィルタ磁場が前記内部空間を前記フィラメントの配置される放電空間と前記引出電極に接する引出空間とに分割するような位置に形成するフィルタ磁場形成手段とを備える負イオン源を用い、
前記引出空間内に形成されたプラズマのプラズマポテンシャルが測定されるポテンシャル側定工程と、前記ポテンシャル測定工程で測定されたプラズマポテンシャルの測定値に対して前記引出電極の電位が同電位又は略同電位となるように前記引出電圧が調節される電圧調節工程とを備えることを特徴とする負イオン源の運転方法。
【請求項11】
請求項10に記載の負イオン源の運転方法において、
前記ポテンシャル測定工程では、前記引出空間内にプラズマが形成された状態で前記引出電極のI−V特性が導出され、このI−V特性に基づいて前記プラズマポテンシャルが導出されることを特徴とする負イオン源の運転方法。
【請求項12】
請求項10に記載の負イオン源の運転方法において、
前記ポテンシャル測定工程では、前記プラズマ容器に対して絶縁された状態で前記引出空間内に挿入されるプローブ電極を用い、このプローブ電極と前記プラズマ容器との間に印加されるプローブ電圧に基づいて前記プラズマポテンシャルが導出されることを特徴とする負イオン源の運転方法。
【請求項13】
請求項12に記載の負イオン源の運転方法において、
前記プローブ電極として、加熱電圧が印加されることで熱電子を放出し、その状態で印加される前記プローブ電圧に基づいて前記プラズマポテンシャルが導出されるプローブ電極を用い、このプローブ電極には、前記引出空間内にプラズマが形成されている間、前記加熱電圧が印加され続けることを特徴とする負イオン源の運転方法。
【請求項14】
請求項10乃至13の何れか1項に記載の負イオン源の運転方法において、
前記引出電圧が掃引され、この掃引のときに前記負イオンビームのビーム電流が測定される電流測定工程と、
この電流測定工程で測定された前記ビーム電流の電流値が最も大きくなったときの前記引出電極の電位である最大電流電位と前記ポテンシャル測定工程で測定されたプラズマポテンシャルの測定値との電位差の値が導出されこれが記憶される電位差導出工程と、を備え、
最初に前記電流測定工程、前記電位差導出工程、前記ポテンシャル測定工程、及び前記電圧調節工程が行われた後、さらに前記ポテンシャル測定工程と前記電圧調節工程とが定期的に行われ、
前記最初の前記電圧調節工程では、前記引出電極の電位が前記電位差導出工程で記憶された前記最大電流電位となるように前記引出電圧が調節され、2回目以降に行われる各電圧調節工程では、対応するポテンシャル測定工程で測定されたプラズマポテンシャルの測定値から前記電位差導出工程で導出され記憶されている前記電位差の値を差し引いた電位が導出され、前記引出電極が前記導出された電位となるように前記引出電圧が調節されることを特徴とする負イオン源の運転方法。
【請求項15】
プラズマを生成し、このプラズマから負イオンを引き出すことにより負イオンビームを出射する負イオン源の運転方法であって、
開口を有し、外部から原料ガスが供給されるプラズマ容器と、
前記プラズマ容器内に配置され、加熱電圧が印加されることにより熱電子を放出し、この状態で前記プラズマ容器との間にアーク放電電圧が印加されることによって前記原料ガスからプラズマを生成するフィラメントと、
前記プラズマ容器の外周に沿って設けられ、当該プラズマ容器内に前記プラズマを閉じ込めるためのカスプ磁場を形成する複数の磁石と、
前記プラズマ容器の開口をこの開口よりも小さな引出開孔を残して塞ぎ、前記プラズマ容器との間に引出電圧が印加されることにより前記プラズマから前記引出開孔を通じて負イオンを外部に引き出して前記負イオンビームを生成する引出電極と、
磁力線が一方向を向くように前記負イオンビームのビーム軸と直交する面に沿って前記プラズマ容器の内部空間を横断するフィルタ磁場を、このフィルタ磁場が前記内部空間を前記フィラメントの配置される放電空間と前記引出電極に接する引出空間とに分割するような位置に形成するフィルタ磁場形成手段とを備える負イオン源を用い、
前記引出空間内にプラズマが形成された状態で前記引出電圧が掃引され、この掃引のときの前記負イオンビームのビーム電流が測定される電流測定工程と、
この電流測定工程で測定された前記ビーム電流の電流値が最も大きくなったときの電圧となるように前記引出電圧が調節される電圧調節工程とを備えることを特徴とする負イオン源の運転方法。
【請求項16】
請求項10乃至15の何れか1項に記載の負イオン源の運転方法において、
前記引出空間内にプラズマが形成されている間、当該プラズマ中に熱電子が供給され続ける熱電子供給工程をさらに備えることを特徴とする負イオン源の運転方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate

【図12】
image rotate