説明

負極およびその製造方法、ならびに電池およびその製造方法

【課題】サイクル特性を向上させることが可能な電池を提供する。
【解決手段】正極21および負極22と共に電解液を備え、正極21と負極22との間に設けられたセパレータ23には電解液が含浸されている。負極22は、負極集電体22Aと、その負極集電体22Aに設けられた負極活物質層22Bと、その負極活物質層22Bに設けられた被膜22Cとを有している。この被膜22Cは、六フッ化ジルコニウム酸二リチウムを含んでおり、それを含む溶液を用いた浸積処理あるいは塗布処理などにより形成されたものである。負極22の化学的安定性が向上するため、被膜22Cを設けない場合と比較して、電解液の分解が抑制される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、負極およびその製造方法、ならびにその負極を備えた電池およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、カメラ一体型VTR(video tape recorder )、デジタルスチルカメラ、携帯電話、携帯情報端末あるいはノートパソコンなどのポータブル電子機器が広く普及しており、その小型化、軽量化および長寿命化が強く求められている。これに伴い、ポータブル電子機器の電源として、電池、特に軽量で高エネルギー密度を得ることが可能な二次電池の開発が進められている。
【0003】
中でも、充放電反応にリチウムの吸蔵および放出を利用する二次電池(いわゆるリチウムイオン二次電池)は、鉛電池やニッケルカドミウム電池と比較して大きなエネルギー密度が得られるため、大いに期待されている。このリチウムイオン二次電池としては、負極の活物質(負極活物質)として炭素材料が広く用いられている。
【0004】
最近では、ポータブル電子機器の高性能化に伴い、さらなる容量の向上が求められており、負極活物質として、炭素材料に代えてスズあるいはケイ素などを用いることが検討されている(例えば、特許文献1参照。)。スズの理論容量(994mAh/g)およびケイ素の理論容量(4199mAh/g)は黒鉛の理論容量(372mAh/g)に比べて格段に大きいため、電池容量の大幅な向上を期待できるからである。
【特許文献1】米国特許第4950566号明細書
【0005】
ところが、高容量化されたリチウムイオン二次電池では、充電時にリチウムを吸蔵した負極活物質の活性が高くなるため、電解液が分解されやすく、しかもリチウムが不活性化してしまうという問題があった。よって、充放電を繰り返すと充放電効率が低下するため、十分なサイクル特性を得ることができなかった。
【0006】
そこで、サイクル特性などの電池特性を向上させるために、六フッ化アンチモン酸のアルカリ金属塩、六フッ化タンタル酸のアルカリ金属塩、六フッ化ニオブ酸リチウム、六フッ化バナジウム酸リチウム、四フッ化鉄酸リチウム、五フッ化チタン酸リチウムあるいは五フッ化ジルコニウム酸リチウムなどのフルオロ錯塩や、アルカリ金属過ヨウ素酸塩などのハロゲノ錯体塩を電解液に含有させたものが用いられている(例えば、特許文献2〜7参照。)。
【特許文献2】特開昭58−204478号公報
【特許文献3】特開昭63−310568号公報
【特許文献4】特開平03−152879号公報
【特許文献5】特開平06−290808号公報
【特許文献6】特開2002−047255号公報
【特許文献7】特開2003−142154号公報
【0007】
また、サイクル特性を向上させるために、フッ化リチウムあるいは炭酸リチウムなどのリチウム化合物や、酸化ケイ素あるいは酸化アルミニウムなどの酸化物を用いて負極活物質の表面に不活性な被膜を形成することが検討されている(例えば、特許文献8〜15参照。)。
【特許文献8】特開2004−327211号公報
【特許文献9】特開平07−302617号公報
【特許文献10】特開平10−255800号公報
【特許文献11】特開平11−135153号公報
【特許文献12】特開2005−026230号公報
【特許文献13】特開2005−142156号公報
【特許文献14】特開2005−166469号公報
【特許文献15】特開2006−185728号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、最近のポータブル電子機器では、高性能化および多機能化が益々進行する傾向にあるため、二次電池の充放電が頻繁に繰り返されることにより、電解液が分解され、放電容量が低下しやすい傾向にある。この充放電に伴って電解液が分解される問題は、特に、負極活物質として理論容量の大きいスズあるいはケイ素などを用いた場合に生じやすい。このため、二次電池のサイクル特性に関してより一層の向上が望まれている。
【0009】
本発明はかかる問題点に鑑みてなされたもので、その目的は、サイクル特性を向上させることが可能な負極およびその製造方法、ならびにその負極を備えた電池およびその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の負極は、負極集電体と、その負極集電体に設けられた負極活物質層と、その負極活物質層に設けられた被膜とを有する負極であって、被膜が化1で表される化合物を含むものである。
【0011】
【化1】

(Mは短周期型周期表における1A族元素(水素を除く)、2A族元素あるいはアンモニウムであり、Aは遷移金属元素、または短周期型周期表における2B族元素、3B族元素、4B族元素あるいは5B族元素である。xは1以上4以下の整数であり、yは3以上8以下の整数であり、zは1以上の整数である。)
【0012】
本発明の負極の製造方法は、負極集電体と、その負極集電体に設けられた負極活物質層と、その負極活物質層に設けられた被膜とを有する負極の製造方法であって、化2で表される化合物を含む溶液を用いて負極活物質層に被膜を形成するものである。
【0013】
【化2】

(Mは短周期型周期表における1A族元素(水素を除く)、2A族元素あるいはアンモニウムであり、Aは遷移金属元素、または短周期型周期表における2B族元素、3B族元素、4B族元素あるいは5B族元素である。xは1以上4以下の整数であり、yは3以上8以下の整数であり、zは1以上の整数である。)
【0014】
本発明の電池は、正極および負極と共に電解液を備えた電池であって、負極が、負極集電体と、その負極集電体に設けられた負極活物質層と、その負極活物質層に設けられた被膜とを有し、被膜が化3で表される化合物を含むものである。
【0015】
【化3】

(Mは短周期型周期表における1A族元素(水素を除く)、2A族元素あるいはアンモニウムであり、Aは遷移金属元素、または短周期型周期表における2B族元素、3B族元素、4B族元素あるいは5B族元素である。xは1以上4以下の整数であり、yは3以上8以下の整数であり、zは1以上の整数である。)
【0016】
本発明の電池の製造方法は、正極および負極と共に電解液を備え、負極が、負極集電体と、その負極集電体に設けられた負極活物質層と、その負極活物質層に設けられた被膜とを有する電池の製造方法であって、化4で表される化合物を含む溶液を用いて負極活物質層に被膜を形成するものである。
【0017】
【化4】

(Mは短周期型周期表における1A族元素(水素を除く)、2A族元素あるいはアンモニウムであり、Aは遷移金属元素、または短周期型周期表における2B族元素、3B族元素、4B族元素あるいは5B族元素である。xは1以上4以下の整数であり、yは3以上8以下の整数であり、zは1以上の整数である。)
【発明の効果】
【0018】
本発明の負極およびその製造方法によれば、化1に示した化合物を含む被膜を負極活物質層に形成しているので、その被膜を形成しない場合と比較して、負極の化学的安定性が向上する。このため、負極が電解液と共に電池などの電気化学デバイスに用いられた場合に、その電解液の分解反応が抑制される。これにより、本発明の負極およびその製造方法を用いた電池およびその製造方法では、サイクル特性を向上させることができる。この場合には、化1に示した化合物を含む溶液を用いて被膜を形成しているので、減圧環境などの特殊な環境条件を要する方法を用いる場合と比較して、良好な被膜を簡単に形成することができる。特に、被膜がアルカリ金属塩を含み、あるいは負極活物質層と被膜との間に酸化物被膜を有するようにすれば、より高い効果を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照して詳細に説明する。
【0020】
図1は、本発明の一実施の形態に係る負極の断面構成を表している。この負極は、例えば電池などの電気化学デバイスに用いられるものであり、対向する一対の面を有する負極集電体1と、その負極集電体1に設けられた負極活物質層2と、その負極活物質層2に設けられた被膜3とを有している。
【0021】
負極集電体1は、良好な電気化学的安定性、電気伝導性および機械的強度を有する材料により構成されているのが好ましい。この材料としては、例えば、銅(Cu)、ニッケル(Ni)あるいはステンレスなどの金属材料が挙げられる。中でも、銅が好ましい。高い電気伝導性が得られるからである。
【0022】
負極活物質層2は、負極活物質として電極反応物質を吸蔵および放出することが可能な負極材料のいずれか1種あるいは2種以上を含んでおり、必要に応じて導電剤あるいは結着剤などを含んでいてもよい。この負極活物質層2は、負極集電体1の両面に設けられていてもよいし、片面に設けられていてもよい。
【0023】
電極反応物質を吸蔵および放出することが可能な負極材料としては、例えば、電極反応物質を吸蔵および放出することが可能であると共に金属元素および半金属元素のうちの少なくとも1種を構成元素として含む材料が挙げられる。このような負極材料を用いれば、高いエネルギー密度を得ることができるので好ましい。この負極材料は、金属元素あるいは半金属元素の単体でも合金でも化合物でもよく、またはそれらの1種または2種以上の相を少なくとも一部に有するようなものでもよい。なお、本発明における合金には、2種以上の金属元素からなるものに加えて、1種以上の金属元素と1種以上の半金属元素とを含むものも含める。また、本発明における合金は、非金属元素を含んでいてもよい。この組織には、固溶体、共晶(共融混合物)、金属間化合物あるいはそれらのうちの2種以上が共存するものがある。
【0024】
この負極材料を構成する金属元素あるいは半金属元素としては、例えば、電極反応物質と合金を形成することが可能な金属元素あるいは半金属元素が挙げられる。具体的には、マグネシウム(Mg)、ホウ素(B)、アルミニウム(Al)、ガリウム(Ga)、インジウム(In)、ケイ素(Si)、ゲルマニウム(Ge)、スズ(Sn)、鉛(Pb)、ビスマス(Bi)、カドミウム(Cd)、銀(Ag)、亜鉛(Zn)、ハフニウム(Hf)、ジルコニウム(Zr)、イットリウム(Y)、パラジウム(Pd)あるいは白金(Pt)などである。中でも、ケイ素およびスズのうちの少なくとも1種が好ましい。電極反応物質を吸蔵および放出する能力が大きいため、高いエネルギー密度が得られるからである。
【0025】
ケイ素およびスズのうちの少なくとも1種を含む負極材料としては、例えば、ケイ素の単体、合金あるいは化合物、スズの単体、合金あるいは化合物、またはそれらの1種あるいは2種以上の相を少なくとも一部に有する材料が挙げられる。これらは単独で用いられてもよいし、複数種が混合されて用いられてもよい。
【0026】
ケイ素の単体を含む負極材料としては、例えば、ケイ素の単体を主体として含む材料が挙げられる。この負極材料を含有する負極活物質層2は、例えば、ケイ素単体層の間に酸素(O)とケイ素以外の第2の構成元素とが存在する構造を有している。この負極活物質層2におけるケイ素および酸素の合計の含有量は、50質量%以上であるのが好ましく、特に、ケイ素単体の含有量が50質量%以上であるのが好ましい。ケイ素以外の第2の構成元素としては、例えば、チタン(Ti)、クロム(Cr)、マンガン(Mn)、鉄、コバルト(Co)、ニッケル、銅、亜鉛、インジウム、銀、マグネシウム(Mg)、アルミニウム、ゲルマニウム、スズ、ビスマスあるいはアンチモン(Sb)などが挙げられる。ケイ素の単体を主体として含む材料を含有する負極活物質層2は、例えば、ケイ素と他の構成元素を共蒸着することにより形成可能である。
【0027】
ケイ素の合金としては、例えば、ケイ素以外の第2の構成元素として、スズ、ニッケル、銅、鉄、コバルト、マンガン、亜鉛、インジウム、銀、チタン、ゲルマニウム、ビスマス、アンチモンおよびクロムからなる群のうちの少なくとも1種を含むものが挙げられる。ケイ素の化合物としては、例えば、酸素あるいは炭素(C)を含むものが挙げられ、ケイ素に加えて、上記した第2の構成元素を含んでいてもよい。ケイ素の合金または化合物の一例としては、SiB4 、SiB6 、Mg2 Si、Ni2 Si、TiSi2 、MoSi2 、CoSi2 、NiSi2 、CaSi2 、CrSi2 、Cu5 Si、FeSi2 、MnSi2 、NbSi2 、TaSi2 、VSi2 、WSi2 、ZnSi2 、SiC、Si3 4 、Si2 2 O、SiOv (0<v≦2)、SnOw (0<w≦2)あるいはLiSiOなどが挙げられる。
【0028】
スズの合金としては、例えば、スズ以外の第2の構成元素として、ケイ素、ニッケル、銅、鉄、コバルト、マンガン、亜鉛、インジウム、銀、チタン、ゲルマニウム、ビスマス、アンチモンおよびクロムからなる群のうちの少なくとも1種を含むものが挙げられる。スズの化合物としては、例えば、酸素あるいは炭素を含むものが挙げられ、スズに加えて、上記した第2の構成元素を含んでいてもよい。スズの合金または化合物の一例としては、SnSiO3 、LiSnO、Mg2 Snなどが挙げられる。
【0029】
特に、ケイ素およびスズのうちの少なくとも1種を含む負極材料としては、例えば、スズを第1の構成元素とし、そのスズに加えて第2の構成元素と第3の構成元素とを含むものが好ましい。第2の構成元素は、コバルト、鉄、マグネシウム、チタン、バナジウム(V)、クロム、マンガン、ニッケル、銅、亜鉛、ガリウム、ジルコニウム、ニオブ(Nb)、モリブデン(Mo)、銀、インジウム、セリウム(Ce)、ハフニウム、タンタル(Ta)、タングステン(W)、ビスマスおよびケイ素からなる群のうちの少なくとも1種である。第3の構成元素は、ホウ素、炭素、アルミニウムおよびリン(P)からなる群のうちの少なくとも1種である。第2の元素および第3の元素を含むことにより、サイクル特性が向上するからである。
【0030】
中でも、スズ、コバルトおよび炭素を構成元素として含み、炭素の含有量が9.9質量%以上29.7質量%以下、スズおよびコバルトの合計に対するコバルトの割合(Co/(Sn+Co))が30質量%以上70質量%以下であるSnCoC含有材料が好ましい。このような組成範囲において、高いエネルギー密度が得られるからである。
【0031】
このSnCoC含有材料は、必要に応じて、さらに他の構成元素を含んでいてもよい。他の構成元素としては、例えば、ケイ素、鉄、ニッケル、クロム、インジウム、ニオブ、ゲルマニウム、チタン、モリブデン、アルミニウム、リン、ガリウムあるいはビスマスなどが好ましく、それらの2種以上を含んでいてもよい。より高い効果が得られるからである。
【0032】
なお、SnCoC含有材料は、スズ、コバルトおよび炭素を含む相を有しており、その相は、結晶性の低いまたは非晶質な構造を有しているのが好ましい。また、SnCoC含有材料では、構成元素である炭素の少なくとも一部が、他の構成元素である金属元素あるいは半金属元素と結合しているのが好ましい。スズなどの凝集または結晶化が抑制されるからである。
【0033】
SnCoC含有材料は、例えば、各構成元素の原料を混合させた混合物を電気炉、高周波誘導炉あるいはアーク溶解炉などで溶解したのち、凝固することにより形成可能である。また、ガスアトマイズあるいは水アトマイズなどの各種アトマイズ法や、各種ロール法や、メカニカルアロイング法あるいはメカニカルミリング法などのメカノケミカル反応を利用した方法などでも形成可能である。中でも、メカノケミカル反応を利用した方法が好ましい。負極活物質が低結晶化あるいは非晶質な構造になるからである。メカノケミカル反応を利用した方法では、例えば、遊星ボールミル装置やアトライターなどの製造装置を用いることができる。
【0034】
また、元素の結合状態を調べる測定方法としては、例えば、X線光電子分光法(X-ray Photoelectron Spectroscopy;XPS)が挙げられる。このXPSでは、金原子の4f軌道(Au4f)のピークが84.0eVに得られるようにエネルギー較正された装置において、グラファイトであれば、炭素の1s軌道(C1s)のピークは284.5eVに現れる。また、表面汚染炭素であれば、284.8eVに現れる。これに対して、炭素元素の電荷密度が高くなる場合、例えば、炭素が金属元素あるいは半金属元素と結合している場合には、C1sのピークは284.5eVよりも低い領域に現れる。すなわち、SnCoC含有材料について得られるC1sの合成波のピークが284.5eVよりも低い領域に現れる場合には、SnCoC含有材料に含まれる炭素の少なくとも一部が他の構成元素である金属元素あるいは半金属元素と結合している。
【0035】
なお、XPSでは、例えば、スペクトルのエネルギー軸の補正に、C1sのピークを用いる。通常、表面には表面汚染炭素が存在しているので、表面汚染炭素のC1sのピークを284.8eVとし、これをエネルギー基準とする。XPSにおいて、C1sのピークの波形は、表面汚染炭素のピークとSnCoC含有材料中の炭素のピークとを含んだ形として得られるので、例えば、市販のソフトウエアを用いて解析することにより、表面汚染炭素のピークと、SnCoC含有材料中の炭素のピークとを分離する。波形の解析では、最低束縛エネルギー側に存在する主ピークの位置をエネルギー基準(284.8eV)とする。
【0036】
負極材料としてケイ素の単体、合金あるいは化合物、スズの単体、合金あるいは化合物、またはそれらの1種あるいは2種以上の相を少なくとも一部に有する材料を用いた負極活物質層2は、例えば、気相法、液相法、溶射法あるいは焼成法、またはそれらの2種以上の方法を用いて形成され、負極活物質層2と負極集電体1とが界面の少なくとも一部において合金化しているのが好ましい。具体的には、界面において負極集電体1の構成元素が負極活物質層2に拡散し、あるいは負極活物質層2の構成元素が負極集電体1に拡散し、またはそれらの構成元素が互いに拡散し合っているのが好ましい。充放電に伴う負極活物質層2の膨張および収縮による破壊が抑制されると共に、負極活物質層2と負極集電体1との間の電子伝導性が向上するからである。
【0037】
なお、気相法としては、例えば、物理堆積法あるいは化学堆積法、具体的には真空蒸着法、スパッタ法、イオンプレーティング法、レーザーアブレーション法、熱化学気相成長(CVD;Chemical Vapor Deposition )法あるいはプラズマ化学気相成長法などが挙げられる。液相法としては、電気鍍金あるいは無電解鍍金などの公知の手法を用いることができる。焼成法とは、例えば、粒子状の負極活物質を結着剤などと混合して溶剤に分散させることにより塗布したのち、結着剤などの融点よりも高い温度で熱処理する方法である。焼成法に関しても公知の手法が利用可能であり、例えば、雰囲気焼成法、反応焼成法あるいはホットプレス焼成法が挙げられる。
【0038】
上記した負極材料の他、電極反応物質を吸蔵および放出することが可能な負極材料としては、例えば、炭素材料が挙げられる。このような炭素材料としては、例えば、易黒鉛化性炭素、(002)面の面間隔が0.37nm以上の難黒鉛化性炭素、あるいは(002)面の面間隔が0.34nm以下の黒鉛などが挙げられる。より具体的には、熱分解炭素類、コークス類、ガラス状炭素繊維、有機高分子化合物焼成体、活性炭あるいはカーボンブラック類などがある。このうち、コークス類には、ピッチコークス、ニードルコークスあるいは石油コークスなどがあり、有機高分子化合物焼成体というのは、フェノール樹脂やフラン樹脂などを適当な温度で焼成し、炭素化したものをいう。炭素材料は、電極反応物質の吸蔵および放出に伴う結晶構造の変化が非常に少ないため、例えば、その他の負極材料と共に用いることにより、高エネルギー密度を得ることができると共に優れたサイクル特性を得ることができる上、さらに導電剤としても機能するので好ましい。なお、炭素材料の形状は、繊維状、球状、粒状あるいは鱗片状のいずれでもよい。
【0039】
また、その他に電極反応物質を吸蔵および放出することが可能な負極材料としては、例えば、電極反応物質を吸蔵および放出することが可能な金属酸化物あるいは高分子化合物なども挙げられる。もちろん、これらの負極材料と上記した負極材料とを共に用いるようにしてもよい。金属酸化物としては、例えば、酸化鉄、酸化ルテニウムあるいは酸化モリブデンなどが挙げられ、高分子化合物としては、例えば、ポリアセチレン、ポリアニリンあるいはポリピロールなどが挙げられる。
【0040】
導電剤としては、例えば、黒鉛、カーボンブラック、アセチレンブラックあるいはケチェンブラックなどの炭素材料が挙げられる。これらは単独で用いられてもよいし、複数種が混合されて用いられてもよい。なお、導電剤は、導電性を有する材料であれば、金属材料あるいは導電性高分子などであってもよい。
【0041】
結着剤としては、例えば、スチレンブタジエン系ゴム、フッ素系ゴムあるいはエチレンプロピレンジエンなどの合成ゴムや、ポリフッ化ビニリデンなどの高分子材料が挙げられる。これらは単独で用いられてもよいし、複数種が混合されて用いられてもよい。
【0042】
被膜3は、負極活物質層2の全面を覆うように形成されていてもよいし、その表面の一部に形成されていてもよい。また、負極活物質層2の内部に浸透して形成されていてもよい。この被膜3は、化5で表される化合物を含んでいる。この化5に示した化合物を含む被膜3が形成されているのは、負極の化学的安定性が向上するからである。これにより、負極が電解液と共に電池などの電気化学デバイスに用いられた場合に、電極反応物質が効率よく透過すると共に電解液の分解が抑制されるため、サイクル特性を向上させることができる。なお、被膜3には、化5に示した化合物と共にその分解物が含まれていてもよい。
【0043】
【化5】

(Mは短周期型周期表における1A族元素(水素を除く)、2A族元素あるいはアンモニウムであり、Aは遷移金属元素、または短周期型周期表における2B族元素、3B族元素、4B族元素あるいは5B族元素である。xは1以上4以下の整数であり、yは3以上8以下の整数であり、zは1以上の整数である。)
【0044】
化5に示したMは、上記した1A族元素(いわゆるアルカリ金属元素)が好ましく、中でもリチウムがより好ましい。より高い効果が得られるからである。また、化5に示したAは、遷移金属元素、短周期型周期表における2B族元素、ホウ素を除く3B族元素、炭素を除く4B族元素、あるいは窒素およびリンを除く5B族元素が好ましく、中でも、スカンジウム、セリウム、チタン、ジルコニウム、ハフニウム、バナジウム、ニオブ、タンタル、モリブデン、タングステン、マンガン、鉄、コバルト、ニッケル、銅、亜鉛、アルミニウム、ガリウム、インジウム、ケイ素、ゲルマニウム、スズ、アンチモンおよびビスマスからなる群のうちのいずれか1種が好ましい。十分な効果が得られるからである。なお、本発明における遷移金属元素とは、短周期型周期表における3A族元素〜7A族元素、8族元素および1B族元素のことである。
【0045】
化5に示した化合物の一例として、Mがアルカリ金属元素のうちのリチウムである化合物としては、例えば、六フッ化スカンジウム酸三リチウム(Li3 ScF6 )、六フッ化イットリウム酸三リチウム(Li3 YF6 )、四フッ化イットリウム酸リチウム(LiYF4 )、八フッ化セリウム酸四リチウム(Li4 CeF8 )、六フッ化チタン酸二リチウム(Li2 TiF6 )、六フッ化ジルコニウム酸二リチウム(Li2 ZrF6 )、六フッ化ハフニウム酸二リチウム(Li2 HfF6 )、五フッ化チタン酸リチウム(LiTiF5 )、五フッ化ジルコニウム酸リチウム(LiZrF5 )、五フッ化ハフニウム酸リチウム(LiHfF5 )、七フッ化チタン酸三リチウム(Li3 TiF7 )、七フッ化ジルコニウム酸三リチウム(Li3 ZrF7 )、七フッ化ハフニウム酸三リチウム(Li3 HfF7 )、六フッ化バナジウム酸三リチウム(Li3 VF6 )、六フッ化ニオブ酸二リチウム(Li2 NbF6 )、七フッ化タンタル酸二リチウム(Li2 TaF7 )、六フッ化クロム酸二リチウム(Li2 CrF6 )、四フッ化マンガン酸リチウム(LiMnF4 )、六フッ化鉄酸三リチウム(Li3 FeF6 )、四フッ化コバルト酸リチウム(LiCoF4 )、六フッ化ロジウム酸二リチウム(Li2 RhF6 )、四フッ化ニッケル酸二リチウム(Li2 NiF4 )、五フッ化ニッケル酸三リチウム(Li3 NiF5 )、五フッ化ニッケル酸二リチウム(Li2 NiF5 )、六フッ化ニッケル酸二リチウム(Li2 NiF6 )、六フッ化パラジウム酸二リチウム(Li2 PdF6 )、六フッ化白金酸二リチウム(Li2 PtF6 )、六フッ化金酸リチウム(LiAuF6 )、三フッ化亜鉛酸リチウム(LiZnF3 )、四フッ化亜鉛酸二リチウム(Li2 ZnF4 )、六フッ化アルミニウム酸三リチウム(Li3 AlF6 )、六フッ化ガリウム酸三リチウム(Li3 GaF6 )、四フッ化インジウム酸リチウム(LiInF4 )、六フッ化インジウム酸三リチウム(Li3 InF4 )、六フッ化ケイ酸二リチウム(Li2 SiF6 )、六フッ化ゲルマニウム酸二リチウム(Li2 GeF6 )、あるいは六フッ化スズ酸二リチウム(Li2 SnF6 )などが挙げられる。これらの他、化5に示した化合物としては、上記したアニオンを有すると共にMがナトリウムあるいはカリウムなどの他のアルカリ金属元素である化合物や、上記したアニオンを有すると共にMがアルカリ土類金属元素である化合物や、上記したアニオンを有すると共にMがアンモニウムである化合物なども挙げられる。これらは単独で用いられてもよく、複数種が混合されて用いられてもよい。なお、化5に示した構造を有する化合物であれば、上記した化合物に限定されないことは、言うまでもない。
【0046】
また、被膜3は、化5に示した化合物の他に、さらにアルカリ金属塩あるいはアルカリ土類金属塩を含んでいるのが好ましく、中でも、アルカリ金属塩を含んでいるのが好ましい。被膜抵抗が抑えられるため、サイクル特性をより向上させることができるからである。このアルカリ金属塩あるいはアルカリ土類金属塩としては、例えば、アルカリ金属元素あるいはアルカリ土類金属元素の炭酸塩、ハロゲン化物塩、ホウ酸塩あるいはリン酸塩などが挙げられる。具体例としては、例えば、炭酸リチウム(Li2 CO3 )、フッ化リチウム(LiF)、四ホウ酸リチウム(Li2 4 7 )、メタホウ酸リチウム(LiBO2 )、ピロリン酸リチウム(Li4 2 7 )あるいはトリポリリン酸リチウム(Li5 3 10)などが挙げられる。もちろん、これらを混合して用いてもよい。
【0047】
被膜3を形成する方法としては、例えば、塗布法、浸漬法あるいはディップコーティング法などの液相法や、蒸着法、スパッタ法あるいはCVD(Chemical Vapor Deposition:化学気相成長)法などの気相法が挙げられる。これらの方法を単独で用いてもよいし、2種以上の方法を用いてもよい。中でも、液相法として、化5に示した化合物を含む溶液を用いて被膜3を形成するのが好ましい。具体的には、例えば、浸積法では、化5に示した化合物を含む溶液に負極活物質層2が形成された負極集電体1を浸漬して被膜3を形成し、あるいは塗布法では、上記した溶液を負極活物質層2に塗布して被膜3を形成する。化学的安定性の高い良好な被膜3を容易に形成できるからである。化5に示した化合物を溶解させる溶媒としては、例えば、水などの極性の高い溶媒が挙げられる。
【0048】
この負極は、例えば、以下の手順により製造される。
【0049】
まず、負極集電体1の両面に、負極活物質層2を形成する。この負極活物質層2を形成する際には、例えば、負極活物質の粉末と、導電剤と、結着剤とを混合した負極合剤を溶剤に分散させることによりペースト状の負極合剤スラリーとし、それを負極集電体1に塗布して乾燥させたのち、圧縮成型する。続いて、負極活物質層2の表面に被膜3を形成する。この被膜3を形成する際には、例えば、化5に示した化合物を含む溶液として、1重量%以上5重量%以下の濃度の水溶液を準備し、負極活物質層2が形成された負極集電体1を溶液に数秒間浸漬したのちに引き上げ、室温で乾燥する。あるいは、上記した溶液を準備し、それを負極活物質層2の表面に塗布したのちに乾燥させる。これにより、負極が完成する。
【0050】
この負極およびその製造方法によれば、化5に示した化合物を含む被膜3を負極活物質層2に形成しているので、その被膜3を形成しない場合と比較して、負極の化学的安定性が向上する。したがって、負極が電解液と共に電池などの電気化学デバイスに用いられた場合に、その電解液の分解反応が抑制されるため、サイクル特性の向上に寄与することができる。この場合には、化5に示した化合物を含む溶液を用いて被膜3を形成しており、具体的には溶液を用いた浸積処理や塗布処理などの簡単な処理を用いているので、減圧環境などの特殊な環境条件を要する方法を用いる場合と比較して、良好な被膜3を簡単に形成することができる。
【0051】
特に、被膜3がアルカリ金属塩あるいはアルカリ土類金属塩を含むようにすれば、より高い効果を得ることができる。
【0052】
図2は、負極の構成に関する変形例を表しており、図1に対応する断面構成を示している。この負極は、負極活物質層2と被膜3との間に酸化物被膜4を有することを除き、図1に示した負極と同様の構成を有している。
【0053】
酸化物被膜4は、負極活物質層2の全面を覆うように形成されていてもよいし、その表面の一部に形成されていてもよい。また、負極活物質層2の内部に浸透して形成されていてもよい。この酸化物被膜4は、金属あるいは半金属の酸化物を含んでいる。この金属あるいは半金属の酸化物としては、ケイ素、ゲルマニウムおよびスズからなる群のうちの少なくとも1種の酸化物が好ましい。負極の化学的安定性が向上するからである。この酸化物としては、上記した他、アルミニウムや亜鉛などの酸化物も挙げられる。この酸化物被膜4を形成する方法としては、例えば、液相析出法、ゾルゲル法、ポリシラザン法、電析法あるいはディップコーティング法などの液相法や、蒸着法、スパッタ法あるいはCVD法などの気相法が挙げられる。中でも、液相析出法が好ましい。酸化物を容易に制御しながら酸化物被膜4を形成することができるからである。
【0054】
この負極は、例えば、以下の手順により製造される。まず、例えば、上記した負極の製造方法と同様の手順により、負極集電体1の両面に負極活物質層2を形成する。続いて、金属あるいは半金属のフッ化物錯体の溶液に、アニオン捕捉剤としてフッ素を配位しやすい溶存種を添加して混合させた混合液を用意する。続いて、混合液に、負極活物質層2が形成された負極集電体1を浸漬し、フッ化物錯体から生じるフッ素アニオンを溶存種に捕捉させることにより、負極活物質層2の表面に酸化物を析出させる。こののち、水洗してから乾燥させることにより、酸化物被膜4を形成する。最後に、上記した負極の製造方法と同様の手順により、酸化物被膜4の表面に被膜3を形成する。これにより、負極が完成する。
【0055】
この変形例の負極では、負極活物質層2と被膜3との間に酸化物被膜4を形成しているので、その酸化物被膜4を形成しない場合と比較して、負極の化学的安定性がより向上する。したがって、サイクル特性の向上により寄与することができる。
【0056】
次に、上記した負極の使用例について説明する。ここで、電気化学デバイスの一例として、電池を例に挙げると、負極は以下のようにして電池に用いられる。
【0057】
(第1の電池)
図3は、第1の電池の断面構成を表している。この電池は、例えば、負極の容量が電極反応物質であるリチウムの吸蔵および放出に基づく容量成分により表されるものであり、いわゆるリチウムイオン二次電池である。
【0058】
この二次電池は、ほぼ中空円柱状の電池缶11の内部に、正極21および負極22がセパレータ23を介して巻回された巻回電極体20と、一対の絶縁板12,13とが収納されている。電池缶11は、例えば、ニッケルめっきが施された鉄により構成されており、その一端部および他端部はそれぞれ閉鎖および開放されている。一対の絶縁板12,13は、巻回電極体20を挟み、その巻回周面に対して垂直に延在するように配置されている。この電池缶11を用いた電池構造は、いわゆる円筒型と呼ばれている。
【0059】
電池缶11の開放端部には、電池蓋14と、その内側に設けられた安全弁機構15および熱感抵抗素子(Positive Temperature Coefficient;PTC素子)16とが、ガスケット17を介してかしめられることにより取り付けられており、電池缶11の内部は密閉されている。電池蓋14は、例えば、電池缶11と同様の材料により構成されている。安全弁機構15は、熱感抵抗素子16を介して電池蓋14と電気的に接続されている。この安全弁機構15では、内部短絡あるいは外部からの加熱などに起因して内圧が一定以上となった場合に、ディスク板15Aが反転することにより電池蓋14と巻回電極体20との間の電気的接続が切断されるようになっている。熱感抵抗素子16は、温度の上昇に応じて抵抗が増大することにより、電流を制限して大電流に起因する異常な発熱を防止するものである。ガスケット17は、例えば、絶縁材料により構成されており、その表面にはアスファルトが塗布されている。
【0060】
巻回電極体20の中心には、例えば、センターピン24が挿入されている。この巻回電極体20では、アルミニウムなどにより構成された正極リード25が正極21に接続されており、ニッケルなどにより構成された負極リード26が負極22に接続されている。正極リード25は、安全弁機構15に溶接されることにより電池蓋14と電気的に接続されており、負極リード26は、電池缶11に溶接されることにより電気的に接続されている。
【0061】
図4は、図3に示した巻回電極体20の一部を拡大して表している。正極21は、例えば、対向する一対の面を有する正極集電体21Aの両面に正極活物質層21Bが設けられたものである。正極集電体21Aは、例えば、アルミニウム、ニッケルあるいはステンレスなどの金属材料により構成されている。正極活物質層21Bは、例えば、正極活物質として、電極反応物質であるリチウムを吸蔵および放出することが可能な正極材料のいずれか1種または2種以上を含んでおり、必要に応じて導電剤や結着剤などを含んでいてもよい。ただし、結着剤を含むと共に、図4に示したように正極21および負極22が巻回されている場合には、その結着剤として、柔軟性に富むスチレンブタジエン系ゴムあるいはフッ素系ゴムなどを用いるのが好ましい。
【0062】
リチウムを吸蔵および放出することが可能な正極材料としては、例えば、リチウム含有化合物が好ましい。高いエネルギー密度が得られるからである。このリチウム含有化合物としては、例えば、リチウムと遷移金属元素とを含む複合酸化物、あるいはリチウムと遷移金属元素とを含むリン酸化合物が挙げられ、特に、遷移金属元素としてコバルト、ニッケル、マンガンおよび鉄のうちの少なくとも1種を含むものが好ましい。より高い電圧が得られるからである。その化学式は、例えば、Lix M1O2 あるいはLiyM2PO4 で表される。式中、M1およびM2は、1種類以上の遷移金属元素を表す。xおよびyの値は電池の充放電状態によって異なり、通常、0.05≦x≦1.10、0.05≦y≦1.10である。
【0063】
リチウムと遷移金属元素とを含むリチウム複合酸化物としては、例えば、リチウムコバルト複合酸化物(Lix CoO2 )、リチウムニッケル複合酸化物(Lix NiO2 )、リチウムニッケルコバルト複合酸化物(Lix(1-z)Coz 2 (z<1))、リチウムニッケルコバルトマンガン複合酸化物(Lix Ni(1-v-w) Coy Mnw 2 (v+w<1))、あるいはスピネル型構造を有するリチウムマンガン複合酸化物(LiMn2 4 )などが挙げられる。中でも、ニッケルを含む複合酸化物が好ましい。高い容量が得られると共に優れたサイクル特性も得られるからである。また、リチウムと遷移金属元素とを含むリン酸化合物としては、例えば、リチウム鉄リン酸化合物(LiFePO4)あるいはリチウム鉄マンガンリン酸化合物(LiFe(1-u)MnuPO4(u<1))などが挙げられる。
【0064】
また、上記した他、例えば、酸化チタン、酸化バナジウムあるいは二酸化マンガンなどの酸化物や、二硫化鉄、二硫化チタンあるいは硫化モリブデンなどの二硫化物や、セレン化ニオブなどのカルコゲン化物や、硫黄、ポリアニリンあるいはポリチオフェンなどの導電性高分子も挙げられる。
【0065】
負極22は、例えば、図1に示した負極と同様の構成を有しており、帯状の負極集電体22Aの両面に負極活物質層22Bおよび被膜22Cが設けられたものである。負極集電体22A、負極活物質層22Bおよび被膜22Cの構成は、それぞれ上記した負極集電体1、負極活物質層2および被膜3の構成と同様である。
【0066】
この二次電池では、正極活物質とリチウムを吸蔵および放出することが可能な負極活物質との間で量を調整することにより、正極活物質による充電容量よりも上記した負極活物質の充電容量の方が大きくなり、完全充電時においても負極22にリチウム金属が析出しないようになっている。
【0067】
セパレータ23は、正極21と負極22とを隔離し、両極の接触による電流の短絡を防止しつつ、リチウムイオンを通過させるものである。このセパレータ23は、例えば、ポリテトラフルオロエチレン、ポリプロピレンあるいはポリエチレンなどよりなる合成樹脂製の多孔質膜、またはセラミック製の多孔質膜により構成されており、これらの2種以上の多孔質膜を積層した構造とされていてもよい。中でも、ポリオレフィン製の多孔質膜は、ショート防止効果に優れ、かつシャットダウン効果による電池の安全性向上を図ることができるので好ましい。特に、ポリエチレンは、100℃以上160℃以下の範囲内でシャットダウン効果を得ることができると共に、電気化学的安定性にも優れているので好ましい。また、ポリプロピレンも好ましく、他にも化学的安定性を備えた樹脂であれば、ポリエチレンあるいはポリプロピレンと共重合させたものであったり、ブレンド化したものであってもよい。
【0068】
このセパレータ23には、液状の電解質として電解液が含浸されている。この電解液は、溶媒と、それに溶解された電解質塩とを含んでいる。
【0069】
溶媒は、例えば、有機溶剤などの非水溶媒を含有している。この非水溶媒としては、例えば、炭酸エチレン、炭酸プロピレン、炭酸ブチレン、炭酸ジメチル、炭酸ジエチル、炭酸エチルメチル、炭酸メチルプロピル、γ−ブチロラクトン、γ−バレロラクトン、1,2−ジメトキシエタン、テトラヒドロフラン、2−メチルテトラヒドロフラン、テトラヒドロピラン、1,3−ジオキソラン、4−メチル−1,3−ジオキソラン、1,3−ジオキサン、1,4−ジオキサン、酢酸メチル、酢酸エチル、プロピオン酸メチル、プロピオン酸エチル、酪酸メチル、イソ酪酸メチル、トリメチル酢酸メチル、トリメチル酢酸エチル、アセトニトリル、グルタロニトリル、アジポニトリル、メトキシアセトニトリル、3−メトキシプロピオニトリル、N,N−ジメチルホルムアミド、N−メチルピロリジノン、N−メチルオキサゾリジノン、N,N’−ジメチルイミダゾリジノン、ニトロメタン、ニトロエタン、スルホラン、燐酸トリメチル、ジメチルスルホキシドあるいはジメチルスルホキシド燐酸などが挙げられる。これらは単独で用いられてもよいし、複数種が混合されて用いられてもよい。中でも、溶媒は、炭酸エチレン、炭酸プロピレン、炭酸ジメチル、炭酸ジエチルおよび炭酸エチルメチルからなる群のうちの少なくとも1種を含有しているのが好ましい。十分なサイクル特性が得られるからである。この場合には、特に、炭酸エチレンあるいは炭酸プロピレンなどの高粘度(高誘電率)溶媒(例えば、比誘電率ε≧30)と、炭酸ジメチル、炭酸エチルメチルあるいは炭酸ジエチルなどの低粘度溶媒(例えば、粘度≦1mPa・s)とを混合して含有しているのが好ましい。電解質塩の解離性およびイオンの移動度が向上するため、より高い効果が得られるからである。
【0070】
この溶媒は、不飽和結合を有する環状炭酸エステルを含有しているのが好ましい。サイクル特性が向上するからである。溶媒中における不飽和結合を有する環状炭酸エステルの含有量は、1重量%以上10重量%以下の範囲内が好ましい。十分な効果が得られるからである。この不飽和結合を有する環状炭酸エステルとしては、例えば、炭酸ビニレンあるいは炭酸ビニルエチレンなどが挙げられる。これらは単独で用いられてもよいし、複数種が混合されて用いられてもよい。
【0071】
また、溶媒は、化6で表されるハロゲンを構成元素として有する鎖状炭酸エステルおよび化7で表されるハロゲンを構成元素として有する環状炭酸エステルからなる群のうちの少なくとも1種を含有しているのが好ましい。サイクル特性がより向上するからである。
【0072】
【化6】

(R11〜R16は水素基、ハロゲン基、アルキル基あるいはハロゲン化アルキル基であり、それらは互いに同一でもよいし異なってもよいが、それらのうちの少なくとも1つはハロゲン基あるいはハロゲン化アルキル基である。ただし、ハロゲンはフッ素、塩素および臭素からなる群のうちの少なくとも1種である。)
【0073】
【化7】

(R21〜R24は水素基、ハロゲン基、アルキル基あるいはハロゲン化アルキル基であり、それらは互いに同一でもよいし異なってもよいが、それらのうちの少なくとも1つはハロゲン基あるいはハロゲン化アルキル基である。ただし、ハロゲンはフッ素、塩素および臭素からなる群のうちの少なくとも1種である。)
【0074】
化6に示したハロゲンを有する鎖状炭酸エステルとしては、例えば、炭酸フルオロメチルメチル、炭酸ビス(フルオロメチル)あるいは炭酸ジフルオロメチルメチルなどが挙げられる。これらは単独で用いられてもよいし、複数種が混合されて用いられてもよい。中でも、炭酸ビス(フルオロメチル)が好ましい。十分な効果が得られるからである。特に、化7に示したハロゲンを有する環状炭酸エステルと一緒に用いることにより、より高い効果が得られる。
【0075】
化7に示したハロゲンを有する環状炭酸エステルとしては、例えば、化8および化9で表される一連の化合物が挙げられる。すなわち、化8に示した(1)の4−フルオロ−1,3−ジオキソラン−2−オン、(2)の4−クロロ−1,3−ジオキソラン−2−オン、(3)の4,5−ジフルオロ−1,3−ジオキソラン−2−オン、(4)のテトラフルオロ−1,3−ジオキソラン−2−オン、(5)の4−フルオロ−5−クロロ−1,3−ジオキソラン−2−オン、(6)の4,5−ジクロロ−1,3−ジオキソラン−2−オン、(7)のテトラクロロ−1,3−ジオキソラン−2−オン、(8)の4,5−ビストリフルオロメチル−1,3−ジオキソラン−2−オン、(9)の4−トリフルオロメチル−1,3−ジオキソラン−2−オン、(10)の4,5−ジフルオロ−4,5−ジメチル−1,3−ジオキソラン−2−オン、(11)の4−メチル−5,5−ジフルオロ−1,3−ジオキソラン−2−オン、(12)の4−エチル−5,5−ジフルオロ−1,3−ジオキソラン−2−オンなどである。また、化9に示した(1)の4−トリフルオロメチル−5−フルオロ−1,3−ジオキソラン−2−オン、(2)の4−トリフルオロメチル−5−メチル−1,3−ジオキソラン−2−オン、(3)の4−フルオロ−4,5−ジメチル−1,3−ジオキソラン−2−オン、(4)の4,4−ジフルオロ−5−(1,1−ジフルオロエチル)−1,3−ジオキソラン−2−オン、(5)の4,5−ジクロロ−4,5−ジメチル−1,3−ジオキソラン−2−オン、(6)の4−エチル−5−フルオロ−1,3−ジオキソラン−2−オン、(7)の4−エチル−4,5−ジフルオロ−1,3−ジオキソラン−2−オン、(8)の4−エチル−4,5,5−トリフルオロ−1,3−ジオキソラン−2−オン、(9)の4−フルオロ−4−トリフルオロメチル−1,3−ジオキソラン−2−オンなどである。これらは単独で用いられてもよいし、複数種が混合されて用いられてもよい。中でも、4−フルオロ−1,3−ジオキソラン−2−オンおよび4,5−ジフルオロ−1,3−ジオキソラン−2−オンのうちの少なくとも1種が好ましく、4,5−ジフルオロ−1,3−ジオキソラン−2−オンがより好ましい。容易に入手可能であると共に、より高い効果が得られるからである。特に、4,5−ジフルオロ−1,3−ジオキソラン−2−オンとしては、より高い効果を得るために、シス異性体よりもトランス異性体が好ましい。
【0076】
【化8】

【0077】
【化9】

【0078】
また、溶媒は、スルトン(環状スルホン酸エステル)や、酸無水物を含有しているのが好ましい。サイクル特性がより向上するからである。スルトンとしては、例えば、プロパンスルトンあるいはプロペンスルトンなどが挙げられる。これらは単独で用いられてもよいし、複数種が混合されて用いられてもよい。中でも、プロペンスルトンが好ましい。十分な効果が得られるからである。一方、酸無水物としては、例えば、無水コハク酸などのカルボン酸無水物や、無水エタンジスルホン酸などのジスルホン酸無水物や、無水スルホ安息香酸などのカルボン酸とスルホン酸との無水物などが挙げられる。これらは単独で用いられてもよいし、複数種が混合されて用いられてもよい。中でも、無水コハク酸あるいは無水スルホ安息香酸が好ましい。十分な効果が得られるからである。
【0079】
電解質塩は、例えば、リチウム塩などの軽金属塩の1種あるいは2種以上を含有している。このリチウム塩としては、例えば、六フッ化リン酸リチウム、四フッ化ホウ酸リチウム、過塩素酸リチウムおよび六フッ化ヒ酸リチウムからなる群のうちの少なくとも1種などが挙げられる。十分なサイクル特性が得られるからである。これらは単独で用いられてもよいし、複数種が混合されて用いられてもよい。中でも、六フッ化リン酸リチウムが好ましい。内部抵抗が低下するため、より高い効果が得られるからである。
【0080】
また、電解質塩は、化10、化11および化12で表される化合物からなる群のうちの少なくとも1種を含有しているのが好ましい。サイクル特性がより向上するからである。これらは単独で用いられてもよいし、複数種が混合されて用いられてもよい。特に、電解質塩が上記した六フッ化リン酸リチウム等と化10〜化12に示した化合物からなる群のうちの少なくとも1種とを含有していれば、より高い効果が得られる。
【0081】
【化10】

(X31は短周期型周期表における1A族元素あるいは2A族元素、またはアルミニウム(Al)である。M31は遷移金属元素、または短周期型周期表における3B族元素、4B族元素あるいは5B族元素である。R31はハロゲン基である。Y31は−OC−R32−CO−、−OC−CR332 −あるいは−OC−CO−である。ただし、R32はアルキレン基、ハロゲン化アルキレン基、アリーレン基あるいはハロゲン化アリーレン基である。R33はアルキル基、ハロゲン化アルキル基、アリール基あるいはハロゲン化アリール基であり、それは互いに同一でもよいし異なってもよい。なお、a3は1以上4以下の整数であり、b3は0、または2あるいは4の整数であり、c3、d3、m3およびn3は1以上3以下の整数である。)
【0082】
【化11】

(X41は短周期型周期表における1A族元素あるいは2A族元素である。M41は遷移金属元素、または短周期型周期表における3B族元素、4B族元素あるいは5B族元素である。Y41は−OC−(CR412 b4−CO−、−R432 C−(CR422 c4−CO−、−R432 C−(CR422 c4−CR432 −、−R432 C−(CR422 c4−SO2 −、−O2 S−(CR422 d4−SO2 −あるいは−OC−(CR422 d4−SO2 −である。ただし、R41およびR43は水素基、アルキル基、ハロゲン基あるいはハロゲン化アルキル基であり、それぞれは互いに同一でもよいし異なってもよいが、それぞれのうちの少なくとも1つはハロゲン基あるいはハロゲン化アルキル基である。R42は水素基、アルキル基、ハロゲン基あるいはハロゲン化アルキル基であり、それは互いに同一でもよいし異なってもよい。なお、a4、e4およびn4は1あるいは2の整数であり、b4およびd4は1以上4以下の整数であり、c4は0あるいは1以上4以下の整数であり、f4およびm4は1以上3以下の整数である。)
【0083】
【化12】

(X51は短周期型周期表における1A族元素あるいは2A族元素である。M51は遷移金属元素、または短周期型周期表における3B族元素、4B族元素あるいは5B族元素である。Rfはフッ素化アルキル基あるいはフッ素化アリール基であり、いずれの炭素数も1〜10である。Y51は−OC−(CR512 d5−CO−、−R522 C−(CR512 d5−CO−、−R522 C−(CR512 d5−CR522 −、−R522 C−(CR512 d5−SO2 −、−O2 S−(CR512 e5−SO2 −あるいは−OC−(CR512 e5−SO2 −である。ただし、R51は水素基、アルキル基、ハロゲン基あるいはハロゲン化アルキル基であり、それは互いに同一でもよいし異なってもよい。R52は水素基、アルキル基、ハロゲン基あるいはハロゲン化アルキル基であり、それは互いに同一でもよいし異なってもよいが、そのうちの少なくとも1つはハロゲン基あるいはハロゲン化アルキル基である。なお、a5、f5およびn5は1あるいは2の整数であり、b5、c5およびe5は1以上4以下の整数であり、d5は0あるいは1以上4以下の整数であり、g5およびm5は1以上3以下の整数である。)
【0084】
化10に示した化合物としては、例えば、化13の(1)〜(6)で表される化合物などが挙げられる。化11に示した化合物としては、例えば、化14の(1)〜(8)に示した化合物などが挙げられる。化12に示した化合物としては、例えば、化14の(9)に示した化合物などが挙げられる。これらは単独で用いられてもよいし、複数種が混合されて用いられてもよい。中でも、化10〜化12に示した化合物としては、化13の(6)あるいは化14の(2)に示した化合物が好ましい。十分な効果が得られるからである。なお、化10〜化12に示した構造を有する化合物であれば、化13あるいは化14に示した化合物に限定されないことは、言うまでもない。
【0085】
【化13】

【0086】
【化14】

【0087】
また、電解質塩は、化15、化16および化17で表される化合物からなる群のうちの少なくとも1種を含有しているのが好ましい。サイクル特性がより向上するからである。これらは単独で用いられてもよいし、複数種が混合されて用いられてもよい。特に、電解質塩が上記した六フッ化リン酸リチウム等と化15〜化17に示した化合物からなる群のうちの少なくとも1種とを含有していれば、より高い効果が得られる。
【0088】
【化15】

(mおよびnは1以上の整数であり、それらは互いに同一でもよいし異なってもよい。)
【0089】
【化16】

(R61は炭素数2以上4以下の直鎖状あるいは分岐状のパーフルオロアルキレン基である。)
【0090】
【化17】

(p、qおよびrは1以上の整数であり、それらは互いに同一でもよいし異なってもよい。)
【0091】
化15に示した鎖状の化合物としては、例えば、ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドリチウム(LiN(CF3 SO2 2 )、ビス(ペンタフルオロエタンスルホニル)イミドリチウム(LiN(C2 5 SO2 2 )、(トリフルオロメタンスルホニル)(ペンタフルオロエタンスルホニル)イミドリチウム(LiN(CF3 SO2 )(C2 5 SO2 ))、(トリフルオロメタンスルホニル)(ヘプタフルオロプロパンスルホニル)イミドリチウム(LiN(CF3 SO2 )(C3 7 SO2 ))あるいは(トリフルオロメタンスルホニル)(ノナフルオロブタンスルホニル)イミドリチウム(LiN(CF3 SO2 )(C4 9 SO2 ))などが挙げられる。これらは単独で用いられてもよいし、複数種が混合されて用いられてもよい。
【0092】
化16に示した環状の化合物としては、例えば、化18で表される一連の化合物などが挙げられる。すなわち、化18に示した(1)の1,2−パーフルオロエタンジスルホニルイミドリチウム、(2)の1,3−パーフルオロプロパンジスルホニルイミドリチウム、(3)の1,3−パーフルオロブタンジスルホニルイミドリチウム、(4)の1,4−パーフルオロブタンジスルホニルイミドリチウムなどである。これらは単独で用いられてもよいし、複数種が混合されて用いられてもよい。中でも、1,3−パーフルオロプロパンジスルホニルイミドリチウムが好ましい。十分な効果が得られるからである。
【0093】
【化18】

【0094】
化17に示した鎖状の化合物としては、例えば、リチウムトリス(トリフルオロメタンスルホニル)メチド(LiC(CF3 SO2 3 )などが挙げられる。
【0095】
電解質塩の含有量は、溶媒に対して0.3mol/kg以上3.0mol/kg以下の範囲内であるのが好ましい。この範囲外ではイオン伝導性が極端に低下するため、容量特性などが十分に得られないおそれがあるからである。
【0096】
この二次電池は、例えば、以下のようにして製造することができる。
【0097】
まず、正極集電体21Aの両面に正極活物質層21Bを形成して正極21を作製する。この場合には、正極活物質の粉末と、導電剤と、結着剤とを混合した正極合剤を溶剤に分散させることによりペースト状の正極合剤スラリーとし、その正極合剤スラリーを正極集電体21Aに塗布して乾燥させたのちに圧縮成型する。また、例えば、上記した負極の製造方法と同様の手順によって、負極集電体22Aの両面に負極活物質層22Bを形成したのち、その負極活物質層22Bに被膜22Cを形成することにより、負極22を作製する。
【0098】
続いて、正極集電体21Aに正極リード25を溶接して取り付けると共に、負極集電体22Aに負極リード26を溶接して取り付ける。続いて、正極21および負極22をセパレータ23を介して巻回させることにより巻回電極体20を形成し、正極リード25の先端部を安全弁機構15に溶接すると共に負極リード26の先端部を電池缶11に溶接したのち、巻回電極体20を一対の絶縁板12,13で挟みながら電池缶11の内部に収納する。続いて、電池缶11の内部に電解液を注入してセパレータ23に含浸させる。最後に、電池缶11の開口端部に電池蓋14、安全弁機構15および熱感抵抗素子16をガスケット17を介してかしめることにより固定する。これにより、図3および図4に示した二次電池が完成する。
【0099】
この二次電池では、充電を行うと、例えば、正極21からリチウムイオンが電解液に放出される。この際、被膜22Cが電解液の分解を抑制しつつ、放出されたリチウムイオンが効率よく被膜22Cを透過して負極活物質層22Bに吸蔵される。一方、放電を行うと、例えば、負極活物質層22Bからリチウムイオンが放出され、そのリチウムイオンが電解液を介して正極21に吸蔵される。
【0100】
この二次電池およびその製造方法によれば、負極22が上記した図1に示した負極と同様の構成を有していると共に、それが上記した負極の製造方法と同様の方法により作製されているので、サイクル特性を向上させることができる。
【0101】
特に、溶媒が、不飽和結合を有する環状炭酸エステルや、化6に示したハロゲンを有する鎖状炭酸エステルおよび化7に示したハロゲンを有する環状炭酸エステルからなる群のうちの少なくとも1種や、スルトンや、酸無水物を含有していれば、より高い効果を得ることができる。
【0102】
また、電解質塩が、化10〜化12に示した化合物からなる群のうちの少なくとも1種や、化15〜化17に示した化合物からなる群のうちの少なくとも1種を含有していれば、より高い効果を得ることができる。
【0103】
なお、図4に対応する図5に示したように、負極22が図2に示した負極と同様の構成を有していてもよい。この場合における負極22は、さらに、負極活物質層22Bと被膜22Cとの間に酸化物被膜22Dを有している。この酸化物被膜22Dの構成は、上記した酸化物被膜4の構成と同様である。この場合には、酸化物被膜22Dを有しない場合と比較して負極22の化学的安定性が向上するため、サイクル特性をより向上させることができる。
【0104】
(第2の電池)
図6は、第2の電池の分解斜視構成を表している。この電池は、正極リード31および負極リード32が取り付けられた巻回電極体30をフィルム状の外装部材40の内部に収容したものである。このフィルム状の外装部材40を用いた電池構造は、いわゆるラミネートフィルム型と呼ばれている。
【0105】
正極リード31および負極リード32は、例えば、それぞれ外装部材40の内部から外部に向かって同一方向に導出されている。正極リード31は、例えば、アルミニウムなどの金属材料により構成されている。また、負極リード32は、例えば、銅、ニッケルあるいはステンレスなどの金属材料により構成されている。正極リード31および負極リード32を構成するそれぞれの金属材料は、薄板状または網目状とされている。
【0106】
外装部材40は、例えば、ナイロンフィルム、アルミニウム箔およびポリエチレンフィルムがこの順に貼り合わされた矩形状のアルミラミネートフィルムにより構成されている。この外装部材40では、例えば、ポリエチレンフィルムが巻回電極体30と対向していると共に、各外縁部が融着あるいは接着剤により互いに密着されている。外装部材40と正極リード31および負極リード32との間には、外気の侵入を防止するための密着フィルム41が挿入されている。この密着フィルム41は、正極リード31および負極リード32に対して密着性を有する材料、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、変性ポリエチレンあるいは変性ポリプロピレンなどのポリオレフィン樹脂により構成されている。
【0107】
なお、外装部材40は、上記した3層構造のアルミラミネートフィルムに代えて、他の構造を有するラミネートフィルムにより構成されていてもよいし、またはポリプロピレンなどの高分子フィルムあるいは金属フィルムにより構成されていてもよい。
【0108】
図7は、図6に示した巻回電極体30のVII−VII線に沿った断面構成を表している。この電極巻回体30は、正極33および負極34がセパレータ35および電解質36を介して積層されたのちに巻回されたものであり、その最外周部は保護テープ37により保護されている。
【0109】
図8は、図7に示した巻回電極体30の一部を拡大して表している。正極33は、正極集電体33Aの両面に正極活物質層33Bが設けられたものである。負極34は、例えば、図1に示した負極と同様の構成を有しており、負極集電体34Aの両面に負極活物質層34Bおよび被膜34Cが設けられたものである。正極集電体33A、正極活物質層33B、負極集電体34A、負極活物質層34B、被膜34Cおよびセパレータ35の構成は、それぞれ上記した第1の電池における正極集電体21A、正極活物質層21B、負極集電体22A、負極活物質層22B、被膜22Cおよびセパレータ23の構成と同様である。
【0110】
電解質36は、電解液と、それを保持する高分子化合物とを含んでおり、いわゆるゲル状になっている。ゲル状の電解質は、高いイオン伝導率(例えば、室温で1mS/cm以上)を得ることができると共に電池の漏液を防止することができるので好ましい。
【0111】
高分子化合物としては、例えば、例えば、ポリエチレンオキサイドあるいはポリエチレンオキサイドを含む架橋体などのエーテル系高分子化合物や、ポリメタクリレートなどのエステル系高分子化合物あるいはアクリレート系高分子化合物や、ポリフッ化ビニリデンあるいはフッ化ビニリデンとヘキサフルオロプロピレンとの共重合体などのフッ化ビニリデンの重合体などが挙げられる。これらは、単独で用いられてもよいし、複数種が混合されて用いられてもよい。特に、酸化還元安定性の点から、フッ化ビニリデンの重合体などのフッ素系高分子化合物などを用いるのが好ましい。電解液中における高分子化合物の添加量は、両者の相溶性によっても異なるが、一例としては5質量%以上50質量%以下の範囲であるのが好ましい。
【0112】
電解液の構成は、上記した第1の電池における電解液の構成と同様である。ただし、この場合の溶媒とは、液状の溶媒だけでなく、電解質塩を解離させることが可能なイオン伝導性を有するものまで含む広い概念である。したがって、イオン伝導性を有する高分子化合物を用いる場合には、その高分子化合物も溶媒に含まれる。
【0113】
なお、電解液を高分子化合物に保持させた電解質36に代えて、電解液をそのまま用いてもよい。この場合には、電解液がセパレータ35に含浸される。
【0114】
この二次電池は、例えば、以下の3種類の製造方法によって製造することができる。
【0115】
第1の製造方法では、まず、第1の電池の製造方法と同様の手順によって正極集電体33Aの両面に正極活物質層33Bを形成することにより、正極33を作製する。また、例えば、上記した負極の製造方法と同様の手順によって負極集電体34Aの両面に負極活物質層34Bおよび被膜34Cを形成することにより、負極34を作製する。
【0116】
続いて、電解液と、高分子化合物と、溶剤とを含む前駆溶液を調製し、正極33および負極34に塗布したのちに溶剤を揮発させることにより、ゲル状の電解質36を形成する。続いて、正極集電体33Aおよび負極集電体34Aにそれぞれ正極リード31および負極リード32を取り付ける。続いて、電解質36が設けられた正極33および負極34をセパレータ35を介して積層させたのちに長手方向に巻回し、その最外周部に保護テープ37を接着させることにより、巻回電極体30を形成する。続いて、例えば、2枚のフィルム状の外装部材40の間に巻回電極体30を挟み込んだのち、その外装部材40の外縁部同士を熱融着などで接着させることにより巻回電極体30を封入する。その際、正極リード31および負極リード32と外装部材40との間に、密着フィルム41を挿入する。これにより、図6〜図8に示した二次電池が完成する。
【0117】
第2の製造方法では、まず、正極33および負極34にそれぞれ正極リード31および負極リード32を取り付けたのち、正極33および負極34をセパレータ35を介して積層して巻回させると共に最外周部に保護テープ37を接着させることにより、巻回電極体30の前駆体である巻回体を形成する。続いて、2枚のフィルム状の外装部材40の間に巻回体を挟み込んだのち、一辺の外周縁部を除いた残りの外周縁部を熱融着などで接着させることにより袋状の外装部材40の内部に収納する。続いて、電解液と、高分子化合物の原料であるモノマーと、重合開始剤と、必要に応じて重合禁止剤などの他の材料とを含
む電解質用組成物を調製し、袋状の外装部材40の内部に注入したのち、外装部材40の開口部を熱融着などで密封する。最後に、モノマーを熱重合させて高分子化合物とすることにより、ゲル状の電解質36を形成する。これにより、二次電池が完成する。
【0118】
第3の製造方法では、高分子化合物が両面に塗布されたセパレータ35を用いることを除き、上記した第1の製造方法と同様に、巻回体を形成して袋状の外装部材40の内部に収納する。このセパレータ35に塗布する高分子化合物としては、例えば、フッ化ビニリデンを成分とする重合体、すなわち単独重合体、共重合体あるいは多元共重合体などが挙げられる。具体的には、ポリフッ化ビニリデンや、フッ化ビニリデンおよびヘキサフルオロプロピレンを成分とする二元系共重合体や、フッ化ビニリデン、ヘキサフルオロプロピレンおよびクロロトリフルオロエチレンを成分とする三元系共重合体などである。なお、高分子化合物は、上記したフッ化ビニリデンを成分とする重合体と共に、他の1種あるいは2種以上の高分子化合物を含んでいてもよい。続いて、電解液を調製して外装部材40の内部に注入したのち、その外装部材40の開口部を熱融着などで密封する。最後に、外装部材40に加重をかけながら加熱し、高分子化合物を介してセパレータ35を正極33および負極34に密着させる。これにより、電解液が高分子化合物に含浸し、その高分子化合物がゲル化して電解質36が形成されるため、二次電池が完成する。この第3の製造方法では、第1の製造方法と比較して、膨れ特性が改善される。また、第3の製造方法では、第2の製造方法と比較して、高分子化合物の原料であるモノマーや溶媒などが電解質36中にほとんど残らず、しかも高分子化合物の形成工程が良好に制御されるため、正極33、負極34およびセパレータ35と電解質36との間において十分な密着性が得られる。
【0119】
この二次電池では、上記した第1の電池の同様に、正極33と負極34との間でリチウムイオンが吸蔵および放出される。すなわち、充電を行うと、例えば、正極33からリチウムイオンが放出され、電解質36を介して負極34に吸蔵される。一方、放電を行うと、負極34からリチウムイオンが放出され、電解質36を介して正極33に吸蔵される。
【0120】
この二次電池およびその製造方法による作用および効果は、上記した第1の電池と同様である。
【0121】
なお、図8に対応する図9に示したように、負極34が図2に示した負極と同様の構成を有していてもよい。この場合における負極34は、さらに、負極活物質層34Bと被膜34Cとの間に酸化物被膜34Dを有している。この酸化物被膜34Dの構成は、上記した酸化物被膜4の構成と同様である。この場合においても、サイクル特性をより向上させることができる。
【0122】
(第3の電池)
図10は、第3の電池の分解斜視構成を表している。この電池は、正極51を外装缶54に貼り付けると共に負極52を外装カップ55に収容し、それらを電解液が含浸されたセパレータ53を介して積層したのちにガスケット56を介してかしめたものである。この外装缶54および外装カップ55を用いた電池構造は、いわゆるコイン型と呼ばれている。
【0123】
正極51は、正極集電体51Aの一面に正極活物質層51Bが設けられたものである。負極52は、正極集電体52Aの一面に負極活物質層52Bおよび被膜52Cが設けられたものである。正極集電体51A、正極活物質層51B、負極集電体52A、負極活物質層52B、被膜52Cおよびセパレータ53の構成は、それぞれ上記した第1の電池における正極集電体21A、正極活物質層21B、負極集電体22A、負極活物質層22B、被膜22Cおよびセパレータ23の構成と同様である。
【0124】
この二次電池では、上記した第1の電池の同様に、正極51と負極52との間でリチウムイオンが吸蔵および放出される。すなわち、充電を行うと、例えば、正極51からリチウムイオンが放出され、電解液を介して負極52に吸蔵される。一方、放電を行うと、負極52からリチウムイオンが放出され、電解液を介して正極51に吸蔵される。
【0125】
このコイン型の二次電池およびその製造方法による作用および効果は、上記した第1の電池と同様である。
【0126】
なお、図10に対応する図11に示したように、負極52が図2に示した負極と同様の構成を有していてもよい。この場合における負極52は、さらに、負極活物質層52Bと被膜52Cとの間に酸化物被膜52Dを有している。この酸化物被膜52Dの構成は、上記した酸化物被膜4の構成と同様である。この場合においても、サイクル特性をより向上させることができる。
【実施例】
【0127】
本発明の具体的な実施例について詳細に説明する。
【0128】
(実施例1−1)
負極活物質としてケイ素を用いて、図10に示したコイン型の二次電池を作製した。この際、負極52の容量がリチウムの吸蔵および放出に基づく容量成分により表されるリチウムイオン二次電池となるようにした。
【0129】
まず、正極51を作製した。この場合には、炭酸リチウム(Li2 CO3 )と炭酸コバルト(CoCO3 )とを0.5:1のモル比で混合したのち、空気中において900℃で5時間焼成することにより、リチウム・コバルト複合酸化物(LiCoO2 )を得た。続いて、正極活物質としてリチウム・コバルト複合酸化物91質量部と、導電剤としてグラファイト6質量部と、結着剤としてポリフッ化ビニリデン3質量部とを混合して正極合剤としたのち、N−メチル−2−ピロリドンに分散させることにより、ペースト状の正極合剤スラリーとした。続いて、アルミニウム箔(20μm厚)からなる正極集電体51Aに正極合剤スラリーを塗布して乾燥させたのち、ロールプレス機で圧縮成型することにより、正極活物質層51Bを形成した。最後に、正極活物質層51Bが形成された正極集電体51Aを直径15.5mmのペレットとなるように打ち抜いた。
【0130】
続いて、負極52を作製した。この場合には、銅箔(10μm厚)からなる負極集電体52Aに、電子ビーム蒸着法によりケイ素を蒸着して負極活物質層52Bを形成したのち、直径16mmのペレットとなるように打ち抜いた。こののち、化5に示した化合物である六フッ化ジルコニウム酸二リチウム(Li2 ZrF6 )を含む溶液として3質量%水溶液を準備し、その溶液にペレットを数秒間浸漬したのちに引き上げて乾燥させることにより、被膜52Cを形成した。
【0131】
続いて、正極51と負極52と微多孔性ポリプロピレンフィルムからなるセパレータ53とを正極活物質層51Bと負極活物質層52Bとがセパレータ53を介して対向するように積層したのち、外装缶54に収容した。こののち、電解液を注入し、ガスケット56を介して外装カップ55を被せてかしめることにより、コイン型の二次電池が完成した。
【0132】
電解液としては、溶媒として炭酸エチレン(EC)と炭酸ジエチル(DEC)とを混合した混合溶媒を用い、電解質塩として六フッ化リン酸リチウム(LiPF6 )を用いた。この際、混合溶媒の組成を重量比でEC:DEC=30:70とし、電解液中における六フッ化リン酸リチウムの濃度を1mol/kgとした。
【0133】
(実施例1−2〜1−4)
化5に示した化合物として六フッ化ジルコニウム酸二リチウムに代えて、六フッ化ジルコニウム酸二ナトリウム(Na2 ZrF6 :実施例1−2)、六フッ化ジルコニウム酸二アンモニウム((NH4 2 ZrF6 :実施例1−3)、あるいは六フッ化チタン酸二リチウム(Li2 TiF6 :実施例1−4)を用いたことを除き、実施例1−1と同様の手順を経た。
【0134】
(実施例1−5)
溶媒として炭酸プロピレン(PC)を加え、混合溶媒の組成を変更したことを除き、実施例1−1と同様の手順を経た。この際、混合溶媒の組成を重量比でEC:PC:DEC=10:20:70とした。
【0135】
(実施例1−6,1−7)
溶媒としてPCおよび炭酸ビニレン(VC)を加え、混合溶媒の組成を変更したことを除き、実施例1−1と同様の手順を経た。この際、混合溶媒の組成を重量比でEC:PC:DEC:VC=10:19:70:1(実施例1−6)、あるいはEC:PC:DEC:VC=10:10:70:10(実施例1−7)とした。
【0136】
(比較例1)
被膜52Cを形成しなかったことを除き、実施例1−1と同様の手順を経た。
【0137】
これらの実施例1−1〜1−7および比較例1の二次電池についてサイクル特性を調べたところ、表1に示した結果が得られた。
【0138】
サイクル特性を調べる際には、以下の手順よって二次電池を繰り返し充放電させることにより、放電容量維持率を求めた。まず、23℃の雰囲気中において2サイクル充放電させることにより、2サイクル目の放電容量を測定した。続いて、同雰囲気中においてサイクル数の合計が100サイクルとなるまで充放電させることにより、100サイクル目の放電容量を測定した。最後に、放電容量維持率(%)=(100サイクル目の放電容量/2サイクル目の放電容量)×100を算出した。1サイクルの充放電条件としては、1mA/cm2 の定電流密度で電池電圧が4.2Vに達するまで充電し、さらに4.2Vの定電圧で電流密度が0.02mA/cm2 に達するまで充電したのち、1mA/cm2 の定電流密度で電池電圧が2.5Vに達するまで放電した。
【0139】
なお、上記したサイクル特性を調べる際の手順および条件は、以降の一連の実施例および比較例についても同様である。
【0140】
【表1】

【0141】
表1に示したように、被膜52Cを形成した実施例1−1〜1−7では、それを形成しなかった比較例1よりも放電容量維持率が高くなった。
【0142】
この場合には、被膜52Cを構成する化合物の種類に着目すると、化5に示したMが非金属(アンモニウム)である実施例1−3よりも金属(リチウム等)である実施例1−1,1−2,1−4において放電容量維持率が高くなり、中でもリチウムである実施例1−1,1−4においてより高くなる傾向を示した。このことから、負極52が負極活物質としてケイ素(電子ビーム蒸着法)を含むコイン型の二次電池では、化5に示した化合物を含む被膜52Cを設けることによりサイクル特性が向上すると共に、化5に示したMが金属である場合においてより高い効果が得られ、リチウムである場合においてさらに高い効果が得られることが確認された。
【0143】
また、溶媒の種類に着目すると、PCやVCを加えた実施例1−5〜1−7において、それらを加えなかった実施例1−1よりも放電容量維持率が高くなる傾向を示した。特に、PCだけを加えた実施例1−5よりもPCおよびVCを加えた実施例1−6,1−7において放電容量維持率がより高くなり、さらにVCの含有量が多いほど高くなった。このことから、電解液が溶媒として不飽和結合を有する環状炭酸エステルを含有することによりサイクル特性がより向上すると共に、その含有量が多いほどさらに高い効果が得られることが確認された。
【0144】
(実施例2−1)
溶媒としてECに代えて4−フルオロ−1,3−ジオキソラン−2−オン(FEC)を用いたことを除き、実施例1−1と同様の手順を経た。
【0145】
(実施例2−2〜2−6)
化5に示した化合物として六フッ化ジルコニウム酸二リチウムに代えて、六フッ化ケイ素酸二リチウム(Li2 SiF6 :実施例2−2)、六フッ化ゲルマニウム酸二リチウム(Li2 GeF6 :実施例2−3)、六フッ化スズ酸二リチウム(Li2 SnF6 :実施例2−4)、七フッ化タンタル酸二リチウム(Li2 TaF7 :実施例2−5)、あるいは四フッ化コバルト酸リチウム(LiCoF4 :実施例2−6)を用いたことを除き、実施例2−1と同様の手順を経た。
【0146】
(実施例2−7)
化5に示した化合物を含む溶液にアルカリ金属塩としてフッ化リチウム(LiF)を加え、その溶液を用いて被膜52Cを形成したことを除き、実施例2−1と同様の手順を経た。この被膜52Cを形成する際には、六フッ化ジルコニウム酸二リチウムの3質量%水溶液にフッ化リチウムを飽和するまで溶解させたのち、その溶液にペレットを浸漬させた。
【0147】
(実施例2−8)
図11に示したように、負極活物質層52Bと被膜52Cとの間に酸化物被膜52Dを形成したことを除き、実施例2−1と同様の手順を経た。この酸化物被膜52Dを形成する際には、ケイフッ化水素酸にアニオン捕捉剤としてホウ酸を溶解させた溶液を準備し、その溶液にペレットを3時間浸漬して負極活物質層52Bの表面に酸化ケイ素(SiO2 )を析出させたのち、水洗してから減圧乾燥させた。
【0148】
(実施例2−9)
溶媒として4,5−ジフルオロ−1,3−ジオキソラン−2−オン(DFEC)を加え、混合溶媒の組成を変更したことを除き、実施例1−5と同様の手順を経た。この際、混合溶媒の組成を重量比でEC:PC:DEC:DFEC=10:10:70:10とした。
【0149】
(実施例2−10)
溶媒としてDFECを加え、混合溶媒の組成を変更したことを除き、実施例1−1と同様の手順を経た。この際、混合溶媒の組成を重量比でEC:DEC:DFEC=10:70:20とした。
【0150】
(実施例2−11)
溶媒として炭酸ビス(フルオロメチル)(DFDMC)を加え、混合溶媒の組成を変更したことを除き、実施例2−1と同様の手順を経た。この際、混合溶媒の組成を重量比でDEC:FEC:DFDMC=65:30:5とした。
【0151】
(比較例2−1)
被膜52Cを形成しなかったことを除き、実施例2−1と同様の手順を経た。
【0152】
(比較例2−2)
六フッ化ジルコニウム酸二リチウムを含む被膜52Cを形成する代わりに、その六フッ化ジルコニウム酸二リチウムを電解液に加えたことを除き、実施例2−1と同様の手順を経た。電解液に六フッ化ジルコニウム酸二リチウムを加える際には、その電解液中における濃度が1重量%となるまで溶解させようとしたが溶解しきらなかったため、溶解後の上澄み液を電解液として用いた。
【0153】
(比較例2−3)
被膜52Cを形成しなかったことを除き、実施例2−10と同様の手順を経た。
【0154】
これらの実施例2−1〜2−11および比較例2−1〜2−3の二次電池についてサイクル特性を調べたところ、表2に示した結果が得られた。なお、表2には、実施例1−1,1−5の放電容量維持率も併せて示した。
【0155】
【表2】

【0156】
表2に示したように、被膜52Cを形成した実施例2−1〜2−11では、それを形成しなかった比較例2−1〜2−3よりも放電容量維持率が高くなった。
【0157】
この場合には、溶媒の種類に着目すると、FEC、DFECあるいはDFDMCを加えた実施例2−1〜2−6,2−9〜2−11において、それらを加えなかった実施例1−1,1−5よりも放電容量維持率が高くなる傾向を示した。このことから、電解液が溶媒としてハロゲンを有する環状炭酸エステルやハロゲンを有する鎖状炭酸エステルを含有することにより、サイクル特性がより向上することが確認された。
【0158】
また、被膜52Cの組成に着目すると、六フッ化ジルコニウム酸二リチウムと共にフッ化リチウムを含む実施例2−7において、六フッ化ジルコニウム酸二リチウムだけを含む実施例2−1よりも放電容量維持率が高くなる傾向を示した。このことから、被膜52Cが化5に示した化合物と共にアルカリ金属塩を含むことにより、サイクル特性がより向上することが確認された。
【0159】
さらに、酸化物被膜52Dの有無に着目すると、その酸化物被膜52Dとして酸化ケイ素を形成した実施例2−8において、それを形成しなかった実施例2−1よりも放電容量維持率が高くなり、さらに被膜52Cが六フッ化ジルコニウム酸二リチウムと共にフッ化リチウムを含む実施例2−7よりも高くなる傾向を示した。このことから、負極活物質層52Bと被膜52Cとの間に酸化物被膜52Dを設けることにより、サイクル特性が著しく向上することが確認された。
【0160】
特に、二次電池に六フッ化ジルコニウム酸二リチウムを適用する方法に着目すると、被膜52Cに適用した実施例2−1において、電解液に適用した比較例2−2よりも放電容量維持率が大幅に高くなる傾向を示した。この結果は、負極52の化学的安定性を向上させる機能や溶解性などの面から、六フッ化ジルコニウム酸二リチウムを液体状態で利用するよりも固体(被膜)状態で利用する方が極めて有利であることを表している。このことから、化5に示した化合物を被膜52Cとして利用することにより、サイクル特性が著しく向上することが確認された。
【0161】
なお、ここでは化5に示したAがスカンジウム、セリウム、ハフニウム、バナジウム、ニオブ、モリブデン、タングステン、マンガン、鉄、ニッケル、銅、亜鉛、アルミニウム、ガリウム、インジウム、アンチモンあるいはビスマスである場合について放電容量維持率を示していないが、その場合についても放電容量維持率を調べたところ、やはりサイクル特性が向上する結果が得られた。
【0162】
(実施例3−1〜3−3)
溶媒として、スルトンであるプロペンスルトン(PRS:実施例3−1)、酸無水物である無水コハク酸(SCAH:実施例3−2)、あるいは酸無水物である無水スルホ安息香酸(SBAH:実施例3−3)を加えたことを除き、実施例2−1と同様の手順を経た。この際、電解液中における濃度をいずれも1重量%とした。
【0163】
これらの実施例3−1〜3−3の二次電池についてサイクル特性を調べたところ、表3に示した結果が得られた。なお、表3には、実施例2−1の放電容量維持率も併せて示した。
【0164】
【表3】

【0165】
表3に示したように、溶媒としてPRS、SCAHあるいはSBAHを加えた実施例3−1〜3−3では、それらを加えなかった実施例2−1よりも放電容量維持率が高くなった。このことから、電解液が溶媒としてスルトンあるいは酸無水物を含有することにより、サイクル特性がより向上することが確認された。
【0166】
(実施例4−1,4−2)
電解質塩として、化13(6)に示した化合物(実施例4−1)あるいは化14(2)に示した化合物(実施例4−2)を加えたことを除き、実施例1−1と同様の手順を経た。この際、電解液中における六フッ化リン酸リチウムの濃度を0.9mol/kgとし、加えた化合物の濃度を0.1mol/kgとした。
【0167】
(実施例4−3,4−4)
電解質塩として、四フッ化ホウ酸リチウム(LiBF4 :実施例4−3)あるいは化18(2)に示した化合物(実施例4−4)を加えたことを除き、実施例2−1と同様の手順を経た。この際、電解液中における六フッ化リン酸リチウムの濃度を0.9mol/kgとし、加えた四フッ化ホウ酸リチウム等の濃度を0.1mol/kgとした。
【0168】
これらの実施例4−1〜4−4の二次電池についてサイクル特性を調べたところ、表4に示した結果が得られた。なお、表4には、実施例1−1,2−1の放電容量維持率も併せて示した。
【0169】
【表4】

【0170】
表4に示したように、電解質塩として化13(6)に示した化合物等を加えた実施例4−1〜4−4では、それらを加えなかった実施例1−1,2−1よりも放電容量維持率が高くなった。このことから、電解液が電解質塩として化10に示した化合物、化11に示した化合物、四フッ化ホウ酸リチウムあるいは化16に示した化合物を含有することにより、サイクル特性がより向上することが確認された。
【0171】
なお、ここでは電解液が電解質塩として過塩素酸リチウム、六フッ化ヒ酸リチウム、化12に示した化合物、化15に示した化合物あるいは化17に示した化合物を含有する場合について放電容量維持率を示していないが、その場合についても放電容量維持率を調べたところ、やはりサイクル特性が向上する結果が得られた。
【0172】
(実施例5)
蒸着法に代えて焼結法により負極活物質層52Bを形成したことを除き、実施例1−1と同様の手順を経た。この負極活物質層52Bを形成する際には、まず、負極活物質として平均粒径1μmのケイ素粉末90質量部と、結着剤としてポリフッ化ビニリデン10質量部とを混合して負極合剤としたのち、N−メチル−2−ピロリドンに分散させることにより、ペースト状の負極合剤スラリーとした。こののち、銅箔(18μm厚)からなる負極集電体52Aに負極合剤スラリーを均一に塗布して乾燥させてから加圧し、真空雰囲気下において400℃で12時間加熱した。
【0173】
(比較例5)
被膜52Cを形成しなかったことを除き、実施例5と同様の手順を経た。
【0174】
これらの実施例5および比較例5の二次電池についてサイクル特性を調べたところ、表5に示した結果が得られた。
【0175】
【表5】

【0176】
表5に示したように、被膜52Cを形成した実施例5では、それを形成しなかった比較例5よりも放電容量維持率が高くなった。このことから、負極52が負極活物質としてケイ素(焼結法)を含むコイン型の二次電池では、化5に示した化合物を含む被膜52Cを設けることにより、サイクル特性が向上することが確認された。
【0177】
(実施例6)
負極活物質としてケイ素に代えてスズ・コバルト・炭素(SnCoC)含有材料を用いて負極活物質層52Bを形成したことを除き、実施例1−1と同様の手順を経た。この負極活物質層52Bを形成する際には、まず、負極活物質としてSnCoC含有材料80質量部と、導電剤としてグラファイト11質量部およびアセチレンブラック1質量部と、結着剤としてポリフッ化ビニリデン8質量部とを混合して負極合剤としたのち、N−メチル−2−ピロリドンに分散させることにより、ペースト状の負極合剤スラリーとした。こののち、銅箔(10μm厚)からなる負極集電体52Aに負極合剤スラリーを均一に塗布し、乾燥させてから圧縮成型した。
【0178】
この場合には、スズ・コバルト・インジウム合金粉末と炭素粉末とを混合したのち、メカノケミカル反応を利用してSnCoC含有材料を合成した。得られたSnCoC含有材料の組成を分析したところ、スズの含有量は48質量%、コバルトの含有量は23質量%、炭素の含有量は20質量%、スズとコバルトとの合計に対するコバルトの割合Co/(Sn+Co)は32.4質量%であった。この際、炭素の含有量については炭素・硫黄分析装置により測定し、スズおよびコバルトの含有量についてはICP(Inductively Coupled Plasma:誘導結合プラズマ)発光分析により測定した。また、得られたSnCoC含有材料をX線回折により分析したところ、回折角2θ=20°〜50°の間に、回折角2θが1.0°以上の広い半値幅を有する回折ピークが観察された。さらに、SnCoC含有材料をXPSにより分析したところ、図12に示したように、ピークP1が得られた。このピークP1を解析すると、表面汚染炭素のピークP2と、それよりも低エネルギー側にSnCoC含有材料中におけるC1sのピークP3とが得られた。このピークP3は、284.5eVよりも低い領域に得られた。すなわち、SnCoC含有材料中の炭素が他の元素と結合していることが確認された。
【0179】
(比較例6)
被膜52Cを形成しなかったことを除き、実施例6と同様の手順を経た。
【0180】
これらの実施例6および比較例6の二次電池についてサイクル特性を調べたところ、表6に示した結果が得られた。
【0181】
【表6】

【0182】
表6に示したように、被膜52Cを形成した実施例6では、それを形成しなかった比較例6よりも放電容量維持率が高くなった。このことから、負極52が負極活物質としてスズ・コバルト・炭素含有材料を含むコイン型の二次電池では、化5に示した化合物を含む被膜52Cを設けることにより、サイクル特性が向上することが確認された。
【0183】
(実施例7)
電池構造をコイン型に代えて、図3および図5に示した円筒型としたことを除き、実施例2−8と同様の手順を経た。この円筒型の二次電池を作製する際には、まず、正極集電体21Aに正極活物質層21Bを形成して正極21を作製すると共に、負極集電体22Aに負極活物質層22B、酸化物被膜22Dおよび被膜22Cを形成して負極22を作製したのち、それぞれに正極リード25および負極リード26を取り付けた。続いて、微多孔性ポリプロピレンフィルム(25μm厚)からなるセパレータ23を用意し、負極22、セパレータ23、正極21およびセパレータ23をこの順に積層したのち、その積層体を多数回巻回することにより、巻回電極体20を作製した。続いて、巻回電極体20を一対の絶縁板12,13で挟み、負極リード26を電池缶11に溶接すると共に正極リード25を安全弁機構15に溶接したのち、ニッケルめっきが施された鉄製の電池缶11の内部に巻回電極体20を収納した。最後に、電池缶11の内部に電解液を減圧方式によって注入することにより、円筒型の二次電池を作製した。
【0184】
(比較例7)
被膜22Cを形成しなかったことを除き、実施例7と同様の手順を経た。
【0185】
これらの実施例7および比較例7の二次電池についてサイクル特性を調べたところ、表7に示した結果が得られた。
【0186】
【表7】

【0187】
表7に示したように、被膜22Cを形成した実施例7では、それを形成しなかった比較例7よりも放電容量維持率が高くなった。この結果は、放電容量維持率を高くするためには、酸化物被膜22Dを形成しただけでは足りず、その酸化物被膜22Dと共に被膜22Cを形成しなければならないことを表している。このことから、円筒型の二次電池においても、化5に示した化合物を含む被膜22Cを設けることにより、サイクル特性が向上することが確認された。
【0188】
(実施例8−1〜8−7)
電池構造をコイン型に代えて、図6および図7に示したラミネートフィルム型としたことを除き、実施例1−1〜1−7と同様の手順を経た。このラミネートフィルム型の二次電池を作製する際には、まず、正極集電体33A(12μm厚)に正極活物質層33Bを形成して正極33を作製すると共に、負極集電体34Aに負極活物質層34Bおよび被膜34Cを形成して負極34を作製したのち、それぞれに正極リード31および負極リード32を取り付けた。続いて、フッ化ビニリデンと六フッ化プロピレンとを共重合させたポリフッ化ビニリデン系ポリマーをN−メチルピロリドンに溶解させたのち、多孔質ポリエチレンからなるセパレータ35の両面に塗布した。この際、フッ化ビニリデンの共重合量を93重量%とし、六フッ化プロピレンの共重合量を7重量%とした。続いて、正極33と、ポリフッ化ビニリデン系ポリマーが塗布されたセパレータ35と、負極34とをこの順に積層し、長手方向に多数回巻回させたのち、ラミネートフィルムからなる外装部材40に収納した。最後に、外装部材40の内部に電解液を減圧方式によって注入することにより、ラミネートフィルム型の二次電池が完成した。
【0189】
(比較例8)
被膜34Cを形成しなかったことを除き、実施例8−1と同様の手順を経た。
【0190】
これらの実施例8−1〜8−7および比較例8の二次電池についてサイクル特性を調べたところ、表8に示した結果が得られた。
【0191】
【表8】

【0192】
表8に示したように、表1の結果と同様の傾向が得られた。すなわち、被膜34Cを形成した実施例8−1〜8−7では、それを形成しなかった比較例8よりも放電容量維持率が高くなった。この場合には、化5に示したMが非金属である場合よりも金属である場合において放電容量維持率が高くなり、中でもリチウムである場合においてより高くなる傾向を示した。また、PCやVCを加えた場合において、それらを加えなかった場合よりも放電容量維持率が高くなり、特に、PCだけを加えた場合よりもPCおよびVCを加えた場合においてより高くなり、さらにVCの含有量が多いほど高くなった。このことから、負極34が負極活物質としてケイ素(電子ビーム蒸着法)を含むラミネートフィルム型の二次電池では、化5に示した化合物を含む被膜34Cを設けることによりサイクル特性が向上すると共に、化5に示したMが金属である場合においてより高い効果が得られ、リチウムである場合においてさらに高い効果が得られることが確認された。
【0193】
(実施例9−1〜9−11)
実施例8−1〜8−7と同様にラミネートフィルム型の二次電池を作製したことを除き、実施例2−1〜2−11と同様の手順を経た。
【0194】
(比較例9−1〜9−3)
実施例8−1〜8−7と同様にラミネートフィルム型の二次電池を作製したことを除き、比較例2−1〜2−3と同様の手順を経た。
【0195】
これらの実施例9−1〜9−11および比較例9−1〜9−3の二次電池についてサイクル特性を調べたところ、表9に示した結果が得られた。なお、表9には、実施例8−1,8−5の放電容量維持率も併せて示した。
【0196】
【表9】

【0197】
表9に示したように、表2の結果と同様の傾向が得られた。すなわち、被膜34Cを形成した実施例9−1〜9−11では、それを形成しなかった比較例9−1〜9−3よりも放電容量維持率が高くなった。この場合には、溶媒としてFEC、DFECあるいはDFDMCを加えた場合において、それらを加えなかった場合よりも放電容量維持率が高くなる傾向を示した。また、被膜34Cが六フッ化ジルコニウム酸二リチウムと共にフッ化リチウムを含む場合において、六フッ化ジルコニウム酸二リチウムだけを含む場合よりも放電容量維持率が高くなる傾向を示した。さらに、酸化物被膜52Dとして酸化ケイ素を形成した場合において、それを形成しなかった場合よりも放電容量維持率が高くなる傾向を示した。加えて、六フッ化ジルコニウム酸二リチウムを被膜34Cに適用した場合において、電解液に適用した場合よりも放電容量維持率が大幅に高くなる傾向を示した。これらのことから、電解液が溶媒としてハロゲンを有する環状炭酸エステルやハロゲンを有する鎖状炭酸エステルを含有し、被膜34Cが化5に示した化合物と共にアルカリ金属塩を含み、負極活物質層34Bと被膜34Cとの間に酸化物被膜34Dを設けることにより、サイクル特性がより向上することが確認された。また、化5に示した化合物を被膜34Cとして利用することにより、サイクル特性が著しく向上することが確認された。
【0198】
(実施例10−1〜10−3)
実施例8−1〜8−7と同様にラミネートフィルム型の二次電池を作製したことを除き、実施例3−1〜3−3と同様の手順を経た。
【0199】
これらの実施例10−1〜10−3の二次電池についてサイクル特性を調べたところ、表10に示した結果が得られた。なお、表10には、実施例9−1の放電容量維持率も併せて示した。
【0200】
【表10】

【0201】
表10に示したように、表3の結果と同様の傾向が見られた。すなわち、溶媒としてPRS等を加えた実施例10−1〜10−3では、それらを加えなかった実施例9−1よりも放電容量維持率が高くなった。このことから、電解液が溶媒としてスルトンあるいは酸無水物を含有することにより、サイクル特性がより向上することが確認された。
【0202】
(実施例11−1〜11−4)
実施例8−1〜8−7と同様にラミネートフィルム型の二次電池を作製したことを除き、実施例4−1〜4−4と同様の手順を経た。
【0203】
これらの実施例11−1〜11−4の二次電池についてサイクル特性を調べたところ、表11に示した結果が得られた。なお、表11には、実施例8−1,9−1の放電容量維持率も併せて示した。
【0204】
【表11】

【0205】
表11に示したように、表4の結果と同様の傾向が得られた。すなわち、電解質塩として化13(6)に示した化合物等を加えた実施例11−1〜11−4では、それらを加えなかった実施例8−1,9−1よりも放電容量維持率が高くなった。このことから、電解液が電解質塩として化10に示した化合物、化11に示した化合物、四フッ化ホウ酸リチウムあるいは化16に示した化合物を含有することにより、サイクル特性がより向上することが確認された。
【0206】
上記した表1〜表11の結果から明らかなように、負極活物質層の形成方法、負極活物質の種類および電池構造などに依存せず、負極が化5に示した化合物を含む被膜を有することにより、サイクル特性を向上させることができることが確認された。
【0207】
以上、実施の形態および実施例を挙げて本発明を説明したが、本発明は上記した実施の形態および実施例において説明した態様に限定されず、種々の変形が可能である。例えば、本発明の負極の使用用途は、必ずしも電池に限らず、電池以外の他の電気化学デバイスであっても良い。他の用途としては、例えば、キャパシタなどが挙げられる。
【0208】
また、上記した実施の形態および実施例では、本発明の電池の電解質として、電解液、あるいは電解液を高分子化合物に保持させたゲル状電解質を用いる場合について説明したが、他の種類の電解質を用いるようにしてもよい。他の電解質としては、例えば、イオン伝導性セラミックス、イオン伝導性ガラスあるいはイオン性結晶などのイオン伝導性無機化合物と電解液とを混合したものや、他の無機化合物と電解液とを混合したものや、これらの無機化合物とゲル状電解質とを混合したものなどが挙げられる。
【0209】
また、上記した実施の形態および実施例では、本発明の電池として、負極の容量がリチウムの吸蔵および放出に基づく容量成分により表されるリチウムイオン二次電池を用い、負極の容量がリチウムの析出および溶解に基づく容量成分により表されるリチウム金属二次電池について説明したが、必ずしもこれに限られるものではない。本発明の電池は、リチウムを吸蔵および放出することが可能な負極材料の充電容量を正極の充電容量よりも小さくすることにより、負極の容量がリチウムの吸蔵および放出に基づく容量成分とリチウムの析出および溶解に基づく容量成分とを含み、かつそれらの容量成分の和により表される二次電池についても同様に適用可能である。
【0210】
また、上記した実施の形態および実施例では、電極反応物質としてリチウムを用いる場合について説明したが、ナトリウム(Na)あるいはカリウム(K)などの他の短周期型周期表における1A族元素やマグネシウムあるいはカルシウム(Ca)などの2A族元素やアルミニウムなどの他の軽金属を用いてもよい。この場合においても、負極活物質として、上記実施の形態で説明した負極材料を用いることが可能である。
【0211】
また、上記した実施の形態または実施例では、本発明の電池について、電池構造が円筒型、ラミネートフィルム型およびコイン型である場合、ならびに電池素子が巻回構造を有する場合を例に挙げて説明したが、本発明の電池は、コイン型あるいはボタン型などの他の電池構造を有する場合や、電池素子が積層構造などの他の構造を有する場合についても同様に適用可能である。また、本発明の電池は、二次電池に限らず、一次電池などの他の種類の電池についても同様に適用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0212】
【図1】本発明の一実施の形態に係る負極の構成を表す断面図である。
【図2】本発明の一実施の形態に係る負極の構成に関する変形例を表す断面図である。
【図3】本発明の一実施の形態に係る負極を用いた第1の電池の構成を表す断面図である。
【図4】図3に示した巻回電極体の一部を拡大して表す断面図である。
【図5】第1の電池の構成に関する変形例を表す断面図である。
【図6】本発明の一実施の形態に係る負極を用いた第2の電池の構成を表す分解斜視図である。
【図7】図6に示した巻回電極体のVII−VII線に沿った構成を表す断面図である。
【図8】図7に示した巻回電極体の一部を拡大して表す断面図である。
【図9】第2の電池の構成に関する変形例を表す断面図である。
【図10】本発明の一実施の形態に係る負極を用いた第3の電池の構成を表す断面図である。
【図11】第3の電池の構成に関する変形例を表す断面図である。
【図12】X線光電子分光法によるSnCoC含有材料の分析結果を表す図である。
【符号の説明】
【0213】
1,22A,34A,52A…負極集電体、2,22B,34B,52B…負極活物質層、3,22C,34C,52C…被膜、4,22D,34D,52D…酸化物被膜、11…電池缶、12,13…絶縁板、14…電池蓋、15…安全弁機構、15A…ディスク板、16…熱感抵抗素子、17,56…ガスケット、20,30…巻回電極体、21,33,51…正極、21A,33A,51A…正極集電体、21B,33B,51B…正極活物質層、22,34,52…負極、23,35,53…セパレータ、24…センターピン、25,31…正極リード、26,32…負極リード、36…電解質、37…保護テープ、40…外装部材、41…密着フィルム、54…外装缶、55…外装カップ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
負極集電体と、その負極集電体に設けられた負極活物質層と、その負極活物質層に設けられた被膜とを有し、
前記被膜は、化1で表される化合物を含む
ことを特徴とする負極。
【化1】

(Mは短周期型周期表における1A族元素(水素を除く)、2A族元素あるいはアンモニウムであり、Aは遷移金属元素、または短周期型周期表における2B族元素、3B族元素、4B族元素あるいは5B族元素である。xは1以上4以下の整数であり、yは3以上8以下の整数であり、zは1以上の整数である。)
【請求項2】
前記化1に示したMは、リチウム(Li)であることを特徴とする請求項1記載の負極。
【請求項3】
前記化1に示したAは、スカンジウム(Sc)、セリウム(Ce)、チタン(Ti)、ジルコニウム(Zr)、ハフニウム(Hf)、バナジウム(V)、ニオブ(Nb)、タンタル(Ta)、モリブデン(Mo)、タングステン(W)、マンガン(Mn)、鉄(Fe)、コバルト(Co)、ニッケル(Ni)、銅(Cu)、亜鉛(Zn)、アルミニウム(Al)、ガリウム(Ga)、インジウム(In)、ケイ素(Si)、ゲルマニウム(Ge)、スズ(Sn)、アンチモン(Sb)およびビスマス(Bi)からなる群のうちのいずれか1種であることを特徴とする請求項1記載の負極。
【請求項4】
前記被膜は、さらに、アルカリ金属塩を含むことを特徴とする請求項1記載の負極。
【請求項5】
さらに、前記負極活物質層と前記被膜との間に酸化物被膜を有することを特徴とする請求項1記載の負極。
【請求項6】
前記酸化物被膜は、ケイ素、ゲルマニウムおよびスズからなる群のうちの少なくとも1種の酸化物を含むことを特徴とする請求項5記載の負極。
【請求項7】
前記負極活物質層は、ケイ素の単体、合金および化合物、ならびにスズの単体、合金および化合物のうちの少なくとも1種を含有する負極活物質を含むことを特徴とする請求項1記載の負極。
【請求項8】
負極集電体と、その負極集電体に設けられた負極活物質層と、その負極活物質層に設けられた被膜とを有する負極の製造方法であって、
化2で表される化合物を含む溶液を用いて前記負極活物質層に前記被膜を形成する
ことを特徴とする負極の製造方法。
【化2】

(Mは短周期型周期表における1A族元素(水素を除く)、2A族元素あるいはアンモニウムであり、Aは遷移金属元素、または短周期型周期表における2B族元素、3B族元素、4B族元素あるいは5B族元素である。xは1以上4以下の整数であり、yは3以上8以下の整数であり、zは1以上の整数である。)
【請求項9】
前記溶液に前記負極活物質層を浸漬し、あるいは前記溶液を前記負極活物質層に塗布して前記被膜を形成することを特徴とする請求項8記載の負極の製造方法。
【請求項10】
前記溶液は、さらに、アルカリ金属塩を含むことを特徴とする請求項8記載の負極の製造方法。
【請求項11】
前記負極活物質層に酸化物被膜を形成したのち、前記被膜を形成することを特徴とする請求項8記載の負極の製造方法。
【請求項12】
正極および負極と共に電解液を備えた電池であって、
前記負極は、負極集電体と、その負極集電体に設けられた負極活物質層と、その負極活物質層に設けられた被膜とを有し、
前記被膜は、化3で表される化合物を含む
ことを特徴とする電池。
【化3】

(Mは短周期型周期表における1A族元素(水素を除く)、2A族元素あるいはアンモニウムであり、Aは遷移金属元素、または短周期型周期表における2B族元素、3B族元素、4B族元素あるいは5B族元素である。xは1以上4以下の整数であり、yは3以上8以下の整数であり、zは1以上の整数である。)
【請求項13】
前記化3に示したMは、リチウムであることを特徴とする請求項12記載の電池。
【請求項14】
前記化3に示したAは、スカンジウム、セリウム、チタン、ジルコニウム、ハフニウム、バナジウム、ニオブ、タンタル、モリブデン、タングステン、マンガン、鉄、コバルト、ニッケル、銅、亜鉛、アルミニウム、ガリウム、インジウム、ケイ素、ゲルマニウム、スズ、アンチモンおよびビスマスからなる群のうちのいずれか1種であることを特徴とする請求項12記載の電池。
【請求項15】
前記被膜は、さらに、アルカリ金属塩を含むことを特徴とする請求項12記載の電池。
【請求項16】
さらに、前記負極活物質層と前記被膜との間に酸化物被膜を有することを特徴とする請求項12記載の電池。
【請求項17】
前記酸化物被膜は、ケイ素、ゲルマニウムおよびスズからなる群のうちの少なくとも1種の酸化物を含むことを特徴とする請求項16記載の電池。
【請求項18】
前記負極活物質層は、ケイ素の単体、合金および化合物、ならびにスズの単体、合金および化合物のうちの少なくとも1種を含有する負極活物質を含むことを特徴とする請求項12記載の電池。
【請求項19】
前記電解液は、不飽和結合を有する環状炭酸エステルを含有する溶媒を含むことを特徴とする請求項12記載の電池。
【請求項20】
前記電解液は、化4で表されるハロゲンを有する鎖状炭酸エステルおよび化5で表されるハロゲンを有する環状炭酸エステルからなる群のうちの少なくとも1種を含有する溶媒を含むことを特徴とする請求項12記載の電池。
【化4】

(R11〜R16は水素基、ハロゲン基、アルキル基あるいはハロゲン化アルキル基であり、それらは互いに同一でもよいし異なってもよいが、それらのうちの少なくとも1つはハロゲン基あるいはハロゲン化アルキル基である。ただし、ハロゲンはフッ素(F)、塩素(Cl)および臭素(Br)からなる群のうちの少なくとも1種である。)
【化5】

(R21〜R24は水素基、ハロゲン基、アルキル基あるいはハロゲン化アルキル基であり、それらは互いに同一でもよいし異なってもよいが、それらのうちの少なくとも1つはハロゲン基あるいはハロゲン化アルキル基である。ただし、ハロゲンはフッ素、塩素および臭素からなる群のうちの少なくとも1種である。)
【請求項21】
前記ハロゲンを有する鎖状炭酸エステルは、炭酸フルオロメチルメチル、炭酸ビス(フルオロメチル)および炭酸ジフルオロメチルメチルからなる群のうちの少なくとも1種であり、
前記ハロゲンを有する環状炭酸エステルは、4−フルオロ−1,3−ジオキソラン−2−オンおよび4,5−ジフルオロ−1,3−ジオキソラン−2−オンのうちの少なくとも1種であることを特徴とする請求項20記載の電池。
【請求項22】
前記電解液は、スルトンを含有する溶媒を含むことを特徴とする請求項12記載の電池。
【請求項23】
前記電解液は、酸無水物を含有する溶媒を含むことを特徴とする請求項12記載の電池。
【請求項24】
前記電解液は、化6、化7および化8で表される化合物からなる群のうちの少なくとも1種を含有する電解質塩を含むことを特徴とする請求項12記載の電池。
【化6】

(X31は短周期型周期表における1A族元素あるいは2A族元素、またはアルミニウムである。M31は遷移金属元素、または短周期型周期表における3B族元素、4B族元素あるいは5B族元素である。R31はハロゲン基である。Y31は−OC−R32−CO−、−OC−CR332 −あるいは−OC−CO−である。ただし、R32はアルキレン基、ハロゲン化アルキレン基、アリーレン基あるいはハロゲン化アリーレン基である。R33はアルキル基、ハロゲン化アルキル基、アリール基あるいはハロゲン化アリール基であり、それは互いに同一でもよいし異なってもよい。なお、a3は1以上4以下の整数であり、b3は0、または2あるいは4の整数であり、c3、d3、m3およびn3は1以上3以下の整数である。)
【化7】

(X41は短周期型周期表における1A族元素あるいは2A族元素である。M41は遷移金属元素、または短周期型周期表における3B族元素、4B族元素あるいは5B族元素である。Y41は−OC−(CR412 b4−CO−、−R432 C−(CR422 c4−CO−、−R432 C−(CR422 c4−CR432 −、−R432 C−(CR422 c4−SO2 −、−O2 S−(CR422 d4−SO2 −あるいは−OC−(CR422 d4−SO2 −である。ただし、R41およびR43は水素基、アルキル基、ハロゲン基あるいはハロゲン化アルキル基であり、それぞれは互いに同一でもよいし異なってもよいが、それぞれのうちの少なくとも1つはハロゲン基あるいはハロゲン化アルキル基である。R42は水素基、アルキル基、ハロゲン基あるいはハロゲン化アルキル基であり、それは互いに同一でもよいし異なってもよい。なお、a4、e4およびn4は1あるいは2の整数であり、b4およびd4は1以上4以下の整数であり、c4は0あるいは1以上4以下の整数であり、f4およびm4は1以上3以下の整数である。)
【化8】

(X51は短周期型周期表における1A族元素あるいは2A族元素である。M51は遷移金属元素、または短周期型周期表における3B族元素、4B族元素あるいは5B族元素である。Rfはフッ素化アルキル基あるいはフッ素化アリール基であり、いずれの炭素数も1以上10以下である。Y51は−OC−(CR512 d5−CO−、−R522 C−(CR512 d5−CO−、−R522 C−(CR512 d5−CR522 −、−R522 C−(CR512 d5−SO2 −、−O2 S−(CR512 e5−SO2 −あるいは−OC−(CR512 e5−SO2 −である。ただし、R51は水素基、アルキル基、ハロゲン基あるいはハロゲン化アルキル基であり、それは互いに同一でもよいし異なってもよい。R52は水素基、アルキル基、ハロゲン基あるいはハロゲン化アルキル基であり、それは互いに同一でもよいし異なってもよいが、そのうちの少なくとも1つはハロゲン基あるいはハロゲン化アルキル基である。なお、a5、f5およびn5は1あるいは2の整数であり、b5、c5およびe5は1以上4以下の整数であり、d5は0あるいは1以上4以下の整数であり、g5およびm5は1以上3以下の整数である。)
【請求項25】
前記化6に示した化合物は、化9の(1)〜(6)で表される化合物からなる群のうちの少なくとも1種であり、前記化7に示した化合物は、化10の(1)〜(8)で表される化合物からなる群のうちの少なくとも1種であり、前記化8に示した化合物は、化10の(9)で表される化合物であることを特徴とする請求項24記載の電池。
【化9】

【化10】

【請求項26】
前記電解液は、六フッ化リン酸リチウム(LiPF6 )、四フッ化ホウ酸リチウム(LiBF4 )、過塩素酸リチウム(LiClO4 )、六フッ化ヒ酸リチウム(LiAsF6 )、ならびに化11、化12および化13で表される化合物からなる群のうちの少なくとも1種を含有する電解質塩を含むことを特徴とする請求項12記載の電池。
【化11】

(mおよびnは1以上の整数であり、それらは互いに同一でもよいし異なってもよい。)
【化12】

(R61は炭素数2以上4以下の直鎖状あるいは分岐状のパーフルオロアルキレン基である。)
【化13】

(p、qおよびrは1以上の整数であり、それらは互いに同一でもよいし異なってもよい。)
【請求項27】
正極および負極と共に電解液を備え、前記負極が、負極集電体と、その負極集電体に設けられた負極活物質層と、その負極活物質層に設けられた被膜とを有する電池の製造方法であって、
化14で表される化合物を含む溶液を用いて前記負極活物質層に前記被膜を形成する
ことを特徴とする電池の製造方法。
【化14】

(Mは短周期型周期表における1A族元素(水素を除く)、2A族元素あるいはアンモニウムであり、Aは遷移金属元素、または短周期型周期表における2B族元素、3B族元素、4B族元素あるいは5B族元素である。xは1以上4以下の整数であり、yは3以上8以下の整数であり、zは1以上の整数である。)
【請求項28】
前記溶液に前記負極活物質層を浸漬し、あるいは前記溶液を前記負極活物質層に塗布して前記被膜を形成することを特徴とする請求項27記載の電池の製造方法。
【請求項29】
前記溶液は、さらに、アルカリ金属塩を含むことを特徴とする請求項27記載の電池の製造方法。
【請求項30】
前記負極活物質層に酸化物被膜を形成したのち、前記被膜を形成することを特徴とする請求項27記載の電池の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2008−234988(P2008−234988A)
【公開日】平成20年10月2日(2008.10.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−72582(P2007−72582)
【出願日】平成19年3月20日(2007.3.20)
【出願人】(000002185)ソニー株式会社 (34,172)
【Fターム(参考)】