説明

負極および電池

【課題】 サイクル特性を向上させることができる負極およびそれを用いた電池を提供する。
【解決手段】 負極活物質層12は鍍金法により形成されたものであり、構成元素としてSnを含むと共に、Pbを1原子%以上10原子%以下の範囲内で含んでいる。PbによりSnの膨張収縮による応力が分散され、負極集電体11に応力が集中して負極活物質層12および負極集電体11が微粉化してしまうことを抑制することができる。更に、負極活物質層12は、構成元素としてB,C,PおよびSのうちの少なくとも1種を含むことが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、負極集電体に構成元素としてスズ(Sn)を含む負極活物質層が設けられた負極、およびそれを用いた電池に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、モバイル機器の高性能化および多機能化に伴い、それらの電源である二次電池の高容量化が切望されている。この要求に応える二次電池としてリチウム二次電池がある。しかし、現在におけるリチウム二次電池の代表的な形態である、正極にコバルト酸リチウム、負極に黒鉛を用いた場合の電池容量は飽和状態にあり、大幅な高容量化は極めて困難な状況である。そこで、スズなどを負極に用いることも検討されており、気相法、液相法、あるいは焼成法などにより負極集電体に負極活物質層を形成することも報告されている(例えば、特許文献1,特許文献2,特許文献3,特許文献4,特許文献5参照)。
【特許文献1】特開平8−50922号公報
【特許文献2】特許第2948205号公報
【特許文献3】特開平11−135115号公報
【特許文献4】特開2001−256968号公報
【特許文献5】特開2003−157833号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、このように負極にスズなどを用いた場合には充放電に伴う膨張収縮が大きいので、負極活物質層および負極集電体の微細化が生じやすく、しかも表面積の増大に起因して電解質の分解反応も進み、十分なサイクル特性を得ることが難しいという問題があった。
【0004】
本発明はかかる問題点に鑑みてなされたもので、その目的は、負極活物質層および負極集電体の微細化を抑制し、サイクル特性などの電池特性を向上させることができる負極およびそれを用いた電池を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明による負極は、負極集電体と、この負極集電体に設けられ、構成元素としてスズを含む負極活物質層とを有し、負極集電体と負極活物質層とは、界面の少なくとも一部において合金化しており、負極活物質層には構成元素として鉛(Pb)が1原子%以上10原子%以下の範囲内で含まれるものである。
【0006】
本発明による電池は、正極および負極と共に電解質を備えたものであって、負極は、負極集電体と、この負極集電体に設けられ、構成元素としてスズを含む負極活物質層とを有し、負極集電体と負極活物質層とは、界面の少なくとも一部において合金化しており、負極活物質層には構成元素として鉛が1原子%以上10原子%以下の範囲内で含まれるものである。
【発明の効果】
【0007】
本発明の負極によれば、鉛を1原子%以上10原子%以下の範囲内で含むようにしたので、スズの膨張収縮による応力を分散することができる。よって、本発明の電池によれば、充放電に伴う負極活物質層および負極集電体の微粉化を抑制することができると共に、それに起因する電解質の分解反応も抑制することができ、サイクル特性などの電池特性を向上させることができる。
【0008】
特に、負極活物質層が、更に、構成元素として、ホウ素(B),炭素(C),リン(P)および硫黄(S)からなる群のうちの少なくとも1種を、スズに対して合計で6原子%以下の範囲内で含むようにすれば、より高い効果を得ることができる。
【0009】
また、負極集電体の十点平均粗さRzを1μm以上とすれば、または、負極集電体が3次元網目構造を有するようにすれば、負極集電体と負極活物質層との接触面積を増大させることができ、それらの接着性を向上させることができる。よって、負極活物質層の膨張収縮に伴う負極の崩壊を抑制することができ、サイクル特性をより向上させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照して詳細に説明する。
【0011】
図1は、本発明の一実施の形態に係る負極10の概略構成を表すものである。負極10は、例えば、負極集電体11に負極活物質層12が設けられた構造を有している。負極集電体11の構成材料としては、例えば、銅(Cu)、鉄(Fe)、ニッケル(Ni)、チタン(Ti)あるいはステンレス、またはそれらの少なくとも1種を含むリチウムとの反応性が低い金属材料が好ましい。リチウムとの反応性が高いと、充放電に伴い負極集電体11が膨張収縮して破壊してしまうからである。中でも、価格の観点からは、銅、鉄、ニッケル、ステンレスまたはそれらの少なくとも1種を含む金属材料が好ましく、更に導電性の観点からは、銅または銅を含む金属材料がより好ましい。なお、負極集電体11は単層により構成してもよいが、複数層により構成してもよい。
【0012】
負極集電体11の負極活物質層が設けられた面の十点平均粗さRzは1μm以上であることが好ましい。負極集電体11と負極活物質層12との接着性を向上させることができ、充放電に伴う剥離などを抑制することができるからである。特に、負極集電体を不織布または織り網などの3次元網目構造を有するものにより構成するようにすれば、より高い効果を得ることができるので好ましい。
【0013】
負極活物質層12は、構成元素としてスズを含んでいる。スズは単体として含まれていてもよく、また合金あるいは化合物として含まれていてもよい。これらスズの単体,合金あるいは化合物は負極活物質として機能するものであり、これによりこの負極10では高容量が得られるようになっている。
【0014】
負極活物質層12は、また、構成元素として鉛を含んでいる。負極活物質層12における鉛の含有量は1原子%以上10原子%以下の範囲内である。鉛をこの範囲内で含むことにより、充放電に伴うスズの膨張収縮による応力を分散し、負極集電体11に応力が集中して負極活物質層12および負極集電体11が微粉化してしまうことを抑制することができるからである。
【0015】
負極活物質層12は、更に、構成元素として、ホウ素,炭素,リンおよび硫黄からなる群のうちの少なくとも1種を含んでいることが好ましい。スズの膨張収縮による応力を分散する効果をより高めることができるからである。これらホウ素,炭素,リンおよび硫黄の含有量は、合計でスズに対して6原子%以下の範囲内であることが好ましい。含有量があまり多くなるとサイクル特性が低下してしまうと共に、スズの含有量が少なくなり容量も低下してしまうからである。
【0016】
なお、負極活物質層12は、鍍金法などの液相法により形成されたものであることが好ましい。負極活物質層12の膨張収縮による形状崩壊を抑制することができると共に、負極集電体11と負極活物質層12とを一体化することができ、負極10における電子伝導性を向上させることができるからである。また、負極活物質層12は、負極集電体11との界面の少なくとも一部においてそれらの構成元素が相互に拡散し、合金化していることが好ましい。負極活物質層12の膨張収縮による形状崩壊をより抑制することができるからである。
【0017】
この負極10は、例えば、次のようにして製造することができる。
【0018】
まず、負極集電体11を用意し、例えば負極集電体11に鍍金法などの液相法により負極活物質層12を成膜する。鍍金法は、電解鍍金法または無電解鍍金法などのいずれを用いてもよい。次いで、負極活物質層12を成膜した負極集電体11を例えば真空雰囲気中,大気雰囲気中,還元雰囲気中,酸化雰囲気中または不活性雰囲気中において熱処理する。これにより、負極集電体11の構成元素が負極活物質層12に拡散する。これにより図1に示した負極10が得られる。
【0019】
この負極10は、例えば、次のような二次電池の負極に用いられる。
【0020】
図2は、その二次電池の構成を表すものである。この二次電池は、いわゆるコイン型といわれるものであり、外装カップ21内に収容された負極10と、外装缶22内に収容された正極23とが、セパレータ24を介して積層されたものである。外装カップ21および外装缶22の周縁部は絶縁性のガスケット25を介してかしめることにより密閉されている。外装カップ21および外装缶22は、例えば、ステンレスあるいはアルミニウム(Al)などの金属によりそれぞれ構成されている。
【0021】
正極23は、例えば、正極集電体23Aと、正極集電体23Aに設けられた正極活物質層23Bとを有している。正極集電体23Aは、例えば、アルミニウム,ニッケルあるいはステンレスなどにより構成されている。
【0022】
正極活物質層23Bは、例えば、正極活物質としてリチウムを吸蔵および離脱することが可能な正極材料のいずれか1種または2種以上を含んでおり、必要に応じて炭素材料などの導電剤およびポリフッ化ビニリデンなどの結着剤を含んでいてもよい。リチウムを吸蔵および離脱することが可能な正極材料としては、例えば、一般式Lix MIO2 で表されるリチウム含有金属複合酸化物が好ましい。高容量化を図ることができるからである。なお、MIは1種類以上の遷移金属であり、例えばコバルト,ニッケルおよびマンガンからなる群のうちの少なくとも1種が好ましい。xは電池の充放電状態によって異なり、通常0.05≦x≦1.10の範囲内の値である。このようなリチウム含有金属複合酸化物の具体例としては、LiCoO2 あるいはLiNiO2 などが挙げられる。
【0023】
セパレータ24は、負極10と正極23とを隔離し、両極の接触による電流の短絡を防止しつつ、リチウムイオンを通過させるものであり、例えば、ポリエチレンやポリプロピレンにより構成されている。
【0024】
セパレータ24には、液状の電解質である電解液が含浸されている。この電解液は、例えば、溶媒と、この溶媒に溶解された電解質塩であるリチウム塩とを含んでおり、必要に応じて各種添加剤を含んでいてもよい。このように電解液を用いるようにすれば、高いイオン伝導率を得ることができるので好ましい。溶媒としては、例えば、炭酸エチレン,炭酸プロピレン,炭酸ジメチル,炭酸ジエチルあるいは炭酸エチルメチル等の非水溶媒が挙げられる。溶媒は、いずれか1種を用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
【0025】
リチウム塩としては、例えば、LiPF6 あるいはLiClO4 が挙げられる。リチウム塩は、いずれか1種を用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
【0026】
この二次電池は、例えば、正極23、電解液が含浸されたセパレータ24および負極10を積層して、外装缶22と外装カップ21との中に入れ、それらをかしめることにより製造することができる。
【0027】
この二次電池では、充電を行うと、例えば、正極23からリチウムイオンが離脱し、電解液を介して負極10に吸蔵される。放電を行うと、例えば、負極10からリチウムイオンが離脱し、電解液を介して正極23に吸蔵される。この充放電に伴い負極活物質層12は大きく膨張収縮するが、負極活物質層12には鉛が所定の範囲内で含まれているので、膨張収縮による応力が分散され、負極集電体11にかかる応力が緩和される。
【0028】
本実施の形態に係る負極は、次のようにして二次電池に用いてもよい。
【0029】
図3は、その二次電池を分解して表すものである。この二次電池は、正極リード31および負極リード32が取り付けられた電極巻回体30をフィルム状の外装部材40の内部に収容したものであり、小型化,軽量化および薄型化が可能となっている。
【0030】
正極リード31および負極リード32は、それぞれ、外装部材40の内部から外部に向かい例えば同一方向に導出されている。正極リード31および負極リード32は、例えば、アルミニウム,銅,ニッケルあるいはステンレスなどの金属材料によりそれぞれ構成されており、それぞれ薄板状または網目状とされている。
【0031】
外装部材40は、例えば、ナイロンフィルム,アルミニウム箔およびポリエチレンフィルムをこの順に貼り合わせた矩形状のアルミラミネートフィルムにより構成されている。外装部材40は、例えば、ポリエチレンフィルム側と電極巻回体30とが対向するように配設されており、各外縁部が融着あるいは接着剤により互いに密着されている。外装部材40と正極リード31および負極リード32との間には、外気の侵入を防止するための密着フィルム33が挿入されている。密着フィルム33は、正極リード31および負極リード32に対して密着性を有する材料、例えば、ポリエチレン,ポリプロピレン,変性ポリエチレンあるいは変性ポリプロピレンなどのポリオレフィン樹脂により構成されている。
【0032】
なお、外装部材40は、上述したアルミラミネートフィルムに代えて、他の構造を有するラミネートフィルム,ポリプロピレンなどの高分子フィルムあるいは金属フィルムにより構成するようにしてもよい。
【0033】
図4は、図3に示した電極巻回体30のI−I線に沿った断面構造を表すものである。電極巻回体30は、負極10と正極34とをセパレータ35および電解質層36を介して積層し、巻回したものであり、最外周部は保護テープ37により保護されている。
【0034】
正極34は、正極集電体34Aの両面に正極活物質層34Bが設けられた構造を有しており、負極10も、負極集電体11の両面に負極活物質層12が設けられた構造を有している。正極集電体34A,正極活物質層34Bおよびセパレータ35の構成は、それぞれ上述した正極集電体23A,正極活物質層23Bおよびセパレータ24と同様である。
【0035】
電解質層36は、保持体に電解液を保持させたいわゆるゲル状の電解質により構成されている。ゲル状の電解質は高いイオン伝導率を得ることができると共に、電池の漏液を防止することができるので好ましい。電解液(すなわち溶媒および電解質塩)の構成は、図2に示したコイン型の二次電池と同様である。
【0036】
保持体は、例えば高分子化合物により構成されている。高分子化合物としては、例えばポリフッ化ビニリデンまたはフッ化ビニリデンの共重合体が挙げられる。
【0037】
この二次電池は例えば次のようにして製造することができる。
【0038】
まず、正極34および負極10のそれぞれに、保持体に電解液が保持された電解質層36を形成する。次いで、正極集電体34Aの端部に正極リード31を取り付けると共に、負極集電体11の端部に負極リード32を取り付ける。続いて、電解質層36が形成された正極34と負極10とをセパレータ35を介して積層し積層体としたのち、この積層体をその長手方向に巻回して、最外周部に保護テープ37を接着して電極巻回体30を形成する。そののち例えば、外装部材40の間に電極巻回体30を挟み込み、外装部材40の外縁部同士を熱融着などにより密着させて封入する。その際、正極リード31および負極リード32と外装部材40との間には密着フィルム33を挿入する。これにより、図3,4に示した二次電池が完成する。
【0039】
この二次電池の作用および効果は、図2に示したコイン型の二次電池と同様である。
【0040】
このように本実施の形態によれば、負極活物質層12に鉛を1原子%以上10原子%以下の範囲内で含むようにしたので、充放電に伴うスズの膨張収縮による応力を分散することができ、負極活物質層12および負極集電体11の微粉化を抑制することができると共に、それに起因する電解質の分解反応も抑制することができる。よって、サイクル特性などの電池特性を向上させることができる。
【0041】
特に、負極活物質層12が、更に、構成元素として、ホウ素,炭素,リンおよび硫黄からなる群のうちの少なくとも1種を、スズに対して合計で6原子%以下の範囲内で含むようにすれば、より高い効果を得ることができる。
【0042】
また、負極集電体11の十点平均粗さRzを1μm以上とすれば、または、負極集電体11が3次元網目構造を有するようにすれば、負極集電体11と負極活物質層12との接触面積を増大させることができ、それらの接着性を向上させることができる。よって、負極活物質層12の膨張収縮に伴う負極10の崩壊を抑制することができ、サイクル特性をより向上させることができる。
【実施例】
【0043】
更に、本発明の具体的な実施例について図面を参照して詳細に説明する。
【0044】
(実施例1−1〜1−3)
図1に示した負極10を作製した。まず、厚みを20μm、十点平均粗さRzを0.8μmとした圧延銅箔を負極集電体11として用意し、この負極集電体11に鍍金法により厚み6μmの負極活物質層12を成膜した。鍍金浴には、硫酸第一スズと硫酸鉛と硫酸とを水に混入した酸性スズ鍍金浴を用い、電流密度は1.5A/dm2 とした。その際、鍍金浴の組成を実施例1−1〜1−3で表1に示したように変化させることにより、負極活物質層12の組成を変化させた。次いで、負極活物質層12を成膜した負極集電体11を、200℃で5時間熱処理し、それらの界面を合金化させた。
【0045】
作製した負極10について、負極活物質層12の組成分析を原子吸光分析測定法および燃焼赤外線吸収測定法により行った。原子吸光分析測定法ではスズ,鉛,ホウ素およびリンの含有量を測定し、燃焼赤外線吸収測定法では炭素および硫黄の含有量を測定した。それらの結果を表1に示す。なお、表1に示したSn/Pbは鉛に対するスズの原子比である。また、表1には示していないが、実施例1−1〜1−3ではホウ素,炭素,リンおよび硫黄の含有量は検出限界以下であった。
【0046】
また、実施例1−1〜1−3に対する比較例1−1〜1−3として、鍍金浴の組成を表1に示したように変化させることにより、負極活物質層の組成を変化させたことを除き、実施例1−1〜1−3と同様にして負極を作製した。比較例1−1〜1−3の負極についても、実施例1−1〜1−3と同様にして組成の分析を行った。その結果も表1に合わせて示す。なお、比較例1−1〜1−3についても、表1には示していないが、ホウ素,炭素,リンおよび硫黄の含有量は検出限界以下であった。
【0047】
続いて、実施例1−1〜1−3および比較例1−1〜1−3の負極10を用いて、図2に示したようなコイン型の試験電池を作製した。対極はリチウム金属板とし、セパレータには多孔質ポリエチレンフィルムを用いると共に、電解液には炭素エチレンと炭酸ジエチルとを炭酸エチレン:炭酸ジエチル=1:2の体積比で混合した溶媒にLiPF6 を1mol/lの濃度で溶解させたものを用いた。
【0048】
作製した実施例1−1〜1−3および比較例1−1〜1−3の試験電池について、1mA/cm2 の電流密度で充放電を20サイクル行い、1サイクル目に対する2サイクル目の放電容量の割合を容量維持率として求めた。その結果を表1に示す。
【0049】
【表1】

【0050】
表1に示したように、実施例1−1〜1−3によれば、比較例1−1〜1−3に比べて高い容量維持率が得られた。すなわち、負極活物質層12に鉛を1原子%以上10原子%以下の範囲内で含むようにすれば、サイクル特性を向上させることができることが分かった。
【0051】
(実施例2−1〜2−12,3−1〜3−13)
鍍金浴の組成を変化させることにより負極活物質層12の組成を変えたことを除き、他は実施例1−1〜1−3と同様にして負極10を作成した。その際、実施例2−1〜2−3では、ホウフッ化スズとホウフッ化鉛とホウフッ酸とホウ酸とを混合したホウフッ化スズ鍍金浴を用い、ホウ素を析出させた。実施例2−4〜2−6では、酸性スズ鍍金浴に炭素源としてデキストリンを添加し、炭素を析出させた。実施例2−7〜2−9では、酸性スズ鍍金浴にリン源としてピロリン酸第一スズを添加し、リンを析出させた。実施例2−10〜2−12では酸性スズ鍍金浴に硫黄源としてクレゾールスルホン酸を添加し、硫黄を析出させた。また、実施例3−1〜3−13では、実施例2−1〜2−12と同様にして鍍金浴の組成を調製し、ホウ素,炭素,リンおよび硫黄のうちの2種以上を析出させた。
【0052】
作製した実施例2−1〜2−12,3−1〜3−13の負極10について、実施例1−1〜1−3と同様にして、負極活物質層12の組成分析を行った。それらの結果を表2,3に示す。なお、表2,3に示したSn/Pbは鉛に対するスズの原子比であり、B/Sn,C/Sn,P/SnおよびS/Snはスズに対するホウ素,炭素,リンまたは硫黄の原子%である。
【0053】
また、実施例2−1〜2−12,3−1〜3−13の負極10を用いて、実施例1−1〜1−3と同様にして試験電池を作製し、20サイクル目の容量維持率を求めた。その結果についても表2,3に示す。
【0054】
【表2】

【0055】
【表3】

【0056】
表2,3に示したように、実施例2−1〜2−12,3−1〜3−13によれば、実施例1−1〜1−3と同様に、比較例1−1に比べて高い容量維持率が得られた。また、ホウ素,炭素,リンまたは硫黄の含有量を、スズに対して6原子%以下とした実施例2−1,2−2,2−4,2−5,2−7,2−8,2−10,2−11によれば、これらを添加していない実施例1−2よりも更に容量維持率を向上させることができた。
【0057】
すなわち、負極活物質層12にホウ素,炭素,リンおよび硫黄の少なくとも1種を、合計でスズに対して6原子%以下の範囲内で含むようにすれば、サイクル特性をより向上させることができることが分かった。
【0058】
(実施例4−1〜4−6)
実施例4−1〜4−3では負極集電体11の十点平均粗さRzを1.5μmとし、実施例4−4〜4−6では負極集電体11として3次元網目構造を有する銅の不織布を用いたことを除き、他は実施例3−11〜3−13と同様にして負極10を作製した。実施例4−1〜4−6の負極10についても、実施例1−1〜1−3と同様にして、負極活物質層12の組成分析を行った。それらの結果を表4に示す。なお、表4に示したSn/Pbは原子比であり、B/Sn,C/Sn,P/SnおよびS/Snは原子%である。
【0059】
また、実施例4−1〜4−6の負極10を用いて、実施例1−1〜1−3と同様にして試験電池を作製し、20サイクル目の容量維持率を求めた。その結果についても表4に示す。
【0060】
【表4】

【0061】
表4に示したように、実施例4−1〜4−6によれば、実施例3−11〜3−13よりも高い容量維持率が得られた。すなわち、負極集電体11の負極活物質層12が設けられた面の十点平均粗さRzを1μm以上、または負極集電体11が3次元網目構造を有するようにすれば、サイクル特性をより向上させることができることが分かった。
【0062】
以上、実施の形態および実施例を挙げて本発明を説明したが、本発明は上記実施の形態および実施例に限定されるものではなく、種々変形可能である。例えば、上記実施の形態および実施例では、液状の電解質である電解液、またはいわゆるゲル状の電解質を用いる場合について説明したが、他の電解質を用いるようにしてもよい。他の電解質としては、イオン伝導性を有する固体電解質、固体電解質と電解液とを混合したもの、あるいは固体電解質とゲル状の電解質とを混合したものが挙げられる。
【0063】
なお、固体電解質には、例えば、イオン伝導性を有する高分子化合物に電解質塩を分散させた高分子固体電解質、またはイオン伝導性ガラスあるいはイオン性結晶などよりなる無機固体電解質を用いることができる。高分子固体電解質の高分子化合物としては、例えば、ポリエチレンオキサイドあるいはポリエチレンオキサイドを含む架橋体などのエーテル系高分子化合物、ポリメタクリレートなどのエステル系高分子化合物、アクリレート系高分子化合物を単独あるいは混合して、または共重合させて用いることができる。また、無機固体電解質としては、窒化リチウムあるいはリン酸リチウムなどを含むもの用いることができる。
【0064】
また、上記実施の形態および実施例では、コイン型または巻回ラミネート型の二次電池について説明したが、本発明は、円筒型,角型,ボタン型,薄型,大型あるいは積層ラミネート型などの他の形状を有する二次電池についても同様に適用することができる。加えて、二次電池に限らず、一次電池についても適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0065】
【図1】本発明の一実施の形態に係る負極の構成を表す断面図である。
【図2】図1に示した負極を用いた二次電池の構成を表す断面図である。
【図3】図1に示した負極を用いた他の二次電池の構成を表す断面図である。
【図4】図3に示した二次電池のI−I線に沿った構造を表す断面図である。
【符号の説明】
【0066】
10…負極、11…負極集電体、12…負極活物質層、21…外装カップ、22…外装缶、23,34…正極、23A,34A…正極集電体、23B,34B…正極活物質層、24,35…セパレータ、25…ガスケット、30…電極巻回体、31…正極リード、32…負極リード、33…密着フィルム、36…電解質層、37…保護テープ、40…外装部材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
負極集電体と、この負極集電体に設けられ、構成元素としてスズ(Sn)を含む負極活物質層とを有し、
前記負極集電体と前記負極活物質層とは、界面の少なくとも一部において合金化しており、
前記負極活物質層には構成元素として鉛(Pb)が1原子%以上10原子%以下の範囲内で含まれる
ことを特徴とする負極。
【請求項2】
前記負極活物質層は、鍍金法により形成されたことを特徴とする請求項1記載の負極。
【請求項3】
前記負極活物質層は、更に、構成元素として、ホウ素(B),炭素(C),リン(P)および硫黄(S)からなる群のうちの少なくとも1種を、スズに対して合計で6原子%以下の範囲内で含むことを特徴とする請求項1記載の負極。
【請求項4】
前記負極集電体の前記負極活物質層が設けられた面の十点平均粗さRzは、1μm以上であることを特徴とする請求項1記載の負極。
【請求項5】
前記負極集電体は3次元網目構造を有することを特徴とする請求項1記載の負極。
【請求項6】
正極および負極と共に電解質を備えた電池であって、
前記負極は、負極集電体と、この負極集電体に設けられ、構成元素としてスズ(Sn)を含む負極活物質層とを有し、
前記負極集電体と前記負極活物質層とは、界面の少なくとも一部において合金化しており、
前記負極活物質層には構成元素として鉛(Pb)が1原子%以上10原子%以下の範囲内で含まれる
ことを特徴とする電池。
【請求項7】
前記負極活物質層は、鍍金法により形成されたことを特徴とする請求項6記載の電池。
【請求項8】
前記負極活物質層は、更に、構成元素として、ホウ素(B),炭素(C),リン(P)および硫黄(S)からなる群のうちの少なくとも1種を、スズに対して合計で6原子%以下の範囲内で含むことを特徴とする請求項6記載の電池。
【請求項9】
前記負極集電体の前記負極活物質層が設けられた面の十点平均粗さRzは、1μm以上であることを特徴とする請求項6記載の電池。
【請求項10】
前記負極集電体は3次元網目構造を有することを特徴とする請求項6記載の電池。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2006−172757(P2006−172757A)
【公開日】平成18年6月29日(2006.6.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−360238(P2004−360238)
【出願日】平成16年12月13日(2004.12.13)
【出願人】(000002185)ソニー株式会社 (34,172)
【Fターム(参考)】