説明

負極および電池

【課題】 サイクル特性を向上させることができる負極およびそれを用いた電池を提供する。
【解決手段】 負極活物質層12は、Snを含有するスズ含有層12Aを有している。スズ含有層12Aと負極集電体11との間には、Liと電気化学的に反応可能であり、Liとの合金形成時の膨張率がSnとは異なる元素を含む第1層12Bが設けられている。また、スズ含有層12Aの中にも、Liと電気化学的に反応可能であり、Liとの合金形成時の膨張率がSnとは異なる元素を含む第2層12Cが設けられている。これにより、充放電に伴う膨張収縮により発生する応力を緩和することができ、負極活物質層12の形状崩壊およびそれに伴う導電性の低下を抑制することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、負極集電体に負極活物質層が設けられた負極、およびそれを用いた電池に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、モバイル機器の高性能化および多機能化に伴い、それらの電源である二次電池の高容量化が切望されている。この要求に応える二次電池としてリチウム二次電池がある。しかし、現在におけるリチウム二次電池の代表的な形態である、正極にコバルト酸リチウム、負極に黒鉛を用いた場合の電池容量は飽和状態にあり、大幅な高容量化は極めて困難な状況である。そこで、古くから負極に金属リチウム(Li)を用いることが検討されているが、この負極を実用化するには、リチウムの析出溶解効率の向上およびデンドライト状の析出形態の制御などを図る必要がある。
【0003】
その一方で、最近、ケイ素(Si)あるいはスズ(Sn)などを用いた高容量の負極の検討が盛んに行われている。しかし、これらの負極は充放電を繰り返すと、活物質の激しい膨張および収縮により粉砕して微細化し、集電性が低下したり、表面積の増大に起因して電解液の分解反応が促進され、サイクル特性は極めて劣悪であった。そこで、気相法、液相法、焼成法あるいは溶射法などにより負極集電体に負極活物質層を形成した負極も検討されている(例えば、特許文献1,特許文献2,特許文献3参照)。これによれば、粒子状の活物質およびバインダーなどを含むスラリーを塗布した従来の塗布型負極に比べて微細化を抑制することができると共に、負極集電体と負極活物質層とを一体化することができるので負極における電子伝導性が極めて良好となり、容量的にもサイクル寿命的にも高性能化が期待されている。また、従来は負極中に存在した導電剤、バインダーおよび空隙などを低減または排除することができるので、本質的に負極を薄膜化することが可能となる。
【特許文献1】特開平8−50922号公報
【特許文献2】特許第2948205号公報
【特許文献3】特開平11−135115号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、この負極でも、充放電に伴い負極活物質層の微細化などの形状崩壊や、それによる導電性の低下が起こり、サイクル特性などの電池特性が十分でないという問題があった。
【0005】
本発明はかかる問題点に鑑みてなされたもので、その目的は、負極活物質層の形状崩壊を抑制し、サイクル特性などの電池特性を向上させることができる負極およびそれを用いた電池を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明による負極は、負極集電体と、この負極集電体に設けられた負極活物質層とを備え、負極活物質層は、スズを含むスズ含有層を有すると共に、このスズ含有層と負極集電体との間に、リチウムと電気化学的に反応可能であり、リチウムとの合金形成時の膨張率がスズと異なる元素を含む第1層と、スズ含有層の中に、リチウムと電気化学的に反応可能であり、リチウムとの合金形成時の膨張率がスズと異なる元素を含む第2層とを有するものである。
【0007】
本発明による電池は、正極および負極と共に電解質を備えたものであって、負極は、負極集電体と、この負極集電体に設けられた負極活物質層とを備え、負極活物質層は、スズを含むスズ含有層を有すると共に、このスズ含有層と負極集電体との間に、リチウムと電気化学的に反応可能であり、リチウムとの合金形成時の膨張率がスズと異なる元素を含む第1層と、スズ含有層の間に、リチウムと電気化学的に反応可能であり、リチウムとの合金形成時の膨張率がスズと異なる元素を含む第2層とを有するものである。
【発明の効果】
【0008】
本発明の負極によれば、スズ含有層と負極集電体との間にリチウムとの合金形成時の膨張率がスズと異なる元素を含む第1層を設けるようにしたので、充放電に伴い負極活物質層が膨張収縮することにより負極集電体にかかる応力を緩和することができ、負極活物質層が負極集電体から剥離してしまうことを抑制することができる。また、スズ含有層の間にリチウムとの合金形成時の膨張率がスズと異なる元素を含む第2層を設けるようにしたので、充放電に伴う膨張収縮により負極活物質層が形状崩壊することも抑制することができる。よって、サイクル特性などの電池特性を向上させることができる。
【0009】
特に、リチウムとの合金形成時の膨張率がスズと異なる元素として、アルミニウム(Al),ケイ素(Si), 亜鉛(Zn),銀(Ag),インジウム(In),アンチモン(Sb)および鉛(Pb)からなる群のうちの少なくとも1種を含むようにすれば、または、第1層の厚みよりも前記第2層の厚みの方を大きくするようにすれば、より高い効果を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照して詳細に説明する。
【0011】
図1は、本発明の一実施の形態に係る負極10の概略構成を表すものである。負極10は、例えば、負極集電体11に負極活物質層12が設けられた構造を有している。負極集電体11の構成材料としては、例えば、銅(Cu)、鉄(Fe)、ニッケル(Ni)、チタン(Ti)あるいはステンレス、またはそれらの少なくとも1種を含むリチウムとの反応性が低い金属材料が好ましい。リチウムとの反応性が高いと、充放電に伴い負極集電体11が膨張収縮して破壊してしまうからである。中でも、価格の観点からは、銅、鉄、ニッケル、ステンレスまたはそれらの少なくとも1種を含む金属材料が好ましく、更に導電性の観点からは、銅または銅を含む金属材料がより好ましい。なお、負極集電体11は単層により構成してもよいが、複数層により構成してもよい。
【0012】
負極活物質層12は、スズを含むスズ含有層12Aを有している。スズは単体として含まれていてもよく、また合金あるいは化合物として含まれていてもよい。これらスズの単体,合金あるいは化合物は負極活物質として機能するものであり、これによりこの負極10では高容量が得られるようになっている。スズの合金あるいは化合物としては、例えば、スズと、長周期型周期表における4〜11族の元素とを含む合金あるいは化合物が挙げられ、中でも、マンガン(Mn),鉄,コバルト(Co),ニッケル,および銅からなる群のうちの少なくとも1種を含むものが好ましい。導電性およびサイクル特性に優れ、かつ価格の安価で毒性も低いからである。
【0013】
負極活物質層12は、また、スズ含有層12Aと負極集電体11との間に、リチウムと電気化学的に反応可能であり、リチウムとの合金形成時の膨張率がスズと異なる元素(以下、スズと膨張率が異なる元素という) を含む第1層12Bを有している。これにより、負極活物質層12の膨張収縮に伴い負極集電体にかかる応力を緩和し、負極活物質層12が負極集電体11から剥離してしまうことを抑制することができるようになっている。
【0014】
スズと膨張率が異なる元素としては、アルミニウム,ケイ素, 亜鉛,銀,インジウム,アンチモンあるいは鉛が好ましく、中でも、1原子当たりのリチウムとの反応量がスズとは異なるアルミニウム,亜鉛,銀あるいはアンチモンがより好ましい。膨張率の差をより大きくすることができるからである。更に、価格および毒性の観点からは、アルミニウムあるいは亜鉛が好ましい。スズと膨張率が異なる元素は、単体として含まれていてもよく、また合金あるいは化合物として含まれていてもよい。合金あるいは化合物として含まれる場合には、上述したスズと膨張率が異なる元素を2種以上含むものでもよく、また他の元素を含むものでもよい。
【0015】
負極活物質層12は、更に、スズ含有層12Aの中に、上述したスズと膨張率が異なる元素を含む第2層12Cを有している。これにより、負極活物質層12の膨張収縮で負極活物質層自体が形状崩壊してしまうことを抑制することができるようになっている。スズと膨張率が異なる元素は、第1層12Bと同様に、単体として含まれていてもよく、また合金あるいは化合物として含まれていてもよい。スズと膨張率が異なる元素の種類は、第1層12Bと同一でもよく、異なっていてもよい。また、第2層12Cは、図1では1層の場合を示しているが、スズ含有層12Aの中に、間隔を開けて複数層設けるようにしてもよい。
【0016】
これら第1層12Bおよび第2層12Cの厚みは、それぞれ0.05μm以上であることが好ましく、0.5μm以上であればより好ましい。また、第1層12Bの厚みと、第2層12Cの厚みとの関係は、第2層12Cが1層の場合には、その厚みが第1層12Bよりも厚いことが好ましい。第2層12Cが複数の場合には、その合計の厚みが第1層12Bよりも厚いことが好ましく、第2層12Cの各層の厚みは第1層12Bよりも薄くても厚くてもよい。応力をより効果的に緩和することができるからである。
【0017】
更に、負極活物質層12におけるスズの原子数と、上述したスズと膨張率が異なる元素の原子数との比率は、スズの原子数をX、スズと膨張率が異なる元素の原子数をY、X+Y=100とすると、十分な応力緩和効果を得るためには、Y≧4であることが好ましい。
【0018】
なお、負極活物質層12、すなわちスズ含有層12A,第1層12Bおよび第2層12Cは、気相法、液相法、焼成法、または溶射法により形成されたものであることが好ましく、これらの2以上を組み合わせて形成されたものでもよい。負極活物質層12の膨張収縮による形状崩壊を抑制することができると共に、負極集電体11と負極活物質層12とを一体化することができ、負極10における電子伝導性を向上させることができるからである。また、従来の塗布型負極と異なり、結着剤および空隙などを低減または排除でき、薄膜化することもできるからである。
【0019】
また、負極活物質層12は、スズ含有層12Aと第1層12Bとの界面の少なくとも一部、およびスズ含有層12Aと第2層12Cとの界面の少なくとも一部において、それらの構成元素が相互に拡散し、合金化していることが好ましい。更に、負極活物質層12は、負極集電体11との界面の少なくとも一部においてそれらの構成元素が相互に拡散し、合金化していることが好ましい。負極活物質層12の膨張収縮による形状崩壊をより抑制することができるからである。
【0020】
すなわち、この拡散によりスズ含有層12Aには上述したスズと膨張率が異なる元素も含まれ、第1層12Bおよび第2層12Cにはスズも含まれる。よって、スズ含有層12Aは第1層12Bおよび第2層12Cよりもスズの含有量が多い層を意味し、第1層12Bおよび第2層12Cはスズ含有層12Aよりも上述したスズと膨張率が異なる元素の含有量が多い層を意味している。
【0021】
この負極10は、例えば、次のようにして製造することができる。
【0022】
まず、負極集電体11を用意し、負極集電体11に例えば第1層12B,スズ含有層12A,第2層12C,スズ含有層12Aを順に形成する。これら第1層12B,スズ含有層12Aおよび第2層12Cは、気相法、液相法、焼成法、または溶射法により形成することが好ましく、これらの2以上を組み合わせてもよい。気相法としては、物理堆積法あるいは化学堆積法が挙げられ、具体的には真空蒸着法,スパッタ法,イオンプレーティング法,レーザーアブレーション法,熱CVD(Chemical Vapor Deposition ;化学気相成長)法あるいはプラズマCVD法などのいずれを用いてもよい。液相法としては、電解メッキ法あるいは無電解メッキ法などのいずれを用いてもよい。焼成法というのは、原料に粒子状の物質を用い、必要に応じてバインダあるいは溶剤などと混合して成形したのち、加熱する方法を意味している。焼成の方法は、雰囲気焼成法,反応焼成法あるいはホットプレス焼成法などのいずれを用いてもよい。溶射法としては、プラズマ溶射法,高速ガスフレーム溶射法あるいはアーク溶射法などのいずれを用いてもよい。
【0023】
次いで、第1層12B,スズ含有層12Aおよび第2層12Cを形成した負極集電体11を例えば真空雰囲気中,大気雰囲気中,還元雰囲気中,酸化雰囲気中または不活性雰囲気中において熱処理することが好ましい。これにより、負極集電体11の構成元素が負極活物質層12に拡散すると共に、第1層12B,スズ含有層12Aおよび第2層12Cの構成元素が互いに拡散する。なお、焼成法による場合には、焼成とこれらの拡散とを同時に行うようにしてもよい。これにより図1に示した負極10が得られる。
【0024】
この負極10は、例えば、次のような二次電池の負極に用いられる。
【0025】
図2は、その二次電池の構成を表すものである。この二次電池は、いわゆるコイン型といわれるものであり、外装カップ21内に収容された負極10と、外装缶22内に収容された正極23とが、セパレータ24を介して積層されたものである。外装カップ21および外装缶22の周縁部は絶縁性のガスケット25を介してかしめることにより密閉されている。外装カップ21および外装缶22は、例えば、ステンレスあるいはアルミニウムなどの金属によりそれぞれ構成されている。
【0026】
正極23は、例えば、正極集電体23Aと、正極集電体23Aに設けられた正極活物質層23Bとを有している。正極集電体23Aは、例えば、アルミニウム,ニッケルあるいはステンレスなどにより構成されている。
【0027】
正極活物質層23Bは、例えば、正極活物質としてリチウムを吸蔵および離脱することが可能な正極材料のいずれか1種または2種以上を含んでおり、必要に応じて炭素材料などの導電剤およびポリフッ化ビニリデンなどの結着剤を含んでいてもよい。リチウムを吸蔵および離脱することが可能な正極材料としては、例えば、一般式Lix MIO2 で表されるリチウム含有金属複合酸化物が好ましい。高容量化を図ることができるからである。なお、MIは1種類以上の遷移金属であり、例えばコバルト,ニッケルおよびマンガンからなる群のうちの少なくとも1種が好ましい。xは電池の充放電状態によって異なり、通常0.05≦x≦1.10の範囲内の値である。このようなリチウム含有金属複合酸化物の具体例としては、LiCoO2 あるいはLiNiO2 などが挙げられる。リチウムを吸蔵および離脱することが可能な正極材料としては、また例えば、単体硫黄あるいは硫黄化合物も好ましい。これらによっても高容量を得ることができるからである。
【0028】
セパレータ24は、負極10と正極23とを隔離し、両極の接触による電流の短絡を防止しつつ、リチウムイオンを通過させるものであり、例えば、ポリエチレンやポリプロピレンにより構成されている。
【0029】
セパレータ24には、液状の電解質である電解液が含浸されている。この電解液は、例えば、溶媒と、この溶媒に溶解された電解質塩であるリチウム塩とを含んでおり、必要に応じて各種添加剤を含んでいてもよい。このように電解液を用いるようにすれば、高いイオン伝導率を得ることができるので好ましい。溶媒としては、例えば、エチレンカーボネート,プロピレンカーボネート,ジメチルカーボネート,ジエチルカーボネートあるいはエチルメチルカーボネート等の有機溶媒が挙げられる。溶媒は、いずれか1種を用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
【0030】
リチウム塩としては、例えば、LiPF6 あるいはLiClO4 が挙げられる。リチウム塩は、いずれか1種を用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
【0031】
この二次電池は、例えば、正極23、電解液が含浸されたセパレータ24および負極10を積層して、外装缶22と外装カップ21との中に入れ、それらをかしめることにより製造することができる。
【0032】
この二次電池では、充電を行うと、例えば、正極23からリチウムイオンが離脱し、電解液を介して負極10に吸蔵される。放電を行うと、例えば、負極10からリチウムイオンが離脱し、電解液を介して正極23に吸蔵される。その際、負極10は、スズと膨張率が異なる元素を含む第1層12Bおよび第2層12Cを、スズ含有層12Aと負極集電体11との間またはスズ含有層12Aの中に有しているので、膨張収縮による応力が緩和され、負極活物質層12の構造破壊およびそれに伴う導電性の低下が抑制される。
【0033】
本実施の形態に係る負極は、次のようにして二次電池に用いてもよい。
【0034】
図3は、その二次電池を分解して表すものである。この二次電池は、正極リード31および負極リード32が取り付けられた電極巻回体30をフィルム状の外装部材40の内部に収容したものであり、小型化,軽量化および薄型化が可能となっている。
【0035】
正極リード31および負極リード32は、それぞれ、外装部材40の内部から外部に向かい例えば同一方向に導出されている。正極リード31および負極リード32は、例えば、アルミニウム,銅,ニッケルあるいはステンレスなどの金属材料によりそれぞれ構成されており、それぞれ薄板状または網目状とされている。
【0036】
外装部材40は、例えば、ナイロンフィルム,アルミニウム箔およびポリエチレンフィルムをこの順に貼り合わせた矩形状のアルミラミネートフィルムにより構成されている。外装部材40は、例えば、ポリエチレンフィルム側と電極巻回体30とが対向するように配設されており、各外縁部が融着あるいは接着剤により互いに密着されている。外装部材40と正極リード31および負極リード32との間には、外気の侵入を防止するための密着フィルム33が挿入されている。密着フィルム33は、正極リード31および負極リード32に対して密着性を有する材料、例えば、ポリエチレン,ポリプロピレン,変性ポリエチレンあるいは変性ポリプロピレンなどのポリオレフィン樹脂により構成されている。
【0037】
なお、外装部材40は、上述したアルミラミネートフィルムに代えて、他の構造を有するラミネートフィルム,ポリプロピレンなどの高分子フィルムあるいは金属フィルムにより構成するようにしてもよい。
【0038】
図4は、図3に示した電極巻回体30のI−I線に沿った断面構造を表すものである。電極巻回体30は、負極10と正極34とをセパレータ35および電解質層36を介して積層し、巻回したものであり、最外周部は保護テープ37により保護されている。
【0039】
正極34は、正極集電体34Aの片面あるいは両面に正極活物質層34Bが設けられた構造を有している。負極10も、負極集電体11の片面あるいは両面に負極活物質層12が設けられた構造を有している。正極集電体34A,正極活物質層34Bおよびセパレータ35の構成は、それぞれ上述した正極集電体23A,正極活物質層23Bおよびセパレータ24と同様である。
【0040】
電解質層36は、保持体に電解液を保持させたいわゆるゲル状の電解質により構成されている。ゲル状の電解質は高いイオン伝導率を得ることができると共に、電池の漏液あるいは高温における膨れを防止することができるので好ましい。電解液(すなわち溶媒および電解質塩)の構成は、図4に示したコイン型の二次電池と同様である。
【0041】
保持体は、例えば高分子化合物により構成されている。高分子化合物としては、例えばブロック共重合体であるポリフッ化ビニリデンが挙げられる。
【0042】
この二次電池は例えば次のようにして製造することができる。
【0043】
まず、正極34および負極10のそれぞれに、保持体に電解液が保持された電解質層36を形成する。そののち、正極集電体34Aの端部に正極リード31を溶接などにより取り付けると共に、負極集電体11の端部に負極リード32を溶接などにより取り付ける。
【0044】
次いで、電解質層36が形成された正極34と負極10とをセパレータ35を介して積層し積層体としたのち、この積層体をその長手方向に巻回して、最外周部に保護テープ37を接着して電極巻回体30を形成する。
【0045】
最後に、例えば、外装部材40の間に電極巻回体30を挟み込み、外装部材40の外縁部同士を熱融着などにより密着させて封入する。その際、正極リード31および負極リード32と外装部材40との間には密着フィルム33を挿入する。これにより、図3,4に示した二次電池が完成する。
【0046】
この二次電池の作用および効果は、図2に示したコイン型の二次電池と同様である。
【0047】
このように本実施の形態によれば、スズと膨張率が異なる元素を含む第1層12Bおよび第2層12Cを、スズ含有層12Aと負極集電体11との間またはスズ含有層12Aの中に有するようにしたので、充放電に伴う膨張収縮により発生する応力を緩和することができ、負極活物質層12の形状崩壊およびそれに伴う導電性の低下を抑制することができる。
【0048】
特に、スズと膨張率が異なる元素として、アルミニウム,ケイ素, 亜鉛,銀,インジウム,アンチモンおよび鉛からなる群のうちの少なくとも1種を含むようにすれば、または、第1層12Bの厚みよりも前記第2層12Cの厚みの方を大きくするようにすれば、より高い効果を得ることができる。
【実施例】
【0049】
更に、本発明の具体的な実施例について図面を参照して詳細に説明する。なお、以下の実施例では、上記実施の形態において用いた符号および記号をそのまま対応させて用いる。
【0050】
(実施例1)
図1に示した負極10を作製した。まず、表面粗さ(算術平均粗さRa)が0.5μm、厚みが15μmの銅箔を負極集電体11として用い、この負極集電体11の表面に真空蒸着法によりスズと膨張率が異なる元素である亜鉛の層を1μmの厚みで形成した。次いで、この亜鉛の層の上に、真空蒸着法によりスズの層を2μmの厚みで形成した。続いて、このスズの層の上に、真空蒸着法により亜鉛の層を1μmの厚みで形成し、更にその上に、真空蒸着法によりスズの層を2μmの厚みで形成した。そののち、真空雰囲気中において200℃で12時間熱処理し、実施例1の負極10を得た。
【0051】
実施例1に対する比較例1−1〜1−5として、比較例1−1では厚み4μmのスズの層を蒸着したことを除き、比較例1−2では厚み4μmのスズの層と厚み1μmの亜鉛の層とをこの順に蒸着したことを除き、比較例1−3では厚み1μmの亜鉛の層と厚み4μmのスズの層とをこの順に蒸着したことを除き、比較例1−4では厚み2μmのスズの層と厚み1μmの亜鉛の層と厚み2μmのスズの層とをこの順に蒸着したことを除き、比較例1−5では厚み2μmのスズの層と厚み1μmの亜鉛の層と厚み2μmのスズの層と厚み1μmの亜鉛の層とをこの順に蒸着したことを除き、他は実施例1と同様にして負極を作製した。
【0052】
作製した実施例1の負極10について、XPS(X-ray Photoelectron Spectroscopy;X線光電子分光法),AES( Auger Electron Spectroscopy;オージェ電子分光法),EDX(Energy Dispersive X-Ray Spectroscope;エネルギー分散型X線検出器),TEM(Transmission Electron Microscope;透過型電子顕微鏡)およびXRD( X-Ray Diffraction;X線回折法)により分析したところ、負極集電体11の構成元素が負極活物質層12に拡散していることが確認された。また、負極活物質層12においては、スズと亜鉛とが相互に拡散していることが確認された。なお、比較例1−1〜1−5の負極についても調べたところ、同様の結果が確認された。
【0053】
また、作製した実施例1および比較例1−1〜1−5の負極10を用いて、図2に示した直径20mm、厚み1.6mmのコイン型の二次電池を作製した。その際、正極23は、平均粒径5μmのコバルト酸リチウム(LiCoO2 )粉末とカーボンブラックとポリフッ化ビニリデンとを92:3:5の質量比で混合し、これをN−メチル−2−ピロリドン中に投入してスラリー状とし、厚み20μmのアルミニウム箔よりなる正極集電体23Aに塗布して乾燥させたのちプレスを行って正極活物質層23Bを形成することにより作製した。電解液には、エチレンカーボネート40質量%とジメチルカーボネート60質量%とを混合した溶媒に、LiPF6 を1.0mol/lとなるように溶解させたものを用いた。セパレータ24には厚み25μmのポリプロピレン製微多孔膜を用いた。
【0054】
作製した実施例1および比較例1−1〜1−5の二次電池について、上限電圧4.2V、電流密度1mA/cm2 の条件で定電流定電圧充電を行ったのち、電流密度1mA/cm2 、終止電圧2.5Vの条件で定電流放電を行うという充放電を繰り返し、初期放電容量を100%として15サイクル目の容量維持率を求めた。その結果を表1に示す。
【0055】
【表1】

【0056】
表1から分かるように、実施例1によれば、比較例1−1〜1−5に比べて高い容量維持率が得られた。すなわち、スズ含有層12Aと負極集電体11との間にスズと膨張率が異なる元素を含む第1層12Bを設けると共に、スズ含有層12Aの中にスズと膨張率が異なる元素を含む第2層12Cを設けるようにすれば、サイクル特性を向上させることができることが分かった。
【0057】
(実施例2−1〜2−5)
第1層12Bおよび第2層12Cの厚みを実施例2−1〜2−5で表2に示したように変化させたことを除き、他は実施例1と同様にして負極10および二次電池を作成した。実施例2−1〜2−5の負極10についても実施例1と同様にして分析したところ、負極集電体11の構成元素が負極活物質層12に拡散していることが確認され、負極活物質層12においては、スズと亜鉛とが相互に拡散していることが確認された。また、スズ含有層12A,第1層12Bおよび第2層12Cの厚みを成膜中に水晶発振式成膜コントローラで測定し、得られた膜厚とスズおよび亜鉛の理論密度から負極活物質層12におけるスズと亜鉛の含有量(原子%)を算出した。
【0058】
実施例2−1〜2−5の二次電池についても、実施例1と同様にして充放電を行い、15サイクル目の容量維持率を求めた。それらの結果を実施例1および比較例1−1と合わせて表2に示す。なお、実施例1および比較例1−1についても同様にして負極活物質層12におけるスズと亜鉛の含有量を算出した。
【0059】
【表2】

【0060】
表2に示したように、第1層12Bおよび第2層12Cの厚みを0.05μm以上、またはスズと膨張率が異なる元素の含有量をスズとの合計に対する割合で4原子%以上とすれば、その効果を明確に確認することができた。また、実施例2−2と実施例2−3、および実施例2−4と実施例2−5とを比較すれば分かるように、第1層12Bの厚みよりも第2層12Cの厚みを大きくした方が容量維持率をより向上させることができた。
【0061】
すなわち、第1層12Bおよび第2層12Cの厚みを0.05μm以上、またはスズの原子数をX、スズと膨張率が異なる元素の原子数をY、X+Y=100とすると、Y≧4以上とすることが好ましく、第1層12Bの厚みよりも第2層12Cの厚みを大きくした方がより好ましいことが分かった。
【0062】
(実施例3−1〜3−8)
実施例3−1〜3−7では、スズと膨張率が異なる元素の種類を表3に示したように変えたことを除き、他は実施例2−4と同様にして負極10および二次電池を作成した。具体的には、亜鉛の層に代えて、実施例3−1ではアルミニウムの層を蒸着し、実施例3−2ではケイ素の層を蒸着し、実施例3−3では銀の層を蒸着し、実施例3−4ではインジウムの層を蒸着し、実施例3−5ではアンチモンの層を蒸着し、実施例3−5では鉛の層を蒸着し、実施例3−7では亜鉛とインジウムとの合金層を蒸着した。
【0063】
また、実施例3−8では、スズの層に代えて、銅−スズ合金の層を蒸着したことを除き、他は実施例2−4と同様にして負極10および二次電池を作成した。
【0064】
実施例3−1〜3−8の負極10についても実施例1と同様にして分析したところ、負極集電体11の構成元素が負極活物質層12に拡散していることが確認され、負極活物質層12においては、各層の構成元素が相互に拡散していることが確認された。また、実施例3−1〜3−8の二次電池についても、実施例2−4と同様にして充放電を行い、15サイクル目の容量維持率を求めた。その結果を実施例2−4の結果と合わせて表3に示す。
【0065】
【表3】

【0066】
表3から分かるように、実施例3−1〜3−8についても、実施例2−4と同様に、高い容量維持率が得られた。すなわち、スズと膨張率が異なる元素として、亜鉛、アルミニウム、ケイ素、銀、インジウム、アンチモンおよび鉛からなる群のうちの少なくとも1種を含むようにすれば、サイクル特性を向上させることができることが分かった。また、スズ含有層12Aがスズ合金などを含む場合においても、高いサイクル特性を得られることが分かった。
【0067】
以上、実施の形態および実施例を挙げて本発明を説明したが、本発明は上記実施の形態および実施例に限定されるものではなく、種々変形可能である。例えば、上記実施の形態および実施例では、液状の電解質である電解液、またはいわゆるゲル状の電解質を用いる場合について説明したが、他の電解質を用いるようにしてもよい。他の電解質としては、イオン伝導性を有する固体電解質、固体電解質と電解液とを混合したもの、あるいは固体電解質とゲル状の電解質とを混合したものが挙げられる。
【0068】
なお、固体電解質には、例えば、イオン伝導性を有する高分子化合物に電解質塩を分散させた高分子固体電解質、またはイオン伝導性ガラスあるいはイオン性結晶などよりなる無機固体電解質を用いることができる。高分子固体電解質の高分子化合物としては、例えば、ポリエチレンオキサイドあるいはポリエチレンオキサイドを含む架橋体などのエーテル系高分子化合物、ポリメタクリレートなどのエステル系高分子化合物、アクリレート系高分子化合物を単独あるいは混合して、または共重合させて用いることができる。また、無機固体電解質としては、窒化リチウムあるいはリン酸リチウムなどを含むもの用いることができる。
【0069】
また、上記実施の形態および実施例では、負極集電体11に負極活物質層12を形成するようにしたが、負極集電体と負極活物質層との間に他の層を形成するようにしてもよく、また、負極活物質層12の上に、イオン伝導性を有する被膜を形成するようにしてもよい。
【0070】
更に、上記実施の形態および実施例では、コイン型または巻回ラミネート型の二次電池について説明したが、本発明は、円筒型,角型,ボタン型,薄型,大型あるいは積層ラミネート型などの他の形状を有する二次電池についても同様に適用することができる。加えて、二次電池に限らず、一次電池についても適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0071】
【図1】本発明の第1の実施の形態に係る負極の構成を簡略化して表す断面図である。
【図2】図1に示した負極を用いた二次電池の構成を表す断面図である。
【図3】図1に示した負極を用いた他の二次電池の構成を表す断面図である。
【図4】図3に示した二次電池のI−I線に沿った構造を表す断面図である。
【符号の説明】
【0072】
10…負極、11…負極集電体、12…負極活物質層、21…外装カップ、22…外装缶、23,34…正極、23A,34A…正極集電体、23B,34B…正極活物質層、24,35…セパレータ、25…ガスケット、30…電極巻回体、31…正極リード、32…負極リード、33…密着フィルム、36…電解質層、37…保護テープ、40…外装部材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
負極集電体と、この負極集電体に設けられた負極活物質層とを備え、
前記負極活物質層は、スズを含むスズ含有層を有すると共に、このスズ含有層と前記負極集電体との間に、リチウム(Li)と電気化学的に反応可能であり、リチウムとの合金形成時の膨張率がスズ(Sn)と異なる元素を含む第1層と、前記スズ含有層の中に、リチウムと電気化学的に反応可能であり、リチウムとの合金形成時の膨張率がスズと異なる元素を含む第2層とを有することを特徴とする負極。
【請求項2】
前記第1層および前記第2層は、リチウムとの合金形成時の膨張率がスズと異なる元素として、アルミニウム(Al),ケイ素(Si), 亜鉛(Zn),銀(Ag),インジウム(In),アンチモン(Sb)および鉛(Pb)からなる群のうちの少なくとも1種を含むことを特徴とする請求項1記載の負極。
【請求項3】
前記第1層の厚みよりも前記第2層の厚みの方が大きいことを特徴とする請求項1記載の負極。
【請求項4】
前記負極集電体、前記スズ含有層、前記第1層、および前記第2層の構成元素は、それらの界面において相互に拡散していることを特徴とする請求項1記載の負極。
【請求項5】
前記スズ含有層は前記第1層および前記第2層よりもスズを多く含み、前記第1層および前記第2層は前記スズ含有層よりもリチウムとの合金形成時の膨張率がスズと異なる元素を多く含むことを特徴とする請求項4記載の負極。
【請求項6】
前記負極集電体は、銅(Cu),鉄(Fe),ニッケル(Ni),チタン(Ti)およびステンレスからなる群のうちの少なくとも1種を含むことを特徴とする請求項1記載の負極。
【請求項7】
正極および負極と共に電解質を備えた電池であって、
前記負極は、負極集電体と、この負極集電体に設けられた負極活物質層とを備え、
前記負極活物質層は、スズを含むスズ含有層を有すると共に、このスズ含有層と前記負極集電体との間に、リチウム(Li)と電気化学的に反応可能であり、リチウムとの合金形成時の膨張率がスズ(Sn)と異なる元素を含む第1層と、前記スズ含有層の間に、リチウムと電気化学的に反応可能であり、リチウムとの合金形成時の膨張率がスズと異なる元素を含む第2層とを有することを特徴とする電池。
【請求項8】
前記第1層および前記第2層は、リチウムとの合金形成時の膨張率がスズと異なる元素として、アルミニウム(Al),ケイ素(Si), 亜鉛(Zn),銀(Ag),インジウム(In),アンチモン(Sb)および鉛(Pb)からなる群のうちの少なくとも1種を含むことを特徴とする請求項7記載の電池。
【請求項9】
前記第1層の厚みよりも前記第2層の厚みの方が大きいことを特徴とする請求項7記載の電池。
【請求項10】
前記負極集電体、前記スズ含有層、前記第1層、および前記第2層の構成元素は、それらの界面において相互に拡散していることを特徴とする請求項7記載の電池。
【請求項11】
前記スズ含有層は前記第1層および前記第2層よりもスズを多く含み、前記第1層および前記第2層は前記スズ含有層よりもリチウムとの合金形成時の膨張率がスズと異なる元素を多く含むことを特徴とする請求項10記載の電池。
【請求項12】
前記負極集電体は、銅(Cu),鉄(Fe),ニッケル(Ni),チタン(Ti)およびステンレスからなる群のうちの少なくとも1種を含むことを特徴とする請求項7記載の電池。
【請求項13】
前記電解質は、保持体と、溶媒と、電解質塩とを含むことを特徴とする請求項7記載の電池。
【請求項14】
更に、前記正極、前記負極および前記電解質を収容するフィルム状の外装部材を備えたことを特徴とする請求項7記載の電池。
【請求項15】
前記正極は、リチウム含有金属複合酸化物を含むことを特徴とする請求項7記載の電池。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2006−59714(P2006−59714A)
【公開日】平成18年3月2日(2006.3.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−241261(P2004−241261)
【出願日】平成16年8月20日(2004.8.20)
【出願人】(000002185)ソニー株式会社 (34,172)
【Fターム(参考)】