説明

負極および電池

【課題】サイクル特性を向上させることができる負極およびそれを用いた電池を提供する。
【解決手段】負極集電体11にSiを含む負極活物質層12が設けられている。負極集電体11は、基材11Aに基材突起部11Bを設けることにより粗化されており、基材突起部11Bの表面には更に基材突起部11Bよりも小さい表面突起部11Cが形成されている。これにより、負極集電体11と負極活物質層12との密着性が向上し、負極活物質層12が充放電により膨張収縮しても負極活物質層12の剥離が抑制される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、負極集電体に構成元素としてケイ素(Si)を含む負極活物質層が設けられた負極、およびそれを備えた電池に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、モバイル機器の高性能化および多機能化に伴い、それらの電源である二次電池の高容量化が要求されている。この要求に応える二次電池としてはリチウムイオン二次電池があるが、現在実用化されているものは負極に黒鉛を用いているので、電池容量は飽和状態にあり、大幅な高容量化は難しい。そこで、負極にケイ素などを用いることが検討されており、最近では、気相法などにより負極集電体に負極活物質層を形成することも報告されている。ケイ素などは充放電に伴う膨張収縮が大きいので、微粉化によるサイクル特性の低下が問題であったが、気相法などによれば、微細化を抑制することができると共に、負極集電体と負極活物質層とを一体化することができるので負極における電子伝導性が極めて良好となり、容量的にもサイクル寿命的にも高性能化が期待されている。
【0003】
しかし、このように負極集電体と負極活物質層とを一体化した負極においても、充放電を繰り返すと、負極活物質層の激しい膨張および収縮により負極集電体と負極活物質層との間に応力がかかり、負極活物質層の脱落などが生じてサイクル特性が低下するなど問題があった。そこで、負極集電体を粗化することにより、負極集電体との密着性を向上させることが検討されている(例えば、特許文献1,2参照)。
【特許文献1】国際公開第WO01/031723号パンフレット
【特許文献2】特開2002−313319号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、これらの技術によっても負極活物質層の剥離は避けられず、サイクル特性を十分に向上させることが難しいという問題があった。
【0005】
本発明はかかる問題点に鑑みてなされたもので、その目的は、負極集電体と負極活物質層の密着性を高め、負極活物質層の剥離を抑制することができる負極および電池を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明による負極は、負極集電体に構成元素としてケイ素を含む負極活物質層が設けられたものであって、負極集電体は、基材と、この基材に設けられた基材突起部とを有し、この基材突起部の少なくとも一部には、表面に、この基材突起部よりも小さい表面突起部が形成されているものである。
【0007】
本発明による電池は、正極および負極と共に電解質を備えたものであって、負極は、負極集電体に構成元素としてケイ素を含む負極活物質層が設けられており、負極集電体は、基材と、この基材に設けられた基材突起部とを有し、この基材突起部の少なくとも一部には、表面に、この基材突起部よりも小さい表面突起部が形成されているものである。
【発明の効果】
【0008】
本発明の負極によれば、基材突起部の表面に表面突起部を設けるようにしたので、負極集電体と負極活物質層との密着性を向上させることができ、負極活物質層の剥離を抑制することができる。よって、本発明の電池によれば、サイクル特性などの電池特性を向上させることができる。
【0009】
特に、基材突起部の平均径を50nm以上5μm以下とするようにすれば、より高い効果を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照して詳細に説明する。
【0011】
図1は、本発明の一実施の形態に係る負極10の構成を表すものである。負極10は、例えば、負極集電体11に構成元素としてケイ素を含む負極活物質層12が設けられた構造を有している。ケイ素はリチウム(Li)を吸蔵および放出する能力が大きく、高いエネルギー密度を得ることができるからである。ケイ素は、単体で含まれていても、合金で含まれていても、化合物で含まれていてもよく、それらの2種以上が混在した状態で含まれていてもよい。なお、図1では負極集電体11の片面に負極活物質層12が設けられた場合を示したが、負極活物質層12は負極集電体11の両面に設けられていてもよい。
【0012】
負極集電体11は、基材11Aと、基材11Aに設けられた粒子状の基材突起部11Bとを有している。基材突起部11Bによるアンカー効果により、負極集電体11と負極活物質層12との密着性を向上させることができるからである。
【0013】
基材11Aは、リチウムと金属間化合物を形成しない金属元素を含む金属材料により構成されていることが好ましい。リチウムと金属間化合物を形成すると、充放電に伴い膨張および収縮し、構造破壊が起こって、集電性が低下する他、負極活物質層12を支える能力が小さくなるからである。なお、本明細書において金属材料には、金属元素の単体だけでなく、2種以上の金属元素あるいは1種以上の金属元素と1種以上の半金属元素とからなる合金も含める。リチウムと金属間化合物を形成しない金属元素としては、例えば、銅(Cu),ニッケル(Ni),チタン(Ti),鉄(Fe)あるいはクロム(Cr)が挙げられる。
【0014】
また、基材11Aは、負極活物質層12と合金化することが可能な金属元素を含む方がより好ましい場合もある。合金化により負極集電体11と負極活物質層12との密着性をより向上させることができるからである。リチウムと金属間化合物を形成せず、負極活物質層12と合金化する金属元素、すなわちケイ素と合金化する金属元素としては、銅,ニッケルあるいは鉄が挙げられる。中でも、銅は導電性および強度の面からも好ましい。
【0015】
基材11Aは、単層により構成してもよいが、複数層により構成してもよい。その場合、負極活物質層12と接する層を負極活物質層12と合金化しやすい金属材料により構成し、他の層を他の金属材料により構成するようにしてもよい。
【0016】
基材突起部11Bは、基材11Aの負極活物質層12が形成される面に少なくとも設けられていればよく、負極活物質層12と合金化することが可能な元素を含むことが好ましい。合金化により負極活物質層12との密着性をより向上させることができるからである。ケイ素と合金化しやすい元素としては、例えば、銅,ニッケル,鉄,アルミニウム(Al),インジウム(In),コバルト(Co),マンガン(Mn),亜鉛(Zn),銀(Ag),スズ(Sn),ゲルマニウム(Ge)あるいは鉛(Pb)が挙げられる。基材突起部11Bの構成元素は、基材11Aと同一でも異なっていてもよい。
【0017】
基材突起部11Bの形状は、球状あるいは角状などどのような形状でもよい。基材突起部11Bの平均径は、50nm以上5μm以下であることが好ましく、100nm以上4μm以下であればより好ましい。平均径が小さすぎると十分なアンカー効果が得られず、大きすぎても負極集電体11と負極活物質層12との接着性が低下する傾向があるからである。
【0018】
基材突起部11Bの少なくとも一部には、表面に、基材突起部11Bよりも大きさが小さい表面突起部11Cが形成されている。表面突起部11Cにより、負極集電体11と負極活物質層12との密着性をより向上させることができるからである。表面突起部11Cは、基材突起部11Bと同様に、負極活物質層12と合金化することが可能な元素を含むことが好ましい。表面突起部11Cの構成元素は、基材突起部11Bと同一でもよいが異なっていてもよく、基材11Aとも同一でもよいが異なっていてもよい。また、表面突起部11Cは、基材突起部11Bの表面から放射状に形成されていることが好ましい。より高い効果を得ることができるからである。
【0019】
負極活物質層12は、例えば、気相法,液相法,焼成法および溶射法からなる群のうちの1種以上の方法により少なくとも一部が形成されたものであることが好ましく、それらの2種以上を組み合わせて形成されたものでもよい。充放電に伴う負極活物質層12の膨張・収縮による破壊を抑制することができると共に、負極集電体11と負極活物質層12とを一体化することができ、負極活物質層12における電子伝導性を向上させることができるからである。なお、「焼成法」というのは、活物質を含む粉末とバインダーとを混合し成形した層を、非酸化性雰囲気下等で熱処理することにより、熱処理前よりも体積密度が高く、より緻密な層を形成する方法を意味する。
【0020】
負極活物質層12は、また、負極集電体11との界面の少なくとも一部において負極集電体11と合金化していることが好ましい。具体的には、界面において負極集電体11の構成元素が負極活物質層12に、または負極活物質層12の構成元素が負極集電体11に、またはそれらが互いに拡散していることが好ましい。密着性を向上させることができ、負極活物質層12Bが膨張収縮により負極集電体12Aから脱落してしまうことを抑制することができるからである。なお、本明細書では、上述した元素の拡散も合金化の一形態に含める。
【0021】
負極10は、例えば、次のようにして製造することができる。
【0022】
まず、基材11Aとして金属箔を用意し、これに電解析出法などにより基材突起部11Bおよび表面突起部11Cを形成して負極集電体11を作製する。その際、基材11Aに電解銅箔を用いるようにすれば、容易に負極集電体11を製造することができるので好ましい。
【0023】
次いで、負極集電体11に、例えば、気相法,液相法,焼成法,溶射法あるいはそれらの2以上の方法を用いて負極活物質層12Bを成膜することにより負極12を作製する。気相法としては、例えば、物理堆積法あるいは化学堆積法が挙げられ、具体的には、真空蒸着法,スパッタ法,イオンプレーティング法,レーザーアブレーション法,あるいはCVD(Chemical Vapor Deposition ;化学気相成長)法などが挙げられる。液相法としては例えば鍍金が挙げられる。
【0024】
なお、負極活物質層12の成膜時に、負極活物質層12と負極集電体11との合金化が同時に起こる場合もあるが、負極活物質層12を成膜したのちに、真空雰囲気下または非酸化性雰囲気下で熱処理を行い、合金化するようにしてもよい。これにより図1に示した負極10が得られる。
【0025】
この負極10は、例えば、次のような二次電池に用いられる。
【0026】
図2は、その二次電池の構成を表すものである。この二次電池は、いわゆるコイン型といわれるものであり、外装カップ21に収容された負極10と、外装缶22の内に収容された正極23とが、セパレータ24を介して積層されたものである。なお、図2においては基材突起部11Bおよび表面突起部11Cの描写を省略している。
【0027】
外装カップ21および外装缶22の周縁部は絶縁性のガスケット25を介してかしめることにより密閉されている。外装カップ21および外装缶22は、例えば、ステンレスあるいはアルミニウムなどの金属によりそれぞれ構成されている。
【0028】
正極23は、例えば、正極集電体23Aと、正極集電体23Aに設けられた正極活物質層23Bとを有しており、正極活物質層23Bの側が負極活物質層12と対向するように配置されている。正極集電体23Aは、例えば、アルミニウム,ニッケルあるいはステンレスなどにより構成されている。
【0029】
正極活物質層23Bは、例えば、正極活物質としてリチウムを吸蔵および放出することが可能な正極材料のいずれか1種または2種以上を含んでおり、必要に応じて炭素材料などの導電材およびポリフッ化ビニリデンなどのバインダーを含んでいてもよい。リチウムを吸蔵および放出することが可能な正極材料としては、例えば、一般式Lix MIO2 で表されるリチウム含有金属複合酸化物が好ましい。リチウム含有金属複合酸化物は、高電圧を発生可能であると共に、高密度であるため、二次電池の更なる高容量化を図ることができるからである。なお、MIは1種類以上の遷移金属であり、例えばコバルトおよびニッケルのうちの少なくとも一方が好ましい。xは電池の充放電状態によって異なり、通常0.05≦x≦1.10の範囲内の値である。このようなリチウム含有金属複合酸化物の具体例としては、LiCoO2 あるいはLiNiO2 などが挙げられる。
【0030】
なお、正極23は、例えば、正極活物質と導電材とバインダーとを混合して合剤を調製し、この合剤をN−メチル−2−ピロリドンなどの分散媒に分散させて合剤スラリーを作製し、この合剤スラリーを金属箔よりなる正極集電体23Aに塗布し乾燥させたのち、圧縮成型し正極活物質層23Bを形成することにより作製することができる。
【0031】
セパレータ24は、負極10と正極23とを隔離し、両極の接触による電流の短絡を防止しつつ、リチウムイオンを通過させるものである。このセパレータ24は、例えば、ポリエチレンやポリプロピレンにより構成されている。
【0032】
セパレータ24には、液状の電解質である電解液が含浸されている。この電解液は、例えば、溶媒と、この溶媒に溶解された電解質塩とを含んでおり、必要に応じて添加剤を含んでいてもよい。溶媒としては、例えば、炭酸エチレン,炭酸プロピレン,炭酸ジメチル,炭酸ジエチルあるいは炭酸エチルメチルなどの非水溶媒が挙げられる。溶媒はいずれか1種を単独で用いてもよいが、2種以上を混合して用いてもよい。
【0033】
電解質塩としては、例えば、LiPF6 ,LiCF3 SO3 あるいはLiClO4 などのリチウム塩が挙げられる。電解質塩は、いずれか1種を単独で用いてもよいが、2種以上を混合して用いてもよい。
【0034】
この二次電池は、例えば、負極10、電解液が含浸されたセパレータ24および正極23を積層して、外装カップ21と外装缶22との中に入れ、それらをかしめることにより製造することができる。
【0035】
この二次電池では、充電を行うと、例えば、正極23からリチウムイオンが放出され、電解液を介して負極10に吸蔵される。放電を行うと、例えば、負極10からリチウムイオンが放出され、電解液を介して正極23に吸蔵される。本実施の形態では、基材突起部11Bに表面突起部11Cを設けた負極集電体11を用いているので、負極集電体11と負極活物質層12との密着性が向上されており、充放電により負極活物質層12が膨張収縮しても、負極活物質層12の剥離が抑制される。
【0036】
本実施の形態に係る負極10は、次のような二次電池に用いてもよい。
【0037】
図3は、その二次電池の構成を表すものである。この二次電池は、リード31,32が取り付けられた電極巻回体30をフィルム状の外装部材41内部に収容したものであり、小型化,軽量化および薄型化が可能となっている。
【0038】
リード31,32は、それぞれ、外装部材41の内部から外部に向かい例えば同一方向に導出されている。リード31,32は、例えば、アルミニウム,銅,ニッケルあるいはステンレスなどの金属材料によりそれぞれ構成されており、それぞれ薄板状または網目状とされている。
【0039】
外装部材41は、例えば、ナイロンフィルム,アルミニウム箔およびポリエチレンフィルムをこの順に貼り合わせた矩形状のアルミラミネートフィルムにより構成されている。外装部材41は、例えば、ポリエチレンフィルム側と電極巻回体30とが対向するように配設されており、各外縁部が融着あるいは接着剤により互いに密着されている。外装部材41とリード31,32との間には、外気の侵入を防止するための密着フィルム42が挿入されている。密着フィルム42は、リード31,32に対して密着性を有する材料、例えば、ポリエチレン,ポリプロピレン,変性ポリエチレンあるいは変性ポリプロピレンなどのポリオレフィン樹脂により構成されている。
【0040】
なお、外装部材41は、上述したアルミラミネートフィルムに代えて、他の構造を有するラミネートフィルム,ポリプロピレンなどの高分子フィルムあるいは金属フィルムにより構成するようにしてもよい。
【0041】
図4は、図3に示した電極巻回体30のI−I線に沿った断面構造を表すものである。電極巻回体30は、負極10と正極33とをセパレータ34および電解質層35を介して積層し、巻回したものであり、最外周部は保護テープ36により保護されている。なお、図4においては基材突起部11Bおよび表面突起部11Cの描写を省略している。
【0042】
負極10は、負極集電体11の両面に負極活物質層12が設けられた構造を有している。正極33も、正極集電体33Aの両面に正極活物質層33Bが設けられた構造を有しており、正極活物質層33Bと負極活物質層12とが対向するように配置されている。正極集電体33A,正極活物質層33Bおよびセパレータ34の構成は、それぞれ上述した正極集電体23A,正極活物質層23Bおよびセパレータ24と同様である。
【0043】
電解質層35は、高分子化合物よりなる保持体に電解液を保持させたいわゆるゲル状の電解質により構成されている。ゲル状の電解質は高いイオン伝導率を得ることができると共に、電池の漏液を防止することができるので好ましい。電解液の構成は、図2に示したコイン型の二次電池と同様である。高分子材料としては、例えばポリフッ化ビニリデンが挙げられる。
【0044】
この二次電池は、例えば、次のようにして製造することができる。
【0045】
まず、負極10および正極33のそれぞれに、保持体に電解液を保持させた電解質層35を形成し、リード31,32を取り付ける。次いで、電解質層35が形成された負極10と正極33とをセパレータ34を介して積層し、巻回して、最外周部に保護テープ36を接着して電極巻回体30を形成する。続いて、例えば、外装部材41の間に電極巻回体30を挟み込み、外装部材41の外縁部同士を熱融着などにより密着させて封入する。その際、リード31,32と外装部材41との間には密着フィルム42を挿入する。これにより、図3および図4に示した二次電池が完成する。
【0046】
また、次のようにして製造してもよい。まず、負極10および正極33のそれぞれにリード31,32を取り付けたのち、負極10と正極33とをセパレータ34を介して積層して巻回し、最外周部に保護テープ36を接着して、電極巻回体30の前駆体である巻回体を形成する。次いで、この巻回体を外装部材41に挟み、一辺を除く外周縁部を熱融着して袋状としたのち、電解液と、高分子化合物の原料であるモノマーと、重合開始剤と、必要に応じて重合禁止剤などの他の材料とを含む電解質用組成物を、外装部材41の内部に注入する。続いて、外装部材41の開口部を真空雰囲気下で熱融着して密封し、熱を加えてモノマーを重合させて高分子化合物とすることによりゲル状の電解質層35を形成する。これにより、図3および図4に示した二次電池が完成する。
【0047】
この二次電池の作用は、図2に示したコイン型の二次電池と同様である。
【0048】
このように本実施の形態によれば、基材突起部11Bの表面に表面突起部11Cを設けるようにしたので、負極集電体11と負極活物質層12との密着性を向上させることができ、負極活物質層12の剥離を抑制することができる。よって、サイクル特性などの電池特性を向上させることができる。
【0049】
特に、基材突起部11Bの平均径を50nm以上5μm以下とするようにすれば、より高い効果を得ることができる。
【実施例】
【0050】
更に、本発明の具体的な実施例について図面を参照して詳細に説明する。
【0051】
(実施例1−1〜1−7)
図3,4に示した構造の二次電池を作製した。
【0052】
まず、基材11Aとして厚み12μmの電解銅箔を用意し、電解析出法により基材突起部11Bおよび表面突起部11Cを形成することにより負極集電体11を作製した。その際、実施例1−1〜1−7で基材突起部11Bの平均径を表1に示したように変化させた。作製した各負極集電体11について走査型電子顕微鏡(Scanning Electron Microscope;SEM)により表面状態を観察したところ、基材突起部11Bの表面に放射状に表面突起部11Cが形成されていることが確認された。図5,6に実施例1−3のSEM写真を代表して示す。図6は図5の一部を拡大して表したものである。次いで、負極集電体11に真空蒸着法によりケイ素よりなる厚み約9μmの負極活物質層12を成膜し、減圧雰囲気において熱処理を行った。作成した負極10について断面を切り出し、負極集電体11と負極活物質層12との界面をAES(オージェ電子分光法;Auger electron spectroscopy )により分析を行ったところ、負極活物質層12に負極集電体11の銅の成分が拡散されていることが確認された。すなわち、負極集電体11と負極活物質層12とが合金化していることが確認された。
【0053】
また、正極活物質である平均粒径5μmのコバルト酸リチウム(LiCoO2 )粉末92質量部と、導電材であるカーボンブラック3質量部と、バインダーであるポリフッ化ビニリデン5質量部とを混合し、これを分散媒であるN−メチル−2−ピロリドンに投入してスラリーとした。次いで、これを厚み15μmのアルミニウム箔よりなる正極集電体33Aに塗布して乾燥させたのちプレスを行って正極活物質層33Bを形成した。
【0054】
続いて、炭酸エチレン37.5質量%と、炭酸プロピレン37.5質量%と、炭酸ビニレン10質量%と、LiPF6 15質量%とを混合して電解液を調整し、この電解液30質量部と、重量平均分子量60万のブロック共重合体であるポリフッ化ビニリデン10質量部とを混合して負極10および正極33の両面にそれぞれ塗布することにより電解質層35を形成した。
【0055】
そののち、リード31,32を取り付け、負極10と正極33とをセパレータ34を介して積層して巻回し、アルミラミネートフィルムよりなる外装部材41に封入した。これにより実施例1−1〜1−7の二次電池を得た。
【0056】
実施例1−1〜1−7に対する比較例1−1〜1−3として、負極集電体に表面突起部を形成しなかったことを除き、他は実施例1−1〜1−7と同様にして二次電池を作製した。その際、比較例1−1〜1−3で基材突起部の平均径を表1に示したように変化させた。比較例1−1〜1−3の負極集電体についてもSEMにより表面状態を観察したところ、基材突起部のみが形成されていることが確認された。図7,8に比較例1−2のSEM写真を代表して示す。図8は図7の一部を拡大して表したものである。
【0057】
作製した実施例1−1〜1−7および比較例1−1〜1−3の二次電池について、25℃の条件下で充放電試験を行い、2サイクル目に対する31サイクル目の放電容量維持率を求めた。その際、充電は、1mA/cm2 の定電流密度で電池電圧が4.2Vに達するまで行ったのち、4.2Vの定電圧で電流密度が0.05mA/cm2 に達するまで行い、放電は、1mA/cm2 の定電流密度で電池電圧が2.5Vに達するまで行った。なお、充電を行う際には、負極10の容量の利用率が90%となるようにし、負極10に金属リチウムが析出しないようにした。放電容量維持率は、2サイクル目の放電容量に対する31サイクル目の放電容量の比率、すなわち(31サイクル目の放電容量/2サイクル目の放電容量)×100として算出した。それらの結果を表1に示す。
【0058】
【表1】

【0059】
表1に示したように、実施例1−1〜1−7によれば、比較例1−1〜1−3に比べて放電容量維持率を向上させることができた。すなわち、基材突起部11Bの表面に表面突起部11Cを設けるようにすれば、負極集電体11と負極活物質層12との密着性を向上させることができ、サイクル特性などの電池特性を向上させることができることが分かった。
【0060】
(実施例2−1,2−2)
負極活物質層12を焼成法により形成したことを除き、他は実施例1−1,1−3と同様にして二次電池を作製した。負極活物質層12は、平均粒径1μmのケイ素粉末90質量部と、ポリフッ化ビニリデン1質量部とを、分散媒であるN−メチル−2−ピロリドンに分散させて負極集電体11に塗布し、乾燥させプレスを行ったのち、真空雰囲気中において400℃で12時間加熱処理することにより形成した。なお、実施例2−1において用いた負極集電体11は実施例1−1と同一であり、実施例2−2において用いた負極集電体11は実施例1−3と同一である。
【0061】
また、実施例2−1,2−2に対する比較例2−1として、比較例1−2と同様の負極集電体を用いたことを除き、他は実施例2−1,2−2と同様にして二次電池を作製した。実施例2−1,2−2および比較例2−1の二次電池についても、実施例1−1〜1−7と同様にして放電容量維持率を求めた。それらの結果を表2に示す。
【0062】
【表2】

【0063】
表2に示したように、負極活物質層12を焼成法により形成した場合においても同様の結果が得られた。
【0064】
以上、実施の形態および実施例を挙げて本発明を説明したが、本発明は上記実施の形態および実施例に限定されるものではなく、種々変形可能である。例えば、上記実施の形態および実施例では、液状の電解質である電解液、またはいわゆるゲル状の電解質を用いる場合について説明したが、他の電解質を用いるようにしてもよい。他の電解質としては、イオン伝導性を有する固体電解質、固体電解質と電解液とを混合したもの、あるいは固体電解質とゲル状の電解質とを混合したものが挙げられる。
【0065】
なお、固体電解質には、例えば、イオン伝導性を有する高分子化合物に電解質塩を分散させた高分子固体電解質、またはイオン伝導性ガラスあるいはイオン性結晶などよりなる無機固体電解質を用いることができる。高分子固体電解質の高分子化合物としては、例えば、ポリエチレンオキサイドあるいはポリエチレンオキサイドを含む架橋体などのエーテル系高分子化合物、ポリメタクリレートなどのエステル系高分子化合物、アクリレート系高分子化合物を単独あるいは混合して、または共重合させて用いることができる。また、無機固体電解質としては、窒化リチウムあるいはリン酸リチウムなどを含むものを用いることができる。
【0066】
また、上記実施の形態および実施例では、コイン型または巻回ラミネート型の二次電池について説明したが、本発明は、円筒型,角型,ボタン型,薄型,大型あるいは積層ラミネート型などの他の形状を有する二次電池についても同様に適用することができる。加えて、二次電池に限らず、一次電池についても適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0067】
【図1】本発明の一実施の形態に係る負極の構成を表す断面図である。
【図2】図1に示した負極を用いた二次電池の構成を表す断面図である。
【図3】図1に示した負極を用いた他の二次電池の構成を表す分解斜視図である。
【図4】図3に示した二次電池のI−I線に沿った構造を表す断面図である。
【図5】実施例1−3に係る負極集電体の表面構造を表すSEM写真である。
【図6】図5に示した負極集電体の一部を拡大して表すSEM写真である。
【図7】比較例1−3に係る負極集電体の表面構造を表すSEM写真である。
【図8】図7に示した負極集電体の一部を拡大して表すSEM写真である。
【符号の説明】
【0068】
10…負極、11…負極集電体、11A…基材、11B…基材突起部、11C…表面突起部、12…負極活物質層、21…外装カップ、22…外装缶、23,33…正極、23A,33A…正極集電体、23B,33B…正極活物質層、24,34…セパレータ、25…ガスケット、31,32…リード、30…電極巻回体、35…電解質層、36…保護テープ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
負極集電体に構成元素としてケイ素(Si)を含む負極活物質層が設けられた負極であって、
前記負極集電体は、基材と、この基材に設けられた基材突起部とを有し、
この基材突起部の少なくとも一部には、表面に、この基材突起部よりも小さい表面突起部が形成されている
ことを特徴とする負極。
【請求項2】
前記基材突起部は粒子状であり、その平均径は50nm以上5μm以下であることを特徴とする請求項1記載の負極。
【請求項3】
前記表面突起部は、前記基材突起部の表面から放射状に形成されていることを特徴とする請求項1記載の負極。
【請求項4】
前記基材突起部および前記表面突起部は、電解析出法により形成されたことを特徴とする請求項1記載の負極。
【請求項5】
前記基材は、電解銅箔であることを特徴とする請求項1記載の負極。
【請求項6】
前記負極集電体と前記負極活物質層とは、界面の少なくとも一部において合金化していることを特徴とする請求項1記載の負極。
【請求項7】
前記負極活物質層は、気相法,液相法,焼成法および溶射法からなる群のうちの1種以上の方法により少なくとも一部が形成されたことを特徴とする請求項1記載の負極。
【請求項8】
正極および負極と共に電解質を備えた電池であって、
前記負極は、負極集電体に構成元素としてケイ素(Si)を含む負極活物質層が設けられており、
前記負極集電体は、基材と、この基材に設けられた基材突起部とを有し、
この基材突起部の少なくとも一部には、表面に、この基材突起部よりも小さい表面突起部が形成されている
ことを特徴とする電池。
【請求項9】
前記基材突起部は粒子状であり、その平均径は50nm以上5μm以下であることを特徴とする請求項8記載の電池。
【請求項10】
前記表面突起部は、前記基材突起部の表面から放射状に形成されていることを特徴とする請求項8記載の電池。
【請求項11】
前記基材突起部および前記表面突起部は、電解析出法により形成されたことを特徴とする請求項8記載の電池。
【請求項12】
前記基材は、電解銅箔であることを特徴とする請求項8記載の電池。
【請求項13】
前記負極集電体と前記負極活物質層とは、界面の少なくとも一部において合金化していることを特徴とする請求項8記載の電池。
【請求項14】
前記負極活物質層は、気相法,液相法,焼成法および溶射法からなる群のうちの1種以上の方法により少なくとも一部が形成されたことを特徴とする請求項8記載の電池。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2007−103197(P2007−103197A)
【公開日】平成19年4月19日(2007.4.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−292576(P2005−292576)
【出願日】平成17年10月5日(2005.10.5)
【出願人】(000002185)ソニー株式会社 (34,172)
【Fターム(参考)】