説明

負荷稼動状況推定装置及び方法並びにそれを利用した地絡発生源推定装置及び方法

【課題】 簡易な構成で任意の時点での各負荷の稼動状況を高い確度で推定することができる負荷稼動状況推定装置及び方法、並びに、それを利用して再現性がない地絡事故についても地絡発生源を推定することができる地絡発生源推定装置及び方法を提供する。
【解決手段】 ノイズ周波数を含む各注目すべき複数の周波数成分に関する負荷電流値を、負荷たる設備毎に、負荷稼動率を逐次変化させて測定することによって各周波数毎の負荷電流値を上記負荷稼動率の関数として予めモデル化しておき、このモデル化されたデータと幹線における負荷電流の上記各周波数毎の実測値との対比に基づいて、給電系統の負荷稼動状況を推定する。茲に負荷稼動率とは、任意の注目時点での稼動量の定格値に対する比率である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば、分電盤から複数の負荷たる機器や設備に電力を供給する工場や事務所の電力設備のように、種々の運転状況で稼動する複数の負荷に幹線から分岐した電路である分岐線を通して給電するシステムにおいて、それら各負荷の稼動状況を推定する負荷状況推定装置及び方法並びにそれを利用した地絡発生源推定装置及び方法に関するものであり、特に、計測器の数が少なく簡易な構成のこの種の推定装置及び方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、分電盤から複数の設備に電力を供給している工場やビル等の電力設備において、負荷の稼動状況を把握するには、巡視によって各設備の負荷を測定する方法や、各設備毎に計測器を設置して個別に測定する方法が一般的であった。このような方法にも種々改良が加えられ、監視地区内における複数の電力設備(電力消費装置、分散電源装置、蓄電池等)の接続状況を表す情報やそれら電力設備の特性についてオンラインで逐次把握し、平常時及び緊急時の監視地区内の合計負荷量が、監視地区内の電力発生量に対して適正な値となるように各電力設備に対してオンラインで制御指令を与える技術も既に提案されている。
【0003】
この提案における技術では、各個の電力設備毎に夫々電力搬送波入出力装置と負荷制御装置子局とを設け、この負荷制御装置子局が電力線を通して電力搬送波信号によって各電力設備に共通の負荷制御装置親局へ電力消費供給特性や運転状況を表す情報を送り、且つ、その負荷制御装置親局からの電力搬送波信号による制御信号に基づいて該当する電力設備に供給する電力を制御する(特許文献1参照)。
【0004】
また一方、電力需要家の給電線に設置した計測器から得られた総電流を高いサンプリングレートで計測し、計測結果に対して高速フーリエ変換を行って各高調波の実効電流値を求め、独立性に基づく信号分離アルゴリズムによって、機器固有の動作モデルの形成を俟つことなくその電力需要家が使用している複数の電気機器の機器別の消費電流を推定する技術も提案されている(特許文献2参照)。
【0005】
以上のように幹線から分岐した分岐線を通して複数の各負荷に給電する給電系統の各負荷の稼動状況を把握することも重要であるが、これと共に、系統内で地絡が発生したときには、この系統内での負荷のうち何れが地絡発生源となっているかを特定することも重要である。従来、地絡の発生源の特定は、地絡リレーの動作による遮断器のトリップや地絡計測値が所定の値を超えたことを契機として、検出箇所である変圧器又は分電盤が電力を供給している各給電線の系統に地絡電流計測器を取り付けて探索していた。
【0006】
即ち、当初は上位の系統に地絡電流計測器を取り付けて、同階層の系統のうち地絡電流が検出される系統の範囲を絞り、順次下位の系統へと次第に検出対象の範囲を狭めて絞り込むように検出操作を繰り返すことによって、結果的に地絡発生源を特定するといった方法がとられていた。
【特許文献1】特開2000−032658号公報(段落0009〜0011、図1)
【特許文献2】特開2003−009430号公報(段落0011、0020、図1、図2)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上述した従来の技術は次に述べるような課題を残している。
即ち、巡視によって各設備の負荷を測定する場合は、同時に多数の設備を計測することができず、例えばピークロード時のような特定時点での負荷分析を行うことができないといった課題があった。
また、特許文献1に開示された技術では、電力線に接続された全ての機器毎に電力搬送波入出力装置及び負荷制御装置子局を設ける必要があり、システム全体として情報授受のための多数の通信機器と、機器毎の多数の計測器が必要とされコストが嵩むという課題がある。
【0008】
一方、特許文献2に開示された技術では、電力需要家においてどのような負荷が定格状態で使用されているかを推定することはできるが、負荷毎にその定格状態に対してどの程度の割合となる負荷状態で稼動しているかを正確に推定することが難しい。これは、負荷電流の高調波成分が負荷の重さの程度に対して直線性を持たない場合があるからである。例えば、複写機が負荷であるような場合がこれに該当し、動作シーケンスの段階に応じて複数の誘導性の負荷や直流抵抗の負荷の何れが作動状態にあるか乃至は画像データ処理回路の作動状況が変化する等々に応じて、消費電流と高調波成分比率の関係が非線形に変化するので、特定の傾向の高調波モデルを複写機であると対応付けたとしても、これと異なる傾向を呈する負荷については状況を推定することが困難になってしまう。
【0009】
また一方、地絡の発生源を特定するために各給電線の系統に地絡電流計測器を取り付けて順次下位の系統へと次第に検出対象の範囲を狭めて絞り込むように検出操作を繰り返して探索する従来の方法では、多くの手間と時間がかかるばかりでなく、間欠的に発生する地絡現象のように再現性がない場合には検出範囲を次第に狭めて絞り込むといった検知方法をとることができないため、結局、地絡発生源となっている負荷(設備)を特定することができないといった課題があった。
【0010】
本発明は、上述したような従来技術における課題に着目してなされたものであり、多数の計測装置や通信機器を必要としない簡易な構成で任意の時点での各負荷の稼動状況を高い確度で推定することができる負荷稼動状況推定装置及び方法、並びに、それを利用して再現性がない地絡事故についても地絡発生源を推定することができる地絡発生源推定装置及び方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するべく、本願では次に列記するような技術を提案する。
(1)幹線から分岐した分岐線を通して複数の各負荷に給電する給電系統の前記複数の各負荷毎に、供給電流中の商用電源周波数と該商用電源周波数よりも周波数の高い所定の高周波とを含む複数の各周波数に夫々対応する各電流成分の値を、当該負荷の注目時点での稼動量の定格値に対する比率としての負荷稼動率を逐次変化させて測定し、該測定の結果に基づいて得た前記各周波数毎の、前記負荷稼動率の逐次変化に対応した電流成分の値を表す各データを前記各負荷毎のモデル化データとして保持するデータ記憶手段と、
前記幹線について前記各周波数毎の電流値を測定する幹線電流計測手段と、
前記幹線電流計測手段によって測定された各周波数毎の幹線電流値と前記データ記憶手段に保持された各負荷毎のモデル化データとの所定の対照処理に基づいて、前記給電系統における幹線電流の任意の実測時点での前記各負荷の稼動状況を推定する推定手段と、
を備えたことを特徴とする負荷稼動状況推定装置。
【0012】
(2)前記推定手段は、前記測定された各周波数毎の幹線電流値と前記データ記憶手段に保持された各負荷毎のモデル化データとの所定の対照処理として、前記各周波数毎の、前記各負荷のモデル化データによる前記負荷稼動率の逐次変化に対応した各電流成分の値を前記給電系統に接続された全ての負荷について積算した積算値と前記幹線についての負荷電流の実測値との対比から当該実測値と最も相関の高い前記積算値に該当する各負荷のモデル化データの組み合わせを探索する処理を含むものであることを特徴とする(1)の負荷稼動状況推定装置。
【0013】
(3)前記推定手段は、前記実測値と最も相関の高い前記積算値に該当する各負荷のモデル化データの組み合わせを探索する処理において同水準の相関度に該当するモデル化データの組み合わせが複数組見出されたときには、相対的に低い周波数成分に関するモデル化データの組み合わせを優先して前記推定の根拠とすることを特徴とする(2)の負荷稼動状況推定装置。
【0014】
(4)前記推定手段は、前記測定された各周波数毎の幹線電流値と前記データ記憶手段に保持された各負荷毎のモデル化データとの所定の対照処理として、前記各周波数毎の、前記各負荷のモデル化データによる前記負荷稼動率の逐次変化に対応した各電流成分の値を前記給電系統に接続された全ての負荷について積算した積算値と前記幹線についての負荷電流の実測値との各差分値を積算した積算差分値が最小となる各負荷のモデル化データの組み合わせを探索する処理を含むものであることを特徴とする(1)の負荷稼動状況推定装置。
(5)前記推定手段は、前記積算差分値を得るに際して、相対的に低い周波数成分に関する前記差分値に関して相対的に重い係数を掛けて積算することを特徴とする(4)の負荷稼動状況推定装置。
【0015】
(6)幹線から分岐した分岐線を通して複数の各負荷に給電する給電系統の前記複数の各負荷毎に、供給電流中の商用電源周波数と該商用電源周波数よりも周波数の高い所定の高周波とを含む複数の各周波数に夫々対応する各電流成分の値を、当該負荷の注目時点での稼動量の定格値に対する比率としての負荷稼動率を逐次変化させて測定し、該測定の結果に基づいて前記各周波数毎の、前記負荷稼動率の逐次変化に対応した電流成分の値を表す各データを前記各負荷毎のモデル化データとしてデータ記憶手段に保持させ、前記幹線について前記各周波数毎の電流値を実測し、該実測された各周波数毎の幹線電流値と前記記憶手段に保持された各負荷毎のモデル化データとの所定の対照に基づいて、前記給電系統における幹線電流の任意の実測時点での各負荷の稼動状況を推定することを特徴とする負荷稼動状況推定方法。
【0016】
(7)幹線から分岐した分岐線を通して複数の各負荷に給電する給電系統の前記複数の各負荷毎に、供給電流中の商用電源周波数と該商用電源周波数よりも周波数の高い所定の高周波とを含む複数の各周波数に夫々対応する各電流成分の値を、当該負荷の注目時点での稼動量の定格値に対する比率としての負荷稼動率を逐次変化させて測定し、該測定の結果に基づいて得た前記各周波数毎の、前記負荷稼動率の逐次変化に対応した電流成分の値を表す各データを前記各負荷毎のモデル化データとして保持するデータ記憶手段と、
前記幹線について前記各周波数毎の電流値を測定する幹線電流計測手段と、
前記幹線電流計測手段によって測定された各周波数毎の幹線電流値と前記データ記憶手段に保持された各負荷毎のモデル化データとの所定の対照処理に基づいて、前記給電系統における幹線電流の任意の実測時点での各負荷の稼動状況を推定する推定手段と、
前記幹線に流れる地絡電流を検出する地絡電流検出手段と、
前記地絡電流検出手段が地絡電流を検出したタイミングでの前記幹線電流計測手段による各周波数毎の電流の測定値に対応して前記推定手段によって得られる各負荷の稼動状況の情報に基づいて地絡発生源を推定するための情報を提供する地絡発生源推定情報提供手段と、
を備えたことを特徴とする地絡発生源推定装置。
【0017】
(8)幹線から分岐した分岐線を通して複数の各負荷に給電する給電系統の前記複数の各負荷毎に、供給電流中の商用電源周波数と該商用電源周波数よりも周波数の高い所定の高周波とを含む複数の各周波数に夫々対応する各電流成分の値を、当該負荷の注目時点での稼動量の定格値に対する比率としての負荷稼動率を逐次変化させて測定し、該測定の結果に基づいて得た前記各周波数毎の、前記負荷稼動率の逐次変化に対応した電流成分の値を表す各データを前記各負荷毎のモデル化データとしてデータ記憶手段に保持させ、前記幹線において地絡電流が流れたことが検出され得るようにし、地絡電流が検出されたタイミングでの前記各周波数毎の電流値を実測し、該実測された各周波数毎の幹線電流値と前記記憶手段に保持された各負荷毎のモデル化データとの所定の対照処理に基づいて、前記給電系統における幹線電流の実測時点での各負荷の稼動状況を推定し、該推定された各負荷の稼動状況に基づいて地絡発生源となった負荷を推定するための情報を得ることを特徴とする地絡発生源推定方法。
【発明の効果】
【0018】
多数の計測装置や通信機器を必要としない簡易な構成で任意の時点での各負荷の稼動状況を高い確度で推定することができる負荷稼動状況推定装置及び方法、並びに、それを利用して再現性がない地絡事故についても地絡発生源を推定することができる地絡発生源推定装置及び方法を具現することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
現在、幹線から分岐した分岐線を通して複数の各負荷たる設備に給電する給電系統では、純抵抗負荷などは稀であり、殆の設備がノイズ発生源になっている。本発明は、この点に着目し、例えば5KHz乃至10KHz程度のノイズ周波数を含む各注目すべき複数の周波数成分に関する負荷電流値を、負荷たる設備毎に、負荷稼動率を逐次変化させて測定することによって、各周波数毎に、負荷電流値を上記負荷稼動率の関数として予めモデル化しておき、このモデル化されたデータと幹線における負荷電流(即ち、各負荷の負荷電流を合算した値)に関する上記各周波数毎の実測値との所定の対照処理に基づいて、給電系統の負荷稼動状況を推定する技術、並びに、これを応用した地絡発生源推定の技術を提供するものである。尚、本明細書において、負荷稼動率とは、或る負荷の任意の注目時点での稼動量の定格値に対する比率であり、消費電流(又は消費電力)の相対値である。
【0020】
以下、本発明の実施の形態を図面を参照して説明する。
図1は本発明の実施の形態を表わす概念図である。図1において1は受電設備の変圧器であり、その二次側の幹線2から分岐した複数系統(本例では説明の便宜上3系統)の分岐線21,22,23に夫々設備である負荷A31,負荷B32,負荷C33が接続されている。幹線2には、図示のように地絡電流I0を検出するためのZCT41、及び、幹線2の負荷電流Iを検出するためのCT42が夫々設けられている。
【0021】
ZCT41による検出出力である地絡電流I0、及び、CT42よる検出出力である幹線2の負荷電流Iは計測装置40に各入力される。計測装置40はCT42によって検出される幹線2の負荷電流Iをそれに含まれる周波数成分のうち計測の対象として予定した各所定の周波数f1,f2,f3,…,fnの成分毎に計測する。一方、負荷A31,負荷B32,負荷C33の稼動時の周波数f1,f2,f3,…,fnの成分毎の電流値を夫々検出するためにCT61を持つ計測装置60が適用される。
【0022】
図2は、図1における計測装置40の構成を示すブロック図である。図2において、計測装置40は、ZCT41によって検出される地絡電流I0を常時受け付けて所定の態様のアナログ又はデジタル信号に変換すると共に地絡電流(零相電流)I0の発生が検知されたタイミングで地絡タイミング信号Teを発する零相電流計測部43、CT42によって検出される幹線2の負荷電流Iを周波数f1,f2,f3,…,fnの成分毎に計測して所定の態様のアナログ又はデジタル信号If1,If2,If3,…,Ifnに変換する負荷電流計測部44、この負荷電流計測部44の出力を記録(記憶装置に格納)する負荷電流記録部45、及び、後に詳述する推定演算部46と表示部47とを含むコンピュータ48を備えて構成される。
【0023】
尚、負荷電流計測部44は、上述した各所定の周波数f1,f2,f3,…,fnの帯域の信号を通す仕様の各バンドパスフィルタまたはこれらと同等の機能を有するFFTアナライザを通して、上記の周波数の信号成分(電流成分)を任意のタイミングで検出するように、且つ、零相電流計測部43からの地絡タイミング信号Teを受けたときにはそのタイミングで同信号成分を夫々検出するように構成されている。
【0024】
図1に戻り、適宜図2を参照しつつ、更に説明する。本発明では、予め、負荷A31,負荷B32,負荷C33毎に、各所定の周波数f1,f2,f3,…,fnの成分に関する負荷電流値を既述の負荷稼動率を逐次変化させた状態で測定し、各負荷の負荷稼動率の関数であるモデル化データとして、例えば、コンピュータ48の推定演算部46の一部を構成するハードディスク等のデータ記憶手段に保持しておく。この場合、周波数f1は例えば商用電源周波数(基本波の周波数)、f2,f3,…,fnは5KHz乃至10KHz程度のノイズ周波数のうちから昇順に適当な間隔をとって選択される値である。
【0025】
図1の例では、周波数fnに対応する負荷電流値は、負荷A31については負荷稼動率の増加に伴って比例関係を超えて非線形に増加傾向を呈し、負荷B32については当初負荷稼動率が20数%に到るまでは変化せずその後リニアに増加し、負荷C33については、負荷稼動率の増加に伴って相対的に緩慢な増加傾向を呈している。尚、図では、周波数f1,f2,f3,…,fnの各場合における特性を、順に下から上へとグラフを重ねる如くして描かれているため商用電源周波数f1における特性が現われていないが、商用電源周波数f1に関しては、A〜C何れの負荷も、リニアな単調増加傾向を呈する。
【0026】
負荷A31,負荷B32,負荷C33についての各負荷電流の測定に際しては、測定に用いるCTなどの電流測定器毎に周波数特性が異なることから、予め測定器毎の検出感度や検出誤差に関する特性データを取得しておき、測定器の特性データに基づいた補正を行う。次に幹線2からの供給電流について周波数f1〜fnの電流値を測定し、測定器の特性データに基づいた補正を行う。
【0027】
今、幹線2から負荷A31,負荷B32,負荷C33毎に電力が供給されているものとし、測定の結果に基づいて得た各周波数f1,f2,f3,…,fn毎の、前記負荷稼動率の逐次変化に対応した電流成分の値を表す各データを各負荷毎のモデル化データとする。即ち、負荷Aの周波数f1のモデルをIaf1(x)、周波数f2のモデルをIaf2(x)、…、周波数fnのモデルをIafn(x)と設定する。
茲に、xは既述の負荷稼動率である。負荷A31におけると同様に、負荷B32のモデルを各々Ibf1(x)、Ibf2(x)、…、Ibfn(x)、負荷C33のモデルを各々Icf1(x)、Icf2(x)、…、Icfn(x)とする。
【0028】
一方、幹線2への供給電流の周波数f1に関する電流の実測値をIf1、周波数f2の電流の実測値をIf2、…、周波数fnの電流の実測値をIfnとする。これらの実測値のデータと上述のモデル化データとに関して、以下の関係式を充足する解を探索する。即ち、式の左辺と右辺とが表記通りに等号で結ばれる関係乃至それに最も近い関係を充足するような各負荷A31,負荷B32,負荷C33の各負荷稼動率xa、xb、xcの最適な組合わせを求める。
Iaf1(xa)+Ibf1(xb)+Icf1(xc)=If1
Iaf2(xa)+Ibf2(xb)+Icf2(xc)=If2
Iaf3(xa)+Ibf3(xb)+Icf3(xc)=If3
… … … …
Iafn(xa)+Ibfn(xb)+Icfn(xc)=Ifn
【0029】
より具体的には、例えば、負荷稼動率xa、xb、xcの最適な組合わせを求めるに際しては、それらの各値を0〜100%まで1%刻みや、0.1%刻み等、目標とする仕様に適合する分解能で全ての組み合わせをコンピュータによって計算し、負荷稼動率xa、xb、xcの最適な組合わせを求める。この場合、メタヒューリスティック手法等公知の演算手法を適用して効率的に最適解を導くことによって各負荷(設備)の使用状況を推定することができる。
【0030】
しかしながら、負荷稼動率xa、xb、xcの最適な組合わせの候補が複数通り存在することが発生し得る。
このようなことが発生した場合にも対応できるようにするため、例えば、次に示すような三通りの方法の何れかを適用することが考えられる。即ち、
(1)周波数f1(商用周波数)のときの電流値に関して左辺―右辺が最小となる負荷稼動率xa、xb、xcの組み合わせを解とし、同じ結果を得る複数の組み合わせ(解の候補群)が存在する場合には、周波数f2のときの電流値に関して左辺―右辺が最小となる組み合わせを解とし、以下、同様に繰り返してfnまで判定する。但し、fnに到っても複数の解の候補が存在する場合、残った全ての組み合わせを解の候補とする。
【0031】
(2)周波数f1〜fnまでに関して、夫々、左辺―右辺の値をdf1〜dfnとする。即ち、
df1=Iaf1(xa)+Ibf1(xb)+Icf1(xc)−If1
df2=Iaf2(xa)+Ibf2(xb)+Icf2(xc)−If2
df3=Iaf3(xa)+Ibf3(xb)+Icf3(xc)−If3
… … … …
dfn=Iafn(xa)+Ibfn(xb)+Icfn(xc)−Ifn
上記におけるdf1〜dfnの総和をdfとする。即ち、
df=df1+df2+df3+…+dfn
とし、このdfが最小となる負荷稼動率xa、xb、xcの組み合わせを解とする。但し、dfが最小となる組み合わせが複数通り存在するときには、存在する全ての組み合わせを解の候補とする。
【0032】
(3)上記(2)の方法において、df=df1+df2+df3+…+dfnの右辺の各項に係数k1〜knを夫々掛けて、
df=k1df1+k2df2+k3df3+…+kndfn
とし、上記(2)の方法に関すると同様に、このdfが最小となる負荷稼動率xa、xb、xcの組み合わせを解とし、dfが最小となる組み合わせが複数通り存在するときには、存在する全ての組み合わせを解の候補とする。
【0033】
この場合、k1>k2>k3>…>knなるウェイトを持たせることにより、商用電源周波数f1に近い相対的に低い周波数成分に関するモデル化データの組み合わせを優先して負荷稼動状況を推定するための根拠とすることにより、商用電源周波数f1に対応する値を他の高周波成分に関する値よりも優先的に考慮しつつ、給電系統全体の負荷の稼動状況を適切に推定することができる。
【0034】
図3は、負荷電流の周波数特性のモデル化の過程で、適用した測定装置(CT)に応じて測定装置(CT)自体の持つ周波数特性に応じて測定データに補正をかける様子を表す概念図である。負荷稼動率Pを0%からn%と逐次変化させて、負荷の注目時点での消費電流の値を周波数成分毎に測定し、各周波数毎の、前記負荷稼動率の逐次変化に対応した電流成分の値を表す各データを前記各負荷毎のモデル化データとして保持するまでの過程で測定装置(CT)自体の持つ周波数特性に応じた補正がかけられる。
【0035】
図3の上段の2つのフレームのグラフとして代表的に表されたように、負荷稼動率を0%からn%と逐次変化させて、各負荷稼動率に対応する各周波数毎の負荷電流値を実測によって求める。この実測に供した各測定装置(CT)の夫々の固有の特性データ群を予め準備しておき、測定毎に適用したCTの特性データ(測定対象の電流の周波数に依存した検出感度特性であり、図示の例ではID番号が1番のもののデータが表されている)に依拠して、各周波数毎の負荷電流実測値に適切な補正をかける。
【0036】
この補正がかけられたデータが各負荷稼動率に対応する各周波数毎の負荷電流値のモデル化データであり、これらは、図3の右下に表されたように各周波数成分f1,f2,f3,…,fnの順にそのときの負荷稼動率対電流値の関係を表す各負荷のモデル化データとして、既述のように、例えば、コンピュータ48の推定演算部46の一部を構成するハードディスク等のデータ記憶手段に保持しておく。
【0037】
図4及び図5は、夫々、特定の負荷に関する周波数対電流のモデル化データから、複数の各値の周波数成分毎の負荷稼動率に対応する電流値を判読する様子を表す図である。図4では、負荷Aに関するモデル(左側の枠線内の図)から、その負荷稼動率xaが50%及び100%のときの、各周波数f1,f2,f3に対応した負荷電流値Iaf1(50%)=50アンペア、Iaf2(50%)=30アンペア、Iaf3(50%)=20アンペア(中央の枠線内の図)、Iaf1(100%)=100アンペア、Iaf2(100%)=100アンペア、Iaf3(100%)=20アンペア(右側の枠線内の図)が判読される。
【0038】
図5では、同様に、負荷Bに関するモデル(左側の枠線内の図)から、その負荷稼動率xbが50%及び100%のときの、各周波数f1,f2,f3に対応した負荷電流値Ibf1(50%)=25アンペア、Ibf2(50%)=40アンペア、Ibf3(50%)=70アンペア(中央の枠線内の図)、Ibf1(100%)=50アンペア、Ibf2(100%)=50アンペア、Ibf3(100%)=70アンペア(右側の枠線内の図)が判読される。
【0039】
図4及び図5より判読される電流値に基づいて給電系統の負荷稼動状況を推定する具体例を次に示す。即ち、幹線2での電流計測値がIf1=100アンペア、If2=80アンペア、If3=90アンペアであった場合には、
左辺:Iaf1(50%)+Ibf1(100%)=50+50=100
左辺:Iaf2(50%)+Ibf2(100%)=30+50=80
左辺:Iaf3(50%)+Ibf3(100%)=20+70=90
で各右辺の計測値(If1=100、If2=80、If3=90)と一致するので、この状態での解、即ち、このときの負荷A、負荷Bに関する負荷稼動率は、負荷Aについてxa=50%、負荷Bについてxb=100%であると推定される。
【0040】
以上説明した本発明の負荷稼動状況推定技術は、それを応用して、再現性がない地絡事故についても地絡発生源を推定する技術を提供できる。即ち、給電系統の幹線2に流入する地絡電流(零相電流I0)を測定する機能として、実施形態では、図2のZCT41と計測装置40内の零相電流計測部43を設け、地絡電流が発生した際に零相電流計測部43から地絡タイミング信号Teを負荷電流計測部44に与えて、この地絡タイミング信号Teに実質的に同期したタイミングで、そのときの幹線2の負荷電流Iを、既述のように各所定の周波数f1,f2,f3,…,fn毎に夫々計測し、この計測値に基づいて負荷稼動状況を推定する。
【0041】
このようにして推定された夫々設備である負荷A31,負荷B32,負荷C33の稼動状況と、零相電流I0とが、計測装置40のコンピュータ48に備えられた表示部47に両者を対比して観察容易な形式で表示される(図1の右上のフレームはその様子を示す概念図である)。図示の例では、負荷Aも負荷BもI0の発生と同期して増加しているように見える。I0の発生状況は、負荷Bの電源投入と同期してI0が発生している様相を呈していることからして負荷Bが発生源である可能性が高いと推定される。
【0042】
しかしながら、例えば、負荷Aはその内部にコンタクタ等によって複数の機能を時系列で投入するような構成を含むものである場合も想定されるので、負荷Aの電流増加部分についてもI0の発生との相関を考えなくてはならず、従って、負荷Aが地絡発生源である可能性も残る。以上の判断は、最終的にはコンピュータ48に備えられた表示部47を観察して人が判断するが、そのような判断の基礎となるデータが本装置から提供される。
【0043】
このケースでは負荷B、または負荷Aの増加部分のいずれかが地絡電流I0発生源である可能性が高く、負荷Cについては発生源である可能性がないと判断できる。地絡発生により周波数特性が変化するか否かを予め設備(負荷)毎に計測し、変化が認められる場合には地絡時のモデルを別に作成しておき、設備毎にモデルを順次置き換えながら計算し、その中から最適な組合わせを求めることによって、より精度の高い推定を行うことができる。
【0044】
以上において、既述のモデル化データを保持するデータ記憶手段、各負荷の稼動状況を推定する推定手段は図2の計測装置40のコンピュータ48(その推定演算部46)に設けられる。コンピュータ48は幹線2の電流値が実測データとして負荷電流記録部45を介して供給されると、この実測データをテーブル化された上記モデル化データとの所定の対照処理に付し、その都度演算を実行して、或いは、負荷稼動状況として確度の高い負荷電流の組み合わせを検索して特定し、乃至は、テーブル化されたデータを参照しつつ所要に応じた補間演算を実行して、既述のように負荷稼動状況を推定し、その推定結果を表示部48に表示する。
【図面の簡単な説明】
【0045】
【図1】本発明の実施の形態を表わす概念図である。
【図2】図1における計測装置の構成を示すブロック図である。
【図3】負荷電流の周波数特性のモデル化の過程で、適用した測定装置(CT)に応じて測定装置(CT)自体の持つ周波数特性に応じて測定データに補正をかける様子を表す概念図である。
【図4】特定の負荷に関する周波数対電流のモデル化データから、複数の各値の周波数成分毎の負荷稼動率に対応する電流値を判読する様子を表す図である。
【図5】特定の負荷に関する周波数対電流のモデル化データから、複数の各値の周波数成分毎の負荷稼動率に対応する電流値を判読する様子を表す図である。
【符号の説明】
【0046】
1…変圧器、2…幹線、21,22,23…分岐線、31…負荷A、32…負荷B、33…負荷C、40…計測装置、41…ZCT、42…CT、43…零相電流計測部、44…負荷電流計測部、45…負荷電流記録部、46…推定演算部、47…表示部、48…コンピュータ、60…計測装置、61…CT

【特許請求の範囲】
【請求項1】
幹線から分岐した分岐線を通して複数の各負荷に給電する給電系統の前記複数の各負荷毎に、供給電流中の商用電源周波数と該商用電源周波数よりも周波数の高い所定の高周波とを含む複数の各周波数に夫々対応する各電流成分の値を、当該負荷の注目時点での稼動量の定格値に対する比率としての負荷稼動率を逐次変化させて測定し、該測定の結果に基づいて得た前記各周波数毎の、前記負荷稼動率の逐次変化に対応した電流成分の値を表す各データを前記各負荷毎のモデル化データとして保持するデータ記憶手段と、
前記幹線について前記各周波数毎の電流値を測定する幹線電流計測手段と、
前記幹線電流計測手段によって測定された各周波数毎の幹線電流値と前記データ記憶手段に保持された各負荷毎のモデル化データとの所定の対照処理に基づいて、前記給電系統における幹線電流の任意の実測時点での前記各負荷の稼動状況を推定する推定手段と、
を備えたことを特徴とする負荷稼動状況推定装置。
【請求項2】
前記推定手段は、前記測定された各周波数毎の幹線電流値と前記データ記憶手段に保持された各負荷毎のモデル化データとの所定の対照処理として、前記各周波数毎の、前記各負荷のモデル化データによる前記負荷稼動率の逐次変化に対応した各電流成分の値を前記給電系統に接続された全ての負荷について積算した積算値と前記幹線についての負荷電流の実測値との対比から当該実測値と最も相関の高い前記積算値に該当する各負荷のモデル化データの組み合わせを探索する処理を含むものであることを特徴とする請求項1に記載の負荷稼動状況推定装置。
【請求項3】
前記推定手段は、前記実測値と最も相関の高い前記積算値に該当する各負荷のモデル化データの組み合わせを探索する処理において同水準の相関度に該当するモデル化データの組み合わせが複数組見出されたときには、相対的に低い周波数成分に関するモデル化データの組み合わせを優先して前記推定の根拠とすることを特徴とする請求項2に記載の負荷稼動状況推定装置。
【請求項4】
前記推定手段は、前記測定された各周波数毎の幹線電流値と前記データ記憶手段に保持された各負荷毎のモデル化データとの所定の対照処理として、前記各周波数毎の、前記各負荷のモデル化データによる前記負荷稼動率の逐次変化に対応した各電流成分の値を前記給電系統に接続された全ての負荷について積算した積算値と前記幹線についての負荷電流の実測値との各差分値を積算した積算差分値が最小となる各負荷のモデル化データの組み合わせを探索する処理を含むものであることを特徴とする請求項1に記載の負荷稼動状況推定装置。
【請求項5】
前記推定手段は、前記積算差分値を得るに際して、相対的に低い周波数成分に関する前記差分値に関して相対的に重い係数を掛けて積算することを特徴とする請求項4に記載の負荷稼動状況推定装置。
【請求項6】
幹線から分岐した分岐線を通して複数の各負荷に給電する給電系統の前記複数の各負荷毎に、供給電流中の商用電源周波数と該商用電源周波数よりも周波数の高い所定の高周波とを含む複数の各周波数に夫々対応する各電流成分の値を、当該負荷の注目時点での稼動量の定格値に対する比率としての負荷稼動率を逐次変化させて測定し、該測定の結果に基づいて前記各周波数毎の、前記負荷稼動率の逐次変化に対応した電流成分の値を表す各データを前記各負荷毎のモデル化データとしてデータ記憶手段に保持させ、前記幹線について前記各周波数毎の電流値を実測し、該実測された各周波数毎の幹線電流値と前記記憶手段に保持された各負荷毎のモデル化データとの所定の対照に基づいて、前記給電系統における幹線電流の任意の実測時点での各負荷の稼動状況を推定することを特徴とする負荷稼動状況推定方法。
【請求項7】
幹線から分岐した分岐線を通して複数の各負荷に給電する給電系統の前記複数の各負荷毎に、供給電流中の商用電源周波数と該商用電源周波数よりも周波数の高い所定の高周波とを含む複数の各周波数に夫々対応する各電流成分の値を、当該負荷の注目時点での稼動量の定格値に対する比率としての負荷稼動率を逐次変化させて測定し、該測定の結果に基づいて得た前記各周波数毎の、前記負荷稼動率の逐次変化に対応した電流成分の値を表す各データを前記各負荷毎のモデル化データとして保持するデータ記憶手段と、
前記幹線について前記各周波数毎の電流値を測定する幹線電流計測手段と、
前記幹線電流計測手段によって測定された各周波数毎の幹線電流値と前記データ記憶手段に保持された各負荷毎のモデル化データとの所定の対照処理に基づいて、前記給電系統における幹線電流の任意の実測時点での各負荷の稼動状況を推定する推定手段と、
前記幹線に流れる地絡電流を検出する地絡電流検出手段と、
前記地絡電流検出手段が地絡電流を検出したタイミングでの前記幹線電流計測手段による各周波数毎の電流の測定値に対応して前記推定手段によって得られる各負荷の稼動状況の情報に基づいて地絡発生源を推定するための情報を提供する地絡発生源推定情報提供手段と、
を備えたことを特徴とする地絡発生源推定装置。
【請求項8】
幹線から分岐した分岐線を通して複数の各負荷に給電する給電系統の前記複数の各負荷毎に、供給電流中の商用電源周波数と該商用電源周波数よりも周波数の高い所定の高周波とを含む複数の各周波数に夫々対応する各電流成分の値を、当該負荷の注目時点での稼動量の定格値に対する比率としての負荷稼動率を逐次変化させて測定し、該測定の結果に基づいて得た前記各周波数毎の、前記負荷稼動率の逐次変化に対応した電流成分の値を表す各データを前記各負荷毎のモデル化データとしてデータ記憶手段に保持させ、前記幹線において地絡電流が流れたことが検出され得るようにし、地絡電流が検出されたタイミングでの前記各周波数毎の電流値を実測し、該実測された各周波数毎の幹線電流値と前記記憶手段に保持された各負荷毎のモデル化データとの所定の対照処理に基づいて、前記給電系統における幹線電流の実測時点での各負荷の稼動状況を推定し、該推定された各負荷の稼動状況に基づいて地絡発生源となった負荷を推定するための情報を得ることを特徴とする地絡発生源推定方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate


【公開番号】特開2006−158082(P2006−158082A)
【公開日】平成18年6月15日(2006.6.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−344384(P2004−344384)
【出願日】平成16年11月29日(2004.11.29)
【出願人】(591083244)富士電機システムズ株式会社 (1,717)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】