説明

貫通部に突起を嵌挿し融着した一対の成形品

【課題】融着面に異質樹脂を含む層が存在していても強固な融着が行われた一対の成形品を得る。
【解決手段】熱可塑性樹脂からなり第1表面12と第1裏面13を有する第1成形品11と、熱可塑性樹脂からなり第2表面22と第2裏面23を有する第2成形品21から構成され、融着された一対の成形品であって、第2表面22と第2裏面23を貫通する貫通部24aを有し、第1裏面13から突出して前記貫通部に第2表面側から嵌挿され、貫通部内及び/又は第2裏面の貫通部近くにて融着された突起14aを有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プラスチック成形品が相互に融着された、一対の成形品に関するものである。
【背景技術】
【0002】
家電製品、化粧品容器、雑貨品などで、プラスチック成形品である各部品を融着する方法として、超音波融着法が使用されている。(例えば、特許文献1参照。)特に携帯電話などの通信機器の表面側パーツをフレームパーツに嵌め合いこれらを融着する場合、あるいは、窓パーツを当該表面側パーツに嵌め合いこれらを融着する場合によく使用されている。
【0003】
従来、超音波融着法を使用する場合は、一対の融着面の一方に融着リブが設けられる。そして超音波エネルギーを融着リブ部に集中させ、融着リブを溶融温度まで上昇させ溶融した融着リブ由来の樹脂を融着面間に圧着し、その後冷却凝固させて融着を行う。
超音波融着法は加熱時間を短くすることが可能で、超音波発生器と溶着リブの間に物質(超音波透過物)が介在しても融着が可能であり、熱可塑性樹脂の融着に優れた方法である。
【0004】
【特許文献1】特開平09−251753号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
融着リブを用いる超音波融着法は、融着面の間に、融着リブに由来する溶融樹脂をあたかも接着剤のように位置付けて融着を行うものであり、融着の強度には一定の限度がある。
【0006】
また、熱可塑性樹脂成形品は、成形同時転写、熱転写、塗装などで表面に加飾されることがあり、同様な方法で表面の強度補強などがされることがある。このような、加飾や補強により、融着面にも熱硬化性樹脂、結晶性樹脂又は活性エネルギー線硬化性樹脂を含む層が形成される場合がある。
超音波融着に付する一対の融着面に上記のような異質樹脂を含む層が存在すると、融着リブの溶融物と混ざりあって融着時の接着機能を著しく低下させる。例えば、熱硬化性樹脂は融着リブに発生した熱で硬化してしまい、あたかも接着剤に接着機能を有さない異物が混入した状態になる為、融着の強度が低下する。
【0007】
また、超音波融着に付する一対の成形品の表面及び/又は裏面に上記のような異質樹脂を含む層が存在すると、超音波照射時に超音波エネルギーが当該異質樹脂層で吸収され、超音波融着リブに超音波エネルギーが伝わらず、超音波融着リブが融解しないので、融着が困難となる。
【0008】
そこで、本発明は強固な融着がなされた一対の成形品を得ることを課題とする。
また、本発明は、融着面に異質樹脂を含む層が存在しても、融着が行われる一対の成形品を得ることを課題とする。さらに本発明は、融着時の加熱が短時間で済む一対の成形品を得ることを課題とする。
【0009】
本発明のその他の課題は、以下の本発明の説明により明らかになる。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の一の態様にかかる一対の成形品は、熱可塑性樹脂からなり第1表面と第1裏面を有する第1成形品と、熱可塑性樹脂からなり第2表面と第2裏面を有する第2成形品から構成され、融着された一対の成形品であって、第2表面と第2裏面を貫通する貫通部を有し、第1裏面から突出して前記貫通部に第2表面側から嵌挿され、貫通部内及び/又は第2裏面の貫通部近くにて融着された突起を有することを特徴とする。
【0011】
本発明の好ましい実施態様にかかる一対の成形品は、前記突起が、超音波融着されたものであってもよい。
【0012】
本発明の好ましい実施態様にかかる一対の成形品は、前記貫通部の周囲からの水平距離が5mm以内の範囲にある第2表面の表層部に、熱硬化性樹脂、結晶性樹脂又は活性エネルギー線硬化性樹脂のうち少なくとも1以上を含む樹脂層が転写あるいは塗装されていてもよい。
【0013】
以上説明した本発明の一の態様、本発明の好ましい実施態様、これらに含まれる構成要素は可能な限り組み合わせて実施することができる。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、第一裏面から突出した突起が、貫通部に第2表面側から嵌挿された状態で、貫通部内及び/又は第2裏面の貫通部近くにて三次元的に融着されているので、十分な強度で融着された一対の成形品を得ることができる。特に前記貫通部の周囲からの水平距離が5mm以内の範囲にある第2表面の表層部に、熱硬化性樹脂、結晶性樹脂又は活性エネルギー線硬化性樹脂のうち少なくとも1以上を含む樹脂層が転写あるいは塗装されている場合の融着部位の強度向上が大となる。
【0015】
また、本発明にかかる一対の成形品の融着部位(突起)は、外部に露出しているので、超音波発生器、その他の加熱手段を直接接触、又は近傍に位置付けることが可能となり、加熱のエネルギーを有効かつ容易に突起に伝達することができる。
【0016】
本発明の好ましい実施態様にかかる一対の成形品は、超音波照射により突起の加熱溶融が当該突起を露出した状態で行われたものなので、その製造時に融着工程が短時間で済む。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、図面を参照しながら本発明にかかる一対の成形品をさらに説明する。この発明の実施例に記載されている部材や部分の寸法、材質、形状、その相対位置などは、とくに特定的な記載のない限りは、この発明の範囲をそれらのみに限定する趣旨のものではなく、単なる説明例にすぎない。
【0018】
図1は一対の成形品の斜視説明図である。図2は一対の成形品の、融着前の拡大説明図である。
【0019】
第1成形品11は携帯電話のフレームパーツであり、第2成形品である表面側パーツ21が嵌め込まれる開口部19を有する箱形である。開口部19の四周部の表面が第1表面12であり、その裏面が第1裏面13である。第1裏面13から、複数の円柱状の突起14aが突出している。第1成形品11は熱可塑性樹脂で作られている。
【0020】
第2成形品である表面側パーツ21は第1成形品であるフレームパーツ11に嵌る大きさである。第2成形品21は、第2表面22と第2裏面23を有する。第2成形品21は、第2表面22と第2裏面23を貫通する、複数の貫通部24aを有する。第2成形品21は熱可塑性樹脂で作られている。
【0021】
第2成形品21の第2表面22は、ボタン部分28の表層部に、活性エネルギー線硬化性樹脂の薄層からなるハードコート層が形成されている。ハードコート層は貫通部24aの周囲からの水平距離が5mmの範囲内に至っている。
なお、第2成形品21は貫通部分である窓部分27を有し、窓部分27には図示しない窓パーツが融着される。
【0022】
本発明において、表層部とは表面及び表面の直下(例えば表面から内側に向って5μm〜100μmの範囲)にある部分をいう。ハードコート層は転写法や塗装等により形成される。転写法としては、ロール転写やアップダウン転写などの熱転写法、成形同時転写法などがある。
【0023】
図2を参照して、第1成形品11に第2成形品21を嵌め込むと、突起14aは貫通部24aに嵌挿される。突起14aの外周は、貫通部24aにちょうど嵌り込む大きさが好ましいが、十分な公差があってもよい。ちょうど嵌り込む大きさであると、突起の加熱融着作業時に第1成形品11と第2成形品21の位置が固定されるので、作業がやり易くなる。また、貫通部24aと突起14aの間隔容積が小さいと、突起14aの溶融物がこの間隔容積の全てを埋めるので、第1成形品11と第2成形品21の融着物の融着強度が強くなる効果もある。
【0024】
加熱溶融前の突起14aの高さ(第1表面12と突起の先端16a間の距離)は、第2成形品21の厚さよりも、少し高くてもよく、同一であっても、第2成形品21の厚さよりも低くてもよい。少し高いと、加熱融着操作に使用する加熱手段の選択の幅が広がる。例えば、圧熱ローラなど、直接接触する加熱手段を使用できる。一方加熱溶融前の突起14aの高さが低いと、加熱融着をしても、融着面は盛り上がらないので、融着物の第2裏面の平面性に影響が無い。この場合は、超音波照射などの加熱を行えばよい。
【0025】
加熱溶融前の突起14aの先端16aは、平面であってもよく、球面の一部分であってもよい。超音波照射をする場合であっても、超音波発生機を近接させることができるためである。すなわち、樹脂層を介在した間接的なエネルギー照射に使用する、先端が尖った従来の超音波融着リブの形状を踏襲する必要はない。しかし、本発明にあっても、突起の先端を尖らせておくと、超音波による加熱融着に要する時間が短くなる効果がある。
【0026】
第1成形品と第2成形品からなる一対の成形品は、貫通部24aに突起14aを嵌挿させた状態で、貫通部の周囲からの水平距離が5mm以内、好ましくは3mm以内の範囲にある第2表面23の表層部に、熱硬化性樹脂、結晶性樹脂又は活性エネルギー線硬化性樹脂のうち少なくとも1以上を含む樹脂層が転写あるいは塗装されていてもよい。貫通部の周囲から5mm以内の範囲に上記の熱硬化性樹脂等からなる層がなければ、従来の超音波融着リブを形成し、これを融着させる融着手段が可能である。
【0027】
突起の形状は、円柱状に限られず、三角柱、四角柱、多角柱、三角錐台、四角錐台、多角錐台、三角錐、四角錐、多角錐、断面方形の板状、断面台形の板状など任意の形状に形成することができる。貫通部の形状は、上述の突起の形状に合わせて、任意の形状に形成することができる。
【0028】
図3は他の突起形状を有する一対の成形品の、融着前の部分拡大説明図である。第1成形品11の第1裏面13に断面長方形の板状の突起14bが形成されている。第2成形品21には、第2表面22と第2裏面23を貫通する断面長方形の貫通部24bが形成されている。貫通部24bと板状の突起14bは嵌合する大きさである。突起14bの先端16bは平面に形成されている。
【0029】
次に本発明にかかる一対の成形品の融着操作を説明する。
第1成形品と第2成形品からなる一対の成形品は、貫通部に突起を係合させ、第1裏面13と第2表面22を圧接させた状態で、突起の先端を加熱溶融する。溶融した樹脂は、貫通部と突起の間隔部分を埋め、また、突起の先端が広がり、第2裏面の貫通部近くを覆う状態に広がる。その後、放冷や冷却などで溶融樹脂を固化し、圧接状態を開放して、融着物を得る。
【0030】
加熱は、超音波融着、圧熱ローラや加熱コテなど任意の手段で行うことができる。なお、突起の先端が第2裏面の貫通部近くを覆わずに、貫通部内でのみ突起が融着されていてもよい。また、貫通部内では突起が融着せず、第2裏面の貫通部近くでのみ突起が融着されていてもよい。超音波融着を用いると、時間が早い、局部的な加熱が可能などの特徴がある。
【0031】
図4は、円柱状の突起と貫通部を有する一対の成形品(11、21)の、融着後の部分拡大説明図である。第2裏面23の表面に溶融樹脂堆積物15が形成されている。
【0032】
図5は、板状の突起と貫通部を有する一対の成形品(11、21)の、融着後の部分拡大説明図である。第2裏面23の表面に溶融樹脂堆積物15が形成されている。
【0033】
一対の成形品は、熱可塑性樹脂からなる。熱可塑性樹脂は、ポリメタクリル酸エステル樹脂、塩化ビニル樹脂、酢酸ビニル樹脂、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、ポリカーボネイト樹脂、ポリフルオロエチレン樹脂、シアノアクリレート樹脂、ポリサルフォン樹脂、ノリル樹脂、熱可塑性エラストマー、スチレンブタジエンゴムなどである。
【0034】
熱硬化樹脂は、メラミン樹脂、エポキシ樹脂、アミノアルキッド樹脂、ポリウレタン樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、尿素樹脂、シリコン樹脂、フェノール樹脂、ポリエステル樹脂、キシレン樹脂、ビニルエステル樹脂などであり、これらの樹脂単体或いは、少なくとも2種以上ブレンドや合成されたものである。
【0035】
結晶性樹脂は、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、ポリアミド樹脂、ポリアセタール樹脂、PET、PBT、PPSなどであり、これらの樹脂単体或いは、少なくとも2種以上のブレンドや合成されたものである。
【0036】
活性エネルギー線硬化性樹脂は、ウレタンアクリレート系樹脂、シアノアクリレート系樹脂などである。
【実施例1】
【0037】
10mm×30mm×1.5mmのアクリル樹脂成形品上に、直径1.4mm、高さ2mmの円柱形をした突起の付いた第1成形品を作成した。第1成形品と同一形状、同一寸法のアクリル樹脂成形品で、直径1.5mmの穴(貫通部)を有する第2成形品を作成した。第1成形品に対面する第2成形品の面(第2表面)であって、穴の周囲部分を含む面の表層部には、成形同時転写法にて、ハードコート層を積層形成した。
【0038】
突起を貫通部に係合させ、第1成形品と第2成形品を圧接状態に保持した。そして、第2成形品の第2裏面から0.3mm突出した前記突起の一部分を超音波照射により加熱融着した。その後冷却して一対の成形品36を得た。
【0039】
図6は融着力測定法の説明図である。融着部位31とは反対側の端面より10mmの位置をチャック点32とし、株式会社オリエンテック社製のテンション万能試験機にて、融着物の長手方向(矢印33の方向)に1000mm/分の速度で引っ張ったときの融着部位が外れる時の力(融着力)を測定すると284.4Nであった。
一方、従来例の横臥した超音波融着リブを有する第1成形品と、当該超音波融着リブに対面する面が平面の第2成形品を超音波融着し、前記方法にて融着力を測定すると153.0Nであった。
【産業上の利用可能性】
【0040】
本発明にかかる一対の成形品は、例えば、携帯電話の表面側パーツとフレームパーツとして利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0041】
【図1】一対の成形品の斜視説明図である。
【図2】一対の成形品の、融着前の部分拡大説明図である。
【図3】他の突起形状を有する一対の成形品の、融着前の部分拡大説明図である。
【図4】円柱状の突起と貫通部を有する一対の成形品の、融着後の部分拡大説明図である。
【図5】板状の突起と貫通部を有する一対の成形品の、融着後の部分拡大説明図である。
【図6】融着力測定法の説明図である。
【符号の説明】
【0042】
11 第1成形品
12 第1表面
13 第1裏面
14a 円柱状突起
14b 板状突起
15 溶融樹脂
16a 突起の先端
16b 突起の先端
19 開口部
21 第2成形品
22 第2表面
23 第2裏面
24a 貫通部
24b 貫通部
27 窓
28 ボタン部分
32 チャック点
33 矢印(引張り方向)
36 一対の成形品


【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱可塑性樹脂からなり第1表面と第1裏面を有する第1成形品と、熱可塑性樹脂からなり第2表面と第2裏面を有する第2成形品から構成され、融着された一対の成形品であって、
第2表面と第2裏面を貫通する貫通部を有し、
第1裏面から突出して前記貫通部に第2表面側から嵌挿され、貫通部内及び/又は第2裏面の貫通部近くにて融着された突起を有することを特徴とする一対の成形品。
【請求項2】
前記突起が、超音波融着されたものである請求項1記載の一対の成形品。
【請求項3】
前記貫通部の周囲からの水平距離が5mm以内の範囲にある第2表面の表層部に、熱硬化性樹脂、結晶性樹脂又は活性エネルギー線硬化性樹脂のうち少なくとも1以上を含む樹脂層が転写あるいは塗装されている請求項1乃至2いずれか記載の一対の成形品。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2007−21965(P2007−21965A)
【公開日】平成19年2月1日(2007.2.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−209386(P2005−209386)
【出願日】平成17年7月20日(2005.7.20)
【出願人】(000231361)日本写真印刷株式会社 (477)
【Fターム(参考)】