説明

貯銑炉に配置される誘導加熱装置の耐火物ライニング構造

【課題】 貯銑炉に設置される誘導加熱装置において、ラミング施工材や無水キャスタブル耐火物からなる、誘導加熱装置の流路を形成するための内張り耐火物に亀裂が生じても、溶銑の漏洩トラブルを防止することのできる耐火物ライニング構造を提供する。
【解決手段】 本発明に係る貯銑炉に配置される誘導加熱装置の耐火物ライニング構造は、貯銑炉に配置される誘導加熱装置5の耐火物ライニング構造であって、誘導加熱装置の外殻である鋼製のケーシング9と、該ケーシングの内面側に施工される、ラミング施工材または無水キャスタブル耐火物からなる内張り耐火物10との間に、中性または塩基性の定形煉瓦16が配置されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高炉溶銑やクロム含有溶銑を一時的に貯銑する貯銑炉に配置される、溶銑を加熱するための誘導加熱装置の耐火物ライニング構造に関する。
【背景技術】
【0002】
高炉から出銑される高炉溶銑やクロム鉱石の溶融還元炉から出銑されるクロム含有溶銑は、トピードカーや溶銑鍋などの溶銑搬送容器で受銑され、必要に応じて脱硫処理、脱燐処理などの予備処理が施された後に転炉へ輸送され、転炉で脱炭精錬が施される。このとき、高炉や溶融還元炉からの出銑タイミングや転炉における処理量の変動などによって生ずる溶銑の過不足を調整する或いは溶銑成分を均一化するために、転炉で脱炭精錬する前に溶銑を一旦貯銑炉に貯蔵する場合がある。
【0003】
貯銑炉内の溶銑は、出銑口などの開口部からの放熱及び耐火物による抜熱によって温度降下を生じるため、溝型の流路を有する誘導加熱装置(「溝型誘導加熱装置」ともいう)を貯銑炉に設け、この溝型誘導加熱装置による溶銑の加熱が行われている(例えば、特許文献1及び特許文献2を参照)。
【0004】
溝型誘導加熱装置を設置した貯銑炉の例を図1に示す。図1において、符号1は貯銑炉、2は出湯口、3は溶銑装入口、4は作業口、5は溝型誘導加熱装置、6は溶銑、7は炉本体、8は耐火物層であり、溝型誘導加熱装置5は、炉本体7の側面に1基ないし複数基配置され、通常、溝型誘導加熱装置5は炉本体7と切り離し可能な構造となっている。
【0005】
この溝型誘導加熱装置5の概略斜視図を図2に示し、図2のX方向から見た概略側面断面図を図3に示し、図3のY−Y’矢視による概略断面図を図4に示す。
【0006】
これらの図に示すように、溝型誘導加熱装置5は、溶銑6の通るための経路である流路11、流路12及び流路13を、その内部に構成する内張り耐火物10が収容された鋼製のケーシング9に、鉄心にコイルの巻かれた誘導コイル14を配置した構成であり、流路11,12,13は炉本体7の内部と連通している。誘導コイル14に交流電流を流すことにより、流路11,12,13と鎖交する交流磁束を生じさせ、この交流磁束によって流路内の溶銑6に誘導電流を発生させ、この誘導電流によるジュール熱によって溶銑6を加熱するという装置である。また、この誘導電流と誘導コイル14による交流磁束とによって流路内の溶銑6にはローレンツ力(電磁気力)が働き、溶銑6は、流路11から流路12及び流路13へと向かう流れを形成する。
【0007】
ケーシング9に施工される内張り耐火物10としては、耐食性を確保するために、マグネシア系耐火物を用いる場合が多く、マグネシア系耐火物の消化防止のために、無水で施工可能なラミング施工材や無水キャスタブル耐火物が用いられている。これらの不定形耐火物で施工した場合には、目地(煉瓦と煉瓦との継ぎ目)が存在せず、目地は一般的に損傷しやすく、従って、定形煉瓦(「定形耐火物」ともいう)で施工した場合に比べて、目地への溶銑侵入に起因する、誘導コイル14での電気的接地や漏電といったトラブルが起こりにくいという優位性がある。しかしながら一方で、これらの不定形耐火物は、振動や熱履歴によって一定期間内で亀裂を生ずるため、その亀裂部位への溶銑6の侵入は防ぐことができない。
【0008】
また、ケーシング9に施工される内張り耐火物10は、流路11,12,13を通過する溶銑6の熱によって焼結が進行して強度が高くなることから、流路11,12,13から離れた外周部では強度のほとんど無い未焼結の耐火物が充填されているだけの状態となる。特に、ケーシング9には、図3及び図4に示すように、電磁特性上(磁束のショートカット防止用)から、相対する誘導コイル14の間(流路11の外側部位)に、ケーシング9の切れ目である、つまり、鉄皮の設置されていない間隙部15(「ケーシング間隙部15」と称す)が設けられており、この部位は強度の不十分な未焼結の耐火物であることから、この部位へ亀裂が到達して溶銑6が侵入した場合には、ケーシング間隙部15からの溶銑6の漏洩トラブルが生じる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2004−218038号公報
【特許文献2】特開2008−180452号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は上記事情に鑑みてなされたもので、その目的とするところは、貯銑炉に設置される誘導加熱装置において、ラミング施工材や無水キャスタブル耐火物からなる、誘導加熱装置の流路を形成するための内張り耐火物に亀裂が生じても、溶銑の漏洩トラブルを防止することのできる、誘導加熱装置の耐火物ライニング構造を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、上記課題を解決すべく、使用後の誘導加熱装置を解体し、調査・検討を行った。
【0012】
その結果、ケーシング内の内張り耐火物には、様々な箇所に亀裂が発生しているものの、溶銑の漏洩が生ずる箇所は、鉄皮の切れ目であるケーシング間隙部だけであることが分かった。ケーシング間隙部以外では、内張り耐火物の亀裂を侵入してきた溶銑が、鋼製のケーシングに接触すると、ケーシングによって冷却されて凝固し、これにより亀裂内の溶銑の移動が停止し、それ以上に伸展しないこと、つまり、溶銑の漏洩には至らないことが分かった。
【0013】
従来、耐火ボードをケーシングと内張り耐火物との間に施工しているが、耐火ボードは溶銑に対する耐食性が不足していたことが分かった。従って、耐食性のある成形煉瓦などの定形煉瓦を内張り耐火物の外側に施工することで、亀裂を侵入した溶銑は定形煉瓦と接触して凝固し、ケーシング間隙部であっても溶銑の漏洩は防止できるとの知見を得た。
【0014】
本発明は、上記知見に基づいてなされたものであり、第1の発明に係る貯銑炉に配置される誘導加熱装置の耐火物ライニング構造は、貯銑炉に配置される誘導加熱装置の耐火物ライニング構造であって、誘導加熱装置の外殻である鋼製のケーシングと、該ケーシングの内面側に施工される、ラミング施工材または無水キャスタブル耐火物からなる内張り耐火物との間に、中性または塩基性の定形煉瓦が配置されていることを特徴とする。
【0015】
第2の発明に係る貯銑炉に配置される誘導加熱装置の耐火物ライニング構造は、第1の発明において、更に、前記ケーシングと前記定形煉瓦との間に、断熱材が配置されていることを特徴とする。
【0016】
第3の発明に係る貯銑炉に配置される誘導加熱装置の耐火物ライニング構造は、第1または第2の発明において、前記定形煉瓦は2層以上に配置されていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、ラミング施工材または無水キャスタブル耐火物からなる内張り耐火物の背面に、中性または塩基性の定形煉瓦を配置するので、内張り耐火物に亀裂が発生し、この亀裂に溶銑が侵入しても、亀裂を侵入した溶銑は、前記定形煉瓦に接触すると、定形煉瓦によって冷却されて凝固し、これにより亀裂内の溶銑の移動が停止するので、ケーシング間隙部であっても溶銑の漏洩が防止され、誘導加熱装置を安定的に稼働することが実現される。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】溝型誘導加熱装置が備えられた貯銑炉の概略斜視図である。
【図2】図1に示す溝型誘導加熱装置の概略斜視図である。
【図3】図2のX方向から見た概略側面断面図である。
【図4】図3のY−Y’矢視による概略断面図である。
【図5】本発明に係る溝型誘導加熱装置の耐火物ライニング構造を示す概略断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、添付図面を参照して本発明を具体的に説明する。図1は、溝型誘導加熱装置が備えられた、本発明を適用した貯銑炉の概略斜視図で、貯銑炉の一部をカットした断面で示している。
【0020】
図1に示すように、本発明を適用した貯銑炉1は、傾転可能な円筒状の炉本体7を有し、溶銑6の加熱手段として溝型誘導加熱装置5を炉本体7の側壁に1基または2基以上備えたものである。貯銑炉1は、高炉や溶融還元炉から供給される溶銑6を炉本体7に装入するための溶銑装入口3と、貯蔵した溶銑6を傾転によって出湯するための出湯口2とを備えている。また、炉内の点検、炉本体7からの試料採取、或いは、炉本体7への副原料(造滓剤、合金鉄或いは鉄スクラップなど)の投入などのための開閉可能な作業口4が1個または複数個設けられており、炉本体7の鉄皮の内側には耐火物層8が施工されている。尚、貯蔵する溶銑6は、高炉溶銑、クロム含有溶銑などであり、また、炉本体7の外殻は鉄皮で構成されている。
【0021】
この溝型誘導加熱装置5の概略斜視図を図2に示し、図2のX方向から見た概略側面断面図を図3に示し、図3のY−Y’矢視による概略断面図を図4に示す。これらの図に示すように、溝型誘導加熱装置5は、流路11、流路12及び流路13を構成する内張り耐火物10が収容された鋼製のケーシング9に、流路11を挟んで、鉄心にコイルの巻かれた誘導コイル14を相対して配置した構成であり、流路11,12,13は炉本体7の内部と連通している。図示はしないが、流路11を挟んで相対する前記鉄心はケーシング9の外側で連結しており、矩形の一体構造となっている。ケーシング9には、電磁特性上(磁束のショートカット防止用)から、流路11の外側に該当する部位である、相対する誘導コイル14の間に、ケーシング9の切れ目である、つまり、鉄皮の設置されていないケーシング間隙部15が設けられている。
【0022】
誘導コイル14に交流電流を流すことにより、誘導コイル14からループ状の流路11,12,13と鎖交する交流磁束を生じさせ、この交流磁束によってループ状の流路内の溶銑6に誘導電流を発生させ、この誘導電流によるジュール熱によって溶銑6を加熱するという装置である。また、この誘導電流と誘導コイル14による交流磁束とによって流路内の溶銑6にはローレンツ力(電磁気力)が働き、溶銑6は、流路11を炉本体7へ向かう方向とは反対方向を向いて流れ、流路12及び流路13に分岐し、流路12及び流路13を通って炉本体7に戻る循環流を形成する。
【0023】
このように構成される溝型誘導加熱装置5の耐火物ライニング構造を、図5を参照して説明する。図5は、本発明に係る溝型誘導加熱装置5の耐火物ライニング構造を示す概略断面図であり、溝型誘導加熱装置5を図4と同一の方向から見た断面図である。
【0024】
ケーシング9の内面全域に、耐火ボードなどの断熱材17を配置し、この断熱材17の内側に、1層または複数層の成形煉瓦16を施工する。成形煉瓦16は平板状とし、材質は中性(アルミナ質、アルミナ−SiC質など)または塩基性(マグネシア質、マグネシア−クロム質など)とする。この場合、溶銑6の漏洩を確実に防止するためには、成形煉瓦16を2層以上に配置することが好ましく、2層以上に配置する場合には、目地を交互に配置(「千鳥配置」という)し、目地が貫通しないようにする。そして、成形煉瓦16の内側に、内張り耐火物10として、マグネシア系耐火物からなるラミング施工材や無水キャスタブル耐火物を施工する。この場合、流路11、流路12及び流路13となる位置には、例えば鋼管を配置してラミング施工材や無水キャスタブル耐火物を施工する。
【0025】
内張り耐火物10として施工したラミング施工材や無水キャスタブル耐火物を乾燥させ、且つ、或る程度焼結させた後に、溝型誘導加熱装置5を炉本体7に取り付け、溝型誘導加熱装置5の使用を開始する。炉本体7から溶銑6を溝型誘導加熱装置5に通すことで、配置した鋼管は溶解し、流路11,12,13が形成される。また、流路11,12,13を溶銑6が通過することで、溶銑6の熱によりラミング施工材や無水キャスタブル耐火物の焼結が進行し、堅固な内張り耐火物10が形成される。尚、断熱材17は、溶銑6の温度降下を少なくすることから、設置することが好ましいが、設置しなくとも構わない。
【0026】
このようにして溝型誘導加熱装置5の耐火物を施工することで、内張り耐火物10に亀裂が発生し、その亀裂が仮にケーシング間隙部15の位置に該当しても、内張り耐火物10の背面側には成形煉瓦16が存在するので、溶銑6のケーシング間隙部15からの漏洩を防止することが実現される。
【0027】
具体的には、成形煉瓦16を配置しなかった場合には、2年間に1回程度の頻度でケーシング間隙部15からの溶銑6の漏洩トラブルがあったが、本発明を適用することで、溶銑6の漏洩は皆無となった。
【符号の説明】
【0028】
1 貯銑炉
2 出湯口
3 溶銑装入口
4 作業口
5 溝型誘導加熱装置
6 溶銑
7 炉本体
8 耐火物層
9 ケーシング
10 内張り耐火物
11 流路
12 流路
13 流路
14 誘導コイル
15 ケーシング間隙部
16 成形煉瓦
17 断熱材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
貯銑炉に配置される誘導加熱装置の耐火物ライニング構造であって、誘導加熱装置の外殻である鋼製のケーシングと、該ケーシングの内面側に施工される、ラミング施工材または無水キャスタブル耐火物からなる内張り耐火物との間に、中性または塩基性の定形煉瓦が配置されていることを特徴とする、貯銑炉に配置される誘導加熱装置の耐火物ライニング構造。
【請求項2】
更に、前記ケーシングと前記定形煉瓦との間に、断熱材が配置されていることを特徴とする、請求項1に記載の貯銑炉に配置される誘導加熱装置の耐火物ライニング構造。
【請求項3】
前記定形煉瓦は2層以上に配置されていることを特徴とする、請求項1または請求項2に記載の貯銑炉に配置される誘導加熱装置の耐火物ライニング構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2011−252210(P2011−252210A)
【公開日】平成23年12月15日(2011.12.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−127540(P2010−127540)
【出願日】平成22年6月3日(2010.6.3)
【出願人】(000001258)JFEスチール株式会社 (8,589)
【Fターム(参考)】