説明

貴金属ナノ粒子の製造方法

【課題】比較的簡便で大量生産に適した貴金属ナノ粒子の製造方法を提供する。
【解決手段】アミン化合物の存在下において、特定の金属錯体の少なくとも1種を含む出発原料を熱処理することにより貴金属ナノ粒子を製造する方法に係る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、貴金属ナノ粒子の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
粒子径が100nm以下の金属ナノ粒子は、その特性が一般の粒子とは大きく異なる。例えば、金(Au)の場合、粒子径が10nm以下になると、その焼結温度が200℃以下とその融点に比べて大幅に低下することが知られている。
【0003】
これらの金属ナノ粒子は触媒作用等の特性を有することから、今後いろいろな分野での応用が期待される。とりわけ、電子部品の高速度化、高密度化に対する要求から、金属ナノ粒子を電子用配線形成材料の主成分として利用することが注目されている。この場合、従来から用いられてきたセラミックス、ガラス等の基材だけでなく、金属ナノ粒子の低温焼結性を活かしてポリイミド又は一般有機基板への応用も実用化に向けて検討されている。
【0004】
これまでの金属ナノ粒子の製造方法としては、例えば、原料となる金属を真空中、若干のヘリウムガスのような高価な不活性ガスの存在下で蒸発させることによって気相中から金属ナノ粒子を得る方法が知られている。
【0005】
しかしながら、この方法では、一般に一度に得られる金属ナノ粒子の生成量が少ない。また、金属を蒸発させるために電子ビーム、プラズマ、レーザー、誘導加熱等の装置が必要であり、大量生産に適しているとは言い難い。しかも、これらの気相法により得られる金属ナノ粒子は、固体として取り出す場合、凝集し易いという物性上の欠点もある。
【0006】
上記気相法に対し、液相中から金属ナノ粒子を調製する方法も提案されている。例えば、疎水性反応槽内でアンモニア性硝酸銀錯体溶液を還元して銀ナノ粒子を製造する方法が知られている。ところが、液相法により得られる金属ナノ粒子も凝集性が比較的強い。
【0007】
また、これらの製法の場合、ほぼ例外なく安定に分散させるために界面活性剤を加えて保護コロイド化する必要があるが、それでも分散安定性という面ではなお改善の余地がある。
【0008】
これに対し、本発明者は、錯体を固体のまま熱分解して金属ナノ粒子を製造する固相熱分解法をさきに開発し、金属ナノ粒子の大量合成を実現している(特許文献1)。
【特許文献1】WO2004/012884
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
ところが、この方法は、例えば金ナノ粒子等の貴金属ナノ粒子を製造するような場合、前駆体(出発原料)の合成に3段階の工程が必要となる。また、熱分解反応における反応温度を比較的高く設定しなければならないため、所望の粒径の粒子を得るには、粒子が凝集を起こしにくい限られた条件のもとで製造しなければならない。
【0010】
従って、本発明の主な目的は、比較的簡便で大量生産に適した貴金属ナノ粒子の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者は、従来技術の問題点に鑑みて鋭意研究を重ねた結果、特定の製造方法を導入することにより上記目的を達成できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0012】
すなわち、本発明は、下記の貴金属ナノ粒子の製造方法に係る。
1. アミン化合物の存在下において、金属錯体を含む出発原料を熱処理することにより貴金属ナノ粒子を製造する方法であって、
前記金属錯体が下記(a)〜(d)の少なくとも1種;
(a)MX(SR)(ただし、Mは、Auを示す。Xは、Cl、Br又はIを示す。R及びRは、互いに同一又は異なって、置換基を有していても良いアルキル基又はアリール基を示す。)
(b)MX(PR)(ただし、Mは、Auを示す。Xは、Cl、Br又はIを示す。R、R及びRは、互いに同一又は異なって、置換基を有していても良いアルキル基又はアリール基を示す。)
(c)M’X(SR(ただし、M’は、Pd又はPtを示す。Xは、Cl、Br又はIを示す。R及びRは、互いに同一又は異なって、置換基を有していても良いアルキル基又はアリール基を示す。)
(d)M’X(PR又は、M’X(RP(CHPR)(ただし、M’は、Pd又はPtを示す。Xは、Cl、Br又はIを示す。R、R及びRは、互いに同一又は異なって、置換基を有していても良いアルキル基又はアリール基を示す。nは、1〜3の整数を示す。)
である、
ことを特徴とする、貴金属ナノ粒子の製造方法。
2. 前記金属錯体の製造工程として、金属塩にスルフィド及び/又はホスフィンを含む化合物を反応させて前記金属錯体を得る工程をさらに有する、前記項1に記載の製造方法。
3. 前記熱処理が、得られる貴金属ナノ粒子中に有機成分が2〜50%含まれるように実施される、前記項1又は2に記載の製造方法。
4. アミン化合物が、下記(1)〜(3)の少なくとも1種;
(1)NH(ただし、Rは、置換基を有していても良いアルキル基又はアリール基を示す。)
(2)NHR(ただし、R〜Rは、同一又は異なって、置換基を有していても良いアルキル基又はアリール基を示す。)
(3)NR(ただし、R〜Rは、同一又は異なって、置換基を有していても良いアルキル基又はアリール基を示す。)
である、前記項1〜3のいずれかに記載の製造方法。
5. 出発原料にカルボン酸及びホスフィンオキシドの少なくとも1種を含む、前記項1〜4のいずれかに記載の製造方法。
6. 前記項1〜5のいずれかに記載の製造方法により得られる貴金属ナノ粒子。
7. 平均粒子径が100nm以下であって、球状又は突起を有する球状である、前記項6に記載の貴金属ナノ粒子。
8. 形状が、ワイヤー状である、請求項6に記載の貴金属ナノ構造体。
9. 溶剤及び前記項6〜8のいずれかに記載の貴金属ナノ粒子を含む導電回路形成用ペースト。
10. 前記項9に記載のペーストを用いて所定の回路パターンを基板上に形成した後、熱処理することを特徴とする、導電回路の形成方法。
11. 溶剤及び前記項6〜8のいずれかに記載の貴金属ナノ粒子を含む装飾用ペースト。
12. 前記項11に記載のペーストを用いて基材上に絵柄層を形成した後、前記絵柄層を熱処理することを特徴とする装飾材の製造方法。
【発明の効果】
【0013】
本発明の製造方法によれば、特定の金属錯体を原料として用いることから、所望の粒径をもつ貴金属ナノ粒子を効率良く製造することができる。これにより、ナノ粒子が本来有する低温焼結性、溶剤への高分散性等をより確実に得ることができる。
【0014】
また、本発明の製造方法では、用いる金属錯体、アミン化合物、保護剤等の種類を変えることにより、得られる貴金属ナノ粒子の粒径、分散性等を自由に変えることができる。
【0015】
本発明の製造方法により得られる貴金属ナノ粒子は、特に貴金属及び有機成分を含む粒子である場合には、100nm以下(特に50nm以下)という微細な粒子であるにもかかわらず、高い分散性を有し、それ故に溶剤中でも高分散状態を維持できる。このため、導電回路形成用ペーストという形態で好適に用いることができる。また、微細な粒子が高い分散状態にあるため、比較的低温(500℃以下、より好ましくは350℃以下)での焼成により緻密な導電回路を形成することができる。これにより、基板としてポリイミド、エポキシ樹脂(ガラスエポキシ樹脂)等の幅広い樹脂を採用することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
本発明の貴金属ナノ粒子の製造方法は、アミン化合物の存在下において、金属錯体を含む出発原料を熱処理することにより貴金属ナノ粒子を製造する方法であって、
前記金属錯体が下記(a)〜(d)の少なくとも1種;
(a)MX(SR)(ただし、Mは、Auを示す。Xは、Cl、Br又はIを示す。R及びRは、互いに同一又は異なって、置換基を有していても良いアルキル基又はアリール基を示す。)
(b)MX(PR)(ただし、Mは、Auを示す。Xは、Cl、Br又はIを示す。R、R及びRは、互いに同一又は異なって、置換基を有していても良いアルキル基又はアリール基を示す。)
(c)M’X(SR(ただし、M’は、Pd又はPtを示す。Xは、Cl、Br又はIを示す。R及びRは、互いに同一又は異なって、置換基を有していても良いアルキル基又はアリール基を示す。)
(d)M’X(PR又は、M’X(RP(CHPR)(ただし、M’は、Pd又はPtを示す。Xは、Cl、Br又はIを示す。R、R及びRは、互いに同一又は異なって、置換基を有していても良いアルキル基又はアリール基を示す。nは、1〜3の整数を示す。)
であることを特徴とする。
【0017】
アミン化合物
アミン化合物は、特に限定されず、各種の1級アミン、2級アミン、3級アミンを用いることができる。
【0018】
例えば、下記(1)〜(3)の少なくとも1種;
(1)NH(ただし、Rは、置換基を有していても良いアルキル基又はアリール基を示す。)、
(2)NHR(ただし、R〜Rは、同一又は異なって、置換基を有していても良いアルキル基又はアリール基を示す。)、
(3)NR(ただし、R〜Rは、同一又は異なって、置換基を有していても良いアルキル基又はアリール基を示す。)
を好適に用いることができる。
【0019】
また、アミン化合物は、融点120℃以下及び沸点120℃以上のアミン化合物を用いることが好ましい。例えば、ドデシルアミン(C1225NH)、ヘキサデシルアミン(C1633NH)、オクタデシルアミン(C1837NH)、ジオクチルアミン(NH(C17)、トリオクチルアミン(N(C17)その他、ヘキシルアミン(C13NH)、オクチルアミン(C17NH)、ジデシルアミン(NH(C1021)、オレイルアミン(CH(CHCH=CH(CHNH)、2−(2−アミノエトキシ)エタノール(HO(CHO(CHNH)等を挙げることができる。本発明では、アミンが、1)溶媒、2)保護剤、3)温和な還元剤の役割をそれぞれ果たすという見地から、融点が120℃以下のアミンの少なくとも1種を用いることが望ましい。
【0020】
アミン化合物の使用量は、用いるアミン化合物の種類等に応じて適宜設定することができる。一般的には、後記の金属錯体1モルに対して1〜20モル、特に5〜10モルとすることが望ましい。
【0021】
金属錯体
金属錯体としては、下記(a)〜(d)の少なくとも1種;
(a)MX(SR)(ただし、Mは、Auを示す。Xは、Cl、Br又はIを示す。R及びRは、互いに同一又は異なって、置換基を有していても良いアルキル基又はアリール基を示す。)
(b)MX(PR)(ただし、Mは、Auを示す。Xは、Cl、Br又はIを示す。R、R及びRは、互いに同一又は異なって、置換基を有していても良いアルキル基又はアリール基を示す。)
(c)M’X(SR(ただし、M’は、Pd又はPtを示す。Xは、Cl、Br又はIを示す。R及びRは、互いに同一又は異なって、置換基を有していても良いアルキル基又はアリール基を示す。)
(d)M’X(PR又は、M’X(RP(CHPR)(ただし、M’は、Pd又はPtを示す。Xは、Cl、Br又はIを示す。R、R及びRは、互いに同一又は異なって、置換基を有していても良いアルキル基又はアリール基を示す。nは、1〜3の整数を示す。)
を用いる。
【0022】
これら金属錯体(a)〜(d)におけるR〜Rとしてのアルキル基又はアリール基は、炭素数1〜12(特に炭素数1〜8)であって、置換基を有していても良いものを好適に用いることができる。
【0023】
上記置換基としては、例えばメチル基、エチル基、プロピル基、スルホン基、水酸基、ニトロ基、アミノ基、ハロゲン基(Cl、Br等)、メトキシ基、エトキシ基等が挙げられる。また、置換基の位置及び数は特に限定されない。
【0024】
上記(a)の具体例としては、AuX(SR)(X=Cl又はBr,R=CH 又はCHCH)の少なくとも1種を挙げることができる。
【0025】
上記(b)の具体例としては、AuX(PR)(X=Cl又はBr,R=C又はn-C17)の少なくとも1種を挙げることができる。
上記(c)の具体例としては、M’X(SR(M’=Pt又はPd, X=Cl又はBr,R=CH又はCHCH)の少なくとも1種を挙げることができる。
【0026】
上記(d)の具体例としては、M’X(PR(X=Cl又はBr,R=C又はn-C17)の少なくとも1種を挙げることができる。
【0027】
これらの金属錯体は、公知の方法に従って、金属塩にスルフィド及び/又はホスフィンを含む化合物を反応させることにより合成することもできる。例えば、AuClS(CHは、メタノールに溶かした塩化金酸にS(CHのメタノール溶液を滴下し、析出した沈殿をろ取することにより得られる。また、AuCl(PPh)は、エタノールに溶かした塩化金酸にPPhのエタノール溶液を滴下し、析出した沈殿をろ取することにより得られる。従って、本発明は、金属錯体の製造工程として、金属塩にスルフィド及び/又はホスフィンを含む化合物を反応させて前記金属錯体を得る工程をさらに有する方法も包含する。すなわち、1)金属塩にスルフィド及び/又はホスフィンを含む化合物を反応させて前記(a)〜(d)のいずれかに記載の金属錯体を得る金属錯体合成工程及び2)アミン化合物の存在下において、前記金属錯体を含む出発原料を熱処理することにより貴金属ナノ粒子を製造する貴金属ナノ粒子製造工程を含む製造方法を包含する。このように、前記の金属錯体合成工程は、1工程で構成されることから、より簡便に目的とする貴金属ナノ粒子を製造することができる。
【0028】
保護剤
本発明では、熱処理において、必要に応じて他の材料を出発原料として併存させることができる。例えば、カルボン酸及びホスフィンオキシドの少なくとも1種を保護剤として用いることができる。これらの化合物を併存させることにより、金属錯体上のホスフィン配位子の解離を促進したり、生成する粒子の表面を保護することによって、粒子サイズの小さな粒子を得ることができる。カルボン酸としては、例えばオレイン酸、ミリスチン酸、ステアリン酸等を好ましく用いることができる。ホスフィンオキシドとしては、例えばトリオクチルホスフィンオキシド、トリフェニルホスフィンオキシド等を好ましく用いることができる。
【0029】
これら保護剤の使用量は限定的ではないが、一般的には、前記の金属錯体1モルに対して1〜5モル、特に1〜3モルとすることが望ましい。
【0030】
熱処理
本発明の製造方法では、前記金属錯体を含む出発原料をアミン化合物の存在下において熱処理する。
【0031】
熱処理方法は限定的でなく、オイルバス中での加熱、マイクロ波による加熱等のいずれであっても良い。
【0032】
熱処理は、得られる貴金属ナノ粒子中に有機成分が含まれるように実施されることが望ましい。これは、熱処理温度、熱処理時間、雰囲気等を調整することにより制御することができる。
【0033】
熱処理温度は、金属錯体がアミン化合物と反応して所定の貴金属ナノ粒子が得られる限り特に制限されず、用いる金属錯体及びアミン化合物の種類等に応じて適宜決定することができる。前記のように、熱処理は、得られる貴金属ナノ粒子に有機成分が含まれるように行われることが望ましい。かかる見地より、本発明では、金属錯体及びアミン化合物を含む混合物(出発原料)が最終的に液状になる温度以上で、かつ、アミン化合物の沸点未満の温度領域とすることが好ましい。一般的には、200℃以下、特に40〜200℃の範囲内で設定することができる。特に、貴金属が金である場合は、熱処理温度は40〜150℃、特に40〜130℃とすることが好ましい。
【0034】
熱処理時間は、使用する出発原料の組成、熱処理温度等に応じて適宜設定すれば良いが、通常は0.5〜10時間程度、好ましくは0.5〜3時間とすれば良い。
熱処理温度及び時間によって、粒子径も制御することができる。一般に、反応温度が高いほど、また反応時間が長いほど、粒子径が大きくなる傾向がある。
【0035】
熱処理雰囲気は、特に制限されない。例えば、大気中、不活性ガス雰囲気、還元性雰囲気、真空中等のいずれであっても良い。不活性ガス雰囲気の場合は、例えば窒素、二酸化炭素、アルゴン、ヘリウム等の不活性ガスを使用すれば良い。
本発明では、有機溶媒を用いることなく、出発原料とアミン化合物を反応容器に仕込んで、熱処理するだけでも良い。アミン化合物が固体の場合は、出発原料とアミン化合物を固体のまま熱処理すれば良い。
【0036】
熱処理が終了した後、必要に応じて精製を行う。精製方法は、公知の精製法も適用でき、例えば洗浄、遠心分離、膜精製、溶媒抽出等により行えば良い。
【0037】
貴金属ナノ粒子
本発明は、前記の製造方法により得られる、通常は1種以上の貴金属及び有機成分を含む貴金属ナノ粒子を包含する。
【0038】
貴金属は、Au、Pd及びPtの少なくとも1種を含む。2種以上を含む場合、それらは混合物であっても良いし、合金化していても良い。
【0039】
貴金属の含有量は、最終製品の用途、得られる粒子の粒径等によるが、通常は50〜98重量%程度、特に70〜98重量%とすることが望ましい。本発明では、80重量%以上という高金属含有率であっても、有機溶媒等に対する分散性に優れているという特徴を有している。
【0040】
有機成分は、一般的には、金属錯体及び/又はアミン化合物に由来する有機成分である。有機成分の存在により、貴金属ナノ粒子の分散安定性の向上等を図ることができる。
【0041】
貴金属ナノ粒子の平均粒子径は、通常は1〜100nm程度の範囲内で適宜設定できるが、特に1〜50nm、さらには1〜30nmであることが好ましい。
【0042】
貴金属ナノ粒子の形状は特に限定されない。球状、ワイヤー状、不定形状等のいずれであっても良い。例えば、本発明の製造方法では、球状又は突起を持つ球状、ワイヤー状等の貴金属ナノ粒子を好適に得ることもできる。
【0043】
貴金属ナノ粒子は、特に貴金属及び有機成分を含むので、高い金属含有率にもかかわらず分散安定性に優れ、溶剤に分散させると可溶化状態となる。例えば、テルペン系溶剤のほか、アセトン、イソプロパノール、ベンゼン、トルエン、ヘキサン、ジエチルエーテル、ケロシン等の有機溶剤に分散して用いても良い。また、公知のペースト化剤に配合してペーストとして用いることもできる。ペーストとして用いる場合、貴金属ナノ粒子の含有量は20〜90重量%の範囲で適宜設定することができる。
【0044】
このような貴金属ナノ粒子(貴金属合金ナノ粒子を包含する。)は、例えば電子材料(プリント配線、導電性材料、電極材料、接合材料等)、磁性材料(磁気記録媒体、電磁波吸収体、電磁波共鳴器等)、触媒材料(高速反応触媒、センサー等)、構造材料(遠赤外材料、複合皮膜形成材等)、セラミックス・金属材料(ろう付材料、焼結助剤、コーティング材料等)、陶磁器用装飾材料、医療材料等の各種の用途に幅広く用いることが可能である。特に、導電回路形成用として好適に用いることができる。
【0045】
貴金属ナノ粒子を用いて導電回路(導電膜)を形成する場合は、例えば前記に例示した溶剤と本発明の製造方法により得られる貴金属ナノ粒子とを含むペーストを用いて所定の回路パターンを基板上に形成した後、熱処理すれば良い。熱処理は、通常100〜800℃、好ましくは200〜400℃の範囲内とすれば良い。
【0046】
また、装飾材料を製造する場合は、前記と同様のペーストを用いて基材上に絵柄層を形成した後、前記絵柄層を熱処理することにより装飾材料を得ることができる。前記基材としては、例えば陶磁器、ガラス等の公知の物品・素材から適宜選んで用いることができる。この場合の熱処理温度は、導電回路を形成する場合と同様にすれば良い。
【実施例】
【0047】
以下、実施例を示し、本発明の特徴とするところをより一層明確にする。ただし、本発明は、実施例の範囲に限定されない。
【0048】
なお、各実施例における各物性の測定は、次のようにして実施した。
(1)定性分析
金属成分の同定は、強力X線回折装置「Rigaku RINT2500」(リガク製)を用いた粉末X線回折分析法やX線光電子スペクトル装置「ESCA−700」(アルバックファイ社製)を用いた測定で行った。プラズモン吸収の測定は、紫外可視分光光度計「Shimazu UV−3150C」 (島津製作所製)を用いて行った。
(2)平均粒子径
透過型電子顕微鏡(TEM)「JEM1200EX」(日本電子社製)により測定し、任意に選んだ粒子300個の直径の算術平均値を求め、その値をもって平均粒子径とした。
(3)金属成分の含有量
熱分析装置「SSC/5200」(セイコー電子工業製)を用い、TG/DTA分析することにより求めた。
(4)有機成分等の分析
金属ナノ粒子におけるN(窒素成分)とO(酸素成分)の確認は、X線光電子スペクトル装置「ESCA−700」(アルバックファイ社製)を用いて行った。有機成分の確認は、FT−NMR装置「JNM−EX270」(日本電子製)、GC/MS(ガスクロマトグラフ質量分析)装置「Hewlett−Packard 6890 GC system」(ヒューレット パッカード社製)を用いて行った。
【0049】
実施例1
金錯体 AuCl(S(CH))(295 mg、1 mmol)とヘキサデシルアミンn−C1633NH(2.41g、10 mmol)をパイレックス製三つ口フラスコに固体のまま入れ、120 ℃まで徐々に加熱し、120 ℃で1時間保持した。放冷した後、トルエンに分散させ、アセトンを加えて再沈させた。沈殿を桐山ロートでろ別し、減圧下で乾燥させ、茶色粉末を得た(収量:256 mg、収率:89%)。
【0050】
得られた粉末のTEM観察による結果(イメージ図)を図1に、粉末X線回折分析の結果を図2に、熱分析の結果を図3に、紫外可視吸収スペクトルの結果を図4に示す。熱分析の結果より、上記粉末は、金属成分を69重量%含有し、かつ、31重量%の有機成分が存在することが確認できた。コアが金であることは粉末X線回折及びX線光電子スペクトルから同定された。この金属ナノ粒子の平均粒子径は6.1nmであった。
【0051】
有機成分については、GC/MSから、ヘキサデシルアミンの質量数241に相当する親ピークが観測され、上記金ナノ粒子がアミンで保護されていることが確認された。
【0052】
実施例2
金錯体 AuCl(S(CH))(295 mg、1 mmol)とドデシルアミンn−C1225NH(1.85g、10 mmol)をパイレックス製三つ口フラスコに固体のまま入れ、120 ℃まで徐々に加熱し、120 ℃で1時間保持した。放冷した後、トルエンに分散させ、アセトンを加えて再沈させた。沈殿を桐山ロートでろ別し、減圧下で乾燥させ、茶色粉末を得た(収量:194 mg、収率:95%)。
【0053】
得られた粉末をTEM観察及び熱分析した。TEM観察による結果(イメージ図)を図5に示す。熱分析の結果より、上記粉末は、金属成分を96重量%含有し、かつ、4重量%の有機成分が存在することが確認できた。コアが金であることは粉末X線回折及びX線光電子スペクトルから同定された。この金属ナノ粒子の平均粒子径は5.5nmであった。
【0054】
実施例1と同様にNMR、GC/MSにより有機成分としてアミンの存在を確認した。
【0055】
実施例3
白金錯体PtCl(S(CH))(39 mg、0.1 mmol)とヘキサデシルアミンn−C1633NH(241 mg、1 mmol)をパイレックス製三つ口フラスコに固体のまま入れ、175 ℃まで徐々に加熱し、175 ℃で1時間保持した。放冷した後、トルエンに分散させ、アセトンを加えて再沈させた。沈殿を桐山ロートでろ別し、減圧下で乾燥させ、茶色粉末を得た(収量:28mg、収率:80%)。
【0056】
得られた粉末をTEM観察及び熱分析した。TEM観察による結果(イメージ図)を図6に示す。熱分析の結果より、上記粉末は、金属成分を56重量%含有し、かつ、44重量%の有機成分が存在することが確認できた。コアが白金であることは粉末X線回折及びX線光電子スペクトルから同定された。この金属ナノ粒子は、表面に突起をもつ球状粒子であり、粒子径は43〜90nmであった。
【0057】
実施例1と同様にNMR、GC/MSにより有機成分としてアミンの存在を確認した。
【0058】
実施例4
金錯体 AuCl(P(C))(494 mg、1 mmol)とオレイン酸CH(CH)CH=CH(CH)COOH(400 mg),トリオクチルホスフィンオキシド O=P(n−C17)(1 g), オクタデシルアミンn−C1837NH(2.69g、10 mmol)をパイレックス製三つ口フラスコに固体のまま入れ、100 ℃まで徐々に加熱し、100 ℃で1時間保持した。放冷した後、メタノールを加えて再沈させた。沈殿を桐山ロートでろ別し、減圧下で乾燥させ、茶色粉末を得た(収量:206 mg、収率:89%)。
【0059】
得られた粉末をTEM観察及び熱分析した。TEM観察による結果(イメージ図)を図7に示す。熱分析の結果より、上記粉末は、金属成分を83重量%含有し、かつ、17重量%の有機成分が存在することが確認できた。コアが金であることは粉末X線回折及びX線光電子スペクトルから同定された。この金属ナノ粒子の平均粒子径は4.2nmであった。
【0060】
実施例1と同様にNMR、GC/MSにより有機成分としてアミン、オレイン酸、トリオクチルホスフィンオキシド、トリフェニルホスフィンの存在を確認した。
【0061】
実施例5
金錯体 AuCl(P(C))(494 mg、1 mmol)、トリオクチルホスフィンオキシド O=P(n−C17)(1 g), オクタデシルアミンn−C1837NH(2.69g、10 mmol)をパイレックス製三つ口フラスコに固体のまま入れ、100 ℃まで徐々に加熱し、100 ℃で1時間保持した。放冷した後、メタノールを加えて再沈させた。沈殿を桐山ロートでろ別し、減圧下で乾燥させ、茶色粉末を得た(収量:196 mg、収率:86%)。
【0062】
熱分析の結果より、上記粉末は、金属成分を86重量%含有し、かつ、14重量%の有機成分が存在することが確認できた。コアが金であることは粉末X線回折及びX線光電子スペクトルから同定された。
【0063】
実施例1と同様にNMR、GC/MSにより有機成分としてアミン、トリオクチルホスフィンオキシド、トリフェニルホスフィンの存在を確認した。
【0064】
実施例6
パラジウム錯体PdCl(P(C))(701 mg、1 mmol)とヘキサデシルアミンn−C1633NH(2.41g、10 mmol)をパイレックス製三つ口フラスコに固体のまま入れ、175℃まで徐々に加熱し、175℃で1時間保持した。放冷した後、メタノールを加えて再沈させた。沈殿を桐山ロートでろ別し、減圧下で乾燥させ、黒色粉末を得た。得られた粉末をTEM観察した結果(イメージ図)を図8に示す。
【0065】
実施例7
パラジウム錯体PdCl(P(C))(70 mg、0.1 mmol)、白金錯体PtCl(S(CH))(39 mg、0.1 mmol)とヘキサデシルアミンn−C1633NH(482 mg、2 mmol)をパイレックス製三つ口フラスコに固体のまま入れ、185℃まで徐々に加熱し、185℃で1時間保持した。放冷した後、アセトン、メタノールを加えて再沈させた。沈殿を桐山ロートでろ別し、減圧下で乾燥させ、黒色粉末を得た。得られた粉末をTEM観察した結果(イメージ図)を図9に示す。図10に示す粉末X線回折より一種類の回折ピークが観測されたことから、合金ナノ粒子と同定された。また、その比率は蛍光X線分析より、パラジウム:白金=1:2であった。
【図面の簡単な説明】
【0066】
【図1】実施例1で得られた金ナノ粒子のTEM観察による結果を示す図(イメージ図)である。
【図2】実施例1で得られた金ナノ粒子の粉末X線回折の結果を示す図である。
【図3】実施例1で得られた金ナノ粒子の熱分析(TG/DTA)の結果を示す図である。
【図4】実施例1で得られた金ナノ粒子の紫外可視吸収スペクトルの結果を示す図である。
【図5】実施例2で得られた金ナノ粒子のTEM観察による結果を示す図(イメージ図)である。
【図6】実施例3で得られた白金ナノ粒子のTEM観察による結果を示す図(イメージ図)である。
【図7】実施例4で得られた金ナノ粒子のTEM観察による結果を示す図(イメージ図)である。
【図8】実施例6で得られたパラジウムナノ粒子のTEM観察による結果を示す図(イメージ図)である。
【図9】実施例7で得られたパラジウム-白金合金ナノ粒子のTEM観察による結果を示す図(イメージ図)である。
【図10】実施例7で得られたパラジウム-白金合金ナノ粒子の粉末X線回折の結果を示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アミン化合物の存在下において、金属錯体を含む出発原料を熱処理することにより貴金属ナノ粒子を製造する方法であって、
前記金属錯体が下記(a)〜(d)の少なくとも1種;
(a)MX(SR)(ただし、Mは、Auを示す。Xは、Cl、Br又はIを示す。R及びRは、互いに同一又は異なって、置換基を有していても良いアルキル基又はアリール基を示す。)
(b)MX(PR)(ただし、Mは、Auを示す。Xは、Cl、Br又はIを示す。R、R及びRは、互いに同一又は異なって、置換基を有していても良いアルキル基又はアリール基を示す。)
(c)M’X(SR(ただし、M’は、Pd又はPtを示す。Xは、Cl、Br又はIを示す。R及びRは、互いに同一又は異なって、置換基を有していても良いアルキル基又はアリール基を示す。)
(d)M’X(PR又は、M’X(RP(CHPR)(ただし、M’は、Pd又はPtを示す。Xは、Cl、Br又はIを示す。R、R及びRは、互いに同一又は異なって、置換基を有していても良いアルキル基又はアリール基を示す。nは、1〜3の整数を示す。)
である、
ことを特徴とする、貴金属ナノ粒子の製造方法。
【請求項2】
前記金属錯体の製造工程として、金属塩にスルフィド及び/又はホスフィンを含む化合物を反応させて前記金属錯体を得る工程をさらに有する、請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
前記熱処理が、得られる貴金属ナノ粒子中に有機成分が2〜50%含まれるように実施される、請求項1又は2に記載の製造方法。
【請求項4】
アミン化合物が、下記(1)〜(3)の少なくとも1種;
(1)NH(ただし、Rは、置換基を有していても良いアルキル基又はアリール基を示す。)、
(2)NHR(ただし、R〜Rは、同一又は異なって、置換基を有していても良いアルキル基又はアリール基を示す。)
(3)NR(ただし、R〜Rは、同一又は異なって、置換基を有していても良いアルキル基又はアリール基を示す。)
である、請求項1〜3のいずれかに記載の製造方法。
【請求項5】
出発原料にカルボン酸及びホスフィンオキシドの少なくとも1種を含む、請求項1〜4のいずれかに記載の製造方法。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれかに記載の製造方法により得られる貴金属ナノ粒子。
【請求項7】
平均粒子径が100nm以下であって、球状又は突起を有する球状である、請求項6に記載の貴金属ナノ粒子。
【請求項8】
形状が、ワイヤー状である、請求項6に記載の貴金属ナノ構造体。
【請求項9】
溶剤及び請求項6〜8のいずれかに記載の貴金属ナノ粒子を含む導電回路形成用ペースト。
【請求項10】
請求項9に記載のペーストを用いて所定の回路パターンを基板上に形成した後、熱処理することを特徴とする、導電回路の形成方法。
【請求項11】
溶剤及び請求項6〜8のいずれかに記載の貴金属ナノ粒子を含む装飾用ペースト。
【請求項12】
請求項11に記載のペーストを用いて基材上に絵柄層を形成した後、前記絵柄層を熱処理することを特徴とする装飾材の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2007−63579(P2007−63579A)
【公開日】平成19年3月15日(2007.3.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−248018(P2005−248018)
【出願日】平成17年8月29日(2005.8.29)
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.パイレックス
【出願人】(591030499)大阪市 (64)
【出願人】(591040292)大研化学工業株式会社 (59)
【Fターム(参考)】