質量分析による改変ペプチドの同定
種々の局面で、分析器のフィールドフリー領域で形成される準安定イオンに由来するマススペクトルシグナルを少なくとも部分的に使用して、改変ペプチドの存在を同定するための方法が提供される。例えば、上記改変ペプチドがリンペプチドである種々の実施形態において、このような準安定イオンは、前駆イオンのm/z値よりもおよそ95u低いようであり得る(ペプチドがリン酸基を含む場合に前駆イオンから準安定イオンが形成される)。種々の実施形態において、MALDI−TOFマススペクトルにおけるこのような準安定イオンの検出は、改変ペプチドを同定し得る。種々の局面で、改変ペプチド、脱改変ペプチドおよび非改変ペプチドの2つ以上に由来するMS/MSデータを少なくとも部分的に使用して、これら3つの形態のペプチドの2つ以上の配列情報および/または改変部位情報を比較することにより、改変ペプチドの存在を同定するための方法が提供される。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(関連出願の相互参照)
本出願は、1994年4月14日に出願された米国仮特許出願第60/561,938号の利益を主張する。上記の仮特許出願の全内容は、参考として本明細書に援用される。
【背景技術】
【0002】
(緒言)
質量分析(MS)(MALDI−TOF MSを含む)は、生物学的研究の多くの分野で広範に使用される分析プラットホームである。生体分子サンプル(例えば、ペプチド、タンパク質、核酸、炭水化物)は、多くの場合、質量分析器による分析の間に解離を受けやすい不安定な化学結合によってその生体分子に結合された分子を含む。このような部分は、多くの場合、その生体分子の特性および研究中の生物学的システムとのその生体分子の関連性を理解する上で重要で意味のあるものである。例えば、リン酸結合(−PO4)を含むタンパク質および/またはペプチドは、「リンタンパク質、リンペプチド、またはホスホリル化ペプチドもしくはホスホリル化タンパク質」と称される。これらのペプチドおよびタンパク質は、MS分析の間にそのリン酸基の解離を受けやすい生体分子の主要な例である。タンパク質におけるリン酸基の付加または除去は、生物学的システムによって、細胞過程の調節のための化学的シグナルまたは誘発因子として広範に使用される。そしてそのようなものとして、リンタンパク質の同定は、プロテオミクス研究の多くの分野における重大な関心の一例である。同様に、ペプチドの他の翻訳後改変(例えば、グリコシル化)は、重要な生物学的影響を有し、そのような改変を含むペプチドはまた、そのグリコシル化部分の解離を受け得る。この点について、タンパク質の酵素的消化または化学的消化によって調製されたペプチドフラグメントにおけるこのような基の改変(例えば、リン酸化およびグリコシル化)の存在を迅速に同定する方法、およびタンデム質量分析(MS/MS)技術によるさらなる分析のためにこれらのペプチドを選択する方法が非常に望ましい。
【発明の開示】
【課題を解決するための手段】
【0003】
(要旨)
本教示は、質量分析(例えば、軸マトリックス支援レーザーイオン化(MALDI)飛行時間(TOF)質量分析)によって分析した場合に、ペプチドの混合物から改変ペプチドを同定するための方法に関する。
【0004】
本教示の種々の局面にしたがって、質量分析器(例えば、MALDI−TOF質量分析器)によって分析される場合に、不安定な生体分子(例えば、リン酸結合または糖結合を有するペプチド)の準安定挙動を使用するための方法が提供され、この方法は、不安定な生体分子(例えば、リンペプチドおよび糖ペプチド)を検出および同定する手段として行われ得る。種々の実施形態において、上記方法は、MALDI−TOF質量分析器のフィールドフリー領域においてポストソース分解を受けやすい、リンペプチド(および/または糖ペプチドおよび/または他の改変ペプチド)に由来する準安定イオンを同定する工程を包含する。
【0005】
種々の局面において、不安定な生体分子(例えば、リンペプチドおよび糖ペプチド)を検出および同定する方法は、その不安定な生体分子のMS/MSスペクトルを生成することによって提供される。種々の実施形態において、その方法は、タンデム質量分析を使用して改変ペプチドの配列のすべてもしくは一部を決定し、その改変ペプチドの配列からの情報を使用してデータベースを検索することに基づいて改変部位を決定する工程、その改変ペプチドに対応する脱改変ペプチドのMS/MSスペクトルを生成する工程、およびその脱改変ペプチドの配列のすべてもしくは一部を決定し、その脱改変ペプチドの配列からの情報を使用してデータベースを検索することに基づいて改変部位を決定する工程を包含する。脱改変ペプチドについて決定された配列および改変部位に対して、改変ペプチドについて決定された配列および改変部位が比較されて、改変ペプチドについて決定された配列および改変部位が、脱改変ペプチドについて決定された配列および改変部位と実質的に一致する場合に、改変ペプチドがペプチド混合物中に存在すると同定され得る。
【0006】
本教示の種々の局面の種々の実施形態において、改変ペプチド(例えば、翻訳後改変ペプチド)の存在を同定する方法は、MS機器ソフトウェアによって自動化され得、MS作動で収集されたMALDI−TOFマススペクトルにおける準安定イオンを検索および検出するコンピュータアルゴリズムによって容易にされ得る。一旦同定されると、実験的に導き出された質量単位値が検出された準安定イオンに加えられて、潜在的な改変ペプチド(例えば、翻訳後改変ペプチド)が同定され得る。種々の実施形態において、推定改変ペプチドの確認は、タンデム質量分析技術によって行われ得る。したがって、種々の局面において、本教示は、本教示の1以上の方法の機能性が、コンピュータ読み取り可能媒体(例えば、フロッピー(登録商標)ディスク、ハードディスク、光学ディスク、磁気テープ、PROM、EPROM、CD−ROM、またはDVD−ROMが挙げられるが、これらに限定されない)におけるコンピュータ読み取り可能な命令として具現化された製造物品を提供する。
【0007】
本教示のこれらの特徴および他の特徴は、本明細書に示されている。
【0008】
当業者は、以下に記載される図面が、図示目的のみであることを理解する。これらの図面は、いかなる様式でも本教示の範囲を限定することを意図されない。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
(種々の実施形態の説明)
本教示は、生物学的システムにおいて改変された種々のクラス生体分子(例えば、ペプチド、タンパク質)の存在を同定する方法を提供する。例えば、生体分子を改変する種々の構成成分または部分は、その生体分子の状態、およびその生体分子が関係する生物学的システムの機能的安定性に対する重大な関連性を有し得る。ペプチド同定についての種々の実施形態において、このような部分の多くが、MSによって(例えば、MALDI−TOF質量分析計で)分析される場合に、ポストソース分解を受けやすい不安定な化学結合によってペプチドおよびタンパク質のアミノ酸残基に連結されている。本教示の方法は、軸MALDI−TOF MS(例えば、VoyagerTMワークステーション(Applied Biosystems,Framingham,MA))または軸MALDI−TOF−TOF MS計器システム(例えば、4700 Proteomics Analyzer(Applied Biosystems,Framingham,MA))とともに使用され得る。
【0010】
MALDI−TOF MS分析に関する種々の実施形態において、目的の生物学的サンプル(例えば、ペプチド、タンパク質、核酸、炭水化物など)は、固相マトリックスへの分析サンプルの導入によって調製され得る。MALDI質量分析計機器は、MALDIソース領域と呼ばれる真空領域中でサンプルをイオン化するために特別に調整されたレーザーを使用し得る。遊離した分析物イオン(ここではガス相にある)は、電位の適用によって加速されて、フィールドフリー領域に入り得る。このフィールドフリー領域で分析物イオンはそれらの質量電荷比の関数として分離され、それゆえ、このパラメータによって検出および分類され得る。不安定な化学結合を有するいくつかのイオンに共通する現象は、「ポストソース分解」として一般に公知であるプロセスにおいて、質量分析計のフィールドフリー領域でより小さいイオンに解離することである。本明細書中で使用される場合、フィールドフリー領域で解離されるイオンは、準安定イオンと称される。フィールドフリー領域におけるこれらの準安定イオンは、それらが形成される前駆イオンと同じ速度を有するが、それらのより小さい質量に起因してより低い運動エネルギーを有する。代表的なMS機器収集パラメータは、最大感度およびその機器のイオン源領域で形成されるイオンの分解のために特別に調整される。結果として、これらイオンは、イオン源領域で生成されるイオンと同じ程度には集束されない。このような準安定イオンの集束の欠如は、例えば、TOF分析器を用いて検出した場合、インタクトなイオン(またはイオン源領域で解離するイオン)の分解と比較して、より小さい質量分解を生じる。準安定イオンフラグメトに関するより小さく測定される解離の別の理由は、準安定イオン形成の間に放出される化学エネルギーのいくらかがそのフラグメトイオンの運動エネルギーに変換されることである。このように増大された運動エネルギーは、典型的に、飛行時間検出における平均エネルギーに変化しないが、そのフラグメトイオンのエネルギーの広がりを増大し得る。また、これらのフラグメントはイオン源領域の外側で形成されるので、例えば、米国特許第5,627,369号に記載されるように遅延引き出し技術(これは速度集束特性を与え得る)の適用は、このようなフラグメントイオンに影響を与えない。このような準安定イオンは、通常は、MALDI−TOFマススペクトルで検出され、そのMALDI−TOFマススペクトルは、それらの分析機器のリフレクターモードの作動で収集される。
【0011】
種々の実施形態において、本教示の方法は、リンペプチドの存在を同定し得る。種々の実施形態において、これらの方法は、リンペプチド結合の化学的不安定性を利用し、このリンペプチド結合の化学的不安定性は、リンペプチド結合の解離を生じ、リン酸およびその元々のリン酸基を有さないより低質量のペプチドを形成する。この解離は、例えば、MALDI−TOF質量分析計の、レーザー脱離/イオン化後のイオン源領域またはフィールドフリー領域のいずれかで起こり得る。本明細書中で使用される場合、脱リン酸化ペプチドイオンという用語は、MALDIイオン源領域で解離するイオンを指す。フィールドフリー領域で生成される準安定イオンは、イオン光学によってイオン源領域で生成されるイオンと同程度には集束されず、その結果、TOF分離およびイオン検出におけるこれらのイオンのより低い質量分解を生じる。種々の実施形態において、本発明者らは、準安定イオンが、その準安定イオンが生成された前駆イオンについてのm/z値よりもおよそ95質量単位(u)低いピークによって検出され得ることを観測している。タンパク質消化物のMALDI−TOFリフレクターMSスペクトル中のこの準安定イオン応答の同定は、推定リン酸化ペプチドの存在(すなわち、準安定イオンよりも約95u高く、準安定イオンよりも実質的に高い質量分解を有するピークとして)を同定するために使用され得る。インタクトなリン酸化ペプチドは、MALDI−TOF MSスペクトルに含まれる他のペプチドの平均分解と実質的に同じ分解を有し得る。しかし、準安定イオンは、代表的に、所定の質量範囲にわたる平均質量分解の準安定イオンの約50%またはそれよりも低い分解を有し得る。この観測された質量差(すなわち、約95u)は直感的ではない。なぜなら、そのリン酸基を失ったペプチドの質量は、理論的には、そのリン酸化された対応物よりも98u低いはずであるからであり、実際に、これが、MALDI−TOF質量分析計のイオン源領域で分解するリンペプチドについて観測される質量差(−98u)である。
【0012】
準安定イオンと推定リンペプチド(または他の改変ペプチド)との間の質量差の値は、実験的に導き出され得、機器の配置に依存し得る。例えば、LC MALDI研究(40個のリン酸化ペプチドが本教示の方法によって同定された)から4700 Proteomics Analyzerで収集されたリフレクターMSスペクトルからの分析は、質量差が平均95u±1uであることが見出された。Voyager DETM STR(Applied Biosystems)機器が使用された場合と対照的に、実験的に導き出された質量差は、名目上、94uであることが見出された(図6を参照のこと)。
【0013】
本発明者らは、その前駆リン酸ペプチドイオンと比較して準安定イオンについて期待されるm/z比の差が、イオンミラー(リフレクター)構成を備えるMALDI TOF機器の設計に関して説明され得ることを発見した。この説明のために、リフレクター MALDI−TOF機器は、3つの別々の領域(ソース領域、フィールドフリー領域、およびミラー領域)を有すると考えられ得る。Ds(ソース領域の長さ)、Df(フィールドフリー領域の長さ)およびDm(ミラー領域の長さ)を使用すると、各領域における飛行時間は、以下によって決定され得る:
【0014】
【数3】
ここで、tsは、ソース領域内の飛行時間を表し、tfは、フィールドフリー領域内の飛行時間を表し、tmは、ミラー領域内の飛行時間を表し、αは、定数を表し、mは、前駆ペプチドイオンの質量を表し、そしてVsは、イオン源電圧を表す。
【0015】
例えば、フィールドフリー領域において前駆ペプチドから質量の損失(Δm(リンペプチドについては98u))を伴って生成される準安定イオンを考える。準安定イオンは、それらの準安定イオンがミラー領域に到達するまで、それらの準安定イオンとともに実質的に同じ速度で飛行する。それゆえ、準安定イオンと前駆イオンとの間の飛行時間の差は、ミラー領域で生じる。
【0016】
ミラーまで、準安定イオンは、同じ初速度を有するが、その前駆イオンとは異なる質量を有する。準安定イオンがミラー領域を通って飛行するのにかかる時間は、以下:
【0017】
【数4】
によって、与えられ得、ここで、
【0018】
【数5】
は、準安定イオンがミラー領域を通って飛行するのにかかる時間を表す。
【0019】
時間tと質量mとの関係は、代表的には、前駆ペプチドイオンの関係によって決定される:
【0020】
【数6】
。
【0021】
準安定イオンの飛行時間は、
【0022】
【数7】
として表され得る。次いで、等式(6)に従って、準安定イオンについての観測質量mmは、
【0023】
【数8】
によって与えられ得る。
【0024】
再整理および代入することで、以下の関係:
【0025】
【数9】
が得られる。
【0026】
それゆえ、前駆ペプチドイオンとその対応物の準安定イオンとの間で観測される質量差は、
【0027】
【数10】
によって与えられ得る。
【0028】
J.Am.Soc.Mass Spectrom.1998,9,892−911(「Vestal」)(これは、本明細書中において参考として援用される)においてVestalら、によって記載されるように、単段(single−stage)のソースおよびミラーを備えるMALDI−TOF機器について、集束条件は、以下の条件:
【0029】
【数11】
によって与えられ得る。それゆえ、このような機器について、
【0030】
【数12】
である。
【0031】
Vestalによって教示されるように、高質量分解は、
【0032】
【数13】
が0.98〜1の範囲にある(これは、βが0.49〜0.5の範囲にあるのに対応する)場合に達成され得る。しかし、DfおよびDsに関してDmを書くと、β≡0.5に対する値は、非常に小さいソース領域に対応し得、それゆえ、物理的に非現実的な値であり得る。
【0033】
種々の実施形態において、合理的な寸法は、ソース領域5mm長、フィールフリー領域1000mm長、そして等式(10)に従って計算されたミラー長である。このイオン光学構成は、0.495のβを有する。
【0034】
リンペプチドについて、Δm=98uである。準安定イオンの質量(mm)とその前駆イオンの質量(m)との間の実験的に観測された質量は、等式(10)を用いて導き出され得る:例えば、1000〜2500uの質量範囲において、m−mm=95.3±0.7u。
【0035】
この導き出された値(以前は、実験的に導き出された質量差と称されていた)は、所定の質量範囲にわたる平均観測質量差を表し、実験的に観測される結果と実質的に一致する。本発明者らは、この導き出された値を、本明細書中で調整質量差(adjusted mass difference)と称する。
【0036】
異なる型の機器(例えば、ドリフト管長に対して異なるミラー長が使用され得る)について、βが異なり得、結果として観測される準安定イオン質量が異なる。例えば、βが0.49である場合、観測される質量の差分(デルタ)は、例えば、1000〜2500uの質量範囲において、m−mm=94.4±0.7uである。
【0037】
本教示にしたがって実行され得る代表的なワークフローを表す種々の実施形態において、ペプチドMALDIサンプルは、サンプルをMALDIマトリックス(例えば、溶液中のα−シアノ−4−ヒドロキシケイ皮酸)と混合し、次いで、その溶液をMALDIプレート(MALDI標的)にスポットすることによって調製され得る。その溶液が乾燥した後、MALDIプレートは、MALDI TOF質量分析計のイオン源領域にロードされ得る。MALDI TOF MS機器は、一定範囲の質量電荷値にわたってペプチドイオンに対応する複数のピークを有するペプチド混合物のマススペクトルを生成するために、MSオンリーモードで実行され得る。代表的なデータ収集は、MALDI TOF MS機器がこのモードで作動される場合のより高い分解およびより高い質量精度測定に起因して、サンプル中の成分の質量(または成分の質量電荷比)を同定するためにリフレクターモードの作動で行われ得る。当業者に公知の技術を使用して、質量電荷値の範囲内の各ピークの分解は、そのピークにおける質量をそのピークの幅(そのピーク強度の50%のところで測定した幅)で除算した値を決定することによって計算され得る。個々の分解から、所定の質量範囲にわたるそのペプチドに対する平均質量分解が決定され得る。同定されたピークの平均分解よりも実質的に分解能が低いマススペクトル中の1以上のピーク(例えば、図2、図5および図6を参照のこと)は、インタクトなペプチド前駆イオンの推定準安定イオンとして選択され得る。調整質量差(例えば、リン酸化ペプチドについてのこの例では95u)が、選択された推定準安定ピークの質量電荷値に加えられて、新たに計算された質量電荷値においてスペクトル中にピークが存在するかどうかが決定され得る。そのようなピークが存在する場合、そのピークはリンペプチド前駆イオンとして同定され得る。上記のワークフローは、スペクトルに存在する他の推定リンペプチドの存在を同定するために繰り返され得る。MS分析によって対処される問題にしたがって、MSスペクトルの収集から導き出されたデータが、ペプチド質量フィンガープリント法(PMF)のタンパク質データベース検索によるタンパク質同定のために使用され得るか、あるいはそのデータは、さらなる実験(例えば、タンデム質量分析(MS/MS)を使用してタンパク質を同定するかまたは本教示に従って同定したリンペプチドが実際にリンペプチドであることを確認するための実験)のための、前駆イオンの選択のために使用され得る。種々の実施形態において、MS/MS分析を行うための機器は、Applied Biosystems 4700 Proteomics Analyzerであるが、他のタンデムMS機器も使用され得る。
【0038】
種々の実施形態において、本明細書中に記載される本教示の方法の1つ以上の機能性は、汎用コンピュータ上のコンピュータ読み取り可能な命令として実行される。そのコンピュータは、質量分析システムから分離され得、取り外し可能であり得、または質量分析システムに組み込まれ得る。このコンピュータ読み取り可能な命令は、多数の高級言語(例えば、FORTRAN、PASCAL、C、C++、またはBASIC)のうちのいずれか1種で書かれ得る。コンピュータ読み取り可能な命令は、市販のソフトウェア(例えば、EXCELまたはVISUAL BASIC)で具現化されたスクリプト、マクロ、または機能で書かれ得る。コンピュータ読み取り可能な命令は、コンピュータ上のマイクロプロセッサレジデントを対象とするアセンブリ言語で実行され得る。例えば、コンピュータ読み取り可能な命令は、IBM PCまたはPCクローンで実行されるように構成された場合、Intel 80×86アセンブリ言語で実行され得る。
【0039】
種々の実施形態において、コンピュータ読み取り可能な命令は、製造物品に組み込まれ得、その製造物品としては、例えば、フロッピー(登録商標)ディスク、ハードディスク、光学ディスク、磁気テープ、PROM、EPROM、CD−ROMまたはDVD−ROMのようなコンピュータ読み取り可能なプログラム媒体が挙げられるが、これらに限定されない。本明細書中で使用される場合、用語「アルゴリズム」および「コンピュータアルゴリズム」とは、コンピュータ読み取り可能な命令を指す。
【0040】
種々の実施形態において、本教示の方法は、本教示の1以上の方法を実行して、MALDI−TOF質量分析計によって分析される場合に容易に切断される官能基で改変されたペプチドピークを検出し同定するコンピュータアルゴリズムを用いる、MALDI−TOF MS機器ソフトウェアによって行われ得る。例えば、種々の実施形態において、アルゴリズムは、タンパク質同定およびタンパク質の特徴付けを容易にするためのプロテオミクス実験において、複合混合物中の翻訳後リン酸改変されたペプチド(例えば、タンパク質の混合物が、例えば、酵素(例えば、トリプシン、キモトリプシン、リジンエンドペプチダーゼ、ARG−C、ASP−N、V8または当業者に公知の他の酵素)、化学試薬(例えば、臭化シアンなど)、あるいはこれらの組み合わせで消化された場合に生成されるペプチド)の存在を規定する準安定イオンを同定するために以下のストラテジーを用いる本教示の方法を実行する。(例えば、線形モード、リフレクターモードなどで生成される)マススペクトルにおけるピークの質量分解は、一部の質量範囲または全質量範囲にわたって、MALDI TOF機器ソフトウェアによって決定され得る。代表的なペプチド応答について測定された値よりも小さい分解のピークは、リンペプチドの潜在的な誘導体として同定され、メモリに記憶される。例えば、アルゴリズムは、機器のチューニング条件に依存して、ピークを3,000〜6,000の範囲にわたる分解を伴う推定準安定イオンとして同定するように設定され得る。その後、上記工程で記憶された低分解の検出イオンよりも95u大きいm/z値を有し、またMALDI−TOF MSによって分析されたペプチドについての質量分解と一致する分解(代表的には、10,000よりも大きい)も有するイオンが同定され、潜在的なリンペプチドを断定するものとして記憶される。このアプローチによって選択されるイオンシグナルは、分析された混合物中の推定リンペプチドを表す。この予測のさらなる確認は、タンデム質量分析(MS/MS)による推定リンペプチドのさらなる分析(例えば、MALDI−TOF−TOF−MS分析であるが、これらに限定されない)によって達成され得る。
【0041】
種々の実施形態において、本教示の方法は、以下に詳細に記載されるような広範なワークフローとともに使用され得る。例えば、本教示の種々の実施形態はまた、タンパク質ベースのワークフローまたはペプチドベースのワークフローのいずれかとともに使用され得る。
【0042】
種々の実施形態において、リンタンパク質を含むタンパク質混合物は、SDSポリアクリルアミドゲル電気泳動(SDS−PAGE)によって分離され得る。タンパク質混合物のゲル電気泳動分離に由来するバンドが切り取られ得、そのバンド中に含まれるタンパク質がインゲル(インサイチュ)酵素消化もしくは化学消化ストラテジーによって消化され得る。このような消化から生じるペプチド混合物は、そのペプチド混合物をマトリックス(例えば、α−シアノ−4−ヒドロキシケイ皮酸、2,5−ジヒドロキシ安息香酸、シナピン酸(sinnapinic acid)など)と混合し、乾燥させ、そしてMALDI−TOF−MSによって分析することによって分析される。次いで、本教示の1以上の方法が適用されて、推定リンペプチドが同定される。
【0043】
種々の実施形態において、リンタンパク質を含むタンパク質混合物は、SDSポリアクリルアミドゲル電気泳動(SDS−PAGE)によって分離され得る。タンパク質混合物のゲル電気泳動分離に由来するバンドが切り取られ得、そしてそのバンド中に含まれるタンパク質がインゲル(インサイチュ)酵素消化もしくは化学消化ストラテジーによって消化され得る。遊離したペプチド混合物は、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)法(例えば、一次元逆相、多次元(2以上の分離の直交次元がこのようなペプチドの複合混合物を分離するように連結され得る)およびこれらの組み合わせ)によってさらに分離され得る。最終的に、分離されたペプチド混合物は、MALDIマトリックスとともにMALDIプレート上に共沈着されるか、またはMALDIマトリックスと直接混合されてMALDIプレート上に沈着される。得られたサンプルは、MALDI−TOF−MSによって分析される。次いで、本教示の1以上の方法が適用されて、推定リンペプチドが同定される。
【0044】
種々の実施形態において、リンタンパク質を含むタンパク質混合物は、SDSポリアクリルアミドゲル電気泳動(SDS−PAGE)によって分離され得る。得られたゲルは、分子スキャナーアプローチを用いて精査され得る。このアプローチによって、タンパク質は、酵素(例えば、トリプシンなど)が含浸した膜を通して電子ブロットされる。タンパク質がその酵素膜を横断すると、タンパク質はペプチドに消化され、そのペプチドはその後、ペプチド捕捉膜に捕捉される。その後、ペプチド捕捉膜は、MALDIマトリックス(例えば、α−シアノ−4−ヒドロキシケイ皮酸、2,5−ジヒドロキシ安息香酸、シナピン酸など)とともに噴霧され、乾燥され、そしてMALDI−TOF−MSによって分析される。次いで、本教示の1以上の方法が適用されて、推定リンペプチドが同定される。
【0045】
種々の実施形態において、リンタンパク質を含むタンパク質混合物は、包括的なプロテオミクス実験の間に行われるように、酵素(例えば、トリプシン、キモトリプシン、リジンエンドペプチダーゼ、ARG−C、ASP−N、V8または当業者に公知の他の酵素)、あるいは化学試薬(例えば、臭化シアンなど)で消化され得る。遊離ペプチドは、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)法(例えば、一次元逆相、多次元(2以上の分離の直交次元がこのようなペプチドの複合混合物を分離するように連結され得る)およびこれらの組み合わせ)を用いて分離され得る。最終的に、分離されたペプチド混合物は、MALDIマトリックスとともにMALDIプレート上に共沈着されるか、またはLC MALDIの分野で実行されているように、MALDIマトリックスと直接混合されて、MALDIプレート上に沈着される。得られたサンプルは、MALDI−TOF−MSによって分析される。次いで、本教示の1以上の方法が適用されて、推定リンペプチドが同定される。
【0046】
種々の実施形態において、リンペプチド同定の信頼度は、ペプチドの3つの形態(すなわち、非改変型(non−modified)、リン酸化型(改変型(modified))、および脱リン酸化型(脱改変型(de−modified)))のすべてが同じアミノ酸配列を有するが、改変(例えば、リン酸化)程度に関しては異なるということを考慮することによって増大され得る。それゆえ、リンペプチド同定の信頼度は、これら3つのペプチド形態のうちの2つ以上に対応するMSピークについてのMS/MSスペクトルを取得して、そのように分析される各ペプチド形態の少なくとも一部分の配列を提供し、そしてこれらの配列を用いてデータベース検索を行い、可能性のあるリン酸化部位を考慮に入れることによって増大され得る。そのような検索を行うために使用され得る市販のデータベースは、MASCOT(登録商標)(Matrix Sciences Ltd.)である。
【0047】
タンデム質量分析(MS/MS)によるペプチドの配列決定は、代表的に、第一の質量分析計(多くの場合、質量分析の一次元目と称される)を用いてペプチドの分子イオン(多くの場合、「前駆イオン」または「親イオン」と称される)を選択し、そしてその前駆イオンをイオンフラグメンター(例えば、衝突セル(前駆イオンが不活性ガスと衝突する))に誘導することによって達成される。前駆イオンは、衝突セル中で一連のフラグメトイオン(多くの場合、「娘イオン」と称される)にフラグメント化される。この一連のフラグメトイオンの中に、順に数が減少するアミノ酸を有するイオンがある。代表的に、2つの顕著なイオンのセットが生成される。一方は、ペプチドのC末端からのアミノ酸欠失を有する配列ラダーである。別のものは、N末端からのアミノ酸欠失を有するラダーである。次いで、フラグメントイオンが、代表的に、第二の質量分析計(多くの場合、質量分析の二次元目と称される)に誘導されて、前駆イオンのフラグメント化パターン(すなわち、選択されたペプチド)が決定される。
【0048】
例えば、多くのデータベース検索アプローチは、第一に、検討中の前駆体の質量と一致する質量を有するデータベースペプチドを同定する。次の工程は、前駆体のMS/MSスペクトルをデータベースペプチドの理論的なMS/MSスペクトルと一致させることである。一般的に、最も一致するものが、勝者と宣言される。ペプチドに対する改変(例えば、リン酸化、グリコシル化、硫酸化など)は、そのような改変が一般的に起こるペプチドに対する改変部位の予想質量の付加によって、データベース検索に考慮に入れられ得る。リン酸化は、一般的に、セリン、スレオニンおよびチロシンで起こり、推定のマッチするもの(ヒット)を同定する前に、データベースペプチドの質量にリン酸化の予想質量(80u)を付加することによって考慮に入れられ得る。次いで、複数の潜在的にマッチするものが、各々のヒットについて、理論的なスペクトルを形成する前に、セリン部位、スレオニン部位、およびチロシン部位の各々をリン酸化することによって形成され得る。
【0049】
このプロセスは、脱リン酸ペプチド前駆体にマッチするものを探索する場合に繰り返され得る。データベースペプチドにリン酸化質量(80u)を加える代わりに、喪失した水分子の質量(18u)が、非改変ペプチドの質量から減算される。リン酸化に関連する探索と同様に、セリン部位、スレオニン部位およびチロシン部位の各々は、理論的なスペクトルを形成する前に脱リン酸化され得る。同様に、データベース検索は、非改変ペプチドに対応するピークについて、その前駆体で行われ得る。種々の実施形態において、3つすべての検索により同一のアミノ酸配列を得た場合、その検索結果の信頼度は、有意に増大し得る。
【0050】
図7は、本教示の種々の実施形態のフローチャートを示す。705において、MSスキャンが実行される。次いで、このスキャンは、リン酸化または他のペプチド改変(例えば、グリコシル化および硫酸化)に対応するピークの関係について探索され得る。リン酸化は、例えば、現在のピークよりも18u小さいピークおよび80u高いピークが存在する場合に存在し得る。このようにして、脱リン酸(脱改変)ペプチド、その対応する非改変ペプチドおよびその対応するリン酸化(改変)ペプチドに対応するピークの群が形成され得る(710)。このプロセスは、脱リン酸ペプチド前駆体についてのMS/MSスペクトルを取得し、水分子の喪失を考慮に入れてデータベースを検索することによって進められ得る(720)。同様の取得および検索が、リン酸化ペプチドに対応する前駆体について行われ得る(730)。そして、取得および検索が、非改変ペプチドについて行われ得る(740)。最後に、2つ以上の検索結果が比較されて、共通のペプチドが同定される(750)。付加的な制御論理が、リストの複数の群を加工するために追加され得る(702、715、760)。
【0051】
当業者は、3つの取得/検索工程のうちのいずれか2つが使用され得ること、および取得/検索工程の順序は、一般的に、重要ではないことを想到する。その上、データベース検索アルゴリズムの正確な型は、一般的に、そのアルゴリズムの型が種々の改変を考慮に入れることを許容する限り、重要ではない。いくつかの実施形態は、各工程における検索結果のランク付けの相違を明らかにすることによって、結果の信頼度を計算する。例えば、3つの検索のうちの2つが高いスコアを有する共通ペプチドを生じ、第三の検索におけるそのペプチドが低いスコアを有する場合、結果の最終的な信頼度は、3つすべての検索によって高いスコアを有する共通ペプチドが得られた場合よりも低くなり得る。
【0052】
図8は、約167uの正式な残基質量を有するリン酸化セリンペプチド802(改変ペプチド)の解離を模式的に示す。光(hν)が照射された場合、この光は、フラグメント化をもたらし、以下を生じ得る:(i)約69uの正式な残基質量およびH3PO4部分(約98uの予想質量)を有する脱リン酸セリン804(改変ペプチドに対応する脱改変ペプチド)、および/または(ii)約87uの正式な残基質量およびHPO3部分(約80uの予想質量)セリン806(改変ペプチドに対応する非改変ペプチド)。
【0053】
本教示の局面は、以下の実施例に照らしてさらに理解され得る。以下の実施例は、いかなる様式においても本教示の範囲を限定するものとして解釈されるべきではない。
【実施例】
【0054】
(実施例1:MALDI−TOF質量分析計内での準安定イオンの形成)
図1に示される概略図は、MALDI−TOF質量分析計における準安定イオンの形成の説明を示す。ここで、分析計のフィールドフリー領域で形成されたより小さい破線の円で表されたイオンが、準安定イオンである。そうであるとして、このイオンは、(実線の円で表されような)イオン源領域で形成されたイオンと同程度には集束されない。さらに、フィールドフリー領域で形成されたイオンは、化学結合に由来する増大された運動エネルギーの広がりを有するが、運動エネルギーの増加平均は、ゼロである。両方の特性は、このイオン集団のより小さい見かけ上の分解を生じるように組み合わされ得、この見かけ上の分解は、このような準安定イオンを同定することを補助し、最終的には、本教示の種々の実施形態において、準安定イオンが生成されたペプチドを同定することを補助し得る。
【0055】
(実施例2:リフレクターモード作動のMALDI−TOF−MSによって分析した場合の、リンペプチドの混合物中の準安定イオンの検出)
Applied Biosystems 4700 Proteomics Analyzerにおいて、LQRQPSpSPGPTPR(配列番号1)、RYPRPVpSVPPSPSLSR(配列番号2)、GTSFMMpTPYVVTRYYR(配列番号3)およびCTNFMMpTPpYVVTRYYR(配列番号4)を含むサンプルの、リフレクターモードの作動で収集されたMALDI−TOFマススペクトルが、図2に示される。そのスペクトルは、1スペクトルあたり合計1000レーザーショットについての20個のサブスペクトルの平均である。質量範囲(900−2500)にわたって見られるように、ほとんどのペプチドに関して観測される分解は、10,000よりも大きい。しかし、特定のイオンの質量分解は、非常に低い(例えば、1405.3のm/z値におけるイオン(201)は、3458の分解を伴って測定され、1779.7のm/z値におけるイオン(202)は、4213の分解を伴って測定された)。これらの不完全に分解されたピークは、準安定イオンを表す。これらの準安定イオン関連ピークの両方は、それら自体よりも約95u大きい対応する改変ペプチドのピークを有し、そういうものとして、これらの準安定イオンのピークを、リン酸化ペプチドから潜在的に起こるものとして同定した。本実施例において、m/z=1500.6で検出されたピーク(203)を、m/z=1405.3で検出された準安定イオンに対応するリンペプチドであると予測し、m/z=1874.9で検出されたピークは、m/z=1779.7で検出された準安定イオンに対応するリンペプチドであると予測した。
【0056】
(実施例3:m/z=1500.6のペプチドがリンペプチドであることの確認)
m/z=1500.6で検出されたイオンについてのMALDI−TOF/TOFスペクトルを、高エネルギー(1Kev)衝突誘起解離を用いて、Applied Biosystems 4700 Proteomics Analyzerで1スペクトルあたり合計2500個のレーザーショットについての25個のサブスペクトルの平均で収集し、そのスペクトルを図3に示す。このスペクトルは、前駆イオンからの典型的な98uの喪失およびこのスペクトルで同定されるyシリーズイオンおよびbシリーズイオンの多くを示す。このm/z=1500.6のタンデムMS(MS/MS)スペクトルによって、このペプチドがリンペプチドであることの確認がもたらされた。
【0057】
(実施例4:m/z=1874.8のペプチドがリンペプチドであることの確認)
m/z=1874.8で検出されたイオンについてのMALDI−TOF/TOFスペクトルを、高エネルギー衝突誘起解離を用いて、Applied Biosystems 4700 Proteomics Analyzerで収集し、このスペクトルは、1スペクトルあたり合計2500個のレーザーショットについての25個のサブスペクトルの平均であった。このスペクトルを図4に示す。このスペクトルは、前駆イオンからの典型的な98uの喪失およびこのスペクトルで同定されるyシリーズイオンおよびbシリーズイオンの多くを示す。このm/z=1874.8のタンデムMS(MS/MS)スペクトルによって、このペプチドがリンペプチドであることの確認がもたらされた。
【0058】
(実施例5:リフレクターモード作動のMALDI−TOF−MSによって分析した場合の、α−カゼインのトリプシン消化物中の準安定イオンの検出)
リン酸化タンパク質であるα−カゼインを、酵素(ウシトリプシン)によってフラグメントに切断した。これらのフラグメントは、トリプシンペプチドであり、このことは、すべてのペプチドがそのC末端にリジンまたはアルギニンのいずれかを有することを意味する。これらのフラグメントは、非リン酸化ペプチドまたはリン酸化ペプチドのいずれかである。このサンプルを、MALDIマトリックス(α−シアノ−4−ヒドロキシケイ皮酸)と混合し、乾式液滴(dry−droplet)法を用いてMALDIプレートにスポットした。このタンパク質の溶液中トリプシン消化物のMALDI−TOFリフレクターMSスペクトルを、Applied Biosystems 4700 Proteomics Analyzerで1スペクトルあたり合計1000個のレーザーショットについての20個のサブスペクトルの平均で収集し、そのスペクトルを図5に示す。準安定イオンシグナル(ここでは、リン酸化ペプチドの準安定イオンシグナル)を用いて改変ペプチドを同定する方法(ここで、95uの調整質量差を準安定イオンの質量電荷値に加えた)を、α−カゼインのトリプシン消化物の分析に適用した。本実施例において、実行した方法によって、3つの潜在的なリンペプチド(VPQLEIVPNpSAEER(配列番号6)、YKVPQLEIVPNpSAEER(配列番号7)、KYKVPQLEIVPNpSAEER(配列番号8))が、首尾よく決定されたのに対して、ペプチド質量フィンガープリント(PMF)実験では、MASCOTデータベース検索において切断部位が1つ失われ、2つのリンペプチド(VPQLEIVPNpSAEER、YKVPQLEIVPNpSAEER)のみが同定された。例は、この方法により、1952.0におけるピーク(501)がリンペプチドとして同定され、その配列が、YKVPQLEIVPNpSAEERであることである。このペプチド配列は、MASCOTデータベース検索を用いるペプチド質量フィンガープリントによって確認した。
【0059】
(実施例6:リフレクターモード作動のVoyager STR MALDI−TOF−MSによって分析した場合の、準安定イオンの検出)
調整質量差を用いる本教示の方法を、Applied Biosystemsの別の型のMALDI−TOF質量分析計(Voyager STR)における、リン酸化ペプチド前駆イオンDLDVPIPGRFDRRVpSVAAE(配列番号5)の分析に適用した。改変ペプチドを同定するために準安定イオンシグナルを用いるその方法において、94uの調整質量差を準安定イオンの質量電荷値に加えた。このリンペプチドのスペクトルを、1スペクトルあたり200個のレーザーショットの平均で、Applied Biosystems Voyager DETM STRにおいて収集し、このスペクトルを図6に示す。本実施例において、アルゴリズムによって実行された方法によって、2191.7544(601)においてリンペプチドの存在が決定され、2097.8196(602)におけるイオンが、準安定イオンである。
【0060】
(実施例7:リンペプチド中の準安定イオンの検出の継続)
リン酸化タンパク質であるα−カゼインを、酵素(ウシトリプシン)によってフラグメントに切断し、Applied Biosystems 4700 Proteomics Analyzerを用いる質量分析の分析に供して、図9に示されるスペクトルを得た。改変ペプチドを同定するために準安定イオンシグナル(ここでは、リン酸化ペプチドの準安定イオンシグナル)を用いる方法(ここで、95uの調整質量差を準安定イオンの質量電荷値に加えた)によって、1952.0u(901)において推定リンペプチドを、1854.0u(902)においてその脱リン酸ペプチドを、そして1872.0u(903)において非改変ペプチドを同定した。これらの知見を確認するために、MS/MSスペクトル(図10)を、フラグメント化された前駆イオンとして推定リンペプチド(1952.0u)を用いて取得した。得られたMS/MSスペクトルを、セリン、スレオニンおよびチロシンの可変リン酸化を用いるMASCOTデータベース検索に供した。MASCOT検索からのペプチドイオンスコアは50であり、その同定の信頼度は99.7%であった。別のMASCOTデータベース検索を、脱リン酸ペプチド(1854.0u)のMS/MSスペクトルについて行ったが、このときはセリン、スレオニンおよびチロシンの可変改変として脱H2Oを使用した。その結果を図11に示す。この例において、ペプチドイオンスコアは85であり、その同定の信頼度は100%であった。両方のデータベース検索で見出されたペプチド配列は同じであり、それゆえ、本実施例は、1952.0uにおいて見出された前駆リンペプチドがリン酸化ペプチドであることを確認したことを示す。
【0061】
本出願に引用されるすべての文献および類似物(特許、特許出願、記事、書籍、学術論文、およびウェブページが挙げられるが、これらに限定されない)は、そのような文献および類似物の形式にかかわらず、明示的に、その全体が参考として援用される。援用された1つ以上の文献および類似物が本出願とことなるかまたは矛盾する場合(定義された用語、用語の用法、記載された技術などが挙げられるが、これらに限定されない)、本出願が支配する。
【0062】
本明細書中で使用される節の見出しは、構成上の目的のためのみであり、いかなる様式においても記載される主題を限定すると解釈されるべきではない。
【0063】
本教示は、種々の実施形態に関して記載されているが、本教示がそのような実施形態または実施例に限定されることは意図されない。一方で、本教示は、当業者が想到するように、種々の変更、改変、および等価物を包含する。
【0064】
特許請求の範囲は、その効果が述べられていない限り、記載される順序または要素に限定されるように読まれるべきではない。形式および詳細の種々の変更が添付の特許請求の範囲から逸脱することなくなされ得ることが理解されるべきである。それゆえ、特許請求の範囲の範囲および精神にあるすべての実施形態およびそれらに対する等価物が権利主張される。
【図面の簡単な説明】
【0065】
【図1】図1は、MALDI−TOF質量分析計における準安定イオン形成を強調する概略を示す。
【図2】図2は、純粋な合成リンペプチドであるLQRQPSpSPGPTPR(配列番号1)、RYPRPVpSVPPSPSLSR(配列番号2)、GTSFMMpTPYVVTRYYR(配列番号3)およびCTNFMMpTPpYVVTRYYR(配列番号4)の混合物についての、リフレクター作動モードでのMALDI−TOF−MSスペクトルを示す(注:アミノ酸残基の左側の「p」は、その「p」のすぐ右側の残基としてのリン酸化部位を識別する)。
【図3】図3は、m/z 1500.6(図2に示されるMALDI−TOF−MSスペクトル中のm/z 1405.3における準安定イオンの検出によって同定される推定リンペプチド)についてのMALDI−TOF−MSスペクトルを示す。
【図4】図4は、m/z 1874.8(図2に示されるMALDI−TOF−MSスペクトル中のm/z 1779.7における準安定イオンの検出によって同定される推定リンペプチド)についてのMALDI−TOF−MSスペクトルを示す。
【図5】図5は、MALDI−TOF分析器のリフレクター作動モードで収集された、タンパク質の溶液中トリプシン消化物であるα−カゼインのMALDI−TOF−MSスペクトルを示す。上のパネルは、リンペプチド前駆イオンを同定するために使用された準安定イオンを可視化する、MALDI−TOF MSスペクトルの拡大図である。
【図6】図6は、純粋な合成リンペプチドDLDVPIPGRFDRRVpSVAAE(配列番号5)についてのMALDI−TOFスペクトルを示す。
【図7】図7は、検出されたペプチドの信頼度を高めるために使用され得る、本教示の種々の実施形態のフローチャートを示す。
【図8】図8は、リン酸化セリン(改変ペプチド)、ならびにリン酸化セリンの脱リン酸セリン(脱改変ペプチド)およびセリン(非改変ペプチド)への解離を模式的に示す。
【図9】図9は、リンタンパク質の代表的な消化物であるα−カゼインのマススペクトルである。
【図10】図10は、図9のマススペクトルにおける種々のピークのMS/MSスペクトルを示す。
【図11】図11は、図9のマススペクトルにおける種々のピークのMS/MSスペクトルを示す。
【技術分野】
【0001】
(関連出願の相互参照)
本出願は、1994年4月14日に出願された米国仮特許出願第60/561,938号の利益を主張する。上記の仮特許出願の全内容は、参考として本明細書に援用される。
【背景技術】
【0002】
(緒言)
質量分析(MS)(MALDI−TOF MSを含む)は、生物学的研究の多くの分野で広範に使用される分析プラットホームである。生体分子サンプル(例えば、ペプチド、タンパク質、核酸、炭水化物)は、多くの場合、質量分析器による分析の間に解離を受けやすい不安定な化学結合によってその生体分子に結合された分子を含む。このような部分は、多くの場合、その生体分子の特性および研究中の生物学的システムとのその生体分子の関連性を理解する上で重要で意味のあるものである。例えば、リン酸結合(−PO4)を含むタンパク質および/またはペプチドは、「リンタンパク質、リンペプチド、またはホスホリル化ペプチドもしくはホスホリル化タンパク質」と称される。これらのペプチドおよびタンパク質は、MS分析の間にそのリン酸基の解離を受けやすい生体分子の主要な例である。タンパク質におけるリン酸基の付加または除去は、生物学的システムによって、細胞過程の調節のための化学的シグナルまたは誘発因子として広範に使用される。そしてそのようなものとして、リンタンパク質の同定は、プロテオミクス研究の多くの分野における重大な関心の一例である。同様に、ペプチドの他の翻訳後改変(例えば、グリコシル化)は、重要な生物学的影響を有し、そのような改変を含むペプチドはまた、そのグリコシル化部分の解離を受け得る。この点について、タンパク質の酵素的消化または化学的消化によって調製されたペプチドフラグメントにおけるこのような基の改変(例えば、リン酸化およびグリコシル化)の存在を迅速に同定する方法、およびタンデム質量分析(MS/MS)技術によるさらなる分析のためにこれらのペプチドを選択する方法が非常に望ましい。
【発明の開示】
【課題を解決するための手段】
【0003】
(要旨)
本教示は、質量分析(例えば、軸マトリックス支援レーザーイオン化(MALDI)飛行時間(TOF)質量分析)によって分析した場合に、ペプチドの混合物から改変ペプチドを同定するための方法に関する。
【0004】
本教示の種々の局面にしたがって、質量分析器(例えば、MALDI−TOF質量分析器)によって分析される場合に、不安定な生体分子(例えば、リン酸結合または糖結合を有するペプチド)の準安定挙動を使用するための方法が提供され、この方法は、不安定な生体分子(例えば、リンペプチドおよび糖ペプチド)を検出および同定する手段として行われ得る。種々の実施形態において、上記方法は、MALDI−TOF質量分析器のフィールドフリー領域においてポストソース分解を受けやすい、リンペプチド(および/または糖ペプチドおよび/または他の改変ペプチド)に由来する準安定イオンを同定する工程を包含する。
【0005】
種々の局面において、不安定な生体分子(例えば、リンペプチドおよび糖ペプチド)を検出および同定する方法は、その不安定な生体分子のMS/MSスペクトルを生成することによって提供される。種々の実施形態において、その方法は、タンデム質量分析を使用して改変ペプチドの配列のすべてもしくは一部を決定し、その改変ペプチドの配列からの情報を使用してデータベースを検索することに基づいて改変部位を決定する工程、その改変ペプチドに対応する脱改変ペプチドのMS/MSスペクトルを生成する工程、およびその脱改変ペプチドの配列のすべてもしくは一部を決定し、その脱改変ペプチドの配列からの情報を使用してデータベースを検索することに基づいて改変部位を決定する工程を包含する。脱改変ペプチドについて決定された配列および改変部位に対して、改変ペプチドについて決定された配列および改変部位が比較されて、改変ペプチドについて決定された配列および改変部位が、脱改変ペプチドについて決定された配列および改変部位と実質的に一致する場合に、改変ペプチドがペプチド混合物中に存在すると同定され得る。
【0006】
本教示の種々の局面の種々の実施形態において、改変ペプチド(例えば、翻訳後改変ペプチド)の存在を同定する方法は、MS機器ソフトウェアによって自動化され得、MS作動で収集されたMALDI−TOFマススペクトルにおける準安定イオンを検索および検出するコンピュータアルゴリズムによって容易にされ得る。一旦同定されると、実験的に導き出された質量単位値が検出された準安定イオンに加えられて、潜在的な改変ペプチド(例えば、翻訳後改変ペプチド)が同定され得る。種々の実施形態において、推定改変ペプチドの確認は、タンデム質量分析技術によって行われ得る。したがって、種々の局面において、本教示は、本教示の1以上の方法の機能性が、コンピュータ読み取り可能媒体(例えば、フロッピー(登録商標)ディスク、ハードディスク、光学ディスク、磁気テープ、PROM、EPROM、CD−ROM、またはDVD−ROMが挙げられるが、これらに限定されない)におけるコンピュータ読み取り可能な命令として具現化された製造物品を提供する。
【0007】
本教示のこれらの特徴および他の特徴は、本明細書に示されている。
【0008】
当業者は、以下に記載される図面が、図示目的のみであることを理解する。これらの図面は、いかなる様式でも本教示の範囲を限定することを意図されない。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
(種々の実施形態の説明)
本教示は、生物学的システムにおいて改変された種々のクラス生体分子(例えば、ペプチド、タンパク質)の存在を同定する方法を提供する。例えば、生体分子を改変する種々の構成成分または部分は、その生体分子の状態、およびその生体分子が関係する生物学的システムの機能的安定性に対する重大な関連性を有し得る。ペプチド同定についての種々の実施形態において、このような部分の多くが、MSによって(例えば、MALDI−TOF質量分析計で)分析される場合に、ポストソース分解を受けやすい不安定な化学結合によってペプチドおよびタンパク質のアミノ酸残基に連結されている。本教示の方法は、軸MALDI−TOF MS(例えば、VoyagerTMワークステーション(Applied Biosystems,Framingham,MA))または軸MALDI−TOF−TOF MS計器システム(例えば、4700 Proteomics Analyzer(Applied Biosystems,Framingham,MA))とともに使用され得る。
【0010】
MALDI−TOF MS分析に関する種々の実施形態において、目的の生物学的サンプル(例えば、ペプチド、タンパク質、核酸、炭水化物など)は、固相マトリックスへの分析サンプルの導入によって調製され得る。MALDI質量分析計機器は、MALDIソース領域と呼ばれる真空領域中でサンプルをイオン化するために特別に調整されたレーザーを使用し得る。遊離した分析物イオン(ここではガス相にある)は、電位の適用によって加速されて、フィールドフリー領域に入り得る。このフィールドフリー領域で分析物イオンはそれらの質量電荷比の関数として分離され、それゆえ、このパラメータによって検出および分類され得る。不安定な化学結合を有するいくつかのイオンに共通する現象は、「ポストソース分解」として一般に公知であるプロセスにおいて、質量分析計のフィールドフリー領域でより小さいイオンに解離することである。本明細書中で使用される場合、フィールドフリー領域で解離されるイオンは、準安定イオンと称される。フィールドフリー領域におけるこれらの準安定イオンは、それらが形成される前駆イオンと同じ速度を有するが、それらのより小さい質量に起因してより低い運動エネルギーを有する。代表的なMS機器収集パラメータは、最大感度およびその機器のイオン源領域で形成されるイオンの分解のために特別に調整される。結果として、これらイオンは、イオン源領域で生成されるイオンと同じ程度には集束されない。このような準安定イオンの集束の欠如は、例えば、TOF分析器を用いて検出した場合、インタクトなイオン(またはイオン源領域で解離するイオン)の分解と比較して、より小さい質量分解を生じる。準安定イオンフラグメトに関するより小さく測定される解離の別の理由は、準安定イオン形成の間に放出される化学エネルギーのいくらかがそのフラグメトイオンの運動エネルギーに変換されることである。このように増大された運動エネルギーは、典型的に、飛行時間検出における平均エネルギーに変化しないが、そのフラグメトイオンのエネルギーの広がりを増大し得る。また、これらのフラグメントはイオン源領域の外側で形成されるので、例えば、米国特許第5,627,369号に記載されるように遅延引き出し技術(これは速度集束特性を与え得る)の適用は、このようなフラグメントイオンに影響を与えない。このような準安定イオンは、通常は、MALDI−TOFマススペクトルで検出され、そのMALDI−TOFマススペクトルは、それらの分析機器のリフレクターモードの作動で収集される。
【0011】
種々の実施形態において、本教示の方法は、リンペプチドの存在を同定し得る。種々の実施形態において、これらの方法は、リンペプチド結合の化学的不安定性を利用し、このリンペプチド結合の化学的不安定性は、リンペプチド結合の解離を生じ、リン酸およびその元々のリン酸基を有さないより低質量のペプチドを形成する。この解離は、例えば、MALDI−TOF質量分析計の、レーザー脱離/イオン化後のイオン源領域またはフィールドフリー領域のいずれかで起こり得る。本明細書中で使用される場合、脱リン酸化ペプチドイオンという用語は、MALDIイオン源領域で解離するイオンを指す。フィールドフリー領域で生成される準安定イオンは、イオン光学によってイオン源領域で生成されるイオンと同程度には集束されず、その結果、TOF分離およびイオン検出におけるこれらのイオンのより低い質量分解を生じる。種々の実施形態において、本発明者らは、準安定イオンが、その準安定イオンが生成された前駆イオンについてのm/z値よりもおよそ95質量単位(u)低いピークによって検出され得ることを観測している。タンパク質消化物のMALDI−TOFリフレクターMSスペクトル中のこの準安定イオン応答の同定は、推定リン酸化ペプチドの存在(すなわち、準安定イオンよりも約95u高く、準安定イオンよりも実質的に高い質量分解を有するピークとして)を同定するために使用され得る。インタクトなリン酸化ペプチドは、MALDI−TOF MSスペクトルに含まれる他のペプチドの平均分解と実質的に同じ分解を有し得る。しかし、準安定イオンは、代表的に、所定の質量範囲にわたる平均質量分解の準安定イオンの約50%またはそれよりも低い分解を有し得る。この観測された質量差(すなわち、約95u)は直感的ではない。なぜなら、そのリン酸基を失ったペプチドの質量は、理論的には、そのリン酸化された対応物よりも98u低いはずであるからであり、実際に、これが、MALDI−TOF質量分析計のイオン源領域で分解するリンペプチドについて観測される質量差(−98u)である。
【0012】
準安定イオンと推定リンペプチド(または他の改変ペプチド)との間の質量差の値は、実験的に導き出され得、機器の配置に依存し得る。例えば、LC MALDI研究(40個のリン酸化ペプチドが本教示の方法によって同定された)から4700 Proteomics Analyzerで収集されたリフレクターMSスペクトルからの分析は、質量差が平均95u±1uであることが見出された。Voyager DETM STR(Applied Biosystems)機器が使用された場合と対照的に、実験的に導き出された質量差は、名目上、94uであることが見出された(図6を参照のこと)。
【0013】
本発明者らは、その前駆リン酸ペプチドイオンと比較して準安定イオンについて期待されるm/z比の差が、イオンミラー(リフレクター)構成を備えるMALDI TOF機器の設計に関して説明され得ることを発見した。この説明のために、リフレクター MALDI−TOF機器は、3つの別々の領域(ソース領域、フィールドフリー領域、およびミラー領域)を有すると考えられ得る。Ds(ソース領域の長さ)、Df(フィールドフリー領域の長さ)およびDm(ミラー領域の長さ)を使用すると、各領域における飛行時間は、以下によって決定され得る:
【0014】
【数3】
ここで、tsは、ソース領域内の飛行時間を表し、tfは、フィールドフリー領域内の飛行時間を表し、tmは、ミラー領域内の飛行時間を表し、αは、定数を表し、mは、前駆ペプチドイオンの質量を表し、そしてVsは、イオン源電圧を表す。
【0015】
例えば、フィールドフリー領域において前駆ペプチドから質量の損失(Δm(リンペプチドについては98u))を伴って生成される準安定イオンを考える。準安定イオンは、それらの準安定イオンがミラー領域に到達するまで、それらの準安定イオンとともに実質的に同じ速度で飛行する。それゆえ、準安定イオンと前駆イオンとの間の飛行時間の差は、ミラー領域で生じる。
【0016】
ミラーまで、準安定イオンは、同じ初速度を有するが、その前駆イオンとは異なる質量を有する。準安定イオンがミラー領域を通って飛行するのにかかる時間は、以下:
【0017】
【数4】
によって、与えられ得、ここで、
【0018】
【数5】
は、準安定イオンがミラー領域を通って飛行するのにかかる時間を表す。
【0019】
時間tと質量mとの関係は、代表的には、前駆ペプチドイオンの関係によって決定される:
【0020】
【数6】
。
【0021】
準安定イオンの飛行時間は、
【0022】
【数7】
として表され得る。次いで、等式(6)に従って、準安定イオンについての観測質量mmは、
【0023】
【数8】
によって与えられ得る。
【0024】
再整理および代入することで、以下の関係:
【0025】
【数9】
が得られる。
【0026】
それゆえ、前駆ペプチドイオンとその対応物の準安定イオンとの間で観測される質量差は、
【0027】
【数10】
によって与えられ得る。
【0028】
J.Am.Soc.Mass Spectrom.1998,9,892−911(「Vestal」)(これは、本明細書中において参考として援用される)においてVestalら、によって記載されるように、単段(single−stage)のソースおよびミラーを備えるMALDI−TOF機器について、集束条件は、以下の条件:
【0029】
【数11】
によって与えられ得る。それゆえ、このような機器について、
【0030】
【数12】
である。
【0031】
Vestalによって教示されるように、高質量分解は、
【0032】
【数13】
が0.98〜1の範囲にある(これは、βが0.49〜0.5の範囲にあるのに対応する)場合に達成され得る。しかし、DfおよびDsに関してDmを書くと、β≡0.5に対する値は、非常に小さいソース領域に対応し得、それゆえ、物理的に非現実的な値であり得る。
【0033】
種々の実施形態において、合理的な寸法は、ソース領域5mm長、フィールフリー領域1000mm長、そして等式(10)に従って計算されたミラー長である。このイオン光学構成は、0.495のβを有する。
【0034】
リンペプチドについて、Δm=98uである。準安定イオンの質量(mm)とその前駆イオンの質量(m)との間の実験的に観測された質量は、等式(10)を用いて導き出され得る:例えば、1000〜2500uの質量範囲において、m−mm=95.3±0.7u。
【0035】
この導き出された値(以前は、実験的に導き出された質量差と称されていた)は、所定の質量範囲にわたる平均観測質量差を表し、実験的に観測される結果と実質的に一致する。本発明者らは、この導き出された値を、本明細書中で調整質量差(adjusted mass difference)と称する。
【0036】
異なる型の機器(例えば、ドリフト管長に対して異なるミラー長が使用され得る)について、βが異なり得、結果として観測される準安定イオン質量が異なる。例えば、βが0.49である場合、観測される質量の差分(デルタ)は、例えば、1000〜2500uの質量範囲において、m−mm=94.4±0.7uである。
【0037】
本教示にしたがって実行され得る代表的なワークフローを表す種々の実施形態において、ペプチドMALDIサンプルは、サンプルをMALDIマトリックス(例えば、溶液中のα−シアノ−4−ヒドロキシケイ皮酸)と混合し、次いで、その溶液をMALDIプレート(MALDI標的)にスポットすることによって調製され得る。その溶液が乾燥した後、MALDIプレートは、MALDI TOF質量分析計のイオン源領域にロードされ得る。MALDI TOF MS機器は、一定範囲の質量電荷値にわたってペプチドイオンに対応する複数のピークを有するペプチド混合物のマススペクトルを生成するために、MSオンリーモードで実行され得る。代表的なデータ収集は、MALDI TOF MS機器がこのモードで作動される場合のより高い分解およびより高い質量精度測定に起因して、サンプル中の成分の質量(または成分の質量電荷比)を同定するためにリフレクターモードの作動で行われ得る。当業者に公知の技術を使用して、質量電荷値の範囲内の各ピークの分解は、そのピークにおける質量をそのピークの幅(そのピーク強度の50%のところで測定した幅)で除算した値を決定することによって計算され得る。個々の分解から、所定の質量範囲にわたるそのペプチドに対する平均質量分解が決定され得る。同定されたピークの平均分解よりも実質的に分解能が低いマススペクトル中の1以上のピーク(例えば、図2、図5および図6を参照のこと)は、インタクトなペプチド前駆イオンの推定準安定イオンとして選択され得る。調整質量差(例えば、リン酸化ペプチドについてのこの例では95u)が、選択された推定準安定ピークの質量電荷値に加えられて、新たに計算された質量電荷値においてスペクトル中にピークが存在するかどうかが決定され得る。そのようなピークが存在する場合、そのピークはリンペプチド前駆イオンとして同定され得る。上記のワークフローは、スペクトルに存在する他の推定リンペプチドの存在を同定するために繰り返され得る。MS分析によって対処される問題にしたがって、MSスペクトルの収集から導き出されたデータが、ペプチド質量フィンガープリント法(PMF)のタンパク質データベース検索によるタンパク質同定のために使用され得るか、あるいはそのデータは、さらなる実験(例えば、タンデム質量分析(MS/MS)を使用してタンパク質を同定するかまたは本教示に従って同定したリンペプチドが実際にリンペプチドであることを確認するための実験)のための、前駆イオンの選択のために使用され得る。種々の実施形態において、MS/MS分析を行うための機器は、Applied Biosystems 4700 Proteomics Analyzerであるが、他のタンデムMS機器も使用され得る。
【0038】
種々の実施形態において、本明細書中に記載される本教示の方法の1つ以上の機能性は、汎用コンピュータ上のコンピュータ読み取り可能な命令として実行される。そのコンピュータは、質量分析システムから分離され得、取り外し可能であり得、または質量分析システムに組み込まれ得る。このコンピュータ読み取り可能な命令は、多数の高級言語(例えば、FORTRAN、PASCAL、C、C++、またはBASIC)のうちのいずれか1種で書かれ得る。コンピュータ読み取り可能な命令は、市販のソフトウェア(例えば、EXCELまたはVISUAL BASIC)で具現化されたスクリプト、マクロ、または機能で書かれ得る。コンピュータ読み取り可能な命令は、コンピュータ上のマイクロプロセッサレジデントを対象とするアセンブリ言語で実行され得る。例えば、コンピュータ読み取り可能な命令は、IBM PCまたはPCクローンで実行されるように構成された場合、Intel 80×86アセンブリ言語で実行され得る。
【0039】
種々の実施形態において、コンピュータ読み取り可能な命令は、製造物品に組み込まれ得、その製造物品としては、例えば、フロッピー(登録商標)ディスク、ハードディスク、光学ディスク、磁気テープ、PROM、EPROM、CD−ROMまたはDVD−ROMのようなコンピュータ読み取り可能なプログラム媒体が挙げられるが、これらに限定されない。本明細書中で使用される場合、用語「アルゴリズム」および「コンピュータアルゴリズム」とは、コンピュータ読み取り可能な命令を指す。
【0040】
種々の実施形態において、本教示の方法は、本教示の1以上の方法を実行して、MALDI−TOF質量分析計によって分析される場合に容易に切断される官能基で改変されたペプチドピークを検出し同定するコンピュータアルゴリズムを用いる、MALDI−TOF MS機器ソフトウェアによって行われ得る。例えば、種々の実施形態において、アルゴリズムは、タンパク質同定およびタンパク質の特徴付けを容易にするためのプロテオミクス実験において、複合混合物中の翻訳後リン酸改変されたペプチド(例えば、タンパク質の混合物が、例えば、酵素(例えば、トリプシン、キモトリプシン、リジンエンドペプチダーゼ、ARG−C、ASP−N、V8または当業者に公知の他の酵素)、化学試薬(例えば、臭化シアンなど)、あるいはこれらの組み合わせで消化された場合に生成されるペプチド)の存在を規定する準安定イオンを同定するために以下のストラテジーを用いる本教示の方法を実行する。(例えば、線形モード、リフレクターモードなどで生成される)マススペクトルにおけるピークの質量分解は、一部の質量範囲または全質量範囲にわたって、MALDI TOF機器ソフトウェアによって決定され得る。代表的なペプチド応答について測定された値よりも小さい分解のピークは、リンペプチドの潜在的な誘導体として同定され、メモリに記憶される。例えば、アルゴリズムは、機器のチューニング条件に依存して、ピークを3,000〜6,000の範囲にわたる分解を伴う推定準安定イオンとして同定するように設定され得る。その後、上記工程で記憶された低分解の検出イオンよりも95u大きいm/z値を有し、またMALDI−TOF MSによって分析されたペプチドについての質量分解と一致する分解(代表的には、10,000よりも大きい)も有するイオンが同定され、潜在的なリンペプチドを断定するものとして記憶される。このアプローチによって選択されるイオンシグナルは、分析された混合物中の推定リンペプチドを表す。この予測のさらなる確認は、タンデム質量分析(MS/MS)による推定リンペプチドのさらなる分析(例えば、MALDI−TOF−TOF−MS分析であるが、これらに限定されない)によって達成され得る。
【0041】
種々の実施形態において、本教示の方法は、以下に詳細に記載されるような広範なワークフローとともに使用され得る。例えば、本教示の種々の実施形態はまた、タンパク質ベースのワークフローまたはペプチドベースのワークフローのいずれかとともに使用され得る。
【0042】
種々の実施形態において、リンタンパク質を含むタンパク質混合物は、SDSポリアクリルアミドゲル電気泳動(SDS−PAGE)によって分離され得る。タンパク質混合物のゲル電気泳動分離に由来するバンドが切り取られ得、そのバンド中に含まれるタンパク質がインゲル(インサイチュ)酵素消化もしくは化学消化ストラテジーによって消化され得る。このような消化から生じるペプチド混合物は、そのペプチド混合物をマトリックス(例えば、α−シアノ−4−ヒドロキシケイ皮酸、2,5−ジヒドロキシ安息香酸、シナピン酸(sinnapinic acid)など)と混合し、乾燥させ、そしてMALDI−TOF−MSによって分析することによって分析される。次いで、本教示の1以上の方法が適用されて、推定リンペプチドが同定される。
【0043】
種々の実施形態において、リンタンパク質を含むタンパク質混合物は、SDSポリアクリルアミドゲル電気泳動(SDS−PAGE)によって分離され得る。タンパク質混合物のゲル電気泳動分離に由来するバンドが切り取られ得、そしてそのバンド中に含まれるタンパク質がインゲル(インサイチュ)酵素消化もしくは化学消化ストラテジーによって消化され得る。遊離したペプチド混合物は、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)法(例えば、一次元逆相、多次元(2以上の分離の直交次元がこのようなペプチドの複合混合物を分離するように連結され得る)およびこれらの組み合わせ)によってさらに分離され得る。最終的に、分離されたペプチド混合物は、MALDIマトリックスとともにMALDIプレート上に共沈着されるか、またはMALDIマトリックスと直接混合されてMALDIプレート上に沈着される。得られたサンプルは、MALDI−TOF−MSによって分析される。次いで、本教示の1以上の方法が適用されて、推定リンペプチドが同定される。
【0044】
種々の実施形態において、リンタンパク質を含むタンパク質混合物は、SDSポリアクリルアミドゲル電気泳動(SDS−PAGE)によって分離され得る。得られたゲルは、分子スキャナーアプローチを用いて精査され得る。このアプローチによって、タンパク質は、酵素(例えば、トリプシンなど)が含浸した膜を通して電子ブロットされる。タンパク質がその酵素膜を横断すると、タンパク質はペプチドに消化され、そのペプチドはその後、ペプチド捕捉膜に捕捉される。その後、ペプチド捕捉膜は、MALDIマトリックス(例えば、α−シアノ−4−ヒドロキシケイ皮酸、2,5−ジヒドロキシ安息香酸、シナピン酸など)とともに噴霧され、乾燥され、そしてMALDI−TOF−MSによって分析される。次いで、本教示の1以上の方法が適用されて、推定リンペプチドが同定される。
【0045】
種々の実施形態において、リンタンパク質を含むタンパク質混合物は、包括的なプロテオミクス実験の間に行われるように、酵素(例えば、トリプシン、キモトリプシン、リジンエンドペプチダーゼ、ARG−C、ASP−N、V8または当業者に公知の他の酵素)、あるいは化学試薬(例えば、臭化シアンなど)で消化され得る。遊離ペプチドは、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)法(例えば、一次元逆相、多次元(2以上の分離の直交次元がこのようなペプチドの複合混合物を分離するように連結され得る)およびこれらの組み合わせ)を用いて分離され得る。最終的に、分離されたペプチド混合物は、MALDIマトリックスとともにMALDIプレート上に共沈着されるか、またはLC MALDIの分野で実行されているように、MALDIマトリックスと直接混合されて、MALDIプレート上に沈着される。得られたサンプルは、MALDI−TOF−MSによって分析される。次いで、本教示の1以上の方法が適用されて、推定リンペプチドが同定される。
【0046】
種々の実施形態において、リンペプチド同定の信頼度は、ペプチドの3つの形態(すなわち、非改変型(non−modified)、リン酸化型(改変型(modified))、および脱リン酸化型(脱改変型(de−modified)))のすべてが同じアミノ酸配列を有するが、改変(例えば、リン酸化)程度に関しては異なるということを考慮することによって増大され得る。それゆえ、リンペプチド同定の信頼度は、これら3つのペプチド形態のうちの2つ以上に対応するMSピークについてのMS/MSスペクトルを取得して、そのように分析される各ペプチド形態の少なくとも一部分の配列を提供し、そしてこれらの配列を用いてデータベース検索を行い、可能性のあるリン酸化部位を考慮に入れることによって増大され得る。そのような検索を行うために使用され得る市販のデータベースは、MASCOT(登録商標)(Matrix Sciences Ltd.)である。
【0047】
タンデム質量分析(MS/MS)によるペプチドの配列決定は、代表的に、第一の質量分析計(多くの場合、質量分析の一次元目と称される)を用いてペプチドの分子イオン(多くの場合、「前駆イオン」または「親イオン」と称される)を選択し、そしてその前駆イオンをイオンフラグメンター(例えば、衝突セル(前駆イオンが不活性ガスと衝突する))に誘導することによって達成される。前駆イオンは、衝突セル中で一連のフラグメトイオン(多くの場合、「娘イオン」と称される)にフラグメント化される。この一連のフラグメトイオンの中に、順に数が減少するアミノ酸を有するイオンがある。代表的に、2つの顕著なイオンのセットが生成される。一方は、ペプチドのC末端からのアミノ酸欠失を有する配列ラダーである。別のものは、N末端からのアミノ酸欠失を有するラダーである。次いで、フラグメントイオンが、代表的に、第二の質量分析計(多くの場合、質量分析の二次元目と称される)に誘導されて、前駆イオンのフラグメント化パターン(すなわち、選択されたペプチド)が決定される。
【0048】
例えば、多くのデータベース検索アプローチは、第一に、検討中の前駆体の質量と一致する質量を有するデータベースペプチドを同定する。次の工程は、前駆体のMS/MSスペクトルをデータベースペプチドの理論的なMS/MSスペクトルと一致させることである。一般的に、最も一致するものが、勝者と宣言される。ペプチドに対する改変(例えば、リン酸化、グリコシル化、硫酸化など)は、そのような改変が一般的に起こるペプチドに対する改変部位の予想質量の付加によって、データベース検索に考慮に入れられ得る。リン酸化は、一般的に、セリン、スレオニンおよびチロシンで起こり、推定のマッチするもの(ヒット)を同定する前に、データベースペプチドの質量にリン酸化の予想質量(80u)を付加することによって考慮に入れられ得る。次いで、複数の潜在的にマッチするものが、各々のヒットについて、理論的なスペクトルを形成する前に、セリン部位、スレオニン部位、およびチロシン部位の各々をリン酸化することによって形成され得る。
【0049】
このプロセスは、脱リン酸ペプチド前駆体にマッチするものを探索する場合に繰り返され得る。データベースペプチドにリン酸化質量(80u)を加える代わりに、喪失した水分子の質量(18u)が、非改変ペプチドの質量から減算される。リン酸化に関連する探索と同様に、セリン部位、スレオニン部位およびチロシン部位の各々は、理論的なスペクトルを形成する前に脱リン酸化され得る。同様に、データベース検索は、非改変ペプチドに対応するピークについて、その前駆体で行われ得る。種々の実施形態において、3つすべての検索により同一のアミノ酸配列を得た場合、その検索結果の信頼度は、有意に増大し得る。
【0050】
図7は、本教示の種々の実施形態のフローチャートを示す。705において、MSスキャンが実行される。次いで、このスキャンは、リン酸化または他のペプチド改変(例えば、グリコシル化および硫酸化)に対応するピークの関係について探索され得る。リン酸化は、例えば、現在のピークよりも18u小さいピークおよび80u高いピークが存在する場合に存在し得る。このようにして、脱リン酸(脱改変)ペプチド、その対応する非改変ペプチドおよびその対応するリン酸化(改変)ペプチドに対応するピークの群が形成され得る(710)。このプロセスは、脱リン酸ペプチド前駆体についてのMS/MSスペクトルを取得し、水分子の喪失を考慮に入れてデータベースを検索することによって進められ得る(720)。同様の取得および検索が、リン酸化ペプチドに対応する前駆体について行われ得る(730)。そして、取得および検索が、非改変ペプチドについて行われ得る(740)。最後に、2つ以上の検索結果が比較されて、共通のペプチドが同定される(750)。付加的な制御論理が、リストの複数の群を加工するために追加され得る(702、715、760)。
【0051】
当業者は、3つの取得/検索工程のうちのいずれか2つが使用され得ること、および取得/検索工程の順序は、一般的に、重要ではないことを想到する。その上、データベース検索アルゴリズムの正確な型は、一般的に、そのアルゴリズムの型が種々の改変を考慮に入れることを許容する限り、重要ではない。いくつかの実施形態は、各工程における検索結果のランク付けの相違を明らかにすることによって、結果の信頼度を計算する。例えば、3つの検索のうちの2つが高いスコアを有する共通ペプチドを生じ、第三の検索におけるそのペプチドが低いスコアを有する場合、結果の最終的な信頼度は、3つすべての検索によって高いスコアを有する共通ペプチドが得られた場合よりも低くなり得る。
【0052】
図8は、約167uの正式な残基質量を有するリン酸化セリンペプチド802(改変ペプチド)の解離を模式的に示す。光(hν)が照射された場合、この光は、フラグメント化をもたらし、以下を生じ得る:(i)約69uの正式な残基質量およびH3PO4部分(約98uの予想質量)を有する脱リン酸セリン804(改変ペプチドに対応する脱改変ペプチド)、および/または(ii)約87uの正式な残基質量およびHPO3部分(約80uの予想質量)セリン806(改変ペプチドに対応する非改変ペプチド)。
【0053】
本教示の局面は、以下の実施例に照らしてさらに理解され得る。以下の実施例は、いかなる様式においても本教示の範囲を限定するものとして解釈されるべきではない。
【実施例】
【0054】
(実施例1:MALDI−TOF質量分析計内での準安定イオンの形成)
図1に示される概略図は、MALDI−TOF質量分析計における準安定イオンの形成の説明を示す。ここで、分析計のフィールドフリー領域で形成されたより小さい破線の円で表されたイオンが、準安定イオンである。そうであるとして、このイオンは、(実線の円で表されような)イオン源領域で形成されたイオンと同程度には集束されない。さらに、フィールドフリー領域で形成されたイオンは、化学結合に由来する増大された運動エネルギーの広がりを有するが、運動エネルギーの増加平均は、ゼロである。両方の特性は、このイオン集団のより小さい見かけ上の分解を生じるように組み合わされ得、この見かけ上の分解は、このような準安定イオンを同定することを補助し、最終的には、本教示の種々の実施形態において、準安定イオンが生成されたペプチドを同定することを補助し得る。
【0055】
(実施例2:リフレクターモード作動のMALDI−TOF−MSによって分析した場合の、リンペプチドの混合物中の準安定イオンの検出)
Applied Biosystems 4700 Proteomics Analyzerにおいて、LQRQPSpSPGPTPR(配列番号1)、RYPRPVpSVPPSPSLSR(配列番号2)、GTSFMMpTPYVVTRYYR(配列番号3)およびCTNFMMpTPpYVVTRYYR(配列番号4)を含むサンプルの、リフレクターモードの作動で収集されたMALDI−TOFマススペクトルが、図2に示される。そのスペクトルは、1スペクトルあたり合計1000レーザーショットについての20個のサブスペクトルの平均である。質量範囲(900−2500)にわたって見られるように、ほとんどのペプチドに関して観測される分解は、10,000よりも大きい。しかし、特定のイオンの質量分解は、非常に低い(例えば、1405.3のm/z値におけるイオン(201)は、3458の分解を伴って測定され、1779.7のm/z値におけるイオン(202)は、4213の分解を伴って測定された)。これらの不完全に分解されたピークは、準安定イオンを表す。これらの準安定イオン関連ピークの両方は、それら自体よりも約95u大きい対応する改変ペプチドのピークを有し、そういうものとして、これらの準安定イオンのピークを、リン酸化ペプチドから潜在的に起こるものとして同定した。本実施例において、m/z=1500.6で検出されたピーク(203)を、m/z=1405.3で検出された準安定イオンに対応するリンペプチドであると予測し、m/z=1874.9で検出されたピークは、m/z=1779.7で検出された準安定イオンに対応するリンペプチドであると予測した。
【0056】
(実施例3:m/z=1500.6のペプチドがリンペプチドであることの確認)
m/z=1500.6で検出されたイオンについてのMALDI−TOF/TOFスペクトルを、高エネルギー(1Kev)衝突誘起解離を用いて、Applied Biosystems 4700 Proteomics Analyzerで1スペクトルあたり合計2500個のレーザーショットについての25個のサブスペクトルの平均で収集し、そのスペクトルを図3に示す。このスペクトルは、前駆イオンからの典型的な98uの喪失およびこのスペクトルで同定されるyシリーズイオンおよびbシリーズイオンの多くを示す。このm/z=1500.6のタンデムMS(MS/MS)スペクトルによって、このペプチドがリンペプチドであることの確認がもたらされた。
【0057】
(実施例4:m/z=1874.8のペプチドがリンペプチドであることの確認)
m/z=1874.8で検出されたイオンについてのMALDI−TOF/TOFスペクトルを、高エネルギー衝突誘起解離を用いて、Applied Biosystems 4700 Proteomics Analyzerで収集し、このスペクトルは、1スペクトルあたり合計2500個のレーザーショットについての25個のサブスペクトルの平均であった。このスペクトルを図4に示す。このスペクトルは、前駆イオンからの典型的な98uの喪失およびこのスペクトルで同定されるyシリーズイオンおよびbシリーズイオンの多くを示す。このm/z=1874.8のタンデムMS(MS/MS)スペクトルによって、このペプチドがリンペプチドであることの確認がもたらされた。
【0058】
(実施例5:リフレクターモード作動のMALDI−TOF−MSによって分析した場合の、α−カゼインのトリプシン消化物中の準安定イオンの検出)
リン酸化タンパク質であるα−カゼインを、酵素(ウシトリプシン)によってフラグメントに切断した。これらのフラグメントは、トリプシンペプチドであり、このことは、すべてのペプチドがそのC末端にリジンまたはアルギニンのいずれかを有することを意味する。これらのフラグメントは、非リン酸化ペプチドまたはリン酸化ペプチドのいずれかである。このサンプルを、MALDIマトリックス(α−シアノ−4−ヒドロキシケイ皮酸)と混合し、乾式液滴(dry−droplet)法を用いてMALDIプレートにスポットした。このタンパク質の溶液中トリプシン消化物のMALDI−TOFリフレクターMSスペクトルを、Applied Biosystems 4700 Proteomics Analyzerで1スペクトルあたり合計1000個のレーザーショットについての20個のサブスペクトルの平均で収集し、そのスペクトルを図5に示す。準安定イオンシグナル(ここでは、リン酸化ペプチドの準安定イオンシグナル)を用いて改変ペプチドを同定する方法(ここで、95uの調整質量差を準安定イオンの質量電荷値に加えた)を、α−カゼインのトリプシン消化物の分析に適用した。本実施例において、実行した方法によって、3つの潜在的なリンペプチド(VPQLEIVPNpSAEER(配列番号6)、YKVPQLEIVPNpSAEER(配列番号7)、KYKVPQLEIVPNpSAEER(配列番号8))が、首尾よく決定されたのに対して、ペプチド質量フィンガープリント(PMF)実験では、MASCOTデータベース検索において切断部位が1つ失われ、2つのリンペプチド(VPQLEIVPNpSAEER、YKVPQLEIVPNpSAEER)のみが同定された。例は、この方法により、1952.0におけるピーク(501)がリンペプチドとして同定され、その配列が、YKVPQLEIVPNpSAEERであることである。このペプチド配列は、MASCOTデータベース検索を用いるペプチド質量フィンガープリントによって確認した。
【0059】
(実施例6:リフレクターモード作動のVoyager STR MALDI−TOF−MSによって分析した場合の、準安定イオンの検出)
調整質量差を用いる本教示の方法を、Applied Biosystemsの別の型のMALDI−TOF質量分析計(Voyager STR)における、リン酸化ペプチド前駆イオンDLDVPIPGRFDRRVpSVAAE(配列番号5)の分析に適用した。改変ペプチドを同定するために準安定イオンシグナルを用いるその方法において、94uの調整質量差を準安定イオンの質量電荷値に加えた。このリンペプチドのスペクトルを、1スペクトルあたり200個のレーザーショットの平均で、Applied Biosystems Voyager DETM STRにおいて収集し、このスペクトルを図6に示す。本実施例において、アルゴリズムによって実行された方法によって、2191.7544(601)においてリンペプチドの存在が決定され、2097.8196(602)におけるイオンが、準安定イオンである。
【0060】
(実施例7:リンペプチド中の準安定イオンの検出の継続)
リン酸化タンパク質であるα−カゼインを、酵素(ウシトリプシン)によってフラグメントに切断し、Applied Biosystems 4700 Proteomics Analyzerを用いる質量分析の分析に供して、図9に示されるスペクトルを得た。改変ペプチドを同定するために準安定イオンシグナル(ここでは、リン酸化ペプチドの準安定イオンシグナル)を用いる方法(ここで、95uの調整質量差を準安定イオンの質量電荷値に加えた)によって、1952.0u(901)において推定リンペプチドを、1854.0u(902)においてその脱リン酸ペプチドを、そして1872.0u(903)において非改変ペプチドを同定した。これらの知見を確認するために、MS/MSスペクトル(図10)を、フラグメント化された前駆イオンとして推定リンペプチド(1952.0u)を用いて取得した。得られたMS/MSスペクトルを、セリン、スレオニンおよびチロシンの可変リン酸化を用いるMASCOTデータベース検索に供した。MASCOT検索からのペプチドイオンスコアは50であり、その同定の信頼度は99.7%であった。別のMASCOTデータベース検索を、脱リン酸ペプチド(1854.0u)のMS/MSスペクトルについて行ったが、このときはセリン、スレオニンおよびチロシンの可変改変として脱H2Oを使用した。その結果を図11に示す。この例において、ペプチドイオンスコアは85であり、その同定の信頼度は100%であった。両方のデータベース検索で見出されたペプチド配列は同じであり、それゆえ、本実施例は、1952.0uにおいて見出された前駆リンペプチドがリン酸化ペプチドであることを確認したことを示す。
【0061】
本出願に引用されるすべての文献および類似物(特許、特許出願、記事、書籍、学術論文、およびウェブページが挙げられるが、これらに限定されない)は、そのような文献および類似物の形式にかかわらず、明示的に、その全体が参考として援用される。援用された1つ以上の文献および類似物が本出願とことなるかまたは矛盾する場合(定義された用語、用語の用法、記載された技術などが挙げられるが、これらに限定されない)、本出願が支配する。
【0062】
本明細書中で使用される節の見出しは、構成上の目的のためのみであり、いかなる様式においても記載される主題を限定すると解釈されるべきではない。
【0063】
本教示は、種々の実施形態に関して記載されているが、本教示がそのような実施形態または実施例に限定されることは意図されない。一方で、本教示は、当業者が想到するように、種々の変更、改変、および等価物を包含する。
【0064】
特許請求の範囲は、その効果が述べられていない限り、記載される順序または要素に限定されるように読まれるべきではない。形式および詳細の種々の変更が添付の特許請求の範囲から逸脱することなくなされ得ることが理解されるべきである。それゆえ、特許請求の範囲の範囲および精神にあるすべての実施形態およびそれらに対する等価物が権利主張される。
【図面の簡単な説明】
【0065】
【図1】図1は、MALDI−TOF質量分析計における準安定イオン形成を強調する概略を示す。
【図2】図2は、純粋な合成リンペプチドであるLQRQPSpSPGPTPR(配列番号1)、RYPRPVpSVPPSPSLSR(配列番号2)、GTSFMMpTPYVVTRYYR(配列番号3)およびCTNFMMpTPpYVVTRYYR(配列番号4)の混合物についての、リフレクター作動モードでのMALDI−TOF−MSスペクトルを示す(注:アミノ酸残基の左側の「p」は、その「p」のすぐ右側の残基としてのリン酸化部位を識別する)。
【図3】図3は、m/z 1500.6(図2に示されるMALDI−TOF−MSスペクトル中のm/z 1405.3における準安定イオンの検出によって同定される推定リンペプチド)についてのMALDI−TOF−MSスペクトルを示す。
【図4】図4は、m/z 1874.8(図2に示されるMALDI−TOF−MSスペクトル中のm/z 1779.7における準安定イオンの検出によって同定される推定リンペプチド)についてのMALDI−TOF−MSスペクトルを示す。
【図5】図5は、MALDI−TOF分析器のリフレクター作動モードで収集された、タンパク質の溶液中トリプシン消化物であるα−カゼインのMALDI−TOF−MSスペクトルを示す。上のパネルは、リンペプチド前駆イオンを同定するために使用された準安定イオンを可視化する、MALDI−TOF MSスペクトルの拡大図である。
【図6】図6は、純粋な合成リンペプチドDLDVPIPGRFDRRVpSVAAE(配列番号5)についてのMALDI−TOFスペクトルを示す。
【図7】図7は、検出されたペプチドの信頼度を高めるために使用され得る、本教示の種々の実施形態のフローチャートを示す。
【図8】図8は、リン酸化セリン(改変ペプチド)、ならびにリン酸化セリンの脱リン酸セリン(脱改変ペプチド)およびセリン(非改変ペプチド)への解離を模式的に示す。
【図9】図9は、リンタンパク質の代表的な消化物であるα−カゼインのマススペクトルである。
【図10】図10は、図9のマススペクトルにおける種々のピークのMS/MSスペクトルを示す。
【図11】図11は、図9のマススペクトルにおける種々のピークのMS/MSスペクトルを示す。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
質量分析器によってペプチドの混合物における改変ペプチドの存在を同定する方法であって、該方法は、
ペプチドの混合物のマススペクトルを生成する工程であって、該マススペクトルは、質量電荷値の範囲にわたって複数のピークを含む、工程;
該質量電荷値の範囲内のピークの少なくとも一部分について、分解値を決定する工程;
少なくとも該決定された分解値に基づいてペプチド分解値を設定する工程;
該ペプチド分解値よりも分解能が低い1以上のピークを、改変ペプチドの推定準安定イオンとして選択する工程;
改変ペプチドと、該改変ペプチドのイオンからある部分が解離することに由来する準安定イオンとの間の調整質量差を決定する工程;
該推定準安定イオンに対応する選択されたピークの質量電荷値に、およそ該調整質量差を加えて、該改変ペプチドの前駆イオンについての経験的な質量電荷値を導き出す工程;および
該経験的な質量電荷値において該マススペクトル中にピークが存在する場合に、改変ペプチドがペプチドの混合物中に存在することを同定する工程
を包含する、方法。
【請求項2】
前記改変ペプチドがホスホリル化ペプチドである、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記改変ペプチドが、1つ以上のグリコシル化ペプチドおよびスルホン化ペプチドである、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記部分がH3PO4である、請求項2に記載の方法。
【請求項5】
請求項1に記載の方法を実行するために具現化されたコンピュータ読み取り可能な命令を備えるコンピュータ読み取り可能媒体を備える、製造物品。
【請求項6】
質量分析によってペプチドの混合物における改変ペプチドの存在を同定する方法であって、該方法は、
ペプチドの混合物中の改変ペプチドのMS/MSマススペクトルを生成する工程;
少なくとも該改変ペプチドのMS/MSマススペクトルからの情報を用いるデータベースの探索に基づいて、少なくとも該改変ペプチドの配列の一部および改変部位を決定する工程;
該ペプチドの混合物中の該改変ペプチドに対応する脱改変ペプチドのMS/MSマススペクトルを生成する工程;
少なくとも該脱改変ペプチドのMS/MSマススペクトルからの情報を用いるデータベースの探索に基づいて、少なくとも該脱改変ペプチドの配列の一部および改変部位を決定する工程;
該改変ペプチドについて決定された該少なくとも配列の一部および改変部位と、該脱改変ペプチドについて決定された該少なくとも配列の一部および改変部位とを比較する工程;ならびに
該改変ペプチドについて決定された配列および改変部位が、該脱該改変ペプチドについて決定された配列および改変部位と実質的に一致する場合に、改変ペプチドが該ペプチドの混合物中に存在することを同定する工程
を包含する、方法。
【請求項7】
請求項6に記載の方法であって、改変ペプチドのMS/MSマススペクトルを生成する工程の前に、
ペプチドの混合物のマススペクトルを生成する工程であって、該マススペクトルは、質量電荷値の範囲にわたって複数のピークを含む、工程;および
1以上の改変ペプチドに関連するマススペクトル中の質量電荷値を同定する工程
をさらに包含する、方法。
【請求項8】
1以上の改変ペプチドに関連するマススペクトル中の質量電荷値を同定する工程が、
前記質量電荷値の範囲内のピークの少なくとも一部について分解値を決定する工程;
少なくとも該決定された分解値に基づいてペプチド分解値を設定する工程;
該ペプチド分解値よりも分解能が低い1以上のピークを改変ペプチドの推定準安定イオンとして選択する工程;
改変ペプチドと、該改変ペプチドのイオンからある部分が解離することに由来する準安定イオンとの間の調整質量差を決定する工程;
該推定準安定イオンに対応する該選択されたピークの質量電荷値に該調整質量差を加えて、該改変ペプチドのイオンについての経験的な質量電荷値を導き出す工程;および
該経験的な質量電荷値において該マススペクトル中にピークが存在する場合に、1以上の改変ペプチドに関連するマススペクトル中の質量電荷値を、該経験的な質量電荷値として同定する工程
を包含する、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
前記改変ペプチドがホスホリル化ペプチドである、請求項6に記載の方法。
【請求項10】
前記改変ペプチドが、1つ以上のグリコシル化ペプチドおよびスルホン化ペプチドである、請求項6に記載の方法。
【請求項11】
前記部分がH3PO4である、請求項8に記載の方法。
【請求項12】
請求項6に記載の方法であって、
前記ペプチド混合物中の前記改変ペプチドに対応する非改変ペプチドのMS/MSマススペクトルを生成する工程;
少なくとも該非改変ペプチドのMS/MSマススペクトルからの情報を用いるデータベースの検索に基づいて、少なくとも該非改変ペプチドの配列の一部を決定する工程;
前記改変ペプチド、前記脱改変ペプチド、および該非改変ペプチドについて決定された配列の少なくとも一部を互いに比較する工程;
をさらに包含し、そして
改変ペプチドがペプチドの混合物中に存在することを同定する工程が、
該改変ペプチド、該脱改変ペプチド、および該非改変ペプチドについて決定された配列が互いに実質的に一致し、かつ該改変ペプチドについて決定された改変部位が該脱改変ペプチドについて決定された改変部位と実質的に一致する場合、改変ペプチドが該ペプチドの混合物中に存在すると同定する工程
を包含する、方法。
【請求項13】
請求項6に記載の方法を実行するために具現化されたコンピュータ読み取り可能な命令を備えるコンピュータ読み取り可能媒体を備える、製造物品。
【請求項14】
請求項12に記載の方法を実行するために具現化されたコンピュータ読み取り可能な命令を備えるコンピュータ読み取り可能媒体を備える、製造物品。
【請求項15】
質量分析器によってペプチドの混合物における改変ペプチドの存在を同定する工程であって、該方法は、
ペプチド混合物のマススペクトルを生成する工程であって、該マススペクトルは、質量電荷値の範囲にわたって、複数のピークを含む、工程;
該質量電荷値の範囲内の該ピークの少なくとも一部について分解値を決定する工程;
少なくとも該決定された分解値に基づいて、ペプチド分解値を設定する工程;
該ペプチド分解値よりも分解能が低い1以上のピークを、改変ペプチドの推定準安定イオンとして選択する工程;
改変ペプチドと、該改変ペプチドのイオンからある部分が解離することに由来する準安定イオンとの間の調整質量差を決定する工程であって、該調整質量差は、
【数1】
によって与えられ、ここで、mは、前駆ペプチドイオンの質量を表し、mmは、準安定イオンについての観測質量を表し、βは、該機器の配置に依存する定数である、工程;
該推定準安定イオンに対応する選択されたピークの質量電荷値に該調整質量差を加えて、該改変ペプチドの前駆イオンについて経験的な質量電荷値を導き出す工程;および
該経験的な質量電荷値においてマススペクトル中にピークが存在する場合に、改変ペプチドが該ペプチドの混合物中に存在すると同定する工程
を包含する、方法。
【請求項16】
前記調整質量差が、
【数2】
によって得られ、ここで、mは、前記前駆ペプチドイオンの質量を表し、mmは、前記準安定イオンについての観測質量を表し、βは、前記機器の配置に依存する定数である、請求項1に記載の方法。
【請求項17】
前記改変ペプチドがホスホリル化ペプチドである、請求項15に記載の方法。
【請求項18】
前記改変ペプチドが、1つ以上のグリコシル化ペプチドおよびスルホン化ペプチドである、請求項15に記載の方法。
【請求項19】
前記部分がH3PO4である、請求項17に記載の方法。
【請求項20】
質量分析によってペプチドの混合物における改変ペプチドの存在を同定する方法であって、該方法は、
ペプチドの混合物中の改変ペプチドのMS/MSマススペクトルを生成する工程;
少なくとも該改変ペプチドのMS/MSマススペクトルからの情報を用いるデータベースの検索に基づいて、少なくとも該改変ペプチドの配列の一部および改変部位を決定する工程;
該ペプチド混合物中の該改変ペプチドに対応する非改変ペプチドのMS/MSマススペクトルを生成する工程;
少なくとも該非改変ペプチドのMS/MSマススペクトルからの情報を用いるデータベースの検索に基づいて、少なくとも該非改変ペプチドの配列の一部を決定する工程;
該改変ペプチドについて決定された配列の少なくとも一部および改変部位を、該非改変ペプチドについて決定された配列の少なくとも一部と比較する工程;ならびに
該改変ペプチドについて決定された配列および改変部位が、該非改変ペプチドについて決定された配列と実質的に一致する場合に、改変ペプチドが該ペプチドの混合物中に存在すると同定する工程、
を包含する、方法。
【請求項21】
請求項20に記載の方法を実行するために具現化されたコンピュータ読み取り可能な命令を備えるコンピュータ読み取り可能媒体を備える、製造物品。
【請求項1】
質量分析器によってペプチドの混合物における改変ペプチドの存在を同定する方法であって、該方法は、
ペプチドの混合物のマススペクトルを生成する工程であって、該マススペクトルは、質量電荷値の範囲にわたって複数のピークを含む、工程;
該質量電荷値の範囲内のピークの少なくとも一部分について、分解値を決定する工程;
少なくとも該決定された分解値に基づいてペプチド分解値を設定する工程;
該ペプチド分解値よりも分解能が低い1以上のピークを、改変ペプチドの推定準安定イオンとして選択する工程;
改変ペプチドと、該改変ペプチドのイオンからある部分が解離することに由来する準安定イオンとの間の調整質量差を決定する工程;
該推定準安定イオンに対応する選択されたピークの質量電荷値に、およそ該調整質量差を加えて、該改変ペプチドの前駆イオンについての経験的な質量電荷値を導き出す工程;および
該経験的な質量電荷値において該マススペクトル中にピークが存在する場合に、改変ペプチドがペプチドの混合物中に存在することを同定する工程
を包含する、方法。
【請求項2】
前記改変ペプチドがホスホリル化ペプチドである、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記改変ペプチドが、1つ以上のグリコシル化ペプチドおよびスルホン化ペプチドである、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記部分がH3PO4である、請求項2に記載の方法。
【請求項5】
請求項1に記載の方法を実行するために具現化されたコンピュータ読み取り可能な命令を備えるコンピュータ読み取り可能媒体を備える、製造物品。
【請求項6】
質量分析によってペプチドの混合物における改変ペプチドの存在を同定する方法であって、該方法は、
ペプチドの混合物中の改変ペプチドのMS/MSマススペクトルを生成する工程;
少なくとも該改変ペプチドのMS/MSマススペクトルからの情報を用いるデータベースの探索に基づいて、少なくとも該改変ペプチドの配列の一部および改変部位を決定する工程;
該ペプチドの混合物中の該改変ペプチドに対応する脱改変ペプチドのMS/MSマススペクトルを生成する工程;
少なくとも該脱改変ペプチドのMS/MSマススペクトルからの情報を用いるデータベースの探索に基づいて、少なくとも該脱改変ペプチドの配列の一部および改変部位を決定する工程;
該改変ペプチドについて決定された該少なくとも配列の一部および改変部位と、該脱改変ペプチドについて決定された該少なくとも配列の一部および改変部位とを比較する工程;ならびに
該改変ペプチドについて決定された配列および改変部位が、該脱該改変ペプチドについて決定された配列および改変部位と実質的に一致する場合に、改変ペプチドが該ペプチドの混合物中に存在することを同定する工程
を包含する、方法。
【請求項7】
請求項6に記載の方法であって、改変ペプチドのMS/MSマススペクトルを生成する工程の前に、
ペプチドの混合物のマススペクトルを生成する工程であって、該マススペクトルは、質量電荷値の範囲にわたって複数のピークを含む、工程;および
1以上の改変ペプチドに関連するマススペクトル中の質量電荷値を同定する工程
をさらに包含する、方法。
【請求項8】
1以上の改変ペプチドに関連するマススペクトル中の質量電荷値を同定する工程が、
前記質量電荷値の範囲内のピークの少なくとも一部について分解値を決定する工程;
少なくとも該決定された分解値に基づいてペプチド分解値を設定する工程;
該ペプチド分解値よりも分解能が低い1以上のピークを改変ペプチドの推定準安定イオンとして選択する工程;
改変ペプチドと、該改変ペプチドのイオンからある部分が解離することに由来する準安定イオンとの間の調整質量差を決定する工程;
該推定準安定イオンに対応する該選択されたピークの質量電荷値に該調整質量差を加えて、該改変ペプチドのイオンについての経験的な質量電荷値を導き出す工程;および
該経験的な質量電荷値において該マススペクトル中にピークが存在する場合に、1以上の改変ペプチドに関連するマススペクトル中の質量電荷値を、該経験的な質量電荷値として同定する工程
を包含する、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
前記改変ペプチドがホスホリル化ペプチドである、請求項6に記載の方法。
【請求項10】
前記改変ペプチドが、1つ以上のグリコシル化ペプチドおよびスルホン化ペプチドである、請求項6に記載の方法。
【請求項11】
前記部分がH3PO4である、請求項8に記載の方法。
【請求項12】
請求項6に記載の方法であって、
前記ペプチド混合物中の前記改変ペプチドに対応する非改変ペプチドのMS/MSマススペクトルを生成する工程;
少なくとも該非改変ペプチドのMS/MSマススペクトルからの情報を用いるデータベースの検索に基づいて、少なくとも該非改変ペプチドの配列の一部を決定する工程;
前記改変ペプチド、前記脱改変ペプチド、および該非改変ペプチドについて決定された配列の少なくとも一部を互いに比較する工程;
をさらに包含し、そして
改変ペプチドがペプチドの混合物中に存在することを同定する工程が、
該改変ペプチド、該脱改変ペプチド、および該非改変ペプチドについて決定された配列が互いに実質的に一致し、かつ該改変ペプチドについて決定された改変部位が該脱改変ペプチドについて決定された改変部位と実質的に一致する場合、改変ペプチドが該ペプチドの混合物中に存在すると同定する工程
を包含する、方法。
【請求項13】
請求項6に記載の方法を実行するために具現化されたコンピュータ読み取り可能な命令を備えるコンピュータ読み取り可能媒体を備える、製造物品。
【請求項14】
請求項12に記載の方法を実行するために具現化されたコンピュータ読み取り可能な命令を備えるコンピュータ読み取り可能媒体を備える、製造物品。
【請求項15】
質量分析器によってペプチドの混合物における改変ペプチドの存在を同定する工程であって、該方法は、
ペプチド混合物のマススペクトルを生成する工程であって、該マススペクトルは、質量電荷値の範囲にわたって、複数のピークを含む、工程;
該質量電荷値の範囲内の該ピークの少なくとも一部について分解値を決定する工程;
少なくとも該決定された分解値に基づいて、ペプチド分解値を設定する工程;
該ペプチド分解値よりも分解能が低い1以上のピークを、改変ペプチドの推定準安定イオンとして選択する工程;
改変ペプチドと、該改変ペプチドのイオンからある部分が解離することに由来する準安定イオンとの間の調整質量差を決定する工程であって、該調整質量差は、
【数1】
によって与えられ、ここで、mは、前駆ペプチドイオンの質量を表し、mmは、準安定イオンについての観測質量を表し、βは、該機器の配置に依存する定数である、工程;
該推定準安定イオンに対応する選択されたピークの質量電荷値に該調整質量差を加えて、該改変ペプチドの前駆イオンについて経験的な質量電荷値を導き出す工程;および
該経験的な質量電荷値においてマススペクトル中にピークが存在する場合に、改変ペプチドが該ペプチドの混合物中に存在すると同定する工程
を包含する、方法。
【請求項16】
前記調整質量差が、
【数2】
によって得られ、ここで、mは、前記前駆ペプチドイオンの質量を表し、mmは、前記準安定イオンについての観測質量を表し、βは、前記機器の配置に依存する定数である、請求項1に記載の方法。
【請求項17】
前記改変ペプチドがホスホリル化ペプチドである、請求項15に記載の方法。
【請求項18】
前記改変ペプチドが、1つ以上のグリコシル化ペプチドおよびスルホン化ペプチドである、請求項15に記載の方法。
【請求項19】
前記部分がH3PO4である、請求項17に記載の方法。
【請求項20】
質量分析によってペプチドの混合物における改変ペプチドの存在を同定する方法であって、該方法は、
ペプチドの混合物中の改変ペプチドのMS/MSマススペクトルを生成する工程;
少なくとも該改変ペプチドのMS/MSマススペクトルからの情報を用いるデータベースの検索に基づいて、少なくとも該改変ペプチドの配列の一部および改変部位を決定する工程;
該ペプチド混合物中の該改変ペプチドに対応する非改変ペプチドのMS/MSマススペクトルを生成する工程;
少なくとも該非改変ペプチドのMS/MSマススペクトルからの情報を用いるデータベースの検索に基づいて、少なくとも該非改変ペプチドの配列の一部を決定する工程;
該改変ペプチドについて決定された配列の少なくとも一部および改変部位を、該非改変ペプチドについて決定された配列の少なくとも一部と比較する工程;ならびに
該改変ペプチドについて決定された配列および改変部位が、該非改変ペプチドについて決定された配列と実質的に一致する場合に、改変ペプチドが該ペプチドの混合物中に存在すると同定する工程、
を包含する、方法。
【請求項21】
請求項20に記載の方法を実行するために具現化されたコンピュータ読み取り可能な命令を備えるコンピュータ読み取り可能媒体を備える、製造物品。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公表番号】特表2007−532911(P2007−532911A)
【公表日】平成19年11月15日(2007.11.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−508467(P2007−508467)
【出願日】平成17年4月13日(2005.4.13)
【国際出願番号】PCT/US2005/012347
【国際公開番号】WO2005/106923
【国際公開日】平成17年11月10日(2005.11.10)
【出願人】(505310541)アプレラ コーポレイション (12)
【出願人】(506183133)エムディーエス インコーポレーテッド (7)
【Fターム(参考)】
【公表日】平成19年11月15日(2007.11.15)
【国際特許分類】
【出願日】平成17年4月13日(2005.4.13)
【国際出願番号】PCT/US2005/012347
【国際公開番号】WO2005/106923
【国際公開日】平成17年11月10日(2005.11.10)
【出願人】(505310541)アプレラ コーポレイション (12)
【出願人】(506183133)エムディーエス インコーポレーテッド (7)
【Fターム(参考)】
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