説明

質量分析装置

【課題】ピークプロファイル波形を確認しながら行う手動の質量較正の作業の効率改善を図る。
【解決手段】質量較正用設定画面100に配置されている較正テーブル101中の横方向に隣接する複数のセル(セル群)105に対応した質量電荷比近傍の、複数のピークプロファイル波形102を同じ画面内に横に並べて表示する。作業者がそのときに指定しているセルとは別のセル中の較正値を設定するべく該セルを新たに指定すると、そのセルが現時点でのセル群に含まれていればピークプロファイル波形102の表示を変更しない。また、新たに指定されたセルが現時点でのセル群に含まれていなくても該セル群に隣接又は隣々接した位置であれば、セル群を最小移動させることで新たなセル群を設定し、その移動前と一部のピークプロファイル波形を共通として新たなデータ読み込みや処理の時間を省くことで表示更新の時間を短縮化する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は質量分析装置に関し、さらに詳しくは、質量分析装置において質量較正を行うための処理・制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
質量分析装置では、質量電荷比の理論値が既知である成分を含む標準試料を測定し、そのときの質量電荷比の実測値と理論値とを比較することにより該質量電荷比における質量偏差を求め、複数の質量電荷比における質量偏差から較正曲線を作成する。こうして作成された較正曲線に基づいて、目的試料を測定した際に得られる質量電荷比の実測値を較正する(例えば特許文献1など参照)。これにより、高い精度で目的試料の質量電荷比を求めることができる。
【0003】
近年の質量分析装置では、較正曲線を求めるための質量較正作業は基本的に自動的に行われるようになっているが、自動調整では、マススペクトル全体でみたときに平均的に良好な較正が行われるものの、例えば特定の質量電荷比付近など局所的には最良の状態が達成されているとは限らない。そのため、例えば特定の成分についての質量分析を高精度で行いたいような用途においては、多くの場合、ユーザー自身或いはサービス担当者による手動の質量較正が実施されている。また、標準試料の純度が比較的低いなどの要因のために質量分析装置の生データに基づくピークプロファイル形状があまり良好でない場合にも自動調整では較正精度が下がるため、ユーザー自身或いはサービス担当者による手動の質量較正が必要となる。
【0004】
従来の質量分析装置において、質量較正を手動で行う際に表示部に表示される質量較正設定用画面の一例を図2に示す。なお、質量分析装置は質量分析器として四重極マスフィルタを用いた四重極型質量分析装置であり、所定の質量電荷比範囲を走査する際の走査速度が複数段階(この例では5段階)に設定できるようになっている。
【0005】
図2(c)は、複数の質量電荷比m/zにおける質量偏差を示す較正テーブルであり、質量電荷比が行方向に、走査速度が列方向に並べられている。較正テーブル中の各セル内に表示された数値が質量偏差つまり較正値である。一方、図2(b)は較正テーブル中の任意の走査速度及び質量電荷比におけるピークプロファイルを表示するグラフ表示領域部である。このピークプロファイルは、図2(a)に示したような、標準試料に対する質量分析により得られる生データに基づくマススペクトルの一部である。また、グラフには、ピークプロファイルデータから計算される重心の位置を示すセントロイドピークが重ね描きされている。質量較正用画面には、図2(b)に示したグラフ表示領域部と図2(c)に示した較正テーブルとが配置され、その較正テーブル中で作業者(ユーザー自身或いはサービス担当者など)により指定されたセルに対応する走査速度及び質量電荷比のピークプロファイルが選択的にグラフ表示領域部に表示されるようになっている。図2の例では、較正テーブル中で走査速度:125、質量電荷比m/z:564のセルが指定されており、これに対応したピークプロファイルがグラフ表示領域部に表示されている。
【0006】
作業者が手動で質量較正を行う際には、作業者は較正テーブル中の任意のセルを選択してそのセルに対応した質量電荷比付近のピークプロファイルを表示させ、目的のセントロイドピークがグラフの横軸(質量電荷比軸)の中央に来るように、指定したセル内の質量偏差の値を調整する。これにより、その質量電荷比に対する較正値が決まる。作業者は自らの経験に基づいて、同様に、異なる質量電荷比及び走査速度に対するピークにおける較正値を1つずつ調整することで、較正テーブル中の全てのセルに対する較正値を決定することができる。
【0007】
ただし、上記のように較正テーブル中の全てのセルに対する較正値を手動で設定するのは非常に面倒で手間も掛かる。そこで、較正作業を効率化するために、従来の質量分析装置には、較正テーブル中の幾つかのセルに対する較正値を手動で設定したあとに、それ以外のセルに対する較正値を補間などのデータ処理により算出するような機能が備えられている。そうした機能を利用する場合、補間処理を実行すると複数の質量電荷比におけるピークプロファイルに変化(横軸方向の波形移動)が生じる。そのため、従来のように指定した1つのセルに対する質量電荷比付近のピークプロファイルだけではなく、複数の質量電荷比付近のピークプロファイルを同時に観察できれば作業がより円滑に行える。
【0008】
較正テーブルと該テーブル中の複数のセルに対応したピークプロファイルとを同一画面上に表示すること自体は、技術的に容易である。しかしながら、複数の、特に多数のピークプロファイルを同時に表示する場合、ピークプロファイルと較正テーブル中のセルとの対応関係が作業者に分かりにくくなる、という問題がある。特に、作業者が較正テーブル中で選択するセルを変更したときにそれに応じてピークプロファイルの表示は更新されることになるが、そうしたときに更新された複数のピークプロファイルと較正テーブル中のセルとの対応関係を作業者が即座に把握することは難しく、作業効率の低下や作業ミスの原因となり易い。また、複数のピークプロファイルを同時に表示する場合、表示を更新するために必要なデータ量も多くなるが、データの読み込みやデータ処理に時間を要して表示の更新に時間が掛かることをできるだけ避ける必要がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2005−292093号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は上記課題を解決するために成されたものであり、その目的は、質量分析装置においてユーザーなどの作業者が手動で質量較正を行う際に、作業者にとって理解が容易で作業ミスを誘発することが少なく、作業効率も良好であるようなユーザインターフェイスを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するために成された本発明は、所定の試料を実測して得られる所定の質量電荷比近傍のピークプロファイル波形を表示画面上に表示し、該表示画面を作業者が確認しながら装置の調整や較正のための調整値を手動で設定可能とした質量分析装置において、
a)行方向又は列方向の一方向に配列されたセルがそれぞれ異なる質量電荷比に対する調整値を設定するための欄であるテーブルと、該テーブルにあって前記の一方向に隣接する複数のセルにそれぞれ対応する質量電荷比近傍の複数のピークプロファイル波形と、を同一画面上に配置した調整用画面を表示手段の画面上に表示する調整用画面表示処理手段と、
b)前記テーブル中の任意の1つのセルを作業者が指定するための入力手段と、
c)前記入力手段を用いてセルが指定されたとき、該セルを含んで前記の一方向に隣接する所定数のセルをセル群と定め、該セル群を構成する所定数のセルにそれぞれ対応する質量電荷比近傍の所定数のピークプロファイル波形を前記調整用画面に表示させるように前記調整用画面表示処理手段を制御する表示対象セル設定手段であって、前記テーブル中の或るセルが指定されてそれに対応したセル群に基づく所定数のピークプロファイル波形を含む調整用画面が表示されている状態から、前記入力手段を用いて別のセルが新たに指定されたときに、その新たに指定されたセルが表示中のセル群に含まれる場合にはピークプロファイル波形の表示を変更せずに維持する一方、新たに指定されたセルが表示中のセル群に含まれない場合には、少なくとも該セルを含んだ新たなセル群を定めてピークプロファイル波形の表示を変更するべく前記調整用画面表示処理手段を制御する表示対象セル設定手段と、
を備えることを特徴としている。
【0012】
本発明に係る質量分析装置は、例えば前記調整値が質量電荷比の実測値と理論値との偏差を較正するための較正値であり、前記入力手段を用いてテーブル中の或るセルが指定されたときに、該セルに表示されている較正値が手動で設定(変更)可能となる構成とすることができる。
【0013】
本発明に係る質量分析装置では、作業者により指定されたテーブル中の1つのセルに対応した質量電荷比近傍のピークプロファイル波形だけでなく、該セルを含む所定数の、別の質量電荷比近傍のピークプロファイル波形が同じ調整用画面上に表示される。したがって、作業者が指定したセル中の調整値を変更したり1乃至複数のセル中の調整値に基づく他の調整値の自動演算処理などを実施したりして複数のピークプロファイル波形に変化が生じた場合でも、その複数のピークプロファイル波形の変化を同時に観察し把握することができる。これにより、一つずつピークプロファイル波形の変化を確認する手間が省け、手動調整・較正の作業を効率良く行うことができる。
【0014】
また、テーブル中の或るセルが指定されてそれに対応したセル群に基づく所定数のピークプロファイル波形を含む調整用画面が表示されている状態において、作業者が別のセルを新たに指定したとき、そのセルが表示中のセル群に含まれる場合、つまりそのセルに対応する質量電荷比近傍のピークプロファイル波形が既に表示されている場合には、ピークプロファイル波形の表示は何ら更新されない。即ち、この場合、セルの指定を変更しても複数の(所定数の)ピークプロファイル波形の表示は変更されないので、作業者はテーブル中のセルとピークプロファイル波形との対応関係を容易に把握することができる。
【0015】
さらに本発明に係る質量分析装置において好ましくは、前記表示対象セル設定手段は、新たに指定されたセルが表示中のセル群に含まれない場合であって、そのセルが表示中のセル群の端部から、前記所定数から1を減じた範囲内に位置している場合には、そのセルが位置する方向にセル群を移動させたときの移動量が最小になるように新たなセル群を定めるようにするとよい。
【0016】
例えば行方向(左右方向)に配列されたセルがそれぞれ異なる質量電荷比に対する調整値を設定するセルであるようなテーブルであって、所定数が4である場合、新たに指定されたセルが表示中のセル群の右隣に位置している場合には、そのセルが位置する方向、つまり右方向にセル群を1だけ移動させればそのセルがセル群に含まれる。したがって、この場合には最小移動量は1である。この場合、移動前のセル群と移動後のセル群とは3つのセルが共通しており、その共通のセルに対応した質量電荷比近傍のピークプロファイル波形は移動前にも表示されている。こうしたピークプロファイル波形を構成するプロファイルデータは新たに読み込む必要はなく、またセントロイドピークの計算処理なども不要である。このため、表示変更に際してプロファイルデータを読み込んだり処理したりする作業が少なくて済むため、表示変更を短時間で行うことができる。
【0017】
また本発明に係る質量分析装置では、前記テーブルにあって前記の一方向に隣接する複数のセルにそれぞれ対応する質量電荷比近傍の複数のピークプロファイル波形が、その複数のセルの配列と同じ方向に同じ順序で調整用画面上に配置されている構成とするとよい。例えば上述したように行方向に配列されたセルがそれぞれ異なる質量電荷比に対する調整値を設定するセルであるようなテーブルの場合には、複数のピークプロファイル波形も左右方向に一列に配列され、セル群の中のセルの順番と該セルに対応した質量電荷比近傍のピークプロファイル波形の順番とが対応付けられている。
【0018】
したがって、例えば上述のように作業者が表示中のセル群に含まれないセルを新たに指定したときにセル群が移動すると、それに連動して複数のピークプロファイル波形の位置が移動する。このため、作業者が表示中のセル群に含まれないセルを新たに指定する場合でも、テーブル中のセルとピークプロファイル波形との対応関係を容易に把握することができる。
【発明の効果】
【0019】
本発明に係る質量分析装置によれば、ピークプロファイル波形の形状、強度、位置などの変化を伴う較正や調整を作業者が手動で行う際に、質量電荷比が相違する複数のピークプロファイル波形が同時に調整用画面上に表示されるので、複数のピークプロファイル波形の変化を同時に確認することができ、作業効率が向上する。また、調整値を設定するためのテーブル中の各セルと表示されている複数のピークプロファイル波形との対応関係が明確になるので、複数のピークプロファイル波形が表示されていても質量電荷比の取り違えなどの作業ミスを軽減でき、作業効率が向上する。さらには、テーブル中の別のセルを指定したことに応じてピークプロファイル波形の表示が更新される際にも、新たなデータ読み込みや処理が最小限で済むので、表示更新の待ち時間が少なくて済むという利点もある。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明の一実施例による質量分析装置の概略構成図。
【図2】従来の質量分析装置における質量較正用画面の一例を示す図。
【図3】本実施例の質量分析装置における質量較正用画面の一例を示す図。
【図4】本実施例の質量分析装置における質量較正用画面上での表示更新処理の手順を示すフローチャート。
【図5】新たなセルを指定する際の表示更新の一例を示す図。
【図6】新たなセルを指定する際の表示更新の一例を示す図。
【図7】新たなセルを指定する際の表示更新の一例を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の一実施例である質量分析装置について添付図面を参照して説明する。図1は本実施例による質量分析装置の概略構成図である。
【0022】
図1において、MS分析部1は図示しないもののイオン源、四重極マスフィルタ、イオン検出器などを含み、導入された試料中の成分をイオン化し、生成された各種イオンを質量電荷比に応じて分離して検出する。標準試料供給部2は後述する質量較正やパラメータ調整などを目的とした既知成分を含む標準試料を供給するものであり、標準試料と分析目的である目的試料とは試料選択部3により択一的に選択されてMS分析部1に導入される。標準試料としては、PEG(ポリエチレングリコール)、TFA(トリフルオロ酢酸)、PFTBA(パーフルオロトリブチルアミン)など、様々な化合物を用いることができる。MS分析部1で得られる検出信号は、通常、パーソナルコンピュータにより具現化される処理・制御部4に入力される。処理・制御部4は、機能ブロックとして、プロファイルデータ格納部41、質量較正処理部42、較正用画面表示処理部43などを含み、さらに処理・制御部4には分析者により操作される入力部5と表示部6とが接続されている。
【0023】
本実施例の質量分析装置では、目的試料を質量分析するに先立つ適宜の時点で、質量電荷比の実測値と理論値(理想値)との偏差を補正するための較正情報が作成される。そのために、まず標準試料供給部2から供給される質量較正用標準試料が試料選択部3により選択されてMS分析部1に導入され、この標準試料に対して予め設定された複数の走査速度においてそれぞれ、所定の質量範囲のスキャン測定が実施される。MS分析部1から出力される生データに基づいて、質量走査の際の連続的なイオンの質量電荷比m/zと信号強度との関係を表したのがプロファイルデータであり、走査速度毎に異なるプロファイルデータがプロファイルデータ格納部41に保存される。
【0024】
図3は、本実施例の質量分析装置において較正用画面表示処理部43により表示部6の画面上に表示される質量較正用設定画面の一例を示す図である。質量較正用設定画面100は上段及び下段に区分され、下段には2次元表形式の較正テーブル101が配置されている。この較正テーブル101は、横方向に質量電荷比m/zの要素を並べ、縦方向に走査速度の要素を並べたものであり、較正テーブル101中の各セル内に表示されている数値は或る1つの走査速度及び或る1つの質量電荷比における質量偏差つまり較正値を示している。例えば、較正テーブル101中の1行目の各セルは、左端から右方に向かって、走査速度:125の下でのm/z65、m/z168、m/z344、m/z652、m/z1005、m/z1313、…における質量偏差(較正値)を示している。
【0025】
一方、質量較正用設定画面100の上段には、複数のピークプロファイル波形102が横に並べて配置されている。ピークプロファイル波形102にはこの波形から計算されたセントロイドピークが重ねて表示されている。本実施例の質量分析装置では、図示しないメニュー画面により、同時に表示するピークプロファイル波形の数(本発明における所定数)を2、4又は8のうちから選択することが可能となっている。図3は、同時に表示するピークプロファイル波形数を4に設定した場合の表示例である。
【0026】
較正テーブル101の右方に配置された「ダウンロード」ボタン104は、較正テーブル101の任意のセルが選択指示された状態でクリックされたときに、その選択を確定させるとともに選択されたセルに応じたピークプロファイル波形の表示更新を行うための操作子である。また、較正テーブル101の上方に配置された「補間」ボタン103は、較正テーブル101中の特定の1乃至複数のセル内の数値(較正値)を基準として他のセルの較正値を補間処理により自動的に算出するための操作子である。この補間の機能を利用することにより、較正テーブル101中の全てのセル内の較正値を手作業で設定しなくても、決まったセル内の較正値を手動で設定することにより他のセル内の較正値を自動的に設定することが可能である。
【0027】
本実施例の質量分析装置では、較正テーブル101の中の同一行、つまり同一の走査速度の下で隣接する4つのセルに対応した質量電荷比近傍のピークプロファイル波形が質量較正用設定画面100に同時に表示されるようになっている。図3では上段に表示されている4つのピークプロファイル波形102にそれぞれ対応する4つのセルを明示するために、この4つのセルを較正テーブル101中に点線の囲みで示している(実際の表示画面ではこの点線は表示されない)。この4つのセルが「セル群」である。較正テーブル101中のセル群の設定及びそのセル群に対応したプロファイルデータの読み出しなどは、質量較正処理部42で実行され、その指示に基づいて較正用画面表示処理部43は質量較正用設定画面100を作成する。
【0028】
較正テーブル中の任意の1つのセルは入力部5による操作(例えばマウスによるクリック操作)で指定される。この例では、基本的に、較正テーブル101中において指定された1つのセル(図3中で太線の枠で囲んだ「-0.74」が表示されているセル)に対し、該セルとその右隣の3つのセルとを合わせた4つのセルをセル群として設定するようにしている。ただし、指定されたセルに対し該セルを含んでどのようにセル群を設定するのかは本例に限らず、任意に決めることができる。
【0029】
また、指定されたセル内の較正値は、作業者が入力部5から任意に変更することが可能であり、その較正値を変更すると、それに応じて対応するピークプロファイル波形及びセントロイドピークが質量軸方向(横方向)に移動する。したがって、例えばセントロイドピークが質量軸の中央(理論値の位置)に来るように較正値を設定することで、該質量電荷比における適切な較正値を定めることができる。
【0030】
次に、図3に示したように1つのセル(走査速度:125、m/z65であるセル)が指定され、それを含むセル群105が設定されて、該セル群中の各セルに対応したピークプロファイル波形102が表示された状態から、作業者が入力部5を用いて別のセルを指定したときの表示更新処理について詳述する。図4はその表示更新処理の手順を示すフローチャート、図5〜図7は表示更新の実例を示す概略図である。なお、図5〜図7では、ピークプロファイル波形を単なる矩形の枠のみで簡略化して示している。
【0031】
作業者は入力部5を用いて較正テーブル101中で参照したい新たなセルを指定し、「ダウンロード」ボタン104をクリック操作することで指定の確定及び表示更新を指示する(ステップS1)。この操作を受けて質量較正処理部42は、まず、新たに指定されたセルがその時点で設定されているセル群に含まれているか否かを判定する(ステップS2)。ステップS2でYである場合には、新たに指定されたセルに対応した質量電荷比近傍のピークプロファイル波形はその時点で既に表示されている。この場合には、ピークプロファイル波形の表示を変更せずに、そのまま処理を終了する。
【0032】
ステップS2でYと判定される場合の一例を示したのが図5である。いま、図5(a)に示すように、較正テーブル101中のセルAが指定され、セルA、B、C、Dがセル群として設定され、このセル群中の各セルに対応した4つの質量電荷比(m/z1、m/z2、m/z3、m/z4)近傍のピークプロファイル波形が表示されているものとする。この状態から作業者が次にセルCを指定したものとする(図5(b)参照)。この場合、セルCはそのセル指定直前のセル群に含まれており、セルCに対応したm/z3近傍のピークプロファイル波形は既に表示されている。そこで、図5(c)に示すように、ピークプロファイル波形の表示自体は何ら変更せずに、指定されたセルの位置のみA→Cに変更する。
【0033】
上記ステップS2でNと判定された場合に質量較正処理部42は、新たに指定されたセルの位置が、その時点で設定されているセル群の一方(新たに指定されたセルが存在する方向)の端部から4個以内であるか否か、つまりピークプロファイル波形表示の重なり範囲内であるか否かを判定する(ステップS3)。ステップS3でYである場合には、その時点で設定されているセル群を右方向又は左方向に移動させたときに、新たに指定されたセルがセル群に含まれるような最小の移動を行う。さらに、そのようにセル群を移動させたときに新たに表示すべきセル、つまり移動前にセル群に含まれておらず移動後にセル群に含まれるようになったセルを抽出する(ステップS4)。そして、その抽出された1乃至複数のセルに対応した質量電荷比近傍のプロファイルデータをプロファイルデータ格納部41から読み込む(ステップS5)。次いで、読み込んだプロファイルデータからセントロイドピークを計算し(ステップS7)、新たに読み込んだプロファイルデータに基づいて、ピークプロファイル波形の表示を更新する(ステップS8)。
【0034】
このとき、較正テーブル101中においてセル群に含まれる4つのセルの並びと、表示されるピークプロファイル波形102の並びとが一致するように、セル群の移動方向に応じてピークプロファイル波形102の表示も右方向又は左方向へシフトさせる。ステップS4→S5→S7→S8と処理が進んだ場合には、表示更新前に表示されていた4つのピークプロファイル波形と表示更新後に表示される4つのピークプロファイル波形とで少なくとも1つ(最大3つ)は共通である。この共通のピークプロファイル波形については上述したように単に表示位置がシフトされ、そのシフトによって空いた表示位置に共通でないピークプロファイル波形が新たに表示されることになる。
【0035】
ステップS3でYと判定される場合の一例を示したのが図6である。いま、図6(a)に示すように、較正テーブル101中のセルAが指定され、セルA、B、C、Dがセル群として設定され、このセル群中の各セルに対応した4つの質量電荷比(m/z1、m/z2、m/z3、m/z4)近傍のピークプロファイル波形が表示されているものとする。この状態から作業者が次にセルFを指定したものとする(図6(b)参照)。この場合、セルFはセルA、B、C、Dからなるセル群に含まれないからステップS2においてNと判定される。一方、セルFはその時点で設定されているセル群の右方向に位置し、そのセル群の右端から右方向に3個以内に位置する。したがって、ステップS3ではYと判定される。セルFが含まれるようにセル群を右方向に最小移動すると、図6(c)に示すように、セルFを右端に含む、セルC、D、E、Fからなるセル群が設定される。その場合に、セルC、Dは移動前のセルと共通であるから、新たに表示すべきセルはE、Fの2つのみである。そこで、この2つのセルE、Fに対応したm/z5及びm/z6近傍のプロファイルデータのみを読み込む。そして、表示更新前のピークプロファイル波形と共通であるセルC、Dに対するm/z3、m/z4近傍のピークプロファイル波形は表示上で単に左方向にシフトさせ、新たなセルE、Fに対するm/z5、m/z6近傍のピークプロファイル波形を先のシフトで空いた位置に配置する。これにより、指定されたセルFに対応した質量電荷比近傍のピークプロファイル波形が右端に位置し、4つのピークプロファイル波形とセル群との質量電荷比の並びが一致する。
【0036】
ステップS3でNである場合には、仮にステップS4の処理を実行しても全てのピークプロファイル波形を新規に表示する必要があり、その直前に表示されていたピークプロファイル波形を再び表示に使用することができない。そこで、この場合には、質量較正処理部42は、新たに指定された1つのセルに対し該セルとその右隣の3つのセルとを合わせた4つのセルからなるセル群を新たに設定し、このセル群に含まれる4つのセルに対応した質量電荷比近傍のプロファイルデータをプロファイルデータ格納部41から読み込む(ステップS6)。そして、読み込んだプロファイルデータからセントロイドピークを計算し(ステップS7)、新たに読み込んだプロファイルデータに基づいて表示する全てのピークプロファイル波形を更新する(ステップS8)。
【0037】
ステップS3でNと判定される場合の一例を示したのが図7である。いま、図7(a)に示すように、較正テーブル101中のセルAが指定され、セルA、B、C、Dがセル群として設定され、このセル群中の各セルに対応した4つの質量電荷比(m/z1、m/z2、m/z3、m/z4)近傍のピークプロファイル波形が表示されているものとする。この状態から作業者が次にセルHを指定したものとする。この場合、セルHはセルA、B、C、Dからなるセル群に含まれないからステップS2でNと判定され、またセルHはセル群の右端のセルDから右方向に3個を超えて位置している。したがって、ステップS3でもNと判定される。そこで、指定されたセルHとその右隣の3つのセルI、J、Kとを合わせた4つのセルからなるセル群を新たに設定し、このセル群に含まれる4つのセルに対応したm/8、m/z9、m/z10、m/z11近傍のプロファイルデータを読み込んで、全てのピークプロファイル波形を入れ替える。これにより、図7(c)に示すように、指定されたセルHに対応した質量電荷比近傍のピークプロファイル波形が左端に位置し、4つのピークプロファイル波形とセル群との質量電荷比の並びが一致する。
【0038】
なお、図5〜図7はいずれも、指定されているセルに対して右方向に新たなセルを指定した場合の例であるが、指定されているセルに対して左方向に新たなセルを指定した場合の処理動作も同様である。即ち、その時点で設定されているセル群の中のセルが新たに指定された場合には、ピークプロファイル波形表示は全く変更されない。また、その時点で表示されているピークプロファイル波形の中で少なくとも1つが共通であるように新たなセルが指定された場合には、右方向又は左方向に最短の移動量だけセル群がシフトされ、それに伴って新たに表示すべきプロファイルデータのみが読み込まれてピークプロファイル波形の表示が更新されることになる。
【0039】
上述したように上記実施例の質量分析装置では、質量較正用設定画面100上に同時に表示するピークプロファイル波形102の数を4ではなく2又は8とすることも可能であるが、その場合にも上記と同様の表示更新処理を実行すればよい。ただし、ステップS3における表示重なり範囲はセル群内のセルの個数に応じて変わることになる、つまり、新たに指定されたセルの位置が、その時点でピークプロファイル波形が表示されている2つ又は8つのセルのうちの一方の(新たに指定されたセルが存在する方向)端部から1又は7以内であるか否かを判定することになる。
【0040】
また、上記説明は、質量較正を行う際の質量較正用設定画面上での表示の更新に係るものであるが、本発明は、同じように質量電荷比近傍のピークプロファイル波形を観察しながらテーブル中の何らかのパラメータ値を調整する作業全般に適用することができる。例えば、四重極マスフィルタやイオン源などへ印加する電圧を調整する作業などにも利用することができる。
【0041】
また、上記実施例は本発明の一例にすぎず、上記記載以外の点において本発明の趣旨の範囲で適宜変形、修正、追加を行っても本願特許請求の範囲に包含されることは明らかである。
【符号の説明】
【0042】
1…MS分析部
2…標準試料供給部
3…試料選択部
4…処理・制御部
41…プロファイルデータ格納部
42…質量較正処理部
43…較正用画面表示処理部
5…入力部
6…表示部
100…質量較正用設定画面
101…較正テーブル
102…ピークプロファイル波形
103…「補間」ボタン
104…「ダウンロード」ボタン
105…セル群

【特許請求の範囲】
【請求項1】
所定の試料を実測して得られる所定の質量電荷比近傍のピークプロファイル波形を表示画面上に表示し、該表示画面を作業者が確認しながら装置の調整や較正のための調整値を手動で設定可能とした質量分析装置において、
a)行方向又は列方向の一方向に配列されたセルがそれぞれ異なる質量電荷比に対する調整値を設定するための欄であるテーブルと、該テーブルにあって前記の一方向に隣接する複数のセルにそれぞれ対応する質量電荷比近傍の複数のピークプロファイル波形と、を同一画面上に配置した調整用画面を表示手段の画面上に表示する調整用画面表示処理手段と、
b)前記テーブル中の任意の1つのセルを作業者が指定するための入力手段と、
c)前記入力手段を用いてセルが指定されたとき、該セルを含んで前記の一方向に隣接する所定数のセルをセル群と定め、該セル群を構成する所定数のセルにそれぞれ対応する質量電荷比近傍の所定数のピークプロファイル波形を前記調整用画面に表示させるように前記調整用画面表示処理手段を制御する表示対象セル設定手段であって、前記テーブル中の或るセルが指定されてそれに対応したセル群に基づく所定数のピークプロファイル波形を含む調整用画面が表示されている状態から、前記入力手段を用いて別のセルが新たに指定されたときに、その新たに指定されたセルが表示中のセル群に含まれる場合にはピークプロファイル波形の表示を変更せずに維持する一方、新たに指定されたセルが表示中のセル群に含まれない場合には、少なくとも該セルを含んだ新たなセル群を定めてピークプロファイル波形の表示を変更するべく前記調整用画面表示処理手段を制御する表示対象セル設定手段と、
を備えることを特徴とする質量分析装置。
【請求項2】
請求項1に記載の質量分析装置であって、
前記表示対象セル設定手段は、新たに指定されたセルが表示中のセル群に含まれない場合であって、そのセルが表示中のセル群の端部から、前記所定数から1を減じた範囲内に位置している場合には、そのセルが位置する方向にセル群を移動させたときの移動量が最小になるように新たなセル群を定めることを特徴とする質量分析装置。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の質量分析装置であって、
前記テーブルにあって前記の一方向に隣接する複数のセルにそれぞれ対応する質量電荷比近傍の複数のピークプロファイル波形は、その複数のセルの配列と同じ方向に同じ順序で調整用画面上に配置されていることを特徴とする質量分析装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2012−43721(P2012−43721A)
【公開日】平成24年3月1日(2012.3.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−185790(P2010−185790)
【出願日】平成22年8月23日(2010.8.23)
【出願人】(000001993)株式会社島津製作所 (3,708)
【Fターム(参考)】