説明

赤外吸収熱伝導ポリイミドフィルムおよび粘着シート

【課題】発熱体から放出される赤外線を効率よく吸収し、かつフィルムの厚さ方向の放熱性の高いポリイミドフィルムを提供する。
【解決手段】波長2〜14μmにおける全赤外線吸収率が0.85以上、かつ厚さ方向の熱伝導率が1W/mK以上である赤外吸収熱伝導ポリイミドフィルムとする。当該赤外吸収熱伝導ポリイミドフィルムは、窒化ホウ素、カーボン繊維、およびこれらの複合体からなる群より選ばれる少なくとも1種のフィラーを含むことが好適な態様である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、赤外吸収熱伝導ポリイミドフィルムおよび粘着シートに関し、より詳しくは、発熱体から放出される赤外線を吸収すると同時に熱に変換し、フィルムおよび粘着シートの厚さ方向の放熱を有利に促す赤外吸収熱伝導ポリイミドフィルムおよび粘着シートに関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、コージェライト、ゼオライト等を焼成した板に銅めっきを施した放熱シートが、高い赤外線吸収率(放射率)と高い熱伝導率とを有することから、電子部品を搭載した基盤やそれを囲う筐体等に接着して、電子部品から発生する熱を外へ逃がすのに用いられている。しかし一方で、半導体の集積度向上や小型化による筐体内の温度上昇に対応するために、固体間の熱伝導だけでなく、空間の熱伝達を促進するために赤外吸収を利用した放熱シートも提案されてきている。
【0003】
例えば、特許文献1には、熱伝導性を有する可撓性の吸熱層のおもて面に、赤外線放射効果を有する可撓性の熱放射膜を形成し、前記吸熱層の裏面に熱伝導性接着剤からなる接着層を形成して可撓性を有するように構成したことを特徴とする放熱シートが開示されている。この吸熱層には、アルミニウムまたはその合金、銅またはその合金、ステンレス鋼等の金属材を用いた熱伝導性を有する薄板が、この熱放射膜には、カオリン、酸化珪素、酸化アルミニウム等の粉体を含む塗膜が、この熱伝導性接着剤には、アクリル系接着剤が用いられている。しかしながら、特許文献1の放熱シートは、各層の間に生じる熱抵抗によって、赤外吸収と熱との変換効率が低いという問題があった。また、貼り合わせる接着剤もアクリル系のため、100℃を超える雰囲気では接着力が低下するという問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2004−200199号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、発熱体から放出される赤外線を効率よく吸収し、かつフィルムの厚さ方向の放熱性の高いポリイミドフィルムを提供することを目的とする。本発明はまた、発熱体から放出される赤外線を効率よく吸収し、フィルムの厚さ方向の放熱性が高く、接着性に優れるポリイミド粘着シートを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、波長2〜14μmにおける全赤外線吸収率が0.85以上、かつ厚さ方向の熱伝導率が1W/mK以上である赤外吸収熱伝導ポリイミドフィルムである。当該赤外吸収熱伝導ポリイミドフィルムは、窒化ホウ素、カーボン繊維、およびこれらの複合体からなる群より選ばれる少なくとも1種のフィラーを含むことが好ましい。
【0007】
本発明はまた、ポリアミック酸と、窒化ホウ素、カーボン繊維、およびこれらの複合体からなる群より選ばれる少なくとも1種のフィラーとを含む塗布液であって、前記フィラーの配合量が塗布液の固形分中10〜70体積%である塗布液を調製する工程、
前記塗布液を支持体上に塗布し、塗布膜を得る工程、および
前記塗布膜をイミド化する工程
を含む赤外吸収熱伝導ポリイミドフィルムの製造方法である。
【0008】
本発明はまた、ポリアミック酸と、窒化ホウ素、カーボン繊維、およびこれらの複合体からなる群より選ばれる少なくとも1種の非球状のフィラーとを含む塗布液であって、前記フィラーの配合量が塗布液の固形分中10〜70体積%である塗布液を調製する工程、
前記塗布液を支持体上に塗布し、当該支持体に垂直な方向の磁場を印加して、前記フィラーが配向した塗布膜を得る工程、および
前記塗布膜をイミド化する工程
を含む赤外吸収熱伝導ポリイミドフィルムの製造方法である。
【0009】
本発明の赤外吸収熱伝導ポリイミドフィルムは、放熱シートに好適に用いることができる。
【0010】
本発明は、別の側面から、上記の赤外吸収熱伝導ポリイミドフィルムと、シリコーン粘着剤層とを有する赤外吸収熱伝導ポリイミド粘着シートである。当該赤外吸収熱伝導ポリイミド粘着シートは、放熱シートとして好適である。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、発熱体から放出される赤外線を効率よく吸収して熱に変換し、この熱をフィルムの厚さ方向において高効率で放出することが可能なポリイミドフィルムが提供される。本発明によればまた、発熱体から放出される赤外線を効率よく吸収して熱に変換し、この熱を粘着シートの厚さ方向において高効率で放出することが可能であり、かつ高温下でも接着性に優れるポリイミド粘着シートが提供される。これらのフィルムおよび粘着シートは、放熱シートに好適に用いることができる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の赤外吸収熱伝導ポリイミドフィルムは、波長2〜14μmにおける全赤外線吸収率が0.85以上であり、かつ厚さ方向の熱伝導率が1W/mK以上である。当該全赤外線吸収率が0.85より小さいと、発熱体から放出される赤外線を効率よく吸収することができず、さらに厚さ方向の熱伝導率が1W/mKよりも小さいと、吸収した赤外線が熱に変換されたときに、効率よく熱を厚さ方向に伝導することができない。従って、前記全赤外線吸収率が0.85以上であり、かつ厚さ方向の熱伝導率が1W/mK以上であることによってはじめて、発熱体から放出される赤外線を吸収すると同時に熱に変換し、フィルムの厚さ方向の放熱を有利に促すことができる。
【0013】
なお、波長2〜14μmにおける全赤外線吸収率(ε)とは、黒体の各波長の放射エネルギーをEb、試料の各波長の放射エネルギーをEsとして、下記式より計算される値である。すなわち、Es、Ebをそれぞれ波長2μm〜14μmの波長領域で積分して試料の全放射エネルギーおよび黒体の全放射エネルギーを算出し、(試料の全放射エネルギー)/(黒体の全放射エネルギー)を計算することにより求められる値である。
【0014】
【数1】

【0015】
本発明の赤外吸収熱伝導ポリイミドフィルムは、窒化ホウ素、カーボン繊維、およびこれらの複合体からなる群より選ばれる少なくとも1種のフィラーを含むことが好ましい。これらのフィラーは赤外線吸収性に優れるとともに熱伝導性にも優れる。フィラーの配合量は、としては10〜70体積%が好ましく、20〜60体積%がより好ましい。
【0016】
熱伝導率と赤外線吸収を発現するための窒化ホウ素の結晶構造としては、ダイヤモンドライクの立方晶、ウルツ鉱型六方晶、2層周期でグラファイトライクの六方晶、3層周期の菱面体晶のいずれであってもよいが、後述の方法(2)に使用する場合には、磁気異方性の比較的大きな六方晶が好ましい。
【0017】
カーボン繊維には、例えば直径10μm前後、長さ100μm以上のサイズを有するピッチ系またはPAN系の炭素繊維から、その1/10程度のサイズの気相法炭素繊維(例、VGCF;昭和電工)やナノサイズのカーボンナノチューブまで含まれる。なかでも、熱伝導率が大きく、分散性に優れることから、ピッチ系炭素繊維および気相法炭素繊維が好ましい。また、後述の方法(2)に使用する場合には、フィラーの粒子径(特に長径)はフィルムの厚さと同等またはそれ以下が好ましい。尚、所望のサイズのフィラーを得るために、乾式もしくは湿式の粉砕機で粉砕した後、篩いや気流式分級などの分級手段を使用することもできる。
【0018】
以下、赤外吸収熱伝導ポリイミドフィルムの製造方法について説明する。本発明の赤外吸収熱伝導ポリイミドフィルムは、代表的には、以下の2つの方法によって製造することができる。
【0019】
方法(1)
ポリアミック酸と、窒化ホウ素、カーボン繊維、およびこれらの複合体からなる群より選ばれる少なくとも1種のフィラーとを含む塗布液であって、前記フィラーの配合量が塗布液の固形分中10〜70体積%である塗布液を調製する工程(a)、
前記塗布液を支持体上に塗布し、塗布膜を得る工程(b)、および
前記塗布膜をイミド化する工程(c)を含む製造方法。
【0020】
方法(2)
ポリアミック酸と、窒化ホウ素、カーボン繊維、およびこれらの複合体からなる群より選ばれる少なくとも1種の非球状のフィラーとを含む塗布液であって、前記フィラーの配合量が塗布液の固形分中10〜70体積%である塗布液を調製する工程(d)、
前記塗布液を支持体上に塗布し、当該支持体に垂直な方向の磁場を印加して、前記フィラーが配向した塗布膜を得る工程(e)、および
前記塗布膜をイミド化する工程(f)を含む製造方法。
【0021】
まず、方法(1)について説明する。
【0022】
工程(a)
ポリアミック酸と、前記フィラーとを含む塗布液は、例えば、ポリアミック酸の溶液に、所定量の前記フィラーを混合して分散させることにより調製することができる。
【0023】
ポリアミック酸は、酸二無水物とジアミンとを重合反応させて得られる構造を有する。機械的強度および耐熱性の観点から、ポリアミック酸は、芳香族ポリアミック酸が好ましく、酸二無水物の好適な例としては、ピロメリット酸二無水物、3,3’,4,4’−ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、2,3,3’,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、2,3,6,7−ナフタレンテトラカルボン酸二無水物、1,2,5,6−ナフタレンテトラカルボン酸二無水物、1,4,5,8−ナフタレンテトラカルボン酸二無水物等が挙げられる。ジアミンの例としては、4,4’−ジアミノジフェニルエーテル、4,4’−ジアミノジフェニルメタン、3,3’−ジアミノジフェニルメタン、3,3’−ジクロロベンジジン、4,4’−ジアミノジフェニルスルフィド、3,3’−ジアミノジフェニルスルフォン、1,5−ジアミノナフタレン、m−フェニレンジアミン、p−フェニレンジアミン、3,3’−ジメチル−4,4’−ビフェニルジアミン、ベンジジン、3,3’−ジメチルベンジジン、3,3’−ジメトキシベンジジン、4,4’−ジアミノジフェニルスルフォン、4,4’−ジアミノジフェニルスルフィド、4,4’−ジアミノジフェニルプロパン等が挙げられる。
【0024】
溶媒としては、特に制限はないが、溶解性等の観点から極性溶媒が好適であり、具体的には、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N,N−ジエチルホルムアミド、N,N−ジエチルアセトアミド、N,N−ジメチルメトキシアセトアミド、ジメチルスルホキシド、ヘキサメチルホスホルトリアミド、N−メチル−2−ピロリドン、ピリジン、テトラメチレンスルホン、ジメチルテトラメチレンスルホン等が例示できる。これらは、単独でまたは2種以上で用いることができる。また、これらの極性溶媒に加え、クレゾール、フェノール、キシレノール等のフェノール類、ベンゾニトリル、ジオキサン、ブチロラクトン、キシレン、シクロヘキサン、ヘキサン、ベンゼン、トルエン等が単独でまたは併せて混合されていてもよい。
【0025】
ポリアミック酸の溶液は、前述の溶媒中で、前述の酸二無水物とジアミンとを反応させることにより得ることができる。なお、水の存在によってポリアミック酸が加水分解して低分子量化するため、ポリアミック酸の合成および保存は、無水環境下で行うことが好ましい。反応の際のモノマー濃度(溶媒中の酸二無水物とジアミンの合計の濃度)は、種々の条件に応じて適宜決定すればよいが、5〜30重量%が好ましい。反応温度は80℃以下に設定することが好ましく、より好ましくは5〜50℃である。反応時間は0.5〜10時間が好ましい。
【0026】
ポリアミック酸溶液の粘度は、例えば10〜10000ポイズ(1〜1000Pa・s)、好ましくは50〜5000ポイズ(5〜500Pa・s)である(B型粘度計、23℃)。粘度が10ポイズ未満であると、いわゆるタレや塗布層のハジキが生じやすくなり、均一な塗膜厚を得難くなるおそれがある。一方、10000ポイズを超えると、塗布時に吐出する際に高い圧力をかける必要があり、またレベリング性、脱泡性に劣る傾向にある。
【0027】
ポリアミック酸の溶液に、前記フィラーを添加し、公知の方法によって攪拌することによって、塗布液を調製することができる。フィラーの配合量は、塗布液の固形分中、10〜70体積%である。フィラーの配合量が10体積%より少ないと、得られるポリイミドフィルムの赤外線吸収性および熱伝導性が不足する。一方、70体積%より多いと、機械的強度が低下し、また外観にムラが発生しやすくなる。フィラーの配合量は、20〜60体積%が好ましい。
【0028】
工程(b)
当該工程は、公知方法に従い、塗布液を支持体上に塗布することにより行うことができる。
【0029】
支持体としては、ポリアミック酸に対して化学的に耐性があるもの、例えば、ガラス板等を選択すればよい。また、フィルムの厚さの均一性を高めたい場合には、表面の円滑性の高い支持体を選択すればよい。支持体は、水平に配置することが好ましい。
【0030】
塗布液の支持体への塗布量は、最終的なポリイミドフィルムの厚さが20〜500μmとなるような量に設定することが好ましい。最終的なポリイミドフィルムの厚さが20μmより薄いと、赤外線の吸収効果が小さくなりすぎるおそれがあり、一方、厚さが500μmを超えると、蓄熱しやすくなるおそれがある。
【0031】
支持体に塗布液を塗布した後、イミド化が起こる温度未満で、乾燥を行って溶媒をある程度除去するとよい。
【0032】
工程(c)
当該工程のイミド化は公知方法に従い行うことができる。
【0033】
例えば、イミド化は、塗布膜をイミド化温度以上まで加熱して行ってもよいし、化学的に脱水して行ってもよい。加熱によるイミド化の場合には、ポリイミドの組成や触媒の有無にもよるが、例えば、300〜400℃で10〜60分間加熱すればよい。
【0034】
化学的に脱水する場合には、工程(a)の塗布液に脱水剤を添加しておけばよい。脱水剤として、例えば、有機カルボン酸無水物、N,N’−ジアルキルカルボジイミド類、低級脂肪酸ハロゲン化物、ハロゲン化低級脂肪酸無水物、アリールホスホン酸ジハロゲン化物、チオニルハロゲン化物等を用いることができ、これらの中でも、有機カルボン酸無水物が好ましい。有機カルボン酸無水物の例としては、無水酢酸、プロピオン酸無水物、酪酸無水物、吉草酸無水物、およびこれらの分子間無水物が挙げられる。また、芳香族モノカルボン酸の無水物、例えば安息香酸、ナフトエ酸等の無水物、および炭酸、蟻酸および脂肪族ケテン類(ケテンおよびジメチルケテン)の無水物などが挙げられる。これらは単独でまたは2種以上の混合物として用いることができ、中でも、無水酢酸が好ましい。
【0035】
脱水剤の量は、塗布膜を構成するポリアミック酸のアミド酸単位1モルに対して0.5〜4モルが好ましく、特には1〜3モルが好ましい。脱水剤の量が当該アミド酸単位1モルに対して0.5モルより少ない場合には、イミド化反応が十分に進行せず、得られるポリイミドフィルムの機械物性が大きく低下するおそれがある。一方、脱水剤の量が4モルより多い場合には、余分な脱水剤を蒸発させるために温度を上げる必要があるため、結果として得られるポリイミドフィルムの機械物性が大きく低下するおそれがある。
【0036】
また、イミド化を促進するために3級アミンを添加してもよく、3級アミンとしては、トリメチルアミン、トリエチルアミン、トリエチレンジアミン、ピリジン、ピコリン、キノリン、イソキノリン、ルチジン等が挙げられ、好ましくは、ピリジン、β−ピコリン、γ−ピコリン、キノリン、イソキノリンである。3級アミンの量は、フィルムを構成するポリアミック酸のアミド酸単位1モルに対して0.1〜2モル、さらに好ましくは0.2〜1モルである。3級アミンの量が当該アミド酸単位1モルに対して0.1モルより少ない場合には、得られるポリイミドフィルムの機械物性が大きく低下するおそれがある。2モルを超える量ではフィルム中に3級アミンが残留するおそれがあり、余分な3級アミンを蒸発させるために温度を上げる必要がある。
【0037】
こうして、波長2〜14μmにおける全赤外線吸収率が0.85以上、かつ厚さ方向の熱伝導率が1W/mK以上である赤外吸収熱伝導ポリイミドフィルムが得られる。この赤外吸収熱伝導ポリイミドフィルムは、好適には、20〜500μmの厚さを有する。また、この赤外吸収熱伝導ポリイミドフィルムは、10〜70体積%、好ましくは20〜60体積%のフィラーを含む。
【0038】
次に、方法(2)について説明する。
【0039】
工程(d)
ポリアミック酸と、前記非球状フィラーとを含む塗布液は、例えば、ポリアミック酸の溶液に、所定量の前記非球状フィラーを混合して分散させることにより調製することができる。
【0040】
ポリアミック酸の溶液は、工程(a)と同様にして調製することができる。
【0041】
工程(d)で使用されるフィラーは、非球状のフィラーである。非球状のフィラーを含む塗布膜に磁場を印加した場合には、フィラーの長径方向が磁場の方向に平行になるようにフィラーが配向していく。この配向によりフィルムの厚さ方向の熱伝導率向上効果が得られる。フィラーの平均アスペクト比(長径/短径の比の平均)としては5〜80が好ましく、10〜50がより好ましい。なお、長径とは、フィラーの顕微鏡像などにおいて、対象とするフィラー粒子に外接する長方形のうち面積が最小となる長方形を仮定した場合に、その長方形の長辺を意味し、短径とは、その長方形の短辺を意味する。
【0042】
ポリアミック酸の溶液に、前記非球状フィラーを添加し、公知の方法によって攪拌することによって、塗布液を調製することができる。フィラーの配合量は、塗布液の固形分中、10〜70体積%である。フィラーの配合量が10体積%より少ないと、得られるポリイミドフィルムの赤外線吸収性および熱伝導性が不足する。一方、70体積%より多いと、機械的強度が低下し、また外観にムラが発生しやすくなる。フィラーの配合量は、20〜60体積%が好ましい。
【0043】
工程(e)
当該工程では、公知方法に従いまず塗布液を支持体上に塗布し、そこに支持体に垂直な方向の磁場を印加して、前記フィラーが配向した塗布膜を得る。
【0044】
塗布液の支持体上への塗布は、工程(b)と同様にして行うことができる。
【0045】
磁場の印加は、支持体に垂直な方向に磁場がかかるように磁石を配置して行えばよい。支持体に垂直な方向は、塗布膜の厚さ方向に平行な方向でもある。磁場強度は1T(テスラ)以上が好ましく、2T以上がより好ましい。1T未満では、10体積%以上のフィラーを配向させることが難しくなる。
【0046】
支持体に垂直な方向に磁場をかけることにより、非球状の熱伝導性フィラーの長径方向が磁場の方向に平行になるようにフィラーが配向していく。この配向によって厚さ方向の熱伝導率向上効果が得られる。この配向に関して、フィラーの長径方向と支持体に垂直な方向との間の角度が60°以下であることが好ましく30°以下であることがより好ましい。この角度が小さければ小さいほど厚さ方向の熱伝導率を増加させることができる。
【0047】
また、磁場によるフィラーの配向が維持されるように、磁場を印加しつつ、イミド化が起こる温度未満で乾燥を行って溶媒を除去することが好ましい。
【0048】
工程(f)
工程(f)は、工程(c)と同様にして行うことができる。
【0049】
こうして、波長2〜14μmにおける全赤外線吸収率が0.85以上、かつ厚さ方向の熱伝導率が1W/mK以上である赤外吸収熱伝導ポリイミドフィルムが得られる。この赤外吸収熱伝導ポリイミドフィルムは、好適には、20〜500μmの厚さを有する。また、この赤外吸収熱伝導ポリイミドフィルムは、10〜70体積%、好ましくは20〜60体積%の非球状フィラーを含む。また、この赤外吸収熱伝導ポリイミドフィルムにおいては、非球状フィラーが、フィルムの厚さ方向とフィラーの長径方向との間の角度が60°以下となるように配向していることが好ましく、30°以下となるように配向していることがより好ましく、最も好ましくは、フィルムの厚さ方向とフィラーの長径方向とが平行に配向している。
【0050】
本発明の赤外吸収熱伝導ポリイミドフィルムは、例えば、電子部品等の発熱体を搭載した基盤やそれを囲う筐体等に接着して用いることができ、固体間で高い熱伝導を示すのみならず、赤外線を吸収して熱に変換して放出するため、高い放熱性能を有する放熱シートとなる。
【0051】
本発明はまた、上記の赤外吸収熱伝導ポリイミドフィルムと、シリコーン粘着剤層とを有する赤外吸収熱伝導ポリイミド粘着シートである。粘着剤層に、シリコーン粘着剤を用いているため、高温下でも接着性に優れる。
【0052】
シリコーン粘着剤層のシリコーン粘着剤は、公知のものを使用することができ、縮合型、付加型のいずれであってもよい。粘着剤層の厚さとしては、10〜100μmが好ましい。厚さが10μmよりも小さいと、接着面に対する追従性に劣り、それによって空気層が生じた場合には、放熱効率が悪くなる。一方、厚さが100μmを超えると蓄熱してしまうおそれがある。
【0053】
シリコーン粘着剤の粘着力に関しては、ポリイミド粘着シートの自重を支えられる力が最低限必要であるが、その他に使用環境における温度やミストの影響で粘着力が低下する可能性を考慮に入れて、適宜選択すればよい。
【0054】
赤外吸収熱伝導ポリイミド粘着シートは、公知方法に従い、赤外吸収熱伝導ポリイミドフィルムに、シリコーン粘着剤層を形成することによって作製することができる。
【0055】
本発明の赤外吸収熱伝導ポリイミド粘着シートは、例えば、電子部品等の発熱体を搭載した基盤やそれを囲う筐体等に貼り付けて用いることができ、固体間で高い熱伝導を示すのみならず、赤外線を吸収して熱に変換して放出するため、高い放熱性能を有する放熱シートとなる。また、高温下でも高い粘着力を有する放熱シートとなる。
【実施例】
【0056】
以下、実施例および比較例を挙げて本発明を詳細に説明するが、本発明は、これら実施例に限定されるものではない。まず、本実施例で採用した評価方法について説明する。
【0057】
〔全赤外線吸収率〕
波長2〜14μmにおける全赤外線吸収率の測定には、赤外分光用積分球と、DTGS赤外線検出器による反射率測定装置とを取り付けたブルカー社製FT−IR(機種名:IFS66V)を使用した。2cm角の試料および黒体を準備し、室温25℃にて、波長2〜14μmの波長領域での放射エネルギーを求めた。全赤外線吸収率(ε)は、黒体の放射エネルギーをEb、試料の放射エネルギーをEsとすると、Es、Ebをそれぞれ波長2μm〜14μmの波長領域で積分して試料の全放射エネルギーおよび黒体の全放射エネルギーを算出し、(試料の全放射エネルギー)/(黒体の全放射エネルギー)を計算することにより求められる。なお、試料は不透明であるため、試料の透過率は0とみなした。
【0058】
〔熱伝導率〕
熱伝導率を下記式から求めた。
熱伝導率=熱拡散率×比熱×密度
なお、熱拡散率は、キセノンフラッシュアナライザー(ブルカー・エイエックスエス製)を用いて測定した。比熱は、DSC(SIIナノテクノロジー製)を用いて測定した(昇温速度:10℃/分)。比重は、ブタノール浸漬法より測定した。
【0059】
〔密閉空間の温度特性〕
水の入った190mm角の開口面積を有するウォーターバスに、190mm角のポリエチレンテレフタレート(PET)フィルムでふたをして、密閉空間を作製した。次いで、ウォーターバスの水を75℃に加温した。実施例および比較例のポリイミド粘着シートを50mm角に切断した後、PETフィルムの内側(密閉空間側)中央に貼り付け、密閉空間内の温度を測定した。
【0060】
実施例1
N−メチル−2−ピロリドン(NMP)に、酸二無水物成分として3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物と、ジアミン成分としてp−フェニレンジアミンおよび4,4’−ジアミノジフェニルエーテルの混合物(モル比5:5)を、略当モル溶解させ(モノマー濃度20重量%)、室温で攪拌しながら反応させた。次いで70℃に加温しつつ攪拌し、23℃におけるB型粘度計による粘度が100Pa・sのポリアミック酸溶液を調製した。
【0061】
次に、このポリアミック酸溶液の固形分に対して、20体積%のカーボン繊維(日本グラファイト製 グラノックXN−100−05M;繊維状)を添加し、自転公転式攪拌機で分散した。
【0062】
このようにして得られた塗布液を、ガラス板に0.5mmの厚さとなるように塗布した後、支持体に垂直な方向の磁場を2T(テスラ)印加しながら、70℃で90分間加熱乾燥した。その後、塗布膜を一旦支持体から剥離して取り出し、ピンテンターに差し替えて120℃で30分間、次いで320℃で20分間と段階的に加熱を行い、イミド化を行った。得られたポリイミドフィルムは、全赤外線吸収率が0.9、厚さ方向の熱伝導率が2.6W/mK、面方向の熱伝導率が2.0W/mKであった。
【0063】
次に、白金触媒(SRX212)0.9重量部、シリコンレジン(SD4600FC)100重量部、およびトルエン120重量部を配合したシリコーン粘着剤を作製した。この粘着剤を厚さ30μmとなるように前述のポリイミドフィルムに塗布し、150℃で90分間乾燥してポリイミド粘着シートを作製した。このポリイミド粘着シートを用いて、上述の密閉空間内の温度測定を実施したところ、温度は、ポリイミド粘着シートを貼る前に比べ2.5℃低下した。
【0064】
実施例2
実施例1のカーボン繊維20体積%を、窒化ホウ素(電気化学工業製、GP;鱗片状)40体積%に変更したこと以外は、実施例1と同様にしてポリイミドフィルムを得た。得られたポリイミドフィルムは、全赤外線吸収率が0.93、厚さ方向の熱伝導率が2.9W/mK、面方向の熱伝導率が5.8W/mKであった。
【0065】
次に、実施例1と同様にしてシリコーン粘着剤層を有するポリイミド粘着シートを作製した。密閉空間の温度特性を調べた結果、ポリイミド粘着シートを貼る前に比べ、密閉空間内の温度が3.0℃低下した。
【0066】
実施例3
実施例1のカーボン繊維の配合量を40体積%に変更したこと以外は、実施例1と同様にしてポリイミドフィルムを得た。得られたポリイミドフィルムは、全赤外線吸収率が0.90、厚さ方向の熱伝導率が9.5W/mK、面方向の熱伝導率が2.2W/mKであった。
【0067】
次に、実施例1と同様にしてシリコーン粘着剤層を有するポリイミド粘着シートを作製した。密閉空間の温度特性を調べた結果、ポリイミド粘着シートを貼る前に比べ、密閉空間内の温度が3.3℃低下した。
【0068】
実施例4
実施例1のカーボン繊維20体積%を、窒化ホウ素(水島合金鉄製、HP40;鱗片状)60体積%に変更し、磁場を印加しなかったこと以外は、実施例1と同様にしてポリイミドフィルムを得た。得られたポリイミドフィルムは、全赤外線吸収率が0.93、厚さ方向の熱伝導率が10.2W/mK、面方向の熱伝導率が11.0W/mKであった。
【0069】
次に、実施例1と同様にしてシリコーン粘着剤層を有するポリイミド粘着シートを作製した。密閉空間の温度特性を調べた結果、ポリイミド粘着シートを貼る前に比べ、密閉空間内の温度が3.9℃低下した。
【0070】
実施例5
実施例1のカーボン繊維20体積%を、カーボン繊維40体積%および窒化ホウ素(昭和電工製、UHP2;鱗片状)4体積%に変更したこと以外は、実施例1と同様にしてポリイミドフィルムを得た。得られたポリイミドフィルムは、全赤外線吸収率が0.91、厚さ方向の熱伝導率が13.0W/mK、面方向の熱伝導率が1.8W/mKであった。
【0071】
次に、実施例1と同様にしてシリコーン粘着剤層を有するポリイミド粘着シートを作製した。密閉空間の温度特性を調べた結果、ポリイミド粘着シートを貼る前に比べ、密閉空間内の温度が4.2℃低下した。
【0072】
比較例1
実施例1のカーボン繊維を加えなかったこと以外は、実施例1と同様にしてポリイミドフィルムを得た。得られたポリイミドフィルムは、全赤外線吸収率が0.85、厚さ方向の熱伝導率が0.2W/mK、面方向の熱伝導率が0.3W/mKであった。
【0073】
次に、実施例1と同様にしてシリコーン粘着剤層を有するポリイミド粘着シートを作製した。密閉空間の温度特性を調べた結果、ポリイミド粘着シートを貼る前に比べ、密閉空間内の温度が0.5℃増加した。
【0074】
比較例2
実施例1のカーボン繊維20体積%を、カーボン粉末(デグサ製、スペシャルブラック;球状)20体積%に変更し、磁場を印加しなかったこと以外は、実施例1と同様にしてポリイミドフィルムを得た。得られたポリイミドフィルムは、全赤外線吸収率が0.90、厚さ方向の熱伝導率が0.3W/mK、面方向の熱伝導率が0.4W/mKであった。
【0075】
次に、実施例1と同様にしてシリコーン粘着剤層を有するポリイミド粘着シートを作製した。密閉空間の温度特性を調べた結果、ポリイミド粘着シートを貼る前に比べ、密閉空間内の温度が0.2℃増加した。
【0076】
比較例3
実施例1のカーボン繊維20体積%を、γ酸化鉄(戸田工業製、MX-450;針状)20体積%に変更したこと以外は、実施例1と同様にしてポリイミドフィルムを得た。得られたポリイミドフィルムは、全赤外線吸収率が0.80、厚さ方向の熱伝導率が1.2W/mK、面方向の熱伝導率が0.2W/mKとなった。
【0077】
次に、実施例1と同様にしてシリコーン粘着剤層を有するポリイミド粘着シートを作製した。密閉空間の温度特性を調べた結果、ポリイミド粘着シートを貼る前に比べ、密閉空間内の温度が0.2℃増加した。
【産業上の利用可能性】
【0078】
本発明の赤外吸収熱伝導ポリイミドフィルムおよび粘着シートは、好適には、放熱シートとして用いることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
波長2〜14μmにおける全赤外線吸収率が0.85以上、かつ厚さ方向の熱伝導率が1W/mK以上である赤外吸収熱伝導ポリイミドフィルム。
【請求項2】
窒化ホウ素、カーボン繊維、およびこれらの複合体からなる群より選ばれる少なくとも1種のフィラーを含む請求項1に記載の赤外吸収熱伝導ポリイミドフィルム。
【請求項3】
ポリアミック酸と、窒化ホウ素、カーボン繊維、およびこれらの複合体からなる群より選ばれる少なくとも1種のフィラーとを含む塗布液であって、前記フィラーの配合量が塗布液の固形分中10〜70体積%である塗布液を調製する工程、
前記塗布液を支持体上に塗布し、塗布膜を得る工程、および
前記塗布膜をイミド化する工程
を含む赤外吸収熱伝導ポリイミドフィルムの製造方法。
【請求項4】
ポリアミック酸と、窒化ホウ素、カーボン繊維、およびこれらの複合体からなる群より選ばれる少なくとも1種の非球状のフィラーとを含む塗布液であって、前記フィラーの配合量が塗布液の固形分中10〜70体積%である塗布液を調製する工程、
前記塗布液を支持体上に塗布し、当該支持体に垂直な方向の磁場を印加して、前記フィラーが配向した塗布膜を得る工程、および
前記塗布膜をイミド化する工程
を含む赤外吸収熱伝導ポリイミドフィルムの製造方法。
【請求項5】
請求項1または2に記載の赤外吸収熱伝導ポリイミドフィルムを用いた放熱シート。
【請求項6】
請求項1または2に記載の赤外吸収熱伝導ポリイミドフィルムと、シリコーン粘着剤層とを有する赤外吸収熱伝導ポリイミド粘着シート。
【請求項7】
放熱シートである請求項6に記載の赤外吸収熱伝導ポリイミド粘着シート。

【公開番号】特開2011−32430(P2011−32430A)
【公開日】平成23年2月17日(2011.2.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−182308(P2009−182308)
【出願日】平成21年8月5日(2009.8.5)
【出願人】(000003964)日東電工株式会社 (5,557)
【Fターム(参考)】