説明

赤外放射および/または太陽放射を反射する薄膜多層物が設けられたグレージング組成物

本発明は、積層薄層物を設けたガラスなどの少なくとも1つの透明基板を含んでなるグレージングに関する。前述の積層物は、基板から上方に向かって、(a)窒化ケイ素のなかから選択される、酸素の拡散に対するバリアーを形成する層を含んでなる1つの第1の絶縁層、(b)金属または合金Xでできている下部安定化金属層、(c)赤外光および/または太陽光において反射性能を持つ機能性層、特に金属層、(d)金属または合金Yでできている上部ブロッキング金属層、(e)窒化ケイ素のなかから選択される、酸素の拡散に対するバリアーを形成する層を含んでなる第2の誘電体層、および(f)場合によって保護性酸化物層を含んでなる。本発明によれば、この下部安定化層の金属または合金Xは、上部ブロッキング層の金属または合金Yと異なる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、グレージング構成物(glazing assembly)を形成する目的で太陽放射および/または長波長の赤外放射に対して作用することができる、少なくとも1つの、金属挙動の層を含む薄膜多層物が設けられた透明基板、好ましくはガラスタイプの剛性基板、に関する。
【0002】
本発明は、銀ベースの層と、酸化物または金属または窒化物化合物タイプの透明な絶縁材料でできている層との交互物を含んでなり、これによってこのグレージング構成物が太陽光の防護性または低放射性を有することを可能とする多層物に関する(ビルディング用のダブルグレージング、車両用の合わせウインドシールドなど)。特に、本発明は、このような多層物が設けられた、特に強化処理、アニール処理または曲げ処理である500℃以上での熱処理を含む転換操作にかける必要のあるガラス基板に関する。
【背景技術】
【0003】
熱処理の後にガラス上に層を堆積させるよりも(製造コストを増加させる問題を生じる)、多層物の熱的性質を大部分維持しながら、熱処理にかけることができるように、この多層物を適合させることが先ず追求された。したがって機能性層、特に銀層が劣化しないようにすることが目的であった。一つの解決法は、特許、欧州特許第506507号に開示されていて、絶縁酸化物層に隣接する銀層を保護するために、金属層を側面に配置することにより銀層を保護することから構成される。故に、これは、前に述べたような処理のような、曲げ処理または強化処理を行った後に赤外放射または太陽放射の反射に有効である限り、曲げ可能または強化可能な多層物である。しかしながら、銀層を熱の影響から保護した層の酸化および変成によって、多層物の光学的性質が実質的に変成し、特に、光透過が増加し、反射における測色的応答が変化する。更に、加熱はまた、光学的欠陥、すなわちピットおよび/または種々の小欠陥も生み出し、著しいレベルのヘーズを生じる傾向がある(「小欠陥」という表現は、一般に、5ミクロン未満のサイズを有する欠陥を意味すると理解され、「ピット」は50ミクロンより大きく、特に50と100ミクロンの間の欠陥を意味し、可能性として、もちろん、中間サイズの、すなわち5と50ミクロンの間の欠陥も有すると理解される)。
【0004】
故に、第2に、光学的欠陥の外観を最少とする一方で、熱的性質と熱処理後の光学的性質の両方を保持する能力のあるような薄膜多層物を開発することが試みられた。このように、この挑戦は、熱処理にかけるかどうかに拘わらず、固定された光学的/熱的性質の薄膜多層物を製造することであった。
【0005】
第1の解決法は特許、欧州特許第718 250号に提案されたものであった。この特許は、銀ベースの機能性層の最上部に酸素バリアー拡散層、特に窒化ケイ素をベースとする層を使用し、プライマー層または保護金属層を介在させずに下に隣接する絶縁被膜上に直接に銀層を配置することを推奨している。これは、Si/ZnO/Ag/Nb/ZnO/SiまたはSnO/ZnO/Ag/Nb/Siタイプの多層物を提案している。Si/Nb/Ag/Nb/Si多層物もこの文献に記載されている。
【0006】
第2の解決法が特許、欧州特許第847965号に提案されていて、これは2つの銀層を含む多層物を更に指向し、銀層の最上部上のバリアー層(以前のように)と、吸収材または銀層に隣接しこれを安定化させる安定化層の両方の使用を記載している。
【0007】
これは、下記のタイプ:
SnO/ZnO/Ag/Nb/Si/ZnO/Ag/Nb/WOまたはZnOまたはSnO/Si
の多層物を記載している。
【0008】
両方の解決法において、この場合にはニオブでできている金属層が銀層上に存在し、ZnO層またはSi層の反応性スパッタリングによる堆積時に銀層が酸化性または窒化性の反応性雰囲気と接触しないようにしているということを特記しなければならない。
【0009】
1つまたは2つの銀層を含む多層物に関する別の刊行物は、文献WO−02/48065であり、熱処理の場合に光学的挙動の大きな変化を起こさずに光学的性質が調整される。この文献は、可視域で吸収性の少なくとも1つの層が2つの絶縁層の間に挿入されている多層物、例えば下記のタイプ:
Si/ZnO/Ag/ZnO/Si/TiNまたはNbN/Si/ZnO/Ag/ZnO/Siまたは
Si/ZnO/Ag/Ti/ZnO/TiN/Si/ZnO/Ag/Ti/ZnO/TiN/Si
を記載している。
【0010】
文献WO 01/40131は、処理グレージングが非処理グレージングと類似のまたは匹敵する外観を有するようにして熱処理に耐える能力のある合わせグレージング構成物または低放射タイプの断熱性グレージングユニットを記載しており、この処理および非処理グレージング構成物は、グレージングされた系に一緒にはめ込まれ、裸眼に比較的均一な均質なユニット(いわゆる、「マッチング可能な」グレージング)を形成し得る。熱処理の結果として多層物の性質のこの比較的小変化は、反射での測色的応答の変化ΔE(ここで、ΔE=(ΔL*2+Δa*2+Δb*21/2である)が約5未満であり、および変化Δaが約0.8未満であるということを特徴とする。
【0011】
このようなグレージング構成物は、ガラスから出発して、窒化ケイ素層、ニッケルまたはニッケル合金をベースとする本質的に薄い金属層(1から2nmの厚さ)、銀層、ニッケルまたはニッケル合金をベースとする薄い本質的に金属性の層(1−2nm)、および窒化ケイ素層を含んでなる多層物を有する。
【0012】
しかしながら、測色的応答の比較的小さな変化が、少なくとも4%の光透過の増加(光透過の変化ΔT≧4%、特に5%)を伴い、特にTは初期には63から73%の範囲内であるが、熱処理後には68から78%の範囲内である。この大きさの光透過の変化は、非処理グレージング構成物と熱処理グレージング構成物の間の外観の差異が裸眼で明らかに検出可能であるので、非処理グレージング構成物を熱処理したグレージング構成物と並存して組み合わせる観点からの利点にほど遠い。
【0013】
文献WO97/48649は、また、この場合にニオブをベースとする0.7から2nmの厚さの2つの薄い金属「ブロッキング」層を持つ強化可能な上記のタイプの多層物を記載している。
【0014】
このグレージング構成物を強化熱処理と連結させると、強い均一なヘーズの外観と、また腐食スポットが観察される。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
故に、同一の金属でできている金属「ブロッキング」下層および上層の使用に依存するこれらの2つの先行する解決法は、著しい欠点を有する。
【0016】
本発明の目的は、上述の薄膜多層物の改善を追及することにより、特に曲げおよび/または強化タイプの熱処理に関して、特に光学的変化と光学的欠陥の外観に関するこれらの挙動の改善を追及することにより、これらの欠点を軽減させることである。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明の主題は、薄膜多層物が設けられた、特にガラスでできている、少なくとも1つの透明基板を含んでなり、前記薄膜多層物は、基板から出発して下記の順序で、
(a)第1の絶縁層、
(b)金属または金属合金Xからできている下部安定化層、
(c)赤外光および/または太陽光において反射性能を有する機能性層、特に金属層、
(d)金属または金属合金Yでできている上部金属ブロッキング層、
(e)第2の絶縁層と、および
(f)場合によって保護酸化物層
を少なくとも含んでなり、前記多層物において、前記下部安定化層の金属または合金Xは前記上部ブロッキング層の金属または合金Yと異なるグレージング構成物である。
【0018】
先行技術は、同一の性状の2つまたはそれ以上の金属層bおよびdの間に機能性層を側面配置することにより、機能性層を保護する方法を明確に教示しているが、本発明者らは、2つの異なる金属を選択して層bおよびdを形成すると、グレージング構成物の光学的性質に関する熱処理抵抗性において極めて大きな改善があることを明らかにした。
【0019】
本発明によれば、2つ以上の金属の合金は、純粋な状態での構成金属の各々が異なる材料である。しかしながら、合金層が随伴する第2の金属層と異なる金属のみを含有することが好ましいであろう。更に、二つの合金は、同一の定量的または定性的な組成を有していないならば、これらは異なると考えられるが、これらの合金の間で少なくとも1つの金属が異なること、または各合金が異なる金属をベースとすることが好ましい。
【0020】
本発明により得られる改善は、ヘーズまたはピッティングを起こさずに、光透過ΔTの変化が多くとも3%であり、および/または熱処理前と熱処理後の間の外部反射の測色的応答の変化ΔEが多くとも3であることを特徴とする僅かな光学的変化である。
【0021】
異なる金属層の賢明な選択により、良好な光学的品質と限定された光学的変化の組み合わせが得られる。一つの説明のための仮説は、金属層X上の金属滴Aの濡れがA上のXの濡れと異なるという観察に基づいている。この効果はAの場合およびXの場合の異なる表面エネルギーによる。したがって、銀(または他の)機能層のいずれでも最良の濡れが得られるように金属XおよびYを選択して、最良の接着を得て、熱処理の間に最大の保護を得るようにするのがよい。
【0022】
第1の絶縁層(a)は、少なくとも1つの他の金属、例えばアルミニウムを場合によっては含有する窒化ケイ素から選択される酸素拡散バリアー層を含んでなる。
【0023】
この絶縁層は、本質的に、高温における場合を含み、多層物の中への酸素の拡散を阻止する機能を有する。窒化物は、酸化的攻撃に暴露されたとき、大部分は不活性であり、強化タイプの熱処理時に感知できる構造的変成または化学的変成(酸化型タイプの)を受けず、したがって熱処理の際に、特に光透過レベルについて、多層物の光学的な変成をほとんど引き起こさない。この絶縁層は、種、特にアルカリ金属、がガラスから移動しないようにする拡散バリアーとしても作用し得る。更に、絶縁層の屈折率が約2であることによって、低放射率タイプの多層物中に容易に配置される。
【0024】
この層は、一般に、少なくとも5nmの、特に少なくとも10nmの、例えば15と70nmの間の、特にほぼ30から60nmの厚さで堆積され得る。
【0025】
下部金属層(b)は、チタン、ニッケル、クロム、ニオブ、ジルコニウム、タンタル、アルミニウムまたはこれらの金属の少なくとも1つを含む金属合金から選択される金属Xからできているものであり得る。このような選択の内で、ニッケルクロム合金が特に満足なものであると判明している。
【0026】
層(b)の厚さは、金属層が熱処理時、例えば強化処理時に、部分酸化されるだけであるのに充分な値になるよう選択されるのが有利である。好ましくは、この厚さは、6nm未満、またはそれに等しく、1と6nmの間であり、好ましくは少なくとも1.5nmである。
【0027】
酸素に対して低親和性を有する金属から選択された下部金属は、銀層を通る残存酸素の拡散を制限し、ヘーズまたはピッティングタイプの欠陥の外観を防止するのを助けることができる。下部金属は熱処理時に殆ど酸化しないので、下部金属層の厚さは、この金属が多層物による光吸収の大部分をもたらすように選択される。
【0028】
機能性層(c)は通常銀の層であるが、本発明は、同じようにして、反射性金属の他の層に、例えば銀合金、特にチタンまたはパラジウムを含むもの、または金または銅をベースとする層に、適用される。この層の厚さは特に5から13nm、好ましくはほぼ6から12nmである。
【0029】
上部金属層(d)は、層(b)の金属または合金Xと異なる、チタン、ニッケル、クロム、ニオブ、ジルコニウム、タンタル、アルミニウムおよびこれらの金属の少なくとも1つを含む金属合金から選択される金属Yからできているものであり得る。金属Yは、チタン、ニオブ、アルミニウムおよびジルコニウムから有利に選択され、好ましくはチタンである。
【0030】
層(d)の厚さは、金属層が熱処理の間、例えば強化の間、に部分酸化するだけであるのに充分な値に選択されることが有利である。好ましくは、この厚さは、6nm未満、またはそれに等しく、約0.4nmと薄くてもよく、特に0.4から4nmの範囲内である。
【0031】
酸素に対して高親和性の金属から選択される上部金属は、多層物からの酸素の拡散を阻止し、故に機能性銀層の有効な保護をもたらすことを更に可能にする。しかしながら、上部金属のこの酸化は、光透過ΔTの変化を引き起し、上部金属層(d)の最大厚さはこの変化を制限するように選択され得る。
【0032】
下部層(b)が殆ど酸化されない金属、例えばニッケル−クロムからできていて、上部層(d)が酸素に対して高親和性の金属、例えばチタン、ニオブまたはジルコニウムからできている場合には、下部金属層(b)の厚さは上層(d)の厚さよりも大きいように、有利に選択される。金属層の厚さをこのように選択することによって、光透過における変化を更に効果的に低減させることが可能である。
【0033】
有利なこととして、機能性層(c)は、通常銀でできていて、上および下に置かれた金属被膜(d)および(b)と直接接触している。
【0034】
第2の絶縁層(e)は層(a)の機能と類似した機能を有する。この層は、少なくとも1つの他の金属、例えばアルミニウム、を場合によって含む窒化ケイ素から選択される酸素拡散バリアー層を含んでなる。
【0035】
この層は、一般に、少なくとも5nmの、特に少なくとも10nmの、例えば15と70nmの間の、特にほぼ30から60nmの厚さで堆積され得る。この層は、特に第1の絶縁層(a)の厚さよりも大きい厚さを有し得る。
【0036】
この絶縁被膜の少なくとも1つ(特に各々)は、1つまたはそれ以上の金属酸化物をベースとする層を含んでなるものでよい。特に、上部絶縁層(e)は、多層物の引っかき抵抗性を改善する酸化物層(f)を外表面上に含んでなるものであり得る。
【0037】
これは、酸化亜鉛を、亜鉛および別の金属(Alタイプの)からなる混合酸化物をベースとする層であり得る。これは、下記の金属:
Al、Ti、Sn、Zr、Nb、W、Ta
の少なくとも1つを含んでなる酸化物をベースとするものであり得る。本発明による薄膜として堆積可能な亜鉛ベースの混合酸化物の例は、WO 00/24686に記載されているような更なる元素、例えばアンチモンを含む混合亜鉛スズ酸化物である。
【0038】
この酸化物層の厚さは0.5から6nmであり得る。
【0039】
本発明の一つの非限定的態様は、ガラス上に、下記の配列:
.../窒化ケイ素(a)/ニッケルクロム(b)/Ag(c)/チタン(d)/窒化ケイ素(e)/...
を含んでなる多層物を提供することからなる。窒化ケイ素は、Alタイプの別の元素をSiに対して少量含むことがある。
【0040】
特に、この多層物は、(a)/(b)/(c)/(d)/(e)/(a’)/(b’)/(c’)/(d’)/(e’)の二重配列を含んでなるものであり得る。ここで、a’はaと同一であるか異なり、b、b’c、c’d、d’およびe、e’の場合も同様である。また、中間の絶縁層(e)および(a’)を同一の絶縁体の単一層として融合し得る。この変形は、ガラス上:.../窒化ケイ素/ニッケル−クロム/銀/チタン/窒化ケイ素/ニッケル−クロム/銀/チタン/窒化ケイ素の多層物により示される。
【0041】
変形として、窒化ケイ素層と例えば酸化物層(SnO、混合亜鉛スズ酸化物など)を組み合わせ、窒化ケイ素層の厚さを適宜低減させることが可能である。
【0042】
本発明の多層構成によって、熱処理後の薄膜多層物上の本質的にすべての光学的欠陥、特にヘーズまたはピッティングのタイプの欠陥を無くすることが可能である。
【0043】
本発明に記載の被覆基板は、複層グレージングユニットとして別の基板と共にはめ込む場合には、40と70%の間の、特に40から60%の光透過と、1.25と1.45の間の、特にほぼ1.4の選択性を有する(この選択性は光透過/ソーラーファクターの比であり、ここでソーラーファクターは、2に等しいエアマスについてのParry Moon計算による入射太陽光エネルギーに対するグレージング構成物から室内に入る全エネルギーの比である)。
【0044】
これらは外部反射において青緑色合いの色を有する。
【0045】
これらは、合わせガラスを組み立てる目的で少なくとも100℃の温度で、特に約130℃の温度で、または特に曲げ、強化またはアニール(基板上のある点と別の点で異なる曲げ処理でさえ)の目的で500℃以上の温度で熱処理を受け得る一方で、強化した後でさえも高い光吸収を維持する。この小さな光学的変化は、光透過変化ΔT(光源D65下で測定)が、曲げ前および曲げ後に多くとも3%、特に多くとも2から2.5%、特に多くとも2%であり、および/または曲げ前および曲げ後の反射での測色的応答の変化ΔEが多くとも3、特に多くとも2.5であるということを特徴とする。ここでΔEは(L、a、b)測色系においては、次のとおりである:ΔE=(ΔL*2+Δa*2+Δb*21/2
外部反射における測色的応答の変化の点での一般に受け入れられている強化可能能力の基準は、熱処理前および熱処理後の間のΔEが2未満またはそれに等しくなければならない。しかしながら、測色的応答における変化が反射のレベルの妥当な低下を伴い、好ましくは絶対値の変化が2に限定(|ΔRext|≦2)されるか、特に多くとも1.5の変化に制限(|ΔRext|≦1.5)される場合には、2よりも僅かに高い(しかし3未満の)値は、一つおよび同一のカーテンウオール上で大量の強化および非強化品を組み合わせて使用する観点から許容されよう。
【0046】
このように形成された二重層グレージングユニットは、初期状態と強化状態の両方において入射と非垂直入射の間の小さい測色的応答の変化をまた呈する。
【0047】
この被覆基板は合わせグレージングとして使用してよく、この多層物は、グレージング構成物により画定されるスペースの外側に面する側(側2)上の、またはグレージング構成物により画定されるスペースの内側に面する側(側3)上の、合わせ構成物内の中間フィルムの隣に配置されることも可能である。このようなグレージング構成物においては、少なくとも1つの基板、特に多層体を担持する基板を強化または硬化し得る。多層グレージング(複層グレージング)ユニットを作製するために、この被覆基板をガススペースを介して少なくとも1つの他のガラス板と組み合わせ得る。この場合には、この多層物は、好ましくは中間のガススペース(面2)に面する。本発明に記載の複層グレージングユニットは少なくとも1つの合わせガラス板を組み込んだものであり得る。
【0048】
有利なこととして、基板にこの薄膜多層物を設けた後には、強化のために500℃以上で熱処理を受け、強化後、a<0およびb<0であることを特徴とする外部反射での色を呈する。
【0049】
本発明はまた、本発明のいくつかのグレージング構成物を組み込んだグレージング済ユニット、および特に、熱処理を受けた少なくとも1つのグレージング構成物および熱処理を受けていない少なくとも1つのグレージング構成物を組み込んだグレージング済構成物に関する。
【0050】
本発明を次の非限定的な実施例により更に詳細に説明する。
【0051】
すべての次の実施例においては、PLANILUXタイプ(サンゴバンガラスにより販売されているガラス)の厚さ4mmの透明なシリカ−ソーダ−ライムガラス板上に磁気増強スパッタリングすることにより、この層を堆積する。
【0052】
窒化ケイ素ベースの層をAlドープされたSiターゲットから窒化雰囲気中で堆積する。Agベースの層をAgターゲットから不活性雰囲気中で堆積し、Tiベースの層をTiターゲットから不活性雰囲気中で堆積する。NiCr層を重量で80/20部のニッケル−クロム合金ターゲットから不活性雰囲気中で堆積する。
【実施例】
【0053】
(実施例1および2)
これらの実施例は多層物:
ガラス/Al:Si/NiCr/Ag/Ti/Al:Si
に関する。ここで、Al:Siはこの窒化物がアルミニウムを含有するということを意味する。
【0054】
下記の表1は、この2つの実施例の各々についてナノメートルで示した厚さの、この多層物を繰り返す。
【0055】
【表1】

【0056】
これらの被覆ガラス構成物を600℃以上において強化操作にかけた。
【0057】
集中しているものであれ、そういでないものであれ、ピッティングまたはヘーズタイプのなんらかの欠陥が出現するかどうかを観察することにより、熱処理後のこのガラスの全体の光学的品質を評価した。このグレージング構成物を例えばハロゲンスポットから入射する強い光により照射した。定性的な評点を次のパラメーターにより与えた。
【0058】
【表2】

【0059】
次に、光透過ΔTの変化、および反射のレベル(平均変化、光源D65下、標準観察2゜での)をパーセンテージで、および外部反射、内部反射および透過での外観の変化ΔE(無単位量、前に挙げた式)を測定することにより、熱処理の前後のこのガラス板中の外観の変化を評価した。これらの値と、%での光透過値T(光源D65下2゜で)、%での外部光反射Rextおよび内部光反射Rint、外部反射および内部反射(無単位量)でのI、aおよびbの値、透過での主波長および純度を、およびソーラーファクターSF(Parry Moon、マス2)をも下記の表2および3に示す。
【0060】
この光学的変化を本発明の6mm厚の基板を含んでなる複層グレージングユニットについて測定した。この基板は12mm厚のアルゴンスペースにより隔てられ、本発明の基板の多層被覆表面は、この随伴基板に向けられる。
【0061】
この基板の片側で、またはもう一方の側におけるすべての方向の光束を測定する積分球測定装置を用いて、この光透過と反射を測定した。
【0062】
【表3】

【0063】
【表4】

【0064】
強化後の実施例1および2の多層物は、ヘーズまたは腐食ピッティング無しで極めて良好な光学的品質を呈し、評点+++を獲得する。
【0065】
このグレージング構成物の測色的挙動は、下記の表4に示すように入射角に関して比較的小さな変化を示す。表4には、種々の入射角に対する外部反射における外観の変化(強化および非強化グレージング構成物の間で計算された。)が表される。
【0066】
【表5】

【0067】
さらに、aおよびbは、入射角によってわずかしか変化せず、また、観察者が通常の入射角より移動したときにも外観における変化を制限する方向でしか変化しない。これによって、強化可能性の基準はさらに良好に充たされる。このことは、特に観察の全ての角度で同一の色を見ることが望まれる大きなグレージングユニットの生産において、評価される利点である。
【0068】
(比較例1)
これは、この2つの金属ブロッキング層がニッケル−クロムでできている文献WO 01/40131の多層物である。これは、Ti層(d)を1.2nmの厚さのNiCr層により置き換えることを除いて、実施例1と同一である。
【0069】
この多層物は、これを前の実施例で行われたように強化熱処理にかけたとき、4%以上の、本発明により観察される変化の2倍以上である、ほぼ5%の光透過変化を呈する。
【0070】
(比較例2)
これは、金属層(b)および(d)の両方がチタンでできている比較例1の多層物と類似のものである。
【0071】
この多層物は、加熱後強い均一なヘーズといくつかの腐食ピットを示し、−−−評点を受ける。
【0072】
積分球を用いて測定される光透過の変化は、許容可能であるが、ヘーズ効果を与える強い散乱により入射方向で測定すると光透過はかなり低下する。
【0073】
(実施例3)
本発明のこの実施例は、金属層(b)および(d)が反転され、チタン層が下部層となり、ニッケル−クロム層が上部層となるという事実により実施例1と異なる。
【0074】
この多層物は、強化熱処理を受ける場合には次の光学的変化を生じる。
【0075】
【表6】

【0076】
この強化多層物は許容可能な光学的品質を有し、軽度のヘーズを呈し、++評点を獲得する。
【0077】
この実施例を実施例1と比較すると、酸素に対する低親和性の金属を下部層として、および酸素に対して高親和性の金属を上部層として配置することが好ましいということが示される。
【0078】
(実施例4)
本発明のこの実施例は、金属層(d)が厚さ1.5nmのニオブでできているという事実により実施例1と異なる。
【0079】
この多層物は下記:
ガラス/Si(37)/NiCr(3.2)/Ag(7)/Nb(1.5)/Si(54)
である。
【0080】
この光学的変化を下記の表6に示す。
【0081】
【表7】

【0082】
この多層物は、加熱後いかなるヘーズまたは腐食ピットも無く極めて良好な光学的品質を示し、+++評点を獲得する。
【0083】
(比較例3)
これは、この2つの金属ブロッキング層がニオブでできている文献WO 97/48649の多層物である。これは、層(b)および(d)が0.7と2nmの間の厚さのNbでできているということを除いて、実施例1と同一である。
【0084】
加熱後、この多層物は強い均一なヘーズといくつかの腐食ピットを示し、−−−評点を受ける。
【0085】
積分球を用いて測定される光透過の変化は許容可能であるが、ヘーズ効果を与える強い散乱により入射方向で測定すると光透過はかなり低下する。
【0086】
これらの実施例は、異なる金属でできている2つの金属層を選択することにより、この銀のいずれかの側で異なる厚さの同一の金属または合金を用いる多層物よりも相当な改善が行われるということを示す。
【0087】
これらの実施例は、本発明を限定した方法で説明したものと見なされるべきでなく、
本発明は、別の機能性層を、およびいくつかの機能性層をも使用する多層物にも当てはまる。
【0088】
勿論、当業者ならば、特許請求の範囲に定義されるような本特許の範囲から逸脱せずに、本発明の異なる実施態様を生み出す能力がある。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
薄膜多層物が設けられた、特にガラスでできている、少なくとも1つの透明基板を含んでなり、
前記薄膜多層物は、前記基板から出発して下記の順序で、
(a)酸素の拡散に対するバリアーとして作用し、窒化ケイ素から選択されるバリアー層を含んでなる第1の絶縁層、
(b)金属または金属合金Xからできている下部安定化層、
(c)赤外光および/または太陽光において反射性能を有する機能性層、特に金属層、
(d)金属または金属合金Yでできている上部金属ブロッキング層、
(e)酸素の拡散に対するバリアーとして作用し、窒化ケイ素から選択されるバリアー層を含んでなる第2の絶縁層、および
(f)場合によって保護酸化物層
を少なくとも含んでなり、
前記多層物において、前記下部安定化層の金属または合金Xは前記上部ブロッキング層の金属または合金Yと異なる
グレージング構成物。
【請求項2】
前記絶縁層(a)および(e)の厚さが、それぞれ少なくとも5nm、特に15と70nmの間、であることを特徴とする、請求項1に記載のグレージング構成物。
【請求項3】
前記金属下部安定化層(b)、前記上部金属層(d)それぞれが、チタン、ニッケル、クロム、ニオブ、ジルコニウム、タンタル、アルミニウムまたはこれらの金属の少なくとも1つを含有する金属合金から選択されるそれぞれ金属または合金X、Yからできていることを特徴とする、請求項1から2のいずれか一項に記載のグレージング構成物。
【請求項4】
前記金属下部安定化層(b)がニッケル−クロム合金でできていることを特徴とする、請求項3に記載のグレージング構成物。
【請求項5】
前記層(b)の厚さが1から6nmの間であることを特徴とする、請求項1から4のいずれか一項に記載のグレージング構成物。
【請求項6】
前記層(c)が銀、チタン、パラジウムまたは金をベースとする金属層であることを特徴とする、請求項1から5のいずれか一項に記載のグレージング構成物。
【請求項7】
前記層(c)が6から12nmの厚さを有することを特徴とする、請求項6に記載のグレージング構成物。
【請求項8】
前記上部金属ブロッキング層(d)がチタン、ジルコニウム、ニオブおよびアルミニウムから選択される金属Yからできていることを特徴とする、請求項3に記載のグレージング構成物。
【請求項9】
前記層(d)の厚さが6nm未満であることを特徴とする、請求項1から8のいずれか一項に記載のグレージング構成物。
【請求項10】
前記層(b)の厚さが前記層(d)の厚さよりも大きいことを特徴とする、請求項1から9のいずれか一項に記載のグレージング構成物。
【請求項11】
前記絶縁被膜の少なくとも1つ(特に各々)が1つまたはそれ以上の金属酸化物をベースとする層を含んでなるものであり得ることを特徴とする、請求項1から10のいずれか一項に記載のグレージング構成物。
【請求項12】
Zn、Al、Ti、Sn、Zr、Nb、W、Taから選択される少なくとも1つの金属の酸化物をベースとする外層(f)を含んでなることを特徴とする、請求項1から11のいずれか一項に記載のグレージング構成物。
【請求項13】
前記多層物が、ガラス上に、配列:
.../窒化ケイ素(a)/ニッケル−クロム(b)/Ag(c)/チタン(d)/窒化ケイ素(e)/...
を含んでなることを特徴とする、請求項1から12のいずれか一項に記載のグレージング構成物。
【請求項14】
前記多層物が、配列:
.../窒化ケイ素/ニッケル−クロム/Ag/チタン/窒化ケイ素/ニッケル−クロム/Ag/チタン/窒化ケイ素/...
を含んでなることを特徴とする、先行請求項13に記載のグレージング構成物。
【請求項15】
別の基板が載せられて、二重のグレージング構成物となり前記ユニットが40と70%の間の光透過性を有することを特徴とする、請求項1から14のいずれか一項に記載のグレージング構成物。
【請求項16】
ソーラーファクターに対する光透過の比T/SFが、1.25と1.45の間に選択的に定められていることを特徴とする、請求項1から15のいずれか一項に記載のグレージング構成物。
【請求項17】
反射において青緑色を有することを特徴とする、請求項1から16のいずれか一項に記載のグレージング構成物。
【請求項18】
前記基板が、前記薄膜多層物が設けられた後、500℃以上で曲げ、強化またはアニールタイプの熱処理を受け、特に多くとも3%の、好ましくはほぼ2%の、平均光透過変化ΔTがこの熱処理により誘起され、および/または反射において多くとも3の、特に2.5の測色的応答の平均変化ΔEがこの熱処理により誘起されることを特徴とする、請求項1から17のいずれか一項に記載のグレージング構成物。
【請求項19】
熱処理を受けた少なくとも1つのグレージング構成物と、熱処理を受けていない少なくとも1つのグレージング構成物を含んでなるグレージング済ユニットの製造への請求項1から18のいずれか一項に記載のグレージング構成物の適用。
【請求項20】
請求項1から18のいずれか一項に記載のいくつかのグレージング構成物を組み込んだグレージング済ユニット。
【請求項21】
熱処理を受けた少なくとも1つのグレージング構成物と、熱処理を受けていない少なくとも1つのグレージング構成物を組み込んでいる、請求項20に記載のグレージング済ユニット。

【公表番号】特表2007−516144(P2007−516144A)
【公表日】平成19年6月21日(2007.6.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−516329(P2006−516329)
【出願日】平成16年6月25日(2004.6.25)
【国際出願番号】PCT/FR2004/001622
【国際公開番号】WO2005/000761
【国際公開日】平成17年1月6日(2005.1.6)
【出願人】(399052888)サン−ゴバン グラス フランス (23)
【Fターム(参考)】