説明

赤外線カメラによる構造物の調査方法、構造物の温度環境監視システム、構造物の撮影時期報知システム、構造物の試験体

【課題】
赤外線調査法による調査を正確に行うことができる時期を確定できるようにし、調査に伴う無駄なコストを削減し、調査結果の信頼性を向上させる。
【解決手段】
試験体の空洞部とコンクリート充填部の表面温度差を用いて調査対象の損傷部と健全部の表面温度差を予測し、その予測結果に基づいて赤外線調査を行う。また通信によって遠隔地に各種温度データを送信し、遠隔地にいる調査員に対して調査対象の撮影終了時期を報知する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コンクリート、タイルなどの構造物の内部の損傷状態を赤外線カメラによって調査する方法に関し、また構造物や構造物に模して造られた試験体の表面温度を監視しつつ、赤外線カメラによる撮影時期を報知するシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
橋梁、高架に代表されるコンクリート構造物は、それ自体の劣化に加え長年の間に気象変化、地盤の変化や荷重負荷の影響を受ける。これらが収集され、悪条件が重なった時点でコンクリート構造物の部分的な破壊や、剥離などが発生し、第三者に対する被害や事故に繋がるおそれがある。
【0003】
そこでコンクリート構造物の剥落を未然に防止するために、コンクリート構造物の継続的な点検と監視が必要とされている。
【0004】
現在、コンクリート構造物の点検手法として打音調査法が広く実施されている。
【0005】
しかし打音調査法は、人間が調査対象部位を実際に叩いて損傷状態を調査するものであり、コンクリート構造物への接近が必要となる。しかし、実際には高架下の道路、鉄道、河川等の交差条件で容易に接近することが困難なところが多く、調査面積も大きい。
【0006】
このため打音調査法は、交通規制、処理能力、費用等の効率性の面で解決すべき課題が残されている。また打音調査法は、経験や勘に左右され、正確な調査を行うことは難しい。
【0007】
そこで、近年、コンクリート構造物へ接近しなくて済み、広範囲な調査を高効率に行うことができることから、赤外線調査法が、打音点検必要箇所を抽出する補助点検法として、研究されている。
【0008】
赤外線調査法は、赤外線カメラによってコンクリート表面温度を測定し、その温度差により、損傷のない健全部と損傷部を判別するものである。
【0009】
赤外線調査法の原理について図1、図2を参照して説明する。
【0010】
図1(a)、(b)に環境の温度変化に伴うコンクリート中の熱流と温度変化の模式図を示す。
【0011】
図1(a)に示すように、コンクリート構造物1の表層部近傍の空隙などの損傷部2が熱流に対する断熱槽となるため、昼間など、外気温がコンクリートよりも高温で熱流がコンクリート表面から内部に向かう場合には、損傷部2付近の表面は高温領域となり、健全部3は低温領域となる。一方、夜間など、熱流がコンクリート内部から表面に向かう場合には、損傷部2は低温領域となり、健全部3は高温領域となる。
【0012】
図2は、コンクリート高架橋における外気温、健全部3、損傷部2の1日の温度変化を例示している。
【0013】
図2において、健全部3と損傷部2の温度差が所定値以上になった時期に、赤外線カメラでコンクリート構造物1の調査対象部位の表面を撮影すれば、温度差のあるコンクリート構造物表面の温度分布の画像を得ることができ、調査対象部位に損傷があると判定することができる。
【0014】
しかし健全部3と損傷部2の温度差は、調査対象部位の環境条件、つまり場所、季節、時間帯などによって左右される。
【0015】
このため赤外線調査法を行うべく、現地に赴いて赤外線カメラで撮影しても、その撮影時点で健全部3と損傷部2の温度差が小さいために、実際にはコンクリート構造物内部に損傷があるにもかかわらず、異常なしと誤判定することがある。このため調査に伴うコストが無駄になるばかりか、調査結果の信頼性に欠けるものになっていた。
【0016】
また赤外線調査法は、打音点検必要箇所を抽出する補助点検法であることから、打音調査を行うべきか否か、各箇所の打音調査の優先度を正確に判断できなければならない。
【0017】
すなわちコンクリート構造物内部の損傷部2の深さ、形状によっては、打音調査法を実施し叩くことによって損傷が進行し、剥離時期が早まることがある。すなわち赤外線調査法実施の結果、構造物内部に異常ありと判定されたことをもって、一律に打音調査法を実施した場合、表面のコンクリートを叩き落とすことができればよいが、叩き落とされないまま却って損傷が進行し、剥落により第三者への被害を招くおそれがある。また赤外線調査法実施の結果、構造物内部に異常ありと判定されたことをもって、一律に打音調査法を実施することにすると、その調査面積や位置によっては、調査に多大な時間と労力を要し、効率的な点検を行うことができない。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0018】
本発明はこうした実状に鑑みてなされたものであり、赤外線調査法による調査を正確に行うことができる時期を確定できるようにし、調査に伴う無駄なコストを削減し、調査結果の信頼性を向上させることを解決課題とするものである。
【0019】
赤外線調査法に関する一般技術水準を示す文献として下記非特許文献1がある。
【0020】
この非特許文献1には、模擬的な欠陥(損傷部)を有する試験片を作成し、この試験片をコンクリート構造物の表面に貼着し、赤外線カメラによってコンクリート構造物表面の温度分布と試験片の温度分布を撮影し、その対比結果から赤外線調査法を実施すべき時期を判定するという発明が記載されている。
【0021】
しかし非特許文献1に開示された技術は、コンクリート構造物に接近して試験片を貼着しなければならない。また調査対象部位が複数ある場合には各調査対象部位毎に試験片を貼着しなければならない。このため打音調査法と同様に、構造物接近に伴う問題点が発生するとともに、各調査対象部位に試験片を設置しなければならないため作業に要する労力が膨大なものとなり作業の効率が低下する。
【0022】
すなわち上記非特許文献1に開示された技術によっては、本発明の解決課題を達成することができない。
【非特許文献1】住友大阪セメント株式会社のパンフレット「赤外線サーモグラフィを用いた非破壊検査技術」
【課題を解決するための手段】
【0023】
第1発明は、
赤外線カメラによって構造物の表面を撮影し、撮影した構造物表面の温度分布に基づいて構造物内部の損傷状態を調査するようにした赤外線カメラによる構造物調査方法において、
内部に損傷を含む損傷部と内部に損傷を含まない健全部とを有する試験体と、前記試験体の表面のうち損傷部の表面温度を検出する損傷部用温度センサと、前記試験体の表面のうち健全部の表面温度を検出する健全部用温度センサと、構造物の所定部位の表面温度を検出する構造物用温度センサと、を用意し、
前記構造物用温度センサの検出温度と前記健全部用温度センサの検出温度が略同一となるような位置に前記試験体を配置し、
前記損傷部用温度センサの検出温度と前記健全部用温度センサの検出温度の差が所定値以上である時期に、赤外線カメラによって構造物の調査対象部位を撮影すること
を特徴とする。
【0024】
第1発明を図15、図16を用いて説明する。
第1発明よれば、試験体60、60′の設置場所を探す際には、試験体60、60′を調査対象である構造物20の周辺の適当な場所に配し、健全部用温度センサ62と構造物用温度センサ63の温度データを比較する。そしてその場所における両温度データが略同一となるようであれば、その場所に試験体60、60′を設置する。そして試験体60、60′の損傷部用温度センサ61と健全部用温度センサ62の温度差が所定値以上になった時期に、赤外線カメラによって、調査対象部位21、23を撮影する。
【0025】
第2発明は、
赤外線カメラによって構造物の表面を撮影し、撮影した構造物表面の温度分布に基づいて構造物内部の損傷状態を調査するようにした赤外線カメラによる構造物調査方法において、
内部に損傷を含む損傷部と内部に損傷を含まない健全部とを有する試験体と、前記試験体の表面のうち損傷部の表面温度を検出する損傷部用温度センサと、前記試験体の表面のうち健全部の表面温度を検出する健全部用温度センサと、外気を検出する外気温度センサと、を用意し、
前記試験体を構造物周辺に設置し、
赤外線カメラによって構造物の表面を撮影し、
前記損傷部用温度センサの検出温度と前記健全部用温度センサの検出温度との差と、前記外気温度センサの検出温度と所定時間前の前記外気温度センサの検出温度との差と、を用いて、構造物の損傷部の表面温度と健全部の表面温度との差を予測し、
予測した温度差が所定値を下回った時点で、赤外線カメラによる構造物の撮影を終了すること
を特徴とする。
【0026】
第3発明は、第2発明において、
構造物の所定部位の表面温度を検出する構造物用温度センサを用意し、
前記構造物用温度センサの検出温度と前記健全部用温度センサの検出温度が略同一となるような位置に前記試験体を設置すること
を特徴とする。
【0027】
第4発明は、第2発明において、
赤外線カメラによる構造物の撮影前に、赤外線カメラによって前記試験体の損傷部表面および健全部表面を撮影し、赤外線カメラによって損傷部および健全部を区別できた時点における前記損傷部用温度センサの検出温度と前記健全部用温度センサの検出温度との差を記憶し、この記憶した温度差を前記所定値とすること
を特徴とする。
【0028】
第2、第3、第4発明を図15、図16を用いて説明する。
赤外線カメラによる調査にあたり、内部に損傷を含む損傷部と内部に損傷を含まない健全部とを有する試験体60、60′と、試験体60、60′の表面のうち損傷部の表面温度を検出する損傷部用温度センサ61と、試験体の表面のうち健全部の表面温度を検出する健全部用温度センサ62と、外気の温度を検出する外気温度センサ71を用意する。また構造物20の所定部位の表面温度を検出する構造物用温度センサ63を用意する。
【0029】
試験体60、60′の設置場所を探す際には、試験体60、60′を調査対象20の周辺の適当な場所に配し、健全部用温度センサ62と構造物用温度センサ63の温度データを比較する。そしてその場所における両温度データが略同一となるようであれば、その場所に試験体60、60′を設置する。
【0030】
赤外線カメラによる撮影前に、赤外線カメラによって試験体60、60′を撮影し、赤外線カメラで試験体60、60′の損傷部と健全部が区別できた時点での温度センサ61、62の温度差tdを記憶する。この温度差tdは、赤外線カメラによる撮影画像で区別可能な温度差の限界値である。
【0031】
赤外線カメラによる構造物20の撮影中は、損傷部用温度センサ61の検出温度と健全部用温度センサ62の検出温度との差と、外気温度センサ71の検出温度と所定時間前の外気温度センサ71の検出温度との差と、を用いて、構造物の損傷部の表面温度と健全部の表面温度との温度差(t)を予測する。予測した温度差(t)が記憶した温度差tdを下回ると、赤外線カメラの撮影画像では両者の区別ができなくなる可能性がある。よってこの時点で赤外線カメラによる撮影時期が終了したと判断し、赤外線カメラによる調査を終了する。
【0032】
第5発明は、
赤外線カメラによって構造物の表面を撮影し、撮影した構造物表面の温度分布に基づいて構造物内部の損傷状態を調査するに際して、構造物の温度環境を監視する構造物の温度環境監視システムにおいて、
内部に損傷を含む損傷部と内部に損傷を含まない健全部とを有する構造物の試験体と、
前記試験体の表面のうち損傷部の表面温度を検出する損傷部用温度センサと、
前記試験体の表面のうち健全部の表面温度を検出する健全部用温度センサと、
外気の温度を検出する外気温度センサと、
前記各温度センサの検出温度に係る温度データを通信回線を介して送信する送信手段と、
前記温度データを受信する受信手段と、
前記受信手段で受信した温度データをモニタするモニタ手段と、を備えたこと
を特徴とする。
【0033】
第6発明は、第5発明において、
前記損傷部用温度センサの検出温度と前記健全部用温度センサの検出温度との差と、前記外気温度センサの検出温度と所定時間前の前記外気温度センサの検出温度との差と、を用いて、構造物の損傷部の表面温度と健全部の表面温度との差を予測する温度差予測手段を備え、
前記予測手段で予測した温度差を前記モニタ手段でモニタすること
を特徴とする。
【0034】
第5、第6発明を図15、図16、図17を用いて説明する。
試験体60、60′は、内部に損傷を含む損傷部12と内部に損傷を含まない健全部13とを有する。損傷部用温度センサ61は、試験体60、60′の表面のうち損傷部12の表面温度を検出する。健全部用温度センサ62は、試験体60、60′の表面のうち健全部13の表面温度を検出する。外気温度センサ71は、外気の温度を検出する。送信手段69は、各温度センサ61、62、71で検出された温度データを通信回線85を介して受信手段80に送信する。モニタ手段80aは各温度データを表示する。
【0035】
温度差予測手段80は、損傷部用温度センサ61の検出温度と健全部用温度センサ62の検出温度との差と、外気温度センサ71の検出温度と所定時間前の外気温度センサ71の検出温度と、を用いて、構造物20の損傷部の表面温度と健全部の表面温度との差を予測する。モニタ手段80aはこの予測結果も表示する。
【0036】
第7発明は、
赤外線カメラによって構造物の表面を撮影し、撮影した構造物表面の温度分布に基づいて構造物内部の損傷状態を調査するに際して、構造物の撮影終了時期を報知する構造物の撮影時期報知システムにおいて、
内部に損傷を含む損傷部と内部に損傷を含まない健全部とを有する構造物の試験体と、
前記試験体の表面のうち損傷部の表面温度を検出する損傷部用温度センサと、
前記試験体の表面のうち健全部の表面温度を検出する健全部用温度センサと、
外気の温度を検出する外気温度センサと、
赤外線カメラで検出が可能な温度差を記憶する温度差記憶手段と、
前記損傷部用温度センサの検出温度と前記健全部用温度センサの検出温度との差と、前記外気温度センサの検出温度と所定時間前の前記外気温度センサの検出温度との差と、を用いて、構造物の損傷部の表面温度と健全部の表面温度との差を予測する温度差予測手段と、
前記温度差予測手段で予測した温度差が前記温度差記憶手段で記憶した温度差を下回った時点で撮影終了信号を出力する終了信号出力手段と、
前記撮影終了信号を入力した時点で赤外線カメラの撮影可能時期が終了したことを報知する終了時期報知手段と、を備えたこと
を特徴とする。
【0037】
第8発明は、第7発明において、
前記損傷部用温度センサおよび前記健全部用温度センサから前記温度差予測手段に通信回線を介して検出温度に係る温度データを伝送する通信手段を備えたこと
を特徴とする。
【0038】
第9発明は、第7発明において、
前記終了時期報知手段は携帯自在な電子通信機器を含み、
前記温度差予測手段から前記電子通信機器に通信回線を介して撮影終了信号を伝送する通信手段を備えたこと
を特徴とする。
【0039】
第7、第8、第9発明を図15、図16、図17を用いて説明する。
試験体60、60′は、内部に損傷を含む損傷部12と内部に損傷を含まない健全部13とを有する。損傷部用温度センサ61は、試験体60、60′の表面のうち損傷部12の表面温度を検出する。健全部用温度センサ62は、試験体60、60′の表面のうち健全部13の表面温度を検出する。外気温度センサ71は、外気の温度を検出する。
【0040】
温度差予測手段80は、損傷部用温度センサ61の検出温度と健全部用温度センサ62の検出温度との差と、外気温度センサ71の検出温度と所定時間前の外気温度センサ71の検出温度と、を用いて、構造物20の損傷部の表面温度と健全部の表面温度との差を予測する。
【0041】
赤外線カメラによる撮影前には、赤外線カメラによって試験体60、60′が撮影され、赤外線カメラで試験体60、60′の損傷部と健全部が区別できた時点での温度センサ61、62の温度差tdを記憶する。この温度差tdは、赤外線カメラによる撮影画像で区別可能な温度差の限界値である。
【0042】
予測した温度差(t)が記憶した温度差tdを下回ると、赤外線カメラの撮影画像では両者の区別ができなくなる可能性がある。よって終了信号出力手段80は、この時点で赤外線カメラによる撮影時期が終了したと判断し、撮影終了信号を出力する。終了時期報知手段81は撮影終了信号を入力し、赤外線カメラの撮影可能時期が終了したことを警告音、警告灯、警告メッセージなどで報知する。
【0043】
試験体60、60′から温度差予測手段80へは通信回線85で温度データが送信され、終了信号出力手段80から終了時期報知手段81へは通信回線85で撮影終了信号が送信される。
【0044】
第10発明は、
赤外線カメラによって構造物の表面を撮影し、撮影した構造物表面の温度分布に基づいて構造物内部の損傷状態を調査するに際して使用され、構造物表面の温度分布が調査に適した状態にあるか否かを判別するために構造物に模して造られ、内部に損傷を含む損傷部と内部に損傷を含まない健全部とを有する構造物の試験体において、
前記損傷部の表面温度を検出する損傷部用温度センサと、
前記健全部の表面温度を検出する健全部用温度センサと、
構造物の所定部位の表面温度を検出する構造物用温度センサと、
前記損傷部用温度センサと前記健全部用温度センサと前記構造物用温度センサの検出温度に係る温度データを通信回線を介して送信するデータ送信部と、
前記損傷部用温度センサと前記健全部用温度センサと前記構造物用温度センサの検出温度に係る温度データを記録するデータ記録部と、
表面の湿気を検出する湿気検出部と、を備えたこと
を特徴とする。
【発明の効果】
【0045】
本発明によれば、試験体の損傷部と健全部の表面温度差を検出しているため、調査対象である構造物の温度差が所定値以上になっている時期に撮影することが可能となり、正確な調査結果を得ることができる。しかも試験体は、調査対象部位とは異なる場所に設置すればよく、打音調査法のように調査対象の構造物に接近する必要がないので、効率的に作業を行うことができる。
【0046】
本発明によれば、赤外線調査法による調査を正確に行うことができる時期を確定できるので、調査に伴う無駄なコストを削減することができるとともに、調査結果の信頼性を向上させることができる。
【0047】
特に第1、第3発明によれば、試験体が構造物の温度環境と等しい温度環境に設置される。このため試験体で得られる温度データの信頼性が向上する。
【0048】
また第2、第6、第7発明によれば、構造物の損傷部と健全部の表面温度差が予測される。このため赤外線カメラによる撮影時期がより適切になる。
【0049】
また第5、第8発明によれば、試験体の温度データが通信を介して送信される。つまり遠隔地で温度データを確認することが可能になる。調査員はこの温度データに基づいて、適切なタイミングで現場に赴き調査を開始すればよい。よって調査員が作業現場に待機する時間が短縮され、作業効率がさらに向上する。
【0050】
また第7発明によれば、構造物の損傷部と健全部に表面温度差がでない時期になると赤外線カメラによる撮影終了時期が報知される。すると調査員は適切なタイミングで赤外線カメラによる撮影終了時期を終了できる。よって無駄な調査が無くなり、コストがさらに低下し信頼性がさらに向上する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0051】
以下図面を参照して本発明に係る実施形態について説明する。
本実施形態では、調査対象となる構造物に模して内部に空洞部(損傷部)とコンクリート充填部(健全部)を含むコンクリート製の試験体を造り、試験体の空洞部の表面温度とコンクリート充填部の表面温度の差を参照して構造物の赤外線調査の時期を判断している。試験体の空洞部とコンクリート充填部の表面温度差がある程度以上あるのであれば、実際の構造物の損傷部と健全部も同じように表面温度差があるはずである。構造物の損傷部と健全部に表面温度差があれば、赤外線カメラで撮影した温度分布によって損傷部と健全部を区別できる。このような理由から、本発明では試験体の空洞部と充填部を表面温度差を計測している。
【0052】
ところで、本発明は以前本発明者が出願した「赤外線カメラによる構造物調査方法(特願2003−376932号)」の実施形態を改良して得られたものである。本発明を説明するうえで、特願2003−376932号の実施形態を説明することは有用である。そこで、特願2003−376932号の実施形態を実施例1として説明し、実施例1を改良した本実施形態を実施例2として説明する。実施例1では構造物に含まれる損傷が「空洞」である場合を想定している。実施例2では構造物に含まれる損傷が「浮き・剥離」である場合を想定している。
【実施例1】
【0053】
[試験体の構造]
図3は、赤外線調査法の実施時期を判断するために用いられる試験体10の外観を示す。
【0054】
試験体10は、内部に損傷部2としての空洞12を有するコンクリートからなる立方体11と、このコンクリート立方体11を表面11a(撮影面)を残して覆うように設けられた断熱材14と、コンクリート立方体11の内部の空洞部12(損傷部2)と空洞部12以外のコンクリート充填部13(健全部3)のそれぞれに対応する場所に埋め込まれた温度センサ15、16と、コンクリート立方体11内部に設けられた鉄筋17とからなる。
【0055】
コンクリート構造物における「剥離」、「浮き」といった現象は、鉄筋が腐食して膨脹し、コンクリートと鉄筋との付着が切れている状態をいい、このような状態に至った箇所が剥落する場合が多い。
【0056】
そこで空洞部12は、鉄筋17の直近にあってコンクリート立方体11の表面11a側に設けた。
【0057】
温度センサ15、16は、たとえばサーミスタ型小型デジタル温度計を使用した。コンクリート立方体11の表面11aのうち空洞部12に対応する部分を削りとり、温度センサ15の温度検出部を埋め込みコンクリート用ボンドで接着した。同様にコンクリート立方体11の表面11aのうちコンクリート充填部13に対応する部分を削りとり、温度センサ16の温度検出部を埋め込みコンクリート用ボンドで接着した。
【0058】
試験体10は、調査員が一人で移動可能な大きさ、重さに設定することが望ましい。
【0059】
しかし試験体10を小型化すると、実際の橋梁などのコンクリート構造物1とは異なった温度変化を示す。このため試験体10を実際の橋梁などに近づけるために、撮影面11a以外の面をファイバグラス、天然ゴム、木材等の断熱材14で覆うようにしている。断熱材14は、たとえば熱伝導率が0.05W/m・Kのファイバグラスを使用することができる。
【0060】
[試験体の設置場所]
図4は試験体10の設置場所を示している。
【0061】
実施形態では、橋梁20が調査対象であり、橋梁20の壁高欄部21、土台部22のそれぞれを各調査対象部位として調査する場合を想定している。
【0062】
試験体10は、橋梁20の各調査対象部位21、22と同じ環境条件であって、各調査対象部位21、22とは異なる場所に設置される。
【0063】
橋梁20の壁高欄部21は比較的日射が多く風通しの良い環境条件であるため、壁高欄部21の調査時期を判断するための試験体10は、橋梁20の近くであって同じように日射が多く風通しの良い地面に設置される。また橋梁20の土台部22は比較的日射が少なく風通しの悪い環境条件であるため、土台部22の調査時期を判断するための試験体10′は、橋梁20の近くであって同じように日射が少なく風通しの悪い地面に設置される。
【0064】
以上のようにして調査時期を判断するための設備が用意が整うと以下のような手順で調査時期が判断される。
【0065】
[赤外線調査法を実施する季節、時間帯の決定]
図1、図2で説明したように、調査対象部位における損傷部2と健全部3の温度差が所定値以上になったときに、赤外線調査法による調査を正確に行うことができる。
【0066】
しかし年間を通して、損傷部2と健全部3の温度差は、変化し、温度差が比較的大きくなる季節もあれば、温度差が比較的小さくなる季節もある。加えて1日の中でも温度差が比較的大きくなる時間帯もあれば、温度差が比較的小さくなる時間帯もある。
【0067】
そこで試験体10、10′の温度センサ15、16で検出される温度のデータを年間を通して収集し、それらを分析して、コンクリート充填部13(健全部3)と空洞部12(損傷部2)の温度差と、季節、時間帯との対応関係のデータを予め取得する。試験体10、10′の温度センサ15、16で検出されるコンクリート充填部13と空洞部12の温度差が所定値以上となっている季節、時間帯であれば、その試験体10、10′とそれぞれ同じ環境条件となっている調査対象部位21、22の健全部3と損傷部2も同じく所定値以上の温度差になっていると考えられ、その季節、時間帯に赤外線調査法を行えば、正確な調査結果が得られる。
【0068】
図5(a)、(b)、(c)、(d)は、試験体10の温度センサ15、16で検出される1日の温度推移を、季節毎に示している。
【0069】
1日の日較差(1日における最小温度と最大温度の差)が大きい(10゜C以上)と、損傷部2と健全部3の温度差が大きくなり、経験的には赤外線調査に適するといわれている。
【0070】
しかし同図5に示すように、外気温の検出結果から日較差が10゜C以上あっても季節によってコンクリート充填部13(健全部3)と空洞部12(損傷部2)の温度差の顕れ方に違いがみられるのがわかる。冬(12〜2月)の場合には、昼間の温度差が0.5゜C付近で推移している一方、春(3〜5月)、秋(9〜11月)の温度差は約1.0゜C付近で推移している。これは日較差のみならず、風通し、風速などの環境の諸条件が温度差に影響を与えているからである。
【0071】
このようなデータを収集して、調査可能な季節と時間帯の対応関係のデータを、たとえば図6の表に示すように取得する。
【0072】
同図6に示すように、冬(12〜2月)の昼間であれば、3時間しか調査が可能にならないのに対して、春(3〜5月)の昼間は、6時間、調査が可能であり、春の昼間の方が長時間の調査に適していると判断することができる。
【0073】
調査者は、図6に示すデータから、温度差が所定値以上になっている季節、時間帯であって、現場に赴くのに都合のよい季節、時間帯を決定する。
【0074】
この結果、温度差が所定値よりも小さくなっている可能性が高く調査に適していない季節、時間帯に現場に赴くことを回避することができるので、無駄な調査費用の支出を抑制することができる。
【0075】
[現地での温度差の確認]
ただし、実際に現場に赴いても、降雨等の影響によって温度差が小さくなっており調査に適していないこともある。したがって現地に赴いた場合には、調査前に試験体10の温度センサ15、16の検出値のデータを取得し、温度差が所定値以上になったことを確認した上で、赤外線カメラによる撮影を実施することが望ましい。
【0076】
図7は、調査日の外気温、試験体10の温度センサ15、16の検出結果から得られる空洞部12(損傷部2)、コンクリート充填部13(健全部3)の時間変化を示している。空洞部12(損傷部2)とコンクリート充填部13(健全部3)の温度差が所定値以上となる時間帯を調査に適した時間帯と判断する。
【0077】
このような調査に適した時間帯が顕れなかった場合には、調査を延期する。
【0078】
[赤外線カメラによる撮影]
調査者は、試験体10の温度センサ15、16の検出結果から得られる健全部3と損傷部2の温度差が所定値以上になった時間帯に、赤外線カメラによって、その試験体10と同じ環境条件の調査対象部位21を撮影する。
【0079】
同様に調査者は、試験体10′の温度センサ15、16の検出結果から得られる健全部3と損傷部2の温度差が所定値以上になった時間帯に、赤外線カメラによって、その試験体10′と同じ環境条件の調査対象部位22を撮影する。
【0080】
この結果、確実に温度差が所定値以上になっている条件で調査対象部位を撮影することが可能となり、正確な調査結果を得ることができる。しかも試験体は、調査対象部位とは異なる場所に設置すればよく、打音調査法のように調査対象の構造物に接近する必要がないので、効率的に作業を行うことができる。
【0081】
以上のように本実施例によれば、赤外線調査法による調査を正確に行うことができる時期を確定できるので、調査に伴う無駄なコストを削減することができるとともに、調査結果の信頼性を向上させることができる。
【0082】
つぎにコンクリート構造物1の損傷部2の深さおよび形状を判断する方法について説明する。
【0083】
[損傷パターン]
図8は、コンクリート構造物1の損傷部2の深さおよび形状を異ならせた5つの損傷パターン(1)、(2)、(3)、(4)、(5)と打音調査の優先度との対応関係を示している。
【0084】
コンクリート片の落下事故は、鉄筋17が膨脹し表面のコンクリートが剥離することが主要因となり、コンクリート塊が落下するというものである。損傷部2の深さおよび形状の違いによって打音調査の優先度が異なる。
【0085】
損傷パターン(1)は、十分な被りは確保しているが、表面から4cm奥に損傷部2が存在している損傷状況のパターンである。打音調査を行うと、異常音のみで剥落することがない場合である。打音調査の優先度は、「観察」であり、特に急いで打音調査を行う必要はない。
【0086】
損傷パターン(2)は、表面から2cm程度奥に損傷部2が存在している損傷状況のパターンである。打音調査を行うと、損傷部2にかけて穴があき、その後コンクリート片が落下するおそれがある場合である。打音調査の優先度は、「注意」であり、監視しつつ打音調査を実施する必要がある。
【0087】
損傷パターン(3)は、被り深さは損傷パターン(1)と同じく4cmであるが、損傷パターン(1)から損傷が進行し損傷部2の一部がコンクリート表面に向かって45゜の角度で傾斜して表面から2cmに達している損傷状況のパターンである。打音調査を行うと、強打によりコンクリート片が落下する可能性がある。打音調査の優先度は、「注意」であり、監視しつつ打音調査を実施する必要がある。
【0088】
損傷パターン(4)は、被り深さは損傷パターン(2)と同じく2cmであるが、損傷パターン(2)から損傷が進行し損傷部2の一部がコンクリート表面に向かって45゜の角度で傾斜して表面近傍に達している損傷状況のパターンである。打音調査を行うと、強打によりコンクリート片が落下する可能性が高い。打音調査の優先度は、「要注意」であり、打音調査を実施してコンクリート片を事前に落下させてしまう必要がある。
【0089】
損傷パターン(5)は、損傷パターン(3)から損傷が進行し損傷部2の一部が表面近傍に達している損傷状況のパターンである。打音調査を行うと、強打によりコンクリート片が落下する可能性が高い。打音調査の優先度は、「要注意」であり、打音調査を実施してコンクリート片を事前に落下させてしまう必要がある。
【0090】
[FEM解析用モデルの作成]
以上のようにして5つの損傷パターンが定められると、各損傷パターン(1)〜(5)毎にFEM解析用のモデル31〜35が作成される。
【0091】
図9にFEM解析用モデル31を代表させて示す。
【0092】
FEM解析用モデル31は、x軸(コンクリート表面左右方向)、y軸(コンクリート表面上下方向)、z軸(コンクリート表面奥行き方向)の各軸を有する3次元のモデルであり、損傷部2の中心から4分割した斜線で示す部分をモデル化することができる。
【0093】
[試験体の用意、設置]
図3で説明した試験体10、10′が用意され、図4で説明したように実際のコンクリート構造物である橋梁20の各調査対象部位21、22とそれぞれ同じ環境条件の場所に試験体10、10′が設置される。
【0094】
[赤外線カメラによる撮影]
以下、試験体10を代表させて説明する。
【0095】
試験体10の温度センサ15、16で検出される空洞部12(損傷部2)、コンクリート充填部13(健全部3)の各温度の推移を図7に示す。ここで空洞部12(損傷部2)とコンクリート充填部13(健全部3)の温度差が等しい時刻はt0(8:45分)であった。この時刻t0から3時間経過した時刻t1で温度差が0.8゜Cとなり、この時刻t1で赤外線カメラによって調査対象部位21の表面の画像を撮影した。
【0096】
[熱流量の計算、FEM解析]
つぎに、調査者は、試験体10の温度センサ15、16の検出結果から撮影時期t1までに調査対象部位21に与えられた熱流量を計算し、この熱流量を用いて複数の各FEM解析用モデル31〜35毎にFEM解析を実施する。
【0097】
すなわち熱流量を変化させて非定常3次元熱伝導解析にて計算した。ただし空気とコンクリートの間の熱伝導は空気の対流が発生すると同時に空気の温度によって熱伝導率が変化することが、熱伝導率の大きさを一般的に示すことが難しい。
【0098】
そこで、時刻t0から時刻t1までの時間内に物体表面へ空気から伝達される熱流量を変化させて入力し、FEM解析用モデルの空洞部12(損傷部2)、コンクリート充填部13(健全部3)に対応する各表面温度が、図7の時刻t1で検出された各温度になるまで、収束計算を繰り返す。
【0099】
図10に、各FEM解析用モデル31〜35毎に、計算結果を示す。FEM解析用モデル31〜35のコンクリート表面(x−y面)の各メッシュは、温度の大きさに応じた色相(あるいは濃度)として示すことができる。
【0100】
[実際の構造物の損傷状態の判断]
同図10に示すように、各損傷パターン(1)〜(5)の違いに応じて、FEM解析用モデル31〜35のコンクリート表面(x−y面)における色相(あるいは濃度)の顕れ方が異なることがわかる。
【0101】
したがって赤外線カメラによって撮影したコンクリート表面の温度分布つまり色相(あるいは濃度)の分布が、FEM解析用モデル31〜35のうちのいずれかのコンクリート表面(x−y面)の色相(あるいは濃度)の分布に一致していれば、その一致したFEM解析用モデルに対応する損傷パターンが、実際のコンクリート構造物1の損傷状態であると判断することができる。
【0102】
そこで、調査者は、計算した各FEM解析用モデル31〜35毎の表面温度分布(色相(あるいは濃度)分布)と、撮影した調査対象部位21の表面温度分布(色相(あるいは濃度)分布)とを突き合わせる。たとえば図10に示すように、調査対象部位21の撮影画像41が得られたならば、その表面温度分布(色相(あるいは濃度)分布)は、FEM解析用モデル31の表面温度分布(色相(あるいは濃度)分布)に一致しているため、その一致したFEM解析用モデル31に対応する損傷パターン(1)が実際の調査対象部位21の損傷状態であると判断する。同様に調査対象部位21の撮影画像42が得られたならば、それに一致したFEM解析用モデル32に対応する損傷パターン(2)が実際の調査対象部位21の損傷状態であると判断し、また調査対象部位21の撮影画像43が得られたならば、それに一致したFEM解析用モデル33に対応する損傷パターン(3)が実際の調査対象部位21の損傷状態であると判断し、また調査対象部位21の撮影画像44が得られたならば、それに一致したFEM解析用モデル34に対応する損傷パターン(4)が実際の調査対象部位21の損傷状態であると判断し、また調査対象部位21の撮影画像45が得られたならば、それに一致したFEM解析用モデル35に対応する損傷パターン(5)が実際の調査対象部位21の損傷状態であると判断する。この結果、調査者は、実際の調査対象部位21の損傷状態であると判断した損傷パターンから、実際の損傷部2の深さおよび形状を知ることができ、図8に示す損傷パターンと打音調査の優先度の対応関係から、打音調査の優先度を正確に判断することができる。
【0103】
同様に調査者は、他の調査対象部位22についても同様に撮影を行い、同様に各FEM解析用モデル31〜35の計算を行い、各FEM解析用モデル31〜35毎の表面温度分布と、撮影した調査対象部位22の表面温度分布とを突き合わせることで、一致したFEM解析用モデルに対応する損傷パターンを実際の調査対象部位22の損傷状態であると判断することができ、これにより実際の損傷部2の深さおよび形状を知ることができ、更に図8に示す損傷パターンと打音調査の優先度の対応関係から、打音調査の優先度を正確に判断することができる。
【0104】
以上のように本実施例によれば、コンクリート構造物内部の損傷部2の深さ、形状を正確に判断することができ、その判定結果から打音調査を実施すべきか否か、各箇所の打音調査の優先度を正確に判断することができる。しかも従来技術(非特許文献1)のように、損傷部の深さを判定するために撮影を長時間行う必要がないので、作業を効率的に行うことができる。
【0105】
つぎにFEM解析を行うことなく損傷部2の深さおよび形状を判断することができる実施例について説明する。
【0106】
[損傷パターンの定め]
この実施例でも前述した実施例と同様に、損傷状態に応じて5つの損傷パターン(1)〜(5)が定められる。
【0107】
[損傷パターンと温度推移パターンとの対応づけ]
図10の温度折れ線グラフ51〜55は、各FEM解析用モデル31〜35のコンクリート表面(x−y面)におけるy軸方向の温度推移をそれぞれ示している。温度折れ線グラフ51〜55は、損傷部2の中心から健全部3に向けての温度の推移を示したものである。各温度折れ線グラフ51〜55をみると、各FEM解析用モデル31〜35毎に、つまり各損傷パターン(1)〜(5)毎に、温度折れ線グラフの形状および勾配が異なっていることがわかる。
【0108】
すなわち損傷部2の位置から表面から奥に行くにしたがって温度折れ線グラフは緩やかな勾配になる。そして損傷部2の形状が表面に向かって進行してくると、温度折れ線グラフは、釣鐘型から台形型に移行する。これら温度推移の形状、勾配の大きさの特徴から損傷パターンを推察することが可能になる。
【0109】
そこで図10に示すように、5つの損傷パターン(1)〜(5)毎に、各温度推移パターン、つまり各温度折れ線グラフ51〜55の形状および勾配を対応づけておく。また損傷パターンとしては損傷部2が空洞部であるものに限らず、砂すじ、クラックといった損傷状態のものを用意しておいてもよい。
【0110】
たとえば損傷部2が砂すじ、クラックである損傷パターンの場合にも、温度折れ線グラフは、三角型を示す。
【0111】
損傷部2が空洞部である場合の損傷パターン(1)〜(5)、損傷部2が砂すじ、クラックである場合の損傷パターン(6)と、温度折れ線グラフの形状、温度勾配(温度推移パターン)との対応関係をまとめて、図11に示す。たとえば温度推移パターンとして、形状が「釣鐘型」で温度勾配が「10以上」のものが得られた場合には、損傷パターンは(2)であると判断することができる。
【0112】
[赤外線カメラによる撮影]
以上のような準備が整うと、調査者は、前述した実施例と同様に、試験体10の温度センサ15、16の検出結果から得られる健全部3と損傷部2の温度差が所定値以上になった時間帯に、赤外線カメラによって、その試験体10と同じ環境条件の調査対象部位21を撮影する。
【0113】
[撮影結果から温度推移パターンの判定]
そして、撮影結果から調査対象部位21の表面のy軸方向(左右方向)の温度推移を求める。そして、求められた温度推移に一致する温度推移パターンを判定する。
【0114】
図12は赤外線カメラによって撮影した調査対象部位21の表面のy軸方向(左右方向)のラインを、温度折れ線グラフとして示し、その時間変化を例示している。図中各時刻毎に温度折れ線グラフの温度勾配を示している。たとえば時刻11:00では温度折れ線グラフの温度勾配は、11.42となった。
【0115】
なお、たとえば独GORATEC社製・PE Professionalの赤外線画像解析ソフトウエアを利用して、赤外線画像から温度折れ線グラフを作成することができる。
【0116】
図12に示す温度折れ線グラフの形状は、「釣鐘型」であり、温度勾配は「10以上」のものであるので、形状が「釣鐘型」で勾配が「10以上」の図10の温度折れ線グラフ52と同じ温度推移パターンであると判定でき(図11参照)、温度折れ線グラフ52に対応する損傷パターン(2)が、実際の調査対象部位21の損傷状態であると判断することができる。
【0117】
同様に赤外線画像から作成された温度折れ線グラフが、図10の温度折れ線グラフ51と同じ温度推移パターンであると判定されたならば、その温度折れ線グラフ51に対応する損傷パターン(1)が、実際の調査対象部位21の損傷状態であると判断し、また赤外線画像から作成された温度折れ線グラフが、図10の温度折れ線グラフ53と同じ温度推移パターンであると判定されたならば、その温度折れ線グラフ53に対応する損傷パターン(3)が、実際の調査対象部位21の損傷状態であると判断し、また赤外線画像から作成された温度折れ線グラフが、図10の温度折れ線グラフ54と同じ温度推移パターンであると判定されたならば、その温度折れ線グラフ54に対応する損傷パターン(4)が、実際の調査対象部位21の損傷状態であると判断し、また赤外線画像から作成された温度折れ線グラフが、図10の温度折れ線グラフ55と同じ温度推移パターンであると判定されたならば、その温度折れ線グラフ55に対応する損傷パターン(5)が、実際の調査対象部位21の損傷状態であると判断する。
【0118】
また赤外線画像から作成された温度折れ線グラフが、図11に示すように三角型の温度推移パターンであると判定されたならば、その三角形の温度推移パターンに対応する損傷パターン(6)、つまり砂すじ、クラックが、実際の調査対象部位21の損傷状態であると判断する。
【0119】
この結果、調査者は、実際の調査対象部位21の損傷状態であると判断した損傷パターンから、実際の損傷部2の深さおよび形状、あるいは損傷部の種類(空洞部であるか砂すじ、クラックであるか)を知ることができ、図8に示す損傷パターンと打音調査の優先度の対応関係から、打音調査の優先度を正確に判断することができる。
【0120】
なお、この実施例では、前述した実施例と同様に、赤外線カメラによる撮影日を決定し、その撮影日に現場に出向き、特定の時間帯、時刻に撮影を行う場合を想定して説明したが、赤外線カメラを現場に据え付けておき、図12に示すような特定の形状、勾配が得られるまで撮影をし続けるような実施も可能である。
【0121】
同様に調査者は、他の調査対象部位22についても同様に撮影を行い、同様に
赤外線画像から温度折れ線グラフを作成し、この温度折れ線グラフに一致する温度推移パターンに対応する損傷パターンから、実際の調査対象部位22の損傷状態を判断することができ、これにより実際の損傷部2の深さおよび形状あるいは損傷部の種類を知ることができ、更に図8に示す損傷パターンと打音調査の優先度の対応関係から、打音調査の優先度を正確に判断することができる。
【0122】
以上のように本実施例によれば、コンクリート構造物内部の損傷部2の深さ、形状を正確に判断することができ、その判定結果から打音調査を実施すべきか否か、各箇所の打音調査の優先度を正確に判断することができる。しかも従来技術(非特許文献1)のように、損傷部の深さを判定するために撮影を長時間行う必要がないので、作業を効率的に行うことができる。
【実施例2】
【0123】
上述したように、実施例2では構造物に含まれる損傷が「浮き・剥離」である場合を想定している。
【0124】
[損傷が浮き・剥離である場合の実験]
本発明者の経験により、実施例1に関して以下の事象が判明した。調査対象部位の損傷部2が空洞である場合には、試験体10の空洞部12とコンクリート充填部13に表面温度差がでている時間帯は、調査対象部位の損傷部2と健全部3に表面温度差がでている時間帯とほぼ一致する。しかし調査対象部位の損傷部2が浮き・剥離(以下、単に「浮き」という)である場合には、試験体10の空洞部12とコンクリート充填部13に表面温度差がでている時間帯は、調査対象部位の損傷部2と健全部3に表面温度差がでている時間帯よりも若干遅れる。そこで本発明者は浮きに関する以下の実験を行った。
【0125】
実験を行うにあたり、図13(a)、(b)で示されるような2種類の浮きを有する橋梁の模造品95、96を造った。この模造品95、96を「供試体」という。図13(a)で示される供試体95には深さが異なる3つの浮き95a〜95c(深さ1cm、2cm、3cm)が形成されており、浮き95a〜95cは供試体95の内部に存在する。これらの浮き95a〜95cを損傷パターン1という。図13(b)で示される供試体96には深さが異なる3つの浮き96a〜96c(深さ1cm、2cm、3cm)が形成されており、浮き96a〜96cは供試体の表面に達するクラックを有する。これらの浮き96a〜96cを損傷パターン2という。
【0126】
実験室内に試験体10と供試体95、96を設置し、室内温度を実際の気象データに即して変化させ、試験体10の空洞部12の表面温度と健全部13の表面温度と、供試体95のコンクリート充填部分の表面温度と浮き95a〜95cの表面温度と、供試体96のコンクリート充填部分の表面温度と浮き96a〜96cの表面温度と、を測定した。そして空洞部又は浮き部の表面温度とコンクリート充填部の表面温度との温度差を各計測時間毎に求めた。その結果、図14が得られた。図14(a)は損傷パターン1の実験結果を示しており、図14(b)は損傷パターン2の実験結果を示している。なお試験体10の温度差は、空洞部の表面温度からコンクリート充填部分の表面温度を減じて求められており、供試体95、96の温度差は、浮きの表面温度からコンクリート充填部分の表面温度を減じて求められている。
【0127】
図14(a)において、試験体10の空洞部12とコンクリート充填部13に表面温度差がでている時間帯は、供試体95の浮き95a〜95cとコンクリート充填部分に表面温度差がでている時間帯よりも若干遅れていることが判る。また図14(b)においても、試験体10の空洞部12とコンクリート充填部13に表面温度差がでている時間帯は、供試体96の浮き96a〜96cとコンクリート充填部分に表面温度差がでている時間帯よりも若干遅れていることが判る。
【0128】
そこで本実施形態は、試験体の空洞部とコンクリート充填部の表面温度差を用いて調査対象の損傷部と健全部の表面温度差を予測し、その予測結果に基づいて赤外線調査を行うことを特徴の一つとしている。また本実施形態は、通信によって遠隔地に各種温度データを送信することと、遠隔地にいる調査員に対して調査対象の撮影終了時期を報知することも特徴の一つとしている。
【0129】
[システムの全体構成]
図15は構造物の温度環境監視システムおよび撮影時期報知システムの概要を示す図である。
橋梁20の周辺には日向用の試験体60や日陰用の試験体60′が設置される。各試験体60、60′については後述する。橋梁20から離れた遠隔地には調査事務所があり、調査事務所にはモニタ装置80aを備えたパーソナルコンピュータ(以下、単にパソコンという)80が設けられる。赤外線カメラによる調査員は移動式の電子通信機器81を携帯する。電子通信機器81としては、携帯電話、簡易型携帯電話(PHS)、携帯情報端末(PDA)、ラップトップ型のパソコン等が適用可能である。
【0130】
各試験体60、60′とパソコン80は通信手段を介して互いにデータの送受信が可能である。またパソコン80と電子通信機器61は通信手段を介して互いにデータの送受信が可能である。本実施形態では通信手段として、一般に提供されている公衆通信回線85を使用しており、より具体的にはインターネットを利用した電子メールサービスを使用している。各試験体60、60′とパソコン80との間で電子メールの送受信が行われ、パソコン80と電子通信機器81の間で電子メールの送受信が行われる。
【0131】
なお各試験体60、60′とパソコン80と電子通信機器81が、公衆通信回線85を介して互いに通信するのではなく、専用回線を介して互いに通信するようにしてもよく、また、無線で互いに通信するようにしてもよい。
【0132】
[試験体の構成]
次に各試験体60、60′について説明する。
図16(a)は日向用の試験体60の正面図であり、図16(b)は日向用の試験体60の側面図である。なお図3と同一の構成要素には同一の符号を付す。
【0133】
試験体60は、図3で示されるような立方体11と、このコンクリート立方体11を表面11a(撮影面)を残して覆うように設けられた断熱材14と、を有する。また試験体60は各種検出機器として、立方体11の表面11aのうち立方体11内部の空洞部12(損傷部2)に対応する部位に向けられて空洞部12の表面温度を検出する放射温度計61と、立方体11の表面11aのうち立方体11内部のコンクリート充填部13(健全部3)に対応する部位に向けられてコンクリート充填部13の表面温度を検出する放射温度計62と、橋梁20の壁高欄部21に向けられて壁高欄部21の表面温度を検出する構造物用の放射温度計63と、立方体11の表面11aの結露を検出する結露センサ64と、を有する。また試験体60は各種データ管理機器として、放射温度計61、62で検出された温度を記録するデータ記録装置65と、外部の通信機器と各種データを互いに送受信する通信装置66と、通信用のアンテナ67と、を有する。各種電気機器は鉛蓄電池68を電源としている。
【0134】
日向用の試験体60は、橋梁20の横の舗装路上に設けられる場合がある。こうした場所では舗装熱が強く、舗装熱を受けて立方体11の温度が上昇し、立方体11と橋梁20の温度環境が変わる場合がある。舗装熱の影響を回避するために、立方体11は立方体11よりも大きな断熱板69の上に載置される。舗装路から上昇する舗装熱は断熱板69で遮断されるため、立方体11は舗装熱を受けない。試験体60には舗装路上を容易に移動できるように台車が設けられている。
【0135】
図17(a)は日陰用の試験体60′の正面図であり、図17(b)は日陰用の試験体60′の側面図である。試験体60′は試験体60と外観が異なるものの多くの構成要素は共通するため、異なる部分のみを説明する。
【0136】
構造物用の放射温度計63は橋梁20の床版部23に向けられて床版部23の表面温度を検出する。また結露センサ64の代わりに、温湿度センサ71が設けられる。試験体60′は日が当たらないように百葉箱72に収納される。
【0137】
なお図16、図17で示される立方体11には、放射温度計61、62ではなく、図3で示されるような熱電対15、16が設けられていてもよい。しかし放射温度計19を用いる方が熱電対を用いるよりも高精度な計測が可能である。
【0138】
[試験体におけるデータ処理]
図18は日向用の試験体60のブロック図である。
放射温度計61、62は一定時間毎に温度検出を行う。放射温度計61、62で検出された温度データはデータ記録装置65に出力される。データ記録装置65は温度データを記録する。データ記録装置65で記録された温度データや、結露センサ64で検出された結露データや、放射温度計63で検出された温度データは、通信装置66に出力される。通信装置66は、メールリポータ基板66aと通信モジュール66bとDC/DC変換器66cと切換器66dを含む。メールリポータ基板66aはモバイル通信サービスを利用した遠隔監視端末基板であり、温度データおよび結露データを監視する。温度データは電子メールとして通信モジュール66bおよびアンテナ67を介して公衆通信回線85に送信される。またメールリポータ基板66aが立方体11の表面に結露が発生したことを確認した場合は、結露発生を示す電子メールが通信モジュール66bおよびアンテナ67を介して公衆通信回線85に送信される。
【0139】
図19は日陰用の試験体60′のブロック図である。
放射温度計61、62、温湿度センサ71は一定時間毎に温度・湿度検出を行う。放射温度計61、62、温湿度センサ71で検出された温度データと湿度データは、データ記録装置65に出力される。データ記録装置65は温度データと湿度データを記録する。データ記録装置65で記録された温度データと湿度データや、放射温度計63で検出された温度データは、通信装置66に出力される。通信装置66は、メールリポータ基板66aと通信モジュール66bとDC/DC変換器66cと切換器66dを含む。メールリポータ基板66aはモバイル通信サービスを利用した遠隔監視端末基板であり、温度データおよび結露データを監視する。温度データや湿度データは電子メールとして通信モジュール66bおよびアンテナ67を介して公衆通信回線85に送信される。
【0140】
一方、試験体60、60′は公衆通信回線85を介して温度・湿度検出の時間間隔の変更指令を示す電子メールを受信する。メールリポータ基板66bは、アンテナ67および通信モジュールを介して電子メールを受信すると、電子メールの変更指令に応じて放射温度計61、62、温湿度センサ71の温度・湿度検出の時間間隔を変更する。
【0141】
[パソコンにおけるデータ処理]
パソコン80は、公衆通信回線85を介して送信された試験体60、60′の各種データを保存すると共に、下記(1)式を用いて調査対象の損傷部と健全部の表面温度差を所定時間毎に予測演算する。
温度差(t) = B1+B2×試験体温度差(t)+B3×日平均温度+B4×気温階差(t-40)
…(1) ( t :時間(分))
上記(1)式において、試験体温度差(t)とは、時間t時点での試験体60、60′の空洞部12とコンクリート充填部13の表面温度差であり、各試験体60、60′に設けられた放射温度計61、62の検出値によって得られる。日平均温度とは、一日の予想平均温度であり、気象予報や気象データから得られる。気温階差(t-40)とは、時間t時点での気温と時間tの40分前の気温との差であり、試験体60′に設けられた温湿度センサ71の検出値によって得られる。またB1〜B4は非標準化係数であり、図20で示されるように各浮き95a〜95c、96a〜96cに対応して求められている。
【0142】
各非標準化係数は時系列解析の結果求められたものである。図14(a)、(b)の結果を参照すると、試験体10の空洞部12とコンクリート充填部13に表面温度差がでている時間帯と、供試体95、96の損傷部2と健全部3に表面温度差がでている時間帯とには、約40分のラグがある。気温階差の「40分」という時間は、この結果に基づいている。上記(1)式の有意確率は0.05以下である。したがって本発明者は非標準化係数Bを利用することで損傷区別毎の予測式を作成しても問題ないと判断した。
【0143】
またパソコン80は、予め赤外線カメラで検出できる温度差tdが記憶する。そして演算した温度差(t)と記憶した温度差tdを比較し、温度差(t)が温度差tdを下回った時点で赤外線カメラによる撮影可能時期が終了したと判断し、公衆通信回線85に撮影時期終了を示す電子メールを送信する。
【0144】
なお赤外線カメラの種類によって温度差tdは異なる。このため本実施形態では赤外線カメラによる調査毎に温度差tdの設定が行われる。温度差tdの設定方法については後述する。赤外線カメラが特定のものであれば、特定の温度差tdを設定してもよい。
【0145】
パソコン80のモニタ装置80aには試験体60、60′の各種データや上記(1)式で求められた温度差(t)が表示される。
【0146】
[試験体の設置]
次に試験体60、60′の設置方法を説明する。
試験体60は壁高欄部21の調査時期を判断するためのものであり、橋梁20の壁高欄部21と同等の温度環境下に設置される。橋梁20の壁高欄部21は比較的日射が多く風通しの良い環境条件であるため、日向用の試験体60は、橋梁20の近くであって同じように日射が多く風通しの良い地面に設置される。
【0147】
ところで壁高欄部21の温度環境は壁高欄部21の向きに応じて異なる。例えば南面の壁高欄21は午前に大きく温度上昇し、午後に徐々に温度低下する。また西面の壁高欄21は午前に徐々に温度上昇し、午後に大きく温度上昇する。このように同じ日向でも向きに応じて温度環境が異なる。そこで壁高欄部21の向きに対応して試験体60が設置される。本実施形態では南面と西面の壁高欄部21に対応して二つの試験体60、60が用意されている。
【0148】
試験体60の設置場所を探す際には、試験体60を橋梁20の西側および南側の適当な場所に配して、放射温度計62と放射温度計63の温度データを比較する。そしてその場所における放射温度計62と放射温度計63の温度データが略同一となるようであれば、その場所に試験体60を設置する。放射温度計62と放射温度計63の温度データが一致しなければ、試験体60を他の場所に配し、再び放射温度計62と放射温度計63の温度データを比較する。こうして試験体60の温度環境は橋梁20の壁高欄部21の温度環境と等しくされる。
【0149】
試験体60′は床版部23の調査時期を判断するためのものであり、橋梁20の床版部23と同等の温度環境下に設置される。橋梁20の床版部23は日射が無い環境条件であるため、日陰用の試験体60′は、橋梁20の近くであって日射が少ない地面に設置される。
【0150】
試験体60′の設置場所を探す際には、試験体60′を橋梁20の土台周辺の適当な場所に配して、放射温度計62と放射温度計63の温度データを比較する。そしてその場所における放射温度計62と放射温度計63の温度データが略同一となるようであれば、その場所に試験体60′を設置する。放射温度計62と放射温度計63の温度データが一致しなければ、試験体60′を他の場所に配し、再び放射温度計62と放射温度計63の温度データを比較する。こうして試験体60′の温度環境は橋梁20の床版部23の温度環境と等しくされる。
【0151】
[赤外線調査の手順]
次に赤外線調査の手順を説明する。
調査員は気象予報や過去の気象データなどから調査日を特定する。赤外線カメラによる調査数時間前に調査員は電子通信機器81で計測モードONの電子メールを送信する。計測モードONの電子メールはパソコン80を介して試験体60、60′に送信される。通常、赤外線カメラによる調査を行わない場合は、節電のために温度・湿度検出の時間間隔は長くしされている。一方、赤外線カメラによる調査を行う場合は、温度・湿度検出の時間間隔は短くされる。温度・湿度検出の時間間隔を短くすることによって、調査時期の判断をより的確に行える。試験体60、60′は計測モードONの電子メールの受信に応じて温度・湿度検出の時間間隔を短くする。試験体60の放射温度計61、62の温度データ、結露センサ64の結露データはパソコン80に送信される。また試験体60′の放射温度計61、62の温度データ、温湿度センサ71の結露データはパソコン80に送信される。各データはパソコン80のモニタ装置80aに表示される。
【0152】
通常、赤外線カメラによる撮影は午前中に開始される。図14(a)、(b)の結果から、試験体の空洞部とコンクリート充填部の表面温度に差がでている時間帯は、調査対象の損傷部と健全部の表面温度に差がでている時間帯よりも若干遅れることが判っている。そこで調査撮影開始のタイミングは、試験体60、60′の空洞部12の表面温度とコンクリート充填部13の表面温度に差がでてから以降にされる。こうすることで、橋梁20の調査対象の損傷部2の表面温度と健全部3の表面温度に差がでていない状況で調査が行われる、という事態を避けることができる。
【0153】
調査開始にあたり、調査員は試験体60(又は試験体60′)の立方体11表面を赤外線カメラで撮影する。そして赤外線カメラの画像によって試験体60の空洞部12とコンクリート充填部13が判別できるようになった時点で、撮影開始を示す電子メールを電子通信機器81でパソコン80に送信する。そして赤外線カメラで橋梁20を撮影する。
【0154】
撮影開始を示す電子メールはパソコン80で受信される。パソコン80はこのときの試験体60の空洞部12とコンクリート充填部13の表面温度差を赤外線カメラで検出できる温度差tdとして記憶する。パソコン80には試験体60、60′から時々刻々と温度データ、湿度データが送信される。パソコン80は上記(1)式を用いて、橋梁20の損傷部2の表面温度と健全部3の表面温度の温度差(t)を予測演算する。温度差(t)は図13で示される各浮き95a〜95c、96a〜96c毎に演算される。
【0155】
予測した温度差(t)のうち何れかが記憶した温度差tdを下回った場合は、橋梁20の損傷部2の表面温度と健全部3の表面温度の差が小さくなりつつあり、赤外線カメラの撮影画像では両者の区別ができなくなる可能性がある。そこでパソコン80は何れかの温度差(t)が記憶した温度差tdを下回った時点で、撮影終了時期が到来したと判断する。そして撮影時期終了を示す電子メールを調査員の電子通信機器81に送信する。
【0156】
撮影時期終了を示す電子メールは電子通信機器81で受信される。この電子メールの受信に応じて電子通信機器81は、警告音や警告灯や警告メッセージによって、赤外線カメラによる損傷部2と健全部3の判別が不可能となったことを報知する。調査員はこの警告を確認した時点で赤外線カメラによる調査を終了する。調査員は電子通信機器81で計測モードOFFの電子メールを送信する。計測モードOFFの電子メールはパソコン80を介して試験体60、60′に送信される。試験体60、60′は計測モードOFFの電子メールの受信に応じて温度・湿度検出の時間間隔を長くする。
【0157】
ところで日当たりの良い壁高欄部21の表面には結露が発生する場合がある。結露が発生すると、損傷部2の表面温度と健全部3の表面温度に差が出にくくなる。このとき試験体60の立方体11の表面にも結露が発生する。結露センサ64で結露が検出された場合は、試験体60からパソコン80に結露発生を示す電子メールが送信される。パソコン80は結露発生を示す電子メールを調査員の電子通信機器81に送信する。結露発生を示す電子メールは電子通信機器81で受信される。この電子メールの受信に応じて電子通信機器81は、警告音や警告灯や警告メッセージによって、赤外線カメラによる損傷部2と健全部3の判別が不可能となったことを報知する。調査員はこの警告を確認した時点で赤外線カメラによる調査を中断又は終了する。
【0158】
図14で示されるように、損傷が空洞である場合の温度差がでなくなる時期は、損傷が浮きである場合の温度差がでなくなる時期よりも遅れる。したがって、浮きの温度差がでなくなった時点を赤外線カメラによる撮影を終了するようにすれば、赤外線かめらによって浮き・剥離や空洞を確実に検出できる。したがって調査結果の信頼性が向上する。
【0159】
[その他の形態]
パソコン80が例えばラップトップ型のパソコンであって、調査員がパソコン80を携帯してもよい。この場合に電子通信機器81は必要なく、パソコン80と電子通信機器81との間の通信手段および通信操作も必要ない。つまり撮影開始を示す電子メールは必要なく、調査員がパソコン80に撮影開始の入力操作を行うのみでよい。さらに撮影時期終了を示す電子メールも必要なく、パソコン80が調査員に直接警告を報知すればよい。
【0160】
また上記(1)式を用いた演算や温度差(t)と温度差tの比較が、試験体60、60′側で行われるようにしてもよい。この場合は試験体60、60′と調査員の電子通信機器81との間で通信が行われるようにするとよい。
【0161】
[損傷パターンと温度推移パターンの追加]
実施例1において、図11で空洞部の損傷パターンと温度推移パターンが示されている。本実施例では損傷が浮きである場合を想定している。図21で、浮きを含む損傷パターンと温度推移パターンとの対応関係を示す。実施例1のように、図21の表に基づいて調査対象部位の損傷状態を判断できる。
【産業上の利用可能性】
【0162】
以上の説明では、橋梁等のコンクリート構造物を想定して説明したが、本発明は、コンクリート構造物に限定されるわけではなく、内部に損傷が生じるおそれがあり健全部と損傷部とが温度差として捕らえることができる構造物であれば、タイル、煉瓦等の任意の構造物に対しても適用することができる。また本発明は、コンクリート構造物として橋梁、高架などを想定して説明したが、ビルディング、一般家屋等を調査対象とする場合にも当然に適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0163】
【図1】図1(a)、(b)はコンクリート構造物内部の損傷部と健全部の温度差を昼間と夜間とで比較して示す図である。
【図2】図2は外気温と損傷部と健全部の温度変化を示すグラフである。
【図3】図3は試験体60の構造を示す斜視図である。
【図4】図4は試験体の設置場所を示す図である。
【図5】図5(a)、(b)、(c)、(d)は季節別に、外気温と損傷部と健全部の温度変化を示したグラフである。
【図6】図6は季節、時間帯と赤外線カメラによる撮影可能時間との対応関係を示した表である。
【図7】図7は1日における撮影に適した時間帯を例示したグラフである。
【図8】図8は損傷パターンと実際の損傷状況、打音調査の必要性、優先度との対応関係を示した表である。
【図9】図9(a)、(b)はFEM解析用モデルを説明するために用いた図である。
【図10】図10は損傷パターンとFEM解析用モデル、赤外線カメラで撮影したコンクリート表面の温度分布画像、温度折れ線グラフとの対応関係を示した表である。
【図11】図11は損傷パターンと温度推移パターンとの対応関係を示した表である。
【図12】図12は赤外線画像から温度折れ線グラフを作成する様子を説明するために用いた図である。
【図13】図13(a)、(b)は浮きを有する供試体を説明するための図である。
【図14】図14(a)は損傷パターン1の実験結果を示すグラフであり、図14(b)は損傷パターン2の実験結果を示すグラフである。
【図15】図15は構造物の温度環境監視システムおよび撮影時期報知システムの概要を示す図である。
【図16】図16(a)は日向用の試験体60の正面図であり、図16(b)は日向用の試験体60の側面図である。
【図17】図17(a)は日陰用の試験体60′の正面図であり、図17(b)は日陰用の試験体60′の側面図である。
【図18】図18は日向用の試験体60のブロック図である。
【図19】図19は日陰用の試験体60′のブロック図である。
【図20】図20は損傷パターン毎の各非標準化係数を示す表である。
【図21】図21は損傷パターンと温度推移パターンとの対応関係を示した表である。
【符号の説明】
【0164】
20…橋梁 21…壁高欄部 23…床版部 60、60′…試験体
61、62、63…放射温度計 64…結露センサ 65…データ記録装置
66…通信装置 67…アンテナ 71…温湿度センサ 80…パソコン
80…モニタ装置 81…電子通信機器 85…公衆通信回線

【特許請求の範囲】
【請求項1】
赤外線カメラによって構造物の表面を撮影し、撮影した構造物表面の温度分布に基づいて構造物内部の損傷状態を調査するようにした赤外線カメラによる構造物調査方法において、
内部に損傷を含む損傷部と内部に損傷を含まない健全部とを有する試験体と、前記試験体の表面のうち損傷部の表面温度を検出する損傷部用温度センサと、前記試験体の表面のうち健全部の表面温度を検出する健全部用温度センサと、構造物の所定部位の表面温度を検出する構造物用温度センサと、を用意し、
前記構造物用温度センサの検出温度と前記健全部用温度センサの検出温度が略同一となるような位置に前記試験体を配置し、
前記損傷部用温度センサの検出温度と前記健全部用温度センサの検出温度の差が所定値以上である時期に、赤外線カメラによって構造物の調査対象部位を撮影すること
を特徴とする赤外線カメラによる構造物調査方法。
【請求項2】
赤外線カメラによって構造物の表面を撮影し、撮影した構造物表面の温度分布に基づいて構造物内部の損傷状態を調査するようにした赤外線カメラによる構造物調査方法において、
内部に損傷を含む損傷部と内部に損傷を含まない健全部とを有する試験体と、前記試験体の表面のうち損傷部の表面温度を検出する損傷部用温度センサと、前記試験体の表面のうち健全部の表面温度を検出する健全部用温度センサと、外気を検出する外気温度センサと、を用意し、
前記試験体を構造物周辺に設置し、
赤外線カメラによって構造物の表面を撮影し、
前記損傷部用温度センサの検出温度と前記健全部用温度センサの検出温度との差と、前記外気温度センサの検出温度と所定時間前の前記外気温度センサの検出温度との差と、を用いて、構造物の損傷部の表面温度と健全部の表面温度との差を予測し、
予測した温度差が所定値を下回った時点で、赤外線カメラによる構造物の撮影を終了すること
を特徴とする赤外線カメラによる構造物調査方法。
【請求項3】
構造物の所定部位の表面温度を検出する構造物用温度センサを用意し、
前記構造物用温度センサの検出温度と前記健全部用温度センサの検出温度が略同一となるような位置に前記試験体を設置すること
を特徴とする請求項2記載の赤外線カメラによる構造物調査方法。
【請求項4】
赤外線カメラによる構造物の撮影前に、赤外線カメラによって前記試験体の損傷部表面および健全部表面を撮影し、赤外線カメラによって損傷部および健全部を区別できた時点における前記損傷部用温度センサの検出温度と前記健全部用温度センサの検出温度との差を記憶し、この記憶した温度差を前記所定値とすること
を特徴とする請求項2記載の赤外線カメラによる構造物調査方法。
【請求項5】
赤外線カメラによって構造物の表面を撮影し、撮影した構造物表面の温度分布に基づいて構造物内部の損傷状態を調査するに際して、構造物の温度環境を監視する構造物の温度環境監視システムにおいて、
内部に損傷を含む損傷部と内部に損傷を含まない健全部とを有する構造物の試験体と、
前記試験体の表面のうち損傷部の表面温度を検出する損傷部用温度センサと、
前記試験体の表面のうち健全部の表面温度を検出する健全部用温度センサと、
外気の温度を検出する外気温度センサと、
前記各温度センサの検出温度に係る温度データを通信回線を介して送信する送信手段と、
前記温度データを受信する受信手段と、
前記受信手段で受信した温度データをモニタするモニタ手段と、を備えたこと
を特徴とする構造物の温度環境監視システム。
【請求項6】
前記損傷部用温度センサの検出温度と前記健全部用温度センサの検出温度との差と、前記外気温度センサの検出温度と所定時間前の前記外気温度センサの検出温度との差と、を用いて、構造物の損傷部の表面温度と健全部の表面温度との差を予測する温度差予測手段を備え、
前記予測手段で予測した温度差を前記モニタ手段でモニタすること
を特徴とする請求項5記載の構造物の温度環境監視システム。
【請求項7】
赤外線カメラによって構造物の表面を撮影し、撮影した構造物表面の温度分布に基づいて構造物内部の損傷状態を調査するに際して、構造物の撮影終了時期を報知する構造物の撮影時期報知システムにおいて、
内部に損傷を含む損傷部と内部に損傷を含まない健全部とを有する構造物の試験体と、
前記試験体の表面のうち損傷部の表面温度を検出する損傷部用温度センサと、
前記試験体の表面のうち健全部の表面温度を検出する健全部用温度センサと、
外気の温度を検出する外気温度センサと、
赤外線カメラで検出が可能な温度差を記憶する温度差記憶手段と、
前記損傷部用温度センサの検出温度と前記健全部用温度センサの検出温度との差と、前記外気温度センサの検出温度と所定時間前の前記外気温度センサの検出温度との差と、を用いて、構造物の損傷部の表面温度と健全部の表面温度との差を予測する温度差予測手段と、
前記温度差予測手段で予測した温度差が前記温度差記憶手段で記憶した温度差を下回った時点で撮影終了信号を出力する終了信号出力手段と、
前記撮影終了信号を入力した時点で赤外線カメラの撮影可能時期が終了したことを報知する終了時期報知手段と、を備えたこと
を特徴とする構造物の撮影時期報知システム。
【請求項8】
前記損傷部用温度センサおよび前記健全部用温度センサから前記温度差予測手段に通信回線を介して検出温度に係る温度データを伝送する通信手段を備えたこと
を特徴とする請求項7記載の構造物の撮影時期報知システム。
【請求項9】
前記終了時期報知手段は携帯自在な電子通信機器を含み、
前記温度差予測手段から前記電子通信機器に通信回線を介して撮影終了信号を伝送する通信手段を備えたこと
を特徴とする請求項7記載の構造物の撮影時期報知システム。
【請求項10】
赤外線カメラによって構造物の表面を撮影し、撮影した構造物表面の温度分布に基づいて構造物内部の損傷状態を調査するに際して使用され、構造物表面の温度分布が調査に適した状態にあるか否かを判別するために構造物に模して造られ、内部に損傷を含む損傷部と内部に損傷を含まない健全部とを有する構造物の試験体において、
前記損傷部の表面温度を検出する損傷部用温度センサと、
前記健全部の表面温度を検出する健全部用温度センサと、
構造物の所定部位の表面温度を検出する構造物用温度センサと、
前記損傷部用温度センサと前記健全部用温度センサと前記構造物用温度センサの検出温度に係る温度データを通信回線を介して送信するデータ送信部と、
前記損傷部用温度センサと前記健全部用温度センサと前記構造物用温度センサの検出温度に係る温度データを記録するデータ記録部と、
表面の湿気を検出する湿気検出部と、を備えたこと
を特徴とする構造物の試験体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【公開番号】特開2006−329760(P2006−329760A)
【公開日】平成18年12月7日(2006.12.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−152418(P2005−152418)
【出願日】平成17年5月25日(2005.5.25)
【出願人】(501497264)四国道路エンジニア株式会社 (17)
【Fターム(参考)】