説明

赤外線亀裂検出装置および検出方法

【課題】構造物に対する亀裂検出を目視検出方法と同様の短時間で、かつ目視検出方法より高精度で行うことができる亀裂検出装置および検出方法を提供する。
【解決手段】構造物の外表面に接触させることにより、当該構造物に超音波振動を与える超音波振動発生装置と、構造物中の測定対象面に発生する温度変化を、赤外線サーモグラフィ装置で計測する表面温度検出手段とを備えていることを特徴とする赤外線亀裂検出装置。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、構造物に発生する亀裂等の異常を検出する亀裂検出装置および検出方法に関するものであり、特に、構造物に発生する亀裂に対して超音波振動を与えた場合に生じる亀裂の温度変動を赤外線サーモグラフィ装置で検出する赤外線亀裂検出装置および検出方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
例えば、製鉄プラントにおいて、転炉、圧延機、搬送用テーブルローラ等の様々な構造物(機械構造物)が使用されている。しかし、近年、これらの構造物の内部において長期間の使用に起因する疲労亀裂が発生し、構造物の故障が起きている。
【0003】
そこで、このような故障を未然に防ぐために、様々な亀裂検出方法が提案されている(例えば、特許文献1、2参照)。
【0004】
ただし、現在、よく用いられている亀裂検出方法は、検査者が直接視認によって亀裂を検出する目視検出方法である。この目視検出方法は、特別な装置を必要とせず、短時間で亀裂を検出できるという利点がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平7−333196号公報
【特許文献2】特開2008−8705号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、前記の目視検出方法においては、構造物の表面の汚れ・錆などの表面状態、また検査者の作業熟練度や作業当日の体調によって、検出精度にばらつきが出るので、亀裂の誤検出や見落としの可能性がある。また、目視検出方法では、可視レベルより微小な亀裂、もしくは完全に閉じた閉亀裂を検出することができない。これらのことは構造物の保全上、大きな問題となっている。
【0007】
本発明は、上記の状況に鑑みてなされたもので、構造物に対する亀裂検出を目視検出方法と同様の短時間で、かつ目視検出方法より高精度で行うことができる亀裂検出装置および検出方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、本発明は以下の特徴を有する。
【0009】
[1]構造物中における亀裂を非破壊で検出する亀裂検出装置であって、構造物の外表面に接触させることにより、当該構造物に超音波振動を与える超音波振動発生装置と、構造物中の測定対象面に発生する温度変化を、赤外線サーモグラフィ装置で計測する表面温度検出手段とを備えていることを特徴とする赤外線亀裂検出装置。
【0010】
[2]前記超音波振動発生装置は、音波を発生させる超音波振動子と、超音波振幅を増幅する超音波ホーンとを備え、該超音波ホーンを構造物の表面に接触させることにより当該構造物に超音波振動を与えることを特徴とする前記[1]に記載の赤外線亀裂検出装置。
【0011】
[3]前記超音波ホーンは、先端が構造物の表面形状に合うよう加工されていることを特徴とする前記[2]に記載の赤外線亀裂検出装置。
【0012】
[4]前記超音波振動発生装置は、ハンディタイプであることを特徴とする前記[1]〜[3]のいずれかに記載の赤外線亀裂検出装置。
【0013】
[5]前記赤外線サーモグラフィ装置は、検査者の頭部に装着したヘルメットに搭載される赤外線カメラと、該赤外線カメラによって測定した赤外線画像を表示するために、検査者の眼前に装着されたゴーグル上の画像表示装置とを備えていることを特徴とする前記[1]〜[4]のいずれかに記載の赤外線亀裂検出装置。
【0014】
[6]前記ゴーグルは半透明であり、検査者が赤外線画像と可視画像を同時に見ることが出来る機能を有することを特徴とする前記[5]に記載の赤外線亀裂検出装置。
【0015】
[7]構造物中における亀裂を非破壊で検出する亀裂検出方法であって、超音波振動発生装置を構造物の外表面に接触させることにより、当該構造物に超音波振動を与えて、構造物中の亀裂に温度変化を与える励起ステップと、当該構造物中の測定対象面に発生する温度変化を、ヘルメットに搭載した赤外線カメラで計測し、眼前のゴーグルに表示する計測ステップとを有することを特徴とする赤外線亀裂検出方法。
【発明の効果】
【0016】
本発明においては、構造物に対する亀裂検出を目視検出方法と同様の短時間で、かつ目視検出方法より高精度で行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明の実施形態1に係る赤外線亀裂検出装置および赤外線亀裂検出方法を示す側面図である。
【図2】本発明の実施形態1に係る赤外線亀裂検出装置の動作を示すフローチャートである。
【図3】本発明の実施形態2に係る赤外線亀裂検出装置および赤外線亀裂検出方法を示す側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の実施形態について図面を参照して説明する。
【0019】
[実施形態1]
本発明の実施形態1に係る赤外線亀裂検出装置および赤外線亀裂検出方法として、構造物の壁面部の亀裂検出に適用した場合について述べる。この実施形態1における側面図を図1に示す。また、この実施形態1における動作フローチャートを図2に示す。
【0020】
まず、図1に関して説明する。1は検査対象である構造物の壁面部である。壁面部1には、超音波振動発生装置7が検査者の手によって押し付けられている。
【0021】
超音波振動発生装置7は、音波を発生させる超音波振動子7aと、超音波振幅を増幅する超音波ホーン7bとを備え、超音波ホーン7bを壁面部1表面に接触させることにより壁面部1に超音波振動を与えるようになっている。
【0022】
検査者の頭部には、ヘルメット2が着用されており、ヘルメット2の前方には赤外線カメラ3がアタッチメント4を介して取り付けられている。ヘルメット2と赤外線カメラ3は分離可能であり、個々の検査者の頭部のサイズに合わせたヘルメット2を使用することが可能であり汎用性に優れている。
【0023】
赤外線カメラ3は、検査対象である壁面部1から放射される赤外線を測定するために設置されている。赤外線カメラ3で測定された表面温度分布はケーブル6を介して、ゴーグル型ディスプレイ5に2次元画像として映し出される。赤外線カメラ3で測定された画像が、ケーブル6を介さずに無線によってゴーグル型ディスプレイ5に受信されればより好ましい。
【0024】
次に、以上のように構成されたこの実施形態1に係る赤外線亀裂検出装置の動作を図2に示すフローチャートに基づいて説明する。
【0025】
まず、超音波振動発生装置7を壁面部1表面に接触させ、壁面部1に超音波振動を与える(S100)。具体的には、超音波振動子7aに電気信号を与えることにより超音波信号を発生させ、その振動を超音波ホーン7bで増幅し、超音波ホーン7bを壁面部1表面に接触させることにより、壁面部1に超音波振動を伝える。超音波ホーン7bは壁面部1表面の形状に沿うよう先端が加工されており、超音波ホーン7bと壁面部1表面の接触面積を最大化している。このことにより超音波の効率的な入射が可能となる。
【0026】
次に、壁面部1の温度分布を取得する(S101)。具体的には、壁面部1表面から放出される赤外線を、ヘルメット2の前面に設置した赤外線カメラ3で計測する。
【0027】
最後に、赤外線カメラ3で計測された壁面部1の表面温度分布を、モニター型ディスプレイ5で二次元表示し、温度変異部として亀裂を検出する(S102)。
【0028】
以上説明したように、この実施形態1に係る赤外線亀裂診断装置は、構造物表面(壁面部1表面)に超音波振動を与える超音波振動発生装置7と、構造物内部(壁面部1内部)に発生する温度変化をヘルメット2に搭載した赤外線カメラ3を介して計測する表面温度検出手段(モニター型ディスプレイ5)から構成される。超音波振動発生装置7はハンディタイプになっており、検査者によって構造物外表面の任意の検査点に超音波振動発生装置7を接触させることにより、構造物に超音波を入射させることが可能となった。
【0029】
また、ヘルメット2に赤外線カメラ3を搭載し、ゴーグル型ディスプレイ5上に温度分布を表示することによって、亀裂部が高温部として目視検出方法と同様に視認でき、検出効率のよい亀裂検出方法が可能となった。さらに、振動を与えている時のみ亀裂部での発熱が起きるので非常に視認性が良く、検出能の個人差が少ない亀裂検出が可能となった。
【0030】
また、半透明のゴーグル5を使用することにより、可視画像と温度分布画像の合成が可能であり、亀裂位置の同定が容易に可能となった。
【0031】
さらに、超音波振動を入射することにより、微小亀裂や閉亀裂も発熱するので、目視検出方法では検出できないこれらの亀裂を検出することが可能となった。
【0032】
[実施形態2]
本発明の実施形態2に係る赤外線亀裂検出装置および赤外線亀裂検出方法として、熱伝導率が大きいアルミニウム製配管の亀裂検出に適用した場合について述べる。この実施形態2における側面図を図3に示す。なお、図3において、図1と同一部分は付して重複する説明は省略する。
【0033】
この実施形態2では、上記の実施形態1は異なり、熱伝導率が大きく温度差を保持しにくいアルミニウム製配管を対象にしたものであり、測定部位の時間的温度変動曲線を微分処理した後、判定レベルによって、表面傷・亀裂を検出できるようにしたものである。
【0034】
なお、この実施形態2では、図3に示すように、検査対象がアルミニウム製配管8である点が実施形態1と異なるが、赤外線亀裂検出装置は実施形態1と同一である。また、実施形態2の動作フローチャートは、図2に示した実施形態1の動作フローチャートと同様である。
【0035】
この実施形態2固有の作用・効果について説明する。
【0036】
動作フローチャートの(S101)において、ある任意の温度測定点について、時間的温度変動曲線を求め、その時間的温度変動曲線に対して信号処理(微分処理)を行う。各温度測定点の信号処理(微分処理)後の値が、予め定めてある閾値以上であれば、それは亀裂・傷であると判定する。一方、各温度測定点の信号処理(微分処理)後の値が前記閾値未満の場合は、それは正常部位であると判定する。
【0037】
このようにして、この実施形態2においては、測定部位の時間的温度変動曲線を信号処理(微分処理)し、判定レベルによって亀裂・傷を評価するようにしたので、熱伝導率が高く、温度特異部が拡散しやすいアルミニウム素材に対して検出感度を向上させることができる。
【符号の説明】
【0038】
1 構造物の壁面部
2 ヘルメット
3 赤外線カメラ
4 アタッチメント
5 ゴーグル型ディスプレイ
6 ケーブル
7 超音波振動発生装置
7a 超音波振動子
7b 超音波ホーン
8 アルミニウム製配管

【特許請求の範囲】
【請求項1】
構造物中における亀裂を非破壊で検出する亀裂検出装置であって、構造物の外表面に接触させることにより、当該構造物に超音波振動を与える超音波振動発生装置と、構造物中の測定対象面に発生する温度変化を、赤外線サーモグラフィ装置で計測する表面温度検出手段とを備えていることを特徴とする赤外線亀裂検出装置。
【請求項2】
前記超音波振動発生装置は、音波を発生させる超音波振動子と、超音波振幅を増幅する超音波ホーンとを備え、該超音波ホーンを構造物の表面に接触させることにより当該構造物に超音波振動を与えることを特徴とする請求項1に記載の赤外線亀裂検出装置。
【請求項3】
前記超音波ホーンは、先端が構造物の表面形状に合うよう加工されていることを特徴とする請求項2に記載の赤外線亀裂検出装置。
【請求項4】
前記超音波振動発生装置は、ハンディタイプであることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の赤外線亀裂検出装置。
【請求項5】
前記赤外線サーモグラフィ装置は、検査者の頭部に装着したヘルメットに搭載される赤外線カメラと、該赤外線カメラによって測定した赤外線画像を表示するために、検査者の眼前に装着されたゴーグル上の画像表示装置とを備えていることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の赤外線亀裂検出装置。
【請求項6】
前記ゴーグルは半透明であり、検査者が赤外線画像と可視画像を同時に見ることが出来る機能を有することを特徴とする請求項5に記載の赤外線亀裂検出装置。
【請求項7】
構造物中における亀裂を非破壊で検出する亀裂検出方法であって、超音波振動発生装置を構造物の外表面に接触させることにより、当該構造物に超音波振動を与えて、構造物中の亀裂に温度変化を与える励起ステップと、当該構造物中の測定対象面に発生する温度変化を、ヘルメットに搭載した赤外線カメラで計測し、眼前のゴーグルに表示する計測ステップとを有することを特徴とする赤外線亀裂検出方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2010−197377(P2010−197377A)
【公開日】平成22年9月9日(2010.9.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−284622(P2009−284622)
【出願日】平成21年12月16日(2009.12.16)
【出願人】(000001258)JFEスチール株式会社 (8,589)
【Fターム(参考)】