説明

赤外線反射パターン印刷透明シート

【課題】ディスプレイ装置の画面に直接手書きデータ入力できるシステムを実現する座標検知手段を提供する部材であって、軽量、安価、大面積化が容易で、量産可能かつ広い読取角度を有する赤外線反射パターン印刷透明シートの提供。
【解決手段】透明基板の表面に赤外線反射性の透明パターンが印刷され、ディスプレイ装置の前面に装着される透明シートであって、該透明パターンを構成するインキが赤外線反射材料を含むと共に赤外線領域の波長選択反射性を持つ固定化されたコレステリック構造を有する液晶材料であり、該透明パターンを赤外線の照射及び検知可能な入力端末が読み取る事で、透明シート上の入力端末の位置を判別可能であり、該印刷された透明パターンを該透明基板に直交する面での切断面は、一定の繰返し周期の多層構造を形成し、該液晶材料のらせん軸と透明基板の表面の法線がなす傾き角が少なくとも0〜45°の範囲内で分布する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、赤外線反射パターン印刷透明シートに関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、手書きした文字、絵及び記号等を、情報処理装置が扱うことができる電子データに変換する必要性が高まっており、特に、スキャナー等の読取装置を経由せず、手書き情報をリアルタイムでコンピューター等へ入力する方式への需要が高まっている。
それに対応して、例えば、手書き入力するためのペン及び被書込面を備えた入力手段と、該入力手段による手書き入力時の入力軌跡を読み取る入力軌跡読取手段と、該入力軌跡情報を電子データ化する入力軌跡変換手段と、該入力軌跡変換手段により変換したデータを情報処理装置に対して送信する入力軌跡データ送信手段を備えた書込型入力装置であって、前記入力軌跡読取手段が、被書込面上に形成された位置情報を提供するマークを、ペンに設置されたセンサーで読み取ることにより行われ、該被書込面が、位置情報を提供するマークとして赤外線を吸収する特殊なドットパターンが印刷されている特殊な用紙であり、前記ペンが該被書込面に対して赤外線を照射する赤外線照射部と、該ドットパターンにより反射された赤外線パターンを検知する赤外線センサーを備えている書込型入力装置が提案されている。
【0003】
しかしながら前記の装置では、手書きした内容(入力軌跡)を電子データ化できるが、直接の入力対象は専用の用紙であり、電子データ化された入力軌跡情報を表示するには別途ディスプレイ装置が必要となる。紙の上に軌跡を記録できるよう黒鉛やインキを搭載したペン先を使うことで、軌跡情報を紙上で視認することはできるが、ディスプレイに表示された図表に対して手書き入力をするといった、直感的でインタラクティブな運用には向いておらず、入力時の作業スペースもより広く必要となる。また、紙上に軌跡を記録する場合には、一度手書き入力が終わった用紙は使用できないため、消耗品である入力用紙を常備しておく必要があり、特に移動体用途には不向きである。
【0004】
そこで、ディスプレイ装置の表示面に直接手書きした内容を情報処理装置に入力することを可能にしたものであって、コンパクトで安価に製造することが可能な入力装置が望まれていた。これを実現するためには、前記の書込型入力装置において、被書込手段であるところのドットパターンが印刷された用紙を可視領域の光に対して透明化し、ディスプレイ装置の前面に対向して設置すればよい。
このような要求を満たす透明シートとして、例えば、特許文献1には、ディスプレイ装置の前面又は前方に装着される透明シートであって、入力用電子ペン等による入力軌跡の位置を示すための位置情報を提供可能なマークを所定波長の光を照射されて当該入力軌跡読取手段に読み取り可能な光を発光するインキを用いて印刷したものが開示されている。しかしながら、特許文献1には、そのような透明シートを具現化するインキの種類等は記載されておらず、透明シートのアイデア又は願望が記載されているに過ぎず、具体的な透明シートの例示はない。
また、特許文献2には、赤外線領域を反射する特殊インキを印刷した透明部材を用いた座標入力装置が開示されているが、特許文献2にも、そのような装置を具現化するインキの種類等は記載されておらず、アイデア又は願望が記載されているに過ぎず、具体的な透明シートの例示はない。
【0005】
ところで、このような透明シートを実用的に使用する場合に、特許文獻1の図5から分かるように、ドットパターン上に入力用電子ペンを接触させて読むため、できるだけ読取角度を広くして様々な使用環境に対応できることが好ましい。しかし、前記のように実用にたえる透明シートがいまだ具現化されない現状において、スキャナー等の読取装置を経由せず、手書き情報をリアルタイムでコンピューター等へ入力する方式を実現化するためには、様々な使用環境に対応しうる広い読取角度を有する読取性能に優れた透明シートの開発が望まれている。
【特許文献1】特開平2003−256137号公報
【特許文献2】特開平2001−243006号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、前記の課題を解決するためになされたもので、ディスプレイ装置に直接手書きしてデータ入力することができ、軽量で、価格が安く、大面積化が容易で、量産可能であり、かつ広い読取角度を有する読取性能に優れた赤外線反射パターン印刷透明シートを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、前記目的を達成するために鋭意研究を重ねた結果、透明基板上に、コレステリック構造を有する液晶材料を含有する透明インキからなるパターンを印刷した透明シートに赤外線を照射し、その反射光を利用することにより前記の目的を達成することを見出し本発明を完成したものである。
すなわち、本発明は、透明基板の表面に赤外線反射性の透明パターンが印刷されてなり、画像表示可能なディスプレイ装置の前面に対向して装着される透明シートであって、該透明パターンを構成するインキが赤外線反射材料を含み、該透明パターンは、赤外線の照射及び検知が可能な入力端末により赤外線の反射パターンを読み取って、透明シート上における入力端末の位置情報を提供可能なパターンであり、該赤外線反射材料が、赤外線領域の波長に対して波長選択反射性を持つ固定化されたコレステリック構造を有する液晶材料であり、該透明基板の表面に印刷された赤外線反射性の透明パターンを該透明基板に直交する面で切断した断面は、走査型電子顕微鏡で観察した場合に、一定の繰返し周期からなる多層構造を含むよう形成されており、かつ該多層構造を構成する該液晶材料のらせん軸と透明基板の表面の法線とがなす傾き角が少なくとも0〜45°の範囲内で分布を有する赤外線反射パターン印刷透明シートを提供するものである。
【発明の効果】
【0008】
本発明の赤外線反射パターン印刷透明シートは、軽量で、価格が安く、大面積化が容易で、量産可能であり、かつ広い読取角度を有する読取性能に優れているので、ディスプレイ装置に直接手書きしてデータ入力することができ、作業スペースを低減することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明の赤外線反射パターン印刷透明シート1は、図1〜4に示すように、透明基板2の表面上に必要に応じてプライマー層4が積層し、該プライマー層4の表面に赤外線反射性の透明パターン3が印刷されてなるシートであり、画像表示可能なディスプレイ装置5の前面に対向して装着されている。ここで「ディスプレイ装置5の前面に対向して装着されている」とは、例えば、透明シート1がディスプレイ装置5の表面に直接接触して配置される場合や、粘着剤層又は接着剤層を介して接着される場合、さらには空隙を介して非接触の状態でディスプレイ装置5の前方に配置される場合を含む概念である。該透明パターン3を構成するインキは、赤外線反射材料を含み、赤外線の照射及び検知が可能な入力端末6により赤外線の反射パターンを読み取って、透明シート1上における入力端末の位置情報(位置座標)を提供可能とする。そして、前記赤外線反射材料が、赤外線領域の波長に対して波長選択反射性を持つ、固定化されたコレステリック構造を有する液晶材料であり、透明基板2の表面に印刷された赤外線反射性の透明パターン3を該透明基板に直交する面で切断した断面は、走査型電子顕微鏡(SEM)で観察した場合に、一定の繰返し周期からなる多層構造を含むよう形成されており、かつ該液晶材料のらせん軸と透明基板の表面の法線とがなす傾き角が少なくとも0〜45°の範囲内で分布を有している。ここで「透明基板の表面の法線」と定義するのは、該透明基板がディスプレイ装置5の湾曲面に沿って湾曲した場合等により非平面となった場合も考慮したためであり、該透明基板が平面の場合は、単なる垂線と一致する。
【0010】
[透明インキ]
本発明で用いる赤外線反射性の透明パターン(以下、透明パターンということがある)は、固定化されたコレステリック構造を有する液晶材料を含む透明インキにより形成され、形成された透明パターンを透明基板に直交する面で切断した断面は、走査型電子顕微鏡で観察した場合に、一定の繰返し周期からなる多層構造を含むよう形成され、かつ該多層構造を構成する該液晶材料のらせん軸と透明基材の表面の法線とがなす傾き角は、少なくとも0〜45°の範囲内で分布を有する。
ここで、コレステリック(カイラルネマチック)構造を有する液晶は、その液晶分子が透明基材の表面に対して法線の方向(下記の光の入射角θ=0°)に、多層構造となる一定周期のらせん構造(コレステリック構造)を有し、これに起因する特徴的な光学的性質を発現する。そのコレステリック構造の特徴は、らせんの向きに対応し、かつらせんピッチに対応した波長の円偏光を反射するという波長選択反射性を有することである。選択反射波長λ(ピーク波長λ nm)は、一般に次式で与えられる。
λ=p・n・cosθ
p:コレステリック液晶のらせんピッチ(nm)
n:液晶のらせん軸に直交する面内の平均屈折率
θ:光の入射角(面の法線からの角度)
また、該選択反射波長λ(ピーク波長λ)の帯域幅Δλ(nm)は、一般に次式で与えられる。
λ=p・Δn・cosθ
p:コレステリック液晶のらせんピッチ(nm)
Δn:液晶のらせん軸に直交する面内の複屈折率
θ:光の入射角(面の法線からの角度)
コレステリック構造を有する液晶は、このような選択反射性能を有し、取り扱いが容易であり、そして加工性に優れていることから工業的に広く適用することができるとされている。しかし、選択反射波長λに関する上記の式から、コレステリック構造を有する液晶は入射角が増加すると反射される光の波長が減少するため、反射波長が所定の波長から逸脱する、すなわち読取角度が制限されることがわかる。本発明の透明シートにおいては、コレステリック構造を有する液晶のらせん軸と、透明基材の表面の法線とのなす傾き角が少なくとも0〜45°の範囲内で分布を有することで、上記のような読取角度の制限を解消して、より広い読取角度を得るものである。
【0011】
コレステリック構造の1ピッチとは、細長い液晶分子がらせんを描いて360°回転する軸の長さであるが、実際に断面を観察すると、180°回転するごとに繰り返しの層構造が見える(図5参照)。したがって、断面を観察したときに見える見掛けの層間ピッチは、液晶のらせんピッチの1/2であり、例えば、断面観察したときに見える見掛けの層間ピッチが250nmであれば、液晶のピッチは500nmとなる。
なお、円偏光を入射した場合、樹脂、ガラス等の一般に基板として用いられる材料からなる透明基板については、表面で反射する光の円偏光成分の回転方向は反転する。一方、コレステリック液晶の表面においては、表面で反射する光の円偏光成分の回転方向はそのままで不変である。よって、その性質を利用すれば、円偏光フィルター等と組み合わせることにより、赤外線反射性透明パターンからの反射光とその背景光(パターン部以外からの反射光)のSN比を改善することが可能である。
【0012】
上記のように、通常のコレステリック液晶材料の塗膜においては、該コレステリック構造のらせん軸は、実質上、基板の法線方向に一様に向いている(図5参照)。言い換えると、該コレステリック構造がなすBragg反射面は平行平面群をなしている。その場合、特定の一入射角に対しては特定の一反射角のみとなるため、書込み時の入力端末(入力ペン)の傾きに応じて、入力端末に戻る光量は増減し、結局、読取角度(許容できる入力端末の傾斜角)は狭くなる。
一方、本発明の透明シートでは、透明パターンを構成する液晶材料のらせん軸と透明基板の表面の法線とがなす傾き角が少なくとも0〜45°の範囲内で分布を有している。すなわち、本来平行平面群であった該コレステリック構造がなすBragg反射面(群)が、以下に列挙するような形態を呈していることを意味している。
(A)Bragg反射面(群)が、褶曲する、あるいは波打つ。
(B)透明パターンの表面形状が、半球状又はこれに類似するように湾曲し、各Bragg反射面(群)が、該表面形状に呼応して湾曲し、中心部から輪郭部にかけて連続的に傾斜する。
(C)透明パターン内の少なくとも一部の領域において、波長選択反射性を実用上損なわ無い範囲内でBragg反射面(群)が、凹凸を形成する。
(D)上記(A)〜(C)の2種以上組合せた特徴を有する。
このように、本発明の透明シートは、特定の一入射角の入射光線に対して、複数の反射角の反射光線を生じる特性を有するため、書込み時の入力端末(入力ペン)がある範囲内で傾斜しても、入力端末に何れかの光線が入射すれば、透明パターンの検知が可能となる。この特性により、本発明の透明シートは、入力端末に戻る光量の増減の変動は少なくなり、かつ光量もある角度の範囲内で一定量以上に保つことが可能となり、読取角度(許容できる入力端末の傾斜角)は広くなる。広い読取角度を得るための具体的手段については、本発明の透明シートをなす構成の各論において後述する。
【0013】
以下、本発明の透明シートに適用できる透明インキに含まれるコレステリック構造を発現する液晶材料について説明する。なお、本発明において、赤外線の波長は特に限定されないが、通常好ましく用いられるのは、特に800〜2500nmの近赤外領域の光であり、以下では、この波長域の赤外線を中心に念頭に置いて説明する。
なお、一般に、「液晶」は、狭義には流動性を有する状態のものを指すが、本願発明の明細書中においては、流動性を有する液晶材料を架橋、冷却等の手段により、液晶の持つ光学特性、屈折率、異方性等の所望の性能を維持する状態で固化させ、非流動状態としたものも「液晶」と呼称することにする。
【0014】
本発明で用いる透明パターンを構成する赤外線反射材料は、コレステリック規則性を有するコレステリック液晶相を呈する液晶材料である。なお、ディスプレイ装置に直接手書きしてデータ入力するような用途に適用する本発明の透明シートの場合には、透明パターンを形成した後は、流動性が発現しないように液晶材料を固定化させる必要がある。そのため、重合性のネマチック液晶に重合性のカイラル剤を混合した重合性のカイラルネマチック液晶材料(重合性モノマー又は重合性オリゴマー)、又は高分子コレステリック液晶材料を好ましく使用することができる。
本発明においては、前記の重合性液晶材料の中でも、架橋可能な重合性モノマー又は重合性オリゴマーを用いることが好ましく、重合性官能基としてアクリレート構造を有しているとさらに好ましい。
なお、前記のコレステリック構造を呈する(発現する)液晶材料としては、赤外線領域の少なくとも一部の波長において高反射率(通常5〜50%程度)を有するものであれば、本来、可視光線領域の波長において必ずしも高透過性は要求しない。それは、仮に前記のコレステリック構造を呈する液晶材料が完全不透明であったとしても当該液晶材料の非形成部(余白部)の面積を適度に大きく取り、そこからの透過光を利用すれば、当該透明パターン全体としては、所望の透明性を得ることは可能だからである。ただし、当該液晶材料自体の可視光線透過率は高い方が好ましいことは勿論である。そして、通常、このようなコレステリック構造を呈する液晶材料は、高反射波長域を赤外線領域に持っていくと、可視光線領域においては、数μm程度の厚みで70%程度以上の可視光線透過率を得る。一方、赤外線領域においては5〜50%程度の高反射率を得ることが一般的である。また、前記の重合性液晶材料がコレステリック相を呈する温度範囲については特に制限はなく、コレステリック相の状態で架橋により固定化できれば良いが、コレステリック相を呈する温度が30〜140℃の範囲にある材料は、パターン印刷時の乾燥工程と、液晶の相転移を同時に行えるため好ましい。
【0015】
以上のような材料であれば、液晶分子をコレステリック液晶の状態のままで光学的に固定化することができ、透明シートとしての取り扱いが容易な、常温で安定したパターンを形成することができる。
また、高いガラス転移点を有し、加熱後冷却することにより常温でガラス状態に固化することが可能な液晶ポリマー(高分子コレステリック液晶)を用いることもできる。これらの材料も同様に、液晶分子をコレステリック規則性を有した液晶の状態のままで光学的に固定化することができ、光学シートとしての取り扱いが容易な、常温で安定したパターンを形成することができるからである。
【0016】
前記架橋可能な重合性モノマーとしては、特開平7−258638号公報、特表平11−513019号公報、特表平9−506088号公報及び特表平10−5088822号公報に開示されているような、液晶性モノマー及びカイラル化合物の混合物を用いることができる。例えば、ネマチック液晶相を呈する液晶性モノマーにカイラル剤を添加することによりカイラルネマチック液晶(コレステリック液晶)が得られる。なお、コレステリック液晶の製膜法は、特開2001−5684号公報や特開2001−110045号公報にも記載されている。
【0017】
本発明で用いることができるネマチック液晶分子(液晶性モノマー)としては、例えば下記式(1)〜(11)に示す化合物が挙げられる。ここに例示した化合物はアクリレート構造を有し、紫外線照射等により重合させることが可能である。
【0018】
【化1】

【0019】
【化2】

[化合物(11)において、X1は2〜5(整数)である。]
【0020】
また、前記架橋可能な重合性オリゴマーとしては、特開昭57−165480号公報に開示されているようなコレステリック相を有する環式オルガノポリシロキサン化合物等を用いることができる。
さらに、前記液晶ポリマーとしては、液晶を呈するメソゲン基を主鎖、側鎖、あるいは主鎖および側鎖の両方の位置に導入した高分子、コレステリル基を側鎖に導入した高分子コレステリック液晶、特開平9−133810号公報に開示されているような液晶性高分子、特開平11−293252号公報に開示されているような液晶性高分子等を用いることができる。
【0021】
本発明で用いられる透明インキに含まれるカイラル剤は、不斉炭素原子を有し、ネマチック液晶と混合することでカイラルネマチック相を形成する材料であって、重合性を有するものであれば特に制限はないが、式(12)に例示するような、アクリレート構造を有する材料は、紫外線照射により重合可能であるため好ましい。
【0022】
【化3】

[Xは2〜5(整数)である。]
【0023】
本発明における透明パターンの赤外線を反射する性質は、前述の通り、コレステリック構造を持った液晶材料の波長選択反射性(X線回折におけるBragg反射と同様な原理)を利用したものであり、その選択反射ピーク波長(Bragg反射条件を満たす波長)は、パターン内に含まれるコレステリック構造のピッチ長で決定されるが、液晶材料としてネマチック液晶とカイラル剤を用いる場合には、カイラル剤の添加量を調整することによりピッチ長を制御できる。目標とする赤外線領域の選択反射ピーク波長を得るためのカイラル剤添加量は、使用する液晶の種類やカイラル剤の種類により異なり、例えば式(11)の液晶および式(12)のカイラル剤を用いる場合には、液晶100重量部に対しカイラル剤3重量部程度の添加で赤外領域に反射ピークを持つコレステリック相が形成される。液晶材料に高分子コレステリック液晶を用いる場合は、目的とするピッチ長を有するポリマー材料を選べばよい。
【0024】
本発明におけるネマチック液晶分子とカイラル剤との重合体は、例えば、重合性ネマチック液晶と重合性カイラル剤に公知の光重合開始剤等を添加し、紫外線を照射してラジカル重合させることにより得ることができる。
また、本発明において、透明パターンを印刷する際、重合性モノマー又は重合性オリゴマーやカイラル剤を溶媒に溶解したコーティング液を用いると好ましい。
この溶媒としては、材料に対し十分な溶解性を持つ限り特に限定されず公知のものを用いれば良く、例えば、アノン(シクロヘキサノン)、シクロペンタノン、トルエン、アセトン、MEK(メチルエチルケトン)、MIBK(メチルイソブチルケトン)、DMF(N,N−ジメチルホルムアミド)、DMA(N,N−ジメチルアセトアミド)、酢酸メチル、酢酸エチル、n−酢酸ブチル、酢酸3−メトキシブチル等の一般的な溶媒や、それらの混合溶媒が挙げられる。
【0025】
また、本発明の透明インキには、広い読取角度及び塗工性を得る目的で、レベリング剤及び微粒子等を配合することができる。レベリング剤及び微粒子としては、液晶の配向を必要以上に(液晶材料のらせん軸に所望の角度(分布)を付与する以上に)乱さないものであれば特に制限なく用いることができ、前記プライマー層に用いられるものに限らず用いることができる。
【0026】
本発明の透明シートにおいて、透明パターンの印刷方法としては、特に限定されず公知の方法を用いることができ、例えば、フレキソ印刷法、グラビア印刷法、孔版印刷法、インキジェット印刷法等が挙げられる。
【0027】
本発明の赤外線反射パターン印刷透明シートにおいて、該パターンは、センサーを備えた入力端末にて読み取った部分的なパターンから、シート面上における入力端末の位置情報を導き出すことができるよう設定されたものである。
そのようなパターンについては特許文献1及び2にも幾つか例示されており、例えばドットの形状を複数設定し、平面内において、所定範囲内に配置されたこれら複数形状のドットの組み合わせをパターン化したようなもの、縦横に配置した罫線の太さを変えて、所定範囲内の前記罫線の重なり部分の大きさの組み合わせをパターン化したようなもの、x、y座標の値を直接ドットの縦横の大きさと結びつけたもの等が挙げられるが、特に簡素で好適なものとしては、縦横に等間隔に並ぶ基準点を設定して、この基準点に対して上下左右に変位したドットを配置し、これらドットの当該基準点からの相対的な位置関係を利用するドットパターンによる方法が挙げられる。この方法はドットのサイズを小さく一定にできるため入力装置の高分解能化に有利であり、より広い読取角度を得る観点からも好適である。また、より広い読取角度を得る観点から、透明インキにより透明パターンを形成後、エンボス板等を用いて機械的に凹凸処理を施すこともできる。凹凸処理は、通常の手段によって行うことができる。
【0028】
本発明の赤外線反射パターン印刷透明シートにおいて、入力端末に備えられた赤外線センサーにより反射パターンを検知するには、選択反射ピーク波長における赤外線反射率が大きいほうが好ましい。通常は、選択反射ピーク波長において反射率5〜50%程度であり、20%以上であると好ましい。なお、コレステリック構造による反射は、コレステリック螺旋と同じ向きの円偏光のみを反射する性質があるため、最大でも50%程度にしか到達しない。
コレステリック構造による反射の場合、一般に印刷厚みが厚いほど反射強度が大きくなるが、厚すぎると液晶の配向性の不必要な乱れや透明性の低下、乾燥負荷増大を招くため、赤外線反射パターンの印刷厚みは通常1〜20μm程度であり、好ましくは3〜15μm程度である。コレステリック液晶構造のらせんピッチ数が10〜20ピッチ程度で、反射率は飽和状態になるとされているが、液晶組成と固化条件が決まれば、実際の製造上は、反射強度が飽和する膜厚を実験的に求め、反射率の最適化を図れば良い。なお、上記の範囲内の膜厚(又はピッチ数)であれば、印刷パターンの磨耗、損傷を防止することができ、製造原価の必要以上な高騰を抑えることができる。
印刷パターンがドットパターンである場合、ドット形状は隣接するドットと容易に区別できれば特に制限はなく、通常は、平面視形状が、円、楕円、多角形等の形状が用いられる。またドットの立体形状についても特に制限はなく、通常円盤状であるが、半球状や凹面状であっても良い。
【0029】
[透明基板]
本発明の赤外線反射パターン印刷透明シートに用いる透明基板としては、可視光を透過する材料であれば特に限定されないが、光学的不具合の少ない材料で形成されたものが好ましい。いわゆるフィルム、シート、あるいは板の形態のものが適宜用いられる。また、平坦なもののほか、ディスプレイ表面の湾曲面に合わせるように曲面形状であっても良い。具体的には、透明基板の材料としては、ガラスやTAC(トリアセチルセルロース)、PET(ポリエチレンテレフタレート)、ポリカーボネート、ポリ塩化ビニル、アクリル、ポリオレフィン等が好適に用いられる。また、厚みは20〜5000μm、カール性の観点から好ましくは100〜5000μmの範囲から、材料、要求性能、及び使用形態に応じて適宜選定する。
【0030】
前記透明基板として、TACフィルム等の高分子フィルム等のような溶媒に溶解又は膨潤しやすい材料を用いる場合には、透明パターン印刷時に使用するコーティング液中の溶媒で基板が侵されないように、基板上にバリア層を設けてもよい。例えば、PVA(ポリビニルアルコール)やHEC(ヒドロキシエチルセルロース)等の水溶性物質をバリア層として用いれば良い。
【0031】
また、広い読取角度を得る目的で、透明基材の表面上(プライマー層の積層側)に凹凸層を好ましく設けることができる。この凹凸層の形成方法としては、透明基材の表面に凹凸が形成できれば特に制限はないが、後述するドライプロセス及びウェットプロセスを好ましく用いることができる。ドライプロセスとしては、エンボス版を用いた熱プレスにより表面に微小凹凸を形成させる方法、サンドブラスト法により、表面に微小凹凸を形成させる方法等がある。ウェットプロセスとしては、例えばアクリル樹脂、ジエン系樹脂、ポリエステル系樹脂及びシリコーン系樹脂等の硬化型樹脂中に、通常平均粒子径が30μm以下、好ましくは2〜15μm程度のシリカ粒子を、樹脂100質量部に対して0.1〜10質量部程度分散してなる硬化性組成物をグラビアコート、リバースロールコート、ダイコート等で、乾燥後の厚さが5〜30μm程度となるように、塗布乾燥し、必要に応じて熱、あるいは紫外線、電子線等の電離放射線の照射で硬化させる方法等がある。
また、ウェットプロセスとして、電離放射線硬化型樹脂と、所望により光重合開始剤を含む塗工液を、凹凸を有する版胴へ塗布し、この塗膜とPET系基材フィルムを接触させた状態で電離放射線を照射して硬化させたのち、該版胴を剥離し、PET系基材フィルム表面に凹凸を転写する方法、あるいは凹凸を有する賦型フィルムへ前記塗工液を塗布し、この塗膜とPET系基材フィルムを接触させた状態で電離放射線を照射して硬化させたのち、該賦型フィルムを剥離し、PET系基材フィルム表面に凹凸を転写する方法等も用いることができる。
【0032】
前記電離放射線硬化型樹脂としては、紫外線や電子線等の電離放射線で硬化する(メタ)アクリレート系の官能基を有するもの、例えば比較的低分子量のポリエステル樹脂、ポリエーテル樹脂、アクリル樹脂、エポキシ樹脂、ウレタン樹脂、アルキッド樹脂、スピロアセタール樹脂、ポリブタジエン樹脂、ポリチオールポリエン樹脂、多価アルコール等の多官能化合物の(メタ)アルリレート等のオリゴマー又はプレポリマー、モノマーが挙げられ、これらの具体例としては、エチル(メタ)アクリレート、エチルヘキシル(メタ)アクリレート、スチレン、メチルスチレン、N−ビニルピロリドン等の単官能モノマー並びに多官能モノマー、例えば、ポリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ヘキサンジオール(メタ)アクリレート、トリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、1,6−ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート等が挙げられる。なお、ここで、(メタ)アクリレートとは、アクリレート又はメタクリレートを意味する表記である。
その他、カチオン重合性官能基を有する樹脂、例えばエポキシ樹脂等も用いることができる。
【0033】
また、前記電離放射線硬化型樹脂として紫外線硬化型樹脂を使用する場合には、光重合開始剤を併用することが好ましい。光重合開始剤の具体例としては、(メタ)アクリレート系のようなラジカル重合性の樹脂については、アセトフェノン類、ベンゾフェノン類、ミヒラーベンゾイルベンゾエート、α−アミロキシムエステル、テトラメチルチュウラムモノサルファイド、チオキサントン類等が、また、エポキシ樹脂等のカチオン重合性の樹脂については、芳香族ヨードニウム塩、芳香族スルホニウム塩、芳香族ジアゾニウム塩、メタロセン等が挙げられる。また、光増感剤を混合して用いることが好ましく、その具体例としては、n−ブチルアミン、トリエチルアミン、トリ−n−ブチルホスフィン等が挙げられる。
【0034】
[プライマー層]
本発明の赤外線反射パターン印刷透明シートにおいて、透明基板2の表面上にプライマー層4を設け、さらに該プライマー層の表面に微小凹凸形状を付与したり、撥液性物質を添加することが、広い読取角度を得る観点より好ましい。該プライマー層4を構成する材料としては、特に塗工による層形成が可能である点で、有機系樹脂、無機系樹脂等を用いた透明な樹脂が好ましい。プライマー層に用いる樹脂としては、ドットパターンとの屈折率差が十分小さく、ドットパターンに比べて読み取りに使用される赤外線の反射率及び吸收率が十分低い、可視光線及び読取りに使用される赤外線に対して透明な樹脂であれば特に限定は無く、例えば、熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂、電離放射線硬化性樹脂等が挙げられる。これらのなかでも、耐久性、耐溶剤性、広い読取角度を得る観点から、架橋により硬化するタイプの樹脂が好ましく、さらには、電離放射線により短時間で架橋させることができる電離放射線硬化性樹脂が好ましい。この電離放射線硬化性樹脂は、透明パターンによる凹凸を埋め易いという点では、無溶剤又は無溶剤に近い状態で塗工形成できるため有利である。該電離放射線硬化性樹脂としては、前記凹凸層で用いられるものを好ましく用いることができる。
【0035】
前記熱可塑性樹脂としては、例えば、アクリル系樹脂、ポリエステル樹脂、熱可塑性ウレタン樹脂、酢酸ビニル系樹脂、セルロース系樹脂等が挙げられ、透明基板の材料がTAC(トリアセチルセルロース)等のセルロース系樹脂の場合、熱可塑性樹脂として、例えば、ニトロセルロース、アセチルセルロース、セルロースアセテートプロピオネート、エチルヒドロキシエチルセルロース等のセルロース系樹脂が好ましい。
前記熱硬化性樹脂としては、例えば、フェノール樹脂、尿素樹脂、ジアリルフタレート樹脂、メラニン樹脂、グアナミン樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、ウレタン樹脂、エポキシ樹脂、アミノアルキッド樹脂、メラミン−尿素共縮合樹脂、ケイ素樹脂、ポリシロキサン樹脂、硬化性アクリル樹脂等が挙げられる。熱硬化性樹脂を用いる場合、必要に応じて、架橋剤、重合開始剤等の硬化剤、重合促進剤、溶剤、粘度調整剤等をさらに添加して使用することができる。
【0036】
プライマー層中には、広い読取角度を得る観点から、レベリング剤(撥液性物質)を添加して透明パターン表面を上に凸の曲面(例えば、半球面状のような曲面)に湾曲させたり、また、微粒子を添加して、その上に形成される液晶のコレステリック構造のBragg反射面に凹凸や褶曲を形成することが好ましい。
レベリング剤としては、通常用いられるものを特に制限なく用いることができるが、例えば、フッ素系、シリコーン系、アクリル酸共重合物系の各種界面活性剤等が挙げられ、所望とする読取角度に応じて、適宜添加することができる。
微粒子としては、通常用いられるものを特に制限なく適量添加することができるが、例えば無機物ではα−アルミナ、シリカ、カオリナイト、酸化鉄、ダイヤモンド、炭化ケイ素等の球状粒子が挙げられる。粒子形状は、球、楕円体、多面体、鱗片形等が挙げられ、特に制限はないが、球状が好ましい。有機物では架橋アクリル樹脂、ポリカーボネート樹脂等の合成樹脂ビーズが挙げられる。これらの中でも、硬度が高く、耐摩耗性の向上に対する効果が大きいこと、また、球状の粒子を得やすい点で、α−アルミナ及びシリカが好ましく、球状のものが特に好ましい。また、微粒子の粒径は、50μm〜5mm程度である。
【0037】
また、プライマー層中には、適宜必要に応じ、本発明における透明パターンの赤外線反射機能やモアレ防止効果を妨げない範囲で、必要に応じて、例えば、塗液やインキにおける公知の各種添加剤や各種色素を適宜添加しても良い。添加剤としては、例えば、紫外線吸収剤等の光安定剤、分散安定剤等が挙げられ、色素としては、例えば、外光反射防止用色素等のディスプレイ用フィルターにおいて公知の色素が挙げられる。
【0038】
プライマー層は、前記樹脂に加え、通常は溶剤と、その他必要に応じ各種添加剤、色素等とを含む組成物を、塗液又はインキとして用いてなる層である。溶媒としては、材料に対し十分な溶解性を持つ限り特に限定されず公知のものを用いれば良く、例えば、アノン(シクロヘキサノン)、シクロペンタノン、トルエン、アセトン、MEK(メチルエチルケトン)、MIBK(メチルイソブチルケトン)、DMF(N,N−ジメチルホルムアミド)、DMA(N,N−ジメチルアセトアミド)、酢酸メチル、酢酸エチル、n−酢酸ブチル、酢酸3−メトキシブチル等の一般的な溶媒や、それらの混合溶媒を挙げることができる。
【0039】
プライマー層は、このようにして得られるインキを、塗工法や印刷法等の公知の層形成法で形成することができる。具体的には、透明パターンを印刷済みの透明基板の該印刷面に対して、ロールコート、コンマコート、ダイコート等の塗工法、又は、スクリーン印刷、グラビア印刷等の印刷法により形成すれば良い。印刷法は任意形状での部分形成が容易であるが、塗工法でも間欠塗工で部分形成可能である。
なお、プライマー層の厚みは、通常0.1〜10μm程度であり、より薄いフィルムを作製し、より広い読取角度を得る観点より、0.1〜5μmが好ましい。
【0040】
[その他の層]
また、本発明の赤外線反射パターン印刷透明シートにおいて、ペン型等の入力端末で手書入力する際に、繰り返し入力端末が接触しても耐えられる強度を与えるために、透明基板上にオーバーコート層(硬質塗膜からなる表面保護層)を設けても良い。オーバーコート層の材質としては、特に限定されず、通常の透明シートやレンズの分野において用いられているものが使用できる。例えば、紫外線、電子線、熱等で架橋硬化したアクリル樹脂、珪素系樹脂等が代表的なものである。また、モアレを低減するために、透明インキに用いる液晶材料の屈折率と近い屈折率を有する材料を好ましく用いることができる。
さらに、本発明の赤外線反射パターン印刷透明シートの背後にあるディスプレイ装置の視認性を確保するために、シート表面又は内部に反射防止膜等を設けても良い。反射防止膜の材質としては、特に限定されず、通常のディスプレイ用透明シートやレンズの分野において用いられているものが使用できる。例えば、フッ化マグネシウム、フッ素系樹脂等の低屈折率物質の薄膜と、酸化ジルコニウム、酸化チタニウム等の高屈折率物質の薄膜とを該低屈折率の薄膜が最表面になる様積層した誘電体多層膜等が代表的なものである。
【0041】
[ディスプレイ装置]
本発明の赤外線反射パターン印刷透明シートを装着するディスプレイ装置は、手書き入力データを処理する情報処理装置に接続されたものであってもよく、独立したものであっても良いが、前者は手書き入力時の軌跡を画面上に表示することができ直感的な入力が可能であるため好ましい。
ここで手書き入力情報を扱う情報処理装置としては、携帯電話、PDA等の各種携帯端末や、パーソナルコンピュータ、テレビ電話、相互通信機能を備えたテレビジョン、インターネット端末等が例示できる。
【0042】
本発明で用いることができる入力端末6としては、図1に示すように、赤外線iを発し、前記パターンの反射光rを検知できるものであれば特に限定されず公知のセンサーを用いれば良く、例えば、ペン型の入力端末6が読取データ処理装置7も具備する例として、特開2003−256137号公報に開示されている、インキや黒鉛等を備えないペン先、赤外線照射部を備えたCMOSカメラ、プロセッサ、メモリ、Bluetooth技術等を利用したワイヤレストランシーバ等の通信インタフェース、及びバッテリ等を内蔵しているもの等が挙げられる。
ペン型入力端末6の動作としては、ペン先を平面視が図2に示される透明パターン3(ドットパターン)が印刷された透明シート1の前面に接触させてなぞるように描画すると、ペン型入力端末6がペン先に加わった筆圧を検知し、CMOSカメラが作動して、ペン先近傍の所定範囲を赤外線照射部から発する所定波長の赤外線で照射するとともに、パターンを撮像する(パターンの撮像は、例えば、1秒間に数10から100回程度行われる)。ペン型入力端末6が読取データ処理装置7を具備する場合には、撮像したパターンをプロセッサで解析することにより手書き時のペン先の移動に伴う入力軌跡を数値化・データ化して入力軌跡データを生成し、その入力軌跡データを情報処理装置へ送信する。
なお、プロセッサ、メモリ、Bluetooth技術等を利用したワイヤレストランシーバ等の通信インタフェース、及びバッテリ等の部材は、図1に示すように、読取データ処理装置7として、ペン型入力端末6の外部に有っても良い。この場合には、ペン型入力端末6は読取データ処理装置7にコード8で接続されていても、電波、赤外線等を用い無線で読取データを送信しても良い。
この他、入力端末6は、特開2001−243006号公報に記載された読取器のようなものであっても良い。
【0043】
本発明において適用できる読取データ処理装置7は、入力端末6で読み取った連続的な撮像データから位置情報を算出し、それを時間情報と組み合わせ、情報処理装置で扱える入力軌跡データとして提供する機能を有するものであれば特に限定されず、プロセッサ、メモリ、通信インタフェース及びバッテリ等の部材を具備していれば良い。
また、読取データ処理装置7は、特開2003−256137号公報のように入力端末6に内蔵されていても良く、また、ディスプレイ装置を備える情報処理装置に内蔵されていても良い。また、読取データ処理装置7は、ディスプレイ装置を備える情報処理装置に無線で位置情報を送信しても良く、コード等で接続された有線接続で送信しても良い。
ディスプレイ装置5に接続された情報処理装置は、読取データ処理装置7から送信されてきた軌跡情報に基づき、ディスプレイ装置5に表示する画像を順次更新することによって、入力端末6で手書き入力した軌跡を、紙の上にペンで書いたかのようにディスプレイ装置上にリアルタイムで(又は必要に応じて適宜時間を遅らせて)表示することができる。
【0044】
このように、本発明の赤外線反射パターン印刷透明シートは、既存のディスプレイ装置にそのまま装着することができ、ディスプレイ装置に組み込むタイプの静電式、感圧式等の位置入力装置よりも容易に作製することができ、軽量化、コスト低減、及び大型化も容易に可能となる。また、印刷された位置情報を提供可能なパターンが薄くなったり、傷が付いたりする等して、位置情報提供の機能が低減した場合であっても、透明シートのみを交換すれば良いので、使用者にとって扱いやすいものとなる。
本発明の赤外線反射パターン印刷透明シートは、液晶ディスプレイに装着すれば、液晶保護シートとしても使用可能なものとなる。
【0045】
本発明の赤外線反射パターン印刷透明シートは、ディスプレイ装置の前面に対向して着脱可能に装着するようにすることもできる。このようにすれば、一つのディスプレイ装置のみならず、別のディスプレイ装置にも装着することができるようになる。また、ディスプレイ装置側には装着のための加工を施さないようにして透明シートを装着することができるようにするために、透明シート自体が、ディスプレイ装置に対する装着手段を備えていると好ましい。なお、この装着手段とは、透明シートと一体に設けられたものであっても、別体に設けられたものであっても良い。
このような装着手段として、例えばバックル状のものをディスプレイ装置のコーナ部に引っ掛けるようなものや、ディスプレイ装置の端部を挟み込むようなもの等が挙げられるが、簡単で好適な具体的態様としては、ディスプレイ装置の前面に装着するような場合において、ディスプレイ装置に接触する接触面側に設けられ、ディスプレイ装置に貼り付けるための接着性又は粘着性を有する貼着具が挙げられる。また、貼着具としては、透明シートに一体的に取り付けられた接着性又は粘着性を有するものや、接触面に直接塗装された接着剤や粘着剤等をも含むものが挙げられる。
【0046】
本発明の赤外線反射パターン印刷透明シートは、その製造の利便性を向上するために、透明シートを、切り離し可能なものとすると好ましい。具体的には、鋏等の切断具又は専用の切断具等で切り離せるようなものや、ミシン目、ハーフカット(包装材料の分野で多用される手段であり、厚み方向に全厚みに満たない程度の深さの切り目を入れる手法。)等を入れることにより手で切り離すことができるようなもの等が挙げられる。このようなものであれば、使用者側で、各使用者所有のディスプレイ装置大きさに対応して切断することができるようになるため、製造者側は、数種の所定のサイズに設定したシートを製造すれば良いからである。さらに、汎用のディスプレイ装置の規格サイズにミシン目を入れるようにしても良い。
また、このような使い方が可能であれば、位置情報を提供するパターンが印刷された一のシートを分割し、それぞれのシートが異なる座標範囲を示すようにすることが可能になる。このようなシートを用いる場合、例えば隣接したディスプレイ装置に対して連続した座標を示すシートを適用すれば、入力データに連続性を与えることができる。また、1つの入力装置に対し異なる座標範囲の透明シートを複数切り替えて使用することで、それぞれの透明シートに対し異なる意味を付与することができる。
【実施例】
【0047】
次に、実施例を用いて本発明をさらに詳しく説明するが、本発明はこの実施例に限定されるものではない。
実施例1
両末端に重合可能なアクリレート基、中央部にメソゲン基、前記アクリレート基との間にスペーサーを有し、ネマチック−アイソトロピック転移温度が110℃付近であるモノマー(前記化合物(9)で示される分子構造を有するもの)100質量部と、両末端に重合可能なアクリレート基を有するカイラル剤(前記化学式(12)で示される分子構造を有するもの)3.3質量部とをMIBK(メチルイソブチルケトン)に溶解させたメチルイソブチルケト溶液を調製した。なお、このメチルイソブチルケトン溶液には、4質量部の光重合開始剤(ビーエーエスエフジャパン株式会社製、ルシリン(登録商標)TPO)を添加した。
一方、125μm厚の透明なPET(ポリエチレンテレフタレート)基板からなる透明基板上に、MEK(メチルエチルケトン)を溶媒として、ペンタエリスリトールトリアクリレート100質量部、レベリング剤(ビックケミー社製、商品名:BYK361)0.03質量部、及び重合開始剤(ビーエーエスエフ社製、商品名:ルシリンTPO)4質量部を溶解させた溶液をバーコーターによりコーティングし、80℃で2分間乾燥させて成膜し(膜厚1μm)、プライマー層を形成した。
得られたプライマー層を有するPET基板上に、前記のメチルイソブチルケトン溶液をインキとして、グラビア印刷法により印刷を行い、平面視形状が粒径100μmの円形のドットからなる透明パターンを形成した。次に、加熱乾燥させると同時に液晶のコレステリック相転移を進行させた。これに紫外線を照射し、塗膜中の光重合開始剤から発生するラジカルによってモノマー分子とカイラル剤のアクリレート基を架橋してポリマー化させ、透明シートを作製した。作製された透明シートの透明基板と直交する断面をSEMにより観察したところ、印刷ドットの該断面形状は略半円状となっており、コレステリック液晶のらせんピッチの半周期に対応する多層構造の各膜面が、該略円形の表面輪郭形状に沿って、同様に湾曲していることが確認された(図6参照)。また、該透明シートに赤外線を照射して、その反射光を画像として検知したところ、45°まで読み取ることが可能であり、広い読取角度を有する透明シートが得られた。
【0048】
比較例1
実施例1において、TAC基板上にバーコーティングした溶液を、純水98質量部にヒドロキシエチルセルロースを2質量部を溶解させた溶液とし、該溶液をTAC基板上に塗布して乾燥させた後、100℃で成膜して得られたTAC基板を用いること以外は、実施例1と同様にして透明シートを作製した。透明基板と直交する断面をSEMにより観察したところ、印刷ドットの該断面形状は略矩形状になっており、コレステリック液晶のらせんピッチの半周期に対応する多層構造の各膜面が、該略矩形の表面輪郭形状に沿って同様に平行直線群状に配列していた。よって、ドット内において、コレステリック液晶のらせん軸方向と該透明基板の法線とのなす角度は0°で、一定の角度に一様に向いていることが確認された。その時の読取角度は0°であった。
【0049】
比較例2
実施例1において、PET基板上にスピンコーティングした溶液においてレベリング剤を用いなかったこと以外は、実施例1と同様にして透明シートを作製した。該透明シートのコレステリック液晶のらせん軸方向と透明基板の法線とのなす角度は0°と、上記の比較例1と同様であり、その時の読取角度は0°であった。
【産業上の利用可能性】
【0050】
本発明の赤外線反射パターン印刷透明シートは、ディスプレイ装置の画面に直接手書きするタイプのデータ入力システムに適用できる、座標検知手段を提供する部材であって、作業スペースが低減できることに加えて、軽量で、価格が安く、大面積化が容易で、量産可能であり、かつ広い読取角度を有する読取性能に優れている。このため、手軽に使用することができ、実用性能が高く、携帯電話、PDA等の各種携帯端末や、パーソナルコンピュータ、テレビ電話、相互通信機能を備えたテレビジョン、インターネット端末等の種々の情報処理装置に用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0051】
【図1】本発明の赤外線反射パターン印刷透明シートを用いるシステム全体の概略図である。
【図2】本発明の赤外線反射パターン印刷透明シートにおいてドットパターンが不規則に配列した例を示す要部拡大平面図である。
【図3】本発明の赤外線反射パターン印刷透明シートの好ましい一実施態様を示す、透明基板に直交する面で切断した断面図である。
【図4】本発明の赤外線反射パターン印刷透明シートの好ましい一実施態様を示す、透明基板に直交する面で切断した断面図である。
【図5】コレステリック液晶の繰り返しの層構造を示す走査型電子顕微鏡写真である。
【図6】本発明の実施例のコレステリック液晶の繰り返しの層構造を示す走査型電子顕微鏡写真である。
【符号の説明】
【0052】
1:赤外線反射パターン印刷透明シート(透明シート)
2:透明基板
3:透明パターン
4:プライマー層
5:ディスプレイ装置
6:入力端末(ペン型)
7:読取データ処理装置
8:コード
i:赤外線
r:反射光

【特許請求の範囲】
【請求項1】
透明基板の表面に赤外線反射性の透明パターンが印刷されてなり、画像表示可能なディスプレイ装置の前面に対向して装着される透明シートであって、
該透明パターンを構成するインキが赤外線反射材料を含み、該透明パターンは、赤外線の照射及び検知が可能な入力端末により赤外線の反射パターンを読み取って、透明シート上における入力端末の位置情報を提供可能なパターンであり、
該赤外線反射材料が、赤外線領域の波長に対して波長選択反射性を持つ固定化されたコレステリック構造を有する液晶材料であり、
該透明基板の表面に印刷された赤外線反射性の透明パターンを該透明基板に直交する面で切断した断面は、走査型電子顕微鏡で観察した場合に、一定の繰返し周期からなる多層構造を含むよう形成されており、かつ該多層構造を構成する該液晶材料のらせん軸と透明基板の表面の法線とがなす傾き角が少なくとも0〜45°の範囲内で分布を有する赤外線反射パターン印刷透明シート。
【請求項2】
前記透明パターンがドットパターンである請求項1に記載の赤外線反射パターン印刷透明シート。
【請求項3】
前記コレステリック構造を有する液晶材料が、ネマチック液晶にカイラル剤を混合したカイラルネマチック液晶材料からなる請求項1又は2に記載の赤外線反射パターン印刷透明シート。
【請求項4】
前記ネマチック液晶及びカイラル剤がそれぞれ架橋可能な官能基を有し、これらを架橋させることによりコレステリック構造が固定化される請求項3に記載の赤外線反射パターン印刷透明シート。
【請求項5】
前記ネマチック液晶及び/又はカイラル剤が、アクリレート構造を有する化合物である請求項3に記載の赤外線反射パターン印刷透明シート。
【請求項6】
前記透明基板と透明パターンとの間にプライマー層を有する請求項1〜5のいずれかに記載の赤外線反射パターン印刷透明シート。
【請求項7】
前記透明パターンが800nm〜950nmに選択反射ピーク波長を有する請求項1〜6のいずれかに記載の赤外線反射パターン印刷透明シート。
【請求項8】
前記透明パターンの印刷厚さが1〜20μmである請求項1〜7のいずれかに記載の赤外線反射パターン印刷透明シート。
【請求項9】
前記ディスプレイ装置に装着するための装着手段を備えている請求項1〜8のいずれかに記載の赤外線反射パターン印刷透明シート。
【請求項10】
前記装着手段が、ディスプレイ装置に接触する接触面側に設けられ、ディスプレイ装置に貼り付けるための接着性又は粘着性を有する貼着具である請求項9記載の赤外線反射パターン印刷透明シート。
【請求項11】
切り離し可能なものである請求項1〜10のいずれかに記載の赤外線反射パターン印刷透明シート。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2008−165385(P2008−165385A)
【公開日】平成20年7月17日(2008.7.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−352545(P2006−352545)
【出願日】平成18年12月27日(2006.12.27)
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.Bluetooth
【出願人】(000002897)大日本印刷株式会社 (14,506)
【Fターム(参考)】