説明

赤外線式炭酸ガス検知器および赤外線式炭酸ガス検知器のゼロ校正方法

【課題】 ゼロ校正用ガスを導入するだけの簡単な操作で、所要のゼロ校正を容易にかつ正確に行うことができる赤外線式炭酸ガス検知器およびこの赤外線式炭酸ガス検知器において行われるゼロ校正方法を提供すること。
【解決手段】 赤外線式炭酸ガス検知器は、導入されたガスが特定の条件を満足するものであることが検知されることにより、当該ガスがゼロ校正用ガスであることが認識されてゼロ校正動作が自動的に行われることを特徴とする。ゼロ校正方法は、導入されたガスについて特定のガス種判別処理を行い、当該ガスが特定の条件を満足するものである場合に当該ガスがゼロ校正用ガスであることを自動的に認識し、当該ガスによる濃度指示値を零点として設定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば赤外線が炭酸ガスによって吸収されることによる赤外線量の減衰の程度に応じて二酸化炭素の濃度を検出する赤外線式炭酸ガス検知器および当該赤外線式炭酸ガス検知器において実行されるゼロ校正方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
例えば、炭酸ガス検知器においては、長期間の使用の結果、ガス検出手段の出力値あるいは当該出力値に基づいて算出される濃度指示値の零点がずれて、例えば環境雰囲気中における炭酸ガスの濃度が一定以上の管理濃度に達しているにも関わらず警報動作を行なわない、あるいは、実際には管理濃度に達していない低い炭酸ガス濃度であるにも関わらず誤って警報動作を行うおそれがあることから、所定期間毎例えば6ヶ月間に1度の頻度でガス検出手段のゼロ校正を行うことが必要とされている。
【0003】
一般には、ガス検出手段のゼロ校正を行うに際しては、通常の監視モードから校正モードに測定モードの変更を行った後、校正用ガスを導入し、ガス検出手段の出力値あるいは当該出力値に基づいて算出される濃度指示値から校正用ガスが導入されていることを確認した状態において、当該出力値あるいは濃度指示値を、例えば操作スイッチを操作することにより、あるいは可変抵抗を調整することによって零点を調整し、再度、ゼロ校正用ガスを導入することによって適正なゼロ校正が行われたかを確認し、その後、ゼロ校正用ガスの導入を停止して校正モードから監視モードに測定モードを再度変更する、という一連の操作を行うことが必要である。
【0004】
しかしながら、上記のようなゼロ校正方法では、ゼロ校正が終了するまでに相当に長い時間を要すると共に作業者にかかる手間が多くなり不便であるため、ガス検出手段のゼロ校正を自動的に行う方法が種々提案されている。
具体的には、例えば濃度指示値が基準濃度値未満に至ったときの当該濃度指示値例えば最低実測濃度指示値をゼロ基準濃度値(零点)として設定する校正方法(特許文献1参照。)や、ゼロ校正用ガスを導入し、当該ガス濃度指示値が所定値以下であるときに、当該ガス濃度指示値をゼロ基準濃度値(零点)として設定する校正方法(特許文献2参照。)などが提案されている。
【特許文献1】特開平09−329559号公報
【特許文献2】特開2003−172695号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、例えば特許文献1に開示されているゼロ校正方法は、通常の監視モードであれば環境雰囲気中における二酸化炭素の濃度指示値が最低濃度に低下するまでに長時間を要することから、最低濃度に至る時点を予測して補正を行う時刻を設定し、当該時刻による実測濃度指示値に基づいてゼロ校正を行うものであるため、不可避的に生ずる誤差を補償するための手段が必要となり、制御系が煩雑化する。
また、特許文献2に開示されているゼロ校正方法では、ゼロ校正用ガスが導入された場合に濃度指示値が予め設定された濃度値以下であるか否かを判定することのみによりゼロ校正が行われるので、零点がずれているために、濃度指示値が条件を満足する状態になっているにも関わらず、検知された出力値に基づいてゼロ校正が行われるおそれがあり、ゼロ校正を正確に行うことが実用上困難である。
【0006】
本発明は、以上のような事情に基づいてなされたものであって、ゼロ校正用ガスを導入するだけの簡単な操作で、所要のゼロ校正を容易にかつ正確に行うことができる赤外線式炭酸ガス検知器およびこの赤外線式炭酸ガス検知器において行われるゼロ校正方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の赤外線式炭酸ガス検知器は、導入されたガスが下記条件(1)〜(3)のすべてを満足するものであることが検知されることにより、当該ガスがゼロ校正用ガスであることが認識されてゼロ校正動作が自動的に行われることを特徴とする。
【0008】
(1)濃度指示値が予め設定された基準値以下であること。
(2)濃度指示値がガスの導入に伴って予め設定された参照時における濃度指示値から所定の大きさ以上低下したものであること。
(3)濃度指示値の変動幅が所定範囲内にある状態が所定時間の間継続していること。
【0009】
本発明の赤外線式炭酸ガス検知器においては、前記条件(2)における参照時を、濃度指示値が予め設定された基準値以下になった時点である判別処理基準時の少なくとも2分以上前の時点、あるいは判別処理基準時前の24時間以内における最低実測濃度指示値が得られた時点に設定することができる。
【0010】
本発明の赤外線式炭酸ガス検知器のゼロ校正方法は、導入されたガスについて、前記条件(1)〜(3)の各々に係る判定処理を含むガス種判別処理を行い、当該ガスが前記条件(1)〜(3)のすべてを満足するものであることを検知することにより当該ガスがゼロ校正用ガスであることを自動的に認識し、当該ガスによる濃度指示値を零点として設定することを特徴とする。
【0011】
本発明の赤外線式炭酸ガス検知器のゼロ校正方法においては、前記条件(2)における参照時を、判別処理基準時の少なくとも2分以上前の時点、あるいは判別処理基準時前の24時間以内における最低実測濃度指示値が得られた時点に設定することができる。
【発明の効果】
【0012】
本発明の赤外線式炭酸ガス検知器によれば、作業者はゼロ校正用ガスを導入するだけの簡単な操作を行うことにより特定のガス種判別処理が行われ、その結果に基づいてゼロ校正動作が自動的に行われるので、所要のゼロ校正を極めて容易に、かつ、人的ミスが生じるおそれ(可能性)が低減された状態で正確に行うことができる結果、高い利便性を得ることができると共に炭酸ガスの濃度の監視を高い信頼性をもって行うことができる。
また、少なくとも警報報知機構を備えてさえいれば、実用上、支障をきたすことなしに、所要の監視動作およびゼロ校正動作を行うことができるので、例えばスイッチや可変抵抗などの調整手段、検知された炭酸ガスの濃度を表示するための表示機構、あるいは外部機器への出力端子等が不要であり、ガス検知器の小型化を図ることができる。
【0013】
本発明の赤外線式炭酸ガス検知器のゼロ校正方法によれば、導入されたガスについて、特定のガス種判別処理が行われることにより、ゼロ校正用ガスが作業者によって導入されたことが正確に認識されるので、当該特定のガス種判別処理の結果に基づいてゼロ校正動作が自動的に行われることにより、例えば経年劣化等によって生じた零点のずれを確実に補正することができ、ガス検知器を常に正常な動作状態に維持することができる。
また、作業者はゼロ校正用ガスを導入するだけの簡単な操作を行えばよいので、所要のゼロ校正を極めて容易に行うことができ、高い利便性を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、本発明について、例えば室内の空調、排気(換気)等の目的で設備された排気ダクト内に設置されて室内の炭酸ガスの濃度の監視を行うために用いられる赤外線式炭酸ガス検知器に適用した場合を例に挙げて説明する。
【0015】
図1は、本発明の赤外線式炭酸ガス検知器の一例における構成の概略を、排気ダクト内に装着された状態において示す説明用断面図、図2は、図1に示す赤外線式炭酸ガス検知器におけるガス検知部の構成を示す拡大断面図である。
この赤外線式炭酸ガス検知器(以下、単に「ガス検知器」という。)10は、例えばアルミニウムよりなる円筒状の外套管11を備えており、この外套管11の先端側部分の周壁には、ガス導入用開口を構成するガス導入用スリット12が外套管11の管軸Lに沿って延びるよう形成されていると共に、外套管11の内径に適合する大きさの外径を有する円筒状のダストフィルター15が、その外周面によってガス導入用スリット12の開口が閉がれるよう、外套管11の一端側の開口から挿入されて外套管11の内周面によって接触保持されて設けられている。
【0016】
ダストフィルター15は、外套管11の一端面より管軸L方向外方に突出した状態で設けられており、ダストフィルター15の突出部分を覆うよう蓋部材17が外套管11に対して着脱可能に設けられている。これにより、ダストフィルター15を交換するに際して、蓋部材17を取り外した状態において、ダストフィルター15を容易に引き抜くことができる。ここに、ダストフィルター15の突出部分の内部には充填剤が装填されていてもよい。
【0017】
ダストフィルター15は、その径方向および軸方向に対してガス透過性を有する多孔質構造のもの、例えばPP−PE(ポリプロピレン−ポリエチレン)の複合繊維の不織布よりなり、例えば粒径が5μm以上の塵埃等の粒子を捕捉可能であるものが用いられる。これにより、必要とされる十分な量の被検ガスをガスセル21内に導入することが可能な程度の通気性を確保しながら、被検ガスに含まれる塵埃がガスセル21内に混入することを確実に防止することができる。
また、ダストフィルター15の厚みは、被検ガスのガスセル21内への拡散に要する時間が長くなってガス検知動作に係る応答性が低下しないよう設定され、例えば1.4mmであるものが用いられている。
【0018】
外套管11内の先端側部分、具体的には、ガス導入用スリット12に対向する位置には、センサーユニット20が配置されており、これにより、ガス検知部が構成されている。
センサーユニット20は、被検ガスが導入される例えばステンレス鋼よりなる円筒状のガスセル21を備え、このガスセル21の一端に、点滅駆動される赤外線光源22が設けられていると共に、ガスセル21の他端に、赤外線光源22からの赤外光を光学フィルター(図示せず)を介して受光する赤外線センサー23が設けられて構成されている。ここに、ガスセル21の内周面は、反射面としても利用されている。
24は、赤外線センサー23からのガス検知信号を処理する円板状の制御用回路基板であり、この制御用回路基板24は、ダストフィルター15の他端面の外周縁部分が当該制御用回路基板24の周縁に沿って突出して外套管11の内部空間に露出されるよう、ダストフィルター15の他端面に当接されている。25は、赤外線光源22からの赤外光を反射する反射鏡である。
【0019】
センサーユニット20を構成するガスセル21には、その周壁を貫通する円形状のガス流入口26が、ガスセル21の両側面の軸方向に並んだ位置において、それぞれ例えば3箇所ずつ、合計6箇所に形成されている。
ガスセル21におけるガス流入口26と、外套管11におけるガス導入用スリット12との位置関係は、特に制限されるものではなく適宜に調整することができる。
【0020】
ガスセル21の外周面には、円筒状の保護フィルター30がダストフィルター15との間に環状空隙31が形成されるよう固定されて設けられており、これにより、ガスセル21におけるガス流入口26が塞がれている。
保護フィルター30は、ダストフィルター15を構成するものと同様の材質、例えばPP−PE(ポリプロピレン−ポリエチレン)の複合繊維の不織布よりなり、例えば粒径が5μm以上の塵埃等の粒子を捕捉可能なものが用いられる。ここに、保護フィルター30は、その厚みがダストフィルター15より小さいもの、すなわちダストフィルター15より通気抵抗が小さいものであることが好ましく、例えば1.0mmであるものが用いられる。
【0021】
上記ガス検知器10において、図1および図2における35は、外套管11の基端側の開口から挿入されてセンサーユニット20との間に配線用空間部Sが形成されるよう設けられた、外套管11の内部空間を気密に閉塞する閉塞構造体、36は、外套管11内をその管軸Lに沿って延びるよう設けられた校正用ガスを供給するための校正用ガス供給用パイプであり、校正用ガス供給用パイプ36のガス供給口は配線用空間部Sに開口している。
【0022】
このガス検知器10は、ガス検知部を備えた先端側部分が排気ダクトD内の中心に位置され、装置全体が排気ダクトD内の空気の流過方向に対して直交して延びる姿勢で、外套管11の基端部に形成された装着部11Aが断熱材(図示せず)を介して排気ダクトDの壁に装着されて、用いられる。これにより、校正用ガスをガス検知器10それ自体を設置したままの状態において、排気ダクトDの外部から、外乱の影響を受けることなしに導入することができる。
ここに、外套管11におけるガス導入用スリット12の開口方向は、十分な量の被検ガスを導入することができ、しかも、排気ダクトD内のガスの流れによっていわば強制的に塵埃等が補捉されることに伴うダストフィルター15の大幅な集塵性能の低下が防止されるよう、排気ダクトDが設備された室内の使用状況、排気ダクトD内のガス流量、ガス流速およびその他の条件に応じて適宜に設定することができる。
【0023】
そして、このガス検知器10においては、ガスセル21内に導入されたガスについて、図3に示すようなガス種判別処理が行われ、その結果に基づいて、監視動作またはゼロ校正動作が自動的に選択されて行われる。
すなわち、自然拡散によってガス導入用スリット12から進入した被検ガスが、ダストフィルター15の内部に拡散されて当該被検ガスに含まれる塵埃が除去された状態において、ダストフィルター15と保護フィルター30との間の環状空隙31に導入され、保護フィルター30を介してガス流入口26からガスセル21内に導入されている場合には、通常、下記条件(1)を満足しないので、このことを理由として、ガスセル21内に導入されているガスがゼロ校正用ガスではないことが認識され、室内の環境雰囲気中に含まれる二酸化炭素の濃度(変化の状況)の監視動作が行われる。具体的には、点滅駆動される赤外線光源22からの赤外光が被検ガスが導入されたガスセル21を介して赤外線センサー23に受光され、赤外線光量の減少の程度に応じた炭酸ガス濃度が検出され、炭酸ガス濃度が所定値以上であることが検知されたときには図示しない警報報知機構による警報が発報される。そして、室内の換気量の調整、例えば外気を取り入れるなどして室内の炭酸ガス濃度を低下させる措置がなされる。
また、ガス検出部からの出力信号は、例えば一定時間毎、例えば10分間毎に図示しないメモリに記録される。
【0024】
また、ガス種判別処理が行われた結果、下記条件(1)〜条件(3)のすべてを満足することが確認された場合には、ゼロ校正用ガスが作業者によって導入されたことが認識され、ゼロ校正動作が自動的に行われる。
(1)濃度指示値が予め設定された基準値以下であること。
(2)濃度指示値がガスの導入に伴って予め設定された参照時における濃度指示値から所定の大きさ以上低下したものであること。
(3)濃度指示値の変動幅が所定範囲内にある状態が所定時間の間継続していること。
【0025】
ガス種判別処理について具体的に説明すると、先ず、導入されたガスについて検知された濃度指示値が、予め定められた基準値以下の濃度範囲内にあるか否か(条件(1)の適否)の判断が行われる。
条件(1)における基準値は例えば100ppmに設定される。この理由は、ゼロ校正用ガスの導入により炭酸ガスの濃度指示値は0ppmと出力されるところ、ゼロ校正動作が定期的に行われているにもかかわらず、濃度指示値の零点が例えば100ppm以上 (+)側にずれていることに起因してゼロ校正動作が行われない場合には、作業者は赤外線センサーそれ自体が異常なものであると判断できるからである。換言すれば、例えば室内への人の出入りが全くない状態であっても、室内の空気中には、少なくとも350ppm以上の炭酸ガスが存在していることから、濃度指示値が100ppm以下となることは、ゼロ校正用ガスが導入されたためであると判断できるからである。
【0026】
次いで、基準値以下の濃度範囲内に至った時点である判定処理基準時における濃度指示値(x1)の、予め設定された参照時における濃度指示値(x2)に対する濃度低下幅 (x2−x1)の大きさが所定値以上であるか否か(条件(2)の適否)の判断が行われる。
この条件(2)は、濃度指示値の零点が例えば(−)側にずれているために、上記条件(1)を満足する状態になっているにも関わらず、このことを理由として、ゼロ校正動作が行われることを防止するためのものであり、参照時は、例えば判定処理基準時の少なくとも2分以上前の時点に設定され、好ましくは判定処理基準時の5分以上前の時点に設定される。ここに、少なくとも2分以上前の時点としたのは、ガスセル内のガス置換には例えば2〜3分間程度の時間を要するためであり、例えば5分以上前の時点であれば、ゼロ校正用ガスが導入される前の濃度指示値が確実に安定した状態にあると考えられるからである。
【0027】
また、条件(2)の判断基準となる濃度低下幅の設定値は、少なくとも200ppmとされ、より好ましくは300ppmとされる。この理由は、例えば室内への人の出入りが全くない状態であっても、室内の空気中には、例えば350〜400ppmの濃度範囲で炭酸ガスが存在していることから、濃度指示値が低下するその程度が200ppm以上であれば、濃度指示値が低下した理由が、外乱の影響によるものではなく、ゼロ校正用ガスが導入されることによるものであると判断されるからである。換言すれば、赤外線センサーの特性上、炭酸ガスによって赤外線が吸収されることによって生ずる濃度指示値の濃度低下幅(変化率)は、経時的にも、温度等の環境変動によってもほとんど不変的なものであり、ゼロ校正用ガスの導入による濃度低下幅は、零点がずれている場合であっても、ある一定以上の大きさとなる。従って、大気中には炭酸ガスが350〜400ppmの濃度範囲で存在していることから、濃度低下幅が200ppmより小さい場合には、ゼロ校正用ガスが導入されたことによって濃度指示値が低下したのではないと判断できるからである。
【0028】
例えば、導入されたガスが、条件(1)は満足するが、条件(2)を満足しないものであることが確認されたことを理由として、ゼロ校正処理が実施されない場合には、赤外線センサーに異常があると判断することができる。
【0029】
そして、上記条件(2)を満足することが確認された場合には、濃度指示値の変動幅の大きさが許容変動幅内にある状態が所定時間の間継続しているか否か(条件(3)の適否)の判断が行われる。
この条件(3)は、炭酸ガスの濃度指示値が安定した状態になっていないにも関わらず、上記条件(1)および条件(2)を満足することを理由としてゼロ校正動作が行われることを防止するためのものであり、許容変動幅の大きさは、赤外線センサーの分解能等を考慮して例えば±20ppmに設定される。
また、濃度変動幅の大きさを算出するためのサンプリング時間は、濃度指示値が安定した状態であることを確認することができる程度であればよく、例えば20秒間〜1分間程度に設定される。
【0030】
本発明のガス検知器においては、上記条件(1)〜(3)の適否の判断を含む一連のガス種判別処理が、被検ガスが導入されてから予め設定された時間(以下、「判別処理実行許容時間」という。)内において、繰り返し行われるよう設定することができる。具体的には、判別処理実行許容時間内において、判断基準を満足しない条件についての適否の判断、例えば条件(1)および条件(2)を満足することが確認された場合であって、条件(3)を満足しないことが確認された場合には、条件(3)の適否の判断が繰り返して行われる。判別処理実行許容時間を設定することにより、例えばガス種判別処理が濃度指示値が安定していない状態で開始された場合であっても、いわば判断処理基準時が判別処理実行許容時間においてシフトされながら各条件の適否の判断が適時に行われるので、ゼロ校正用ガスが導入されている場合には、所要のゼロ校正処理を確実に行うことができる。
判別処理実行許容時間は、例えば最大で5分間に設定される。この理由は、5分間あれば、機器(例えば赤外線センサー)に異常があるか、あるいは、ゼロ校正用ガスが導入されているかの判断を正確に行うことができるからである。
また、判別処理実行許容時間を過ぎても、すべての条件を満足しないことが確認され、このことを理由としてゼロ校正処理が行われない場合には、例えばガスセンサに異常があるものと判断することができる。
【0031】
一方、上記3つの条件(1)〜(3)のうちのいずれか一の条件でも満足しないことが確認された場合には、導入されたガスがゼロ校正用ガスではないことが認識されて通常のガス監視動作が行われる。
【0032】
以上において、ガス検知部のゼロ校正処理は、定期的に、あるいは、必要に応じて適宜に行われ、ゼロ校正用ガスとしては、赤外光を吸収しないガスであればよく、例えば窒素ガスなどを用いることができる。
ガス検知部のゼロ校正処理について具体的に説明すると、先ず、ゼロ校正用ガスが作業者によって排気ダクトDの外部から図示しないボンベ等により校正用ガス供給用パイプ36を介して配線用空間部Sに供給されることにより、ゼロ校正用ガスはダストフィルター15の他端面から進入してダストフィルター15の内部に拡散されながらダストフィルター15と保護フィルター30との間の環状空隙31に導入され、その後、保護フィルター30を介してガス流入口26からガスセル21内に導入される。
そして、ガスセル21内に導入されたガスについて、ガス検知部による炭酸ガスの濃度検知が行われ、上記条件(1)〜(3)のすべてを満足することが確認されることにより、ゼロ校正用ガスが導入されたことが認識された時点から所定時間(サンプリング時間)の間に得られた濃度指示値の平均値が零点に再設定される。
以上のような一連のゼロ校正処理が終了すると、例えば発光によって警報を発報する警報報知機構を構成する、例えばLEDよりなる表示用発光部によってガス検知器10の状態が点灯状態および発色状態により区別されて表示される。
【0033】
而して、上記のようなゼロ校正方法によれば、ガスセル21内に導入されたガスについて、特定のガス種判別処理が行われることにより、ゼロ校正用ガスが作業者によって導入されたことが正確に認識されるので、当該特定のガス種判別処理の結果に基づいてゼロ校正動作が自動的に行われることにより、例えば経年劣化等によって生じた出力値の零点のずれを確実に補正することができ、ガス検知器10を常に正常な動作状態に維持することができる。
従って、このようなゼロ校正方法が実行されるガス検知器10によれば、作業者はゼロ校正用ガスを導入するだけの簡単な操作を行うことにより特定のガス種判別処理が行われ、その結果に基づいてゼロ校正動作が自動的に行われるので、所要のゼロ校正を極めて容易に、かつ、人的ミスが生じるおそれ(可能性)が低減された状態で正確に行うことができる結果、高い利便性を得ることができると共に、炭酸ガスの監視動作を高い信頼性をもって行うことができる。
【0034】
また、少なくとも警報報知機構を備えてさえいれば、実用上、支障をきたすことなしに、所要のガス監視動作およびゼロ校正動作を行うことができるので、例えばスイッチや可変抵抗などの調整手段、検知された炭酸ガスの濃度を表示するための表示機構、あるいは外部機器への出力端子等が不要であり、ガス検知器の小型化を図ることができる。
【0035】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は上記の実施形態に限定されるものではなく、種々の変更を加えることができる。
例えば、判別処理における各条件の判断基準となる設定値は、特に限定されるものではなく、適宜に設定することができる。例えば、上記条件(2)における参照時は、ゼロ校正用ガスが作業者によって導入された時点から24時間以内において最低濃度指示値が得られた時点に設定されていてもよく、この場合であっても、当該参照時における濃度指示値は安定した状態にあり、上記と同様の判断を行うことができる。
【0036】
また、ゼロ校正用ガスとしては、例えば点検用ゼロガスが充填された市販のボンベを備えた供給手段によるものであることが好ましいが、例えば炭酸ガスを吸着する性質を有するソーダライムなどを備えた炭酸ガス除去手段を校正用ガス供給用流路(上記実施例においては校正用ガス供給用パイプ)に設け、この炭酸ガス除去手段を介して導入されることによって炭酸ガスが除去された状態の大気を利用することができる。
【0037】
さらに、本発明は、排気ダクト内に設置されてオフィス等の室内環境における炭酸ガス濃度を監視を行うためのものに限定されず、例えば、自動車の車内、大気環境等における炭酸ガス濃度の監視を行うための炭酸ガス検知器に適用することができる。
また、本発明は、非分散型赤外線吸収法を利用した炭酸ガス検知器に限定されず、固体電解質等の他の炭酸ガス検出手段を備えたものに適用しても同様の作用を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【図1】本発明の赤外線式炭酸ガス検知器の一例における構成の概略を、排気ダクト内に装着された状態において示す説明用断面図である。
【図2】図1に示す赤外線式炭酸ガス検知器におけるガス検知部の構成を示す拡大断面図である。
【図3】図1に示す赤外線式炭酸ガス検知器の動作を示すフローチャート図である。
【符号の説明】
【0039】
10 赤外線式炭酸ガス検知器
11 外套管
11A 装着部
12 ガス導入用スリット
15 ダストフィルター
17 蓋部材
20 センサーユニット
21 ガスセル
22 赤外線光源
23 赤外線センサー
24 制御用回路基板
25 反射鏡
26 ガス流入口
30 保護フィルター
31 環状空隙
35 閉塞構造体
36 校正用ガス供給用パイプ
L 管軸
D 排気ダクト
S 配線用空間部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
導入されたガスが下記条件(1)〜(3)のすべてを満足するものであることが検知されることにより、当該ガスがゼロ校正用ガスであることが認識されてゼロ校正動作が自動的に行われることを特徴とする赤外線式炭酸ガス検知器。
(1)濃度指示値が予め設定された基準値以下であること。
(2)濃度指示値がガスの導入に伴って予め設定された参照時における濃度指示値から所定の大きさ以上低下したものであること。
(3)濃度指示値の変動幅が所定範囲内にある状態が所定時間の間継続していること。
【請求項2】
前記条件(2)における参照時が、濃度指示値が予め設定された基準値以下になった時点である判別処理基準時の少なくとも2分以上前の時点に設定されていることを特徴とする請求項1に記載の赤外線式炭酸ガス検知器。
【請求項3】
前記条件(2)における参照時が、判別処理基準時前の24時間以内における最低実測濃度指示値が得られた時点に設定されていることを特徴とする請求項1に記載の赤外線式炭酸ガス検知器。
【請求項4】
導入されたガスについて、上記条件(1)〜(3)の各々に係る判定処理を含むガス種判別処理を行い、当該ガスが上記条件(1)〜(3)のすべてを満足するものであることを検知することにより当該ガスがゼロ校正用ガスであることを自動的に認識し、当該ガスによる濃度指示値を零点として設定することを特徴とする赤外線式炭酸ガス検知器のゼロ校正方法。
【請求項5】
前記条件(2)における参照時が、判別処理基準時の少なくとも2分以上前の時点に設定されていることを特徴とする請求項4に記載の赤外線式炭酸ガス検知器のゼロ校正方法。
【請求項6】
前記条件(2)における参照時が、判別処理基準時前の24時間以内における最低実測濃度指示値が得られた時点に設定されていることを特徴とする請求項4に記載の赤外線式炭酸ガス検知器のゼロ校正方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2006−126132(P2006−126132A)
【公開日】平成18年5月18日(2006.5.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−318035(P2004−318035)
【出願日】平成16年11月1日(2004.11.1)
【出願人】(000250421)理研計器株式会社 (216)
【Fターム(参考)】