説明

赤外線感光性平版印刷版原版

【課題】合紙を用いずに積層した場合に、積層体を形成しやすく、また、積層体の版材間で振動によるズレが生じず、更に、記録層の損傷が効果的に抑制される赤外線感光性平版印刷版原版を提供することを目的とする。
【解決手段】支持体の片面に、水不溶性且つアルカリ可溶性樹脂と赤外線吸収剤とを含み、赤外線照射により画像を形成し得る記録層を有し、該支持体の記録層を有する面とは反対の面に、有機ポリマー層を有し、前記記録層と前記有機ポリマー層との静摩擦係数が0.45〜0.60の範囲であることを特徴とする赤外線感光性平版印刷版原版。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は赤外線感光性平版印刷版原版に関し、特に、積層時の記録層の傷付きが抑制された赤外線感光性平版印刷版原版に関する
【背景技術】
【0002】
近年のレーザー発展は目覚しく、特に近赤外から赤外に発光領域を持った固体レーザー、半導体レーザーは高出力かつ小型の物が容易に入手できるようになっている。特に平版印刷の分野においては、コンピューター等のディジタルデータから直接製版する際の露光光源として、これらのレーザーは非常に有用である。
【0003】
そのような赤外線レーザーを用いたダイレクト製版用のポジ型平版印刷版原版の記録層は、アルカリ可溶性樹脂と、光を吸収し熱を発生する赤外線吸収剤を必須成分としており、この赤外線吸収剤が、未露光部(画像部)ではアルカリ可溶性樹脂との相互作用により、アルカリ可溶性樹脂の溶解性を実質的に低下させる溶解阻止剤として働き、露光部(非画像部)では、発生した熱により赤外線吸収剤とアルカリ可溶性樹脂との相互作用が弱まりアルカリ現像液に溶解して画像を形成する。しかしながら、このポジ型平版印刷版原版は、記録層の機械的強度が充分でなく、製造加工、輸送、及び刷版取り扱い時に、版面と種々部材が強く接触すると、版面に欠陥が生じ、現像後の画像部に抜けが起こってしまう問題があった。
【0004】
このような問題を低減するため、平版印刷版原版は、一般的にプレート間に合紙(間紙)を入れて包装されている。しかしながら、この合紙には、1)コストアップ、2)合紙廃却などの問題があるため、合紙を用いない「合紙レス化」が望まれている。特に最近は、CTPシステムの普及に伴って、露光装置に版材の自動供給装置(オートローダー)を付帯させることが増加しており、事前にわざわざ手作業で合紙を抜き取る繁雑さや、自動合紙取り機構があっても合紙を取り除く際に擦れによる傷つきが起こる等の問題を回避するため、合紙レス化の要望が一段と高まっている。
【0005】
このような合紙レス化を指向する技術としては、感光層と支持体裏面との接触による感光層の機械的損傷を緩和する工夫を、支持体裏面に施すことが知られている。
例えば、感光層とは反対側の面にガラス転移温度60℃以上の、飽和共重合ポリエステル樹脂、フェノキシ樹脂、ポリビニルアセタール樹脂及び塩化ビニリデン共重合樹脂からなる群から選ばれた少なくとも1種の樹脂からなる、被覆層を設けたことを特徴とする感光性平版印刷版(例えば、特許文献1参照。)や、感光層とは反対側の面に粗い表面の有機ポリマー層を設けたことを特徴とする感光性平版印刷版(例えば、特許文献2参照。)が提案されている。
【0006】
以上のように、有機ポリマーによるバックコート層を備える方法を用いることで、感光層の損傷を抑制するという一定の効果は得られたが、このようなバックコート層と感光層と表面物性の関係によっては、版材を積み重ねた際に、版材間で滑りを生じて積層体を構成しにくいという問題や、積層体とした後であっても、搬送時の振動により版材間でズレが発生する問題があり、保存、搬送の点において、実用的なものではなかった。
【特許文献1】特開2005−62456号公報
【特許文献2】特開2002−254843号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上記の問題に鑑みてなされたものであり、合紙を用いずに積層した場合に、積層体を形成しやすく、また、積層体の版材間で振動によるズレが生じず、更に、記録層の損傷が効果的に抑制される赤外線感光性平版印刷版原版を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、鋭意研究を重ねた結果、以下の赤外線感光性平版印刷版原版(以下、単に「平版印刷版原版」と称する場合がある。)により、上記課題を解決しうることを見出し、本発明を完成するに至った。
即ち、本発明の平版印刷版原版は、支持体の片面に、水不溶性且つアルカリ可溶性樹脂と赤外線吸収剤とを含み、赤外線照射により画像を形成し得る記録層を有し、該支持体の記録層を有する面とは反対の面に、有機ポリマー層を有し、前記記録層と前記有機ポリマー層との静摩擦係数が0.45〜0.60の範囲であることを特徴とする。
【0009】
本発明の平版印刷版原版は、記録層と有機ポリマー層との静摩擦係数が上記範囲であることで、積層した際に、記録層と有機ポリマー層との当接面は、適度な滑り性を有し、かつ、接着性が見られないという、共に好ましい状態になると思われる。
その結果、この平版印刷版原版は積層することも容易であり、得られた積層体を搬送した場合であっても、振動による版材間のズレの発生を防止することができものと推測される。また、この版材を積み重ねた状態で保存、搬送した際に、版材同士が擦れてしまった場合であっても、記録層の損傷を効果的に抑制することができるものと推測される。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、合紙を用いずに積層した場合に、積層体を形成しやすく、また、積層体の版材間で振動によるズレが生じず、更に、記録層の損傷が効果的に抑制される赤外線感光性平版印刷版原版を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本発明の赤外線感光性平版印刷版原版は、支持体の片面に、水不溶性且つアルカリ可溶性樹脂と赤外線吸収剤とを含み、赤外線照射により画像を形成し得る記録層を有し、該支持体の記録層を有する面とは反対の面に、有機ポリマー層を有し、前記記録層と前記有機ポリマー層との静摩擦係数が0.45〜0.60の範囲であることを特徴とする。
上記のように、本発明では、記録層と有機ポリマー層との静摩擦係数が0.45〜0.60の範囲であることを要する。また、この静摩擦係数は0.45〜0.58の範囲であることが好ましい。
静摩擦係数が0.45未満であると、合紙を用いず積層してなる積層体を搬送する際にズレが生じ易く、また、0.60より大きいと、版が擦れた際に傷が生じやすくなる。
【0012】
本発明において、静摩擦係数の測定方法は、日本工業規格で定めたJIS P 8147「紙および板紙の摩擦係数試験方法」に記載された水平方法に準じて実施される。すなわち、同じ構成の感光性平版印刷版原版を2つ用意するか、もしくは、1つの感光性平版印刷版原版を2つに切り分けて、一方を水平板の上に記録層側の最表面を上にした状態で置き、他方を記録層側の最表面がおもりに接するようにセットし、水平板上の感光性平版印刷版原版の記録層側の最表面と、おもりにセットされた感光性平版印刷版原版の支持体裏面側の最表面と、が接する形とし、その後、おもりを10.0mm/分の速度で引っ張り平行移動させる方法である。ここで、静摩擦係数とは、おもりが移動し始める瞬間に示す最初の摩擦力のピークを指す。
【0013】
上記の範囲の静摩擦係数とする方法としては、記録層及び/又は有機ポリマー層の平滑性の調整する方法、記録層及び/又は有機ポリマー層の表面エネルギーを調整する方法、及び記録層及び/又は有機ポリマー層にすべり剤を添加する方法等が用いられる。中でも、静摩擦係数の調整容易性の点から、記録層及び/又は有機ポリマー層の平滑性を調整する方法が好ましく用いられる。
【0014】
記録層及び/又は有機ポリマー層の平滑性を調整する方法として、具体的には、下記に示すような手段を用いることができる。これらの手段は、1つを用いてもよいし、2つ以上を併用してもよい。
(1)記録層上にマット層を形成する。
(2)記録層中に長鎖アルキル基含有ポリマーを内添する。
(3)記録層中にマット剤を内添する。
(4)記録層表面を粗面化する。
(5)有機ポリマー層上にマット層を形成する。
(6)有機ポリマー層中に長鎖アルキル基含有ポリマーを内添する。
(7)有機ポリマー層中にマット剤を内添する。
(8)有機ポリマー層表面を粗面化する。
(9)支持体の表面粗さを調整する。
(10)記録層や有機ポリマー層を構成するポリマーを、適宜、選択する。
(11)塗布法における条件を制御する。
【0015】
本発明における静摩擦係数は、有機ポリマー層や記録層を構成するポリマーや塗布面状の平滑性に左右される。そのため、この静摩擦係数を制御するための手段としては、その制御容易性の点から、特に、有機ポリマー層を構成する有機ポリマーを適宜選択し、塗布条件を制御することが好ましい。
【0016】
上記(1)の手段で用いられるマット層としては、記録層の画像形成性や現像性に影響を及ぼさないものであれば特に限定されるものではないが、具体的には、特開平11−52559号公報の段落番号〔0058〕〜〔0059〕に記載のマット層を用いることが好ましい。
また、上記(5)の手段で用いられるマット層としては、有機ポリマー層の機能を損なわないものであれば特に限定されるものではないが、特開2003−63162号に記載のマットとその付与方法を用いることができる。
【0017】
上記(2)及び(6)の手段としては、具体的には、下記に示す構造を有する長鎖アルキル基含有ポリマーを内添することが好ましい。
本発明において用いられる長鎖アルキル基含有ポリマーとしては、例えば、以下の一般式(I)で表される共重合体からなることが好ましい。
【0018】
【化1】

【0019】
一般式(I)中、X、X’は、各々独立に、単結合若しくは2価の連結基を表す。mは、20≦m≦99の整数を表し、30≦m≦90の整数が好ましく、45≦m≦80の整数が更に好ましい。nは、6〜40の整数を表し、12〜30の整数がより好ましく、14〜20の整数が更に好ましい。なお、点線で表される結合手は、その先端にメチル基又は水素原子が存在することを意味する。
【0020】
一般式(I)におけるX、X’が表す2価の連結基の具体例としては、炭素数1〜20の直鎖状、分岐状若しくは環状のアルキレン基、炭素数2〜20の直鎖状、分岐状若しくは環状のアルケニレン基、炭素数2〜20のアルキニレン基、炭素数6〜20のアリーレン基(単環、複素環)、−OC(=O)−、−OC(=O)Ar−、−OC(=O)O−、−OC(=O)OAr−、−C(=O)NR−、−C(=O)NAr−、−SO2NR−、−SO2NAr−、−O−(アルキレンオキシ、ポリアルキレンオキシ)、−OAr−(アリーレンオキシ、ポリアリーレンオキシ)、−C(=O)O−、−C(=O)O−Ar−、−C(=O)Ar−、−C(=O)−、−SO2O−、−SO2OAr−、−OSO2−、−OSO2Ar−、−NRSO2−、−NArSO2−、−NRC(=O)−、−NArC(=O)−、−NRC(=O)O−、−NArC(=O)O−、−OC(=O)NR−、−OC(=O)NAr−、−NAr−、−NR−、−N+RR’−、−N+RAr−、−N+ArAr’−、−S−、−SAr−、−ArS−、ヘテロ環基(ヘテロ原子としては、例えば、窒素、酸素及びイオウ等を少なくとも1個以上含み、3〜12員環の単環、縮合環)、−OC(=S)−、−OC(=S)Ar−、−C(=S)O−、−C(=S)OAr−、−C(=S)OAr−、−C(=O)S−、−C(=O)SAr−、−ArC(=O)−、−ArC(=O)NR−、−ArC(=O)NAr−、−ArC(=O)O−、−ArC(=O)S−、−ArC(=S)O−、−ArO−、−ArNR−等が挙げられる。ここで、R及びR’は、各々独立に、水素原子、或いは、直鎖又は分岐、鎖状又は環状のアルキル基、アルケニル基又はアルキニル基を表す。Ar及びAr’は、各々独立に、アリール基を表す。
上記の連結基は、ここで挙げた連結基を2種類以上組み合わせて連結基を形成していてもよい。
【0021】
このような連結基の中でも、炭素数6〜20のアリーレン基(単環、複素環)、−C(=O)NR−、−C(=O)NAr−、−O−(アルキレンオキシ、ポリアルキレンオキシ)、−OAr−(アリーレンオキシ、ポリアリーレンオキシ)、−C(=O)O−、−C(=O)O−Ar−、−C(=O)−、−C(=O)Ar−、−S−、−SAr−、−ArS−、−ArC(=O)−、−ArC(=O)O−、−ArO−、−ArNR−等が好ましく、炭素数6〜20のアリーレン基(単環、複素環)、−C(=O)NR−、−C(=O)NAr−、−O−(アルキレンオキシ、ポリアルキレンオキシ)、−OAr−(アリーレンオキシ、ポリアリーレンオキシ)、−C(=O)O−、−C(=O)O−Ar−、−SAr−、−ArS−、−ArC(=O)−、−ArC(=O)O−、−ArO−、−ArNR−等がより好ましい。
【0022】
また、上記連結基は置換基を有していてもよく、その置換基の例としては、炭素数1〜20の直鎖状、分岐状若しくは環状のアルキル基、炭素数2〜20の直鎖状、分岐状若しくは環状のアルケニル基、炭素数2〜20のアルキニル基、炭素数6〜20のアリール基、炭素数1〜20のアシルオキシ基、炭素数2〜20のアルコキシカルボニルオキシ基、炭素数7〜20のアリールオキシカルボニルオキシ基、炭素数1〜20のカルバモイルオキシ基、炭素数1〜20のカルボンアミド基、炭素数1〜20のスルホンアミド基、炭素数1〜20のカルバモイル基、炭素数0〜20のスルファモイル基、炭素数1〜20のアルコキシ基、炭素数6〜20のアリールオキシ基、炭素数7〜20のアリールオキシカルボニル基、炭素数2〜20のアルコキシカルボニル基、炭素数1〜20のN−アシルスルファモイル基、炭素数1〜20のN−スルファモイルカルバモイル基、炭素数1〜20のアルキルスルホニル基、炭素数6〜20のアリールスルホニル基、炭素数2〜20のアルコキシカルボニルアミノ基、炭素数7〜20のアリールオキシカルボニルアミノ基、炭素数0〜20のアミノ基、炭素数1〜20のイミノ基、炭素数3〜20のアンモニオ基、カルボキシ基、スルホ基、オキシ基、メルカプト基、炭素数1〜20のアルキルスルフィニル基、炭素数6〜20のアリールスルフィニル基、炭素数1〜20のアルキルチオ基、炭素数6〜20のアリールチオ基、炭素数1〜20のウレイド基、炭素数2〜20のヘテロ環基、炭素数1〜20のアシル基、炭素数0〜20のスルファモイルアミノ基、炭素数2〜20のシリル基、ヒドロキシ基、ハロゲン原子(例えば、フッ素原子、塩素原子、臭素原子等)、シアノ基、ニトロ基等が挙げられる。
【0023】
長鎖アルキル基含有ポリマーとしては、例えば、以下の一般式(II)で表されるアクリル系の共重合体からなることがより好ましい。
【0024】
【化2】

【0025】
一般式(II)中、X、X’は、各々独立に、単結合若しくは2価の連結基を表す。一般式(II)中におけるX及びX’としては、上記一般式(I)におけるX及びX’と同義であり、好ましい例も同様である。mは、20≦m≦99の整数を表し、30≦m≦90の整数が好ましく、45≦m≦80の整数が更に好ましい。nは、6〜40の整数を表し、12〜30の整数がより好ましく、14〜20の整数が更に好ましい。なお、点線で表される結合手は、その先端にメチル基又は水素原子が存在することを意味する。
【0026】
また、長鎖アルキル基含有ポリマーとしては、例えば、以下の一般式(III)で表されるアクリル系の共重合体からなることが更に好ましい。
【0027】
【化3】

【0028】
一般式(III)中、X、X’は、各々独立に、単結合若しくは2価の連結基を表す。一般式(III)中におけるX及びX’としては、上記一般式(I)におけるX及びX’と同義であり、好ましい例も同様である。mは、20≦m≦99の整数を表し、30≦m≦90の整数が好ましく、45≦m≦80の整数が更に好ましい。nは、6〜40の整数を表し、12〜30の整数がより好ましく、14〜20の整数が更に好ましい。なお、点線で表される結合手は、その先端にメチル基又は水素原子が存在することを意味する。
【0029】
また、長鎖アルキル基含有ポリマーとしては、例えば、以下の一般式(IV)又は一般式(V)で表されるアクリル系の共重合体からなることが最も好ましい。
【0030】
【化4】

【0031】
一般式(IV)及び一般式(V)中、mは、20≦m≦99の整数を表し、30≦m≦90の整数が好ましく、45≦m≦80の整数が更に好ましい。nは、6〜40の整数を表し、12〜30の整数がより好ましく、14〜20の整数が更に好ましい。なお、点線で表される結合手は、その先端にメチル基又は水素原子が存在することを意味する。
【0032】
<親水性モノマー>
上記長鎖アルキル基を有するモノマー及びカルボキシ基を有するビニルモノマーと共重合させるモノマーとしては、長鎖アルキル基含有ポリマーを内添させる層の機能に合わせて、適宜選択すればよいが、親水性モノマーが挙げられる。
【0033】
このような親水性モノマーとしては、下記(1)〜(5)に挙げる酸性基を有するモノマーが、アルカリ性現像液に対する溶解性、感度の点で好ましい。
(1)フェノール基(−Ar−OH)
(2)スルホンアミド基(−SO2NH−R)
(3)活性イミド基(−SO2NHCOR、−SO2NHSO2R、−CONHSO2R)
(4)スルホン酸基(−SO3H)
(5)リン酸基(−OPO32
上記(1)〜(5)中、Arは置換基を有していてもよい2価のアリール連結基を表し、Rは、置換基を有していてもよい炭化水素基を表す。
【0034】
上記(1)のフェノール基を有するモノマーとしては、フェノール基を有するアクリルアミド、メタクリルアミド、アクリル酸エステル、メタクリル酸エステル、又はヒドロキシスチレン等が挙げられる。
【0035】
上記(2)スルホンアミド基を有するモノマーとしては、上記構造のスルホンアミド基と重合可能な不飽和基とを分子内にそれぞれ1個以上有する化合物が挙げられる。中でも、アクリロイル基、アリル基、又はビニロキシ基と、スルホンアミド基とを分子内に有する低分子化合物が好ましい。例えば、下記一般式(i)〜(v)で表される化合物が挙げられる。
【0036】
【化5】

【0037】
上記一般式(i)〜(v)中、X1及びX2は、各々独立に、−O−又は−NR7−を表す。R1及びR4は、各々独立に、水素原子又は−CH3を表す。R2、R5、R9、R12、及び、R16は、各々独立に、置換基を有していてもよい炭素数1〜12の、アルキレン基、シクロアルキレン基、アリーレン基又はアラルキレン基を表す。R3、R7、及び、R13は、各々独立に、水素原子、置換基を有していてもよい炭素数1〜12の、アルキル基、シクロアルキル基、アリール基又はアラルキル基を表す。また、R6及びR17は、各々独立に、置換基を有していてもよい炭素数1〜12の、アルキル基、シクロアルキル基、アリール基、アラルキル基を表す。R8、R10及びR14は、各々独立に、水素原子又は−CH3を表す。R11及びR15は、各々独立に、単結合又は置換基を有していてもよい炭素数1〜12のアルキレン基、シクロアルキレン基、アリーレン基又はアラルキレン基を表す。Y1及びY2は、各々独立に単結合、又は−CO−を表す。
【0038】
一般式(i)〜(v)で表される化合物のうち、本発明の平版印刷版原版では、特に、m−アミノスルホニルフェニルメタクリレート、N−(p−アミノスルホニルフェニル)メタクリルアミド、N−(p−アミノスルホニルフェニル)アクリルアミド等を好適に使用することができる。
【0039】
上記(3)活性イミド基を有するモノマーとしては、前記構造式で表される活性イミド基と重合可能な不飽和基とを分子内にそれぞれ1個以上有する化合物を挙げることができる。中でも、下記構造式で表される活性イミド基と重合可能な不飽和基とを分子内にそれぞれ1個以上有する化合物が好ましい。
【0040】
【化6】

【0041】
具体的には、N−(p−トルエンスルホニル)メタクリルアミド、N−(p−トルエンスルホニル)アクリルアミド等を好適に使用することができる。
【0042】
上記(4)スルホン酸基を有するモノマーとしては、例えば、スルホン酸基と重合可能な不飽和基とを分子内にそれぞれ1個以上有する化合物を挙げることができる。
上記(5)リン酸基を有するモノマーとしては、例えば、リン酸基と重合可能な不飽和基とを分子内にそれぞれ1個以上有する化合物を挙げることができる。
【0043】
上記の親水性モノマーの中でも、(1)フェノール基、(2)スルホンアミド基、又は(3)活性イミド基を有するモノマーが好ましく、特に、(1)フェノール基、又は(2)スルホンアミド基を有するモノマーが、アルカリ性現像液に対する溶解性、現像ラチチュード、膜強度を充分に確保する点から最も好ましい。
【0044】
<その他のモノマー>
上記長鎖アルキル基を有するモノマー及びカルボキシ基を有するビニルモノマーと共重合可能なその他のモノマーとしては、下記(6)〜(16)に挙げる化合物を例示することができる。
【0045】
(6)2−ヒドロキシエチルアクリレート又は2−ヒドロキシエチルメタクリレート等の脂肪族水酸基を有するアクリル酸エステル類、及びメタクリル酸エステル類。
(7)アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸プロピル、アクリル酸アミル、アクリル酸ベンジル、アクリル酸−2−クロロエチル、グリシジルアクリレート、N−ジメチルアミノエチルアクリレート、ポリエチレングリコールモノアクリレート、ポリプロピレングリコールモノアルキレート等のアクリレート。
(8)メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸プロピル、メタクリル酸アミル、メタクリル酸シクロヘキシル、メタクリル酸ベンジル、メタクリル酸−2−クロロエチル、グリシジルメタクリレート、N−ジメチルアミノエチルメタクリレート、ポリエチレングリコールモノメタクリレート、ポリプロピレングリコールモノメタクリレート等のメタクリレート。
【0046】
(9)アクリルアミド、メタクリルアミド、N−メチロールアクリルアミド、N−エチルアクリルアミド、N−ヘキシルメタクリルアミド、N−シクロヘキシルアクリルアミド、N−ヒドロキシエチルアクリルアミド、N−フェニルアクリルアミド、N−ニトロフェニルアクリルアミド、N−エチル−N−フェニルアクリルアミド等のアクリルアミド又はメタクリルアミド。
(10)エチルビニルエーテル、2−クロロエチルビニルエーテル、ヒドロキシエチルビニルエーテル、プロピルビニルエーテル、ブチルビニルエーテル、フェニルビニルエーテル等のビニルエーテル類。
(11)ビニルアセテート、ビニルクロロアセテート、ビニルブチレート、安息香酸ビニル等のビニルエステル類。
【0047】
(12)スチレン、α−メチルスチレン、メチルスチレン、クロロメチルスチレン等のスチレン類。
(13)メチルビニルケトン、エチルビニルケトン、プロピルビニルケトン、フェニルビニルケトン等のビニルケトン類。
(14)エチレン、プロピレン、イソブチレン、ブタジエン、イソプレン等のオレフィン類。
【0048】
(15)N−ビニルピロリドン、N−ビニルカルバゾール、4−ビニルピリジン、アクリロニトリル、メタクリロニトリル等。
(16)マレイミド、N−アクリロイルアクリルアミド、N−アセチルメタクリルアミド、N−プロピオニルメタクリルアミド、N−(p−クロロベンゾイル)メタクリルアミド等の不飽和イミド。
【0049】
以上に挙げた、長鎖アルキル基を有するモノマー、カルボキシ基を有するビニルモノマー、親水性モノマー、及び、その他のモノマーの共重合方法としては、従来知られているグラフト共重合法、ブロック共重合法、ランダム共重合法等を用いることができる。
また、この共重合において、それぞれのモノマーの2種類以上を混合して用いることができる。なお、カルボキシ基を有するモノマーを2種以上混合して用いる場合には、それら用いたモノマーのモル組成比の和が20〜99モル%の組成比の範囲内であることが好ましい。
【0050】
本発明における長鎖アルキル基含有ポリマーの具体例としては、以下のものが挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0051】
【化7】

【0052】
【化8】

【0053】
【化9】

【0054】
【化10】

【0055】
【化11】

【0056】
【化12】

【0057】
【化13】

【0058】
【化14】

【0059】
長鎖アルキル基含有ポリマーとしては、重量平均分子量が5,000以上、数平均分子量が1,000以上のものが好ましく用いられる。更に好ましくは、ポリスチレン換算で重量平均分子量が10,000〜5,000,000で、特に好ましくは10,000〜2,000,000、更に好ましくは20,000〜1,000,000である。長鎖アルキル基含有ポリマーは、1種類を用いてもよく、2種類以上を組み合わせて使用してもよい。
【0060】
長鎖アルキル基含有ポリマーを内添する層中の残留モノマー量は、本発明の平版印刷版原版を積層する際に、接触する記録層や有機ポリマー層への転写や、平版印刷版原版製造時のローラへの転写等の問題から、10質量%以下であることが好ましく、5質量%以下であることがより好ましい。
【0061】
以上のような長鎖アルキル基含有ポリマーは、有機ポリマー層及び/又は記録層中に内添させることができる。これらの有機ポリマー層や記録層は、上記長鎖アルキル基含有ポリマーと、その他の成分とを混合した塗布液として支持体上に塗布し、乾燥させることで得られる。これにより、長鎖アルキル基含有ポリマーと、記録層や有機ポリマー層中に含まれる高分子化合物(例えば、バインダーポリマーや有機ポリマー)とが相分離を起こし、該長鎖アルキル基含有ポリマーが自己凝集し、表面に微小突起が形成される。
この微小突起が記録層や有機ポリマー層に形成されることで、層の平滑性(表面粗さ)を調整することができる。
【0062】
ここで、このような記録層全固形分中に含まれる長鎖アルキル基含有ポリマーの添加量は、0.1〜20質量%程度が好ましく、かつ、0.5〜10質量%であることが更に好ましい。含有量が0.1質量%未満であると凹凸の形成が不充分で耐傷性向上効果が充分に得られず、20質量%を上回ると記録層の強度が低下して耐刷性が低下する傾向にある。
また、有機ポリマー層全固形分中に含まれる長鎖アルキル基含有ポリマーの添加量は、0.01〜30質量%程度が好ましく、0.1〜20質量%であることが更に好ましく、0.5〜10質量%が特に好ましい。含有量が0.01質量%未満であっても、30質量%を上回っても凹凸(微少突起)の形成が不充分で耐傷性向上効果が充分に得られない。
【0063】
上記(3)及び(7)の手段は、具体的には、従来公知のマット剤微粒子を層中に添加するものである。用い得るマット剤微粒子としては、少なくとも、記録層や有機ポリマー層を形成する際の塗布液に分散するものであればよく、更に、記録層中に添加するものであるならば、現像液により溶解又は分散するようなものであればより好ましい。これらのマット剤微粒子は、種類、粒径、含有量を調節することにより、容易に記録層や有機ポリマー層の平滑性(表面粗さ)を調整することができる。
【0064】
上記(4)及び(8)の手段としては、記録層や有機ポリマー層の面状を粗くすることができれば、いかなる方法を用いることもできる。具体的には、例えば、記録層や有機ポリマー層を形成するための材料を含有する塗布液を、支持体上に塗布し、乾燥させる際に、高圧エアーを吹き付ける方法を用いることができる。これにより、乾燥後の記録層や有機ポリマー層の面状を粗くすることができる。
【0065】
上記(9)の手段のように、記録層や有機ポリマー層を設けた後の平滑性を調整するために、支持体の表面粗さを調整する方法もとることができる。この支持体の表面粗さは、上に設けられる記録層や有機ポリマー層を構成する材料の種類、層厚等を考慮する必要がある。
【0066】
〔記録層〕
本発明の平版印刷版原版に用いる記録層は、赤外線照射により画像を形成し得る層であり、単層であっても、重層構造のいずれであってもよい。単層型の記録層である場合には、水不溶性且つアルカリ可溶性樹脂と、赤外線吸収剤と、を含んで構成される。また、重層型の記録層である場合には、水不溶性且つアルカリ可溶性樹脂を含み、最も支持体側に位置する層(以下、適宜「下層」と称する。)及び最も支持体から遠くに位置する層(以下、適宜「最上層」と称する。)の少なくとも一方は、赤外線吸収剤を含む層として構成される。
【0067】
(水不溶性且つアルカリ可溶性樹脂)
本発明の記録層に使用される水不溶性且つアルカリ可溶性樹脂(以下、適宜、アルカリ可溶性樹脂と称する)とは、高分子中の主鎖及び/又は側鎖に酸性基を含有する単独重合体、これらの共重合体又はこれらの混合物を包含する。従って、本発明の記録層は、アルカリ性現像液に接触すると溶解する特性を有するものである。本発明に使用されるアルカリ可溶性樹脂は、従来公知のものであれば特に制限はないが、(1)フェノール性水酸基、(2)スルホンアミド基、(3)活性イミド基、及び(4)カルボン酸基から選ばれる少なくとも一つの酸性基を分子内に有する高分子化合物であることが好ましい。
例えば以下のものが例示されるが、これらに限定されるものではない。
【0068】
(1)フェノール性水酸基を有する高分子化合物としては、例えば、フェノールホルムアルデヒド樹脂、m−クレゾールホルムアルデヒド樹脂、p−クレゾールホルムアルデヒド樹脂、m−/p−混合クレゾールホルムアルデヒド樹脂、フェノール/クレゾール(m−,p−,又はm−/p−混合のいずれでもよい)混合ホルムアルデヒド樹脂等のノボラック樹脂やピロガロールアセトン樹脂が挙げられる。
【0069】
また、フェノール性水酸基を有するアルカリ可溶性樹脂としては、下記一般式(i)で示される置換フェノール類とアルデヒド類とを縮合してなる樹脂も好適なものとして挙げられる。
【0070】
【化15】

【0071】
一般式(i)において、R1及びR2は、それぞれ水素原子、アルキル基、ハロゲン原子を表す。アルキル基としては、炭素数1〜3のアルキル基であることが好ましく、より好ましくは炭素数1又は2のアルキル基である。ハロゲン原子としては、フッ素原子、塩素原子、臭素原子及びヨウ素原子のいずれかであり、好ましくは塩素原子、臭素原子である。また、R3は炭素数3〜6のアルキル基又はシクロアルキル基を示す。
【0072】
上記の置換フェノール類の具体例としては、イソプロピルフェノール、t−ブチルフェノール、t−アミルフェノール、ヘキシルフェノール、シクロヘキシルフェノール、3−メチル−4−クロロ−6−ターシャリーブチルフェノール、イソプロピルクレゾール、t−ブチルクレゾール、t−アミルクレゾールが挙げられる。中でも、t−ブチルフェノール、t−ブチルクレゾールが好ましい。
【0073】
上記の置換フェノール類との縮合に使用されるアルデヒド類としては、例えば、ホルムアルデヒド、アセトアルデヒド、アクロレイン、クロトンアルデヒド等の脂肪族及び芳香族アルデヒドが挙げられる。中でもホルムアルデヒド又はアセトアルデヒドが好ましい。
【0074】
フェノール性水酸基を有するアルカリ可溶性樹脂としてはこの他に、側鎖にフェノール性水酸基を有する高分子化合物を挙げることができる。側鎖にフェノール性水酸基を有する高分子化合物としては、フェノール性水酸基と重合可能な不飽和結合をそれぞれ1つ以上有する低分子化合物からなる重合性モノマーを単独重合、或いは該モノマーに他の重合性モノマーを共重合させて得られる高分子化合物が挙げられる。
【0075】
フェノール性水酸基を有する重合性モノマーとしては、フェノール性水酸基を有するアクリルアミド、メタクリルアミド、アクリル酸エステル、メタクリル酸エステル、又はヒドロキシスチレン等が挙げられる。具体的には、N−(2−ヒドロキシフェニル)アクリルアミド、N−(3−ヒドロキシフェニル)アクリルアミド、N−(4−ヒドロキシフェニル)アクリルアミド、N−(2−ヒドロキシフェニル)メタクリルアミド、N−(3−ヒドロキシフェニル)メタクリルアミド、N−(4−ヒドロキシフェニル)メタクリルアミド、o−ヒドロキシフェニルアクリレート、m−ヒドロキシフェニルアクリレート、p−ヒドロキシフェニルアクリレート、o−ヒドロキシフェニルメタクリレート、m−ヒドロキシフェニルメタクリレート、p−ヒドロキシフェニルメタクリレート、o−ヒドロキシスチレン、m−ヒドロキシスチレン、p−ヒドロキシスチレン、2−(2−ヒドロキシフェニル)エチルアクリレート、2−(3−ヒドロキシフェニル)エチルアクリレート、2−(4−ヒドロキシフェニル)エチルアクリレート、2−(2−ヒドロキシフェニル)エチルメタクリレート、2−(3−ヒドロキシフェニル)エチルメタクリレート、2−(4−ヒドロキシフェニル)エチルメタクリレート等を好適に使用することができる。フェノール性水酸基を有する樹脂は、2種類以上を組み合わせて使用してもよい。
【0076】
また、本発明に用いるフェノール性水酸基を有するアルカリ可溶性樹脂としては、特開平11−288089号公報に記載の、上記フェノール性水酸基を有するアルカリ可溶性樹脂のフェノール性水酸基の少なくとも一部がエステル化されたアルカリ可溶性樹脂が挙げられる。
【0077】
(2)スルホンアミド基を有するアルカリ可溶性樹脂としては、スルホンアミド基を有する重合性モノマーを単独重合、或いは該モノマーに他の重合性モノマーを共重合させて得られる高分子化合物が挙げられる。スルホンアミド基を有する重合性モノマーとしては、1分子中に、窒素原子上に少なくとも1つの水素原子が結合したスルホンアミド基−NH−SO2−と、重合可能な不飽和結合をそれぞれ1つ以上有する低分子化合物からなる重合性モノマーが挙げられる。その中でも、アクリロイル基、アリル基、又はビニロキシ基と、置換或いはモノ置換アミノスルホニル基又は置換スルホニルイミノ基とを有する低分子化合物が好ましい。
【0078】
スルホンアミド基を有するアルカリ可溶性樹脂の具体例としては、特公平7−69605号公報に記載のものが挙げられる。
【0079】
(3)活性イミド基を有するアルカリ可溶性樹脂は、活性イミド基(−CO−NH−SO2−)を分子内に有するものが好ましく、この高分子化合物としては、1分子中に活性イミド基と重合可能な不飽和結合をそれぞれ一つ以上有する低分子化合物からなる重合性モノマーを単独重合、或いは該モノマーに他の重合性モノマーを共重合させて得られる高分子化合物が挙げられる。
【0080】
このような化合物の具体例としては、N−(p−トルエンスルホニル)メタクリルアミド、N−(p−トルエンスルホニル)アクリルアミド等を好適に使用することができる。
【0081】
(4)カルボン酸基を有するアルカリ可溶性樹脂としては、例えば、カルボン酸基と重合可能な不飽和基とを分子内にそれぞれ1以上有する低分子化合物からなる重合性モノマーを単独重合、或いは該モノマーに他の重合性モノマーを共重合させて得られる高分子化合物が挙げられる。カルボン酸基を有する重合性モノマーの具体例としては、アクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、無水マレイン酸、イタコン酸等のα、β−不飽和カルボン酸類、が挙げられる。また、側鎖にヒドロキシル基を有するアクリレート又はメタクリレート(例えば、2−ヒドロキシエチルエチルアクリレート又はメタクリレート等)のヒドロキシル基と、二塩基酸(例えば、コハク酸、グルタル酸、フタル酸等)とのモノエステルである不飽和カルボン酸も好適なものとして挙げられる。
【0082】
更に、本発明のアルカリ可溶性樹脂としては、前記フェノール性水酸基を有する重合性モノマー、スルホンアミド基を有する重合性モノマー、活性イミド基を有する重合性モノマー、及びカルボン酸基を有する重合性モノマーのうちの2種以上を重合させた高分子化合物、或いはこれら2種以上の重合性モノマーに他の重合性モノマーを共重合させて得られる高分子化合物を使用することができる。
【0083】
本発明において、アルカリ可溶性樹脂が前記酸性基(フェノール性水酸基、スルホンアミド基、活性イミド基、カルボン酸基)を有するモノマーと、他の重合性モノマーとの共重合体である場合には、アルカリ可溶性の観点から、アルカリ可溶性を付与するモノマーは10モル%以上含むことが好ましく、20モル%以上含むものがより好ましい。
【0084】
前記酸性基を有するモノマーと共重合させるモノマー成分としては、下記(m1)〜(m11)に挙げる化合物を例示することができるが、これらに限定されるものではない。
(m1)2−ヒドロキシエチルアクリレート又は2−ヒドロキシエチルメタクリレート等の脂肪族水酸基を有するアクリル酸エステル類、及びメタクリル酸エステル類。
(m2)アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸プロピル、アクリル酸ブチル、アクリル酸アミル、アクリル酸ヘキシル、アクリル酸オクチル、アクリル酸ベンジル、アクリル酸−2−クロロエチル、グリシジルアクリレート、等のアルキルアクリレート。(m3)メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸プロピル、メタクリル酸ブチル、メタクリル酸アミル、メタクリル酸ヘキシル、メタクリル酸シクロヘキシル、メタクリル酸ベンジル、メタクリル酸−2−クロロエチル、グリシジルメタクリレート、等のアルキルメタクリレート。
(m4)アクリルアミド、メタクリルアミド、N−メチロールアクリルアミド、N−エチルアクリルアミド、N−ヘキシルメタクリルアミド、N−シクロヘキシルアクリルアミド、N−ヒドロキシエチルアクリルアミド、N−フェニルアクリルアミド、N−ニトロフェニルアクリルアミド、N−エチル−N−フェニルアクリルアミド等のアクリルアミド若しくはメタクリルアミド。
(m5)エチルビニルエーテル、2−クロロエチルビニルエーテル、ヒドロキシエチルビニルエーテル、プロピルビニルエーテル、ブチルビニルエーテル、オクチルビニルエーテル、フェニルビニルエーテル等のビニルエーテル類。
(m6)ビニルアセテート、ビニルクロロアセテート、ビニルブチレート、安息香酸ビニル等のビニルエステル類。
(m7)スチレン、α−メチルスチレン、メチルスチレン、クロロメチルスチレン等のス
チレン類。
(m8)メチルビニルケトン、エチルビニルケトン、プロピルビニルケトン、フェニルビニルケトン等のビニルケトン類。
(m9)エチレン、プロピレン、イソブチレン、ブタジエン、イソプレン等のオレフィン類。
(m10)N−ビニルピロリドン、アクリロニトリル、メタクリロニトリル等。
(m11)マレイミド、N−アクリロイルアクリルアミド、N−アセチルメタクリルアミド、N−プロピオニルメタクリルアミド、N−(p−クロロベンゾイル)メタクリルアミド等の不飽和イミド。
【0085】
アルカリ水可溶性高分子化合物の共重合の方法としては、従来知られている、グラフト共重合法、ブロック共重合法、ランダム共重合法等を用いることができる。
【0086】
本発明においてアルカリ可溶性樹脂が、前記酸性基を有する重合性モノマーの単独重合体或いは共重合体の場合、重量平均分子量が2,000以上が好ましい。更に好ましくは、重量平均分子量が5,000〜300,000である。また、本発明においてアルカリ可溶性樹脂がフェノールホルムアルデヒド樹脂、クレゾールアルデヒド樹脂等の樹脂である場合には、重量平均分子量500〜50,000が好ましく、700〜20,000がより好ましく、1,000〜10,000が特に好ましい。
【0087】
記録層が重層構造である場合、記録層の最上層に用いられるアルカリ可溶性樹脂としては、未露光部では強い水素結合性を生起し、露光部においては、一部の水素結合が容易に解除される点においてフェノール性水酸基を有する樹脂が望ましい。更に好ましくはノボラック樹脂である。
【0088】
本発明においては、アルカリ性水溶液に対し溶解速度の異なる2種類以上のアルカリ可溶性樹脂を混合して用いてもよく、その場合の混合比は自由である。重層型の記録層の最上層に好適に用いられるフェノール性水酸基を有する樹脂と混合するのに好適なアルカリ可溶性樹脂としては、フェノール性水酸基を有する樹脂と相溶性が低いことから、アクリル樹脂が好ましく、スルホアミド基又はカルボン酸基を有するアクリル樹脂がより好ましい。
【0089】
記録層が重層構造である場合、記録層の下層には、前記アルカリ可溶性樹脂が用いられるが、下層自体が、特に非画像部領域において、高いアルカリ可溶性を発現することを要する。また、印刷時において種々印刷薬品に対する耐性及び各種印刷条件において安定した耐刷性を発現することも要する。このため、この特性を損なわない樹脂を選択することが好ましい。この観点からは、アルカリ現像液に対する溶解性、各種印刷薬品に対する耐溶解性、物理的強度に優れた樹脂を選択することが好ましい。また、下層に用いるアルカリ可溶性樹脂としては、最上層を塗布する際にその塗布溶媒により溶解されない、溶剤溶解性の低い樹脂を選択することが好ましい。このような樹脂を選択することで、2つの層の界面における所望されない相溶が抑制される。
【0090】
これらの観点から、下層に含まれるアルカリ可溶性樹脂としては、前記アルカリ可溶性樹脂の中でも、アクリル樹脂が好ましい。中でも、スルホンアミド基を有するアクリル樹脂が好ましい。
【0091】
前記の観点から、下層に用いるアルカリ可溶性樹脂としては、上記以外に水不溶性且つアルカリ可溶性のポリアミド樹脂、エポキシ樹脂、ポリビニルアセタール樹脂、スチレン系樹脂、ウレタン樹脂等を挙げることができる。中でも、ウレタン樹脂、ポリビニルアセタール樹脂が好ましい。
【0092】
上記の水不溶性且つアルカリ可溶性のポリウレタン樹脂(以下、適宜「ポリウレタン樹脂」と称する。)としては、水に不溶であり、且つ、アルカリ水溶液に可溶であれば特に制限はないが、中でも、ポリマー主鎖にカルボキシル基を有するものが好ましい。具体的には、下記一般式(ii)で表されるジイソシアネート化合物と、下記一般式(iii)又は一般式(iv)で表されるカルボキシル基を有するジオール化合物の少なくとも1種と、の反応生成物を基本骨格とするポリウレタン樹脂が挙げられる。
【0093】
【化16】

【0094】
一般式(ii)中、R1は二価の連結基を表す。該二価の連結基としては、脂肪族炭化水素、脂環式炭化水素、又は、芳香族炭化水素が挙げられ、好ましくは、炭素数2〜10のアルキレン基、炭素数6〜30のアリーレン基が挙げられる。アリーレン基としては、2つ以上の環構造が、単結合又はメチレン基などの2価の有機連結基により結合されたものや、縮合多環構造を形成したものであってもよい。また、必要に応じて、R1は、イソシアネート基と反応しない他の官能基(例えば、エステル基、ウレタン基、アミド基、ウレイド基等)を有していてもよい。
【0095】
一般式(ii)におけるR1は置換基を有していてもよく、導入可能な置換基としては、ハロゲン原子(−F、−Cl、−Br、−I)、アルキル基、アルコキシル基、アルキルエステル基、シアノ基など、該イソシアネート基に不活性な置換基が挙げられる。
【0096】
また、ジイソシアネート化合物としては、一般式(ii)で表される化合物の範囲のもの以外にも、例えば、後述するジオール化合物からなるオリゴマー又はポリマーなどの高分子化合物の両末端に、イソシアネート基を有する高分子量のジイソシアネート化合物などを用いることもできる。
【0097】
一般式(iii)中、R2は、水素原子、アルキル基、アラルキル基、アリール基、アルコキシ基、アリールオキシ基を表す。ここで、R2は置換基を有していてもよく、導入可能な置換基としては、シアノ基、ニトロ基、ハロゲン原子(−F、−Cl、−Br、−I)、−CONH2、−COOR6、−OR6、−NHCONHR6、−NHCOOR6、−NHCOR6、−OCONHR6、−CONHR6(ここで、R6は炭素数1〜10のアルキル基、炭素数7〜15のアラルキル基を示す。)などが挙げられる。
【0098】
好ましいR2としては、水素原子、炭素数1〜8個の無置換のアルキル基、炭素数6〜15個の無置換のアリール基が挙げられる。
【0099】
一般式(iii)又は(iv)中、R3、R4、R5は、それぞれ同一でも相異していてもよく、単結合、又は二価の連結基を表す。そのような二価の連結基としては、脂肪族炭化水素、又は、芳香族炭化水素が挙げられる。ここで、R3、R4、R5は置換基を有していてもよく、導入可能な置換基としては、アルキル基、アラルキル基、アリール基、アルコキシ基、ハロゲン原子(−F、−Cl、−Br、−I)などが挙げられる。
【0100】
好ましいR3、R4、R5としては、炭素数1〜20個の無置換のアルキレン基、炭素数6〜15個の無置換のアリーレン基が挙げられ、更に好ましいものとしては炭素数1〜8個の無置換のアルキレン基が挙げられる。また、必要に応じて、R3、R4、R5は、一般式(ii)におけるイソシアネート基と反応しない他の官能基(例えば、エステル基、ウレタン基、アミド基、ウレイド基、エーテル基)を有していてもよい。
【0101】
また、R2、R3、R4、R5は、これらのうち2つ或いは3つが互いに結合して環構造を形成していてもよい。
【0102】
一般式(iv)中、Arは置換基を有していてもよい三価の芳香族炭化水素を表し、好ましくは炭素数6〜15個の芳香族基を示す。
【0103】
一般式(ii)で表されるジイソシアネート化合物の具体例としては以下に示すものが挙げられるが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0104】
2,4−トリレンジイソシアネート、2,4−トリレンジイソシアネートの二量体、2,6−トリレンジイソシアネート、p−キシリレンジイソシアネート、メタキシリレンジイソシアネート、4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート、1,5−ナフチレンジイソシアネート、3,3’−ジメチルビフェニル−4,4’−ジイソシアネート等の如き芳香族ジイソシアネート化合物;ヘキサメチレンジイソシアネート、トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート、リジンジイソシアネート、ダイマー酸ジイソシアネート等の如き脂肪族ジイソシアネート化合物;イソホロンジイソシアネート、4,4’−メチレンビス(シクロヘキシルイソシアネート)、メチルシクロヘキサン−2,4(又は2,6)ジイソシアネート、1,3−(イソシアネートメチル)シクロヘキサン等の如き脂環族ジイソシアネート化合物;1,3−ブチレングリコール1モルとトリレンジイソシアネート2モルとの付加体等の如きジオールとジイソシアネートとの反応物であるジイソシアネート化合物等が挙げられる。
【0105】
中でも、4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、トリレンジイソシアネートのような芳香族環を有するものが耐傷性の観点より好ましい。
【0106】
また、一般式(iii)又は(iv)で表されるカルボキシル基を有するジオール化合物の具体例としては以下に示すものが挙げられるが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0107】
3,5−ジヒドロキシ安息香酸、2,2−ビス(ヒドロキシメチル)プロピオン酸、2,2−ビス(ヒドロキシエチル)プロピオン酸、2,2−ビス(3−ヒドロキシプロピルプロピオン酸、2,2−ビス(ヒドロキシメチル)酢酸、ビス−(4−ヒドロキシフェニル)酢酸、4,4−ビス−(4−ヒドロキシフェニル)ペンタン酸、酒石酸等が挙げられる。
【0108】
中でも、2,2−ビス(ヒドロキシメチル)プロピオン酸、2,2−ビス(ヒドロキシエチル)プロピオン酸がイソシアネートとの反応性の観点から好ましい。
【0109】
なお、ポリウレタン樹脂は、上記一般式(ii)で示されるジイソシアネート化合物、及び、一般式(iii)又は(iv)で表されるカルボキシル基を有するジオール化合物を、それぞれ2種以上用いて形成されたものであってもよい。
【0110】
また、一般式(iii)又は(iv)で示されるカルボキシル基を有するジオール化合物の他に、カルボキシル基を有さず、且つ、式(ii)中のイソシアネート基と反応しない置換基を有していてもよいジオール化合物を、アルカリ現像性を低下させない程度に併用することもできる。
【0111】
ポリウレタン樹脂は、上記ジイソシアネート化合物及びジオール化合物を非プロトン性溶媒中、それぞれの反応性に応じた活性を有する公知の触媒を添加し、加熱することにより合成することができる。
【0112】
使用するジイソシアネート及びジオール化合物のモル比は、好ましくは0.8:1〜1.2:1であり、ポリマー末端にイソシアネート基が残存した場合、アルコール類又はアミン類等で処理することにより、最終的にイソシアネート基が残存しない形で合成される。
【0113】
ポリウレタン樹脂の分子量は、好ましくは重量平均分子量で1,000以上であり、更に好ましくは5,000〜10万の範囲である。これらのポリウレタン樹脂は単独で用いても2種以上を混合して用いてもよい。
【0114】
次に、水不溶性且つアルカリ可溶性のポリビニルアセタール樹脂について説明する。ここで用いられるポリビニルアセタール樹脂は、水に不溶であり、且つ、アルカリ水溶液に可溶であれば特に制限はないが、中でも、下記一般式(v)で表されるポリビニルアセタール樹脂が好ましい。
【0115】
【化17】

【0116】
一般式(v)で表されるポリビニルアセタール樹脂は、前記構成単位のうち、ビニルアセタール成分である構成単位(i)及びカルボキシル基を含有するエステル成分である構成単位(iv)を必須とし、ビニルアルコール成分である構成単位(ii)及び無置換のエステル成分である構成単位(iii)を任意成分とする、構成単位(i)〜(iv)から形成され、それぞれの構成単位を少なくとも1種以上有することができる。なお、n1〜n4は各構成単位の構成比(モル%)を示す。
【0117】
構成単位(i)中、R1は置換基を有していてもよいアルキル基、水素原子、カルボキシル基、又はジメチルアミノ基を表す。置換基としては、カルボキシル基、ヒドロキシル基、クロル基、ブロム基、ウレタン基、ウレイド基、3級アミノ基、アルコキシ基、シアノ基、ニトロ基、アミド基、エステル基などが挙げられる。
【0118】
構成単位(i)におけるR1の具体例としては、水素原子、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、カルボキシ基、ハロゲン原子(−Br、−Clなど)又はシアノ基で置換されたメチル基、3−ヒドロキシブチル基、3−メトキシブチル基、フェニル基等が挙げられ、中でも水素原子、プロピル基、フェニル基が特に好ましい。
【0119】
n1は5〜85モル%の範囲であることが好ましく、特に、25〜70モル%の範囲であることがより好ましい。
【0120】
n2は0〜60モル%の範囲であることが好ましく、特に10〜45モル%の範囲であることがより好ましい。
【0121】
構成単位(iii)中、R2は置換基を有さないアルキル基を表す。中でも、炭素数1〜10のアルキル基が好ましく、特にメチル基、エチル基が現像性の観点から好ましい。
【0122】
n3は0〜20モル%の範囲であることが好ましく、特に1〜10モル%の範囲であることがより好ましい。
【0123】
構成単位(iv)中、R3はカルボキシル基を有する脂肪族炭化水素基、脂環式炭化水素基、又は、芳香族炭化水素基を表し、これらの炭化水素基は、炭素数1〜20であることが好ましい。また、この構成単位(iv)中のこれら炭化水素基は、主に、無水コハク酸、無水マレイン酸、無水フタル酸、無水トリメリット酸、無水cis−4−シクロヘキセン−1,2−ジカルボン酸等の酸無水物とポリビニルアセタールの残存−OHを反応させて得られる炭化水素基であることが好ましく、中でも、無水フタル酸、無水コハク酸を反応させて得られるものがより好ましい。また、他の環状酸無水物を用いて得られたものであってもよい。
【0124】
構成単位(iv)におけるR3は、カルボキシル基以外の置換基を有していてもよい。このような置換基としては、以下の構造で示されるものが挙げられる。
【0125】
【化18】

【0126】
上記式中、R4としては、置換基を有してもよい炭素数1〜20のアルキル基、アラルキル基、或いはアリール基が上げられ、ここに導入可能な置換基としては−OH,−C≡N,−CL,−Br,−NO2があげられる。
【0127】
構成単位(iv)におけるR3の具体例としては、以下に示すものが挙げられるが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0128】
【化19】

【0129】
n4は、現像性の観点から3〜60モル%の範囲であることが好ましく、特に10〜55モル%の範囲であることがより好ましい。
【0130】
一般式(v)で表されるポリビニルアセタール樹脂は、ポリビニルアルコールをアルデヒドによりアセタール化し、更に、その残存ヒドロキシ基と酸無水物とを反応させる方法で合成することができる。
【0131】
ここで用いられるアルデヒドとしては、ホルムアルデヒド、アセトアルデヒド、プロピオンアルデヒド、ブチルアルデヒド、ペンチルアルデヒド、ヘキシルアルデヒド、グリオキシル酸、N,N−ジメチルホルムアミドジ−n−ブチルアセタール、ブロモアセトアルデヒド、クロルアセトアルデヒド、3−ヒドロキシ−n−ブチルアルデヒド、3−メトキシ−n−ブチルアルデヒド、3−(ジメチルアミノ)−2,2−ジメチルプロピオンアルデヒド、シアノアセトアルデヒド等が挙げられるがこれに限定されない。
【0132】
ポリビニルアセタール樹脂の酸含有量は、0.5〜5.0meq/g(即ち、KOHのmg数で84〜280)の範囲であることが好ましく、1.0〜3.0meq/gであることがより好ましい。
【0133】
ポリビニルアセタール樹脂の分子量としては、ゲルパーミネーションクロマトグラフィーにより測定した重量平均分子量で、約5000〜40万程度であることが好ましく、約2万〜30万程度であることがより好ましい。なお、これらのポリビニルアセタール樹脂は、単独で用いても、2種以上を混合して用いてもよい。
【0134】
下層に用いる上記アルカリ可溶性樹脂は、それぞれ1種類或いは2種類以上を組み合わせて使用することができる。
【0135】
単層型の記録層である場合、記録層全固形分に対するアルカリ可溶性樹脂の含有量は、記録層の感度及び耐久性の観点から、30〜99質量%であることが好ましく、より好ましくは40〜95質量%である。
【0136】
重層型の記録層である場合、最上層の全固形分に対するアルカリ可溶性樹脂の含有量は、記録層の感度及び耐久性の観点から、40〜98質量%であることが好ましく、より好ましくは60〜97質量%である。
下層成分中のアルカリ可溶性樹脂の含有量は、下層の全固形分中、40〜95質量%が好ましく、より好ましくは50〜90質量%である。
【0137】
(現像抑制剤)
記録層には、そのインヒビション(溶解抑制能)を高める目的で、現像抑制剤を含有させることができる。記録層が重層構造である場合には、特に最上層に現像抑制剤を含有させることが好ましい。
【0138】
現像抑制剤としては、前記アルカリ可溶性樹脂と相互作用を形成し、未露光部においては該アルカリ可溶性樹脂の現像液に対する溶解性を実質的に低下させ、且つ、露光部においては該相互作用が弱まり、現像液に対して可溶となり得るものであれば特に限定はされないが、特に、第4級アンモニウム塩、ポリエチレングリコール系化合物等が好ましく用いられる。また、後述する光熱変換剤、画像着色剤のなかにも現像抑制剤として機能する化合物があり、それらもまた好ましく挙げられる。
【0139】
第4級アンモニウム塩としては、特に限定されないが、テトラアルキルアンモニウム塩、トリアルキルアリールアンモニウム塩、ジアルキルジアリールアンモニウム塩、アルキルトリアリールアンモニウム塩、テトラアリールアンモニウム塩、環状アンモニウム塩、二環状アンモニウム塩が挙げられる。
【0140】
具体的には、テトラブチルアンモニウムブロミド、テトラペンチルアンモニウムブロミド、テトラヘキシルアンモニウムブロミド、テトラオクチルアンモニウムブロミド、テトララウリルアンモニウムブロミド、テトラフェニルアンモニウムブロミド、テトラナフチルアンモニウムブロミド、テトラブチルアンモニウムクロリド、テトラブチルアンモニウムヨージド、テトラステアリルアンモニウムブロミド、ラウリルトリメチルアンモニウムブロミド、ステアリルトリメチルアンモニウムブロミド、ベヘニルトリメチルアンモニウムブロミド、ラウリルトリエチルアンモニウムブロミド、フェニルトリメチルアンモニウムブロミド、3−トリフルオロメチルフェニルトリメチルアンモニウムブロミド、ベンジルトリメチルアンモニウムブロミド、ジベンジルジメチルアンモニウムブロミド、ジステアリルジメチルアンモニウムブロミド、トリステアリルメチルアンモニウムブロミド、ベンジルトリエチルアンモニウムブロミド、ヒドロキシフェニルトリメチルアンモニウムブロミド、N−メチルピリジニウムブロミド等が挙げられる。特に、特願2001−226297、特願2001−370059、特願2001−398047各明細書記載の第4級アンモニウム塩が好ましい。
【0141】
現像抑制効果及び前記アルカリ可溶性樹脂の製膜性の観点から、第4級アンモニウム塩の添加量は、単層型の記録層である場合、記録層全固形分に対して0.1〜50質量%であることが好ましく、1〜30質量%であることがより好ましい。また、重層型の記録層である場合には、最上層全固形分に対して0.1〜50質量%であることが好ましく、1〜30質量%であることがより好ましい。
【0142】
また、ポリエチレングリコール化合物としては、特に限定されないが、下記一般式(vi)で表される構造のものが挙げられる。
【0143】
61−{−O−(R63−O−)m−R62n ・・・一般式(vi)
一般式(vi)中、R61は、多価アルコール残基又は多価フェノール残基を表し、R62は水素原子、置換基を有していても良い炭素原子数1〜25のアルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アルキロイル基、アリール基又はアリーロイル基を表す。R63は置換基を有しても良いアルキレン残基を表し、mは平均で10以上、nは1以上4以下の整数を表す。
【0144】
一般式(vi)で表されるポリエチレングリコール化合物の例としては、ポリエチレングリコール類、ポリプロピレングリコール類、ポリエチレングリコールアルキルエーテル類、ポリプロピレングリコールアルキルエーテル類、ポリエチレングリコールアリールエーテル類、ポリプロピレングリコールアリールエーテル類、ポリエチレングリコールアルキルアリールエーテル類、ポリプロピレングリコールアルキルアリールエーテル類、ポリエチレングリコールグリセリンエステル、ポリプロピレングリコールグリセリンエステル類、ポリエチレンソルビトールエステル類、ポリプロピレングリコールソルビトールエステル類、ポリエチレングリコール脂肪酸エステル類、ポリプロピレングリコール脂肪酸エステル類、ポリエチレングリコール化エチレンジアミン類、ポリプロピレングリコール化エチレンジアミン類、ポリエチレングリコール化ジエチレントリアミン類、ポリプロピレングリコール化ジエチレントリアミン類が挙げられる。
【0145】
更にこれらの具体例としては、ポリエチレングリコール1000、ポリエチレングリコール2000、ポリエチレングリコール4000、ポリエチレングリコール10000、ポリエチレングリコール20000、ポリエチレングリコール5000、ポリエチレングリコール100000、ポリエチレングリコール200000、ポリエチレングリコール500000、ポリプロピレングリコール1500、ポリプロピレングリコール3000、ポリプロピレングリコール4000、ポリエチレングリコールメチルエーテル、ポリエチレングリコールエチルエーテル、ポリエチレングリコールフェニルエーテル、ポリエチレングリコールジメチルエーテル、ポリエチレングリコールジエチルエーテル、ポリエチレングリコールジフェニルエーテル、ポリエチレングリコールラウリルエーテル、ポリエチレングリコールジラウリルエーテル、ポリエチレングリコールノニルエーテル、ポリエチレングリコールセチルエーテル、ポリエチレングリコールステアリルエーテル、ポリエチレングリコールジステアリルエーテル、ポリエチレングリコールベヘニルエーテル、ポリエチレングリコールジベヘニルエーテル、ポリプロピレングリコールメチルエーテル、ポリプロピレングリコールエチルエーテル、ポリプロピレングリコールフェニルエーテル、ポリプロピレングリコールジメチルエーテル、ポリプロピレングリコールジエチルエーテル、ポリプロピレングリコールジフェニルエーテル、ポリプロピレングリコールラウリルエーテル、ポリプロピレングリコールジラウリルエーテル、ポリプロピレングリコールノニルエーテル、ポリエチレングリコールアセチルエステル、ポリエチレングリコールジアセチルエステル、ポリエチレングリコール安息香酸エステル、ポリエチレングリコールラウリルエステル、ポリエチレングリコールジラウリルエステル、ポリエチレングリコールノニル酸エステル、ポリエチレングリコールセチル酸エステル、ポリエチレングリコールステアロイルエステル、ポリエチレングリコールジステアロイルエステル、ポリエチレングリコールベヘン酸エステル、ポリエチレングリコールジベヘン酸エステル、ポリプロピレングリコールアセチルエステル、ポリプロピレングリコールジアセチルエステル、ポリプロピレングリコール安息香酸エステル、ポリプロピレングリコールジ安息香酸エステル、ポリプロピレングリコールラウリル酸エステル、ポリプロピレングリコールジラウリル酸エステル、ポリプロピレングリコールノニル酸エステル、ポリエチレングリコールグリセリンエーテル、ポリプロピレングリコールグリセリンエーテル、ポリエチレングリコールソルビトールエーテル、ポリプロピレングリコールソルビトールエーテル、ポリエチレングリコール化エチレンジアミン、ポリプロピレングリコール化エチレンジアミン、ポリエチレングリコール化ジエチレントリアミン、ポリプロピレングリコール化ジエチレントリアミン、ポリエチレングリコール化ペンタメチレンヘキサミンが挙げられる。
【0146】
現像抑制効果及び画像形成性の観点から、ポリエチレングリコール系化合物の添加量は、単層型の記録層である場合、記録層全固形分に対して0.1〜50質量%であることが好ましく、1〜30質量%であることがより好ましい。重層型の記録層である場合、最上層の全固形分に対して0.1〜50質量%であることが好ましく、1〜30質量%であることがより好ましい。
【0147】
また、このようなインヒビション(溶解抑制能)を高めるための施策を行った場合、感度の低下が生じるが、その対策として、特開2002−361066号公報に記載のラクトン化合物を最上層中に添加することが感度低下の抑制に有効である。
【0148】
溶解抑制剤としては上記の他に、オニウム塩、o−キノンジアジド化合物、芳香族スルホン化合物、芳香族スルホン酸エステル化合物等の、熱分解性であり、且つ、分解しない状態では、アルカリ可溶性樹脂の溶解性を実質的に低下させる物質を併用することが画像部の現像液へのインヒビションの向上を図る点で好ましい。
【0149】
本発明において用いられるオニウム塩としては、ジアゾニウム塩、アンモニウム塩、ホスホニウム塩、ヨードニウム塩、スルホニウム塩、セレノニウム塩、アルソニウム塩等を挙げられ、特に好適なものとしては、例えば、S.I.Schlesinger,Photogr.Sci.Eng.,18,387(1974)、T.S.Balet al,Polymer,21,423(1980)、特開平5−158230号公報に記載のジアゾニウム塩、米国特許第4,069,055号、同4,069,056号各明細書、特開平3−140140号公報に記載のアンモニウム塩、D.C.Necker et al,Macromolecules,17,2468(1984)、C.S.Wen et al,Teh,Proc.Conf.Rad.Curing ASIA,p478 Tokyo,Oct(1988)、米国特許第4,069,055号、同4,069,056号各明細書に記載のホスホニウム塩、J.V.Crivello et al,Macromorecules,10(6),1307(1977)、Chem.&Eng.News,Nov.28,p31(1988)、欧州特許第104,143号、米国特許第5,041,358号、同第4,491,628号各明細書、特開平2−150848号、特開平2−296514号各公報に記載のヨードニウム塩、J.V.Crivello et al,Polymer J.17,73(1985)、J.V.Crivelloet al.J.Org.Chem.,43,3055(1978)、W.R.Watt et al,J.PolymerSci.,Polymer Chem.Ed.,22,1789(1984)、J.V.Crivello et al,Polymer Bull.,14,279(1985)、J.V.Crivello et al,Macromorecules,14(5),1141(1981)、J.V.Crivello et al,J.PolymerSci.,Polymer Chem.Ed.,17,2877(1979)、欧州特許第370,693号、同233,567号、同297,443号、同297,442号、米国特許第4,933,377号、同3,902,114号、同4,491,628号、同4,760,013号、同4,734,444号、同2,833,827号、独国特許第2,904,626号、同3,604,580号、同3,604,581号の各明細書に記載のスルホニウム塩、J.V.Crivello et al,Macromorecules,10(6),1307(1977)、J.V.Crivello et al,J.PolymerSci.,Polymer Chem.Ed.,17,1047(1979)に記載のセレノニウム塩、C.S.Wen et al,Teh,Proc.Conf.Rad.Curing ASIA,p478 Tokyo,Oct(1988)に記載のアルソニウム塩等があげられる。
【0150】
このようなオニウム塩のなかでも、ジアゾニウム塩が特に好ましい。また、特に好適なジアゾニウム塩としては特開平5−158230号公報記載のものがあげられる。
【0151】
オニウム塩の対イオンとしては、四フッ化ホウ酸、六フッ化リン酸、トリイソプロピルナフタレンスルホン酸、5−ニトロ−o−トルエンスルホン酸、5−スルホサリチル酸、2,5−ジメチルベンゼンスルホン酸、2,4,6−トリメチルベンゼンスルホン酸、2−ニトロベンゼンスルホン酸、3−クロロベンゼンスルホン酸、3−ブロモベンゼンスルホン酸、2−フルオロカプリルナフタレンスルホン酸、ドデシルベンゼンスルホン酸、1−ナフトール−5−スルホン酸、2−メトキシ−4−ヒドロキシ−5−ベンゾイル−ベンゼンスルホン酸、及びパラトルエンスルホン酸等からのアニオンを挙げることができる。これらの中でも特に六フッ化リン酸、トリイソプロピルナフタレンスルホン酸や2,5−ジメチルベンゼンスルホン酸の如きアルキル芳香族スルホン酸からのアニオンが好適である。
【0152】
好適なキノンジアジド類としてはo−キノンジアジド化合物を挙げることができる。本発明に用いられるo−キノンジアジド化合物は、少なくとも1個のo−キノンジアジド基を有する化合物で、熱分解によりアルカリ可溶性を増すものであり、種々の構造の化合物を用いることができる。つまり、o−キノンジアジドは熱分解により現像抑制剤としてのインヒビションを失うことと、o−キノンジアジド自身がアルカリ可溶性の物質に変化することの両方の効果により最上層の溶解性を助ける。
【0153】
そのようなo−キノンジアジド化合物としては、例えば、J.コーサー著「ライト−センシティブ・システムズ」(John Wiley&Sons.Inc.)第339〜352頁に記載の化合物が使用できるが、特に種々の芳香族ポリヒドロキシ化合物或いは芳香族アミノ化合物と反応させたo−キノンジアジドのスルホン酸エステル又はスルホン酸アミドが好適である。また、特公昭43−28403号公報に記載されているようなベンゾキノン(1,2)−ジアジドスルホン酸クロライド又はナフトキノン−(1、2)−ジアジド−5−スルホン酸クロライドとピロガロール−アセトン樹脂とのエステル、米国特許第3,046,120号及び同第3,188,210号各明細書に記載されているベンゾキノン−(1,2−ジアジドスルホン酸クロライド又はナフトキノン−(1,2)−ジアジド−5スルホン酸クロライドとフェノール−ホルムアルデヒド樹脂とのエステルも好適に使用される。
【0154】
更に、ナフトキノン−(1,2)−ジアジド−4−スルホン酸クロライドとフェノールホルムアルデヒド樹脂或いはクレゾール−ホルムアルデヒド樹脂とのエステル、ナフトキノン−(1,2)−ジアジド−4−スルホン酸クロライドとピロガロール−アセトン樹脂とのエステルも同様に好適に使用される。その他の有用なo−キノンジアジド化合物としては、数多くの特許に報告され知られている。例えば特開昭47−5303号、特開昭48−63802号、特開昭48−63803号、特開昭48−96575号、特開昭49−38701号、特開昭48−13354号、特公昭41−11222号、特公昭45−9610号、特公昭49−17481号などの各公報、及び米国特許第2,797,213号、同第3,454,400号、同第3,544,323号、同第3,573,917号、同第3,674,495号、同第3,785,825号、英国特許第1,227,602号、同第1,251,345号、同第1,267,005号、同第1,329,888号、同第1,330,932号、ドイツ特許第854,890号などの各明細書中に記載されているものをあげることができる。
【0155】
o−キノンジアジド化合物の添加量は、単層型の記録層である場合、記録層全固形分に対し、1〜50質量%が好ましく、より好ましくは5〜30質量%の範囲である。重層型の記録層である場合、最上層全固形分に対し、1〜50質量%、更に好ましくは5〜30質量%、特に好ましくは10〜30質量%の範囲である。これらの化合物は単一で使用できるが、数種の混合物として使用してもよい。
【0156】
また、記録層表面のインヒビションの強化とともに表面のキズに対する抵抗力を強化する目的で、特開2000−187318号公報に記載されているような、分子中に炭素数3〜20のパーフルオロアルキル基を2又は3個有する(メタ)アクリレート単量体を重合成分とする重合体を併用することが好ましい。
添加量としては、単層型の記録層である場合、記録層全固形分に対し、0.1〜10質量%が好ましく、より好ましくは0.5〜5質量%である。重層型の記録層である場合、最上層全固形分に対し、0.1〜10質量%が好ましく、より好ましくは0.5〜5質量%である。
【0157】
(赤外線吸収剤)
本発明における記録層は赤外線吸収剤を含むことを要する。
本発明の平版印刷版原版は、赤外領域に極大吸収を有し、光熱変換能をもつ赤外線吸収剤を含有することで、赤外線レーザーによる記録が可能となる。
本発明に用いられる赤外線吸収剤としては、赤外光若しくは近赤外光を吸収し熱を発生する染料であれば特に制限はなく、赤外線吸収剤として知られる種々の染料を用いることができる。
【0158】
本発明における記録層が重層構造である場合には、最も支持体側に位置する層(下層)及び最も支持体から遠くに位置する層(最上層)の少なくとも一方は、赤外線吸収剤を含む層であり、下層及び最上層の両層に添加することが好ましい。
【0159】
赤外線吸収剤としては、市販の染料及び文献(例えば「染料便覧」有機合成化学協会編集、昭和45年刊)に記載されている公知のものが利用できる。具体的には、アゾ染料、金属錯塩アゾ染料、ピラゾロンアゾ染料、アントラキノン染料、フタロシアニン染料、カルボニウム染料、キノンイミン染料、メチン染料、シアニン染料等の染料が挙げられる。本発明において、これらの染料のうち赤外光、若しくは近赤外光を吸収するものが、赤外光若しくは近赤外光を発光するレーザーでの利用に適する点で特に好ましい。
【0160】
好ましい染料としては、例えば特開昭58−125246号、特開昭59−84356号、特開昭60−78787号の各公報、米国特許第4,973,572号明細書等に記載されているシアニン染料、特開昭58−173696号、特開昭58−181690号、特開昭58−194595号各公報等に記載されているメチン染料、特開昭58−112793号、特開昭58−224793号、特開昭59−48187号、特開昭59−73996号、特開昭60−52940号、特開昭60−63744号各公報等に記載されているナフトキノン染料、特開昭58−112792号公報等に記載されているスクワリリウム色素、英国特許434,875号明細書記載のシアニン染料等を挙げることができる。
【0161】
また、染料としては、米国特許第5,156,938号明細書記載の近赤外吸収増感剤も好適に用いられ、また、米国特許第3,881,924号明細書記載の置換されたアリールベンゾ(チオ)ピリリウム塩、特開昭57−142645号公報(米国特許第4,327,169号明細書)記載のトリメチンチアピリリウム塩、特開昭58−181051号、同58−220143号、同59−41363号、同59−84248号、同59−84249号、同59−146063号、同59−146061号各公報に記載されているピリリウム系化合物、特開昭59−216146号公報記載のシアニン色素、米国特許第4,283,475号明細書に記載のペンタメチンチオピリリウム塩等や特公平5−13514号、同5−19702号各公報に開示されているピリリウム化合物等が、市販品としては、エポリン社製のEpolight III−178、Epolight III−130、Epolight III−125等が、特に好ましく用いられる。
【0162】
また、染料として特に好ましい別の例として米国特許第4,756,993号明細書中に式(I)、(II)として記載されている近赤外吸収染料を挙げることができる。
【0163】
これらの染料のうち特に好ましいものとしては、シアニン色素、スクワリリウム色素、ピリリウム塩、ニッケルチオレート錯体、インドレニンシアニン色素が挙げられる。更に、シアニン色素やインドレニンシアニン色素が好ましく、特に好ましい一つの例として下記一般式(a)で示されるシアニン色素が挙げられる。
【0164】
【化20】

【0165】
一般式(a)中、X1は、水素原子、ハロゲン原子、−NPh2、X2−L1又は以下に示す基を表す。ここで、X2は酸素原子、窒素原子、又は硫黄原子を示し、L1は、炭素原子数1〜12の炭化水素基、ヘテロ原子を有する芳香族環、ヘテロ原子を含む炭素原子数1〜12の炭化水素基を示す。なお、ここでヘテロ原子とは、N、S、O、ハロゲン原子、Seを示す。Xa-は後述するW1-と同様に定義され、Raは、水素原子、アルキル基、アリール基、置換又は無置換のアミノ基、ハロゲン原子より選択される置換基を表す。
【0166】
【化21】

【0167】
一般式(a)において、R1及びR2は、それぞれ独立に、炭素原子数1〜12の炭化水素基を示す。記録層塗布液の保存安定性から、R1及びR2は、炭素原子数2個以上の炭化水素基であることが好ましく、更に、R1とR2とは互いに結合し、5員環又は6員環を形成していることが特に好ましい。
Ar1、Ar2は、それぞれ同じでも異なっていてもよく、置換基を有していてもよい芳香族炭化水素基を示す。好ましい芳香族炭化水素基としては、ベンゼン環及びナフタレン環が挙げられる。また、好ましい置換基としては、炭素原子数12個以下の炭化水素基、ハロゲン原子、炭素原子数12個以下のアルコキシ基が挙げられる。Y1、Y2は、それぞれ同じでも異なっていてもよく、硫黄原子又は炭素原子数12個以下のジアルキルメチレン基を示す。R3、R4は、それぞれ同じでも異なっていてもよく、置換基を有していてもよい炭素原子数20個以下の炭化水素基を示す。好ましい置換基としては、炭素原子数12個以下のアルコキシ基、カルボキシル基、スルホ基が挙げられる。R5、R6、R7及びR8は、それぞれ同じでも異なっていてもよく、水素原子又は炭素原子数12個以下の炭化水素基を示す。原料の入手性から、好ましくは水素原子である。また、W1-は、対アニオンを示す。ただし、一般式(a)で示されるシアニン色素が、その構造内にアニオン性の置換基を有し、電荷の中和が必要ない場合にはW1-は必要ない。好ましいW1-は、記録層塗布液の保存安定性から、ハロゲンイオン、過塩素酸イオン、テトラフルオロボレートイオン、ヘキサフルオロホスフェートイオン、及びスルホン酸イオンであり、特に好ましくは、過塩素酸イオン、ヘキサフルオロフォスフェートイオン、及びアリールスルホン酸イオンである。
【0168】
重層型の記録層である場合、赤外線吸収剤は、感度の観点から記録層の最上層或いはその近傍に添加することが好ましい。特に、シアニン色素の如き溶解抑制能を有するものを、フェノール基を有するアルカリ可溶性樹脂とともに添加すると、高感度化と同時に、未露光部に耐アルカリ溶解性を持たせることができる。また、これらの赤外線吸収剤は、下層に添加しても、最上層と下層の双方に添加してもよい。下層に添加することで更に高感度化することが可能である。最上層と下層の双方に赤外線吸収剤を添加する場合には、互いに同じ化合物を用いてもよく、また異なる化合物を用いてもよい。
また、赤外線吸収剤は、記録層とは別の層を設けてそこへ添加してもよい。別の層とする場合、記録層に隣接する層へ添加するのが望ましい。
【0169】
赤外線吸収剤の添加量としては、単層型の記録層である場合、記録層全固形分に対し、3〜50質量%添加することが好ましく、5〜40質量%添加することが更に好ましい。重層型の記録層である場合には、記録層最上層に添加する場合、最上層全固形分に対し0.01〜50質量%、好ましくは0.1〜30質量%、特に好ましくは1.0〜30質量%である。添加量を上記範囲とすることで記録層の感度及び耐久性が良好となる。また、下層に添加する場合、下層全固形分に対し0〜20質量%、好ましくは0〜10質量%、特に好ましくは0〜5質量%の割合で添加することができる。
【0170】
下層に赤外線吸収剤を添加する場合、溶解抑制能を有する赤外線吸収剤を用いると下層の溶解性が低下するが、一方、赤外線吸収剤が赤外線レーザ露光時に発熱し、熱による下層の溶解性向上が期待できるため、これらのバランスを考慮して添加する化合物及び添加量を選択すべきである。なお、支持体近傍の0.2〜0.3μmの領域では露光時に発生した熱が支持体に拡散するなどして、熱による溶解性向上効果が得難く、赤外線吸収剤の添加による下層の溶解性低下が感度を低下させる要因となる場合がある。従って、先に示した添加量の範囲の中においても、下層の現像液(25〜30℃)に対する溶解速度が30nm/secを下回る如き添加量は好ましくない。
【0171】
(その他の添加剤)
記録層を形成するにあたっては、上記成分の他、本発明の効果を損なわない限りにおいて、更に必要に応じて、種々の添加剤を添加することができる。
なお、重層型の記録層である場合には、以下に挙げる添加剤は記録層下層のみに添加してもよいし、最上層のみに添加してもよいし、両方の層に添加してもよい。
【0172】
<現像促進剤>
記録層には、感度を向上させる目的で、酸無水物類、フェノール類、有機酸類を添加してもよい。
【0173】
酸無水物類としては環状酸無水物が好ましく、具体的に環状酸無水物としては米国特許第4,115,128号明細書に記載されている無水フタル酸、テトラヒドロ無水フタル酸、ヘキサヒドロ無水フタル酸、3,6−エンドオキシ−テトラヒドロ無水フタル酸、テトラクロル無水フタル酸、無水マレイン酸、クロル無水マレイン酸、α−フェニル無水マレイン酸、無水コハク酸、無水ピロメリット酸などが使用できる。非環状の酸無水物としては無水酢酸などが挙げられる。
【0174】
フェノール類としては、ビスフェノールA、2,2’−ビスヒドロキシスルホン、4,4’−ビスヒドロキシスルホン、p−ニトロフェノール、p−エトキシフェノール、2,4,4’−トリヒドロキシベンゾフェノン、2,3,4−トリヒドロキシベンゾフェノン、4−ヒドロキシベンゾフェノン、4,4’,4”−トリヒドロキシトリフェニルメタン、4,4’,3”,4”−テトラヒドロキシ−3,5,3’,5’−テトラメチルトリフェニルメタンなどが挙げられる。
【0175】
有機酸類としては、特開昭60−88942号、特開平2−96755号公報などに記載されている、スルホン酸類、スルフィン酸類、アルキル硫酸類、ホスホン酸類、リン酸エステル類及びカルボン酸類などがあり、具体的には、p−トルエンスルホン酸、ドデシルベンゼンスルホン酸、p−トルエンスルフィン酸、エチル硫酸、フェニルホスホン酸、フェニルホスフィン酸、リン酸フェニル、リン酸ジフェニル、安息香酸、イソフタル酸、アジピン酸、p−トルイル酸、3,4−ジメトキシ安息香酸、フタル酸、テレフタル酸、4−シクロヘキセン−1,2−ジカルボン酸、エルカ酸、ラウリン酸、n−ウンデカン酸、アスコルビン酸などが挙げられる。
【0176】
単層型の記録層である場合、酸無水物、フェノール類及び有機酸類の記録層全固形分に占める割合は、0.05〜20%が好ましく、より好ましくは0.1〜15質量%、特に好ましくは0.1〜10質量%である。重層型の記録層である場合、酸無水物、フェノール類及び有機酸類の記録層下層又は最上層の全固形分に占める割合は、各々0.05〜20質量%が好ましく、より好ましくは0.1〜15質量%、特に好ましくは0.1〜10質量%である。
【0177】
<界面活性剤>
記録層には、塗布性を良化するため、また、現像条件に対する処理の安定性を広げるため、特開昭62−251740号公報や特開平3−208514号公報に記載されているような非イオン界面活性剤、特開昭59−121044号公報、特開平4−13149号公報に記載されているような両性界面活性剤、欧州特許第950517号明細書に記載されているようなシロキサン系化合物、特開昭62−170950号公報、特開平11−288093号公報、特開2003−057820号公報に記載されているようなフッ素含有モノマーの共重合体を添加することができる。
【0178】
単層型の記録層である場合、界面活性剤の記録層全固形分に占める割合は、0.01〜15質量%が好ましく、より好ましくは0.1〜5質量%、特に好ましくは0.05〜0.5質量%である。
重層型の記録層である場合、界面活性剤の記録層下層又は最上層の、全固形分に占める割合は、0.01〜15質量%が好ましく、より好ましくは0.1〜5.0質量%、更に好ましくは0.05〜2.0質量%である。
【0179】
<焼出し剤/着色剤>
記録層には、露光による加熱後直ちに可視像を得るための焼き出し剤や、画像着色剤としての染料や顔料を加えることができる。
【0180】
焼出し剤としては、露光による加熱によって酸を放出する化合物(光酸放出剤)と塩を形成し得る有機染料の組合せを代表として挙げることができる。具体的には、特開昭50−36209号、同53−8128号の各公報に記載されているo−ナフトキノンジアジド−4−スルホン酸ハロゲニドと塩形成性有機染料の組合せや、特開昭53−36223号、同54−74728号、同60−3626号、同61−143748号、同61−151644号及び同63−58440号の各公報に記載されているトリハロメチル化合物と塩形成性有機染料の組合せを挙げることができる。かかるトリハロメチル化合物としては、オキサゾール系化合物とトリアジン系化合物とがあり、どちらも経時安定性に優れ、明瞭な焼き出し画像を与える。
【0181】
画像着色剤としては、前述の塩形成性有機染料以外に他の染料を用いることができる。塩形成性有機染料を含めて、好適な染料として油溶性染料と塩基性染料をあげることができる。具体的にはオイルイエロー#101、オイルイエロー#103、オイルピンク#312、オイルグリーンBG、オイルブルーBOS、オイルブルー#603、オイルブラックBY、オイルブラックBS、オイルブラックT−505(以上オリエント化学工業(株)製)、ビクトリアピュアブルー、クリスタルバイオレットラクトン、クリスタルバイオレット(CI42555)、メチルバイオレット(CI42535)、エチルバイオレット、ローダミンB(CI145170B)、マラカイトグリーン(CI42000)、メチレンブルー(CI52015)などを挙げることができる。また、特開昭62−293247号公報に記載されている染料は特に好ましい。
【0182】
これらの染料は、単層型の記録層である場合、記録層の全固形分に対し、0.01〜10質量%、好ましくは0.1〜3質量%の割合で添加することができる。
重層型の記録層である場合には、記録層下層又は最上層の全固形分に対し、0.01〜10質量%、好ましくは0.1〜3質量%の割合で添加することができる。
【0183】
<可塑剤>
記録層には、塗膜の柔軟性等を付与するために可塑剤を添加してもよい。
例えば、ブチルフタリル、ポリエチレングリコール、クエン酸トリブチル、フタル酸ジエチル、フタル酸ジブチル、フタル酸ジヘキシル、フタル酸ジオクチル、リン酸トリクレジル、リン酸トリブチル、リン酸トリオクチル、オレイン酸テトラヒドロフルフリル、アクリル酸又はメタクリル酸のオリゴマー及びポリマー等が用いられる。
【0184】
これらの可塑剤は、単層型の記録層である場合、記録層の全固形分に対し、0.5〜10質量%、好ましくは1.0〜5.0質量%の割合で添加することができる。
重層構造の記録層である場合には、記録層下層又は最上層の全固形分に対し、0.5〜10質量%、好ましくは1.0〜5.0質量%の割合で添加することができる。
【0185】
<WAX剤>
本発明に係る単層型の記録層又は重層型の記録層の最上層には、キズに対する抵抗性を付与する目的で、表面の静摩擦係数を低下させる化合物を添加することもできる。具体的には、米国特許第6,117,913号明細書、或いは本願出願人が先に提案した特願2001−261627、特願2002−032904、特願2002−165584の各明細書に記載されているような、長鎖アルキルカルボン酸のエステルを有する化合物などを挙げることができる。
添加量としては、単層型の記録層である場合、記録層の全固形分に対し、0.1〜10質量%、好ましくは0.5〜5.0質量%の割合で添加することができる。
重層構造の記録層である場合には、記録層最上層中に占める割合が0.1〜10質量%が好ましく、より好ましくは0.5〜5質量%である。
【0186】
〔記録層の形成〕
本発明の平版印刷版原版における記録層は、記録層を構成する各成分を溶剤に溶かして、塗布することにより形成することができる。
【0187】
ここで使用する溶剤としては、エチレンジクロライド、シクロヘキサノン、メチルエチルケトン、メタノール、エタノール、プロパノール、エチレングリコールモノメチルエーテル、1−メトキシ−2−プロパノール、2−メトキシエチルアセテート、1−メトキシ−2−プロピルアセテート、ジメトキシエタン、乳酸メチル、乳酸エチル、N,N−ジメチルアセトアミド、N,N−ジメチルホルムアミド、テトラメチルウレア、N−メチルピロリドン、ジメチルスルホキシド、スルホラン、γ−ブチロラクトン、トルエン等をあげることができるがこれに限定されるものではない。これらの溶剤は単独或いは混合して使用される。
【0188】
なお、重層型の記録層である場合、記録層下層及び最上層は、原則的に2つの層を分離して形成することが好ましい。
【0189】
2つの層を分離して形成する方法としては、例えば、下層に含まれる成分と最上層に含まれる成分との溶剤溶解性の差を利用する方法、又は、最上層を塗布した後、急速に溶剤を乾燥、除去させる方法等が挙げられる。
これらの方法の詳細については、特開2002−251003号公報に記載されている。
【0190】
また、新たな機能を付与するために、本発明の効果を充分に発揮する範囲において、積極的に最上層及び下層の部分相溶を行う場合もある。この場合、溶剤溶解性の差、最上層を塗布後の溶剤の乾燥速度、等を制御することにより部分相溶が可能となる。
【0191】
支持体上に塗布される記録層用塗布液中の、溶剤を除いた前記成分(添加剤を含む全固形分)の濃度は、好ましくは1〜50質量%である。
【0192】
塗布する方法としては、種々の方法を用いることができるが、例えば、バーコーター塗布、回転塗布、スプレー塗布、カーテン塗布、ディップ塗布、エアーナイフ塗布、ブレー
ド塗布、ロール塗布等を挙げることができる。
【0193】
特に、重層型の記録層では、最上層塗布時に下層へのダメージを防ぐため、最上層塗布方法は非接触式である事が望ましい。また接触型ではあるが溶剤系塗布に一般的に用いられる方法としてバーコーター塗布を用いる事も可能であるが、下層へのダメージを防止するために順転駆動で塗布する事が望ましい。
【0194】
単層型の記録層である場合、記録層の乾燥後の塗布量としては、0.3〜3.0g/m2の範囲にあることが好ましく、更に好ましくは0.5〜2.5g/m2の範囲である。
【0195】
重層型の記録層である場合、下層成分の乾燥後の塗布量は、0.5〜4.0g/m2の範囲にあることが好ましく、更に好ましくは0.6〜2.5g/m2の範囲である。0.5g/m2以上とすることで耐刷性に優れ、また4.0g/m2以下とすることで良好な画像再現性及び感度が得られる。
また、最上層成分の乾燥後の塗布量は、0.05〜1.0g/m2の範囲にあることが好ましく、更に好ましくは0.08〜0.7g/m2の範囲である。0.05g/m2以上とすることで、良好な現像ラチチュード、耐傷性が得られ、1.0g/m2以下とすることで良好な感度が得られる。
【0196】
下層及び最上層を合わせた乾燥後の塗布量としては、0.6〜4.0g/m2の範囲にあることが好ましく、更に好ましくは0.7〜2.5g/m2の範囲である。0.6g/m2以上とすることで良好な耐刷性が得られ、4.0g/m2以下とすることで良好な画像再現性及び感度が得られる。
【0197】
〔有機ポリマー層〕
本発明においては、支持体の記録層を有する面とは反対の面に、有機ポリマー層を有することを特徴とする。
以下、有機ポリマー層を構成する成分について説明する。
【0198】
(有機ポリマー)
有機ポリマー層には、層形成するベースポリマーとしての有機ポリマーを含有する。
以下、ベースポリマーとして好ましく用いられる有機ポリマーを挙げるが、これに限定されるものではない。
すなわち、フェノールホルムアルデヒド樹脂、m−クレゾールホルムアルデヒド樹脂、p−クレゾールホルムアルデヒド樹脂、m−/p−混合クレゾールホルムアルデヒド樹脂、フェノール/クレゾール(m−,p−,又はm−/p−混合のいずれでもよい)混合ホルムアルデヒド樹脂等のノボラック樹脂やピロガロールアセトン樹脂。
【0199】
飽和共重合ポリエステル樹脂、フェノキシ樹脂、ポリビニルアセタール樹脂及び塩化ビニリデン共重合樹脂からなる群から選ばれる少なくとも一種の樹脂。
上記飽和共重合ポリエステル樹脂は、ジカルボン酸ユニットとジオールユニットからなる。本発明に用いられるポリエステルのジカルボン酸ユニットとしてはフタル酸、テレフタル酸、イソフタル酸、テトラブロムフタル酸、テトラクロルフタル酸などの芳香族ジカルボン酸;アジピン酸、アゼライン酸、コハク酸、蓚酸、スベリン酸、セバチン酸、マロン酸、1,4−シクロヘキサンジカルボン酸などの飽和脂肪族ジカルボン酸などが挙げられる。
【0200】
上記ジオールユニットとしては、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ポリエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、ポリプロピレングリコール、1,3−ブチレングリコール、2,3−ブチレングリコール、1,4−ブチレングリコール、ネオペンチルグリコール、ヘキサンジオール、2,2,4−トリメチル−1,3−ペンタンジオールなどの脂肪族鎖式ジオール;1,4−ビス−β−ヒドロキシエトキシシクロヘキサン、シクロヘキサンジメタノール、トリシクロデカンジメタノール、ビスフェノールジオキシエチルエーテル、ビスフェノールジオキシプロピルエーテルなどの環式ジオールなどが挙げられる。
これらのジカルボン酸及びジオールユニットはそれぞれ少なくとも一種以上で、かつどちらかが二種以上の共重合ユニットとして用いられるが、共重合組成及び分子量により共重合体の性状が決定する。
【0201】
本発明おける有機ポリマー層は、フィルムの熱圧着や溶融ラミネーション法によって設けることができるが、溶液からの塗布が薄層を効率よく設ける上でより好ましい。従って、有機ポリマーとして共重合ポリエステル樹脂が用いられる場合には、非結晶性で、工業用各種有機溶剤に溶け易いものが好ましい。
【0202】
有機ポリマーとして共重合ポリエステル樹脂が用いられる場合、その分子量は、有機ポリマー層の膜強度の点から10,000以上が好ましい。
【0203】
フェノキシ樹脂は、エポキシ樹脂と同様、ビスフェノールAとエピクロルヒドリンから製造されるが、エポキシ樹脂に比較して硬化剤や触媒の補助作用なしに、耐薬品性、接着性に優れておりバックコートの主成分として好適である。
【0204】
ポリビニルアセタール樹脂は、ポリビニルアルコールをブチルアルデヒドやホルムアルデヒドの様なアルデヒドでアセタール化した樹脂であり、ポリビニルブチラール樹脂やポリビニルホルマール樹脂が好ましく用いられる。これらのポリビニルアセタール樹脂はアセタール化度、水酸基、アセチル基の組成比及び重合度により物理的性質、化学的性質が異なるが、本発明における有機ポリマー層においては、ガラス転移温度が60℃以上のものが好ましい。
【0205】
塩化ビニリデン共重合樹脂としては、塩化ビニリデンモノマーと塩化ビニル、酢酸ビニル、エチレン、ビニルメチルエーテルなどのビニルモノマー、(メタ)アクリル酸エステル、(メタ)アクリロニトリルなどのアクリルモノマーなどとの共重合樹脂が用いられる。中でもアクリロニトリルを20モル%以下の範囲で含む塩化ビニリデン共重合体は、汎用有機溶剤溶解性に富み好ましい。
【0206】
有機ポリマー層全固形分中に含まれる有機ポリマーの含有量としては、99.99〜70質量%が好ましく、99.9〜80質量%であることがより好ましく、99.5〜90質量%であることが特に好ましい。
【0207】
有機ポリマー層には、上記した有機ポリマーの他に、場合により他の疎水性高分子化合物を含んでいてもよい。かかる疎水性高分子化合物としては、例えば、ポリブテン、ポリブタジエン、ポリアミド、不飽和共重合ポリエステル樹脂、ポリウレタン、ポリウレア、ポリイミド、ポリシロキサン、ポリカーボネート、エポキシ樹脂、塩素化ポリエチレン、アルキルフェノールのアルデヒド縮合樹脂、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリスチレン、アクリル系樹脂及びこれらの共重合樹脂、ヒドロキシセルロース、ポリビニルアルコール、セルロースアセテート、カルボキシメチルセルロース等が適している。
【0208】
その他の好適な疎水性高分子化合物としては、下記(1m)〜(12m)に示すモノマーをその構成単位とする通常1万〜20万の分子量を持つ共重合体を挙げることができる。
【0209】
(1m)芳香族水酸基を有するアクリルアミド類、メタクリルアミド類、アクリル酸エステル類、メタクリル酸エステル類及びヒドロキシスチレン類、例えばN−(4−ヒドロキシフェニル)アクリルアミド又はN−(4−ヒドロキシフェニル)メタクリルアミド、o−、m−及びp−ヒドロキシスチレン、o−、m−及びp−ヒドロキシフェニルアクリレート又はメタクリレート。
(2m)脂肪族水酸基を有するアクリル酸エステル類及びメタクリル酸エステル類、例えば、2−ヒドロキシエチルアクリレート又は2−ヒドロキシエチルメタクリレート。
【0210】
(3m)アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸プロピル、アクリル酸ブチル、アクリル酸アミル、アクリル酸ヘキシル、アクリル酸シクロヘキシル、アクリル酸オクチル、アクリル酸フェニル、アクリル酸ベンジル、アクリル酸−2−クロロエチル、アクリル酸4−ヒドロキシブチル、グリシジルアクリレート、N−ジメチルアミノエチルアクリレートなどの(置換)アクリル酸エステル。
(4m)メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸プロピル、メタクリル酸ブチル、メタクリル酸アミル、メタクリル酸ヘキシル、メタクリル酸シクロヘキシル、メタクリル酸オクチル、メタクリル酸フェニル、メタクリル酸ベンジル、メタクリル酸−2−クロロエチル、メタクリル酸4−ヒドロキシブチル、グリシジルメタクリレート、N−ジメチルアミノエチルメタクリレートなどの(置換)メタクリル酸エステル。
【0211】
(5m)アクリルアミド、メタクリルアミド、N−メチロールアクリルアミド、N−メチロールメタクリルアミド、N−エチルアクリルアミド、N−エチルメタクリルアミド、N−ヘキシルアクリルアミド、N−ヘキシルメタクリルアミド、N−シクロヘキシルアクリルアミド、N−シクロヘキシルメタクリルアミド、N−ヒドロキシエチルアクリルアミド、N−ヒドロキシエチルアクリルアミド、N−フェニルアクリルアミド、N−フェニルメタクリルアミド、N−ベンジルアクリルアミド、N−ベンジルメタクリルアミド、N−ニトロフェニルアクリルアミド、N−ニトロフェニルメタクリルアミド、N−エチル−N−フェニルアクリルアミド及びN−エチル−N−フェニルメタクリルアミドなどのアクリルアミド若しくはメタクリルアミド。
【0212】
(6m)エチルビニルエーテル、2−クロロエチルビニルエーテル、ヒドロキシエチルビニルエーテル、プロピルビニルエーテル、ブチルビニルエーテル、オクチルビニルエーテル、フェニルビニルエーテルなどのビニルエーテル類。
(7m)ビニルアセテート、ビニルクロロアセテート、ビニルブチレート、安息香酸ビニルなどのビニルエステル類。
(8m)スチレン、メチルスチレン、クロロメチルスチレンなどのスチレン類。
(9m)メチルビニルケトン、エチルビニルケトン、プロピルビニルケトン、フェニルビニルケトンなどのビニルケトン類。
(10m)エチレン、プロピレン、イソブチレン、ブタジエン、イソプレンなどのオレフィン類。
(11m)N−ビニルピロリドン、N−ビニルカルバゾール、4−ビニルピリジン、アクリロニトリル、メタクリロニトリルなど。
【0213】
(12m)N−(o−アミノスルホニルフェニル)アクリルアミド、N−(m−アミノスルホニルフェニル)アクリルアミド、N−(p−アミノスルホニルフェニル)アクリルアミド、N−〔1−(3−アミノスルホニル)ナフチル〕アクリルアミド、N−(2−アミノスルホニルエチル)アクリルアミドなどのアクリルアミド類、N−(o−アミノスルホニルフェニル)メタクリルアミド、N−(m−アミノスルホニルフェニル)メタクリルアミド、N−(p−アミノスルホニルフェニル)メタクリルアミド、N−〔1−(3−アミノスルホニル)ナフチル〕メタクリルアミド、N−(2−アミノスルホニルエチル)メタクリルアミドなどのメタクリルアミド類、また、o−アミノスルホニルフェニルアクリレート、m−アミノスルホニルフェニルアクリレート、p−アミノスルホニルフェニルアクリレート、1−(3−アミノスルホニルフェニルナフチル)アクリレートなどのアクリル酸エステル類などの不飽和スルホンアミド、o−アミノスルホニルフェニルメタクリレート、m−アミノスルホニルフェニルメタクリレート、p−アミノスルホニルフェニルメタクリレート、1−(3−アミノスルホニルフェニルナフチル)メタクリレートなどのメタクリル酸エステル類などの不飽和スルホンアミド。
【0214】
更に、上記モノマーと共重合し得るモノマーを共重合させてもよい。また、上記モノマーの共重合によって得られる共重合体を、例えば、グリシジルアクリレート、グリシジルメタクリレートなどによって修飾したものも含まれるが、これらに限られるものではない。
これらの疎水性高分子化合物は、有機ポリマー層の全固形分に対し、50質量%以下の範囲で添加できるが、有機ポリマーとして好適に用いられる飽和共重合ポリエステル樹脂、フェノキシ樹脂、ポリビニルアセタール樹脂、及び塩化ビニリデン共重合樹脂の特性を活かすためには30質量%以下であることが好ましい。
【0215】
(他の成分)
有機ポリマー層には、可とう性の付与、すべり性の調整や塗布面状を改良する目的で、可塑剤、界面活性剤、その他の添加物を、本発明の効果を損ねない範囲で必要により添加できる。
【0216】
可塑剤としては、例えば、ジメチルフタレート、ジエチルフタレート、ジブチルフタレート、ジイソブチルフタレート、ジオクチルフタレート、オクチルカプリルフタレート、ジシクロヘキシルフタレート、ジトリデシルフタレート、ブチルベンジルフタレート、ジイソデシルフタレート、ジアリルフタレートなどのフタル酸エステル類、ジメチルグリコールフタレート、エチルフタリールエチルグリコレート、メチルフタリールエチルグリコレート、ブチルフタリールブチルグリコレート、トリエチレングリコールジカプリル酸エステルなどのグリコールエステル類、トリクレジールホスフェート、トリフェニルホスフェートなどのリン酸エステル類、ジイソブチルアジペート、ジオクチルアジペート、ジメチルセバケート、ジブチルセバケート、ジオクチルアゼレート、ジブチルマレエートなどの脂肪族二塩基酸エステル類、ポリグリシジルメタクリレート、クエン酸トリエチル、グリセリントリアセチルエステル、ラウリン酸ブチルなどが有効である。
【0217】
可塑剤の有機ポリマー層の添加量は、有機ポリマー層に用いられる有機ポリマーの種類によって異なるが、ガラス転移温度が60℃以下にならない範囲で加えられることが好ましい。
【0218】
界面活性剤としては、アニオン系、カチオン系、ノニオン系及び両性界面活性剤が挙げられる。具体例としては、ポリオキシエチレンアルキルエーテル類、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル類、ポリオキシエチレンポリスチリルフェニルエーテル類、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンアルキルエーテル類、グリセリン脂肪酸部分エステル類、ソルビタン脂肪酸部分エステル類、ペンタエリスリトール脂肪酸部分エステル類、プロピレングリコールモノ脂肪酸エステル類、しょ糖脂肪酸部分エステル類、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸部分エステル類、ポリオキシエチレンソルビトール脂肪酸部分エステル類、ポリエチレングリコール脂肪酸エステル類、ポリグリセリン脂肪酸部分エステル類、ポリオキシエチレン化ひまし油類、ポリオキシエチレングリセリン脂肪酸部分エステル類、脂肪酸ジエタノールアミド類、N,N−ビス−2−ヒドロキシアルキルアミン類、ポリオキシエチレンアルキルアミン、トリエタノールアミン脂肪酸エステル、トリアルキルアミンオキシドなどの非イオン性界面活性剤、脂肪酸塩類、アビエチン酸塩類、ヒドロキシアルカンスルホン酸塩類、アルカンスルホン酸塩類、ジアルキルスルホ琥珀酸エステル塩類、直鎖アルキルベンゼンスルホン酸塩類、分岐鎖アルキルベンゼンスルホン酸塩類、アルキルナフタレンスルホン酸塩類、アルキルフェノキシポリオキシエチレンプロピルスルホン酸塩類、
【0219】
ポリオキシエチレンアルキルスルホフェニルエーテル塩類、N−メチル−N−オレイルタウリンナトリウム塩、N−アルキルスルホ琥珀酸モノアミド二ナトリウム塩、石油スルホン酸塩類、硫酸化牛脂油、脂肪酸アルキルエステルの硫酸エステル塩類、アルキル硫酸エステル塩類、ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸エステル塩類、脂肪酸モノグリセリド硫酸エステル塩類、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル硫酸エステル塩類、ポリオキシエチレンスチリルフェニルエーテル硫酸エステル塩類、アルキルリン酸エステル塩類、ポリオキシエチレンアルキルエーテルリン酸エステル塩類、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテルリン酸エステル塩類、スチレン/無水マレイン酸共重合物の部分鹸化物類、オレフィン/無水マレイン酸共重合物の部分鹸化物類、ナフタレンスルホン酸塩ホルマリン縮合物類などのアニオン界面活性剤、アルキルアミン塩類、第四級アンモニウム塩類、ポリオキシエチレンアルキルアミン塩類、ポリエチレンポリアミン誘導体などのカチオン性界面活性剤、カルボキシベタイン類、アミノカルボン酸類、スルホベタイン類、アミノ硫酸エステル類、イミタゾリン類などの両性界面活性剤が挙げられる。以上挙げた界面活性剤の中でポリオキシエチレンとあるものは、ポリオキシメチレン、ポリオキシプロピレン、ポリオキシブチレンなどのポリオキシアルキレンに読み替えることもでき、それらの界面活性剤もまた包含される。
【0220】
更に好ましい界面活性剤は、分子内にパーフルオロアルキル基を含有するフッ素系界面活性剤である。フッ素系界面活性剤の例としては、パーフルオロアルキルカルボン酸塩、パーフルオロアルキルスルホン酸塩、パーフルオロアルキルリン酸エステルなどのアニオン型、パーフルオロアルキルベタインなどの両性型、パーフルオロアルキルトリメチルアンモニウム塩などのカチオン型及びパーフルオロアルキルアミンオキサイド、パーフルオロアルキルエチレンオキシド付加物、パーフルオロアルキル基及び親水性基含有オリゴマー、パーフルオロアルキル基及び親油性基含有オリゴマー、パーフルオロアルキル基、親水性基及び親油性基含有オリゴマー、パーフルオロアルキル基及び親油性基含有ウレタンなどの非イオン型が挙げられる。
【0221】
界面活性剤は、単独又は2種以上を組み合わせて使用することができ、有機ポリマー層中に好ましくは0.001〜10質量%、より好ましくは0.01〜5質量%の範囲で添加できる。
【0222】
有機ポリマー層には、更に、着色のための染料、アルミニウム支持体との密着向上のためのシランカップリング剤、ジアゾニウム塩からなるジアゾ樹脂、有機ホスホン酸、有機リン酸及びカチオン性ポリマー等、更には滑り剤として通常用いられるワックス、高級脂肪酸、高級脂肪酸アミド、ジメチルシロキサンよりなるシリコーン化合物、変性ジメチルシロキサン、ポリエチレン粉末等を適宜加えることができる。
【0223】
有機ポリマー層の厚さは、合紙がなくとも記録層を傷付け難い厚さであればよく、通常0.05〜50μmの範囲が好ましく、より好ましくは0.5〜25μmの範囲であり、更に好ましくは1.0〜20μmの範囲である。上記範囲内であれば、平版印刷版原版を重ねて取り扱った場合に、記録層の擦れ傷等の発生を効果的に防止することができる。
【0224】
(有機ポリマー層の形成)
本発明における有機ポリマー層は、有機ポリマー層を構成する各成分を溶媒に溶かして塗布液を調製し、この塗布液を支持体上の記録層を形成する面とは反対側の面(裏面)に塗布することにより形成できる。
使用される溶媒としては、特開昭62−251739号公報に記載されているような有機溶剤を単独或いは混合して用いることができる。また、溶剤としては、エチレンジクロライド、シクロヘキサノン、メチルエチルケトン、メタノール、エタノール、プロパノール、エチレングリコールモノメチルエーテル、1−メトキシ−2−プロパノール、2−メトキシエチルアセテート、1−メトキシ−2−プロピルアセテート、ジメトキシエタン、乳酸メチル、乳酸エチル、N,N−ジメチルアセトアミド、N,N−ジメチルホルムアミド、テトラメチルウレア、N−メチルピロリドン、ジメチルスルホキシド、スルホラン、γ−ブチロラクトン、トルエン等を挙げることができるが、これらに限定されるものではない。これらの溶剤は単独或いは混合して使用される。
【0225】
(有機ポリマー層の特性)
有機ポリマー層の好ましい特性としては、本発明の効果を充分に発揮する観点から、有機ポリマー層表面の動摩擦係数が0.20〜0.70の範囲にあることが好ましい。
なお、ここで言う動摩擦係数とは、有機ポリマー層表面と有機ポリマー層とは反対側の記録層表面とを接触させて配置し、標準ASTM D1894に従って測定された値を指す。
【0226】
本発明の赤外線感光性平版印刷版原版は、以上説明したように、記録層と有機ポリマー層との静摩擦係数が0.45〜0.60の範囲であることから、記録層と有機ポリマー層との接触面が、適度な滑り性を有し、更に、接着性がないという状態を形成することができる。そのため、この平版印刷版原版を合紙を用いずに積層した場合であっても、積層体を容易に形成することができ、また、形成された積層体において振動による版材間のズレを防止することができる。また、この版材を合紙を用いずに積層した場合であっても、製造加工工程及び製版工程等において、或いは、包装時における搬送や製品として出荷後の輸送の際に、記録層の損傷を効果的に抑制しうるという優れた効果を発揮することができる。
【0227】
〔支持体〕
本発明の平版印刷版原版に使用される支持体としては、必要な強度と耐久性を備えた寸度的に安定な板状物であれば特に制限はなく、例えば、紙、プラスチック(例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン等)がラミネートされた紙、金属板(例えば、アルミニウム、亜鉛、銅等)、プラスチックフィルム(例えば、二酢酸セルロース、三酢酸セルロース、プロピオン酸セルロース、酪酸セルロース、酢酸酪酸セルロース、硝酸セルロース、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレン、ポリスチレン、ポリプロピレン、ポリカーボネート、ポリビニルアセタール等)、上記の如き金属がラミネート、若しくは蒸着された紙、若しくはプラスチックフィルム等が挙げられる。
【0228】
中でも、本発明においては、ポリエステルフィルム又はアルミニウム板が好ましく、その中でも寸度安定性がよく、比較的安価であるアルミニウム板は特に好ましい。好適なアルミニウム板は、純アルミニウム板及びアルミニウムを主成分とし、微量の異元素を含む合金板であり、更にアルミニウムがラミネート若しくは蒸着されたプラスチックフィルムでもよい。アルミニウム合金に含まれる異元素には、ケイ素、鉄、マンガン、銅、マグネシウム、クロム、亜鉛、ビスマス、ニッケル、チタンなどがある。合金中の異元素の含有量は高々10質量%以下である。
【0229】
本発明において特に好適なアルミニウムは、純アルミニウムであるが、完全に純粋なアルミニウムは精錬技術上製造が困難であるので、僅かに異元素を含有するものでもよい。
【0230】
このように本発明に適用されるアルミニウム板は、その組成が特定されるものではなく、従来より公知公用の素材のアルミニウム板を適宜に利用することができる。本発明で用いられるアルミニウム板の厚みはおよそ0.1mm〜0.6mm程度、好ましくは0.15mm〜0.4mm、特に好ましくは0.2mm〜0.3mmである。
【0231】
このようなアルミニウム板には、必要に応じて粗面化処理、陽極酸化処理などの表面処
理を行なってもよい。以下、このような表面処理について簡単に説明する。
【0232】
アルミニウム板を粗面化するに先立ち、所望により、表面の圧延油を除去するための例えば界面活性剤、有機溶剤又はアルカリ性水溶液などによる脱脂処理が行われる。アルミニウム板の表面の粗面化処理は、種々の方法により行われるが、例えば、機械的に粗面化する方法、電気化学的に表面を溶解粗面化する方法及び化学的に表面を選択溶解させる方法により行われる。機械的方法としては、ボール研磨法、ブラシ研磨法、ブラスト研磨法、バフ研磨法などの公知の方法を用いることができる。また、電気化学的な粗面化法としては塩酸又は硝酸電解液中で交流又は直流により行う方法がある。また、特開昭54−63902号公報に開示されているように両者を組み合わせた方法も利用することができる。
【0233】
以上のように粗面化されたアルミニウム板は、必要に応じてアルカリエッチング処理及び中和処理された後、所望により表面の保水性や耐摩耗性を高めるために陽極酸化処理が施される。アルミニウム板の陽極酸化処理に用いられる電解質としては、多孔質酸化皮膜を形成する種々の電解質の使用が可能で、一般的には硫酸、リン酸、蓚酸、クロム酸あるいはそれらの混酸が用いられる。それらの電解質の濃度は電解質の種類によって適宜決められる。
【0234】
陽極酸化の処理条件は用いる電解質により種々変わるので一概に特定し得ないが一般的には電解質の濃度が1〜80質量%溶液、液温は5〜70℃、電流密度5〜60A/dm2、電圧1〜100V、電解時間10秒〜5分の範囲であれば適当である。陽極酸化皮膜の量は1.0g/m2より少ないと耐刷性が不充分であったり、平版印刷版の非画像部に傷が付き易くなって、印刷時に傷の部分にインキが付着するいわゆる「傷汚れ」が生じ易くなる傾向がある。
【0235】
陽極酸化処理を施された後、アルミニウム表面は必要により親水化処理が施される。
本発明に使用される親水化処理としては、米国特許第2,714,066号、同第3,181,461号、第3,280,734号及び第3,902,734号各明細書に開示されているようなアルカリ金属シリケート(例えばケイ酸ナトリウム水溶液)法がある。
この方法においては、支持体がケイ酸ナトリウム水溶液で浸漬処理されるか又は電解処理される。他に特公昭36−22063号公報に開示されているフッ化ジルコン酸カリウム及び米国特許第3,276,868号、同第4,153,461号、同第4,689,272号各明細書に開示されているようなポリビニルホスホン酸で処理する方法などが用いられる。
【0236】
(有機下塗層)
本発明の平版印刷版原版は、必要に応じて支持体と記録層との間に有機下塗層を設けることができる。
【0237】
有機下塗層成分としては、種々の有機化合物が用いられ、例えば、カルボキシメチルセルロース、デキストリン、アラビアガム、2−アミノエチルホスホン酸などのアミノ基を有するホスホン酸類、置換基を有してもよいフェニルホスホン酸、ナフチルホスホン酸、アルキルホスホン酸、グリセロホスホン酸、メチレンジホスホン酸及びエチレンジホスホン酸などの有機ホスホン酸、置換基を有してもよいフェニルリン酸、ナフチルリン酸、アルキルリン酸及びグリセロリン酸などの有機リン酸、置換基を有してもよいフェニルホスフィン酸、ナフチルホスフィン酸、アルキルホスフィン酸及びグリセロホスフィン酸などの有機ホスフィン酸、グリシンやβ−アラニンなどのアミノ酸類、及びトリエタノールアミンの塩酸塩などのヒドロキシ基を有するアミンの塩酸塩等から選ばれるが、2種以上混合して用いてもよい。
【0238】
有機下塗層には、オニウム基を有する化合物を含有することも好ましい。オニウム基を有する化合物は、特開2000−10292号、特開2000−108538号、特開2000−241962号等の公報に詳述されている。
【0239】
中でも好ましいものとして、ポリ(p−ビニル安息香酸)などで代表される構造単位を分子中に有する高分子化合物群の中から選ばれる少なくとも1種の化合物が挙げられる。具体例としては、p−ビニル安息香酸とビニルベンジルトリエチルアンモニウムクロリドとの共重合体、p−ビニル安息香酸とビニルベンジルトリメチルアンモニウム塩との共重合体などが挙げられる。
【0240】
有機下塗層は、次のような方法で設けることができる。即ち、水又はメタノール、エタノール、メチルエチルケトンなどの有機溶剤若しくはそれらの混合溶剤に上記の有機化合物を溶解させた溶液をアルミニウム板上に塗布、乾燥して設ける方法と、水又はメタノール、エタノール、メチルエチルケトンなどの有機溶剤若しくはそれらの混合溶剤に上記の有機化合物を溶解させた溶液に、アルミニウム板を浸漬して上記化合物を吸着させ、その後水などによって洗浄、乾燥して有機下塗層を設ける方法である。前者の方法では、上記の有機化合物の0.005〜10質量%の濃度の溶液を種々の方法で塗布できる。また後者の方法では、溶液の濃度は0.01〜20質量%、好ましくは0.05〜5質量%であり、浸漬温度は20〜90℃、好ましくは25〜50℃であり、浸漬時間は0.1秒〜20分、好ましくは2秒〜1分である。これに用いる溶液は、アンモニア、トリエチルアミン、水酸化カリウムなどの塩基性物質や、塩酸、リン酸などの酸性物質によりpH1〜12の範囲に調整することもできる。また、記録層の調子再現性改良のために黄色染料を添加することもできる。
【0241】
有機下塗層の被覆量は、2〜200mg/m2が適当であり、好ましくは5〜100mg/m2である。被覆量が上記範囲において充分な耐刷性能が得られる。
【0242】
上記のようにして作製された赤外線感光性平版印刷版は、画像様に露光され、その後、現像処理を施される。
【0243】
[製版]
本発明の平版印刷版原版は熱により画像形成される。具体的には、熱記録ヘッド等による直接画像様記録、赤外線レーザーによる走査露光、キセノン放電灯などの高照度フラッシュ露光や赤外線ランプ露光などが用いられるが、波長700〜1200nmの赤外線を放射する半導体レーザー、YAGレーザー等の固体高出力赤外線レーザーによる露光が好適である。
【0244】
露光された本発明の平版印刷版原版は、現像処理及びフィニッシャーや保護ガムなどによる後処理を施されて印刷版となる。これらの処理には、公知の自動現像機などの処理機器を用いることができる。
【0245】
本発明の平版印刷版原版の現像処理及び後処理に用いられる処理剤としては、公知の処理剤の中から適宜選択して用いることができる。
【0246】
好適な現像液としては、pHが9.0〜14.0の範囲、好ましくは12.0〜13.5の範囲にある現像液である。現像液には、従来から知られているアルカリ水溶液が使用できる。上記のアルカリ水溶液のうち、特に好適な現像液として、塩基としてケイ酸アルカリを含有した、又は塩基にケイ素化合物を混ぜてケイ酸アルカリとしたものを含有した、従来良く知られている所謂「シリケート現像液」と呼ばれるpH12以上の水溶液、及び、特開平8−305039号、特開平11−109637号公報等に記載の、ケイ酸アルカリを含有せず、非還元糖(緩衝作用を有する有機化合物)と塩基とを含有した所謂「ノンシリケート現像液」が挙げられる。
【0247】
また、上記現像液には、アニオン界面活性剤及び/又は両性界面活性剤が含有されることが、現像促進及び滓の発生防止の点から好ましい。
【0248】
本発明の平版印刷版をバーニング処理する場合は、バーニング整面液を用い、バーニングプロセッサーなどを用いて行う従来から知られている方法で行うことが好ましい。
【0249】
このような処理によって得られた平版印刷版はオフセット印刷機等にかけられ、多数枚の印刷に用いられる。
【0250】
本発明の平版印刷版原版は、上記構成としたので、合紙なしで積層した場合にも、記録層の損傷が効果的に抑制されるため、取り扱い性に優れる。
【実施例】
【0251】
以下、実施例により本発明を詳細に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0252】
[実施例1〜7、比較例1〜3]
〔支持体の作製〕
<アルミニウム板>
Si:0.06質量%、Fe:0.30質量%、Cu:0.026質量%、Mn:0.001質量%、Mg:0.001質量%、Zn:0.001質量%、Ti:0.02質量%を含有し、残部はAlと不可避不純物のアルミニウム合金を用いて溶湯を調製し、溶湯処理及びろ過を行った上で、厚さ500mm、幅1200mmの鋳塊をDC鋳造法で作製した。表面を平均10mmの厚さで面削機により削り取った後、550℃で、約5時間均熱保持し、温度400℃に下がったところで、熱間圧延機を用いて厚さ2.7mmの圧延板とした。更に、連続焼鈍機を用いて熱処理を500℃で行った後、冷間圧延で、厚さ0.24mmに仕上げ、JIS 1050材のアルミニウム板を得た。なお、得られたアルミニウムの平均結晶粒径の短径は50μm、長径は300μmであった。このアルミニウム板を幅1030mmにした後、以下に示す表面処理に供した。
【0253】
<表面処理>
以下の(a)〜(k)の各種処理を連続的に行った。なお、各処理及び水洗の後にはニップローラで液切りを行った。
【0254】
(a)機械的粗面化処理
比重1.12の研磨剤(パミス)と水との懸濁液を研磨スラリー液としてアルミニウム板の表面に供給しながら、回転するローラ状ナイロンブラシにより機械的粗面化処理を行った。研磨剤の平均粒径は30μm、最大粒径は100μmであった。ナイロンブラシの材質は6・10ナイロン、毛長は45mm、毛の直径は0.3mmであった。ナイロンブラシはφ300mmのステンレス製の筒に穴をあけて密になるように植毛した。回転ブラシは3本使用した。ブラシ下部の2本の支持ローラ(φ200mm)の距離は300mmであった。ブラシローラはブラシを回転させる駆動モータの負荷が、ブラシローラをアルミニウム板に押さえつける前の負荷に対して7kWプラスになるまで押さえつけた。ブラシの回転方向はアルミニウム板の移動方向と同じであった。ブラシの回転数は200rpmであった。
【0255】
(b)アルカリエッチング処理
上記で得られたアルミニウム板をカセイソーダ濃度2.6質量%、アルミニウムイオン濃度6.5質量%、温度70℃の水溶液を用いてスプレーによるエッチング処理を行い、アルミニウム板を10g/m2溶解した。その後、スプレーによる水洗を行った。
【0256】
(c)デスマット処理
温度30℃の硝酸濃度1質量%水溶液(アルミニウムイオンを0.5質量%含む。)で、スプレーによるデスマット処理を行い、その後、スプレーで水洗した。デスマット処理に用いた硝酸水溶液は、硝酸水溶液中で交流を用いて電気化学的粗面化処理を行う工程の廃液を用いた。
【0257】
(d)電気化学的粗面化処理
60Hzの交流電圧を用いて連続的に電気化学的な粗面化処理を行った。このときの電解液は、硝酸10.5g/L水溶液(アルミニウムイオンを5g/L、アンモニウムイオンを0.007質量%含む。)、液温50℃であった。電流値がゼロからピークに達するまでの時間TPが0.8msec、duty比1:1、台形の矩形波交流を用いて、カーボン電極を対極として電気化学的な粗面化処理を行った。補助アノードにはフェライトを用いた。電解槽はラジアルセルタイプのものを使用した。
電流密度は電流のピーク値で30A/dm2、電気量はアルミニウム板が陽極時の電気
量の総和で220C/dm2であった。補助陽極には電源から流れる電流の5%を分流さ
せた。その後、スプレーによる水洗を行った。
【0258】
(e)アルカリエッチング処理
アルミニウム板をカセイソーダ濃度26質量%、アルミニウムイオン濃度6.5質量%の水溶液を用いてスプレーによるエッチング処理を32℃で行い、アルミニウム板を0.50g/m2溶解し、前段の交流を用いて電気化学的粗面化処理を行ったときに生成した水酸化アルミニウムを主体とするスマット成分を除去し、また、生成したピットのエッジ部分を溶解してエッジ部分を滑らかにした。その後、スプレーによる水洗を行った。
【0259】
(f)デスマット処理
温度30℃の硫酸濃度15質量%水溶液(アルミニウムイオンを4.5質量%含む。)で、スプレーによるデスマット処理を行い、その後、スプレーで水洗した。デスマット処理に用いた硝酸水溶液は、硝酸水溶液中で交流を用いて電気化学的粗面化処理を行う工程の廃液を用いた。
【0260】
(g)電気化学的粗面化処理
60Hzの交流電圧を用いて連続的に電気化学的な粗面化処理を行った。このときの電解液は、塩酸5.0g/L水溶液(アルミニウムイオンを5g/L含む。)、温度35℃であった。電流値がゼロからピークに達するまでの時間TPが0.8msec、duty比1:1、台形の矩形波交流を用いて、カーボン電極を対極として電気化学的粗面化処理を行った。補助アノードにはフェライトを用いた。電解槽はラジアルセルタイプのものを使用した。
電流密度は電流のピーク値で25A/dm2、電気量はアルミニウム板が陽極時の電気量の総和で50C/dm2であった。その後、スプレーによる水洗を行った。
【0261】
(h)アルカリエッチング処理
アルミニウム板をカセイソーダ濃度26質量%、アルミニウムイオン濃度6.5質量%の水溶液を用いてスプレーによるエッチング処理を32℃で行い、アルミニウム板を0.10g/m2溶解し、前段の交流を用いて電気化学的粗面化処理を行ったときに生成した水酸化アルミニウムを主体とするスマット成分を除去し、また、生成したピットのエッジ部分を溶解してエッジ部分を滑らかにした。その後、スプレーによる水洗を行った。
【0262】
(i)デスマット処理
温度60℃の硫酸濃度25質量%水溶液(アルミニウムイオンを0.5質量%含む。)で、スプレーによるデスマット処理を行い、その後、スプレーによる水洗を行った。
【0263】
(j)陽極酸化処理
二段給電電解処理法の陽極酸化装置(第一及び第二電解部長各6m、第一及び第二給電部長各3m、第一及び第二給電極部長各2.4m)を用いて陽極酸化処理を行った。第一および第二電解部に供給した電解液としては、硫酸を用いた。電解液は、いずれも、硫酸濃度50g/L(アルミニウムイオンを0.5質量%含む。)、温度20℃であった。その後、スプレーによる水洗を行った。最終的な酸化皮膜量は2.7g/m2であった。
【0264】
(k)アルカリ金属ケイ酸塩処理
陽極酸化処理により得られたアルミニウム支持体を温度30℃の3号ケイ酸ソーダ1質量%水溶液の処理槽中へ、10秒間浸漬することでアルカリ金属ケイ酸塩処理(シリケート処理)を行った。その後、井水を用いたスプレーによる水洗を行い、表面シリケート親水化処理された赤外線感光性平版印刷版用支持体を得た。
【0265】
〔バックコート層(有機ポリマー層)の形成〕
下記の組成のバックコート液を調液し、このバックコート液を、上記のようにして得られた支持体の記録層を形成する面とは反対の面に、バーコーターの溝の深さでWet量を調整することで、塗布量を変更して、塗布した。その後、オーブンを用い、150℃で30秒間乾燥し、バックコート層(有機ポリマー層)を設けた。得られた有機ポリマー層の乾燥後の塗布量は下記表1に示す。
【0266】
−バックコート液−
・有機ポリマー(下記表1に記載の化合物) 25g
・界面活性剤(フッ素系界面活性剤B、下記構造) 0.05g
・溶剤(下記表1に記載のもの) 100g
【0267】
【化22】

【0268】
【表1】

【0269】
なお、比較例1では、バックコート層(有機ポリマー層)を設けなかった。
また、比較例2では、有機ポリマー25gの代わりに、ポリスチレンとステアリン酸ドデシルとの混合物を25g含んだバックコート液を用いて、バックコート層(有機ポリマー層)を設けた。ここで、混合物中、ポリスチレンとステアリン酸ドデシルとの混合比は、ポリスチレン:ステアリン酸ドデシル=95質量%:5質量%である。
【0270】
〔有機下塗り層の形成〕
上記有機ポリマー層を形成した面とは反対側の、支持体の表面処理した面に、下記の有機下塗り液をバーコーターで塗布し、80℃15秒間乾燥し、乾燥後の被服量が18mg/m2となるように有機下塗り層を設けた。
【0271】
−有機下塗り液−
・下記高分子化合物 0.3g
・メタノール 100g
【0272】
【化23】

【0273】
〔記録層(重層)の形成〕
有機下塗り層が形成されたアルミニウム支持体上に、下記の下層用塗布液1を乾燥後の塗布量が0.85g/m2になるようバーコーターで塗布した後、160℃で44秒間乾燥し、直ちに17〜20℃の冷風で支持体の温度が35℃になるまで冷却して下層を形成した。その後、下記の上層用塗布液2を、乾燥後の塗布量が0.22g/m2になるようにバーコーターで塗布し、148℃で25秒間乾燥し、更に20〜26℃の風で徐冷して上層を形成した。
これにより、実施例1〜7、比較例1〜3の感光性平版印刷版原版を作製した。
【0274】
<下層用塗布液1>
・N−(4−アミノスルホニルフェニル)メタクリルアミド
/アクリロニトリル/メタクリル酸メチル 1.73g
(36/34/30:重量平均分子量60000、酸価2.65)
・ノボラック樹脂 0.192g
(2,3−キシレノール/m−クレゾール/p−クレゾール比
=10/20/70、重量平均分子量3300)
・シアニン染料A(下記構造) 0.134g
・4,4’−ビスヒドロキシフェニルスルホン 0.126g
・無水テトラヒドロフタル酸 0.190g
・p−トルエンスルホン酸 0.008g
・3−メトキシ−4−ジアゾジフェニルアミン
ヘキサフルオロホスフェート 0.032g
・エチルバイオレットの対イオンを
6−ヒドロキシナフタレンスルホン酸に変えたもの 0.0781g
・ポリマー1(下記構造) 0.035g
・メチルエチルケトン 25.41g
・1−メトキシ−2−プロパノール 12.97g
・γ−ブチロラクトン 13.18g
【0275】
【化24】

【0276】
<上層用塗布液2>
・m,p−クレゾールノボラック 0.3479g
(m/p比=6/4、重量平均分子量4500、
未反応クレゾール0.8質量%含有)
・ポリマー3(下記構造、MEK30%溶液) 0.1403g
・シアニン染料A(前記構造) 0.0192g
・ポリマー1(前記構造) 0.015g
・ポリマー2(下記構造) 0.00328g
・4級アンモニウム塩(下記構造) 0.0043g
・界面活性剤 0.008g
(ポリオキシエチレンソルビット脂肪酸エステルHLB8.5、
日光ケミカルズ(株)製、GO−4)
・メチルエチルケトン 6.79g
・1−メトキシ−2−プロパノール 13.07g
【0277】
【化25】

【0278】
[実施例8〜14、比較例4〜6]
〔バックコート層(有機ポリマー層)の形成〕
下記の組成のバックコート液を調液し、このバックコート液を、実施例1で用いた支持体の記録層を形成する面とは反対の面に、バーコーターの溝の深さでWet量を調整することで、塗布量を変更して、塗布した。その後、オーブンを用い、150℃で30秒間乾燥し、バックコート層(有機ポリマー層)を設けた。得られた有機ポリマー層の乾燥後の塗布量は下記表2に示す。
【0279】
−バックコート液−
・有機ポリマー(下記表2に記載の化合物) 25g
・界面活性剤(フッ素系界面活性剤B、前記構造) 0.05g
・溶剤(下記表2に記載のもの) 100g
【0280】
【表2】

【0281】
なお、比較例4では、バックコート層(有機ポリマー層)を設けなかった。
また、比較例5では、有機ポリマー25gの代わりに、ポリスチレンとステアリン酸ドデシルとの混合物を25g含んだバックコート液を用いて、バックコート層(有機ポリマー層)を設けた。ここで、混合物中、ポリスチレンとステアリン酸ドデシルとの混合比は、ポリスチレン:ステアリン酸ドデシル=95質量%:5質量%である。
【0282】
〔記録層(単層)の形成〕
上記有機ポリマー層を形成した面とは反対側の支持体表面に、以下の記録層塗布液3を塗布し、150℃のオーブンで1分乾燥後、乾燥膜厚が2.0g/m2のポジ型記録層を有する実施例8〜14、比較例4〜6の感光性平版印刷版原版を作製した。
【0283】
<記録層塗布液3>
・m,p−クレゾールノボラック 0.90g
(m/p比=6/4、重量平均分子量7500、
未反応クレゾール0.5重量%含有)
・メタクリル酸/エチルメタクリレート/イソブチルメタクリレート
(モル比:26/37/37)共重合体 0.10g
・シアニン染料A(前記構造) 0.04g
・2,4,6−トリス(ヘキシルオキシ)ベンゼンジアゾニウム−2−ヒドロキシ
−4−メトキシベンゾフェノン−5−スルホネート 0.01g
・p−トルエンスルホン酸 0.002g
・テトラヒドロ無水フタル酸 0.05g
・ビクトリアピュアブルーBOHの対アニオンを
1−ナフタレンスルホン酸アニオンにした染料 0.015g
・フッ素系界面活性剤 0.02g
(メガファックF−176、大日本インキ化学工業(株)製)
・メチルエチルケトン 15g
・1−メトキシ−2−プロパノール 7g
【0284】
<評価>
得られた実施例及び比較例の各赤外線感光性平版印刷版原版について、「1.静摩擦係数の測定」、「2.積層体における振動による版材間のズレ」「3.輸送による記録層の損傷(擦れ傷)の発生」について評価をした。
【0285】
1.静摩擦係数の測定
得られた各赤外線感光性平版印刷版原版における静摩擦係数について、前述の方法で測定した。測定結果を表1及び表2に併記する。
【0286】
2.積層体における振動による版材間のズレ
得られた各赤外線感光性平版印刷版原版を、1030mm×800mmに裁断し、各々300枚準備した。この平版印刷版原版の30枚毎に上下に厚さ0.5mmのボール紙を各1枚置いて、合紙を入れずに重ねた。この積層体をパレットに乗せ、フォークリフトを用い時速20Kmで運転・停止を5回繰り返した。その後、積層体の束のズレを目視で確認した。
ズレの認められたものを×、認められなかったものを○とした。結果を表1及び表2に併記する。
【0287】
3.輸送による記録層の損傷(擦れ傷)の発生の評価
得られた各赤外線感光性平版印刷版原版を、1030mm×800mmに裁断し、各々30枚準備した。この30枚を合紙を入れずに重ねて、上下に厚さ0.5mmのボール紙を各1枚置いて、4隅をテープ止めした後、アルミクラフト紙で包装した。これを更に段ボールケースで外装しテープ止めし、合紙レス包装形態とした。これをパレットに載せ、トラックで2000kmの輸送を行った後、開封した。開封後の、赤外線感光性平版印刷版原版を、富士写真フイルム(株)製自動現像機LP−940HIIに、富士写真フイルム(株)製現像液DT−2を1:8で仕込み、現像温度32℃、現像時間12秒で現像処理した。このときの現像液の電導度は43mS/cmであった。現像後の平版印刷版について、輸送に起因して生じた画像部の抜けの有無を目視により観察し、評価した。
画像部の抜けが無いものを「○」、画像部の抜けが有ったものを「×」とする。結果を表1及び表2に併記する。
【0288】
表1及び表2に示されるように、記録層と有機ポリマー層との静摩擦係数が本発明の範囲の赤外線感光性平版印刷版(実施例)は、合紙を入れずに積層した場合、積層体が容易に形成され、また、積層体における振動による版材間のズレも見られなかった。更に、積層体を包装等した場合であっても、画像部の抜けが見られず、これにより、記録層の損傷(擦れ傷)が抑制されたことが分かる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
支持体の片面に、水不溶性且つアルカリ可溶性樹脂と赤外線吸収剤とを含み、赤外線照射により画像を形成し得る記録層を有し、該支持体の記録層を有する面とは反対の面に、有機ポリマー層を有し、
前記記録層と前記有機ポリマー層との静摩擦係数が0.45〜0.60の範囲であることを特徴とする赤外線感光性平版印刷版原版。

【公開番号】特開2007−233096(P2007−233096A)
【公開日】平成19年9月13日(2007.9.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−55526(P2006−55526)
【出願日】平成18年3月1日(2006.3.1)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】