説明

赤外線検知素子及びセンサ並びに赤外線検知素子の製造方法

【課題】高い感度を有する赤外線検知素子を容易に実現できる赤外線検知素子、及びその赤外線検知素子を備えたセンサ、並びに赤外線検知素子の製造方法を提供すること。
ること。
【解決手段】切欠部3を有するSi基板部7と、Si基板部7より薄膜で切欠部3を覆う熱絶縁薄膜部5とを備えた赤外線検知素子1に関するものである。この赤外線検知素子1では、中間酸化膜8上にて、熱絶縁薄膜部5とSi基板部7とに跨るように、エピタキシャルSi層15を介して複数の熱電素子9が配置されるとともに、各の熱電素子9は配線部11により直列に電気接続されている。また、熱電素子9は、エピタキシャルSi層15上に形成されたエピタキシャルチタン酸ストロンチウムを含む熱電薄膜19から形成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば高感度の温度センサ、光センサ、ガスセンサなどに用いることができる赤外線検知素子、及びその赤外線検知素子を備えたセンサ、並びに赤外線検知素子の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、導電性材料の両端に温度差が生じると、両端の間に起電力が生じる現象が知られている。その起電力の大きさを表す物理量は、ゼーベック係数(α)と呼ばれ、α=ΔV/ΔTと定義されており、そのゼーベック係数が比較的大きな材料は、一般的に熱電材料と呼ばれている。
【0003】
また、ゼーベック係数が比較的大きく異なる2種の材料を相互に2対以上直列に接続したものを、サーモパイルと呼ぶ。サーモパイルの複数ある接点の温度が、順次相対的に高−低−高−低となるような環境下においては、サーモパイル全体として比較的大きな起電力を生じるので、従来より、この起電力を利用したサーモパイル型赤外線検知素子が知られている。
【0004】
前記サーモパイル型赤外線検知素子においては、従来より、熱電材料として、P型及び/又はN型にドープしたSiが一般的に用いられてきた(特許文献1参照)。このSiを熱電材料として用いた場合、一般的な半導体プロセスによって作製することができるが、Siの熱電特性はあまり高くないという問題がある。
【0005】
また、代表的な熱電材料として、古くからBiTeが知られているが、近年では、BiTeを上回る特性の量子井戸型熱電材料が報告されている(特許文献2参照)。この特許文献2には、ゼーベック係数の高いSi−Ge系薄膜材料を、熱的に絶縁させた自立薄膜部材上に形成したという内容の記載がある。
【0006】
更に、ノンドープのチタン酸ストロンチウムとNbドープのチタン酸ストロンチウムを交互に積層したもので、高いゼーベック係数を持つ熱電材料が報告されている(特許文献3参照)。つまり、特許文献3には、チタン酸ストロンチウム(SrTiO3)系のエピタキシャル薄膜量子井戸熱電材料を利用した熱電対を、チタン酸ストロンチウム基板上に形成した赤外線センサが記載されており、この赤外線センサでは、膜の面方向の温度差を測定するように構成されている。
【特許文献1】特表2007−501404号公報
【特許文献2】特開2003−282961号公報
【特許文献3】WO2007−132782号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところが、前記特許文献1に記載の赤外線検知素子では、熱電材料として多結晶Siを用いているが、その熱電特性は、そのドーパント種や量、結晶性などにもよるが、ゼーベック係数や導電率はBiTeなどに比べて劣り、これを用いた赤外線検知素子の感度向上には限界があった。
【0008】
また、前記特許文献2に記載の赤外線検知素子は、高い特性を有しているが、組織制御や再現性の保証が難しいという問題がある。
更に、前記特許文献3には、熱電薄膜として、非常に特性の高いチタン酸ストロンチウム系酸化物が使用されているが、基板がチタン酸ストロンチウムであるため、熱絶縁構造を形成することが難しく、結果として高感度の素子を得ることが難しいという問題があった。
【0009】
本発明は、上記問題点を解決するためになされたものであり、高い感度を有する赤外線検知素子を容易に実現できる赤外線検知素子、及びその赤外線検知素子を備えたセンサ、並びに赤外線検知素子の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
(1)上記目的を達成するためになされた請求項1記載の発明は、板状の支持体の一方の側に複数の熱電素子が配置され、他方の側に切欠部が形成された赤外線検知素子において、前記切欠部の周囲を構成する主としてSi基板からなるSi基板部と、前記Si基板部より薄膜で前記切欠部を覆う熱絶縁薄膜部と、を備えるとともに、前記Si基板部及び前記熱絶縁薄膜部には、電気絶縁性を有する中間酸化膜を備え、該中間酸化膜上には、前記熱絶縁薄膜部と前記Si基板部とに跨るように、エピタキシャルSi層を介して前記複数の熱電素子が配置されるとともに、前記複数の熱電素子を直列に電気接続する配線部が配置され、且つ、前記熱電素子は、前記エピタキシャルSi層上に形成されたエピタキシャルチタン酸ストロンチウムを含む熱電薄膜からなることを特徴とする。
【0011】
本発明では、高いゼーベック係数と導電率を有するエピタキシャル(ヘテロエピタキシャル)成長させたチタン酸ストロンチウムを含む熱電材料を用いた熱電素子を備えており、しかも、この熱電素子は(厚みの薄い)熱絶縁薄膜部と(厚みのある)Si基板部に跨るように、中間酸化膜上にエピタキシャルSi層を介して形成されているので、赤外線検知素子の高感度化を容易に実現することができる。
【0012】
つまり、熱電素子として、エピタキシャルSi層上にてエピタキシャル成長させたチタン酸ストロンチウム系薄膜を用いて高い性能を確保するとともに、その熱電素子を熱絶縁薄膜部とSi基板部に跨るように形成して、Si基板部による熱引きを抑制して温度差の低下を最小限に抑えることにより、赤外線検知素子の高感度化を容易に実現することができる。
【0013】
また、本発明の赤外線検知素子を製造する場合には、熱電素子を形成する際に組織制御が容易で再現性が確実であり、この点からも、赤外線検知素子の高感度化を容易に実現することができる。
【0014】
なお、ここで中間酸化膜とは、電気絶縁性を有する酸化膜、例えばSi、Al、Mg等の金属酸化膜であり、例えばSOI(Silicon On Insulator)基板のエピタキシャルSi層とSi基板との間に配置される中間酸化膜が挙げられる。
【0015】
(2)請求項2の発明は、前記熱電素子と前記配線部とを含む検出部(サーモパイル)の端部に形成された電極パッドと、前記電極パッドの少なくとも一部を露出させるように形成された絶縁保護膜と、前記熱絶縁薄膜部上に形成された赤外線吸収層と、を備えたことを特徴とする。
【0016】
本発明は、赤外線検知素子の好ましい構成を例示したものである。
(3)請求項3の発明は、前記熱電素子が、チタン酸ストロンチウムを含む量子井戸構造を有することを特徴とする。
【0017】
本発明は、熱電素子の好ましい構成を例示したものである。つまり、この構成によって、更に高い熱電特性を持つ熱電素子を形成できる。
(4)請求項4の発明は、前記量子井戸構造が、ノンドープのチタン酸ストロンチウムと、Nbドープのチタン酸ストロンチウムとの積層構造からなることを特徴とする。
【0018】
本発明は、量子井戸構造の好ましい構成を例示したものである。
(5)請求項5の発明は、前記量子井戸構造が、ノンドープのチタン酸ストロンチウムと、酸化チタン(TiO2)との積層構造からなることを特徴とする。
【0019】
本発明は、量子井戸構造の好ましい構成を例示したものである。
(6)請求項6の発明は、前記熱電素子の材料であるチタン酸ストロンチウムを含む熱電薄膜の平均結晶粒径が、1μm以上であることを特徴とする。
【0020】
この熱電薄膜の平均結晶粒径を1μm以上とすることにより、熱電素子中を移動する電子が通過する結晶粒界を減少させることができる。よって、導電率が向上し、抵抗が低くなるので、ノイズの影響を低減することができる。
【0021】
(7)請求項7の発明は、前記エピタキシャルSi層と前記エピタキシャルチタン酸ストロンチウムを含む熱電素子との間に、バッファ層を備えたことを特徴とする。
このバッファ層を設けることにより、エピタキシャルSi層の上にチタン酸ストロンチウムを含む熱電材料をエピタキシャル(ヘテロエピタキシャル)成長させることが容易になる。
【0022】
エピタキシャル成長を実現するためには、少なくとも基板表面は、配向した結晶面(エピタキシャル面)であり、成長させる材料と基板表面の格子整合性が高いことが必要であるとされている。本発明で用いるチタン酸ストロンチウムは、Si上にてヘテロエピタキシャル成長することが知られており、特にバッファ層を介することにより、好適にヘテロエピタキシャル成長させることができる。
【0023】
なお、前記バッファ層とは、Siよりもチタン酸ストロンチウムのエピタキシャル成長を促進する材料(格子整合性が高く化学的相性の良い材料)からなり、例えばY23、YSZ、CeO2等を採用できる。
【0024】
(8)請求項8の発明は、前記中間酸化膜を備えるとともに、該中間酸化膜の厚みが、0.1μm以上、2μm以下であることを特徴とする。
本発明では、中間酸化膜の厚みを0.1μm以上とすることで、熱絶縁薄膜部の強度を保つことができる。また、中間酸化膜の厚みを2μm以下とすることで、熱引きを抑制して、熱絶縁薄膜部とSi基板部との温度差の減少を最小限に抑えることができる。
【0025】
(9)請求項9の発明は、前記エピタキシャルSi層の厚みが、0.1μm以上、1μm以下であることを特徴とする。
本発明では、エピタキシャルSi層の厚みを0.1μm以上とすることで、チタン酸ストロンチウムを含む熱電材料のエピタキシャル成長に必要な下地を安定して確保することができる。また、エピタキシャルSi層の厚みを1μm以下とすることで、熱引きを抑制して、熱絶縁薄膜部とSi基板部との温度差の減少を最小限に抑えることができる。
【0026】
(10)請求項10の発明は、前記請求項1〜9のいずれかに記載の赤外線検知素子を備えたことを特徴とするセンサである。
このセンサを用いることにより、高い精度で温度等を測定することができる。なお、センサとしては、温度センサ、光センサ、ガスセンサなどが挙げられる。
【0027】
(11)請求項11の発明は、Si基板上に電気絶縁性を有する中間酸化膜を備えるとともに該中間酸化膜上にエピタキシャルSi層を備えたSOI基板を使用して、該SOI基板のSi基板側に切欠部を有する赤外線検知素子を製造する方法であって、前記SOI基板のエピタキシャルSi層を、前記切欠部に対応する位置に一部がかかるように所定の形状にパターニングして、複数の独立したエピタキシャルSi層パターン部を形成する第1工程と、前記SOI基板の全面に、絶縁膜(例えばSiO2絶縁膜、Si34絶縁膜)を形成する第2工程と、前記エピタキシャルSi層パターン部上の前記絶縁膜を除去して、前記エピタキシャルSi層パターン部を露出させる第3工程と、前記エピタキシャルSi層パターン部のSi表面上に、チタン酸ストロンチウムを含む熱電材料をエピタキシャル(ヘテロエピタキシャル)成長させて熱電薄膜を形成する第4工程と、前記熱電薄膜を、所定の形状にパターニングして、複数の熱電素子を形成する第5工程と、前記複数の熱電素子を直列に電気接続する配線部を形成して検知部を作製する第6工程と、前記検知部を含む基板表面を絶縁保護層で覆う第7工程と、前記絶縁保護層をエッチングして前記検知部の一部を露出させて、電極パッドを形成する第8工程と、前記SOI基板のSi基板をエッチングして切欠部を形成することにより、前記Si基板より薄膜の熱絶縁薄膜部を作成する第9工程と、を有することを特徴とする。
【0028】
本発明では、上述した製造方法により、例えば前記請求項1〜9のいずれかに記載の赤外線検知素子を容易に製造することができる。つまり、上述した工程により、高いゼーベック係数と導電率を有するエピタキシャルなチタン酸ストロンチウムを含む熱電材料を用いた熱電素子を形成できるとともに、この熱電素子を熱絶縁薄膜部とSi基板部に跨るように形成することにより、高感度の赤外線検知素子を容易に実現することができる。
【0029】
(12)請求項12の発明は、前記第9工程の前又は後に、前記絶縁保護層上の熱絶縁薄膜部に対応する部位に、赤外線吸収層を形成することを特徴とする。
この赤外線吸収層を設けることにより、熱電素子両端の温度差を大きくすることができ、精度の高い測定が可能となる。
【0030】
(13)請求項13の発明は、前記エピタキシャルSi層パターン部のSi表面上に、チタン酸ストロンチウムを含む熱電材料をエピタキシャル(ヘテロエピタキシャル)成長させる際には、前記Si表面上にバッファ層を形成し、該バッファ層上にて前記チタン酸ストロンチウムを含む熱電材料をエピタキシャル成長させることを特徴とする。
【0031】
上述の様に、バッファ層を設けることにより、エピタキシャルSi層の上にチタン酸ストロンチウムを含む熱電材料をエピタキシャル成長させることが容易になる。
(14)請求項14の発明は、前記チタン酸ストロンチウムを含む熱電材料をエピタキシャル(ヘテロエピタキシャル)成長させた後に、400℃以上に加熱する熱処理を行うことを特徴とする。
【0032】
本発明では、上述した熱処理を行うことにより、結晶粒の成長を促進させ、結晶粒径を大きくできる。よって、熱電素子中を移動する電子が通過する結晶粒界を減少させることができるので、導電率を向上でき、抵抗を低できるので、ノイズの影響を低減することができる。
【0033】
この熱処理の条件としては、温度:400〜1000℃、時間:10分以上、雰囲気:大気等の酸化性雰囲気、N2、Ar等の不活性雰囲気を採用できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0034】
以下に本発明の実施形態を図面とともに説明する。
[第1実施形態]
a)まず、本実施形態の赤外線検知素子の構成を、図1、図2に基づいて説明する。
【0035】
なお、図1(a)は赤外線検知素子の平面を示し(但し赤外線吸収層は除く)、図1(b)はそのA−A’断面を示し、図2は熱電素子等を示している。
図1に示すように、本実施形態の赤外線検知素子1は、赤外線を検知する板状の素子であり、ベースとなる板状の支持体(基板)2の中央部分の一方の側(図1(b)の下方)が切り欠かれたダイヤフラム構造を有している。ここでは、赤外線検知素子1の中央の切欠部(ダイヤフラム部分)3を覆う薄膜部分を熱絶縁薄膜部5と称し、切欠部3の周囲の枠状の厚みのある部分をSi基板部7と称する。
【0036】
前記赤外線検知素子1には、Si基板部7と熱絶縁薄膜部5とに亘って全面に広がるように、SiO2からなる中間酸化膜8が形成されており、この中間酸化膜8上において、Si基板部7と熱絶縁薄膜部5とに跨るように、複数の熱電素子9が形成されている。
【0037】
また、各熱電素子9は、複数の配線部11によって、「配線部11−熱電素子9−配線部11−熱電素子9」のように、交互に直列に接続されている。なお、熱電素子9の両端には、配線部11との接点(温接点、冷接点)10が形成され、熱電素子9と配線部11とから検知部(サーモパイル)13が構成されている。
【0038】
前記熱電素子9は、N型の熱電素子であり、図2に拡大して示す様に、エピタキシャルSi層(即ちヘテロエピタキシャル成長したSiエピ層)15の上に、YSZ薄膜及びCeO2薄膜(図示せず)からなるバッファ層17を介して、熱電材料であるチタン酸ストロンチウム系の熱電薄膜(即ちヘテロエピタキシャル成長した熱電薄膜)19が積層されたものである。
【0039】
図1(b)に戻り、前記赤外線検知素子1は、基板2の主体としてSi基板(支持基板)21を備えており、その一方の表面側(表側:図1(b)の上方)に、前記中間酸化膜8、SiO2絶縁膜25、Si34絶縁膜27、SiO2からなる絶縁保護膜29が順次積層されている。なお、検知部13の両端部には、電極パッド31が露出し、熱絶縁薄膜部5の上には、赤外線を吸収する赤外線吸収層33が形成されている。
【0040】
また、赤外線検知素子1の他方の表面側(裏側:図1(b)の下方)には、SiO2絶縁膜35、Si34絶縁膜37が順次積層されている。
b)次に、本実施形態の赤外線検知素子1の製造方法を、図3〜図6に基づいて説明する。
【0041】
本実施形態では、図3(a)に示す様に、製造時のベースとなる基板として、SOI基板41を用いる。このSOI基板41は、全体の厚みが400μmであり、厚み約400μmのSi基板21と、Si基板21の表面に形成された厚み0.2μmの中間酸化膜8と、中間酸化膜8の表面に形成された厚み0.3μmのSiエピ層15とからなる。
【0042】
(1)まず、図3(b)に示す様に、SOI基板41の表面側(同図上方)のSiエピ層15を、エッチングによって所定の形状にパターニングし、Siエピ層パターン部43を形成する。この所定形状とは、以下の工程で、熱電素子9となるチタン酸ストロンチウムが形成される形状である。Siエピ層15のエッチング方法としては、RIE(反応性イオンエッチング)やTMAH(水酸化テトラメチルアンモニウム)など、種々の方法を用いることができる。ここでは、RIEを用いてSiエピ層15をエッチングした。
【0043】
(2)次に、図3(c)に示す様に、SOI基板41の表裏の全面に、SiO2絶縁膜25、35及びSi34絶縁膜27、37を順次形成する。ここでは、熱酸化により膜厚0.1μmのSiO2絶縁膜25、35を形成し、LP−CVD(減圧化学気相成長法)により、膜厚0.2μmのSi34絶縁膜27、37を形成した。なお、表側のSiO2絶縁膜25は、Siエピ層15上では成長するが、中間酸化膜8上では中間酸化膜8の膜厚を若干増す形で成長する。
【0044】
(3)次に、図3(d)に示す様に、前工程でパターニングしたSiエピ層パターン部43の表面に形成されたSiO2絶縁膜25及びSi34絶縁膜27をエッチングし、Siエピ層パターン部43を露出させる。ここでは、RIE及びフッ酸を用いてエッチングを行った。
【0045】
(4)次に、図3(e)に示す様に、前工程で露出したSiエピ層パターン部43のSi表面上に、チタン酸ストロンチウムを含む熱電材料により、熱電薄膜19を形成する。
ここでは、PLD(パルスレーザデポジション)を用いて、Si(100)上にバッファ層17としてYSZ、CeO2を順次形成した後、チタン酸ストロンチウム系熱電材料をエピタキシャル成長(即ちヘテロエピタキシャル成長)させた。
【0046】
このチタン酸ストロンチウム系熱電材料は、図6に示す様に、バリア層45としてノンドープのチタン酸ストロンチウムと、井戸層47としてNbをドープしたチタン酸ストロンチウムとを、それぞれ10nm、1nmの厚みで、交互に繰り返し20層づつ形成したものである。なお、PLDによって全面に成膜されるが、そのうちのSiエピ層パターン部43上に成膜される部位のみ、ヘテロエピタキシャル膜になる。
【0047】
なお、熱電薄膜19の形成後に、熱電薄膜19の結晶粒径を大きくするために、例えばN2雰囲気中で、700℃にて0.5時間加熱する熱処理を行ってもよい。
(5)次に、図4(a)に示す様に、熱電薄膜19を所定の形状にパターニングする。即ち、後の工程で形成されるダイヤフラム構造の熱絶縁薄膜部5とSi基板部7に、複数の熱電素子9が跨るようにパターニングし、熱電素子9を形成する。ここでは、熱電薄膜9のパターニングは、フッ酸を用いたエッチングにより行った。
【0048】
(6)次に、図4(b)に示す様に、基板の表側の全面に、(配線部11となる)導電性を有する電極層49を形成した。ここでは、スパッタリング装置を用いて、Al電極層を0.5μmの厚みで設けた。
【0049】
(7)次に、図4(c)に示す様に、電極層49を所定の形状にパターニングし、前工程で形成された複数の熱電素子9を直列に接続する配線部11を形成する。それとともに、直列に接続された複数の熱電素子9及び配線部11からなる検知部(サーモパイル)13の両端に、出力取り出し用の電極パッド31を形成する。ここでは、リン酸、酢酸、硝酸の混合液を用いて、エッチングによりパターニングを行った。なお、熱電素子9と配線部11とは、熱電素子9の両端の接点10(温接点と冷接点)により電気的に接続される。
【0050】
(8)次に、図4(d)に示す様に、基板の表側の全面に、(絶縁保護膜29となる)電極絶縁性の絶縁層51を形成する。ここでは、プラズマCVDにより、絶縁層51としてSiO2を0.5μmの厚さで設けた。
【0051】
(9)次に、図5(a)に示す様に、絶縁層51をエッチングし、電極パッド31の中央部の表面を露出させた絶縁保護膜29を形成する。ここでは、RIEを用いて、絶縁層51のエッチングを行った。
【0052】
(10)次に、図5(b)に示す様に、裏面(同図下方)のSiO2絶縁膜35及びSi34絶縁膜37をエッチングし、次の工程でダイヤフラム構造とするために、Si基板21のSi表面を所定形状で露出させた裏面絶縁膜開口部53を設ける。ここでは、Si34絶縁膜37はRIEを用いて、SiO2絶縁膜35はフッ酸を用いて、それぞれエッチングした。
【0053】
(11)次に、図5(c)に示す様に、Si基板21のSiをエッチングして(熱絶縁薄膜部5に対応する)切欠部3を設け、ダイヤフラム構造を形成した。このエッチングは、中間酸化膜8の裏面側が露出する程度まで行った。ここでは、TMAHを用いて、Siのエッチングを行った。なお、エッチングの際には、熱電素子9、配線部11、電極パッド43をTMAHから保護するために、基板の表面側を樹脂により被覆した(図示せず)。
【0054】
(12)次に、図5(d)に示す様に、基板の表側の(熱絶縁薄膜部5に対応する)中央部分に赤外線吸収層33を設ける。ここでは、筆塗りにより、カーボンペーストをダイヤフラムの熱絶縁薄膜部5領域内に塗布した。
【0055】
以上の工程により、ダイヤフラムの熱絶縁薄膜部5とSi基板部7に跨るように、ヘテロエピタキシャル成長させたチタン酸ストロンチウムを含む熱電素子9を形成した赤外線検知素子1が作製できる。
【0056】
c)次に、本実施形態の赤外線検知素子1の使用例を、図7に基づいて説明する。
図7に示す様に、赤外線検知素子1に赤外線が照射された場合、赤外線を吸収した赤外線吸収層33が温度上昇(又は赤外線の到達が妨げられることにより温度が低下)すると、熱的に分離されたダイヤフラムに対応する熱絶縁薄膜部5の温度は、Si基板部7に比べて大きく変化し、それに伴い熱電素子9の起電力が変化し、複数直列に配置された熱電素子9の各起電力の和が、(両電極パッド31を介して)出力として検出される。
【0057】
なお、上述した赤外線検知素子1は、例えば図8に示すような温度を検知する温度センサ55の内部に使用される。この温度センサ55により、測定対象の温度を、測定対象から発生する赤外線によって検出することができる。
【0058】
d)この様に、本実施形態の赤外線検知素子1では、従来の赤外線検知素子で用いられていたポリシリコンではなく、高いゼーベック係数と導電率を有するエピタキシャルなチタン酸ストロンチウムを含む熱電材料を用い、これをダイヤフラム構造の熱絶縁薄膜部5とSi基板部7に跨るように形成することにより、赤外線検知素子1の高感度化を容易に実現することができる。
【0059】
なお、ダイヤフラム構造の赤外線検知素子1の場合には、熱絶縁薄膜部5の熱容量が、Si基板部7に比べて数百分の1と小さいため、入射する赤外線による温度変化が大きく、また、複数の熱電素子9を直列に接続することにより、大きな起電力が得られ、結果として、微少な入射エネルギーの変化を高感度に測定できる。
【0060】
・また、本実施形態では、熱電素子9が、チタン酸ストロンチウムを含む量子井戸構造を有するので、高い熱電特性を有している。
・本実施形態では、熱電素子9をFIB(集束イオンビーム)加工後、TEMで測定したところ、その平均結晶粒径が、1μm以上であった。従って、熱電素子9中を移動する電子が通過する結晶粒界を減少させることができるので、導電率を向上させ、抵抗が低くノイズの影響を低減することができる。
【0061】
・本実施形態では、中間酸化膜8の厚みが、0.1μm以上、2μm以下であるので、熱絶縁薄膜部5の強度を保つことができるとともに、熱引きを抑制して、熱絶縁薄膜部5とSi基板部7との温度差の減少を最小限に抑えることができる。
【0062】
・本実施形態では、エピタキシャルSi層15の厚みが、0.1μm以上、1μm以下であるので、チタン酸ストロンチウムを含む熱電材料のエピタキシャル成長に必要な下地を安定して確保することができるとともに、熱引きを抑制して、熱絶縁薄膜部5とSi基板部7との温度差の減少を最小限に抑えることができる。
[第2実施形態]
次に第2実施形態について説明するが、前記第1実施形態と同様な内容の説明は簡略化する。
【0063】
本実施形態の赤外線検知素子は、第1実施形態の赤外線検知素子とは、検知部の構成が異なっている。
図9に示す様に、本実施形態の赤外線検知素子61は、前記第1実施形態と同様にダイヤフラム構造を有しており、熱電素子63は、(薄肉の)熱絶縁薄膜部65と(熱絶縁薄膜部65より厚みのある)Si基板部67とに跨るように配置されている。なお、電極パッド69、赤外線吸収層71等も同様に備えている。
【0064】
特に本実施形態では、熱電素子63の両端の接点68間の温度差を大きく、且つ、接点数を増やすために、熱電素子63と配線部73とが放射状に形成され、熱絶縁薄膜部65上において、(中心側の)接点68は、熱絶縁薄膜部65の中心に比較的に近い領域に配置されている。
【0065】
また、熱電素子63と配線部73との抵抗率の違いを考慮して、即ちチタン酸ストロンチウム等からなる熱電素子63は、例えばAlからなる配線部73より抵抗率が大きいので、熱電素子63の線幅は配線部73の線幅より大きく設定されている。
【0066】
上述した構成により、抵抗値の増大を最小限に抑えることができ、また、熱電素子63の本数を増やすことができるので、高い感度を実現することができる。
以上、本発明の実施の形態について説明したが、本発明は、上記実施形態に何ら限定されることはなく、本発明の技術的範囲に属する限り種々の形態をとり得ることはいうまでもない。
【0067】
(1)例えば、SOI基板の各層の厚みは、熱引きが問題にならない限り、自由に設計できる。
(2)また、チタン酸ストロンチウムを用いた熱電材料は、ドーパンとして、Nbの他、Taなども使用できる。
【0068】
(3)赤外線吸収層は、金ブラックを用いることもできるし、赤外線吸収層の上に、反射防止膜を設け、赤外線の吸収率を向上させてもよい。
(4)赤外線吸収層を形成する順番は、製造プロセス上問題がなければ、ダイヤフラム形成前に行ってもよい。
【0069】
(5)量子井戸構造として、ノンドープのチタン酸ストロンチウムと、TiO2との積層構造を採用できる。
(6)更に、本プロセスに組み込むことができれば、P型、N型両方の熱電素子を用いた構造も可能である。具体的には、図10に示す様に、P型−N型−P型−N型のように直列に接続できる。このときには、例えばN型(又はP型)の熱電素子が配線部の機能を有するので、配線部は省略可能である。なお、検出部の両端は、第1実施形態と同様なAl等からなる配線部としてもよい。この場合、P型の熱電素子としては、例えばSi/SiGe量子井戸膜や、p-Si薄膜を使用でき、N型の熱電素子としては、例えばNbドープチタン酸ストロンチウムを使用できる。P型N型両方の熱電素子がエピタキシャル膜である必要は必ずしもなく、例えばP型熱電薄膜として、ボロンドープのSi多結晶などを用いてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0070】
【図1】(a)は第1実施形態の赤外線検知素子を示す平面図であり、(b)は図1(a)のA−A’断面図である。
【図2】熱電素子を拡大して示す断面図である。
【図3】第1実施形態の赤外線検知素子の製造工程を示す説明図である。
【図4】第1実施形態の赤外線検知素子の製造工程を示す説明図である。
【図5】第1実施形態の赤外線検知素子の製造工程を示す説明図である。
【図6】熱電薄膜の構成を示す断面図である。
【図7】第1実施形態の赤外線検知素子の動作を示す説明図である。
【図8】赤外線検知素子が用いられる温度センサを示す説明図である。
【図9】第2実施形態の赤外線検知素子を示す平面図である。
【図10】他の実施形態の赤外線検知素子を示す平面図である。
【符号の説明】
【0071】
1、61…赤外線検知素子
2…基板
3…切欠部
5、65…熱絶縁薄膜部
7、67…Si基板部
8…中間酸化膜
9、63…熱電素子
11、73…配線部
13…検知部
15…エピタキシャルSi層(Siエピ層)
17…バッファ層
19…熱電薄膜
21…Si基板
25、35…SiO2絶縁膜
27、37…Si34絶縁膜
31、63…電極パッド
41…SOI基板

【特許請求の範囲】
【請求項1】
板状の支持体の一方の側に複数の熱電素子が配置され、他方の側に切欠部が形成された赤外線検知素子において、
前記切欠部の周囲を構成する主としてSi基板からなるSi基板部と、前記Si基板部より薄膜で前記切欠部を覆う熱絶縁薄膜部と、を備えるとともに、
前記Si基板部及び前記熱絶縁薄膜部には、電気絶縁性を有する中間酸化膜を備え、
該中間酸化膜上には、前記熱絶縁薄膜部と前記Si基板部とに跨るように、エピタキシャルSi層を介して前記複数の熱電素子が配置されるとともに、前記複数の熱電素子を直列に電気接続する配線部が配置され、
且つ、前記熱電素子は、前記エピタキシャルSi層上に形成されたエピタキシャルチタン酸ストロンチウムを含む熱電薄膜からなることを特徴とする赤外線検知素子。
【請求項2】
前記熱電素子と前記配線部とを含む検出部の端部に形成された電極パッドと、前記電極パッドの少なくとも一部を露出させるように形成された絶縁保護膜と、前記熱絶縁薄膜部上に形成された赤外線吸収層と、を備えたことを特徴とする請求項1に記載の赤外線検知素子。
【請求項3】
前記熱電素子が、チタン酸ストロンチウムを含む量子井戸構造を有することを特徴とする請求項1又は2に記載の赤外線検知素子。
【請求項4】
前記量子井戸構造が、ノンドープのチタン酸ストロンチウムと、Nbドープのチタン酸ストロンチウムとの積層構造からなることを特徴とする請求項3に記載の赤外線検知素子。
【請求項5】
前記量子井戸構造が、ノンドープのチタン酸ストロンチウムと、酸化チタンとの積層構造からなることを特徴とする請求項3に記載の赤外線検知素子。
【請求項6】
前記熱電素子の材料であるチタン酸ストロンチウムを含む熱電薄膜の平均結晶粒径が、1μm以上であることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の赤外線検知素子。
【請求項7】
前記エピタキシャルSi層と前記エピタキシャルチタン酸ストロンチウムを含む熱電素子との間に、バッファ層を備えたことを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載の赤外線検知素子。
【請求項8】
前記中間酸化膜の厚みが、0.1μm以上、2μm以下であることを特徴とする請求項1〜7のいずれかに記載の赤外線検知素子。
【請求項9】
前記エピタキシャルSi層の厚みが、0.1μm以上、1μm以下であることを特徴とする請求項1〜8のいずれかに記載の赤外線検知素子。
【請求項10】
前記請求項1〜9のいずれかに記載の赤外線検知素子を備えたことを特徴とするセンサ。
【請求項11】
Si基板上に電気絶縁性を有する中間酸化膜を備えるとともに該中間酸化膜上にエピタキシャルSi層を備えたSOI基板を使用して、該SOI基板のSi基板側に切欠部を有する赤外線検知素子を製造する方法であって、
前記SOI基板のエピタキシャルSi層を、前記切欠部に対応する位置に一部がかかるように所定の形状にパターニングして、複数の独立したエピタキシャルSi層パターン部を形成する第1工程と、
前記SOI基板の全面に、絶縁膜を形成する第2工程と、
前記エピタキシャルSi層パターン部上の前記絶縁膜を除去して、前記エピタキシャルSi層パターン部を露出させる第3工程と、
前記エピタキシャルSi層パターン部のSi表面上に、チタン酸ストロンチウムを含む熱電材料をエピタキシャル成長させて熱電薄膜を形成する第4工程と、
前記熱電薄膜を、所定の形状にパターニングして、複数の熱電素子を形成する第5工程と、
前記複数の熱電素子を直列に電気接続する配線部を形成して検知部を作製する第6工程と、
前記検知部を含む基板表面を絶縁保護層で覆う第7工程と、
前記絶縁保護層をエッチングして前記検知部の一部を露出させて、電極パッドを形成する第8工程と、
前記SOI基板のSi基板をエッチングして切欠部を形成することにより、前記Si基板より薄膜の熱絶縁薄膜部を作成する第9工程と、
を有することを特徴とする赤外線検知素子の製造方法。
【請求項12】
前記第9工程の前又は後に、前記絶縁保護層上の熱絶縁薄膜部に対応する部位に、赤外線吸収層を形成することを特徴とする請求項11に記載の赤外線検知素子の製造方法。
【請求項13】
前記エピタキシャルSi層パターン部のSi表面上に、チタン酸ストロンチウムを含む熱電材料をエピタキシャル成長させる際には、前記Si表面上にバッファ層を形成し、該バッファ層上にて前記チタン酸ストロンチウムを含む熱電材料をエピタキシャル成長させることを特徴とする請求項11又は12に記載の赤外線検知素子。
【請求項14】
前記チタン酸ストロンチウムを含む熱電材料をエピタキシャル成長させた後に、400℃以上に加熱する熱処理を行うことを特徴とする請求項11〜13のいずれかに記載の赤外線検知素子の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図6】
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【公開番号】特開2010−109073(P2010−109073A)
【公開日】平成22年5月13日(2010.5.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−278385(P2008−278385)
【出願日】平成20年10月29日(2008.10.29)
【出願人】(000004547)日本特殊陶業株式会社 (2,912)
【Fターム(参考)】