赤外線温度センサ
【課題】正確な温度補償を実現できる赤外線温度センサを提供する。
【解決手段】赤外線温度センサ101は、熱源から放射される赤外線の熱量を検知する赤外線検知用感熱素子51と、外部環境からの熱量を検知する温度補償用感熱素子52と、外部環境と赤外線温度センサ101との間で熱の流出入が行われる熱流出入部位30とを備え、熱流出入部位30から赤外線検知用感熱素子51及び温度補償用感熱素子52へのそれぞれの熱伝導が略均等になるように構成されている。
【解決手段】赤外線温度センサ101は、熱源から放射される赤外線の熱量を検知する赤外線検知用感熱素子51と、外部環境からの熱量を検知する温度補償用感熱素子52と、外部環境と赤外線温度センサ101との間で熱の流出入が行われる熱流出入部位30とを備え、熱流出入部位30から赤外線検知用感熱素子51及び温度補償用感熱素子52へのそれぞれの熱伝導が略均等になるように構成されている。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は熱源の温度を非接触測定する赤外線温度センサに関する。
【背景技術】
【0002】
熱源の温度を非接触測定するための温度センサとして、例えば、特開2003−194630号公報に開示されている赤外線温度センサが知られている。赤外線温度センサは、熱源から放射される赤外線を吸収する赤外線吸収膜の温度上昇を赤外線検知用感熱素子によって検知し、放射赤外線の熱量に基づいて熱源の温度を測定する。赤外線検知用感熱素子は、受熱熱量に応じて電気的特性が変化する温度特性を有しており、赤外線吸収膜が吸収した赤外線熱量のみならず外部環境が赤外線検知用感熱素子に与える熱量によってもその電気的特性は変化する。このため、赤外線温度センサは、外部環境と赤外線検知用感熱素子との間で流出入する熱量を検知し、赤外線検知用感熱素子の測定結果を補正するための温度補償用感熱素子を備える。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2003−194630号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
同公報に開示の赤外線温度センサでは、赤外線温度センサを所定の取り付け面に固定するためのネジを螺合するネジ孔を赤外線検知用感熱素子及び温度補償用感熱素子のそれぞれに対して熱伝導的に非対称な位置に設けている。赤外線センサと外部環境との間の熱の流出入は、このネジ孔を介して行われるため、赤外線検知用感熱素子及び温度補償用感熱素子のそれぞれに対して熱伝導的に非対称な位置にネジ孔を形成すると、ネジ孔を起点としてセンサ本体にアンバランスな熱分布が生じてしまい、赤外線検知用感熱素子及び温度補償用感熱素子の温度分布が不均一になる虞がある。このような不均一な温度分布の環境下では、温度補償用感熱素子は、外部環境が赤外線検知用感熱素子に与える熱量を正確に測定することができないため、温度補償の誤差の原因になり得る。
【0005】
また、同公報に開示の赤外線温度センサでは、赤外線検知用感熱素子及び温度補償用感熱素子が同一の空間を共有しているため、発熱した赤外線検知用感熱素子からの放熱を温度補償用感熱素子が受熱する虞があり、正確な温度補償ができない場合がある。
【0006】
そこで、本発明は、上述の問題点に鑑み、正確な温度補償を実現できる赤外線温度センサを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の課題を解決するため、本発明に関わる赤外線温度センサは、熱源の温度を非接触測定する赤外線温度センサであって、熱源から放射される赤外線の熱量を検知する赤外線検知用感熱素子と、外部環境からの熱量を検知する温度補償用感熱素子と、外部環境と赤外線温度センサとの間で熱の流出入が行われる熱流出入部位とを備え、熱流出入部位から赤外線検知用感熱素子及び温度補償用感熱素子へのそれぞれの熱伝導が略均等になるように構成されている。
【0008】
このように、熱流出入部位からの赤外線検知用感熱素子及び温度補償用感熱素子への熱伝導を略均一に設計することで、熱流出入部位からセンサ本体への熱分布が均等になり、赤外線検知用感熱素子及び温度補償用感熱素子が外部環境との間で授受する熱量を均等化することができる。これにより、温度補償用感熱素子が外部環境との間で授受する熱量は、赤外線検知用感熱素子が外部環境との間で授受する熱量と略同一であると看做すことが可能となり、正確な温度補償を実現できる。
【0009】
本発明においては、熱流出入部位が赤外線検知用感熱素子と温度補償用感熱素子との間に位置する構造が好ましい。このような構造は、熱流出入部位が赤外線検知用感熱素子と温度補償用感熱素子とを結ぶ線上に位置する構造のみならず、赤外線検知用感熱素子と温度補償用感熱素子とを結ぶ線上に垂直に熱流出入部位を投影したときの投影点が赤外線検知用感熱素子と温度補償用感熱素子との間に位置する構造を含むものである。
【0010】
熱流出入部位を中心として赤外線検知用感熱素子及び温度補償用感熱素子が点対称に配置されているのが好ましい。このような配置によれば、熱流出入部位から赤外線検知用感熱素子及び温度補償用感熱素子へのそれぞれの熱伝導を略均等にできる。
【0011】
赤外線温度センサは、外部環境と赤外線温度センサとの間で熱の流出入が行われる複数の熱流出入部位を備えてもよい。また、熱流出入部位は、赤外線温度センサを取り付け面に固定するための固定手段であってもよい。この場合、熱流出入部位は、赤外線温度センサと取り付け面との間で熱を流出入する。熱流出入部位は、取り付け面に点接触するための凸部を備えてもよい。センサ本体と取り付け面との接触箇所は、凸部のみに限られるため、センサ本体は、取り付け面の温度分布の影響を受けることがないという利点を有する。
【0012】
赤外線温度センサは、赤外線検知用感熱素子を収容する第一の凹部と、温度補償用感熱素子を収容する第二の凹部と、を更に備え、第一及び第二の凹部は、それぞれ分離された独立の空間を形成してもよい。斯かる構成によれば、放射赤外線の受光により発熱した赤外線検知用感熱素子からの放熱の影響を温度補償用感熱素子が受けないようにすることができる。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、正確な温度補償を実現できる赤外線温度センサを提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】実施例1に係わる赤外線温度センサの構造を示す説明図である。
【図2】実施例1に係わる赤外線吸収膜の説明図である。
【図3】実施例1に係わる赤外線温度センサの取り付け断面構造を示す一部断面図である。
【図4】実施例1に係わる温度検出回路の回路図である。
【図5】実施例1に係わる赤外線吸収膜の説明図である。
【図6】実施例2に係わる赤外線温度センサの構造を示す説明図である。
【図7】実施例2に係わる赤外線温度センサの取り付け断面構造を示す一部断面図である。
【図8】実施例3に係わる赤外線温度センサの構造を示す説明図である。
【図9】実施例4に係わる赤外線温度センサの構造を示す説明図である。
【図10】実施例5に係わる赤外線温度センサの構造を示す説明図である。
【図11】実施例6に係わる赤外線温度センサの構造を示す説明図である。
【図12】実施例7に係わる赤外線温度センサの構造を示す説明図である。
【図13】実施例8に係わる赤外線温度センサの構造を示す説明図である。
【図14】実施例9に係わる赤外線温度センサの構造を示す説明図である。
【図15】実施例10に係わる赤外線温度センサの構造を示す説明図である。
【図16】実施例11に係わる赤外線温度センサの構造を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、各図を参照しながら本発明に係わる実施例について説明する。同一の部材については、同一の符号を付すものとし、重複する説明を省略する。なお、図面は、模式的なものであり、説明の便宜上、厚みと平面寸法との関係、及び部材相互間の厚みの比率は、現実のセンサ構造とは異なる。
【実施例1】
【0016】
図1乃至図5を参照しながら実施例1に係わる赤外線温度センサ101の構造について説明する。図1(A)は本実施例に係わる赤外線温度センサ101の上面図、図1(B)は図1(A)のA−A線断面図、図1(C)は赤外線温度センサ101の底面図、図2は赤外線吸収膜41,42の説明図、図3は赤外線温度センサ101の取り付け断面構造を示す一部断面図、図4は温度検出回路70の回路図、図5は赤外線吸収膜43の説明図である。
【0017】
図1に示すように、赤外線温度センサ101のセンサ本体20には、二つの有底凹部21,22が形成されている。有底凹部21には、熱源が存在する外部環境に露出する開口部21aと、放射赤外線を吸収して発熱する赤外線吸収膜41と、熱源からの放射赤外線を赤外線吸収膜41に導光する導光部21bとが形成されている。赤外線吸収膜41の表面は、外部環境に露出し、その裏面には、放射赤外線の熱量を検知する赤外線検知用感熱素子51が固着されている。赤外線検知用感熱素子51は、赤外線吸収膜41の裏面と有底凹部21の底面との間の空間21cに存在する。有底凹部22には、熱源が存在する外部環境に露出する開口部22aと、赤外線吸収膜42と、熱源からの放射赤外線から赤外線吸収膜42を遮光する遮光板23とが形成されている。赤外線吸収膜42の表面は、遮光板23に対面しており、外部環境に露出していない。赤外線吸収膜42の裏面には、外部環境からセンサ本体20の伝熱経路を介して授受される熱量を検知する温度補償用感熱素子52が固着されている。温度補償用感熱素子52は、赤外線吸収膜42の裏面と有底凹部22の底面との間の空間22cに存在する。
【0018】
図2に示すように、赤外線吸収膜41の裏面には、赤外線検知用感熱素子51と温度検出回路70とを結線するためのリードパターン61及び接続端子85が形成されている。同様に、赤外線吸収膜42の裏面には、温度補償用感熱素子52と温度検出回路70とを結線するためのリードパターン62及び接続端子85が形成されている。なお、赤外線吸収膜41,42の材質は、熱源からの放射赤外線を吸収して発熱する材質であればよく、特に限定されるものではいが、遠赤外線と称される4μmから10μmの波長の光に吸収スペクトラムを有する材質が望ましく、例えば、フッ素、シリコーン、ポリエステル、ポリイミド、ポリエチレン、ポリカーボネート、PPS(ポリフェニレンスルフィド)等の高分子材料からなる樹脂が好ましい。また、赤外線検知用感熱素子51及び温度補償用感熱素子52は、受熱熱量に応じて電気的特性が変化する電子素子であればよく、特に限定されるものではないが、例えば、抵抗温度特性を有するサーミスタ、サーモパイル、金属測温度体などが好適である。また、センサ本体20の材質としては、熱伝導率が高く且つ熱容量の大きい材質が好ましく、例えば、アルミニウムが好適である。
【0019】
図3に示すように、二つの有底凹部21,22の間には、センサ本体20を取り付け面90に固定するためのネジ100を螺合するネジ孔30がセンサ本体20の上面から底面に貫通しており、このネジ孔30は、センサ本体20を取り付け面90に固定するための固定手段として機能する。外部環境とセンサ本体20との間では、ネジ孔30を通じてのみ熱の流出入が行われるため、ネジ孔30は、熱流出入部位としても機能し、ネジ孔30以外の部位を通じての熱の流出入は行われない。このため、ネジ孔30は、センサ本体20の温度分布の基準点(以下、熱的基準点と称する。)として機能する。
【0020】
赤外線温度センサ101は、熱基準点からの赤外線検知用感熱素子51及び温度補償用感熱素子52への熱伝導が略均一になるように各部の形状及び材質等が設計されている。具体的には、熱的基準点を中心に二つの有底凹部21,22の位置、形状、及びサイズは、何れも熱伝導的に対称(例えば、幾何学的に点対称)となるように設計されている。また、熱的基準点を中心に赤外線検知用感熱素子51及び温度補償用感熱素子52の取り付け位置が熱伝導的に対称(例えば、幾何学的に点対称)となるように設計されている。また、熱的基準点を中心に赤外線吸収膜41,42の位置、形状、及びサイズは、何れも熱伝導的に対称(例えば、幾何学的に点対称)となるように設計されている。また、熱的基準点を中心にリードパターン61,62の位置、及び形状は、何れも熱伝導的に対称(例えば、幾何学的に点対称)となるように設計されている。また、赤外線吸収膜41,42の材質は同一材質に選定されている。また、赤外線検知用感熱素子51及び温度補償用感熱素子52の温度特性(例えば、抵抗温度特性)は、同一であることが好ましい。なお、「熱伝導的に対称」とは、幾何学的な対称性を意図するものではなく、熱基準点からの熱抵抗を加味した伝熱経路の対称性を意味する。
【0021】
このように、熱基準点からの赤外線検知用感熱素子51及び温度補償用感熱素子52への熱伝導を略均一に設計することで、熱基準点からセンサ本体20への熱分布が均等になり、赤外線検知用感熱素子51及び温度補償用感熱素子52が外部環境との間で授受する熱量を均等化することができる。これにより、温度補償用感熱素子52が外部環境との間で授受する熱量は、赤外線検知用感熱素子51が外部環境との間で授受する熱量と略同一であると看做すことが可能となり、正確な温度補償を実現できる。
【0022】
なお、センサ本体20の底面全体が取り付け面90に密着したとしても、センサ本体20の底面の熱抵抗よりもネジ100の熱抵抗の方が相対的に小さいため、外部環境と赤外線温度センサ101との間の熱の流出入は、ネジ孔30を通じて行われる点に留意されたい。
【0023】
図4に示すように、温度検出回路70は、ブリッジ回路73及びメモリ回路79を主要構成として備える。ブリッジ回路73は、抵抗71と赤外線検知用感熱素子51とが直列接続されてなる第一のハーフブリッジ回路と、抵抗72と温度補償用感熱素子52とが直列接続されてなる第二のハーフブリッジ回路とを備え、第一及び第二のハーフブリッジ回路が並列接続されてなる回路構成を有する。抵抗71,72の接続点は、電源74に接続される一方、赤外線検知用感熱素子51及び温度補償用感熱素子52の接続点は、グランドに接続される。温度変化に伴う赤外線検知用感熱素子51及び温度補償用感熱素子52のそれぞれの電気抵抗の変化は、それぞれの出力電圧の変化として現れる。差動アンプ81は、赤外線検知用感熱素子51の出力電圧と温度補償用感熱素子52の出力電圧とを差動増幅する。差動アンプ81の差動出力信号は、A/D変換器76によってデジタルデータ80に変換される。更に、温度補償用感熱素子52の出力電圧は、アンプ77によって増幅され、A/D変換器78によってデジタルデータ81に変換される。メモリ回路79は、デジタルデータ80,81の組み合わせと熱源の温度とを対応させたデータテーブルを格納しており、デジタルデータ80,81の組み合わせに対応する熱源の温度82を出力する。
【0024】
なお、上述の説明では、分離された二つの赤外線吸収膜41,42を用いる例を説明したが、図5に示すように、一枚の赤外線吸収膜43を用いてもよい。これにより、製造コストを下げることができる。
【0025】
本実施例によれば、熱基準点からの赤外線検知用感熱素子51及び温度補償用感熱素子52への熱伝導が略均一に設計されているため、正確な温度補償を実現することができる。また、赤外線検知用感熱素子51及び温度補償用感熱素子52がそれぞれ熱伝導的に分離された独立の空間21c,22cに存在するため、放射赤外線の受光により発熱した赤外線検知用感熱素子51からの放熱の影響を温度補償用感熱素子52が受けないようにすることができる。
【実施例2】
【0026】
次に、図6乃至図7を参照しながら実施例2に関わる赤外線温度センサ102の構造について説明する。図6(A)は本実施例に係わる赤外線温度センサ102の上面図、図6(B)は図6(A)のA−A線断面図、図6(C)は赤外線温度センサ102の底面図、図7は赤外線温度センサ102の取り付け断面構造を示す一部断面図である。
【0027】
赤外線温度センサ102は、センサ本体20の底面に開口するネジ孔30の周辺部が断面凸状に突出する凸部24を備える点で実施例1に関わる赤外線温度センサ101と相違し、その余の点で共通する。センサ本体20と取り付け面90との接触箇所は、凸部24のみに限られるため、センサ本体20は、取り付け面90の温度分布の影響を受けることがない。センサ本体20と外部環境との間の熱の流出入は、凸部24及びネジ孔30を通じて行われるため、凸部24及びネジ孔30は、熱基準点として機能する。センサ本体20の底面に平行な面で凸部24を切断したときの断面形状は、ネジ孔30の開口中心に関して熱伝導的に点対称な形状(例えば、円形)が好ましい。本実施例によれば、熱基準点からの赤外線検知用感熱素子51及び温度補償用感熱素子52への熱伝導をより一層均一に設計することが可能になる。
【実施例3】
【0028】
次に、図8を参照しながら実施例3に関わる赤外線温度センサ103の構造について説明する。図8(A)は本実施例に係わる赤外線温度センサ103の底面図、図8(B)及び図8(C)は赤外線温度センサ103の取り付け断面構造を示す一部断面図である。
【0029】
赤外線温度センサ103は、取り付け面90の凸部91に係合する凹部25を備える点で実施例2に関わる赤外線温度センサ102と相違し、その余の点で共通する。センサ本体20と取り付け面90とを凸部24を介して一点接触させると、ネジ100の軸心回りにセンサ本体20が回転してしまい、安定的な固定を実現できない虞があるが、本実施例のように、凹部25と凸部91とを係合させることで、ネジ100の軸心回りのセンサ本体20の回転を制限できるため、センサ本体20を安定して取り付け面90に固定できる。凹部25も、凸部91を介して取り付け面90との間で熱の授受を行うため、赤外線検知用感熱素子51の中心点と温度補償用感熱素子52の中心点とを結ぶ線分に直交する直線上に凹部25を形成し、熱基準点としての凹部25からの赤外線検知用感熱素子51及び温度補償用感熱素子52への熱伝導を略均一に設計するのが好ましい。
【0030】
なお、図8(C)に示すように、センサ本体20の底面には、取り付け面90の凹部92に係合する凸部26を形成してもよい。凸部26も、凹部92を介して取り付け面90との間で熱の授受を行うため、赤外線検知用感熱素子51の中心点と温度補償用感熱素子52の中心点とを結ぶ線分に直交する直線上に凸部26を形成するのが好ましい。
【実施例4】
【0031】
次に、図9を参照しながら実施例4に関わる赤外線温度センサ104の構造について説明する。図9(A)は本実施例に係わる赤外線温度センサ104の上面図、図9(B)は図9(A)のA−A線断面図、図9(C)は赤外線温度センサ104の底面図である。
【0032】
赤外線温度センサ104は、熱基準点として機能する二つのネジ孔31,32を備える点で実施例1に関わる赤外線温度センサ101と相違し、その余の点で共通する。本実施例では、それぞれのネジ孔31,32からの赤外線検知用感熱素子51及び温度補償用感熱素子52への熱伝導を略均一に設計するのが好ましい。具体的には、二つのネジ孔31,32を通る線分と、赤外線検知用感熱素子51の中心点と温度補償用感熱素子52の中心点とを通る線分とがそれぞれの中点で直交するようにネジ孔31,32を形成するのが好ましい。本実施例によれば、それぞれのネジ孔31,32にネジ100を螺合してセンサ本体20を取り付け面90に固定することにより、安定した固定を実現できる。
【実施例5】
【0033】
次に、図10を参照しながら実施例5に関わる赤外線温度センサ105の構造について説明する。図10(A)は本実施例に係わる赤外線温度センサ105の上面図、図10(B)は図10(A)のA−A線断面図である。
【0034】
赤外線温度センサ105は、取り付け面90とセンサ本体20とを点接触させるための手段として、スペーサ27を備える点で実施例2に関わる赤外線温度センサ102と相違し、その余の点で共通する。スペーサ27は、ネジ100を挿通するための孔を有する部品(例えば、座金等のセンサ本体20とは別体の部品)である。
【実施例6】
【0035】
次に、図11を参照しながら実施例6に関わる赤外線温度センサ106の構造について説明する。図11(A)は本実施例に係わる赤外線温度センサ106の上面図、図11(B)は図11(A)のA−A線断面図である。
【0036】
赤外線温度センサ106は、センサ本体20の上面に開口するネジ孔30の周辺部が断面凸状に突出する凸部24を備える点で実施例1に関わる赤外線温度センサ101と相違し、その余の点で共通する。取り付け面90は、熱源に対向する第一の主面90A及びその裏面である第二の主面90Bを備える。取り付け面90には、熱源からの赤外線を有底凹部21に導光するための開口部94が形成されている。ネジ100をネジ孔30に螺合してセンサ本体20を第二の主面90Bに固定すると、凸部24と第二の主面90Bとが点接触するように構成されている。凸部24は、取り付け面90とセンサ本体20との間で熱の授受が行われる熱基準点として機能する。
【実施例7】
【0037】
次に、図12を参照しながら実施例7に関わる赤外線温度センサ107の構造について説明する。図12(A)は本実施例に係わる赤外線温度センサ107の底面図、図12(B)は赤外線温度センサ107の側面図、図12(C)は赤外線温度センサ107の取り付け断面構造を示す一部断面図である。
【0038】
赤外線度センサ107は、開口方向が相互に直交する二つのネジ孔30,33を備える点で実施例2に係わる赤外線温度センサ102と相違し、その余の点で共通する。センサ本体には、センサ本体20を取り付け面90に固定するためのネジ100を螺合するネジ孔30がセンサ本体20の上面から底面に貫通しており、更に、センサ本体20を取り付け面90に固定するためのネジ100を螺合するネジ孔33がセンサ本体20の右側面から左側面に貫通している。なお、図12(C)は、ネジ孔33にネジ100を螺合することによりセンサ本体20を取り付け面90に固定した状態を示す。本実施例によれば、開口方向が相互に直交する二つのネジ孔30,33のうち何れか一方を用いてセンサ本体20を取り付け面90に固定できるため、柔軟性のある取り付け構造を提供できる。
【実施例8】
【0039】
次に、図13を参照しながら実施例8に関わる赤外線温度センサ108の構造について説明する。図13(A)は本実施例に係わる赤外線温度センサ108の上面図、図13(B)は図13(A)のA−A線断面図である。
【0040】
赤外線温度センサ108は、センサ本体20の底面に開口するネジ孔30の周辺部が断面凹状に陥没する凹部28を備える点で実施例1に関わる赤外線温度センサ101と相違し、その余の点で共通する。取り付け面90には、ネジ100を挿通するための孔を有し、且つ凹部28に係合する凸部95が突出しており、凹部28と凸部95とを係合させた状態でネジ孔30にネジ100を螺合することで、センサ本体20は、取り付け面90に固定される。センサ本体20と外部環境との間の熱の流出入は、凹部28及びネジ孔30を通じて行われるため、凹部28及びネジ孔30は、熱基準点として機能する。センサ本体20の底面に平行な面で凹部28を切断したときの断面形状を多角形とすることにより、ネジ100を用いてセンサ本体20を固定したときに、ネジ100の軸心回りのセンサ本体20の回転を抑制できる。特に、センサ本体20の底面に平行な面で凹部28を切断したときの断面形状を、ネジ孔30の中心点に関して点対称な多角形とすると、熱基準点からの赤外線検知用感熱素子51及び温度補償用感熱素子52への熱伝導を略均一にする上で効果的である。
【実施例9】
【0041】
次に、図14を参照しながら実施例9に関わる赤外線温度センサ109の構造について説明する。図14は、本実施例に係わる赤外線温度センサ109の取り付け断面構造を示す一部断面図である。赤外線温度センサ109は、センサ本体20を取り付け面90に固定するためのネジ100を螺合するためのネジ孔34,35がセンサ本体20を貫通するのではなく、センサ本体20の上面及び底面のそれぞれに断面凹状に陥没している点で実施例6に係わる赤外線温度センサ106と相違し、その余の点で共通する。
【実施例10】
【0042】
次に、図15を参照しながら実施例10に関わる赤外線温度センサ110の構造について説明する。図15は、本実施例に係わる赤外線温度センサ110の取り付け断面構造を示す一部断面図である。赤外線温度センサ110は、センサ本体20にネジ100が予め固定されている点で実施例1に係わる赤外線温度センサ101と相違し、その余の点で共通する。本実施例によれば、取り付け面90に開口するネジ孔96にネジ100を挿通し、ナット120をネジ100に螺合することにより、センサ本体20を取り付け面90に固定することができる。
【実施例11】
【0043】
次に、図16を参照しながら実施例11に関わる赤外線温度センサ111の構造について説明する。図16は、本実施例に係わる赤外線温度センサ111の取り付け断面構造を示す一部断面図である。赤外線温度センサ111は、センサ本体20にクリップ130が予め固定されている点で実施例1に係わる赤外線温度センサ101と相違し、その余の点で共通する。本実施例によれば、取り付け面90に開口する孔97にクリップ130を嵌挿することにより、センサ本体20を取り付け面90に固定することができる。
【産業上の利用可能性】
【0044】
本発明に係わる赤外線温度センサは、熱源の温度を非接触測定する用途に利用することができる。
【符号の説明】
【0045】
100…ネジ
101〜111…赤外線温度センサ
20…センサ本体
21,22…有底凹部
30…ネジ孔
41,42…赤外線吸収膜
51…赤外線検知用感熱素子
52…温度補償用感熱素子
【技術分野】
【0001】
本発明は熱源の温度を非接触測定する赤外線温度センサに関する。
【背景技術】
【0002】
熱源の温度を非接触測定するための温度センサとして、例えば、特開2003−194630号公報に開示されている赤外線温度センサが知られている。赤外線温度センサは、熱源から放射される赤外線を吸収する赤外線吸収膜の温度上昇を赤外線検知用感熱素子によって検知し、放射赤外線の熱量に基づいて熱源の温度を測定する。赤外線検知用感熱素子は、受熱熱量に応じて電気的特性が変化する温度特性を有しており、赤外線吸収膜が吸収した赤外線熱量のみならず外部環境が赤外線検知用感熱素子に与える熱量によってもその電気的特性は変化する。このため、赤外線温度センサは、外部環境と赤外線検知用感熱素子との間で流出入する熱量を検知し、赤外線検知用感熱素子の測定結果を補正するための温度補償用感熱素子を備える。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2003−194630号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
同公報に開示の赤外線温度センサでは、赤外線温度センサを所定の取り付け面に固定するためのネジを螺合するネジ孔を赤外線検知用感熱素子及び温度補償用感熱素子のそれぞれに対して熱伝導的に非対称な位置に設けている。赤外線センサと外部環境との間の熱の流出入は、このネジ孔を介して行われるため、赤外線検知用感熱素子及び温度補償用感熱素子のそれぞれに対して熱伝導的に非対称な位置にネジ孔を形成すると、ネジ孔を起点としてセンサ本体にアンバランスな熱分布が生じてしまい、赤外線検知用感熱素子及び温度補償用感熱素子の温度分布が不均一になる虞がある。このような不均一な温度分布の環境下では、温度補償用感熱素子は、外部環境が赤外線検知用感熱素子に与える熱量を正確に測定することができないため、温度補償の誤差の原因になり得る。
【0005】
また、同公報に開示の赤外線温度センサでは、赤外線検知用感熱素子及び温度補償用感熱素子が同一の空間を共有しているため、発熱した赤外線検知用感熱素子からの放熱を温度補償用感熱素子が受熱する虞があり、正確な温度補償ができない場合がある。
【0006】
そこで、本発明は、上述の問題点に鑑み、正確な温度補償を実現できる赤外線温度センサを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の課題を解決するため、本発明に関わる赤外線温度センサは、熱源の温度を非接触測定する赤外線温度センサであって、熱源から放射される赤外線の熱量を検知する赤外線検知用感熱素子と、外部環境からの熱量を検知する温度補償用感熱素子と、外部環境と赤外線温度センサとの間で熱の流出入が行われる熱流出入部位とを備え、熱流出入部位から赤外線検知用感熱素子及び温度補償用感熱素子へのそれぞれの熱伝導が略均等になるように構成されている。
【0008】
このように、熱流出入部位からの赤外線検知用感熱素子及び温度補償用感熱素子への熱伝導を略均一に設計することで、熱流出入部位からセンサ本体への熱分布が均等になり、赤外線検知用感熱素子及び温度補償用感熱素子が外部環境との間で授受する熱量を均等化することができる。これにより、温度補償用感熱素子が外部環境との間で授受する熱量は、赤外線検知用感熱素子が外部環境との間で授受する熱量と略同一であると看做すことが可能となり、正確な温度補償を実現できる。
【0009】
本発明においては、熱流出入部位が赤外線検知用感熱素子と温度補償用感熱素子との間に位置する構造が好ましい。このような構造は、熱流出入部位が赤外線検知用感熱素子と温度補償用感熱素子とを結ぶ線上に位置する構造のみならず、赤外線検知用感熱素子と温度補償用感熱素子とを結ぶ線上に垂直に熱流出入部位を投影したときの投影点が赤外線検知用感熱素子と温度補償用感熱素子との間に位置する構造を含むものである。
【0010】
熱流出入部位を中心として赤外線検知用感熱素子及び温度補償用感熱素子が点対称に配置されているのが好ましい。このような配置によれば、熱流出入部位から赤外線検知用感熱素子及び温度補償用感熱素子へのそれぞれの熱伝導を略均等にできる。
【0011】
赤外線温度センサは、外部環境と赤外線温度センサとの間で熱の流出入が行われる複数の熱流出入部位を備えてもよい。また、熱流出入部位は、赤外線温度センサを取り付け面に固定するための固定手段であってもよい。この場合、熱流出入部位は、赤外線温度センサと取り付け面との間で熱を流出入する。熱流出入部位は、取り付け面に点接触するための凸部を備えてもよい。センサ本体と取り付け面との接触箇所は、凸部のみに限られるため、センサ本体は、取り付け面の温度分布の影響を受けることがないという利点を有する。
【0012】
赤外線温度センサは、赤外線検知用感熱素子を収容する第一の凹部と、温度補償用感熱素子を収容する第二の凹部と、を更に備え、第一及び第二の凹部は、それぞれ分離された独立の空間を形成してもよい。斯かる構成によれば、放射赤外線の受光により発熱した赤外線検知用感熱素子からの放熱の影響を温度補償用感熱素子が受けないようにすることができる。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、正確な温度補償を実現できる赤外線温度センサを提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】実施例1に係わる赤外線温度センサの構造を示す説明図である。
【図2】実施例1に係わる赤外線吸収膜の説明図である。
【図3】実施例1に係わる赤外線温度センサの取り付け断面構造を示す一部断面図である。
【図4】実施例1に係わる温度検出回路の回路図である。
【図5】実施例1に係わる赤外線吸収膜の説明図である。
【図6】実施例2に係わる赤外線温度センサの構造を示す説明図である。
【図7】実施例2に係わる赤外線温度センサの取り付け断面構造を示す一部断面図である。
【図8】実施例3に係わる赤外線温度センサの構造を示す説明図である。
【図9】実施例4に係わる赤外線温度センサの構造を示す説明図である。
【図10】実施例5に係わる赤外線温度センサの構造を示す説明図である。
【図11】実施例6に係わる赤外線温度センサの構造を示す説明図である。
【図12】実施例7に係わる赤外線温度センサの構造を示す説明図である。
【図13】実施例8に係わる赤外線温度センサの構造を示す説明図である。
【図14】実施例9に係わる赤外線温度センサの構造を示す説明図である。
【図15】実施例10に係わる赤外線温度センサの構造を示す説明図である。
【図16】実施例11に係わる赤外線温度センサの構造を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、各図を参照しながら本発明に係わる実施例について説明する。同一の部材については、同一の符号を付すものとし、重複する説明を省略する。なお、図面は、模式的なものであり、説明の便宜上、厚みと平面寸法との関係、及び部材相互間の厚みの比率は、現実のセンサ構造とは異なる。
【実施例1】
【0016】
図1乃至図5を参照しながら実施例1に係わる赤外線温度センサ101の構造について説明する。図1(A)は本実施例に係わる赤外線温度センサ101の上面図、図1(B)は図1(A)のA−A線断面図、図1(C)は赤外線温度センサ101の底面図、図2は赤外線吸収膜41,42の説明図、図3は赤外線温度センサ101の取り付け断面構造を示す一部断面図、図4は温度検出回路70の回路図、図5は赤外線吸収膜43の説明図である。
【0017】
図1に示すように、赤外線温度センサ101のセンサ本体20には、二つの有底凹部21,22が形成されている。有底凹部21には、熱源が存在する外部環境に露出する開口部21aと、放射赤外線を吸収して発熱する赤外線吸収膜41と、熱源からの放射赤外線を赤外線吸収膜41に導光する導光部21bとが形成されている。赤外線吸収膜41の表面は、外部環境に露出し、その裏面には、放射赤外線の熱量を検知する赤外線検知用感熱素子51が固着されている。赤外線検知用感熱素子51は、赤外線吸収膜41の裏面と有底凹部21の底面との間の空間21cに存在する。有底凹部22には、熱源が存在する外部環境に露出する開口部22aと、赤外線吸収膜42と、熱源からの放射赤外線から赤外線吸収膜42を遮光する遮光板23とが形成されている。赤外線吸収膜42の表面は、遮光板23に対面しており、外部環境に露出していない。赤外線吸収膜42の裏面には、外部環境からセンサ本体20の伝熱経路を介して授受される熱量を検知する温度補償用感熱素子52が固着されている。温度補償用感熱素子52は、赤外線吸収膜42の裏面と有底凹部22の底面との間の空間22cに存在する。
【0018】
図2に示すように、赤外線吸収膜41の裏面には、赤外線検知用感熱素子51と温度検出回路70とを結線するためのリードパターン61及び接続端子85が形成されている。同様に、赤外線吸収膜42の裏面には、温度補償用感熱素子52と温度検出回路70とを結線するためのリードパターン62及び接続端子85が形成されている。なお、赤外線吸収膜41,42の材質は、熱源からの放射赤外線を吸収して発熱する材質であればよく、特に限定されるものではいが、遠赤外線と称される4μmから10μmの波長の光に吸収スペクトラムを有する材質が望ましく、例えば、フッ素、シリコーン、ポリエステル、ポリイミド、ポリエチレン、ポリカーボネート、PPS(ポリフェニレンスルフィド)等の高分子材料からなる樹脂が好ましい。また、赤外線検知用感熱素子51及び温度補償用感熱素子52は、受熱熱量に応じて電気的特性が変化する電子素子であればよく、特に限定されるものではないが、例えば、抵抗温度特性を有するサーミスタ、サーモパイル、金属測温度体などが好適である。また、センサ本体20の材質としては、熱伝導率が高く且つ熱容量の大きい材質が好ましく、例えば、アルミニウムが好適である。
【0019】
図3に示すように、二つの有底凹部21,22の間には、センサ本体20を取り付け面90に固定するためのネジ100を螺合するネジ孔30がセンサ本体20の上面から底面に貫通しており、このネジ孔30は、センサ本体20を取り付け面90に固定するための固定手段として機能する。外部環境とセンサ本体20との間では、ネジ孔30を通じてのみ熱の流出入が行われるため、ネジ孔30は、熱流出入部位としても機能し、ネジ孔30以外の部位を通じての熱の流出入は行われない。このため、ネジ孔30は、センサ本体20の温度分布の基準点(以下、熱的基準点と称する。)として機能する。
【0020】
赤外線温度センサ101は、熱基準点からの赤外線検知用感熱素子51及び温度補償用感熱素子52への熱伝導が略均一になるように各部の形状及び材質等が設計されている。具体的には、熱的基準点を中心に二つの有底凹部21,22の位置、形状、及びサイズは、何れも熱伝導的に対称(例えば、幾何学的に点対称)となるように設計されている。また、熱的基準点を中心に赤外線検知用感熱素子51及び温度補償用感熱素子52の取り付け位置が熱伝導的に対称(例えば、幾何学的に点対称)となるように設計されている。また、熱的基準点を中心に赤外線吸収膜41,42の位置、形状、及びサイズは、何れも熱伝導的に対称(例えば、幾何学的に点対称)となるように設計されている。また、熱的基準点を中心にリードパターン61,62の位置、及び形状は、何れも熱伝導的に対称(例えば、幾何学的に点対称)となるように設計されている。また、赤外線吸収膜41,42の材質は同一材質に選定されている。また、赤外線検知用感熱素子51及び温度補償用感熱素子52の温度特性(例えば、抵抗温度特性)は、同一であることが好ましい。なお、「熱伝導的に対称」とは、幾何学的な対称性を意図するものではなく、熱基準点からの熱抵抗を加味した伝熱経路の対称性を意味する。
【0021】
このように、熱基準点からの赤外線検知用感熱素子51及び温度補償用感熱素子52への熱伝導を略均一に設計することで、熱基準点からセンサ本体20への熱分布が均等になり、赤外線検知用感熱素子51及び温度補償用感熱素子52が外部環境との間で授受する熱量を均等化することができる。これにより、温度補償用感熱素子52が外部環境との間で授受する熱量は、赤外線検知用感熱素子51が外部環境との間で授受する熱量と略同一であると看做すことが可能となり、正確な温度補償を実現できる。
【0022】
なお、センサ本体20の底面全体が取り付け面90に密着したとしても、センサ本体20の底面の熱抵抗よりもネジ100の熱抵抗の方が相対的に小さいため、外部環境と赤外線温度センサ101との間の熱の流出入は、ネジ孔30を通じて行われる点に留意されたい。
【0023】
図4に示すように、温度検出回路70は、ブリッジ回路73及びメモリ回路79を主要構成として備える。ブリッジ回路73は、抵抗71と赤外線検知用感熱素子51とが直列接続されてなる第一のハーフブリッジ回路と、抵抗72と温度補償用感熱素子52とが直列接続されてなる第二のハーフブリッジ回路とを備え、第一及び第二のハーフブリッジ回路が並列接続されてなる回路構成を有する。抵抗71,72の接続点は、電源74に接続される一方、赤外線検知用感熱素子51及び温度補償用感熱素子52の接続点は、グランドに接続される。温度変化に伴う赤外線検知用感熱素子51及び温度補償用感熱素子52のそれぞれの電気抵抗の変化は、それぞれの出力電圧の変化として現れる。差動アンプ81は、赤外線検知用感熱素子51の出力電圧と温度補償用感熱素子52の出力電圧とを差動増幅する。差動アンプ81の差動出力信号は、A/D変換器76によってデジタルデータ80に変換される。更に、温度補償用感熱素子52の出力電圧は、アンプ77によって増幅され、A/D変換器78によってデジタルデータ81に変換される。メモリ回路79は、デジタルデータ80,81の組み合わせと熱源の温度とを対応させたデータテーブルを格納しており、デジタルデータ80,81の組み合わせに対応する熱源の温度82を出力する。
【0024】
なお、上述の説明では、分離された二つの赤外線吸収膜41,42を用いる例を説明したが、図5に示すように、一枚の赤外線吸収膜43を用いてもよい。これにより、製造コストを下げることができる。
【0025】
本実施例によれば、熱基準点からの赤外線検知用感熱素子51及び温度補償用感熱素子52への熱伝導が略均一に設計されているため、正確な温度補償を実現することができる。また、赤外線検知用感熱素子51及び温度補償用感熱素子52がそれぞれ熱伝導的に分離された独立の空間21c,22cに存在するため、放射赤外線の受光により発熱した赤外線検知用感熱素子51からの放熱の影響を温度補償用感熱素子52が受けないようにすることができる。
【実施例2】
【0026】
次に、図6乃至図7を参照しながら実施例2に関わる赤外線温度センサ102の構造について説明する。図6(A)は本実施例に係わる赤外線温度センサ102の上面図、図6(B)は図6(A)のA−A線断面図、図6(C)は赤外線温度センサ102の底面図、図7は赤外線温度センサ102の取り付け断面構造を示す一部断面図である。
【0027】
赤外線温度センサ102は、センサ本体20の底面に開口するネジ孔30の周辺部が断面凸状に突出する凸部24を備える点で実施例1に関わる赤外線温度センサ101と相違し、その余の点で共通する。センサ本体20と取り付け面90との接触箇所は、凸部24のみに限られるため、センサ本体20は、取り付け面90の温度分布の影響を受けることがない。センサ本体20と外部環境との間の熱の流出入は、凸部24及びネジ孔30を通じて行われるため、凸部24及びネジ孔30は、熱基準点として機能する。センサ本体20の底面に平行な面で凸部24を切断したときの断面形状は、ネジ孔30の開口中心に関して熱伝導的に点対称な形状(例えば、円形)が好ましい。本実施例によれば、熱基準点からの赤外線検知用感熱素子51及び温度補償用感熱素子52への熱伝導をより一層均一に設計することが可能になる。
【実施例3】
【0028】
次に、図8を参照しながら実施例3に関わる赤外線温度センサ103の構造について説明する。図8(A)は本実施例に係わる赤外線温度センサ103の底面図、図8(B)及び図8(C)は赤外線温度センサ103の取り付け断面構造を示す一部断面図である。
【0029】
赤外線温度センサ103は、取り付け面90の凸部91に係合する凹部25を備える点で実施例2に関わる赤外線温度センサ102と相違し、その余の点で共通する。センサ本体20と取り付け面90とを凸部24を介して一点接触させると、ネジ100の軸心回りにセンサ本体20が回転してしまい、安定的な固定を実現できない虞があるが、本実施例のように、凹部25と凸部91とを係合させることで、ネジ100の軸心回りのセンサ本体20の回転を制限できるため、センサ本体20を安定して取り付け面90に固定できる。凹部25も、凸部91を介して取り付け面90との間で熱の授受を行うため、赤外線検知用感熱素子51の中心点と温度補償用感熱素子52の中心点とを結ぶ線分に直交する直線上に凹部25を形成し、熱基準点としての凹部25からの赤外線検知用感熱素子51及び温度補償用感熱素子52への熱伝導を略均一に設計するのが好ましい。
【0030】
なお、図8(C)に示すように、センサ本体20の底面には、取り付け面90の凹部92に係合する凸部26を形成してもよい。凸部26も、凹部92を介して取り付け面90との間で熱の授受を行うため、赤外線検知用感熱素子51の中心点と温度補償用感熱素子52の中心点とを結ぶ線分に直交する直線上に凸部26を形成するのが好ましい。
【実施例4】
【0031】
次に、図9を参照しながら実施例4に関わる赤外線温度センサ104の構造について説明する。図9(A)は本実施例に係わる赤外線温度センサ104の上面図、図9(B)は図9(A)のA−A線断面図、図9(C)は赤外線温度センサ104の底面図である。
【0032】
赤外線温度センサ104は、熱基準点として機能する二つのネジ孔31,32を備える点で実施例1に関わる赤外線温度センサ101と相違し、その余の点で共通する。本実施例では、それぞれのネジ孔31,32からの赤外線検知用感熱素子51及び温度補償用感熱素子52への熱伝導を略均一に設計するのが好ましい。具体的には、二つのネジ孔31,32を通る線分と、赤外線検知用感熱素子51の中心点と温度補償用感熱素子52の中心点とを通る線分とがそれぞれの中点で直交するようにネジ孔31,32を形成するのが好ましい。本実施例によれば、それぞれのネジ孔31,32にネジ100を螺合してセンサ本体20を取り付け面90に固定することにより、安定した固定を実現できる。
【実施例5】
【0033】
次に、図10を参照しながら実施例5に関わる赤外線温度センサ105の構造について説明する。図10(A)は本実施例に係わる赤外線温度センサ105の上面図、図10(B)は図10(A)のA−A線断面図である。
【0034】
赤外線温度センサ105は、取り付け面90とセンサ本体20とを点接触させるための手段として、スペーサ27を備える点で実施例2に関わる赤外線温度センサ102と相違し、その余の点で共通する。スペーサ27は、ネジ100を挿通するための孔を有する部品(例えば、座金等のセンサ本体20とは別体の部品)である。
【実施例6】
【0035】
次に、図11を参照しながら実施例6に関わる赤外線温度センサ106の構造について説明する。図11(A)は本実施例に係わる赤外線温度センサ106の上面図、図11(B)は図11(A)のA−A線断面図である。
【0036】
赤外線温度センサ106は、センサ本体20の上面に開口するネジ孔30の周辺部が断面凸状に突出する凸部24を備える点で実施例1に関わる赤外線温度センサ101と相違し、その余の点で共通する。取り付け面90は、熱源に対向する第一の主面90A及びその裏面である第二の主面90Bを備える。取り付け面90には、熱源からの赤外線を有底凹部21に導光するための開口部94が形成されている。ネジ100をネジ孔30に螺合してセンサ本体20を第二の主面90Bに固定すると、凸部24と第二の主面90Bとが点接触するように構成されている。凸部24は、取り付け面90とセンサ本体20との間で熱の授受が行われる熱基準点として機能する。
【実施例7】
【0037】
次に、図12を参照しながら実施例7に関わる赤外線温度センサ107の構造について説明する。図12(A)は本実施例に係わる赤外線温度センサ107の底面図、図12(B)は赤外線温度センサ107の側面図、図12(C)は赤外線温度センサ107の取り付け断面構造を示す一部断面図である。
【0038】
赤外線度センサ107は、開口方向が相互に直交する二つのネジ孔30,33を備える点で実施例2に係わる赤外線温度センサ102と相違し、その余の点で共通する。センサ本体には、センサ本体20を取り付け面90に固定するためのネジ100を螺合するネジ孔30がセンサ本体20の上面から底面に貫通しており、更に、センサ本体20を取り付け面90に固定するためのネジ100を螺合するネジ孔33がセンサ本体20の右側面から左側面に貫通している。なお、図12(C)は、ネジ孔33にネジ100を螺合することによりセンサ本体20を取り付け面90に固定した状態を示す。本実施例によれば、開口方向が相互に直交する二つのネジ孔30,33のうち何れか一方を用いてセンサ本体20を取り付け面90に固定できるため、柔軟性のある取り付け構造を提供できる。
【実施例8】
【0039】
次に、図13を参照しながら実施例8に関わる赤外線温度センサ108の構造について説明する。図13(A)は本実施例に係わる赤外線温度センサ108の上面図、図13(B)は図13(A)のA−A線断面図である。
【0040】
赤外線温度センサ108は、センサ本体20の底面に開口するネジ孔30の周辺部が断面凹状に陥没する凹部28を備える点で実施例1に関わる赤外線温度センサ101と相違し、その余の点で共通する。取り付け面90には、ネジ100を挿通するための孔を有し、且つ凹部28に係合する凸部95が突出しており、凹部28と凸部95とを係合させた状態でネジ孔30にネジ100を螺合することで、センサ本体20は、取り付け面90に固定される。センサ本体20と外部環境との間の熱の流出入は、凹部28及びネジ孔30を通じて行われるため、凹部28及びネジ孔30は、熱基準点として機能する。センサ本体20の底面に平行な面で凹部28を切断したときの断面形状を多角形とすることにより、ネジ100を用いてセンサ本体20を固定したときに、ネジ100の軸心回りのセンサ本体20の回転を抑制できる。特に、センサ本体20の底面に平行な面で凹部28を切断したときの断面形状を、ネジ孔30の中心点に関して点対称な多角形とすると、熱基準点からの赤外線検知用感熱素子51及び温度補償用感熱素子52への熱伝導を略均一にする上で効果的である。
【実施例9】
【0041】
次に、図14を参照しながら実施例9に関わる赤外線温度センサ109の構造について説明する。図14は、本実施例に係わる赤外線温度センサ109の取り付け断面構造を示す一部断面図である。赤外線温度センサ109は、センサ本体20を取り付け面90に固定するためのネジ100を螺合するためのネジ孔34,35がセンサ本体20を貫通するのではなく、センサ本体20の上面及び底面のそれぞれに断面凹状に陥没している点で実施例6に係わる赤外線温度センサ106と相違し、その余の点で共通する。
【実施例10】
【0042】
次に、図15を参照しながら実施例10に関わる赤外線温度センサ110の構造について説明する。図15は、本実施例に係わる赤外線温度センサ110の取り付け断面構造を示す一部断面図である。赤外線温度センサ110は、センサ本体20にネジ100が予め固定されている点で実施例1に係わる赤外線温度センサ101と相違し、その余の点で共通する。本実施例によれば、取り付け面90に開口するネジ孔96にネジ100を挿通し、ナット120をネジ100に螺合することにより、センサ本体20を取り付け面90に固定することができる。
【実施例11】
【0043】
次に、図16を参照しながら実施例11に関わる赤外線温度センサ111の構造について説明する。図16は、本実施例に係わる赤外線温度センサ111の取り付け断面構造を示す一部断面図である。赤外線温度センサ111は、センサ本体20にクリップ130が予め固定されている点で実施例1に係わる赤外線温度センサ101と相違し、その余の点で共通する。本実施例によれば、取り付け面90に開口する孔97にクリップ130を嵌挿することにより、センサ本体20を取り付け面90に固定することができる。
【産業上の利用可能性】
【0044】
本発明に係わる赤外線温度センサは、熱源の温度を非接触測定する用途に利用することができる。
【符号の説明】
【0045】
100…ネジ
101〜111…赤外線温度センサ
20…センサ本体
21,22…有底凹部
30…ネジ孔
41,42…赤外線吸収膜
51…赤外線検知用感熱素子
52…温度補償用感熱素子
【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱源の温度を非接触測定する赤外線温度センサであって、
前記熱源から放射される赤外線の熱量を検知する赤外線検知用感熱素子と、
外部環境からの熱量を検知する温度補償用感熱素子と、
前記外部環境と前記赤外線温度センサとの間で熱の流出入が行われる熱流出入部位とを備え、
前記熱流出入部位から前記赤外線検知用感熱素子及び前記温度補償用感熱素子へのそれぞれの熱伝導が略均等になるように構成されている、赤外線温度センサ。
【請求項2】
請求項1に記載の赤外線温度センサであって、
前記熱流出入部位を中心として前記赤外線検知用感熱素子及び前記温度補償用感熱素子が点対称に配置されている、赤外線温度センサ。
【請求項3】
請求項1に記載の赤外線温度センサであって、
前記外部環境と前記赤外線温度センサとの間で熱の流出入が行われる複数の熱流出入部位を備える、赤外線温度センサ。
【請求項4】
請求項1乃至請求項3のうち何れか1項に記載の赤外線温度センサであって、
前記熱流出入部位は、前記赤外線温度センサを取り付け面に固定するための固定手段である、赤外線温度センサ。
【請求項5】
請求項4に記載の赤外線温度センサであって、
前記熱流出入部位は、前記取り付け面に点接触するための凸部を備える、赤外線温度センサ。
【請求項6】
請求項1乃至請求項5のうち何れか1項に記載の赤外線温度センサであって、
前記赤外線検知用感熱素子を収容する第一の凹部と、
前記温度補償用感熱素子を収容する第二の凹部と、を更に備え、
前記第一及び第二の凹部は、それぞれ分離された独立の空間を形成する、赤外線温度センサ。
【請求項1】
熱源の温度を非接触測定する赤外線温度センサであって、
前記熱源から放射される赤外線の熱量を検知する赤外線検知用感熱素子と、
外部環境からの熱量を検知する温度補償用感熱素子と、
前記外部環境と前記赤外線温度センサとの間で熱の流出入が行われる熱流出入部位とを備え、
前記熱流出入部位から前記赤外線検知用感熱素子及び前記温度補償用感熱素子へのそれぞれの熱伝導が略均等になるように構成されている、赤外線温度センサ。
【請求項2】
請求項1に記載の赤外線温度センサであって、
前記熱流出入部位を中心として前記赤外線検知用感熱素子及び前記温度補償用感熱素子が点対称に配置されている、赤外線温度センサ。
【請求項3】
請求項1に記載の赤外線温度センサであって、
前記外部環境と前記赤外線温度センサとの間で熱の流出入が行われる複数の熱流出入部位を備える、赤外線温度センサ。
【請求項4】
請求項1乃至請求項3のうち何れか1項に記載の赤外線温度センサであって、
前記熱流出入部位は、前記赤外線温度センサを取り付け面に固定するための固定手段である、赤外線温度センサ。
【請求項5】
請求項4に記載の赤外線温度センサであって、
前記熱流出入部位は、前記取り付け面に点接触するための凸部を備える、赤外線温度センサ。
【請求項6】
請求項1乃至請求項5のうち何れか1項に記載の赤外線温度センサであって、
前記赤外線検知用感熱素子を収容する第一の凹部と、
前記温度補償用感熱素子を収容する第二の凹部と、を更に備え、
前記第一及び第二の凹部は、それぞれ分離された独立の空間を形成する、赤外線温度センサ。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【公開番号】特開2011−75365(P2011−75365A)
【公開日】平成23年4月14日(2011.4.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−226001(P2009−226001)
【出願日】平成21年9月30日(2009.9.30)
【出願人】(000003067)TDK株式会社 (7,238)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成23年4月14日(2011.4.14)
【国際特許分類】
【出願日】平成21年9月30日(2009.9.30)
【出願人】(000003067)TDK株式会社 (7,238)
【Fターム(参考)】
[ Back to top ]