説明

赤外線遮蔽材料微粒子分散体、赤外線遮蔽体、及び赤外線遮蔽材料微粒子の製造方法、並びに赤外線遮蔽材料微粒子

可視光線を十分に透過し、ハーフミラー状の外観を有さず、基材への成膜に際し大掛かりな製造装置を必要とせず、成膜後の高温熱処理も不要でありながら、波長780nm以上の目に見えない近赤外線を効率よく遮蔽し、透明で色調の変化しない赤外線遮蔽体を提供する。 タングステン化合物を、所定量秤量し混合した出発原料を、還元雰囲気中において550℃で1時間加熱し、一度室温に戻した後アルゴン雰囲気中で1時間加熱することで、W1849の粉末を作製し、この粉末と、溶剤と、分散剤とを混合し、分散処理を行って分散液とし、この分散液とハードコート用紫外線硬化樹脂とを混合して赤外線遮蔽材料微粒子分散体液とし、この赤外線遮蔽材料微粒子分散体液を、PET樹脂フィルム上に塗布、成膜し、硬化させ、図に示す透過プロイファイルを有する赤外線遮蔽膜を得た。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、可視光領域においては透明で、近赤外線領域においては吸収を持つ酸化物材料の微粒子を媒体に分散させた赤外線遮蔽材料微粒子分散体、当該赤外線遮蔽材料微粒子分散体より製造した赤外線遮蔽体、及び当該赤外線材料微粒子分散体に用いる赤外線材料微粒子の製造方法、並びに当該赤外線材料微粒子の製造方法により製造された赤外線材料微粒子に関する。詳しくは、タングステン酸化物微粒子、または/及び、複合タングステン酸化物微粒子を含有する赤外線遮蔽材料微粒子が媒体中に分散されてなる赤外線遮蔽材料微粒子分散体に関する。
【背景技術】
【0002】
窓材等に使用される遮光部材として、特許文献1には、可視光領域から近赤外線領域に吸収があるカーボンブラック、チタンブラック等の無機顔料、および、可視光領域のみに強い吸収のあるアニリンブラック等の有機顔料等を含む黒色系顔料を含有する遮光フィルムが提案され、特許文献2には、アルミ等の金属を蒸着したハーフミラータイプの遮光部材が提案されている。
【0003】
特許文献3では、透明なガラス基板上に、基板側より第1層として周期律表のIIIa族、IVa族、Vb族、VIb族及びVIIb族から成る群から選ばれた少なくとも1種の金属イオンを含有する複合タングステン酸化物膜を設け、前記第1層上に第2層として透明誘電体膜を設け、該第2層上に第3層として周期律表のIIIa族、IVa族、Vb族、VIb族及びVIIb族から成る群から選ばれた少なくとも1種の金属イオンを含有する複合タングステン酸化物膜を設け、かつ前記第2層の透明誘電体膜の屈折率が前記第1層及び前記第3層の複合タングステン酸化物膜の屈折率よりも低くすることにより、高い可視光線透過率及び良好な熱線遮断性能が要求される部位に好適に使用することができる熱線遮断ガラスが提案されている。
【0004】
特許文献4では、特許文献3と同様の方法で、透明なガラス基板上に、基板側より第1層として第1の誘電体膜を設け、該第1層上に第2層としてタングステン酸化物膜を設け、該第2層上に第3層として第2の誘電体膜を設けた熱線遮断ガラスが提案されている。
【0005】
特許文献5では、特許文献3と同様な方法で、透明な基板上に、基板側より第1層として同様の金属元素を含有する複合タングステン酸化物膜を設け、前記第1層上に第2層として透明誘電体膜を設けた熱線遮断ガラスが提案されている。
【0006】
特許文献6では、水素、リチウム、ナトリウム又はカリウム等の添加材料を含有する三酸化タングステン(WO)、三酸化モリブデン(MoO)、五酸化ニオブ(Nb)、五酸化タンタル(Ta)、五酸化バナジウム(V)及び二酸化バナジウム(VO)の1種以上から選択された金属酸化物膜を、CVD法あるいはスプレー法で被覆され250℃程度で熱分解して形成された太陽光遮蔽特性を有する太陽光制御ガラスシートが提案されている。
【0007】
特許文献7には、タングステン酸を加水分解して得られたタングステン酸化物を用い、該タングステン酸化物に、ポリビニルピロリドンという特定の構造の有機ポリマーを添加することにより、太陽光が照射されると光線中の紫外線が、該タングステン酸化物に吸収され、励起電子とホールとが発生し、少量の紫外線量により5価のタングステンの出現量が著しく増加して、着色反応が速くなることに伴って着色濃度が高くなると共に、光を遮断することによって5価タングステンが極めて速やかに6価に酸化されて、消色反応が速くなる特性を用い、太陽光に対する着色及び消色反応が速く、着色時近赤外域の波長1250nmに吸収ピークが現れ、太陽光の近赤外線を遮断することができる太陽光可変調光断熱材料が得られることが提案されている。
【0008】
また、本発明者等は、特許文献8に、六塩化タングステンをアルコールに溶解し、そのまま溶媒を蒸発させるか、若しくは加熱還流した後溶媒を蒸発させ、その後100℃〜500℃で加熱することにより、三酸化タングステン若しくはその水和物又は両者の混合物からなる粉末を得ること、該タングステン酸化物微粒子を用いてエレクトロクロミック素子が得られること、多層の積層体を構成し膜中にプロトンを導入したときに当該膜の光学特性を変化させることができること、等を提案している。
【0009】
また、特許文献9には、メタ型タングステン酸アンモニウムと水溶性の各種金属塩とを原料とし、約300〜700℃に加熱しながら、その混合水溶液の乾固物に対して不活性ガス(添加量;約50vol%以上)または水蒸気(添加量;約15vol%以下)を添加した水素ガスを供給することにより、MWO(Mは、アルカリ、アルカリ土類、希土類などの金属元素、0<x<1)で表される種々のタングステンブロンズの作製方法が提案されている。
【0010】
【特許文献1】特開2003−029314号公報
【特許文献2】特開平9−107815号公報
【特許文献3】特開平8−59300号公報
【特許文献4】特開平8−12378号公報
【特許文献5】特開平8−283044号公報
【特許文献6】特開2000−119045号公報
【特許文献7】特開平9−127559号公報
【特許文献8】特開2003−121884号公報
【特許文献9】特開平8−73223号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかし、特許文献1に記載された黒色系顔料は、可視光領域に大きな吸収があるため、これらが適用された窓材等は色調が暗くなり使用方法が限られていた。
【0012】
また、特許文献2に記載された金属蒸着膜が適用された窓材等は、外観がハーフミラー状となり、屋外で用いられた場合は反射がまぶしく景観上問題があった。
【0013】
また、特許文献3〜5に記載の熱線遮断材は、主に、スパッタリング法、蒸着法、イオンプレーティング法及び化学気相法(CVD法)等の真空成膜方式による乾式法を用いた方法で製造される。このため、大型の製造装置を必要とし製造コストが高くなるという課題がある。また、熱線遮断材の基材が高温のプラズマに曝されたり、成膜後加熱を必要としたりすることになるため、フィルム等の樹脂を基材とする場合には別途、設備上、成膜条件上の検討を行う必要があった。また、これら特許文献に示されたタングステン酸化物膜もしくは、複合タングステン酸化物膜は、他の透明誘電体膜との多層膜とした時、機能を発揮するものであり、本発明とは大きく異なる。
【0014】
また、特許文献6に記載の太陽光制御被覆ガラスシートは、原料をCVD法、またはスプレー法と熱分解法との併用によりガラス上に被膜形成するが、前駆体となる原料が高価であること、高温で熱分解すること、等からフィルム等の樹脂を基材とする場合には別途、成膜条件上の検討を行う必要があった。また、2層以上の構成が必要であり、本発明とは異なっている。
【0015】
さらに、特許文献7〜8に記載の太陽光可変調光断熱材料、エレクトロクロミック素子は、紫外線や電位差によりその色調を変化させる材料であるため膜の構造が複雑であり、色調変化が望まれない用途分野には適用が困難であった。
【0016】
さらに、特許文献9にはタングステンブロンズの作製方法が記載されているが、得られた粉体の粒子直径や、光学特性の記載がない。これは、当該タングステンブロンズの用途として電解装置や燃料電池の電極材料及び有機合成の触媒材料が考えられ、本発明の様に、太陽光線遮蔽用途ではない為と考えられる。
【0017】
本発明は、上述の課題解決するためになされたものであり、可視光線を十分に透過し、ハーフミラー状の外観を有さず、基材への成膜に際し大掛かりな製造装置を必要とせず、成膜時に高温熱処理も不要でありながら、波長780nm以上の目に見えない近赤外線を効率よく遮蔽し、透明で色調の変化しない赤外線遮蔽材料微粒子分散体、赤外線遮蔽体、及び赤外線遮蔽材料微粒子の製造方法、並びに当該赤外線材料微粒子の製造方法により製造された赤外線材料微粒子を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0018】
一般に、自由電子を含む材料は、プラズマ振動によって波長200nmから2600nmの太陽光線の領域周辺の電磁波に反射吸収応答を示すことが知られている。このような物質の粉末を、光の波長より小さい微粒子とすると、可視光領域(波長380nmから780nm)の幾何学散乱が低減されて可視光領域の透明性が得られることが知られている。尚、本明細書において、透明性とは、可視光領域の光に対して散乱が少なく透過性が高いという意味で用いている。
【0019】
一方、WO3−xで表されるタングステン酸化物や、3酸化タングステンにNa等の陽性元素を添加したいわゆるタングステンブロンズは、導電性材料であり、自由電子を持つ材料であることが知られている。そして、これらの材料の単結晶等の分析により、赤外線領域の光に対する自由電子の応答が示唆されている。
【0020】
発明者等は、タングステン酸化物微粒子、または/及び、複合タングステン酸化物微粒子を含有する赤外線遮蔽材料中に含まれる自由電子量を増加させ、微粒子の粒子直径を1nm以上800nm以下に微粒子化して赤外線遮蔽材料微粒子とすることに想到した。さらに、当該赤外線遮蔽材料微粒子を、適宜な媒体中に分散させて製造した膜は、スパッタリング法、蒸着法、イオンプレーティング法及び化学気相法(CVD法)などの真空成膜法等の乾式法で作製した膜やCVD法やスプレー法で作製した膜と比較して、光の干渉効果を用いずとも、太陽光線、特に近赤外線領域の光をより効率良く吸収し、同時に可視光領域の光を透過させることを見出し、本発明に至った。
【0021】
すなわち、本発明の第1の発明は、
赤外線遮蔽材料微粒子が媒体中に分散してなる赤外線遮蔽材料微粒子分散体であって、
前記赤外線遮蔽材料微粒子は、タングステン酸化物微粒子、または/及び、複合タングステン酸化物微粒子を含有し、
前記赤外線遮蔽材料微粒子の粒子直径は、1nm以上800nm以下であることを特徴とする赤外線遮蔽材料微粒子分散体を提供する。
【0022】
本発明の第2の発明は、
前記タングステン酸化物微粒子が、一般式WyOz(但し、Wはタングステン、Oは酸素、2.2≦z/y≦2.999)で表記されるタングステン酸化物の微粒子であることを特徴とする第1の発明記載の赤外線遮蔽材料微粒子分散体を提供する。
【0023】
本発明の第3の発明は、
前記複合タングステン酸化物微粒子が、一般式MxWyOz(但し、Mは、H、He、アルカリ金属、アルカリ土類金属、希土類元素、Mg、Zr、Cr、Mn、Fe、Ru、Co、Rh、Ir、Ni、Pd、Pt、Cu、Ag、Au、Zn、Cd、Al、Ga、In、Tl、Si、Ge、Sn、Pb、Sb、B、F、P、S、Se、Br、Te、Ti、Nb、V、Mo、Ta、Re、Be、Hf、Os、Bi、Iのうちから選択される1種類以上の元素、Wはタングステン、Oは酸素、0.001≦x/y≦1、2.2≦z/y≦3.0)で表記される複合タングステン酸化物の微粒子であることを特徴とする第1の発明記載の赤外線遮蔽材料微粒子分散体を提供する。
【0024】
本発明の第4の発明は、
前記タングステン酸化物微粒子、または/及び、前記複合タングステン酸化物微粒子が、一般式WyOz(但し、Wはタングステン、Oは酸素、2.45≦z/y≦2.999)で表記される組成比のマグネリ相を含むことを特徴とする第1から第3の発明のいずれか記載の赤外線遮蔽材料微粒子分散体を提供する。
【0025】
本発明の第5の発明は、
一般式MxWyOzで表記される前記複合タングステン酸化物微粒子が、六方晶もしくは正方晶もしくは立方晶の結晶構造、もしくはアモルファス構造を有する微粒子の、いずれか1種類以上を含むことを特徴とする第3の発明記載の赤外線遮蔽材料微粒子分散体を提供する。
【0026】
本発明の第6の発明は、
一般式MxWyOzで表記される前記複合タングステン酸化物微粒子が、六方晶の結晶構造を含む、もしくは全て六方晶の結晶構造を有することを特徴とする第3の発明記載の赤外線遮蔽材料微粒子分散体を提供する。
【0027】
本発明の第7の発明は、
前記M元素が、Cs、Rb、K、Tl、In、Ba、Li、Ca、Sr、Fe、Snのうちの1種類以上であることを特徴とする第5または第6の発明記載の赤外線遮蔽材料微粒子分散体を提供する。
【0028】
本発明の第8の発明は、
前記赤外線遮蔽材料微粒子の表面が、Si、Ti、Zr、Alのいずれか1種類以上の元素を含有する酸化物で被覆されていることを特徴とする第1から第7の発明のいずれか記載の赤外線遮蔽材料微粒子分散体を提供する。
【0029】
本発明の第9の発明は、
前記媒体が、樹脂またはガラスであることを特徴とする第1から第8の発明のいずれか記載の赤外線遮蔽材料微粒子分散体を提供する。
【0030】
本発明の第10の発明は、
前記樹脂が、ポリエチレン樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、ポリ塩化ビニリデン樹脂、ポリビニルアルコール樹脂、ポリスチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、エチレン酢酸ビニル共重合体、ポリエステル樹脂、ポリエチレンテレフタレート樹脂、ふっ素樹脂、ポリカーボネート樹脂、アクリル樹脂、ポリビニルブチラール樹脂のうちのいずれか1種類以上であることを特徴とする第9の発明記載の赤外線遮蔽材料微粒子分散体を提供する。
【0031】
本発明の第11の発明は、
第1から第10の発明のいずれか記載の赤外線遮蔽材料微粒子分散体が、板状またはフィルム状または薄膜状に形成されたものであることを特徴とする赤外線遮蔽体を提供する。
【0032】
本発明の第12の発明は、
一般式WyOz(但し、Wはタングステン、Oは酸素、22≦z/y≦2.999)で表記されるタングステン酸化物微粒子、または/及び、一般式MxWyOz(但し、Mは、H、He、アルカリ金属、アルカリ土類金属、希土類元素、Mg、Zr、Cr、Mn、Fe、Ru、Co、Rh、Ir、Ni、Pd、Pt、Cu、Ag、Au、Zn、Cd、Al、Ga、In、Tl、Si、Ge、Sn、Pb、Sb、B、F、P、S、Se、Br、Te、Ti、Nb、V、Mo、Ta、Re、Be、Hf、Os、Bi、Iのうちから選択される1種類以上の元素、Wはタングステン、Oは酸素、0.001≦x/y≦1、2.2≦z/y≦3.0)で表記される複合タングステン酸化物微粒子を含有する赤外線遮蔽材料微粒子の製造方法であって、
前記赤外線遮蔽材料微粒子の出発原料を、還元性ガス雰囲気中、または/及び、不活性ガス雰囲気中で熱処理して、前記赤外線遮蔽材料微粒子を製造することを特徴とする赤外線遮蔽材料微粒子の製造方法を提供する。
【0033】
本発明の第13の発明は、
前記熱処理は、前記赤外線遮蔽材料微粒子の出発原料を、還元性ガス雰囲気中にて100℃以上850℃以下で熱処理し、次いで、不活性ガス雰囲気中にて650℃以上1200℃以下の温度で熱処理するものであることを特徴とする第12の発明記載の赤外線遮蔽材料微粒子の製造方法を提供する。
【0034】
本発明の第14の発明は、
前記一般式WyOzで表記されるタングステン酸化物微粒子の出発原料が、
3酸化タングステン粉末、
2酸化タングステン粉末、
タングステン酸化物の水和物粉末、
6塩化タングステン粉末、
タングステン酸アンモニウム粉末、
6塩化タングステンをアルコール中に溶解させた後、乾燥して得られるタングステン酸化物の水和物粉末、
6塩化タングステンをアルコール中に溶解させた後、水を添加して沈殿を生成させ、当該沈殿を乾燥して得られるタングステン酸化物の水和物粉末、
タングステン酸アンモニウム水溶解を乾燥して得られるタングステン化合物粉末、
金属タングステン粉末、から選択されるいずれか1種類以上の粉末であることを特徴とする第12または第13の発明記載の赤外線遮蔽材料微粒子の製造方法を提供する。
【0035】
本発明の第15の発明は、
前記一般式MxWyOzで表記される複合タングステン酸化物の微粒子の出発原料が、
3酸化タングステン粉末、
2酸化タングステン粉末、
タングステン酸化物の水和物粉末、
6塩化タングステン粉末、
タングステン酸アンモニウム粉末、
6塩化タングステンをアルコール中に溶解させた後、乾燥して得られるタングステン酸化物の水和物粉末、
6塩化タングステンをアルコール中に溶解させた後、水を添加して沈殿を生成させ、当該沈殿を乾燥して得られるタングステン酸化物の水和物粉末、
タングステン酸アンモニウム水溶液を乾燥して得られるタングステン化合物粉末、
金属タングステン粉末、から選択されるいずれか1種類以上の粉末と、前記M元素を含有する単体または化合物の粉末とを、混合した粉末であることを特徴とする第12または第13の発明記載の赤外線遮蔽材料微粒子の製造方法を提供する。
【0036】
本発明の第16の発明は、
前記一般式MxWyOzで表記される複合タングステン酸化物の微粒子の出発原料が、
6塩化タングステンのアルコール溶液またはタングステン酸アンモニウム水溶液と、前記M元素を含有する化合物の溶液とを、混合した後乾燥した粉末であることを特徴とする第12または第13の発明記載の赤外線遮蔽材料微粒子の製造方法を提供する。
【0037】
本発明の第17の発明は、
前記一般式MxWyOzで表記される複合タングステン酸化物の微粒子の出発原料が、
6塩化タングステンをアルコール中に溶解させた後、水を添加して沈殿を生成させた分散液と、
前記M元素を含有する単体または化合物の粉末、または、前記M元素を含有する化合物の溶液とを、混合した後乾燥した粉末であることを特徴とする第12または第13の発明記載の赤外線遮蔽材料微粒子の製造方法を提供する。
【0038】
本発明の第18の発明は、
第12から第17のいずれかの発明記載の赤外線遮蔽材料微粒子の製造方法により製造された、一般式WyOz(但し、Wはタングステン、Oは酸素、2.2≦z/y≦2.999)で表記されるタングステン酸化物微粒子、または/及び、一般式MxWyOz(但し、Mは、H、He、アルカリ金属、アルカリ土類金属、希土類元素、Mg、Zr、Cr、Mn、Fe、Ru、Co、Rh、Ir、Ni、Pd、Pt、Cu、Ag、Au、Zn、Cd、Al、Ga、In、Tl、Si、Ge、Sn、Pb、Sb、B、F、P、S、Se、Br、Te、Ti、Nb、V、Mo、Ta、Re、Be、Hf、Os、Bi、Iのうちから選択される1種類以上の元素、Wはタングステン、Oは酸素、0.001≦x/y≦1、2.2≦z/y≦3.0)で表記される複合タングステン酸化物微粒子、を含むことを特徴とする赤外線遮蔽材料微粒子を提供する。
【発明の効果】
【0039】
本発明によれば、タングステン酸化物微粒子、または/及び、複合タングステン酸化物微粒子を含有する赤外線遮蔽材料粒子の粒子直径を1nm以上800nm以下に微粒子化し、該赤外線遮蔽材料微粒子を媒体中に分散させることで、スパッタリング法、蒸着法、イオンプレーティング法及び化学気相法(CVD法)などの真空成膜法等の乾式法で作製した膜やCVD法やスプレー法で作製した膜に比較しても、太陽光線、特に近赤外線領域の光をより効率良く遮蔽し、同時に可視光領域の透過率を保持する等、優れた光学特性を有する赤外線遮蔽材料微粒子分散体を作製することが可能となる。また、当該赤外線遮蔽材料微粒子分散体を用いて、赤外線遮蔽体を製造する際には、真空装置等の大掛かりな装置を使用することなく安価に赤外線遮蔽体が製造可能となり、工業的に有用である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0040】
本発明に係る赤外線遮蔽材料微粒子分散体は、タングステン酸化物微粒子、または/及び、複合タングステン酸化物微粒子を含有する赤外線遮蔽材料微粒子であって、該赤外線遮蔽材料微粒子の粒子直径は1nm以上800nm以下であり、該赤外線遮蔽材料微粒子は後述する適宜な媒体中に分散していることを特徴とする。
【0041】
以下、該赤外線遮蔽材料微粒子および該赤外線遮蔽材料微粒子分散体について詳細に説明する。
【0042】
1.赤外線遮蔽材料
一般に、三酸化タングステン(WO)中には有効な自由電子が存在しないため近赤外線領域の吸収反射特性が少なく、赤外線遮蔽材料としては有効ではない。ここで、三酸化タングステンのタングステンに対する酸素の比率を3より低減することによって、当該タングステン酸化物中に自由電子が生成されることが知られているが、本発明者等は、当該タングステン酸化物におけるタングステンと酸素との組成範囲の特定部分において、赤外線遮蔽材料として特に有効な範囲があることを見出した。
【0043】
該タングステンと酸素との組成範囲は、タングステンに対する酸素の組成比が3以下であり、さらには、当該タングステン酸化物をWyOzと記載したとき、2.2≦z/y≦2.999であることが好ましい。このz/yの値が、2.2以上であれば、当該タングステン酸化物中に目的以外であるWOの結晶相が現れるのを回避することが出来ると伴に、材料としての化学的安定性を得ることが出来るので、有効な赤外線遮蔽材料として適用できるからである。
一方、このz/yの値が、2.999以下であれば、当該タングステン酸化物中に必要とされる量の自由電子が生成され、効率よい赤外線遮蔽材料となる。
【0044】
また、当該タングステン酸化物を微粒子化したタングステン酸化物微粒子において、一般式WyOzとしたとき2.45≦z/y≦2.999で表される組成比を有する、所謂「マグネリ相」は化学的に安定であり、近赤外線領域の吸収特性も良いので、赤外線遮蔽材料として好ましい。
【0045】
さらに、当該タングステン酸化物へ、元素M(但し、Mは、H、He、アルカリ金属、アルカリ土類金属、希土類元素、Mg、Zr、Cr、Mn、Fe、Ru、Co、Rh、Ir、Ni、Pd、Pt、Cu、Ag、Au、Zn、Cd、Al、Ga、In、Tl、Si、Ge、Sn、Pb、Sb、B、F、P、S、Se、Br、Te、Ti、Nb、V、Mo、Ta、Re、Be、Hf、Os、Bi、Iのうちのうちから選択される1種類以上の元素)を添加して複合タングステン酸化物とすることで、当該複合タングステン酸化物中に自由電子が生成され、近赤外線領域に自由電子由来の吸収特性が発現し、波長1000nm付近の近赤外線吸収材料として有効となるため好ましい。ここで、元素Mを添加された当該複合タングステン酸化物における、安定性の観点からは、元素Mは、アルカリ金属、アルカリ土類金属、希土類元素、Mg、Zr、Cr、Mn、Fe、Ru、Co、Rh、Ir、Ni、Pd、Pt、Cu、Ag、Au、Zn、Cd、Al、Ga、In、Tl、Si、Ge、Sn、Pb、Sb、B、F、P、S、Se、Br、Te、Ti、Nb、V、Mo、Ta、Re、Be、Hf、Os、Bi、Iのうちのうちから選択される1種類以上の元素であることがより好ましく、赤外線遮蔽材料としての光学特性、耐候性を向上させる観点からは、前記元素Mにおいて、アルカリ金属、アルカリ土類金属元素、遷移金属元素、4B族元素、5B族元素に属するものが、さらに好ましい。
【0046】
ここで、当該複合タングステン酸化物に対し、上述した酸素量の制御と、自由電子を生成する元素の添加とを併用することで、より効率の良い赤外線遮蔽材料を得ることが出来る。この酸素量の制御と、自由電子を生成する元素の添加とを併用した赤外線遮蔽材料の一般式を、MxWyOz(但し、Mは、前記M元素、Wはタングステン、Oは酸素)と記載したとき、0.001≦x/y≦1、2.2≦z/y≦3.0の関係を満たす赤外線遮蔽材料が望ましい。
【0047】
まず、元素Mの添加量を示すx/yの値について説明する。x/yの値が0.001より大きければ、十分な量の自由電子が生成され目的とする赤外線遮蔽効果を得ることが出来る。そして、元素Mの添加量が多いほど、自由電子の供給量が増加し、赤外線遮蔽効率も上昇するが、x/yの値が1程度で当該効果も飽和する。また、x/yの値が1より小さければ、当該赤外線遮蔽材料中に不純物相が生成されるのを回避できるので好ましい。また、元素Mは、H、He、アルカリ金属、アルカリ土類金属、希土類元素、Mg、Zr、Cr、Mn、Fe、Ru、Co、Rh、Ir、Ni、Pd、Pt、Cu、Ag、Au、Zn、Cd、Al、Ga、In、Tl、Si、Ge、Sn、Pb、Sb、B、F、P、S、Se、Br、Te、Ti、Nb、V、Mo、Ta、Re、Be、Hf、Os、Bi、Iのうちから選択される1種類以上であることが好ましい。ここで、元素Mを添加された当該MxWyOzにおける、安定性の観点からは、元素Mは、アルカリ金属、アルカリ土類金属、希土類元素、Mg、Zr、Cr、Mn、Fe、Ru、Co、Rh、Ir、Ni、Pd、Pt、Cu、Ag、Au、Zn、Cd、Al、Ga、In、Tl、Si、Ge、Sn、Pb、Sb、B、F、P、S、Se、Br、Te、Ti、Nb、V、Mo、Ta、Reのうちのうちから選択される1種類以上の元素であることがより好ましく、赤外線遮蔽材料としての光学特性、耐候性を向上させる観点からは、前記元素Mにおいてアルカリ金属、アルカリ土類金属元素、遷移金属元素、4B族元素、5B族元素に属するものが、さらに好ましい。
【0048】
次に、酸素量の制御を示すz/yの値について説明する。z/yの値については、MxWyOzで表記される赤外線遮蔽材料においても、上述したWyOzで表記される赤外線遮蔽材料と同様の機構が働くことに加えz/y=3.0においても、上述した元素Mの添加量による自由電子の供給があるため、2.2≦z/y≦3.0が好ましい。
【0049】
さらに、上述の複合タングステン酸化物微粒子が六方晶の結晶構造を有する場合、当該微粒子の可視光領域の透過が向上し、近赤外領域の吸収が向上する。この六方晶の結晶構造の模式的な平面図である図4を参照しながら説明する。図4において、符号1で示すWO単位にて形成される8面体が、6個集合して六角形の空隙(トンネル)が構成され、当該空隙中に、符号2で示す元素Mが配置して1箇の単位を構成し、この1箇の単位が多数集合して六方晶の結晶構造を構成する。
【0050】
本発明に係る、可視光領域の透過を向上させ、近赤外領域の吸収を向上させる効果を得るためには、複合タングステン酸化物微粒子中に、図4で説明した単位構造(WO単位で形成される8面体が6個集合して六角形の空隙が構成され、当該空隙中に元素Mが配置した構造)が含まれていれば良く、当該複合タングステン酸化物微粒子が、結晶質であっても非晶質であっても構わない。
【0051】
この六角形の空隙に元素Mの陽イオンが添加されて存在するとき、近赤外領域の吸収が向上する。ここで、一般的には、イオン半径の大きな元素Mを添加したとき当該六方晶が形成され、具体的には、Cs、Rb、K、Tl、In、Ba、Li、Ca、Sr、Fe、Snのうちの1種類以上を添加したとき六方晶が形成され易く好ましい。勿論これら以外の元素でも、WO単位で形成される六角形の空隙に添加元素Mが存在すれば良く、上記元素に限定される訳ではない。
【0052】
六方晶の結晶構造を有する複合タングステン酸化物微粒子が均一な結晶構造を有するとき、添加元素Mの添加量は、x/yの値で0.2以上0.5以下が好ましく、更に好ましくは0.33である。z/y=3の時、x/yの値が0.33となることで、添加元素Mが六角形の空隙の全てに配置されると考えられる。
同様に、z/y=3の時、立方晶、正方晶のそれぞれの複合タングテン化合物にも構造に由来した添加元素Mの添加量の上限があり、1モルのタングステンに対する添加元素Mの最大添加量は、立方晶の場合は1モルであり、正方晶の場合は0.5モル程度(M元素の種類により変化するが、工業的製造が容易なのは、0.5モル程度である。)である。但し、これらの構造は、単純に規定することが困難であり、当該範囲は特に基本的な範囲を示した例であることから、本発明がこれに限定されるわけではない。
また、上述の複合タングステン酸化物微粒子が、上述の六方晶以外に、正方晶、立方晶のタングステンブロンズの構造をとるときも赤外線遮蔽材料として有効である。当該複合タングステン酸化物微粒子がとる結晶構造によって、近赤外線領域の吸収位置が変化する傾向があり、この近赤外線領域の吸収位置は、立方晶よりも正方晶のときが長波長側に移動し、さらに六方晶のときは正方晶のときよりも長波長側に移動する傾向がある。また、当該吸収位置の変動に付随して、可視光線領域の吸収は六方晶が最も少なく、次に正方晶であり、立方晶はこの中では最も大きい。よって、より可視光領域の光を透過して、より赤外線領域の光を遮蔽する用途には、六方晶のタングステンブロンズを用いることが好ましい。ただし、ここで述べた光学特性の傾向は、あくまで大まかな傾向であり、添加元素の種類や、添加量、酸素量によっても変化するものであり、本発明がこれに限定されるわけではない。
【0053】
本発明に係る、タングステン酸化物微粒子、または/及び、複合タングステン酸化物微粒子を含有する赤外線遮蔽材料は近赤外線領域、特に波長1000nm付近の光を大きく吸収するため、その透過色調は青色系から緑色系となる物が多い。また、当該赤外線遮蔽材料の粒子の粒子直径は、その使用目的によって、各々選定することができる。まず、透明性を保持した応用に使用する場合は、800nm以下の粒子直径を有していることが好ましい。これは、粒子直径が800nmよりも小さい粒子は、散乱により光を完全に遮蔽することが無く、可視光線領域の視認性を保持し、同時に効率良く透明性を保持することができるからである。特に可視光領域の透明性を重視する場合は、さらに粒子による散乱を考慮することが好ましい。
【0054】
この粒子による散乱の低減を重視するとき、粒子直径は200nm以下、好ましくは100nm以下が良い。理由は、粒子直径が小さければ、幾何学散乱もしくはミー散乱による、波長400nm〜780nmの可視光線領域の光の散乱が低減される結果、赤外線遮蔽膜が曇りガラスのようになり、鮮明な透明性が得られなくなるのを回避できるからである。即ち、粒子直径が200nm以下になると、上記幾何学散乱もしくはミー散乱が低減し、レイリー散乱領域になる。レイリー散乱領域では、散乱光は粒子直径の6乗に反比例して低減するため、粒子直径の減少に伴い散乱が低減し透明性が向上するからである。さらに粒子直径が100nm以下になると、散乱光は非常に少なくなり好ましい。光の散乱を回避する観点からは、粒子直径が小さい方が好ましい、粒子直径が1nm以上あれば工業的な製造は容易である。
【0055】
上記粒子直径を800nm以下と選択することにより、赤外線遮蔽材料微粒子を媒体中に分散させた赤外線遮蔽材料微粒子分散体のヘイズ値は可視光透過率85%以下でヘイズ30%以下とすることができる。ヘイズが30%よりも大きい値であると、曇りガラスのようになり、鮮明な透明性が得られない。
【0056】
また、本発明の赤外線遮蔽材料を構成する微粒子の表面が、Si、Ti、Zr、Alの一種類以上を含有する酸化物で被覆されていることは、当該赤外線遮蔽材料の耐候性の向上の観点から好ましい。
【0057】
2.赤外線遮蔽材料微粒子の製造
上記一般式WyOz(但し、Wはタングステン、Oは酸素、2.2≦z/y≦2.999)で表記されるタングステン酸化物微粒子、および/または、MxWyOz(但し、Mは、H、He、アルカリ金属、アルカリ土類金属、希土類元素、Mg、Zr、Cr、Mn、Fe、Ru、Co、Rh、Ir、Ni、Pd、Pt、Cu、Ag、Au、Zn、Cd、Al、Ga、In、Tl、Si、Ge、Sn、Pb、Sb、B、F、P、S、Se、Br、Te、Ti、Nb、V、Mo、Ta、Re、Be、Hf、Os、Bi、Iのうちから選択される1種類以上の元素、Wはタングステン、Oは酸素、0.001≦x/y≦1、2.2≦z/y≦3.0)で表記される複合タングステン酸化物微粒子を含有する赤外線遮蔽材料微粒子は、当該タングステン酸化物微粒子および/または複合タングステン酸化物微粒子の出発原料であるタングステン化合物を、不活性ガス雰囲気もしくは還元性ガス雰囲気中で熱処理して得ることができる。当該熱処理を経て得られたタングステン酸化物微粒子、複合タングステン酸化物微粒子は、十分な近赤外線吸収力を有し、赤外線遮蔽微粒子として好ましい性質を有している。
【0058】
出発原料であるタングステン化合物は、3酸化タングステン粉末、2酸化タングステン粉末、もしくはタングステン酸化物の水和物、もしくは、6塩化タングステン粉末、もしくはタングステン酸アンモニウム粉末、もしくは、6塩化タングステンをアルコール中に溶解させた後乾燥して得られるタングステン酸化物の水和物粉末、もしくは、6塩化タングステンをアルコール中に溶解させたのち水を添加して沈殿させこれを乾燥して得られるタングステン酸化物の水和物粉末、もしくはタングステン酸アンモニウム水溶液を乾燥して得られるタングステン化合物粉末、金属タングステン粉末から選ばれたいずれか一種類以上であることが好ましい。
【0059】
ここで、タングステン酸化物微粒子を製造する場合には製造工程の容易さの観点より、タングステン酸化物の水和物粉末、三酸化タングステン、もしくはタングステン酸アンモニウム水溶液を乾燥して得られるタングステン化合物粉末、を用いることがさらに好ましく、複合タングステン酸化物微粒子を製造する場合には、出発原料が溶液であると、各元素は容易に均一混合可能となる観点より、タングステン酸アンモニウム水溶液や、6塩化タングステン溶液を用いることがさらに好ましい。これら原料を用い、これを不活性ガス雰囲気もしくは還元性ガス雰囲気中で熱処理して、上述したタングステン酸化物微粒子、または/及び、複合タングステン酸化物微粒子を含有する赤外線遮蔽材料微粒子を得ることができる。
【0060】
また、上記元素Mを含む一般式MxWyOzで表記される複合タングステン酸化物微粒子を含有する赤外線遮蔽材料微粒子の出発原料は、上述した一般式WyOzで表されるタングステン酸化物微粒子を含有する赤外線遮蔽材料微粒子の出発原料と同様のタングステン化合物であるが、さらに元素Mを、元素単体または化合物のかたちで含有するタングステン化合物を出発原料とする。ここで、各成分が分子レベルで均一混合した出発原料であるタングステン化合物を製造するためには、各原料を溶液で混合することが好ましく、元素Mを含むタングステン化合物が、水や有機溶媒等の溶媒に溶解可能なものであることが好ましい。例えば、元素Mを含有するタングステン酸塩、塩化物塩、硝酸塩、硫酸塩、シュウ酸塩、酸化物、炭酸塩、水酸化物、等が挙げられるが、これらに限定されず、溶液状になるものであれば好ましい。
【0061】
上述したタングステン酸化物微粒子、複合タングステン酸化物微粒子を製造するための原料に関し、以下で、再度詳細に説明する。
一般式WyOzで表されるタングステン酸化物微粒子を得るための出発原料であるタングステン化合物には、3酸化タングステン粉末、2酸化タングステン粉末、もしくはタングステン酸化物の水和物、もしくは、6塩化タングステン粉末、もしくはタングステン酸アンモニウム粉末、もしくは、6塩化タングステンをアルコール中に溶解させた後乾燥して得られるタングステン酸化物の水和物粉末、もしくは、6塩化タングステンをアルコール中に溶解させたのち水を添加して沈殿させこれを乾燥して得られるタングステン酸化物の水和物粉末、もしくはタングステン酸アンモニウム水溶液を乾燥して得られるタングステン化合物粉末、金属タングステン粉末から選ばれたいずれか一種類以上を用いることが出来るが、製造工程の容易さの観点より、タングステン酸化物の水和物粉末、3酸化タングステン粉末、またはタングステン酸アンモニウム水溶液を乾燥して得られるタングステン化合物粉末を用いることがさらに好ましい。
【0062】
元素Mを含む一般式MxWyOzで表記される複合タングステン酸化物微粒子を得るための出発原料には、3酸化タングステン粉末、2酸化タングステン粉末、もしくはタングステン酸化物の水和物、もしくは、6塩化タングステン粉末、もしくはタングステン酸アンモニウム粉末、もしくは、6塩化タングステンをアルコール中に溶解させた後乾燥して得られるタングステン酸化物の水和物粉末、もしくは、6塩化タングステンをアルコール中に溶解させたのち水を添加して沈殿させこれを乾燥して得られるタングステン酸化物の水和物粉末、もしくはタングステン酸アンモニウム水溶液を乾燥して得られるタングステン化合物粉末、金属タングステン粉末から選ばれたいずれか一種類以上の粉末と、前記M元素を含有する単体または化合物の粉末とを、混合した粉末を用いることが出来る。
【0063】
さらに、当該複合タングステン酸化物微粒子を得るための出発原料であるタングステン化合物が、溶液または分散液であると、各元素は容易に均一混合可能となる。
当該観点より、複合タングステン酸化物の微粒子の出発原料が、6塩化タングステンのアルコール溶液またはタングステン酸アンモニウム水溶液と、前記M元素を含有する化合物の溶液とを、混合した後乾燥した粉末であることがさらに好ましい。
同様に、複合タングステン酸化物の微粒子の出発原料が、6塩化タングステンをアルコール中に溶解させた後、水を添加して沈殿を生成させた分散液と、前記M元素を含有する単体または化合物の粉末、または、前記M元素を含有する化合物の溶液とを、混合した後乾燥した粉末であることも好ましい。
前記M元素を含有する化合物としては、M元素のタングステン酸塩、塩化物塩、硝酸塩、硫酸塩、シュウ酸塩、酸化物、炭酸塩、水酸化物、等が挙げられるが、これらに限定されず、溶液状になるものであればよい。さらに、当該複合タングステン酸化物微粒子を工業的に製造する場合に、タングステン酸化物の水和物粉末や三酸化タングステンと、M元素の炭酸塩や水酸化物とを用いると、熱処理等の段階で有害なガス等が発生することが無く、好ましい製造法である。
【0064】
ここで、タングステン酸化物微粒子および複合タングステン酸化物微粒子の不活性雰囲気中における熱処理条件としては、650℃以上が好ましい。650℃以上で熱処理された出発原料は、十分な近赤外線吸収力を有し赤外線遮蔽微粒子として効率が良い。不活性ガスとしてはAr、N等の不活性ガスを用いることが良い。また、還元性雰囲気中の熱処理条件としては、まず出発原料を還元性ガス雰囲気中にて100℃以上850℃以下で熱処理し、次いで不活性ガス雰囲気中で650℃以上1200℃以下の温度で熱処理することが良い。この時の還元性ガスは、特に限定されないがHが好ましい。また還元性ガスとしてHを用いる場合は、還元雰囲気の組成として、Hが体積比で0.1%以上が好ましく、さらに好ましくは2%以上が良い。Hが体積比で0.1%以上あれば効率よく還元を進めることができる。
【0065】
水素で還元されたタングステン酸化物微粒子はマグネリ相を含み、良好な赤外線遮蔽特性を示し、この状態で赤外線遮蔽微粒子として使用可能である。しかし、タングステン酸化物中に残留する水素が不安定であるため、耐候性の面で応用が限定される可能性がある。そこで、この水素を含むタングステン酸化物を、不活性雰囲気中、650℃以上で熱処理することで、さらに安定な赤外線遮蔽微粒子を得ることができる。この650℃以上の熱処理時の雰囲気は特に限定されないが、工業的観点から、N、Arが好ましい。当該650℃以上の熱処理により、赤外線遮蔽微粒子中にマグネリ相が得られ耐候性が向上する。
【0066】
上述の工程にて得られた赤外線遮蔽材料微粒子の表面が、Si、Ti、Zr、Alの一種類以上の金属を含有する酸化物で被覆されていることは、耐候性の向上の観点から好ましい。被覆方法は特に限定されないが、当該赤外線遮蔽材料微粒子を分散した溶液中へ、上記金属のアルコキシドを添加することで、赤外線遮蔽材料微粒子の表面を被覆することが可能である。
【0067】
3.赤外線遮蔽材料微粒子分散体
本発明に係る赤外線遮蔽材料微粒子の適用方法として、上記微粒子を適宜な媒体中に分散し、所望の基材表面に形成する方法がある。この方法は、あらかじめ高温で焼成した赤外線遮蔽材料微粒子を、基材中、もしくはバインダーによって基材表面に結着させることが可能なので、樹脂材料等の耐熱温度の低い基材材料への応用が可能であり、形成の際に大型の装置を必要とせず安価であるという利点がある。
【0068】
また、本発明に係る赤外線遮蔽材料は導電性材料であるため、連続的な膜として使用した場合は、携帯電話等の電波を吸収反射して妨害する恐れがある。しかし、赤外線遮蔽材料を微粒子としてマトリックス中に分散した場合は、粒子一つ一つが孤立した状態で分散しているため、電波透過性を発揮することから汎用性を有する。
【0069】
(a)微粒子を媒体中に分散し、基材表面に形成する方法
例えば、本発明に係る赤外線遮蔽材料を微粒子化した赤外線遮蔽材料微粒子を、適宜な溶媒中に分散させて赤外線遮蔽材料微粒子の分散液を得るか、または、当該赤外線遮蔽材料を適宜な溶媒と混合し、当該混合物を湿式粉砕して赤外線遮蔽材料微粒子の分散液を得る。得られた赤外線遮蔽材料微粒子の分散液に媒体樹脂を添加した後、基材表面にコーティングし溶媒を蒸発させ所定の方法で樹脂を硬化させれば、当該赤外線遮蔽材料微粒子が媒体中に分散した薄膜の形成が可能となる。コーティングの方法は、基材表面に赤外線遮蔽材料微粒子含有樹脂が均一にコートできればよく、特に限定されないが、例えば、バーコート法、グラビヤコート法、スプレーコート法、ディップコート法等が挙げられる。また、赤外線遮蔽材料を直接バインダー樹脂中に分散したものは、基材表面に塗布後、溶媒を蒸発させる必要が無く、環境的、工業的に好ましい。
【0070】
上記媒体は、例えば、UV硬化樹脂、熱硬化樹脂、電子線硬化樹脂、常温硬化樹脂、熱可塑樹脂等が目的に応じて選定可能である。具体的には、ポリエチレン樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、ポリ塩化ビニリデン樹脂、ポリビニルアルコール樹脂、ポリスチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、エチレン酢酸ビニル共重合体、ポリエステル樹脂、ポリエチレンテレフタレート樹脂、ふっ素樹脂、ポリカーボネート樹脂、アクリル樹脂、ポリビニルブチラール樹脂が挙げられる。これらの樹脂は、単独使用であっても混合使用であっても良い。また、金属アルコキシドを用いたバインダーの利用も可能である。上記金属アルコキシドとしては、Si、Ti、Al、Zr等のアルコキシドが代表的である。これら金属アルコキシドを用いたバインダーは、加熱等により加水分解・縮重合させることで、酸化物膜を形成することが可能である。
【0071】
上記基材としては、所望によりフィルムでもボードでも良く、形状は限定されない。透明基材材料としては、PET、アクリル、ウレタン、ポリカーボネート、ポリエチレン、エチレン酢酸ビニル共重合体、塩化ビニル、ふっ素樹脂等が、各種目的に応じて使用可能である。また、樹脂以外ではガラスを用いることができる。
【0072】
(b)基材中に微粒子として分散する方法
また、本発明に係る赤外線遮蔽材料を微粒子として応用する別の方法として、微粒子を基材中に分散させても良い。微粒子を基材中に分散させるには、基材表面から浸透させても良く、基材の溶融温度以上に温度を上げて溶融させた後、微粒子と樹脂とを混合しても良い。このようにして得られた微粒子含有樹脂は、所定の方法でフィルムや板(ボード)状に形成し、赤外線遮蔽材料として応用可能である。
【0073】
例えば、PET樹脂に微粒子を分散する方法として、まずPET樹脂と微粒子分散液を混合し分散溶媒を蒸発させてから、PET樹脂の溶融温度である300℃程度に加熱して、PET樹脂を溶融させ混合し冷却することで、微粒子を分散したPET樹脂の作製が可能となる。
【0074】
上記赤外線遮蔽材料微粒子を粉砕・分散させる方法は、特に限定されないが、例えば、超音波照射、ビーズミル、サンドミル等を使用することができる。また、均一な分散体を得るために、各種添加剤や分散剤を添加したり、pH調整したりしても良い。分散剤は用途に合わせて選定可能であり、例えば、高分子系分散剤やシラン系カップリング剤、チタネート系カップリング剤、アルミニウム系カップリング剤、等があるが、これらに限定されるものではない。
【0075】
4.赤外線遮蔽材料微粒子分散体の光学特性
本発明に係る赤外線遮蔽材料微粒子分散体の光学特性を、建築窓ガラス用フィルムJIS A 5759(1998)(光源:A光)に基づき測定を行い、可視光透過率、日射透過率を算出した。ただし、測定用試料は、ガラスに貼付せず、試料フィルム自体を使用した。ヘイズ値は、JISK 7105に基づき測定を行なった。平均分散粒子直径は、動的光散乱法を用いた測定装置(ELS−800(大塚電子株式会社製))により測定した平均値をとった。
【0076】
測定結果例として、W1849の微粒子分散膜の透過プロイファイルを図1に示す。図1は、横軸に透過する光の波長をとり、縦軸に光の透過率(%)をとったグラフである。図1より明らかなように、本発明に係るW1849の微粒子分散膜は、可視光である波長380nm〜780nmの光は透過させ(例えば、波長500nmの可視光の透過率は60%)、目に見えない熱線である波長1000nm付近からそれ以上の赤外線を選択的に吸収しており(例えば、波長1000nmの赤外線の透過率が18%、波長1250nmの赤外線の透過率が15%)、可視光領域の光に対しては透過性を発揮し、赤外線領域の光に対しては吸収性を有するという、優れた赤外線遮蔽特性を有していることが判明した。
【0077】
次に、六方晶の複合タングステン酸化物微粒子を含む分散膜の透過プロファイル例として、Cs0.33WOの透過プロファイルを図2に示す。横軸に透過する光の波長をとり、縦軸に光の透過率(%)をとったグラフである。図2より明らかなように、本発明に係るCs0.33WOの微粒子分散膜は、可視光である波長380nm〜780nmの光は透過させ(例えば、波長500nmの可視光の透過率は79.5%)、目に見えない熱線である波長1000nm付近からそれ以上の赤外線を選択的に吸収しており(例えば、波長1000nmの赤外線の透過率が19.0%、波長1250nmの赤外線の透過率が12.9%)、可視光領域の光に対しては透過性を発揮し、赤外線領域の光に対しては吸収性を有するという、優れた赤外線遮蔽特性を有していることが判明した。
【0078】
次に、六方晶の複合タングステン酸化物微粒子を含む分散膜の透過プロファイルの異なる例として、Rb0.33WOの透過プロファイルを図3に示す。横軸に透過する光の波長をとり、縦軸に光の透過率(%)をとったグラフである。図3より明らかなように、本発明に係るRb0.33WOの微粒子分散膜は、可視光である波長380nm〜780nmの光は透過させ(例えば、波長500nmの可視光の透過率は80.0%)、目に見えない熱線である波長1000nm付近からそれ以上の赤外線を選択的に吸収しており(例えば、波長1000nmの赤外線の透過率が14.32%、波長1250nmの赤外線の透過率が8.0%)、可視光領域の光に対しては透過性を発揮し、赤外線領域の光に対しては吸収性を有するという、優れた赤外線遮蔽特性を有していることが判明した。
【0079】
以下、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。実施例及び比較例における光学測定は、建築窓ガラス用フィルムJISA 5759(1998)(光源:A光)に基づき測定を行い、可視光透過率、日射透過率を算出した。ただし、測定用試料は、ガラスに貼付せず、フィルム試料自体を使用した。ヘイズ値は、JISK7105に基づき測定を行なった。平均分散粒子直径は、動的光散乱法を用いた測定装置(ELS−800(大塚電子株式会社製))により測定した平均値とした。
尚、実施例で使用した基材PETフィルム(HPE−50(帝人製))の光学特性は、可視光透過率89%、日射透過率89%、ヘイズ0.8%である。
【実施例1】
【0080】
6塩化タングステンと2塩化銅とを、WとCuのモル比が1対0.2となるように所定量秤量し、エタノールに少量ずつ溶解し混合溶液を得た。この混合溶液を130℃で乾燥し、粉末状の出発原料とした。この出発原料を、還元雰囲気(アルゴン/水素=95/5体積比)中において550℃で1時間加熱した。そして、一度室温に戻した後800℃アルゴン雰囲気中で1時間加熱することで、Cu0.2WO2.72の粉末を作製した。このCu0.2WO2.72は、X線回折による結晶相の同定の結果、W1849の結晶相が観察され、比表面積は30m/gであった。
【0081】
このCu0.2WO2.72粉末を20重量部、トルエン75重量部、ポリアクリレート系分散剤5重量部を混合し、分散処理を行い、平均分散粒子直径80nmの分散液(A液)とした。このA液10重量部とハードコート用紫外線硬化樹脂(固形分100%)100重量部とを混合して赤外線遮蔽材料微粒子分散体液とした。この赤外線遮蔽材料微粒子分散体液を、PET樹脂フィルム(HPE−50)上にバーコーターを用いて塗布、成膜した。この成膜を60℃で30秒乾燥し溶剤を蒸発させた後、高圧水銀ランプで硬化させ赤外線遮蔽膜を得た。
【0082】
この赤外線遮蔽膜の光学特性を測定したところ、可視光透過率は61%で可視光領域の光を十分透過している事が分かった、更に日射透過率は45%であり、太陽光線の直接入射光を約55%遮蔽しており断熱効果が高いことが分かった。さらにヘイズは0.9%であり、透明性が極めて高く内部の状況が外部からもはっきり確認できた。透過色調は、美しい青色となった。
【0083】
但し、上述した可視光透過率、日射透過率は、単位面積当たりに分散している赤外線遮蔽材料の量によって変化するものであるため、可視光透過率、日射透過率とも、赤外線遮蔽材料の量によって連動して上下する。尚、当該実施例に記載した赤外線遮蔽材料の製造条件、粉体特性、および光学特性の概要を図5に示す一覧表に記載した。
以下の実施例も同様である。
【実施例2】
【0084】
6塩化タングステンをエタノールに少量ずつ溶解し溶液を得た。この溶液を130℃で乾燥し、粉末状の出発原料とした。この出発原料を、還元雰囲気(アルゴン/水素=95/5体積比)中において550℃で1時間加熱した。そして、一度室温に戻した後800℃アルゴン雰囲気中で1時間加熱することで、W1849(WO2.72)の粉末を作製した。
このWO2.72は、X線回折による結晶相の同定の結果、W1849の結晶相が観察され、比表面積は30m/gであった。
【0085】
このWO2.72粉末を20重量部、トルエン75重量部、ポリアクリレート系分散剤5重量部を混合し、分散処理を行い、平均分散粒子直径80nmの分散液(B液)とした。このB液10重量部とハードコート用紫外線硬化樹脂(固形分100%)100重量部とを混合して赤外線遮蔽材料微粒子分散体液とした。この赤外線遮蔽材料微粒子分散体液を、PET樹脂フィルム(HPE−50)上にバーコーターを用いて塗布、成膜した。この成膜を60℃で30秒乾燥し溶剤を蒸発させた後、高圧水銀ランプで硬化させ赤外線遮蔽膜を得た。
【0086】
この赤外線遮蔽膜の光学特性を測定したところ、可視光透過率は57%で可視光領域の光を十分透過している事が分かった、更に日射透過率は42%であり、太陽光線の直接入射光を約58%遮蔽しており断熱効果が高いことが分かった。さらにヘイズは0.9%であり、透明性が極めて高く内部の状況が外部からもはっきり確認できた。透過色調は、美しい青色となった。
【実施例3】
【0087】
6塩化タングステンと2塩化銅とを、WとCuのモル比が1対0.2となるように所定量秤量し、エタノールに少量ずつ溶解し混合溶液を得た。この混合溶液を大気中にて350℃で乾燥し、粉末状の出発原料とした。この出発原料を、アルゴン雰囲気中において980℃で15時間加熱し、Cu0.2WO2.72の粉末を作製した。当該Cu0.2WO2.72の粉末の比表面積は31m/gであった。
【0088】
このCu0.2WO2.72粉末を20重量部、トルエン75重量部、ポリアクリレート系分散剤5重量部を混合し、分散処理を行い、平均分散粒子直径80nmの分散液(C液)とした。このC液10重量部とハードコート用紫外線硬化樹脂(固形分100%)100重量部とを混合して赤外線遮蔽材料微粒子分散体液とした。この赤外線遮蔽材料微粒子分散体液を、PET樹脂フィルム(HPE−50)上にバーコーターを用いて塗布、成膜した。この成膜を60℃で30秒乾燥し溶剤を蒸発させた後、高圧水銀ランプで硬化させ赤外線遮蔽膜を得た。
【0089】
この赤外線遮蔽膜の光学特性を測定したところ、可視光透過率は58%で可視光領域の光を十分透過している事が分かった、更に日射透過率は43%であり、太陽光線の直接入射光を約57%遮蔽しており断熱効果が高いことが分かった。さらにヘイズは0.9%であり、透明性が極めて高く内部の状況が外部からもはっきり確認できた。透過色調は、美しい青色となった。
【実施例4】
【0090】
6塩化タングステンと硝酸アルミニウムとを、WとAlのモル比が1対0.1となるように所定量秤量し、エタノールに少量ずつ溶解し混合溶液を得た。この混合溶液を130℃で乾燥し、粉末状の出発原料とした。この出発原料を、還元雰囲気(アルゴン/水素=95/5体積比)中において550℃で1時間加熱した。そして、一度室温に戻した後800℃アルゴン雰囲気中で1時間加熱することで、Al0.1WO2.72の粉末を作製した。このAl0.1WO2.72は、X線回折による結晶相の同定の結果、W1849の結晶相が観察され、比表面積は28m/gであった。
【0091】
このAl0.1WO2.72粉末を20重量部、トルエン75重量部、ポリアクリレート系分散剤5重量部を混合し、分散処理を行い、平均分散粒子直径80nmの分散液(D液)とした。このD液10重量部とハードコート用紫外線硬化樹脂(固形分100%)100重量部とを混合して赤外線遮蔽材料微粒子分散体液とした。この赤外線遮蔽材料微粒子分散体液を、PET樹脂フィルム(HPE−50)上にバーコーターを用いて塗布、成膜した。この成膜を60℃で30秒乾燥し溶剤を蒸発させた後、高圧水銀ランプで硬化させ赤外線遮蔽膜を得た。
【0092】
この赤外線遮蔽膜の光学特性を測定したところ、可視光透過率は61%で可視光領域の光を十分透過している事が分かった、更に日射透過率は45%であり、太陽光線の直接入射光を約55%遮蔽しており断熱効果が高いことが分かった。さらにヘイズは0.9%であり、透明性が極めて高く内部の状況が外部からもはっきり確認できた。透過色調は、美しい青色となった。
【実施例5】
【0093】
6塩化タングステンと硝酸マンガンとを、WとMnのモル比が1対0.1となるように所定量秤量し、エタノールに少量ずつ溶解し混合溶液を得た。この混合溶液を130℃で乾燥し、粉末状の出発原料とした。この出発原料を、還元雰囲気(アルゴン/水素=95/5体積比)中において550℃で1時間加熱した。そして、一度室温に戻した後800℃アルゴン雰囲気中で1時間加熱することで、Mn0.1WO2.72の粉末を作製した。このMn0.1WO2.72は、X線回折による結晶相の同定の結果、W1849の結晶相が観察され、比表面積は30m/gであった。
【0094】
このMn0.1WO2.72粉末を20重量部、トルエン75重量部、ポリアクリレート系分散剤5重量部を混合し、分散処理を行い、平均分散粒子直径80nmの分散液(E液)とした。このE液10重量部とハードコート用紫外線硬化樹脂(固形分100%)100重量部とを混合して赤外線遮蔽材料微粒子分散体液とした。この赤外線遮蔽材料微粒子分散体液を、PET樹脂フィルム(HPE−50)上にバーコーターを用いて塗布、成膜した。この成膜を60℃で30秒乾燥し溶剤を蒸発させた後、高圧水銀ランプで硬化させ赤外線遮蔽膜を得た。
【0095】
この赤外線遮蔽膜の光学特性を測定したところ、可視光透過率は60%で可視光領域の光を十分透過している事が分かった、更に日射透過率は49%であり、太陽光線の直接入射光を約51%遮蔽しており断熱効果が高いことが分かった。さらにヘイズは0.9%であり、透明性が極めて高く内部の状況が外部からもはっきり確認できた。透過色調は、美しい青色となった。
【実施例6】
【0096】
3酸化タングステン粉末を出発原料とし、還元雰囲気(アルゴン/水素=95/5)で、550℃で1時間加熱し、一度室温に戻した後、更にアルゴン雰囲気で、800℃で1時間加熱することで、WO2.72の粉末を作製した。このWO2.72は、X線回折による結晶相の同定の結果、W1849の結晶相が観察され、比表面積は35m/gであった。
【0097】
このWO2.72粉末を20重量部、トルエン75重量部、ポリアクリレート系分散剤5重量部を混合し、分散処理を行い、平均分散粒子直径80nmの分散液(F液)とした。このF液2重量部とハードコート用紫外線硬化樹脂(固形分100%)100重量部とを混合して赤外線遮蔽材料微粒子分散体液とした。この赤外線遮蔽材料微粒子分散体液を、PET樹脂フィルム(HPE−50)上にバーコーターを用いて塗布、成膜した。この成膜を60℃で30秒乾燥し溶剤を蒸発させた後、高圧水銀ランプで硬化させ赤外線遮蔽膜を得た。
【0098】
この赤外線遮蔽膜の光学特性を測定したところ、可視光透過率は65%で可視光領域の光を十分透過している事が分かった、更に日射透過率は50%であり、太陽光線の直接入射光を約50%遮蔽しており断熱効果が高いことが分かった。さらにヘイズは0.9%であり、透明性が極めて高く内部の状況が外部からもはっきり確認できた。透過色調は、美しい青色となった。
【実施例7】
【0099】
6塩化タングステンと硝酸インジウムとを、WとInのモル比が1対0.3となるように所定量秤量し、エタノールに少量ずつ溶解し混合溶液を得た。この混合溶液を130℃で乾燥し、粉末状の出発原料とした。この出発原料を、還元雰囲気(アルゴン/水素=95/5体積比)中において500℃で1時間加熱した。そして、一度室温に戻した後800℃アルゴン雰囲気中で1時間加熱することで、In0.3WOの粉末を作製した。このIn0.3WOは、X線回折による結晶相の同定の結果、六方晶タングステンブロンズ(複合タングステン酸化物微粒子)の結晶相が観察され、比表面積は30m/gであった。
【0100】
このIn0.3WO粉末を20重量部、トルエン75重量部、ポリアクリレート系分散剤5重量部を混合し、分散処理を行い、平均分散粒子直径80nmの分散液(H液)とした。このH液10重量部とハードコート用紫外線硬化樹脂(固形分100%)100重量部とを混合して赤外線遮蔽材料微粒子分散体液とした。この赤外線遮蔽材料微粒子分散体液を、PET樹脂フィルム(HPE−50)上にバーコーターを用いて塗布、成膜した。この成膜を60℃で30秒乾燥し溶剤を蒸発させた後、高圧水銀ランプで硬化させ赤外線遮蔽膜を得た。
【0101】
この赤外線遮蔽膜の光学特性を測定したところ、可視光透過率は65%で可視光領域の光を十分透過している事が分かった、更に日射透過率は44%であり、太陽光線の直接入射光を約56%遮蔽しており断熱効果が高いことが分かった。さらにヘイズは0.9%であり、透明性が極めて高く内部の状況が外部からもはっきり確認できた。透過色調は、美しい青色となった。
【実施例8】
【0102】
実施例2で作製したWO2.72粉末を20重量部、トルエン75重量部、ポリアクリレート系5重量部を混合し、分散処理を行い、平均分散粒子直径80nmの分散液とした(I液)。このI液を50℃にて、真空乾燥機で溶剤成分を除去し粉末(I粉末)とした。このI粉末0.01kgとPET樹脂8.7kgとをVブレンダーにて乾式混合後、樹脂の溶融温度付近で十分に密閉混合を行って混合物とし、この混合物を溶融押出しして膜厚約50μmのフィルムに成形し赤外線遮蔽フィルムとした。
【0103】
この赤外線遮蔽フィルムの光学特性を測定したところ、可視光透過率は58%で可視光領域の光を十分透過している事が分かった、更に日射透過率は42%であり、太陽光線の直接入射光を約58%遮蔽しており断熱効果が高いことが分かった。さらにヘイズは0.7%であり、透明性が極めて高く内部の状況が外部からもはっきり確認できた。透過色調は、美しい青色となった。
【実施例9】
【0104】
6塩化タングステンをエタノールに少量ずつ溶解し溶液を得た。この溶液を130℃で乾燥し、粉末状の出発原料とした。この出発原料を、還元雰囲気(アルゴン/水素=95/5体積比)中において350℃で1時間加熱した。そして、一度室温に戻した後800℃アルゴン雰囲気中で1時間加熱することで、WO2.83とWO2.92の混合粉末を作製した。このWO2.83とWO2.92は、X線回折による結晶相の同定の結果、W2468とW2573との結晶相が観察され、比表面積は30m/gであった。
【0105】
このWO2.83粉末とWO2.92粉末の混合物を20重量部、トルエン75重量部、ポリアクリレート系分散剤5重量部を混合し、分散処理を行い、平均分散粒子直径80nmの分散液(J液)とした。このJ液10重量部とハードコート用紫外線硬化樹脂(固形分100%)100重量部とを混合して赤外線遮蔽材料微粒子分散体液とした。この赤外線遮蔽材料微粒子分散体液を、PET樹脂フィルム(HPE−50)上にバーコーターを用いて塗布、成膜した。この成膜を60℃で30秒乾燥し溶剤を蒸発させた後、高圧水銀ランプで硬化させ赤外線遮蔽膜を得た。
【0106】
この赤外線遮蔽膜の光学特性を測定したところ、可視光透過率は61%で可視光領域の光を十分透過している事が分かった、更に日射透過率は42%であり、太陽光線の直接入射光を約58%遮蔽しており断熱効果が高いことが分かった。さらにヘイズは0.9%であり、透明性が極めて高く内部の状況が外部からもはっきり確認できた。透過色調は、美しい青色となった。
【実施例10】
【0107】
6塩化タングステンをエタノールに少量ずつ溶解し溶液を得た。この溶液を130℃で乾燥し、粉末状の出発原料とした。この出発原料を、800℃アルゴン雰囲気中で1時間加熱し、WO2.83とWO2.92の混合粉末を作製した。このWO2.83とWO2.92の混合粉末は、X線回折による結晶相の同定の結果、W2468とW2573の結晶相が観察され、比表面積は30m/gであった。
【0108】
このWO2.83粉末とWO2.92粉末の混合物を20重量部、トルエン75重量部、ポリアクリレート系分散剤5重量部を混合し、分散処理を行い、平均分散粒子直径80nmの分散液(K液)とした。このK液10重量部とハードコート用紫外線硬化樹脂(固形分100%)100重量部とを混合して赤外線遮蔽材料微粒子分散体液とした。この赤外線遮蔽材料微粒子分散体液を、PET樹脂フィルム(HPE−50)上にバーコーターを用いて塗布、成膜した。この成膜を60℃で30秒乾燥し溶剤を蒸発させた後、高圧水銀ランプで硬化させ赤外線遮蔽膜を得た。
【0109】
この赤外線遮蔽膜の光学特性を測定したところ、可視光透過率は67%で可視光領域の光を十分透過している事が分かった、更に日射透過率は49%であり、太陽光線の直接入射光を約51%遮蔽しており断熱効果が高いことが分かった。さらにヘイズは0.9%であり、透明性が極めて高く内部の状況が外部からもはっきり確認できた。透過色調は、美しい青色となった。
【実施例11】
【0110】
6塩化タングステンと過塩素酸バリウム・3水和物とを、WとBaのモル比が1対0.21となるように所定量秤量し、それぞれエタノールに少量ずつ溶解後、両液を混合し混合溶液を得た。この混合溶液を130℃で乾燥し、粉末状の出発原料とした。この出発原料を、還元雰囲気(アルゴン/水素=95/5体積比)中において550℃で1時間加熱した。そして、一度室温に戻した後800℃アルゴン雰囲気中で1時間加熱することで、Ba0.21WOの粉末を作製した。このBa0.21WOの比表面積は30m/gであった。
【0111】
このBa0.21WO粉末を20重量部、トルエン75重量部、ポリアクリレート系分散剤5重量部を混合し、分散処理を行い、平均分散粒子直径80nmの分散液(L液)とした。このL液10重量部とハードコート用紫外線硬化樹脂(固形分100%)100重量部とを混合して赤外線遮蔽材料微粒子分散体液とした。この赤外線遮蔽材料微粒子分散体液を、PET樹脂フィルム(HPE−50)上にバーコーターを用いて塗布、成膜した。この成膜を60℃で30秒乾燥し溶剤を蒸発させた後、高圧水銀ランプで硬化させ赤外線遮蔽膜を得た。
【0112】
この赤外線遮蔽膜の光学特性を測定したところ、可視光透過率は59%で可視光領域の光を十分透過している事が分かった、更に日射透過率は35%であり、太陽光線の直接入射光を約65%遮蔽しており断熱効果が高いことが分かった。さらにヘイズは0.9%であり、透明性が極めて高く内部の状況が外部からもはっきり確認できた。透過色調は、美しい青色となった。
【実施例12】
【0113】
メタタングステン酸アンモニウム水溶液(WO換算で50wt%)と塩化セシウムの水溶液とを、WとCsとのモル比が1対0.33となるように所定量秤量し、両液を混合し混合溶液を得た。この混合溶液を130℃で乾燥し、粉末状の出発原料とした。この出発原料を、還元雰囲気(アルゴン/水素=95/5体積比)中において550℃で1時間加熱した。そして、一度室温に戻した後800℃アルゴン雰囲気中で1時間加熱することで、Cs0.33WOの粉末を作製した。この粉末の比表面積は20m/gであった。また、X線回折による結晶相の同定の結果、六方晶タングステンブロンズ(複合タングステン酸化物微粒子)の結晶相が観察された。
【0114】
このCs0.33WO粉末20重量部、トルエン75重量部、ポリアクリレート系分散剤5重量部とを混合し、分散処理を行い、平均分散粒子直径80nmの分散液(M液)とした。このM液10重量部とハードコート用紫外線硬化樹脂(固形分100%)100重量部とを混合して赤外線遮蔽材料微粒子分散体液とした。この赤外線遮蔽材料微粒子分散体液を、PET樹脂フィルム(HPE−50)上にバーコーターを用いて塗布、成膜した。この膜を60℃で30秒乾燥し溶剤を蒸発させた後、高圧水銀ランプで硬化させ赤外線遮蔽膜を得た。
【0115】
この赤外線遮蔽膜の光学特性を測定したところ、可視光透過率は72%で可視光領域の光を十分透過している事が分かった、更に日射透過率は39%であり、太陽光線の直接入射光を約61%遮蔽しており断熱効果が高いことが分かった。さらにヘイズは0.9%であり、透明性が極めて高く内部の状況が外部からもはっきり確認できた。透過色調は、美しい青色となった。
【実施例13】
【0116】
メタタングステン酸アンモニウム水溶液(WO換算で50wt%)と蟻酸タリウムの水溶液とを、WとTlのモル比が1対0.33となるように所定量秤量し、両液を混合し混合溶液を得た。この混合溶液を130℃で乾燥し、粉末状の出発原料とした。この出発原料を、還元雰囲気(アルゴン/水素=95/5体積比)中において550℃で1時間加熱した。そして、一度室温に戻した後800℃アルゴン雰囲気中で1時間加熱することで、Tl0.33WOの粉末を作製した。この粉末の比表面積は20m/gであった。また。X線回折による結晶相の同定の結果、六方晶タングステンブロンズ(複合タングステン酸化物微粒子)の結晶相が観察された。
【0117】
このTl0.33WO粉末を20重量部、トルエン75重量部、ポリアクリレート系分散剤5重量部を混合し、分散処理を行い、平均分散粒子直径80nmの分散液(N液)とした。このN液10重量部とハードコート用紫外線硬化樹脂(固形分100%)100重量部とを混合して赤外線遮蔽材料微粒子分散体液とした。この赤外線遮蔽材料微粒子分散体液を、PET樹脂フィルム(HPE−50)上にバーコーターを用いて塗布、成膜した。この膜を60℃で30秒乾燥し溶剤を蒸発させた後、高圧水銀ランプで硬化させ赤外線遮蔽膜を得た。
【0118】
この赤外線遮蔽膜の光学特性を測定したところ、可視光透過率は71%で可視光領域の光を十分透過している事が分かった、更に日射透過率は42%であり、太陽光線の直接入射光を約58%遮蔽しており断熱効果が高いことが分かった。さらにヘイズは0.9%であり、透明性が極めて高く内部の状況が外部からもはっきり確認できた。透過色調は、美しい青色となった。
【実施例14】
【0119】
メタタングステン酸アンモニウム水溶液(WO換算で50wt%)と塩化ルビジウムの水溶液とを、WとRbのモル比が1対0.33となるように所定量秤量し、両液を混合し混合溶液を得た。この混合溶液を130℃で乾燥し、粉末状の出発原料とした。この出発原料を、還元雰囲気(アルゴン/水素=95/5体積比)中において550℃で1時間加熱した。そして、一度室温に戻した後800℃アルゴン雰囲気中で1時間加熱することで、Rb0.33WOの粉末を作製した。この粉末の比表面積は20m/gであった。また。X線回折による結晶相の同定の結果、六方晶タングステンブロンズ(複合タングステン酸化物微粒子)の結晶相が観察された。
【0120】
このRb0.33WO粉末を20重量部、トルエン75重量部、ポリアクリレート系分散剤5重量部を混合し、分散処理を行い、平均分散粒子直径80nmの分散液(O液)とした。このO液10重量部とハードコート用紫外線硬化樹脂(固形分100%)100重量部とを混合して赤外線遮蔽材料微粒子分散体液とした。この赤外線遮蔽材料微粒子分散体液を、PET樹脂フィルム(HPE−50)上にバーコーターを用いて塗布、成膜した。この膜を60℃で30秒乾燥し溶剤を蒸発させた後、高圧水銀ランプで硬化させ赤外線遮蔽膜を得た。
【0121】
この赤外線遮蔽膜の光学特性を測定したところ、可視光透過率は76%で可視光領域の光を十分透過している事が分かった、更に日射透過率は47%であり、太陽光線の直接入射光を約53%遮蔽しており断熱効果が高いことが分かった。さらにヘイズは0.9%であり、透明性が極めて高く内部の状況が外部からもはっきり確認できた。透過色調は、美しい青色となった。
【実施例15】
【0122】
メタタングステン酸アンモニウム水溶液(WO換算で50wt%)と塩化カリウムの水溶液とを、WとKのモル比が1対0.33となるように所定量秤量し、両液を混合し混合溶液を得た。この混合溶液を130℃で乾燥し、粉末状の出発原料とした。この出発原料を、還元雰囲気(アルゴン/水素=95/5体積比)中において550℃で1時間加熱した。そして、一度室温に戻した後800℃アルゴン雰囲気中で1時間加熱することで、K0.33WOの粉末を作製した。この粉末の比表面積は20m/gであった。また。X線回折による結晶相の同定の結果、六方晶タングステンブロンズ(複合タングステン酸化物微粒子)の結晶相が観察された。
【0123】
このK0.33WO粉末を20重量部、トルエン75重量部、ポリアクリレート系分散剤5重量部を混合し、分散処理を行い、平均分散粒子直径80nmの分散液(P液)とした。このP液10重量部とハードコート用紫外線硬化樹脂(固形分100%)100重量部とを混合して赤外線遮蔽材料微粒子分散体液とした。この赤外線遮蔽材料微粒子分散体液を、PET樹脂フィルム(HPE−50)上にバーコーターを用いて塗布、成膜した。この膜を60℃で30秒乾燥し溶剤を蒸発させた後、高圧水銀ランプで硬化させ赤外線遮蔽膜を得た。
【0124】
この赤外線遮蔽膜の光学特性を測定したところ、可視光透過率は68%で可視光領域の光を十分透過している事が分かった、更に日射透過率は43%であり、太陽光線の直接入射光を約57%遮蔽しており断熱効果が高いことが分かった。さらにヘイズは0.9%であり、透明性が極めて高く内部の状況が外部からもはっきり確認できた。透過色調は、美しい青色となった。
【実施例16】
【0125】
メタタングステン酸アンモニウム水溶液(WO換算で50wt%)と水酸化バリウム八水和物の水溶液とを、WとBaのモル比が1対0.33となるように所定量秤量し、両液を混合し混合溶液を得た。この混合溶液を130℃で乾燥し、粉末状の出発原料とした。この出発原料を、還元雰囲気(アルゴン/水素=95/5体積比)中において450℃で1時間加熱した。そして、一度室温に戻した後700℃アルゴン雰囲気中で1時間加熱することで、Ba0.33WOの粉末を作製した。この粉末の比表面積は20m/gであった。また。X線回折による結晶相の同定の結果、六方晶タングステンブロンズ(複合タングステン酸化物微粒子)の結晶相が観察された。
【0126】
このBa0.33WO粉末を20重量部、トルエン75重量部、ポリアクリレート系分散剤5重量部を混合し、分散処理を行い、平均分散粒子直径80nmの分散液(Q液)とした。このQ液10重量部とハードコート用紫外線硬化樹脂(固形分100%)100重量部とを混合して赤外線遮蔽材料微粒子分散体液とした。この赤外線遮蔽材料微粒子分散体液を、PET樹脂フィルム(HPE−50)上にバーコーターを用いて塗布、成膜した。この膜を60℃で30秒乾燥し溶剤を蒸発させた後、高圧水銀ランプで硬化させ赤外線遮蔽膜を得た。
【0127】
この赤外線遮蔽膜の光学特性を測定したところ、可視光透過率は75%で可視光領域の光を十分透過している事が分かった、更に日射透過率は54%であり、太陽光線の直接入射光を約46%遮蔽しており断熱効果が高いことが分かった。さらにヘイズは0.9%であり、透明性が極めて高く内部の状況が外部からもはっきり確認できた。透過色調は、美しい青色となった。
【実施例17】
【0128】
WO・HOで記載されるタングステン酸化物の水和物粉末と炭酸セシウムの粉末とを、WとCsのモル比が1対0.33となるように所定量秤量し、両粉を混合した。この混合粉末を出発原料とした。この出発原料を、還元雰囲気(アルゴン/水素=97/3体積比)中において600℃で1時間加熱し、アルゴン雰囲気に置換後800℃で1時間加熱することで、Cs0.33WOの粉末を作製した。この粉末の比表面積は20m/gであった。また。X線回折による結晶相の同定の結果、六方晶タングステンブロンズ(複合タングステン酸化物微粒子)の結晶相が観察された。
【0129】
このCs0.33WO粉末を20重量部、トルエン75重量部、ポリアクリレート系分散剤5重量部を混合し、分散処理を行い、平均分散粒子直径80nmの分散液(R液)とした。このR液10重量部とハードコート用紫外線硬化樹脂(固形分100%)100重量部とを混合して赤外線遮蔽材料微粒子分散体液とした。この赤外線遮蔽材料微粒子分散体液を、PET樹脂フィルム(HPE−50)上にバーコーターを用いて塗布、成膜した。この膜を60℃で30秒乾燥し溶剤を蒸発させた後、高圧水銀ランプで硬化させ赤外線遮蔽膜を得た。
【0130】
この赤外線遮蔽膜の光学特性を測定したところ、可視光透過率は70%で可視光領域の光を十分透過している事が分かった、更に日射透過率は36%であり、太陽光線の直接入射光を約64%遮蔽しており断熱効果が高いことが分かった。さらにヘイズは0.9%であり、透明性が極めて高く内部の状況が外部からもはっきり確認できた。透過色調は、美しい青色となった。
【実施例18】
【0131】
WO・HOで記載されるタングステン酸化物の水和物粉末と炭酸カリウムの粉末とを、WとKのモル比が1対0.55となるように所定量秤量した後、両粉を混合した。この混合粉末を出発原料とした。この出発原料を、還元雰囲気(アルゴン/水素=97/3体積比)中において600℃で1時間加熱し、アルゴン雰囲気に置換後、800℃で1時間加熱することで、K0.55WOの粉末を作製した。この粉末の比表面積は30m/gであった。また、この粉末のX線回折による結晶相の同定の結果、正方晶タングステンブロンズ(複合タングステン酸化物微粒子)の結晶相が観察された。
【0132】
このK0.55WO粉末を20重量部、トルエン75重量部、ポリアクリレート系分散剤5重量部を混合した後、分散処理を行い、平均分散粒子直径80nmの分散液(S液)とした。このS液10重量部とハードコート用紫外線硬化樹脂(固形分100%)100重量部とを混合して、赤外線遮蔽材料微粒子分散体液とした。この赤外線遮蔽材料微粒子分散体液を、PET樹脂フィルム(HPE−50)上にバーコーターを用いて塗布、成膜した。この成膜を60℃で30秒乾燥し溶剤を蒸発させた後、高圧水銀ランプで硬化させ赤外線遮蔽膜を得た。
【0133】
この赤外線遮蔽膜の光学特性を測定したところ、可視光透過率は69%で可視光領域の光を十分透過している事が分かった、更に日射透過率は40%であり、太陽光線の直接入射光を約60%遮蔽しており断熱効果が高いことが分かった。さらにヘイズは0.9%であり、透明性が極めて高く内部の状況が外部からもはっきり確認できた。透過色調は、美しい青色となった。
【実施例19】
【0134】
WO・HOで記載されるタングステン酸化物の水和物粉末と炭酸ナトリウムの粉末とを、WとNaのモル比が1対0.50となるように所定量秤量した後、両粉を混合した。この混合粉末を出発原料とした。この出発原料を、還元雰囲気(アルゴン/水=97/3体積比)中において600℃で1時間加熱し、アルゴン雰囲気に置換後、800℃で1時間加熱することで、Na0.5WOの粉末を作製した。この粉末の比表面積は20m/gであった。また。この粉末のX線回折による結晶相の同定の結果、立方晶タングステンブロンズ(複合タングステン酸化物微粒子)の結晶相が観察された。
【0135】
このNa0.5WO粉末を20重量部、トルエン75重量部、ポリアクリレート系分散剤5重量部を混合し、分散処理を行い、平均分散粒子直径80nmの分散液(T液)とした。このT液10重量部とハードコート用紫外線硬化樹脂(固形分100%)100重量部とを混合して赤外線遮蔽材料微粒子分散体液とした。この赤外線遮蔽材料微粒子分散体液を、PET樹脂フィルム(HPE−50)上にバーコーターを用いて塗布、成膜した。この成膜を60℃で30秒乾燥し溶剤を蒸発させた後、高圧水銀ランプで硬化させ赤外線遮蔽膜を得た。
【0136】
この赤外線遮蔽膜の光学特性を測定したところ、可視光透過率は75%で可視光領域の光を十分透過している事が分かった、更に日射透過率は53%であり、太陽光線の直接入射光を約47%遮蔽しており断熱効果が高いことが分かった。さらにヘイズは0.9%であり、透明性が極めて高く内部の状況が外部からもはっきり確認できた。透過色調は、美しい青色となった。
【0137】
(比較例1)
実施例1から10にて基材として使用した、PET樹脂フィルム(HPE−50)自体の光学特性を測定した。すると、上述したように、可視光透過率は88%で可視光領域の光を十分透過しているが、日射透過率は88%であり、太陽光線の直接入射光を約12%しか遮蔽しておらず断熱効果が低いことが判明した。
【0138】
(参考例1)
1849粉末の替わりにWO(三酸化タングステン)粉末を使用した以外は、実施例2と同様の方法で、微粒子分散膜を作製した。当該微粒子分散膜の光学特性を測定したところ、可視光透過率は83.44%、日射透過率は81.76%であり、太陽光線の直接入射光を約17.24%遮蔽していることが判明した。
【産業上の利用可能性】
【0139】
本発明は、建築分野、輸送機器分野、等に用いられる窓材等や電子機器等へ赤外線遮蔽効果を付与する際、好個に利用される。
【図面の簡単な説明】
【0140】
[図1]本発明に係るW1849の微粒子分散膜の透過プロイファイル測定結果例である。
[図2]本発明に係る六方晶Cs0.33WO複合タングステン酸化物微粒子分散膜の透過プロファイル測定結果例である。
[図3]本発明に係る六方晶Rb0.33WO複合タングステン酸化物微粒子分散膜の透過プロファイル測定結果例である。
[図4]本発明に係る六方晶を有する複合タングステン酸化物の結晶構造の模式図である。
[図5]本発明の実施例に係る赤外線遮蔽材料の製造条件、粉体特性、および光学特性の一覧表である。
【符号の説明】
【0141】
1.WO6単位
2.元素M
3.六方晶の結晶構造
【図1】

【図2】

【図3】

【図4】

【図5】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
赤外線遮蔽材料微粒子が媒体中に分散してなる赤外線遮蔽材料微粒子分散体であって、
前記赤外線遮蔽材料微粒子は、タングステン酸化物微粒子、または/及び、複合タングステン酸化物微粒子を含有し、
前記赤外線遮蔽材料微粒子の粒子直径は、1nm以上800nm以下であることを特徴とする赤外線遮蔽材料微粒子分散体。
【請求項2】
前記タングステン酸化物微粒子が、一般式WyOz(但し、Wはタングステン、Oは酸素、2.2≦z/y≦2.999)で表記されるタングステン酸化物の微粒子であることを特徴とする請求項1記載の赤外線遮蔽材料微粒子分散体。
【請求項3】
前記複合タングステン酸化物微粒子が、一般式MxWyOz(但し、Mは、H、He、アルカリ金属、アルカリ土類金属、希土類元素、Mg、Zr、Cr、Mn、Fe、Ru、Co、Rh、Ir、Ni、Pd、Pt、Cu、Ag、Au、Zn、Cd、Al、Ga、In、Tl、Si、Ge、Sn、Pb、Sb、B、F、P、S、Se、Br、Te、Ti、Nb、V、Mo、Ta、Re、Be、Hf、Os、Bi、Iのうちから選択される1種類以上の元素、Wはタングステン、Oは酸素、0.001≦x/y≦1、2.2≦z/y≦3.0)で表記される複合タングステン酸化物の微粒子であることを特徴とする請求項1記載の赤外線遮蔽材料微粒子分散体。
【請求項4】
前記タングステン酸化物微粒子、または/及び、前記複合タングステン酸化物微粒子が、一般式WyOz(但し、Wはタングステン、Oは酸素、2.45≦z/y≦2.999)で表記される組成比のマグネリ相を含むことを特徴とする請求項1から3のいずれか記載の赤外線遮蔽材料微粒子分散体。
【請求項5】
一般式MxWyOzで表記される前記複合タングステン酸化物微粒子が、六方晶もしくは正方晶もしくは立方晶の結晶構造を有する微粒子の、いずれか1種類以上を含むことを特徴とする請求項3記載の赤外線遮蔽材料微粒子分散体。
【請求項6】
一般式MxWyOzで表記される前記複合タングステン酸化物微粒子が、六方晶の結晶構造を含む、もしくは全て六方晶の結晶構造を有することを特徴とする請求項3記載の赤外線遮蔽材料微粒子分散体。
【請求項7】
前記M元素が、Cs、Rb、K、Tl、In、Ba、Li、Ca、Sr、Fe、Snのうちの1種類以上であることを特徴とする請求項5または6記載の赤外線遮蔽材料微粒子分散体。
【請求項8】
前記赤外線遮蔽材料微粒子の表面が、Si、Ti、Zr、Alのいずれか1種類以上の元素を含有する酸化物で被覆されていることを特徴とする請求項1から7のいずれか記載の赤外線遮蔽材料微粒子分散体。
【請求項9】
前記媒体が、樹脂またはガラスであることを特徴とする請求項1から8のいずれか記載の赤外線遮蔽材料微粒子分散体。
【請求項10】
前記樹脂が、ポリエチレン樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、ポリ塩化ビニリデン樹脂、ポリビニルアルコール樹脂、ポリスチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、エチレン酢酸ビニル共重合体、ポリエステル樹脂、ポリエチレンテレフタレート樹脂、ふっ素樹脂、ポリカーボネート樹脂、アクリル樹脂、ポリビニルブチラール樹脂のうちのいずれか1種類以上であることを特徴とする請求項9記載の赤外線遮蔽材料微粒子分散体。
【請求項11】
請求項1から10のいずれか記載の赤外線遮蔽材料微粒子分散体が、板状またはフィルム状または薄膜状に形成されたものであることを特徴とする赤外線遮蔽体。
【請求項12】
一般式WyOz(但し、Wはタングステン、Oは酸素、2.2≦z/y≦2.999)で表記されるタングステン酸化物微粒子、または/及び、一般式MxWyOz(但し、Mは、H、He、アルカリ金属、アルカリ土類金属、希土類元素、Mg、Zr、Cr、Mn、Fe、Ru、Co、Rh、Ir、Ni、Pd、Pt、Cu、Ag、Au、Zn、Cd、Al、Ga、In、Tl、Si、Ge、Sn、Pb、Sb、B、F、P、S、Se、Br、Te、Ti、Nb、V、Mo、Ta、Re、Be、Hf、Os、Bi、Iのうちから選択される1種類以上の元素、Wはタングステン、Oは酸素、0.001≦x/y≦1、2.2≦z/y≦3.0)で表記される複合タングステン酸化物微粒子を含有する赤外線遮蔽材料微粒子の製造方法であって、
前記赤外線遮蔽材料微粒子の出発原料を、還元性ガス雰囲気中、または/及び、不活性ガス雰囲気中で熱処理して、前記赤外線遮蔽材料微粒子を製造することを特徴とする赤外線遮蔽材料微粒子の製造方法。
【請求項13】
前記熱処理は、前記赤外線遮蔽材料微粒子の出発原料を、還元性ガス雰囲気中にて100℃以上850℃以下で熱処理し、次いで、不活性ガス雰囲気中にて650℃以上1200℃以下の温度で熱処理するものであることを特徴とする請求項12記載の赤外線遮蔽材料微粒子の製造方法。
【請求項14】
前記一般式WyOzで表記されるタングステン酸化物微粒子の出発原料が、
3酸化タングステン粉末、
2酸化タングステン粉末、
タングステン酸化物の水和物粉末、
6塩化タングステン粉末、
タングステン酸アンモニウム粉末、
6塩化タングステンをアルコール中に溶解させた後、乾燥して得られるタングステン酸化物の水和物粉末、
6塩化タングステンをアルコール中に溶解させた後、水を添加して沈殿を生成させ、当該沈殿を乾燥して得られるタングステン酸化物の水和物粉末、
タングステン酸アンモニウム水溶液を乾燥して得られるタングステン化合物粉末、
金属タングステン粉末、から選択されるいずれか1種類以上の粉末であることを特徴とする請求項12または13記載の赤外線遮蔽材料微粒子の製造方法。
【請求項15】
前記一般式MxWyOzで表記される複合タングステン酸化物の微粒子の出発原料が、
3酸化タングステン粉末、
2酸化タングステン粉末、
タングステン酸化物の水和物粉末、
6塩化タングステン粉末、
タングステン酸アンモニウム粉末、
6塩化タングステンをアルコール中に溶解させた後、乾燥して得られるタングステン酸化物の水和物粉末、
6塩化タングステンをアルコール中に溶解させた後、水を添加して沈殿を生成させ、当該沈殿を乾燥して得られるタングステン酸化物の水和物粉末、
タングステン酸アンモニウム水溶液を乾燥して得られるタングステン化合物粉末、
金属タングステン粉末、から選択されるいずれか1種類以上の粉末と、前記M元素を含有する単体または化合物の粉末とを、混合した粉末であることを特徴とする請求項12または13記載の赤外線遮蔽材料微粒子の製造方法。
【請求項16】
前記一般式MxWyOzで表記される複合タングステン酸化物の微粒子の出発原料が、
6塩化タングステンのアルコール溶液またはタングステン酸アンモニウム水溶液と、前記M元素を含有する化合物の溶液とを、混合した後乾燥した粉末であることを特徴とする請求項12または13記載の赤外線遮蔽材料微粒子の製造方法。
【請求項17】
前記一般式MxWyOzで表記される複合タングステン酸化物の微粒子の出発原料が、
6塩化タングステンをアルコール中に溶解させた後、水を添加して沈殿を生成させた分散液と、
前記M元素を含有する単体または化合物の粉末、または、前記M元素を含有する化合物の溶液とを、混合した後乾燥した粉末であることを特徴とする請求項12または13記載の赤外線遮蔽材料微粒子の製造方法。
【請求項18】
請求項12から17のいずれか記載の赤外線遮蔽材料微粒子の製造方法により製造された、一般式WyOz(但し、Wはタングステン、Oは酸素、2.2≦z/y≦2.999)で表記されるタングステン酸化物微粒子、または/及び、一般式MxWyOz(但し、Mは、H、He、アルカリ金属、アルカリ土類金属、希土類元素、Mg、Zr、Cr、Mn、Fe、Ru、Co、Rh、Ir、Ni、Pd、Pt、Cu、Ag、Au、Zn、Cd、Al、Ga、In、Tl、Si、Ge、Sn、Pb、Sb、B、F、P、S、Se、Br、Te、Ti、Nb、V、Mo、Ta、Re、Be、Hf、Os、Bi、Iのうちから選択される1種類以上の元素、Wはタングステン、Oは酸素、0.001≦x/y≦1、2.2≦z/y≦3.0)で表記される複合タングステン酸化物微粒子、を含むことを特徴とする赤外線遮蔽材料微粒子。

【国際公開番号】WO2005/037932
【国際公開日】平成17年4月28日(2005.4.28)
【発行日】平成18年12月28日(2006.12.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−514794(P2005−514794)
【国際出願番号】PCT/JP2004/015249
【国際出願日】平成16年10月15日(2004.10.15)
【出願人】(000183303)住友金属鉱山株式会社 (2,015)
【Fターム(参考)】