説明

赤外色素組成物及びそれを用いた赤外線吸収インク及び電子写真用トナー

【課題】本発明の課題は、可視域のグレーバランスに優れた赤外色素組成物およびそれを用いた赤外線吸収インク及び電子写真用トナーを提供することである。
【解決手段】赤外色素組成物であって、少なくとも、400nm以上1050nm以下における分光吸収極大波長が750nm以上1050nm以下の領域にある化合物(I)と400nm以上1050nm以下における分光吸収極大波長が400nm以上700nm以下の範囲にある化合物(II)を含有し、該赤外色素組成物の750nm以上1050nm以下の領域の分光吸収極大波長における吸光度を1としたとき、400nm〜700nmの領域における最大吸光度(Dmax)が0.5以下であり、400nm以上700nm以下の領域における吸光度の最小値(Dmin)に対する前記最大吸光度(Dmax)の比(Dmax/Dmin)が10以下である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は赤外色素組成物に関するものであって、更に詳しくは赤外線吸収印刷インク及び赤外線吸収インクジェットインクなどの赤外線吸収インク、電子写真用トナーなどの赤外線吸収記録形成材および赤外線吸収フィルターなどのオプトエレクトロニクス製品に用いられる可視域のグレーバランス、耐光性、その他の諸物性を併せ持つ赤外色素組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
近赤外線吸収材料は近赤外線吸収印刷インクなどの近赤外線吸収記録形成材に用いられている。近赤外線吸収材料を製造する際、用途によっては使用する色素の色味が目立たないことが要求される。しかし、ほとんどの近赤外線吸収色素は近赤外域に主吸収を持つ一方で可視域の一部にも副吸収を持っているため、この副吸収に由来する色味が問題視されてきた。例えば、高い可視光線透過率を持ち、且つ、青色(460nm付近)、緑色(545nm付近)及び赤色(610nm付近)の波長での透過率のバランスがよく、850nm〜950nmの波長領域の近赤外線光のカット効率の高い、特定の構造のフタロシアニン色素が開示されている(例えば、特許文献1参照)。また、プラズマディスプレイ用途の近赤外線吸収フィルターとして、800nm〜900nmの平均透過率が10%以下であるフィルターに、さらに可視域に吸収を有する色素を併用し、吸収透過率が40%以上である近赤外線吸収フィルターが開示されている(例えば特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2007−56105号公報
【特許文献2】特開2003−262719号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の目的は、赤外線吸収印刷インク及び赤外線吸収インクジェットインクなどの赤外線吸収インク、電子写真用トナーなどの赤外線吸収記録形成材および赤外線吸収フィルターなどのオプトエレクトロニクス製品に用いられる可視域のグレーバランス、耐光性、その他の諸物性を併せ持つ赤外色素組成物を提供することにある。
【0005】
特開2007−56,105号公報が開示するフタロシアニン色素はフタロシアニン骨格のα位にOR基又はNHR基を有し、β位にSR基を有する特異的構造であり、合成が難しく、従ってコストも高くなるという問題があった。
また、特開2003−262,719号公報が開示する近赤外線吸収フィルターは、赤外染料として、ジアリールチオール金属錯体を用いて、その可視領域における副吸収による着色を可視域に吸収を有する色素で色補正するものであって、グレーの色味を得る事ができるが、全体的に可視域透過率が低下する問題があった。
従って、特に、近赤外線吸収印刷インクなどの近赤外線吸収記録形成材に関する用途として、可視域透過率が高く、かつ実質的に着色のない赤外色素組成物が求められた。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは鋭意検討の結果、下記手段によりにより本発明の上記目的が達成されることを見出した。
<1> 少なくとも、400nm以上1050nm以下における分光吸収極大波長が750nm以上1050nm以下の領域にある化合物(I)と400nm以上1050nm以下における分光吸収極大波長が400nm以上700nm以下の範囲にある化合物(II)を含有し、該赤外色素組成物の750nm以上1050nm以下の領域の分光吸収極大波長における吸光度を1としたとき、400nm〜700nmの領域における最大吸光度(Dmax)が0.5以下であり、400nm以上700nm以下の領域における吸光度の最小値(Dmin)に対する前記最大吸光度(Dmax)の比(Dmax/Dmin)が10以下である赤外色素組成物である。
<2> 前記化合物(II)を2種以上含むことを特徴とする<1>に記載の赤外色素組成物である。
<3> 前記Dmax/Dmin比が4以下であることを特徴とする<1>または<2>に記載の赤外色素組成物である。
<4> 前記最大吸光度(Dmax)が0.2以下であることを特徴とする<1>〜<3>のいずれかに記載の赤外色素組成物である。
<5> 前記化合物(I)がナフタロシアニン色素又はジイモニウム化合物であることを特徴とする<1>〜<4>のいずれかに記載の赤外色素組成物である。
<6> 前記ナフタロシアニン色素が下記一般式(I−a)で表される化合物である<5>に記載の赤外色素組成物である。
【0007】
【化1】

【0008】
式中、R11、R12、R13、R14、R15、R16、R21、R22、R23、R24、R25、R26、R31、R32、R33、R34、R35、R36、R41、R42、R4344、R45およびR46は、各々独立に、水素原子、又は、ハロゲン原子、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アリール基、シアノ基、ヒドロキシル基、ニトロ基、カルボキシル基、アルコキシ基、アリールオキシ基、シリルオキシ基、ヘテロ環オキシ基、アシルオキシ基、カルバモイルオキシ基、アルコキシカルボニルオキシ基、アリールオキシカルボニルオキシ基、アミノ基、アシルアミノ基、アミノカルボニルアミノ基、アルコキシカルボニルアミノ基、アリールオキシカルボニルアミノ基、スルファモイルアミノ基、アルキル及びアリールスルホニルアミノ基、メルカプト基、アルキルチオ基、アリールチオ基、ヘテロ環チオ基、スルファモイル基、スルホ基、アルキルおよびアリールスルフィニル基、アルキルおよびアリールスルホニル基、アシル基、アリールオキシカルボニル基、アルコキシカルボニル基、カルバモイル基、イミド基、ホスフィノ基、ホスフィニル基、ホスフィニルオキシ基、ホスフィニルアミノ基、及びシリル基よりなる群より選ばれる置換基を表し、M211は水素原子、金属イオン又は金属イオンを含む基を表し、nは1又は2である。
<7> 前記化合物(II)がアントラキノン化合物、チオインジゴ化合物又はペリノン化合物であることを特徴とする<1>〜<6>のいずれかに記載の赤外色素組成物である。
<8> <1>〜<7>のいずれかに記載の赤外色素組成物を含有してなる赤外線吸収インクである。
<9> <1>〜<7>のいずれかに記載の赤外色素組成物を含有してなる電子写真用トナーである。
【発明の効果】
【0009】
本発明により、近赤外線吸収印刷インク、近赤外線吸収インクなどの赤外線吸収インク及び電子写真用トナーに用いられる、可視域のグレーバランス、耐光性、その他の諸物性を併せ持つ赤外色素組成物が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明による赤外色素組成物の分光吸収スペクトルである。
【図2】本発明による別の組成の赤外色素組成物の分光吸収スペクトルである。
【図3】本発明による赤外色素組成物を用いたインクによる印刷の分光反射スペクトルである。
【図4】本発明による別の組成の赤外色素組成物を用いたインクによる印刷の分光反射スペクトルである。
【図5】比較の赤外色素組成物の分光吸収スペクトルである。
【図6】比較の赤外色素組成物を用いたインクによる印刷の分光反射スペクトルである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下本発明の実施の形態について更に詳しく説明する。
1.赤外色素組成物
本発明の赤外色素組成物は、
(1)少なくとも400nm以上1050nm以下における分光吸収極大波長が750nm以上1050nm以下である化合物(I)と;
(2)400nm以上1050nm以下における分光吸収極大波長が400nm以上700nm以下である化合物(II)を含有し;
(3)該赤外色素組成物の750nm以上1050nm以下の分光吸収極大波長における吸光度を1としたとき、400nm〜700nmの領域における最大吸光度(Dmax)が0.5以下であり;
(4)400nm以上700nm以下の領域における吸光度の最小値(Dmin)に対する前記最大吸光度(Dmax)の比(Dmax/Dmin)が10以下であることを特徴とする。
【0012】
(分光吸収の測定方法)
本発明における赤外色素組成物の分光吸収スペクトルは、下記により測定され、得られた分光吸収スペクトルより400nm以上1050nm以下の波長範囲での分光吸収極大波長、分光吸収極大波長における吸光度と400nm〜700nmの領域における最大吸光度(Dmax)の比率、及び400nm〜700nmの領域における最大吸光度(Dmax)及び最小値(Dmin)を求めることができる。
【0013】
分光吸収極大波長を確認するための溶液は、化合物(I)および(II)を有機或いは無機の溶媒または水を単独或いはそれらの混合物を用いて溶解したものである。
有機溶媒としては、例えばアミド系溶媒(例えばN,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、1−メチルー2−ピロリドン)、スルホン系溶媒(例えばスルホラン)スルホキシド系溶媒(例えばジメチルスルホキシド)、ウレイド系溶媒(例えばテトラメチルウレア)、エーテル系溶媒(例えばジオキサン、テトラヒドロフラン、シクロペンチルメチルエーテル)、ケトン系溶媒(例えばアセトン、シクロヘキサノン)、炭化水素系溶媒(例えばトルエン、キシレン、n−デカン)、ハロゲン系溶媒(例えばテトラクロロエタン,クロロベンゼン、クロロナフタレン)、アルコール系溶媒(例えばメタノール、エタノール、イソプロピルアルコール、エチレングリコール、シクロヘキサノール、フェノール)、ピリジン系溶媒(例えばピリジン、γ−ピコリン、2,6−ルチジン)、エステル系溶媒(例えば酢酸エチル、酢酸ブチル)、カルボン酸系溶媒(例えば酢酸、プロピオン酸)、ニトリル系溶媒(例えばアセトニトリル)、スルホン酸系溶媒(例えばメタンスルホン酸)、アミン系溶媒(例えばトリエチルアミン、トリブチルアミン)等を用いることができる。
無機溶媒としては、例えば硫酸、リン酸等を用いることができる。
【0014】
化合物(I)および(II)の溶解性の点から、アミド系溶媒、スルホン系溶媒、スルホキシド系溶媒、ウレイド系溶媒、エーテル系溶媒、ケトン系溶媒、ハロゲン系溶媒、炭化水素系溶媒、アルコール系溶媒、エステル系溶媒、又はニトリル系溶媒が好ましい。
【0015】
測定のための化合物(I)および(II)の濃度は、分光吸収の極大波長が確認できる濃度であれば特に制限されず、好ましくは1×10−7mol/L〜1×1013mol/Lの範囲である。
測定のための温度は特に制限されず、好ましくは0℃〜80℃である。
【0016】
分光吸収測定装置としては、特に制限されず、通常の分光吸収測定装置(例えば、日立ハイテクノロジーズ(株)製U−4100スペクトロフォトメーター)を用いることができる。
【0017】
(赤外色素組成物の構成要素)
本発明における赤外色素組成物は、少なくとも750nm以上1050nm以下に分光吸収極大波長を有する化合物(I)と分光吸収極大波長が400nm以上700nm以下に分光吸収極大波長を有する化合物(II)を含有するが、色素以外の成分として、例えば、バインダー、防腐剤、帯電調節剤、カーボンブラック、紫外線吸収剤、酸化防止剤、ラジカルトラップ剤、乳化剤、防黴剤等の添加剤を含有しても良い。
本発明における赤外色素組成物は、色素のみあるいは添加剤を含有する固形混合物、すなわち粉体、液体、または粉体と液体の混合物、またはそれらが媒体に分散された状態であっても良い。媒体とは例えば、水、有機溶媒、及びバインダーとしての有機あるいは無機のポリマーなどが挙げられる。
【0018】
以下に各構成要素について詳細に説明する。
(置換基についての説明)
始めに、本願に於ける化合物における置換基について説明する。
本明細書において脂肪族基はアルキル基、置換アルキル基、アルケニル基、置換アルケニル基、アルキニル基、置換アルキニル基、アラルキル基および置換アラルキル基を意味する。アルキル基は分岐を有していてもよく、また環を形成していてもよい。アルキル基の炭素原子数は1〜20であることが好ましく、1〜18であることが更に好ましい。置換アルキル基のアルキル部分は、上記アルキル基と同様である。アルケニル基は分岐を有していてもよく、また環を形成していてもよい。アルケニル基の炭素原子数は2〜20であることが好ましく、2〜18であることが更に好ましい。置換アルケニル基のアルケニル部分は、上記アルケニル基と同様である。アルキニル基は分岐を有していてもよく、また環を形成していてもよい。アルキニル基の炭素原子数は2〜20であることが好ましく、2〜18であることが更に好ましい。置換アルキニル基のアルキニル部分は、上記アルキニル基と同様である。アラルキル基および置換アラルキル基のアルキル部分は、上記アルキル基と同様である。アラルキル基および置換アラルキル基のアリール部分は下記アリール基と同様である。
【0019】
置換アルキル基、置換アルケニル基、置換アルキニル基および置換アラルキル基のアルキル部分の置換基の例にはハロゲン原子(例えば、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子)、アルキル基[直鎖、分岐、環状の置換もしくは無置換のアルキル基を表す。それらは、アルキル基(好ましくは炭素数1から30のアルキル基、例えばメチル、エチル、n−プロピル、イソプロピル、t−ブチル、n−オクチル、エイコシル、2−クロロエチル、2−シアノエチル、2−エチルヘキシル)、シクロアルキル基(好ましくは、炭素数3から30の置換または無置換のシクロアルキル基、例えば、シクロヘキシル、シクロペンチル、4−n−ドデシルシクロヘキシル)、ビシクロアルキル基(好ましくは、炭素数5から30の置換もしくは無置換のビシクロアルキル基、つまり、炭素数5から30のビシクロアルカンから水素原子を一個取り去った一価の基である。例えば、ビシクロ[1,2,2]ヘプタン−2−イル、ビシクロ[2,2,2]オクタン−3−イル)、更に環構造が多いトリシクロ構造なども包含するものである。以下に説明する置換基の中のアルキル基(例えばアルキルチオ基のアルキル基)もこのような概念のアルキル基を表す。]、アルケニル基[直鎖、分岐、環状の置換もしくは無置換のアルケニル基を表す。それらは、アルケニル基(好ましくは炭素数2から30の置換または無置換のアルケニル基、例えば、ビニル、アリル、プレニル、ゲラニル、オレイル)、
【0020】
シクロアルケニル基(好ましくは、炭素数3から30の置換もしくは無置換のシクロアルケニル基、つまり、炭素数3から30のシクロアルケンの水素原子を一個取り去った一価の基である。例えば、2−シクロペンテン−1−イル、2−シクロヘキセン−1−イル)、ビシクロアルケニル基(置換もしくは無置換のビシクロアルケニル基、好ましくは、炭素数5から30の置換もしくは無置換のビシクロアルケニル基、つまり二重結合を一個持つビシクロアルケンの水素原子を一個取り去った一価の基である。例えば、ビシクロ[2,2,1]ヘプト−2−エン−1−イル、ビシクロ[2,2,2]オクト−2−エン−4−イル)を包含するものである。]、アルキニル基(好ましくは、炭素数2から30の置換または無置換のアルキニル基、例えば、エチニル、プロパルギル、トリメチルシリルエチニル基)、アリール基(好ましくは炭素数6から30の置換もしくは無置換のアリール基、例えばフェニル、p−トリル、ナフチル、m−クロロフェニル、o−ヘキサデカノイルアミノフェニル)、
【0021】
ヘテロ環基(好ましくは5または6員の置換もしくは無置換の、芳香族もしくは非芳香族のヘテロ環化合物から一個の水素原子を取り除いた一価の基であり、更に好ましくは、炭素数3から30の5もしくは6員の芳香族のヘテロ環基である。例えば、2−フリル、2−チエニル、2−ピリミジニル、2−ベンゾチアゾリル)、シアノ基、ヒドロキシル基、ニトロ基、カルボキシル基、アルコキシ基(好ましくは、炭素数1から30の置換もしくは無置換のアルコキシ基、例えば、メトキシ、エトキシ、イソプロポキシ、t−ブトキシ、n−オクチルオキシ、2−メトキシエトキシ)、アリールオキシ基(好ましくは、炭素数6から30の置換もしくは無置換のアリールオキシ基、例えば、フェノキシ、2−メチルフェノキシ、4−t−ブチルフェノキシ、3−ニトロフェノキシ、2−テトラデカノイルアミノフェノキシ)、シリルオキシ基(好ましくは、炭素数3から20のシリルオキシ基、例えば、トリメチルシリルオキシ、t−ブチルジメチルシリルオキシ)、ヘテロ環オキシ基(好ましくは、炭素数2から30の置換もしくは無置換のヘテロ環オキシ基、例えば、1−フェニルテトラゾールー5−オキシ、2−テトラヒドロピラニルオキシ)、
【0022】
アシルオキシ基(好ましくはホルミルオキシ基、炭素数2から30の置換もしくは無置換のアルキルカルボニルオキシ基、炭素数6から30の置換もしくは無置換のアリールカルボニルオキシ基、例えば、ホルミルオキシ、アセチルオキシ、ピバロイルオキシ、ステアロイルオキシ、ベンゾイルオキシ、p−メトキシフェニルカルボニルオキシ)、カルバモイルオキシ基(好ましくは、炭素数1から30の置換もしくは無置換のカルバモイルオキシ基、例えば、N,N−ジメチルカルバモイルオキシ、N,N−ジエチルカルバモイルオキシ、モルホリノカルボニルオキシ、N,N−ジ−n−オクチルアミノカルボニルオキシ、N−n−オクチルカルバモイルオキシ)、アルコキシカルボニルオキシ基(好ましくは、炭素数2から30の置換もしくは無置換アルコキシカルボニルオキシ基、例えばメトキシカルボニルオキシ、エトキシカルボニルオキシ、t−ブトキシカルボニルオキシ、n−オクチルカルボニルオキシ)、アリールオキシカルボニルオキシ基(好ましくは、炭素数7から30の置換もしくは無置換のアリールオキシカルボニルオキシ基、例えば、フェノキシカルボニルオキシ、p−メトキシフェノキシカルボニルオキシ、p−n−ヘキサデシルオキシフェノキシカルボニルオキシ)、
【0023】
アミノ基(好ましくは、アミノ基、炭素数1から30の置換もしくは無置換のアルキルアミノ基、炭素数6から30の置換もしくは無置換のアニリノ基、例えば、アミノ、メチルアミノ、ジメチルアミノ、アニリノ、N−メチル−アニリノ、ジフェニルアミノ)、アシルアミノ基(好ましくは、ホルミルアミノ基、炭素数1から30の置換もしくは無置換のアルキルカルボニルアミノ基、炭素数6から30の置換もしくは無置換のアリールカルボニルアミノ基、例えば、ホルミルアミノ、アセチルアミノ、ピバロイルアミノ、ラウロイルアミノ、ベンゾイルアミノ、3,4,5−トリ−n−オクチルオキシフェニルカルボニルアミノ)、アミノカルボニルアミノ基(好ましくは、炭素数1から30の置換もしくは無置換のアミノカルボニルアミノ、例えば、カルバモイルアミノ、N,N−ジメチルアミノカルボニルアミノ、N,N−ジエチルアミノカルボニルアミノ、モルホリノカルボニルアミノ)、アルコキシカルボニルアミノ基(好ましくは炭素数2から30の置換もしくは無置換アルコキシカルボニルアミノ基、例えば、メトキシカルボニルアミノ、エトキシカルボニルアミノ、t−ブトキシカルボニルアミノ、n−オクタデシルオキシカルボニルアミノ、N−メチルーメトキシカルボニルアミノ)、アリールオキシカルボニルアミノ基(好ましくは、炭素数7から30の置換もしくは無置換のアリールオキシカルボニルアミノ基、例えば、フェノキシカルボニルアミノ、p−クロロフェノキシカルボニルアミノ、m−n−オクチルオキシフェノキシカルボニルアミノ)、
【0024】
スルファモイルアミノ基(好ましくは、炭素数0から30の置換もしくは無置換のスルファモイルアミノ基、例えば、スルファモイルアミノ、N,N−ジメチルアミノスルホニルアミノ、N−n−オクチルアミノスルホニルアミノ)、アルキル及びアリールスルホニルアミノ基(好ましくは炭素数1から30の置換もしくは無置換のアルキルスルホニルアミノ、炭素数6から30の置換もしくは無置換のアリールスルホニルアミノ、例えば、メチルスルホニルアミノ、ブチルスルホニルアミノ、フェニルスルホニルアミノ、2,3,5−トリクロロフェニルスルホニルアミノ、p−メチルフェニルスルホニルアミノ)、メルカプト基、アルキルチオ基(好ましくは、炭素数1から30の置換もしくは無置換のアルキルチオ基、例えばメチルチオ、エチルチオ、n−ヘキサデシルチオ)、アリールチオ基(好ましくは炭素数6から30の置換もしくは無置換のアリールチオ、例えば、フェニルチオ、p−クロロフェニルチオ、m−メトキシフェニルチオ)、
【0025】
ヘテロ環チオ基(好ましくは炭素数2から30の置換または無置換のヘテロ環チオ基、例えば、2−ベンゾチアゾリルチオ、1−フェニルテトラゾール−5−イルチオ)、スルファモイル基(好ましくは炭素数0から30の置換もしくは無置換のスルファモイル基、例えば、N−エチルスルファモイル、N−(3−ドデシルオキシプロピル)スルファモイル、N,N−ジメチルスルファモイル、N−アセチルスルファモイル、N−ベンゾイルスルファモイル、N−(N‘−フェニルカルバモイル)スルファモイル)、スルホ基、アルキル及びアリールスルフィニル基(好ましくは、炭素数1から30の置換または無置換のアルキルスルフィニル基、6から30の置換または無置換のアリールスルフィニル基、例えば、メチルスルフィニル、エチルスルフィニル、フェニルスルフィニル、p−メチルフェニルスルフィニル)、アルキル及びアリールスルホニル基(好ましくは、炭素数1から30の置換または無置換のアルキルスルホニル基、6から30の置換または無置換のアリールスルホニル基、例えば、メチルスルホニル、エチルスルホニル、フェニルスルホニル、p−メチルフェニルスルホニル)、
【0026】
アシル基(好ましくはホルミル基、炭素数2から30の置換または無置換のアルキルカルボニル基、炭素数7から30の置換もしくは無置換のアリールカルボニル基、炭素数4から30の置換もしくは無置換の炭素原子でカルボニル基と結合しているヘテロ環カルボニル基、例えば、アセチル、ピバロイル、2−クロロアセチル、ステアロイル、ベンゾイル、p−n−オクチルオキシフェニルカルボニル、2−ピリジルカルボニル、2−フリルカルボニル)、アリールオキシカルボニル基(好ましくは、炭素数7から30の置換もしくは無置換のアリールオキシカルボニル基、例えば、フェノキシカルボニル、o−クロロフェノキシカルボニル、m−ニトロフェノキシカルボニル、p−t−ブチルフェノキシカルボニル)、アルコキシカルボニル基(好ましくは、炭素数2から30の置換もしくは無置換アルコキシカルボニル基、例えば、メトキシカルボニル、エトキシカルボニル、t−ブトキシカルボニル、n−オクタデシルオキシカルボニル)、カルバモイル基(好ましくは、炭素数1から30の置換もしくは無置換のカルバモイル、例えば、カルバモイル、N−メチルカルバモイル、N,N−ジメチルカルバモイル、N,N−ジ−n−オクチルカルバモイル、N−(メチルスルホニル)カルバモイル)、
【0027】
アリール及びヘテロ環アゾ基(好ましくは炭素数6から30の置換もしくは無置換のアリールアゾ基、炭素数3から30の置換もしくは無置換のヘテロ環アゾ基、例えば、フェニルアゾ、p−クロロフェニルアゾ、5−エチルチオ−1,3,4−チアジアゾール−2−イルアゾ)、イミド基(好ましくは、N−スクシンイミド、N−フタルイミド)、ホスフィノ基(好ましくは、炭素数2から30の置換もしくは無置換のホスフィノ基、例えば、ジメチルホスフィノ、ジフェニルホスフィノ、メチルフェノキシホスフィノ)、ホスフィニル基(好ましくは、炭素数2から30の置換もしくは無置換のホスフィニル基、例えば、ホスフィニル、ジオクチルオキシホスフィニル、ジエトキシホスフィニル)、ホスフィニルオキシ基(好ましくは、炭素数2から30の置換もしくは無置換のホスフィニルオキシ基、例えば、ジフェノキシホスフィニルオキシ、ジオクチルオキシホスフィニルオキシ)、ホスフィニルアミノ基(好ましくは、炭素数2から30の置換もしくは無置換のホスフィニルアミノ基、例えば、ジメトキシホスフィニルアミノ、ジメチルアミノホスフィニルアミノ)、又はシリル基(好ましくは、炭素数3から30の置換もしくは無置換のシリル基、例えば、トリメチルシリル、t−ブチルジメチルシリル、フェニルジメチルシリル)が挙げられる。
【0028】
上記の官能基の中で、水素原子を有するものは、これを取り去り更に上記の基で置換されていても良い。そのような官能基の例としては、アルキルカルボニルアミノスルホニル基、アリールカルボニルアミノスルホニル基、アルキルスルホニルアミノカルボニル基、アリールスルホニルアミノカルボニル基が挙げられる。その例としては、メチルスルホニルアミノカルボニル、p−メチルフェニルスルホニルアミノカルボニル、アセチルアミノスルホニル、ベンゾイルアミノスルホニル基が挙げられる。
【0029】
置換アラルキル基のアリール部分の置換基の例は、下記置換アリール基の置換基の例と同様である。
【0030】
本明細書において芳香族基は、アリール基および置換アリール基を意味する。またこれらの芳香族基は脂肪族環、他の芳香族環または複素環が縮合していてもよい。芳香族基の炭素原子数は6〜40が好ましく、6〜30が更に好ましく、6〜20が更に好ましい。またその中でもアリール基としてはフェニルまたはナフチルであることが好ましく、フェニルが特に好ましい。
【0031】
置換アリール基のアリール部分は、上記アリール基と同様である。置換アリール基の置換基の例としては、先に置換アルキル基、置換アルケニル基、置換アルキニル基及び置換アラルキル基のアルキル部分の置換基の例としてあげたものと同様である。
【0032】
本明細書において、複素環基は5員または6員の飽和または不飽和複素環を含むことが好ましい。複素環に脂肪族環、芳香族環または他の複素環が縮合していてもよい。複素環のヘテロ原子の例にはB,N,O,S,SeおよびTeが含まれる。ヘテロ原子としてはN,OおよびSが好ましい。複素環は炭素原子が遊離の原子価(一価)を有する(複素環基は炭素原子において結合する)ことが好ましい。好ましい複素環基の炭素原子数は1〜40であり、より好ましくは1〜30であり、更に好ましくは1〜20である。飽和複素環の例には、ピロリジン環、モルホリン環、2−ボラ−1,3−ジオキソラン環および1,3−チアゾリジン環が含まれる。不飽和複素環の例には、イミダゾール環、チアゾール環、ベンゾチアゾール環、ベンゾオキサゾール環、ベンゾトリアゾール環、ベンゾセレナゾール環、ピリジン環、ピリミジン環およびキノリン環が含まれる。複素環基は置換基を有していても良い。置換基の例としては、先に置換アルキル基、置換アルケニル基、置換アルキニル基及び置換アラルキル基のアルキル部分の置換基の例としてあげたものと同様である。
【0033】
(化合物(I))
本発明に於ける化合物(I)の分光吸収極大波長は、750nm以上1050nm以下の波長範囲にあり、好ましくは800nm〜1000nmであり、より好ましくは820nm〜950nmであり、最も好ましくは830nm〜880nmである。
化合物(I)としては例えばフタロシアニン化合物、ナフタロシアニン化合物、ジイモニウム化合物、シアニン化合物、スクアリリウム化合物、ポリメチン化合物、アゾメチン化合物、オキソノール化合物、クロコニウム化合物およびジチオール金属錯体が挙げられる。このうち好ましくはフタロシアニン化合物、ナフタロシアニン化合物、ジイモニウム化合物、シアニン化合物、クロコニウム化合物であり、さらに好ましくはナフタロシアニン化合物、又はジイモニウム化合物であり、最も好ましくはナフタロシアニン化合物である。
【0034】
<ナフタロシアニン化合物>
本発明に用いられるナフタロシアニン色素は、好ましくは以下の一般式(I−a)で表される化合物である。
【0035】
【化2】

【0036】
一般式(I−a)においてR11、R12、R13、R14、R15、R16、R21、R22、R23、R24、R25、R26、R31、R32、R33、R34、R35、R36、R41、R42、R4344、R45およびR46は各々独立に水素原子または置換基を表し、置換基の例としては前述の置換アルキル基、置換アルケニル基、置換アルキニル基および置換アラルキル基のアルキル部分の置換基の例としてあげたものと同様のものが挙げられる。
【0037】
11、R12、R13、R14、R15、R16、R21、R22、R23、R24、R25、R26、R31、R32、R33、R34、R35、R36、R41、R42、R4344、R45およびR46として好ましくはハロゲン原子、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アリール基、シアノ基、ヒドロキシル基、ニトロ基、カルボキシル基、アルコキシ基、アリールオキシ基、シリルオキシ基、ヘテロ環オキシ基、アシルオキシ基、カルバモイルオキシ基、アルコキシカルボニルオキシ基、アリールオキシカルボニルオキシ基、アミノ基、アシルアミノ基、アミノカルボニルアミノ基、アルコキシカルボニルアミノ基、アリールオキシカルボニルアミノ基、スルファモイルアミノ基、アルキル及びアリールスルホニルアミノ基、メルカプト基、アルキルチオ基、アリールチオ基、ヘテロ環チオ基、スルファモイル基、スルホ基、アルキルおよびアリールスルフィニル基、アルキルおよびアリールスルホニル基、アシル基、アリールオキシカルボニル基、アルコキシカルボニル基、カルバモイル基、イミド基、ホスフィノ基、ホスフィニル基、ホスフィニルオキシ基、ホスフィニルアミノ基、シリル基である。
【0038】
さらに好ましくは、ハロゲン原子、アルキル基、アリール基、シアノ基、ヒドロキシル基、ニトロ基、カルボキシル基、アルコキシ基、アリールオキシ基、シリルオキシ基、ヘテロ環オキシ基、アシルオキシ基、カルバモイルオキシ基、アミノ基、アシルアミノ基、アミノカルボニルアミノ基、アルコキシカルボニルアミノ基、アリールオキシカルボニルアミノ基、スルファモイルアミノ基、アルキル及びアリールスルホニルアミノ基、メルカプト基、アルキルチオ基、アリールチオ基、ヘテロ環チオ基、スルファモイル基、スルホ基、アルキルおよびアリールスルフィニル基、アルキルおよびアリールスルホニル基、カルバモイル基、イミド基、ホスフィノ基、ホスフィニル基、ホスフィニルオキシ基、ホスフィニルアミノ基、シリル基であり、更に好ましくはハロゲン原子、アルキル基、アリール基、ヒドロキシル基、アルコキシ基、アリールオキシ基、アミノ基、メルカプト基、アルキルチオ基、アリールチオ基、スルファモイル基、スルホ基、アルキルおよびアリールスルフィニル基、アルキルおよびアリールスルホニル基であり、更に好ましくはハロゲン原子、アルキル基、アリール基、アルコキシ基、アリールオキシ基、アルキルチオ基、アリールチオ基である。
【0039】
さらに好ましくは、ハロゲン原子、炭素数1〜20のアルキル基、炭素数6〜20のアリール基、炭素数1〜20のアルコキシ基、炭素数6〜20のアリールオキシ基、炭素数1〜20のアルキルチオ基、炭素数6〜20のアリールチオ基であり、更に好ましくは炭素数1〜8のアルキル基、炭素数6〜10のアリール基、炭素数1〜8のアルコキシ基、炭素数6〜10のアリールオキシ基、炭素数1〜8のアルキルチオ基、炭素数6〜10のアリールチオ基である。
【0040】
さらに好ましくは、炭素数1〜6のアルコキシ基、炭素数6〜8のアリールオキシ基、炭素数1〜6のアルキルチオ基、炭素数6〜8のアリールチオ基であり、最も好ましくは炭素数1〜4のアルコキシ基である。
【0041】
211は、水素原子、金属イオン又は金属イオンを含む基を表す。nは1又は2である。(M211n1として好ましくは、2個の水素原子、2個のLi、2個のNa、2個のK、2個のRb、2個のCsおよびBe2+、Mg2+、Ca2+、Ti2+、Mn2+、Fe2+、Co2+、Ni2+、Cu2+、Zn2+、Ru2+、Rh2+、Pd2+、Pt2+、Ba2+、Cd2+、Hg2+、Pb2+、Sn2+、Al−Cl、Al−Br,Al−F、Al−I、Ga−Cl、Ga−F、Ga−I、Ga−Br、In−Cl、In−Br、In−I、In−F、Tl−Cl、Tl−Br、Tl−I、Tl−F、Mn−OH、Fe−Cl、Ru−Cl、CrCl、SiCl、SiBr、SiF、SiI、ZrCl、GeCl、GeBr、GeI、GeF、SnCl、SnBr、SnI、SnF、TiCl、TiBr、TiF、Si(OH)、Ge(OH)、Zr(OH)、Mn(OH)、Sn(OH)、TiR、CrR、SiR、SnR、GeR、Si(OR)、Sn(OR)、Ge(OR)、Ti(OR)、Cr(OR)、Sn(SR)、Ge(SR)[Rは脂肪族基、芳香族基を表す]、VO、MnO、TiOである。
【0042】
さらに(M211n1として好ましくは、2個の水素原子、2個のLi、2個のNa、2個のK、2個のRbおよびBe2+、Mg2+、Ca2+、Ti2+、Mn2+、Fe2+、Co2+、Ni2+、Cu2+、Zn2+、Ru2+、Rh2+、Pd2+、Pt2+、Ba2+、Sn2+、Al−Cl、Al−Br,Ga−Cl、Ga−F、Ga−I、Ga−Br、In−Cl、In−Br、Tl−Cl、Tl−Br、Mn−OH、Fe−Cl、Ru−Cl、CrCl、SiCl、SiBr、ZrCl、GeCl、GeBr、SnCl、SnBr、TiCl、TiBr、Si(OH)、Ge(OH)、Zr(OH)、Mn(OH)、Sn(OH)、TiR、CrR、SiR、SnR、GeR、Si(OR)、Sn(OR)、Ge(OR)、Ti(OR)、Cr(OR)、Sn(SR)、Ge(SR)[Rは脂肪族基、芳香族基を表す]、VO、MnO、TiOである。
【0043】
さらに(M211n1として好ましくは、2個の水素原子、2個のLi、2個のNa、2個のK、およびBe2+、Mg2+、Ca2+、Ti2+、Mn2+、Fe2+、Co2+、Ni2+、Cu2+、Zn2+、Ru2+、Rh2+、Pd2+、Pt2+、Ba2+、Sn2+、Al−Cl、Ga−Cl、In−Cl、Tl−Cl、Mn−OH、Fe−Cl、Ru−Cl、CrCl、SiCl、ZrCl、GeCl、TiCl、Si(OH)、Ge(OH)、Zr(OH)、Mn(OH)、TiR、CrR、SiR、GeR、Si(OR)、Ge(OR)、Ti(OR)、Cr(OR)[Rは脂肪族基、芳香族基を表す]、VO、MnO、TiOである。
【0044】
さらに好ましくは、(M211n1とは2個の水素原子、Mn2+、VO、Zn2+またはCu2+であり、さらに好ましくはVO、Zn2+またはCu2+である。最も好ましくは、M211がCu2+で、nが1である。
一般式(I−a)で、M211とナフタロシアニン環の2つの2級窒素原子との結合は、共有結合、イオン結合又は配位結合であっても良い。M211が遷移金属の場合、M211は更にナフタロシアニン環の2つの3級窒素原子と配位結合しても良い。
【0045】
以下に本発明の一般式(I−a)で表される化合物の具体例を示すが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0046】
【化3】



【0047】
【化4】



【0048】
【化5】

【0049】
【化6】

【0050】
次に一般式(I−a)の化合物の製造方法について説明する。一般式(I−a)を得る反応は、対応するフタル酸またはその誘導体(酸無水物、ジアミド、ジニトリル等)から金属化合物との共存下にて中心に金属を有するフタロシアニンおよびナフタロシアニンを直接合成することが知られている(例えば、ケミストリー−A・ヨーロピアン・ジャーナル、9巻、5123頁〜5134頁(2003年発行)に記載されている)。このとき触媒(例えばモリブデン酸アンモニウム)、尿素を共存させることが好ましい。或いはリチウム化合物を用いて一度フタロシアニンあるいはナフタロシアニンの無金属体を合成した後、後述のとおり金属化合物を用いて合成することもでき、特にナフタロシアニンの金属体を合成するにはこの方法がより好ましい。
【0051】
ナフタロシアニンの無金属体と金属化合物を用いて一般式(I−a)で表される化合物を合成する原料の比率は、1モルのナフタロシアニンの無金属体に対して、金属化合物の量は好ましくは0.1モル〜10モルであり、より好ましくは0.5モル〜5モルであり、更に好ましくは1〜3モルである。金属化合物は無機および有機金属化合物を用いることができ、例えばハロゲン化物(例えば塩素化物、臭素化物)、硫酸塩、硝酸塩、シアン化物、酢酸塩、金属のアセチルアセトナート体等であり、好ましくは塩化物、硫酸塩、シアン化物、酢酸塩であり、更に好ましくは塩化物、酢酸塩であり、最も好ましくは酢酸塩である。
【0052】
反応に用いる溶媒は、例えば、アミド系溶媒(例えばN,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、1−メチルー2−ピロリドン)、スルホン系溶媒(例えばスルホラン)、スルホキシド系溶媒(例えばジメチルスルホキシド)、エーテル系溶媒(例えばジオキサン、シクロペンチルメチルエーテル)、ケトン系溶媒(例えばアセトン、シクロヘキサノン)、炭化水素系溶媒(例えばトルエン、キシレン)、ハロゲン系溶媒(例えばテトラクロロエタン,クロロベンゼン)、アルコール系溶媒(例えば1−ブタノール、エチレングリコール、シクロヘキサノール)、ピリジン系溶媒(例えばピリジン、γ−ピコリン、2,6−ルチジン)を単独或いは混合して用いる。このうち好ましくは、アミド系溶媒、スルホン系溶媒、エーテル系溶媒、炭化水素系溶媒、ハロゲン系溶媒、ピリジン系溶媒であり、更に好ましくは、スルホン系溶媒、エーテル系溶媒、炭化水素系溶媒、ハロゲン系溶媒であり、更に好ましくはエーテル系溶媒、炭化水素系溶媒、ハロゲン系溶媒であり、更に好ましくは、ハロゲン系溶媒であり、クロロベンゼンが最も好ましい。
【0053】
反応温度は、−30℃〜250℃、好ましくは0℃〜200℃、更に好ましくは20℃〜150℃、更に好ましくは50℃〜100℃であり、反応時間は5分〜30時間の範囲で行う。
【0054】
<ジイモニウム化合物>
本発明に用いられるジイモニウム化合物として、下記一般式(V)で表されるジイモニウム化合物が好ましい。
【0055】
【化7】

【0056】
一般式(V)において、R91、R92、R93、R94、R95、R96、R97およびR98は、それぞれ独立に、水素原子、アルキル基、シクロアルキル基、アリール基またはアラルキル基であり、R99、R100、R101およびR102は、それぞれ独立に、アルキル基、アルコキシ基、アリールオキシ基、ハロゲン原子、アルコキシカルボニル基、アミノ基、アルキル置換アミノ基、アミド基、スルホンアミド基、シアノ基、ニトロ基またはカルボキシル基である。R91とR92、R93とR94、R95とR96、R97とR98、R91とR99、R92とR99、R93とR100、R94とR100、R95とR101、R96とR101、R97とR102またはR98とR102は、それぞれ独立に、互いに結合して5または6員環を形成してもよい。nは0乃至3の整数である。Xは分子内の電荷を中和するに必要なアニオンまたはカチオンである。mは0乃至6の整数である。
【0057】
一般式(V)において、アルキル基の炭素原子数は、1乃至20であることが好ましく、1乃至12であることがさらに好ましく、1乃至8であることがさらに好ましい。アルキル基の例には、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、へキシル基およびウンデシル基が含まれる。アルキル基は分岐を有していてもよい。アルキル基は置換基を有していてもよい。置換基の例には、ハロゲン原子(F、Cl、Br)、アルコキシカルボニル基(例、メトキシカルボニル基、エトキシカルボニル基)、ヒドロキシ基、アルコキシ基(例、メトキシ基、エトキシ基、イソブトキシ基)、アリールオキシ基(例、フェノキシ基)、アシルオキシ基(例、アセチルオキシ基、ブチリルオキシ基、ヘキシリルオキシ基、ベンゾイルオキシ基)、カルボキシル基およびスルホ基が含まれる。
一般式(V)において、シクロアルキル基の例には、シクロペンチル基およびシクロヘキシル基が含まれる。
一般式(V)において、アリール基の炭素原子数は、6乃至12であることが好ましい。アリール基の例には、フェニル基およびナフチル基が含まれる。アリール基は置換基を有していてもよい。置換基の例には、炭素原子数が1乃至8のアルキル基(例、メチル基、エチル基、ブチル基)、炭素原子数が1乃至6のアルコキシ基(例、メトキシ基、エトキシ基)、アリールオキシ基(例、フェノキシ基、p−クロロフェノキシ基)、ハロゲン原子(F、Cl、Br)、アルコキシカルボニル基(例、メトキシカルボニル基、エトキシカルボニル基)、アミノ基、アルキル置換アミノ基(例、メチルアミノ基)、アミド基(例、アセトアミド基)、スルホンアミド基(例、メタンスルホンアミド基)、シアノ基、ニトロ基、カルボキシル基およびスルホ基が含まれる。
【0058】
一般式(V)において、アラルキル基の炭素原子数は、7乃至12であることが好ましい。アラルキル基の例には、ベンジル基およびフェネチル基が含まれる。アラルキル基は、置換基を有していてもよい。置換基の例には、炭素原子数が1乃至8のアルキル基(例、メチル基)、炭素原子数が1乃至6のアルコキシ基(例、メトキシ基)、ハロゲン原子(例、Cl)、カルボキシル基およびスルホ基が含まれる。
一般式(V)において、ヘテロ環基の例には、チエニル基、フリル基、ピロリル基、ピラゾリル基、ピリジル基およびインドリル基が含まれる。
一般式(V)において、アルコキシ基の炭素原子数は、1乃至6であることが好ましい。アルコキシ基の例には、メトキシ基およびエトキシ基が含まれる。
一般式(V)において、アリールオキシ基は、置換基を有していてもよい。置換基の例には、ハロゲン原子(例、Cl)が含まれる。アリールオキシ基の例には、フェノキシ基およびp−クロロフェノキシ基が含まれる。
一般式(V)において、アルコキシカルボニル基の例には、メトキシカルボニル基およびエトキシカルボニル基が含まれる。
一般式(V)において、アルキル置換アミノ基の例には、メチルアミノ基が含まれる。
一般式(V)において、アミド基の例には、アセトアミド基が含まれる。
一般式(V)において、スルホンアミド基の例には、メタンスルホンアミド基が含まれる。
【0059】
一般式(V)において、R91とR92、R93とR94、R95とR96またはR97とR98が互いに結合して形成する環の例には、ピペラジン環、ピペリジン環、モルホリン環およびピロリジン環が含まれる。R91とR99、R92とR99、R93とR100、R94とR100、R95とR101、R96とR101、R97とR102またはR98とR102が互いに結合して形成する環の例には、ジュロリジン環およびテトラヒドロキノリン環が含まれる。R99、R100、R101またはR102が、R91、R92、R93、R94、R95、R96、R97またはR98と結合して環を形成する場合、R99、R100、R101またはR102の位置は、R91、R92、R93、R94、R95、R96、R97またはR98の位置と隣接していることが好ましい。
一般式(V)において、Xで表されるアニオンの例には、ハライドイオン(Cl、Br、I)、p−トルエンスルホン酸イオン、エチル硫酸イオン、PF6−、BF4−およびClO4−が含まれる。化合物が、分子内に2個のカルボキシル基またはスルホ基を有する場合、mは0である。化合物が、分子内に3個以上のカルボキシル基またはスルホ基を有する場合はカチオンが必要になる。カチオンの例には、アルカリ金属イオン(例、ナトリウムイオン、カリウムイオン、リチウムイオン)、アンモニウムイオン(例、トリエチルアンモニウムイオン)およびピリジニウムイオンが含まれる。
以下に、一般式(V)で表わされるジイモニウム染料の具体例を示す。
【0060】
【化8】

【0061】
一般式(V)で表わされるジイモニウム染料は、特公昭43−25335号公報に記載の合成方法を参照して合成することができる。
【0062】
<その他の化合物>
本発明に於いては、この他に、特開2000−281,919号公報に記載のフタロシアニン化合物;特開平2−43,269号公報、特開平2−138,382号公報、及びジャーナル・オブ・ケミカル・ソサイアティ、パーキン・トランザクション、I、2453−2458ページ(1988年発行)に記載のナフタロシアニン化合物;特開平10−180,947号公報に記載のジイモニウム化合物、シアニン化合物、スクアリリウム化合物、ポリメチン化合物、アゾメチン化合物、オキソノール化合物、クロコニウム化合物;および特開2003−139,946号公報に記載のジチオール金属錯体を用いることもできる。
【0063】
(化合物(II))
本発明に用いられる化合物(II)は、400nm以上700nm以下の範囲に分光吸収極大波長を有する。
本発明に用いられる化合物(II)は、前記化合物(I)と共に赤外色素組成物を形成する。化合物(II)の混合比率は、該赤外色素組成物の750nm以上1050nm以下の領域の分光吸収極大波長における吸光度を1としたとき、400nm〜700nmの領域における最大吸光度(Dmax)が0.5以下なる範囲である。さらに、該赤外色素組成物の400nm以上700nm以下の領域における吸光度の最小値(Dmin)に対する前記最大吸光度(Dmax)の比(Dmax/Dmin)が10以下となるように、化合物(I)の400nm以上700nm以下における吸収スペクトルによって、その吸光度の低い波長領域に吸収を有する化合物が選択される。
【0064】
本発明では化合物(II)を2種以上使っても良く、好ましくは1〜5種、さらに好ましくは1〜4種、さらに好ましくは1〜3種、さらに好ましくは2〜3種、最も好ましくは2種使用する。
【0065】
本発明に用いられる化合物(II)としては、好ましくは、アゾ化合物、アントラキノン化合物、フタロシアニン化合物、インジゴ化合物、チオインジゴ化合物、ジフェニルメタン化合物、トリフェニルメタン化合物、ポリメチン化合物、アゾメチン化合物、キサンテン化合物、アクリジン化合物、キノンイミン化合物、シアニン化合物、キノリン化合物、ニトロ化合物、ナフトキノン化合物、ペリレン化合物、ペリノン化合物である。
好ましくはアゾ化合物、アントラキノン化合物、フタロシアニン化合物、チオインジゴ化合物、アゾメチン化合物、キサンテン化合物、シアニン化合物、キノリン化合物、ニトロ化合物、ナフトキノン化合物、ペリレン化合物、ペリノン化合物である。さらに好ましくはアゾ化合物、アントラキノン化合物、フタロシアニン化合物、チオインジゴ化合物、ペリノン化合物であり、最も好ましくはアントラキノン化合物、チオインジゴ化合物およびペリノン化合物である。
【0066】
化合物(II)の具体例として、下記化合物が挙げられるが、本発明はこれらに限定されるものではない。
C.I.ディスパースイエロー3、23、42、54、64、71、79、82、114、119、163、211、C.I.ソルベントイエロー2、5,14、16、19、21、33、56、72、82、93、98、114、145、160:1、163、176、C.I.ディスパースレッド1、5、9、11、13、22、50、60、73、74、82、91、92、135、152、153、167、177、179、277、343、356、362、C.I.ディスパースブルー3、56、60、73、77、79、87、102、148、165、183、257、284、366、367、C.I.ディスパースバイオレット1、8、26、28、31、33、36、63、77、93、C.I.ソルベントレッド1、3、8、23、24、25、26、49、52、111、122、132、135、146、168、179、196、197、207、242、C.I.ソルベントブルー4、5、35、36、63、70、78、87、94、97、101、104、C.I.ソルベントバイオレット8、9、13、14、31、36、59などが挙げられる。
【0067】
(赤外色素組成物)
本発明における赤外色素組成物は、750nm以上1050nm以下の領域の分光吸収極大波長における吸光度を1としたとき、400nm〜700nmの領域における最大吸光度(Dmax)が0.5以下であり、400nm以上700nm以下の領域における吸光度の最小値(Dmin)に対する前記最大吸光度(Dmax)の比(Dmax/Dmin)が10以下である。
好ましくは、Dmax/Dmin比が8以下であり、より好ましくは6以下であり、さらに好ましくは5以下であり、さらに好ましくは4以下であり、最も好ましくは3以下である。また、750nm以上1050nm以下の領域の分光吸収極大波長における吸光度を1としたとき、400nm〜700nmの領域における最大吸光度(Dmax)が0.5以下であり、好ましくは0.4以下であり、さらに好ましくは0.3以下であり、最も好ましくは0.2以下である。
【0068】
本発明の赤外色素組成物を用いた印刷用インクは、バインダー樹脂またはビヒクル、可塑剤および溶剤等で構成される。
ビヒクルは、例えば、樹脂類[フェノール系樹脂(フェノール系樹脂、ロジン、硬化ロジン、重合ロジンなどのロジン類を用いたロジン変性フェノール系樹脂など)、マレイン酸系樹脂(ロジン変性マレイン酸系樹脂、ロジンエステル系樹脂など)、アルキド樹脂又は変性アルキド樹脂、石油樹脂など]:油脂類[乾性油又は半乾性油(亜麻仁油、重合亜麻仁油、キリ油、大豆油など)、合成乾性油(脱水ひまし油、マレイン化油など)など];高沸点溶媒(鉱物油などの沸点260℃〜350℃程度の石油系溶媒)などで構成できる。
さらに、ビヒクル中に、必要に応じて、印刷皮膜の柔軟性・強度安定化のための可塑剤、粘度調整、乾燥性のための溶剤、さらに乾燥、粘度、分散性、各種反応剤等の助剤を適宜添加することができる。また、色素混合物は粉体のまま加えても良いし、適当な溶剤に色素混合物を溶解させて添加することも望ましい。
【0069】
また、光重合硬化型、もしくは電子線硬化型インクを用いても良い。これらインクの硬化物の主成分は、アクリル系樹脂である。従って、上記インクはアルキルモノマーを含有するものである。これらの樹脂又はモノマーからなるインクは無溶剤性で、電磁波や電子線照射により、連鎖的重合反応を起こして硬化する。このうち、紫外線照射型のものについては、光重合開始剤と必要に応じて増感剤および助剤として重合禁止剤、連鎖移動剤などを適宜添加することができる。また、電子線硬化型のものについては、上記紫外線照射型と同様な樹脂又はモノマーを用いて、光重合開始剤を必要とせず、必要に応じて各種助剤を添加して得ることができる。
【0070】
本発明の赤外色素組成物を用いた印刷用インクによる印刷方式は、特に制限はなく、例えば、活版、オフセット、フレキソ、グラビア又はシルク印刷等であり、一般的に使用されている印刷機を用いて行うことが出来る。
【0071】
本発明の赤外色素組成物を用いたインクジェットインクは、水または水溶性の有機溶剤、分散剤、本発明の色素混合物、および必要に応じて、その他着色剤、各種添加剤により構成されている。
【0072】
本発明の赤外色素組成物を用いたインク組成物は、水と水溶性有機溶媒からなることが好ましく、さらに高沸点有機溶媒からなる湿潤剤を含んでなることが好ましい。湿潤剤の添加量は、インクの2質量%〜30質量%が好ましく、より好ましくは5質量%〜20質量%の範囲である。その他、必要に応じて、界面活性剤、糖、pH調整剤、防錆剤、防腐剤、防かび剤、リン系酸化防止剤、金属封鎖剤等を添加することができる。
【0073】
本発明の赤外色素組成物を用いたインクジェットインクは、前記成分を適当な方法で溶解または分散、混合することによって製造することができる。まず、色素混合物と高分子分散剤と水を適当な分散機(例えば、ボールミル、サンドミル、アトライター、ロールミル、アジテータミル、ヘンシェルミキサー、コロイドミル、超音波ホモジナイザー、ジェットミル、オングミルなど)で混合し、均一な分散液を調製する。次いで、水、金属封鎖剤、浸透性溶剤、界面活性剤、水溶性有機溶媒、糖、pH調整剤、防腐剤、防かび剤等を加えて充分溶解させてインク溶液を調製する。充分に撹拌した後に、目詰まりの原因となる粗大粒子および異物を除去するためにろ過を行って目的のインクジェットインクを得る。
【0074】
本発明の赤外色素組成物を用いた電子写真用トナーは、近赤外線吸収材料を粒子表面に被覆した赤外線吸収粒子を含有し、近赤外線吸収材料としては、本発明の色素混合物を用いることができる。
【0075】
また、本発明の赤外色素組成物を用いた電子写真用トナーは結着樹脂を含む。該結着樹脂としては、例えば、以下に列挙するような材料を用いることができるが、これらに限定されるものではない。
【0076】
結着樹脂としては、例えば、スチレン、クロロスチレン等のスチレン類、エチレン、プロピレン、ブチレン、イソプレン等のモノオレフィン、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、安息香酸ビニル、酢酸ビニル等のビニルエステル、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸ブチル、アクリル酸ドデシル、アクリル酸オクチル、アクリル酸フェニル、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸ブチル、メタクリル酸ドデシル等のα−メチレン脂肪族モノカルボン酸エステル、ビニルメチルエーテル、ビニルエチルエーテル、ビニルブチルエーテル等のビニルエーテル、ビニルメチルケトン、ビニルヘキシルケトン、ビニルイソプロペニルケトン等のビニルケトン等の単独重合体あるいは共重合体を例示することができる。
【0077】
特に代表的なバインダー樹脂としては、ポリスチレン、スチレン−アクリル酸アルキル共重合体、スチレン−メタクリル酸アルキル共重合体、スチレン−アクリロニトリル共重合体、スチレン−ブタジエン共重合体、スチレン−無水マレイン酸共重合体、ポリエチレン、ポリプロピレンを挙げることができる。更に、ポリエステル、ポリウレタン、エポキシ樹脂、シリコン樹脂、ポリアミド、変性ロジン、パラフィン、ワックス類を挙げることができる。
【0078】
本実施の形態では、粒子表面に近赤外線吸収剤を被覆する。近赤外線吸収剤によって被覆される粒子としては、光学的(可視光において)に白色又は透明な粒子が好ましく、白色または透明の粒子としては、可視光を全て反射して白色に見えるか、もしくは、可視光に対して透明な材料であれば特に限定されるわけではなく、無機粒子、熱可塑性樹脂粒子、熱硬化性樹脂粒子等の公知の材料粒子を用いることができる。
【0079】
上述した光学的(可視光において)に白色又は透明な粒子の表面に、上記近赤外線吸収剤を被覆した微粒子をトナー中に含有させることによって、より少量の近赤外線吸収剤をより均一にトナー中に分散させることができる。
【0080】
近赤外線吸収材料を粒子表面に薄層コートする製造法について述べる。
【0081】
薄層コートに用いる樹脂の例としては、具体的には、ポリオレフィン系樹脂、例えばポリエチレン、ポリプロピレン;ポリビニル及びポリビニリデン系樹脂、例えばポリスチレン、アクリル樹脂、ポリアクリロニトリル、ポリビニルアセテート、ポリビニルアルコール、ポリビニルブチラール、ポリ塩化ビニル、ポリビニルカルバゾール、ポリビニルエーテル及びポリビニルケトン;塩化ビニル−酢酸ビニル共重合体;スチレン−アクリル酸共重合体;オルガノシロキサン結合からなるストレートシリコン樹脂又はその変性品;フッ素樹脂、例えばポリテトラフルオロエチレン、ポリフッ化ビニル、ポリフッ化ビニリデン、ポリクロロトリフルオロエチレン;ポリエステル;ポリカーボネート等が挙げられる。これら樹脂形成と共にジビニルベンゼン等の架橋成分を同時に用いて硬化樹脂粒子とすることができる。
【0082】
熱硬化性樹脂の例としては、フェノール樹脂;アミノ樹脂、例えば尿素−ホルムアルデヒド樹脂、メラミン樹脂、ベンゾグアナミン樹脂、ユリア樹脂、ポリアミド樹脂;エポキシ樹脂、等が挙げられる。
【0083】
無機粒子としては例えば、シリカ、アルミナ、チタニア、酸化亜鉛、チタン酸ストロンチウム、酸化セリウム、炭酸カルシウム等をあげることができるが、透明性の高いシリカが好ましい。
【0084】
その表面処理方法は、液相処理でも気相処理でも良く特に制限されるものではない。例えば、液相処理では、近赤外線吸収材料が可溶な溶剤中に近赤外線吸収材料、被処理粒子を投入して撹拌混合し、その後に溶媒を除去し、更に乾燥、粉砕することによって表面処理する。また、気相処理では、近赤外線吸収材料を溶かした溶媒を浮遊させた粒子に噴霧して表面に吸着させ乾燥させるスプレードライ法、近赤外線吸収材料と被処理粒子を混合後、機械的シェアストレスをかけて被処理粒子表面に近赤外線吸収材料を延伸固着させるメカニカル法がある。しかし、液相処理、或いはスプレードライ法では凝集粒子の発生が避けられず、また溶媒を多量に使用することから環境を配慮するとメカニカル法が好ましい。
【0085】
以下に詳細なメカニカル法による表面処理方法について述べる。
【0086】
本実施の形態における近赤外線吸収剤により表面処理された粒子は、被処理粒子とアルコキシシラン又はポリシロキサンを混合し、被処理粒子の粒子表面をアルコキシシラン又はポリシロキサンによって被覆し(前処理)、次いで、アルコキシシラン又はポリシロキサンによって被覆された被処理粒子と近赤外線吸収剤を混合することによって得ることができる。メカニカル法はハイブリダイザーを用いた方法等公知の方法を用いることができるが、表面処理を均一に行う為に近赤外線吸収剤を延伸固着させる前に被処理粒子を前処理することが好ましい。この方法によれば粒子表面を均一に近赤外線吸収剤で処理することができる。
【0087】
ここで、被処理粒子はこの処理方法を用いる場合、前処理が容易な無機酸化物微粉末が好ましい。
【0088】
無機酸化物微粉末のアルコキシシラン又はポリシロキサンによる被覆は、無機酸化物微粉末とアルコキシシラン又はポリシロキサンとを機械的に混合撹拌する方法、又は無機酸化物微粉末にアルコキシシラン又はポリシロキサンを噴霧しながら機械的に混合撹拌する方法により形成される。添加したアルコキシシラン又はポリシロキサンは、ほぼ全量が無機酸化物微粉末の粒子表面に被覆される。
【0089】
なお、被覆されたアルコキシシランは、その一部が被覆工程を経ることによって生成する、アルコキシシランから生成するオルガノシラン化合物として被覆されていてもよい。
【0090】
この場合においてもその後の近赤外線吸収材料の付着に影響することはない。
【0091】
無機酸化物微粉末とアルコキシシラン又はポリシロキサンとの混合撹拌や前記赤外線吸収材料と粒子表面にアルコキシシランから生成するオルガノシラン化合物又はポリシロキサンが被覆されている無機酸化物微粉末との混合撹拌をするための機器としては、粉体層にせん断力を加えることのできる装置が好ましく、殊に、せん断、へらなで及び圧縮が同時に行える装置、例えば、ホイール型混練機、ボール型混練機、ブレード型混練機、ロール型混練機を用いることができる。本発明の実施にあたっては、ホイール型混練機がより効果的に使用できる。上記ホイール型混練機としては、具体的に、エッジランナー(「ミックスマラー」、「シンプソンミル」、「サンドミル」と同義語である)、マルチミル、ストッツミル、ウエットパンミル、コナーミル、リングマラー等があり、好ましくはエッジランナー、マルチマル、ストッツミル、ウエットパンミル、リングマラーであり、より好ましくはエッジランナーである。上記ボール型混練機としては、具体的に、振動ミル等がある。上記ブレード型混練機としては、具体的に、ヘンシェルミキサー、プラネタリーミキサー、ナウタミキサー等がある。上記ロール型混練機としては、具体的に、エクストルーダー等がある。
【0092】
混合撹拌時における条件は、無機酸化物微粉末の粒子表面にアルコキシシラン又はポリシロキサンができるだけ均一に被覆されるように、線荷重は19.6N/cm〜1960N/cm(2Kg/cm〜200Kg/cm)、好ましくは98N/cm〜1470N/cm(10Kg/cm〜150Kg/cm)、より好ましくは147N/cm〜980N/cm(15Kg/cm〜100Kg/cm)、処理時間は5分〜120分、好ましくは10分〜90分の範囲で処理条件を適宜調整すればよい。なお、撹拌速度は2rpm〜2000rpm、好ましくは5rpm〜1000rpm、より好ましくは10rpm〜800rpmの範囲で処理条件を適宜調整すればよい。
【0093】
アルコキシシラン又はポリシロキサンの添加量は、無機酸化物微粉末100質量部に対して0.15質量部〜45質量部が好ましい。0.15質量部未満の場合には、目的とする近赤外線吸収材料で均一に表面を被覆した無機酸化物微粉末を得られるだけの近赤外線吸収材料を付着させることが困難である。0.15質量部〜45質量部の添加量により、無機酸化物微粉末100質量部に対して近赤外線吸収材料を3質量部〜30質量部付着させることができるので、45質量部を超えて必要以上に添加する意味がない。
【0094】
次いで、アルコキシシラン又はポリシロキサンを被覆した無機酸化物微粉末に近赤外線吸収材料を添加し、混合撹拌して、アルコキシシラン被覆又はポリシロキサン被覆に近赤外線吸収材料を付着させる。必要により更に、乾燥乃至加熱処理を行ってもよい。
【0095】
近赤外線吸収材料は、少量ずつを時間をかけながら、殊に5〜60分間程度をかけて添加するのが好ましい。
【0096】
混合撹拌時における条件は、近赤外線吸収材料が均一に付着するように、線荷重は19.6N/cm〜1960N/cm(2Kg/cm〜200Kg/cm)、好ましくは98N/cm〜1470N/cm(10Kg/cm〜150Kg/cm)、より好ましくは147N/cm〜980N/cm(15Kg/cm〜100Kg/cm)、処理時間は5分〜120分、好ましくは10分〜90分の範囲で処理条件を適宜調整すればよい。なお、撹拌速度は2rpm〜2000rpm、好ましくは5rpm〜1000rpm、より好ましくは10rpm〜800rpmの範囲で処理条件を適宜調整すればよい。
【0097】
赤外線吸収材料の添加量は、無機酸化物微粉末100質量部に対して3質量部〜30質量部である。好ましくは3質量部〜15質量部である。赤外線吸収材料の添加量が上記範囲外の場合には、目的とする赤外線吸収材料で均一に表面を被覆した無機酸化物微粉末が得られない。
【0098】
乾燥乃至加熱工程における加熱温度は、通常40℃〜150℃が好ましく、より好ましくは60℃〜120℃である。処理時間は10分〜12時間が好ましく、30分〜3時間がより好ましい。
【0099】
無機酸化物微粉末の被覆に用いられたアルコキシシランは、これらの工程を経ることにより、最終的にはアルコキシシランから生成するオルガノシラン化合物となって被覆されている。
【0100】
本発明において用いられる無機酸化物微粉末としては、SiO、TiO、Al、CuO、ZnO、SnO、CeO、MgO、BaO、CaO、KO、NaO、ZrO、CaO・SiO、KO・(TiO)n、Al・2SiO、CaCO、MgCO、BaSO、MgSO等を例示することができ、その他公知のものが使用できる。また必要に応じて疎水化処理を施したものを使用することができる。赤外線吸収材料で表面を被覆した無機酸化物微粉末としては低比重であり、トナーから比較的遊離しにくいSiOが最も効果がでるので好ましい。
【0101】
疎水化処理に使用することができる疎水化剤としては、例えば、メチルトリクロロシラン、オクチルトリクロロシラン、ジメチルジクロロシラン等のアルキルクロロシラン類、ジメチルジメトキシシラン、オクチルトリメトキシシラン等のアルキルメトキシシラン類、ヘキサメチルジシラザン、シリコーンオイル等があげられる。
【0102】
近赤外線吸収剤(近赤外光吸収材料)を表面に担持した粒子の平均分散径は、0.5μm以下の範囲であることが必要である。平均分散径が前記範囲内にあることにより、粒子自体の散乱を少なくしてより透明性を上げることが可能となる。
【0103】
ここで、「平均分散径」とは、トナー中に分散している個々の近赤外光吸収材料の平均粒径を意味する。この平均分散径は、TEM(透過型電子顕微鏡:日本電子データム(株
)製、JEM−1010)観察により、トナー中に分散している1000個の粒子状の近赤外光吸収材料について、個々の断面積よりその粒径を算出し、これを平均した値より求めた。
【0104】
電子写真用トナーが不可視トナーである場合、不可視トナーは、結着樹脂及び上述した近赤外線吸収剤、蛍光増白剤の他に、トナーの内部に含有・分散させて使用する内部添加剤として、定着性を調整するワックスや、帯電を調整する帯電制御剤等を少なくとも1種類以上含有してもよい。
【0105】
前記ワックスとしては次のようなものが例示できる。例えば、パラフィンワックス及びその誘導体、モンタンワックス及びその誘導体、マイクロクリスタリンワックス及びその誘導体、フィッシャートロプシュワックス及びその誘導体、ポリオレフィンワックス及びその誘導体等である。この誘導体には、酸化物、ビニルモノマーとの重合体、グラフト変性物が含まれる。この他にも、アルコール、脂肪酸、植物系ワックス、動物系ワックス、鉱物系ワックス、エステルワックス、酸アミド等も利用できる。
【0106】
ワックスの、不可視トナーに対する添加量は、1質量%〜10質量%の範囲が好ましく、3質量%〜10質量%の範囲がより好ましい。ワックスの添加量が、1質量%より少ないと、十分な定着ラチチュード(トナーのオフセットなしに定着できる定着ロールの温度範囲)が得られない。一方、10質量%より多いと、近赤外光吸収材料の分散均一性が損なわれる。また、トナーの粉体流動性が悪化し、静電潜像を形成する感光体表面に遊離ワックスが付着して、静電潜像が正確に形成できなくなる。
【0107】
更に、不可視トナーの長期保存性、流動性、現像性、転写性をより向上させる為に、添加剤として、無機粉、樹脂粉を単独又は併用して用いてもよい。
【0108】
この無機粉としては例えば、カーボンブラック、シリカ、アルミナ、チタニア、酸化亜鉛、樹脂粉としてはPMMA、ナイロン、メラミン、ベンゾグアナミン、フッ素系樹脂等の球状粒子、そして、塩化ビニリデン、脂肪酸金属塩等の不定形粉末があげられる。これら添加剤の添加量は、不可視トナー粒子に対して、好ましくは0.2質量%〜4質量%の範囲、より好ましくは0.5〜3質量%の範囲で添加される。
【0109】
上記内部添加剤を、不可視トナー粒子内部に添加する方法としては公知の手法を用いることができるが、特に熱溶融混練処理が好適に用いられる。この時の混練としては、各種の加熱混練機を用いて行うことができる。加熱混練機としては、三本ロール型、一軸スクリュー型、二軸スクリュー型、バンバリーミキサー型が挙げられる。
【0110】
また、不可視トナー粒子の製造法は、特に限定されるものではなく、公知の手法を用いることができるが、上記混練物の粉砕により製造する場合は、例えば、マイクロナイザー、ウルマックス、JET−O−マイザー、KTM(クリプトン)、ターボミージェット等により行うことができる。更には、その後工程として、ハイブリダイゼーションシステム(奈良機械製作所製)、メカノフュージョンシステム(ホソカワミクロン社製)、クリプトロンシステム(川崎重工業社製)等を用いて、機械的外力を加えることで粉砕後のトナー形状を変化させることができる。また、熱風による球形化も挙げることができる。さらには、分級処理を施してトナー粒度分布を調整しても良い。
【0111】
また、乳化微粒子を用いた、乳化凝集法を代表とするような、いわゆる重合法によりトナーを作製することもできる。特に、近年は、意図的にトナー形状及び表面構造を制御する方法として特許第2547016号公報や特開平6−250439号公報等の乳化重合凝集法によるトナーの製造方法が提案されている。乳化重合凝集法は、通常1ミクロン以下の、微粒化された原材料を出発物質とするため原理的に小径トナーを効率的に作製することができる。この製造方法は、一般に乳化重合などにより樹脂分散液を作製し、一方溶媒に着色剤を分散した着色剤分散液を作製し、これらの樹脂分散液と着色剤分散液を混合し、トナー粒径に相当する凝集粒子を形成し、その後加熱することによって凝集粒子を融合合一しトナーとする製造方法であるが、通常これらの方法ではトナー表面と内部は同様の組成となるため意図的に表面組成を制御することは困難である。そこで、この問題に関しては、特許第3141783号公報にみられるような乳化重合凝集法におけるトナーにおいても内部層から表面層への自由な制御を行うことにより、より精密な粒子構造制御を実現する手段が提案されてきている。このように、トナーの小径化が容易で、かつ精密な粒子構造制御が実現されてきた。
【0112】
不可視トナーの体積平均粒径としては、3μm〜15μmの範囲が好ましく、5μm〜12μmの範囲がより好ましい。体積平均粒径が、3μmより小さいと、静電的付着力が重力と比べて大きくなり、粉体としてハンドリングするのが困難になる場合がある。一方、体積平均粒径が、15μmより大きいと、高精細な不可視情報の記録が困難となる場合がある。
【0113】
本実施の形態の電子写真用現像剤は、キャリアと、電子写真用トナーとからなる電子写真用現像剤であって、該電子写真用トナーが、本発明の電子写真用トナーであることが好ましい。
【0114】
本実施の形態の電子写真用現像剤は、公知の手法により、キャリアと、本発明の電子写真用トナーと、を混合処理することにより得ることができる。また、本発明の電子写真用現像剤は、前記電子写真用トナーは非磁性であり、キャリアは磁性を有するものを混合してなる二成分現像剤であることが好ましい。
【0115】
現像剤中の不可視トナー濃度(TC:Toner Concentration)は、3質量%〜15質量%の範囲が好ましく、5質量%〜12質量%の範囲がより好ましい。なお、前記不可視トナー濃度(TC)は、下式で表わされる。
【0116】
TC(wt%)=〔現像剤に含まれる不可視トナー質量(g)/現像剤の総質量(g)〕×100
【0117】
また、不可視トナーとキャリアとを混合して現像剤とした際の不可視トナーの電荷量は、高すぎるとトナーのキャリアに対する付着力が強くなりすぎるために、不可視トナーが現像されないといった現象が発生する場合がある。一方、電荷量が低すぎると、不可視ト
ナーのキャリアに対する付着力が弱くなり遊離トナーによるトナークラウドが発生し、画像形成時におけるカブリが問題となる場合がある。
【0118】
このため、良好な現像を行うという観点からは、現像剤中の不可視トナーの電荷量は絶対値で、5μC/g〜80μC/gの範囲が好ましく、10μC/g〜60μC/gの範囲がより好ましい。
【0119】
本発明における画像形成方法は、画像出力媒体表面に、a)不可視画像のみが設けられ、b)不可視画像と可視画像とが順次積層されて設けられ、c)不可視画像と可視画像とが前記画像出力媒体表面の異なる領域に別々に設けられてなり、少なくともa)、b)、c)から選ばれる1つの画像を有し、a)、b)、c)の少なくともいずれかの不可視画像が2次元パターンからなる画像形成方法であって、前記不可視画像が、本発明の電子写真用トナーにより形成されることが好ましい。
【0120】
なお、本実施の形態における「不可視画像」とは、赤外域において、CCD等の読み取り装置により認識することができる画像であると共に、不可視画像を形成する不可視トナーが可視光領域における特定の波長の吸収に起因する発色性を有さないために、可視域において、目視により認識することができない(即ち、不可視である)画像を意味する。
【0121】
また、「可視画像」とは、赤外域において、CCD等の読み取り装置により認識することができない画像であると共に、可視画像を形成する可視トナーが可視光領域における特定の波長の吸収に起因する発色性を有するために、可視域において、目視により認識できる(即ち、可視である)画像を意味する。
【0122】
本実施の形態の画像形成方法により形成される不可視画像は、本実施の形態の電子写真用トナーを用いて形成されるために、赤外光照射により機械読み取り・復号化処理が長期間にわたり安定して可能で、情報が高密度に記録できる。また、前記不可視画像は、可視域において発色性を有さず、不可視であるために、画像出力媒体の画像形成面に可視画像が設けられるか否かに関係なく、該画像形成面の任意の領域に形成することができる。
【0123】
しかしながら、本発明においては、画像形成面に形成された、可視画像の領域と、不可視画像の領域と、の一部または全部が重なる場合には、前記可視画像と、前記不可視画像とが重って形成される領域において、前記不可視画像は、前記可視画像と、画像出力媒体表面と、の間に形成されることが好ましい。このような場合、画像形成面を正面から目視しても可視画像しか認識できないものの、斜めから目視した場合には、不可視画像が形成された領域と、それ以外の領域の光沢差により、可視画像の品質を損なうことなく、前記不可視画像の存在を確認することができる。
【0124】
一方、画像出力媒体表面に形成された可視画像表面に不可視画像が形成される場合には、該不可視画像による可視光隠蔽により、前記可視画像の発色を妨げ、画像欠陥となってしまう場合がある。
【0125】
また、不可視画像を、画像出力媒体表面と可視画像との間に形成することにより、前記不可視画像が、前記可視画像により保護される。このため、画像出力媒体の可視画像及び不可視画像が形成された画像形成面の摩耗等により、不可視画像が劣化しにくいため、より長期にわたり、安定して赤外光照射により機械読み取り・復号化処理が可能である。
【0126】
また、偽造物の流通により多大な不利益を蒙る可能性の高い機密文書や有価証券等においては、真贋を識別するために不可視画像として記録された情報が、可視画像により保護されるため、前記情報の除去や書き換えが極めて困難になり、優れた偽造抑止効果を得ることができる。
【0127】
本実施の形態の画像形成方法は、可視画像が、近赤外光領域における吸収率が5%以下である、イエロー色、マゼンタ色、シアン色、の少なくともいずれかのトナーにより形成されることが好ましい。
【0128】
本発明において、可視画像形成も電子写真法を用いる場合、可視画像形成用に使用するトナーとしては、公知のものを用いることができるが、近赤外光領域における吸収率(近赤外光吸収率)が、5%以下であるイエロー色、マゼンタ色および/またはシアン色のトナー(以下、「可視トナー」と略す場合がある)を用いることが、不可視情報の読み取り精度確保の観点で好ましい。
【0129】
なお、可視トナーは、イエロー、マゼンタ、シアン色以外であってもよく、レッド、ブルー、グリーン等、所望する色のトナーであってもよいが、どのような色の可視トナーにおいても、近赤外光吸収率が5%以下であることが好ましい。
【0130】
可視トナーの近赤外光吸収率が5%以上である場合には、画像出力媒体表面に、不可視画像と、可視画像とが形成された画像形成面を、赤外光照射により機械読み取りする場合において、可視画像も、不可視画像として誤認されてしまう場合がある。特に、画像形成面の不可視画像が形成された領域を特定せずに機械読み取りする場合や、可視画像と、画像出力媒体表面と、の間に不可視画像を形成する場合においては、不可視画像の情報のみを読み取って正確に復号化することが困難になる場合がある。
【0131】
この可視トナーの近赤外光吸収率は、既述した不可視トナーの場合と同様に分光反射率測定機日立製作所製分光光度計「U−4100」を用いて、前記可視トナーにより形成された可視画像の近赤外域の分光吸収反射率をVT(i)、画像出力媒体の分光吸収反射率をM(i)と測定することにより、以下の式により求められる。
【0132】
可視トナーの近赤外光吸収率=VT(i)−M(i)
【0133】
上記したような可視トナーを得るために用いる着色剤としては、アニリンブルー、カルコイルブルー、クロムイエロー、ウルトラマリンブルー、デュポンオイルレッド、キノリンイエロー、メチレンブルークロリド、フタロシアニンブルー、マラカイトグリーン・オキサレート、ランプブラック、ローズベンガル、C.I.ピグメント・レッド48:1、C.I.ピグメント・レッド122、C.I.ピグメント・レッド57:1、C.I.ピグメント・イエロー97、C.I.ピグメント・イエロー12、C.I.ピグメント・ブルー15:1、C.I.ピグメント・ブルー15:3などを代表的なものとして例示することができる。
【0134】
また、可視画像形成用トナーの他の構成要件については、既述した不可視トナーに関する部分において、近赤外光吸収材料及びその吸収率特性に関する部分を除き、同様であることが好ましい。
【0135】
また、不可視画像の読み取り精度を高めるためには、不可視画像を形成する不可視トナーの近赤外光吸収率は、可視画像を形成する可視トナーの近赤外光吸収率よりも15%以上大きいことが好ましく、30%以上大きいことがより好ましい。
【0136】
不可視画像と、可視画像と、の近赤外光吸収率差が15%よりも小さい場合には、不可視画像の近赤外光吸収率と、可視画像の近赤外光吸収率と、の間の吸収率域において、機械読み取りする際に不可視画像か否かを識別して読み取るために一定のコントラスト(閾値)を境界として2値化処理して、不可視画像のみを認識して読み取ることが困難となる場合がある。即ち、このような場合、可視画像が、不可視画像の読み取り、さらには、不可視画像に記録された情報を正確に復号化する際の障害となってしまう可能性がある。
【0137】
なお、このような、不可視画像を形成する不可視トナーの近赤外光吸収率と、可視画像を形成する可視トナーの近赤外光吸収率と、の差(以下、単に「近赤外光吸収率差」と略す場合がある)は、日立製作所製分光光度計「U−4100」分光吸収反射率測定機を用いて、画像出力媒体表面に形成された不可視画像(ベタ画像)の分光反射率IP(i)と、画像出力媒体表面に形成された可視画像(ベタ画像)の分光吸収反射率VP(i)と測定することにより、以下の式により求められる。
【0138】
近赤外光吸収率差=IP(i)−VP(i)
【実施例】
【0139】
以下に本発明を実施例により、さらに詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0140】
(実施例1)
質量比で化合物(I)の化合物No.I−4/化合物(II−1)(Plast Blue DB−367、有本化成工業、C.I.ディスパースブルー60)/化合物(II−2)(KP Plast Violet R、紀和化学、C.I.ディスパースバイオレット28)=10/4/4となるように混合した色素混合物18mgに50mLになるまでトルエンを加え溶解させた。得られた溶液1mLにトルエンを加えて40mLに希釈し、本発明の赤外色素組成物を得た。分光光度計(日立ハイテクノロジーズ(株)製U−4100スペクトロフォトメーター)を用いて、得られた赤外色素組成物の分光吸収スペクトルを測定した。結果を図1に示した。
846nmに吸収極大を有し、該吸収極大波長における吸光度を1としたとき、400nm〜700nmの領域における最大吸光度(Dmax)は0.12であった。また400nm〜700nmの領域における吸光度の最大値(Dmax)を最小値(Dmin)で割った値(Dmax/Dmin)が2.4であった。
なお、化合物No.I−4、化合物(II−1)、及び化合物(II−2)のそれぞれトルエン溶液の分光吸収スペクトルを測定したところ、それぞれ848nm、674nm、552nmに吸収極大を有していた。
【0141】
(実施例2)
質量比で化合物No.I−4/化合物(II−1)(Plast Blue DB−367、有本化成工業、C.I.ディスパースブルー60)/化合物(II−2)(KP Plast Violet R、紀和化学、C.I.ディスパースバイオレット28)=30/4/4となるように混合した色素混合物13mgに50mLになるまでトルエンを加え溶解させた。得られた溶液1mLにトルエンを加えて40mLに希釈し、赤外色素組成物を得た。分光光度計(日立ハイテクノロジーズ(株)製U−4100スペクトロフォトメーター)を用いて、得られた赤外色素組成物の分光吸収スペクトルを測定した。
得られた結果を図2に示した。846nmに吸収極大を有し、該吸収極大波長における吸光度を1としたとき、400nm〜700nmの領域における最大吸光度(Dmax)は0.12であった。また400nm〜700nmの領域における吸光度の最大値(Dmax)を最小値(Dmin)で割った値(Dmax/Dmin)が3.5であった。
【0142】
(実施例3)
実施例1の色素混合物0.3質量部を酢酸エチル/メチルエチルケトン=1/1混合溶媒20質量部に溶解させた赤外色素組成物、炭酸カルシウム15質量部、ロジン変性フェノール樹脂(荒川化学(株)製「タマノール350」)25質量部、大豆油23質量部、鉱物油25質量部、オクチル酸マンガン2質量部及び助剤5質量部を混練し、オフセット印刷インクを調製した。この印刷インクを用いアート紙(特菱アート)上にブレード(25μm)でコーティングを行った。コーティング面の反射率測定を日立ハイテクノロジーズ(株)製U−4100スペクトロフォトメーターを用いて行った。得られた結果を図3に示した。目視での色味はグレーであった。
【0143】
(実施例4)
実施例2の色素混合物0.3質量部を酢酸エチル/メチルエチルケトン=1/1混合溶媒20質量部に溶解させた赤外色素組成物、炭酸カルシウム15質量部、ロジン変性フェノール樹脂(荒川化学(株)製「タマノール350」)25質量部、大豆油23質量部、鉱物油25質量部、オクチル酸マンガン2質量部及び助剤5質量部を混練し、オフセット印刷インクを調製した。この印刷インクを用いアート紙(特菱アート)上にブレード(25μm)でコーティングを行った。コーティング面の反射率測定を日立ハイテクノロジーズ(株)製U−4100スペクトロフォトメーターを用いて行った。得られた結果を図4に示した。目視での色味はグレーであった。
【0144】
(実施例5)
特開2005−221892号公報の実施例における不可視トナーの作製において、イモニウム塩(日本カーリット社製、CIP−1080)の替わりに、本発明の実施例1の色素混合物を用いた以外は、特開2005−221892号公報の実施例と同様に試験を行い、良好な結果を得た。
【0145】
(実施例6)
特開2005−126725号公報の実施例Bにおける染料を本発明の実施例1の色素混合物に置き換えた以外は同様にしてインク組成物を調製した。続いて、特開2002−146254号公報の実施例3におけるインクジェット記録用インクを、前記インク組成物と置き換えた以外は同様に試験を行い、良好な結果を得た。
【0146】
(比較例1)
実施例1の赤外色素組成物において、色素混合物18mgを化合物(I−4)5.6mgに置き換えた以外は実施例1と同様にして、分光吸収スペクトルを測定した。結果を図5に示した。848nmに吸収極大を有し、該吸収極大波長における吸光度を1としたとき、400nm〜700nmの領域における最大吸光度(Dmax)は0.11であった。400nm〜700nmの領域における吸光度の最大値を最小値で割った値が18であった。
【0147】
(比較例2)
三本ロールミルを用い、化合物(I−4)0.3質量部、炭酸カルシウム15質量部、ロジン変性フェノール樹脂(荒川化学(株)製「タマノール350」)25質量部、大豆油23質量部、鉱物油25質量部、オクチル酸マンガン2質量部及び助剤5質量部を含むオフセット印刷インク(ドライオフセットインク)を調製した。この印刷インクを用いアート紙(特菱アート)上にブレード(25μm)でコーティングを行った。コーティング面の反射率測定を日立ハイテクノロジーズ(株)製U−4100スペクトロフォトメーターを用いて行った。結果を図6に示した。目視で確認したところオレンジ色に着色していた。
【0148】
以上のように、本発明による赤外色素組成物は、750nm〜1050nmの近赤外領域に吸収極大を有し、該吸収極大波長における吸光度を1としたとき、400nm〜700nmの領域における最大吸光度(Dmax)は0.5以下であった。また400nm〜700nmの領域における吸光度の最大値(Dmax)を最小値(Dmin)で割った値(Dmax/Dmin)が10以下であった。本発明による赤外色素組成物を用いた印刷用インク、及びインクジェット記録用インクを用いた印刷物は、目視で確認した色味はいずれもグレー色であった。一方、比較試料はDmax/Dmin)が18と10を超える高い値であり、それを用いた印刷物には、オレンジ色の着色が認められ、不可視インクと言えるものではなかった。
【産業上の利用可能性】
【0149】
本発明に於ける赤外色素組成物は、赤外線吸収印刷インク、赤外線吸収インクジェットインク、電子写真用トナーなどの赤外線吸収記録形成材およびプラズマディスプレイ用途の近赤外線吸収フィルターなどのオプトエレクトロニクス製品に用いられる赤外線吸収組成物およびそれを用いた赤外線吸収インクとして使用されることが好ましい。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
赤外色素組成物であって、少なくとも、400nm以上1050nm以下における分光吸収極大波長が750nm以上1050nm以下の領域にある化合物(I)と400nm以上1050nm以下における分光吸収極大波長が400nm以上700nm以下の範囲にある化合物(II)を含有し、該赤外色素組成物の750nm以上1050nm以下の領域の分光吸収極大波長における吸光度を1としたとき、400nm〜700nmの領域における最大吸光度(Dmax)が0.5以下であり、400nm以上700nm以下の領域における吸光度の最小値(Dmin)に対する前記最大吸光度(Dmax)の比(Dmax/Dmin)が10以下であることを特徴とする赤外色素組成物。
【請求項2】
前記化合物(II)を2種以上含むことを特徴とする請求項1に記載の赤外色素組成物。
【請求項3】
前記Dmax/Dmin比が4以下であることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の赤外色素組成物。
【請求項4】
前記最大吸光度(Dmax)が0.2以下であることを特徴とする請求項1〜請求項3のいずれか1項に記載の赤外色素組成物。
【請求項5】
前記化合物(I)がナフタロシアニン色素又はジイモニウム化合物であることを特徴とする請求項1〜請求項4のいずれか1項に記載の赤外色素組成物。
【請求項6】
前記ナフタロシアニン色素が下記一般式(I−a)で表される化合物である請求項5に記載の赤外色素組成物:
【化1】


(式中、R11、R12、R13、R14、R15、R16、R21、R22、R23、R24、R25、R26、R31、R32、R33、R34、R35、R36、R41、R42、R4344、R45およびR46は、各々独立に、水素原子、又は、ハロゲン原子、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アリール基、シアノ基、ヒドロキシル基、ニトロ基、カルボキシル基、アルコキシ基、アリールオキシ基、シリルオキシ基、ヘテロ環オキシ基、アシルオキシ基、カルバモイルオキシ基、アルコキシカルボニルオキシ基、アリールオキシカルボニルオキシ基、アミノ基、アシルアミノ基、アミノカルボニルアミノ基、アルコキシカルボニルアミノ基、アリールオキシカルボニルアミノ基、スルファモイルアミノ基、アルキル及びアリールスルホニルアミノ基、メルカプト基、アルキルチオ基、アリールチオ基、ヘテロ環チオ基、スルファモイル基、スルホ基、アルキルおよびアリールスルフィニル基、アルキルおよびアリールスルホニル基、アシル基、アリールオキシカルボニル基、アルコキシカルボニル基、カルバモイル基、イミド基、ホスフィノ基、ホスフィニル基、ホスフィニルオキシ基、ホスフィニルアミノ基、及びシリル基よりなる群より選ばれる置換基を表し、M211は水素原子、金属イオン又は金属イオンを含む基を表し、nは1又は2である)。
【請求項7】
前記化合物(II)がアントラキノン化合物、チオインジゴ化合物又はペリノン化合物であることを特徴とする請求項1〜請求項6のいずれか1項に記載の赤外色素組成物。
【請求項8】
請求項1〜請求項7のいずれか1項に記載の赤外色素組成物を含有してなる赤外線吸収インク。
【請求項9】
請求項1〜請求項7のいずれか1項に記載の赤外色素組成物を含有してなる電子写真用トナー。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2009−215542(P2009−215542A)
【公開日】平成21年9月24日(2009.9.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−26438(P2009−26438)
【出願日】平成21年2月6日(2009.2.6)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】