説明

赤色変換フィルタおよびそのパターニング方法、該赤色変換フィルタを含む多色変換フィルタおよび有機ELディスプレイ

【課題】 高い色変換効率を有し、同時に色変換層の耐久性を低下させる主要因の1つである励起状態の蛍光染料と樹脂との反応を高い確率で抑止し、耐久性に優れた色変換層およびそれを用いた色変換フィルタの提供。
【解決手段】 透明な支持基板と、第1色変換層および第2色変換層を含む少なくとも2つの層から成る色変換層とを含む赤色変換フィルタであって、第1色変換層が、少なくとも1種のローダミン系色素と、シリコーンポリマーまたは樹脂変性シリコーンポリマーとを含み、第2色変換層が、少なくとも1種のクマリン系色素を含むことを特徴とする赤色変換フィルタ。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、耐光性に優れた赤色変換フィルタおよびそのパターニング方法に関する。また、本発明は、該赤色変換フィルタを含み、高精細で、耐環境性およい生産性に優れた多色表示を可能とする多色変換フィルタおよび有機ELディスプレイに関する。本発明の赤色変換フィルタ、多色変換フィルタおよび有機ELディスプレイは、イメージセンサー、パーソナルコンピューター、ワードプロセッサー、ファクシミリ、テレビ、オーディオ、ビデオ、カーナビゲーションなどの車載表示装置、電話機、携帯端末、産業用計測器ならびに医療用表示装置などに使用することが可能である。
【背景技術】
【0002】
電界発光素子を用いたフルカラーディスプレイの作製方式としては、電界をかけることにより赤・青・緑にそれぞれ発光する素子を配列する「3色発光方式」、および、白色の発光をカラーフィルターでカットし、赤・青・緑を表現する「カラーフィルター方式」、さらに、近紫外光、青色光、青緑色光または白色光を吸収し、波長分布変換を行って可視光域の光を発光する蛍光色素をフィルタに用いる「色変換方式」が提案されている。
【0003】
中でも、色変換方式は高い色再現性・効率を実現でき、また、3色発光方式と異なり、電界発光素子は単色でよいことから大画面化の難易度が低いことが言われており、次世代ディスプレイの候補として有望視されている。
【0004】
色変換方式に用いられる色変換層として、1種または複数の蛍光染料を樹脂に分散させた構造(以下、「混合型」と称する;特許文献1参照)、複数種の蛍光染料を別個に樹脂と混練して顔料粒子を形成し、それら複数の顔料粒子を樹脂に分散させた構造(以下、「顔料化混合型」と称する;特許文献2参照)、ならびに、複数の蛍光染料のそれぞれを別個に樹脂中に分散させて1種の染料を含む層を形成し、それら層を積層する構造(以下、「積層型」と称する;特許文献3参照)などが提案されてきている。
【0005】
色変換フィルタをディスプレイに適用する際に必要な要件としては、高い色再現性および効率はもちろん、高い安定性を挙げることができる。しかしながら、有機物である蛍光染料を高分子の樹脂に分散させた色変換層においては、色素を励起する波長の光の照射につれて、蛍光染料の傾向輝度が低下していくことが知られている(特許文献4参照)。この現象は、励起状態にある染料が蛍光を発して基底状態へと遷移するのではなく、励起状態の染料が高分子の樹脂成分と反応して失活すること、あるいは励起状態の染料(または染料の分解物)が健全な染料と反応して失活することが原因であると推定される。染料と樹脂との反応は、樹脂中に反応性の高い部位(不飽和官能基など)が多く存在する場合に発生する。一方、染料同士の反応は、樹脂が不活性であっても、染料と樹脂との相互作用が弱く染料同士が近い位置に凝集しやすい状況、あるいは染料の濃度が高い領域で発生する。
【0006】
【特許文献1】特開2000−230172号公報
【特許文献2】特開平08−286033号公報
【特許文献3】特開平11−067451号公報
【特許文献4】特許第2795932号公報
【特許文献5】特開2000−212554号公報
【特許文献6】特開平08−005829号公報
【特許文献7】特開平07−333418号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
染料と樹脂との相互作用の強さは、用いられる染料および樹脂によって大きく変化するため、混合型色変換層のように複数の染料を1種の樹脂中に安定に分散させることは困難であり、使用できる染料および樹脂の種類が大幅に限定されてしまう。
【0008】
一方、積層型色変換層の場合には、複数の蛍光染料のそれぞれに対して最適な樹脂を選択できる利点があるものの、混合型色変換層と同等の膜厚および色変換特性を達成しようとすると、各蛍光染料の濃度を増大させる必要が生じる。具体的には、染料Aおよび染料Bを分散させた膜厚10μmの混合型色変換層と同等の色変換特性を、各層の膜厚が5μmである2層の積層型色変換層で達成しようとした場合、染料Aおよび染料Bのそれぞれについて、混合型と同一の量を1/2の膜厚の層に分散させることになり、単位体積中の染料濃度は2倍となってしまう。この染料濃度の増大は、染料同士の反応を引き起こす原因となってしまう。また、積層型色変換層の場合、積層されるそれぞれの層に関してパターニング(たとえば、フォトリソグラフ法などによる)を行う必要があり、工程数の増加、ひいては製造コストの上昇を招く恐れがある。
【0009】
また、顔料化硬化型色変換層の場合には、染料同士の反応を抑制するために、顔料化に用いられる樹脂中の染料の濃度を低水準に維持する必要がある。そして、そのような顔料粒子をさらに樹脂中に分散させるために、同等の色変換特性を得るために色変換層の膜厚が増大してしまう。この色変換層の膜厚の増大は、ディスプレイとして用いる場合の視野角依存性に悪影響を及ぼす恐れがある。
【0010】
さらに、蛍光染料の失活防止を目的として、蛍光色素を包含した不活性材料の微粒子を、高分子の樹脂中に分散させる構造も提案されている(特許文献5参照)。しかしながら、この構造においても、微粒歯表面付近の蛍光染料と樹脂との反応を完全に防止するまでには至っておらず、大画面テレビのような数万時間の耐久性を要求される用途に対して十分な耐久性を有する色変換層が実現できていないのが現状である。
【0011】
したがって、本発明の課題は、色変換層の耐久性を低下させる主要因の1つである励起状態の蛍光染料と樹脂との反応を高い確率で抑止し、耐久性に優れた色変換層およびそれを用いた色変換フィルタを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは、前述の問題点に鑑み、鋭意検討した結果、黄色から赤色への波長変換を目的とするローダミン系色素を、シリコーンポリマーまたは樹脂変性シリコーンポリマー中に高濃度で安定に分散できることを見いだした。また、青色から黄色への波長変換を目的とするクマリン系色素はシリコーンポリマーおよび樹脂変性シリコーンポリマーとの相溶性が低いために、より相溶性が高い高分子の樹脂中に分散させた。したがって、本発明の第1の実施形態である赤色変換フィルタは、透明な支持基板と、第1色変換層および第2色変換層を含む少なくとも2つの層から成る色変換層とを含み、第1色変換層が、少なくとも1種のローダミン系色素と、シリコーンポリマーまたは樹脂変性シリコーンポリマーとを含み、第2色変換層が、少なくとも1種のクマリン系色素を含むことを特徴とする。第2色変換層において、クマリン系色素を分散させるための高分子の樹脂としては、非感光性の熱硬化樹脂、熱可塑性樹脂、または光硬化型樹脂を用いることができる。クマリン系色素は、フォトプロセスによるパターニング時などに発生するラジカルに弱く、容易に分解してしまうため、第2色変換層に用いる樹脂は、非感光性の熱硬化樹脂または熱可塑性樹脂であることが望ましい。
【0013】
さらに、前述の第1の実施形態の赤色変換フィルタを高精細にパターニングする場合に、上層となる第2色変換層をマスクとして、ウェットエッチングまたはドライエッチングにより第1色変換層のパターニングを行うことにより、製造工程を簡略化することが可能となる。すなわち、本発明の第2の実施形態の赤色変換フィルタのパターニング方法は、透明な支持基板上に、少なくとも1種のローダミン系色素と、シリコーンポリマーまたは樹脂変性シリコーンポリマーとを含む第1層を形成する工程と;第1色変換層の上面に、少なくとも1種のクマリン系色素を含み、所定のパターン形状を有する第2色変換層を形成する工程と;前記第2色変換層をマスクとして前記第1層をパターニングして、第1色変換層を形成する工程とを具えたことを特徴とする。ここで、前記第2色変換層を形成する工程は、印刷法を用いて、少なくとも1種のクマリン系色素を含む組成物を印刷する工程を含んでもよい。あるいはまた、前記第2色変換層を形成する工程は、少なくとも1種のクマリン系色素と光硬化型樹脂とを含む組成物を前記第1層の上面全面に塗布して第2層を形成する工程と、第2層をパターニングして、所定のパターン形状を有する第2色変換層を形成する工程とを含んでもよい。
【0014】
本発明の第3の実施形態である多色変換フィルタは、透明な支持基板と、分離配列された少なくと3種の出力波長分布を有する副画素を含み、第1の出力波長分布を有する副画素が、少なくとも1種のローダミン系色素と、シリコーンポリマーまたは樹脂変性シリコーンポリマーとを含む第1色変換層と、少なくとも1種のクマリン系色素を含む第2色変換層を含み、第2の出力波長分布を有する副画素が、前記第2色変換層を含むことを特徴とする。すなわち、本実施形態の第1の出力波長分布を有する副画素が、第1の実施形態の赤色変換フィルタで構成されている。本実施形態において、第2色変換層は、非感光性の熱硬化樹脂または熱可塑性樹脂をさらに含んでもよいし、あるいは光硬化型樹脂をさらに含んでもよい。
【0015】
本発明の第4の実施形態の有機ELディスプレイは、第3の実施形態の多色変換フィルタと、透明電極、有機EL層および反射電極を有する有機EL素子とを含むことを特徴とする。
【発明の効果】
【0016】
以上の構成を採ることによって、本発明の赤色変換フィルタは、ローダミン系色素およびクマリン系色素のそれぞれに対して最適化されたマトリクス樹脂を用い、特にローダミン系色素を含む色変換層の色変換効率および耐久性を向上させることによって、全体としても高い色変換効率および耐久性を実現するものである。さらに、この赤色変換フィルタを部分構造として有する多色変換フィルタ、ならびに該多色変換フィルタを用いた有機ELディスプレイにおいても、高い色変換効率および耐久性を実現することが可能となる。さらに、赤色変換フィルタの高精細パターニングを簡略な工程で行うことが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
本発明の第1の実施形態の赤色変換フィルタを図1に示す。赤色変換フィルタ、透明な支持基板1と、第1色変換層3および第2色変換層5を含む少なくとも2つの層からなる色変換層とを含み、第1色変換層3は、少なくとも1種のローダミン系色素と、シリコーンポリマーまたは樹脂変性シリコーンポリマーとを含み、第2色変換層5は、少なくとも1種のクマリン系色素を含む。ここで、第1色変換層3は、第2色変換層5よりも支持基板1に近い位置に配置される。
【0018】
[透明な支持基板1]
透明な支持基板1は可視光透過率に優れ、また、色変換フィルターおよび多色発光デバイスの形成プロセスにおいて、色変換フィルターあるいは多色発光デバイスの性能低下を引き起こさないものであれば良く、例としてはガラス基板、各種プラスチック基板、若しくは各種フィルム等が挙げられる。
【0019】
[第1色変換層3]
第1色変換層3に用いられるローダミン系色素は、以下に示すローダミン骨格(式中、XはOまたはSを表す)を部分構造として含む色素である。第1色変換層3は、青緑〜緑色領域の光を吸収および波長分布変換して、赤色領域の光を放出する層である。
【0020】
【化1】

【0021】
本発明において用いることができる赤色領域の蛍光を発するローダミン系色素は、例えばローダミンB、ローダミン6G、ローダミン3B、ローダミン101、ローダミン110、スルホローダミン、ベーシックバイオレット11、ベーシックレッド2などを含む。
【0022】
必要に応じて、第1色変換層3は、シアニン系色素、1−エチル−2−[4−(p−ジメチルアミノフェニル)−1,3−ブタジエニル]−ピリジウム−パークロレート(ピリジン1)などのピリジン系色素、あるいはオキサジン系色素などのような非ローダミン系色素をさらに含んでもよい。さらに、蛍光性であることを条件として、各種染料(直接染料、酸性染料、塩基性染料、分散染料など)を第1色変換層に添加することができる。
【0023】
以下、第1色変換層3のマトリクスとして用いることができるストレート型シリコーンポリマー、および変性樹脂型シリコーンポリマーについて詳細に述べる。
【0024】
ストレート型シリコーンポリマーとは、有効成分がシリコーンのみからなるもので、他のシリコーン製品と同様に−Si−O−Si−結合を主鎖とし、メチル基などのアルキル基またはフェニル基などの芳香族基を側鎖に持つ。硬化後は非常に架橋密度の高い、三次元架橋構造を形成し、固い皮膜を形成する等の利点を有する。
【0025】
ストレート型シリコーンポリマーは、下式(IV)に示すようなシラン誘導体を単量体として脱水縮重合させたもので、分岐状構造をとる。ここで、単量体(IV)中に、3官能単量体(n=1の場合)、4官能単量体(n=0の場合)を多く含むことによって、分岐状構造を発達させ、架橋密度を向上させることができる。
Si(OR)4−n (IV)
【0026】
式中、Xはメチル基またはフェニル基を表し、Rは水素原子、アルキル基、アリール基、または置換機を有してもよいアリール基を表す。式(IV)の単量体中にXおよびRが複数存在する場合、XおよびRは、それぞれ同一であっても、異なっていてもよい。n=0〜2の整数、好適にはn=1〜2が望ましい。一般的にnが小さくなれば、架橋部位が増え、硬度も増す。
【0027】
得られるストレート型シリコーンポリマーは、下式(I)、(II)および/または(III)の構成単位を含むポリマーである(式中、R〜Rは、それぞれアルキル基またはフェニル基である)。ストレート型シリコーンポリマーは、式(I)〜(III)の複数種の構成単位を含んでもよい。
【0028】
【化2】

【0029】
〜Rがメチル基であるメチルシリコーン系ポリマーは、Xがメチル基である式(IV)の単量体から形成されるポリマーである。メチルシリコーン系ポリマーは、単量体(IV)中のSi−ORが加水分解されて得られるシラノール基Si−OHを多量に含むことができ、水−アルコールに親和性を有する。そのようなメチルシリコーン系ポリマーは、溶液中でシリカゾルまたはアルミナゾルを組み合わせることにより極めて硬い皮膜を形成し、ハードコート剤としてプラスチックの表面硬質化に使用されている。R〜Rがフェニル基であるフェニルシリコーン系ポリマーは、Xがフェニル基である式(IV)の単量体から形成されるポリマーであり、メチルシリコーン系ポリマーに比べて優れた皮膜強度を有する。
【0030】
上記のストレート型シリコーン樹脂の具体例としては、KP−854、KP−64、X−12−2206、X−12−2396、X−12−2397(信越化学工業株式会社製)、SH804、SH805、SH806A、SH840、SR2400(東レ・ダウ・コーニング・シリコーン株式会社製)などがあるが、これらに限定されるものではない。
【0031】
一般的に、樹脂変性型シリコーンポリマーは、シリコーン架橋体と有機系樹脂とがブロック共重合またはグラフト共重合したもの、またはエーテル結合を介して重縮合したものである。より具体的には、−OH基、−COOH基、−O−(エポキシ)基等の反応性官能基を有する有機系樹脂と、様々な分子量を持ち、比較的多くのシラノール基、メトキシ基などのアルコキシ基を有するシリコーン樹脂との反応生成物である。有機系樹脂として、アクリル樹脂、ウレタン樹脂、エポキシ樹脂、アルキド樹脂、ポリエステル樹脂、ポリスチレン樹脂、ポリアクリロニトリル樹脂、ポリカーボネート樹脂などを用いることができる。
【0032】
樹脂変性型シリコーンポリマーは、シリコーン樹脂の持つすぐれた耐熱性、耐環境安定性に加えて、有機系樹脂の持つ柔軟性、密着性、耐水性、製膜性、電気絶縁性などの特性を併せ持つ有機−無機ハイブリッド材料として知られており、具体的には、イミド変性シリコーン樹脂(特許文献6参照)、シリコーン変性ポリエステル樹脂(特許文献7参照)などが提案されている。樹脂変性型シリコーンポリマーは、イオン性染料および非イオン性染料の両方に対して適合性を有するマトリクスとして有用である。但し、有機系樹脂は励起状態の色素と反応し、色素機能を失活させることから、その添加量は最低限に留めるべきである。具体的には、該ポリマーの全重量を基準とする固形分比率で5重量%〜30重量%程度が好ましい。
【0033】
一例としては、アルコキシシリル基を有する単量体を用いて有機系樹脂を作製した後に、該アルコキシシリル基を前述の式(IV)の単量体と反応させることによって、樹脂変性型シリコーンポリマーを形成することもできる。ここで、該アルコキシシリル基は、1〜3個のアルコキシ基を有するものであってもよい。
【0034】
あるいはまた、一般的には、シランカップリング剤と称される、下式(V)で表される構造を有するシラン化合物を用いることで、有機と無機のハイブリッド化が簡便に行うこともできる。
Si(OR)4−n (V)
【0035】
ここで、Yは、メルカプト基、アジド基、アミノ基、エポキシ基、アクリル基、メタクリル基、アクリロキシ基、メタクリロキシ基などの有機系樹脂と反応可能な置換基を有する有機基であり、Rは水素原子、アルキル基、アリール基、または置換機を有してもよいアリール基を表す。nは1〜3の整数を示し、好ましくは2〜3である。最初に有機系樹脂と式(V)のシラン化合物とをY上の置換基において反応させ、次に式(V)に由来するSi−OR基によってシリコーン樹脂と結合可能となる。
【0036】
これらの式(V)の構造を有するシラン化合物の一例として、例えば、SH6020、SZ6030、SH6040、SZ6075(東レ・ダウコーニング・シリコーン株式会社製)など、数社で製品化されているものを使用することもできるが、これらに限定されるものではない。
【0037】
上記の樹脂変性型シリコーンポリマーの具体例としては、SR2107、SR2115、SR2145(東レ・ダウ・コーニング・シリコーン株式会社製)などがあるが、これらに限定されるものではない。
【0038】
第1色変換層3の形成は、スピンコート法、ディップコート法、エアーナイフコート法、カーテンコート法、ローラーコート法、ワイヤーバーコート法、グラビアコート法などの当該技術において知られている任意の方法を用いて、少なくとも1種のローダミン系色素と、シリコーンポリマーまたは樹脂変性シリコーンポリマーとを含む塗布混合物を、透明な支持基板上に塗布することにより実施することができる。第1色変換層3のパターニングが必要とされる場合には、塗布の後にフォトリソグラフィなどの通常の方法を用いてパターニングを行うことによって実施することができる。あるいはまた、前述の塗布混合物を、スクリーン印刷、インキジェット印刷などの印刷法を用いて、所定のパターンを有する第1色変換層3を形成してもよい。
【0039】
[第2色変換層5]
第2色変換層5に用いられるクマリン系色素は、クマリン骨格を部分構造として含む色素である。第2色変換層5は、青〜青緑色領域の光を吸収および波長分布変換して、緑色領域の光を放出する層である。
【0040】
本発明において用いることができる、緑色領域の蛍光を発するクマリン系色素は、例えば3−(2’−ベンゾチアゾリル)−7−ジエチルアミノクマリン(クマリン6)、3−(2’−ベンゾイミダゾリル)−7−N,N−ジエチルアミノクマリン(クマリン7)、3−(2’−N−メチルベンゾイミダゾリル)−7−N,N−ジエチルアミノクマリン(クマリン30)、2,3,5,6−1H,4H−テトラヒドロ−8−トリフルオロメチルキノリジン(9,9a,1−gh)クマリン(クマリン153)などを含む。
【0041】
必要に応じて、第2色変換層5は、ソルベントイエロー11、ソルベントイエロー116などのナフタルイミド系色素などのような非クマリン系色素をさらに含んでもよい。さらに、蛍光性であることを条件として、各種染料(直接染料、酸性染料、塩基性染料、分散染料など)を第2色変換層5に添加することができる。
【0042】
第2色変換層5は、非感光性の熱硬化型樹脂、熱可塑性樹脂、または光硬化型樹脂をマトリクスとして用いて形成することができる。マトリクスとして非感光性の熱硬化性樹脂、または熱可塑性樹脂を用いて、その中に分散されるクマリン系色素のラジカルによる分解を抑制することがより好ましい。感光性である光硬化型樹脂をマトリクスとして用いる場合には、硬化完了後に残存する重合開始剤や反応性の不飽和官能基を十分に低濃度にして、クマリン系色素の分解を抑制すべきである。なお、熱硬化型樹脂および光硬化型樹脂を用いる場合、完成した赤色変換フィルタ中でマトリクスとして機能するのは、それら樹脂の硬化物である。
【0043】
第2変換層5中に用いることができる非感光性の熱硬化型樹脂は、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、ウレタン樹脂、アクリル樹脂、ビニルエステル樹脂、イミド系樹脂、ウレタン系樹脂、ユリア樹脂、メラミン樹脂などを含む。これら樹脂は、加熱によって硬化を開始させる熱硬化開始剤あるいは樹脂間の架橋を行うための架橋剤などをさらに含んでもよい。
【0044】
第2色変換層5中に用いることができる熱可塑性樹脂は、ポリカーボネート(PC)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエーテルサルホン、ポリビニルブチラール、ポリフェニレンエーテル、ポリアミド、ポリエーテルイミド、ノルボルネン系樹脂、アクリル樹脂、メタクリル樹脂、イソブチレン無水マレイン酸共重合樹脂、環状オレフィン系樹脂などを含む。
【0045】
第2色変換層5中に用いることができる光硬化型樹脂は、光の照射のみによって硬化を開始する樹脂であってもよいし、あるいは光照射および加熱を受けることによって硬化を開始する、いわゆる光熱併用型硬化性樹脂であってもよい。本発明において用いることができる光硬化性または光熱併用型硬化性樹脂は、具体的には、(1)アクロイル基やメタクロイル基を複数有するアクリル系多官能モノマーおよびオリゴマーと、光または熱重合開始剤からなる組成物(光ラジカルおよび/または熱ラジカルの発生により重合硬化する)、(2)ポリビニル桂皮酸エステルと増感剤からなる組成物(二量化、架橋により硬化する)、(3)鎖状または環状オレフィンとビスアジドからなる組成物(ビスアジドからナイトレンが発生し、オレフィンを架橋させる)、(4)エポキシ基を有するモノマーと光酸発生剤からなる組成物(光酸発生剤から発生する酸(カチオン)によって重合硬化する)を含む。特に(1)のアクリル系の光硬化性又は光熱併用型硬化性樹脂が高精細でパターニングが可能であり、耐溶剤性、耐熱性等の信頼性の面でも好ましい。
【0046】
第2色変換層5は、少なくとも1種のクマリン系色素と、熱可塑性樹脂、非感光性の熱硬化型樹脂または光硬化型樹脂から選択されるマトリクスとを含む組成物を、スクリーン印刷、インキジェット印刷などの印刷法を用いて、所定のパターン形状あるいは第1色変換層3の上面全面に形成することができる。マトリクスとして光硬化型樹脂(特に、フォトレジストとして使用可能な光硬化型樹脂)を用いる場合、後述の塗布方法で第1色変換層3の全面に前述の組成物を塗布した後に、フォトマスクを通した露光による位置選択的硬化によってパターニングを実施して、所定のパターン形状を有する第2色変換層5を形成してもよい。
【0047】
あるいはまた、第1色変換層3の上面全面に形成される第2色変換層5を形成する場合には、スピンコート法、ディップコート法、エアーナイフコート法、カーテンコート法、ローラーコート法、ワイヤーバーコート法、グラビアコート法などの当該技術において知られている任意の方法を用いて、前述の組成物を第1色変換層3上に塗布することにより実施してもよい。
【0048】
本発明の第2の実施形態の赤色変換フィルタのパターニング方法は、第2色変換層のマトリクスとして光硬化型樹脂を用いる赤色変換フィルタのパターニング方法であって、(1)透明な支持基板上に、少なくとも1種のローダミン系色素と、シリコーンポリマーまたは樹脂変性シリコーンポリマーとを含む第1層を形成する工程と;(2) 第1色変換層の上面に、少なくとも1種のクマリン系色素を含み、所定のパターン形状を有する第2色変換層を形成する工程と;(3)前記第2色変換層をマスクとして前記第1層をパターニングして、第1色変換層を形成する工程とを含む。
【0049】
工程(1)における第1層の形成は、スピンコート法、ディップコート法、エアーナイフコート法、カーテンコート法、ローラーコート法、ワイヤーバーコート法、グラビアコート法などの当該技術において知られている任意の方法を用いて、当該塗布混合物を塗布することによって、実施することができる。
【0050】
工程(2)における所定の形状を有する第2色変換層5の形成は、(2a)印刷法を用いて、少なくとも1種のクマリン系色素を含む組成物を印刷する工程を用いて実施してもよい。あるいはまた、(2b)少なくとも1種のクマリン系色素と光硬化型樹脂とを含む組成物を前記第1層の上面全面に塗布して第2層を形成する工程と、(2c)第2層をパターニングして、所定のパターン形状を有する第2色変換層を形成する工程とを用いて実施してもよい。
【0051】
工程(2a)における所定のパターン形状を有する第2色変換層5の形成は、少なくとも1種のクマリン色素と、熱可塑性樹脂、非感光性の熱硬化型樹脂または光硬化型樹脂から選択されるマトリクスとを含む組成物を、スクリーン印刷、インキジェット印刷などの印刷法を用いて、第1層上面の所定の位置に印刷することによって実施することができる。
【0052】
工程(2b)における第1層の上面全面に第2層を形成する工程は、少なくとも1種のクマリン色素と、光硬化型樹脂とを含む組成物を、スピンコート法、ディップコート法、エアーナイフコート法、カーテンコート法、ローラーコート法、ワイヤーバーコート法、グラビアコート法などの当該技術において知られている任意の方法にて塗布することによって、実施することができる。本工程において用いられる光硬化型樹脂は、後述の工程(2c)における高精細パターニングを可能とするために、フォトレジストとして用いることができる樹脂であることがより好ましい。
【0053】
工程(2c)における第2層のパターニングは、たとえば、所定のパターンの開口部を有するマスクを用いて第2層を露光し、開口部に対応する位置の光硬化型樹脂を硬化させ、次いで未露光部分を除去して、所定のパターンの第2色変換層を得ることによって実施することができる。露光に用いる光源としては、光硬化型樹脂の種類に依存するが、水銀灯、レーザーなど当該技術において知られている任意の光源を用いることができる。また、光硬化型樹脂が光熱併用硬化型樹脂である場合、未露光部分の除去の後に加熱を行って、該樹脂を完全に硬化させることが望ましい。
【0054】
工程(3)における第1層のパターニングは、たとえば、所定のパターンを有する第2色変換層をマスクとして用いて、プラズマエッチング、イオンビームエッチングなどのドライエッチング、あるいはウェットエッチングにより実施することができる。ドライエッチングを用いることが好ましい。第1層のみならず、マスクとして用いる第2色変換層をも同時にエッチングする非選択的なエッチングを用いる場合、第2層(すなわちマスクとして用いる第2色変換層)を、赤色変換フィルタ完成品における第2色変換層の厚さよりも厚く形成しておいてもよい。この場合には、第2色変換層に被覆されていない部分の第1層が完全に除去された時点で、残存する第2色変換層の厚さが赤色変換フィルタ完成品における厚さになるようにエッチング条件を設定することが好ましい。
【0055】
本実施形態の方法を採ることによって、光ツール(マスク、パターン化されたレジストなど)を用いる第1層のパターニングを省略することができる。また、第2層の形成時に、第1層はパターン化されておらず、その上面は平坦であるために、第2層のパターニングを高精細に行うことが可能となり、また第1層がパターニングされていた場合に必要となる可能性がある第1層のパターンとの位置合わせを行いながら第2層を形成する必要性も排除することができる。したがって、本実施形態の方法は、製造工程の簡略化、ひいては製造コストの低減に有効である。
【0056】
本発明の第3の実施形態の多色変換フィルタは、透明な支持基板と、分離配列された少なくとも3種の出力波長分布を有する副画素を有し;第1の出力波長分布を有する副画素が、少なくとも1種のローダミン系色素と、シリコーンポリマーまたは樹脂変性シリコーンポリマーとを含む第1色変換層と、少なくとも1種のクマリン系色素を含む第2色変換層を含み;第2の出力波長分布を有する副画素が、前記第2色変換層を含むことを特徴とする。図2に3種の出力波長分布を有する副画素を有する多色変換フィルタ100の例を示した。図2の構成において、透明な支持基板1の上に、赤色カラーフィルタ2、第1色変換層3および第2色変換層5を含む第1の出力波長分布を有する副画素110と;緑色カラーフィルタ4および第2色変換層5を含む第2の出力波長分布を有する副画素120と;青色カラーフィルタ6を含む第3の出力波長分布を有する副画素130とが形成され、それら副画素が一組となって画素を形成している。さらに、図2の構成においては、任意選択的に設けてもよい層である保護層7が、各副画素を覆うように設けられている。本実施形態における透明な支持基板1、第1色変換層3および第2色変換層5は、第1の実施形態に記載のものと同様のものである。
【0057】
本実施形態における第1の出力波長分布を有する副画素110は、第1色変換層3および第2色変換層を含み、さらに任意選択的に赤色カラーフィルタ2を含む赤色光を発する副画素である。また、本実施形態における第2の出力波長分布を有する副画素120は、第2色変換層5を含み、さらに任意選択的に緑色カラーフィルタ4を含む緑色光を発する副画素である。赤色カラーフィルタ2および緑色カラーフィルタ4は、第1色変換層3または第2色変換層5において変換された赤色光または緑色光の色純度を向上させるための層である。
【0058】
さらに、本実施形態における第3の出力波長分布を有する副画素130は、青色カラーフィルタ6を含む青色光を発する副画素である。用いる光源に依存するが、副画素130において、近紫外ないし紫色の光を青色光に変換する色変換色素を含む色変換層を併用してもよい。あるいはまた、他の副画素(110、120)を形成する層との段差を解消ないし軽減する目的で、青色カラーフィルタ6の上にクリア層を積層してもよい。クリア層は、光学的に透明な層であって、前述の第1色変換層3または第2色変換層5に使用可能なマトリクスを用いて形成することができる。
【0059】
各色のカラーフィルタ(2,4,6)のそれぞれは、波長分布変換の機能を持たずに、各色の領域の光を透過させ、他の領域の光を遮断する機能を有するそうである。各色のカラーフィルタ(2,4,6)は、一般的には顔料を高分子バインダー中へ分散したものであり、本発明においては液晶ディスプレイをはじめとしたディスプレイ用途のものを適用することができる。
【0060】
保護層7は、その名の通りに色変換層およびカラーフィルタを保護する目的、および膜面の平滑化を目的として、任意選択的に配設されるものである。保護層7は、光透過性に富む材料から形成され、かつ色変換フィルターを劣化させることのないプロセスを選択して配設する必要がある。また、保護層7の上面に無機ガスバリア膜または電極として用いられる透明導電膜等を形成する場合、保護層7には、さらにスパッタ耐性も要求されることとなる。
【0061】
前述の通り、保護層7は平滑化の目的も併せ持つため、一般的には塗布法で形成される。その際、適用可能な材料としては、第1色変換層3または第2色変換層5のマトリクスとして用いることができるストレート型シリコーンポリマー、樹脂変性型シリコーンポリマー、非感光性の熱硬化型樹脂、熱可塑性樹脂、または光硬化型樹脂を用いることができる。
【0062】
本発明の多色変換フィルタを、有機EL素子と組み合わせる場合、色変換フィルタから発生する水分から有機EL素子を保護する目的で、保護層7上面にガスバリア層8(図3参照)を積層しても良い。ガスバリア層8は透明かつピンホールのない緻密な膜が求められ、例えばSiO、SiN、SiN、AlO、TiO、TaO、ZnO等の無機酸化物または無機窒化物等が使用できる。ガスバリア層8の形成方法としては特に制約はなく、スパッタ法、CVD法、真空蒸着法、ディップ法等の慣用の手法により形成できる。
【0063】
本発明の第4の実施形態の有機ELディスプレイは、第3の実施形態の多色変換フィルタと、透明電極、有機EL層および反射電極を含む有機EL素子とを含むことを特徴とする。図3に、多色変換フィルタ100上に、透明電極9、有機EL層10および反射電極11がこの順に積層された有機EL素子200が形成された有機ELディスプレイの例を示した。
【0064】
有機EL層10は、少なくとも有機発光層を含み、必要に応じて正孔注入層、正孔輸送層、電子輸送層および/または電子注入層を介在させた構造を有している。あるいはまた、正孔の注入および輸送の両方の機能を有する正孔注入輸送層、電子の注入および輸送の両方の機能を有する電子注入輸送層を用いてもよい。具体的には、有機EL素子は下記のような層構造からなるものが採用される。
(1)陽極/有機発光層/陰極
(2)陽極/正孔注入層/有機発光層/陰極
(3)陽極/有機発光層/電子注入層/陰極
(4)陽極/正孔注入層/有機発光層/電子注入層/陰極
(5)陽極/正孔輸送層/有機発光層/電子注入層/陰極
(6)陽極/正孔注入層/正孔輸送層/有機発光層/電子注入層/陰極
(7)陽極/正孔注入層/正孔輸送層/有機発光層/電子輸送層/電子注入層/陰極
【0065】
上記の層構成において、陽極および陰極は、それぞれ透明電極9または反射電極11のいずれかである。当該技術において、陽極を透明にすることが容易であることが知られており、本発明においても透明電極9を陽極として、および反射電極11を陰極として用いることが望ましい。透明電極9は、有機EL層10の発する光の波長域において透明であることが望ましく、および透明電極9を通して光を発して、多色色変換フィルタ100へと光を入射させる。
【0066】
上記各層の材料としては、公知のものが使用される。例えば、有機発光層として青色から青緑色の発光を得るためには、例えばベンゾチアゾール系、ベンゾイミダゾール系、ベンゾオキサゾール系などの蛍光増白剤、金属キレート化オキソニウム化合物、スチリルベンゼン系化合物、芳香族ジメチリディン系化合物などが好ましく使用される。
【0067】
透明電極9は、波長400〜800nmの光に対して好ましくは50%以上、より好ましくは85%以上の透過率を有することが好ましい。透明電極9は、ITO(In−Sn酸化物)、NESA膜、Sn酸化物、In酸化物、IZO(In−Zn酸化物)、Zn酸化物、Zn−Al酸化物、Zn−Ga酸化物、またはこれらの酸化物に対してF、Sbなどのドーパントを添加した導電性透明金属酸化物を用いて形成することができる。透明電極9は、蒸着法、スパッタ法(反応性スパッタ法を含む)または化学気相堆積(CVD)法を用いて形成され、好ましくはスパッタ法(反応性スパッタ法を含む)を用いて形成される。透明電極9を陰極として用いる場合、有機EL層10との界面にバッファ層を設けて、電子注入効率を向上させることが望ましい。バッファ層の材料としては、Li、Na、K、またはCsなどのアルカリ金属、Ba、Srなどのアルカリ土類金属またはそれらを含む合金、希土類金属、あるいはそれら金属のフッ化物などの用いることができるが、それらに限定されるものではない。バッファ層の膜厚は、駆動電圧および透明性等を考慮して適宜選択することができるが、通常の場合には10nm以下であることが好ましい。
【0068】
反射電極11は、高反射率の金属、アモルファス合金、微結晶性合金を用いて形成されることが好ましい。高反射率の金属は、Al、Ag、Mo、W、Ni、Crなどを含む。高反射率のアモルファス合金は、NiP、NiB、CrPおよびCrBなどを含む。高反射率の微結晶性合金は、NiAlなどを含む。反射電極11を、陰極として用いてもよいし、陽極として用いてもよい。反射電極11を陰極として用いる場合には、反射電極11と有機EL層10との界面に、前述のバッファ層を設けて有機EL層10に対する電子注入の効率を向上させてもよい。あるいはまた、反射電極11を陰極として用いる場合、前述の高反射率金属、アモルファス合金または微結晶性合金に対して、仕事関数が小さい材料であるリチウム、ナトリウム、カリウム等のアルカリ金属、カルシウム、マグネシウム、ストロンチウムなどのアルカリ土類金属を添加して合金化し、電子注入効率を向上させることができる。反射電極11を陽極として用いる場合には、反射電極11と有機EL層10との界面に、前述の導電性透明金属酸化物の層を設けて有機EL層10に対する正孔注入の効率を向上させてもよい。
【0069】
反射電極11は、用いる材料に依存して、蒸着(抵抗加熱または電子ビーム加熱)、スパッタ、イオンプレーティング、レーザーアブレーションなどの当該技術において知られている任意の手段を用いて形成することができる。後述するように複数の部分電極からなる反射電極11が必要になる場合には、所望の形状を与えるマスクを用いて複数の部分電極からなる反射電極11を形成してもよいし、あるいは、逆テーパー状の断面形状を有する分離隔壁を用いて複数の部分電極からなる反射電極11を形成してもよい。
【0070】
図3において、透明電極9および反射電極11は、それぞれ平行なストライプ状の複数の部分から形成され、透明電極9を形成するストライプと、反射電極11を形成するストライプとが互いに交差(好ましくは直交)するように形成されている。したがって、有機EL素子200はマトリクス駆動を行うことができ、すなわち、透明電極9の特定のストライプと、反射電極11の特定のストライプに電圧が印加された時に、それらのストライプが交差する部分において有機EL層10が発光する。あるいはまた、一方の電極(たとえば、透明電極9)をストライプパターンを持たない一様な平面電極とし、および他方の電極(たとえば、反射電極11)を各副画素に対応するような複数の部分電極にパターニングしてもよい。その場合には、各副画素に対応する複数のスイッチング素子を設けて各副画素に対応する前記の部分電極に1対1で接続して、いわゆるアクティブマトリクス駆動を行うことが可能になる。
【実施例】
【0071】
[実施例1]
基板1としてのコーニング社製1737ガラス上に、富士フイルムエレクトロニクスマテリアルズ株式会社製CR7001、CG7001、CB7001を用い、フォトリソグラフ法にて、それぞれが重ならないように、幅0.10mm、ピッチ0.33mmのR,G,Bストライプパターンを形成した。各カラーフィルタ(2,4,6)の膜厚は1.0μmであった。更に、青色カラーフィルター6であるCB7001の上面にのみ、新日鐵化学製V259PAP5を用い、フォトリソグラフ法にて、膜厚10μm、幅0.10mm、ピッチ0.33mmの透明なストライプパターンを形成した。これは、赤色および緑色の副画素(110,120)に色変換層が形成された際に、各色の副画素毎の膜厚差を生じないように形成するものである。
【0072】
蛍光色素としてローダミン6G(0.5重量部)およびベーシックバイオレット11(0.5重量部)を、100重量部の信越化学工業製シリコーンポリマーKP854に加えて溶解させ、塗布液を得た。この塗布液を用い、スクリーン印刷法により、赤色カラーフィルタ2の上に幅0.1mm、ピッチ0.33mm、膜厚5μmのパターンを形成して、第1色変換層3を得た。
【0073】
次いで、蛍光色素としてクマリン6(0.9重量部)を溶剤のプロピレングリコールモノエチルアセテート(PGMEA)120重量部へ溶解させた。該溶液に対して100重量部の新日鐵化学製V259PAP5を加えて溶解させ、塗布液を得た。この塗布液を用い、フォトリソグラフ法にて、緑色カラーフィルタ4および第1色変換層3の上面へ、幅0.1mm、ピッチ0.33mm、膜厚5μmのパターンを形成して、第2色変換層5を得た。そして、30分間にわたって180℃に加熱して、第2色変換層5中のV259PAP5を完全に硬化させた。
【0074】
以上の工程によって、赤色カラーフィルタ2、第1色変換層3、および第2色変換層5の積層体からなる第1の出力波長分布を有する副画素110(赤色);緑色カラーフィルタ4および第2色変換層5の積層体からなる第2の出力波長分布を有する副画素120(緑色);および青色カラーフィルタ6およびクリア層の積層体からなる第3の出力波長分布を有する副画素130(青色)が形成された。
【0075】
前述のように形成された副画素の上面に、新日鐵化学製V259PAP5を用いて保護層7を形成した。保護層7の膜厚を、赤色の副画素を形成する第2色変換層5の表面から2μmとしたところ、保護層7表面の凹凸は1μm以内であり、保護層7の上面は平坦であった。
【0076】
スパッタ法にて、0.5μmのSiOx膜からなるガスバリア層を得た。スパッタ装置はRF−ブレーナマグネトロン、ターゲットはSiOを用いた。製膜時のスパッタガスはArを使用した。形成時の基板温度は80℃で行った。
【0077】
上記のようにして製造した多色変換フィルタ100の上に、透明電極9(陽極)/有機EL層10(正孔注入層/正孔輸送層/有機発光層/電子注入層の4層)/反射電極11(陰極)を順次形成して、図3に示すような有機EL素子200を形成して、有機ELディスプレイを得た。
【0078】
まず、多色変換フィルタ100の最外層をなすガスバリア層の上面にスパッタ法にて透明電極9(ITO)を全面成膜した。ITO上にレジスト剤「OFRP−800」(商品名、東京応化製)を塗布した後、フォトリソグラフィー法にてパターニングを行い、それぞれの副画素(赤色,緑色、および青色)に位置する、幅0.094mm、ピッチ0.10mm、膜厚100nmのストライプパターンからなる透明電極9(陽極)を得た。
【0079】
次いで、前記陽極を形成した基板を抵抗加熱蒸着装置内に装着し、正孔注入層、正孔輸送層、有機発光層、電子注入層を、真空を破らずに順次成膜した。成膜に際して真空槽内圧は1×10−4Paまで減圧した。正孔注入層は銅フタロシアニン(CuPc)を100nm積層した。正孔輸送層は4,4’−ビス[N−(1−ナフチル)−N−フェニルアミノ]ビフェニル(α−NPD)を20nm積層した。発光層は4,4’−ビス(2,2’−ジフェニルビニル)ビフェニル(DPVBi)を30nm積層した。電子注入層はアルミニウムキレート(Alq)を20nm積層した。
【0080】
この後、真空を破ることなしに、透明電極9(ITO)のラインと直交する幅0.30mm、ピッチ0.33mmギャップのストライプパターンが得られるマスクを用いて、厚さ200nmのMg/Ag(10:1の重量比率)層を堆積させ、反射電極11(陰極)を形成した。
【0081】
こうして得られた有機ELディスプレイをグロープボックス内乾燥窒素雰囲気(酸素および水分濃度ともに10ppm以下)下において、封止ガラス(図示せず)とUV硬化接着剤を用いて封止した。
【0082】
[実施例2]
第2色変換層5の形成を以下の様に変更したことをのぞいて、実施例1と同様の手順によって、有機ELディスプレイを形成した。
【0083】
クマリン6(0.9重量部)を溶剤のプロピレングリコールモノエチルアセテート(PGMEA)120重量部へ溶解させた。該溶液に対して100重量部の熱硬化型エポキシ樹脂(NLD−SL−1101:サンユレック株式会社製)を加えて溶解させ、塗布液を得た。印刷法を用いて、この塗布液を緑色カラーフィルタ4および第1色変換層3の上面に印刷して、幅0.1mm、ピッチ0.33mm、膜厚5μmのパターンを有する第2色変換層5を得た。
【0084】
[実施例3]
第1色変換層3および第2色変換層5の形成を以下のように変更したことを除いて、実施例1と同様の手順によって、有機ELディスプレイを形成した。
【0085】
蛍光色素としてローダミン6G(0.5重量部)およびベーシックバイオレット11(0.5重量部)を、100重量部の信越化学工業製シリコーンポリマーKP854に加えて溶解させ、第1塗布液を得た。この第1塗布液をスピンコート法により塗布して、基板全面に第1層を形成した。
【0086】
クマリン6(0.9重量部)を溶剤のプロピレングリコールモノエチルアセテート(PGMEA)120重量部へ溶解させた。該溶液に対して100重量部の新日鐵化学製V259PAP5を加えて溶解させ、第2塗布液を得た。第2塗布液を用いたフォトリソグラフ法にて、前述の第1層表面の赤色カラーフィルタ2に相当する位置に、幅0.1mm、ピッチ0.33mm、膜厚15μmのパターンを有する第2色変換層5を形成した。そして、30分間にわたって180℃に加熱して、第2色変換層5中のV259PAP5を完全に硬化させた。
【0087】
さらに、前述のように形成した第2色変換層5をマスクとして用い、圧力10Pa、基板温度50℃、RF投入電力3kWにおいて、SFガスを用いるRIEプラズマエッチング法によって、第1層をエッチングして、第1層を幅0.1mm、ピッチ0.33mmのパターンに分割した。その結果、赤色カラーフィルタ2の上に、膜厚5μmの第1色変換層3と、膜厚5μmの第2色変換層5の積層体からなる赤色変換層が形成され、第1の出力波長分布を有する副画素110(赤色)が得られた。
【0088】
次に、前述の第2塗布液を用いたフォトリソグラフ法にて、緑色カラーフィルタ4の上に、幅0.1mm、ピッチ0.33mm、膜厚10μmのパターンを有する第2色変換層5を形成して、第2の出力波長分布を有する副画素120(緑色)を得た。そして、30分間にわたって180℃に加熱して、第2色変換層5中のV259PAP5を完全に硬化させた。
【0089】
[実施例4]
第1色変換層3および第2色変換層5の形成を以下のように変更したことを除いて、実施例1と同様の手順によって、有機ELディスプレイを形成した。
【0090】
蛍光色素としてローダミン6G(0.5重量部)およびベーシックバイオレット11(0.5重量部)を、100重量部の信越化学工業製シリコーンポリマーKP854に加えて溶解させ、第1塗布液を得た。この第1塗布液をスピンコート法により塗布して、基板全面に第1層を形成した。
【0091】
クマリン6(0.9重量部)および100重量部のポリスチレン樹脂を混合し、溶剤のプロピレングリコールモノエチルアセテート(PGMEA)を添加して粘度を調整し、5Pa・sの粘度を有する印刷組成物を得た。スクリーン印刷法を用いて印刷組成物を印刷して、前述の第1層表面の赤色カラーフィルタ2に相当する位置に、幅0.1mm、ピッチ0.33mm、膜厚15μmのパターンを有する第2色変換層5を形成した。
【0092】
さらに、所定のパターン形状を有する第2色変換層5をマスクとして用い、実施例3に記載と同様のRIEプラズマエッチング法によって、第1層をエッチングして、第1層を幅0.1mm、ピッチ0.33mmのパターンに分割した。その結果、赤色カラーフィルタ2の上に、膜厚5μmの第1色変換層3と、膜厚5μmの第2色変換層5の積層体からなる赤色変換層が形成され、第1の出力波長分布を有する副画素110(赤色)が得られた。
【0093】
次に、クマリン6(0.9重量部)を溶剤のプロピレングリコールモノエチルアセテート(PGMEA)120重量部へ溶解させた。該溶液に対して100重量部の新日鐵化学製V259PAP5を加えて溶解させ、第2塗布液を得た。第2塗布液を用いたフォトリソグラフ法にて、緑色カラーフィルタ4の上に、幅0.1mm、ピッチ0.33mm、膜厚10μmのパターンを有する第2色変換層5を形成して、第2の出力波長分布を有する副画素120(緑色)を得た。そして、30分間にわたって180℃に加熱して、第2色変換層5中のV259PAP5を完全に硬化させた。
【0094】
[比較例1]
第1の出力波長分布を有する副画素110(赤色)を以下のように形成したことを除いて、実施例3と同様の手順によって有機ELディスプレイを形成した。
【0095】
蛍光色素としてローダミン6G(0.3重量部)、ベーシックバイオレット11(0.3重量部)およびクマリン6(0.5重量部)を、100重量部の新日鐵化学製V259PAP5に加えて溶解させ、塗布液を得た。この塗布液を用いるフォトリソグラフ法にて、赤色カラーフィルタ2の上に幅0.1mm、ピッチ0.33mm、膜厚5μmのパターンの赤色変換層を形成して、第1の出力波長分布を有する副画素110(赤色)を得た。
【0096】
[評価]
実施例および比較例にて形成した有機ELディスプレイを同一条件にして駆動し、第1の出力波長分布を有する副画素110(赤色)の初期輝度、色度、および駆動1000時間後の輝度保持率を比較した。結果を第1表に示す。
【0097】
【表1】

【0098】
第1表の結果から、本発明にしたがう実施例1〜4の有機ELディスプレイの赤色副画素は、比較例1のディスプレイの赤色副画素とほぼ同等の色度の赤色光を発することに加えて、初期輝度が比較例1よりも20%高く、第1色変換層3と第2色変換層5との積層体である赤色変換層の色変換効率が向上していることが分かる。さらに、1000時間の駆動後の輝度保持率の比較においては、比較例1において25%の輝度低下が認められたのに対し、実施例1〜4における輝度低下は、いずれにおいても10%未満であり、本発明の赤色変換層が優れた耐久性を有することが分かる。
【0099】
以上のことから、マトリクスとして色変換色素の種類に応じて最適化された樹脂を用いることによって、色変換色素添加量を増大させて色変換効率を向上させることができ、かつ色変換色素と樹脂との反応を抑制して高い耐久性を付与することができた結果であると考えられる。
【図面の簡単な説明】
【0100】
【図1】本発明の赤色変換フィルタを示す断面図である。
【図2】本発明の多色変換フィルタ(1画素分)を示す断面図である。
【図3】本発明の有機ELディスプレイ(1画素分)を示す断面図である。
【符号の説明】
【0101】
1 透明な支持基板
2 赤色カラーフィルタ
3 第1色変換層
4 緑色カラーフィルタ
5 第2色変換層
6 青色カラーフィルター
7 保護層
8 ガスバリア層
9 透明電極
10 有機EL層
11 反射電極
100 多色変換フィルタ
110,120,130 (第1、第2、第3)の出力波長分布を有する副画素
200 有機EL素子

【特許請求の範囲】
【請求項1】
透明な支持基板と、第1色変換層および第2色変換層を含む少なくとも2つの層から成る色変換層とを含む赤色変換フィルタであって、第1色変換層が、少なくとも1種のローダミン系色素と、シリコーンポリマーまたは樹脂変性シリコーンポリマーとを含み、第2色変換層が、少なくとも1種のクマリン系色素を含むことを特徴とする赤色変換フィルタ。
【請求項2】
前記第2色変換層が、非感光性の熱硬化樹脂または熱可塑性樹脂をさらに含むことを特徴とする請求項1に記載の赤色変換フィルタ。
【請求項3】
前記第2色変換層が、光硬化型樹脂をさらに含むことを特徴とする請求項1に記載の赤色変換フィルタ。
【請求項4】
透明な支持基板上に、少なくとも1種のローダミン系色素と、シリコーンポリマーまたは樹脂変性シリコーンポリマーとを含む第1層を形成する工程と、
第1色変換層の上面に、少なくとも1種のクマリン系色素を含み、所定のパターン形状を有する第2色変換層を形成する工程と、
前記第2色変換層をマスクとして前記第1層をパターニングして、第1色変換層を形成する工程と
を具えたことを特徴とする赤色変換フィルタのパターニング方法。
【請求項5】
前記第2色変換層を形成する工程が、印刷法を用いて、少なくとも1種のクマリン系色素を含む組成物を印刷する工程を含むことを特徴とする請求項4に記載の赤色変換フィルタのパターニング方法。
【請求項6】
前記第2色変換層を形成する工程が、少なくとも1種のクマリン系色素と光硬化型樹脂とを含む組成物を前記第1層の上面全面に塗布して第2層を形成する工程と、第2層をパターニングして、所定のパターン形状を有する第2色変換層を形成する工程とを含むことを特徴とする請求項4に記載の赤色変換フィルタのパターニング方法。
【請求項7】
透明な支持基板と、少なくと3種の出力波長分布を有する副画素が分離配列された多色変換フィルタであって、
第1の出力波長分布を有する副画素が、少なくとも1種のローダミン系色素と、シリコーンポリマーまたは樹脂変性シリコーンポリマーとを含む第1色変換層と、少なくとも1種のクマリン系色素を含む第2色変換層を含み、
第2の出力波長分布を有する副画素が、前記第2色変換層を含む
ことを特徴とする多色変換フィルタ。
【請求項8】
前記第2色変換層が、非感光性の熱硬化樹脂または熱可塑性樹脂をさらに含むことを特徴とする請求項7に記載の多色変換フィルタ。
【請求項9】
前記第2色変換層が、光硬化型樹脂をさらに含むことを特徴とする請求項7に記載の多色変換フィルタ。
【請求項10】
請求項7から9のいずれかに記載の多色変換フィルタと、透明電極、有機EL層および反射電極を有する有機EL素子とを含むことを特徴とする有機ELディスプレイ。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate


【公開番号】特開2006−310136(P2006−310136A)
【公開日】平成18年11月9日(2006.11.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−132352(P2005−132352)
【出願日】平成17年4月28日(2005.4.28)
【出願人】(000005234)富士電機ホールディングス株式会社 (3,146)
【Fターム(参考)】